説明

ブレ補正装置及び光学機器

【課題】良好なブレ補正を実現する。
【解決手段】カメラの角速度を検出する角速度センサ(12B)と、カメラの加速度を検出する加速度センサ(12A)と、前記角速度センサと前記加速度センサの少なくとも1つの出力に基づいて、カメラの姿勢を演算する姿勢演算部(31)と、前記姿勢演算部の演算結果に基づいて、ピッチ角方向制御軸とヨー角方向制御軸とによって、並進ブレの演算量を変えるブレ補正制御部(S66)とを備えたブレ補正装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレ補正装置及び光学機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高倍率撮影時においては、並進ブレの影響が大きくなるが、角速度センサのみを用いる一般的なブレ補正システムでは、並進ブレを検出することができない。このため、高倍率撮影時にはブレ補正精度が悪化するという問題があった。
この問題を解決するため、カメラの速度、角速度を検出し、回転ブレの回転中心位置を正確に求めることで、高倍率撮影時のブレ補正精度を向上させる技術(特許文献1、2)が提案されている。
3軸の加速度センサと、3軸の角速度センサを用いてカメラの姿勢を演算し、加速度センサ出力に含まれる重力加速度成分を演算、除去することで、並進ブレ成分のみを演算して、補正することで、高倍率撮影時のブレ補正精度を向上させる技術(特許文献3)が提案されている。これは、6軸センサの出力を基に、並進ブレの変位量を求めるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−114845号公報
【特許文献2】特開2010−25961号公報
【特許文献3】特開平7−225405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなブレ補正装置は、加速度センサを用いて並進ブレを補正する場合に、センサ出力から、重力加速度と手ブレによる加速度を切り分ける必要がある。
しかし、特許文献1、2は、加速度センサ出力に含まれる重力加速度成分が正確に除去できないため、正確な並進ブレ情報が得られない。
特許文献3は、6軸の情報を用いてカメラの姿勢を演算し、加速度センサ出力に含まれる重力加速度成分を除去しているが、姿勢検出誤差により、完全に除去することは困難である。また、重力加速度成分は、加速度センサの各軸(ピッチ軸、ヨー軸)で異なるため、姿勢検出誤差の影響度合いも軸毎に異なる。
【0005】
本発明の課題は、良好なブレ補正が可能なブレ補正装置及び光学機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1の発明は、カメラの角速度を検出する角速度センサ(12B)と、カメラの加速度を検出する加速度センサ(12A)と、前記角速度センサと前記加速度センサの少なくとも1つの出力に基づいて、カメラの姿勢を演算する姿勢演算部(31)と、前記姿勢演算部の演算結果に基づいて、ピッチ角方向制御軸とヨー角方向制御軸とによって、並進ブレの演算量を変えるブレ補正制御部(S66)と、を備えたブレ補正装置を提供する。
請求項2の発明は、請求項1に記載のブレ補正装置において、前記ブレ補正制御部は、前記各軸で、並進ブレを演算するときの回転中心アルゴリズムの定数(C)を変更すること、を特徴とするブレ補正装置を提供する。
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載のブレ補正装置において、前記ブレ補正制御部は、前記各軸で、並進ブレ処理用HPFのカットオフ周波数特性(fc)を変更すること、を特徴とするブレ補正装置を提供する。
請求項4の発明は、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のブレ補正装置において、前記ブレ補正制御部は、前記各軸で、並進ブレ演算結果のゲインを変更すること、を特徴とするブレ補正装置を提供する。
