説明

ブタの椎骨数増大能力を識別するDNAマーカー

【課題】ブタの第1染色体上のNR6A1の転写抑制作用、NR6A1のコリプレッサーとの結合能、NR6A1のアミノ酸配列における1若しくは複数のアミノ酸の変異、NR6A1の塩基配列における1若しくは複数の塩基の変異、および、ブタの第1染色体上のマイクロサテライト配列を指標とするブタ椎骨数を識別する方法の提供。
【解決手段】SJ819からSJ273の範囲をQTL候補領域とし、BAC整列地図を作製し、高密度に配置したマイクロサテライトマーカーを用いて椎骨数との連鎖不平衡のあるゲノム領域を検索し、見いだした領域の近傍(650 kb)の塩基配列を決定し、すべてのVNTR型の多型マーカーを抽出した。再解析により連鎖不平衡のある領域が250 kbであり、その中のマイクロサテライトマーカーは椎骨数を増大させるアリルを持つ個体において著しく多様性が小さいこと、また、椎骨数の違いがこの領域に存在するNR6A1の1アミノ酸置換によって生じることを明らかにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブタの第1染色体上のNR6A1の転写抑制作用、NR6A1のコリプレッサーとの結合能、NR6A1のアミノ酸配列における1若しくは複数のアミノ酸の変異、NR6A1の塩基配列における1若しくは複数の塩基の変異、及びブタの第1染色体上のマイクロサテライト配列を指標とするブタ椎骨数を識別する方法、並びに椎骨数の多いブタが有する変異型NR6A1に関する。
【背景技術】
【0002】
ブタは猪を祖先とし、ユーラシア大陸の複数地域で家畜化されたと言われている。19世紀中頃からヨーロッパにおいて、成長・体格などの良いブタを選抜して育種するということが行われるようになり、それらがもとになり現在の商用豚が形成されている。これまでは産肉性を向上させることが大きな目的であったが、最近ではよりよい肉質を求めた育種改良も望まれている。アジアの在来豚、日本猪は成長・体格などに関しては育種されておらず、体格も小型で産肉性も低いが、新たな育種のための遺伝資源として期待されている。
【0003】
近年、ブタにおいてもDNAの多型マーカーが開発され、マイクロサテライトマーカーによる連鎖地図が作製されている。本発明者らのグループにおいても梅山豚とゲッチンゲンミニブタという異なる品種を用いてF2家系(MG家系)を作製し、マイクロサテライトマーカーの連鎖地図を作製した(非特許文献1)。また家畜の経済形質はそのほとんどが量的形質であるが、その遺伝子座(量的形質遺伝子座、quantitative trait locus; QTL)についてもDNAマーカーとの連鎖解析により単離されている。現在では、ブタの様々なQTLについて350の報告があり(NCBI、LocusLink; Pig & QTL)、本発明者らのグループにおいてもMG家系を用いた解析により、椎骨数、乳頭数、生時体重、背脂肪厚、一日あたり増体量等に関与するQTLを検出している(非特許文献2)。量的形質は複数の遺伝子座に支配され、また環境要因によっても大きく影響を受ける。そのためQTLの正確なマッピングは難しく、その責任遺伝子を同定すること、また多様性の原因となる多型を同定することは非常に困難である。ブタにおいて遺伝子レベルで解明されたQTLでは肉質(グリコーゲン量)に関与するPRKAG3遺伝子(非特許文献3)、肉量に関与するIGF2遺伝子(非特許文献4)がある。
【0004】
本発明者らは複数のF2実験家系を作製し、QTL解析を行った(非特許文献5〜11)。その結果、様々なQTLが検出されたが、その中で椎骨数に関与するQTLが複数の家系を通じて2カ所のゲノム領域(第1染色体q腕末端、第7染色体q腕中央)に検出され、その存在は確からしいと判断された(表1、図1)。ブタの頸椎は他の哺乳類と同じく7個であるが、胸椎、腰椎の数には多様性があることが古くから知られており、胸椎は14から16、腰椎は5から7とばらついている(非特許文献12)。これらを合計した数(椎骨数)はブタの祖先である猪では19であるが、現在の肉用品種では21から23であることから、肉量増大、繁殖性向上のためにブタの体は大きくなるように選抜され、その過程で椎骨数が増大したと考えられる。実際、一つの椎骨数の増大により、体長は平均1.5 cm伸びることが示されている(平均体長80 cmの集団)。また椎骨数の遺伝率の解析では0.74と高い値が報告されている(非特許文献13)。本発明者らが検出した2つの椎骨数QTLにはそれぞれ椎骨数を増大させるアリルがあり、その効果はほぼ等しく、各家系の結果を平均するとアリルあたり約0.5から0.6本であった。また2つのQTLは互いに独立に働き、すべてのアリルが椎骨数増大型になると平均で約2.3本の椎骨数が増大した(表2、図2)。これまでの実験家系の解析では第1染色体q腕末端領域の椎骨数QTLではランドレース、ラージホワイト、デュロック、バークシャーといった西洋品種で椎骨数増大効果が認められ、梅山豚、金華豚、日本猪において増大効果は認められなかった。第7染色体のQTLでは西洋品種の一部のアリルに椎骨数を増大させる効果が認められた(表1)。
【0005】
【表1】

【0006】
【表2】

【0007】
本発明者らはこれら2つのうち、第1染色体上の椎骨数QTLのファインマッピングを進めてきた。椎骨数QTLは第1染色体q腕末端のマイクロサテライトマーカーSW1311(AF253583)とSW1301 (AF225115)の間の約25 cMの領域(非特許文献2)にSW373(AF225095)からSW705(AF235342)をピークとして検出されていたため(図3(A)、SWシリーズは米国農務省によって開発されたマイクロサテライトマーカー)、この領域についてヒトとの比較遺伝子地図を作製した(図4)。その結果、ブタの第1染色体q腕末端領域はヒトの第9染色体q腕末端領域に相当し、遺伝子の並びは高度に保存されていた。また、比較遺伝子地図情報をもとに新規マイクロサテライトマーカーを開発した。それらを用いたQTLのインターバルマッピング(連鎖解析)ではSJ641 (AB167457)をピークとした結果が得られた(図3(B)、SJシリーズは本発明者らが開発したマーカー)。また実験家系における椎骨数19(最小)であるF2個体の染色体の組換えの解析等により、QTLの位置する範囲をマイクロサテライトマーカーSJ819(未登録)からSJ273(AB167432)の間の約2 cMにまで絞り込んだ。(図3(C)、図5、非特許文献14)。SJ819はKIAA1608の、SJ273はPBX3のブタホモログとそれぞれ同じBACクローン内に存在した。
【0008】
なお、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
【非特許文献1】Mikawa, S., T. Akita, N. Hisamatsu, Y. Inage, Y. Ito et al., 1999 A linkage map of 243 DNA markers in an intercross of Gottingen miniature and Meishan pigs. Anim. Genet. 30: 407-417.
【非特許文献2】Wada, Y., T. Akita, T. Awata, T. Furukawa, N. Sugai et al., 2000 Quantitative trait loci (QTL) analysis in a Meishan × Gottingen cross population. Anim. Genet. 31: 376-384.
【非特許文献3】Milan D., Jeon JT., Looft C., Amarger V., Robic A. et al., 2000 A mutation in PRKAG3 associated with excess glycogen content in pig skeletal muscle. Science. 288: 1248-1251.
【非特許文献4】Van Laere AS., Nguyen M., Braunschweig M., Nezer C., Collette C. et al., 2003 A regulatory mutation in IGF2 causes a major QTL effect on muscle growth in the pig. Nature. 425: 832-836.
