説明

フルオロポリマー溶液を基材にインクジェット印刷する方法、およびそれによる物品

基材表面の改質方法は、蒸発性溶媒、および溶解された固体フルオロポリマーを含む非蒸発性成分を含むフルオロポリマー溶液をインクジェット印刷するステップを含む。この溶解された固体フルオロポリマーは、フッ化ビニリデンを含む少なくとも1種のモノマーの反応生成物を含む。様々な物品を前記方法に従って生成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面の改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材表面上の液体の湿潤挙動は、通常は、基材表面の表面エネルギー、および液体の表面張力に応じている。液体−基材表面界面では、液体の分子が、互いに引き付け合うよりも基材表面の分子を強く引き付ける(接着力が凝集力より強い)場合、基材表面の湿潤が一般に起こる。あるいは、液体の分子が、基材表面の分子よりも互いに強く引き付け合う(凝集力が接着力より強い)場合、液体は、一般に玉のようになり、基材表面を湿潤しない。
【0003】
基材表面上の液体の表面湿潤特性を定量化する一方法は、その表面上に置かれた液滴の接触角を測定することである。接触角は、固体/液体界面と液体/蒸気界面で形成され、液体の側から測定される角度である。液体は、通常はその接触角が90度未満の場合表面を湿潤させる。通常は、液体と表面の間の接触角の低下は、湿潤の増大と相関している。接触角ゼロは、一般に基材表面上の液体が自然に広がることに対応する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多数の用途では、精密高解像度パターンに従って基材表面上の液体の湿潤を精密に制御する能力は重要である。したがって、このような制御を提供することができる追加の方法および材料を有することは、望ましいはずである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、本発明は、フルオロポリマー溶液を基材表面上にインクジェット印刷するステップを含み、フルオロポリマー溶液が、蒸発性溶媒、および溶解された固体フルオロポリマーを含む非蒸発性成分を含み、溶解された固体フルオロポリマーが、フッ化ビニリデンを含む少なくとも1種のモノマーの反応生成物を含み、溶解された固体フルオロポリマーが、少なくとも10重量パーセントの非蒸発性成分を含む、基材表面の改質方法を提供する。一実施形態では、このモノマーは、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの少なくとも1つをさらに含むことができる。一実施形態では、この方法は、固体フルオロポリマーをフィルムまたはコーティングとして基材表面上に被着させるように、印刷した後、溶媒を少なくとも部分蒸発させるステップをさらに含む。一実施形態では、この方法は、固体フルオロポリマーフィルムの少なくとも一部分を有機溶媒に溶解するステップをさらに含む。
【0006】
別の態様では、本発明は、表面を有する基材を含み、表面が、その上に少なくとも1種の固体フルオロポリマーを含むコーティングを有し、固体フルオロポリマーが、フッ化ビニリデンを含む少なくとも1種のモノマーの反応生成物を含み、コーティングが、ドットの配列を含み、配列が、少なくとも一次元に少なくとも300ドット/インチ(120ドット/cm)の解像度を有する物品を提供する。一実施形態では、モノマーは、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレンの少なくとも1つをさらに含むことができる。
【0007】
本発明による方法は、高解像度パターンを提供することができ、通常は短期用途によく適している。
【0008】
この出願では、
水との接触角はすべて、特段の指定のない限り、22℃の脱イオン水を使用した測定値を指し、
「固体」という用語は、易流動性でも、気体でもないことを意味し、
「蒸発性」という用語は、1気圧で160℃未満の沸点を有することを意味し、
「非蒸発性」という用語は、「蒸発性」でない任意の化合物を指し、
「ポリマー」という用語は、同じでも異なってもよい少なくとも10個の連続した(共)重合したモノマー単位を含む任意の化合物を指し、
「フルオロポリマー」という用語は、フッ素含有量がポリマーの全重量に対して少なくとも20重量パーセントであるポリマーを指す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の様々な態様の実施に使用するインクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液は、蒸発性溶媒、および少なくとも1種の固体フルオロポリマーを含む非蒸発性成分を含む。
【0010】
有用な固体フルオロポリマーは、周囲温度(例えば、22℃)で固体である。1種または複数の固体フルオロポリマーを基材表面に被着させ、別の処理(例えば、エッチング)を施す用途の場合、固体フルオロポリマーは、通常はこのような処理条件下で液体フルオロポリマーより高いレベルの耐久性を有する。
【0011】
有用な固体フルオロポリマーは、フッ素含有量が少なくとも20重量パーセントである。例えば、固体フルオロポリマーを、フッ素含有量をポリマーの全重量に対して少なくとも30重量パーセント、さらには少なくとも40重量パーセントとすることができる。
