説明

フルオロポリマー水性分散液の製造方法

【課題】 再利用可能な含フッ素界面活性剤を回収することが可能であり、含フッ素界面活性剤の回収時に生じる廃液量が少なく、更に、工程時間が短いフルオロポリマー水性分散液の製造方法を提供する。
【解決手段】 フルオロポリマー濃度が20〜40質量%である被処理フルオロポリマー水性分散液にノニオン界面活性剤を加えてフルオロポリマー非含有相とフルオロポリマー含有相とに分離させたのち前記フルオロポリマー非含有相を除去して前記フルオロポリマー含有相からフルオロポリマー水性分散液を調製することよりなるフルオロポリマー水性分散液の製造方法であって、
前記フルオロポリマー非含有相の体積[a]と前記フルオロポリマー含有相の体積[b]との比[a/b]が1以下である
ことを特徴とするフルオロポリマー水性分散液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロポリマー水性分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマー水性分散液は、コーティング、含浸等の方法で、化学的安定性、非粘着性、耐候性等に優れた特性を示すフィルムを形成することができるので、調理器具、配管のライニング、ガラスクロス含浸膜等の用途に広く使われてきた。これらの用途において、フルオロポリマー水性分散液は、フルオロポリマー濃度が高いものが好ましいので、一般に、水性媒体中で含フッ素界面活性剤の存在下に含フッ素モノマーを重合したのち濃縮して得られたものが使用されている。しかしながら、含フッ素界面活性剤は、フルオロポリマーの優れた特性を損なう原因となるので、フルオロポリマー水性分散液から除去することが望ましい。また、上記含フッ素界面活性剤は、一般的に高価であるので、回収して再利用することが好ましい。
【0003】
フルオロポリマー水性分散液から含フッ素界面活性剤を除去する方法としては、多量のノニオン界面活性剤の存在下で濃縮操作を行い上清を分別して、含フッ素界面活性剤を製品中から除去する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1では、水性分散液中の含フッ素界面活性剤を除去するために、フルオロポリマー水性分散液に、特定量の水及び多量のノニオン界面活性剤を使用し、特定の温度で相分離濃縮を複数回行う方法が記載されているが、多量の不要な上清が生じ、その上清を処理する過程が経済的に不利であるという問題がある。
【0004】
含フッ素界面活性剤の除去及び回収方法としては、含フッ素界面活性剤水溶液としてフルオロポリマー重合後の凝析等により生じる排水を逆浸透膜により処理して濃縮し、回収する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この方法においても、多量のポリマー非含有相が生成するため、この排水処理にコストがかかるという問題があった。
【特許文献1】国際公開第2004/050719号パンフレット
【特許文献2】特開昭55−120630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、再利用可能な含フッ素界面活性剤を回収することが可能であり、含フッ素界面活性剤の回収時に生じる廃液量が少なく、更に、工程時間が短いフルオロポリマー水性分散液の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フルオロポリマー濃度が20〜40質量%である被処理フルオロポリマー水性分散液にノニオン界面活性剤を加えてフルオロポリマー非含有相とフルオロポリマー含有相とに分離させたのち上記フルオロポリマー非含有相を除去して上記フルオロポリマー含有相からフルオロポリマー水性分散液を調製することよりなるフルオロポリマー水性分散液の製造方法であって、上記フルオロポリマー非含有相の体積[a]と上記フルオロポリマー含有相の体積[b]との比[a/b]が1以下であることを特徴とするフルオロポリマー水性分散液の製造方法である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0007】
本発明における被処理フルオロポリマー水性分散液は、フルオロポリマーが水性媒体に分散してなるものである。
上記被処理フルオロポリマー水性分散液は、フルオロポリマーが水性媒体に分散してなるものであれば特に限定されず、上記フルオロポリマーを重合する際に得られる重合上がりの水性分散液であってもよいし、該重合上がりの水性分散液に含フッ素アニオン性界面活性剤低減処理及び/又は濃縮等の後処理を行うことにより得られる水性分散液であってもよい。