【非特許文献5】松原英二、湊和之、稲毛優子、楠本宏司、美川智、和田康彦、小林栄治、峰澤満、安江博「イノブタ実験家系における経済形質とマイクロサテライトマーカーとの連鎖解析」日本養豚学会誌、第36巻4号、P189、平成11年11月
【非特許文献6】内藤学、山田渥、内田陽子、稲毛優子、三宅正志、美川智、和田康彦、小林栄治、峰澤満、粟田崇、安江博「梅山豚x大ヨークシャー種実験家系におけるDNAマーカーと経済形質との連鎖解析」日本養豚学会誌、第37巻4号、P182、平成12年10月
【非特許文献7】室伏淳一、河原崎達雄、堀内篤、久松紀子、楠本宏司、美川智、和田康彦、峰澤満、安江博「金華豚・大ヨークシャー種交雑実験家系における産肉性、肉質とDNAマーカーとの連鎖解析」日本養豚学会誌、第35巻2号、P66、平成10年6月
【非特許文献8】加治佐修、犬童政昭、三宅正志、小林栄治、和田康彦、美川智、峰澤満、安江博「バークシャー種とクラウンミニブタ交雑家系のDNAマーカーを用いた連鎖解析」日本養豚学会誌、第35巻2号、P66、平成10年6月
【非特許文献9】新居雅宏、谷史雄、仁木明人、林武司、上西博英、美川智、小林栄治、内田陽子、粟田崇、安江博「日本イノシシと大ヨークシャー種交雑家系におけるQTL解析」第98回日本畜産学会大会講演要旨集、P19、平成13年3月
【非特許文献10】山口倫子、江森格、大澤浩司、内藤昌男、神山佳三、金谷奈保恵、内田陽子、堀内篤、仲沢慶紀、林武司、粟田崇「金華豚・デュロック種交雑家系における経済形質のQTL解析と筋肉内脂肪含量を対象としたマーカー利用選抜」日本養豚学会誌、第40巻4号、P212、平成15年10月
【非特許文献11】堀内篤、知久幹夫、井手華子、金谷奈保恵、内田陽子、山口倫子、仲沢慶紀、林武司、粟田崇「金華豚とデュロック種の交雑家系における肉質に関与するQTLの解析」日本養豚学会誌、第40巻4号、P213、平成15年10月
【非特許文献12】King, J. W. B., and R. C. Roberts, 1960 Carcass length in the bacon pig: its association with vertebrae numbers and prediction from radiographs of the young pig. Anim. Prod. 2: 59-65
【非特許文献13】Berge, S., 1948 Genetical researches on the number of vertebrae in the pigs. J. Anim. Sci. 7: 233-238
【非特許文献14】Shimanuki S., Morozumi T., Domukai M., Shinkai H., Mikawa A., Uchida Y., Uenishi H., Hayashi T., Mikawa S., Awata T., 2004 Fine mapping of QTL affecting the number of vertebrae on SSC1. Plant & Animal Genome XII, P241
【非特許文献15】Chung AC, Katz D, Pereira FA, Jackson KJ, DeMayo FJ, Cooney AJ, O'Malley BW., 2001 Loss of orphan receptor germ cell nuclear factor function results in ectopic development of the tail bud and a novel posterior truncation. Mol Cell Biol. 21(2):663-77.
【非特許文献16】David R, Joos TO, Dreyer C. Mech Dev., 1998 Anteroposterior patterning and organogenesis of Xenopus laevis require a correct dose of germ cell nuclear factor (xGCNF). 79(1-2):137-52.
【非特許文献17】Yan Z, Jetten AM., 2000 Characterization of the repressor function of the nuclear orphan receptor retinoid receptor-related testis-associated receptor/germ cell nuclear factor. J Biol Chem. 275(45):35077-85.
【非特許文献18】Seol W, Mahon MJ, Lee YK, Moore DD., 1996 Two receptor interacting domains in the nuclear hormone receptor corepressor RIP13/N-CoR. Mol Endocrinol. 10(12):1646-55.
【非特許文献19】Yan Z, Kim YS, Jetten AM., 2002 RAP80, a novel nuclear protein that interacts with the retinoid-related testis-associated receptor. J Biol Chem. 277(35):32379-88.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は椎骨数の多いブタを識別する方法を提供することにある。より詳しくは、本発明は、ブタの第1染色体上のNR6A1の転写抑制作用、NR6A1のコリプレッサーとの結合能、NR6A1のアミノ酸配列における1若しくは複数のアミノ酸の変異、NR6A1の塩基配列における1若しくは複数の塩基の変異、及びブタの第1染色体上のマイクロサテライト配列を指標とするブタ椎骨数を識別する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実験家系を用いた連鎖解析等により絞り込まれた範囲からさらに原因遺伝子の存在する位置を特定するには一般に連鎖不平衡解析が用いられる。家畜は世代間隔が短く、血縁、表形値が記録されるため、現存の動物の形質データを用いて、形質の差と関連する同一祖先由来の共通染色体領域をマッピングする方法(identical by decent解析; IBD解析)が一般的に用いられる。しかしながら本発明者らのターゲットとする椎骨数QTLは特定の品種において椎骨数増大効果を持つアリルが存在し、固定されている。そのためにこのQTLに多様性を持つ集団は現存しない。よってこの方法で詳細にマッピングするには、椎骨数の少ないブタとの交雑豚を始祖とする大規模な家系の新たな構築が必要であり、現実的でなかった。
【0011】
通常の方法がとれないため、本発明者らは血縁の無いサンプルによる連鎖不平衡解析を考えた。ブタにおいては世代の更新が約1年と非常に速く、連鎖不平衡が認められる領域はヒトよりも小さい。さらに各品種は遺伝的に隔てられて育種されているため、品種により偏りのある多型が存在し、解析は困難であると考えられていた。しかしながら、本発明者らは、育種の対象となった形質ではそれに関与する遺伝子の特定のアリルが選抜され、急速に集団に広められたため、通常より大きな範囲で遺伝的多様性が低下していると予想した。よって高密度に配置できるSNPではなく、アリル数が多いマイクロサテライトマーカーを用い、遺伝的多様性を解析した。
【0012】
具体的には、本発明者らは、この領域のBAC整列地図を作製し、高密度に配置したマイクロサテライトマーカーを用いて椎骨数との連鎖不平衡のあるゲノム領域(椎骨数の多い品種において遺伝的多様性が低下し、そうでない品種では遺伝的多様性が維持されている領域)を検索した。また見いだした領域の近傍(650 kb)においては塩基配列を決定し、すべてのVNTR(variable number of tandem repeats、タンデム反復数)型の多型マーカーを抽出した。再解析により連鎖不平衡のある領域が250 kbであり、その中にあるマイクロサテライトマーカーは椎骨数を増大させるアリルを持つ個体において著しく多様性が小さいことを明らかとした。
【0013】
また、連鎖不平衡のある250 kb領域にNR5A1とNR6A1の2つの遺伝子が存在することから、これらの遺伝子に関して、F2実験家系親世代ブタ(表1)での多型解析を行った。その結果、転写抑制作用を有するNR6A1において、椎骨数の多いブタと少ないブタの間で変異が生じていることが判明した。具体的には、NR6A1のアミノ酸配列の192番目のアミノ酸が椎骨数の少ないブタでプロリン、多いブタでロイシンで固定されていることが判明した。
【0014】
NR6A1の転写抑制作用は、コリプレッサーと結合することによって発揮される。そこで192番目のアミノ酸がプロリンである(天然型)NR6A1及び192番目のアミノ酸がロイシンである(変異型)NR6A1それぞれとコリプレッサーNCOR1の結合能を調べたところ、変異型NR6A1とNCOR1の結合能は、天然型NR6A1とNCOR1の結合能の半分以下であることが判明した。この結果から、椎骨数の多いブタが有する変異型NR6A1は、コリプレッサーとの結合活性が低く、そのため転写抑制作用が低いと判断することができる。
【0015】
すなわち、本発明は、ブタの第1染色体上のNR6A1の転写抑制作用、NR6A1のコリプレッサーとの結合能、NR6A1のアミノ酸配列における1若しくは複数のアミノ酸の変異、NR6A1の塩基配列における1若しくは複数の塩基の変異、及びブタの第1染色体上のマイクロサテライト配列を指標とするブタ椎骨数を識別する方法、並びに椎骨数の多いブタが有する変異型NR6A1に関し、より具体的には、以下の〔1〕〜〔16〕を提供するものである。
〔1〕ブタの第1染色体上のNR6A1を指標とする、ブタ椎骨数の識別方法。
〔2〕ブタの第1染色体上のNR6A1の転写抑制作用を指標とする、〔1〕記載のブタ椎骨数の識別方法。
〔3〕ブタの第1染色体上のNR6A1のコリプレッサーとの結合能を指標とする、〔1〕記載のブタ椎骨数の識別方法。
