説明

フレグランスとしての大環状ラクトン類

本発明は、式(I)


式中、nおよびmは独立して1、2、3および4から選択され、ただし3≦n+m≦6である、
で表される、14〜17個の環原子を含むメチル置換二不飽和大環状ラクトン類に関する。本発明はさらに、それらを含む着臭剤およびフレグランス組成物としてのそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、14〜17個の環原子を含むメチル置換二不飽和(double-unsaturated)大環状ラクトン類に関する。本発明はさらに、それらを含む着臭剤およびフレグランス組成物としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ムスク着臭剤は、香水を単なるフローラルブーケまたはポプリであるものから区別する官能性の性状を付与するために香料において不可欠であり、それらはしばしば香水処方の10重量%より多量を構成し、それによりフレグランスの全体的な特徴に決定的に影響する。したがって、特定の調和的なサイドノート(side note)を伴ってシグネチャー(signature)をフレグランスに伝達する、新規であり独特なムスク着臭剤に対するコンスタントな需要がある。これらのサイドノートは、組成物のフローラルハートと最も良く調和するはずであり、それをフレグランスの基盤に拡張する。したがって、暖かい、甘いハーブの、芳香性の特徴を有するフローラルサイドノートが、最も理想的に適する。組成物全体に影響を及ぼすために、これらのシグネチャームスクは、さらに拡散性かつ強力でなければならない。
【0003】
大員環は、天然に存在するムスクの唯一の群を構成する。比較的高い価格にもかかわらず、それらの信頼性および本来的特徴により、それらが香料において高度に重宝となる。ほとんどの大環状ムスクが飽和であるかまたは1つの二重結合のみを含む一方、3種の二不飽和非置換大環状ムスクのみが知られており、即ち強力であり極めて性欲を刺激する動物様の(animalic)天然のムスクの香りを有し、甘く暖かいビャクダン特徴を有する(4E/Z,8E)−オキサシクロヘキサデカ−4,8−ジエン−2−オンの異性体(4E/Z)混合物(W. Tochtermann, P. Kraft, Synlett 1996, 1029)、不快なセイヨウナシおよびキノコ系の香りを伴うムスクの香りを有する(3E/Z,8E)−オキサシクロヘキサデカ−3,8−ジエン−2−オンの異性体(3E/Z)混合物(G. Bunte, PhD Thesis, Christian-Albrechts-Universitat zu Kiel, 1996, 106-108)および脂肪様、ろう様、比較的弱いムスクの香りを有する(6Z,10Z)−シクロペンタデカ−6,10−ジエノン(C. Fehr, J. Galindo, O. Etter, W. Thommen, Angew. Chem. Int. Ed. 2002, 41, 4523)である。
【発明の概要】
【0004】
驚くべきことに、本発明者らは、高度に拡散性かつ強力なムスクの特徴を有し、暖かい、甘いハーブの、芳香性の特徴の所望される特定のフローラルサイドノートを有する新規な群の化合物を見出した。
【0005】
したがって、本発明は、1つの観点において式(I)
【化1】

