説明

フロート法による、セラミック変換可能な平坦ガラス及びその製造方法

【課題】平衡厚さ未満の厚さを有する結晶化可能なガラスのフロートプロセス及び対応するフロートガラスを提供する。
【解決手段】ガラスセラミックへ転移可能な板ガラスの製造方法において、ガラスストリップを、平衡厚さ以下の厚さで引き出し、結晶化可能ガラスの結晶成長速度がその最大(KGmax)である温度から、以下の式に対応する冷却速度でこれ以上結晶成長が行われない温度(UEG)まで冷却する板ガラスの製造方法:


この式でKRは℃/分の冷却速度であり、KGmaxは最大結晶形成速度をμm/分で示している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の主題はガラスセラミックに転移可能なフロートガラス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フロート法による、平坦ガラスの製造方法は周知技術である。液体ガラスが、通常、錫あるいは錫合金からなる溶融金属浴に配置され、次に、所定厚さのストリップに形成され、該溶融浴上を種々の温度ゾーンを通過して冷却され、最終的に該溶融金属浴から連続的に引き出される。このガラスがフロート(フロート)浴に注入されると、ガラス塊が、その塊の密度と、錫の密度と、錫とガラスとの間の境界層の特性とで規定される平衡厚さに達するまで、金属浴の表面上に広がり、そして通常のガラスでは略7mmの領域である。薄いガラスが必要ならば、そのガラスを溶融物上に引き出す必要がある。ストリップの厚さを薄くし、該ストリップの幅を広げるために、ガラスストリップを、種々の位置の縁部に配置される上ローラーを使用して引き出す。上ローラーは冷却ローラーであり、規定された調節可能な周速度で駆動される。適切な速度段階と角度で幾つかの上ローラー対を使用することで、ストリップ幅の短縮を余り大きくすることなくガラスストリップの厚さを薄くすることが可能で、あるいは元のストリップ幅を広げることも可能である。
【0003】
良好なガラス特性を生成するために、この領域での注意深い温度制御が必須であり、ガラスストリップの温度が、厚さや微細な起伏などの変動を最小にするため、約1150℃〜900℃の高い温度範囲で、比較的一定のそれに見合う約20〜30℃以下/分の冷却速度で冷却される。
【0004】
この方法がガラスの結晶化可能なタイプで実施されると、通常得られる製造物は高い規格を満足しない。この理由は、ガラスストリップをそれに見合った低い冷却速度で引き出すための温度範囲では、結晶化も行われるからである。これは、後のガラスのセラミック化、すなわち、ガラスが先ず核生成のために正確に規定された温度で正確に決定された期間保持され、その後、高温において結晶が、形成された結晶核から成長するガラスセラミックへのガラスの転移が、ガラスストリップの引き出し時に形成される望ましくない結晶でマイナスの影響を受けることを意味している。
【0005】
2種類の欠陥が、引き出し段階時に形成される結晶核で生じる可能性がある。第一に、ガラスとフロート浴及び/又はフロート浴温度との間の相互作用のために生じた表面欠陥上に結晶が作られ、第二に、ガラス内の乱流中央部で、例えば取り付け部品からの白金粒子によって作られる。ガラスストリップの引き出しに必要な期間のため、望ましくない結晶がこれらの乱流中央部に形成する場合がある。
【0006】
この問題を解決するため、2つの異なったアプローチが当技術水準から得ることができる。
US3,804,608によれば、ガラス生成後直ぐにガラスが結晶化温度まで急速に冷却され、そこで結晶化のため長期間維持される。この方法は3つの欠点を有している。第一に、その方法は特に選択されたガラスのみで使用できる方法である。第二に、その方法は平衡厚さを有する平坦ガラスを製造するためにのみ使用できる方法である。第三に、この方法では、ガラスが、結晶生成温度まで直ちに冷却されるが、結晶核生成温度が結晶成長温度以下にあるため、明確に規定された核形成が行われないことが普通である。この欠点は、US3,809,543(DE2207727)において、同じ出願人から核形成温度以下までこれから急速に冷却することで回避されている。その後、核形成そして次に再度結晶生成のために温度が上げられる。この方法でも、平衡厚さを有する平坦ガラスを製造することが可能であるだけである。