〔4〕コリプレッサーがNCOR1である、〔3〕記載のブタ椎骨数の識別方法。
〔5〕配列番号:110に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸の変異を指標とする、〔1〕記載のブタ椎骨数の識別方法。
〔6〕アミノ酸の変異が、配列番号:110に記載のアミノ酸配列の192番目のアミノ酸における変異を含む、〔5〕記載のブタ椎骨数の識別方法。
〔7〕配列番号:110に記載のアミノ酸配列の192番目のアミノ酸がロイシンである場合に、椎骨数が多いブタであると判断する、〔6〕記載のブタ椎骨数の識別方法。
〔8〕配列番号:109に記載の塩基配列において、1若しくは複数の塩基の変異を指標とする、〔1〕記載のブタ椎骨数の識別方法。
〔9〕塩基の変異が、配列番号:109に記載の塩基配列の574〜576番目の塩基における変異を含む、〔8〕記載のブタ椎骨数の識別方法。
〔10〕配列番号:109に記載の塩基配列の575番目の塩基がチミンである場合に、椎骨数が多いブタであると判断する、〔9〕記載のブタ椎骨数の識別方法。
〔11〕下記(a)または(b)に記載のDNA。
(a)配列番号:111に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:112に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
〔12〕〔11〕に記載のDNAによりコードされたタンパク質。
〔13〕〔1〕〜〔10〕記載のブタ椎骨数の識別方法に使用するためのプローブ又はプライマー。
〔14〕ブタの第1染色体上の、以下の(a)〜(n)のいずれかに記載のマイクロサテライト配列を検出することを特徴とする、椎骨数の多いブタを識別する方法。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列において、1913〜1932位のマイクロサテライト配列
(b)配列番号:1に記載の塩基配列において、1957〜1970位のマイクロサテライト配列
(c)配列番号:2に記載の塩基配列において、1419〜1442位のマイクロサテライト配列
(d)配列番号:3に記載の塩基配列において、396〜439位のマイクロサテライト配列
(e)配列番号:4に記載の塩基配列において、1938〜1961位のマイクロサテライト配列
(f)配列番号:5に記載の塩基配列において、2057〜2064位のマイクロサテライト配列
(g)配列番号:5に記載の塩基配列において、2067〜2076位のマイクロサテライト配列
(h)配列番号:5に記載の塩基配列において、2079〜2084位のマイクロサテライト配列
(i)配列番号:6に記載の塩基配列において、1227〜1263位のマイクロサテライト配列
(j)配列番号:7に記載の塩基配列において、1967〜1998位のマイクロサテライト配列
(k)配列番号:7に記載の塩基配列において、2003〜2018位のマイクロサテライト配列
(l)配列番号:8に記載の塩基配列において、1195〜1256位のマイクロサテライト配列
(m)配列番号:9に記載の塩基配列において、1427〜1448位のマイクロサテライト配列
(n)配列番号:10に記載の塩基配列において、1046〜1067位のマイクロサテライト配列
〔15〕配列番号:1〜10のいずれかに記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを有効成分として含有する、椎骨数の多いブタを識別するための試薬。
〔16〕配列番号:11〜30のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを有効成分として含有する、〔15〕記載の試薬。
【発明の効果】
【0016】
日本猪や中国系豚などのアジア系品種は肉質改良のための育種資源として期待されているが、実際には極小規模な集団を除いて一般的には利用されていない。その理由は小さな体格に起因する生産性の低さである。本発明により遺伝的に体格が大きい豚を効率的に選抜できるようになるため、西洋系品種とアジア系品種を用いた新たな系統の作製が現実的なものとなる。これにより成長・体格が優れた西洋系品種にアジア系品種の持つ様々な特性を付与することができ、付加価値を持つ新品種が作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、以下の(a)〜(e)のいずれかに記載の、変異型NR6A1のDNA、および、該DNAによりコードされるタンパク質を提供する。
(a)配列番号:111に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:112に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(c)配列番号:112に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
(d)配列番号:111に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA
(e)配列番号:111に記載の塩基配列と少なくとも70%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNA
【0018】
ブタのNR6A1には、椎骨数の少ないブタで観察される天然型(塩基配列を配列番号:109、アミノ酸配列を配列番号:110に示す)、および、椎骨数の多いブタで観察される変異型(塩基配列を配列番号:111、アミノ酸配列を配列番号:112に示す)が存在する。天然型と変異型のアミノ酸配列の違いは、192番目のアミノ酸にあり、天然型はプロリン(対応するコドンはccg)、変異型はロイシン(対応するコドンはctg)である。
【0019】
本発明のDNAは、当業者においては、一般的に公知の方法により単離することが可能である。例えば、ハイブリダイゼーション技術(Southern, EM., J Mol Biol, 1975, 98, 503.)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, RK. et al., Science, 1985, 230, 1350.、Saiki, RK. et al., Science 1988, 239, 487.)を利用する方法が挙げられる。ハイブリダイゼーション技術等を利用して単離される本発明のDNAは、配列番号:111に記載の塩基配列からなるDNAと少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上(例えば、98から99%)の配列の同一性を指す。
【0020】
アミノ酸配列や塩基配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sei. USA, 1990, 87, 2264-2268.、Karlin, S. & Altschul, SF., Proc. Natl. Acad. Sei. USA, 1993, 90, 5873.)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul, SF. et al., J Mol Biol, 1990, 215, 403.)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。
【0021】
配列番号:112に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加、および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNAを調製するために、当業者によく知られた方法としては、上記ハイブリダイゼーション技術(Southern, EM., J Mol Biol, 1975, 98, 503.)やポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, RK. et al., Science, 1985, 230, 1350.、Saiki, RK. et al., Science, 1988, 239, 487.)の他に、例えば、該DNAに対し、site-directed mutagenesis法(Kramer, W. & Fritz, HJ., Methods Enzymol, 1987, 154, 350.)により変異を導入する方法が挙げられる。改変されるアミノ酸の数は、一般的には、50アミノ酸以内、好ましくは30アミノ酸以内、より好ましくは10アミノ酸以内(例えば、5アミノ酸以内、3アミノ酸以内)である。アミノ酸の改変は、好ましくは保存的置換である。改変前と改変後の各アミノ酸についてのhydropathic index(Kyte and Doolitte,(1982) J Mol Biol. 1982 May 5;157(1):105-32)やHydrophilicity value(米国特許第4,554,101号)の数値は、±2以内が好ましく、さらに好ましくは±1以内であり、最も好ましくは±0.5以内である。また、自然界においても、塩基配列の変異によりコードするタンパク質のアミノ酸配列が変異することは起こり得ることである。また、塩基配列が変異していても、その変異がタンパク質中のアミノ酸の変異を伴わない場合(縮重変異)があり、このような縮重変異DNAも本発明に含まれる。
【0022】
本発明のDNAには、ゲノムDNA、cDNA、および化学合成DNAが含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段を利用して行うことが可能である。
【0023】
本発明は、ブタの第1染色体上のNR6A1の転写抑制作用、NR6A1のコリプレッサーとの結合能、NR6A1のアミノ酸配列における1若しくは複数のアミノ酸の変異、NR6A1の塩基配列における1若しくは複数の塩基の変異、及びブタの第1染色体上のマイクロサテライト配列を指標とするブタ椎骨数を識別する方法を提供する。
