説明

ブレーキ入力装置

【課題】マスタシリンダなどに採用するブレーキ入力装置について、入力操作部のブレーキペダルが急速に戻されたときにストッパに対してピストンが衝突して発生する不快な異音が緩和されてフィーリングの良い操作感が得られるようにすることを課題としている。
【解決手段】操作入力をピストンに伝える入力ロッド2を、ブレーキペダルに連結される第1ロッド2−1と、ピストンに連結される第2ロッド2−1に分割して両ロッドを軸方向相対移動可能に連結し、さらに、軸方向にばね特性をもつ減速部材4を圧縮状態にして両ロッド間に介在し、さらに、両ロッド間に軸方向初期隙間の無い相互突合せ部5を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ペダル操作を伴うブレーキ液圧発生装置にブレーキ操作力を加えるブレーキ入力装置、詳しくは、入力操作部のブレーキペダルが急速に戻されたときの不快な異音が抑制されてフィーリングの良い操作感が得られるようにしたブレーキ入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ペダル操作を伴うブレーキ液圧発生装置として広く知られたものに、液圧ブレーキ装置のマスタシリンダがある。
【0003】
そのマスタシリンダは、下記特許文献1、2などに開示されている。特許文献1のマスタシリンダは、マスタハウジングの大径ボアの入口近傍の内面にストッパを取り付け、入力ロッドを介してブレーキペダルに連結される段付きピストン(プライマリピストン)を前記ストッパに当接させてこのピストンの後退位置を規制するようにしている。
【0004】
また、特許文献2のマスタシリンダは、ロッドピストン(プライマリピストン)に軸方向に長いスリットを形成し、そのスリットにシリンダボディに取り付けたピンを通し、そのピンでロッドピストンを受け止めてロッドピストンの後退位置を規制するようにしている。
【特許文献1】特開2006−007874号公報
【特許文献2】特開2004−203188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のマスタシリンダは、段付きピストンの後退規制を強度上の制約により金属ストッパで行う必要があるため、ストッパとピストンが金属同士の接触となり、ブレーキペダルが急速に戻されてピストンが復帰終点に戻りきったときの打音(ストッパに対するピストンの衝突音)が大きい。
【0006】
特許文献2のマスタシリンダも、ストッパとなるピンが金属で形成されるため、ブレーキペダルが急速に戻されてロッドピストンが戻りきったときの打音が大きい。
【0007】
室内の静粛性が高い乗用車などの車両では特に、その打音は不快な異音として聞えてブレーキの操作感を悪化させる。
【0008】
そこで、この発明は、マスタシリンダなどに採用するブレーキ入力装置について、入力操作部のブレーキペダルが急速に戻されたときにストッパに対してピストンが衝突して発生する不快な異音が緩和されてフィーリングの良い操作感が得られるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、ブレーキペダルと、そのブレーキペダルに連結される入力ロッドと、ブレーキペダルを復帰させるペダル復帰手段を有し、
操作入力を受けて圧力室に液圧を発生させるピストンと、そのピストンを復帰させるピストン復帰手段と、前記ピストンの後退位置を規制するストッパを備えた液圧装置に対して操作入力を加えるブレーキ入力装置に以下の構成を加えた。
具体的には、操作入力を前記ピストンに伝える入力ロッドを、ブレーキペダルに連結される第1ロッドと、前記ピストンに連結される第2ロッドの2者に分割して両ロッドを軸方向相対移動可能に連結し、さらに、軸方向にばね特性をもち、そのばね力が前記ピストン復帰手段の力よりも小さい減速部材を圧縮状態にして両ロッド間に介在し、さらに、両ロッド間に軸方向初期隙間の無い相互突合せ部を設けた。
【0010】
このブレーキ入力装置は、前記第1ロッドと第2ロッドの連結を、両ロッドの分割側端部に凸部と凹部を対応して設けてその凸部と凹部を軸方向スライド自在に嵌合させて行うと共に、前記凸部の先端と凹部の底との間に部屋を設けてその部屋に前記減速部材を配置し、前記凸部の根元の周囲に前記相互突合せ部を設けたものや、前記減速部材をゴムで形成したものが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
この発明のブレーキ入力装置は、ブレーキペダルが急速に戻されたときに第1ロッドと第2ロッド間に介在した減速部材が有効に機能してピストンの復帰速度が復帰終点の直前に遅くなり、ストッパに対するピストンの衝突が緩和されて打音が低減され、フィーリングの良いブレーキ操作感が得られる。
【0012】
この発明の装置の打音の低減の原理を以下に詳しく述べる。減速部材は、ブレーキペダルが操作されていない初期状態のときとブレーキペダルが踏み込まれたときには、ピストン復帰手段の力に負けて軸方向に圧縮されている。この状態で既に踏み込まれたブレーキペダルが急速に戻されると、ピストンの復帰がブレーキペダルの復帰に比べて遅れるため(圧力室へのブレーキ液の急速な吸い込みができないためピストンの復帰は遅れる)、ブレーキペダルに連結された第1ロッドとピストンに連結された第2ロッドが軸方向に相対移動し、そのために減速部材が弾性復元して伸び、両ロッドの相互突合せ面間に隙間が生じる。
