説明

フレキシブル回路およびその製造方法

基礎ポリマーにエッチングによって結合層部分が除去されるフレキシブル回路の製造方法が開示される。またこの方法によって製造されたフレキシブル回路も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、結合層を有するフレキシブル回路およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル回路は、典型的に、ポリエステル(PET)、ポリイミド(PI)または液晶ポリマー(LCP)のようなフレキシブルポリマーフィルム上の銅(Cu)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、銀(Ag)または金(Au)のような少なくとも1つの金属層からなる。追加的な接着剤層を使わずに金属がポリマーフィルムに取り付けられる場合、その構造は、しばしば「二層」または「接着」フレキシブル回路として分類される。一般的に、二層基材は約12〜75ミクロンの厚さのポリマーフィルムからなる。金属とポリマーフィルムとの間で接着を促進するため、金属/フィルム境界面で腐食を防止または最小化するため、そして金属とポリマーフィルムとの間で拡散バリアを提供するため、通常、薄い結合層が利用される。高性能な適用のために、第1の金属層は一般に銅であり、一方、フィルム層はポリイミドである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
結合層は約2nm〜約500nmの厚さ範囲であり、そして典型的にクロム(Cr)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、モリブデン(Mo)またはそれらの関連合金の真空スパッタリング、真空蒸発および化学メッキのような方法によって形成される。金属として銅を使用する高性能フレキシブル回路の適用において有用となるように、銅の存在下で結合層をエッチングすることが可能であり、銅トレースが電気的に単離され得る。しばしば、これは難解な必要条件である。高度に耐腐食性である結合層は、エッチングが困難である。耐腐食性結合層を攻撃し得る攻撃的なエッチング液は、銅も著しく攻撃し得る。加えて、多くの非腐食性結合層は容易に不動態化する傾向があり、そして銅より不活性である。その結果、銅は結合層のエッチングを抑制し得、そして、特に回路の微細ピッチ領域において、除去を困難にさせる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の一態様は、誘電基材をエッチングすることが可能な誘電エッチング液に透過性である第1の金属層を有する誘電基材を提供する工程と、第1の金属層の暴露部分下の誘電層の部分がエッチングされるように誘電エッチング液に第1の金属層の少なくとも一部を暴露する工程とを含み、誘電エッチング液が酸化剤と、(1)約20〜約100グラム/リットルの水酸化ナトリウムおよび(2)約60〜約100グラム/リットルの水酸化カリウムの少なくとも1つを含む塩基とを含む方法を提供する。
【0005】
本発明のもう1つの態様は、誘電基材をエッチングすることが可能な誘電エッチング液に透過性である第1の金属層を有する誘電基材を提供する工程と、第1の金属層の暴露部分下の誘電層の部分がエッチングされるように誘電エッチング液に第1の金属層の少なくとも一部を暴露する工程とを含み、誘電エッチング液が過マンガン酸ナトリウムと、少なくとも1つの塩基とを含む方法を提供する。
【0006】
本発明のもう1つの態様は、第1の金属層を有する誘電基材を提供する工程と、誘電基材をエッチングすることが可能な誘電エッチング液に透過性となるように第1の金属層の十分な薄化を引き起こすために十分な時間、第1の金属層をエッチングすることが可能な金属誘電エッチング液に第1の金属層を暴露する工程と、第1の金属層の暴露部分下の誘電基材がエッチングされるように誘電エッチング液に第1の金属層の少なくとも一部を暴露する工程とを含む方法を提供する。
【0007】
本発明のもう1つの態様は、処理表面を有する誘電基材と、誘電基材の処理表面の一部を暴露させるパターン化された第1の金属層と、パターン化された第1の金属層を被覆する第2の金属層とを含み、誘電基材の処理表面の暴露部分が除去されている物品を提供する。
【0008】
