説明

ブレーキ倍力装置

【課題】 倍力アクチュエータの駆動ロスを低減できるブレーキ倍力装置を提供する。
【解決手段】 マスタシリンダ圧制御機構5は、プライマリピストン2bと可動部材58とが離間したとき、ボールネジ軸57に作用する戻しバネ59のバネ反力F1を低減させる連結部材60を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ倍力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1のブレーキ倍力装置では、ブレーキペダルと一体に進退移動するインプットロッドの前進量に応じて電動モータを駆動し、モータトルクをボールネジ機構により推力に変換してプライマリピストンを前進させることで、インプットロッドの推力を倍力している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−112426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、戻しバネによるバネ反力が常にボールネジ軸を後退させる方向に作用しているため、このバネ反力の分だけ常にトルクロスが生じるという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、倍力アクチュエータの駆動ロスを低減できるブレーキ倍力装置ブレーキ倍力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、一端を倍力アクチュエータの押圧部材を後退方向へ付勢する第1付勢部材と押圧部材との間に介装し、他端をアシスト部材に係止した連結部材を備える。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明にあっては、アシスト部材と押圧部材とが離間したとき、押圧部材に作用する第1付勢部材の第1付勢力が低減するため、その分だけ倍力アクチュエータの駆動ロスを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のブレーキ装置1の全体構成図である。
【図2】実施例1のマスタシリンダ圧制御機構5の要部拡大図である。
【図3】マスタシリンダ圧制御機構5の初期状態における各バネの状態を表す模式図である。
【図4】マスタシリンダ圧制御機構5のマスタシリンダ圧が立ち上がったときの各バネの状態を表す模式図である。
【図5】実施例1において、F3−(F2+F4)>0の関係を考慮しない場合のトルクロス低減作用を示すタイムチャートである。
【図6】実施例1において、F3−(F2+F4)>0の関係を考慮した場合のトルクロス低減作用を示すタイムチャートである。
【図7】実施例1において、駆動モータ50の故障時におけるペダル踏力の増大防止作用を示すタイムチャートである。
【図8】他の実施例のブレーキ装置1の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のブレーキ倍力装置を実施するための形態を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
[ブレーキ装置の全体構成]
図1は、本発明のブレーキ倍力装置を適用した実施例1のブレーキ装置1の全体構成図であり、実施例1のブレーキ装置1は、例えば、電動モータとエンジンとを駆動源とするハイブリッド車両に搭載している。
ブレーキ装置1は、マスタシリンダ2と、リザーバタンクRESと、各車輪に設けたホイルシリンダ4a〜4dと、マスタシリンダ2に接続して設けたマスタシリンダ圧制御機構(ブレーキ倍力装置)5およびインプットロッド(入力部材)6と、ブレーキ操作量検出装置7と、マスタシリンダ圧制御機構5を制御するマスタシリンダ圧制御装置8とを有する。
【0011】
インプットロッド6は、ブレーキペダルBPと共にストローク(進退)し、マスタシリンダ2内の液圧(以下、マスタシリンダ圧Pmc)を加減する。マスタシリンダ圧制御機構5およびマスタシリンダ圧制御装置8は、マスタシリンダ2のプライマリピストン(アシスト部材)2bをストロークさせ、マスタシリンダ圧Pmcを加減する。
以下、説明のため、マスタシリンダ2の軸方向にx軸を設定し、ブレーキペダルBPの側を負方向と定義する。
【0012】
実施例1のマスタシリンダ2は、いわゆるタンデム型であり、シリンダ2a内にプライマリピストン2bおよびセカンダリピストン2cを有している。シリンダ2aの内周面と、プライマリピストン2bのx軸正方向側の面およびセカンダリピストン2cのx軸負方向側の面との間で、第1液圧室としてのプライマリ液圧室2dを形成している。シリンダ2aの内周面とセカンダリピストン2cのx軸正方向側の面との間で、第2液圧室としてのセカンダリ液室2eを形成している。
【0013】
プライマリ液圧室2dはプライマリ回路10と連通可能に接続し、セカンダリ液室2eはセカンダリ回路20と連通可能に接続している。プライマリ液圧室2dの容積は、プライマリピストン2bおよびセカンダリピストン2cがシリンダ2a内をストロークすることで変化する。プライマリ液圧室2dには、プライマリピストン2bをx軸負方向側に付勢する戻しバネ(第4付勢部材)2fを設置している。この戻しバネ2fは、コイルスプリングであり、プライマリピストン2bとセカンダリピストン2cとの間に所定のセット荷重(初期付勢力)を付与して介装している。
