説明

フローティングルーフ式貯蔵タンクの揺動防止構造

【課題】原油等の液体を貯蔵するフローティングルーフ式貯蔵タンクに関し、地震等による液体の揺動を防止するための構造を提供する。
【解決手段】フローティングルーフ式貯蔵タンク1内の底部に、一基あるいは数基の揺動防止体10を設置することで、液体3の揺動を防止し、フローティングルーフ2に設置された揺動防止体用シール部12が揺動防止体10に圧接されフローティングルーフ2が昇降できる構成であることを特徴とするフローティングルーフ式貯蔵タンクの揺動防止構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油等の液体を貯蔵するフローティングルーフ式貯蔵タンクに関し、液体の揺動を防止するための構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は従来のフローティングルーフ式貯蔵タンクの一例である。フローティングルーフ式貯蔵タンク1は上部が開放になっており、フローティングルーフ式貯蔵タンク1に充填された液体3の上面にフローティングルーフ2が浮かんでいる。フローティングルーフ2とフローティングルーフ式貯蔵タンク1の側壁との間にはシール部4が取り付けられている。
【0003】
シール部4はウレタンフォームなどのシール材をゴムシートで被覆し、フローティングルーフ2に取り付けられており、シール部4のゴムシートがフローティングルーフ式貯蔵タンク1側の内面に圧接されながら昇降する構造である。
【0004】
そのため、フローティングルーフ式貯蔵タンク1内に、充填された液体3の液面高さに対応し、フローティングルーフ2は自在に昇降する機構で、液体3からの蒸発ガスをシールする構造になっている。
【0005】
また、フローティングルーフ2のシール部4の上面外周には、雨、雪等の侵入を防止するウェザーシールド5が、周方向に分割され設置されている。ウェザーシールド5もフローティングルーフ式貯蔵タンク1の内面に圧接されながら滑る構造になっている。
【0006】
図6は従来のフローティングルーフ式貯蔵タンク内における液体の揺動状態の説明図である。地震等の振動により、フローティングルーフ式貯蔵タンク1が振動し、フローティングルーフ式貯蔵タンク1内の液体3が揺動すると、液体3の上部に設置されているフローティングルーフ2も液体3の動きに追従して、大きく傾き揺動することになる。地震が収まっても、一旦揺動が始まると長い時間、揺動現象は継続する。
【特許文献1】特開平5−294384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フローティングルーフ式貯蔵タンクにおいて、地震などによりフローティングルーフ式貯蔵タンクが振動すると、内部に貯蔵されている液体が揺動し、いわゆる波打現象が発生する。特に地震による振動と液体の揺動現象が共振すると、激しい波打ち現象が発生し、この現象はさらに長時間継続する。この時、フローティングルーフも液体の揺動現象に追従して大きく揺れることになる。
【0008】
そのため、フローティングルーフ式貯蔵タンクとフローティングルーフのシール構造の破損、フローティングルーフに取り付けられているウェザーシールドの破損等が発生する。また時として、フローティングルーフが激しく揺動するため、フローティングルーフ自身、あるいはフローティングルーフ式貯蔵タンク自身が破損する危険がある。
【0009】
さらに、フローティングルーフが液体の揺動により大きく傾くと、フローティングルーフのシール部とタンク間に隙間ができ、液体が流出し、フローティングルーフ式貯蔵タンクの上部から溢流する危険がある。そのため、発生した液体の揺動現象を速やかに沈静化させることが重要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、フローティングルーフ式貯蔵タンク内の底部に一基あるいは数基の揺動防止体を設置し、フローティングルーフに設置された揺動防止体用シール部が揺動防止体に圧接され、フローティングルーフが昇降できる構成であることを特徴とするフローティングルーフ式貯蔵タンクの揺動防止構造である。
【0011】
また、本発明の揺動防止体は円筒形あるいは三角柱、あるいは四角柱などの多角柱からなることを特徴とするフローティングルーフ式貯蔵タンクの揺動防止構造である。
【0012】