本発明の他の特徴および利点は、以下の図面、詳細な説明および実施形態から明白となるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
フレキシブル回路は、典型的に、金属スパッタリング、レジスト積層、レジスト暴露、レジスト現像、エッチングおよびメッキのような様々な手順を含む加法プロセスまたは減法プロセスを使用して製造される。かかる手順の配列は、製造される特定の回路に所望であるように変更されてもよい。
【0010】
結合層を使用する典型的な減法プロセスにおいて、誘電基材が最初に提供される。誘電基材は、例えば、ポリエステル、ポリイミド、液晶ポリマー、ポリ塩化ビニル、アクリレート、ポリカーボネートまたはポリオレフィンから製造されるポリマーフィルムであってよく、典型的に約10μm〜約600μmの厚さを有する。誘電基材は、例えば、ニッケル、クロム、ニッケル−クロム、コバルト、モリブデンの第1の金属層によってスパッタリングされて結合層が形成される。この後、典型的に第1の導電種層(例えば、銅、金またはそれらの合金)の付着が続き、次いで、これを既知の電気メッキまたは無電解メッキプロセスによって所望の厚さまで導電性金属によってさらにメッキ処理する。
【0011】
次に、この金属/誘電基材の導電性層上へフォトレジストを適用する。フォトレジストは、積層プロセスによって適用される乾燥フィルムレジスト、またはコーティングプロセスによって適用される液体フォトレジストであってよい。次いで、マスクまたはフォトツールを通してフォトレジストを紫外線光等に暴露し、そしてレジストの暴露部分を架橋させる。次いで、所望のパターンが得られるまで、フォトレジストの未暴露部分を適切な溶媒で現像する。次いで、適切なエッチング液を使用して、暴露された導電性金属をエッチング除去する。適切なエッチング液としては、アンモニア溶液、および塩酸を含む塩化第二銅が挙げられる。
【0012】
いくつかの結合層は、このエッチング工程の間に完全に除去され得る。これは結合層の厚さおよび組成物に依存する。加えて、所定のエッチング液中の導電性層材料に対する結合層のガルバニック電位も、結合層の除去に対して著しい影響を有する。しかしながら、適切なエッチング時間は、除去される必要のある導電性層材料の量によって主に決定される。完全に結合層を除去するために必要な時間のエッチング液への導電性層の追加的な暴露によって、エッチング液が、形成された金属トレースをエッチングし続けることが可能となる。従って、導電性層材料をエッチングしないエッチング液を使用して結合層をエッチングするために、別々の工程が必要とされ得る。最後に、残留するレジストは、適切な溶媒を使用して回路から取り除かれる。
【0013】
典型的な加法プロセスにおいて、誘電基材は最初に、真空スパッタリング技術を使用して、例えば、クロム、ニッケルまたはそれらの合金のような結合層によってコーティングされ得る。次いで、真空スパッタリング技術を使用して、第1の導電種薄層、典型的に銅が付着される。誘電基材および導電性金属層の材料および厚さは上記減法プロセスに関してと同様であってよい。結合層および種層をポリイミド上にスパッタリングした後、1〜5ミクロンのフラッシュ金属層がメッキ処理される。フラッシュ層は、通常、種層と同一材料である。
【0014】
フォトリソグラフィー、プリントおよびエッチング、レーザーアブレーション、およびレーザスクライビングを含む多くの周知の方法によって、導電性金属層をパターン化することができる。フォトレジストの場合、水性ベースであっても溶媒ベースであってもよく、そしてネガ型フォトレジストであってもポジ型フォトレジストであってもよく、それらは、ホットローラーによる乾燥レジストの適用のような標準的な積層技術を使用して導電性金属層上に積層され得る。次いで、マスクまたはフォトツールを通してフォトレジストを紫外線光等に暴露し、そしてレジストの暴露部分を架橋させる。次いで、所望のトレースパターンが得られるまで、フォトレジストの未暴露部分を適切な溶媒で現像する。次いで、導電性金属層の暴露部分を標準電気メッキまたは無電解メッキ法によって所望の回路厚さが得られるまでさらにメッキ処理する。
【0015】