【0014】
セカンダリ液室2eの容積は、セカンダリピストン2cがシリンダ2a内をストロークすることで変化する。セカンダリ液室2eには、セカンダリピストン2cをx軸負方向側に付勢する戻しバネ2gを設置している。この戻しバネ2gは、コイルスプリングであり、シリンダ2aの内周面とセカンダリピストン2cとの間に所定のセット荷重を付与して介装している。
【0015】
プライマリ回路10にはプライマリ液圧センサ(マスタシリンダ圧検出手段)13、セカンダリ回路20にはセカンダリ液圧センサ(マスタシリンダ圧検出手段)14を設け、プライマリ液圧センサ13はプライマリ液圧室2dの液圧を、セカンダリ液圧センサ14はセカンダリ液室2eの液圧を検出し、この液圧情報をマスタシリンダ圧制御装置8に送信している。
【0016】
インプットロッド6のx軸正方向側の一端6aは、プライマリピストン2bの隔壁2hを貫通し、プライマリ液圧室2d内に接地している。インプットロッド6の一端6aとプライマリピストン2bの隔壁2hとの間はシールしており、液密性を確保すると共に、一端6aは隔壁2hに対してx軸方向に摺動可能に設けている。一方、インプットロッド6のx軸負方向側の他端6bは、ブレーキペダルBPに連結している。ドライバがブレーキペダルBPを踏むと、インプットロッド6はx軸正方向側に移動し、ドライバがブレーキペダルBPを戻すとインプットロッド6はx軸負方向側に移動する。
【0017】
またインプットロッド6には、プライマリピストン2bの隔壁2hの内周よりも大径、かつ、フランジ部6cの外径よりも小径の大径部6fを形成している。この大径部6fのx軸正方向側端面と隔壁2hのx軸負方向側端面との間には、ブレーキ非作動時においてギャップL1を設けている。このギャップL1により、ハイブリッド車両や電気自動車等で摩擦ブレーキと回生ブレーキとによる回生協調ブレーキ制御を行う場合には、プライマリピストン2bをインプットロッド6に対してx軸負方向に相対移動することで、回生ブレーキ力分だけ液圧ブレーキを減圧することが可能である。またギャップL1により、インプットロッド6が、プライマリピストン2bに対してx軸正方向にギャップL1分相対変位すると、この大径部6fのx軸正方向の面と隔壁2hとが当接して、インプットロッド6とプライマリピストン2bとが一体に移動することが可能である。
【0018】
インプットロッド6またはプライマリピストン2bがx軸正方向へ移動することによってプライマリ液圧室2dの作動液を加圧し、加圧した作動液をプライマリ回路10に供給する。また、加圧した作動液によるプライマリ液圧室2dの圧力により、セカンダリピストン2cがx軸正方向へ移動する。セカンダリピストン2cがx軸正方向へ移動することによってセカンダリ液室2eの作動液を加圧し、加圧した作動液をセカンダリ回路20に供給する。
【0019】
上記のように、インプットロッド6がブレーキペダルBPと連動して移動し、プライマリ液圧室2dを加圧する構成により、万が一、故障によりマスタシリンダ圧制御機構5の駆動モータ50が停止した場合にも、ドライバのブレーキ操作によってマスタシリンダ圧Pmcを上昇させ、所定のブレーキ力を確保できる。また、マスタシリンダ圧Pmcに応じた力がインプットロッド6を介してブレーキペダルBPに作用し、ブレーキペダル反力としてドライバに伝達するため、上記構成を採らない場合に必要な、ブレーキペダル反力を生成するバネ等の装置が不要となる。よって、ブレーキ倍力装置の小型化・軽量化を図ることができ、車両への搭載性が向上する。
【0020】
ブレーキ操作量検出装置7は、ドライバの要求ブレーキ力を検出するためのもので、インプットロッド6の他端6b側に設けている。ブレーキ操作量検出装置7は、インプットロッド6のx軸方向変位量(ストローク)を検出するストロークセンサ、すなわち、ブレーキペダルBPのストロークセンサである。
【0021】
リザーバタンクRESは、隔壁(不図示)によって互いに仕切られた少なくとも2つの液室を有している。各液室はそれぞれブレーキ回路11,21を介して、マスタシリンダ2のプライマリ液圧室2dおよびセカンダリ液室2eと連通可能に接続している。
【0022】
ホイルシリンダ4a〜4dは、シリンダ、ピストン、パッド等を有しており、シリンダ2aが供給した作動液によって上記ピストンが移動し、このピストンに連結したパッドをディスクロータ40a〜40dに押圧するものである。なお、ディスクロータ40a〜40dは対応する車輪と一体回転し、ディスクロータ40a〜40dに作用するブレーキトルクは、各車輪と路面との間に作用するブレーキ力となる。
【0023】
マスタシリンダ圧制御機構5は、プライマリピストン2bの変位量、すなわちマスタシリンダ圧Pmcを、マスタシリンダ圧制御装置8の制御指令に従って制御するもので、駆動モータ50と、減速装置51と、回転−並進変換装置55と、を有している。
マスタシリンダ圧制御装置8は演算処理回路であり、ブレーキ操作量検出装置7や駆動モータ50からのセンサ信号等に基づいて、駆動モータ50の作動を制御する。
【0024】
[マスタシリンダ圧制御機構5の構成]
続いて、図2を加え、マスタシリンダ圧制御機構5の構成および動作について説明する。
駆動モータ50は、例えば、三相DCブラシレスモータであり、マスタシリンダ圧制御装置8の制御指令に基づき供給する電力によって動作し、所望の回転トルクを発生する。
【0025】