【0008】
上記被処理フルオロポリマー水性分散液におけるフルオロポリマーは、炭素原子に結合しているフッ素原子を有している重合体である。
上記フルオロポリマーとしては、例えば、エラストマー性フルオロポリマー、非溶融加工性フルオロポリマー、溶融加工性フルオロポリマー等が挙げられる。
上記エラストマー性フルオロポリマーは、ゴム弾性を有する非晶質のフルオロポリマーであって、通常、30〜80質量%の第1単量体の単量体単位を有するものである。
本明細書において、上記「第1単量体」とは、エラストマー性フルオロポリマーの分子構造において、全単量体単位のうち最多質量を占める単量体単位を構成することとなったビニリデンフルオライド[VDF]又はテトラフルオロエチレン[TFE]を意味する。
本明細書において、上記第1単量体の単量体単位等の「単量体単位」は、フルオロポリマーの分子構造上の一部分であって、対応する単量体に由来する部分を意味する。例えば、TFE単位は、フルオロポリマーの分子構造上の一部分であって、TFEに由来する部分であり、−(CF−CF)−で表される。上記「全単量体単位」は、フルオロポリマーの分子構造上、単量体に由来する部分の全てである。
【0009】
上記エラストマー性フルオロポリマーとして、例えば、TFE系重合体としては、TFE/プロピレン共重合体、TFE/パーフルオロビニルエーテル共重合体、ヘキサフルオロプロピレン[HFP]系重合体としては、HFP/エチレン共重合体、VDF系重合体としては、VDF/HFP共重合体、VDF/クロロトリフルオロエチレン[CTFE]共重合体、VDF/TFE共重合体、VDF/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[PAVE]共重合体、VDF/TFE/HFP共重合体、VDF/TFE/CTFE共重合体、VDF/TFE/PAVE共重合体等が挙げられる。
【0010】
上記非溶融加工性フルオロポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン[PTFE]が挙げられる。
本明細書において、上記PTFEは、TFE単独重合体のみならず、変性ポリテトラフルオロエチレン[変性PTFE]をも含む概念である。
上記微量単量体としては、例えば、HFP、CTFE等のフルオロオレフィン、炭素原子1〜5個、特に炭素原子1〜3個を有するアルキル基を持つフルオロ(アルキルビニルエーテル);フルオロジオキソール;パーフルオロアルキルエチレン;ω−ヒドロパーフルオロオレフィン等が挙げられる。
変性PTFEにおいて、上記微量単量体に由来する微量単量体単位の全単量体単位に占める含有率は、通常0.001〜2モル%の範囲である。
本明細書において、「全単量体単位に占める微量単量体単位の含有率(モル%)」とは、上記「全単量体単位」が由来する単量体、即ち、フルオロポリマーを構成することとなった単量体全量に占める、上記微量単量体単位が由来する微量単量体のモル分率(モル%)を意味する。
【0011】
上記溶融加工性フルオロポリマーとしては、例えば、エチレン/TFE共重合体[ETFE]、TFE/HFP共重合体[FEP]、TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体[TFE/PAVE共重合体]、PVDF、PVD系共重合体、ポリフッ化ビニル[PVF]等が挙げられる。
上記TFE/PAVE共重合体としては、TFE/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)[PMVE]共重合体[MFA]、TFE/パーフルオロ(エチルビニルエーテル)[PEVE]共重合体、TFE/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)[PPVE]共重合体等が挙げられる。
上記溶融加工性フルオロポリマーとしてのVDF系共重合体としては、VDF/TFE共重合体、VDF/HFP共重合体、VDF/CTFE共重合体、VDF/TFE/HFP共重合体、VDF/TFE/CTFE共重合体等が挙げられる。
【0012】
上記被処理フルオロポリマー水性分散液におけるフルオロポリマーとしては、パーフルオロポリマーが好ましく、なかでも、PTFEが好ましい。
【0013】
上記フルオロポリマーの平均粒子径は、50〜500nmであり、好ましくは、100〜350nmである。
