説明

フルオロポリマー樹脂の製造に使用するフルオロエーテルカルボン酸またはその塩の削減

フルオロポリマー樹脂の製造方法であって、開始剤、およびフルオロエーテルカルボン酸またはその塩を含む重合剤を含有する水性媒体中で、少なくとも1種のフッ素化モノマーを重合して、フルオロポリマー粒子の水性分散体を生成する工程を含む方法。この方法で使用されるフルオロエーテルカルボン酸またはその塩は、式:
[R1−O−L−COO-]Y+
(式中、R1は直鎖状、分岐状または環状の、部分的または完全にフッ素化された、エーテル結合を有してもよい脂肪族基であり;Lは分岐状の、部分的または完全にフッ素化された、エーテル結合を有してもよいアルキレン基であり;かつY+は水素、アンモニウムまたはアルカリ金属のカチオンである)で表される。濡れたフルオロポリマー樹脂を水性媒体から分離する。濡れたフルオロポリマー樹脂から、乾燥フルオロポリマー樹脂を得、残留フルオロエーテルカルボン酸またはその塩を脱炭酸してフルオロエーテル副生物の蒸気を生成する。フルオロエーテル副生物の蒸気を捕集する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の存在下、水性媒体中でフッ素化モノマーを分散重合してフルオロポリマー樹脂を製造する方法であって、フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の削減を含む方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素化モノマーを水性分散重合する代表的な方法は、フッ素系界面活性剤および脱イオン水を入れた加熱した反応器に、フッ素化モノマーを供給する工程を含む。例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ホモポリマーなどの重合では、反応器中で安定化剤としてパラフィンワックスを使用する。フリーラジカル開始剤溶液を使用し、重合の進行とともに追加のフッ素化モノマーを加えて圧力を維持する。例えば溶融加工が可能なTFEコポリマーなどのポリマーの重合では、連鎖移動剤を使用して、溶融粘度をコントロールする。数時間後に供給を停止し、反応器内のガスを放出して窒素でパージし、容器内の未加工分散体を冷却容器に移す。
【0003】
金属、ガラスおよび布のフルオロポリマーコーティング材に使用する場合は、通常、ポリマー分散体は、コーティング材として使用される安定した分散体を製造するための分散体濃縮工程へ移される。微粉体を製造するために、特定のグレードを有するPTFE分散体が作られる。この用途には、ポリマー分散体を凝集させ、水性媒体を除去し、PTFEを乾燥させて微粉体を製造する。成形樹脂用の溶融加工が可能なフルオロポリマー分散体の場合も、凝集させ、凝集ポリマーを乾燥させた後、その後の溶融加工操作での使用に適したフレーク、チップまたはペレットなどの形態に加工する。
【0004】
近年、パーフルオロオクタン酸およびその塩の環境への影響が懸念されているため、フルオロポリマー重合プロセスにおけるパーフルオロオクタン酸およびその塩の削減ないし排除に関心がもたれている。近年、フルオロポリマーの重合において、パーフルオロアルカンカルボン酸またはその塩に代えて、フルオロエーテルカルボン酸またはその塩を使用することに関心がもたれている。また、フルオロポリマーの製造者らは、フルオロポリマーの製造に使用されるフルオロエーテルカルボン酸またはその塩をリサイクルするか、さもなければ削減することを望んでいる。例えば、米国特許出願公開第2007/0015937A1号明細書には、フルオロポリマー化にフルオロエーテルカルボン酸界面活性剤を使用し、それをある廃棄物の流れからリサイクルすることが開示されている。米国特許出願公開第2007/0015937A1号に記載のフルオロエーテルカルボン酸界面活性剤は、式:
[Rf−O−L−COO-ii+
(式中、Lは直鎖状の部分的もしくは完全にフッ素化されたアルキレン基もしくは脂肪族炭化水素基を表し、Rfは直鎖状の部分的もしくは完全にフッ素化された脂肪族基、または1つ以上の酸素原子で遮断された直鎖状の部分的もしくは完全にフッ素化された脂肪族基を表し、Xi+は価数がiのカチオンを表し、iは1、2または3である)
で示される。この式で示される界面活性剤を、以下、「直鎖状フルオロエーテルカルボン酸またはその塩」という。
【0005】
フルオロポリマー樹脂の製造においては、フルオロポリマー樹脂を分離し乾燥させるが、凝集により水性媒体から分離された、湿潤フルオロポリマーには、かなりの部分のフッ素化界面活性剤が残留している。したがって、乾燥の目的でフルオロポリマーを加熱すると、乾燥機の排気流れの中にフッ素化界面活性剤が含まれることになり、捕集しなければ環境に流出する。米国特許出願公開第2007/0015937A1号明細書では、水性スクラバーを使用して直鎖状フルオロエーテル界面活性剤を含有する水溶液を生成させることによって、このプロセスで使用した直鎖フルオロエーテル界面活性剤を排ガスから捕集することを提案している。しかしながら、米国特許出願公開第2007/0015937A1号明細書に開示されているように、この溶液から直鎖状フルオロエーテル界面活性剤をリサイクルするのは、複雑で費用も嵩む。一つの実施形態では、まず、アニオン交換樹脂などの吸収剤粒子で処理することによって直鎖状フルオロエーテル界面活性剤を水溶液から除去する。その後、直鎖状フルオロエーテル界面活性剤をアニオン交換樹脂から溶出させる。これには、塩、有機溶剤、塩基などを含有する、種々の特殊な組成の溶出組成物を必要とする。あるいは、界面活性剤を含む吸収剤粒子をアルコールに接触させて直鎖状フルオロエーテル界面活性剤をエステル誘導体に変換し、その後、蒸留する。この代替法もまた、その後、鹸化(一般的には、アンモニアを使用)することにより、塩に戻す変換を必要とする。米国特許出願公開第2007/0015937A1号明細書にはまた、直鎖状カルボン酸フルオロ界面活性剤を回収する際、水性のフルオロポリマー化で再使用が可能な所望の高純度が得られるようにするには、重クロム酸塩、パーオキソ二硫酸塩または過マンガン酸塩などの酸化剤により高温で処理し、その後、結晶化または減圧蒸留により精製した生成物を分離するなどの精製処理が必要であることが開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の存在下、水性媒体中でフッ素化モノマーを分散重合してフルオロポリマー樹脂を製造する方法であって、フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の削減を簡素化する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、フルオロポリマー樹脂の製造方法であって、開始剤、およびフルオロエーテルカルボン酸またはその塩を含む重合剤を含有する水性媒体中で、少なくとも1種のフッ素化モノマーを重合して、フルオロポリマー粒子の水性分散体を生成することを含む方法を提供する。この方法で使用されるフルオロエーテルカルボン酸またはその塩は、下記式I:
[R1−O−L−COO-]Y+ (I)
(式中、R1は直鎖状、分岐状または環状の、部分的または完全にフッ素化された、エーテル結合を有してもよい脂肪族基であり、Lは分岐状の、部分的または完全にフッ素化された、エーテル結合を有してもよいアルキレン基であり、Y+は水素、アンモニウムまたはアルカリ金属のカチオンである)で表される構造を有する。この式で表されるフルオロエーテルを、以下、「分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩」という。湿潤フルオロポリマー樹脂を水性媒体から分離し、残留フルオロエーテルカルボン酸またはその塩を含有する、湿潤フルオロポリマー樹脂を得る。湿潤フルオロポリマー樹脂を加熱し、水分を除去して乾燥フルオロポリマー樹脂を得るとともに、残留フルオロエーテルカルボン酸またはその塩を脱炭酸してフルオロエーテル副生物の蒸気を生成する。フルオロエーテル副生物の蒸気を捕集する。
【0008】
本発明は、分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩が、直鎖状フルオロエーテルカルボン酸またはその塩より低い温度で脱炭酸してフルオロエーテル副生物が生成されるとともに、削減の目的で脱炭酸とフルオロエーテル副生物の捕集を用いることができるという認識に基づいている。したがって、大量の分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩を脱炭酸し、湿潤ポリマーを加熱し乾燥する間にフルオロエーテル副生物に変換し、そしてフルオロエーテル副生物の捕集をフルオロエーテルカルボン酸またはその塩の削減に有効な方法とする。本発明の一実施形態では、フルオロエーテル副生物を吸着剤粒子、好ましくは活性炭の層で捕集する。本発明の他の一実施形態では、フルオロエーテル副生物は、好ましくは吸着剤粒子からフルオロエーテル副生物を熱的に離脱させることによって回収する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
