フルクトシルアミン結合蛋白質
【課題】フルクトシルアミンと結合する新規結合蛋白質を提供し、フルクトシルアミン結合蛋白質の構造遺伝子をクローニングし、さらにアミノ酸配列を明らかにすること、およびその情報に従い組換えDNA技術を用い該酵素の製造方法ならびにこれを用いる分析方法を提供すること。
【解決手段】以下の(a)または(b)のフルクトシルアミンと結合する蛋白質。(a)特定のアミノ酸配列からなる蛋白質(b)アミノ酸配列(a)において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつフルクトシルアミンと結合する能力を有する蛋白質
【解決手段】以下の(a)または(b)のフルクトシルアミンと結合する蛋白質。(a)特定のアミノ酸配列からなる蛋白質(b)アミノ酸配列(a)において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつフルクトシルアミンと結合する能力を有する蛋白質
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)に関する。さらに、本発明は、フルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子、該遺伝子断片を組み込んでなる組み換えベクター、該組み換えベクターで形質転換された形質転換体、該形質転換体を培養することによるFABPの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質主鎖および側鎖のアミノ基は、グルコースなどの還元糖の還元末端と非酵素的に結合して、アマドリ化合物すなわち糖化蛋白質を生ずる。また、血中においては、ヘモグロビンが糖化されて糖化ヘモグロビン(グリコヘモグロビン;以下、HbA1c)を生ずることが知られている。
【0003】
糖尿病患者は、健常人に比べてヘモグロビンに対するHbA1cの存在比率が高いこと、およびHbA1cの血中濃度は過去数週間の血糖値を反映することから、HbA1c血中濃度は、糖尿病の診断および糖尿病患者の血糖コントロールの指標として、臨床試験において極めて重要である。
【0004】
HbA1cは、ヘモグロビンβ鎖のN末端のバリンにグルコースが結合していることから、フルクトシルバリンをHbA1cの低分子モデル化合物として用いることができる。すなわち、フルクトシルバリンに対して特異性を有する酵素を用いて、HbA1cをアッセイすることが可能である。
【0005】
これまでに、種々の菌株からアマドリ化合物に対して作用する酵素が単離されており、これらの酵素を用いてグリコアルブミン、HbA1cおよびフルクトサミン等の糖化蛋白質を分析し得ることが示唆されている(特許文献1〜6及び非特許文献1〜8)。
【0006】
しかし、酵素ではなく、アミノ酸のアミノ基が糖化されたフルクトシルアミンと特異的に結合し、その結合により蛋白質のコンフォメーションが変化する結合蛋白質については、その遺伝子および遺伝子を元にした組み換え生産、さらに該蛋白質を用いた分析方法については報告がまったくなかった。
【0007】
ところで、基質との結合により蛋白質のコンフォメーションが変化する結合蛋白質は、同分子のトリプトファン残基やチロシン残基に基づく自家蛍光あるいはアミノ酸置換によって導入されたチオール基を使って、導入された蛍光色素の蛍光変化を指標として、基質結合にもとづく結合蛋白質のコンフォメーション変化が蛍光波長あるいは強度の変化となって観察される。
【0008】
したがって、これまでにグルコースやアミノ酸などに結合する結合蛋白質を蛍光標識することによって、グルコースあるいはアミノ酸の蛍光分析方法が提案されている(非特許文献9)。
【0009】
しかしながら、これまでにフルクトシルアミンに結合する蛋白質としては、Pseudomonas属から単離され、そのN末端配列がKDAVVAEPDAPAEYSGである分子量約45kDaの蛋白質が知られているにすぎないものである(非特許文献10)。
【0010】
上記の同蛋白質は、その属が同定されていないことから、これを生産し、かつ応用することができないという問題点があった。しかもフルクトシルアミンに結合する蛋白質の全配列、これをコードする遺伝子、組み換え生産、蛍光修飾、およびフルクトシルアミン結合蛋白質を用いた分析方法に関してはまったく報告がない。
【0011】
なお、本発明に関連する先行技術としては、以下のものがある。
【特許文献1】特開昭61−268178号公報
【特許文献2】特開昭61−280297号公報
【特許文献3】特開平 3−155780号公報
【特許文献4】特開平 5−192193号公報
【特許文献5】特開平 7−289253号公報
【特許文献6】特開平 8−154672号公報
【非特許文献1】Agric. Biol. Chem., 53(1), 103-110, 1989
【非特許文献2】Agric. Biol. Chem., 55(2), 333-338, 1991
【非特許文献3】J. Biol. Chem., 269(44), 27297-27302, 1994
【非特許文献4】Appl. Environ. Microbiol., 61(12), 4487-4489, 1995
【非特許文献5】Biosci. Biotech. Biochem., 59(3), 487-491, 1995
【非特許文献6】J. Biol. Chem., 270(1), 218-224, 1995
【非特許文献7】J. Biol. Chem., 271(51), 32803-32809, 1996
【非特許文献8】J. Biol. Chem., 272(6), 3437-3443, 1997)
【非特許文献9】Periplamic bindind proteins:a versatile superfamily for protein engineering; M.A.Dwyer and H.W.Hellinga, Current Opinigon in Structural Biology, vol.14, 495-504, 2004, Elsevier
【非特許文献10】Isolation, purification, and characterization of an amadori product binding protein from a Pseudomonas sp. soil strain, C.Gerhardinger, S/Taneda, M.S>Marion and V.M.Monnier, J.Biol.Chem., 269(44), 27297-27302(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のような状況に鑑み、本発明の課題は、フルクトシルアミンと結合する新規結合蛋白質、フルクトシルアミン結合蛋白質の構造遺伝子をクローニングし、さらにそのアミノ酸配列を明らかにすること、およびその情報に従い組換えDNA技術を用い該酵素の製造方法ならびにこれを用いる分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、フルクトシルアミン結合蛋白質(FABP )をコードする遺伝子を含むDNA断片を組み込んでなる組み換えベクターにより微生物を形質転換することによって得られた形質転換体を培養し、該培養物からフルクトシルアミン結合蛋白質(FABP) を採取することによってFABP を大量生産できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、以下の事項に関する。すなわち、
(1)以下の(a)または(b)のフルクトシルアミンと結合する蛋白質。
(a) 配列番号1に記載されたアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)アミノ酸配列(a)において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつフルクトシルアミンと結合する能力を有する蛋白質
(2)(1)の蛋白質をコードする遺伝子。
(3)以下の(c)または(d)の配列であり、フルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子。
(c)配列番号2に記載された塩基配列からなる遺伝子
(d)上記(c)の配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加されており、かつフルクトシルアミンと結合する能力を有する蛋白質をコードする遺伝子。
(4)配列番号1に記載されたアミノ酸配列において、以下の残基のいずれかがシステイン(Cys)に置換されたフルクトシルアミン結合能力を有する変異フルクトシルアミン結合蛋白質。
58番目Tyr, 96番目Phe, 97番目Ser, 161番目Gly, 166番目Ile, 203番目Gln, 256番目Trp, 263番目Trp
(5)(4)に記載の変異フルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子。
(6)(4)に記載の変異フルクトシルアミン結合蛋白質において、導入されたCys残基のチオール基を介して、環境応答性蛍光色素が結合したことを特徴とする蛍光ラベル化フルクトシルアミン結合蛋白質。
(7)(2)又は(3)に記載の遺伝子であって、Agrobacterium tumefaciensまたはAgrobacteriuma属由来であるフルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子。
(8)(1)、(4)もしくは(6)のいずれかに記載のフルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子を含有する組み換えベクター。
(9)(8)に記載の組み換えベクターで形質転換した形質転換体または形質導入体。
(10)(9)に記載の形質転換体を培養して、該培養物からフルクトシルアミン結合蛋白質を採取することを特徴とするフルクトシルアミン結合蛋白質の製造方法。
(11)(10)に記載の方法で製造されたフルクトシルアミン結合蛋白質。
(12)(11)に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むフルクトシルアミン化合物類の分光学的分析方法。
(13)(11)に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むフルクトシルアミン化合物類の蛍光分光学的分析方法。
(14)糖化ヘモグロビン(HbA1c)をアッセイする方法であって、試料中のHbA1cを分解してフルクトシルバリンを生成し、前記フルクトシルバリンを請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を用いて定量することを含む分光学的分析方法。
(15)(11)に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むフルクトシルバリンの分光学的分析用アッセイキット。
(16)(11)に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むHbA1cの分光学的分析用アッセイキット。
(17)(11)に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を用いることを特徴とする、フルクトシルバリンの蛍光分析方法。
