説明

フレキシブルパイプの腐食防止構造

【課題】大水深下においても補強層内の腐食性ガスを確実に新鮮な空気に置換することが可能であり、補強層内の補強条の腐食を防止することができ、且つカーボンを用いた高強度化が図れる。
【解決手段】フレキシブルパイプ1は、液密性を有する内管11と外部シース15との間に、複数の条部材が螺旋状に捩って構成される内側軸力補強条13と外側軸力補強条14が配置され、内管11と外部シース15との間の補強層T内の腐食性ガスをパイプ軸方向で末端側から基端側に向けて排出する腐食防止構造をなし、補強層Tには、外側軸力補強条14の条部材どうしの間に設けられる螺旋状の拡大隙間14bに配置されるとともに、パイプ軸方向に沿って連続して延びる複数の小径チューブ17が配設された構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内管と外部シースとの間の補強層内の腐食性ガスをパイプ軸方向で末端側から基端側に向けて排出するためのフレキシブルパイプの腐食防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
海底油田から石油や天然ガスを揚収する作業において、海上のプラットホーム等から海底のウェルヘッドまでの間に使用するライザー管として、フレキシブルパイプを使用している。そして、これまでは、水深数百m程度の海域での海底油田開発が進められてきたが、近年の海底油田開発の大水深化に伴い2000mを超える海域での油田開発に対応できるフレキシブルパイプが求められるようになっている。このようなフレキシブルパイプとしては、内側から順にインターロック管、内管、内圧補強条、軸力補強条、外部シースが配置されているのが一般的な構造となっている。
【0003】
また、近年、フレキシブルパイプの大水深対応に加えて、耐用年数を改善が求められている。揚収する油には二酸化炭素(CO)や硫化水素(HO)などの腐食性ガスを含んでおり、大水深の海域から揚収される原油もこれら腐食性ガスを含んでいる。
そして、フレキシブルパイプの最も内側のインターロック管は、カシメ構造で一定の座屈強度はあるものの液密性は無く、管内の油は液密性を有する内管により漏出を防止している。
ところが、内管は、樹脂材から成るため油に含まれた腐食性ガスを完全に遮断することができず、ある値の透過率をもって腐食性ガスを透過することは一般に知られている。内管を透過した腐食性ガスは、外部シースと内管の間の空間、すなわち補強層内に滞留する。この補強層内の腐食性ガスは、内圧補強条或いは軸力補強条の補強条相互に設けられる隙間を通じてパイプ端部側へ流れて大気に排出されることになるが、水深が深くなりフレキシブルパイプの延長が長くなると補強条相互に設けられる隙間を流れる抵抗が大きくなり、海底側に溜まった腐食性ガスの排出が困難となる。また、補強条の隙間には、フレキシブルパイプの組み立て時の潤滑油が残っていれば、腐食性ガスの流通の抵抗は一層大きくなり、海底側の補強層内の腐食環境がさらに厳しくなる。さらに、下端が海底に設置されるフレキシブルパイプでは、補強条相互に設けられる隙間がどこかで目詰まりを起こすと、パイプの海底側に滞留した腐食性ガスは、海底部に設けた排気機構から腐食性ガスを排出することになるが、排出機構は海上に比べて大きな圧力(例えば3000m水深下で30MPaの圧力)を受けており、この圧力を超えるだけのガス圧力にならないと海面側に流れないことから、海底側に腐食性ガスが溜まった状態となり蓄積されてしまう。
つまり、内圧補強条および軸力補強条は共に鋼材が用いられているので、これら補強条が腐食環境に曝されて劣化が進み、フレキシブルパイプの寿命が低下するという不具合が生じている。
【0004】
このような不具合に対応するための補強層内に流入する腐食性ガスを取り除く手段として、可撓性複合管の一端から内管と外部シースとの間の補強層にキャリアガスを供給し、補強層内のガスを他端から管外へ放出するガス除去方法が、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−83486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のフレキシブルパイプでは、以下のような問題があった。
すなわち、特許文献1では、例えば3000mもの大水深で適用する場合において、腐食性ガスが溜まり易い海底付近の補強層にキャリアガスを送り、海底側の排出機構から腐食性ガスを排出するためには30MPaを超える圧力で送る必要があるため、その圧力で外部シースが膨れて破裂するという不具合が想定される。