【0012】
本発明の実施に有用な固体フルオロポリマーは、通常は疎水性である。例えば、本発明の実施に使用する可溶性固体フルオロポリマーのフィルムは、水との平均後退接触角が少なくとも80度、少なくとも95度、または少なくとも110度となり得るが、より小さい接触角も有用となり得る。いくつかの実施形態では、有用な固体フルオロポリマーは、疎油性でもよい。例えば、本発明の実施に使用する可溶性固体フルオロポリマーのフィルムは、ヘキサデカンとの平均後退接触角が少なくとも30度、少なくとも40度、さらには少なくとも50度となり得る。
【0013】
通常、固体フルオロポリマーは溶解させた状態で基材に塗布するので、(例えば、溶媒の除去によって)連続フィルムを形成することができる。場合によっては、例えばフィルム形成の助けとなるために、印刷の前、中、および/または後に基材、および/または固体フルオロポリマーを加熱することが望ましい場合がある。
【0014】
有用な固体フルオロポリマーは、フッ化ビニリデン(VDF)を含む少なくとも1種のモノマーの反応生成物を含む。このようなフルオロポリマーの例には、VDF含有量がフルオロポリマーの少なくとも20、30、40、50、60、さらには70パーセント、および100重量パーセントまでのものを含めて、ポリフッ化ビニリデンおよびそのコポリマーが含まれる。
【0015】
一実施形態では、固体フルオロポリマーは、VDFおよびヘキサフルオロプロピレン(HFP)を含むモノマーの反応生成物を含むことができる。このようなフルオロポリマーの例には、フルオロポリマーの全重量に対してVDF含有量が少なくとも0.01、1、10、20、30、40、50、60、さらには70重量パーセント、またはそれよりさらに高く、HFP含有量が少なくとも0.01、1、5、10、15、20重量パーセント、および30重量パーセントまでであるVDFおよびHFPのコポリマーが含まれる。このような固体フルオロポリマーの例は、米国ミネソタ州オークデール(Oakdale, Minnesota)のダイネオン(Dyneon,LLC)から商品名「カイナー(KYNAR)2800」で市販されている、VDF/HFPモノマー重量比90/10のVDFとHFPのコポリマーである。
【0016】
一実施形態では、固体フルオロポリマーは、VDFおよびテトラフルオロエチレン(TFE)を含むモノマーの反応生成物を含むことができる。このようなフルオロポリマーには、フルオロポリマーの全重量に対してVDF含有量が少なくとも39、50、60、さらには70重量パーセント以上であり、TFE含有量が少なくとも0.01、1、5、10、15、20重量パーセント、および61重量パーセントまでであるVDFとTFEのコポリマーが含まれる。このような固体フルオロポリマーの例は、ダイネオン(Dyneon,LLC)から商品名「カイナー(KYNAR)7201」で市販されている、VDF/TFEモノマー重量比39/61のVDFとTFEのコポリマーである。
【0017】
一実施形態では、固体フルオロポリマーは、フッ化ビニリデン(VDF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、およびテトラフルオロエチレン(TFE)の溶媒可溶性ターポリマーを含むことができる。このようなターポリマーは、通常は本発明の実施に非常に有用なものになる物理的諸特性(例えば、撥水性、化学的不活性、溶解度、フィルム形成特性)を有する。このようなフルオロポリマーには、フルオロポリマーの全重量に対してVDF含有量が少なくとも20、30、40、50、60、さらには70重量パーセント以上であり、HFP含有量が少なくとも0.01、1、5、10、15、さらには20重量パーセント、および60重量パーセントまでであり、TFE含有量が少なくとも0.01、1、5、10、15、さらには20重量パーセント、および40重量パーセントまでであるVDF、HFP、およびTFEのターポリマーが含まれる。VDF/HFP/TFE可溶性ターポリマーの例には、ダイネオン(Dyneon,LLC)から市販のものが含まれる。例えば、商品名「THV 200」(モノマー重量比40/20/40)、「L−5447」(モノマー重量比65/11/24)、「カイナー(KYNAR)9301」(モノマー重量比56/19/25)、「ダイネオンフルオロエラストマー(DYNEON FLUOROELASTOMER)FE−5530」(モノマー重量比63/28/9)、「ダイネオンフルオロエラストマー(DYNEON FLUOROELASTOMER)FT−2481」(モノマー重量比44/33/23)、「ダイネオンフルオロエラストマー(DYNEON FLUOROELASTOMER)FE−5730」(モノマー重量比41/35/24)、および「ダイネオンフルオロエラストマー(DYNEON FLUOROELASTOMER)FE−5830」(モノマー重量比36.6/38.5/24.9)のVDF/HFP/TFEモノマーのターポリマーがある。
【0018】