【0024】
ブタの第1染色体上のNR6A1の転写抑制作用は、NR6A1が転写を抑制する遺伝子の発現量を検出することで判断できる。ここで遺伝子の発現には、転写および翻訳が含まれる。
【0025】
NR6A1が転写を抑制する遺伝子の転写レベルにおける検査は、NR6A1が転写を抑制する遺伝子から転写されたRNAの量を対照と比較することで行われる。このような方法としては、NR6A1が転写を抑制する遺伝子をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするプローブを用いたノーザンブロッティング法、またはNR6A1が転写を抑制する遺伝子をコードするポリヌクレオチドにハイブリダイズするプライマーを用いたRT-PCR法等を例示することができる。また、NR6A1が転写を抑制する遺伝子の転写レベルにおける検査においては、DNAアレイ(新遺伝子工学ハンドブック、村松正實・山本雅、羊土社、p280-284)を利用することもできる
【0026】
一方、NR6A1が転写を抑制する遺伝子の翻訳レベルにおける検査は、NR6A1が転写を抑制する遺伝子から転写・翻訳されたポリペプチドの量を対照と比較することで行われる。このような方法としては、SDSポリアクリルアミド電気泳動法、並びにNR6A1が転写を抑制する遺伝子に結合する抗体を用いた、ウェスタンブロッティング法、ドットブロッティング法、免疫沈降法、酵素結合免疫測定法(ELISA)、および免疫蛍光法を例示することができる。
【0027】
上記の方法において、対照と比較して、NR6A1が転写を抑制する遺伝子のRNAまたはポリペプチドの発現量が上昇していた場合、NR6A1自身に変異が生じていることが推測され、該NR6A1が由来する個体について、椎骨数が増大していることが予測される。
【0028】
ブタの第1染色体上のNR6A1のコリプレッサーとの結合能は、当業者には公知の様々な方法を用いて検出することができる。一例としては、実施例3に記載のTwo-Hybrid解析が挙げられる。その他の方法としては、免疫沈降法、プルダウン法、ファーウェスタン法、クロスリンカー法が挙げられる。本発明において用いられるNR6A1のコリプレッサーは、好ましくはNCOR1である。
【0029】
上記の方法において、対照と比較して、NR6A1とコリプレッサーの結合能が低下している場合、NR6A1に変異が生じていることが推測され、該NR6A1が由来する個体について、椎骨数が増大していることが予測される。
【0030】
NR6A1のアミノ酸配列における1若しくは複数のアミノ酸の変異とは、配列番号:110に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加することを意味する。アミノ酸の変異が認められる領域は、NR6A1のヒンジ領域内(配列番号:110の133〜291番目の領域)が好ましい。また、より好ましくは、該変異は、配列番号:110に記載のアミノ酸配列の192番目のアミノ酸における変異であり、さらにより好ましくは、配列番号:110に記載のアミノ酸配列において、192番目のアミノ酸のプロリンからロイシンへの変異である。192番目のアミノ酸がロイシンである場合、ブタ椎骨数は多いと判断できる。
【0031】
本発明において、NR6A1のアミノ酸配列における1若しくは複数のアミノ酸の変異を検出するには、NR6A1とコリプレッサーとの結合能の検出、NR6A1の転写抑制作用の検出など、上述の方法を用いることができる。
【0032】
NR6A1の塩基配列における1若しくは複数の塩基の変異とは、配列番号:111に記載の塩基配列において、1若しくは複数の塩基が、置換、欠失、挿入、および/または付加することを意味する。このとき、塩基配列は、塩基配列に変化はあってもアミノ酸配列が変わらない多型現象を起こさないように変異することが好ましい。塩基の変異が認められる領域は、NR6A1のヒンジ領域内(配列番号:109の397〜873番目の領域)が好ましい。また、より好ましくは、該変異は、配列番号:109に記載の塩基配列の574〜576番目の塩基における変異であり、さらにより好ましくは、配列番号:109に記載の塩基配列において、575番目の塩基のシトシンからチミンへの変異である。575番目の塩基がチミンである場合、ブタ椎骨数は多いと判断できる。
【0033】
本発明の「マイクロサテライト配列」は、マイクロサテライトマーカー、SJ641、SJ878、SW705、SJ932、SJ885、SJ930、SJ884、SJ929、SJ928またはSJ820で示されるマイクロサテライト配列であり、具体的には、以下の(a)〜(n)のいずれかに記載のマイクロサテライト配列である。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列において、1913〜1932位のマイクロサテライト配列
(b)配列番号:1に記載の塩基配列において、1957〜1970位のマイクロサテライト配列
(c)配列番号:2に記載の塩基配列において、1419〜1442位のマイクロサテライト配列
(d)配列番号:3に記載の塩基配列において、396〜439位のマイクロサテライト配列
(e)配列番号:4に記載の塩基配列において、1938〜1961位のマイクロサテライト配列
(f)配列番号:5に記載の塩基配列において、2057〜2064位のマイクロサテライト配列
(g)配列番号:5に記載の塩基配列において、2067〜2076位のマイクロサテライト配列
(h)配列番号:5に記載の塩基配列において、2079〜2084位のマイクロサテライト配列
(i)配列番号:6に記載の塩基配列において、1227〜1263位のマイクロサテライト配列
(j)配列番号:7に記載の塩基配列において、1967〜1998位のマイクロサテライト配列
(k)配列番号:7に記載の塩基配列において、2003〜2018位のマイクロサテライト配列
(l)配列番号:8に記載の塩基配列において、1195〜1256位のマイクロサテライト配列
(m)配列番号:9に記載の塩基配列において、1427〜1448位のマイクロサテライト配列
(n)配列番号:10に記載の塩基配列において、1046〜1067位のマイクロサテライト配列
【0034】
なお、配列番号:1に記載の塩基配列はマイクロサテライトマーカーSJ641の周辺配列を示し、配列番号:2に記載の塩基配列はマイクロサテライトマーカーSJ878の周辺配列を示し、配列番号:3に記載の塩基配列はマイクロサテライトマーカーSW705の周辺配列を示し、配列番号:4に記載の塩基配列はマイクロサテライトマーカーSJ932の周辺配列を示し、配列番号:5に記載の塩基配列はマイクロサテライトマーカーSJ885の周辺配列を示し、配列番号:6に記載の塩基配列はマイクロサテライトマーカーSJ930の周辺配列を示し、配列番号:7に記載の塩基配列はマイクロサテライトマーカーSJ884の周辺配列を示し、配列番号:8に記載の塩基配列はマイクロサテライトマーカーSJ929の周辺配列を示し、配列番号:9に記載の塩基配列はマイクロサテライトマーカーSJ928の周辺配列を示し、配列番号:10に記載の塩基配列はマイクロサテライトマーカーSJ820の周辺配列を示す。
【0035】
マイクロサテライト配列及び1若しくは複数の塩基の変異の検出は、当業者においては種々の方法によって行うことができる。最も確実にマイクロサテライト配列及び1若しくは複数の塩基の変異を検出する手法は、マイクロサテライト配列及び1若しくは複数の塩基の変異を含むDNAの塩基配列を直接決定する方法である。この方法においては、まず、ブタからDNA試料を調製する。DNA試料の調製は、例えば、ブタ各種組織、血液、精液サンプルより行うことができるが、これらに特に限定されない。これらのサンプルは市販のものを用いてもよいし、自ら抽出して得てもよい。ブタからのDNAの抽出は、当業者においては一般的に公知の方法、例えば、フェノール・クロロホルム法また市販のゲノムDNA抽出キットを用いて行うことができる。
【0036】
本方法においては、次いで、マイクロサテライト部位及び1若しくは複数の塩基の変異を含むDNAを単離する。該DNAの単離は、例えば、本発明のマイクロサテライト部位及び1若しくは複数の塩基の変異を含むDNAにハイブリダイズするプライマーを用いて、DNA試料を鋳型としたPCRを実施することにより行うことが可能である。PCRは、当業者においては、その反応条件等について実験または経験によって最適な条件を適宜選択して実施することが可能である。通常、PCRは、反応液および耐熱性ポリメラーゼを含む市販の試薬キット、および市販のPCR装置等を利用して、簡便に実施することができる。PCRにより増幅するDNA領域としては、マイクロサテライト配列及び1若しくは複数の塩基の変異を含むDNA領域であれば特に制限はないが、例えば、マイクロサテライト配列の場合は、配列番号:1〜10のいずれかに記載の塩基配列における上記マイクロサテライト配列を含むDNA領域であることが好ましい。本方法においては、次いで、単離したDNAの塩基配列を決定する。単離したDNAの塩基配列の決定は、当業者においては、DNAシークエンサー等を用いて容易に実施することができる。
【0037】
マイクロサテライト配列の検出においては、上記のように塩基配列の決定により直接的に検出する方法以外に、塩基配列の決定なしに間接的に検出する方法を利用することもできる。間接的な方法としては、代表的には、SSLP(Simple Sequence Length Polymorphism)法が挙げられる(Nucleic Acids Res. 1989; 17: 6463、Genomics. 1994; 19: 137)。本方法は、ゲノム中に存在するマイクロサテライトの長さがブタのタイプによって相違することを利用して、マイクロサテライトを挟むようなプライマーを設定してPCRを行い、増幅されたDNA断片の長さの差を検出する方法である。
【0038】