重合剤
本発明の方法においては、重合剤として、上記式Iで表される種々の分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩であればいかなるものも使用することができる。式I中、Lは、好ましくは、分岐状の完全にフッ素化した、エーテル結合を有し得るアルキレン基であり、より好ましくは−CF(CF3)−である。重合剤として単一の化合物を使用することができ、あるいは2種以上の化合物の混合物を使用することができる。単一の分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩を使用する場合、それは通常パーフルオロオクタン酸またはその塩に類似した特性(分子量、表面張力および溶解度など)を有する。そのような分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩としては、フルオロモノエーテルカルボン酸またはその塩、あるいは低分子量フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩がある。必要に応じて、そのような界面活性剤の2種以上を混合した物を使用することができる。以下により詳細に記載するように、好ましい一実施形態では、従来のフルオロ界面活性剤に類似した特性を有する低分子量分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩と、高分子量分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩、例えば分子量が通常の範囲より大きく、したがって従来のフルオロ界面活性剤とは異なる特性を有する分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩との混合物を使用する。後の記載で明らかになるように、高分子量の分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩は、重合を効率的に行わせる特定の分子量画分を有する分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物として供給することが有利である。
【0010】
本発明の好ましい一形態では、フルオロエーテルカルボン酸またはその塩のフッ素化率は高い。「フッ素化率が高い」とは、フルオロ界面活性剤中のフッ素と水素の総原子数の少なくとも約50%がフッ素原子であることを意味する。フルオロエーテルカルボン酸またはその塩中のフッ素と水素の総原子数の少なくとも約75%がフッ素原子であることがより好ましく、少なくとも約90%であることが最も好ましい。パーフルオロエーテルカルボン酸またはその塩もまた本発明に好適である。
【0011】
本発明の好ましい一実施形態では、分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩は、式(I)(式中、R1はCF3−CF2−CF2−O−(−CFCF3−CF2−O−)nであり、nは0〜35であり、かつLは−CF(CF3)−である)で示される構造を有する化合物またはその混合物である。便宜上、これらの化合物は式II:
[CF3−CF2−CF2−O−(−CFCF3−CF2−O−)n−CFCF3−COO-]Y+ (II)
(式中、nは0〜35であり、Y+は水素、アンモニウムまたはアルカリ金属カチオンである。好ましくは、Y+は水素またはアンモニウムである)
で示すことができる。
【0012】
本発明の好ましい一実施形態では、数平均分子量が少なくとも約800g/molの分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物を、分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤と組み合わせて使用する。分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤は、鎖長が6以下であることが好ましい。「鎖長」とは、本願では、本発明の方法で使用するフルオロエーテルの疎水性尾部、すなわち式IにおいてR1−O−L−で表される構造部分における最も長い直鎖中の原子数をいう。鎖長には、界面活性剤の疎水性尾部の鎖にある炭素に加えて、酸素原子などの原子が含まれるが、最も長い直鎖からの分岐は含まれず、カルボキシル基の炭素原子も含まれない。鎖長は、好ましくは4〜6原子である。本発明の他の好ましい一形態では、鎖長は3〜5原子である。鎖長は、最も好ましくは4〜5原子である。
【0013】
例えば、上記式IIで示される好ましい分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の範囲内で、数平均分子量が少なくとも約800g/molであるフルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩と組み合わせて本発明の本形態で使用される適切な化合物は、nが0のもので、下記式IIIで表される。
[CF3CF2CF2OCF(CF3)COO-]Y+ (III)
式中、Y+は水素、アンモニウムまたはアルカリ金属カチオンである。以下、この化合物を、酸の形態ではダイマー酸(DA)、塩の形態ではダイマー酸塩(DAS)と呼ぶ。この化合物の鎖長は5である。この式で示される化合物は、米国特許第3,291,843号明細書にしたがって調製されたパーフルオロ−2−プロポキシプロピオニルフルオライド中間体から、またはヘキサフルオロプロピレンオキシドを二量化し、次いで、得られたアシルフルオライドを加水分解して、酸の場合はカルボン酸に、塩の場合は同時またはその後に適当な塩基と反応させて所望の塩を生成することにより、得ることができる。ヘキサフルオロプロピレンオキシドの二量化の方法は、英国特許第1 292 268号明細書に開示されている。
【0014】
分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤と組み合わせて、数平均分子量が少なくとも約800g/molの分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩を使用する本発明の好ましい一形態においては、上記式II(式中、Y+は水素、アンモニウムまたはアルカリ金属カチオンであり、nは少なくとも1であって、平均値として約3〜約13である(数平均分子量約800〜約2500g/mol))で表される組成を有する分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物を使用することが好ましい。この好ましい混合物において、nが1であるパーフルオロポリエーテル酸またはその塩の量は、混合物中のパーフルオロポリエーテルの全量に対して重量で50ppm以下である。混合物中のnが13以上であるパーフルオロポリエーテルの量は、前記混合物中のパーフルオロポリエーテルの全量に対して40重量%以下である。本発明の好ましい実施形態では、混合物中のnが13を超えるパーフルオロポリエーテルの量は35重量%以下であり、30重量%以下であり、20重量%以下であり、10重量%以下であり、7.5重量%以下である。好ましい実施形態では、Y+は水素またはアンモニウムである。
【0015】
本発明の他の一実施形態では、混合物中のnが16以上であるパーフルオロポリエーテルの量は、混合物中のパーフルオロポリエーテルの全量に対して10重量%以下である。本発明の好ましい実施形態では、混合物中のnが16以上であるパーフルオロポリエーテルの量は、7重量%以下であり、5重量%以下であり、3重量%以下である。
【0016】
本発明のさらに他の一実施形態では、混合物中のnが4以下であるパーフルオロポリエーテルの量は、混合物中のパーフルオロポリエーテルの全量に対して10重量%以下であり、より好ましくは混合物中のパーフルオロポリエーテルの全量に対して1重量%以下である。
【0017】
本発明のさらに他の一実施形態では、混合物中の少なくとも約50重量%のパーフルオロポリエーテルが、n=3〜n=13の範囲に入る。本発明の他の実施形態では、混合物中の少なくとも約60重量%、好ましくは75%、より好ましくは90重量%のパーフルオロポリエーテルが、n=3〜n=13の範囲に入る。
【0018】
本発明のさらに他の実施形態では、組成物は式I(式中、nは、平均値として約4〜約13(数平均分子量約1000〜約2500g/mol)、好ましくは平均値として約5〜約13(数平均分子量約1150〜約2500g/mol)、より好ましくは平均値として約5〜約10(数平均分子量約1150〜約1700g/mol)である)で示されるパーフルオロポリエーテル酸またはその塩の混合物を含む。