次いで、残留するレジストを導電性層から取り除く。次いで、メッキ処理されていない導電性層の暴露領域を、過酸化水素および硫酸エッチング液のような適切なエッチング液でエッチングする。いくつかの結合層は、このエッチング工程の間に完全に除去されてよいが、多くはメッキ処理された金属と比較してエッチングが遅く、そして除去が困難である。これは、導電性金属層のものと比較して、結合層の組成物および厚さ、ならびにガルバニック電位に依存する。しかしながら、適切なエッチング時間は、除去される必要のある導電性層材料の量によって主に決定される。上記の通り、完全に結合層を除去するために必要な時間のエッチング液への導電性層の追加的な暴露によって、エッチング液が金属トレースをエッチングし続けることが可能となる。従って、導電性材料をエッチングしないエッチング液を使用して結合層をエッチングするために、別々の工程が必要とされ得る。最後に、レジストは適切な溶媒を使用して回路から取り除かれる。
【0016】
上記の通り、加法および減法プロセスに関して、結合層の確実な除去のためには別々の工程が必要である。一般的に、典型的に銅である導電性層をエッチングすることなく、結合層を選択的にエッチングすることが可能なエッチング液を見出すことは難しい。また、かかるエッチング液は1つの結合層材料に対して非常に特異的であり、そして他のものに対しては不十分であり、このことは汎用の結合層エッチング液を見出すことを困難にさせている。
【0017】
本発明の少なくとも1つの態様は、ニッケル、クロムおよびニッケル−クロム合金のような高度に耐腐食性の結合層を含む広範囲の耐腐食性結合層材料によるフレキシブル回路の製造を可能にする。この結合層は、結合層の基礎をなすポリマー基材へのポリマーエッチング液の接近を許す様式で適用される。ポリマーエッチング液が基礎ポリマーを侵食するとき、その下の支持が除去され、結合層は除去される。従って、フレキシブル回路を製造するために、結合層の腐食性について心配せずにいずれの耐腐食性結合層を使用してもよく、従って、耐腐食性とエッチング性能という相反する結合層の要件に関する解決策が提供される。
【0018】
このような結合層除去方法は、銅トレースに対する衝撃が最小であるという追加的な利点を有する。加えて、結合層を除去するための塩化物ベースの化学を必要とせずに加法プロセスの実行が可能となり、従って、銅トレース間の残留塩化物イオンに関連する信頼度の問題を回避する。
【0019】
具体的には、本発明の少なくとも1つの実施形態は、耐腐食性結合層を有するポリマー基材を所望の厚さまでスパッタリングし、その後、結合層より下のポリマー基材をエッチングすることによって結合層の暴露部分を除去することを含む。結合層の厚さの適切な選択によって、接着および耐腐食性の性能要件を満たしながらも必要とされる結合層の除去が可能となる。少なくとも1つの実施形態において、結合層は約20%より高い光伝送率を有する。少なくとも1つの実施形態において、結合層は約80%未満の光伝送率を有する。
【0020】
本発明の少なくとも一実施形態に従って、ポリマー表面へのエッチング液の接近を可能にしながらも接着および耐腐食性の機能を実行可能であるように結合層の厚さは制御される。言い換えると、結合層が除去されない領域において、ポリマー基材への接近を可能にするようにエッチング液に対して十分に透過性となるように薄く、なお、導電性金属層とポリマーとの間の有効バリアとして機能するように十分に厚いように耐腐食性結合層を付着することができる。結合層が薄すぎる場合、容易にポリマーをエッチングするが、結合および耐腐食性性能は悪影響を受ける。結合層が厚すぎる場合、結合および耐腐食性性能は満足できるものであるが、エッチング液がポリマー表面へと接近できないため、結合層を除去することが困難となる。これらの機能の全てを満足に達成することが可能な結合層の厚さ範囲が典型的に存在することが見出されている。結合層、誘電層、金属トレース層およびエッチング液の所定の系に関する結合層の厚さの適切な範囲は異なり、そして試行錯誤を通して決定することができる。
【0021】
結合層は、典型的に、パターン化された金属トレース層によって被覆される。トレース層は、典型的に、誘電エッチング液に対して不透過性である組成物であり、そして十分な厚さである。典型的に、トレース層の金属は銅である。基礎ポリマー基材のエッチング前に結合層を薄化する必要がある場合、トレース層が形成された後、好ましくはトレース層もエッチングしないエッチング液を使用して、結合層がエッチングされてよい。あるいは、結合層をエッチングしないエッチング液をトレース層導電性材料上で使用することによってトレースパターンが形成されて、そしてトレース層導電性材料がエッチングされた後にエッチングを続けることが可能である。