(18)(11)に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を用いることを特徴とする、HbA1cの蛍光分析方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明よれば、フルクトシルアミンと特異的に結合する新規なフルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)を提供することができ、同時にその遺伝子をクローニングすることができる。また本発明によれば、上記フルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)を組み換えDNA技術により大量生産することができ、その組み換えフルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)を用いて、フルクトシルアミンを蛍光分光法により簡易かつ高感度に計測することができる。さらに、本発明によれば、フルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)にCys残基をアミノ酸置換により導入し、そこへ環境応答性蛍光色素を修飾することで、フルクトシルアミンの計測にきわめて好適に使用できる環境応答型蛍光色素標識フルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)を大量に生産することができ、また上記修飾分子を用いて、フルクトシルアミンの蛍光分析をさらに簡易かつ高感度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明のフルクトシルアミン結合蛋白質(以下、FABP)は、フルクトシルアミンと結合し、そのコンフォメーション変化に基づき、蛍光特性を変化させることができることを特徴とするものである。したがって、本発明の蛋白質、その構造遺伝子、アミノ酸配列は新規であり、その組み換えDNA技術を用いた蛋白質の製造方法は、新規な方法である。
【0018】
遺伝子の調製方法
本発明のFABPをコードする遺伝子を含むDNA断片は、FABP生産菌から得ることができる。該FABP生産菌としては具体的にはAgrobacterium tumefaciensが適している
【0019】
さらに本発明のFABPをコードする遺伝子を含む該FABP生産菌としては、Pseudomonas属等のグラム陰性細菌、Corynebacterium属, Arthorbacter属などのグラム陽性細菌を例示することができる。中でもAgrobacterium tumefaciens.由来のFABPをコードする遺伝子が好ましい。
【0020】
該FABPをコードする遺伝子はこれらの菌株から抽出してもよく、また化学的に合成することもできる。さらにPCR法の利用によりFABP遺伝子を含むDNA断片を得ることができる。
【0021】
上記FABPをコードする遺伝子としては、例えば(a)配列番号1に記載されたアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする遺伝子、または(b)アミノ酸配列(a)において1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFABP活性を有するタンパク質であるFABPをコードする遺伝子が挙げられる。なお、本発明においては、アミノ酸をアルファベット1文字で表記することとした。
【0022】
さらに、(c)配列番号2に記載された塩基配列からなるDNA、または(d)上記(c)の配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加されており、かつFABP活性を有するタンパク質をコードしているDNAがある。
【0023】
本発明において、FABPをコードする遺伝子を得る方法としては、次のような方法が挙げられる。例えば染色体を分離、精製した後、超音波処理、制限酵素処理等を用いてDNAを切断したものと、リニアーな発現ベクターと両DNAを平滑末端または付着末端においてDNAリガーゼなどにより結合閉鎖させて組換えベクターを構築する。該組換えベクターを複製可能な宿主微生物に移入した後、ベクターのマーカーと酵素活性の発現を指標としてスクリーニングして、FABPをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを保持する微生物を得る。
【0024】
次いで、上記組換えベクターを保持する微生物を培養して、該培養微生物の菌体から該組換えベクターを分離、精製し、該発現ベクターからFABPをコードする遺伝子を採取することができる。例えば、遺伝子供与体である染色体DNAは、具体的に以下のようにして採取される。
【0025】
まず、該遺伝子供与微生物を例えば1日から3日間攪拌培養して得られた培養液を遠心分離により集菌し、次いで、これを溶菌させることによりFABP遺伝子の含有溶菌物を調製することができる。溶菌の方法としては、例えばリゾチーム等の溶菌酵素により処理が施され、必要に応じてプロテアーゼや他の酵素やラウリル硫酸ナトリウム(SDS)等の界面活性剤が併用される。さらに、凍結融解やフレンチプレス処理のような物理的破砕方法と組み合わせてもよい。
【0026】
上記のようにして得られた溶菌物からDNAを分離精製するには、常法に従って、例えばフェノール処理やプロテアーゼ処理による除蛋白処理や、リボヌクレアーゼ処理、アルコール沈殿処理などの方法を適宜組み合わせることにより行うことができる。
【0027】
微生物から分離、精製されたDNAを切断する方法は、特に制限されるものではないが、例えば超音波処理、制限酵素処理などにより行うことができる。好ましくは特定のヌクレオチド配列に作用する2型制限酵素が適している。
【0028】
クローニングする際のベクターとしては、宿主微生物内で自律的に増殖し得るファージまたはプラスミドから遺伝子組換え用として構築されたものが適している。上記ファージとしては、例えばEscherichia coliを宿主微生物とする場合にはLambda gt10、Lambda gt11などが例示される。
【0029】
また、上記プラスミドとしては、例えば、Escherichia coliを宿主微生物とする場合には、pBR322、pUC18, pUC118, pUC19, pUC119, pTrc99A, pBluescript, pET28, pET30あるいはコスミドであるSuperCosI などが例示される。
【0030】
クローニングの際、上記のようなベクターを、上述したFABPをコードする遺伝子供与体である微生物DNAの切断に使用した制限酵素で切断してベクター断片を得ることができるが、必ずしも該微生物DNAの切断に使用した制限酵素と同一の制限酵素を用いる必要はない。
【0031】
微生物DNA断片とベクターDNA断片とを結合させる方法は、公知のDNAリガーゼを用いる方法であればよく、例えば微生物DNA断片の付着末端とベクター断片の付着末端とのアニーリングの後、適当なDNAリガーゼの使用により微生物DNA断片とベクターDNA断片との組換えベクターを作成する。必要に応じて、アニーリングの後、宿主微生物に移入して生体内のDNAリガーゼを利用し組換えベクターを作製することもできる。
【0032】
クローニングに使用する宿主微生物としては、組換えベクターが安定であり、かつ自律増殖可能で外来性遺伝子の形質発現できるのであれば特に制限されない。一般的には、Escherichia coli DH5 α, XL-1BlueMR , Escherichia coliBL21などを用いることができる
【0033】
宿主微生物に組換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主微生物がEscherichia coliの場合には、カルシウム処理によるコンピテントセル法やエレクトロポーレーション法などを用いることができる。
【0034】
上記のように得られた形質転換体である微生物は、栄養培地で培養されることにより、多量のFABPを安定に生産し得る。宿主微生物への目的組換えベクターの移入の有無についての選択は、目的とするDNAを保持するベクターの薬剤耐性マーカーとFABP活性を同時に発現する微生物を検索すればよい。例えば、薬剤耐性マーカーに基づく選択培地で生育し、かつFABPを生成する微生物を選択すればよい。
【0035】
また別の観点においては、単離精製されたFABPのアミノ酸配列を決定し、その情報をもとに該菌株から調製したcDNAおよびゲノムDNAからFABP構造遺伝子をクローニングすることもできる。
【0036】
組換え生産用ベクターの構築
上記のようにして、一度選択されたFABP遺伝子を保有する組換えベクターより、微生物にて複製できる組換えベクターへの移入は、FABP遺伝子を保持する組換えベクターから制限酵素やPCR法によりFABP遺伝子であるDNAを回収し、他のベクター断片と結合させることにより容易に実施できる。
【0037】
また、これらのベクターによる微生物の形質転換は、カルシウム処理によるコンピテントセル法やエレクトロポーレーション法などを用いることができる。
【0038】
また、大腸菌を用いてFABPの組み換え生産を行うことができる。例えば、得られたFABPの構造遺伝子配列情報からN末端、C末端に相補的なプライマーをデザインすることもできる。
【0039】
変異型FABPの構築
本発明のフルクトシルアミン結合蛋白質は、そのアミノ酸配列中にCys残基を含まない。したがって、任意の位置をCysに置換することにより、Cys残基に存在するチオール基を用いて、部位特異的にチオール標識能力のある蛍光色素でラベルすることもできる。
【0040】
例えば、フルクトシルアミン結合蛋白質の58番目Tyr,96番目Phe,97番目Ser,161番目Gly,166番目Ile,203番目Gln,256番目Trp,263番目Trpの各残基をCysに置換した、変異型FABPを構築することもできる。
【0041】
変異FABPは、定法に構築することができ、変異箇所に対応する合成オリゴヌクレオチドを用いて単離されているFABP構造遺伝子、あるいはpGEにクローニングされた該構造遺伝子、あるいはpETベクターなどの発現ベクターに挿入された該構造遺伝子に対して部位特異的に変異を導入することができる。
【0042】
変異型FABPの蛍光修飾と蛍光特性
このように構築された変異FABPのうち、Trp256CysおよびGly161Cysの二種の変異FABPを精製し、FQおよびFV結合に基づく自家蛍光の変化を測定した。
これらの変異FABPは、野生型FABPと同様の方法で精製できる。
【0043】
本発明においては、これらの変異FABPを用いて、該蛋白質の自家蛍光を指標としてもFAの計測が行うことができる。さらに、これらの変異FABPを、環境応答性蛍光色素を用いて蛍光ラベルすることもできる。このように、変異FABPを環境応答型の蛍光色素でラベルすることにより、フルクトシルアミンの結合によるFABPのコンフォメーション変化をラベルした蛍光色素の蛍光強度変化により明瞭に観察することができる。
【0044】
また、蛍光色素の蛍光強度を計測することができるので、蛍光分光法により蛍光修飾された変異FABPを用いることでフルクトシルアミンの新規な分析方法が開発できる。
【0045】
本発明の変異FABP修飾する蛍光色素としては、環境応答型の蛍光色素であれば特に制限されるものではないが、たとえば6−アクリロイル2ジメチルアミノナフタレン(アクリロダン)、バダン:6−ブロモアセチル−2―ジメチルアミノナフタール、N−(1−ピレン)マレイミド、N−(1−ピレン)ヨードアセタミド、PMIAアミド:(N−(1−ピレンメチル)ヨードアセタミド、パナシルブロミド、 TFPAM-SS1 、
PyMPOマレイミド、ダンシルアジリデン、ダポキシル(登録商標)、 IAANS :2-(4'-(ヨードアセトアミド)アニリノ)ナフタレン−6− サルフォニック酸ナトリウム塩などがあげられる。
【0046】