減速装置51は、駆動モータ50の出力回転をプーリ減速方式により減速する。減速装置51は、駆動モータ50の出力軸に設けた小径の駆動側プーリ52と、回転−並進変換装置55のボールネジナット56に設けた大径の従動側プーリ53と、駆動側および従動側プーリ52,53に巻き掛けたベルト54とを有している。減速装置51は、駆動モータ50の回転トルクを、減速比(駆動側および従動側プーリ52,53の半径比)分だけ増幅し、回転−並進変換装置55に伝達する。
【0026】
回転−並進変換装置55は、駆動モータ50の回転動力を並進動力に変換し、この並進動力によりプライマリピストン2bを押圧する。本実施例1では、動力変換機構としてボールネジ方式を採用しており、回転−並進変換装置55は、ボールネジナット56と、ボールネジ軸57と、可動部材58とを有している。
実施例1では、駆動モータ50、減速装置51、駆動側プーリ52、従動側プーリ53、ベルト54、回転−並進変換装置55、ボールネジナット56、ボールネジ軸57、可動部材58により、倍力アクチュエータを構成している。
【0027】
マスタシリンダ2のx軸負方向側には第1ハウジング部材HSG1を接続し、第1ハウジング部材HSG1のx軸負方向側には第2ハウジング部材HSG2を接続している。ボールネジナット56は、第2ハウジング部材HSG2内に設けられたベアリングBRGの内周に、軸回転可能に設置している。ボールネジナット56のx軸負方向側の外周には、従動側プーリ53を嵌合している。ボールネジナット56の内周には、中空のボールネジ軸57が螺合している。ボールネジナット56とボールネジ軸57との間の隙間には、複数のボールを回転移動可能に設置している。なお、図1では、ブレーキ非操作時にボールネジ軸57がx軸負方向へ最大変位した初期位置にある状態を示している。
【0028】
ボールネジ軸57のx軸正方向側の端には可動部材(押圧部材)58を一体に設け、この可動部材58のx軸正方向側の面はプライマリピストン2bのx軸負方向側の面と当接している。プライマリピストン2bは第1ハウジング部材HSG1内に収容し、プライマリピストン2bのx軸正方向側の端は第1ハウジング部材HSG1から突出してマスタシリンダ2の内周に嵌合している。
【0029】
第1ハウジング部材HSG1内であって、プライマリピストン2bの外周には、連結部材60をx軸負方向側に付勢する戻しバネ(第1付勢部材)59を設置している。この戻しバネ59は、コイルスプリングであり、第1ハウジング部材HSG内部のx軸正方向側の面Aと連結部材60との間に所定のセット荷重を付与して介装している。戻しバネ59のx軸正方向側の端59aは面Aに係止し、x軸負方向側の端59bは連結部材60に係止している。
【0030】
連結部材60は、プライマリピストン2bの外周と戻しバネ59の内周との間に位置し、プライマリピストン2bと可動部材58とが離間したとき、戻しバネ59の付勢力を低減させるもので、剛体の連結部61と弾性体のバネ(第2付勢部材)62とを備える。
【0031】
連結部61は、x軸負方向側の端にフランジ部61a、x軸正方向側の端に内フランジ部61bを有する筒状部材である。フランジ部61aは、戻しバネ59と可動部材58との間に介在し、戻しバネ59のx軸負方向の端59bを係止している。
【0032】
バネ62は、連結部61の内周に位置し、プライマリピストン2bをx軸負方向へ付勢する。このバネ62は、コイルスプリングであり、x軸正方向側の端62aを内フランジ部61bに係止する一方、x軸負方向側の端62bをプライマリピストン2bの外周に形成したフランジ63に係止している。バネ62は、プライマリピストン2bと連結部61との間に所定のセット荷重を付与して介装している。
【0033】
インプットロッド6とプライマリピストン2bとの間に画成した環状空間Bには、一対のバネ(第3付勢部材)6d,6eを配設している。一対のバネ6d,6eは、共にコイルスプリングであり、その各一端をインプットロッド6に設けたフランジ部6cに係止し、バネ6dの他端をプライマリピストン2bの隔壁2hに係止し、バネ6eの他端をプライマリピストン2bの隔壁2iに係止している。一対のバネ6d,6eには、逆方向に所定の大きさのセット荷重を付与している。
【0034】
これら一対のバネ6d,6eは、プライマリピストン2bに対してインプットロッド6を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢し、ブレーキ非作動時にインプットロッド6とプライマリピストン2bとを相対移動の中立位置に保持する機能を有している。これら一対のバネ6d,6eにより、インプットロッド6とプライマリピストン2bとが中立位置からいずれかの方向に相対変位したとき、プライマリピストン2bに対してインプットロッド6を中立位置に戻す付勢力が作用する。
【0035】
なお、駆動モータ50には、例えば、レゾルバ等の回転角検出センサ(アシスト部材移動量検出手段)50aを設けており、これにより検出したモータ出力軸の位置信号をマスタシリンダ圧制御装置8に入力する。マスタシリンダ圧制御装置8は、入力した位置信号に基づき駆動モータ50の回転角を算出し、この回転角に基づき回転−並進変換装置25の推進量、すなわちプライマリピストン2bのx軸方向変位量を算出する。
【0036】