【0022】
本発明において、当該分野において現在既知または後に開発される多くの異なるポリマーエッチング液を潜在的に使用することができる。エッチング液がポリマー材料に適切である限り、結合層材料は、適切な厚さまで付着される場合、重要ではない。いずれの結合層材料に関しても、同様のポリマーエッチング液を使用することができる。
【0023】
ポリイミドの表面層をエッチングするために、アルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム)中の酸化剤(例えば、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム、フェリシアン化カリウム等)は特に適切である。酸化剤、特に過マンガン酸カリウムおよび過マンガン酸ナトリウムの適切な濃度範囲は、約20グラム/リットル(g/l)〜約200g/lであり、20g/l、40g/l、60g/l、80g/lおよび100g/lが含まれる。過マンガン酸ナトリウムは過マンガン酸カリウムより可溶性であり、より高濃度において使用が可能であり、すなわち、より高いエッチング速度を提供することができる。水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの適切な濃度範囲は約100g/lまでであり、20g/l、40g/l、60g/lおよび80g/lが含まれる。これらのエッチング液はポリエステルのような他の基材をエッチングするためにも適切である。水酸化カリウムはより高濃度でより有効であるため、その好ましい濃度範囲は約60〜約100g/lである。本明細書で検討されるエッチング溶液成分の全ての濃度は、特記されない限り、調製された混合溶液中の濃度を指す。
【0024】
従来のプロセスでは、加法プロセスを使用するか、または減法プロセスを使用するかどうかに関係なく、結合層金属は、典型的にポリマー基材におけるエッチングの影響が最小である様式で除去される。ポリマー基材の過剰エッチングはフィルムの品質を低下させ得、そして回路信頼度に悪衝撃を及ぼし得ると考えられる。
【0025】
従来のプロセスと比較して、本発明の少なくとも1つの態様の追加的な利益は、本発明に従って製造された回路のポリマー基材の表面は、他の方法によって製造される回路における場合よりも導電性トレース間で高い表面抵抗を有するということである。ポリマー基材をエッチングすることによる結合層金属の除去によって、導電性トレース間の表面絶縁抵抗が増加することが発見されている。加えて、結合層除去後もポリマー基材表面のエッチングが継続される場合、ポリマー表面抵抗がさらに改善されることが発見されている。
【0026】
1つの特定の例において、結合層スパッタリングの前に酸素プラスマ処理を受けたポリイミド基材は損傷表面を有したことが見出された。プラスマ処理された表面は、未処置のポリイミドと比較して比較的低い絶縁表面抵抗を有した。このようなポリイミドをエッチングすることによる損傷表面の除去は、表面絶縁抵抗の改善をもたらした。損傷層が除去された後、追加的なエッチングは表面抵抗に対して著しい影響を及ぼさない。損傷ポリイミドを除去することによって、従来の回路製造プロセスによる場合よりも非常に高い(1桁以上)表面抵抗を達成することができた。より高い表面抵抗は、より厳密な信頼度試験、例えば、高温高湿バイアス試験(HHBT)を合格する際に重要である。
【0027】
従って、結合層の除去後、ポリマー基材の表面処理部分を除去するためにエッチングを続けてもよく、それによって、従来の回路製造プロセスによる場合よりも高い表面提供が提供される。ポリマー表面処理としては、例えば、プラスマ、光学、フレーム、湿式化学および機械プロセスが挙げられる。
【0028】
ポリイミド基材の場合、ポリイミドフィルム内におけるポリマー酸の蓄積がない状態で表面層が除去されるように、エッチング液が選択されるべきである。ポリマー酸の蓄積は、表面抵抗を増加させず、減少させる。
【実施例】
【0029】
以下の実施例によって本発明を例示する。
【0030】
実施例1