その隙間が生じた状態でブレーキペダルが復帰終点に先に到達し、遅れたピストンは弾性復元して伸びた減速部材を復帰終点の近くから軸方向に圧縮しながら復帰終点に戻る。そのために、減速部材による緩衝作用が生じて復帰中のピストンが復帰しきる直前に減速され、ストッパに対する衝突が緩和されて打音が減衰される。
【0013】
また、減速部材のばね力は、ピストン復帰手段の力およびブレーキペダルを入力ロッド側に戻す力(ペダル戻しばねの力又はブレーキペダルの自重によって発生する力)より小さいため、入力ロッドを構成する第1ロッドと第2ロッドが初期状態では相互突合せ部によって軸方向隙間の無い状態に突き合わされているので、入力ロッドのロスストロークは
ゼロであり、そのロスストロークに起因したブレーキの操作フィーリングの悪化や応答性の悪化が起こらない。
【0014】
なお、第1ロッドと第2ロッドを、両ロッドに対応して設けた凸部と凹部を軸方向スライド自在に嵌合させて連結したものは、凹部による凸部の拘束作用によって入力ロッドの伸直性が保たれてそのロッドの長手途中での座屈が防止される。
【0015】
また、凸部の先端と凹部の底との間に部屋を設けてその部屋に減速部材を配置すること、及び凸部の根元の周囲に前記相互突合せ部を設けることが可能になり、入力ロッドのサイズ増加も回避できる。
【0016】
このほか、ゴムはコイルスプリングなどに比べると同一体積で大きいばね定数が得られるので、減速部材をゴムで形成したものはその減速部材のサイズ縮小が図れ、制限されたスペースに減速部材を納めることが可能になって装置のコンパクト化に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面の図1〜図3に基づいて、この発明のブレーキ入力装置の実施の形態を説明する。図1の10は、操作入力を受けてブレーキ液圧を発生させる液圧装置である。図示の液圧装置は、車両用液圧ブレーキ装置に採用されるマスタシリンダであり、そのマスタシリンダに対する入力用としてこの発明のブレーキ入力装置を採用している。
【0018】
図示の液圧装置10は、センタバルブ型マスタシリンダと称されるものであって、シリ
ンダボディ11の内部に、2つの圧力室12−1,12−2(2つある要素を区別するために付加記号を付した。以下も同様)と、各圧力室内のブレーキ液をそれぞれに加圧する2つのピストン13−1,13−2と、各ピストン13−1,13−2を復帰させるピストン復帰手段(スプリングが一般的)14−1,14−2と、各ピストン13−1,13−2を復帰終点に停止させるストッパ15−1,15−2と、各圧力室12−1,12−2とリザーバ16との間の通路を開閉するバルブ機構17−1,17−2を有する。ストッパ15−1,15−2は、ピンで構成されており、各ピストン13−1,13−2に形成された軸方向の長孔に通されている。バルブ機構17−1,17−2は、ピストン13−1,13−2が初期位置に復帰したときにプッシュピン17bがストッパ15−1,15−2に当たって弁体17aが開弁位置に押し動かされる周知の弁機構である。
【0019】
この液圧装置10に操作入力を加えるブレーキ入力装置は、ブレーキペダル1と、その
そのブレーキペダル1に連結される入力ロッド2と、ブレーキペダル1を復帰させるペダル復帰手段(図のそれはペダル戻しばね1a)を有している。入力ロッド2は、後端部がクレビス金具3を介してブレーキペダル1に連結され、また、先端の球状部がピストン(プライマリピストン)13−1に首振り可能に連結される。
【0020】
入力ロッド2は、ブレーキペダル1に連結される第1ロッド2−1と、ピストン13−1に連結される第2ロッド2−2に分割されている(図2参照)。その第1ロッド2−1と第2ロッド2−2は、軸方向相対移動可能に連結されている。その連結は、それぞれのロッドの分割側端部に凸部6と凹部7を対応して設け、その凸部6と凹部7を軸方向スライド自在に嵌合させて行っており、嵌合部による振れ止め作用で入力ロッド2の伸直性が保たれるようになっている。
【0021】
凸部6の先端と凹部7の底との間には部屋8が設けられており、その部屋8に減速部材4が設けられている。その減速部材4は、軸方向にばね特性をもつ。この減速部材4は、コイルスプリングなどで形成することもできるが、例示の減速部材4は、狭い部屋8に納めるために、コイルスプリングに比べて同一体積で大きいばね定数が得られるゴムで形成したものが用いられている。
【0022】
第1ロッド2−1と第2ロッド2−2間に介在されたその減速部材4は、そのばね力がピストン復帰手段14−1,14−2の力およびブレーキペダル1を入力ロッド2側に戻す力(ペダル戻しばね1aの力またはブレーキペダル1の自重によって発生する力)よりも小さく設定されており、そのために、ブレーキペダル1が操作されていない初期状態のときには軸方向に圧縮される。
【0023】