次に、マスタシリンダ圧制御機構5とマスタシリンダ圧制御装置8による、インプットロッド6の推力の増幅作用について説明する。実施例1では、マスタシリンダ圧制御装置8は駆動モータ50によりインプットロッド6の変位に応じたプライマリピストン2bの変位、すなわちインプットロッド6とプライマリピストン2bの相対変位を制御している。
【0037】
マスタシリンダ圧制御機構5およびマスタシリンダ圧制御装置8は、ドライバのブレーキ操作によるインプットロッド6の変位量に応じて、プライマリピストン2bを変位させる。これにより、プライマリ液圧室2dを、インプットロッド6の推力に加えてプライマリピストン2bの推力によって加圧し、マスタシリンダ圧Pmcを調整する。すなわち、インプットロッド6の推力を増幅する。増幅比(以下、倍力比α)は、プライマリ液圧室2dにおけるインプットロッド6とプライマリピストン2bの軸直方向断面積(以下、それぞれ受圧面積AIRおよびAPP)の比等により、以下のように決定される。
【0038】
マスタシリンダ圧Pmcの液圧調整を、下記の式(1)で示される圧力平衡関係をもって行う。
Pmc=(FIR+K3×△x)/AIR=(FPP−K3×△x)/APP …(1)
ここで、圧力平衡式(1)における各要素は、以下のとおりである。
Pmc:プライマリ液圧室2dの液圧(マスタシリンダ圧)
FIR:インプットロッド6の推力
FPP:プライマリピストン2bの推力
AIR:インプットロッド6の受圧面積
APP:プライマリピストン2bの受圧面積
K3:バネ6d,6eのバネ定数
Δx:インプットロッド6とプライマリピストン2bとの相対変位量
なお、実施例1では、インプットロッド6の受圧面積AIRを、プライマリピストン2bの受圧面積APPよりも小さく設定している。
【0039】
ここで相対変位量Δxは、インプットロッド6の変位(インプットロッドストローク)をXi、プライマリピストン2bの変位(ピストンストローク)をXbとして、Δx=Xb−Xiと定義する。よって、Δxは、相対移動の中立位置では0、インプットロッド6に対してプライマリピストン2bが前進(x軸正方向へストローク)する方向では正符号、その逆方向では負符号となる。なお、圧力平衡式(1)ではシールの摺動抵抗を無視している。プライマリピストン2bの推力FPPは、駆動モータ50の電流値から推定できる。
【0040】
一方、倍力比αを、下記の式(2)のように表すことができる。
α=Pmc×(APP+AIR)/FIR …(2)
よって、式(2)に上記式(1)のPmcを代入すると、倍力比αは下記の式(3)のようになる。
α=(1+K3×Δx/FIR)×(AIR+APP)/AIR …(3)
【0041】
倍力制御では、目標のマスタシリンダ圧特性が得られるように、駆動モータ50(ピストンストロークXb)を制御する。ここでマスタシリンダ圧特性とは、インプットロッドストロークXiに対するマスタシリンダ圧Pmcの変化の特性を指す。インプットロッドストロークXiに対するピストンストロークXbを示すストローク特性と、上記目標マスタシリンダ圧特性とに対応して、インプットロッドストロークXiに対する相対変位量Δxの変化を示す目標変位量算出特性を得ることができる。検証により得られた目標変位量算出特性データに基づき、相対変位量Δxの目標値(以下、目標変位量Δx*)を算出する。
【0042】
すなわち、目標変位量算出特性は、インプットロッドストロークXiに対する目標変位量Δx*の変化の特性を示し、インプットロッドストロークXiに対応して1つの目標変位量Δx*が定まる。検出したインプットロッドストロークXiに対応して決定される目標変位量Δx*を実現するように駆動モータ50の回転(プライマリピストン2bの変位量Xb)を制御すると、目標変位量Δx*に対応する大きさのマスタシリンダ圧Pmcがマスタシリンダ2で発生する。
【0043】
ここで、上記のようにインプットロッドストロークXiをブレーキ操作量検出装置7により検出し、ピストンストロークXbを回転角検出センサ50aの信号に基づき算出し、相対変位量Δxを上記検出(算出)した変位量の差により求めることができる。倍力制御では、具体的には、上記検出した変位量Xiと目標変位量算出特性とに基づいて目標変位量Δx*を設定し、上記検出(算出)された相対変位量Δxが目標変位量Δx*と一致するように駆動モータ50を制御(フィードバック制御)する。なお、ピストンストロークXbを検出するストロークセンサを別途設けることとしてもよい。
【0044】
実施例1では、踏力センサを用いることなく倍力制御を行うため、その分だけコストを低減できる。また、相対変位量Δxが任意の所定値となるように駆動モータ50を制御することにより、受圧面積比(AIR+APP)/AIRで定まる倍力比よりも大きな倍力比や小さな倍力比を得ることができ、所望の倍力比に基づく制動力を得ることができる。
【0045】
一定倍力制御は、インプットロッド6およびプライマリピストン2bを一体的に変位する、すなわち、インプットロッド6に対してプライマリピストン2bが常に上記中立位置となり、相対変位量Δx=0で変位するように、駆動モータ50を制御するものである。このようにΔx=0となるようにプライマリピストン2bをストロークさせた場合、上記式(3)により、倍力比αは、α=(AIR+APP)/AIRとして一意に定まる。よって、必要な倍力比に基づいてAIRおよびAPPを設定し、変位量XbがインプットロッドストロークXiに等しくなるようにプライマリピストン2bを制御することで、常に一定の(上記必要な)倍力比を得ることができる。