変異FABPの蛍光ラベルは、例えば、以下のようにして行うことができる。所定濃度の緩衝溶液に精製した変異FABPを所定濃度の緩衝溶液に溶解させ、さらに蛍光色素を混合、遮光下で所定時間反応させた後、ろ過、遠心分離を行い未反応の蛍光色素を除去し、蛍光修飾FABPを得る。
【0047】
さらに、本発明のフルクトシルアミン結合蛋白質、変異型FABP、蛍光修飾されたFABPは、糖化ヘモグロビン(HbA1c)、フルクトシルバリンの計測用キットの他、センサーの構成物として利用も可能である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明につき、実施例を用いて説明するが、本発明は、なんらこれに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
<フルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)のクローニング>
A.tumefaciens EHA株をYEP完全培地で培養後、GenomicPrep Cell and Tissue DNA Isolation kit (Amercham)を用いてA.tumefaciens EHA株のゲノム及びメガプラスミド(pTi,pAt)抽出を行った。これに対してA.tumefaciensのオパインの一種であるサントパインの資化に関与する酵素・蛋白質群をコードするオペロン、socオペロンに含まれる結合タンパクをコードすると予想されているsocA遺伝子のクローニングを行った。
【0050】
すなわち、下記に示すPCRプライマー1及び2(配列番号3、4)を用いて、A.tumefaciens DNAをテンプレートとしPCRによって目的遺伝子の増幅を行い、精製後、TAクローニングを行った。反応条件を以下の通りに設定して、PCR増幅を行った。
【0051】
94℃ 1分、60℃ 30秒、72℃ 30秒(以上を1サイクル)、
98℃ 30秒、60℃ 30秒、72℃ 7分、72℃ 8分(以上を25サイクル)。
【0052】
プライマーの配列
配列番号3(プライマー1)
Forward 5'- CGAAACCAATGCGATTTACCGAAGC- 3'
配列番号4(プライマー2)
Reverse 5'- GCATCACTGCTTGGGAAGATATGCCGCC- 3'
【0053】
Taqポリメラ‐ゼは、TaKaRa LA TaqTMを用いた。このようにして得られたPCR産物をGENE CLEAN2Kit付属のマニュアルに従いグラスミルク精製後、pGEM-T Vector System付属のマニュアルに従いサブクローニングし、カラーセレクションにより、インサートを有するベクターを保持する形質転換体を得た。得られた形質転換体をLB培地で培養(37℃、1.8ml、試験管)し、集菌、プラスミド抽出を行った。得られたプラスミドをM13プライマーフォワード、M13プライマーリバース(タカラバイオ(株))を用い、インサートの塩基配列解析を行った。サンプルの調整方法、解析法などはABIプリズム310ジェネティックアナライザー(パーキンエルマーアプライドバイオシステム社製)付属のマニュアルにしたがった。
【0054】
配列解析の結果、pGEMへのSocA配列の挿入(pGEM-socA)が確認された。また配列中にアミノ酸変化を伴う変異はなかった。
【0055】
(実施例2)
<組換え生産用ベクターの構築>
【0056】
FABPのC末端にHis Tagを付加した発現用ベクターpET-FABPの構築を行った。TAクローニングし得られたpGEM-socAに対して、以下のPCRプライマー3及び4(配列番号5、6)を用いて増幅したのち、NdeI及びXhoIで消化した。その後、同酵素消化したpET30(c)とLigationを行い大腸菌BL21(DE3)の形質転換を行った。
【0057】
プライマーの配列
配列番号5(プライマー3)
Forward 5'-CGAAACATATGCGATTTACCGAAGC- 3' (NdeI)
配列番号6(プライマー4)
Reverse 5'- TAGACTC GAGTGACTGCTTGGGAAGATATGC- 3'
(XhoI stop/Ser)
【0058】
図3に、上記の通り作製されたpESAを示す。作製されたpESAを大腸菌に形質転換することにより、組み換えFABPの生産を行うことができることが明らかとなった。
【0059】
(実施例3)
<組み換え大腸菌によるFABPの生産・精製>
実施例2のpESAにより生産されるFABPは、そのC末端にHis Tagが付加する。このpESAをBL21(DE3)に形質転換した。得られたコロニーをLB+Km(50μg/l)培地に植菌後、OD660=0.6でIPTG(f.c. 0.5 mM)を添加し30度で6時間培養を行った。
【0060】
集菌・洗浄後、20% sucrose/30 mM Tris−HCl buffer (pH8.0)に懸濁・攪拌・遠心分離後、得られたペレットに5 mM MgCl2を加え攪拌後、遠心分離を行い、ペリプラズム画分を調整し、10 mM imidazol を含む300 mM NaCl / 50 mM Na-phosphate buffer (pH8.0)(buffer A)にて一晩透析し、Ni-NTA agarose (QIAGEN) 5 mlを充填したOpen columnを用いて組換えFABPの精製を行った(平衡化buffer: A + 10 mM imidazol, 洗浄buffer:A + 20 mM imidazol, 溶出buffer: A + 250 mM imidazol)。
【0061】
図4にこのようにして調製したFABP試料のSDSPAGEによる分析結果を記す。(A)には発現レベルを調べた結果を記す。発現レベルは全細胞画分、ペリプラスム画分、水溶性画分について比較している。また、目的蛋白質を発現していないネガティブコントロールとして挿入断片を有しない発現ベクターだけpET-30c (insert: -)、およびIPTGによる誘導を行っていないもの(IPTG: -).を用いている。(B)には精製段階での解析を示している。FTはNi-NTA agaroseに結合しなかった溶出画分、Wは洗浄画分、Eは目的蛋白質が回収された画分を記す。
【0062】
図4に示されるSDS-PAGEによりPeriplasm画分に28kDa付近にバンドが得られたことから、FABPは、Periplasm画分に発現していることが明瞭に理解される。
【0063】
分子量から予測されたN末31残基が、シグナル配列として切断されていると考えられる。またゲルろ過クロマトグラフィーにより、その分子量は約28kDaであり、本発明の蛋白質が単量体として存在することが明らかとなった。またNi-NTAカラムにより精製FABPが得られた。FABPの発現レベルは約18mg/L培地であった。
【0064】
(実施例4)
<FABPのフルクトシルアミン結合能力の検討>
実施例3で得られた精製FABP用いて、蛍光分光光度計による自家蛍光特性検討を行った。15 μM FABPにフルクトシルグルタミン、FQあるいはフルクトシルバリン、FV,あるいはεフルクトシルリジン、FK,を加え25℃で2.5分間インキュベート後、蛍光波長及びFABP配列中に有するトリプトファン残基の自家蛍光に由来する最大蛍光強度の変化を測定した(λex=295 nm)。
【0065】
図5に示される蛍光スペクトル変化からも明らかなように、FQおよびFV濃度依存的に蛍光強度の増加が見られた。最大蛍光強度の得られる波長のシフトは確認できなかった。これに対してグルコース、フルクトースなどの糖類、グルタミンなどのアミノ酸の添加による蛍光強度の増加は見られなかったことから、本発明の蛋白質は、フルクトシルアミンに特異的であると考えられる。
【0066】
さらにFKに対しても蛍光強度の増加が見られなかったことから、フルクトシルアミンにおいてもα位が糖化されたフルクトシルアミンに特異的であることが示された。
【0067】
(実施例5)
<フルクトシルアミン類の蛍光分析>
実施例3で得られた精製FABP用いて、蛍光分光光度計によるフルクトシルアミンの蛍光測定を行った。FABPを含む溶液にFVあるいはFQを加え25℃で2.5分間インキュベート後、335nmにおける最大蛍光強度の変化を測定した(λex=295 nm)。
【0068】
図6及び図7に示される蛍光強度変化のFV及びFQの濃度依存性からも明らかなように、FVおよびFQの濃度とともに蛍光強度の増加が観測され、蛍光強度を指標としてFVおよびFQが蛍光分光法により計測できることがわかった。
【0069】
(実施例6)
<変異型FABPの構築>
フルクトシルアミン結合蛋白質の58番目Tyr,96番目Phe,97番目Ser,161番目Gly,166番目Ile,203番目Gln,256番目Trp,263番目Trpの各残基をCysに置換した変異型FABPを構築した。
【0070】
変異型FABPは定法に従い、FABP構造遺伝子に対して部位特異的に変異を導入する。本実施例では、pETに挿入されたFABPを対象としてクイックチェンジ(登録商標)を用いて作成した。
【0071】
すなわち、pESAを対象として、以下の表1に示す変異導入用のオリゴヌクレオチドプライマー5〜20(表中上から順に、配列番号7〜22)を用いて58番目Tyr,96番目Phe,97番目Ser,161番目Gly,166番目Ile,203番目Gln,256番目Trp,263番目TrpをそれぞれCysに相当するコドンに置換した。
【0072】
【表1】
【0073】
その結果、表1に示した、全ての変異FABPをコードする遺伝子が構築できた。
【0074】
(実施例7)
変異型FABPの蛍光修飾と蛍光特性
実施例6で、構築された変異FABPのうち、Trp256CysおよびGly161Cysの二種の変異FABPを精製し、FQおよびFV結合に基づく自家蛍光の変化を測定した。
【0075】
これらの変異FABPを実施例3と同様の方法に精製した。Trp256CysおよびGly161Cysの二種の変異FABPはいずれもFQおよびFVの濃度の増加とともに、Trpに由来する自家蛍光の増加を確認することができた(図8および図9;Trp256Cysの自家蛍光のFVおよびFQ濃度依存性)。
【0076】
つまり、本発明の変異FABPを用いることによって、該蛋白質の自家蛍光を指標として、FAの計測を行うことができる。
【0077】
次にTrp256CysおよびGly161Cysの二種の変異FABPを、環境応答性蛍光色素を用いて蛍光ラベルした。蛍光ラベルは、以下のようにして行った。環境応答性蛍光色素として、6−アクリロイル2ジメチルアミノナフタレン(アクリロダン)を用い、10mM リン酸緩衝液(pH7.0 )中の精製変異FABP(終濃度20μM)にアクリロダン(終濃度300μM)を混合し、遮光下、室温で3時間反応させた。反応液を限外ろ過チューブに移し、5000gで30分間遠心分離を行い、未反応のアクリロダンを取り除いた後、得られた蛍光修飾FABPを10mMMOPS緩衝液(pH7.0)で置換した。
【0078】
(実施例8)
<蛍光修飾FABPを用いるフルクトシルアミンセンシング>
環境応答性蛍光色素であるアクリロダンは、単独の場合は、励起波長390nmで蛍光波長520nmを示す。アクリロダンが蛋白質と結合した場合は、その蛍光波長がシフトする。
【0079】
図10にアクリロダンでラベルされたFABPの蛍光スペクトルを示す。このように、477nmに特徴的な蛍光波長ピークを示した。また、この蛍光波長ピークはFQの存在とともに、強度が高くなった。したがって、蛍光標識FABPを用いてFQをはじめとするフルクトシルアミン化合物の計測を行うことができる。
【0080】
図11に蛍光標識FABPを用いたFQの蛍光分析結果を示した。この蛍光強度の変化量からFQの濃度が高まるとともに、蛍光修飾FABPの蛍光強度が増加したことから、蛍光強度を指標としてフルクトシルアミンの定量が可能であった。