式中、nおよびmは独立して1、2、3および4から選択され、ただし3≦n+m≦6、例えばn+mは4または5であり;
C−4とC−5との間の二重結合は(E)立体配置にあり、C−(7+n)とC−(8+n)との間の結合は(Z)立体配置にある、
で表される化合物に言及する。
【0006】
本発明の化合物は、1つのキラル中心を含み、したがって鏡像異性体のラセミ体または鏡像異性的に富化された混合物として存在する。しかし、立体異性体を分割するかまたはキラルな出発物質を用いることによりこれらの着臭剤の費用が増大するため、単に経済理由のために化合物をラセミ体混合物として用いるのが好ましい。しかし、個々の立体異性体を調製するのが所望される場合には、これを、当該分野において知られている方法、例えば分取HPLCおよびキラル固定相上でのGCにより、立体選択的合成により、または入手可能なキラルな原料、例えば光学的に活性なシトロネロールから開始して達成することができる。
【0007】
式(I)で表され、式中mが1でありnが2または3である化合物およびmが2でありnが1、2、3および4から選択される化合物は、本発明の特定の観点を表す。
【0008】
特定の態様において、式(I)で表される化合物は、(4E,9Z)−13−メチルオキサシクロペンタデカ−4,9−ジエン−2−オン、(4E,8Z)−12−メチルオキサシクロテトラデカ−4,8−ジエン−2−オン、(4E,10Z)−13−メチルオキサ−シクロペンタデカ−4,10−ジエン−2−オン、(4E,10Z)−14−メチルオキサシクロヘキサデカ−4,10−ジエン−2−オン、(4E,11Z)−15−メチルオキサシクロヘプタデカ−4,11−ジエン−2−オンおよび(4E,9Z)−12−メチルオキサシクロ−テトラデカ−4,9−ジエン−2−オンならびにそれらの混合物から選択される。
【0009】
本発明の化合物の中で、(4E,9Z)−13−メチルオキサシクロペンタデカ−4,9−ジエン−2−オンを、典型的な代表例として挙げることができる。それは、ジャスミンおよびわずかにグリーンの性状の方向のフローラルの様相を有する強度の良好な感じの甘い芳香性のパウダリーなムスクの香りを発散させる。この化合物の香りを最も近い従来技術の化合物の1種、即ち甘い温かいビャクダン特徴を有する強力であり極めて性欲を刺激する動物様の、天然のムスクの香りを有する(4E/Z,8E)−オキサシクロヘキサデカ−4,8−ジエン−2−オンと比較した際に、後者のもののビャクダン、ウッディー性状は、(4E,9Z)−13−メチルオキサシクロペンタデカ−4,9−ジエン−2−オンにおいて完全に欠如しており、それはまた任意の動物様の含意である通りである。
【0010】
(4E/Z,8E)−オキサシクロヘキサデカ−4,8−ジエン−2−オンとは対照的に、(4E,9Z)−13−メチルオキサシクロペンタデカ−4,9−ジエン−2−オンのムスクの特徴はフローラル−ジャスミン様、およびまた甘い芳香性であり、グリーンハーブの様相は他の点ではフローラルファミリーにおいて一般的であるに過ぎない。フローラルおよび暖かいハーブの様相はまた、さらに金属様のホットアイロンの傾向を示す(4E,8Z)−12−メチルオキサシクロテトラデカ−4,8−ジエン−2−オンのムスクの香りにも特徴的である。この金属様のホットアイロンの傾向はまた、他の大環状ムスク、例えばHabanolide(オキサシクロヘキサデカ−12/13−エン−2−オン)においても出現するが、フローラルの状況においては決して出現しない。したがって、式(I)で表される化合物は、それらの従来技術の最も近い構造的類似体のものとは異なり、予期されない香りを有する。
【0011】
本発明の化合物を、単独で、それらの混合物として、またはベース材料と組み合わせて用いてもよい。本明細書中で用いる「ベース材料」には、広範囲の現在入手できる天然および合成分子、例えばエーテル性油および抽出物、アルコール類、アルデヒド類およびケトン類、エーテル類およびアセタール類、エステル類およびラクトン類、大員環および複素環、および/またはフレグランス組成物において着臭剤と組み合わせて慣用的に用いられる1種もしくは2種以上の成分もしくは賦形剤、例えば担体材料との混合物において、ならびに当該分野において一般的に用いられている他の補助剤、例えば慣用的に着臭剤と組み合わせて用いられる希釈剤、例えばジプロピレングリコール(DPG)、ミリスチン酸イソプロピル(IPM)およびクエン酸トリエチル(TEC)ならびにアルコール類(例えばエタノール)から選択されるすべての既知の着臭剤分子が含まれる。式(I)で表される化合物の使用は、いかなる特定の香水のタイプにも、いかなる特別の嗅覚方向、着臭剤または群の物質にも限定されない。したがって、当該一般式で表される化合物を、例えば以下のものと混合してもよい。
【0012】
・エーテル性油および抽出物、例えば海狸香、コスツス根油、オークモスアブソリュート、ゼラニウム油、ジャスミンアブソリュート、パチョリ油、バラ油、ビャクダン油またはイランイラン油;
・アルコール類、例えばシトロネロール、Ebanol(登録商標)(3−メチル−5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテン−1−イル−4−ペンテン−2−オール)、オイゲノール、ゲラニオール、スーパーミュゲ(Super Muguet)(6−エチル−3−メチル−6−オクテン−1−オール)、リナロール、フェニルエチルアルコール、Sandalore(登録商標)(5−(2,2,3−トリメチル−3−シクロペンテニル)−3−メチルペンタン−2−オール)、テルピネオールまたはTimberol(登録商標)[1−(2,2,6−トリメチルシクロヘキシル)ヘキサン−3−オール);
【0013】
・アルデヒド類およびケトン類、例えばアズロン(Azurone)[7−(3−メチルブチル)−2H−1,5−ベンゾジオキセピン−3(4H)−オン]、α−アミルシンナムアルデヒド、ヒドロキシシトロネラール、イソEスーパー(Iso E Super)[1−(2,3,8,8−テトラメチル−1,2,3,4,5,6,7,8−オクタヒドロナフタレン−2−イル)エタノン]、イソラルデイン(Isoraldeine)、Hedione(登録商標)[メチル(3−オキソ−2−ペンチルシクロペンチル)アセテート]、マルトール、メチルセドリルケトン、メチルイオノン、ポマローズ(Pomarose)[(2E)−5,6,7−トリメチルオクタ−2,5−ジエン−4−オン]またはバニリン;