【0046】
一定倍力制御における目標マスタシリンダ圧特性は、インプットロッド6の前進(x軸正方向への変位)に伴い発生するマスタシリンダ圧Pmcが2次曲線、3次曲線、あるいはこれらにそれ以上の高次曲線等が複合した多次曲線(以下、これらを総称して多次曲線という)状に大きくなる。また、一定倍力制御は、インプットロッドストロークXiと同じ量だけプライマリピストン2bがストロークする(Xb=Xi)ストローク特性を有している。このストローク特性と上記目標マスタシリンダ圧特性とに基づき得られる目標変位量算出特性では、あらゆるインプットロッドストロークXiに対して目標変位量Δx*が0となる。
【0047】
これに対し、倍力可変制御は、目標変位量Δx*を正の所定値に設定し、相対変位量Δxがこの所定値となるように駆動モータ50を制御する。これにより、マスタシリンダ圧Pmcを増加する方向へインプットロッド6が前進移動するに従い、インプットロッドストロークXiに比べてプライマリピストン2bの変位量Xbが大きくなるようにするものである。上記式(3)により、倍力比αは、(1+K3×Δx/FIR)倍の大きさとなる。すなわち、インプットロッドストロークXiに比例ゲイン(1+K3×Δx/FIR)を乗じた量だけプライマリピストン2bをストロークさせることと同義となる。このようにΔxに応じて倍力比αが可変となり、マスタシリンダ圧制御機構5が倍力源として働いて、ドライバの要求通りのブレーキ力を発生させつつペダル踏力の大きな低減を図ることができる。
【0048】
すなわち、制御性の観点からは上記比例ゲイン(1+K3×Δx/FIR)は1であることが望ましいが、例えば緊急ブレーキ等によりドライバのブレーキ操作量を上回るブレーキ力が必要な場合には、一時的に、1を上回る値に上記比例ゲインを変更することができる。これにより、同量のブレーキ操作量でも、マスタシリンダ圧Pmcを通常時(上記比例ゲインが1の場合)に比べて引き上げることができるため、より大きなブレーキ力を発生させることができる。ここで、緊急ブレーキの判定は、例えば、ブレーキ操作量検出装置7の信号の時間変化率が所定値を上回るか否かで判定できる。
【0049】
このように、倍力可変制御では、インプットロッド6の前進に対してプライマリピストン2bの前進をより進め、インプットロッド6に対するプライマリピストン2bの相対変位量Δxがインプットロッド6の前進に伴い大きくなり、これに対応してインプットロッド6の前進に伴うマスタシリンダ圧Pmcの増加が一定倍力制御よりも大きくなるように駆動モータ50を制御する方法である。
【0050】
倍力可変制御における目標マスタシリンダ圧特性は、インプットロッド6の前進(x軸正方向への変位)に伴い発生するマスタシリンダ圧Pmcの増加が一定倍力制御よりも大きくなる(多次曲線状に増加するマスタシリンダ圧特性がより急峻になる)。また、倍力可変制御は、インプットロッドストロークXiの増加に対するピストンストロークXbの増加分が1よりも大きいストローク特性を有している。このストローク特性と上記目標マスタシリンダ圧特性とに基づき得られる目標変位量算出特性では、インプットロッドストロークXiが増加するに応じて目標変位量Δx*が所定の割合で増加する。
【0051】
また、倍力可変制御として、上記制御(マスタシリンダ圧Pmcを増加する方向へインプットロッド6が移動するに従い、インプットロッドストロークXiに比べてピストンストロークXbが大きくなるように駆動モータ50を制御すること)に加え、マスタシリンダ圧Pmcを増加する方向へインプットロッド6が移動するに従い、インプットロッドストロークXiに比べてピストンストロークXbが小さくなるように駆動モータ50を制御することを含めてもよい。このように、1を下回る値に上記比例ゲインを変更することで、ハイブリッド車両の回生ブレーキ力分だけ液圧ブレーキを減圧する協調回生ブレーキ制御に適用することも可能である。
【0052】
[各バネのパラメータの設定]
次に、実施例1の各バネ(戻しバネ59、バネ62、一対のバネ6d,6eおよび戻しバネ2f)のパラメータ(セット荷重およびバネ定数)の設定方法について説明する。
戻しバネ59のバネ反力をF1、セット荷重をF10、バネ定数をK1とし、バネ62のバネ反力をF2、セット荷重をF20、バネ定数をK2とし、一対のバネ6d,6eのバネ反力をF3、バネ定数をK3とし、戻しバネ2fのバネ反力をF4、セット荷重をF40、バネ定数をK4とする。
【0053】
実施例1では、下記の式(4)の関係を満足するように戻しバネ59およびバネ62の各パラメータを設定する。
F1−F2>0
∴(F10+K1×x1)−(F20+K2×x2)>0 …(4)
ここで、x1はバネ59の縮み量、x2はバネ62の縮み量、すなわち、プライマリピストン2bが可動部材58から離間したときの両者の隙間である。
【0054】
また、下記の式(5)の関係を満足するようにバネ62、一対のバネ6d,6eおよび戻しバネ6fの各パラメータを設定する。
F3−(F2+F4)>0
∴(K3×x3)−{(F20+K2×x2)+(F40+K4×x4)}>0 …(5)
ここで、x3は相対変位量Δx、x4は戻しバネ6fの縮み量である。
【0055】
さらに、マスタシリンダ圧Pmcがゼロ以外のとき、下記の式(6)の関係を満足するように、バネ62、一対のバネ6d,6eおよび戻しバネ2fの各パラメータを設定する。
