説明

ブロック共重合体水添物、ブロック共重合体水添物組成物及びそれらの熱収縮性フィルム

【課題】射出成形品、シート、及び熱収縮性フィルムに適し、耐溶剤性、自然収縮性、低温収縮性、剛性、透明性及び伸び等の物性バランスに優れたブロック共重合体水添物及びその組成物を提供する。
【解決手段】ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの重量比が60/40〜95/5、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量が3万〜50万、水添物に組み込まれている前記ビニル芳香族炭化水素のブロック率が20〜100重量%、温度40℃での貯蔵弾性率(E40)と温度20℃での貯蔵弾性率(E20)との比(E40/E20)が0.75〜1、該水添物の動的粘弾性測定の関数tanδのピーク温度が70〜125℃の範囲に少なくとも1つ存在し、水添率が60%以上であるブロック共重合体水添物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形品、シート及び熱収縮性フィルム等に適し、耐溶剤性、自然収縮性、低温収縮性、剛性、透明性及び伸び等の物性バランスに優れたブロック共重合体水添物及びその組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル芳香族炭化水素含有量が比較的高い、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなるブロック共重合体は、透明性、耐衝撃性等の特性を利用して射出成形用途、シート、フィルム等の押し出し成形用途等に使用されている。とりわけビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなるブロック共重合体樹脂を用いた熱収縮性フィルムは、従来使用されている塩化ビニル樹脂の残留モノマーや可塑剤の残留及び焼却時の塩化水素の発生の問題もないため、食品包装やキャップシール、ラベル等に利用されている。熱収縮性フィルムに必要な特性として自然収縮性、低温収縮性、透明性、機械強度、包装機械適性等の要求がある。これまで、これらの特性の向上と良好な物性バランスを得るため種々の検討がなされてきた。
【0003】
下記文献1には、機械特性、光学特性、延伸特性及び耐クラック特性等に優れる組成物を得るため、脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体含有量が5〜80重量%で、ビカット軟化点が90℃を超えないビニル芳香族炭化水素-脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体共重合体とビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのブロックからなる共重合体との組成物が開示されている。
【0004】
下記文献2には、収縮特性、耐環境破壊性に優れた熱収縮性フィルムを得るため、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなるブロック共重合体のセグメントに特定のTgを有する熱収縮性フィルムが開示されている。下記文献3には、収縮特性、耐環境破壊性に優れた熱収縮性フィルムを得るため、特定構造のビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなるブロック共重合体の組成物からなる熱収縮性フィルムが開示されている。
【0005】
下記文献4には、低温収縮性、光学特性、耐クラック特性、寸法安定性等に優れる収縮フィルムを得るため、ビニル芳香族炭化水素含有量が95〜20重量%で、ビカット軟化点が90℃を超えないビニル芳香族炭化水素-脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体共重合体とビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのブロックからなる共重合体との組成物を延伸した低温収縮性フィルムが開示されている。
【0006】
下記文献5には、室温での自然収縮性を改良するため、スチレン系炭化水素と共役ジエン炭化水素からなるブロック共重合体とスチレン系炭化水素を含有した特定Tgのランダム共重合体の組成物からなるポリスチレン系熱収縮フィルムが開示されている。下記文献6には、フィルムの経時安定性と耐衝撃性に優れた透明性熱収縮性フィルムを得るため、ビカット軟化点が105℃を超えないビニル芳香族炭化水素-脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体共重合体とビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのブロックからなる共重合体との組成物で、特定の熱収縮力を特徴とする熱収縮性硬質フィルムが開示されている。