請求項5の発明は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のブレ補正装置において、前記ブレ補正制御部は、前記各軸で、並進ブレ処理用センタバイアス量を変更すること、を特徴とするブレ補正装置を提供する。
請求項6の発明は、カメラの角速度を検出する角速度センサ(12B)と、カメラの加速度を検出する加速度センサ(12Aと、前記角速度センサと前記加速度センサの少なくとも1つの出力に基づいて、カメラの姿勢を演算する姿勢演算(31)部と、前記姿勢演算部の演算結果に基づいて、ピッチ角方向制御軸とヨー角方向制御軸とによって、並進ブレの演算方法を変えるブレ補正制御部と、を備えたブレ補正装置を提供する。
請求項7の発明は、請求項6に記載のブレ補正装置において、前記ブレ補正制御部は、前記各軸で、回転中心アルゴリズム又は2回積分アルゴリズムかのいずれかに演算方法を変更すること、を特徴とするブレ補正装置を提供する。
請求項8に発明は、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載のブレ補正装置において、前記姿勢演算部は、並進ブレ用の加速度センサの出力を用いて、カメラの姿勢を演算すること、を特徴とするブレ補正装置を提供する。
請求項9の発明は、請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載のブレ補正装置を備えた光学機器(1)を提供する。
以上、理解を容易にするために、本発明の実施形態に対応する符号を付して説明したが、これに限定されるものではない。なお、符号を付して説明した構成は、適宜改良してもよく、また、少なくとも一部を他の構成に代替してもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、良好なブレ補正が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のカメラの第1実施形態を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明によるブレ補正装置の第1実施形態を示すブロック図である。
【図3】本発明によるブレ補正装置の第1実施形態のカメラ座標系を説明する図である。
【図4】本発明によるブレ補正装置の第1実施形態の動作を説明するフローチャートである。
【図5】本発明によるブレ補正装置の第1実施形態のブレ補正演算を説明するフローチャートである。
【図6】第1実施形態に係るブレ補正装置の並進ブレ量演算のサブルーチンを示すフローチャートである。
【図7】第1実施形態に係るブレ補正装置のブレ回転中心アルゴリズムを説明する図である。
【図8】第1実施形態に係るブレ補正装置の定数Cと重力加速度補正誤差による並進ブレ演算誤差の関係を説明する図である。
【図9】第1実施形態に係るブレ補正装置の正姿勢時の定数Cと重力加速度補正誤差による並進ブレ演算誤差の関係を示す図である
【図10】第1実施形態に係るブレ補正装置の定数Cと並進ブレ検出誤差の関係を示す図である。
【図11】本発明によるブレ補正装置の第2実施形態の正姿勢時のHPFのカットオフ周波数(fc)と並進ブレ誤差を示す図である。
【図12】本発明によるブレ補正装置の第3実施形態の並進ブレ演算結果とゲインの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、図面等を参照して、本発明の実施の形態について、さらに詳しく説明する。
図1は、本発明のカメラの第1実施形態を模式的に示す断面図である。
カメラ1は、デジタル一眼レフカメラであり、カメラ筐体1Aと、このカメラ筐体1Aに対して着脱自在に装着されるレンズ鏡筒1Bとを備えている。
CPU2は、ズーム群4、フォーカス群5、ブレ補正群6等のレンズ群の移動量演算や、カメラ1の全体の制御を行う中央処理装置である。
撮像素子3は、撮影レンズ(4,5,6)により形成された被写体像を撮像する素子であり、被写体光を露光して電気的な画像信号に変換し、信号処理回路15へ出力する。撮像素子3は、例えばCCD、CMOSなどの素子により構成されている。
【0010】