F3<Pmc×APP+(F2+F4)
∴(K3×x3)<Pmc×APP+{(F20+K2×x2)+(F40+K4×x4)} …(6)
【0056】
次に、実施例1の作用を説明する。
[戻しバネによる駆動モータのトルクロス]
実施例1のマスタシリンダ圧制御機構5では、回転−並進変換装置55のボールネジ軸57とインプットロッド6とを分離させた構造としている。マスタシリンダ圧制御機構5は、駆動モータ50が故障により停止した場合、ドライバは倍力なしのブレーキ操作が可能である。このとき、ブレーキ操作に応じて駆動モータ50が連れ回ると、ドライバの操作負担が過大となることから、ボールネジ軸57をインプットロッド6と分離して設けることで、フェール時のドライバ負担を抑えている。
【0057】
このため、回転−並進変換装置55を初期位置(ブレーキ非操作時の状態)に戻す手段として、ボールネジ軸57をx軸負方向へ付勢する戻しバネ59を設けている。この戻しバネ59を設けることで、ブレーキ操作中、故障により駆動モータ50が停止し、ボールネジ軸57の戻し制御が不能となった場合であっても、マスタシリンダ圧をゼロまで戻すことができ、ブレーキ力の引きずりを防止できる。
【0058】
ところが、ボールネジ軸57には、常に戻しバネ59のバネ反力がx軸負方向へ作用しているため、駆動モータ50は、戻しバネ59のバネ反力に抗してプライマリピストン2bのストローク位置を制御しなければならない。すなわち、モータトルクの一部が常にバネ59のバネ反力を打ち消すトルクとして消費されるため、トルクロスが大きく、消費電力が嵩むという問題が生じる。
【0059】
[駆動モータのトルクロス低減作用]
これに対し、実施例1のマスタシリンダ圧制御機構5では、ドライバがブレーキペダルBPを踏み込み、インプットロッド6の推力がプライマリピストン2bに作用してプライマリピストン2bと可動部材58とに隙間x2が生じた場合、連結部材60のバネ62のx軸負方向側の端62bはプライマリピストン2bと一体にx軸正方向へ移動x2だけ移動する。
【0060】
このとき、戻しバネ59のx軸負方向側の端59bには、連結部材60の連結部61を介してバネ62のバネ反力F2(F20+K2×x2)が作用するため、ボールネジ57に作用するx軸負方向への付勢力は、F1−F2となる。つまり、プライマリピストン2bと可動部材58とが接触している状態でボールネジ57に作用する付勢力(F1+F20)に対し、付勢力をF2+F20だけ低減できる。
【0061】
すなわち、実施例1では、ドライバ踏力によりプライマリピストン2bに推力が付与されている場合は、ボールネジ軸57に作用するx軸負方向への付勢力の一部をドライバ踏力に負担させることで、駆動モータ50のトルクロスを抑え、消費電力を低減できる。
【0062】
図3は、マスタシリンダ圧制御機構5の初期状態における各バネの状態を表す模式図である。この初期状態において、可動部材58には、戻しバネ59のバネ反力であるプリセット荷重F10とバネ62のバネ反力であるプリセット荷重F20とを加算した付勢力(F10+F20)がx軸負方向へ作用する。
【0063】
図3に示した状態からドライバがブレーキペダルBPの踏み込みを開始し、マスタシリンダ圧Pmcが立ち上がっていないとき、すなわち、プライマリピストン2bがマスタシリンダ2の大気開放ポート(不図示)を塞いでいない場合、プライマリピストン2bのx軸正方向には一対のバネ6d,6eのバネ反力F3が作用し、x軸負方向には戻しバネ2fのバネ反力F4とバネ62のバネ反力F2とが作用する。
【0064】
このとき、実施例1では、F3-(F2+F4)>0の関係を満足するようにバネ62、一対のバネ6d,6eおよび戻しバネ6fの各パラメータを設定しているため、インプットロッド6がストロークを開始する直後からプライマリピストン2bをストロークさせ、可動部材58に作用するバネ反力を低減できる。
【0065】
ただし、F1-F2>0の関係を満足するように戻しバネ59およびバネ62の各パラメータを設定しているため、ボールネジ軸57を常にx軸負方向へ付勢しておくことができる。この付勢力は、ボールネジ軸57とボールネジナット56との間のガタに起因するボールネジ軸57の位置ずれを防止でき、プライマリピストン2bの制御精度を確保できる。
【0066】
図4は、マスタシリンダ圧制御機構5のマスタシリンダ圧が立ち上がったときの各バネの状態を表す模式図である。このとき、プライマリピストン2のx軸負方向には、バネ62のバネ反力F2と戻しバネ2fのバネ反力F4とマスタシリンダ圧Pmcによる反力Pmc×APPが作用し、x軸正方向には、一対のバネ6d,6eのバネ反力F3が作用する。
【0067】
ここで、実施例1では、Pmc×APP+(F2+F4)>F3の関係を満足するように、バネ62、一対のバネ6d,6eおよび戻しバネ2fの各パラメータを設定している。例えば、Pmc×APP+(F2+F4)<F3となる状態が発生した場合、図4の状態からボールネジ軸57をx軸負方向へ動かしたとしても、プライマリピストン2bが追従しない。つまり、回転−並進変換装置55でマスタシリンダ圧Pmcを制御できないため、回生制動力と摩擦制動力とをすり替える回生協調制御が不能となる。
【0068】
