フレネルレンズおよびフレネルレンズ成形型ならびにフレネルレンズの製造方法、フレネルレンズ成形型の製造方法
【課題】フレネルレンズにおける虹面の発生を抑制し、フレネルレンズの光学的性能を向上させる。
【解決手段】光軸(Z軸)の回りに回転する被加工物20に対して光軸方向に工具7を切り込むことにより、光学機能面21と垂直面22からなるフレネルレンズの輪帯を創成する切削加工において、光軸方向における工具7の工具切り込み速度Vを不規則に変化させ、不規則なピッチP1を有するカッターマーク23aを形成し、規則的なカッターマークが形成されることに起因する垂直面22の虹面の発生および光学機能面21への映り込みを防止し、フレネルレンズの光学性能を向上させる。
【解決手段】光軸(Z軸)の回りに回転する被加工物20に対して光軸方向に工具7を切り込むことにより、光学機能面21と垂直面22からなるフレネルレンズの輪帯を創成する切削加工において、光軸方向における工具7の工具切り込み速度Vを不規則に変化させ、不規則なピッチP1を有するカッターマーク23aを形成し、規則的なカッターマークが形成されることに起因する垂直面22の虹面の発生および光学機能面21への映り込みを防止し、フレネルレンズの光学性能を向上させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレネルレンズおよびフレネルレンズ成形型ならびにフレネルレンズの製造方法、フレネルレンズ成形型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、光学素子の一つとして、通常のレンズの屈折曲面を同心円状の複数の輪帯に分割して光軸方向に直交する平面上に不連続に配置した構成のフレネルレンズが知られている。
【0003】
このフレネルレンズは、光軸方向の厚さを削減して大口径でも軽量化が可能であること、さらに、屈折面が非連続であることから、各屈折面の角度は自由に設定でき、球面収差などを補正して、明るく効率のよい短焦点レンズを実現することができる等の利点があり、広く用いられている。
【0004】
このようなフレネルレンズまたはフレネルレンズ成形型の製造方法としては、特許文献1に記載された技術が知られている。
【0005】
すなわち、図1のよう、フレネルレンズ基板またはフレネルレンズ成形型基板等の素材100を、光軸を中心として回転させながら、レンズ面またはレンズ成形面の正面に剣状工具101を当接させ、所定の深さまで切り込み、同心円状の鋸刃状溝を創成するものである。
【0006】
この方法により、切刃102によって創成される工具転写面103と、工具先端によって削られる、光軸方向に平行な垂直面104が創成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−138004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述の従来技術では、剣状工具101の送り速度および素材100の回転速度は一定のため、図2に示すように剣状工具101の先端によって削られる光軸方向に平行な垂直面104には一定のピッチAの規則的なカッターマークが形成される。
【0009】
ところが、このような規則的なカッターマークは、光軸方向に平行な垂直面104における反射光の干渉によって虹面となり、隣接する工具転写面103に映りこみ、フレネルレンズの光学的な性能を低下させてしまう、という技術的課題がある。
【0010】
本発明の目的は、フレネルレンズにおける虹面の発生を抑制し、フレネルレンズの光学的性能を向上させることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点は、光軸方向に対して交差する光学機能面と、前記光軸方向に平行な段差面を有するフレネルレンズであって、
前記光軸方向に平行な段差面に形成されたカッターマークの前記光軸方向のピッチが不規則であるフレネルレンズを提供する。
【0012】
本発明の第2の観点は、光軸方向に対して交差する光学機能面を転写する第1型面と、前記光軸方向に平行な段差面を転写する第2型面を有するフレネルレンズ成形型であって、
前記第2型面に形成されたカッターマークの前記光軸方向のピッチが不規則であるフレネルレンズ成形型を提供する。
【0013】
本発明の第3の観点は、光軸方向に平行な回転軸によって相対的に回転される被加工物に対して、前記光軸方向に平行に相対的に移動する切削工具を当接させることで、前記光軸方向に対して交差する光学機能面および前記光軸方向に平行な段差面を創成するフレネルレンズの製造方法であって、
前記切削工具の移動速度および前記被加工物の回転速度の少なくとも一方を加工中に不規則に変動させるフレネルレンズの製造方法を提供する。
【0014】
本発明の第4の観点は、光軸方向に平行な回転軸によって相対的に回転される被加工物に対して、前記光軸方向に平行に相対的に移動する切削工具を当接させることで、前記光軸方向に対して交差する光学機能面を転写する第1型面および前記光軸方向に平行な段差面を転写する第2型面を形成するフレネルレンズ成形型の製造方法であって、
前記切削工具の移動速度および前記被加工物の回転速度の少なくとも一方を加工中に不規則に変動させるフレネルレンズ成形型の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フレネルレンズにおける虹面の発生を抑制し、フレネルレンズの光学的性能を向上させることが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来のフレネルレンズの加工方法を示す略断面図である。
【図2】従来のフレネルレンズの拡大断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態であるフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法を実施する加工装置の構成の一例を示す概念図である。
【図4】本発明の一実施の形態であるフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法の作用を説明する略断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態であるフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法の作用を説明する拡大断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態であるフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法の作用を説明する拡大断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態である超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示すフローチャートである。