【0019】
パーフルオロポリエーテル酸またはその塩の混合物は、ヘキサフルオロプロピレンオキシド(HFPO)を重合し、パーフルオロポリエーテルアシルフルオライドを生成することにより調製することができる。ヘキサフルオロプロピレンオキシドの重合反応生成物は、種々の重合度を有するパーフルオロポリエーテルの混合物であり、種々の分子量のオリゴマーが分布する。低分子量のオリゴマーは蒸留により分離され、リサイクルされる。好ましい一実施形態では、アシルフルオライドをカルボン酸へ加水分解し、必要に応じて、アンモニウム塩を生成する水酸化アンモニウムなどの適当な塩基を用いて塩に変換する。
【0020】
低分子量および高分子量画分の量がともに上述したように限定されている本発明のパーフルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物は、アシルフルオライドの分留により得ることができる。
【0021】
数平均分子量が少なくとも約800g/molの分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩を、分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤とともに含む重合剤を使用する本発明の好ましい本形態では、重合剤におけるフルオロ界面活性剤の重量のパーフルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物の重量に対する比は約2:1〜約200:1である。本発明の他の実施形態では、前記フルオロ界面活性剤の重量の前記パーフルオロポリエーテル酸またはその塩の前記混合物の重量に対する比は約3:1〜約150:1であり、好ましくは約5:1〜約100:1であり、より好ましくは10:1〜約80:1である。
【0022】
本発明の好ましい重合方法においては、水性重合媒体中に重合剤として使用する数平均分子量が少なくとも約800g/molのフルオロポリエーテル酸またはその塩の混合物の量は、水性重合媒体中の水の重量に対して、約5〜約3,000ppmの範囲で含まれることが好ましい。
【0023】
数平均分子量が少なくとも約800g/molの分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩を、分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤とともに含む好ましい重合剤を形成するには、分岐パーフルオロエーテルカルボン酸またはその塩の混合物と分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤とを、重合剤として効果的に機能するように、水性媒体中に十分に分散させることが好ましい。本願において、「分散している」とは、分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物と分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤が水性媒体に可溶である場合には溶解しており、または、フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物および/またはフルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤が完全には溶解せず、非常に微細な粒子、例えば、約1nm〜約1μmの粒子で水性媒体中に存在する場合には分散している、いずれかをいう。同様に、本願において、「分散させる」とは、分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物および/または分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤を、上で定義したように分散させるために、溶解または分散させることをいう。分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物と分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤を含有する重合媒体が、無色透明であるか、またはほぼ無色透明に見える程度まで、分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物と分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤が十分に分散していることが好ましい。混合物の透明度は、通常、重合能の向上を示すものであり、例えば、ヘーズ値の小さい混合物を使用した重合は、ヘーズ値の大きい混合物を使用した場合に較べて、通常、分散性の低いポリマー(凝塊)の生成が少ない。
【0024】
分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物と分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤の分散は、種々の方法で行うことができる。1つの適切な手順では、水性重合媒体中で重合剤を直接調製することができる。この方法では、分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物は、酸の形態で供給され、その後、塩の形態に変換される。これは、最初に水酸化アンモニウムまたはアルカリ金属の水酸化物、好ましくは水酸化アンモニウムを、後に加えられるフルオロポリエーテルカルボン酸の混合物を実質的に完全に塩の形態に変換するのに十分な量、水性重合媒体に加えることにより行われる。その後、分岐フルオロポリエーテルカルボン酸を、水酸化アンモニウムまたはアルカリ金属水酸化物の溶液に加えることができ、必要に応じてpHを測定して、使用した塩基の過不足を知ることができる。また、当該技術分野で知られているように、水酸化アンモニウムまたはアルカリ金属水酸化物の使用量は、重合媒体に加えられる他の物質とともに、水性重合媒体のpHが、使用する特定の開始剤系の活性を所望のレベルにまで促進し、重合剤については操作可能なpH範囲とするpHになるようにすべきである。分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤は、分岐フルオロポリエーテルカルボン酸の混合物の添加の前に、同時に、または後に、水性重合媒体に添加することができる。
【0025】
好ましい一実施形態では、分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩と分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物は、いずれも酸の形態で供給される。分岐フルオロポリエーテルカルボン酸の混合物と分岐フルオロポリエーテルカルボン酸フルオロ界面活性剤は、塩の形態に変換することができる混合物を形成して、分岐フルオロポリエーテルカルボン酸塩が分散した濃縮液を作ることがわかった。この濃縮液は、分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤と、分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物を、分散した形態で水性媒体に供給するために使用するのに有利である。
【0026】
開始剤
本発明の重合には、重合条件下でラジカルを発生させることができるフリーラジカル開始剤を使用する。当該技術分野でよく知られているように、本発明で使用する開始剤は、得るべきフルオロポリマーのタイプおよび所望の特性、例えば末端基のタイプ、分子量などに基づいて選択される。溶融加工が可能なTFEコポリマーなど、いくつかのフルオロポリマーでは、ポリマー中にアニオン性末端基を生成させる水溶性の無機過酸塩が使用される。このタイプの好ましい開始剤は比較的長い半減期を有しており、好ましくは過硫酸塩(例えば、過硫酸アンモニウムまたは過硫酸カリウム)である。過硫酸塩開始剤の半減期を短くするために、亜硫酸水素アンモニウムまたは金属亜硫酸水素ナトリウムなどの還元剤を、場合によっては鉄などの金属触媒塩とともに、使用することができる。過硫酸塩開始剤は実質的に金属イオンを有していないことが好ましく、アンモニウム塩が最も好ましい。
【0027】
分散体を最終用途とするPTFEまたは変性PTFEの分散体を製造する場合には、過硫酸塩などの比較的半減期の長い開始剤に加え、少量の、コハク酸などの短鎖ジカルボン酸、またはジコハク酸パーオキシド(DSP)などのコハク酸を生成する開始剤を添加する。そのような短鎖ジカルボン酸は、一般に、非分散ポリマー(凝塊)を減少させるのに有用である。微粉体製造用のPTFE分散体を製造するには、過マンガン酸カリウム/シュウ酸などのレドックス開始剤系がよく使用される。