よって、Pmc×APP+(F2+F4)>F3の関係が成立するようにバネ62、一対のバネ6d,6eおよび戻しバネ2fの各パラメータを設定することで、マスタシリンダ圧Pmcが発生している状態では、ボールネジ軸57のx軸負方向への移動にプライマリピストン2bを追従させることができ、回転−並進変換装置55でマスタシリンダ圧Pmcを制御できる。つまり、回生協調制御を実現できる。
【0069】
図5は、実施例1において、式(5)に示したF3−(F2+F4)>0の関係を考慮しない場合のトルクロス低減作用を示すタイムチャートである。
時点t1では、ドライバがブレーキペダルBPの踏み込みを開始し、インプットロッド6が前進(x軸正方向へのストローク)を開始する。時点t2では、インプットロッド6とプライマリピストン2bとのギャップL1が埋まるため、プライマリピストン2bが前進を開始する。時点t2からt3の区間では、プライマリピストン2bと可動部材58との隙間x2が徐々に大きくなり、バネ62のバネ反力F2が増加するため、ボールネジ軸57に働くバネ反力は、徐々に小さくなる。
【0070】
時点t3では、駆動モータ50の起動によりボールネジ軸57が前進を開始し、プライマリピストン2bと可動部材58との隙間x2が徐々に小さくなるため、時点t3からt4の区間では、ボールネジ軸57に働くバネ反力は徐々に大きくなる。
よって、時点t2からt4の区間では、連結部材62を適用しない場合と比較して、電動モータ50のトルクロスが抑制されるため、モータ消費電流を低減できる。
【0071】
時点t4では、可動部材58がプライマリピストン2bと接触し、両者の隙間x2がゼロとなるため、バネ62のバネ反力F2はセット荷重F20となる。時点t5では、モータ推力制限により、ボールネジ軸57の前進が停止し、同時にプライマリピストン2bの前進も停止する。時点t6では、インプットロッド6とプライマリピストン2bとのギャップL1が埋まるため、プライマリピストン2bが前進を開始する。
【0072】
時点t7では、プライマリピストン2bが可動部材58に対して相対移動し、時点t7からt8の区間では、隙間x2が徐々に大きくなってバネ62のバネ反力F2が増加するため、ボールネジ軸57に働くバネ反力は、徐々に小さくなる。
【0073】
時点t8からt9の区間では、ドライバがブレーキペダルBPを一定踏みし、時点t9では、ブレーキペダルBPから足を離したため、時点t9からt10の区間では後退(x軸負方向へストローク)するプライマリピストン2bの位置に応じてボールネジ軸57を後退させる。時点t10では、インプットロッド6、プライマリピストン2bおよびボールネジ軸57がいずれも初期位置へと戻る。
よって、時点t7からt10の区間では、連結部材62を適用しない場合と比較して、電動モータ50のトルクロスが抑制されるため、モータ消費電流を低減できる。
【0074】
図6は、実施例1において、式(5)の関係を考慮した場合のトルクロス低減作用を示すタイムチャートである。図6の例では、インプットロッド6のストロークは図5のタイムチャートと同一であるが、時点t1および時点t6において、プライマリピストン2bが前進を開始した直後からプライマリピストン2bが前進を開始する。
【0075】
つまり、式(5)を満足するように各バネのパラメータを設定することにより、一対のバネ6d,6eの剛性がバネ62および戻しバネ2fの剛性よりも高くなるため、インプットロッド6とプライマリピストン2bとの相対変位量Δxが小さく抑えられる。よって、両者間のギャップL1が埋まった後にプライマリピストン2bが前進を開始する図5の場合と比較して、より早い段階からボールネジ軸57に働くバネ反力を低減することができる。この結果、式(5)の関係を適用しない場合と比較して、モータ消費電流を抑制できる。
【0076】
図7は、駆動モータ50の故障時におけるペダル踏力の増大防止作用を示すタイムチャートである。
ドライバがブレーキペダルBPを操作したとき、インプットロッド6には、マスタシリンダ圧Pmcに加え、x軸負方向に戻しバネ2fのバネ反力F4とバネ62のバネ反力F2とが作用するため、連結部材60を設けていない従来構成に対し、追加したバネ62の分だけペダル踏力が大きくなる。このため、故障により駆動モータ50が停止した場合、ドライバの操作負担が過大となるおそれがある。
【0077】
そこで、実施例1では、バネ62のバネ反力F2の分だけ戻しバネ2fのバネ反力F4が従来よりも小さくなるように戻しバネ2fのセット荷重F40およびバネ定数K4を設定することで、図7に示すように、故障により駆動モータ50が停止したとき、ペダル踏力が過大となるのを防止でき、ドライバの操作負担の増大を防ぐことができる。
【0078】
次に、効果を説明する。
実施例1のブレーキ倍力装置にあっては、以下の効果を奏する。
(1) マスタシリンダ圧制御機構5は、プライマリピストン2bと可動部材58とが離間したとき、ボールネジ軸57に作用する戻しバネ59のバネ反力F1を低減させる連結部材60を備える。これにより、駆動モータ50のトルクロスを抑えることができ、消費電力を低減できる。
【0079】
(2) 連結部材60は、一端を可動部材58の前進方向へ付勢するバネ62を有する。例えば、連結部材60を剛体とした場合、プライマリピストン2bと可動部材58との隙間x2が生じたとき、戻しバネ59のx軸方向の端59bが可動部材59から離れ、ボールネジ57をx軸負方向へ付勢する力がゼロとなる。このため、ボールネジ軸57とボールネジナット56との間のガタに起因してボールネジ軸57の位置ずれが発生するおそれがある。これに対し、連結部材60の一部をバネ62とすることにより、隙間x2が生じたとき、戻しバネ59のx軸負方向側の端59bが可動部材59から離れるのを抑制でき、ボールネジ軸57の位置ずれが抑えられる。