本発明は、フローティングルーフ式貯蔵タンクのフローティングルーフを複数の分割フローティングルーフに分け、分割フローティングルーフが、それぞれ上下に可動できる波形接続体で接続された構成であることを特徴とするフローティングルーフ式貯蔵タンクの揺動防止構造である。
【0013】
また、本発明は、フローティングルーフ式貯蔵タンクのフローティングルーフの下部に、複数の抵抗板をつり部で吊り下げた構成であることを特徴とするフローティングルーフ式貯蔵タンクの揺動防止構造である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、フローティングルーフ式貯蔵タンク内に、液体の揺動を防止する構造体を設置することを特徴としており、フローティングルーフ式貯蔵タンク内に、揺動防止体の設置、分割したフローティングルーフの設置、あるいは、フローティングルーフに抵抗板の設置を行う方法である。
【0015】
フローティングルーフ式貯蔵タンク内の液体の揺動は地震等で発生するが、この動きは図6で示すように、右側に液体が移動した場合は、タンクの右側の液体が内壁に衝突し液面が上昇する。逆に左側の液面は降下する。次の瞬間には逆の現象が起り、タンクの左側の液体が上昇し、右側の液体が降下する。この間、液体がタンク内を左右に移動する。液体の揺動現象は、この動きを繰り返す状態で、いわゆる液体の振動現象である。
【0016】
この時、液体に浮いているフローティングルーフも液体の揺動に伴い上下に振動することになる。
【0017】
本発明のフローティングルーフ式貯蔵タンク内に、揺動防止体を設置方法は、揺動防止体がタンク内に固定されているため、液体がフローティングルーフ式貯蔵タンク内で左右に動く揺動現象を抑圧すことができる。
【0018】
本発明の分割したフローティングルーフは、詳細は後述するが、分割フローティングルーフを接続している波形接続体を軸に左右のフローティングルーフがほぼ同時に上下する動きをする。一方、液体の揺動は、左側の液体が上昇した時は、右側の液体が降下する現象である。あるいは、その逆の現象である。分割したフローティングルーフは、タンク内の液体の揺動現象とは異なる動きをするため、フローティングルーフ式貯蔵タンク内の液体の揺動現象を抑制することができる。
【0019】
本発明のフローティングルーフに抵抗板を取り付ける方法は、タンク内の液体の揺動とは異なる振動周期の抵抗板をフローティングルーフに設置するものである。そのため、タンク内の液体が揺動すると、抵抗板も振動することになるが、液体の揺動と抵抗板の振動周期が異なるため、抵抗板は常に液体の揺動を抑圧する働きをする。
【0020】
これらの方法により、フローティングルーフ式貯蔵タンク内の液体の揺動が抑圧でき、フローティングルーフの上下運動も抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
フローティングルーフ式貯蔵タンク内の液体の揺動は地震等で発生するが、本発明は、構造体を用いてタンク内の液体の揺動を抑圧することを特徴としており、具体的な実施例を次に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1に本発明によるフローティングルーフ式貯蔵タンク内に揺動防止体を設置した断面図の一例を示す。図1はフローティングルーフ式貯蔵タンク1内の液体3の揺動を抑圧するために、揺動防止体10をタンク内に設置する構成を示している。図1ではフローティングルーフ式貯蔵タンク1内に揺動防止体10を一基設置しているが、複数の揺動防止体10をフローティングルーフ式貯蔵タンク1内に設置することもできる。
【0023】
また、図1において、揺動防止体10の形状として円筒を示したが、揺動防止体10は円筒形、三角柱、四角柱などの多角柱のいずれかから構成されるもので、液体3の揺動を阻止できる構造であれば良い。
【0024】
揺動防止体10はフローティングルーフ式貯蔵タンク1内の底部に固定されており、揺動している液体3の揺動エネルギーを吸収する役割を持っている。フローティングルーフ2はフローティングルーフ式貯蔵タンク1内の液面の変動に対し、昇降させる必要があるため、揺動防止体10とフローティングルーフ2間は移動可能なシール構造になっている。
【0025】
このシール構造は、フローティングルーフ2に揺動防止体10が貫通する孔部11を設け、従来のフローティングルーフ2とタンクの内壁間をシールしているシール部4と同様な構造を取ることで達成できる。すなわち、ウレタンフォームなどのシール材を、ゴム材質からなるゴムシートで被覆した揺動防止体用シール部12で、フローティングルーフ2の孔部11に固定した構造である。
