説明

ブレーキ装置

【課題】ブレーキ装置において、ブレーキシューの移動に伴う摩擦の発生を抑えて、押棒から押付力を効率的にブレーキシューに伝達する。
【解決手段】Y方向に進退移動する押棒40と、押棒40の進行側への移動により該進行側へ移動して車輪Sに接触するブレーキシュー10と、ブレーキシュー10を移動可能に支える板バネ1と、押棒40の一部を収納するハウジング21に固定され板バネ1が取り付けられるブラケット70と、を備えている。板バネ1は、その厚み方向が押棒40の進退移動の方向(Y方向)に向くよう、その一端部1aがブレーキシュー10に固定され、その他端部1bがブラケット70に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪等の制動対象に制動力を加えるブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車輪に制動力を加えるブレーキ装置としては、例えば、以下の特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
この特許文献1に記載されたブレーキ装置は、車輪に制動力を加えるブレーキシューと、このブレーキシューを車輪に対して遠近方向に移動させる駆動ユニットと、ブレーキシューを移動可能に支えるハンガーと、を備えている。駆動ユニットは、車輪に対する遠近方向に進退移動する押棒と、この押棒を進退移動させる機構とを有している。
【0004】
駆動ユニットのハウジングには、ブラケットが固定されている。前述のハンガーは、ブラケットに揺動可能に取り付けられている。
【0005】
車輪に制動力を加える際には、駆動ユニットに、例えば、空気を供給する等で、押棒を進行側へ移動させる。この押棒の移動により、ブレーキシューは、退避位置から車輪に近づく向きに移動して、車輪に接触し、車輪に対して制動力を加える。
【0006】
この際、ブレーキシューは、車輪に加える制動力に対する反力を車輪から受ける。この制動力及び反力は、いずれも、車輪に対する接線方向の力である。この反力を受けるブレーキシューは、制動力又は反力の方向である制動方向にほぼ沿って配設されたハンガーにより、支持される。
【0007】
また、制動力を解除する際には、駆動ユニットから空気を流出させて、押棒に対する進行側への押付力を解除する。一般的に、この押棒に対する押付力の解除により、ブレーキシューが元の退避位置へ戻るようにするため、ブレーキシュー又はハンガーにコイルバネ等の弾性部材を取り付け、ブレーキシュー等を車輪から遠ざかる向きに付勢している。このように、ブレーキシュー等を車輪から遠ざかる向きに付勢することで、押棒に対する押付力が解除されると、コイルバネ等の弾性部材より、ブレーキシューは、元の退避位置に戻る。さらに、押棒やハンガーも、このブレーキシューの移動により、元の位置に戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−147511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ハンガーのブラケットに対する接続箇所、ハンガーのブレーキシューに対する接続箇所で、ハンガーの揺動により摩擦が生じ、この摩擦力により押棒からの押付力を損なってしまう。また、ハンガーの上記接続箇所は、摩擦による磨耗が進むと、ハンガーの揺動動作にガタが生じて、この面からも押棒からの押付力を損なってしまう。
【0010】
特に、制動時のハンガーは、ブレーキシューから制動力に対する反力を受けることになるため、ハンガーの上記接続箇所中の反力に抗する箇所でより大きな摩擦力が作用し、この箇所の局部的な磨耗が進む。上記接続箇所で局部的な磨耗が進むと、ハンガーの揺動動作により大きなガタが生じてしまう。このため、特許文献1に記載の技術では、前述のハンガーの揺動に起因して押付力が損なわれる以上に、押付力は損なわれる。
【0011】
すなわち、特許文献1に記載の技術では、押棒の押付力を制動子であるブレーキシューに効率的に伝達することができない、という問題点がある。
【0012】