【図8】本発明の一実施の形態である超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示す線図である。
【図9】本発明の一実施の形態であるフレネルレンズおよびフレネルレンズ成形型の構成例を示す略断面図である。
【図10】本発明の一実施の形態であるフレネルレンズおよびフレネルレンズ成形型の構成例を示す略断面図である。
【図11】本発明の他の実施の形態であるフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法の作用を説明する略断面図である。
【図12】本発明の他実施の形態における超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示すフローチャートである。
【図13】本発明の他実施の形態における超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施の形態では、第1態様として、剣状工具を用い、レンズ面またはレンズ成形面の正面に工具を当接させ所定の深さまで切り込み、鋸刃状溝を創成するフレネルレンズ加工において、工具切り込み方向に平行な面のカッターマークのピッチが一定でない、加工技術を例示する。
【0018】
また、第2態様では、上述の第1態様において、工具の切り込み速度を変動させる方法にて、剣状工具先端により形成される工具切り込み方向に平行な面のカッターマークのピッチが一定にならないように制御する。
【0019】
また、第3態様では、上述の第1態様において、被加工物の回転速度を変動させる方法にて、剣状工具先端により形成される工具切り込み方向に平行な面のカッターマークのピッチが一定にならないように制御する。
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
なお、以下の本実施の形態の説明では、各図において、X、Y、Zの各方向は図示の通りとする。
【0021】
(実施の形態1)
図3は、本発明の一実施の形態であるフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法を実施する加工装置の構成の一例を示す概念図である。
図4は、本実施の形態のフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法の作用を説明する略断面図である。
【0022】
図5および図6は、本実施の形態のフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法の作用を説明する拡大断面図である。
本実施の形態では、一例として、たとえば、超精密加工旋盤からなる超精密加工装置10を例示する。
【0023】
図3に例示されるように、本実施の形態の超精密加工装置10は、Z軸方向に移動制御するZ軸スライドテーブル1と、X軸方向に移動制御するX軸スライドテーブル2と、XZ軸平面に垂直なY軸方向を回転軸として回転するB軸回転テーブル3を備え、さらに、上記X,Y,Z,BおよびZ軸の回りの回転の5軸の移動を同期制御することが可能なNC制御装置8を備えている。
【0024】
Z軸スライドテーブル1上には、Z軸方向と平行な向きに主軸回転軸を持つ主軸回転装置5が備え付けられ、B軸回転テーブル3の上には、X軸とZ軸方向に調整できる移動装置6が備え付けられている。
【0025】
主軸回転装置5には、Z軸方向にスピンドル4が設けられ、このスピンドル4の先端には、チャック4aを介して被加工物20が着脱自在に保持されている。
【0026】
また、B軸回転テーブル3に搭載された移動装置6には切削工具を保持できる図示しない刃物台構造を備えており、単結晶ダイヤモンドで切刃7aが構成された工具7(切削工具)が取り付けられている。
【0027】
NC制御装置8は、上記X,Y,Z,Bの4軸の各々に設けられた図示しないサーボモータ、およびスピンドル4を回転駆動する図示しないスピンドルモータの回転を制御するサーボ制御部8aと、このサーボ制御部8aを制御するコンピュータからなるコントローラ8bを備えている。
【0028】
コントローラ8bは、たとえば、NCプログラム等の制御プログラム9を実行することで、後述のフローチャートに例示されるような加工動作を実現する情報処理機能を備えている。
【0029】
本実施の形態の場合、たとえば、被加工物20から後述のようなフレネルレンズ20A、フレネルレンズ20Bを直接的に加工する場合には、被加工物20は光学素子素材で構成される。
【0030】
また、後述のようなフレネルレンズ20A、フレネルレンズ20Bを成形するためのフレネルレンズ成形型20KA、フレネルレンズ成形型20KBを製作する場合には、被加工物20は、金属等の型材料で構成される。
【0031】
簡単のため、以下では、被加工物20からフレネルレンズ20A、フレネルレンズ20Bを切削加工で直接的に製作する場合について説明する。
【0032】
次に本実施の形態1の作用について図4、図5、図6を用いて説明する。
まず、被加工物20を主軸回転装置5のスピンドル4の先端に保持させて、主軸回転装置5のスピンドル4を介して被加工物20を回転させる。
【0033】
そして、被加工物20の正面に工具7を当接して所定の溝幅かつ所定の切り込み深さまで切り込む動作を被加工物20の外周から中心、或いは、その反対方向に向かって所望の輪帯数だけ繰り返し、光軸方向(この場合、Z軸方向)に交差する複数の光学機能面21(光学機能面)(輪帯)および光軸方向に平行な垂直面22(段差面)からなる鋸刃状溝を創成する。
【0034】
この時、各々が同心円状の光学機能面21である複数の輪帯を加工するために、被加工物20に対する工具7の走査方法の一例として、図4に示すように所定の位置aから主軸回転軸方向に所定の位置bまで切り込み、再び所定の位置aまで戻って、所定の溝幅cまで移動する、という動作を輪帯数だけ繰り返す。
【0035】
ここで、本実施の形態の場合には、所定の位置aからスピンドル4の回転軸方向(Z軸方向)に所定の位置bまで工具7を相対的に切り込む際、工具7の先端7bによって削られるレンズ面(光軸に直交する平面でこの場合X−Y平面)に垂直な垂直面22に形成されるカッターマーク23のピッチPが一定とならないよう、工具7の切り込み速度を変動させ、工具7によって形成されるカッターマーク23のピッチPを不均一、すなわち不規則にする。
【0036】
工具の切り込み速度を変化させる具体例として、図5に示すカッターマーク23aになるように、加工中に、ある基準の速度(基準工具切り込み速度V0)に対し50%〜200%の範囲で工具切り込み速度V(移動速度)の増減を繰り返すが、工具7の損傷が無く、かつ垂直面22および光学機能面21に良好な加工面が得られる増減幅であればこの範囲以外でも良い。
【0037】
また、図6に示すランダムなピッチP2のカッターマーク23bとなるよう基準の速度(基準工具切り込み速度V0)に対し、工具7の工具切り込み速度Vをランダムに変化させても良い。
【0038】
このような本実施の形態の超精密加工装置10の動作の一例をさらに詳細に説明する。
