説明

ブレーキディスク

【課題】制動時における摺動体の熱倒れを極力防止することができるブレーキディスクを提供する。
【解決手段】ブレーキディスクは、車軸取付け用の本体部10及びその周囲に設けられた外周フランジ部20を具備してなるハブ1と、当該ハブの外周フランジ部20に対して締結ボルト4により固着される環状の摺動体3とから構成されている。ハブの外周フランジ部20は、複数の外輪連結部26及び複数の締結孔25を有する環状の外輪部22と、前記各外輪連結部26をハブの本体部10に連結するための複数の連結アーム23,24とを備える。隣り合う二つの外輪連結部26は外輪部22の一部(円弧状架橋部)によって架橋的に連結されている。また、それら二つの外輪連結部26間には締結孔25が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ用のブレーキディスクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にブレーキディスクは、車軸への取付部であるハブと、ブレーキキャリパの制輪子(ブレーキシューやブレーキライニング)と摩擦接触させるべく前記ハブの周囲に設けられた環状円盤形の摺動部(制動部)とから構成されている。従来、ハブと摺動部とを一体鋳造したブレーキディスクが知られている。一体型のディスクでは図6に示すように、摺動部の内周側根元部がハブに強固に固定されているために、制動時の摩擦熱で摺動部が熱膨張した際、ディスクの中心軸線Cと平行な方向へのモーメントが生じ、摺動部が車軸方向に傾くように変形する現象(この現象を「熱倒れ」と呼ぶ)が知られている。熱倒れは、それ単独で又はディスクの取付精度の低さに起因した摺動面振れと相俟ってディスクの偏摩耗を生じさせ、ひいては制動時における制動トルクの不安定化や不快なブレーキ振動の原因となる。このため、熱倒れを極力防止するための対策が種々提案されている。
【0003】
特許文献1のディスクブレーキ用ディスクプレートは、「円環状の制動部材の内周部に、制動部材と別体にされた取付部材の端部が重ねられ、前記両部材がそれらを貫通する連結ピンで連結されたものにおいて、連結ピンを挿通する両部材の孔の一方または両方が径方向に長い長孔になっている」ものである。つまり、連結ピン用の孔を径方向に長孔化することで、制動部材の熱膨張時における取付部材(ハブ)による拘束を緩和し、制動部材がディスクの半径方向外向きに熱膨張することを容易にして、制動部材の熱倒れを極力防止せんとするものである。しかしながら、特許文献1のように連結ピン用の孔を長孔化すると、取付部材(ハブ)に対する制動部材の姿勢保持力が低下し、摺動面の振れ精度を高精度に保つことが難しくなる。このため、特許文献1の技術も、総合的な評価としてはディスク偏摩耗の回避につながらない。
【0004】
特許文献2のディスクブレーキ用ベンチレーテッドディスクは、摺動部たる摩擦トラックが支持ディスクハブに対して、その支持ディスクハブの周囲に放射状に配設された複数のピンを介して連結されたものであって、各ピンの外端部が摩擦トラック内に埋設・固定される一方で、各ピンの内端部が支持ディスクハブ内に半径方向に摺動可能なインサートとして収容されているものである。つまり、摩擦トラックの内周側に固定されたピンを、支持ディスクハブに対して半径方向に摺動可能としておくことにより、摩擦トラックの熱膨張時における支持ディスクハブによる拘束を緩和し、摩擦トラックがディスクの半径方向外向きに熱膨張することを容易にして、摩擦トラックの熱倒れを極力防止せんとするものである。この構造によれば、支持ディスクハブによる複数のピンを介した摩擦トラックの姿勢保持性も悪くなく、摺動面の振れ精度を高精度に保つことも可能である。
【0005】
しかしながら、特許文献2のディスクを製造するためには、複数のピンを砂型(中子)内に収めた状態で摩擦トラック及び支持ディスクハブを一体鋳造し、その後に機械加工によって摩擦トラックと支持ディスクハブとを切り離し、両者間に残された一群のピンによって両者を連結した状態に導くという複雑な工程を経る必要がある。この製造方法には、ピンを中子内に仮保持する際の位置決め精度をいかに確保するかという問題や、型内にピンを含んだ状態で鋳造することに起因してピンと他の肉部との界面に生じた酸化物が、ピンの固定強度を低下させたりピンの摺動性を悪化させたりするおそれがあるなど製造上多くの問題がある。このため、特許文献2のディスクは、製造コストが高くつく一方で、そのコストに見合うだけの品質や性能を確保することが難しいという欠点がある。