・エーテル類およびアセタール類、例えばAmbrox(登録商標)(3a,6,6,9a−テトラメチルドデカヒドロナフト[2,1−b]フラン)、ゲラニルメチルエーテル、ローズオキサイドまたはスピランブレン(Spirambrene)(2,2,3’,7’,7’−ペンタメチルスピロ(1,3−ジオキサン−5,2’−ノルカラン));
【0014】
・エステル類およびラクトン類、例えば酢酸ベンジル、酢酸セドリル、γ−デカラクトン、Helvetolide(登録商標)(プロパン酸2−[1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エトキシ]−2−メチルプロパン−1−オール)、セレノリド(Serenolide)(2−[1−(3,3−ジメチルシクロヘキシル)エトキシ]−2−メチルプロパン−1−オールシクロプロパンカルボキシレート)、γ−ウンデカラクトンまたは酢酸ベチベニル;
・大員環、例えばアンブレットリド、エチレンブラシレートまたはExaltolide(登録商標)(オキサシクロヘキサデカン−2−オン);ならびに
・複素環、例えばイソブチルキノリン。
【0015】
しかし、それらの独特なムスクの特徴のために、本発明の化合物は、女性的フレグランスと男性的フレグランスとの両方において、より顕著なフローラルハートノートと組み合わせて用いるのに特に良好に適する。
【0016】
本発明の化合物を、広範囲のフレグランス利用品、例えば上質であり機能的な香料、例えば香水、家庭用品、ランドリー製品、ボディケア用品および化粧品のすべての分野において用いることができる。当該化合物を、特定の利用品ならびに他のフレグランスの性質および量に依存して広範囲に変化する量で用いることができる。本発明の化合物を用いる比率は、大きい範囲の値の中で変化し得、香水に対して意図される利用品の性質、例えば共同成分(co-ingredient)の性質に依存する。
【0017】
それはまた、香料製造者が求めている特定の効果に依存する。しかし、一般的に、他の製品、例えばランドリー製品に混合する際には、香水組成物を基準として約35重量%までの式(I)で表される化合物または香水中のその混合物、例えば約5重量%〜約30重量%および約15重量%まで用いることができる。しかし、経験豊かな香料製造者がまた効果を達成し得、またはより低い、もしくはより高い濃度を有する新規な調和を作製し得るため、これらの値を例により示すに過ぎない。
【0018】
本発明の化合物を、単に式(I)で表される化合物、その混合物を直接混合することにより、もしくはフレグランス組成物を消費者製品ベースと混合することにより消費者製品ベース中に用いることができ、またはそれらを、比較的早期の段階において捕獲材料、例えばポリマー、カプセル、マイクロカプセルおよびナノカプセル、リポソーム、被膜形成剤、吸収剤、例えば炭素またはゼオライト、環状オリゴ糖類ならびにそれらの混合物で捕獲することができ、かつ/またはそれらを基質に化学的に結合させ、それを外部の刺激、例えば光、酵素などを適用することにより本発明のフレグランス分子を放出するように適合させ、次に消費者製品ベースと混合することができる。
【0019】
したがって、本発明はさらに、フレグランス利用品の製造方法であって、化合物を消費者製品ベースに直接混合することにより、または式(I)で表される化合物もしくはその前駆体を含むフレグランス組成物を混合することにより、式(I)で表される化合物をフレグランス成分として包含させ、それを次に慣用の手法および方法を用いて消費者製品ベースと混合することができることを含む、前記方法を提供する。嗅覚的に許容できる量の本発明の化合物またはその混合物を加えることにより、消費者製品ベースの香りのノートは改善、強化および/または修正される。
【0020】
「前駆体」により、特に、利用品中で例えば酸化、酵素的反応、加熱または塩基での処理後に切断し、それにより式(I)で表される二不飽和大環状ラクトンを放出する、式(I)で表される化合物の二重結合の一方または両方での付加生成物を意味する。好適な反応および対応する基質は、C=C二重結合が形成するすべての種類の脱離、例えばヒドロ−トシルオキシ脱離、ヒドロ−ジアルキルオキシアンモニオ脱離、Hofmann分解またはChugaevもしくはShapiro反応を含む。特に、([7+n]Z)立体配置二重結合を、Ramberg-Backlund反応において対応するα−ハロスルホンから有利に形成することができる。
【0021】
したがって、本発明はさらに、フレグランス利用品を改善、増強および/または修正する方法であって、嗅覚的に許容できる量の式(I)で表される化合物またはその混合物をそれに加えることによる前記方法を提供する。
【0022】
本発明はまた、以下のもの:
a)式(I)で表される化合物またはその混合物;および
b)消費者製品ベース
を含むフレグランス利用品を提供する。
【0023】
本明細書中で用いる「消費者製品ベース」は、特定の行動、例えば掃除、柔軟にすることおよびケアすることなどを満たす消費者製品として用いるための組成物を意味する。そのような製品の例には、上質の香料(fine perfumery)、例えば香水およびオードトワレ;織物ケア、家庭用品およびパーソナルケア用品、例えばランドリーケア洗剤、リンスコンディショナー、パーソナルクレンジング組成物、食器洗い機用洗剤、表面洗浄剤;ランドリー製品、例えば柔軟剤、漂白剤、洗剤;ボディケア用品、例えばシャンプー、シャワー用ジェル;空気ケア用品および化粧品、例えば脱臭剤およびバニシングクリーム(vanishing creme)が含まれる。製品のこのリストは例により示すものであり、いかなる方法においても限定的であると考慮するべきではない。
【0024】
式(I)で表される化合物を、対応するアルク−3−エン−[6+n]−イン酸(3E)−3’−メチルアルク−[4+m]’−イニル(即ち式(II)
【化2】