【0007】
しかし、一般的に、これらの方法の双方に固有の欠点は、切り離されたプロセスに比べて連結されたプロセスの全ての欠点を持つことである。ストリップに対するセラミック化によるガラスセラミック製造の方法は、上記欠点のため、広く受け入れられていない。
完全に異なる方法がDE10017701C2に記載されている。これは、平衡厚さ以下の厚さまでフロートプロセスで引き出すことができ、望ましくない結晶生成が引き出し時にガラスストリップの下側に殆ど生じない結晶化可能ガラスを記載している。
【0008】
しかし、平衡厚さ以下の厚さまでガラスストリップを引き出す場合、フロート浴での遅い冷却のために、全てのガラスで、孤立した乱流の中央部がクリスタライトの形態でガラスの内部に生じ、これが不合格となる。この望ましくない結晶生成の原因は公知ではないが、ガラス塊内の微細不均質性に起因する可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、欠点の無いガラスを平衡厚さ未満の厚さを有する工業的規模で製造可能な、結晶化可能なガラスのフロートプロセス及び対応するフロートガラスを見出す課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は請求項1に記載された製造方法及び請求項4に記載されたガラスによって解決される。
工業的プロセスの場合、製造されるガラスストリップは、通常、平衡厚さ以下の厚さ、すなわち、約7mm未満の厚さ、及び少なくとも1mの幅を有する必要がある。この用語、幅は有効幅、すなわち両側縁を分離した後のガラスストリップの使用可能幅を言う。昨今、結晶化可能なガラスに必要な厚さは3〜6mm、特に4〜5mmである。特定の目的、例えば航空機ガラスのため、2〜8mmの厚さを有するストリップも製造可能である。これらの厚さでは、ガラスあるいはそのガラスから製造されたガラスセラミックが、例えば、防火ガラス、室内ヒーター、オーブンドア、暖炉などの覗きパネルに使用されている。ガラスストリップの使用可能な幅は、特に建築用途の場合、より広い幅が建築家により大きな設計オプションをもたらすために、できるだけ大きくする必要がある。この方法では、それに対応する大きさのフロート製造ラインによって、2〜3m及びそれ以上の使用可能な幅を難なく製造することができる。
【0011】
結晶化可能なガラスの結晶化曲線を考えると、結晶成長が、ある特定のガラス用高温で開始し、ある降下温度で結晶成長速度(μm/分)が増加し、ある温度で最大を通過し、温度が更に低下すると結晶成長が最終的に停止することが分かる。
【0012】
結晶化可能なガラスをフロート浴上で上ローラーによってその所定の厚さと幅に引き出すことができる温度範囲が、対応する結晶化可能なガラスの結晶化が生じる温度範囲と交差する。従って、これは、ガラスストリップの良好な形成のためにゆっくりと通過する必要のある温度範囲が、通常のガラスセラミックの場合には、丁度、望ましくない結晶成長を防止するために迅速に通過する必要のある温度範囲でもあるため、目標矛盾を生じる。
【0013】
SiO−Al−LiO(LAS)、SiO−Al−MgO、SiO−Al−NaOから作られた通常の未加工ガラスにおいては、約1150℃〜900℃の温度範囲であるストリップの形成と引き出しが行われる温度範囲では、起伏及び厚さの変動について生じる平坦ガラスの満足な品質を保証するため、冷却速度を20〜30℃/分にする必要がある。他のガラスセラミック系からの未加工ガラスでは、異なった温度範囲で形成する必要がある場合があるが、形成範囲の冷却速度は、上記系と常に同じ大きさのオーダーにある。
【0014】
この発明は意外にも、高い温度範囲において、すなわち、結晶成長が開始する高温から下がり、結晶成長速度がその最大に達する温度まで、低い冷却速度でも未加工ガラスが望ましくない結晶成長を実際招かず、そして低い温度範囲でのみ、すなわち結晶成長速度がその最大である温度から、結晶成長が実際に再度終了する温度範囲まで、ガラスストリップの急速冷却が必要であることを見出したことに基づいている。
【0015】
冷却が生じる必要のある冷却速度は、当該ガラスセラミックあるいは結晶化可能ガラスの最大結晶化にそれぞれ比例しており、以下の式により計算することができる。
【化1】