【0006】
【特許文献1】実開昭61−104842号の全文明細書及び図面
【特許文献2】特表2003−526058号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来の技術とは異なる解決手法により、制動時における摺動体の熱倒れを極力防止することができるブレーキディスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、車軸に取り付けられる本体部及びその本体部の周囲に設けられた外周フランジ部を具備してなるハブと、当該ハブの外周フランジ部に対して複数の締結具により固着される環状の摺動体とから構成されるブレーキディスクにおいて、前記ハブの外周フランジ部は、複数の外輪連結部及び前記各締結具を装着するための複数の締結部を有する環状の外輪部と、前記各外輪連結部をハブの本体部に連結するための複数の連結アームとを備え、前記外輪部において、隣り合う二つの外輪連結部が当該外輪部の一部によって連結されると共に、それら二つの外輪連結部間には前記締結部が設けられていることを特徴とするブレーキディスクである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載のブレーキディスクにおいて、前記外輪部において、前記複数の外輪連結部がハブの中心軸線(C)を中心として等角度間隔で設けられていると共に、外輪連結部と同数の締結部の各々が、隣り合う二つの外輪連結部の丁度中間に位置するように設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載のブレーキディスクにおいて、前記外輪部における複数の外輪連結部は、隣り合う二つの外輪連結部間の外輪部に沿った離間長(L)が、外輪部の幅(h)の5倍の長さ(5h)よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、車軸に取り付けられる本体部及びその本体部の周囲に設けられた外周フランジ部を具備してなるハブと、当該ハブの外周フランジ部に対して複数の締結具により固着される環状の摺動体とから構成されるブレーキディスクにおいて、前記ハブの外周フランジ部は、ハブの中心軸線(C)を中心として等角度間隔で設けられた複数の外輪連結部、及び、その外輪連結部と同数で且つそれぞれが前記隣り合う二つの外輪連結部の丁度中間に位置するように設けられた前記各締結具を装着するための締結部を有する環状の外輪部と、前記各外輪連結部をハブの本体部に連結するための外輪連結部の2倍の数の連結アームとを備え、前記各外輪連結部が、当該外輪連結部とハブの中心軸線(C)とを結ぶ半径方向仮想線に対し線対称となるように傾斜させた2本の連結アームを介してハブの本体部に連結されると共に、当該外輪連結部の両隣に位置する締結部の各々とハブの中心軸線(C)とを結ぶ半径方向仮想線に対する各連結アームの傾斜角度(θ2)が30°以上60°以下であることを特徴とするブレーキディスクである。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4に記載のブレーキディスクにおいて、前記外輪部における複数の外輪連結部は、隣り合う二つの外輪連結部間の外輪部に沿った離間長(L)が、外輪部の幅(h)の5倍の長さ(5h)よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする。
【0013】
[作用]