ズーム群4は、ズーム群駆動機構7により駆動され、光軸方向に沿って移動することにより、像の倍率を連続的に変化させるレンズ群である。フォーカス群5は、フォーカス群駆動機構8により駆動され、光軸方向に移動して、焦点を合わせるレンズ群である。ブレ補正群6は、VCM等のブレ補正群駆動機構9により光学的にブレ補正駆動され、光軸に垂直な面上で可動なレンズ群である。
【0011】
絞り10は、絞り駆動機構11に駆動され、撮影レンズ(4,5,6)を通過する被写体光の光量を制御する機構である。
加速度センサ12A、角速度センサ12Bは、それぞれセンサユニットに生じる振れの加速度、角速度を検出するセンサである。
【0012】
記録媒体13は、撮像された画像データを記録するための媒体であり、SDカード、CFカード等が使用される。
EEPROM14は、加速度センサ12Aのゲイン値などの調整値情報、レンズ鏡筒固有の情報等を記憶するメモリであって、CPU2に出力する。
信号処理回路15は、撮像素子3からの出力を受けて、ノイズ処理やA/D変換等の処理を行う回路である。
AFセンサ16は、AF(自動焦点調節)を行うためのセンサであって、CCD等を用いることができる。
レリーズスイッチ17は、カメラ1の撮影操作を行う部材であって、シャッタ駆動のタイミング等を操作するスイッチである。
【0013】
背面液晶18は、カメラ1のカメラ筐体1Aの背面に設けられ、撮像素子3で撮影した被写体像(再生画像、ライブビュー画像)や操作に関連した情報(メニュー)などを表示するカラー液晶ディスプレイである。
シャッタ20は、ミラー19の後方に配置されている。シャッタ20には、ミラー19が上へ回転して撮影可能状態となったときに、被写体光が入射される。シャッタ20は、レリーズスイッチ17などによる撮影指示に応じてシャッタ幕を走行させ、撮像素子3に入射する被写体光を制御する。
【0014】
図2は、本発明によるブレ補正装置の第1実施形態を示すブロック図である。
図3は、本発明によるブレ補正装置の第1実施形態のカメラ座標系を説明する図である。
加速度センサ12Aは、図3(A)に示すように、カメラ1のX軸、Y軸、Z軸方向に感度を有する加速度を検出するセンサであり、Gセンサなどが用いられている。この実施形態では、撮像素子3の撮像面と撮影レンズ(4,5,6)の光軸との交点を直交座標の原点Oとし、撮影レンズ(4,5,6)の光軸をZ軸、撮像素子3の撮像面をXY平面として表している。
角速度センサ12Bは、X軸回り(Pitch)、Y軸回り(Yaw)、Z軸回り(Roll)の角速度を検出する振動ジャイロ等のセンサである。
【0015】
加速度センサ12Aの出力値には、並進運動で発生する加速度と重力加速度とが含まれている。また、カメラ1の回転運動によってカメラ1の姿勢が変化するので、カメラ座標系に固定された加速度センサ12Aの検出軸方向と重力加速度方向とのなす角が変化する。このため、加速度センサ12Aの出力値に含まれる重力加速度の大きさが変化する。従って、加速度センサ12Aの出力値から重力加速度成分を除去し、並進運動で発生する加速度成分のみを用いて変位を算出するようにする。
【0016】
カメラ1は、上記重力加速度成分を除去するために、カメラ初期姿勢演算部31、重力加速度成分演算手部32、重力加速度成分減算部33を備える。
カメラ初期姿勢演算部31は、カメラ1の初期姿勢を求める部分であり、加速度センサ12Aの出力から求められる重力加速度方向を利用して求める。ここで、カメラ1には回転振動及び並進振動が存在するので、重力加速度方向を適宜の時間の間測定し続け、その測定結果の平均を算出することで平均的な重力加速度方向を求める。このようにして、図3に示すカメラ座標系42における重力加速度方向により、慣性座標系41に対するカメラの平均的な姿勢を求め、これをカメラ1の初期姿勢に設定する。
【0017】
重力加速度成分演算部32は、静止座標系である慣性座標系41から運動座標系であるカメラ座標系42へ変換するための座標変換マトリックスを演算し、慣性座標系41における重力加速度成分にその座標変換マトリックスを乗じて、カメラ座標42における重力加速度成分を求めるものである。