【0026】
揺動防止体用シール部12の上部には、従来のフローティングルーフ式貯蔵タンク1に取り付けられているウェザーシールド5と同様な構造の揺動防止体用ウェザーシールド13が設置されている。
【0027】
地震などの振動により液体3が揺動すると、液体3は一定の周期でフローティングルーフ式貯蔵タンク1内を移動することになる。この揺動は振り子現象と同様に、一定周期で長い時間継続される。タンク内の液体3は中央付近では水平方向に往復運動をし、タンクの内壁付近では液体3がタンクの内壁に衝突し上下に激しい往復運動をする。いわゆる波打ち現象である。
【0028】
そこで、フローティングルーフ式貯蔵タンク1内に図1に示すような円筒形の揺動防止体10を設置することにより、タンク内で水平方向に往復運動し、揺動している液体3の動きを抑制することができる。また、タンク内の液体3は揺動により一体となって動くが、液体3の流れが揺動防止体10で阻害されるため、液体3の流れが上下左右に乱れ、一定周期での動きが乱され揺動現象が抑制される。
【0029】
この結果、液体3の揺動を速やかに沈静化することができる。同様な構成の揺動防止体10をフローティングルーフ式貯蔵タンク1内に複数設置することにより、揺動を抑制する効果は増大する。さらに、揺動防止体10は内部を空洞とし、上部を開放して内部に小型のフローティングルーフを設置することにより、揺動防止体10の内部にも液体3を充填することができる。
【実施例2】
【0030】
タンク内で発生する液体3の揺動は規則的な一定周期の波打ち現象である。そのため、この揺動による周期を乱すことにより、揺動を沈静化することができる。図2は本発明の分割フローティングルーフの外観図の一例である。この図はフローティングルーフ2をフローティングルーフA17とフローティングルーフB18に2分割した分割フローティングルーフを示している。なお、状況に応じ複数のフローティングルーフに分割しても良い。
【0031】
また、図2では、左右のフローティングルーフが、上下方向に自由に動くことができるように、左右のフローティングルーフ間に波形接続体19が設置されている構造を例に示している。波形接続体19は分割したフローティングルーフを丁番機構で接続し、波形接続体19の上面あるいは下面をゴムシートでシールする構造等をとることができる。
【0032】
図3は本発明の分割フローティングルーフの機能の説明図である。図3の(a)はフローティングルーフ式貯蔵タンク1内の液体3が揺動していない時の分割したフローティングルーフ2の状況を示す。タンク内の液体3が静止しているため、フローティングルーフA17およびフローティングルーフB18は水平を保っている。(b)は液体3が揺動によりタンク内を右に移動し、タンクの右側の内壁に衝突して液面が上昇し、フローティングルーフB18の右端が液面の上昇により持ち上げられている状態を示す。
【0033】
フローティングルーフB18が持ち上げられ、波形接続体19を軸にして、フローティングルーフ2が折れ曲がり、この時、フローティングルーフB18の自重により、波形接続体19が下部に押し下げられる。これに伴って、フローティングルーフA17の右側が下部に押し下げられ、左端が上昇する。
【0034】
(c)はタンクの右側の内壁に衝突して一端上昇した液体3が下降している状態を示す。フローティングルーフB18の右側は降下し、これに伴って波形接続体19の部分が上昇し、この時、フローティングルーフA17の右側は一時的に上昇する。
【0035】
これに対し、タンク内の液体3は揺動により液面は大きく波打つことになる。すなわち、タンクの右側の内壁付近の液体3が上昇すると、左側の内壁付近は下降する。次の瞬間は、逆の動きが起こり、この動きを繰り返すことになる。
【0036】
液体3の表面に一体型のフローティングルーフ2を設置すると、液体3の揺動に追従して動くことになる。そのため、フローティングルーフ2による液体3の揺動を抑える働きはあまり期待できない。本発明の分割したフローティングルーフ2は波板形状体19の部分を中心にフローティングルーフA17およびフローティングルーフB18が上下に自由に動くため、一体で動く液体3表面とは異なった動きをする。
【0037】