式中、nおよびmは独立して1、2、3および4から選択され、ただし3≦n+m≦6、例えばn+mは4または5である、
で表される化合物)のアルキンメタセシスにより、Schrockのカルビン触媒[MeCC≡W(OtBu)]または他のアルキンメタセシス触媒の存在下で調製することができる。
【0025】
驚くべきことに、アルキンメタセシスは、予想されているようにそれぞれの基質の場合においてエニンメタセシスと競合せず、したがって本発明の他の観点を構成することが見出された。式(II)で表されるアルク−3−エン−[6+n]−イン酸(3E)−3’−メチルアルク−[4+m]−イニル類を、アルク−3−エン−[6+n]イン酸の(3E)−3’−メチルアルク−[4+m]’−イノールとの一般的なエステル化反応、例えば4−(ジメチルアミノ)−ピリジンおよびN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドを触媒として用いるSteglichエステル化により、当業者に知られている条件下で好都合に調製することができる。
【0026】
アルク−3−エン−[6+n]−イン酸は、例えばN. Ragoussis et al. (J. Chem. Soc., Perkin Trans. 1, 1998, 3529中)により記載されているように、対応するアルク−[4+n]’−インアルデヒド類からの酢酸ピペリジニウムの存在下でのβ,γ−選択的Knoevenagel反応により得られ、一方(3E)−3’−メチルアルク−[4+m]’−イノール類を調製するために、いくつかの方法が文献において知られており、それらには、3−メチルオクタ−6−イン−1−オールを合成するためのシトロネロールのイソプロピリデン基の亜硝酸により誘発された脱メチル化(S. L. Abidi, Tetrahedron Lett. 1986, 27, 267)および保護されたヒドロキシアルデヒド類のCorey-Fuchs反応が含まれる。アルク−3−エン−[6+n]−イン酸を合成するのに必要なアルク−[4+n]−インアルデヒド類を、Weitz-Schefferエポキシ化の後の2−メチル置換シクロアルク−2−エノン類のEschenmoser-Ohloff反応により、またはHerndon et al. (J. Yan, J. Zhu, J. J. Matasi, J. W. Herndon, J. Org. Chem. 1990, 55, 786)の手順による末端アルキノール類のメチル化により調製することができる。
【0027】
ここで、本発明を、以下の非限定的例を参照してさらに記載する。これらの例は例示のみの目的のためであり、変化および修正が当業者によりなされ得ることが理解される。NMRデータを、内部のSiMe標準と相対させて示す。
【0028】
例1:(4E,9Z)−13−メチルオキサシクロペンタデカ−4,9−ジエン−2−オン
オクタ−6−イナールを、J. Yan, J. Zhu, J. J. Matasi, J. W. Herndon, J. Org. Chem. 1990, 55, 786の合成スキームに従って、メチル化段階中にTHP保護を追加して合成した。商業的に入手できるヘキサ−5−イン−1−オール(15.2g、155mmol)を保護し(DHP、PTSA、CHCl、0℃→室温、5時間)、その後メチル化した(1.6MのBuLi、MeI、THF、−78℃→室温、12時間)。THPエーテルの切断(PPTS、MeOH、室温、12時間)により、ヘプタ−5−イン−1−オール(10.6g、61%)が得られ、それをメシル化し(MsCl、EtN、EtO、0℃→室温、12時間)、その後シアン化して(KCN、DMF、還流、3.5時間)オクタ−6−インニトリル(7.90g、69%)を提供した。このニトリルの還元により(DIBAL−H、THF、0℃→室温、12時間)、オクタ−6−イナール(6.70g、83%)が得られた。
【0029】
室温にて、ピペリジン(110μL、1.10mmol)および酢酸(65.0μL、1.10mmol)をジメチルスルホキシド(5.00mL)中で混合することにより新たに調製した酢酸ピペリジニウム溶液を、調製したオクタ−6−イナール(6.70g、54.0mmol)およびマロン酸(11.2g、108mmol)をジメチルスルホキシド(200mL)に溶解した撹拌した溶液中に注入した。反応混合物を4時間還流した後、水(50mL)およびエーテル(100mL)を室温にて加え、層を分離した。水性層をエーテル(3×100mL)で抽出し、混ぜ合わせた有機抽出物を水(100mL)で洗浄し、乾燥し(NaSO)、減圧下で濃縮した。粗製の物質(GC、Δ:Δ=70:30)をシリカゲル上のクロマトグラフィーにより精製し[200g;ペンタン−EtO(4:1);R=0.24、ペンタン−EtO(5:1)中]、その後160℃/13mbarにてKugelrohr蒸留して、(3E)−デカ−3−エン−8−イノン酸(3.79g、42%)を無色結晶質固体(融点40〜43℃)として得た。
【0030】
【化3】