図7は、本実施の形態の超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示すフローチャートである。
図8は、本実施の形態の超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示す線図である。
【0039】
本実施の形態の超精密加工装置10のNC制御装置8は、制御プログラム9を実行することによって、以下のような加工動作を実現する。
まず、NC制御装置8は、基準工具切り込み速度V0および基準ワーク回転速度W0の設定入力を受け付けて記憶する(ステップ201)。
【0040】
基準工具切り込み速度V0は、被加工物20の材質や工具7の種類等に応じて適宜決められる工具7の工具切り込み速度Vの基準値である。
同様に、基準ワーク回転速度W0は、被加工物20の材質や工具7の種類等に応じて適宜決められるスピンドル4、すなわち被加工物20の回転速度の基準値である。
【0041】
次に、NC制御装置8は、主軸回転装置5を制御して被加工物20を基準ワーク回転速度W0で回転させ(ステップ202)、さらに、X軸スライドテーブル2を制御して、工具7のX軸方向(加工される輪帯の直径方向)における位置決めを行う(ステップ203)。
【0042】
その後、NC制御装置8は、Z軸スライドテーブル1を制御して、工具7が被加工物20の表面に接する加工開始位置まで、工具7を被加工物20に相対的に高速に接近させる早送りを行う(図8の早送り区間t1)(ステップ204)。
【0043】
そして、NC制御装置8は、加工開始位置に到達したら(ステップ205)、工具7の送り速度、すなわち工具切り込み速度Vを、基準の基準工具切り込み速度V0に設定して、基準ワーク回転速度W0で一定に回転する被加工物20に対して、工具7による光学機能面21としての輪帯および垂直面22の創成加工を開始する(ステップ206)。
【0044】
そして、本実施の形態の場合、NC制御装置8は、この創成加工中に、Z軸スライドテーブル1によるZ軸方向(光軸方向)の相対的な移動速度を変化させることで、工具切り込み速度Vを基準工具切り込み速度V0に対して不規則に変動させ、不均一なピッチPを有するカッターマーク23を垂直面22に形成するように制御する(図8の加工区間t2)(ステップ207)。
【0045】
そして、NC制御装置8は、Z方向の切り込み加工が完了したら(ステップ208)、図4の位置bから位置aに戻る工具7の後退早送りを実行する(図8の後退早送り区間t4)(ステップ209)。
【0046】
そして、NC制御装置8は、未加工の輪帯があれば、ステップ203に戻って次の輪帯の位置にX方向に移動し、無ければ、創成加工を完了する(ステップ210)。
【0047】
なお、本実施の形態の場合には、NC制御装置8は、図8の加工区間t2に示されるように、当該加工区間t2の終端部、すなわち、加工完了時における光学機能面21と垂直面22の交差部位に相当する終端仕上げ区間t3では、工具切り込み速度Vを基準工具切り込み速度V0に一定に制御する。
【0048】
これにより、光学機能面21と垂直面22のV字形の交差部位の加工精度を上げて両者の鋭利な交差部位を実現し、光学機能面21の光学性能を向上させつつ、虹面の発生を抑止できる。
【0049】
図9および図10は、本実施の形態の創成加工によって製作されたフレネルレンズおよびフレネルレンズ成形型の構成例を示す略断面図である。
図9は、凹レンズとして機能するフレネルレンズ20Aを示し、図10は、凸レンズとして機能するフレネルレンズ20Bを示している。
【0050】
なお、図9の凹レンズのフレネルレンズ20Aを型成形する場合には、図10に例示される凸レンズのフレネルレンズ20Bの光学機能面21および垂直面22に相当する、光学機能成形面20KA−1(第1型面)および垂直成形面20KA−2(第2型面)を有するフレネルレンズ成形型20KAを製作して使用すればよい。
【0051】
同様に、図10の凸レンズのフレネルレンズ20Bを型成形する場合には、図9に例示される凹レンズのフレネルレンズ20Aの光学機能面21および垂直面22に相当する光学機能成形面20KB−1(第1型面)および垂直成形面20KB−2(第2型面)を有するフレネルレンズ成形型20KBを製作して使用すればよい。
【0052】
いずれの場合も、垂直面22における虹面発生が防止されるので、垂直面22の虹面が隣接する光学機能面21に映り込むことに起因する光学機能面21の光学性能の低下が防止され、高品質のフレネルレンズ20A、フレネルレンズ20Bを製作できる。
【0053】
このように、本実施の形態1によれば、フレネルレンズ、フレネルレンズ用成形金型のレンズ面に垂直な垂直面22のカッターマーク23のピッチPを不均一に、すなわち不規則に形成することができるので、垂直面22における虹面の発生を抑制することが可能である。
【0054】
この結果、工具7による切削加工によって製作されるフレネルレンズ20A、フレネルレンズ20B、あるいはフレネルレンズ成形型20KA、フレネルレンズ成形型20KBを用いて型成形されるフレネルレンズ20A、フレネルレンズ20Bにおける光学性能の向上を実現できる。
【0055】
なお、上述の超精密加工装置10の構成としては、B軸回転テーブル3を備えない超精密加工旋盤装置(図示省略)でも、本実施の形態のフレネルレンズの製造方法、フレネルレンズ成形型の製造方法は実現可能である。
【0056】
(実施の形態2)
次に、図11、図12、図13を参照して、本発明の他の実施の形態について説明する。
図11は、本実施の形態2の作用を説明する略断面図である。
図12は、本実施の形態2の超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示すフローチャートである。
【0057】
図13は、本実施の形態2の超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示す線図である。
この実施の形態2の場合、実施の形態1と加工条件およびそれに応じた制御プログラム9の制御機能が異なるのみで、使用する超精密加工装置10の構成は同一である。
【0058】
この実施の形態2の場合には、加工中に、工具切り込み速度Vに変化は与えず一定とし、ワーク回転速度W(回転速度)を変化させることで、垂直面22に不規則なピッチP3のカッターマーク23cを形成する。
【0059】
すなわち、この実施の形態2の場合には、図11に例示されるように、所定の位置aから主軸回転装置5の回転軸方向(Z軸方向)に所定の位置bまで切り込む際、工具7の先端7bによって削られるレンズ面に垂直な垂直面22のカッターマーク23のピッチPが一定とならないよう、被加工物20のワーク回転速度Wを変動させることにより、工具7によるカッターマーク23のピッチPが不均一、すなわち不規則になるように制御する。
【0060】
加工中における被加工物20のワーク回転速度Wを可変に制御する具体例として、たとえば、上述の図5に例示されるカッターマーク23aになるよう、ある基準の速度(基準ワーク回転速度W0)に対し50〜200%の範囲でワーク回転速度Wの増減を繰り返すが、工具7の損傷が無く良好な加工面が得られる増減幅であればこの範囲以外でも良い。