【0080】
(3) バネ62のバネ反力F2が常に戻しバネ59のバネ反力F1よりも小さくなるように両バネ59,62のセット荷重F10,F20および弾性係数K1,K2を設定したため、ボールネジ軸57を常にx軸負方向へ付勢しておくことができる。これにより、ボールネジ軸57の位置ずれを防止でき、プライマリピストン2bの制御精度を確保できる。
【0081】
(4) 一対のバネ6d,6eのバネ反力F3が常にバネ62のバネ反力F2と戻しバネ59のバネ反力F1との合力よりも大きくなるように各バネ59,62,(6d,6e)のセット荷重F10,F20および弾性係数K1,K2,K3を設定した。これにより、インプットロッド6がストロークを開始した直後から可動部材58に作用するバネ反力を低減でき、駆動モータ50のトルクロスをより抑えることができる。
【0082】
(5) プライマリピストン2bがマスタシリンダ圧Pmcにより受ける後退方向の力Pmc×APPとバネ62のバネ反力F2と戻しバネ2fのバネ反力F4との合力が常に一対のバネ6d,6eのバネ反力F3よりも大きくなるように各バネ62,(6d,6e)、2fの弾性係数K2,K3,K4を設定した。これにより、マスタシリンダ圧Pmcが発生している状態では、ボールネジ軸57のx軸負方向への移動にプライマリピストン2bを追従させることができる。よって、回転−並進変換装置55でマスタシリンダ圧Pmcを制御でき、回生協調制御を実現できる。
【0083】
(他の実施例)
以上、本発明のブレーキ倍力装置を実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0084】
例えば、実施例では、連結部材60を剛体の連結部61と弾性体であるバネ62とから構成した例を示したが、図8に示すように、プライマリピストン2bに戻しバネ59のx軸負方向の端を係止するフランジ71を形成し、このフランジを連結部材としてもよい。
【符号の説明】
【0085】
BP ブレーキペダル
2 マスタシリンダ
2b プライマリピストン(アシスト部材)
2f 戻しバネ(第4付勢部材)
6 インプットロッド(入力部材)
6d,6e バネ(第3付勢部材)
50 駆動モータ(倍力アクチュエータ)
51 減速装置(倍力アクチュエータ)
52 駆動側プーリ(倍力アクチュエータ)
53 従動側プーリ(倍力アクチュエータ)
54 ベルト(倍力アクチュエータ)
55 回転−並進変換装置(倍力アクチュエータ)
56 ボールネジナット(倍力アクチュエータ)
57 ボールネジ軸(倍力アクチュエータ)
58 可動部材(押圧部材、倍力アクチュエータ)
59 戻しバネ(第1付勢部材)
60 連結部材
61 連結部
62 バネ(第2付勢部材、弾性体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの操作により進退移動し、前進量に応じてマスタシリンダ内に加圧されたブレーキ液圧を発生させる入力部材と、
この入力部材の移動方向に対して相対移動可能に設け、前進量に応じてマスタシリンダ内に加圧されたブレーキ液圧を発生させるアシスト部材と、
このアシスト部材を前進方向へ押圧する押圧部材を有する倍力アクチュエータと、
前記押圧部材を後退方向へ付勢し、前記押圧部材の前進方向に位置して前記押圧部材を押圧する弾性体である第1付勢部材と、
一端を前記第1付勢部材と前記押圧部材との間に介装し、他端を前記アシスト部材に係止した連結部材と、
を備えることを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ倍力装置において、
前記連結部材は、前記一端を前記押圧部材の前進方向へ付勢する第2付勢部材を有することを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項3】
請求項2に記載のブレーキ倍力装置において、
前記第2付勢部材の第2付勢力が常に前記第1付勢力よりも小さくなるように両付勢部材の初期付勢力および弾性係数を設定したことを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項4】
請求項3または請求項3に記載のブレーキ倍力装置において、
前記アシスト部材に対して前記入力部材を両者の相対変位の中立位置に向けて付勢する第3付勢部材と、
前記アシスト部材を後退方向へ付勢する第4付勢部材と、
を備え、
前記第3付勢部材の付勢力が常に前記第2付勢部材の付勢力と前記第4付勢部材の付勢力との合力よりも大きくなるように各付勢部材の初期付勢力および弾性係数を設定したことを特徴とするブレーキ倍力装置。
【請求項5】
請求項4に記載のブレーキ倍力装置において、
前記アシスト部材が前記マスタシリンダ圧により受ける後退方向の力と前記第2付勢部材の第2付勢力と前記第4付勢部材の第4付勢力との合力が常に前記第3付勢部材の第3付勢力よりも大きくなるように各付勢部材の弾性係数を設定したことを特徴とするブレーキ倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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