本実施例において、3枚の基材に関して、デュポン(DuPont)から商標名カプトン(KAPTON)1.5Eで入手可能なポリイミドフィルムを使用した。基材フィルムを5〜60秒間、200〜350℃で真空下で加熱し、水を除去した。次いで、フィルム表面を10〜100mTorr、1〜5kV、2〜500mAで直流酸素グローによってクリーニングした。次いで、3枚の基材上に3〜5mTorrで80:20Ni:Cr合金結合層をスパッタ付着させた。3枚のNi−Crコーティング基材に対する全光伝送率(Tr)のレベルは、それぞれ、50%、72.5%および77.5%であった。結合層コーティングはロール−トウ−ロール(roll−to−roll)真空ウェブコーティングシステムにおいて適用された。付着源はDCマグネトロンスパッタリングであった。プロセスガスは酸素およびアルゴンの混合物であり、酸素/アルゴン比は約5%未満であった。
【0031】
次いで3枚の基材全てを50℃で20g/lのNaOHおよび20g/lの過マンガン酸カリウムを含む溶液に浸漬させた。50%Tr Ni−Cr基材に関して、5〜10分のエッチング後さえも結合層は除去されなかった。72.5%Tr Ni−Cr基材も、4分後にいずれかの著しいエッチングが示されなかった。しかしながら、77.5%Tr Ni−Cr基材がエッチング液に浸漬されたとき、結合層は2分で除去され、そして表面抵抗は1e+12オーム/sqより大きかった。
【0032】
実施例2
実施例1に記載のものと同様の様式で、72.5%の全光伝送率を有する厚さまで2枚のポリイミド基材をNiCr結合層でスパッタリングした。加えて、ロール−トウ−ロール(roll−to−roll)真空ウェブコーティングシステムを使用して、3〜5mTorrで200nmの厚さまで銅層をスパッタ付着させた。付着源はDCマグネトロンスパッタリングであった。アルゴンがプロセスガスであった。フォトレジストを使用せず、基材上で実験を実行した。次いで、15g/lの過酸化水素および180g/lの硫酸の溶液(ミネソタ州、メープル プレイン(Maple Plain,MN)のエレクトロケミカルズ インコーポレイテッド(Electrochemicals Inc.)から入手可能なパーマ−エッチ(Perma−Etch)から製造)を使用して、銅が可視的に除去され、そして結合層の一部または全部が残るまで、1つの例に関しては23℃の温度で、そして他の例に関しては45℃の温度で銅をフラッシュエッチングした。その後、50℃で32秒間、20g/lの過マンガン酸カリウムおよび60g/lの水酸化カリウムの溶液を使用して基材を処理した。元素ESCA表面分析によって、残留NiCrの量を決定した。この分析によって、ポリイミド表面上でNiまたはCrは検出されなかった。本実施例において(実施例1と異なって)、銅除去のための過酸化物処理間、いくらかのNi−Crが除去されたため、72.5%Tr NiCrをエッチングすることができた。過酸化物処理はスロープロセスであり、そして基材上に著しい量のNi−Crを残した。しかしながら、過酸化物処理によって十分なNi−Crがエッチングされ、その後の過マンガン酸塩処理によってNi−Crの除去は完了した。従って、所定の結合層除去に関するプロセスウインドウは、銅除去工程が結合層の厚さ、組成および構造に及ぼす影響にも依存する。
【0033】
実施例3
実施例1に記載のものと同様の様式で、4.5kVの酸素DCグロー電圧で77.5%Tr Ni−Crポリイミド基材を調製した。3〜5mTorrで200nmの厚さまで銅層をスパッタ付着させた。実施例2に記載の方法に従って銅が除去されたとき、ポリイミドの表面抵抗は5e+11オーム/スクエアであった。銅除去工程によっていずれものNi−Crが除去されたかどうかは決定しなかった。次いで、フィルムを30秒間、20g/lの過マンガン酸ナトリウムおよび80g/lの水酸化ナトリウムを含有する溶液に浸漬させた。エッチング溶液の温度は30℃であった。その後、NiまたはCrはポリイミド表面上で観察されず、そして表面抵抗は4e+10オーム/スクエアであった。Ni−Crの除去後、ポリイミドのエッチングをさらに90秒間続けた。約0.06ミクロンのポリイミドが除去された。表面抵抗は1000倍まで、1e+14オーム/sqよりも大きく増加することが見出された。
【0034】
実施例4
実施例1に記載のものと同様の様式で、4.5kVの酸素DCグロー電圧で77.5%Tr Ni−Crポリイミド基材2枚を調製した。3〜5mTorrで200nmの厚さまで銅層をスパッタ付着させた。実施例2に記載の方法に従って銅が除去されたとき、ポリイミドの表面抵抗は9.3e+11オーム/スクエアであった。銅除去工程によっていずれものNi−Crが除去されたかどうかは決定しなかった。次いで、第1の基材を15秒間、180g/lの過マンガン酸ナトリウムおよび80g/lの水酸化ナトリウムを含有する溶液に浸漬させた。エッチング溶液の温度は30℃であった。第1の基材の表面抵抗は2.75e+10であった。第2の基材を同一条件で30秒間エッチングした。第2の基材に関して、表面抵抗は1e+14オーム/スクエアより大きくまで増加した。