【0031】
室温にて、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(122mg、0.999mmol)を、(3E)−デカ−3−エン−8−イノン酸(1.66g、9.99mmol)および3−メチルオクタ−6−イン−1−オール(1.40g、9.99mmol)をエーテル(30mL)に溶解した撹拌した溶液に加えた。3−メチルオクタ−6−イン−1−オール(1.80g、26%)を、酢酸/水(5:2、210mL)中のシトロネロール(7.81g、50.0mmol)および亜硝酸ナトリウム(93.2g、135mmol)から、S. L. Abidi, Tetrahedron Lett. 1986, 27, 267の手順に従って調製した。0℃にて、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(2.27g、11.0mmol)を加え、反応混合物をこの温度にて10分間撹拌し、これにより無色沈殿物が生成した。この不溶性物質を焼結した漏斗中で吸引により濾別し、濾液を減圧下で濃縮した。得られた残留物のシリカゲル上でのクロマトグラフィー[50g;ペンタン−EtO(20:1);R=0.50、ペンタン−EtO(10:1)中]により、デカ−3−エン−8−イノン酸(3E)−3’−メチルオクタ−6’−イニル(1.34g、47%)が無色液体として得られた。
【0032】
【化4】

【0033】
デカ−3−エン−8−イノン酸(3E)−3’−メチルオクタ−6’−イニル(435mg、1.51mmol)を無水クロロベンゼン(80mL)に溶解した溶液を、アルゴンで15分間脱ガスし、次にSchrockのカルビン触媒(MeCC≡W(OtBu)、71.3mg、0.151 mmol)を加えた。アルゴンの遅い流れと共に、得られた混合物を24時間還流させ、次に室温に放冷した。溶媒を減圧下で除去し、得られた残留物をシリカゲル上のクロマトグラフィー[50g;ペンタン−EtO(50:1);R=0.44、ペンタン−EtO(5:1)中]により精製して、(4E)−13−メチルオキサシクロ−ペンタデカ−4−エン−9−イン−2−オン(150mg、42%)を無色液体として得た。
【0034】
【化5】