すなわち、(b)で示すように液体3の揺動で液体3がタンクの側壁付近で上昇すると、フローティングルーフB18の右側は上昇する。この時、フローティングルーフB18の自重により液体3の上昇を抑える働きをする。同時に、フローティングルーフB18の自重は波板形状体19の部分を下部へ押さえつける働きもするため、逆に、フローティングルーフA17の右側は下降し、逆に左側は上昇する力が働くことになる。
【0038】
この時、フローティングルーフA17の左端下部の液体3は、液体3の揺動により逆に下降する動きをする。そのため、フローティングルーフA17は、下降する液体3の動きを阻止する方向に働くことになる。この様に、分割したフローティングルーフは液体3の揺動により起こる液体3の表面の動きに追従せず、逆らった動きをするため、表面の動きを制圧することができる。
【実施例3】
【0039】
図4は本発明のフローティングルーフに抵抗板を取り付けた説明図である。抵抗版はフローティングルーフ2の下部に鎖等で吊るされており、少なくとも、フローティングルーフ2と抵抗板20との接続部は、自由に可動できる鎖型構成のつり部21で構成されている。そのため、液体3の揺動により抵抗板20に力が働くと、フローティングルーフ2とつり部21の取り付け位置を中心に、一定の周期で振り子運動を起こすことになる。この周期は液体3の周期と異なるように計画されている。
【0040】
フローティングルーフ式貯蔵タンク1内で液体3が揺動した場合、揺動による力を受け、抵抗板20はフローティングルーフ2との取り付け部を中心に液体3の揺動方向に移動する。この時、液体3が揺動する周期と抵抗板20が揺れる周期が異なることから、抵抗板20は液体3の揺動を常に抑える働きをする。また、抵抗板20は、液体3の動きを乱すことになるため、一方向、一定周期で動いている液体3の揺動を抑えることになる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明によるフローティングルーフ式貯蔵タンク内に揺動防止体を設置した断面図の一例を示す。
【図2】本発明の分割フローティングルーフの外観図の一例である。
【図3】本発明の分割フローティングルーフの機能の説明図である。
【図4】本発明のフローティングルーフに抵抗板を取り付けた説明図である。
【図5】従来のフローティングルーフ式貯蔵タンクの一例である。
【図6】従来のフローティングルーフ式貯蔵タンク内における液体の揺動状態の説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 フローティングルーフ式貯蔵タンク
2 フローティングルーフ
3 液体
4 シール部
5 ウェザーシールド
10 揺動防止体
11 孔部
12 揺動防止体用シール部
13 揺動防止体用ウェザーシールド
17 フローティングルーフA
18 フローティングルーフB
19 波形接続体
20 抵抗板
21 つり部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローティングルーフ式貯蔵タンクにおいて、タンク内の底部に一基あるいは数基の揺動防止体を設置し、フローティングルーフに設置された揺動防止体用シール部が前記揺動防止体に圧接され、前記フローティングルーフが昇降できる構成であることを特徴とするフローティングルーフ式貯蔵タンクの揺動防止構造。
【請求項2】
前記揺動防止体は円筒形あるいは三角柱あるいは四角柱などの多角柱からなることを特徴とするフローティングルーフ式貯蔵タンクの揺動防止構造。
【請求項3】
フローティングルーフ式貯蔵タンクにおいて、前記フローティングルーフを複数の分割フローティングルーフに分け、前記分割フローティングルーフが、それぞれ上下に可動できる波形接続体で接続された構成であることを特徴とするフローティングルーフ式貯蔵タンクの揺動防止構造。
【請求項4】
フローティングルーフ式貯蔵タンクにおいて、前記フローティングルーフの下部に複数の抵抗板をつり部で吊り下げた構成であることを特徴とするフローティングルーフ式貯蔵タンクの揺動防止構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−240637(P2006−240637A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−55444(P2005−55444)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】