【0061】
図12は、この実施の形態2の加工を実現するためのNC制御装置8(制御プログラム9)の制御動作の一例を示している。
【0062】
この実施の形態2の場合、NC制御装置8は、制御プログラム9を実行することにより、加工中に、上述の図7のステップ207の代わりに、ステップ220のようにワーク回転速度Wを、基準ワーク回転速度W0に対して不規則に変化させるように制御する点が、上述の実施の形態1と異なり、他は同様である。
【0063】
また、図13に例示されるように、ワーク回転速度Wを不規則に変化させる場合も、加工区間t2の終端仕上げ区間t3では、ワーク回転速度Wを、基準ワーク回転速度W0に一定に制御して、光学機能面21と垂直面22のV字形の交差部位の加工精度を上げて両者の鋭利な交差部位を実現し、光学機能面21の光学性能を向上させつつ、虹面の発生を抑止する。
【0064】
この実施の形態2によれば、上述の実施の形態1と同様に、垂直面22に形成されるカッターマーク23のピッチPを不規則にして虹面の発生を防止できる効果が得られる。
【0065】
以上説明したように、本発明の各実施の形態によれば、レンズ面に垂直な垂直面22のカッターマークのピッチを不均一に、すなわち不規則にすることができるので、垂直面22における虹面の発生が抑制され、垂直面22の虹面が光学機能面21に映り込むことが防止され、得られるフレネルレンズ20Aやフレネルレンズ20Bの光学性能の向上を実現できる。
【0066】
たとえば、レーザ干渉計では、レーザを参照レンズと検査対象の光学部品に照射し、反射または透過させた光の波形を干渉させることで現れる干渉縞で対象物の光学部品の面形状精度を測る評価システムが構成される場合がある。
【0067】
このようなレーザ干渉計の参照レンズとして、たとえば、フレネルレンズを用いる場合、垂直面22の規則的なカッターマークに起因する虹面の光学機能面21に対する映り込みは、測定精度の劣化の一因となる。
【0068】
従って、垂直面22における虹面の発生が抑制された本実施の形態のフレネルレンズ20Aやフレネルレンズ20Bをレーザ干渉計の参照レンズとして用いることにより、レーザ干渉計の測定精度を向上させることが可能になる。
【0069】
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
たとえば、加工中において、工具切り込み速度Vの変化と、ワーク回転速度Wの変化を組み合わせて、垂直面22に、不規則なピッチPを有するカッターマーク23が形成されるようにしてもよい。
【0070】
たとえば、光学機器に使用される回転軸対称形状の高精度光学素子、または、それらを成形するための光学素子成型用金型とその切削加工法に広く適用できる。
【0071】
[付記1]
回転軸対称レンズまたはレンズ成形型である被加工物を回転させながら、前記被加工物の正面から剣状工具を当接させ所定の深さまで切り込み、鋸刃状溝を創成されたフレネルレンズまたはフレネルレンズ成形用金型において、工具切り込み方向に平行な面に形成されるカッターマークのピッチが一定間隔ではないことを特徴とするフレネルレンズまたはフレネルレンズ成形用金型。
【0072】
[付記2]
付記1記載のフレネルレンズまたはフレネルレンズ成形用金型の面のカッターマークのピッチは、工具の切り込み速度を変動させることにより、形成されることを特徴とする、フレネルレンズまたはフレネルレンズ成形用金型の切削加工方法。
【0073】
[付記3]
付記1記載のフレネルレンズまたはフレネルレンズ成形用金型の面のカッターマークのピッチは、フレネルレンズまたはフレネルレンズ成形用金型の回転速度を変動させることにより、形成されることを特徴とする、フレネルレンズまたはフレネルレンズ成形用金型の切削加工方法。
【符号の説明】
【0074】
1 Z軸スライドテーブル
2 X軸スライドテーブル
3 B軸回転テーブル
4 スピンドル
4a チャック
5 主軸回転装置
6 移動装置
7 工具
7a 切刃
7b 先端
8 NC制御装置
8a サーボ制御部
8b コントローラ
9 制御プログラム
10 超精密加工装置
20 被加工物
20A フレネルレンズ
20B フレネルレンズ
20KA フレネルレンズ成形型
20KA−1 光学機能成形面
20KA−2 垂直成形面
20KB フレネルレンズ成形型
20KB−1 光学機能成形面
20KB−2 垂直成形面
21 光学機能面
22 垂直面
23 カッターマーク
23a カッターマーク
23b カッターマーク
23c カッターマーク
P ピッチ
P1 ピッチ
P2 ピッチ
P3 ピッチ
V 工具切り込み速度
V0 基準工具切り込み速度
W ワーク回転速度
W0 基準ワーク回転速度
t1 早送り区間
t2 加工区間
t3 終端仕上げ区間
t4 後退早送り区間
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレネルレンズおよびフレネルレンズ成形型ならびにフレネルレンズの製造方法、フレネルレンズ成形型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、光学素子の一つとして、通常のレンズの屈折曲面を同心円状の複数の輪帯に分割して光軸方向に直交する平面上に不連続に配置した構成のフレネルレンズが知られている。
【0003】
このフレネルレンズは、光軸方向の厚さを削減して大口径でも軽量化が可能であること、さらに、屈折面が非連続であることから、各屈折面の角度は自由に設定でき、球面収差などを補正して、明るく効率のよい短焦点レンズを実現することができる等の利点があり、広く用いられている。
【0004】
このようなフレネルレンズまたはフレネルレンズ成形型の製造方法としては、特許文献1に記載された技術が知られている。
【0005】
すなわち、図1のよう、フレネルレンズ基板またはフレネルレンズ成形型基板等の素材100を、光軸を中心として回転させながら、レンズ面またはレンズ成形面の正面に剣状工具101を当接させ、所定の深さまで切り込み、同心円状の鋸刃状溝を創成するものである。
【0006】
この方法により、切刃102によって創成される工具転写面103と、工具先端によって削られる、光軸方向に平行な垂直面104が創成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−138004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述の従来技術では、剣状工具101の送り速度および素材100の回転速度は一定のため、図2に示すように剣状工具101の先端によって削られる光軸方向に平行な垂直面104には一定のピッチAの規則的なカッターマークが形成される。
【0009】
ところが、このような規則的なカッターマークは、光軸方向に平行な垂直面104における反射光の干渉によって虹面となり、隣接する工具転写面103に映りこみ、フレネルレンズの光学的な性能を低下させてしまう、という技術的課題がある。