上記平均粒子径は、フルオロポリマー濃度を0.22質量%に調整した水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均粒子径との検量線をもとにして、上記透過率から決定したものである。
【0014】
上記被処理フルオロポリマー水性分散液における水性媒体は、水を含む液体であれば特に限定されず、水に加え、例えば、アルコール、エーテル、ケトン、パラフィンワックス等のフッ素非含有有機溶媒及び/又はフッ素含有有機溶媒をも含むものであってもよい。
【0015】
上記被処理フルオロポリマー水性分散液は、フルオロポリマー濃度が、通常20〜40質量%であるものである。
上記フルオロポリマー濃度は、20質量%未満であると、後述の分離において相分離を行う場合、フルオロポリマー非含有相とフルオロポリマー含有相との分離が困難となることがある。一方、40質量%を越えると、上記被処理フルオロポリマー水性分散液中に存在する含フッ素アニオン性界面活性剤の除去が困難となることがある。
上記フルオロポリマー濃度は、好ましい下限が22質量%、より好ましい下限が25質量%であり、好ましい上限が35質量%、より好ましい上限が30質量%である。
本明細書において、フルオロポリマー濃度(P)は、試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃、1時間で乾燥し、さらにこれを300℃、1時間乾燥した加熱残分(Z)に基づき、式:P=Z/X×100(%)にて決定したものである。
【0016】
上記被処理フルオロポリマー水性分散液は、更に、界面活性剤をも含むものであってもよい。
上記界面活性剤としては特に限定されず、例えば、従来公知のノニオン界面活性剤、アニオン性界面活性剤等が挙げられ、また、含フッ素界面活性剤であってもよい。
上記ノニオン界面活性剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル等のエーテル型ノニオン界面活性剤;エチレンオキサイド/プロピレンオキサイドブロック共重合体等のポリオキシエチレン誘導体;ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等のエステル型ノニオン界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等のアミン系ノニオン界面活性剤;等が挙げられる。
上記ノニオン界面活性剤は、芳香族系化合物、直鎖化合物及び分岐鎖を有する化合物の何れであってもよいが、アルキルフェノールを構造中に有しない直鎖化合物又は分岐鎖を有する化合物であることが好ましく、後述の被処理フルオロポリマー水性分散液に添加するノニオン界面活性剤として例示するものがより好ましい。
【0017】
上記アニオン性界面活性剤としては、アニオン性の含フッ素界面活性剤(本明細書において、「含フッ素アニオン性界面活性剤」ということがある。)を使用することができる。上記含フッ素アニオン性界面活性剤としては、含フッ素カルボン酸化合物、含フッ素スルホン酸化合物等の含フッ素アニオン化合物からなるものが好ましく、含フッ素カルボン酸化合物からなるものがより好ましく、炭素数が5〜12の含フッ素カルボン酸化合物からなるものが更に好ましい。
上記アニオン性界面活性剤としては、例えば、パーフルオロオクタン酸及びその塩(以下、「パーフルオロオクタン酸及びその塩」をまとめて「PFOA」と略記することがある。)、パーフルオロオクチルスルホン酸及びその塩(以下、「パーフルオロオクチルスルホン酸及びその塩」をまとめて「PFOS」と略記することがある。)等の公知の含フッ素アニオン性界面活性剤を使用することができる。
上記PFOA及びPFOSは、塩である場合、特に限定されないが、アンモニウム塩等が挙げられる。
上記含フッ素界面活性剤は、上記被処理フルオロポリマー水性分散液を構成するフルオロポリマーを水性媒体中にて重合する際に乳化剤として添加したものであってよい。
【0018】
上記被処理フルオロポリマー水性分散液は、懸濁重合、乳化重合等、公知の方法にてフルオロポリマーの重合を行うことにより調製することができる。
上記各重合において使用するフッ素含有単量体、フッ素非含有単量体、及び、重合開始剤、連鎖移動剤等の添加剤として適宜公知のものを使用することができ、また、上記各重合において、上述の界面活性剤を使用することができる。
上記各重合は、重合効率の点で、含フッ素界面活性剤を上記水性媒体の0.0001〜10質量%の量存在させて行うことが好ましい。上記含フッ素界面活性剤の量は、具体的には上記水性媒体の100ppm以上、より具体的には1000ppm以上、更に具体的には1500ppm以上、あるいは2000ppm以上、あるいは1質量%以上であってもよい。