【0081】
(実施例9)
<変異型FABPの蛍光修飾と蛍光特性>
実施例6で、構築された変異FABPのうち、Ile166Cysの変異FABPを精製し、FV結合に基づく自家蛍光の変化を測定した。この変異FABPを実施例3と同様の方法に精製した。図12にIle166Cys自家蛍光のFV濃度依存性を示した。Ile166Cys変異FABPはFVの濃度の増加とともに、Trpに由来する自家蛍光の増加を確認することができた。
【0082】
つまり、本発明の変異FABPを用いることによって、該蛋白質の自家蛍光を指標として、FAの計測を行うことができる。
【0083】
次に、Ile166Cys環境応答性蛍光色素を用いて蛍光ラベルした。蛍光ラベルは、以下のようにして行った。環境応答性蛍光色素として、6−アクリロイル2ジメチルアミノナフタレン(アクリロダン)を用い、10mM リン酸緩衝液(pH7.0 )中の精製変異FABP(終濃度20μM)にアクリロダン(終濃度300μM)を混合し、遮光下、室温で3時間反応させた。反応液を限外ろ過チューブに移し、5000gで30分間遠心分離を行い、未反応のアクリロダンを取り除いた後、得られた蛍光修飾FABPを10mMMOPS緩衝液(pH7.0)で置換した。あるいは蛍光色素として2-(4'-maleimidylanilino)naphthalene-6-sulfonic acid, sodium salt (MIANS)を用いて修飾した。精製したIle166Cys変異FABP(終濃度20μM)を10倍のモル濃度のMIANS (終濃度 200 μM)と混合し、25℃、3時間攪拌しながらインキュベーションした。得られたサンプルをゲルろ過オープンカラム(Molecular probes)を用いて未反応の蛍光色素の除去及びbuffer交換(10 mM MOPS (pH7.0))を行い、未反応のMIANSをとりのぞき、MIANSで標識したFABPを調製した。
【0084】
(実施例10)
<蛍光修飾FABPを用いるフルクトシルバリンセンシング>
環境応答性蛍光色素であるアクリロダンは、単独の場合は、励起波長390nmで蛍光波長520nmを示す。アクリロダンが蛋白質と結合した場合は、その蛍光波長がシフトする。
図13にアクリロダン蛍光標識Ile166Cys変異FABPを用いたFVの蛍光分析結果を示した。図13によれば、この蛍光強度の変化量からFVの濃度が高まるとともに、蛍光修飾FABPの蛍光強度が増加したことから、蛍光強度を指標としてフルクトシルバリンの定量が可能であることが理解できる。このときの計測可能な最低濃度は17nMであった(図13中の拡大図参照)。また、同様にεフルクトシルリジン(FK)を対象としても測定を行った。しかし、FKの濃度を上げても蛍光強度の増加は観察されなかった。このことから、本発明の測定はFVをはじめとするαフルクトシルアミノン酸に特異的であり、HbA1cの計測に適していることが明らかとなった。
【0085】
環境応答性蛍光色素MIANSは蛋白質に結合すると励起波長327nmにおいて420nm付近に蛍光スペクトル極大を示す。上記のようにして調製したMIANS蛍光標識Ile166Cys変異FABPは図14に示すように425nmに蛍光極大を示した。そこで励起波長327 nmのときのMIANS蛍光標識Ile166Cys変異FABPの蛍光強度変化のFV濃度依存性を検討した。図15に示すように、FV濃度の増加とともにMIANS蛍光標識Ile166Cys変異FABPの425nmにおける蛍光強度が増加し、蛍光強度のFV濃度依存性が示された。
【0086】
図16にMIANS蛍光標識Ile166Cys変異FABPを用いたFVの蛍光分析結果を示した。この蛍光強度の変化量からFVの濃度が高まるとともに、蛍光修飾FABPの蛍光強度が増加したことから、蛍光強度を指標としてフルクトシルバリンの定量が可能であった
【0087】
(実施例11)
<蛍光修飾FABPを用いるHbA1cの計測>
本実施例に用いたHbA1cの計測をアクリロダンで修飾したIle166Cys変異FABPを用いて行った。血液より調製したHbA0及びHbA1c画分をそれぞれ80 mg/mlに調製し蛋白質分解酵素であるサーモライシンおよびカルボキシペプチダーゼYを用いて加水分解した。この試料(100 mg/ml Hb)を、100倍希釈後、任意の比率になるように混合した。混合試料(終濃度 0.1 mg/ml)をアクリロダンで修飾したIle166Cys変異FABP溶液(終濃度 1.8 μM, 10 mM MOPS(pH7.2)中)に加え2分間25℃でインキュベート後、蛍光強度の測定を行った。
【0088】
計測の結果を図17に示す。アクリロダンで修飾したIle166Cys変異FABP に緩衝液を添加した時の蛍光強度をHbA1c 0%試料を添加したときの蛍光強度さはほとんど見られなかったことから、HbA1c 0%試料を添加したときの蛍光強度を100 %とした混合溶液中のHbA1c プロテアーゼ消化試料の割合が増加するにしたがって蛍光強度変化の増大が見られた。本方法によって健常人と糖尿病患者の閾値であるHbA1c7%近辺においても正確に計測することができ、本方法がHbA1cの計測に応用できることが示された。アクリロダンで修飾したIle166Cys変異FABP蛍光強度変化率のFVに対する検量線を用いて、混合溶液中に含まれる糖化物の量を算出し酵素法で得られた値と比較してもすぐれた相関が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の新規なフルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)及びこれを用いたフルクトシルアミンの蛍光分光学的分析方法は、糖尿病の診断や臨床検体の分析等の臨床試験に大きく貢献することができるものであり、医療分野の技術革新に寄与することができる。すなわち本発明は、糖尿病に代表される生活習慣病等の医療技術の進歩に寄与することができる革新的な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】フルクトシルアミン結合蛋白質のアミノ酸配列を示した配列番号1を示す。
【図2】フルクトシルアミン結合蛋白質の遺伝子配列を示した配列番号2を示す。
【図3】発現ベクターpESAを示す。
【図4】組換えFABPの電気泳動写真を示す。
【図5】組換えFABPの自家蛍光特性を示す。
【図6】組み換えFABPの自家蛍光に基づくフルクトシルグルタミンFQの蛍光測定を示す。
【図7】組み換えFABPの自家蛍光に基づくフルクトシルバリンFVの蛍光測定を示す。
【図8】組み換え変異FABP(Trp354Cys)の自家蛍光に基づくフルクトシルグルタミンFQの蛍光測定を示す。
【図9】組み換え変異FABP(Trp354Cys)の自家蛍光に基づくフルクトシルバリンFVの蛍光測定を示す。
【図10】蛍光修飾組み換え変異FABP(Trp354Cys)の蛍光スペクトルを示す。
【図11】蛍光修飾組み換え変異FABP(Trp354Cys)の蛍光に基づくフルクトシルグルタミンFQの蛍光測定を示す。
【図12】Ile166Cys変異FABPの自家蛍光に基づくフルクトシルバリンFVの蛍光測定を示す。
【図13】アクリロダン蛍光標識Ile166Cys変異FABPを用いたFVの蛍光測定の結果を示す。
【図14】MIANS蛍光標識Ile166Cys変異FABPの蛍光スペクトルを示す。
【図15】MIANS蛍光標識Ile166Cys変異FABPの蛍光スペクトルの強度のフルクトシルバリンFVの濃度依存性を示す。
【図16】MIANS蛍光標識Ile166Cys変異FABPを用いるフルクトシルバリンFVの蛍光測定を示す。
【図17】アクリロダン蛍光標識Ile166Cys変異FABPを用いたHbA1cの蛍光測定の結果を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)に関する。さらに、本発明は、フルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子、該遺伝子断片を組み込んでなる組み換えベクター、該組み換えベクターで形質転換された形質転換体、該形質転換体を培養することによるFABPの製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質主鎖および側鎖のアミノ基は、グルコースなどの還元糖の還元末端と非酵素的に結合して、アマドリ化合物すなわち糖化蛋白質を生ずる。また、血中においては、ヘモグロビンが糖化されて糖化ヘモグロビン(グリコヘモグロビン;以下、HbA1c)を生ずることが知られている。
【0003】
糖尿病患者は、健常人に比べてヘモグロビンに対するHbA1cの存在比率が高いこと、およびHbA1cの血中濃度は過去数週間の血糖値を反映することから、HbA1c血中濃度は、糖尿病の診断および糖尿病患者の血糖コントロールの指標として、臨床試験において極めて重要である。
【0004】
HbA1cは、ヘモグロビンβ鎖のN末端のバリンにグルコースが結合していることから、フルクトシルバリンをHbA1cの低分子モデル化合物として用いることができる。すなわち、フルクトシルバリンに対して特異性を有する酵素を用いて、HbA1cをアッセイすることが可能である。
【0005】
これまでに、種々の菌株からアマドリ化合物に対して作用する酵素が単離されており、これらの酵素を用いてグリコアルブミン、HbA1cおよびフルクトサミン等の糖化蛋白質を分析し得ることが示唆されている(特許文献1〜6及び非特許文献1〜8)。
【0006】
しかし、酵素ではなく、アミノ酸のアミノ基が糖化されたフルクトシルアミンと特異的に結合し、その結合により蛋白質のコンフォメーションが変化する結合蛋白質については、その遺伝子および遺伝子を元にした組み換え生産、さらに該蛋白質を用いた分析方法については報告がまったくなかった。
【0007】
ところで、基質との結合により蛋白質のコンフォメーションが変化する結合蛋白質は、同分子のトリプトファン残基やチロシン残基に基づく自家蛍光あるいはアミノ酸置換によって導入されたチオール基を使って、導入された蛍光色素の蛍光変化を指標として、基質結合にもとづく結合蛋白質のコンフォメーション変化が蛍光波長あるいは強度の変化となって観察される。
【0008】
したがって、これまでにグルコースやアミノ酸などに結合する結合蛋白質を蛍光標識することによって、グルコースあるいはアミノ酸の蛍光分析方法が提案されている(非特許文献9)。
【0009】
しかしながら、これまでにフルクトシルアミンに結合する蛋白質としては、Pseudomonas属から単離され、そのN末端配列がKDAVVAEPDAPAEYSGである分子量約45kDaの蛋白質が知られているにすぎないものである(非特許文献10)。
【0010】
上記の同蛋白質は、その属が同定されていないことから、これを生産し、かつ応用することができないという問題点があった。しかもフルクトシルアミンに結合する蛋白質の全配列、これをコードする遺伝子、組み換え生産、蛍光修飾、およびフルクトシルアミン結合蛋白質を用いた分析方法に関してはまったく報告がない。
【0011】
なお、本発明に関連する先行技術としては、以下のものがある。
【特許文献1】特開昭61−268178号公報
【特許文献2】特開昭61−280297号公報
【特許文献3】特開平 3−155780号公報
【特許文献4】特開平 5−192193号公報
【特許文献5】特開平 7−289253号公報
【特許文献6】特開平 8−154672号公報
【非特許文献1】Agric. Biol. Chem., 53(1), 103-110, 1989
【非特許文献2】Agric. Biol. Chem., 55(2), 333-338, 1991
【非特許文献3】J. Biol. Chem., 269(44), 27297-27302, 1994