【0010】
本発明の目的は、フレネルレンズにおける虹面の発生を抑制し、フレネルレンズの光学的性能を向上させることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点は、光軸方向に対して交差する光学機能面と、前記光軸方向に平行な段差面を有するフレネルレンズであって、
前記光軸方向に平行な段差面に形成されたカッターマークの前記光軸方向のピッチが不規則であるフレネルレンズを提供する。
【0012】
本発明の第2の観点は、光軸方向に対して交差する光学機能面を転写する第1型面と、前記光軸方向に平行な段差面を転写する第2型面を有するフレネルレンズ成形型であって、
前記第2型面に形成されたカッターマークの前記光軸方向のピッチが不規則であるフレネルレンズ成形型を提供する。
【0013】
本発明の第3の観点は、光軸方向に平行な回転軸によって相対的に回転される被加工物に対して、前記光軸方向に平行に相対的に移動する切削工具を当接させることで、前記光軸方向に対して交差する光学機能面および前記光軸方向に平行な段差面を創成するフレネルレンズの製造方法であって、
前記切削工具の移動速度および前記被加工物の回転速度の少なくとも一方を加工中に不規則に変動させるフレネルレンズの製造方法を提供する。
【0014】
本発明の第4の観点は、光軸方向に平行な回転軸によって相対的に回転される被加工物に対して、前記光軸方向に平行に相対的に移動する切削工具を当接させることで、前記光軸方向に対して交差する光学機能面を転写する第1型面および前記光軸方向に平行な段差面を転写する第2型面を形成するフレネルレンズ成形型の製造方法であって、
前記切削工具の移動速度および前記被加工物の回転速度の少なくとも一方を加工中に不規則に変動させるフレネルレンズ成形型の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フレネルレンズにおける虹面の発生を抑制し、フレネルレンズの光学的性能を向上させることが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来のフレネルレンズの加工方法を示す略断面図である。
【図2】従来のフレネルレンズの拡大断面図である。
【図3】本発明の一実施の形態であるフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法を実施する加工装置の構成の一例を示す概念図である。
【図4】本発明の一実施の形態であるフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法の作用を説明する略断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態であるフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法の作用を説明する拡大断面図である。
【図6】本発明の一実施の形態であるフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法の作用を説明する拡大断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態である超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示すフローチャートである。
【図8】本発明の一実施の形態である超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示す線図である。
【図9】本発明の一実施の形態であるフレネルレンズおよびフレネルレンズ成形型の構成例を示す略断面図である。
【図10】本発明の一実施の形態であるフレネルレンズおよびフレネルレンズ成形型の構成例を示す略断面図である。
【図11】本発明の他の実施の形態であるフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法の作用を説明する略断面図である。
【図12】本発明の他実施の形態における超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示すフローチャートである。
【図13】本発明の他実施の形態における超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施の形態では、第1態様として、剣状工具を用い、レンズ面またはレンズ成形面の正面に工具を当接させ所定の深さまで切り込み、鋸刃状溝を創成するフレネルレンズ加工において、工具切り込み方向に平行な面のカッターマークのピッチが一定でない、加工技術を例示する。
【0018】
また、第2態様では、上述の第1態様において、工具の切り込み速度を変動させる方法にて、剣状工具先端により形成される工具切り込み方向に平行な面のカッターマークのピッチが一定にならないように制御する。
【0019】
また、第3態様では、上述の第1態様において、被加工物の回転速度を変動させる方法にて、剣状工具先端により形成される工具切り込み方向に平行な面のカッターマークのピッチが一定にならないように制御する。
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
なお、以下の本実施の形態の説明では、各図において、X、Y、Zの各方向は図示の通りとする。
【0021】
(実施の形態1)
図3は、本発明の一実施の形態であるフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法を実施する加工装置の構成の一例を示す概念図である。
図4は、本実施の形態のフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法の作用を説明する略断面図である。
【0022】
図5および図6は、本実施の形態のフレネルレンズの製造方法およびフレネルレンズ成形型の製造方法の作用を説明する拡大断面図である。
本実施の形態では、一例として、たとえば、超精密加工旋盤からなる超精密加工装置10を例示する。
【0023】
図3に例示されるように、本実施の形態の超精密加工装置10は、Z軸方向に移動制御するZ軸スライドテーブル1と、X軸方向に移動制御するX軸スライドテーブル2と、XZ軸平面に垂直なY軸方向を回転軸として回転するB軸回転テーブル3を備え、さらに、上記X,Y,Z,BおよびZ軸の回りの回転の5軸の移動を同期制御することが可能なNC制御装置8を備えている。
【0024】
Z軸スライドテーブル1上には、Z軸方向と平行な向きに主軸回転軸を持つ主軸回転装置5が備え付けられ、B軸回転テーブル3の上には、X軸とZ軸方向に調整できる移動装置6が備え付けられている。
【0025】
主軸回転装置5には、Z軸方向にスピンドル4が設けられ、このスピンドル4の先端には、チャック4aを介して被加工物20が着脱自在に保持されている。
【0026】
また、B軸回転テーブル3に搭載された移動装置6には切削工具を保持できる図示しない刃物台構造を備えており、単結晶ダイヤモンドで切刃7aが構成された工具7(切削工具)が取り付けられている。