【0019】
本発明のフルオロポリマー水性分散液の製造方法は、上述の被処理フルオロポリマー水性分散液にノニオン界面活性剤を加えてフルオロポリマー非含有相とフルオロポリマー含有相とに分離させる工程を含むものである。
【0020】
上記被処理フルオロポリマー水性分散液に加えるノニオン界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、上述の被処理フルオロポリマー水性分散液に関し例示したものが挙げられるが、なかでも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル構造のものが好ましく、炭素数10〜20のアルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル構造を有するものがより好ましく、炭素数10〜15のアルキル基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル構造を有するものが更に好ましい。上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル構造を有するノニオン界面活性剤としては、ノイゲンTDS−80(第一工業製薬社製)等のポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン界面活性剤が挙げられる。
【0021】
本発明において、上記ノニオン界面活性剤は、被処理フルオロポリマー水性分散液中のフルオロポリマー100質量部に対して10〜40質量部となる量を加えることが好ましい。
上記ノニオン界面活性剤の量は、上記フルオロポリマー100質量部に対して10質量部未満であると、フルオロポリマー非含有相とフルオロポリマー含有相との分離が困難となることがあり、一方、上記フルオロポリマー100質量部に対して40質量部を越えると、経済性が損なわれることがある。
本明細書において、ノニオン界面活性剤の含有量(N)は、試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃、1時間で乾燥した加熱残分(Y)、更にこれを300℃、1時間乾燥した加熱残分(Z)から、式:N=(Y−Z)/X×100(%)に基づき決定したものである。
【0022】
本明細書において、「フルオロポリマー非含有相とフルオロポリマー含有相とに分離する」とは、被処理フルオロポリマー水性分散液からフルオロポリマー非含有相とフルオロポリマー含有相とからなるものであって且つ平衡状態又は未平衡状態にある2相を形成させることを意味する。即ち、上記分離により形成されるフルオロポリマー非含有相とフルオロポリマー含有相との2相は平衡状態にあってもよいし平衡状態でなくてもよいが、被処理フルオロポリマー水性分散液が含フッ素アニオン性界面活性剤を含有するものである場合、フルオロポリマー非含有相中の含フッ素アニオン性界面活性剤の濃度が後述の範囲内であるように上記2相に分離した状態が好ましく、生産時の再現性及び工程管理の点で、平衡状態にあることがより好ましい。
上記フルオロポリマー非含有相及び上記フルオロポリマー含有相については、後述する。
【0023】
本発明において、フルオロポリマー非含有相とフルオロポリマー含有相との分離は、相分離にて行うことが好ましい。
本発明における相分離は、例えば、国際公開第2003/078479号パンフレットに記載の方法等にて行うことができる。
【0024】
上記フルオロポリマー非含有相とフルオロポリマー含有相との分離は、加えたノニオン界面活性剤の曇点以上の温度にて行うことが好ましく、上記曇点より5℃以上高い温度にて行うことがより好ましく、上記曇点より10℃以上高い温度にて行うことが更に好ましい。
上記曇点とは、ノニオン界面活性剤水溶液を加熱していくと該水溶液に曇りが生じ白濁液となるが、該白濁液を徐々に冷却した際に液全体が透明となる温度を意味する。
本明細書において、上記曇点は、ISO1065(Method A)に従い、測定希釈試料15mlを試験管に入れ、完全に不透明になるまで加熱させた後に、攪拌しながら徐々に冷却させた際に液全体が透明となる温度として測定した値である。
【0025】
本発明のフルオロポリマー水性分散液の製造方法は、上記フルオロポリマー非含有相と上記フルオロポリマー含有相とを分離させたのち、上記フルオロポリマー非含有相を除去して前記フルオロポリマー含有相からフルオロポリマー水性分散液を調製することよりなるものである。