【0028】
重合反応を所望の反応速度で開始し維持するのに十分な量の開始剤を、水性重合媒体に加える。開始剤の少なくとも一部は、重合の開始時に加えることが好ましい。重合中連続的に、または重合中予め決められた時間に間欠的にもしくは間隔を置いて添加するなど、各種の添加モードを使用することができる。特に好ましい操作モードは、開始剤を反応器に予め仕込んでおき、重合の進行とともに開始剤を連続的に反応器に追加供給するものである。重合の過程で使用する過硫酸アンモニウムおよび/または過硫酸カリウムの量は合計で、水性媒体の重量の約25ppm〜約250ppmである。他のタイプの開始剤、例えば過マンガン酸カリウム/シュウ酸開始剤を、当該技術分野で知られている量および手順で使用することができる。
【0029】
連鎖移動剤
本発明の方法では、あるタイプのポリマー、例えば溶融加工可能なTFEコポリマーを重合する際に、溶融粘度を制御する目的で分子量を低下させるために、連鎖移動剤を使用することができる。フッ素化モノマーの重合における使用で、この目的のために有用な連鎖移動剤は、よく知られている。好ましい連鎖移動剤としては、水素、脂肪族炭化水素、ハロカーボン、ヒドロハロカーボン、または炭素原子を1〜20個、より好ましくは1〜8個の炭素原子を有するアルコールが挙げられる。そのような連鎖移動剤の代表的な好ましい例としては、エタンなどのアルカン類、クロロホルム、1,4−ジヨードパーフルオロブタンおよびメタノールが挙げられる。
【0030】
連鎖移動剤の量および添加モードは、その特定の連鎖移動剤の活性と、ポリマー生成物の所望する分子量に依存する。重合開始前に1回だけ、重合中連続的に、または重合中予め決められた時間に間欠的にまたは間隔を置いて添加するなど、種々の添加モードを使用することができる。重合反応器に供給する連鎖移動剤の量は、得られるフルオロポリマーの重量に対して、好ましくは約0.005〜約5重量%であり、より好ましくは約0.01〜約2重量%である。
【0031】
フルオロポリマー
本発明によって形成されるフルオロポリマー分散体は、少なくとも1種のフッ素化モノマー、すなわち、モノマーの少なくとも1種がフッ素を含む、好ましくは、二重結合の炭素に結合した少なくとも1個のフッ素、またはパーフルオロアルキル基を有するオレフィンモノマーからなるフルオロポリマーの粒子を含む。本発明の方法に使用されるフッ素化モノマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、トリフルオロエチレン、ヘキサフルオロイソブチレン、パーフルオロアルキルエチレン、フルオロビニルエーテル、フッ化ビニル(VF)、フッ化ビニリデン(VF2)、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール(PDD)、パーフルオロ−2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン(PMD)、パーフルオロ(アリルビニルエーテル)およびパーフルオロ(ブテニルビニルエーテル)からなる群から独立して選択されることが好ましい。好ましいパーフルオロアルキルエチレンモノマーは、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)である。好ましいフルオロビニルエーテルとしては、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)などのパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)モノマー(PAVE)が挙げられる。エチレンおよびプロピレンなどの非フッ素化オレフィンコモノマーをフッ素化モノマーと共重合させることができる。
【0032】
フルオロビニルエーテルには、フルオロポリマーに官能基を導入するのに有用なものも含まれる。このようなものとしては、CF2=CF−(O−CF2CFRfa−O−CF2CFR’fSO2F(式中、RfおよびR’fは、独立して、F、Cl、または1〜10個の炭素原子を有するパーフルオロ化アルキル基から選択され、a=0、1または2である)が挙げられる。このタイプのフルオロビニルエーテルは、米国特許第3,282,875号明細書(CF2=CF−O−CF2CF(CF3)−O−CF2CF2SO2F、パーフルオロ(3,6−ジオキサ−4−メチル−7−オクテンスルホニルフルオライド))、米国特許第4,358,545号明細書および米国特許第4,940,525号明細書(CF2=CF−O−CF2CF2SO2F)に開示されている。他の例としては、米国特許第4,552,631号明細書に開示されているCF2=CF−O−CF2−CF(CF3)−O−CF2CF2CO2CH3、パーフルオロ(4,7−ジオキサ−5−メチル−8−ノネンカルボン酸)のメチルエステルが挙げられる。ニトリル、シアネート、カルバメートおよびホスホン酸基を有する類似のフルオロビニルエーテルは、米国特許第5,637,748号明細書、米国特許第6,300,445号明細書、および米国特許第6,177,196号明細書に開示されている。
【0033】
本発明は、変性PTFEを含むポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の分散体を製造する場合に特に有用である。一般に、PTFEおよび変性PTFEは、少なくとも約1×108Pa・sの溶融クリープ粘度を有しており、そのような高い溶融粘度では、ポリマーは溶融状態であまり流動せず、したがって溶融加工が可能なポリマーではない。ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とは、有意な量のコモノマーの非存在下に単独で重合化されたテトラフルオロエチレンをいう。変性PTFEとは、得られるポリマーの融点が実質的にPTFEのそれより低くならない程度に低濃度のコモノマーを含むTFEのコポリマーをいう。そのようなコモノマーの濃度は、好ましくは1重量%未満であり、より好ましくは0.5重量%未満である。相当な効果を得るためには、最小使用量を少なくとも約0.05重量%とすることが好ましい。少量のコモノマー変性剤により、加熱(溶融)時の膜形成能が向上する。コモノマー変性剤としては、パーフルオロオレフィン、特に、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、またはアルキル基が1〜5個の炭素原子を含有するパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)が挙げられる。好ましくは、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)およびパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)である。クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、パーフルオロブチルエチレン(PFBE)、または分子に嵩高の側基を導入する他のモノマーもまた、使用可能なコモノマー変性剤である。
【0034】
本発明は、溶融加工が可能なフルオロポリマーの分散体を製造する場合に特に有用である。溶融加工が可能なとは、押出成形機および射出成形機などの従来の加工装置を使用して、ポリマーを溶融状態で加工(すなわち、溶融物から、所期の目的に有用な十分な強度と靭性を有するフィルム、繊維およびチューブなどの成形品を製造)できることを意味する。そのような溶融加工が可能なフルオロポリマーの例としては、ポリクロロトリフルオロエチレンなどのホモポリマー、またはテトラフルオロエチレン(TFE)と少なくとも1種の共重合可能なモノマー(コモノマー)とのコポリマーが挙げられる。このコモノマーは、通常、コポリマーの融点をTFEホモポリマー、すなわちポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の融点より実質的に低下させる、例えば、315℃以下の融点に低下させるのに十分な量が、ポリマーに含まれる。
【0035】
溶融加工が可能なTFEコポリマーは、その特定のコポリマーにおいて標準の温度でASTM D−1238にしたがって測定されるメルトフローレート(MFR)が約1〜100g/10分であるコポリマーを提供するために、通常、ある量のコモノマーをコポリマーに取り込む。溶融粘度は、米国特許第4,380,618号明細書に記載されているように修正されたASTM D−1238法による372℃での測定で、少なくとも約102Pa・sであることが好ましく、約102Pa・s〜約106Pa・sであることがより好ましく、約103〜約105Pa・sであることが最も好ましい。さらに他の溶融加工が可能なフルオロポリマーとしては、エチレン(E)またはプロピレン(P)と、TFEまたはCTFE、特にETFE、ECTFEおよびPCTFEとのコポリマーがある。