そこで、本発明は、このような従来技術の問題点に着目し、部材間の摩擦発生を抑えて、各部材の経年変化を少なくすることで、押棒の押付力を効率よくブレーキシューに伝達することができるブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記問題点を解決するためのブレーキ装置に係る発明は、
基部に対して進退移動する押棒と、前記押棒の進退移動の方向のうちの進行側への移動により、該進行側へ移動して制動対象に接触する制動子と、前記制動子が前記制動対象に接触して制動力を加える方向に沿って配設され、前記制動子を前記進退移動の方向に移動可能に支える板バネと、前記基部に固定され、前記板バネが取り付けられるバネ取付部と、
を備え、前記板バネは、前記押棒の進退移動に伴って、該進退移動の方向に弾性たわみ変形するよう、一端部が前記制動子に対して固定され、他端部が前記バネ取付部に固定されている、ことを特徴とする。
【0014】
制動対象に制動力を加える際には、押棒に対して、その進行側に押付力が加えられる。この押付力により、押棒が進行側へ移動すると、これに伴って、制動子は、該進行側である制動対象に近づく向きへ移動して、制動対象と接触し、この制動対象に制動力を加える。この制動子の移動で、制動子を支える板バネは、押棒の進退方向に弾性たわみ変形する。
【0015】
また、制動子は、制動対象に接触して、制動対象に制動力を加えると、この制動対象から制動力に対する反力を受けることになる。このため、制動子を支える板バネは、制動対象からの反力により、より弾性たわみ変形する。
【0016】
車輪に対する制動力を解除する際には、押棒に対する前述の押付力が除かれる。このため、押棒及び制動子は、進行向きの力を受けなくなり、弾性たわみ変形している板バネの復元力で、退行側へ移動して、押付力が加えられる前の元の位置に戻る。
【0017】
以上の発明では、制動子を移動可能に支えるハンガー部材として、板バネを用い、この板バネの一方の端部が制動子に対して固定され、他方の端部がバネ取付部に固定されているので、制動子及びバネ取付部に対するハンガー部材の各接続箇所において、制動子の相対移動に伴う摩擦は発生しない。このため、この摩擦力による、押棒からの押付力の損失を抑えることができる。また、ハンガー部材の各接続箇所での摩擦による磨耗を防ぐことができ、ハンガー部材のガタを回避することもできる。
【0018】
ここで、上記ブレーキ装置は、前記板バネを複数備え、複数の前記板バネは、前記押棒の前記進退方向に並んでいる、ことが好ましい。この際、前記複数の板バネの相互間隔は、前記一端部から前記他端部までの間で等距離である、ことが好ましい。
【0019】
このように、複数の板バネを押棒の進退方向に並べると、制動子を捩じろうとするモーメントや傾けようとするモーメントに対して、複数の板バネが、相互に離れた位置で抗することになるので、制動子の捩じれを効果的に抑えることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、制動子を移動可能に支えるハンガー部材として、板バネを用いているので、制動子及びバネ取付部に対するハンガー部材の各接続箇所において、制動子の相対移動に伴う摩擦は発生しない。このため、この摩擦による、押棒からの押付力の損失を抑えることができと共に、磨耗によるガタを防ぐことができる。よって、本発明によれば、各部材間の摩擦発生が抑えられ、各部材の経年変化が少なくなるので、押棒の押付力を制動子に効率的に伝達することができる。
【0021】
また、本発明によれば、板バネは、制動子を移動可能に支えるハンガー部材としての機能と、このハンガー部材を元の位置に戻すための弾性部材としての機能との両方を担っているため、ハンガー部材の他に、弾性部材を別途も受ける必要がなく、部品点数を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る一実施形態におけるブレーキ装置の要部切欠き側面図である。
【図2】図1におけるII−II線断面図である。
【図3】本発明に一実施形態におけるブレーキ装置の動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るブレーキ装置の一実施形態について、図1〜図3を用いて説明する。