制動時の摩擦熱でディスクの摺動体の全体が半径方向外向き(拡径方向)に熱膨張すると、各締結具を介して、ハブの外周フランジ部を構成する環状の外輪部が各締結部の位置で拡径方向に引っ張られる。その際、図5に示すように、締結部(25)の周方向両側に位置する各外輪連結部(26)は、連結アーム(23,24)を介してハブ本体部に連結されているため、拡径方向への引っ張りに対しては頑強に抵抗してハブ本体部との距離を維持しようとするのに対し、二つの外輪連結部間に位置する締結部(25)は、締結具を介して熱膨張する摺動体に追従しようとする。このため、二つの外輪連結部(26)を架橋的に連結している外輪部の一部(図5では円弧状架橋部)が、摺動体の熱膨張に追従して締結部位置にて拡径方向に膨出するように変形する。この膨出変形によって摺動体の内周部とハブ本体部との間隔が微増調整され、摺動体の熱膨張に起因する拡径方向への引っ張り力がハブ本体部に及ぶことが緩和される。その後、一旦膨張した摺動体が半径方向内向き(縮径方向)に収縮するときには、前記二つの外輪連結部を架橋的に連結している外輪部の一部が元の状態に復帰することで、摺動体の内周部とハブ本体部との間隔が膨張前の状態に戻される。
【0014】
このように、ハブの外周フランジ部を構成する外輪部において、隣り合う二つの外輪連結部を当該外輪部の一部によって連結すると共に、それら二つの外輪連結部間に締結部を設けるという構成を採用することで、摺動体はハブ本体部に過度に拘束されることなく拡径方向又は縮径方向への変形自由度をある程度確保されている。それ故、制動時の摩擦熱で摺動体が熱膨張する場合でも、ハブ本体部が摺動体の内周部(つまり根元部)を過度に拘束することがないため、摺動体の熱倒れが効果的に防止又は抑制される。
【0015】
なお、請求項2のように、複数の外輪連結部が等角度間隔で設けられると共に、各締結部が隣り合う二つの外輪連結部の丁度中間に位置することは好ましい。この構成によれば、摺動体が膨張又は収縮する際に、ハブの外周フランジ部の外輪部に作用する応力が全ての半径方向に対して均等化するため、外輪部に局部的な歪みを生ずるおそれがない。また、各締結部からその左側の外輪連結部までの距離と、その右側の外輪連結部までの距離とが等しいことで、摺動体の熱膨張時における締結部位置での外輪部の半径方向変位量を確保することが容易になる。
【0016】
また、請求項3のように、5h<Lの関係を満たすことは好ましい。隣り合う二つの外輪連結部間の外輪部に沿った離間長(L)が、外輪部の幅(h)の5倍の長さ(5h)以下になると、二つの外輪連結部を架橋的に連結している外輪部の一部が、摺動体の熱膨張に追従して締結部位置にて拡径方向に膨出変形することが難しくなり、摺動体がハブ本体部に拘束される度合いが強くなって所期の作用効果を得られないおそれがある。
【0017】
更に、請求項4のように、各外輪連結部を線対称に傾斜した2本の連結アームを介してハブ本体部に連結すると共に、各連結アームの傾斜角度(θ2)を30°以上60°以下とすることは好ましい。このように、各外輪連結部を線対称に傾斜した2本の連結アームを介してハブ本体部に連結することで、各外輪連結部において外輪部をハブ本体部に対して確実に保持することができる。また、各連結アームをディスクの放射方向(半径方向)に沿って設けるのではなく、放射方向に対して上記範囲の角度で傾斜させることにより、制動トルクに対するせん断強度を高めて、ブレーキディスク全体の剛性を高めることができる。なお、請求項5の技術的意義は、請求項3と同じである。
【0018】
[付記]本発明の更に好ましい態様や追加的構成要件を以下に列挙する。
イ.請求項1〜5にて、前記ハブがアルミニウム又はその合金で作られていること。
ロ.請求項1〜5にて、前記摺動体が鉄系の金属で作られていること。
ハ.請求項1〜5にて、前記外輪部の一部が弾性変形可能であること。
【0019】
[用語の定義]この明細書及び特許請求の範囲において、「環状の外輪部」には、円環状の外輪部のみならず、多角形環状の外輪部も含まれる。多角形環状の外輪部としては、例えば各外輪連結部を多角形の各頂点とすると共に、隣り合う頂点を結ぶ辺の中間位置に締結部を配設してなる外輪部をあげることができる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1〜5に記載のブレーキディスクによれば、摺動体の内周部(根元部)がハブ本体部によって過度に拘束されることがなく、摺動体の熱倒れを効果的に防止又は抑制することができる。