【0035】
実施例5
実施例4の実験を繰り返したが、エッチング液の温度は30℃ではなく50℃であった。試料の初期表面抵抗は1.02e+12であった。エッチングの15秒後、表面抵抗は1e+14オーム/スクエアより高くまで増加した。
【0036】
実施例6
実施例1に記載のものと同様の様式で、それぞれ、42.5%、52.5%、62.5%、72.5%および82.5%のNiCr結合層光伝送率を有するポリイミドフィルムを使用して、5枚の基材を調製した。3〜5mTorrで200nmの厚さまでCu層をスパッタ付着させた。次いで、15g/lの過酸化水素および180g/lの硫酸の溶液(ミネソタ州、メープル プレイン(Maple Plain,MN)のエレクトロケミカルズ インコーポレイテッド(Electrochemicals Inc.)から入手可能なパーマ−エッチ(Perma−Etch)から製造)を使用して、スパッタリングされた銅を23℃の温度でフラッシュエッチングした。
【0037】
次いで、30℃の温度で、20g/lの過マンガン酸カリウムおよび20g/lの水酸化カリウムおよび脱イオン水を含有する溶液によって基材をスプレーした。全ての基材の試料を133秒間エッチングした。また72.5%Tr Ni−Crの基材および82.5%Tr Ni−Crの基材の試料は、37秒、69秒および85秒のドウェル時間でエッチングされた。所定のエッチング条件下で満足のいく結果がより高いドウェル時間で達成されなかったため、他の基材の試料はこのような短時間ではエッチングされなかった。各試料に関して、表面抵抗はメガ−オームメーターによって測定された。
【0038】
85秒のドウェル時間でエッチングされた72.5%Tr Ni−Crおよび82.5%Tr Ni−Cr基材試料に関して、剥離強度、加熱剥離強度、酸性アンダーカットおよび表面抵抗を研究した。
【0039】
以下のプロセスに従って、剥離強度を測定した:Ni−Crコーティングポリマー基材上に25マイクロメーターの銅層をメッキ処理した。幅3mmの接着ストリップを銅層上に積層した。銅層の暴露部分をエッチング除去し、接着テープで保護された幅3mmの銅層ストリップを残した。接着テープを除去した。90°の角度でNi−Crコーティング基材から幅3mmの銅ストリップを剥離し、ストリップを剥離するために必要とされた力を測定した。
【0040】
Ni−Crコーティング基材から幅3mmの銅ストリップを剥離する剥離力測定の実行前に、基材構造に以下の加熱プロフィールを受けさせることを除き、同様の様式で加熱剥離強度を測定した。
【0041】

【0042】
酸アンダーカットは、銅によって被覆されたポリマーフィルムの外側部分をエッチングするエッチング液を指す。
【0043】
図1および2は、剥離強度および加熱剥離強度は結合層の厚さによって影響を受けないことを示す。図3は、最も厚いNi−Cr層に関して酸アンダーカットは最も高かったことを示す。他方、Ni−Crエッチング後の表面抵抗は、エッチングプロセスに及ぼすNi−Cr厚さの影響を示した。表1に示されるように、72.5%よりも低いTrを有するNi−Cr基材は、長いエッチング時間後さえも低い表面抵抗(1e+8未満)を示し、そして72.5%より高いTrを有するNi−Cr基材は、短いドウェル時間後さえも高い表面抵抗(1e+8より高い)を示した。
【0044】
表1:異なる光伝送率を有するNi-Cr基材に関する表面抵抗


NG = 1e+8オーム未満の低い抵抗
OK = 1e+8オームより高い許容抵抗
【0045】
ESCAによる回路の試験によって、37秒間エッチングされた72.5%Tr基材上にNiおよびCrが残留することが示された。しかしながら、より長いドウェル時間でエッチングされた72.5%Tr Ni−Cr基材試料は、いずれの著しい量のNiまたはCrの残留も示さなかった。
【0046】
実施例7