任意に、様々なコモノマーを、VDF、HFP、および/またはTFEと共重合することができる。このようなモノマーの例には、フッ素含有モノマー、フッ素を含まないモノマー、およびその組合せが含まれる。適切なフッ素含有モノマーの例には、クロロトリフルオロエチレン、3−クロロペンタフルオロプロペン、ペルフルオロ化ビニルエーテル(例えば、ペルフルオロアルコキシビニルエーテル、およびペルフルオロアルキルビニルエーテル)、フッ化ビニル、およびペルフルオロ(ジアリルエーテル)やペルフルオロ−1,3−ブタジエンなどのフッ素含有ジオレフィンが含まれる。適切なフッ素を含まないモノマーの例には、エチレン、プロピレン、アルキル(メタ)アクリレートモノマー(例えば、フルオロアルキルまたはアルキル(メタ)アクリレート)などのオレフィンモノマーが含まれる。
【0019】
固体フルオロポリマーの調製方法は、当技術分野でよく知られており、例えば、それには、例えば米国特許第4,338,237号明細書(ズルツバッハ(Sulzbach)ら);同第6,489,420号明細書(ダチェスン(Duchesne)ら);および同第5,285,002号明細書(グルータート(Grootaert))に記載される乳化重合技法が含まれる。
【0020】
溶解された固体フルオロポリマー(すなわち、単一の固体フルオロポリマー、または2種以上の固体フルオロポリマーの組合せ)は、任意の濃度でインクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液中に存在することができる。しかし、固体フルオロポリマーの基材表面への被着速度を向上させるために、インクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液中の固体フルオロポリマーの濃度を、意図された用途に応じてインクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液の全重量に対して0.001、0.1、1、5、10、さらには20重量パーセント超とすることができる。同様に、固体フルオロポリマーを、インクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液の非蒸発性成分の少なくとも20、30、40、50、60、70、80、さらには90重量パーセントとすることができる。本当のポリマー特性を得るために、インクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液中に溶解された固体フルオロポリマーの含有量、および/または印刷条件(例えば、解像度、および/または印刷パス回数)を調整して、少なくとも0.5マイクロメートルの被着フィルム厚さ(例えば、0.5〜3マイクロメートルの固体フルオロポリマーフィルム厚さ)を得ることができる。
【0021】
インクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液は、例えば、撹拌、加熱、超音波処理、ミリング、およびその組合せなどよく知られている技法の1種または複数に従って構成成分を組み合わせることによって調製することができる。
【0022】
有用なインクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液は、通常は蒸発性溶媒が蒸発するとすぐにフィルム形成し、これによって、一般に均一な連続コーティングが得られる。従来の固体フルオロポリマー分散液(例えば、ポリテトラフルオロエチレン水性分散液)は、通常はフルオロポリマーおよび/または添加された表面活性剤に共有結合した分散基を有し、従来使用されるように、溶媒が蒸発するとすぐに連続フィルムを生じることはできない。このようなコーティング(特に薄い場合)は、例えば軽い磨耗によって、かつ/または水性組成物(例えば、水または水性腐食剤)によって損傷を受ける恐れがある。一方、本発明の実施に有用なインクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液は、通常はこのような分散基または添加された表面活性剤を必要とせずに配合することができ、通常は水性組成物に対して良好な耐性を有する。しかし、フィルムを容易には形成しない組成物を、本発明の実施に使用することもできる。
【0023】
蒸発性溶媒(例えば、1種または複数の蒸発性有機溶媒)は、通常はインクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液中に、少なくとも意図されたインクジェット印刷条件下で固体フルオロポリマーを溶解させるのに十分な量で存在すべきである。固体フルオロポリマーを溶解させるのに十分な量を超えた追加の蒸発性溶媒を組成物に添加して、例えば組成物の粘度を(例えば、選択されたインクジェット印刷方法に適した粘度に)調整することができる。例えば、溶媒を添加して組成物の60℃における粘度を30ミリパスカル秒以下に調整することができる。固体フルオロポリマーを溶解するのに使用できる有機溶媒の例には、アミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド)、ケトン(例えば、メチルエチルケトン、アセトン)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン)、ヒドロフルオロエーテル(例えば、スリーエム・カンパニー(3M Company)から商品名「スリーエム・ノベック・エンジニアド流体(3M NOVEC ENGINEERED FLUID) HFE 7100」、「スリーエム・ノベック・エンジニアド流体(3M NOVEC ENGINEERED FLUID) HFE−7200」で市販されているもの)、ペルフルオロ化溶媒(例えば、スリーエム・カンパニー(3M Company)から商品名「スリーエム・フルオリナート・エレクトロニック液体(3M FLUORINERT ELECTRONIC LIQUID) FC−77」)、およびその組合せが含まれる。