【0021】
また、一群の連結アームによってディスクの摺動体がハブ本体部に対し確実に姿勢保持されるので、本発明を採用することで摺動体における摺動面の振れ精度を高精度に保つことが困難になるということはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明をベンチレーテッド型ブレーキディスクに具体化した一実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1〜図4に示すように、ブレーキディスクは、ハブ1と、その周囲に設けられた環状の摺動体3とから構成されている。
【0023】
図2及び図3に示すように、ハブ1は、鋳造によりアルミニウム合金を一体成形したものであり、車軸に取り付けられる本体部10と、その本体部10の周囲に設けられた外周フランジ部20とを具備する。
【0024】
ハブの本体部10は、円板状の車軸取付け用フランジ12を主体とし、そのフランジ12の外周縁部に短円筒状の円筒壁13を設けたものである。車軸取付け用フランジ12はハブの中心軸線Cに対し直交する方向(半径方向)に展開する。円筒壁13は、その長さは短いものの、車軸取付け用フランジ12の外周縁から中心軸線Cと平行に後方向に向けて突設されている。車軸取付け用フランジ12には、その中心位置において車軸を通すための中央大穴14が形成されると共に、その中央大穴14を取り囲む位置において複数のボルト挿通穴15(本例では5個)が等角度間隔(本例では72°間隔)にて配列・形成されている。
【0025】
ハブの外周フランジ部20は、ハブ本体部10の円筒壁13の後端縁からハブの半径方向外向きに当該円筒壁13の全周にわたって突設されている。具体的には図3に示すように、外周フランジ部20は、前記円筒壁13の後端縁から半径方向外向きに突設された円環状の内輪部21と、その内輪部21を取り囲むと共に内輪部21よりも大径な円環状の外輪部22と、内輪部21と外輪部22との間の円環状帯領域にあって内外両輪部21,22を連結するための複数本の連結アーム23,24(合計20本)とを備えている。これら20本の連結アームのうち、半数の連結アーム23は、ディスク又はハブの半径方向に対してディスク又はハブの一周方向たる時計回り方向に傾斜しており、残る半数の連結アーム24は、ディスク又はハブの半径方向に対してディスク又はハブの他の周方向たる反時計回り方向に傾斜している。
【0026】
外周フランジ部20の外輪部22には、複数の締結部としての締結孔25(本例では10個)がハブの中心軸線Cを中心として等角度間隔(本例では36°間隔)にて配列・形成されている。各締結孔25は、単なるボルト通し孔であってその内側にネジ溝は形成されていない。この外輪部22において、隣り合う二つの締結孔25の丁度中間位置には、2本の連結アーム23,24の結合部位である「外輪連結部26」がそれぞれ設定されている。つまり外輪部22には、締結孔25と同数(10個)の外輪連結部26が、ハブの中心軸線Cを中心として等角度間隔(36°間隔)にて配列されると共に、隣り合う二つの外輪連結部26は、外輪部22の一部である円弧状部分によって相互連結されている。そして、隣り合う二つの外輪連結部26の丁度中間位置に締結孔25がそれぞれ設けられている。
【0027】
外周フランジ部20の外輪部22は、各締結孔25の周辺部位が他部位よりも幅広になっており、外輪部22の幅は全周にわたって必ずしも一様ではないが、各締結孔25の周辺部位を除いた部位の幅h(即ち、隣り合う二つの外輪連結部26を実質的に連結している部位の幅h)は、約8mmに設定されている。また、外輪部22の厚さtは、約5mmに設定されている。そして、隣り合う二つの外輪連結部26間の外輪部22の円弧に沿った離間長L(この離間長Lは隣り合う二つの締結孔25間の外輪部22の円弧に沿った離間長でもある)は、約67mmとなっている。つまり本実施形態では、ハブの外周フランジ部20の直径及び締結孔25の数を考慮しつつ、5×h=40<L=67の関係を満たすように、外輪部22の幅hが設定されている。また、外輪部22の厚さtは幅h未満となるように設定されている。
【0028】