上記フルオロポリマー非含有相を除去する方法としては、特に限定されず、デカンテーション等、従来公知の方法にて行うことができる。
【0026】
本発明のフルオロポリマー水性分散液の製造方法は、上記フルオロポリマー非含有相の体積[a]と上記フルオロポリマー含有相の体積[b]との比[a/b]が1以下であることを特徴とするものである。上記a/bは、0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましく、上記範囲内であれば、0.47以上であってもよいし、0.5以上であってもよい。
【0027】
本発明において、上記フルオロポリマー非含有相とは、一般に、上記ノニオン界面活性剤の存在下に特定の温度範囲で形成される相の1つであって、フルオロポリマー含有量が5質量%以下であるものを意味する。
上記フルオロポリマー非含有相において、フルオロポリマー含有量は1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
上記フルオロポリマー非含有相は、含フッ素アニオン性界面活性剤を含有するものであってもよい。
上記含フッ素アニオン性界面活性剤としては、特に限定されず、上述の被処理フルオロポリマー水性分散液に関して例示したものが好ましい。
本発明において、被処理フルオロポリマー水性分散液が含フッ素アニオン性界面活性剤を含有する場合、分離されるフルオロポリマー非含有相は、次のように比較的高濃度の含フッ素アニオン性界面活性剤を含有するので、含フッ素アニオン性界面活性剤を回収して再利用することが容易である。
上記フルオロポリマー非含有相は、含フッ素アニオン性界面活性剤を含有する場合、500ppm以上の量を含有することが好ましく、800ppm以上の量を含有することがより好ましく、1000ppm以上の量を含有することが更に好ましく、1050ppm以上の量を含有することが特に好ましく、上記範囲内であれば、工業上、重合時に使用した含フッ素アニオン性界面活性剤の殆どの量を含有するものであってもよく、重合時に使用した含フッ素アニオン性界面活性剤の90質量%、好ましくは95質量%の量を含有するものであってもよい。
本明細書において、上記フルオロポリマー非含有相における含フッ素アニオン性界面活性剤の含有量は、後述の条件にて、高速液体クロマトグラフィー〔HPLC〕を行うことにより測定したものである。
【0028】
本明細書において、上記フルオロポリマー含有相とは、上記ノニオン界面活性剤を添加することよりなる分離の際に形成される2相のうち、被処理フルオロポリマー水性分散液に由来するフルオロポリマーを被処理フルオロポリマー水性分散液より高濃度で含有するものを意味する。
上記フルオロポリマー含有相は、フルオロポリマー濃度が、35質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、55質量%以上であることが更に好ましく、上記範囲内であれば、通常75質量%以下であってもよい。
上記フルオロポリマー含有相は、ノニオン界面活性剤及び含フッ素アニオン性界面活性剤の何れも含有量が低いので、本発明により得られるフルオロポリマー水性分散液は、不純物の混入が非常に少ない。
上記フルオロポリマー含有相において、ノニオン界面活性剤濃度は、フルオロポリマー100質量部に対して5.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部以下であることがより好ましい。
上記フルオロポリマー含有相は、含フッ素アニオン性界面活性剤を含有する場合、その濃度は、600ppm以下であることが好ましく、350ppm以下であることがより好ましい。
本明細書において、上記フルオロポリマー含有相における含フッ素アニオン性界面活性剤の含有量は、等量のメタノールを添加してソックスレー抽出を行ったのち、後述の条件にて、高速液体クロマトグラフィー〔HPLC〕を行うことにより測定したものである。
【0029】
従来、フルオロポリマー水性分散液は、フルオロポリマー濃度が高いフルオロポリマー水性分散液を得る目的で、被処理フルオロポリマー水性分散液の使用量に対しフルオロポリマー水性分散液の体積をできるだけ小さくするよう製造されていたので、界面活性剤を含む廃液が多く生じ、該廃液の処理のためのコストがかさむ問題があった。一方、本発明は、フルオロポリマー非含有相とフルオロポリマー含有相とを上述の体積比にて分離することができるので、従来の方法に比べ、被処理フルオロポリマー水性分散液の体積に対するフルオロポリマー非含有相、即ち廃液、の体積の割合が低く、同じスケールで製造した場合、廃液処理の為に必要なコストが低い。また、本発明におけるフルオロポリマー非含有相は、上述したように、従来の製法を実施した際に生じる廃液と比べ界面活性剤濃度が高いので、含有する界面活性剤を回収し、再利用する場合に有利である。