【0024】
フッ素化溶媒は、通常は表面張力が非常に低く、インクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液がインクジェット印刷による分配が困難になる恐れがある。したがって、例えばインクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液の表面張力を調整(例えば、増大)し、適切なインクジェット印刷ヘッド機能を維持するように少なくとも1種の非フッ素化蒸発性溶媒を含むようなフルオロポリマー溶液を配合することが望ましい場合がある。例えば、インクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液は、20パーセント未満、10パーセント未満、5パーセント未満、1重量パーセント未満のフッ素化溶媒を含むことも、あるいはさらに少ないこともある(例えば、0.01未満であり、フッ素化溶媒を実質的に含まない)。
【0025】
インクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液は、例えば着色剤(例えば、染料および/または顔料)、チキソトロープ剤、増粘剤など任意の添加剤を1種または複数含むことができる。しかし、インクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液を、基材表面に塗布する間、強制的に小さいオリフィスを通過させなければならない場合(例えば、インクジェット印刷)では、オリフィスを詰まらせる傾向の可能性がある分散粒子を本質的に含まないインクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液を使用することが望ましくなる可能性がある。
【0026】
通常は、インクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液を基材に塗布した後、蒸発性溶媒は、(例えばオーブン中などの高温での乾燥を含めて)蒸発によって少なくとも部分的に(例えば、実質的に完全に)除去される。蒸発は、例えば空気乾燥、オーブン乾燥、マイクロ波乾燥、および減圧(例えば、真空)下での蒸発を含めて、様々な従来の方法によって実現することができる。蒸発中に、インクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液の非蒸発性成分は、基材表面上に例えば連続または非連続薄膜として被着する。被着された非蒸発性成分は、通常は基材表面上に低表面エネルギーの領域を形成し、その領域は、その後に基材上に(例えば、デジタル的にまたは非デジタル的に)被着される流体の湿潤挙動を制御するために使用することができる。このような流体の例には、生体液(例えば、血清、尿、だ液、涙、および血液)、接着剤およびその前駆体、水、インクなどが含まれる。
【0027】
通常は、任意の固体基材を本発明の実施に使用することができる。例えば、有用な基材は、不透明、半透明、透明、テキスチャ加工された、パターン化された、凸凹、平滑、硬質、柔軟、処理済み、下塗り付き、またはその組合せとすることができる。基材は、通常は有機および/または無機材料を含む。基材は、例えば熱可塑性、熱硬化性、またはその組合せとすることができる。基材の例には、フィルム、プレート、テープ、ロール、金型、シート、ブロック、成形品、生地、および繊維複合体(例えば、回路基板)が含まれ、基材は、ポリイミド、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン、ポリエーテル、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレン)、ポリアミド、およびその組合せなどの有機ポリマーを少なくとも1種含むことができる。無機基材の例には、金属(例えば、クロム、アルミニウム、銅、ニッケル、銀、金、およびその合金)、セラミック、ガラス、磁器、石英、ポリシリコン、およびその組合せが含まれる。
【0028】
例えばフルオロポリマーフィルムの基材表面への接着を促進するために、基材を処理することができる。処理の例には、コロナ処理、火炎処理、化学処理が含まれる。基材表面の化学処理(例えば、カップリング剤での処理)によって、しばしば、溶媒が蒸発した後のインクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液の基材表面への接着が向上する。適切なカップリング剤には、熱分解するとすぐに酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素を与えることができる従来のチタン酸塩カップリング剤、ジルコン酸塩カップリング剤、およびシランカップリング剤が含まれる。シランカップリング剤の例には、ビニルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、ジアリルジクロロシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラノール、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、オルトケイ酸テトラエチル、およびその組合せが含まれる。カップリング剤を使用する場合は、無溶媒で、または例えば蒸発性有機溶媒に溶かしたその溶液で適用することができる。化学表面処理技法に関するさらに詳しいことは、例えばS.ウー(S.Wu)、「ポリマー界面および接着(Polymer interface and Adhesion)」(1982年)、マーセル・デッカー社(Marcel Dekker)、ニューヨーク、406〜434頁に記載されている。