外輪部22の各外輪連結部26は、時計回り方向に傾斜した連結アーム23及び反時計回り方向に傾斜した連結アーム24の2本の連結アームによって内輪部21に連結されている。これら2本の連結アーム23,24の傾斜状態は、その外輪連結部26とハブの中心軸線Cとを結ぶ半径方向仮想線に対し線対称となっている。つまり、連結アーム23と24とは、ハブの半径方向に対して傾斜の向きが互いに反対向きであるが、ハブの半径方向に対する傾斜角度は等しくなっている。二種類の連結アーム23,24の各傾斜角度については、図3に示すように、各連結アーム23,24に対応する当該外輪連結部26の左右両隣に位置する締結孔25の各々とハブの中心軸線Cとを結ぶ半径方向仮想線に対する各連結アーム23,24の傾斜角度θ2が、約60°に設定されている。
【0029】
その結果、時計回り方向に傾斜した各連結アーム23の内端は、その連結アーム23に対応する外輪連結部26の左隣(反時計回り方向での隣)に位置する締結孔25とハブの中心軸線Cとを結ぶ半径方向仮想線が内輪部21と交わる位置にある内輪連結部27に連結されている。同様に、反時計回り方向に傾斜した各連結アーム24の内端は、その連結アーム24に対応する外輪連結部26の右隣(時計回り方向での隣)に位置する締結孔25とハブの中心軸線Cとを結ぶ半径方向仮想線が内輪部21と交わる位置にある内輪連結部27に連結されている。これにより外輪部22は内輪部21に対し、総じて周方向に沿いジグザグに配列された合計20本の連結アーム23,24によって連結されている。
【0030】
図2及び図4に示すように、環状の摺動体3は、鋳造により片状黒鉛鋳鉄を一体成形したものである。この摺動体3は、第1の環状円板部31と第2の環状円板部32とを、両環状円板部31,32間にあって放射方向に延びる複数の連結リブ33で相互に連結したものであり、隣り合う連結リブ33間に放射方向に延びる通気路34が確保されたベンチレート構造を有するものである。第1及び第2の環状円板部31,32における各外側面が、ブレーキキャリパの制輪子と摩擦接触する摺動面となる。
【0031】
第1の環状円板部31の内周側には、幅h2の内周フランジ部35が、第1の環状円板部31の全内周にわたって突設されている。この内周フランジ部35には、複数の締結ネジ孔36(本例では10個)が摺動体3の中心軸線Cを中心として等角度間隔(本例では36°間隔)にて配列・形成されている。各締結ネジ孔36の内側には、締結ボルト4の雄ネジに対応する雌ネジが形成されている。なお、摺動体3の中心軸線Cから内周フランジ部35の各締結ネジ孔36までの距離は、前記ハブ1の中心軸線Cから外周フランジ部20の各締結孔25までの距離に一致しており、締結ネジ孔36と締結孔25とを一致させつつ、摺動体3の内周フランジ部35とハブ1の外周フランジ部20とを相互に接合可能となっている(図2参照)。
【0032】
図1及び図2に示すように、締結具としての締結ボルト4を用いて、ハブ1の外周フランジ部20に対して環状の摺動体3を固着することにより、ブレーキディスクが組み立てられる。即ち、ハブの外周フランジ部20における10個の締結孔25と、摺動体の内周フランジ部35における10個の締結ネジ孔36とを一致させながらハブ1の周囲に環状摺動体3を位置合わせすると共に、各締結孔25及び締結ネジ孔36に対し、ハブの車軸取付け用フランジ12側から締結ボルト4をワッシャー5とともに螺合する。すると、合計10本の締結ボルト4の締付力により、ハブ1と摺動体3とが一体結合される。なお、締結ボルト4を取り付ける際に、締結ボルト4の螺子目にボルト緩み防止剤を予め塗布しておくことは好ましい。
【0033】
ブレーキディスクの組み立て完了後に、ハブ1の車軸取付け用フランジ12や摺動体3の各摺動面に対して、精度向上のための追加加工(例えば表面切削や研磨加工)を適宜施してもよい。
【0034】
次に、本実施形態のディスクを車輌に取り付けた場合の作用及び効果を説明する。
【0035】