上記座標変換マトリックスは、カメラ初期姿勢演算部31の出力であるカメラ1の初期姿勢と、角速度センサ12Bの出力である3軸回りの加速度(後述する角度ブレ量演算部35で信号処理されたもの)とを用いて算出される。この演算方法は、ストラップダウン方式の慣性航法装置等に用いられている方法であり、その詳細は、例えば特開平2−309702号公報に開示されている。また、座標変換マトリックスの演算方法は、特開平7−225405号公報に開示されている。
【0018】
重力加速度成分減算部33は、加速度センサ12Aの出力値であるX軸,Y軸方向の加速度から、重力加速度成分演算部32の出力を減算して重力加速度成分を除去することにより、並進運動で発生する加速度を求める。
【0019】
並進ブレ量演算部34は、重力加速度減算部33の出力からHPFで低周波成分を除去したのち、積分フィルタで積分することを、2回繰り返すことにより、X軸,Y軸方向の並進運動の変位を算出し、レンズ目標位置演算部36に出力する。
【0020】
角度ブレ量演算部35は、角速度センサ12BのX軸回り(Pitch)、Y軸回り(Yaw)、Z軸回り(Roll)の出力からHPFで低周波成分を除去したのち、積分フィルタで積分して、回転運動の変位を演算し、レンズ目標位置演算部36に出力する。
【0021】
レンズ目標位置演算部36は、並進ブレ量演算部34及び角度ブレ量演算部35と、フォーカス情報取得部37からの情報に基づいて、レンズの目標位置を演算する。
レンズ駆動量演算部38は、レンズ目標位置演算部36からの目標位置と、レンズ位置検出部21により検出されたブレ補正群6の現在位置から、ブレ補正群駆動機構(VCM)9の駆動量を演算する。
【0022】
図4は、本発明によるブレ補正装置の第1実施形態の動作を説明するフローチャートである。
S1において、レリーズスイッチ17が半押しされたか否かを判定し、半押しされた場合には、S2に進む。
ついで、焦点距離情報の取得(S2)、被写体距離情報の取得(S3)を行う。
S4において、撮影倍率:β情報の取得を行い、その撮影倍率:βが所定の閾値βth以上か否かを判断し(S5)、肯定の場合には、S6へ進み、否定の場合には、S7に進む。
【0023】
S6では、マイクロ用ブレ補正演算のサブルーチンをコールする。図5は、マイクロ用ブレ補正演算のサブルーチンを示すフローチャートである。
S61において、加速度データ(X,Y,Z)の読込を、S62において、角速度データ(Pitch,Yaw,Roll)の読込を行う。
【0024】
S63において、加速度センサ12Aの加速度データからカメラ初期姿勢を演算する。
S64において、カメラ初期姿勢情報と、角速度センサ12Bの角速度データとから、カメラの姿勢を演算しその姿勢演算結果から、重力加速度を演算する。
S65において、加速度データに含まれる重力加速度を減算する。
【0025】
S66において、並進ブレ量演算のサブルーチンをコールする。この詳細については、後述する。
S67において、角速度データから角度ブレ量の演算を行う。
S68において、並進ブレ量、角度ブレ量から、ブレ補正駆動機構7のレンズ目標位置を演算して、リターンする。
【0026】
図4(a)に戻って、S7では、通常ブレ補正演算のサブルーチンをコールする。図4(b)は、通常ブレ補正演算のサブルーチンを示すフローチャートである。
S71において、角速度データの読込を行う。
S72において、その角速度データに基づいて、ブレ補正駆動機構9の目標位置演算を行い、リターンする。
【0027】
S8において、ブレ補正駆動量を演算する。
S9において、ブレ補正駆動機構(ユニット)を駆動する。
【0028】
図6(a)は、第1実施形態に係るブレ補正装置の並進ブレ量演算1のサブルーチンを示すフローチャートである。
S661において、重力加速度減算部33からの加速度値の低周波成分を除去するHPF処理を行い、S662において、積分演算を行う。
同様に、S663において、S662で演算した速度値の低周波成分を除去するHPF処理を行い、S664において、積分演算を行い、並進ブレ量を得て、リターンする。
【0029】