更に、本発明は、従来のフルオロポリマー水性分散液の製造方法と比べてフルオロポリマー非含有相とフルオロポリマー含有相との分離速度が大きく、工程時間を短縮することができる。
【0030】
本発明の実施により得られるフルオロポリマー水性分散液は、上述のフルオロポリマー含有相として得られる水性分散液そのものであってもよいし、得られるフルオロポリマー水性分散液相に、水やノニオン界面活性剤を添加して濃度調整を行う、アンモニア水等を添加してpH調整を行う等の公知の後処理を行ったものであってもよい。
上記フルオロポリマー水性分散液は、上述のように各種界面活性剤の濃度が低いので、各種界面活性剤に起因するフルオロポリマーの特性劣化がない。このため、上記フルオロポリマー水性分散液は、フルオロポリマー粉末、フルオロポリマー成形体等に加工しやすく、また、得られるフルオロポリマー成形体は、耐熱性、耐薬品性、耐久性、耐侯性、表面特性、機械的特性等の物性に優れており、例えば、調理器具、配管のライニング、ガラスクロス含浸膜、電池用結着剤等の材料として有用に用いることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明のフルオロポリマー水性分散液の製造方法は、上記構成よりなるものであるので、含フッ素界面活性剤の回収時に生じる廃液量が少なく、また、工程時間が短い。更に、本方法において生じるフルオロポリマー非含有相は、含フッ素界面活性剤を回収し、再利用する材料として使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例により限定されるものではない。
本実施例及び比較例において、特に説明しない限り、「部」は「質量部」を表す。
各実施例又は各比較例で行った測定は、以下の方法により行った。
【0033】
1.ノニオン界面活性剤濃度及びフルオロポリマー濃度
試料約1g(X)を直径5cmのアルミカップにとり、100℃、1時間で乾燥した加熱残分(Y)、さらにこれを300℃、1時間乾燥した加熱残分(Z)に基づき、下式にて決定した。
N=(Y−Z)/X×100(%)
P=Z/X×100(%)
(各式中、Nは、ノニオン界面活性剤濃度であり、Pはフルオロポリマー濃度である。)
【0034】
2.含フッ素アニオン性界面活性剤濃度
(1)フルオロポリマー非含有相中における濃度
下記条件にて、高速液体クロマトグラフィー〔HPLC〕を行うことにより測定した。
HPLC測定条件
カラム:ODS−120T(4.6φ×250mm、トーソー社製)
展開液;アセトニトリル/0.6質量%過塩素酸水溶液=60/40(vol/vol%)
サンプル量;20μL
流速;1.0ml/分
検出波長;UV210nm
カラム温度;40℃
・含フッ素アニオン性界面活性剤濃度の算出にあたり、既知の濃度の含フッ素アニオン性界面活性剤水溶液について上記溶出液及び条件にてHPLC測定して得られた検量線を用いた。
(2)フルオロポリマー含有相及び被処理フルオロポリマー水性分散液中における濃度
測定対象のフルオロポリマー水性分散液に、該水性分散液に等量のメタノールを添加してソックスレー抽出を行ったのち、HPLC測定を上記条件にて行うことにより求めた。
【0035】
実施例1
内容量60mL、径3cmの円筒型ガラス製容器に、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕水性分散液(PTFE含有量25%、パーフルオロオクタン酸アンモニウム〔PFOA〕625ppm)57.7gを被処理フルオロポリマー水性分散液として入れ、10%アンモニア水溶液でpHを9に調整した後、ノイゲンTDS−80(第一薬品工業社製のポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン界面活性剤、曇点58℃)2.9gを添加し、40℃にて均一に混合した。このときの混合液の体積は、50mlであった。この容器を80℃の温水槽中に静置した。静置後すぐに混合液の上部に透明なフルオロポリマー非含有相が生じ、時間の経過とともに該フルオロポリマー非含有相の体積割合が増えていくのが観察された。静置開始時より5分後にフルオロポリマー非含有相の体積割合がほぼ一定(平衡状態)となった。この平衡状態にあるフルオロポリマー非含有相の体積(a)とフルオロポリマー含有相の体積(b)の体積との比は、a/b=0.6であった。更に、フルオロポリマー非含有相を除去し、フルオロポリマー含有相を分離した。得られたフルオロポリマー含有相は、フルオロポリマー水性分散液であり、フルオロポリマー濃度が38.0%、PFOA濃度が299ppmであった。一方、フルオロポリマー非含有相は、PFOA濃度が1101ppmであった。