【0027】
NC制御装置8は、上記X,Y,Z,Bの4軸の各々に設けられた図示しないサーボモータ、およびスピンドル4を回転駆動する図示しないスピンドルモータの回転を制御するサーボ制御部8aと、このサーボ制御部8aを制御するコンピュータからなるコントローラ8bを備えている。
【0028】
コントローラ8bは、たとえば、NCプログラム等の制御プログラム9を実行することで、後述のフローチャートに例示されるような加工動作を実現する情報処理機能を備えている。
【0029】
本実施の形態の場合、たとえば、被加工物20から後述のようなフレネルレンズ20A、フレネルレンズ20Bを直接的に加工する場合には、被加工物20は光学素子素材で構成される。
【0030】
また、後述のようなフレネルレンズ20A、フレネルレンズ20Bを成形するためのフレネルレンズ成形型20KA、フレネルレンズ成形型20KBを製作する場合には、被加工物20は、金属等の型材料で構成される。
【0031】
簡単のため、以下では、被加工物20からフレネルレンズ20A、フレネルレンズ20Bを切削加工で直接的に製作する場合について説明する。
【0032】
次に本実施の形態1の作用について図4、図5、図6を用いて説明する。
まず、被加工物20を主軸回転装置5のスピンドル4の先端に保持させて、主軸回転装置5のスピンドル4を介して被加工物20を回転させる。
【0033】
そして、被加工物20の正面に工具7を当接して所定の溝幅かつ所定の切り込み深さまで切り込む動作を被加工物20の外周から中心、或いは、その反対方向に向かって所望の輪帯数だけ繰り返し、光軸方向(この場合、Z軸方向)に交差する複数の光学機能面21(光学機能面)(輪帯)および光軸方向に平行な垂直面22(段差面)からなる鋸刃状溝を創成する。
【0034】
この時、各々が同心円状の光学機能面21である複数の輪帯を加工するために、被加工物20に対する工具7の走査方法の一例として、図4に示すように所定の位置aから主軸回転軸方向に所定の位置bまで切り込み、再び所定の位置aまで戻って、所定の溝幅cまで移動する、という動作を輪帯数だけ繰り返す。
【0035】
ここで、本実施の形態の場合には、所定の位置aからスピンドル4の回転軸方向(Z軸方向)に所定の位置bまで工具7を相対的に切り込む際、工具7の先端7bによって削られるレンズ面(光軸に直交する平面でこの場合X−Y平面)に垂直な垂直面22に形成されるカッターマーク23のピッチPが一定とならないよう、工具7の切り込み速度を変動させ、工具7によって形成されるカッターマーク23のピッチPを不均一、すなわち不規則にする。
【0036】
工具の切り込み速度を変化させる具体例として、図5に示すカッターマーク23aになるように、加工中に、ある基準の速度(基準工具切り込み速度V0)に対し50%〜200%の範囲で工具切り込み速度V(移動速度)の増減を繰り返すが、工具7の損傷が無く、かつ垂直面22および光学機能面21に良好な加工面が得られる増減幅であればこの範囲以外でも良い。
【0037】
また、図6に示すランダムなピッチP2のカッターマーク23bとなるよう基準の速度(基準工具切り込み速度V0)に対し、工具7の工具切り込み速度Vをランダムに変化させても良い。
【0038】
このような本実施の形態の超精密加工装置10の動作の一例をさらに詳細に説明する。
図7は、本実施の形態の超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示すフローチャートである。
図8は、本実施の形態の超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示す線図である。
【0039】
本実施の形態の超精密加工装置10のNC制御装置8は、制御プログラム9を実行することによって、以下のような加工動作を実現する。
まず、NC制御装置8は、基準工具切り込み速度V0および基準ワーク回転速度W0の設定入力を受け付けて記憶する(ステップ201)。
【0040】
基準工具切り込み速度V0は、被加工物20の材質や工具7の種類等に応じて適宜決められる工具7の工具切り込み速度Vの基準値である。
同様に、基準ワーク回転速度W0は、被加工物20の材質や工具7の種類等に応じて適宜決められるスピンドル4、すなわち被加工物20の回転速度の基準値である。
【0041】
次に、NC制御装置8は、主軸回転装置5を制御して被加工物20を基準ワーク回転速度W0で回転させ(ステップ202)、さらに、X軸スライドテーブル2を制御して、工具7のX軸方向(加工される輪帯の直径方向)における位置決めを行う(ステップ203)。
【0042】
その後、NC制御装置8は、Z軸スライドテーブル1を制御して、工具7が被加工物20の表面に接する加工開始位置まで、工具7を被加工物20に相対的に高速に接近させる早送りを行う(図8の早送り区間t1)(ステップ204)。
【0043】
そして、NC制御装置8は、加工開始位置に到達したら(ステップ205)、工具7の送り速度、すなわち工具切り込み速度Vを、基準の基準工具切り込み速度V0に設定して、基準ワーク回転速度W0で一定に回転する被加工物20に対して、工具7による光学機能面21としての輪帯および垂直面22の創成加工を開始する(ステップ206)。
【0044】
そして、本実施の形態の場合、NC制御装置8は、この創成加工中に、Z軸スライドテーブル1によるZ軸方向(光軸方向)の相対的な移動速度を変化させることで、工具切り込み速度Vを基準工具切り込み速度V0に対して不規則に変動させ、不均一なピッチPを有するカッターマーク23を垂直面22に形成するように制御する(図8の加工区間t2)(ステップ207)。
【0045】
そして、NC制御装置8は、Z方向の切り込み加工が完了したら(ステップ208)、図4の位置bから位置aに戻る工具7の後退早送りを実行する(図8の後退早送り区間t4)(ステップ209)。
【0046】
そして、NC制御装置8は、未加工の輪帯があれば、ステップ203に戻って次の輪帯の位置にX方向に移動し、無ければ、創成加工を完了する(ステップ210)。
【0047】
なお、本実施の形態の場合には、NC制御装置8は、図8の加工区間t2に示されるように、当該加工区間t2の終端部、すなわち、加工完了時における光学機能面21と垂直面22の交差部位に相当する終端仕上げ区間t3では、工具切り込み速度Vを基準工具切り込み速度V0に一定に制御する。
【0048】
これにより、光学機能面21と垂直面22のV字形の交差部位の加工精度を上げて両者の鋭利な交差部位を実現し、光学機能面21の光学性能を向上させつつ、虹面の発生を抑止できる。
【0049】
図9および図10は、本実施の形態の創成加工によって製作されたフレネルレンズおよびフレネルレンズ成形型の構成例を示す略断面図である。
図9は、凹レンズとして機能するフレネルレンズ20Aを示し、図10は、凸レンズとして機能するフレネルレンズ20Bを示している。
【0050】