制動時の摩擦熱で環状の摺動体3の全体が半径方向外向き(拡径方向)に熱膨張した場合、各締結ボルト4を介して、ハブの外周フランジ部20を構成する円環状の外輪部22が各締結孔25の位置で拡径方向に引っ張られる。その際、図5に示すように、締結孔25の周方向両側に位置する各外輪連結部26は、2本の連結アーム23,24を介して内輪部21の内輪連結部27に、ひいてはハブ本体部10に連結されているため、拡径方向への引っ張りに対しては頑強に抵抗してハブ本体部10との距離を維持しようとする。これに対し、隣り合う二つの外輪連結部26間に位置する締結孔25は、締結ボルト4を介して熱膨張する摺動体3に追従しようとする。このため、隣り合う二つの外輪連結部26を架橋的に連結している外輪部の一部(円弧状の架橋部)が、摺動体3の熱膨張に追従して締結孔位置にて拡径方向に膨出するように変形する。この円弧状の架橋部の変形は、好ましくは弾性変形である。この膨出変形によって摺動体3の内周部とハブ本体部10の円筒壁13との間隔が微増調整されるため、摺動体3の熱膨張に起因する拡径方向への引っ張り力が、ハブ本体部10の円筒壁13(つまり外周フランジ部20の根元)に及ぶことが緩和される。従って、環状の摺動体3を中心軸線Cの方向に熱倒れさせるようなモーメントをほとんど生じない。
【0036】
その後、ブレーキキャリパの制輪子によるディスクの押圧が解除されて、一旦膨張した摺動体3が放熱することで半径方向内向き(縮径方向)に収縮するときには、前記二つの外輪連結部26を架橋的に連結している外輪部の一部が元の状態に復帰する方向に変形する。そして、各締結ボルト4又は締結孔25とハブ本体部10の円筒壁13との間隔が熱膨張前の状態に戻される。
【0037】
このように本実施形態によれば、環状の摺動体3は、隣り合う二つの外輪連結部26を架橋的に連結している外輪部22の一部(円弧状の架橋部)の膨出的変形可能性のために、ハブ本体部10に過度に拘束されることなく拡径方向又は縮径方向への変形自由度をある程度確保されている。つまり、制動時の摩擦熱で摺動体3が熱膨張する場合でも、ハブ本体部10が、実質的に摺動体3の内周側根元に相当する部分(本例では外周フランジ部20と円筒壁13との結合部分)を過度に拘束しない。このため、摺動体3の熱倒れを効果的に防止又は抑制することができる。そして、摺動体3の熱倒れをほとんど生じないことで、ディスクの偏摩耗を極力回避でき、制動時における制動トルクの不安定化や不快なブレーキ振動を低減することができる。
【0038】
本実施形態によれば、外輪部22には、複数の外輪連結部26が等角度間隔で配列されると共に、各締結孔25が隣り合う二つの外輪連結部26の丁度中間に位置するように配列されているため、摺動体3が膨張又は収縮する際に、外輪部22に作用する応力が全ての半径方向に対して均等化し、外輪部22に局部的な歪みを生ずるおそれがない。また、各締結孔25からその左側の外輪連結部26までの距離と、その右側の外輪連結部26までの距離とが等しいことで、摺動体3の熱膨張時における締結孔位置での外輪部22の半径方向変位量を確保し易い。
【0039】
本実施形態によれば、合計20本の連結アーム23,24を用いると共に、各外輪連結部26を線対称に傾斜した2本の連結アーム23,24を介してハブ本体部10に連結することにより、各外輪連結部26において外輪部22ひいては摺動体3がハブ本体部10に対し確実に支持される。そして、連結アーム群による摺動体3の姿勢保持力も非常に高い。それ故、本実施形態のブレーキディスクには、摺動体3における各摺動面の振れ精度を長期間にわたり高精度に保つことを困難にするような事情は存在しない。また、各連結アーム23,24をディスクの放射方向(半径方向)に沿って設けるのではなく、放射方向に対して傾斜角度θ2=60°で傾斜させたことで、制動トルクに対するせん断強度を高めて、ブレーキディスク全体の剛性を高めることができる。
【0040】
本実施形態によれば、ハブ1の外周フランジ部20には、連結アーム23,24間において略三角形状の開口が20区画ほど存在しており、これらの開口の分だけハブ1の減肉による軽量化を図ることができる。また、ハブ1と摺動体3とを別体としているので、摺動体3が摩耗又は破損した場合でも摺動体3のみを交換することができ、保守管理性に優れている。
【0041】