【0036】
比較例1
実施例1において使用したPTFE水性分散液をPTFE含有量18%に希釈した後に実施例1と同様にして分離操作を行ったが、分離は進行しなかった。
【0037】
実施例2〜3及び比較例2〜3
被処理フルオロポリマー水性分散液として使用するPTFE水性分散液のフルオロポリマー濃度、添加するノニオン界面活性剤量及び分離温度を、それぞれ表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜3及び比較例2〜3のフルオロポリマー水性分散液を製造した。
結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
以上の結果より、実施例1〜3では、各フルオロポリマー非含有相の体積が低いにもかかわらずPFOA濃度が高く、また、各フルオロポリマー水性分散液のPFOA濃度が低い上に、また分離に必要な時間を大幅に短くすることができた。
一方、比較例2〜3では、各フルオロポリマー水性分散液のフルオロポリマー濃度が高いものの、PFOA濃度が高く、分離に60分以上の時間を要した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のフルオロポリマー水性分散液の製造方法は、上記構成よりなるものであるので、含フッ素界面活性剤の回収時に生じる廃液量が少なく、また、工程時間が短い。更に、本方法において生じるフルオロポリマー非含有相は、含フッ素界面活性剤を回収し、再利用する材料として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロポリマー濃度が20〜40質量%である被処理フルオロポリマー水性分散液にノニオン界面活性剤を加えてフルオロポリマー非含有相とフルオロポリマー含有相とに分離させたのち前記フルオロポリマー非含有相を除去して前記フルオロポリマー含有相からフルオロポリマー水性分散液を調製することよりなるフルオロポリマー水性分散液の製造方法であって、
前記フルオロポリマー非含有相の体積[a]と前記フルオロポリマー含有相の体積[b]との比[a/b]が1以下である
ことを特徴とするフルオロポリマー水性分散液の製造方法。
【請求項2】
フルオロポリマー非含有相は、含フッ素アニオン性界面活性剤を前記フルオロポリマー非含有相の500ppm以上含有するものである請求項1記載のフルオロポリマー水性分散液の製造方法。
【請求項3】
フルオロポリマー非含有相は、含フッ素アニオン性界面活性剤を前記フルオロポリマー非含有相の1000ppm以上含有するものである請求項1記載のフルオロポリマー水性分散液の製造方法。
【請求項4】
ノニオン界面活性剤は、被処理フルオロポリマー水性分散液中のフルオロポリマー100質量部に対して10〜40質量部となる量を加えるものである請求項1、2又は3記載のフルオロポリマー水性分散液の製造方法。
【請求項5】
分離は、相分離法により行うものであり、
前記相分離法は、ノニオン界面活性剤の曇点以上の温度にて行うものである請求項1、2、3又は4記載のフルオロポリマー水性分散液の製造方法。
【請求項6】
被処理フルオロポリマー水性分散液中のフルオロポリマー粒子は、平均粒子径が50〜500nmである請求項1、2、3、4又は5記載のフルオロポリマー水性分散液の製造方法。
【請求項7】
フルオロポリマーは、パーフルオロポリマーである請求項1、2、3、4、5又は6記載のフルオロポリマー水性分散液の製造方法。
【請求項8】
フルオロポリマーは、ポリテトラフルオロエチレンである請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のフルオロポリマー水性分散液の製造方法。


【公開番号】特開2006−316242(P2006−316242A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−228633(P2005−228633)
【出願日】平成17年8月5日(2005.8.5)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】