【0024】
本実施形態のブレーキ装置は、鉄道車両用のブレーキ装置である。このブレーキ装置は、図1に示すように、制動対象である車輪の踏面Sに接して、車輪に制動力を加えるブレーキシュー(制動子)10と、このブレーキシュー10を車輪に対して遠近方向に移動させる駆動ユニット20と、ブレーキシュー10を車輪に対する遠近方向に移動可能に支える板バネ1と、この板バネ1の端部1bが固定されるブラケット70と、を備えている。
【0025】
駆動ユニット20は、空気圧による駆動力に応じて進退移動するピストン30と、進行方向に移動したピストン30を図1に示す元の位置に復帰させるコイルバネ29と、ピストン30の進退移動により車輪に対する遠近方向に進退移動する押棒40と、押棒40に回転可能に設けられている出力ローラ60と、ピストン30が押棒40を押す押付力に対する反力を受けるための一対の反力受け用ローラ65と、これらを収納するハウジング21と、を備えている。
【0026】
ここで、本実施形態では、押棒40の進退方向は、ピストン30の進退移動方向に対して垂直である。また、以下の説明の都合上、押棒40の進退方向をY方向、ピストン30の進退方向をZ方向、Y方向及びZ方向に対して垂直な方向をX方向とする。なお、本実施形態では、押棒40の進退方向は、ピストン30の進退方向に対して垂直であるが、押棒40の進退方向とピストン30の進退方向とは、異なっていれば垂直でなくてもよい。
【0027】
ピストン30は、空気圧を受ける受圧部31と、この受圧部31からピストン30の進退方向のうちの進行向き((+)Z)側に伸びている脚部32と、を有している。受圧部31は、ハウジング21内を仕切って、この受圧部31を基準としてハウジング21内の(−)Z側に空気室22を形成する。この受圧部31の外周には、空気室22の気密性を確保するためにOリングやパッキン等が設けられている。ハウジング21には、空気室22に対する空気の出入口23が形成されている。
【0028】
ピストン30の受圧部31であって、このピストン30の進行向き側である(+)Z側の面には、コイルバネ29の一方の端部が取り付けられている。また、ハウジング21には、ピストン30の受圧部31を基準にして、(+)Z側にバネ支持板26が設けられており、このバネ支持板26に、コイルバネ29の他方の端部が取り付けられている。
【0029】
押棒40の退行向き((−)Y)側の端部である退行側端部43には、出力ローラ60が設けられている。さらに、押棒40の退行側((−)Y側)であって、(+)Z側には、Y方向に伸びるキー溝44が設けられている。ハウジング21には、この押棒40が貫通する貫通孔27が形成され、この貫通孔27に、この押棒40の進行側((+)Y側)をY方向に摺動可能に支持する滑り軸受け28が設けられている。また、ハウジング21内には、押棒40のキー溝44をY方向に摺動可能に支持する押棒ガイドキー81が設けられている。
【0030】
脚部32は、押棒40の進行側((+)Y側)、つまり、出力ローラ60側に、ピストン30の進退方向(Z方向)に対して傾斜し、且つ(−)Z側に向かうに連れて(+)Y側に向かう傾斜面部50が形成されている。この傾斜面部50に、出力ローラ60が接触する。傾斜面部50には、ピストン30の進行向き((+)Z)への移動過程で先に出力ローラ60に接触する先接触傾斜面51と、次に出力ローラ60に接触する後接触傾斜面52とがある。先接触傾斜面51と後接触傾斜面52とは、傾斜角度が異なっており、具体的に、ピストン30の退行向き((−)Z向き)に対する角度が、後接触傾斜面52よりも先接触傾斜面51の方が大きい、言い換えると、押棒40の進行向き((+)Y向き)に対する角度が、後接触傾斜面52よりも先接触傾斜面51の方が小さい。
【0031】
脚部32は、押棒40の退行側((−)Y側)に、ピストン30の進退方向(Z方向)と実質的に平行な反力伝達面55が形成されている。この反力伝達面55に、反力受け用ローラ65の外周面が接触する。この反力受け用ローラ65は、ハウジング21に固定されている反力支持台82に回転可能に設けられている。