【0035】
キノリン(4.86μL、0.0411mmol)および10%Pd/BaSO(0.88mg、0.00824mmol)を、(4E)−13−メチルオキサシクロペンタデカ−4−エン−9−イン−2−オン(48.2mg、0.206mmol)をエタノール(2.0mL)に溶解した撹拌した溶液に加えた。反応フラスコにアルゴン、続いて水素を流し、反応混合物を水素雰囲気下で室温および周囲圧にて撹拌した。3.5時間後、GCモニタリングにより完全な変換が示され、その際に触媒をセライトのパッドを通して濾別し、エタノールで洗浄した。溶媒を減圧下で除去し、得られた残留物をシリカゲル上のクロマトグラフィー[20g;ペンタン−EtO(10:1);R=0.78、ペンタン−EtO(5:1)中]により精製して、(4E,9Z)−13−メチルオキサシクロペンタデカ−4,9−ジエン−2−オン(44.8mg、92%)を無色有臭液体として得た。
【0036】
【化6】


香りの記載:フローラルの様相を有し、ジャスミンおよびわずかにグリーンの性状の方向にある強度であり良好な感じの甘い芳香性のパウダリーなムスクの香り。
【0037】
例2:(4E,8Z)−12−メチルオキサシクロテトラデカ−4,8−ジエン−2−オン
室温にて、2N水酸化ナトリウム水溶液(7.00mL、14.0mmol)、続いて30%過酸化水素水溶液(11.0mL、112mmol)を、商業的に入手できる2−メチルシクロヘキサ−2−エノン(2.20g、20.0mmol)をメタノール(250mL)に溶解した撹拌した溶液に加え、その際に溶液の発生した赤色は、10分以内に消失した。室温にて24時間撹拌した後、反応混合物を水(200mL)で希釈し、ジクロロメタン(3×150mL)で抽出した。混ぜ合わせた有機抽出物を水(200mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下で除去し、得られた残留物をシリカゲル上のクロマトグラフィー[40g;ペンタン−EtO(9:1);R=0.29]により精製して、1−メチル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン−2−オン(1.18g、47%)を無色液体として得た。
【0038】
−10℃にて、p−トルエンスルホニルヒドラジン(6.14g、33.0mmol)を、1−メチル−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン−2−オン(3.78g、30.0mmol)を酢酸/ジクロロメタン(1:1、80mL)に溶解した撹拌した溶液に分割して加えた。反応混合物を、冷却媒体を新たに供給しないことによりゆっくりと放置して加温し、10℃にて、GCモニタリングにより完全な変換が示された。粉砕した氷(20g)を加え、層を分離した。水性層をジクロロメタン(2×50mL)で抽出し、混ぜ合わせた有機溶液を氷冷飽和重炭酸ナトリウム水溶液で中和した。硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を減圧下で除去した後に、得られた残留物のシリカゲル上でのクロマトグラフィー分離[50g;ペンタン−EtO−EtN(3:1:0.01);R=0.48、ペンタン−EtO(5:1)中]により、ヘプタ−5−イナール(1.74g、53%)を無色液体として得た。
【0039】
室温にて、ピペリジン(35.0μL、0.354mmol)および酢酸(19.0μL、0.332mmol)をジメチルスルホキシド(1.00mL)中で混合することにより新たに調製した酢酸ピペリジニウム溶液を、調製したヘプタ−5−イナール(1.50g、13.6mmol)およびマロン酸(2.83g、27.2mmol)をジメチルスルホキシド(50mL)に溶解した撹拌した溶液中に注入した。反応混合物を4時間還流した後に、水(10mL)およびエーテル(20mL)を室温にて加え、層を分離した。水性層をエーテル(3×25mL)で抽出し、混ぜ合わせた有機抽出物を水(25mL)で洗浄し、乾燥し(NaSO)、減圧下で濃縮した。149℃/14mbarにおけるKugelrohr蒸留により、(3E)−ノナ−3−エン−7−イノン酸(902mg、44%)を無色結晶(融点43〜45℃)として得た。
【0040】
【化7】