図6(b)は、第1実施形態に係るブレ補正装置の並進ブレ量演算2のサブルーチンを示すフローチャートである。
S665において、重力加速度減算部33からの加速度値の低周波成分を除去するHPF処理を行い、S666において、積分演算を行う。
同様に、S667において、S666で演算した速度値の低周波成分を除去するHPF処理を行う。次に、S668において、回転中心位置演算(加速度センサ位置基準N’)を行い、さらに、S669において、回転中心位置演算(撮像面位置基準N)を行って、リターンする。
【0030】
第1実施形態は、各軸で、並進ブレを演算する際の定数を変えるようにしたものである。並進ブレを回転中心位置のブレとみなし、回転中心位置を求めることで、高倍率撮影時のブレ補正性能を向上させる。便宜上、ブレの回転中心位置を求める演算を、「回転中心アルゴリズム」と呼ぶ。
【0031】
つぎに、回転中心アルゴリズムについて説明する。図7は、第1実施形態に係るブレ補正装置のブレ回転中心アルゴリズムを説明する図である。
図7のような角度ブレが起こった場合に、ブレの回転中心位置N’は、
N’=Y/θ ・・・(式1−1)
N’=v/ω ・・・(式1−2)
Y:加速度センサの変位量、θ:角度ブレ
v:加速度センサの速度、ω:角速度
により求めることができる。但し、ここで求めたN’は、加速度センサ12Bからみた回転中心位置までの距離である。ブレ補正として必要なのは、撮像素子3から見た回転中心位置:Nであるため、撮像素子−加速度センサ間距離:Lから、Nを演算する。
N=N’−L ・・・(式2)
【0032】
また、(式1)によりN’を演算する際、ω=0又はθ=0の場合、にN’が∞となってしまう。これに対しては、分母に定数を加える(式3)ことで、解決されている(詳細は、特開2005−114845に記載されている)。
N’=Y/(θ+C) ・・・(式3−1)
N’=v/(ω+C) ・・・(式3−2)
C:N’が発散するのを防ぐための定数
但し、定数Cを分母に加えることで、並進ブレの演算精度が低下する。
【0033】
以下、定数Cの大きさとブレ補正効果について説明する。図8は、第1実施形態に係るブレ補正装置の定数Cと重力加速度補正誤差による並進ブレ演算誤差の関係を説明する図である。
並進ブレ演算時の誤差要因として、重力加速度補正誤差による要因が挙げられる。これは、加速度センサ12Bにより演算した初期姿勢と、角速度センサ12Aを用いて重力加速度成分を演算しているが、角速度センサ信号を処理する際の、HPFによる誤差(ω0誤差)や、角速度のゲイン等が原因である。以下に、重力加速度補正誤差が並進ブレ演算に与える誤差の大きさと、回転中心演算時の定数Cの関係を示す。
【0034】
図8に示すように、定数:Cを大きくすることで、重力加速度補正誤差の影響は小さくなるという関係がある。
また、図8の重力加速度補正誤差の大きさは、検出軸毎に異なる。例えば、カメラを正位置で構え、手ブレによりRoll角:φが変化した場合に、加速度センサ12BのX軸、Y軸出力に含まれる重力加速度成分は、
X=g・sinφ
Y=g・cosφ
となる。Y軸の出力変化は、X軸に比べ十分に小さいため、重力加速度補正誤差もX軸に比べ小さくなる。
【0035】
次に、定数Cと誤差の関係の図を示す。図9は、第1実施形態に係るブレ補正装置の正姿勢時の定数Cと重力加速度補正誤差による並進ブレ演算誤差の関係を示す図である。
重力加速度補正誤差の影響による並進ブレ演算誤差量は、定数:Cを大きくすることで、小さくすることができるが、並進ブレの検出精度が悪化する。
【0036】
図10は、第1実施形態に係るブレ補正装置の定数Cと並進ブレ検出誤差の関係を示す図である。
以上のことより、回転中心位置演算時の定数Cを大きくすると、
X軸方向:並進ブレ検出精度は悪化するが、重力加速度補正誤差による並進ブレ演算誤差は減少する、
Y軸方向:並進ブレ検出精度は悪化するが、重力加速度補正誤差による並進ブレ演算誤差は略変化しない、
ことがわかる。