本方法においては、まず、ブタからDNA試料を調製し、次いで、本発明のマイクロサテライト部位を含むDNAにハイブリダイズするプライマーを用いて、DNA試料を鋳型としたPCRを実施する。次いで、PCRにより増幅されたDNAをゲル上で分離し、分離されたDNAの鎖長を解析する。ゲル上で分離されたDNAの鎖長の差は、DNA断片を電気泳動した後のバンドパターンの違いとして検出することができる。PCRに用いるプライマーの片方を蛍光ラベルしておけば、ソフトウェア(例えば、GeneScanソフトウェア、Genotyperソフトウェア(Applied Biosystems))を用いて、電気泳動後のDNA断片の解析を行うことができる。
【0039】
本発明においては、検出されたマイクロサテライト配列の長さが、上記(a)〜(n)のマイクロサテライト配列と同じ場合に、椎骨数の多いブタであると判定される。例えば、配列番号:13に記載の塩基配列からなるフォワードプライマー、および配列番号:14に記載の塩基配列からなるリバースプライマーを使用して、本発明の識別方法を実施した場合、上記(c)に記載のマイクロサテライト配列と同一のマイクロサテライト配列が検出された場合、被検のブタは、椎骨数の多いブタであると判定される。
【0040】
1若しくは複数の塩基の変異の検出においては、NR6A1の塩基配列における塩基の変異箇所が判明しているので、アレル特異的オリゴヌクレオチド(Allele Specific Oligonucleotide/ASO)ハイブリダイゼーション法も利用できる。アレル特異的オリゴヌクレオチド(ASO)は、検出すべきSNPsが存在する領域にハイブリダイズする塩基配列で構成される。ASOを試料DNAにハイブリダイズさせるとき、多型によってSNPs部位にミスマッチが生じるとハイブリッド形成の効率が低下する。ミスマッチは、サザンブロット法や、特殊な蛍光試薬がハイブリッドのギャップにインターカレーションすることにより消光する性質を利用した方法等によって検出することができる。また、リボヌクレアーゼAミスマッチ切断法によって、ミスマッチを検出することもできる。
【0041】
その他、NR6A1の塩基配列における1若しくは複数の塩基の変異を検出する方法としてはLAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法、プライマー伸長法、インベーダー法、OLA(Oligo ligation Assay)法が挙げられる。
【0042】
また本発明は、配列番号:1〜10のいずれかに記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを有効成分として含有する、椎骨数の多いブタを識別するための試薬を提供する。上記オリゴヌクレオチドは、例えば、椎骨数の多いブタを識別する方法に使用されるPCRプライマーであって、上記(a)〜(n)のいずれかに記載のマイクロサテライト配列を含むDNA領域を増幅するための合成オリゴヌクレオチドである。
【0043】
本発明において「ストリンジェントな条件」とは、0.1から1μMのPCRプライマーを、50mM KCl, 10mM Tris-HCl(pH8.3), 1.5mM MgCl2, 0.001% gelatinの反応液中において55℃でハイブリダイズさせる条件、またはこれと同等のストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件を指す。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響する要素としては温度や塩濃度など複数の要素が考えられるが、当業者であればこれら要素を適宜選択することで最適なストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0044】
本発明において使用されるマイクロサテライト配列を増幅し得るプライマーオリゴヌクレオチドの配列は、当業者においては、鋳型となるDNAの配列情報に基づいて、適宜、設計することが可能である。好ましくは、配列番号:1から10のいずれかに記載の塩基配列からなるDNAまたはその相補鎖であるDNAに相補的な連続する15塩基を含むオリゴヌクレオチドである。PCRにおいて、上記マイクロサテライト配列を含むDNA領域を増幅する場合には、通常、上記マイクロサテライト配列を挟み込むように設定されたオリゴヌクレオチドのペアが用いられる。下記配列番号:11から30に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、最も好ましい本発明のオリゴヌクレオチドの例である。
【0045】
SJ641増幅用プライマーセット
配列番号:11(フォワードプライマー)、配列番号:12(リバースプライマー)
SJ878増幅用プライマーセット
配列番号:13(フォワードプライマー)、配列番号:14(リバースプライマー)
SW705増幅用プライマーセット
配列番号:15(フォワードプライマー)、配列番号:16(リバースプライマー)
SJ932増幅用プライマーセット
配列番号:17(フォワードプライマー)、配列番号:18(リバースプライマー)
SJ885増幅用プライマーセット
配列番号:19(フォワードプライマー)、配列番号:20(リバースプライマー)
SJ930増幅用プライマーセット
配列番号:21(フォワードプライマー)、配列番号:22(リバースプライマー)
SJ884増幅用プライマーセット
配列番号:23(フォワードプライマー)、配列番号:24(リバースプライマー)
SJ929増幅用プライマーセット
配列番号:25(フォワードプライマー)、配列番号:26(リバースプライマー)
SJ928増幅用プライマーセット
配列番号:27(フォワードプライマー)、配列番号:28(リバースプライマー)
SJ820増幅用プライマーセット
配列番号:29(フォワードプライマー)、配列番号:30(リバースプライマー)
【0046】
本発明のオリゴヌクレオチドは、上記マイクロサテライト配列を含むDNA領域を増幅しうる限り、該DNA領域に完全に相補的である必要はない。例えば、5'末端側に数ベース程度の他の塩基への置換変異を有する、もしくは5'末端側に任意の塩基が付加されたオリゴヌクレオチドであっても、本発明のオリゴヌクレオチドとして利用することが可能であるものと考えられる。
【0047】
本発明の上記オリゴヌクレオチドは、当業者においては、通常、市販されたオリゴヌクレオチド合成機もしくは合成オリゴヌクレオチド受託サービスを利用して容易に取得することが可能である。
【0048】
本発明のオリゴヌクレオチドを試薬として用いる場合には、上記オリゴヌクレオチドの他に、Tris-HCl、EDTA、KCl、MgCl2、ゼラチン、Tween-20、NP-40、ヌクレオチド類 (dATP, dCTP, dGTP, dTTP)、ヌクレオチド誘導体(7 deaza-dGTP等)等を含んでいてもよい。
【0049】
また、本発明はNR6A1の塩基配列における1若しくは複数の塩基の変異、またはNR6A1のアミノ酸配列における1若しくは複数のアミノ酸の変異を指標とするブタ椎骨数を識別する試薬を提供する。
【0050】
本発明のNR6A1の塩基配列における1若しくは複数の塩基の変異を指標とするブタ椎骨数を識別する試薬は、以下のプライマーおよび/またはプローブを含む。
【0051】
本発明において、変異部位を含む領域を増幅するためのプライマーとは、変異部位を含むDNAを鋳型として、変異部位に向かって相補鎖合成を開始することができるプライマーをいう。本発明のプライマーは、変異部位を含むDNAにおける、変異部位の3'側に複製開始点を与えるためのプライマーと表現することもできる。プライマーがハイブリダイズする領域と変異部位との間隔は、任意である。両者の間隔は、変異部位の塩基の解析手法に応じて、好適な塩基数を選択することができる。本発明のプライマーは、修飾することができる。たとえば、蛍光物質や、ビオチンまたはジゴキシンのような結合親和性物質で標識したプライマーも本発明に含まれる。
【0052】
一方本発明において、変異部位を含む領域にハイブリダイズするプローブとは、変異部位を含む領域の塩基配列を有するポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるプローブを言う。より具体的には、プローブの塩基配列中に変異部位を含むプローブは本発明のプローブとして好ましい。あるいは、変異部位における塩基の解析方法によっては、プローブの末端が多型部位に隣接する塩基に対応するように、デザインされる場合もある。したがって、プローブ自身の塩基配列には変異部位が含まれないが、変異部位に隣接する領域に相補的な塩基配列を含むプローブも、本発明における望ましいプローブとして示すことができる。
【0053】
本発明のプライマー、またはプローブは、それを構成する塩基配列をもとに、任意の方法によって合成することができる。本発明のプライマーまたはプローブの、DNAに相補的な塩基配列の長さは、通常15〜100、一般に15〜50、通常15〜30である。与えられた塩基配列に基づいて、当該塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成する手法は公知である。更に、オリゴヌクレオチドの合成において、蛍光色素やビオチンなどで修飾されたヌクレオチド誘導体を利用して、オリゴヌクレオチドに任意の修飾を導入することもできる。あるいは、合成されたオリゴヌクレオチドに、蛍光色素などを結合する方法も公知である。
【0054】
本発明の試薬には、方法に応じて、各種の酵素、酵素基質、および緩衝液などを組み合せることができる。酵素としては、DNAポリメラーゼ、DNAリガーゼ、あるいはIIs制限酵素などの、各種の解析方法に必要な酵素を示すことができる。緩衝液は、これらの解析に用いる酵素の活性の維持に好適な緩衝液が、適宜選択される。更に、酵素基質としては、たとえば相補鎖合成用の基質等が用いられる。
【0055】
本発明の、NR6A1のアミノ酸配列における1若しくは複数のアミノ酸の変異を指標とするブタ椎骨数を識別する試薬には、NR6A1に結合する抗体が含まれる。抗体には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体が含まれる。抗体は必要に応じて標識されていてもよい。