なお、図9の凹レンズのフレネルレンズ20Aを型成形する場合には、図10に例示される凸レンズのフレネルレンズ20Bの光学機能面21および垂直面22に相当する、光学機能成形面20KA−1(第1型面)および垂直成形面20KA−2(第2型面)を有するフレネルレンズ成形型20KAを製作して使用すればよい。
【0051】
同様に、図10の凸レンズのフレネルレンズ20Bを型成形する場合には、図9に例示される凹レンズのフレネルレンズ20Aの光学機能面21および垂直面22に相当する光学機能成形面20KB−1(第1型面)および垂直成形面20KB−2(第2型面)を有するフレネルレンズ成形型20KBを製作して使用すればよい。
【0052】
いずれの場合も、垂直面22における虹面発生が防止されるので、垂直面22の虹面が隣接する光学機能面21に映り込むことに起因する光学機能面21の光学性能の低下が防止され、高品質のフレネルレンズ20A、フレネルレンズ20Bを製作できる。
【0053】
このように、本実施の形態1によれば、フレネルレンズ、フレネルレンズ用成形金型のレンズ面に垂直な垂直面22のカッターマーク23のピッチPを不均一に、すなわち不規則に形成することができるので、垂直面22における虹面の発生を抑制することが可能である。
【0054】
この結果、工具7による切削加工によって製作されるフレネルレンズ20A、フレネルレンズ20B、あるいはフレネルレンズ成形型20KA、フレネルレンズ成形型20KBを用いて型成形されるフレネルレンズ20A、フレネルレンズ20Bにおける光学性能の向上を実現できる。
【0055】
なお、上述の超精密加工装置10の構成としては、B軸回転テーブル3を備えない超精密加工旋盤装置(図示省略)でも、本実施の形態のフレネルレンズの製造方法、フレネルレンズ成形型の製造方法は実現可能である。
【0056】
(実施の形態2)
次に、図11、図12、図13を参照して、本発明の他の実施の形態について説明する。
図11は、本実施の形態2の作用を説明する略断面図である。
図12は、本実施の形態2の超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示すフローチャートである。
【0057】
図13は、本実施の形態2の超精密加工装置の制御プログラム制御による加工制御の作用の一例を示す線図である。
この実施の形態2の場合、実施の形態1と加工条件およびそれに応じた制御プログラム9の制御機能が異なるのみで、使用する超精密加工装置10の構成は同一である。
【0058】
この実施の形態2の場合には、加工中に、工具切り込み速度Vに変化は与えず一定とし、ワーク回転速度W(回転速度)を変化させることで、垂直面22に不規則なピッチP3のカッターマーク23cを形成する。
【0059】
すなわち、この実施の形態2の場合には、図11に例示されるように、所定の位置aから主軸回転装置5の回転軸方向(Z軸方向)に所定の位置bまで切り込む際、工具7の先端7bによって削られるレンズ面に垂直な垂直面22のカッターマーク23のピッチPが一定とならないよう、被加工物20のワーク回転速度Wを変動させることにより、工具7によるカッターマーク23のピッチPが不均一、すなわち不規則になるように制御する。
【0060】
加工中における被加工物20のワーク回転速度Wを可変に制御する具体例として、たとえば、上述の図5に例示されるカッターマーク23aになるよう、ある基準の速度(基準ワーク回転速度W0)に対し50〜200%の範囲でワーク回転速度Wの増減を繰り返すが、工具7の損傷が無く良好な加工面が得られる増減幅であればこの範囲以外でも良い。
【0061】
図12は、この実施の形態2の加工を実現するためのNC制御装置8(制御プログラム9)の制御動作の一例を示している。
【0062】
この実施の形態2の場合、NC制御装置8は、制御プログラム9を実行することにより、加工中に、上述の図7のステップ207の代わりに、ステップ220のようにワーク回転速度Wを、基準ワーク回転速度W0に対して不規則に変化させるように制御する点が、上述の実施の形態1と異なり、他は同様である。
【0063】
また、図13に例示されるように、ワーク回転速度Wを不規則に変化させる場合も、加工区間t2の終端仕上げ区間t3では、ワーク回転速度Wを、基準ワーク回転速度W0に一定に制御して、光学機能面21と垂直面22のV字形の交差部位の加工精度を上げて両者の鋭利な交差部位を実現し、光学機能面21の光学性能を向上させつつ、虹面の発生を抑止する。
【0064】
この実施の形態2によれば、上述の実施の形態1と同様に、垂直面22に形成されるカッターマーク23のピッチPを不規則にして虹面の発生を防止できる効果が得られる。
【0065】
以上説明したように、本発明の各実施の形態によれば、レンズ面に垂直な垂直面22のカッターマークのピッチを不均一に、すなわち不規則にすることができるので、垂直面22における虹面の発生が抑制され、垂直面22の虹面が光学機能面21に映り込むことが防止され、得られるフレネルレンズ20Aやフレネルレンズ20Bの光学性能の向上を実現できる。
【0066】
たとえば、レーザ干渉計では、レーザを参照レンズと検査対象の光学部品に照射し、反射または透過させた光の波形を干渉させることで現れる干渉縞で対象物の光学部品の面形状精度を測る評価システムが構成される場合がある。
【0067】
このようなレーザ干渉計の参照レンズとして、たとえば、フレネルレンズを用いる場合、垂直面22の規則的なカッターマークに起因する虹面の光学機能面21に対する映り込みは、測定精度の劣化の一因となる。
【0068】
従って、垂直面22における虹面の発生が抑制された本実施の形態のフレネルレンズ20Aやフレネルレンズ20Bをレーザ干渉計の参照レンズとして用いることにより、レーザ干渉計の測定精度を向上させることが可能になる。
【0069】
なお、本発明は、上述の実施の形態に例示した構成に限らず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
たとえば、加工中において、工具切り込み速度Vの変化と、ワーク回転速度Wの変化を組み合わせて、垂直面22に、不規則なピッチPを有するカッターマーク23が形成されるようにしてもよい。
【0070】
たとえば、光学機器に使用される回転軸対称形状の高精度光学素子、または、それらを成形するための光学素子成型用金型とその切削加工法に広く適用できる。
【0071】
[付記1]
回転軸対称レンズまたはレンズ成形型である被加工物を回転させながら、前記被加工物の正面から剣状工具を当接させ所定の深さまで切り込み、鋸刃状溝を創成されたフレネルレンズまたはフレネルレンズ成形用金型において、工具切り込み方向に平行な面に形成されるカッターマークのピッチが一定間隔ではないことを特徴とするフレネルレンズまたはフレネルレンズ成形用金型。
【0072】
[付記2]
付記1記載のフレネルレンズまたはフレネルレンズ成形用金型の面のカッターマークのピッチは、工具の切り込み速度を変動させることにより、形成されることを特徴とする、フレネルレンズまたはフレネルレンズ成形用金型の切削加工方法。
【0073】
[付記3]