【非特許文献4】Appl. Environ. Microbiol., 61(12), 4487-4489, 1995
【非特許文献5】Biosci. Biotech. Biochem., 59(3), 487-491, 1995
【非特許文献6】J. Biol. Chem., 270(1), 218-224, 1995
【非特許文献7】J. Biol. Chem., 271(51), 32803-32809, 1996
【非特許文献8】J. Biol. Chem., 272(6), 3437-3443, 1997)
【非特許文献9】Periplamic bindind proteins:a versatile superfamily for protein engineering; M.A.Dwyer and H.W.Hellinga, Current Opinigon in Structural Biology, vol.14, 495-504, 2004, Elsevier
【非特許文献10】Isolation, purification, and characterization of an amadori product binding protein from a Pseudomonas sp. soil strain, C.Gerhardinger, S/Taneda, M.S>Marion and V.M.Monnier, J.Biol.Chem., 269(44), 27297-27302(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のような状況に鑑み、本発明の課題は、フルクトシルアミンと結合する新規結合蛋白質、フルクトシルアミン結合蛋白質の構造遺伝子をクローニングし、さらにそのアミノ酸配列を明らかにすること、およびその情報に従い組換えDNA技術を用い該酵素の製造方法ならびにこれを用いる分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、フルクトシルアミン結合蛋白質(FABP )をコードする遺伝子を含むDNA断片を組み込んでなる組み換えベクターにより微生物を形質転換することによって得られた形質転換体を培養し、該培養物からフルクトシルアミン結合蛋白質(FABP) を採取することによってFABP を大量生産できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、以下の事項に関する。すなわち、
(1)以下の(a)または(b)のフルクトシルアミンと結合する蛋白質。
(a) 配列番号1に記載されたアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)アミノ酸配列(a)において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつフルクトシルアミンと結合する能力を有する蛋白質
(2)(1)の蛋白質をコードする遺伝子。
(3)以下の(c)または(d)の配列であり、フルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子。
(c)配列番号2に記載された塩基配列からなる遺伝子
(d)上記(c)の配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加されており、かつフルクトシルアミンと結合する能力を有する蛋白質をコードする遺伝子。
(4)配列番号1に記載されたアミノ酸配列において、以下の残基のいずれかがシステイン(Cys)に置換されたフルクトシルアミン結合能力を有する変異フルクトシルアミン結合蛋白質。
58番目Tyr, 96番目Phe, 97番目Ser, 161番目Gly, 166番目Ile, 203番目Gln, 256番目Trp, 263番目Trp
(5)(4)に記載の変異フルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子。
(6)(4)に記載の変異フルクトシルアミン結合蛋白質において、導入されたCys残基のチオール基を介して、環境応答性蛍光色素が結合したことを特徴とする蛍光ラベル化フルクトシルアミン結合蛋白質。
(7)(2)又は(3)に記載の遺伝子であって、Agrobacterium tumefaciensまたはAgrobacteriuma属由来であるフルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子。
(8)(1)、(4)もしくは(6)のいずれかに記載のフルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子を含有する組み換えベクター。
(9)(8)に記載の組み換えベクターで形質転換した形質転換体または形質導入体。
(10)(9)に記載の形質転換体を培養して、該培養物からフルクトシルアミン結合蛋白質を採取することを特徴とするフルクトシルアミン結合蛋白質の製造方法。
(11)(10)に記載の方法で製造されたフルクトシルアミン結合蛋白質。
(12)(11)に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むフルクトシルアミン化合物類の分光学的分析方法。
(13)(11)に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むフルクトシルアミン化合物類の蛍光分光学的分析方法。
(14)糖化ヘモグロビン(HbA1c)をアッセイする方法であって、試料中のHbA1cを分解してフルクトシルバリンを生成し、前記フルクトシルバリンを請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を用いて定量することを含む分光学的分析方法。
(15)(11)に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むフルクトシルバリンの分光学的分析用アッセイキット。
(16)(11)に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むHbA1cの分光学的分析用アッセイキット。
(17)(11)に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を用いることを特徴とする、フルクトシルバリンの蛍光分析方法。
(18)(11)に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を用いることを特徴とする、HbA1cの蛍光分析方法に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明よれば、フルクトシルアミンと特異的に結合する新規なフルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)を提供することができ、同時にその遺伝子をクローニングすることができる。また本発明によれば、上記フルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)を組み換えDNA技術により大量生産することができ、その組み換えフルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)を用いて、フルクトシルアミンを蛍光分光法により簡易かつ高感度に計測することができる。さらに、本発明によれば、フルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)にCys残基をアミノ酸置換により導入し、そこへ環境応答性蛍光色素を修飾することで、フルクトシルアミンの計測にきわめて好適に使用できる環境応答型蛍光色素標識フルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)を大量に生産することができ、また上記修飾分子を用いて、フルクトシルアミンの蛍光分析をさらに簡易かつ高感度に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明のフルクトシルアミン結合蛋白質(以下、FABP)は、フルクトシルアミンと結合し、そのコンフォメーション変化に基づき、蛍光特性を変化させることができることを特徴とするものである。したがって、本発明の蛋白質、その構造遺伝子、アミノ酸配列は新規であり、その組み換えDNA技術を用いた蛋白質の製造方法は、新規な方法である。
【0018】
遺伝子の調製方法
本発明のFABPをコードする遺伝子を含むDNA断片は、FABP生産菌から得ることができる。該FABP生産菌としては具体的にはAgrobacterium tumefaciensが適している
【0019】
さらに本発明のFABPをコードする遺伝子を含む該FABP生産菌としては、Pseudomonas属等のグラム陰性細菌、Corynebacterium属, Arthorbacter属などのグラム陽性細菌を例示することができる。中でもAgrobacterium tumefaciens.由来のFABPをコードする遺伝子が好ましい。
【0020】
該FABPをコードする遺伝子はこれらの菌株から抽出してもよく、また化学的に合成することもできる。さらにPCR法の利用によりFABP遺伝子を含むDNA断片を得ることができる。
【0021】
上記FABPをコードする遺伝子としては、例えば(a)配列番号1に記載されたアミノ酸配列からなる蛋白質をコードする遺伝子、または(b)アミノ酸配列(a)において1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFABP活性を有するタンパク質であるFABPをコードする遺伝子が挙げられる。なお、本発明においては、アミノ酸をアルファベット1文字で表記することとした。
【0022】
さらに、(c)配列番号2に記載された塩基配列からなるDNA、または(d)上記(c)の配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加されており、かつFABP活性を有するタンパク質をコードしているDNAがある。
【0023】
本発明において、FABPをコードする遺伝子を得る方法としては、次のような方法が挙げられる。例えば染色体を分離、精製した後、超音波処理、制限酵素処理等を用いてDNAを切断したものと、リニアーな発現ベクターと両DNAを平滑末端または付着末端においてDNAリガーゼなどにより結合閉鎖させて組換えベクターを構築する。該組換えベクターを複製可能な宿主微生物に移入した後、ベクターのマーカーと酵素活性の発現を指標としてスクリーニングして、FABPをコードする遺伝子を含有する組換えベクターを保持する微生物を得る。
【0024】
次いで、上記組換えベクターを保持する微生物を培養して、該培養微生物の菌体から該組換えベクターを分離、精製し、該発現ベクターからFABPをコードする遺伝子を採取することができる。例えば、遺伝子供与体である染色体DNAは、具体的に以下のようにして採取される。
【0025】
まず、該遺伝子供与微生物を例えば1日から3日間攪拌培養して得られた培養液を遠心分離により集菌し、次いで、これを溶菌させることによりFABP遺伝子の含有溶菌物を調製することができる。溶菌の方法としては、例えばリゾチーム等の溶菌酵素により処理が施され、必要に応じてプロテアーゼや他の酵素やラウリル硫酸ナトリウム(SDS)等の界面活性剤が併用される。さらに、凍結融解やフレンチプレス処理のような物理的破砕方法と組み合わせてもよい。
【0026】
上記のようにして得られた溶菌物からDNAを分離精製するには、常法に従って、例えばフェノール処理やプロテアーゼ処理による除蛋白処理や、リボヌクレアーゼ処理、アルコール沈殿処理などの方法を適宜組み合わせることにより行うことができる。