【0007】
下記文献7には、透明性、剛性及び低温面衝撃性をバランスさせた組成物を得るため、特定構造と分子量分布を有するビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのブロックからなる共重合体とビニル芳香族炭化水素-(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂との組成物が開示されている。下記文献8には、透明性と耐衝撃性に優れた樹脂組成物を得るため、特定構造のビニル芳香族炭化水素ブロックビニル芳香族炭化水素と共役ジエンの共重合体ブロックを有するブロック共重合体とビニル芳香族炭化水素と(メタ)アクリル酸エステルの共重合体を含有する透明高強度樹脂組成物が開示されている。
【0008】
下記特許文献9には、透明性、剛性、耐衝撃性及び耐自然収縮性に優れる収縮フィルムを得るため、ビニル芳香族炭化水素含有量が60〜90重量%で、温度30℃での貯蔵弾性率(E’30)と温度10℃での貯蔵弾性率(E’10)の比(E’30/E’10)が0.75〜1であるビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのブロックからなる共重合体が開示されている。
【0009】
下記特許文献10には、自然収縮性、強度、表面特性、腰の強さ、低温収縮性等に優れる収縮フィルムを得るため、両外層が特定ブタジエン単位含量のスチレン-ブタジエン-スチレン型ブロック共重合体とスチレン-ブチルアクリレートの混合物、中間層が特定ブタジエン単位含量のスチレン-ブタジエン-スチレン型ブロック共重合体とスチレン-ブチルアクリレートの混合物からなる少なくとも3層の多層ポリスチレン系熱収縮フィルムが開示されている。
【0010】
下記特許文献11には、自然収縮性、耐熱融着性、透明性、収縮仕上がり性のいずれかの特性に優れた熱収縮性フィルムを得るため、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン系炭化水素からなるブロック共重合体とビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸エステルとの共重合体を組み合わせた配合物を中間層とし、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエン系炭化水素からなるブロック共重合体を主成分とした混合重合体を表裏層とする熱収縮性ポリスチレン系積層フィルムが開示されている。
【0011】
下記特許文献12には、低温での熱収縮特性、収縮仕上がり性、自然収縮率、熱時、フィルム同士のブロッキングが発生しない熱収縮性フィルムを得るため、中間層が特定のビカット軟化点のスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体を主成分とし、内外層が特定のビカット軟化点のスチレン-共役ジエンブロック共重合体を主成分とする特定の熱収縮率を有する多層熱収縮性ポリスチレン系フィルムが開示されている。
【0012】
下記特許文献13には、加工特性、保存安定性、臭気が少なく、剛性や耐衝撃性に優れた樹脂組成物及びフィルム、多層フィルムを得るため、特定の分子量分布、残存単量体量を特徴とするスチレン系単量体及び(メタ)アクリル酸エステル系単量体からなる共重合体樹脂とスチレンと共役ジエンからなるブロック共重合体樹脂、ハイインパクトポリスチレン樹脂組成物を主体とする層を有する(多層)熱収縮性フィルムが開示されている。
【0013】
下記特許文献14には、柔軟性に富み、反発弾性と耐傷付き性が優れ、且つ取り扱い性(耐ブロッキング性)が良好な水添共重合体を得るため、特定の共役ジエン単量体とビニル芳香族炭化水素単量体の重量比、ビニル芳香族炭化水素単量重合体ブロックの量、特定温度範囲にDSCチャートの結晶化が存在しないことを特徴とする水添共重合体が開示されている。下記特許文献15には、パンクチャー衝撃値、強度、透明性等が良好な組成物を得るため、特定構造、を有する水添ブロック共重合体が開示されている。
【0014】
しかしながら、これらのビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなるブロック共重合体又は該ブロック共重合体とビニル芳香族炭化水素-脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体共重合体の組成物或いはビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなる水添共重合体及びその組成物は、耐衝撃性、耐溶剤性、剛性及び透明性に優れたシート、また、熱収縮性フィルムに適した耐溶剤性、自然収縮性、低温収縮性、剛性、透明性及び耐衝撃性等の物性バランスが十分でなく、これらの文献にはそれらを改良する方法に関して開示されておらず、依然として市場での問題点が指摘されている。
【特許文献1】特開昭59-221348号公報