【0007】
一方で、水深2000mを超えるような大水深対応とするためには、内圧補強条、軸力補強条に用いる金属材料を高強度化する必要があるが、高強度化すると水素脆性破壊が発生しやすくなり、その結果フレキシブルパイプの寿命を低下してしまう。そのため、硫化水素(腐食性ガス)を減らす必要があるが、上述したように大水深において海底付近に溜まった補強層内の腐食性ガスを取り除く好適な方法がないという問題があった。
したがって、腐食性の問題と大水深化に伴う高強度化とをバランスよく達成することができない現状があり、その点で改良の余地があった。
【0008】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、大水深下においても補強層内の腐食性ガスを確実に新鮮な空気に置換することが可能であり、補強層内の補強条の腐食を防止することができ、且つ高強度化が図れるフレキシブルパイプの腐食防止構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るフレキシブルパイプの腐食防止構造では、液密性を有する内管と外部シースとの間に複数の条部材が螺旋状に捩って構成される補強条が配置された構成をなし、内管と外部シースとの間の補強層内の腐食性ガスをパイプ軸方向で末端側から基端側に向けて排出するためのフレキシブルパイプの腐食防止構造であって、補強層には、パイプ軸方向に沿って連続して延びる小径チューブが配設されていることを特徴としている。
【0010】
本発明では、小径チューブが配設されている範囲において補強層の末端側から基端側を繋ぐ空間を確保することができるので、小径チューブの基端部に真空ポンプ等の吸引手段を接続して真空吸引することで、補強層内に溜まった腐食性ガスを小径チューブの末端から基端側へ向けて移動させて強制的に排出することができる。一方で、真空吸引することにより補強層内の末端側で負圧となるので、補強層の基端側を大気中に開放しておくことで、補強条に設けられる隙間を通じて新鮮な空気が補強層内に流入することになる。そのため、腐食性ガスを新鮮な空気に置換した換気を行うことができる。したがって、補強層内の腐食性ガス濃度が低下して、鋼材からなる補強条が腐食性環境下に曝されなくなるので、補強条の腐食が抑えられ、耐久性を向上させることができる。
【0011】
そして、加圧ポンプによって基端側から新鮮な空気を補強層内に封入する方法でなく、小径チューブから吸い出す方法であるので、高い分圧の腐食性ガスを含む空気を直接吸い出すことが可能である。また、吸い出す方法のため、補強層内の圧力を高めることがなく、外部シースに圧力の負担を与えることがないので、フレキシブルパイプが破損するといった不具合を防止することができ、高圧化に伴った設計が不要になり、コストの低減を図ることが可能である。
さらに、小径チューブを設けることで、小径チューブの末端の位置、すなわち腐食性ガスの吸出し位置が特定されるので、その吸出し位置における補強層内に溜まったガス濃度を正確に把握することができる利点がある。
【0012】
また、本発明に係るフレキシブルパイプの腐食防止構造では、小径チューブは、補強条の条部材どうしの間に設けられる螺旋状の隙間に配置されていることが好ましい。
本発明では、補強条の条部材どうしの隙間に沿って小径チューブを組み込むことで、補強層の末端側から基端側を繋ぐ空間を確保することができる。
【0013】
また、本発明に係るフレキシブルパイプの腐食防止構造では、小径チューブは、補強条の周方向に所定間隔をもって複数本配置されていることが好ましい。
本発明では、補強層の換気の際、複数の小径チューブを使って同時に吸い出すことで、より腐食性ガスを含む補強層内の空気をより大量に吸引することができるので、換気時間を短縮することが可能となり、換気作業の効率化を図ることができる。
【0014】
また、本発明に係るフレキシブルパイプの腐食防止構造では、複数本の小径チューブのそれぞれの末端位置がパイプ軸方向で異なるようにしてもよい。
本発明では、各小径チューブの末端位置毎に腐食性ガスを排出することができるので、各小径チューブのそれぞれから排出される腐食性ガスのガス量を測定することで、フレキシブルパイプの軸方向で複数位置におけるガス濃度を正確に確認することができる。
【0015】