【0056】
本発明は、ブタの第1染色体上のNR6A1とコリプレッサーとの結合能を指標とするブタ椎骨数を識別する試薬も提供する。これらの試薬には、NR6A1のコリプレッサーが含まれ、好ましくはNCOR1が含まれる。
【0057】
上記の試薬においては、有効成分であるオリゴヌクレオチドや抗体以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0059】
(i) BAC整列地図の作製とマイクロサテライトマーカーの開発
ヒト第9染色体q腕末端領域のKIAA1608遺伝子とPBX3遺伝子の間に位置する遺伝子、またそのブタホモログの配列よりPCRプライマーを作製した。それらを用いてBACライブラリー(ブタゲノムライブラリー、Suzuki, K., S. Asakawa, M. Iida, S. Shimanuki, N. Fujishima et al., 2000 Anim. Genet. 31: 8-12)を、2ステップPCRシステムによりスクリーニングした。得られたBACクローン、およびそれらのエンドシーケンスを用いたウォーキングにより単離したBACクローンを用いて整列地図を作製した。マイクロサテライトマーカーは修飾した(CA)10または(GT)10をプライマーとしたBAC DNAのダイレクトシーケンスを用いる方法(Fujishima-Kanaya, N., D. Toki, K. Suzuki, T. Sawazaki, H. Hiraiwa et al., 2003 Anim. Genet. 34: 135-141)により開発した。シーケンス反応は20 μlの反応液に対し、10 pmolのプライマーを用いてABI PRISM BigDye Terminator Kit (Applied Biosystems)により行い、ABI3700シーケンサーを用いて解析した。
【0060】
(ii) BACクローンのシーケンシング
BACクローンはショットガン法によりシーケンスした。精製したBAC DNAをネブライザー(CIS-US, Inc., Bedford, MA)により断片化し、T4 DNA polymeraseとKlenow処理の後、プラスミドベクター(pBluescript II、STRATAGENE)に導入した。ランダムに選んだサブクローンを10倍のリダンダンシーになるようにシーケンスした。シーケンス反応はABI PRISM BigDye Terminator Kit(Applied Biosystems)により行い、ABI3700シーケンサーを用いて解析した。個々の配列はPhred/Phrap/Consedによりアセンブルした。
【0061】
(iii) マイクロサテライトマーカーの解析
PCRプライマーの片方を蛍光ラベル(6-FAM、HEX、NED)し、AmpliTaqGold DNA polymeraseを用いてPCRを行った。15 μlの反応液に対し、20 ngのゲノムDNA、10 pmolのプライマーを用いた。電気泳動はABI3700シーケンサーを用い、フラグメント解析はGeneScanソフトウェア、Genotyperソフトウェア(Applied Biosystems)により行った。各アリルのPCRフラグメントの長さはシーケンシングにより決定した値を用いて補正した。
【0062】
(iv) ブタゲノムDNAパネル
バークシャーについては日本(14)、アメリカ(54)、イギリス(8)において生産された食用肉からDNAを抽出した。デュロック(51)、ランドレース(15)、ラージホワイト(20)、中ヨークシャー(7)は日本で販売されている人工授精用精液よりDNAを抽出した。精液に関しては3世代以内に同一祖先が存在しないようにサンプル採取用種雄豚を選択した。ハンプシャー(19)は熊本県および沖縄県、梅山豚(14)は家畜改良センター、金華豚(6)は静岡県で飼養されている基礎豚の血液サンプルよりDNAを調製した。日本猪(6)は6県で捕獲された野生の動物よりDNAを調製した。
【0063】
(v) 実施例で用いたマイクロサテライトマーカーおよびそれらの増幅用のプライマーセットと、配列表の配列との対応
SJ641、SJ878、SW705、SJ932、SJ885、SJ930、SJ884、SJ929、SJ928、SJ820についての周辺配列とプライマーセットについては、上記したので省略する。
【0064】
SJ819
周辺配列を配列番号:31に、フォワードプライマーを配列番号:32に、リバースプライマーを配列番号:33に示す。
SJ847
周辺配列を配列番号:34に、フォワードプライマーを配列番号:35に、リバースプライマーを配列番号:36に示す。
SJ852
周辺配列を配列番号:37に、フォワードプライマーを配列番号:38に、リバースプライマーを配列番号:39に示す。
SJ853
周辺配列を配列番号:40に、フォワードプライマーを配列番号:41に、リバースプライマーを配列番号:42に示す。
SJ854
周辺配列を配列番号:43に、フォワードプライマーを配列番号:44に、リバースプライマーを配列番号:45に示す。
SJ856
周辺配列を配列番号:46に、フォワードプライマーを配列番号:47に、リバースプライマーを配列番号:48に示す。
SJ859
周辺配列を配列番号:49に、フォワードプライマーを配列番号:50に、リバースプライマーを配列番号:51に示す。
SJ872
周辺配列を配列番号:52に、フォワードプライマーを配列番号:53に、リバースプライマーを配列番号:54に示す。
SJ881
周辺配列を配列番号:55に、フォワードプライマーを配列番号:56に、リバースプライマーを配列番号:57に示す。
SJ883
周辺配列を配列番号:58に、フォワードプライマーを配列番号:59に、リバースプライマーを配列番号:60に示す。
SJ887
周辺配列を配列番号:61に、フォワードプライマーを配列番号:62に、リバースプライマーを配列番号:63に示す。
SJ891
周辺配列を配列番号:64に、フォワードプライマーを配列番号:65に、リバースプライマーを配列番号:66に示す。
SJ892
周辺配列を配列番号:67に、フォワードプライマーを配列番号:68に、リバースプライマーを配列番号:69に示す。
SJ898
周辺配列を配列番号:70に、フォワードプライマーを配列番号:71に、リバースプライマーを配列番号:72に示す。
SJ909
周辺配列を配列番号:73に、フォワードプライマーを配列番号:74に、リバースプライマーを配列番号:75に示す。
SJ910
周辺配列を配列番号:76に、フォワードプライマーを配列番号:77に、リバースプライマーを配列番号:78に示す。
SJ913
周辺配列を配列番号:79に、フォワードプライマーを配列番号:80に、リバースプライマーを配列番号:81に示す。
SJ914
周辺配列を配列番号:82に、フォワードプライマーを配列番号:83に、リバースプライマーを配列番号:84に示す。
SJ915
周辺配列を配列番号:85に、フォワードプライマーを配列番号:86に、リバースプライマーを配列番号:87に示す。
SJ916
周辺配列を配列番号:88に、フォワードプライマーを配列番号:89に、リバースプライマーを配列番号:90に示す。
SJ917
周辺配列を配列番号:91に、フォワードプライマーを配列番号:92に、リバースプライマーを配列番号:93に示す。
SJ918
周辺配列を配列番号:94に、フォワードプライマーを配列番号:95に、リバースプライマーを配列番号:96に示す。
SJ924
周辺配列を配列番号:97に、フォワードプライマーを配列番号:98に、リバースプライマーを配列番号:99に示す。
SJ925
周辺配列を配列番号:100に、フォワードプライマーを配列番号:101に、リバースプライマーを配列番号:102に示す。
SJ926
周辺配列を配列番号:103に、フォワードプライマーを配列番号:104に、リバースプライマーを配列番号:105に示す。
SJ927
周辺配列を配列番号:106に、フォワードプライマーを配列番号:107に、リバースプライマーを配列番号:108に示す。
【0065】
[実施例1]椎骨数の多いブタで固定されているマイクロサテライトマーカーの検出
SJ819からSJ273の範囲をQTL候補領域とし、この領域にBAC整列地図を作製した(図6)。SJ819、SJ273はそれぞれKIAA1608、PBX3と同じBACクローンに含まれている。ヒト第9染色体q腕のKIAA1608とPBX3の間にある遺伝子、LHX2、NEK6、PSMB7、NR5A1、NR6A1、ARPC5L、GOLGA1、RAB9P40、HSPA5、MAPKAP1の配列、またはこれらのブタホモログよりPCRプライマーを作製した。
【0066】
単離したBACクローン、およびエンドシーケンスからのウォーキングにより得られたBACクローンにより整列化を行った。BAC整列地図上のクローンよりMS配列を開発した(SJ898、SJ853、SJ856、SJ909、SJ910、SJ852、SJ847、SJ854、SJ878、SJ885、SJ884、SJ820、SJ872、SJ859、SJ887、SJ891、SJ881、SJ892、SJ883)。これらのマーカーと、既存のマーカーでこの領域に位置するもの(SJ819、SJ641、SW705、SJ344(AB167439)、SJ273)を用いて椎骨数の多い188頭のブタ(バークシャー(76)、デュロック(51)、ハンプシャー(19)、ランドレース(15)、ラージホワイト(20)、中ヨークシャー(7))を用いて連鎖不平衡のある領域を検索した。リファレンスとして椎骨数の少ない26頭のブタ(梅山豚(14)、金華豚(6)、日本猪(6))を用いた。
【0067】
その結果、SJ641、SJ878、SW705、SJ885、SJ884、SJ820において椎骨数の多いブタにおいてアリルが著しく少なく、SJ878、SJ885では固定されていた(表3)。SJ641、SJ884、SJ820では近年、変異が生じたと思われるアリルが1%前後の頻度で存在した。SW705は頻度が最も高いアリルが92%であり、第2位のアリルが5%存在した。椎骨の少ない26頭においても10個のアリルが検出されたことから変異の速度が大きいマーカーであると考えられる。