【特許文献2】特開昭60-224520号公報
【特許文献3】特開昭60-224522号公報
【特許文献4】特開昭61-25819号公報
【特許文献5】特開平4-52129号公報
【特許文献6】特開平5-104630号公報
【特許文献7】特開平6-220278号公報
【特許文献8】特開平7-216187号公報
【特許文献9】特開平11-158241公報
【特許文献10】特開2000-185373号公報
【特許文献11】特開2000-6329号公報
【特許文献12】特開2002-46231号公報
【特許文献13】特開2002-201324号公報
【特許文献14】WO03/035705号公報
【特許文献15】WO03/066697号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、前記の問題点である。
従って、本発明は、射出成形品、シート及び熱収縮性フィルム等に適し、耐溶剤性、自然収縮性、低温収縮性、剛性、透明性及び伸び等の物性バランスに優れたブロック共重合体水添物及びその組成物を提供することを目的とする。
【0016】
また、本発明は、耐溶剤性、自然収縮性、低温収縮性、剛性、透明性及び伸び等の物性バランスに優れた熱収縮性フィルムを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意検討した結果、特定のブロック共重合体水添物が上記の目的を達成し得ることの知見を得た。
【0018】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、下記1.〜7.の発明を提供するものである。
1・ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの重量比が60/40〜95/5であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量が3万〜50万であり、水添物に組み込まれている前記ビニル芳香族炭化水素のブロック率が20〜100重量%であり、温度40℃での貯蔵弾性率(E40)と温度20℃での貯蔵弾性率(E20)との比(E40/E20)が0.75〜1であり、該水添物の動的粘弾性測定の関数tanδのピーク温度が70〜125℃の範囲に少なくとも1つ存在し、水添率が60%以上であるブロック共重合体水添物。
【0019】
2.前記1記載のブロック共重合体水添物を少なくとも含むブロック共重合体水添物組成物。
【0020】
3.下記の成分(I)及び(II)を含むブロック共重合体水添物組成物。
(I):前記1記載のブロック共重合体水添物
(II):(i)前記成分(I)のブロック共重合体水添物とは異なるビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとからなるブロック共重合体及び/またはその水添物、(ii)ビニル芳香族炭化水素重合体、(iii)ビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体とからなる共重合体及び(iv)ゴム変性スチレン系重合体からなる群より選ばれた少なくとも一種の重合体
【0021】
4.前記成分(I)の含有量が30〜99.9重量部であり、前記成分(II)の含有量が0.1〜70重量部である(ただし、(I)と(II)の含有量の合計を100重量部とする)前記3記載のブロック共重合体水添物組成物。
【0022】
5.前記成分(II)が前記(iv)のゴム変性スチレン系重合体を少なくとも含み、該(iv)の含有量が20重量部以下である前記4記載のブロック共重合体水添物組成物。
【0023】
6.前記1記載のブロック共重合体水添物又は前記2〜5の何れかに記載のブロック共重合体水添物組成物からなる層の単層フィルムであるか、又は当該層を少なくとも含む多層フィルムである熱収縮性フィルム。
【0024】
7.延伸方向における80℃の熱収縮率が5〜60%である、前記6記載の熱収縮性フィルム。
【発明の効果】
【0025】
本発明のブロック共重合体水添物及びその組成物によれば、耐溶剤性、自然収縮性、低温収縮性、剛性、透明性及び伸び等の物性バランスに優れた射出成形品、シート、熱収縮性フィルム等が提供される。
また、本発明の熱収縮性フィルムは、耐溶剤性、自然収縮性、低温収縮性、剛性、透明性及び伸び等の物性バランスに優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明についてその好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
〔ブロック共重合体水添物〕