よって、カメラ姿勢検出に基づいて、回転中心位置演算時の定数:Cを制御軸毎に決定することで、並進ブレの補正効果をより高めることが可能となる(図6(b)のS668,S669))。例えば、カメラを正位置に構えた場合は、重力加速度の変化が少ないY軸方向の定数:Cは、重力加速度の変化が大きいX軸に比べ小さい値とすればよい。
【0037】
(第2実施形態)
図11は、本発明によるブレ補正装置の第2実施形態の正姿勢時のHPFのカットオフ周波数(fc)と並進ブレ誤差を示す図である。
第2実施形態は、各軸で、並進ブレ処理用HPFの特性(fc)を変更するようにしたものである。
重力加速度補正誤差による並進ブレ演算時の誤差は、角速度センサ信号処理時のHPFによる誤差が主要因である。このため、誤差の周波数成分は、低周波(HPFのfc以下の周波数)が略占めることになる。
この誤差を減らすために、並進ブレ処理用のHPFのfcを上げる方法が考えられる。しかし、第1実施形態と同様に、並進ブレ検出精度が悪くなる。
【0038】
以上説明したように、第2実施形態によれば、カメラの姿勢に応じて、制御軸毎に並進ブレ処理用HPFのfcを変更するようにした(図6(a)のS661,S663))。例えば、カメラを正位置に構えた場合は、重力加速度の変化が大きいX軸方向のHPFのfcは、Y軸に比べ高い値とすればよい。
【0039】
(第3実施形態)
図12は、本発明によるブレ補正装置の第3実施形態の並進ブレ演算結果とゲインの関係を示す図である。
第3実施形態は、各軸で、並進ブレ演算結果のゲインを変えるようにしたものである。
重力加速度補正誤差による並進ブレ誤差を減らすために、並進ブレ量のゲインを変更してもよい。例えば、カメラを正位置に構えた場合は、重力加速度の変化が少ないY軸方向の並進ブレゲインは1とし、重力加速度の変化が大きいX軸方向の並進ブレゲインは1以下とすればよい。
【0040】
(第4実施形態)
第4実施形態は、各軸で、並進ブレの演算アルゴリズムを、回転中心アルゴリズム又は2回積分アルゴリズムに変えるようにしたものである。並進ブレ量を演算する方法として、角度ブレの回転中心位置を演算する方法(回転中心アルゴリズム)と、加速度信号を2回積分することにより変位量を演算する方法(以下、2回積分アルゴリズム)がある。
なお、回転中心アルゴリズムの定数:Cをゼロに近づけると、2回積分アルゴリズムと同等の演算式となる。
よって、第4実施形態は、第1、第2実施形態と同様の理由により、カメラの姿勢に応じて、制御軸毎に、並進ブレの演算方法を変更したものである。例えば、カメラを正位置に構えた場合は、重力加速度の変化が少ないY軸方向の制御は2回積分アルゴリズムとし、重力加速度の変化が大きいX軸方向は、回転中心アルゴリズムとすればよい。
【0041】
(変形形態)
以上、説明した実施形態に限定されることなく、以下に示すような種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の範囲内である。
(1)本実施形態では、デジタル一眼レフカメラについて説明したが、本発明はこれに限定されず、コンパクトカメラ、銀塩カメラ、ビデオカメラ、携帯電話などにも適用可能である。
(2)本実施形態のブレ補正装置は、レンズ鏡筒内に設けられていても、カメラボディ内に設けられていてもよい。また、レンズ鏡筒とカメラボディに分散して設けられていてもよい。
(3)ブレ補正群を駆動する例で説明したが、撮像素子を駆動して、ブレ補正をしてもよい。
【0042】
(4)各軸で、並進ブレ処理用センタバイアス量を変えるようにしてもよい。つまり、姿勢により、制御軸毎に並進ブレ用センタバイアス量を変更してもよい。
センタバイアス処理の一例は、速度の大きさに応じて、加速度信号に対するバイアス量を決定し、並進ブレの大きさに応じて、速度信号に対するバイアス量を決定すればよい。この処理により、ドリフト等による発散を防ぐことができる。
このように、重力加速度補正誤差は、低周波が主成分であるため、例えば、カメラを正位置に構えた場合は、重力加速度補正誤差が少ないY軸方向のバイアス量は弱めとし、重力加速度の変化が大きいX軸方向は、Y軸に対して大きくすればよい。
(5)姿勢演算部は、並進ブレ用の加速度センサの出力を用いて、カメラの姿勢を演算するようにしてもよい。