この式で
【化2】

は、結晶化速度がその最大である温度と、低い方の失透点の温度、すなわち結晶化速度が実際にゼロに達する、すなわち結晶化が実際に終了した温度との間の温度範囲に対する℃/分で冷却速度を言う。
【化3】

は、結晶化速度がその最大である温度と、低い方の失透点の温度、すなわち結晶化速度が実際に零に達する温度との間の温度差である。
【0016】
KGmaxはμm/分での最大結晶化速度を意味する。低い方の失透点の範囲では、結晶化速度が指数関数的にゼロの値に近づく。従って、結晶化速度が実用上ゼロであるということは、最大結晶化速度の5%以下の結晶化速度を意味するように理解される。
結晶化速度の測定は周知である。結晶化速度は形成された結晶に沿って、すなわちそれら結晶の最大伸長範囲で測定される。
【0017】
冷却速度
【化2】

が、
【化4】

の値の少なくとも1.5〜3倍、特に2倍であれば好ましい。
結晶化速度がその最大(TKGmax)に達した丁度その温度で、高い冷却速度が開始することは不要である。実際、数度のずれは完全に可能である。実験では、TKGmaxから±15℃のずれでもこの方法に対して実際にはマイナスの影響が生じなかった。
【0018】
最大結晶成長温度KGmaxと低い失透点UEGとの間の温度範囲外では、ガラスストリップの温度制御が、当業者が長年の間知った通常のルールで対応する。この方法により製造すべきガラスセラミックに転移できるフロート平坦ガラスが可能となり、このガラスは1メートルを超えた有効幅(側縁の分離後)を有し、平衡厚さ未満の厚さを有し、また該有効幅内で50μmを超えた大きさでkgガラス当たり50個以下の結晶を有している。その結晶が25μm以下、特に10μm以下であるのが好ましい。また、ガラスがkgガラス当たり10個以下の結晶を含むのが好ましく、特に、kgガラス当たり1個以下の結晶を含むのが好ましく、特に、上記結晶サイズでkgガラス当たり0.1個以下が好ましい。
【0019】
このガラスが、LASガラスセラミックに転移可能な成分を持てば、これらのガラスセラミックは著しい耐熱疲労を有するので好ましい。公知LAS系(LiO−Al−SiO)から作られたそのようなガラスは、2〜5.5LiO、15〜26Al、及び50〜75SiO、(酸化物をベースにした重量%で)プラス、通常少なくとも2重量%の、例えばTiO、ZrO、P、SnOあるいはこれらの化合物の混合物の結晶化成核剤及び適用可能な着色成分も含有する。
【0020】
3〜5LiO、15〜25Al、50〜75SiO、1〜5TiO、1〜2.5ZrO、0〜1SnO、その際TiO、ZrO及びSnOの総計が2.5〜5、0.1〜2.5MgO、0〜1.5NaO、0〜1.5KO、その際はNaO及びKOの総計が0.2〜2、0〜2CaO,0〜2SrO,0〜3BaOの組成を備え、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ni、Se及びU化合物あるいはそれらの混合物のような含有着色成分を適用可能なガラス。
【0021】
実施例1
この実施例は66.1SiO、22.4Al、4.1LiO、0.6NaO、0.2KO、1.0MgO、1.3P、1.5TiO、2.0ZrO、0.4SnO、0.3ZrO(酸化物をベースにした重量%で)の組成のガラス溶融物で行った。
予備試験では、上記組成のガラス内の結晶成長速度が種々の温度で測定された。その結果を図2に示す。16μm/分の最大結晶成長速度KGmaxは1,115℃の温度で決定され、結晶成長が実際に終了した低い方の失透点UEGが約915℃であった。これらの値は、KGmaxと200℃のUEGとの間でΔTを生じる。1115℃と915℃との間の冷却速度が以下の式
【化5】