【0029】
一実施形態では、インクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液はさらに、例えば米国特許第5,681,881号明細書(ジン(Jing)ら)に記載されているような加硫剤を1種または複数含むことができる。加硫剤は、存在する場合は、通常は非蒸発性成分の一部分を構成する。
【0030】
場合によっては、インクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液を塗布した後に基材を加熱することが望ましいことがある。このような加熱は、固体フルオロポリマーのフィルム形成を助けることがあり、かつ/または固体フルオロポリマーの基材表面(例えば、上記に記載する化学処理した表面)への結合を助けることがある。
【0031】
通常は、インクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液を、基材表面に薄いコーティング(例えば、約1マイクロメートル未満の厚さ)として塗布するが、より薄いコーティングを使用することもできる。インクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液を、基材表面に連続または非連続コーティングとして塗布することができる。
【0032】
インクジェット印刷方法は、通常は高解像度が所望される用途によく適している。インクジェット印刷方法の例には、サーマルインクジェット印刷、連続インクジェット印刷、および圧電(すなわち、ピエゾ)インクジェット印刷が含まれる。サーマルインクジェットプリンタ、および/またはプリントヘッドは、ヒューレット・パッカードコーポレーション(Hewlett−Packard Corporation)(米国カリフォルニア州パロアルト(Palo Alto, California))やレックスマーク・インターナショナル(Lexmark International)(米国ケンタッキー州レキシントン(Lexington, Kentucky))などのプリンタ製造業者から容易に商業的に入手可能である。連続インクジェット印刷ヘッドは、ドミノ・プリンティング・サイエンス(Domino Printing Sciences)(英国ケンブリッジ(Cambridge, United Kingdom))などの連続プリンタ製造業者から市販されている。ピエゾインクジェット印刷ヘッドは、例えばトライデント・インターナショナル(Trident International)(米国コネチカット州ブルックフィールド(Brookfield, Connecticut))、エプソン(Epson)(米国カリフォルニア州トランス(Torrance, California))、日立データシステムズ・コーポレーション(Hitachi Data Systems Corporation)(米国カリフォルニア州サンタクララ(Santa Clara, California))、ザール(Xaar PLC)(英国ケンブリッジ(Cambridge, United Kingdom))、スペクトラ(Spectra)(米国ニューハンプシャー州レバノン((Lebanon, New Hampshire))、およびイダニット・テクノロジーズ・リミテッド(Idanit Technologies, Limited)(イスラエル・リション・レ・ツィオン(Rishon Le Zion, Israel))から市販されている。ピエゾインクジェット印刷は、広範囲の物理的および化学的特性をもつ様々な流体を受け入れることができる柔軟性を有する、固体フルオロポリマー溶液を塗布する有用な一方法である。
【0033】
インクジェット印刷用の技法および配合のガイドラインは、よく知られており(例えば、「カーク・オスマー化学大辞典、(Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology)」、第5版(1996年)、20巻、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley and Sons)、ニューヨーク(New York)、112〜117頁を参照のこと)、当業者の能力の範囲内にある。例えば、インクジェット印刷できる組成物は、通常はジェット温度(jetting temperature)で35ミリパスカル秒以下の粘度となるように配合される。
【0034】
本発明の実施に使用するインクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液は、ニュートン型でも、非ニュートン型(すなわち、実質的なせん断減粘性挙動を示す流体)でもよい。インクジェット印刷の場合、固体フルオロポリマー溶液を、ジェット温度でせん断減粘性をほとんどまたはまったく示さないように配合してもよい。