【0027】
微生物から分離、精製されたDNAを切断する方法は、特に制限されるものではないが、例えば超音波処理、制限酵素処理などにより行うことができる。好ましくは特定のヌクレオチド配列に作用する2型制限酵素が適している。
【0028】
クローニングする際のベクターとしては、宿主微生物内で自律的に増殖し得るファージまたはプラスミドから遺伝子組換え用として構築されたものが適している。上記ファージとしては、例えばEscherichia coliを宿主微生物とする場合にはLambda gt10、Lambda gt11などが例示される。
【0029】
また、上記プラスミドとしては、例えば、Escherichia coliを宿主微生物とする場合には、pBR322、pUC18, pUC118, pUC19, pUC119, pTrc99A, pBluescript, pET28, pET30あるいはコスミドであるSuperCosI などが例示される。
【0030】
クローニングの際、上記のようなベクターを、上述したFABPをコードする遺伝子供与体である微生物DNAの切断に使用した制限酵素で切断してベクター断片を得ることができるが、必ずしも該微生物DNAの切断に使用した制限酵素と同一の制限酵素を用いる必要はない。
【0031】
微生物DNA断片とベクターDNA断片とを結合させる方法は、公知のDNAリガーゼを用いる方法であればよく、例えば微生物DNA断片の付着末端とベクター断片の付着末端とのアニーリングの後、適当なDNAリガーゼの使用により微生物DNA断片とベクターDNA断片との組換えベクターを作成する。必要に応じて、アニーリングの後、宿主微生物に移入して生体内のDNAリガーゼを利用し組換えベクターを作製することもできる。
【0032】
クローニングに使用する宿主微生物としては、組換えベクターが安定であり、かつ自律増殖可能で外来性遺伝子の形質発現できるのであれば特に制限されない。一般的には、Escherichia coli DH5 α, XL-1BlueMR , Escherichia coliBL21などを用いることができる
【0033】
宿主微生物に組換えベクターを移入する方法としては、例えば宿主微生物がEscherichia coliの場合には、カルシウム処理によるコンピテントセル法やエレクトロポーレーション法などを用いることができる。
【0034】
上記のように得られた形質転換体である微生物は、栄養培地で培養されることにより、多量のFABPを安定に生産し得る。宿主微生物への目的組換えベクターの移入の有無についての選択は、目的とするDNAを保持するベクターの薬剤耐性マーカーとFABP活性を同時に発現する微生物を検索すればよい。例えば、薬剤耐性マーカーに基づく選択培地で生育し、かつFABPを生成する微生物を選択すればよい。
【0035】
また別の観点においては、単離精製されたFABPのアミノ酸配列を決定し、その情報をもとに該菌株から調製したcDNAおよびゲノムDNAからFABP構造遺伝子をクローニングすることもできる。
【0036】
組換え生産用ベクターの構築
上記のようにして、一度選択されたFABP遺伝子を保有する組換えベクターより、微生物にて複製できる組換えベクターへの移入は、FABP遺伝子を保持する組換えベクターから制限酵素やPCR法によりFABP遺伝子であるDNAを回収し、他のベクター断片と結合させることにより容易に実施できる。
【0037】
また、これらのベクターによる微生物の形質転換は、カルシウム処理によるコンピテントセル法やエレクトロポーレーション法などを用いることができる。
【0038】
また、大腸菌を用いてFABPの組み換え生産を行うことができる。例えば、得られたFABPの構造遺伝子配列情報からN末端、C末端に相補的なプライマーをデザインすることもできる。
【0039】
変異型FABPの構築
本発明のフルクトシルアミン結合蛋白質は、そのアミノ酸配列中にCys残基を含まない。したがって、任意の位置をCysに置換することにより、Cys残基に存在するチオール基を用いて、部位特異的にチオール標識能力のある蛍光色素でラベルすることもできる。
【0040】
例えば、フルクトシルアミン結合蛋白質の58番目Tyr,96番目Phe,97番目Ser,161番目Gly,166番目Ile,203番目Gln,256番目Trp,263番目Trpの各残基をCysに置換した、変異型FABPを構築することもできる。
【0041】
変異FABPは、定法に構築することができ、変異箇所に対応する合成オリゴヌクレオチドを用いて単離されているFABP構造遺伝子、あるいはpGEにクローニングされた該構造遺伝子、あるいはpETベクターなどの発現ベクターに挿入された該構造遺伝子に対して部位特異的に変異を導入することができる。
【0042】
変異型FABPの蛍光修飾と蛍光特性
このように構築された変異FABPのうち、Trp256CysおよびGly161Cysの二種の変異FABPを精製し、FQおよびFV結合に基づく自家蛍光の変化を測定した。
これらの変異FABPは、野生型FABPと同様の方法で精製できる。
【0043】
本発明においては、これらの変異FABPを用いて、該蛋白質の自家蛍光を指標としてもFAの計測が行うことができる。さらに、これらの変異FABPを、環境応答性蛍光色素を用いて蛍光ラベルすることもできる。このように、変異FABPを環境応答型の蛍光色素でラベルすることにより、フルクトシルアミンの結合によるFABPのコンフォメーション変化をラベルした蛍光色素の蛍光強度変化により明瞭に観察することができる。
【0044】
また、蛍光色素の蛍光強度を計測することができるので、蛍光分光法により蛍光修飾された変異FABPを用いることでフルクトシルアミンの新規な分析方法が開発できる。
【0045】
本発明の変異FABP修飾する蛍光色素としては、環境応答型の蛍光色素であれば特に制限されるものではないが、たとえば6−アクリロイル2ジメチルアミノナフタレン(アクリロダン)、バダン:6−ブロモアセチル−2―ジメチルアミノナフタール、N−(1−ピレン)マレイミド、N−(1−ピレン)ヨードアセタミド、PMIAアミド:(N−(1−ピレンメチル)ヨードアセタミド、パナシルブロミド、 TFPAM-SS1 、
PyMPOマレイミド、ダンシルアジリデン、ダポキシル(登録商標)、 IAANS :2-(4'-(ヨードアセトアミド)アニリノ)ナフタレン−6− サルフォニック酸ナトリウム塩などがあげられる。
【0046】
変異FABPの蛍光ラベルは、例えば、以下のようにして行うことができる。所定濃度の緩衝溶液に精製した変異FABPを所定濃度の緩衝溶液に溶解させ、さらに蛍光色素を混合、遮光下で所定時間反応させた後、ろ過、遠心分離を行い未反応の蛍光色素を除去し、蛍光修飾FABPを得る。
【0047】
さらに、本発明のフルクトシルアミン結合蛋白質、変異型FABP、蛍光修飾されたFABPは、糖化ヘモグロビン(HbA1c)、フルクトシルバリンの計測用キットの他、センサーの構成物として利用も可能である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明につき、実施例を用いて説明するが、本発明は、なんらこれに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
<フルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)のクローニング>
A.tumefaciens EHA株をYEP完全培地で培養後、GenomicPrep Cell and Tissue DNA Isolation kit (Amercham)を用いてA.tumefaciens EHA株のゲノム及びメガプラスミド(pTi,pAt)抽出を行った。これに対してA.tumefaciensのオパインの一種であるサントパインの資化に関与する酵素・蛋白質群をコードするオペロン、socオペロンに含まれる結合タンパクをコードすると予想されているsocA遺伝子のクローニングを行った。
【0050】
すなわち、下記に示すPCRプライマー1及び2(配列番号3、4)を用いて、A.tumefaciens DNAをテンプレートとしPCRによって目的遺伝子の増幅を行い、精製後、TAクローニングを行った。反応条件を以下の通りに設定して、PCR増幅を行った。
【0051】
94℃ 1分、60℃ 30秒、72℃ 30秒(以上を1サイクル)、
98℃ 30秒、60℃ 30秒、72℃ 7分、72℃ 8分(以上を25サイクル)。
【0052】
プライマーの配列
配列番号3(プライマー1)
Forward 5'- CGAAACCAATGCGATTTACCGAAGC- 3'
配列番号4(プライマー2)
Reverse 5'- GCATCACTGCTTGGGAAGATATGCCGCC- 3'
【0053】
Taqポリメラ‐ゼは、TaKaRa LA TaqTMを用いた。このようにして得られたPCR産物をGENE CLEAN2Kit付属のマニュアルに従いグラスミルク精製後、pGEM-T Vector System付属のマニュアルに従いサブクローニングし、カラーセレクションにより、インサートを有するベクターを保持する形質転換体を得た。得られた形質転換体をLB培地で培養(37℃、1.8ml、試験管)し、集菌、プラスミド抽出を行った。得られたプラスミドをM13プライマーフォワード、M13プライマーリバース(タカラバイオ(株))を用い、インサートの塩基配列解析を行った。サンプルの調整方法、解析法などはABIプリズム310ジェネティックアナライザー(パーキンエルマーアプライドバイオシステム社製)付属のマニュアルにしたがった。
【0054】
配列解析の結果、pGEMへのSocA配列の挿入(pGEM-socA)が確認された。また配列中にアミノ酸変化を伴う変異はなかった。
【0055】
(実施例2)
<組換え生産用ベクターの構築>
【0056】
FABPのC末端にHis Tagを付加した発現用ベクターpET-FABPの構築を行った。TAクローニングし得られたpGEM-socAに対して、以下のPCRプライマー3及び4(配列番号5、6)を用いて増幅したのち、NdeI及びXhoIで消化した。その後、同酵素消化したpET30(c)とLigationを行い大腸菌BL21(DE3)の形質転換を行った。
【0057】
プライマーの配列
配列番号5(プライマー3)
Forward 5'-CGAAACATATGCGATTTACCGAAGC- 3' (NdeI)
配列番号6(プライマー4)
Reverse 5'- TAGACTC GAGTGACTGCTTGGGAAGATATGC- 3'
(XhoI stop/Ser)
【0058】
図3に、上記の通り作製されたpESAを示す。作製されたpESAを大腸菌に形質転換することにより、組み換えFABPの生産を行うことができることが明らかとなった。
【0059】
(実施例3)
<組み換え大腸菌によるFABPの生産・精製>
実施例2のpESAにより生産されるFABPは、そのC末端にHis Tagが付加する。このpESAをBL21(DE3)に形質転換した。得られたコロニーをLB+Km(50μg/l)培地に植菌後、OD660=0.6でIPTG(f.c. 0.5 mM)を添加し30度で6時間培養を行った。
【0060】
集菌・洗浄後、20% sucrose/30 mM Tris−HCl buffer (pH8.0)に懸濁・攪拌・遠心分離後、得られたペレットに5 mM MgCl2を加え攪拌後、遠心分離を行い、ペリプラズム画分を調整し、10 mM imidazol を含む300 mM NaCl / 50 mM Na-phosphate buffer (pH8.0)(buffer A)にて一晩透析し、Ni-NTA agarose (QIAGEN) 5 mlを充填したOpen columnを用いて組換えFABPの精製を行った(平衡化buffer: A + 10 mM imidazol, 洗浄buffer:A + 20 mM imidazol, 溶出buffer: A + 250 mM imidazol)。