【0043】
なお、実施形態及び変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。また、本発明は以上説明した実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0044】
1;カメラ 2;CPU 3;撮像素子 4;ズーム群 5;フォーカス群 6;ブレ補正群 7;ズーム群駆動機構 8;フォーカス群駆動機構 9;ブレ補正群駆動機構 10;絞り 11;絞り駆動機構 12;加速度・角速度センサ 13;記録媒体 14;EEPROM 15;信号処理回路 16;AFセンサ 17;レリーズスイッチ 18;背面液晶 19;ミラー 20;シャッタ 31;初期姿勢演算部 32;重力加速度成分演算出部 33;重力加速度成分減算部 34;並進ブレ量演算部 35;角度ブレ量演算部 36;レンズ目標位置演算部 37:フォーカス情報取得部 28レンズ駆動量演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラの角速度を検出する角速度センサと、
カメラの加速度を検出する加速度センサと、
前記角速度センサと前記加速度センサの少なくとも1つの出力に基づいて、カメラの姿勢を演算する姿勢演算部と、
前記姿勢演算部の演算結果に基づいて、ピッチ角方向制御軸とヨー角方向制御軸とによって、並進ブレの演算量を変えるブレ補正制御部と、
を備えたブレ補正装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレ補正装置において、
前記ブレ補正制御部は、前記各軸で、並進ブレを演算するときの回転中心アルゴリズムの定数を変更すること、
を特徴とするブレ補正装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のブレ補正装置において、
前記ブレ補正制御部は、前記各軸で、並進ブレ処理用HPFのカットオフ周波数特性を変更すること、
を特徴とするブレ補正装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のブレ補正装置において、
前記ブレ補正制御部は、前記各軸で、並進ブレ演算結果のゲインを変更すること、
を特徴とするブレ補正装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のブレ補正装置において、
前記ブレ補正制御部は、前記各軸で、並進ブレ処理用センタバイアス量を変更すること、
を特徴とするブレ補正装置。
【請求項6】
カメラの角速度を検出する角速度センサと、
カメラの加速度を検出する加速度センサと、
前記角速度センサと前記加速度センサの少なくとも1つの出力に基づいて、カメラの姿勢を演算する姿勢演算部と、
前記姿勢演算部の演算結果に基づいて、ピッチ角方向制御軸とヨー角方向制御軸とによって、並進ブレの演算方法を変えるブレ補正制御部と、
を備えたブレ補正装置。
【請求項7】
請求項6に記載のブレ補正装置において、
前記ブレ補正制御部は、前記各軸で、回転中心アルゴリズム又は2回積分アルゴリズムかのいずれかに演算方法を変更すること、
を特徴とするブレ補正装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載のブレ補正装置において、
前記姿勢演算部は、並進ブレ用の加速度センサの出力を用いて、カメラの姿勢を演算すること、
を特徴とするブレ補正装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載のブレ補正装置を備えた光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−54193(P2013−54193A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191920(P2011−191920)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】