付記1記載のフレネルレンズまたはフレネルレンズ成形用金型の面のカッターマークのピッチは、フレネルレンズまたはフレネルレンズ成形用金型の回転速度を変動させることにより、形成されることを特徴とする、フレネルレンズまたはフレネルレンズ成形用金型の切削加工方法。
【符号の説明】
【0074】
1 Z軸スライドテーブル
2 X軸スライドテーブル
3 B軸回転テーブル
4 スピンドル
4a チャック
5 主軸回転装置
6 移動装置
7 工具
7a 切刃
7b 先端
8 NC制御装置
8a サーボ制御部
8b コントローラ
9 制御プログラム
10 超精密加工装置
20 被加工物
20A フレネルレンズ
20B フレネルレンズ
20KA フレネルレンズ成形型
20KA−1 光学機能成形面
20KA−2 垂直成形面
20KB フレネルレンズ成形型
20KB−1 光学機能成形面
20KB−2 垂直成形面
21 光学機能面
22 垂直面
23 カッターマーク
23a カッターマーク
23b カッターマーク
23c カッターマーク
P ピッチ
P1 ピッチ
P2 ピッチ
P3 ピッチ
V 工具切り込み速度
V0 基準工具切り込み速度
W ワーク回転速度
W0 基準ワーク回転速度
t1 早送り区間
t2 加工区間
t3 終端仕上げ区間
t4 後退早送り区間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸方向に対して交差する光学機能面と、前記光軸方向に平行な段差面を有するフレネルレンズであって、
前記光軸方向に平行な段差面に形成されたカッターマークの前記光軸方向のピッチが不規則であることを特徴とするフレネルレンズ。
【請求項2】
請求項1記載のフレネルレンズにおいて、
切削工具を用いた切削加工によって製作され、前記カッターマークは前記切削工具によって形成されたことを特徴とするフレネルレンズ。
【請求項3】
請求項1記載のフレネルレンズにおいて、
成形型を用いた型成形によって製作され、前記カッターマークは前記成形型からの転写によって形成されたことを特徴とするフレネルレンズ。
【請求項4】
光軸方向に対して交差する光学機能面を転写する第1型面と、前記光軸方向に平行な段差面を転写する第2型面を有するフレネルレンズ成形型であって、
前記第2型面に形成されたカッターマークの前記光軸方向のピッチが不規則であることを特徴とするフレネルレンズ成形型。
【請求項5】
光軸方向に平行な回転軸によって相対的に回転される被加工物に対して、前記光軸方向に平行に相対的に移動する切削工具を当接させることで、前記光軸方向に対して交差する光学機能面および前記光軸方向に平行な段差面を創成するフレネルレンズの製造方法であって、
前記切削工具の移動速度および前記被加工物の回転速度の少なくとも一方を加工中に不規則に変動させることを特徴とするフレネルレンズの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のフレネルレンズの製造方法において、
加工終端部において、前記切削工具の前記移動速度および前記被加工物の前記回転速度を一定にすることを特徴とするフレネルレンズの製造方法。
【請求項7】
光軸方向に平行な回転軸によって相対的に回転される被加工物に対して、前記光軸方向に平行に相対的に移動する切削工具を当接させることで、前記光軸方向に対して交差する光学機能面を転写する第1型面および前記光軸方向に平行な段差面を転写する第2型面を形成するフレネルレンズ成形型の製造方法であって、
前記切削工具の移動速度および前記被加工物の回転速度の少なくとも一方を加工中に不規則に変動させることを特徴とするフレネルレンズ成形型の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載のフレネルレンズ成形型の製造方法において、
加工終端部において、前記切削工具の前記移動速度および前記被加工物の前記回転速度を一定にすることを特徴とするフレネルレンズ成形型の製造方法。
【請求項1】
光軸方向に対して交差する光学機能面と、前記光軸方向に平行な段差面を有するフレネルレンズであって、
前記光軸方向に平行な段差面に形成されたカッターマークの前記光軸方向のピッチが不規則であることを特徴とするフレネルレンズ。
【請求項2】
請求項1記載のフレネルレンズにおいて、
切削工具を用いた切削加工によって製作され、前記カッターマークは前記切削工具によって形成されたことを特徴とするフレネルレンズ。
【請求項3】
請求項1記載のフレネルレンズにおいて、
成形型を用いた型成形によって製作され、前記カッターマークは前記成形型からの転写によって形成されたことを特徴とするフレネルレンズ。
【請求項4】
光軸方向に対して交差する光学機能面を転写する第1型面と、前記光軸方向に平行な段差面を転写する第2型面を有するフレネルレンズ成形型であって、
前記第2型面に形成されたカッターマークの前記光軸方向のピッチが不規則であることを特徴とするフレネルレンズ成形型。
【請求項5】
光軸方向に平行な回転軸によって相対的に回転される被加工物に対して、前記光軸方向に平行に相対的に移動する切削工具を当接させることで、前記光軸方向に対して交差する光学機能面および前記光軸方向に平行な段差面を創成するフレネルレンズの製造方法であって、
前記切削工具の移動速度および前記被加工物の回転速度の少なくとも一方を加工中に不規則に変動させることを特徴とするフレネルレンズの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載のフレネルレンズの製造方法において、
加工終端部において、前記切削工具の前記移動速度および前記被加工物の前記回転速度を一定にすることを特徴とするフレネルレンズの製造方法。
【請求項7】
光軸方向に平行な回転軸によって相対的に回転される被加工物に対して、前記光軸方向に平行に相対的に移動する切削工具を当接させることで、前記光軸方向に対して交差する光学機能面を転写する第1型面および前記光軸方向に平行な段差面を転写する第2型面を形成するフレネルレンズ成形型の製造方法であって、
前記切削工具の移動速度および前記被加工物の回転速度の少なくとも一方を加工中に不規則に変動させることを特徴とするフレネルレンズ成形型の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載のフレネルレンズ成形型の製造方法において、
加工終端部において、前記切削工具の前記移動速度および前記被加工物の前記回転速度を一定にすることを特徴とするフレネルレンズ成形型の製造方法。
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【公開番号】特開2011−175076(P2011−175076A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38747(P2010−38747)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】
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