【0035】
本発明の実施に使用するインクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液を、表面の任意の部分に、例えば基材を固定プリントヘッドに対して移動させる、あるいはプリントヘッドを固定のまたは移動可能な基材に対して移動させることを含めて、様々な技法によって塗布することができる。
【0036】
使用するインクジェット印刷できるフルオロポリマー溶液は、通常は基材表面上にコーティングとして(ランダムパターンを使用することができるが)所定のパターンにドットの配列でインクジェット印刷され、湿潤能力、および印刷パス回数に応じて、融合する、分離したままである、またはその組合せとなる可能性がある。インクジェット印刷用フルオロポリマー溶液によって形成することができるパターンの例には、例えば多角形や楕円など幾何学的な輪郭を形成することができる線(例えば、直線、曲線、または折れ曲がった線)が含まれる。インクジェットプリンタの解像度に応じて、配列は、少なくとも一次元に少なくとも300ドット/インチ(すなわち、dpi)(120ドット/cm)、600dpi(240ドット/cm)、900dpi(350ドット/cm)、さらには1200dpi(470ドット/cm)以上の解像度を有することができる。インクジェット印刷用フルオロポリマー溶液で形成できるパターンの例には、塗りつぶしたまたは塗りつぶされていない2次元形状(例えば、多角形、楕円、円)、英数字、および線(例えば、直線、曲線、または折れ曲がった線)が含まれる。
【0037】
一実施形態では、溶媒の蒸発によって基材表面上に被着された非蒸発性成分(例えば、1種または複数の固体フルオロポリマー)を、元の溶媒と同じでも異なってもよい溶媒で再溶解することができる。このような場合、基材に被着された非蒸発性成分は、例えばエッチング、化学表面改質、別の材料の被着(例えば、電気メッキ、化学気相蒸着)などその後のプロセス中、基材表面上の一時的なマスクとして働くことができる。
【0038】
本発明は、以下の非限定的実施例を参照してより完全に理解されよう。ただし、特段の指示のない限り、部、百分率、比などはすべて重量に基づくものである。
【実施例】
【0039】
特段の記述のない限り、実施例で使用する試薬はすべて、アルドリッチ・ケミカル・カンパニー(Aldrich Chemical Company)(米国ウィスコンシン州ミルウォーキー(Milwaukee, Wisconsin)などの一般的な化学薬品供給業者から入手または入手可能なものであり。あるいは知られている方法で合成することもできる。
【0040】
下記の実施例では、インクジェット印刷を以下の通り行った。指示した溶液を指示した基材上に、ザール(Xaar, PLC)(英国ケンブリッジ(Cambridge, United Kingdom))から得られた商品名「XJ128−200」のピエゾインクジェット印刷ヘッドを使用してインクジェット印刷した。プリントヘッドを、定位置に搭載し、基材を、プリントヘッドとステージの間を一定間隔に維持しながらプリントヘッドに対して移動するx−y移動可能ステージ上に搭載した。印刷解像度は、公称液滴体積70ピコリットルで317×295ドット/インチ(125×116ドット/cm)であった。
【0041】
下記の実施例では、脱イオン水、およびASTプロダクト(AST Products)(米国マサチューセッツ州ビルリカ(Billerica, Massachusetts))から得られた商品名「VCA 2500XEビデオ接触角測定装置(VCA 2500XE VIDEO CONTACT ANGLE MEASURING SYSTEM)」の接触角測定装置を使用して、接触角を測定した。
【0042】
実施例1
ダイネオン(Dyneon,LLC)から得られた商品名「THV 220」のテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびフッ化ビニリデンのターポリマーの4重量パーセントメチルエチルケトン溶液を、ロッカーミルを使用して調製した。溶液は、ニュートン型挙動を示し、粘度が4.1ミリパスカル秒であった。ターポリマー溶液を、メタノール、次いで脱イオン水で連続的に洗浄しておいたホウケイ酸ガラス板の表面上に図1に示すようなパターンに従ってインクジェット印刷した(図1の黒い領域のみ印刷した)。印刷中、印刷されたターポリマー溶液は、ガラス板上で優れた流動性と湿潤性を示した。溶媒を放置して蒸発させて、それによってターポリマーフィルムをガラス板の表面の印刷された領域に被着させた。
【0043】
メチルエチルケトンが蒸発した後、得られたターポリマーフィルムは、文字が印刷されていないままである図2に示すように、内部で文字「STOP」(線幅0.25インチ(0.63cm))が印刷されていない八角形の画像(高さ4.5インチ(11.4cm)×幅4.5インチ(11.4cm))を形成した。ターポリマーフィルムで被覆されたガラス板表面部分は、水との後退接触角80度、および静的接触角102度を示した。それに比べて、ガラス板の表面の印刷されていない部分(文字「STOP」)は、水との静的接触角が38度であった。脱イオン水のフィルムをガラス板の印刷表面上に流し塗り(flood coat)した。水フィルムは、フルオロポリマーで被覆された部分から急速に後退し、印刷されていないガラス部分(すなわち、文字「STOP」)上に残存した。印刷されたターポリマーフィルムは、手で擦ることによって容易にガラス板から除去した。