【0032】
この反力受け用ローラ65、さらに、出力ローラ60は、いずれも転がり軸受けである。転がり軸受けである各ローラ65,60は、いずれも、X方向に伸びる回転軸を中心として回転する。
【0033】
本実施形態の各ローラ60,65の外周面と、各ローラ60,65の外周面が接触する接触面とのうち、少なくとも一方の面には、潤滑性の向上と硬度の向上と耐摩耗性の向上とのうち、少なくとも一つを目的とする表面処理が施されている。具体的には、潤滑性の向上を目的とする表面処理としては、Mo系の潤滑性の高いコーティング処理や、Mo系潤滑剤の塗布処理等がある。また、硬度の向上を目的とする表面処理としては、高周波焼入れ処理や真空焼入れ処理等がある。これら高周波焼入れ処理や真空焼入れ処理では、対象物が熱変形するため、焼入れ処理後に対象物を機械加工して、対象物の寸法を目的の寸法にすることが好ましい。また、耐摩耗性の向上を目的とする表面処理としては、TiN系のコーティング処理等がある。
【0034】
以上のように、各ローラ60,65の外周面又はその接触面に、潤滑性の向上を目的とする表面処理を施した場合、各ローラ60,65とその接触面との間の摩擦力の増加を防ぐことができる。また、各ローラ60,65の外周面又はその接触面に、硬度や耐摩耗性の向上を目的とする表面処理を施した場合でも、変形や磨耗による接触面積の増加、さらに位置決め精度の低下等を防ぐことができる結果、各ローラ60,65とその接触面との間の摩擦力の増加を防ぐことができる。
【0035】
なお、各ローラ60,65の外周面と、その接触面とのうち、一方の面に、潤滑性の向上と硬度の向上と耐摩耗性の向上とのうちの一つを目的とする表面処理を施した場合、他方の面にも、同じ表面処理を施してもよいが、他の目的の表面処理を施してもよい。
【0036】
押棒40の進行側端部41には、X方向に貫通した貫通孔42が形成されている。また、ブレーキシュー10には、X方向に貫通し、押棒40の進退方向に対して垂直な方向(Z方向)に伸びる長孔12が形成されている。押棒40の進行側端部41とブレーキシュー10とは、押棒40の進行側端部41の貫通孔42及びブレーキシュー10の長孔12に挿通された連結シャフト19により、連結されている。
【0037】
ブレーキシュー10には、一対の板バネ1,1の一端部1aが固定される板バネ固定台15が固定されている。ハウジング21の(+)Y側の外面には、ブラケット70が固定されている。このブラケット70の部分であって、ブレーキシュー10の板バネ固定台15から(−)Z側へ離れた位置には、一対の板バネ1,1の他端部1bが固定される板バネ固定台75が固定されている。なお、ここで、ブラケット70に固定されている板バネ固定台75とブレーキシュー10に固定されている板バネ固定台15とは、ブレーキシュー10及び押棒40が図1に示す退避位置のときに、Z方向において直線的に並んでいる。
【0038】
一対の板バネ1,1は、弾性たわみ変形していない自然状態において、互いに平行にY方向に並び、且つその厚さ方向がY方向を向くよう、それぞれの一端部1aがブレーキシュー10の板バネ固定台15にボルト16で固定され、それぞれの他端部1bがブラケット70の板バネ固定台75にボルト76で固定されている。
【0039】
なお、一対の板バネ1,1は、押棒40及びブレーキシュー10が図1に示す退避位置のとき、いずれも、前述の自然状態で、Z方向に平行である。言い換えると、一対の板バネ1,1は、押棒40及びブレーキシュー10が退避位置のとき、自然状態で、ブレーキシュー10が車輪に加える制動力の方向であるZ方向に沿うよう、配設されている。
【0040】
この板バネ1の材質としては、鉄、銅やリン等の合金でもよいが、ヤング率や強度の面から、チタン合金を用いることが好ましい。
【0041】