また、凸部6の根元の周囲には、第1ロッド2−1と第2ロッド2−2の相互突合せ部5が設けられている。その相互突合せ部5は軸方向初期隙間の無いものにしてあり、ブレーキペダル1から第1ロッド2−1に加えられた操作入力は、ロスストロークの無い状態で第2ロッド2−2に伝わってピストン13−1に加わる。
【0024】
このように構成した図示のブレーキ入力装置は、ブレーキペダル1が踏み込まれた位置から急速に戻されたときにブレーキペダル1の復帰とピストン13−1の復帰に速度差が発生し(既に述べた理由によりピストンの復帰が遅れる)、その速度差で第1ロッド2−1が第2ロッド2−2から離反する方向に動き、両ロッドの相互突合せ面間に図3に示すように隙間gが生じる。そのために、軸方向に圧縮されていた減速部材4が弾性復元して伸び、この状態でブレーキペダル1が復帰終点に先に到達し、ストッパ(図示せず)などに規制されて復帰終点に停止する。その後、ピストン13−1が復帰終点に到達するが、そのときにはピストン13−1は弾性復元して伸びている減速部材4を軸方向に圧縮しながら戻る必要があり、そのために、減速部材4による緩衝作用が生じて復帰中のピストン13−1が復帰しきる直前に減速され、そのために、ピストン13−2の動きも減速され、ストッパ15−1,15−2に対するピストン13−1,13−2の衝突が緩和されて打音が小さくなる。
【0025】
なお、例示のブレーキ入力装置は、凸部6を第1ロッド2−1に、凹部7を第2ロッド2−2にそれぞれ設けたが、凸部6と凹部7の位置関係は図とは逆になっていてもよい。また、第1ロッド2−1と第2ロッド2−2の相対移動を規制するストッパ機構を付加するか、又は、凸部6と凹部7の嵌合長をピストンストロークよりも大きくすると、凸部6が凹部7から抜け出す懸念を無くすことができる。
【0026】
この発明のブレーキ入力装置は、マスタシリンダ以外のペダル操作を伴う液圧装置に採用してもその有効性が発揮される。ペダル操作を伴う液圧装置としては、例えば、ブレーキシミュレータ装置などがあり、このような装置においても、ブレーキペダルが急速に戻されたときにピストンの打音が低減され操作フィーリングが改善される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明のブレーキ入力装置の使用の一例を示す断面図
【図2】図1のブレーキ入力装置の入力ロッドの詳細を示す部分破断側面図
【図3】ブレーキペダルが急速に戻されたときに図2の入力ロッドの分割部に生じる隙間を表した図
【符号の説明】
【0028】
1 ブレーキペダル
1a ペダル戻しばね
2 入力ロッド
−1 第1ロッド
−2 第2ロッド
3 クレビス金具
4 減速部材
5 相互突合せ部
6 凸部
7 凹部
8 部屋
10 液圧装置
11 シリンダボディ
12−1,12−2 圧力室
13−1,13−2 ピストン
14−1,14−2 ピストン復帰手段
15−1,15−2 ストッパ
16 リザーバ
17−1,17−2 バルブ機構
17a 弁体
17b プッシュピン
g 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダル(1)と、そのブレーキペダル(1)に連結される入力ロッド(2)と、ブレーキペダル(1)を復帰させるペダル復帰手段を有し、
操作入力を受けて圧力室(12)に液圧を発生させるピストン(13)と、そのピストン(13)を復帰させるピストン復帰手段(14)と、ピストン(13)の後退位置を規制するストッパ(15)を備えた液圧装置(10)の前記ピストン(13)に、前記入力ロッド(2)経由で操作入力を加えるブレーキ入力装置において、
前記入力ロッド(2)を、ブレーキペダル(1)に連結される第1ロッド(2−1)と、前記ピストン(13)に連結される第2ロッド(2−2)の2者に分割して第1、第2ロッド(2−1,2−2)を軸方向相対移動可能に連結し、さらに、軸方向にばね特性をもち、そのばね力が前記ピストン復帰手段の力よりも小さい減速部材(4)を圧縮状態にして第1、第2ロッド(2−1,2−2)間に介在し、さらに、第1、第2ロッド(2−1,2−2)間に軸方向初期隙間の無い相互突合せ部(5)を設けたことを特徴とするブレーキ入力装置。
【請求項2】
前記第1ロッド(2−1)と第2ロッド(2−2)の連結を、両ロッドの分割側端部に凸部(6)と凹部(7)を対応して設けてその凸部(6)と凹部(7)を軸方向スライド自在に嵌合させて行うと共に、前記凸部(6)の先端と凹部(7)の底との間に部屋(8)を設けてその部屋(8)に前記減速部材(4)を配置し、前記凸部(6)の根元の周囲に前記相互突合せ部(5)を設けたことを特徴とする請求項1に記載のブレーキ入力装置。
【請求項3】
前記減速部材(4)をゴムで形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のブレーキ入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−279795(P2008−279795A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−123344(P2007−123344)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】