本実施例は、実施例1に記載されるものと同様の様式で調製されたが、本実施例に関しては、スパッタリング源とポリイミド基材ウェブとの間にマスクを配置した。マスク開口は、ウェブの幅を横切って不均一なフィルム厚さが製造されるように成形された。光伝送率がウェブの一方の縁で60%から他方の縁で80%まで変化するように、Ni−Crスパッタリングを実行した。このようなマスクを使用してNiCrをスパッタリングし、そしてウェブを横切って60%〜80%Trを有する基材が得られた。銅をスパッタ付着し、次いで15g/lの過酸化水素および180g/lの硫酸の溶液(ミネソタ州、メープル プレイン(Maple Plain,MN)のエレクトロケミカルズ インコーポレイテッド(Electrochemicals Inc.)から入手可能なパーマ−エッチ(Perma−Etch)から製造)を使用して23℃の温度でフラッシュエッチングし、スパッタリングされた銅を除去した。スパッタリングされた銅の除去後、20g/lの過マンガン酸カリウムおよび20g/lの水酸化ナトリウムを含有する溶液に基材を100秒間暴露した。ウェブを横切って同様に等しく間隔をあけられた位置で、電気シート抵抗および光伝送率を測定した。シート抵抗を光伝送率と比較したとき、図4に示されるように、過マンガン酸塩化学によるポリイミドのエッチング後、70〜73%以上のTrを提供するNiCrの厚さは1e+8オーム抵抗を提供することが決定された。
【0047】
本発明の様々な変更および改変は本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく当業者に明白であり、そして本明細書で明かにされた実例となる実施形態に本発明が過度に限定されないことは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の代表的な物品の剥離強度。
【図2】本発明の代表的な物品の加熱剥離強度。
【図3】本発明の代表的な物品の酸アンダーカット。
【図4】本発明の代表的な物品の電気抵抗に対する光伝送率を比較するグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電基材をエッチングすることが可能な誘電エッチング液に透過性である第1の金属層を有する誘電基材を提供する工程と、
前記第1の金属層の暴露部分下の誘電層の部分がエッチングされるように前記誘電エッチング液に前記第1の金属層の少なくとも一部を暴露する工程と、
を含み、前記誘電エッチング液が酸化剤と、(1)約20〜約100グラム/リットルの水酸化ナトリウムおよび(2)約60〜約100グラム/リットルの水酸化カリウムの少なくとも1つを含む塩基とを含む方法。
【請求項2】
前記誘電基材のエッチング部分上の前記第1の金属層の少なくとも一部を除去する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記誘電エッチング液に不透過性である第2の金属層によって前記第1の金属コーティングの少なくとも一部が被覆される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の金属層がニッケル、クロムまたはそれらの合金から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の金属層が約20%〜約80%の光伝送率を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記誘電基材がポリイミドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の金属層が実質的に除去された後、前記誘電基材のエッチングが継続される、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記誘電基材が表面処理され、そして表面処理された誘電材料の少なくとも一部が除去されるまでエッチングが継続される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記誘電材料の表面抵抗が増加するまでエッチングがさらに継続される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
誘電基材をエッチングすることが可能な誘電エッチング液に透過性である第1の金属層を有する誘電基材を提供する工程と、
前記第1の金属層の暴露部分下の誘電層の部分がエッチングされるように前記誘電エッチング液に前記第1の金属層の少なくとも一部を暴露する工程と、
を含み、前記誘電エッチング液が過マンガン酸ナトリウムと、少なくとも1つの塩基とを含む方法。