【0068】
【表3】

下線で示したマーカーでは、椎骨数の多いブタにおいて多様性が失われている
【0069】
この椎骨数の多いブタでマイクロサテライトマーカーが固定された領域を詳細に決定するために、固定されていないマーカー、SJ854からSJ872までの領域の塩基配列を決定し、マイクロサテライトマーカーなどのVNTR型の多型マーカーをすべて抽出した(SJ918、SJ917、SJ916、SJ914、SJ915、SJ913、SJ932、SJ930、SJ929、SJ928、SJ925、SJ924、SJ927、SJ926)。再度、解析した結果、椎骨数の多いブタで著しく多様性が小さく連鎖不平衡が確認される領域はSJ641からSJ820までの範囲であった(図6、表3)。この領域に新たに得られたマーカー、SJ932、SJ930、SJ929、SJ928はすべて椎骨数の多いブタにおいて固定されていた。
【0070】
これらの結果より、椎骨数に関与するQTLは第1染色体q腕末端領域のマイクロサテライトマーカー、SJ641からSJ820の約250 kbの範囲に位置すると考えられる。またこの領域に位置するマイクロサテライトマーカーは椎骨数の多いブタでほぼ固定されていることから育種への利用価値が高い。この領域のマーカーを用いることにより遺伝的な椎骨数増大能を持つ個体を選抜することができ、その子孫で椎骨数の増大効果は平均でアリルあたり約0.6本である。
【0071】
なお、当初今回の解析により得られる結果として期待していたことは、椎骨数の多いブタにおいて遺伝的多様性が低い領域が『統計的』に検出され、候補領域をさらに絞り込める可能性があるということであった。しかしながら結果としては250kbの範囲においてマイクロサテライトマーカーに多型は無く、椎骨数を増大させるアリルはおそらく突然変異の生じたある一頭のブタに由来することがほぼ確実となった。このように統計的な関連性をはるかに越え、質的な関連性があるマイクロサテライトマーカーが検出されるということは、予想外であった。
【0072】
[実施例2]連鎖不平衡のある領域に存在する遺伝子の多型解析
椎骨数の多いブタにおいてマイクロサテライトマーカーが固定されている、SJ641からSJ820の約250 kbの領域には、NR5A1(nuclear receptor subfamily 5, group A, member 1: Other Aliases: AD4BP, ELP, FTZ1, FTZF1, SF-1, SF1)とNR6A1(nuclear receptor subfamily 6, group A, member 1: Other Aliases: GCNF, RTR)の2つの遺伝子が位置している(図6)。
【0073】
NR5A1はショウジョウバエではftz(フシタラズ遺伝子)の転写因子である。しかしながら哺乳類ではftzのホモログは確認されておらず、NR5A1は性分化に関わる。
NR6A1は胚、および成体の精巣、卵巣で発現する核内受容体である。リガンドは不明でorphanリセプターである。ノックアウトマウスは胚性致死、体後部が形成不全となる(Chung等、2001)。またアフリカツメガエルでは前後軸形成に関わる(David等、1998)。
【0074】
そこで、本発明者らは、これらNR5A1、NR6A1についてこれまでに造成したF2実験家系親世代ブタ(表1)での多型解析を行った。またブタゲノムDNAパネルを用いて多型解析を行った。
多型解析の結果、NR6A1のアミノ酸配列(配列番号:110の配列)の192番目のアミノ酸のプロリンがロイシンになる置換が検出され、F2実験家系のQTLと完全に一致した(表4)。また、ブタゲノムDNAパネルにおいても、西洋品種200頭(椎骨数の多いブタ)でロイシン、東洋品種30頭(椎骨数の少ないブタ)でプロリンで固定されていた。(図7)。このアミノ酸置換をDNAレベルで解析すると、天然型(椎骨数の少ないブタ、プロリン型)のNR6A1 cDNA(配列番号:109)の575番目の塩基がC、変異型(椎骨数の多いブタ、ロイシン型)のNR6A1 cDNA(配列番号:111)の575番目の塩基がTであった。
この結果から、NR6A1のアミノ酸配列の192番目のアミノ酸におけるプロリンからロイシンへのアミノ酸置換が、ブタの椎骨数の増大の原因であることが予想される。
【0075】
【表4】

【0076】
[実施例3] NR6A1のアミノ酸置換による機能の変化の解析(Two-Hybrid解析)
NR6A1は他の核内受容体と同様にコリプレッサー(NCOR1、RAP80)と結合して転写抑制作用を発揮し、この結合のためにはNR6A1のヒンジ領域が必要であることが報告されている。今回検出したアミノ酸置換はヒンジ領域に位置しているので(図7)、アミノ酸置換によるコリプレッサーとの結合能の変化を解析するためTwo-Hybrid解析を行った。
【0077】
NCOR1にはC末領域に二つのリセプター結合ドメイン(ID-I、ID-II)がある(図8、Seol 等、1996、Yan等、2000、Yan等、2002)。本発明者らは、まず、これらID-I、ID-IIを含む領域からなるブタのNCOR1断片を作成した(配列番号:113)。また、この断片の領域はマウスNcor1 (NM_011308、CDS: 256..7587) の6205-7587に相当し、75.3%のホモロジーを有する。ID-IIは該断片(配列番号:113)の217-472で、NM_011308の6442-6681 (2063-2142 aa) に相当する。ID-Iは該断片(配列番号:113)の760-945で、NM_011308の6970-7155 (2239-2300 aa)に相当する。またヒトNCOR1 (NM_006311、CDS: 241-7563) の6172-7562に相当し、79.9%のホモロジーを有する。
【0078】
次に、NCOR1のID-Iと ID-IIを含む領域(図8)を有するプラスミド、NR6A1のプロリン型又はロイシン型を有するプラスミドを構築した(図9)。プラスミドの構築には、CheckMate(商標) mammalian Two-Hybrid System (Promega)を用いた。構築したプラスミドは以下のとおりである。
pBINDpigNCORI・・・pBINDにブタNCORI断片(1386 bp、配列番号:113)を挿入
pACTpigNR6A1(P)・・・pACTにプロリン型ブタNR6A1(1440 bp、配列番号:109)を挿入
pACTpigNR6A1(L)・・・pACTにロイシン型ブタNR6A1(1440 bp、配列番号:111)を挿入
【0079】
次に、6 well plate (9.6 cm2) に2 x 105 のCHO-K1細胞をまき5%CO2、37℃で20時間培養した。FuGENE6 (Loche)3 μlとプラスミドDNAを混合してトランスフェクションした。pG5lucは0.1 μg、pBIND、pBINDpigNCORI、pACT、pACTpigNR6A1P、pACTpigNR6A1Lは0.5 μgを用いた。37℃、5%CO2で48時間培養後、PBS(-)で2回洗浄し、500 μlのGlo lysis buffer (Promega)を加え、室温で15分静置して細胞を溶解した。細胞溶解液200 μlを96 well plateに移し、5000 rpmで5分遠心し、上清(10 μl)を測定に用いた。Dual-Luciferase(商標) Reporter Assay Systemを用いてホタルルシフェラーゼおよびウミシイタケルシフェラーゼ活性を測定した。
【0080】
その結果、変異型は、天然型と比較して、コリプレッサーとの結合能が半分以下になっていることが明らかとなった(図10)。すなわち、プロリンからロイシンへのアミノ酸変異により、NR6A1の有する転写抑制作用が発揮されなくなると予測される。
【0081】
[実施例4] マウス胚での発現解析・in situハイブリダイゼーション
マウス10.5日胚を用いて、Ncor1 mRNA、Nr6a1 mRNAの発現をin situハイブリダイゼーションで解析した。実験は以下のとおりに行った。
【0082】
<マウスの準備>
C57BL/6マウス胎仔(10.5日齢)をネンブタール麻酔下の妊娠マウスより取り出し、ホルムアルデヒド固定した後、パラフィン包埋し、6 μmの厚さに薄切した。
【0083】
<プローブの準備>
精巣から調製したトータルRNAを用いたRT-PCRにより得られた以下のDNAフラグメントをプラスミドにクローニングし、in vitro transcription法(DIG RNA labeling Mix, Roche)により、ジゴキシゲニン標識RNAプローブを作製した。
Ncor1用プローブ
NM_011308の2319-2739、NM_011308(1..7780、 CDS: 117..7478)→Ncor1 mRNA(マウス)
Nr6a1用プローブ
NM_010264の1586-2084、NM_010264(1..6360、CDS: 390..1877)→Nr6a1 mRNA(マウス)
【0084】
<ハイブリダイゼーション>