[変更例]本発明における締結具は、締結ボルト4に限定されるものではなく、リベット等のピン状の機械要素であってもよい。また、締結具の全部又は一部が、ハブ1又は摺動体3のいずれかに予め一体化されていてもよい。
【0042】
[変更例]ハブ1の外輪部22は、弾性変形可能な素材で構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】ブレーキディスクの一例を示す正面図。
【図2】図1のC−A線での半径方向断面図。
【図3】図1のブレーキディスクの一構成部品であるハブの正面図。
【図4】図1のブレーキディスクの一構成部品である摺動体の正面図。
【図5】本発明の作用を説明するための概念図。
【図6】従来のブレーキディスクの半径方向断面図。
【符号の説明】
【0044】
1…ハブ、3…摺動体、4…締結ボルト(締結具)、10…ハブの本体部、20…ハブの外周フランジ部、21…内輪部、22…外輪部、23,24…連結アーム、25…外輪部の締結孔(締結部)、26…外輪連結部、27…内輪連結部、C…中心軸線、h…外輪部の幅、L…外輪連結部間の離間長、θ2…連結アームの傾斜角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸に取り付けられる本体部及びその本体部の周囲に設けられた外周フランジ部を具備してなるハブと、当該ハブの外周フランジ部に対して複数の締結具により固着される環状の摺動体とから構成されるブレーキディスクにおいて、
前記ハブの外周フランジ部は、複数の外輪連結部及び前記各締結具を装着するための複数の締結部を有する環状の外輪部と、前記各外輪連結部をハブの本体部に連結するための複数の連結アームとを備え、
前記外輪部において、隣り合う二つの外輪連結部が当該外輪部の一部によって連結されると共に、それら二つの外輪連結部間には前記締結部が設けられていることを特徴とするブレーキディスク。
【請求項2】
前記外輪部において、前記複数の外輪連結部がハブの中心軸線(C)を中心として等角度間隔で設けられていると共に、外輪連結部と同数の締結部の各々が、隣り合う二つの外輪連結部の丁度中間に位置するように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のブレーキディスク。
【請求項3】
前記外輪部における複数の外輪連結部は、隣り合う二つの外輪連結部間の外輪部に沿った離間長(L)が、外輪部の幅(h)の5倍の長さ(5h)よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のブレーキディスク。
【請求項4】
車軸に取り付けられる本体部及びその本体部の周囲に設けられた外周フランジ部を具備してなるハブと、当該ハブの外周フランジ部に対して複数の締結具により固着される環状の摺動体とから構成されるブレーキディスクにおいて、
前記ハブの外周フランジ部は、
ハブの中心軸線(C)を中心として等角度間隔で設けられた複数の外輪連結部、及び、その外輪連結部と同数で且つそれぞれが前記隣り合う二つの外輪連結部の丁度中間に位置するように設けられた前記各締結具を装着するための締結部を有する環状の外輪部と、
前記各外輪連結部をハブの本体部に連結するための外輪連結部の2倍の数の連結アームとを備え、
前記各外輪連結部が、当該外輪連結部とハブの中心軸線(C)とを結ぶ半径方向仮想線に対し線対称となるように傾斜させた2本の連結アームを介してハブの本体部に連結されると共に、当該外輪連結部の両隣に位置する締結部の各々とハブの中心軸線(C)とを結ぶ半径方向仮想線に対する各連結アームの傾斜角度(θ2)が30°以上60°以下であることを特徴とするブレーキディスク。
【請求項5】
前記外輪部における複数の外輪連結部は、隣り合う二つの外輪連結部間の外輪部に沿った離間長(L)が、外輪部の幅(h)の5倍の長さ(5h)よりも大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項4に記載のブレーキディスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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