【0061】
図4にこのようにして調製したFABP試料のSDSPAGEによる分析結果を記す。(A)には発現レベルを調べた結果を記す。発現レベルは全細胞画分、ペリプラスム画分、水溶性画分について比較している。また、目的蛋白質を発現していないネガティブコントロールとして挿入断片を有しない発現ベクターだけpET-30c (insert: -)、およびIPTGによる誘導を行っていないもの(IPTG: -).を用いている。(B)には精製段階での解析を示している。FTはNi-NTA agaroseに結合しなかった溶出画分、Wは洗浄画分、Eは目的蛋白質が回収された画分を記す。
【0062】
図4に示されるSDS-PAGEによりPeriplasm画分に28kDa付近にバンドが得られたことから、FABPは、Periplasm画分に発現していることが明瞭に理解される。
【0063】
分子量から予測されたN末31残基が、シグナル配列として切断されていると考えられる。またゲルろ過クロマトグラフィーにより、その分子量は約28kDaであり、本発明の蛋白質が単量体として存在することが明らかとなった。またNi-NTAカラムにより精製FABPが得られた。FABPの発現レベルは約18mg/L培地であった。
【0064】
(実施例4)
<FABPのフルクトシルアミン結合能力の検討>
実施例3で得られた精製FABP用いて、蛍光分光光度計による自家蛍光特性検討を行った。15 μM FABPにフルクトシルグルタミン、FQあるいはフルクトシルバリン、FV,あるいはεフルクトシルリジン、FK,を加え25℃で2.5分間インキュベート後、蛍光波長及びFABP配列中に有するトリプトファン残基の自家蛍光に由来する最大蛍光強度の変化を測定した(λex=295 nm)。
【0065】
図5に示される蛍光スペクトル変化からも明らかなように、FQおよびFV濃度依存的に蛍光強度の増加が見られた。最大蛍光強度の得られる波長のシフトは確認できなかった。これに対してグルコース、フルクトースなどの糖類、グルタミンなどのアミノ酸の添加による蛍光強度の増加は見られなかったことから、本発明の蛋白質は、フルクトシルアミンに特異的であると考えられる。
【0066】
さらにFKに対しても蛍光強度の増加が見られなかったことから、フルクトシルアミンにおいてもα位が糖化されたフルクトシルアミンに特異的であることが示された。
【0067】
(実施例5)
<フルクトシルアミン類の蛍光分析>
実施例3で得られた精製FABP用いて、蛍光分光光度計によるフルクトシルアミンの蛍光測定を行った。FABPを含む溶液にFVあるいはFQを加え25℃で2.5分間インキュベート後、335nmにおける最大蛍光強度の変化を測定した(λex=295 nm)。
【0068】
図6及び図7に示される蛍光強度変化のFV及びFQの濃度依存性からも明らかなように、FVおよびFQの濃度とともに蛍光強度の増加が観測され、蛍光強度を指標としてFVおよびFQが蛍光分光法により計測できることがわかった。
【0069】
(実施例6)
<変異型FABPの構築>
フルクトシルアミン結合蛋白質の58番目Tyr,96番目Phe,97番目Ser,161番目Gly,166番目Ile,203番目Gln,256番目Trp,263番目Trpの各残基をCysに置換した変異型FABPを構築した。
【0070】
変異型FABPは定法に従い、FABP構造遺伝子に対して部位特異的に変異を導入する。本実施例では、pETに挿入されたFABPを対象としてクイックチェンジ(登録商標)を用いて作成した。
【0071】
すなわち、pESAを対象として、以下の表1に示す変異導入用のオリゴヌクレオチドプライマー5〜20(表中上から順に、配列番号7〜22)を用いて58番目Tyr,96番目Phe,97番目Ser,161番目Gly,166番目Ile,203番目Gln,256番目Trp,263番目TrpをそれぞれCysに相当するコドンに置換した。
【0072】
【表1】
【0073】
その結果、表1に示した、全ての変異FABPをコードする遺伝子が構築できた。
【0074】
(実施例7)
変異型FABPの蛍光修飾と蛍光特性
実施例6で、構築された変異FABPのうち、Trp256CysおよびGly161Cysの二種の変異FABPを精製し、FQおよびFV結合に基づく自家蛍光の変化を測定した。
【0075】
これらの変異FABPを実施例3と同様の方法に精製した。Trp256CysおよびGly161Cysの二種の変異FABPはいずれもFQおよびFVの濃度の増加とともに、Trpに由来する自家蛍光の増加を確認することができた(図8および図9;Trp256Cysの自家蛍光のFVおよびFQ濃度依存性)。
【0076】
つまり、本発明の変異FABPを用いることによって、該蛋白質の自家蛍光を指標として、FAの計測を行うことができる。
【0077】
次にTrp256CysおよびGly161Cysの二種の変異FABPを、環境応答性蛍光色素を用いて蛍光ラベルした。蛍光ラベルは、以下のようにして行った。環境応答性蛍光色素として、6−アクリロイル2ジメチルアミノナフタレン(アクリロダン)を用い、10mM リン酸緩衝液(pH7.0 )中の精製変異FABP(終濃度20μM)にアクリロダン(終濃度300μM)を混合し、遮光下、室温で3時間反応させた。反応液を限外ろ過チューブに移し、5000gで30分間遠心分離を行い、未反応のアクリロダンを取り除いた後、得られた蛍光修飾FABPを10mMMOPS緩衝液(pH7.0)で置換した。
【0078】
(実施例8)
<蛍光修飾FABPを用いるフルクトシルアミンセンシング>
環境応答性蛍光色素であるアクリロダンは、単独の場合は、励起波長390nmで蛍光波長520nmを示す。アクリロダンが蛋白質と結合した場合は、その蛍光波長がシフトする。
【0079】
図10にアクリロダンでラベルされたFABPの蛍光スペクトルを示す。このように、477nmに特徴的な蛍光波長ピークを示した。また、この蛍光波長ピークはFQの存在とともに、強度が高くなった。したがって、蛍光標識FABPを用いてFQをはじめとするフルクトシルアミン化合物の計測を行うことができる。
【0080】
図11に蛍光標識FABPを用いたFQの蛍光分析結果を示した。この蛍光強度の変化量からFQの濃度が高まるとともに、蛍光修飾FABPの蛍光強度が増加したことから、蛍光強度を指標としてフルクトシルアミンの定量が可能であった。
【0081】
(実施例9)
<変異型FABPの蛍光修飾と蛍光特性>
実施例6で、構築された変異FABPのうち、Ile166Cysの変異FABPを精製し、FV結合に基づく自家蛍光の変化を測定した。この変異FABPを実施例3と同様の方法に精製した。図12にIle166Cys自家蛍光のFV濃度依存性を示した。Ile166Cys変異FABPはFVの濃度の増加とともに、Trpに由来する自家蛍光の増加を確認することができた。
【0082】
つまり、本発明の変異FABPを用いることによって、該蛋白質の自家蛍光を指標として、FAの計測を行うことができる。
【0083】
次に、Ile166Cys環境応答性蛍光色素を用いて蛍光ラベルした。蛍光ラベルは、以下のようにして行った。環境応答性蛍光色素として、6−アクリロイル2ジメチルアミノナフタレン(アクリロダン)を用い、10mM リン酸緩衝液(pH7.0 )中の精製変異FABP(終濃度20μM)にアクリロダン(終濃度300μM)を混合し、遮光下、室温で3時間反応させた。反応液を限外ろ過チューブに移し、5000gで30分間遠心分離を行い、未反応のアクリロダンを取り除いた後、得られた蛍光修飾FABPを10mMMOPS緩衝液(pH7.0)で置換した。あるいは蛍光色素として2-(4'-maleimidylanilino)naphthalene-6-sulfonic acid, sodium salt (MIANS)を用いて修飾した。精製したIle166Cys変異FABP(終濃度20μM)を10倍のモル濃度のMIANS (終濃度 200 μM)と混合し、25℃、3時間攪拌しながらインキュベーションした。得られたサンプルをゲルろ過オープンカラム(Molecular probes)を用いて未反応の蛍光色素の除去及びbuffer交換(10 mM MOPS (pH7.0))を行い、未反応のMIANSをとりのぞき、MIANSで標識したFABPを調製した。
【0084】
(実施例10)
<蛍光修飾FABPを用いるフルクトシルバリンセンシング>
環境応答性蛍光色素であるアクリロダンは、単独の場合は、励起波長390nmで蛍光波長520nmを示す。アクリロダンが蛋白質と結合した場合は、その蛍光波長がシフトする。
図13にアクリロダン蛍光標識Ile166Cys変異FABPを用いたFVの蛍光分析結果を示した。図13によれば、この蛍光強度の変化量からFVの濃度が高まるとともに、蛍光修飾FABPの蛍光強度が増加したことから、蛍光強度を指標としてフルクトシルバリンの定量が可能であることが理解できる。このときの計測可能な最低濃度は17nMであった(図13中の拡大図参照)。また、同様にεフルクトシルリジン(FK)を対象としても測定を行った。しかし、FKの濃度を上げても蛍光強度の増加は観察されなかった。このことから、本発明の測定はFVをはじめとするαフルクトシルアミノン酸に特異的であり、HbA1cの計測に適していることが明らかとなった。
【0085】
環境応答性蛍光色素MIANSは蛋白質に結合すると励起波長327nmにおいて420nm付近に蛍光スペクトル極大を示す。上記のようにして調製したMIANS蛍光標識Ile166Cys変異FABPは図14に示すように425nmに蛍光極大を示した。そこで励起波長327 nmのときのMIANS蛍光標識Ile166Cys変異FABPの蛍光強度変化のFV濃度依存性を検討した。図15に示すように、FV濃度の増加とともにMIANS蛍光標識Ile166Cys変異FABPの425nmにおける蛍光強度が増加し、蛍光強度のFV濃度依存性が示された。
【0086】
図16にMIANS蛍光標識Ile166Cys変異FABPを用いたFVの蛍光分析結果を示した。この蛍光強度の変化量からFVの濃度が高まるとともに、蛍光修飾FABPの蛍光強度が増加したことから、蛍光強度を指標としてフルクトシルバリンの定量が可能であった
【0087】
(実施例11)
<蛍光修飾FABPを用いるHbA1cの計測>
本実施例に用いたHbA1cの計測をアクリロダンで修飾したIle166Cys変異FABPを用いて行った。血液より調製したHbA0及びHbA1c画分をそれぞれ80 mg/mlに調製し蛋白質分解酵素であるサーモライシンおよびカルボキシペプチダーゼYを用いて加水分解した。この試料(100 mg/ml Hb)を、100倍希釈後、任意の比率になるように混合した。混合試料(終濃度 0.1 mg/ml)をアクリロダンで修飾したIle166Cys変異FABP溶液(終濃度 1.8 μM, 10 mM MOPS(pH7.2)中)に加え2分間25℃でインキュベート後、蛍光強度の測定を行った。
【0088】
計測の結果を図17に示す。アクリロダンで修飾したIle166Cys変異FABP に緩衝液を添加した時の蛍光強度をHbA1c 0%試料を添加したときの蛍光強度さはほとんど見られなかったことから、HbA1c 0%試料を添加したときの蛍光強度を100 %とした混合溶液中のHbA1c プロテアーゼ消化試料の割合が増加するにしたがって蛍光強度変化の増大が見られた。本方法によって健常人と糖尿病患者の閾値であるHbA1c7%近辺においても正確に計測することができ、本方法がHbA1cの計測に応用できることが示された。アクリロダンで修飾したIle166Cys変異FABP蛍光強度変化率のFVに対する検量線を用いて、混合溶液中に含まれる糖化物の量を算出し酵素法で得られた値と比較してもすぐれた相関が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の新規なフルクトシルアミン結合蛋白質(FABP)及びこれを用いたフルクトシルアミンの蛍光分光学的分析方法は、糖尿病の診断や臨床検体の分析等の臨床試験に大きく貢献することができるものであり、医療分野の技術革新に寄与することができる。すなわち本発明は、糖尿病に代表される生活習慣病等の医療技術の進歩に寄与することができる革新的な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】フルクトシルアミン結合蛋白質のアミノ酸配列を示した配列番号1を示す。