【0036】
本発明を実施するにあたり使用される、好ましい溶融加工が可能なコポリマーは、少なくとも約40〜98モル%のテトラフルオロエチレン単位と、約2〜60モル%の少なくとも1種の他のモノマーとを含む。TFEの好ましいコモノマーは、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)などの、3〜8個の炭素原子を有するパーフルオロオレフィン、および/または、1〜5個の炭素原子を含有する直鎖状または分岐アルキル基を有するパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)である。好ましいPAVEモノマーは、炭素原子を1、2、3または4個含有するアルキル基を有するものであり、数種のPAVEモノマーを使用してコポリマーを製造することができる。好ましいTFEコポリマーとしては、FEP(TFE/HFPコポリマー)、PFA(TFE/PAVEコポリマー)、PAVEがPEVEおよび/またはPPVEであるTFE/HFP/PAVE、MFA(PAVEのアルキル基が少なくとも2個の炭素原子を有するTFE/PMVE/PAVE)およびTHV(TFE/HFP/VF2)が挙げられる。
【0037】
さらに他の有用なポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびフッ化ビニリデンのコポリマーや、ポリフッ化ビニル(PVF)およびフッ化ビニルのコポリマーなどの膜形成ポリマーがある。
【0038】
本発明はまた、フルオロカーボンエラストマー分散体を製造するときに有用である。これらのエラストマーは、通常、25℃未満のガラス転移温度を有しており、結晶性を殆どまたは全く示さない、すなわち、室温で非晶質である。本発明の方法で製造されるフルオロカーボンエラストマーコポリマーは、フルオロカーボンエラストマーの全重量に対して、通常、25〜70重量%の、フッ化ビニリデン(VF2)またはテトラフルオロエチレン(TFE)などの第1フッ素化モノマーの共重合単位を含む。フルオロカーボンエラストマーの残りの単位は、フッ素化モノマー、オレフィン炭化水素およびこれらの混合物からなる群から選択される、1種以上の、第1モノマーとは異なる別の共重合モノマーを含む。本発明の方法で調製されるフルオロカーボンエラストマーには、また、場合により、1種以上のキュアサイトモノマー単位が含まれてもよい。共重合キュアサイトモノマーが含まれる場合、その量は、フルオロカーボンエラストマーの全重量に対して、通常、0.05〜7重量%である。適切なキュアサイトモノマーの例としては、i)臭素−、ヨー素−または塩素−含有フッ素化オレフィンまたはフッ素化ビニルエーテル、ii)ニトリル基含有フッ素化オレフィンまたはフッ素化ビニルエーテル、iii)パーフルオロ(2−フェノキシプロピルビニルエーテル)、およびiv)非共役ジエンが挙げられる。
【0039】
好ましいTFEベースのフルオロカーボンエラストマーコポリマーとしては、TFE/PMVE、TFE/PMVE/E、TFE/PおよびTFE/P/VF2が挙げられる。好ましいVF2ベースのフルオロカーボンエラストマーコポリマーとしては、VF2/HFP、VF2/HFP/TFEおよびVF2/PMVE/TFEが挙げられる。これらのエラストマーコポリマーはいずれも、キュアサイトモノマー単位をさらに含んでいてもよい。
【0040】
方法
本発明の好ましい一実施形態の実施においては、方法は加圧反応器でバッチ法として行われる。本発明の方法の実施の適した垂直式または水平式反応器は、所望の反応速度を得、かつコモノマーを使用する場合、それを均一に取り込むため、水性媒体をTFEなどの気相モノマーと十分に接触させる撹拌器を備えている。反応器は、その周囲に冷却器を有することが好ましい。これにより、温度制御した熱交換媒体を循環させて反応温度を好適にコントロールすることができる。
【0041】
数平均分子量が少なくとも約800g/molの分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩を、分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤と組み合わせて含む好ましい重合剤を使用する代表的な方法においては、まず、重合媒体である脱イオンされ、かつ脱気された水を反応器に仕込み、フルオロポリエーテル酸またはその塩およびフルオロ界面活性剤をその媒体に分散させる。分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤と組み合わせた、数平均分子量が少なくとも約800g/molの分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の分散を、上記のように行う。PTFEホモポリマーおよび変性PTFEでは、安定化剤としてしばしばパラフィンワックスを添加する。PTFEホモポリマーおよび変性PTFEの場合の適切な手順では、まず反応器をTFEで加圧する。HFPまたはパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)などのコモノマーを使用するならば、その後、加える。次に、アンモニウムパースルフェート溶液などのフリーラジカル開始剤溶液を加える。PTFEホモポリマーおよび変性PTFEでは、凝塊を減少させるために、ジスクシニルパーオキシドなどのコハク酸源となる第2の開始剤を、開始剤溶液中に存在させることができる。あるいは、過マンガン酸カリウム/シュウ酸などのレドックス開始剤系を使用する。温度を上昇させ、重合が始まれば圧力を維持するためにTFEを追加する。重合の始まりをキックオフといい、これは、ガス状モノマーの供給圧力が大きく、例えば約10psi(約70kPa)に低下したことが観察された時点と定義される。コモノマーおよび/または連鎖移動剤もまた重合の進行に伴い添加することができる。ある種の重合では、重合中に、モノマー、開始剤および/または重合剤を追加することができる。
【0042】
バッチ式分散重合は2つのフェーズで進行するものとして記載することができる。反応の初期は、所与の数の粒子が生成する核生成フェーズということができる。次いで、新しい粒子が殆どあるいは全く生成されずに、既に生成した粒子上でのモノマーの重合が主たる反応となる成長フェーズが始まるということができる。核生成から成長フェーズへの重合の移行は、円滑に、通常、TFEの重合では固形分が約4〜約10%のときに起こる。
【0043】
ポリマー、すなわち固形分の含有量が所望の量に達し、バッチが完了した後(通常、数時間)、供給を停止し、反応器からのガス放出および窒素によるパージを行い、容器内の未加工分散体を冷却容器に移す。
【0044】
本発明の好ましい方法では、重合により生成する非分散フルオロポリマー(凝塊)は、製造されたフルオロポリマーの全重量に対して、約10重量%未満であり、より好ましくは3重量%未満、より一層好ましくは1重量%未満、最も好ましくは約0.5重量%未満である。
【0045】
PTFE微粉体の製造では、湿潤フルオロポリマー、すなわちPTFE樹脂を分散体から、通常、凝集後、ろ過により水性媒体を除去することによって分離し、PTFEを乾燥させて、微粉体を製造する。乾燥工程については後でより詳しく記載する。
【0046】
溶融加工が可能なコポリマーの分散重合は、相当量のコモノマーを、初期にバッチに加え、かつ/または重合時に導入する以外は、同様に行われる。分子量を低下させる、すなわち、メルトフローレートを増加させるために、通常、かなりの量の連鎖移動剤を使用する。成形用樹脂として使用する溶融加工が可能なフルオロポリマーでは、湿潤フルオロポリマー樹脂を分散体から、通常、凝集後、ろ過により水性媒体を除去することによって分離する。フルオロポリマーを、後でより詳しく記載する方法で乾燥させた後、その後の溶融加工操作で使用するのに好都合なフレーク状、チップ状またはペレット状などの形態に加工する。
【0047】
本発明の方法の重合部分は、また、加圧反応器を用い、連続法で行ってもよい。連続法はフルオロカーボンエラストマーの製造には特に有用である。
【0048】
分散体から分離した、湿潤フルオロポリマー樹脂は、通常、かなりの量の残留フルオロエーテルカルボン酸またはその塩を含んでいる。本発明では、湿潤フルオロポリマー樹脂を加熱し、水を除去して乾燥フルオロポリマー樹脂を製造するとともに、残留フルオロエーテルカルボン酸またはその塩を脱炭酸してフルオロエーテル副生物の蒸気を生成する。当該技術分野で知られているように、湿潤フルオロポリマー樹脂の乾燥には、トレイドライヤー、ベルトドライヤーなど、市販の各種の乾燥装置を任意に使用することができる。加熱時に、水蒸気およびフルオロエーテル副生物の蒸気をフルオロポリマー樹脂から除去する排気ガス流れを提供するガス流を供給することが好ましい。
【0049】