【請求項11】
前記誘電基材のエッチング部分上の前記第1の金属層の少なくとも一部を除去する工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記誘電エッチング液に不透過性である第2の金属層によって前記第1の金属層の少なくとも一部が被覆される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記第1の金属層がニッケル、クロムまたはそれらの合金から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の金属層が約20%〜約80%の光伝送率を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記誘電基材がポリイミドを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の金属層が実質的に除去された後、前記誘電基材のエッチングが継続される、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記誘電基材が表面処理され、そして前記表面処理された誘電材料の少なくとも一部が除去されるまでエッチングが継続される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記誘電材料の表面抵抗が増加するまでエッチングがさらに継続される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも第1の金属層を有する誘電基材を提供する工程と、
前記誘電基材をエッチングすることが可能な誘電エッチング液に透過性となるように前記第1の金属層の十分な薄化を引き起こすために十分な時間、前記第1の金属層をエッチングすることが可能な誘電エッチング液に前記第1の金属層の少なくとも一部を暴露する工程と、
前記第1の金属層の暴露部分下の前記誘電基材がエッチングされるように前記誘電エッチング液に前記第1の金属層の少なくとも一部を暴露する工程と、
を含む方法。
【請求項20】
前記誘電基材のエッチング部分上の前記第1の金属層の少なくとも一部を除去する工程をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記誘電基材が前記第1の金属層上に第2の金属層をさらに含み、そして前記エッチング液が前記第1および第2の金属層の両方をエッチングすることが可能である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
処理表面を有する誘電基材と、
前記誘電基材の処理表面の一部を暴露させるパターン化された第1の金属層と、
前記パターン化された第1の金属層を被覆する第2の金属層と、
を含み、前記誘電基材の処理表面の暴露部分の少なくとも一部が除去されている物品。
【請求項23】
前記第1の金属層が約80までの光学的厚さを有する、請求項22に記載の物品。
【請求項24】
前記第1の金属層がニッケル、クロムまたはそれらの合金である、請求項22に記載の物品。
【請求項25】
前記第2の金属層が銅である、請求項22に記載の物品。
【請求項26】
前記誘電基材がポリイミドである、請求項22に記載の物品。
【請求項27】
前記処理表面が除去されている誘電基材の部分が、処理表面を有する部分より高い表面抵抗を有する、請求項22に記載の物品。
【請求項28】
前記処理表面が除去されている誘電基材の部分の表面抵抗が、処理表面を有する部分より少なくとも1桁高い表面抵抗を有する、請求項27に記載の物品。
【請求項29】
前記処理表面が除去されている誘電基材の部分の表面抵抗が、少なくとも1e+8オームの表面抵抗を有する、請求項27に記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−524871(P2008−524871A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548299(P2007−548299)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/045307
【国際公開番号】WO2006/068903
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】