キシレン処理とエタノール処理による脱水の後、PBSで2回洗浄し、4%のparaformardehydeで15分間、固定した。7.5μg/ml proteinase Kで37℃で1時間処理した後、4%のparaformardehydeで再固定し、PBSで2分、0.2NHClで10分、PBSで1分間洗浄した。0.1Mのtriethanolamine-HCl, pH8.0で1分間アセチルし、さらに0.1Mのtriethanolamine-HCl, 0.25%無水酢酸で10分間処理し、PBSで洗浄後、エタノールで脱水した。ハイブリダイゼーションは50% formamide, 5X SSC, 1% SDS, 50μg/ml tRNA, 50μg/ml heparin中で200-500ng/mlのプローブを用いて55℃で16時間行った。ハイブリダイゼーション後の標本の洗浄は5X SSCで55℃、15分、および50%のホルムアミド、2X SSCで55℃で、その後、50μg/ml RNase A in 10mM Tris-HCl, pH8.0、1M NaCl、1mM EDTAで15分間処理した。2X SSC、50℃、15分間の洗浄を2回、0.2X SSC、50℃、15分間の洗浄を2回、TBST (0.1% Tween20 in TBS)、5分間の洗浄を1回行った。0.5% Blocking reagent(Roche) in TBSTで1時間処理した後、抗DIG AP conjugate(Roshe、TBSTで1:2000希釈)で1時間インキュベートした。2 mM レバミゾールを含んだTBSTで2回洗浄し、次に100mM NaCl、50mM MgCl2、0.1% Tween20、100mM Tris-HCl pH9.5、2 mM レバミゾールでインキュベートした。発色基質にはNBT/BCIPを使用し、染色後ケルネヒトロート液(Kernechtrot Strain Sol., 武藤化学薬品)により対比染色を行った。
【0085】
その結果、鰓弓、肺芽、後根神経節において、Ncor1 mRNA、Nr6a1 mRNAともに発現することが確認された。Nr6a1 mRNAの発現は弱いものであった(図11、12)。
【0086】
[実施例5] NR6A1のマウス胚での発現解析・免疫染色
マウス10.5日胚を用いて、Nr6a1の発現を免疫染色で解析した。実験は以下のとおりに行った。
NR6A1の合成部分ペプチド(CQDELAELDPSTISV(KLH conjugate)、配列番号:114)をウサギに6回免疫した。全採血後、血清を0.22 μm filterationした。マウス10.5日胚は、C57BL/6マウス胎仔(10.5日齢)をネンブタール麻酔下の妊娠マウスより取り出し、エタノール固定したものを用いた。
その結果、神経管の両脇、体節にタンパク質が発現することが確認された(図13)。
【0087】
以上より、椎骨数を変動させるQTLの責任遺伝子はNR6A1であり、プロリンからロイシンに変異したことにより、コリプレッサーとの結合能が低下したことが椎骨数増大の原因である。よってこのアミノ酸置換のもととなるSNPは椎骨数増大能力の指標として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】椎骨数に関するQTL解析結果のグラフである(北海道1家系)。第1染色体(SSC1)のq腕末端領域と第7染色体(SSC7)q腕中央部にほぼ同じ統計量で2つのQTLが検出された。白丸は解析に用いたマイクロサテライトマーカーの位置を示す。
【図2】三県合同家系における2つの椎骨数QTLの効果を示す図である。2つのQTLのそれぞれの遺伝子型を持つF2個体の椎骨数の平均値を示した。それぞれのQTLは主に相加的効果を持ち、また2つのQTLは独立に働く。
【図3】第1染色体q腕末端における椎骨数QTLのファインマッピングの図である。(A) Wada等による解析結果。(B)新規マイクロサテライトマーカーを用いたインターバルマッピングの結果。(C) 三県合同家系の椎骨数19のF2個体の染色体の組み換えによるマッピング。(D) マイクロサテライトマーカーの連鎖地図。
【図4】第1染色体q腕末端のQTL領域におけるヒトとの比較遺伝子地図の作製とマイクロサテライトマーカーの開発を示す図である。Radiation Hybrid (RH) Panelを用いてブタとヒトとの比較遺伝子地図を作製した。QTL領域に位置するブタ遺伝子の塩基配列を用いて単離したBACクローンよりマイクロサテライトマーカーを開発した。
【図5】三県合同家系の椎骨数19の個体の第1染色体q腕末端領域での組み換えを示す図である。それぞれのマーカーが金華豚型(J、q/q)、デュロック型(D、Q/Q)、ヘテロ型(H、q/Q)であることを示した。組み換えのない19頭はまとめて示した。
【図6】SJ819よりSJ273までの領域のBAC整列地図とマイクロサテライトマーカーの開発を示す図である。点線のクローンはウォーキングで得られたものを示す。長い矢印は既存のマーカー、短い矢印は新規のマーカーを示す。SJ854からSJ872までは塩基配列を決定した。塩基配列の決定の後、配列より得たマーカーは*を付けた。四角で囲んだマーカーは椎骨数の多い豚で多様性が小さいマーカーを示す。
【図7】NR6A1の図である。ブタで検出されたアミノ酸置換の位置と、コリプレッサーに結合する領域を示す。
【図8】コリプレッサーNCOR1遺伝子と、該遺伝子の有する2つのリセプター結合ドメインを示す図である。
【図9】NCOR1のリセプター結合ドメインを用いたTwo Hybrid解析の原理を示す図である。
【図10】NCOR1のリセプター結合ドメインを用いたTwo Hybrid解析の結果を示すグラフである。
【図11】NR6A1、NCOR1のマウス胚での発現解析(In situ ハイブリダイゼーション)の写真である。1:嗅板、2:前脳、3:第4脳室、4:鰓弓/下顎骨の前駆組織、5:球‐幹接合部、6:後肢芽、7:心間膜、8:肺芽、9:神経管、10:後根神経節を指す。
【図12】NR6A1、NCOR1のマウス胚での発現解析(In situ ハイブリダイゼーション)の拡大写真である。
【図13】NR6A1のマウス胚での発現解析(免疫染色)の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタの第1染色体上のNR6A1を指標とする、ブタ椎骨数の識別方法。
【請求項2】
ブタの第1染色体上のNR6A1の転写抑制作用を指標とする、請求項1記載のブタ椎骨数の識別方法。
【請求項3】
ブタの第1染色体上のNR6A1のコリプレッサーとの結合能を指標とする、請求項1記載のブタ椎骨数の識別方法。
【請求項4】
コリプレッサーがNCOR1である、請求項3記載のブタ椎骨数の識別方法。
【請求項5】
配列番号:110に記載のアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸の変異を指標とする、請求項1記載のブタ椎骨数の識別方法。
【請求項6】
アミノ酸の変異が、配列番号:110に記載のアミノ酸配列の192番目のアミノ酸における変異を含む、請求項5記載のブタ椎骨数の識別方法。
【請求項7】
配列番号:110に記載のアミノ酸配列の192番目のアミノ酸がロイシンである場合に、椎骨数が多いブタであると判断する、請求項6記載のブタ椎骨数の識別方法。
【請求項8】
配列番号:109に記載の塩基配列において、1若しくは複数の塩基の変異を指標とする、請求項1記載のブタ椎骨数の識別方法。
【請求項9】
塩基の変異が、配列番号:109に記載の塩基配列の574〜576番目の塩基における変異を含む、請求項8記載のブタ椎骨数の識別方法。
【請求項10】
配列番号:109に記載の塩基配列の575番目の塩基がチミンである場合に、椎骨数が多いブタであると判断する、請求項9記載のブタ椎骨数の識別方法。
【請求項11】
下記(a)または(b)に記載のDNA。
(a)配列番号:111に記載の塩基配列からなるDNA
(b)配列番号:112に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA
【請求項12】
請求項11に記載のDNAによりコードされたタンパク質。
【請求項13】
請求項1〜10記載のブタ椎骨数の識別方法に使用するためのプローブ又はプライマー。
【請求項14】
ブタの第1染色体上の、以下の(a)〜(n)のいずれかに記載のマイクロサテライト配列を検出することを特徴とする、椎骨数の多いブタを識別する方法。
(a)配列番号:1に記載の塩基配列において、1913〜1932位のマイクロサテライト配列
(b)配列番号:1に記載の塩基配列において、1957〜1970位のマイクロサテライト配列
(c)配列番号:2に記載の塩基配列において、1419〜1442位のマイクロサテライト配列
(d)配列番号:3に記載の塩基配列において、396〜439位のマイクロサテライト配列
(e)配列番号:4に記載の塩基配列において、1938〜1961位のマイクロサテライト配列
(f)配列番号:5に記載の塩基配列において、2057〜2064位のマイクロサテライト配列
(g)配列番号:5に記載の塩基配列において、2067〜2076位のマイクロサテライト配列
(h)配列番号:5に記載の塩基配列において、2079〜2084位のマイクロサテライト配列
(i)配列番号:6に記載の塩基配列において、1227〜1263位のマイクロサテライト配列
(j)配列番号:7に記載の塩基配列において、1967〜1998位のマイクロサテライト配列
(k)配列番号:7に記載の塩基配列において、2003〜2018位のマイクロサテライト配列
(l)配列番号:8に記載の塩基配列において、1195〜1256位のマイクロサテライト配列
(m)配列番号:9に記載の塩基配列において、1427〜1448位のマイクロサテライト配列
(n)配列番号:10に記載の塩基配列において、1046〜1067位のマイクロサテライト配列
【請求項15】
配列番号:1〜10のいずれかに記載の塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを有効成分として含有する、椎骨数の多いブタを識別するための試薬。
【請求項16】
配列番号:11〜30のいずれかに記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを有効成分として含有する、請求項15記載の試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図5】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−101871(P2006−101871A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242362(P2005−242362)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【出願人】(593027587)社団法人農林水産先端技術産業振興センター (7)
【Fターム(参考)】