また、本発明に係るフレキシブルパイプの腐食防止構造では、補強層の基端側には、隙間に連通するとともに大気開放された吸込口が設けられていることが好ましい。
本発明では、補強層の基端側で大気開放された吸込口から補強層内により確実に新鮮な空気を流入させることができる。
さらに、小径チューブの1本乃至数本を吸込用として、基端側を大気開放してもよい。
この場合、補強条相互に設けられる隙間がどこかで目詰まりを起こしている場合にも確実に新鮮な空気を末端側に流入させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフレキシブルパイプの腐食防止構造によれば、内管を透過して補強層内に滞留する腐食性ガスを大気もしくは回収槽等に放出することで、大水深下においても補強層内の腐食性ガスを確実に新鮮な空気に置換することができ、補強層内の腐食性ガス濃度を低減することが可能となるので、補強層内の腐食性環境が良好となり、補強層内の補強条の腐食を防止することができる。
また、補強層内の腐食性ガスを確実に取り除くことが可能であり、水素脆性破壊の発生を効果的に防ぐことができるので、高強度の補強条の使用が可能となり、フレキシブルパイプを長距離、或いは大水深下での適用性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施の形態によるフレキシブルパイプの腐食防止構造を示す一部破断斜視図である。
【図2】フレキシブルパイプの腐食防止構造を別の角度から見た一部破断斜視図である。
【図3】フレキシブルパイプの断面図である。
【図4】図3に示すフレキシブルパイプの補強層の要部拡大図である。
【図5】小径チューブの配置状態を示す模式図である。
【図6】フレキシブルパイプの基端部の構成を示す側断面図である。
【図7】第2の実施の形態によるフレキシブルパイプの断面図であって、図3に対応する図である。
【図8】第3の実施の形態によるフレキシブルパイプの補強層の要部拡大図であって、図4に対応する図である。
【図9】図8に示すフレキシブルパイプの断面図であって、図3に対応する図である。
【図10】第4の実施の形態による小径チューブの配置状態を示す模式図であって、図5に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本第1の発明の実施の形態によるフレキシブルパイプの腐食防止構造について、図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に示すように、本第1の実施の形態によるフレキシブルパイプの腐食防止構造は、海上の回収船2と海底を繋いで石油や天然ガスを採取するために用いるフレキシブルパイプ1に適用されている。
ここで、フレキシブルパイプ1において、長さ方向で回収船2側を基端側とし、海底側を末端として以下説明する。
【0020】
図1乃至図3に示すように、フレキシブルパイプ1は、インターロック管10と、内管11と、C型条からなる内圧補強条12と、平型条からなる一対(内周側および外周側)の軸力補強条13、14と、海水の浸入を防止するための外部シース15とが半径方向で内側から外側に向かう順序で配置された多層構造をなしている。そして、内側軸力補強条13および外側軸力補強条の内周側及び外周側には、各軸力補強条13、14の摩耗を低減させるための樹脂シート16が設けられている。
【0021】
内管11および外部シース15はプラスチック製であり、内圧補強条12と軸力補強条13、14は金属製の鋼材から形成されている。内圧補強条12はパイプ内部の圧力に対して補強するものであり、内側軸力補強条13および外側軸力補強条14はパイプの軸力を補強するものである。
そして、内管11と外部シース15との間の内圧補強条12、内側軸力補強条13および外側軸力補強条14が配置される空間を補強層Tという。
【0022】
内側軸力補強条13は、複数条の条部材13A、13A、…が長手方向(軸方向)に沿って螺旋状に配置されており、円周方向に隣り合う条部材13A、13Aどうしの間には隙間13aが設けられている。
【0023】
外側軸力補強条14は、複数条の条部材14A、14A、…が長手方向(軸方向)に沿って内側軸力補強条13の螺旋方向とは逆方向の螺旋状に捩られて配置されており、円周方向に隣り合う条部材14A、14Aどうしの間には隙間14aが設けられるとともに、所定3箇所で条部材14A、14Aどうしの間が前記隙間14aよりも大きく広げた拡大隙間14b(本発明の隙間に相当する)が設けられている。その拡大隙間14bは、周方向に一定の間隔(すなわち、120度ピッチ)で3箇所設けられている。