本発明のブロック共重合体水添物は、既述の通り、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの重量比(前者/後者)が60/40〜95/5であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量が3〜50万であり、水添物に組み込まれている前記ビニル芳香族炭化水素のブロック率が20〜100重量%であり、温度40℃での貯蔵弾性率(E40)と温度20℃での貯蔵弾性率(E20)との比(E40/E20)が0.75〜1であり、該水添物の動的粘弾性測定の関数tanδのピーク温度が70〜125℃の範囲に少なくとも1つ存在し、水添率が60%以上のものである。本発明のブロック共重合体水添物は、かかる構成からなるため、耐溶剤性、自然収縮性、低温収縮性、剛性、透明性及び伸び等の物性バランスに優れたものである。
【0027】
本発明のブロック共重合体水添物は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの重量比が60/40〜95/5、好ましくは65/35〜90/10、更に好ましくは68/32〜85/15である。ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの重量比が60/40〜95/5の範囲にあっては剛性と伸びが向上した熱収縮性フィルムを得ることができる。尚、ブロック共重合体水添物のビニル芳香族炭化水素含有量は、水添前のブロック共重合体のビニル芳香族化合物含有量で把握しても良い。ここでいう重量比は、本発明の水添物における、モノマーとしてのビニル芳香族炭化水素と共役ジエンそれぞれ由来の構成単位の重量比をいう。
【0028】
本発明のブロック共重合体水添物に組み込まれているビニル芳香族炭化水素のブロック率は、20〜100重量%、好ましくは25〜98重量%、更に好ましくは30〜93重量%である。上記ブロック率が20〜100重量%の範囲にあっては、剛性と伸びのバランスに優れる。
【0029】
本発明のブロック共重合体水添物に組み込まれているビニル芳香族炭化水素のブロック率は、例えば、水添前のブロック共重合体について四酸化オスミウムを触媒としてターシャリーブチルハイドロパーオキサイドにより酸化分解する方法(I.M.KOLTHOFF,etal.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)で測定できる。本発明において上記の「ビニル芳香族炭化水素のブロック率」とは、上記方法により得たビニル芳香族炭化水素重合体ブロック成分(但し平均重合度が約30以下のビニル芳香族炭化水素重合体成分は除かれている)を用いて、次の式から求めた値をいう。
【0030】
ブロック率(重量%)=(ブロック共重合体中のビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの重量/ブロック共重合体中の全ビニル芳香族炭化水素の重量)×100
【0031】
本発明のブロック共重合体水添物においては、分子量5000〜30000の範囲にピーク分子量を有するビニル芳香族炭化水素重合体ブロックが少なくとも1つ組み込まれていることが好ましい。かかる場合には、耐溶剤性、自然収縮性、低温収縮性、耐温水融着性に優れた熱収縮性フィルムを得ることができる。
【0032】
本発明のブロック共重合体水添物は、その温度40℃での貯蔵弾性率(E40)と温度20℃での貯蔵弾性率(E20)との比(E40/E20)が、0.75〜1、好ましくは0.8〜1、更に好ましくは0.85〜1の範囲である。温度40℃での貯蔵弾性率(E40)と温度20℃での貯蔵弾性率(E20)との比(E40/E20)が0.75〜1の範囲にあっては、剛性に優れる。貯蔵弾性率は、後述するtanδのピーク温度と同様に動的粘弾性測定装置で測定した値をいう。
【0033】
本発明のブロック共重合体水添物は、該水添物の動的粘弾性測定の関数tanδのピーク温度が70〜125℃の範囲に少なくとも1つ存在することが必要である。特に、上記関数tanδのピーク温度は、75〜120℃の範囲、更には80〜115℃の範囲に少なくとも1つ存在することが好ましい。動的粘弾性測定の関数tanδのピーク温度が70〜125℃の範囲にあっては、低温収縮性に優れる。
【0034】
動的粘弾性測定における温度40℃での貯蔵弾性率(E40)と温度20℃での貯蔵弾性率(E20)及び関数tanδは、例えば(株)レオロジ製粘弾性測定解析装置DVE-V4或いは東洋ボールドウイン社製レオバイブロンDDV-3型等より測定した値であり、振動周波数35Hz、昇温速度3℃/minの条件で、厚さ0.5〜2mmの試験片を用いて測定できる。ピークを示す温度とは、tanδの値の温度に対する変化量の第1次微分値が零となる温度をいう。温度40℃での貯蔵弾性率(E40)と温度20℃での貯蔵弾性率(E20)との比(E40/E20)及びtanδのピーク温度は、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの重量比、ブロック共重合体水添物の分子量、ブロック共重合体水添物中のビニル芳香族炭化水素のブロック率等によって調整される。
【0035】