【0041】
室温にて、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(68.4mg、0.559mmol)を、(3E)−ノナ−3−エン−7−イノン酸(850mg、5.59mmol)および3−メチルオクタ−6−イン−1−オール(790mg、5.59mmol)をエーテル(20mL)に溶解した撹拌した溶液に加えた。3−メチルオクタ−6−イン−1−オール(1.80g、26%)を、S. L. Abidi, Tetrahedron Lett. 1986, 27, 267の手順に従って、酢酸/水(5:2、210mL)中でシトロネロール(7.81g、50.0mmol)および亜硝酸ナトリウム(93.2g、135mmol)から調製した。0℃にて、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(1.27g、6.14mmol)を加え、反応混合物をこの温度にて5分間撹拌し、その際に無色沈殿物が生成した。この不溶性物質を焼結した漏斗中で吸引により濾別し、濾液を減圧下で濃縮した。得られた残留物のシリカゲル上でのクロマトグラフィー[50g;ペンタン−EtO(20:1);R=0.65、ペンタン−EtO(5:1)中]により、ノナ−3−エン−7−イノン酸(3E)−3’−メチルオクタ−6’−イニル(470mg、31%)を無色液体として得た。
【0042】
【化8】

【0043】
ノナ−3−エン−7−イノン酸(3E)−3’−メチルオクタ−6’−イニル(350mg、1.28mmol)を無水クロロベンゼン(120mL)に溶解した溶液を、アルゴンで15分間脱ガスし、次にSchrockのカルビン触媒(MeCC≡W(OtBu)、60.5mg、0.128 mmol)を加えた。アルゴンの遅い流れと共に、得られた混合物を24時間還流させ、次に室温に放冷した。溶媒を減圧下で除去し、得られた残留物をシリカゲル上のクロマトグラフィー[50g;ペンタン−EtO(1:1);R=0.55、ペンタン−EtO(5:1)中]により精製して、(4E)−12−メチルオキサシクロテトラデカ−4−エン−8−イン−2−オン(220mg、78%)を無色液体として得た。
【0044】
【化9】

【0045】
キノリン(27.5μL、0.232mmol)および10%Pd/BaSO(4.90mg、0.0461mmol)を、(4E)−12−メチルオキサシクロテトラデカ−4−エン−8−イン−2−オン(256mg、1.16mmol)をエタノール(20mL)に溶解した撹拌した溶液に加えた。反応フラスコにアルゴン、続いて水素を流し、反応混合物を水素雰囲気下で室温および周囲圧にて撹拌した。5時間後、GCモニタリングにより完全な変換が示され、その際に触媒をセライトのパッドを通して濾別し、エタノールで洗浄した。溶媒を減圧下で除去し、得られた残留物をシリカゲル上のクロマトグラフィー[30g;ペンタン−EtO(20:1);R=0.60、ペンタン−EtO(5:1)中]により精製して、(4E,8Z)−12−メチルオキサシクロテトラデカ−4,8−ジエン−2−オン(223mg、86%)を無色有臭液体として得た。
【0046】
【化10】

香りの記載:ハーブおよびフローラルの様相を有する強力な暖かい、金属様の、パウダリーなムスクの香り、ならびに強力なホットアイロンの傾向。
【0047】
例3:他の化合物
以下の化合物をまた、例1および2により記載した一般的手順に従って調製することができる:
(4E,8Z)−13−メチルオキサシクロペンタデカ−4,8−ジエン−2−オン、
(4E,8Z)−14−メチルオキサシクロヘキサデカ−4,8−ジエン−2−オン、
(4E,9Z)−12−メチルオキサシクロテトラデカ−4,9−ジエン−2−オン、
(4E,9Z)−14−メチルオキサシクロヘキサデカ−4,9−ジエン−2−オン、
(4E,9Z)−15−メチルオキサシクロヘプタデカ−4,9−ジエン−2−オン、
(4E,10Z)−13−メチルオキサシクロ−ペンタデカ−4,10−ジエン−2−オン、
(4E,10Z)−14−メチルオキサシクロヘキサデカ−4,10−ジエン−2−オン、
(4E,10Z)−15−メチルオキサシクロヘプタデカ−4,10−ジエン−2−オン、
(4E,11Z)−14−メチルオキサシクロヘキサ−デカ−4,11−ジエン−2−オン、および
(4E,11Z)−15−メチルオキサシクロヘプタデカ−4,11−ジエン−2−オン。
【0048】
例4:女性用ファインフレグランス「ジャスミンホワイトアンバー(Jasmine-white Amber)およびグリーンアップル(Green Apple)」
【表1】