【0024】
図3および図4に示すように、フレキシブルパイプ1の軸方向に連続する各拡大隙間14bには、フレキシブルパイプ1のほぼ全長にわたって例えばステンレス等の金属製の小径チューブ17が設けられている。そして、図5に示すように、3本の小径チューブ17A、17B、17Cは、基端部17aが開放端であり後述する回収槽4に接続し、末端17bがパイプ末端1b付近の所定位置P1に位置している。
【0025】
図6に示すように、小径チューブ17の上端部は、海上の回収船2(図1)に設けられ、真空ポンプ等の図示しない吸引手段に接続された回収槽4に接続されている。
具体的な構成として、フレキシブルパイプ1の上端部1aには、小径チューブ17の基端部17aを挿通可能で、且つ内圧補強条12、内側軸力補強条13および外側軸力補強条14のそれぞれに形成される隙間に空間3aを介して繋がる複数のエアパイプ5を備えた端部構造3が固定されている。エアパイプ5は、一端が大気開放された開口部5a(吸込口)を有し、他端5bが各補強条12、13、14の隙間に連通する空間3aに連結されて構成されている。
【0026】
次に、上述した構成のフレキシブルパイプ1を用いた換気方法とフレキシブルパイプ1の作用について図面に基づいて説明する。
図1乃至図6に示すように、本フレキシブルパイプ1では、外側軸力補強条14の条部材14A、14Aどうしの隙間(拡大隙間14b)に沿って小径チューブを組み込むことで、その小径チューブ17が配設されている範囲において補強層Tの末端側から基端側を繋ぐ空間を確保することができるので、小径チューブ17の基端部17aに回収槽4を接続して真空吸引することで、補強層T内に溜まった腐食性ガスGを小径チューブ17の末端から基端側へ向けて移動させて強制的に排出することができる。
【0027】
一方で、真空吸引することにより補強層T内の末端側で負圧となるので、補強層Tの基端側を大気中に開放しておくことで、内圧補強条12や軸力補強条13、14に設けられる隙間を通じて新鮮な空気Eが補強層T内に流入することになる。そのため、腐食性ガスGを新鮮な空気Eに置換した換気を行うことができる。したがって、補強層T内の腐食性ガス濃度が低下して、鋼材からなる内圧補強条12や軸力補強条13、14が腐食性環境下に曝されなくなるので、これら補強条12、13、14の腐食が抑えられ、耐久性を向上させることができる。
【0028】
そして、加圧ポンプによって基端側から新鮮な空気を補強層内に封入する方法でなく、小径チューブ17から吸い出す方法であるので、高い分圧の腐食性ガスGを含む空気を直接吸い出すことが可能である。また、末端側の腐食性ガスを多く含む空気を小径チューブ内を通して基端部に吸い上げるため、排出過程において中間及び上部の補強条と隔離して排出することが可能であり、排出中において腐食性ガスの滞留による補強条の損傷を回避できる。さらに、吸い出す方法のため、補強層T内の圧力を高めることがなく、外部シース15に圧力の負担を与えることがないので、フレキシブルパイプ1が破損するといった不具合を防止することができ、高圧化に伴った設計が不要になり、コストの低減を図ることが可能である。
さらに、小径チューブ17を設けることで、小径チューブ17の末端の位置、すなわち腐食性ガスGの吸出し位置が特定されるので、その吸出し位置P1(図5)における補強層T内に溜まったガス濃度を正確に把握することができる利点がある。
【0029】
また、小径チューブ17(17A、17B、17C)が外側軸力補強条14の周方向に所定間隔をもって複数本(3本)配置されているので、補強層Tの換気の際、これら複数の小径チューブ17A、17B、17Cを使って同時に吸い出すことで、より腐食性ガスを含む補強層T内の空気をより大量に吸引することができ、換気時間を短縮することが可能となり、換気作業の効率化を図ることができる。
【0030】
上述のように第1の実施の形態によるフレキシブルパイプの腐食防止構造では、内管11を透過して補強層T内に滞留する腐食性ガスGを回収槽4に放出することで、大水深下においても補強層T内の腐食性ガスGを確実に新鮮な空気Eに置換することができ、補強層T内の腐食性ガス濃度を低減することが可能となるので、補強層T内の腐食性環境が良好となり、補強層T内の内圧補強条12や軸力補強条13、14の腐食を防止することができる。