により計算された。
この実施例の場合、この冷却速度の1.5倍、すなわち48℃/分を使用した。
【0022】
このガラス溶融物をフロート浴に注入し、レストリクタータイルの端部で、図1に示すように約1200℃の温度を示した。隣接する高温拡散領域では、そのガラスを更に急速に冷却し、約1145℃の温度の形成領域に達し、この領域ではガラスを約180cmの有効幅で4mmの厚さを有するガラスストリップに引き出した。形成の大部分が約1100℃以下の温度範囲で行われ、この温度範囲では、約29℃の平均冷却速度で形成しガラスストリップを冷却した。この温度範囲での遅い冷却により高品質のガラスストリップが可能となった。最大結晶成長がこのガラスで生じる約1100℃の温度に達してから、ガラスストリップを約900℃の温度に達するまで48℃/分の冷却速度で冷却した。その後、該ガラスストリップを通常の適度な冷却速度で更に冷却し、それから更に通常の方法で処理した。約750℃以下の処理の部分を示さない。この発明による冷却曲線を図1の曲線Aに示す。このようにして作られたガラスストリップは10μmより大きいサイズの結晶を含まなかった。
【0023】
実施例1を、図1の曲線Bで示したように、実用上全体の形成領域でガラスストリップを約29℃/分の冷却速度で冷却した点を違えて繰り返した。ガラスストリップが結晶化リスク温度域(約950℃以下)にある期間を2倍より長くした。このガラスストリップは50μmより大きいサイズの結晶を含んでいた。
双方の実施例では、約750℃以下の温度勾配の図を、この2つの実施例の場合と同じ従来の温度制御で行われたため、省略した。
図1及び図2は、この発明を明確にするため共通の温度軸を示すように互いに配置されている。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ガラス溶融物をフロート(フロート)浴に注入した後のレストリクターの温度を示す図。
【図2】ガラス内の結晶成長速度と温度との関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体結晶化可能なガラスを溶融金属浴に配置し、所定の厚さの連続的ストリップに形成し、該溶融金属浴上で種々の温度のゾーンを通して冷却し、最終的に該溶融金属浴から連続的に引き出す、ガラスセラミックへ転移可能な板ガラスの製造方法において、前記ガラスストリップを、平衡厚さ以下の厚さで引き出し、該結晶化可能ガラスの結晶成長速度がその最大(KGmax)である温度から、以下の式に対応する冷却速度でこれ以上結晶成長が行われない温度(UEG)まで冷却することを特徴とする板ガラスの製造方法:
【化1】

この式でKRは℃/分の冷却速度であり、
【化2】

は、最大結晶成長の温度とこれ以上結晶成長が行われない温度との温度差であり、KGmaxは最大結晶形成速度をμm/分で示している。
【請求項2】
以下の式による冷却速度を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【化6】

【請求項3】
以下の式
【化7】

に対応する冷却速度を使用することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
溶融錫浴上でガラスの平衡厚さ以下の厚さを有し、1メートルより広い有効幅を有し、前記有効幅内で50μmより大きなサイズのkg当たり50個以下のの結晶を有する、ガラスセラミックに転移可能なフロート平坦ガラス。
【請求項5】
前記結晶が25μm以下のサイズを有することを特徴とする、請求項4に記載のフロート平坦ガラス。
【請求項6】
前記結晶が10μm以下のサイズを有することを特徴とする、請求項4に記載のフロート平坦ガラス。
【請求項7】
前記ガラスがkg当たり10個以下の結晶、好ましくは1個以下の結晶、特に0.1個以下の結晶を含有することを特徴とする、請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載のフロート平坦ガラス。
【請求項8】
該フロート平坦ガラスが3〜5LiO、15〜25Al、50〜75SiO、1〜5TiO、1〜2.5ZrO、0〜1SnO、TiO、ZrO及びSnOの総計が2.5〜5、0.1〜2.5MgO、0〜1.5NaO、0〜1.5KO、NaO及びKOの総計が0.2〜2、0〜2CaO,0〜2SrO,0〜3BaOの組成を有し、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ni、Se及びU化合物あるいはそれらの混合物のような着色成分の添加が適用可能であることを特徴とする、請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載のフロート平坦ガラス。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−22909(P2007−22909A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182990(P2006−182990)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】