【0049】
10%にて、(4E,9Z)−13−メチルオキサシクロペンタデカ−4,9−ジエン−2−オン(例1)は、中心となるJasminium sambacの調和の周囲のこのフローラル組成物に特徴的なフローラルシグネチャームスクノートを伝達し、それは、トップノートのグリーンアップルとなるシクラールCを取り込むわずかにグリーンハーブの特徴をも有する柔軟な、暖かい、良好な感じの甘い芳香性のパウダリーなムスクの基盤にジャスミンのテーマを拡張する。(4E,9Z)−13−メチルオキサシクロ−ペンタデカ−4,9−ジエン−2−オンは良好に組み合わされ、大環状ケトンCOSMONE(登録商標)のパウダリーなニトロムスクの特性を強化し、さらにウッディー−ムスク様物質CASHMERAN(登録商標)のムスク様の特徴を増大させ、これにより丸い豊かなシグネチャームスクの調和をドライダウンで作製する。スピランブレンおよびアンバーケタールと共に、(4E,9Z)−13−メチルオキサシクロペンタデカ−4,9−ジエン−2−オンのフローラルの、ジャスミン様のムスクノートは独特な「ホワイトアンバー」のテーマ、即ち独特なホワイト−フローラルムスク様アンバーグリスノートを作製し、それは、(4E,9Z)−13−メチルオキサシクロペンタデカ−4,9−ジエン−2−オンなどのフローラルムスクを伴わずに、現在までこの青々として活発な方法で実現され得なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

式中、nおよびmは独立して1、2、3および4から選択され、ただし3≦n+m≦6であり;
C−4とC−5との間の二重結合は(E)立体配置にあり、C−(7+n)とC−(8+n)との間の結合は(Z)立体配置にある、
で表される化合物。
【請求項2】
(4E,8Z)−12−メチルオキサシクロテトラデカ−4,8−ジエン−2−オン、(4E,8Z)−13−メチルオキサシクロペンタデカ−4,8−ジエン−2−オン、(4E,8Z)−14−メチルオキサシクロヘキサデカ−4,8−ジエン−2−オン、(4E,9Z)−12−メチルオキサシクロテトラデカ−4,9−ジエン−2−オン、(4E,9Z)−13−メチルオキサシクロペンタデカ−4,9−ジエン−2−オン、(4E,9Z)−14−メチルオキサシクロヘキサデカ−4,9−ジエン−2−オン、(4E,9Z)−15−メチルオキサシクロヘプタデカ−4,9−ジエン−2−オン、(4E,10Z)−13−メチルオキサシクロ−ペンタデカ−4,10−ジエン−2−オン、(4E,10Z)−14−メチルオキサシクロヘキサデカ−4,10−ジエン−2−オン、(4E,10Z)−15−メチルオキサシクロヘプタデカ−4,10−ジエン−2−オン、(4E,11Z)−14−メチルオキサシクロヘキサ−デカ−4,11−ジエン−2−オンおよび(4E,11Z)−15−メチルオキサシクロヘプタデカ−4,11−ジエン−2−オンから選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(I)
【化2】

式中、nおよびmは独立して1、2、3および4から選択され、ただし3≦n+m≦6であり;
C−4とC−5との間の二重結合は(E)立体配置にあり、C−(7+n)とC−(8+n)との間の結合は(Z)立体配置にある、
で表される化合物またはそれらの混合物の、フレグランスとしての使用。
【請求項4】
請求項1において定義した式(I)で表される化合物またはそれらの混合物および消費者製品ベースを含む、フレグランス利用品。
【請求項5】
製品ベースがファインフレグランス、家庭用品、ランドリー製品、ボディケア用品および化粧品からなる群から選択される、請求項4に記載のフレグランス利用品。
【請求項6】
香水組成物またはフレグランス利用品を改善、増強または修正する方法であって、嗅覚的に許容し得る量の請求項1において定義した式(I)で表される化合物またはその混合物をそれに加えることによる、前記方法。
【請求項7】
式(II)
【化3】

式中、nおよびmは独立して1、2、3および4から選択され、ただし3≦n+m≦6である、
で表される化合物のアルキンメタセシスを含む、方法。

【公表番号】特表2010−540469(P2010−540469A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526125(P2010−526125)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際出願番号】PCT/CH2008/000396
【国際公開番号】WO2009/039675
【国際公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(501105842)ジボダン エス エー (158)
【Fターム(参考)】