図2に示すように、ブレーキシュー10は、押棒40の進行側端部41を基準として、(±)X側のそれぞれに設けられている。各ブレーキシュー10,10は、前述したように、連結ロッド19により、押棒40の進行側端部41と連結されている。押棒40の進行側端部41の(+)X側のブレーキシュー10には、その(+)X側に板バネ固定台15が固定され、この板バネ固定台15に一対の板バネ1,1の一端部1aが固定されている。また、押棒40の進行側端部41の(−)X側のブレーキシュー10には、その(−)X側に板バネ固定台15が固定され、この板バネ固定台15にも一対の板バネ1,1の一端部1aが固定されている。(+)X側の一対の板バネ1,1の他端部1b、及び(−)X側の一対の板バネ1,1の他端部1bは、いずれも、ブラケット70に固定されている板バネ固定台75に固定されている。
【0042】
次に、本実施形態のブレーキ装置の動作について説明する。
【0043】
ここで、ブレーキシュー10は、図1及び図3(a)に示すように、最も(−)Y側に、つまり退避位置に位置しているとする。この際、ピストン30も、最も(−)Z側の退避位置に位置して、空気室22の容積が最小になっている。また、押棒40も、最も(−)Y側に退避位置に位置し、この押棒40に設けられている出力ローラ60が、ピストン30の傾斜面部50のうちの先接触傾斜面51に接触している。また、板バネ1は、弾性変形していない自然状態である。
【0044】
ブレーキシュー10で車輪に制動力を加える際には、ハウジング21の空気出入口23からハウジング21の空気室22内に空気を流入させる。この結果、この空気圧をピストン30の受圧部31が受けて、ピストン30は、図1に示すように、コイルバネ29を縮めながら、進行向き((+)Z側)に移動し、空気室22が広がる。
【0045】
ピストン30が(+)Z側に移動すると、このピストン30の傾斜面部50に接触している出力ローラ60は回転しつつ、傾斜面50から、この傾斜面50に対して垂直な方向の押付力、言い換えると、(+)Y向きの成分力を有する押付力を受ける。この(+)Y向きの成分力により、ピストン30の脚部32は、出力ローラ60から(+)Y向きの成分力に対する反力を受け、(−)Y側へ逃げようとする。そこで、本実施形態では、脚部32の傾斜面50と反対側に、反力伝達面55を形成し、この反力伝達面55に反力受け用ローラ65を接触させて、出力ローラ60からの反力を受けさせ、脚部32が(−)Y側へ逃げるのを防いでいる。
【0046】
出力ローラ60が取り付けられている押棒40は、出力ローラ60から押付力を受けて、押棒ガイドキー81及びガイドレール89にガイドされつつ、押棒40の進行向き((+)Y側)に移動する。なお、押棒ガイドキー81は、ピストン30から押棒40が受ける(+)Z向きの力、及び(±)X方向の力を支持し、ガイドレール89は、ピストン30から押棒40を介してガイドローラ69が受ける(+)Z向きの力、及びY方向に平行な押棒40の中心軸回りのモーメント力を支持する。
【0047】
この押棒40の(+)Y側への移動により、この押棒40の進行側端部41に取り付けられている連結ロッド19も、(+)Y側への移動へ移動する。この連結ロッド19は、ブレーキシュー10の長孔12に対して、Y方向への相対移動ができないものの、Z方向への相対移動が可能である。このため、ブレーキシュー10は、押棒40の進行側端部41の(+)Y側への移動に伴って、車輪の踏面Sに近づく(+)Y側へ移動する。さらに、このブレーキシュー10の板バネ固定台15に固定されている板バネ1の一端部1aも、(+)Y側へ移動する。よって、板バネ1は、Y方向に弾性たわみ変形する。
【0048】
ところで、ブレーキシュー10は、押棒40の進行側端分41の(+)Y側への移動により、車輪の踏面Sに近づく(+)Y側へ移動しつつ、(−)Z側にも移動する。このように、ブレーキシュー10が(−)Z側にも移動するのは、ブラケット70の板バネ固定台75とブレーキシュー10の板バネ固定台15とのZ方向間隔が板バネ1により規制されている状態で、ブレーキシュー10が(+)Y側へ移動するからである。
【0049】
なお、本実施形態では、押棒40の進行側端部41に対して、ブレーキシュー10をZ方向に移動可能にするために、ブレーキシュー10に長孔12を形成したが、押棒40の進行側端部41に長孔を形成して、押棒40の進行側端部41に対して、ブレーキシュー10をZ方向に移動可能にしてもよい。