【図2】フルクトシルアミン結合蛋白質の遺伝子配列を示した配列番号2を示す。
【図3】発現ベクターpESAを示す。
【図4】組換えFABPの電気泳動写真を示す。
【図5】組換えFABPの自家蛍光特性を示す。
【図6】組み換えFABPの自家蛍光に基づくフルクトシルグルタミンFQの蛍光測定を示す。
【図7】組み換えFABPの自家蛍光に基づくフルクトシルバリンFVの蛍光測定を示す。
【図8】組み換え変異FABP(Trp354Cys)の自家蛍光に基づくフルクトシルグルタミンFQの蛍光測定を示す。
【図9】組み換え変異FABP(Trp354Cys)の自家蛍光に基づくフルクトシルバリンFVの蛍光測定を示す。
【図10】蛍光修飾組み換え変異FABP(Trp354Cys)の蛍光スペクトルを示す。
【図11】蛍光修飾組み換え変異FABP(Trp354Cys)の蛍光に基づくフルクトシルグルタミンFQの蛍光測定を示す。
【図12】Ile166Cys変異FABPの自家蛍光に基づくフルクトシルバリンFVの蛍光測定を示す。
【図13】アクリロダン蛍光標識Ile166Cys変異FABPを用いたFVの蛍光測定の結果を示す。
【図14】MIANS蛍光標識Ile166Cys変異FABPの蛍光スペクトルを示す。
【図15】MIANS蛍光標識Ile166Cys変異FABPの蛍光スペクトルの強度のフルクトシルバリンFVの濃度依存性を示す。
【図16】MIANS蛍光標識Ile166Cys変異FABPを用いるフルクトシルバリンFVの蛍光測定を示す。
【図17】アクリロダン蛍光標識Ile166Cys変異FABPを用いたHbA1cの蛍光測定の結果を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)または(b)のフルクトシルアミンと結合する蛋白質。
(a) 配列番号1に記載されたアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)アミノ酸配列(a)において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつフルクトシルアミンと結合する能力を有する蛋白質
【請求項2】
請求項1記載の蛋白質をコードする遺伝子。
【請求項3】
以下の(c)または(d)の配列であり、フルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子。
(c)配列番号2に記載された塩基配列からなる遺伝子
(d)上記(c)の配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加されており、かつフルクトシルアミンと結合する能力を有する蛋白質をコードする遺伝子。
【請求項4】
配列番号1に記載されたアミノ酸配列において、以下の残基のいずれかがシステイン(Cys)に置換されたフルクトシルアミン結合能力を有する変異フルクトシルアミン結合蛋白質。
58番目Tyr, 96番目Phe, 97番目Ser, 161番目Gly, 166番目Ile, 203番目Gln, 256番目Trp, 263番目Trp
【請求項5】
請求項4に記載の変異フルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子。
【請求項6】
請求項4に記載の変異フルクトシルアミン結合蛋白質において、導入されたCys残基のチオール基を介して、環境応答性蛍光色素が結合したことを特徴とする蛍光ラベル化フルクトシルアミン結合蛋白質。
【請求項7】
請求項2又は請求項3に記載の遺伝子であって、Agrobacterium tumefaciensまたはAgrobacteriuma属由来であるフルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子。
【請求項8】
請求項1、請求項4もしくは請求項6のいずれかに記載のフルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子を含有する組み換えベクター。
【請求項9】
請求項8に記載の組み換えベクターで形質転換した形質転換体または形質導入体。
【請求項10】
請求項9記載の形質転換体を培養して、該培養物からフルクトシルアミン結合蛋白質を採取することを特徴とするフルクトシルアミン結合蛋白質の製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法で製造されたフルクトシルアミン結合蛋白質。
【請求項12】
請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むフルクトシルアミン化合物類の分光学的分析方法。
【請求項13】
請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むフルクトシルアミン化合物類の蛍光分光学的分析方法。
【請求項14】
糖化ヘモグロビン(HbA1c)をアッセイする方法であって、試料中のHbA1cを分解してフルクトシルバリンを生成し、前記フルクトシルバリンを請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を用いて定量することを含む分光学的分析方法。
【請求項15】
請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むフルクトシルバリンの分光学的分析用アッセイキット。
【請求項16】
請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むHbA1cの分光学的分析用アッセイキット。
【請求項17】
請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を用いることを特徴とする、フルクトシルバリンの蛍光分析方法。
【請求項18】
請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を用いることを特徴とする、HbA1cの蛍光分析方法。
【請求項1】
以下の(a)または(b)のフルクトシルアミンと結合する蛋白質。
(a) 配列番号1に記載されたアミノ酸配列からなる蛋白質
(b)アミノ酸配列(a)において、1もしくは数個のアミノ酸配列が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつフルクトシルアミンと結合する能力を有する蛋白質
【請求項2】
請求項1記載の蛋白質をコードする遺伝子。
【請求項3】
以下の(c)または(d)の配列であり、フルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子。
(c)配列番号2に記載された塩基配列からなる遺伝子
(d)上記(c)の配列において、1もしくは数個の塩基が欠失、置換もしくは付加されており、かつフルクトシルアミンと結合する能力を有する蛋白質をコードする遺伝子。
【請求項4】
配列番号1に記載されたアミノ酸配列において、以下の残基のいずれかがシステイン(Cys)に置換されたフルクトシルアミン結合能力を有する変異フルクトシルアミン結合蛋白質。
58番目Tyr, 96番目Phe, 97番目Ser, 161番目Gly, 166番目Ile, 203番目Gln, 256番目Trp, 263番目Trp
【請求項5】
請求項4に記載の変異フルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子。
【請求項6】
請求項4に記載の変異フルクトシルアミン結合蛋白質において、導入されたCys残基のチオール基を介して、環境応答性蛍光色素が結合したことを特徴とする蛍光ラベル化フルクトシルアミン結合蛋白質。
【請求項7】
請求項2又は請求項3に記載の遺伝子であって、Agrobacterium tumefaciensまたはAgrobacteriuma属由来であるフルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子。
【請求項8】
請求項1、請求項4もしくは請求項6のいずれかに記載のフルクトシルアミン結合蛋白質をコードする遺伝子を含有する組み換えベクター。
【請求項9】
請求項8に記載の組み換えベクターで形質転換した形質転換体または形質導入体。
【請求項10】
請求項9記載の形質転換体を培養して、該培養物からフルクトシルアミン結合蛋白質を採取することを特徴とするフルクトシルアミン結合蛋白質の製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法で製造されたフルクトシルアミン結合蛋白質。
【請求項12】
請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むフルクトシルアミン化合物類の分光学的分析方法。
【請求項13】
請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むフルクトシルアミン化合物類の蛍光分光学的分析方法。
【請求項14】
糖化ヘモグロビン(HbA1c)をアッセイする方法であって、試料中のHbA1cを分解してフルクトシルバリンを生成し、前記フルクトシルバリンを請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を用いて定量することを含む分光学的分析方法。
【請求項15】
請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むフルクトシルバリンの分光学的分析用アッセイキット。
【請求項16】
請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を含むHbA1cの分光学的分析用アッセイキット。
【請求項17】
請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を用いることを特徴とする、フルクトシルバリンの蛍光分析方法。
【請求項18】
請求項11に記載のフルクトシルアミン結合蛋白質を用いることを特徴とする、HbA1cの蛍光分析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2007−82540(P2007−82540A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225520(P2006−225520)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(503195850)有限会社アルティザイム・インターナショナル (31)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(503195850)有限会社アルティザイム・インターナショナル (31)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】
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