また、補強層T内の腐食性ガスGを確実に取り除くことが可能であり、水素脆性破壊の発生を効果的に防ぐことができるので、高強度の補強条の使用が可能となり、フレキシブルパイプを長距離、或いは大水深下での適用性を向上させることができる。
【実施例】
【0031】
次に、上述した実施の形態によるフレキシブルパイプの腐食防止構造の効果を裏付けるために行った実施例について以下説明する。
【0032】
本実施例では、フレキシブルパイプを水深3000mに適用した場合に、補強層内の隙間を換気するために必要な時間を算出し、腐食性ガスの排出の実現性と換気効果を確認した。
具体的には、(1)式に示す公知の圧力損失算定式であるダルシー・ワイスバッハの式を用い、以下の条件に基づいて補強層内の空気量を換気するために必要な時間を算出した。
なお、フレキシブルパイプは、上述した第1の実施の形態と同様で外側軸力補強条に小径チューブを周方向に一定間隔をもって3本配置させた場合と、1本および2本の場合について算出した。
h=f(L/d)(v/2g) ・・・(1)
【0033】
小径チューブは、内径dを3mmとし、長さLを軸力補強条の螺旋に沿って配置されるので3000m(損失水頭h)のフレキシブルパイプの長さの2倍として6000mとし、粗度fを0.015とした。真空ポンプの能力は、到達真空度で95%とした。そして、空気の物性は、密度が30℃、1atmで1.165kgf/mであり、粘性係数が25℃において0.0182×10−3Pa・sである。また、補強層の厚さを16mmとし、補強層内の空隙率を3%とし、内管外径を166.4mmとし、補強層内の空隙量を1.644m(全長=6000m)とし、30℃で1atmでの補強層内の空気量を1.644mとした。そして、小径チューブ内の平均流速vは、0.245m/s、重力加速度gは9.8m/sである。なお、海底端部の補強層内圧力は大気圧に等しいものとした。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示す上記算出の結果によると、換気時間は、小径チューブを1本とした場合には換気時間が264時間であり、2本の場合には132時間、3本の場合には88時間となった。つまり、小径チューブを3本配置しておくことで、3〜4日間連続して換気作業を行って、補強層内に溜まっている腐食性ガスをきれいな空気に置換することが可能であることが確認できる。また、補強条の補強性能を低下させない範囲で小径チューブの本数を増やせば、さらに換気作業時間の短縮することができる。
【0036】
次に、本発明のフレキシブルパイプの腐食防止構造による他の実施の形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1の実施の形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、実施の形態と異なる構成について説明する。
【0037】
図7に示すように、第2の実施の形態によるフレキシブルパイプ1Aの腐食防止構造は、上述した第1の実施の形態の外側軸力補強条14に加え、内側軸力補強条13にも小径チューブ17を設けている。すなわち、内側軸力補強条13は、所定3箇所で条部材13A、13Aどうしの間が隙間13aよりも大きく広げた拡大隙間13b(本発明の隙間に相当する)が設けられている。その拡大隙間13bは、周方向に一定の間隔(すなわち、120度ピッチ)で3箇所設けられ、各拡大隙間13bには、フレキシブルパイプ1のほぼ全長にわたって小径チューブ17が設けられている。そして、内側軸力補強条13の小径チューブ17は、外側軸力補強条14の小径チューブ17に対して周方向にずれた位置に配置されている。
また、樹脂シート16に通気性を持たせるため、多孔性シートを使用したり、隙間を開けて巻きつけることで補強条間の換気を効率的に行うことも可能である。
【0038】
次に、図8および図9に示すように、第3の実施の形態によるフレキシブルパイプ1Bの腐食防止構造は、外側軸力補強条14において、3本の小径チューブ17(17A、17B、17C)を周方向に隣接させて配置した構成となっている。この場合、外側軸力補強条14の条部材14A、14Aどうし間の隙間(拡大隙間14c)は、3本の小径チューブ17A、17B、17Cが配置可能な広さとなっている。
【0039】
次に、図10に示す第4の実施の形態によるフレキシブルパイプ1Cの腐食防止構造は、3本の小径チューブ17(17A、17B、17C)の末端17bの位置がパイプ軸方向(X方向)で異なる構成となっている。符号17Aの第1小径チューブの末端17bはパイプ末端1b付近の位置(第1位置P1)に設けられ、第2小径チューブ17Bの末端17bは第1位置P1より所定距離だけ基端側の所定位置(第2位置P2)に設けられ、第3小径チューブ17Cの末端17bは第2位置P2よりさらに所定距離だけ基端側の所定位置(第3位置P3)に設けられている。
本フレキシブルパイプ1Cでは、各小径チューブ17A、17B、17Cの末端17bの位置P1、P2、P3毎に、腐食性ガスを第1の実施の形態の回収槽4(図6参照)を使って排出することができるので、各小径チューブ17A、17B、17Cのそれぞれから排出される腐食性ガスのガス量を測定することで、フレキシブルパイプ1の軸方向Xで複数位置におけるガス濃度を正確に確認することができる。
【0040】
以上、本発明によるフレキシブルパイプの腐食防止構造の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、補強層Tに設けられる小径チューブ17の配置箇所は、上述した実施の形態に限定されることはない。例えば、内側軸力補強条13のみに小径チューブ17を配置させてもよく、また、C型条からなる内圧補強条12の隙間に沿って小径チューブ17を配置させる構造であってもかまわない。
【0041】
また、本実施の形態では海上に回収槽4を設け、小径チューブ17によって吸い出した腐食性ガスを回収槽4に放出しているが、これに限らず、小径チューブ17の基端部17aを大気開放し、回収槽4を用いずに大気に直接ガスを放出するようにしても良い。
【0042】
さらに、小径チューブ17の内径、材質、本数、配置間隔、末端部17bの位置などの構成は、補強条の種類、フレキシブルパイプの構成や長さ等の条件に応じて任意に設定することが可能である。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施の形態を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 フレキシブルパイプ
2 回収船
3 端部構造
4 回収槽
5 エアパイプ
5a 開口部(吸込部)
11 内管
12 内圧補強条
13 内側軸力補強条
13a 隙間
13b 拡大隙間
14 外側軸力補強条
14a 隙間
14b、14c 拡大隙間
15 外部シース
17、17A、17B、17C 小径チューブ
17a 基端部
17b 末端部
T 補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液密性を有する内管と外部シースとの間に複数の条部材が螺旋状に捩って構成される補強条が配置された構成をなし、前記内管と外部シースとの間の補強層内の腐食性ガスをパイプ軸方向で末端側から基端側に向けて排出するためのフレキシブルパイプの腐食防止構造であって、
前記補強層には、前記パイプ軸方向に沿って連続して延びる小径チューブが配設されていることを特徴とするフレキシブルパイプの腐食防止構造。
【請求項2】
前記小径チューブは、前記補強条の条部材どうしの間に設けられる螺旋状の隙間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルパイプの腐食防止構造。
【請求項3】
前記小径チューブは、前記補強条の周方向に所定間隔をもって複数本配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキシブルパイプの腐食防止構造。
【請求項4】
前記複数本の小径チューブのそれぞれの末端位置が前記パイプ軸方向で異なっていることを特徴とする請求項3に記載のフレキシブルパイプの腐食防止構造。
【請求項5】
前記補強層の基端側には、前記隙間に連通するとともに大気開放された吸込口が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のフレキシブルパイプの腐食防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−141004(P2011−141004A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2970(P2010−2970)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】