【0044】
実施例2
接着性を改善するために、シラン処理したガラス板を、基材として使用した。ホウケイ酸ガラス板(6インチ(15cm)×12インチ(30cm))をメタノール、次いで脱イオン水で連続的に洗浄し、次いで板上に窒素ガスを吹き付けることによって乾燥した。次いで、洗浄した板を3−アミノプロピルトリエトキシシランの1重量パーセントメタノール溶液に1分間浸漬することによって処理した。処理した板を溶液から取り出し、印刷する前に空気で乾燥した。
【0045】
(この処理済のガラス板をガラス板の代わりに使用した点を除いて)実施例1の手順に従って、処理済みのガラス板を商品名「THV 220」のテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびフッ化ビニリデンのターポリマーの4重量パーセント溶液で印刷した。脱イオン水のフィルムを印刷されたガラス表面上に流し塗りした。水は、処理済のガラス板表面のターポリマーで被覆された部分から急速に後退し、印刷されていないガラス部分の「STOP」パターン上に残存した。しかし、実施例1で調製された試料とは対照的に、印刷されたフルオロポリマー層は、(ASTM D3359−02(2002年)、「テープ試験による接着力測定の標準試験方法(STANDARD TEST METHODS FOR MEASURING ADHESION BY TAPE TEST)」、方法B(Method B)に従って測定して)シラン処理したガラスに対して100パーセントの接着力を示した。
【0046】
細線の試験パターン(長さ5cm、線幅550マイクロメートル、行間隔550マイクロメートル)も、上記に記載するターポリマー溶液を使用して処理済のガラス板上に印刷した。顕微鏡で(30倍)拡大して、脱イオン水の液滴を、(水平に搭載された)処理済みのガラス板上に印刷した線の一端に配置した。この水滴は、処理済みのガラス板上の印刷したターポリマー線で規定された印刷されていない狭い経路に沿って自発的に前進した。
【0047】
本発明の範囲および精神から逸脱することなく、本発明の様々な予知できない修正および代替を当業者によって行うことができ、本発明は、本明細書に記載の例示的な実施形態に不当に限定するものではないことを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】実施例1および2で使用するフルオロポリマー溶液を印刷するために使用されるパターンである。
【図2】本発明に従って調製され、水で流し塗りした物品の一例のデジタル写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルオロポリマー溶液を基材表面上にインクジェット印刷するステップを含み、前記フルオロポリマー溶液が、蒸発性溶媒、および溶解された固体フルオロポリマーを含む非蒸発性成分を含み、前記溶解された固体フルオロポリマーが、フッ化ビニリデンを含む少なくとも1種のモノマーの反応生成物を含み、前記溶解された固体フルオロポリマーが、少なくとも10重量パーセントの非蒸発性成分を含む、基材表面の改質方法。
【請求項2】
前記溶解された固体フルオロポリマーが、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを含むモノマーの反応生成物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶解された固体フルオロポリマーが、フッ化ビニリデンおよびテトラフルオロエチレンを含むモノマーの反応生成物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記溶解された固体フルオロポリマーが、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、およびテトラフルオロエチレンを含むモノマーの反応生成物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記蒸発性溶媒が少なくとも1種の非フッ素化有機溶媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記蒸発性溶媒が20重量パーセント未満のフッ素化有機溶媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記蒸発性溶媒が10重量パーセント未満のフッ素化有機溶媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記蒸発性溶媒が5重量パーセント未満のフッ素化有機溶媒を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記蒸発性溶媒がフッ素化有機溶媒を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記溶解された固体フルオロポリマーが少なくとも30重量パーセントの非蒸発性成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記溶解された固体フルオロポリマーが少なくとも50重量パーセントの非蒸発性成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記溶解された固体フルオロポリマーが少なくとも70重量パーセントの非蒸発性成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記溶解された固体フルオロポリマーが少なくとも90重量パーセントの非蒸発性成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記非蒸発性成分が前記溶解された固体フルオロポリマーから本質的になる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記非蒸発性成分がさらに加硫剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記蒸発性液体成分の少なくとも一部分を除去するステップと、固体フルオロポリマーを含むフィルムを基材表面の一部分に被着させるステップとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記フィルムの少なくとも一部分を除去するステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記基材表面の少なくとも一部分を改質するステップをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
改質がエッチングおよびすすぎの少なくとも一方を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
インクジェット印刷がピエゾインクジェット印刷を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記基材が、ポリシリコン、セラミック、ガラス、生地、および有機ポリマーのうちの少なくとも1種を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
有機ポリマーが、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、アクリル、ポリエーテル、またはその組合せを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記フィルムおよび前記基材の少なくとも1方を加熱するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
カップリング剤を前記基材表面に塗布するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記カップリング剤がアミノアルキルシランを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記フィルムおよび前記基材の少なくとも一方を加熱するステップをさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
流体を前記基材表面に塗布するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記流体が水を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
表面を有する基材を含み、前記表面が、その上に少なくとも1種の固体フルオロポリマーを含むコーティングを有し、前記固体フルオロポリマーが、フッ化ビニリデンを含む少なくとも1種のモノマーの反応生成物を含み、前記コーティングが、ドットの配列を含み、前記配列が、少なくとも一次元に少なくとも300ドット/インチの解像度を有する物品。
【請求項30】
前記配列が少なくとも一次元に少なくとも600ドット/インチの解像度を有する、請求項29に記載の物品。
【請求項31】
前記配列が少なくとも一次元に少なくとも1200ドット/インチの解像度を有する、請求項29に記載の物品。
【請求項32】
前記固体フルオロポリマーフィルムが、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを含むモノマーの反応生成物を含む、請求項29に記載の物品。
【請求項33】
前記固体フルオロポリマーフィルムが、フッ化ビニリデンおよびテトラフルオロエチレンを含むモノマーの反応生成物を含む、請求項29に記載の物品。
【請求項34】
前記溶解された固体フルオロポリマーフィルムが、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、およびテトラフルオロエチレンを含むモノマーの反応生成物を含む、請求項29に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−511335(P2007−511335A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−532416(P2006−532416)
【出願日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/011627
【国際公開番号】WO2004/106441
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】