本発明の好ましい形態においては、樹脂を約150℃〜約250℃、より好ましくは約160℃〜約200℃の温度に加熱する。後の脱炭酸の実施例で説明するように、分岐および直鎖状のフルオロエーテルカルボン酸またはその塩は共に加熱により脱炭酸するが、本発明の方法で使用される分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩は、より低い最大脱炭酸温度で示されるように、より低い温度で脱炭酸する。さらに、200℃における分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の脱炭酸半減期(t1/2)はかなり短い。本発明で使用される分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩は、アンモニウム塩として200℃で測定される脱炭酸半減期(t1/2)が、約30分未満であることが好ましい。より好ましくは約20分未満であり、最も好ましくは約10分未満である。本発明の好ましい形態では、重合に選択されたフルオロエーテルカルボン酸またはその塩と、採用した処理条件により、湿潤フルオロポリマー樹脂中に残留するフルオロエーテルカルボン酸またはその塩の少なくとも約50%が、加熱時に脱炭酸される。湿潤フルオロポリマー樹脂中に残留するフルオロエーテルカルボン酸またはその塩の少なくとも約65%が、加熱時に脱炭酸されることが好ましく、少なくとも75%であることがより好ましく、少なくとも約80%であることが最も好ましい。
【0050】
フルオロエーテルカルボン酸の塩の形態は、一般に、酸の形態より容易に脱炭酸することから、残留フルオロエーテルカルボン酸が主として塩の形態となるように、湿潤フルオロポリマー樹脂を高いpHで分離することによって、速度とフルオロエーテル副生物の収率が向上する。これは、湿潤フルオロポリマーを分離するための機械的凝集を行う前に、分散体に炭酸アンモニウムを加えることによって達成される。
【0051】
脱炭酸により二酸化炭素が発生し、分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩のヒドロフルオロエーテル副生物が生成される。例えば、上記式IIの好ましいフルオロエーテルカルボン酸またはその塩を使用した場合、ヒドロフルオロエーテル副生物は、対応する、式IVで表される下記構造を有する2−ヒドロフルオロエーテルである。
CF3−CF2−CF2−O−(−CFCF3−CF2−O−)n−CFHCF3 (IV)
この構造の化合物は知られており、例えば溶剤としてなど、種々の工業的用途に有用である。n=0であるこの構造の化合物は、「E1 Stable Fluid」または「Freon(登録商標)E−1」として、DuPont Companyから商業的に入手可能である。n=1およびn=2であるこの構造の化合物は、それぞれ「Freon(登録商標)E−2」および「Freon(登録商標)E−3」としてDuPontから入手可能である。また、式IVの2−ヒドロフルオロエーテルは、フッ素化して、パーフルオロポリエチレンを生成することができる。これは、例えば、Krytox(登録商標)の商標でDuPont Companyから販売されているオイルおよびグリースなどの潤滑剤としてなど、様々な用途で有用である。
【0052】
本発明の好ましい形態では、フルオロエーテルカルボン酸の副生物は、用いた乾燥機温度で蒸気の形態であることが望ましい。分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の界面活性剤と組み合わせて、数平均分子量が少なくとも約800g/molの分岐フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の混合物を含む本発明の好ましい重合剤について既に説明したように、分岐フルオロポリエーテルカルボン酸の混合物で、式IVのnが13以上の値を有する画分は、例えば混合物の40%以下に制限することが好ましい。これにより、乾燥フルオロポリマー樹脂中のフルオロエーテルカルボン酸またはその塩、あるいはその脱炭酸副生物が大幅に減少する。本発明の好ましい一形態では、乾燥フルオロポリマー樹脂に含まれる残留フルオロエーテルカルボン酸またはその塩、あるいはその脱炭酸副生物は、約250ppm未満であり、より好ましくは約150ppm未満であり、最も好ましくは約100ppm未満である。好ましいフルオロポリマー樹脂は、通常、残留フルオロエーテルカルボン酸またはその塩、あるいはその脱炭酸副生物の含有量が、約25ppm〜約100ppmである。
【0053】
本発明では、フルオロエーテル副生物の蒸気を捕集する。これは排ガス流れを、吸着剤粒子層を通過させることにより行うことが好ましい。本発明に関連する場合、「吸着剤粒子」という用語は、任意の物理的吸着機構によって、フッ素化界面活性剤を物理的に吸着できる粒子を意味する。本発明の好ましい一実施形態では、排ガス流れ中に含まれるフルオロエーテル副生物の蒸気を、活性炭の層で捕集する。必要ならば、性能および層の寿命を高めるため、吸着剤粒子層に接触する前に、排ガス流れの温度および相対湿度を調節する。活性炭では、ガス流れの温度を約40℃〜約120℃に調節することが好ましい。相対湿度は、75%未満に維持することが好ましく、約60%未満に維持することがより好ましい。通常、相対湿度が約10%未満になると、それ以上有利になることはない。乾燥器の温度は、適当な熱交換器により制御することができる。相対湿度は、選択された温度で適切な空気の流れを用いることにより制御することができる。
【0054】
本発明の好ましい一形態では、捕集したフルオロエーテル副生物を回収する。活性炭の層を使用する場合、回収はフルオロエーテル副生物を吸着剤粒子から熱脱着させることにより行うことが有利である。水蒸気蒸留は適切な方法である。蒸留など、溶媒抽出後の溶媒分離もまた、回収に使用することができる。前述したように、回収したフルオロエーテル副生物は、溶媒や、他の製品を製造する中間体として有用である。
【0055】
あるいは、捕集したフルオロエーテル副生物は、環境にやさしい方法で廃棄することができる。例えば、活性炭層を使用した場合、フルオロエーテル副生物で飽和した活性炭を燃焼させることができる。
【0056】
必要ならば、乾燥時に脱炭酸しないフルオロエーテルカルボン酸またはその塩を捕集するために、吸収剤粒子層に加えて水性スクラバーを使用することができる。スクラバーの水性媒体は、水、または適当な塩基、例えば10重量%のNaOHを含有する水とすることができる。このスクラバーは、排ガス流れ中の吸収剤粒子層の前または後ろのいずれかで使用することができる。スクラバーが吸収剤粒子層の後ろならば、吸収剤粒子もフルオロエーテルカルボン酸またはその塩をいくらか吸収する。回収が熱脱着により行われる場合は、通常、フルオロエーテルカルボン酸またはその塩は、そうした回収時に脱炭酸され、フルオロエーテル副生物に変換されるであろう。
【0057】
スクラバーが吸収剤粒子層の前で使用される場合、排ガス流れが活性炭カートリッジに到達する前に、その中に含まれるフルオロエーテルカルボン酸またはその塩の殆どをスクラバーが捕集するため、脱炭酸されるフルオロエーテルカルボン酸またはその塩の量は、吸収剤粒子層の下流にスクラバーが設置される場合と比較すると少ないと考えられる。フルオロエーテル副生物の蒸気は水性スクラバー媒体と接触すると、フルオロエーテル副生物の分子量とスクラバー媒体の温度に依存して凝縮するため、スクラバーは、結果的にフルオロエーテル副生物も捕集し得る。水性スクラバー媒体から分離した層を形成するのに十分な量のフルオロエーテル副生物が存在する場合、フルオロエーテル副生物の分離に、必要ならばデカンターを使用することができる。吸収剤粒子層の前でスクラバーを使用するときは、また、排ガス流れを冷却して、スクラバー中で排ガス流れが取り込んだ、吸収剤層に悪影響を及ぼすおそれのある過剰の水を凝縮させることが望ましい。吸収剤層に入る前で、湿度をコントロールする冷却器の後に、加熱器を使用して、吸収剤層でフルオロエーテル副生物を効率良く吸収させるのにより望ましい温度(および相対湿度)に排ガス流れを加熱することができる。
【0058】
試験方法
コポリマーの融点(Tm)およびガラス転移温度(Tg)は、ASTM D4591の方法に準拠して示差走査熱量測定法により測定する。PTFEホモポリマーの融点、すなわちポリマーが最初に加熱(ファーストヒートともいう)されたときの融点は、ASTM D−4591−87に規定の方法の示差走査熱量測定法(DSC)により求める。示した融点は、最初に溶融したときの吸熱ピーク温度である。
【0059】
標準比重(SSG)(PTFE)は、ASTM D−4895に規定の方法により測定する。
【0060】
コモノマー含有率(PPVEまたはHFP)は、FTIRにより、米国特許第4,743,658号明細書の第5欄第9行〜第23行に開示されている方法で測定する。