【0050】
ブレーキシュー10は、図3(b)車輪の踏面Sに接触すると、車輪に対して、その踏面Sの接線方向((+)Z向き)の制動力Fを加える。この際、ブレーキシュー10は、踏面Sへの押付力に対する抗力Nと、(+)Z向きの制動力Fに対する(−)Z向きの反力Fnとを受ける。なお、図3中、符号「10S」は、車輪の踏面Sに接触した直後のブレーキシューを示している。
【0051】
ブレーキシュー10にかかる抗力Nは、押棒40が主として受け、ブレーキシュー10にかかる反力Fnは、板バネ1,1が主として受ける。このため、板バネ1,1は、(−)Z向きの反力Fnにより、より弾性ひずみ変形する。
【0052】
ところで、出力ローラ60は、ピストン30の進行向き((+)Z側)への移動過程で、ピストン30の後接触傾斜面52より先に先接触傾斜面51に接触する。この先接触傾斜面51は、前述したように、押棒40の押棒40の進行向き((+)Y向き)に対する角度が後接触傾斜面52よりも小さいため、ピストン30の一定移動量に対して、後接触傾斜面52よりも、押棒40を大きく移動させることができる。
【0053】
出力ローラ60は、続いて、ピストン30の後接触傾斜面52に接触する。この後接触傾斜面52は、押棒40の進行向き((+)Y向き)に対する角度が先接触傾斜面51よりも大きいため、ピストン30の一定移動量に対して、先接触傾斜面51より、押棒40を大きく移動させないものの、この先接触傾斜面52から受ける(+)Y向きの成分力が大きくなり、押棒40に対する(+)Y向きの押付力を大きくすることができる。
【0054】
従って、押棒40は、移動前半では大きく移動し、移動後半では、ブレーキシュー10への押付力が大きくなる。
【0055】
車輪に加えている制動力を解除する際には、ハウジング21の空気出入口23からハウジング21の空気室22内の空気を流出させる。すると、空気圧で縮んでいたコイルバネ29が伸び、ピストン30は、退行向き((−)Z側)に移動し、元の退避位置、つまり、図1に示す位置に戻る。この結果、押棒40及びブレーキシュー10は、ピストン30からY方向の力を受けなくなるため、弾性ひずみ変形している板バネ1の復元力により、退行向き((−)Y側)に移動し、元の退避位置、つまり、図1に示す位置に戻る。なお、この際、ブレーキシュー10は、退行向き((−)Y側)に移動しつつ、(+)Z側に移動して、元の退避位置に至る。
【0056】
以上のように、本実施形態では、ブレーキシュー10を移動可能に支えるハンガー部材として、板バネ1を用い、この板バネ1の一方の端部をブレーキシュー10に固定し、他方の端部をブラケット70に固定しているので、ブレーキシュー10及びブラケット70に対するハンガー部材の各接続箇所において、ブレーキシュー10の相対移動に伴う摩擦は発生しない。このため、この摩擦力による、押棒40からの押付力の損失を抑えることができる。また、ハンガー部材の各接続箇所での摩擦による磨耗を防ぐことができ、ハンガー部材のガタを回避することができる。
【0057】
さらに、ブレーキシュー10が車輪に制動力Fを加えている際、ハンガー部材は、ブレーキシュー10から制動力Fに対する反力Fnを受けるが、この際においても、ハンガー部材としての板バネ1は、ブレーキシュー10及びブラケット70に対する各接続箇所が固定されているため、各接続箇所におけるハンガー部材の相対移動に伴う摩擦は発生しない。このため、制動時においても、各接続箇所が磨耗することはない。
【0058】
また、ブレーキシュー10が捩れ力等を受けたとしても、ハンガー部材である板バネ1がこの捩れ力に抗する弾性力を発生するので、ブレーキシュー10の捩れを抑えることができる。また、ブレーキシュー10が仮に捩れたとしても、ハンガー部材の上記接続箇所で磨耗が発生しない関係上、局部的な磨耗も発生せず、局部的な磨耗によるハンガー部材のガタを回避することができる。
【0059】
よって、本実施形態によれば、各部材間の摩擦発生が抑えられ、各部材の経年変化が少なくなるので、押棒40の押付力を効率的にブレーキシュー10へ伝達することができる。
【0060】
さらに、本実施形態では、従来技術におけるハンガーの機能、つまりブレーキシュー10を移動可能に支える機能と、このハンガーを元の位置に戻すための弾性部材としての機能との両機能を、ハンガー部材である板バネ1に担わせているため、部品点数を少なくすることができる。
【0061】
なお、以上の実施形態では、一対の板バネ1,1をY方向に並べているが、本発明はこれに限定されるものではなく、Y方向における板バネの数量を一つにしてもよい。但し、本実施形態のように、複数の板バネ1をY方向に並べる方が、Z方向に平行なZ軸回りのブレーキシュー10の捩れ、YZ平面に対するブレーキシュー10の傾き等を効果的に抑えることができる。
【0062】
これは、ブレーキシュー10を捩じろうとするモーメントや傾けようとするモーメントに対して、複数の板バネ1,1がそれぞれ単に抗すること以上に、各モーメントに対して、複数の板バネ1,1が相互に離れた位置で抗することに起因する。さらに、ブレーキシュー10を捩じろうとするモーメントに対して、Y方向に並んでいる一対の板バネ1,1のうち、一方の板バネ1が、そのねじれ剛性で抗するのみならず、他方の板バネ1が、そのねじれ剛性よりも強い幅方向の剛性で抗することにも起因する。
【0063】
また、以上の実施形態としては、押棒40の進退移動の基準となる基部をハウジング21とし、このハウジング21に、バネ取付部としてのブラケット70及びバネ固定台75を設けたが、ハウジング21が固定される車両の一部を基部とし、この基部にバネ取付部としてのブラケット及びバネ固定台を設けてもよい。但し、駆動ユニット20、ブレーキシュー10、板バネ1、ブラケット70、バネ固定台15,75を一つのユニットにするためには、本実施形態のように、ハウジング21を基部とすることが好ましい。
【0064】
また、本発明は、以上の実施形態における駆動ユニット20の構成に限定されるものではなく、この進退移動に応じてブレーキシュー10を進退移動させるために、押棒40を進退移動させるものであれば、如何なる駆動ユニットを用いてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1:板バネ、10:ブレーキシュー(制動子)、12:長孔、15,75:バネ固定台、19:連結ロッド、20:駆動ユニット、21:ハウジング(基部)、30:ピストン、40:押棒、41:押棒の進行側端部、50:傾斜面部、55:反力伝達面、60:出力ローラ、65:反力受け用ローラ、65h,65k:反力受け用ローラユニット、70:ブラケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部に対して進退移動する押棒と、
前記押棒の進退移動の方向のうちの進行側への移動により、該進行側へ移動して制動対象に接触する制動子と、
前記制動子が前記制動対象に接触して制動力を加える方向に沿って配設され、前記制動子を前記進退移動の方向に移動可能に支える板バネと、
前記基部に固定され、前記板バネが取り付けられるバネ取付部と、
を備え、
前記板バネは、前記押棒の進退移動に伴って、該進退移動の方向に弾性たわみ変形するよう、一端部が前記制動子に対して固定され、他端部が前記バネ取付部に固定されている、
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ装置において、
前記板バネを複数備え、
複数の前記板バネは、前記押棒の進退移動の方向に並んでいる、
ことを特徴とするブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載のブレーキ装置において、
前記複数の板バネの相互間隔は、前記一端部から前記他端部までの間で等距離である、
ことを特徴とするブレーキ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−144827(P2011−144827A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4093(P2010−4093)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】