【0061】
コモノマー含有率(PDD)は、IRにより、2404cm-1〜1550cm-1における吸収比を検量線と比較することにより測定する。
【0062】
メルトフローレート(MFR)は、ASTM D−1238に準拠して、特定のコポリマーの標準温度で測定する。
【0063】
分散一次粒径(RDPS)は、Microtrac(登録商標)Nanotrac Particle Size Analyzerを使用し、光子相関分光法により測定する。
【0064】
燃え切り温度は、NicoletのFT−IR装置と接続したTA Q500 TGAを使用して、赤外分析装置を備える熱重量分析(TGA/IR)により測定する。
【0065】
最大脱炭酸温度は、NicoletのFT−IR装置と接続したTA Q500 TGAを使用して、赤外分析装置を備えた熱重量分析(TGA/IR)により測定する。CO2の発生が最大になる温度が最大脱炭酸温度である。
【0066】
200℃における脱炭酸半減期(t1/2)は、フルオロエーテルカルボン酸のアンモニウム塩を200℃で加熱している間の対応するヒドロフルオロエーテルの生成を、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法/質量選択検出器分析法(GC/MSD)で観測することにより測定する。この分析では、別々のヘッドスペースバイアルに入れた既知の濃度のフルオロエーテルアンモニウム塩をオーブン中で200℃に加熱して動力学的プロットを作成する。選択した時間間隔で、各バイアルのヘッドスペースをGC/MSDにより分析し、ヒドロフルオロエーテルの量を検出および推定して動力学的プロットを作成する。
【0067】
フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の数平均分子量および重量平均分子量、並びに式(I)におけるn−フルオロポリエーテル酸またはその塩の混合物の重量平均分子量は、フレームイオン化検出器(FID)または質量選択検出器(MSD)を備えた装置を使用してガスクロマトグラフィ(GC)により測定する。ガアスクロマトグラフィは、Agilent Model 6890などのクロマトグラフ装置で適切に実施される。フルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩を、GCに注入する前に、まず、2,3−ジヒドロデカフルオロペンタン(DuPont Companyから入手可能なVertrel(登録商標)XF)などの適当な溶媒に溶解する。通常、溶媒中の濃度が1%未満のフルオロポリエーテル酸またはその塩を、通常、≧300℃の温度を有するGCの注入孔から注入する。この試験方法の目的のために、この高い注入孔温度とすることにより、注入したフルオロポリエーテル酸またはその塩が、対応するヒドロフルオロポリエーテル(式VI)に熱により変換される。式VIの既知の組成物を参照標準として使用することにより、異なるオリゴマーの保持時間を得ることができる。各オリゴマーの面積(GC面積%)を測定し、重量平均分子量を算出するために使用する。数平均分子量は、重量平均分子量から標準の式を使用して算出されるが、これとは別に19F NMR分光法によっても測定する。本願では、分子量はカルボン酸として示し、変換したヒドロフルオロエーテル化合物としては示さない。式(I)のnの平均は、重量平均分子量から導く。
【0068】
ある値より大きい、または小さい分子量、例えば2500g/mol以上(すなわち、式(I)でnが13以上)の分子量を有するフルオロポリエーテルカルボン酸またはその塩の量は、重量平均分子量で使用したものと同じデータから求める。GC面積%値は重量%と良く近似することから、対象とする範囲のオリゴマーに対するGC面積%値を合計することによって、対象とする範囲のオリゴマーの重量パーセントを求めることができる。
【0069】
質量選択検出器によるGCの特別な選択イオンモニタリング(SIM)検出モードを使用して、式(I)(但し、n=1)で示されるパーフルオロポリエーテル酸またはその塩を定量化し、既知の濃度の較正基準を用意する。
【0070】
残留物分析−2,3−ジヒドロデカフルオロペンタン溶媒(DuPont Companyから入手可能なVertrel(登録商標)XF)を使用し、高温下においてポリマー試料の溶媒抽出を複数回行い、得られた抽出溶媒を、全てのフルオロポリエーテル酸またはその塩およびそれらの副生物について、上記のようなFIDまたはMSDを有するGCにより、同じ溶媒中のヒドロフルオロポリエーテル(式VI)の較正基準と比較して分析する。
【実施例】
【0071】
実施例−分岐および直鎖状フルオロエーテルカルボン酸塩の脱炭酸
選択した分岐および直鎖状フルオロエーテルカルボン酸のアンモニウム塩について、燃え切り温度、最大脱炭酸温度、および200℃における脱炭酸半減期(t1/2)を測定する。結果を下の表1に示す。
【0072】
表1のデータは、最大脱炭酸温度および200℃における脱炭酸半減期(t1/2)が、直鎖状フルオロエーテルカルボン酸より分岐フルオロエーテルカルボン酸の方がかなり小さい値であることを示している。データは、約200℃で稼動している、湿潤フルオロポリマー用乾燥機中で、残留分岐フルオロエーテルカルボン酸塩の方が、同じ乾燥機温度の直鎖状フルオロエーテルカルボン酸塩よりかなり多く脱炭酸されることを示している。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例−フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の重合および削減
重合剤成分
式CF3CF2CF2OCF(CF3)COOH(ダイマー酸またはDAと称する)で表される分岐フルオロエーテルカルボン酸を使用する。これは、後の実施例でアンモニウム塩に変換される(ダイマー酸塩またはDASと称する)。
【0075】
式(II)(Y+はHである)の構造を有するフルオロポリエーテルカルボン酸の混合物を使用する(PFPEAと称する)。この酸は後の実施例でアンモニウム塩に変換される。
【0076】
この実施例で使用するフルオロポリエーテルカルボン酸の混合物の分子量分布を表1Aに示す。表に示された平均値は、重量平均分子量と表示された列を除いて、数平均分子量に基づく。
【0077】
【表2】

【0078】
使用した水酸化アンモニウムは30重量%水溶液である(NH4OHとして計算した重量%)。
【0079】
重合剤混合物1および2を以下のように調製し、無色透明またはほぼ無色透明の混合物を得る。下記表2Aの実施例1に示した量のPFPEAおよびDAを、100mLのガラスジャー中で混合し、約5〜30分間激しく撹拌した。示された量の30%水酸化アンモニウム溶液(NH4OH)を、水浴中で冷却しながらPFPEA/DA混合物に徐々に加え、濃縮物を生成した。得られた濃縮物を、示された量の、高速で撹拌されている脱イオン(DI)水を入れた4Lのガラスビーカーに徐々に注ぎ、無色透明またはほぼ無色透明の混合物を得た。
【0080】
実施例1
分岐フルオロエーテル混合物(1成分は式CF3CF2CF2OCF(CF3)COOH(DA)を有するパーフルオロモノエーテルカルボン酸)と、PFPEAとして下記表2Aに特定されている上記のパーフルオロポリエーテルカルボン酸混合物とを使用する、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ホモポリマーの重合において、本発明の方法を説明する。
【0081】
円筒形で水平式の、水冷ジャケットおよび撹拌パドルを備えた、長さと直径の比が約1.5で、水容量が10ガロン(37.9L)のステンレス鋼製反応器に、40.6ポンド(18.4kg)の脱塩水、600gのパラフィンワックス、0.05gのエトキシ化アルコールTomadol(登録商標)23−1、4.3gのコハク酸、および15mLの0.02質量/体積%シュウ酸水溶液を仕込む。46rpmで撹拌しながら、反応器の内容物を65℃に加熱し、反応器のガス抜きを行い、テトラフルオロエチレン(TFE)で3回パージする。重合剤混合物1(表1A参照)および脱イオン水(1552.2g)を含む水性混合物を加える。圧力が400psig(2.9MPa)になるまでTFEを加える。その後、0.036gのKMnO4および0.017gのリン酸アンモニウムを含む水性開始剤溶液240mLを、80mL/分の速度で加える。この添加が完了したところで、重合剤混合物2(表2A参照)と脱イオン水(2312.7g)とを含む水性混合物2375mLを64mL/分の速度で加え、水性開始剤溶液をさらに5mL/分の速度で加える。2.9MPaを維持するのに十分な流量でTFEを加える。初期加圧後、3ポンド(6.6kg)のTFEを加えたところで、温度を72℃に上昇させる。初期加圧後、14.6ポンド(32.1kg)のTFEを加えたところで、開始剤溶液の添加を停止する。初期加圧後、17.6ポンドのTFEを加えたところで、温度を80℃に上昇させる。初期加圧後、全量で24ポンド(52.8kg)のTFEを供給したところで、TFEの添加を停止し、反応器からガスを放出する。反応器内の内容物を取り出し、上澄みのワックスを除去する。分散体の固形分含有量は36.89重量%であり、分散一次粒径(RDPS)は230.3nmである。分散体を固形分12%にまで希釈し、炭酸アンモニウムの存在下に激しく撹拌しながら凝固させ、湿潤PTFE樹脂を生成する。
【0082】
湿潤PTFE樹脂の乾燥と、フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の削減のために、湿潤PTFE樹脂300gを、加熱ジャケットと空気流入用および排ガス流出用ポートとを備えた500mlのガラス容器に移す。エアフロー(0.5l/分)を開始し、湿潤PTFEを急速に乾燥させ、フルオロエーテルカルボン酸またはその塩を脱炭酸させるのに十分な150℃の温度に容器を加熱する。容器からの排ガスを、約60℃、相対湿度50%にまで冷却するために熱交換器を通過させ、その後、フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の脱炭酸副生物、すなわち2−ヒドロフルオロエーテルを吸収することができる活性炭を充填した金属製カートリッジへ導入する。活性炭カートリッジからの排ガス流れを、脱炭酸しないフルオロエーテルカルボン酸またはその塩のスクラバーとしての役割を担う、氷水浴で冷却された250mlの容器に入れられた10%NaOH水溶液の表面下に導く。PTFEの微粉末が完全に乾燥したように見えるまで、約2.5時間加熱を続ける。
【0083】
活性炭カートリッジをシステムから取り外し、一方の端に栓をし、他端を凝縮器および捕集容器に連結する。カートリッジを約150℃に加熱し、カートリッジで捕捉されたフルオロエーテル副生物を放出、すなわち熱脱着させ、フルオロエーテル副生物をオイル状液体の単一相として捕集容器に回収する。さらに、フルオロエーテルカルボン酸またはその塩について水酸化ナトリウムスクラバー溶液を分析する。カートリッジから回収したフルオロエーテル副生物の重量を、スクラバー溶液中に存在すると確認されたフルオロエーテルカルボン酸またはその塩の全量と比較すると、この実施例で使用したこの方法では、約80%の分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩が脱炭酸され、捕捉される。
【0084】
得られたPTFE微粉末の特性を表2Bに示す。
【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

【0087】
実施例2
乾燥時に0.5リットルのガラス容器から出た排ガス流れが、まずNaOHスクラバー溶液に入ることを除き、実施例1のようにして、300gの湿潤PTFE樹脂を製造し、乾燥させた。スクラバー溶液を出た排ガス流れを、凝縮器を通過させて過剰の水を除去し、その後、活性炭カートリッジに入る前に熱交換器を通過させて温度を約60℃まで上昇させる(その結果、相対湿度は約50%になる)。
【0088】
カートリッジから回収したフルオロエーテル副生物の重量を、スクラバー溶液中に存在すると確認されたフルオロエーテルカルボン酸またはその塩の全量と比較すると、この実施例で使用したこの方法では、約76%の分岐フルオロエーテルカルボン酸またはその塩が脱炭酸され、捕捉される。実施例1と比較すると、脱炭酸されるフルオロエーテルカルボン酸またはその塩の量が少ないが、これは、活性炭カートリッジへ到達する前に、排ガス流れ中に存在するフルオロエーテルカルボン酸またはその塩のほぼ全量がスクラバーで捕捉されるからであると考えられる。実施例1では、活性炭カートリッジは、いくらかのフルオロエーテルカルボン酸またはその塩も吸収するが、それらは、その後、フルオロエーテル副生物を回収するための熱脱着時に脱炭酸される。
【0089】
表2Bに示すポリマー特性は、実施例2で使用する削減手順に変更しても影響を受けない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロポリマー樹脂の製造方法であって、
開始剤、およびフルオロエーテルカルボン酸またはその塩を含む重合剤を含有する水性媒体中で、少なくとも1種のフッ素化モノマーを重合して、フルオロポリマー粒子の水性分散体を生成する工程であって、前記フルオロエーテルカルボン酸またはその塩が、式:
[R1−O−L−COO-]Y+
(式中、
1は直鎖状、分岐状または環状の、部分的または完全にフッ素化された、エーテル結合を有してもよい脂肪族基であり;
Lは分岐状の、部分的または完全にフッ素化された、エーテル結合を有してもよいアルキレン基であり;
+は水素、アンモニウムまたはアルカリ金属のカチオンである)
で表される工程;
残留フルオロエーテルカルボン酸またはその塩を含有する、湿潤フルオロポリマー樹脂を前記水性媒体から分離する工程;
前記湿潤フルオロポリマー樹脂を加熱し、水分を除去して乾燥フルオロポリマー樹脂を得るとともに、前記残留フルオロエーテルカルボン酸またはその塩を脱炭酸してフルオロエーテル副生物の蒸気を生成する工程;および
前記フルオロエーテル副生物の蒸気を捕集する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
Lは、分岐状の完全にフッ素化された、エーテル結合を有してもよいアルキレン基であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Lは、−CF(CF3)−であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記フルオロエーテルカルボン酸またはその塩は、R1がCF3−CF2−CF2−O−(−CFCF3−CF2−O−)nであり、nが0〜35であり、かつLが−CF(CF3)−である化合物またはその混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
+が水素またはアンモニウムであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
nが0であることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記残留フルオロエーテルカルボン酸またはその塩の少なくとも約50%が、前記加熱時に脱炭酸されて、前記フルオロエーテル副生物の蒸気を生成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記加熱は、約150℃〜約250℃の温度で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記フルオロエーテル副生物の蒸気は、吸着剤粒子の層で捕集されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記フルオロエーテル副生物の蒸気は、活性炭の層で捕集されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
捕集された前記フルオロエーテル副生物を回収することを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記回収は、前記フルオロエーテル副生物を前記吸着剤粒子から熱脱着させることを含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記フルオロエーテルカルボン酸またはその塩は、アンモニウム塩として200℃での脱炭酸半減期が、約30分未満であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記加熱時に、前記濡れたフルオロポリマー樹脂にガス流を供給して、水蒸気および前記フルオロエーテル副生物の蒸気を前記フルオロポリマー樹脂から除去する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法により製造されるフルオロポリマーであって、前記乾燥フルオロポリマー樹脂に含まれる残留フルオロエーテルカルボン酸またはその塩、あるいはその脱炭酸副生物が、約250ppm未満であることを特徴とするフルオロポリマー。

【公表番号】特表2011−520020(P2011−520020A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508693(P2011−508693)
【出願日】平成21年5月8日(2009.5.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/043222
【国際公開番号】WO2009/137734
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】