本発明のブロック共重合体水添物は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量(ポリスチレン換算分子量)が3万〜50万、好ましくは5万〜50万、更に好ましくは7万〜30万の範囲であり、分子量が異なる複数のブロック共重合体水添物の混合物であっても良い。本発明のブロック共重合体水添物の好ましいメルトフローレイト(JISK-6870により測定。条件はG条件で温度200℃、荷重5Kg)は、成形加工性の点から、0.1〜100g/10min、特に0.5〜50g/10min、更に好ましくは1〜30g/10minであることが推奨される。上記の数平均分子量とメルトフローレイト(以下、MFRと略すこともある)は、重合に使用する触媒量により任意に調整できる。
【0036】
本発明のブロック共重合体水添物は、好ましくは、ビニル芳香族炭化水素単独重合体及び/又はビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなる共重合体から構成されるセグメントを少なくとも1つと、共役ジエン単独重合体及び/又はビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなる共重合体から構成されるセグメントを少なくとも1つ有する。
【0037】
本発明のブロック共重合体水添物の水添前のポリマー構造は、特に制限は無いが、例えば一般式、
(A-B)n、A-(B-A)n 、B-(A-B)n+1
[(A-B)k]m+1-X 、[(A-B)k-A]m+1-X
[(B-A)k]m+1-X 、[(B-A)k-B]m+1-X
(上式において、セグメントAはビニル芳香族炭化水素単独重合体及び/又はビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなる共重合体、セグメントBは共役ジエン単独重合体及び/又はビニル芳香族炭化水素と共役ジエンからなる共重合体である。Xは例えば四塩化ケイ素、四塩化スズ、1,3ビス(N,N-グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、エポキシ化大豆油等のカップリング剤の残基または多官能有機リチウム化合物等の開始剤の残基を示す。n、k及びmは1以上の整数、一般的には1〜5の整数である。また、Xに複数結合しているポリマー鎖の構造は同一でも、異なっていても良い。)で表される線状ブロック共重合体水添物やラジアルブロック共重合体水添物、或いはこれらのポリマー構造の任意の混合物が使用できる。また、上記一般式で表されるラジアルブロック共重合体水添物において、更にA及び/又はBが少なくとも一つXに結合していても良い。
【0038】
本発明において、セグメントA、セグメントBにおけるビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの共重合体中のビニル芳香族炭化水素は均一に分布していても、テーパー(漸減)状に分布していてもよい。また、本発明のブロック共重合体水添物には、ビニル芳香族炭化水素が均一に分布している部分及び/又はテーパー状に分布している部分がセグメント中にそれぞれ複数個共存してもよい。セグメントA中のビニル芳香族炭化水素含有量({セグメントA中のビニル芳香族炭化水素/(セグメントA中のビニル芳香族炭化水素+共役ジエン)}×100)とセグメントB中のビニル芳香族炭化水素含有量({セグメントB中のビニル芳香族炭化水素/(セグメントB中のビニル芳香族炭化水素+共役ジエン)}×100)との関係は、セグメントAにおけるビニル芳香族炭化水素含有量のほうが、セグメントBにおけるビニル芳香族炭化水素含有量より大である。セグメントAとセグメントBのビニル芳香族炭化水素含有量の差は5重量%以上であることが好ましい。
【0039】
本発明において、水添前のブロック共重合体は、例えば、炭化水素溶媒中、有機アルカリ金属化合物(例えば、有機リチウム化合物)等を重合開始剤として、ビニル芳香族炭化水素及び共役ジエンを重合(例えば、アニオンリビング重合)すること等により得ることができる。
【0040】
本発明に用いられるビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、1,1-ジフェニルエチレン、N,N-ジメチル-p-アミノエチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレンなどが挙げられ、特に一般的なものとしてはスチレンが挙げられる。これらは1種のみならず2種以上混合使用してもよい。
【0041】
また、本発明に用いられる共役ジエンとしては、1対の共役二重結合を有するジオレフィン、例えば1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンなどが挙げられ、特に一般的なものとしては1,3-ブタジエン、イソプレンなどが挙げられる。これらは1種のみならず2種以上混合使用してもよい。
【0042】
本発明のブロック共重合体水添物においては、(i)イソプレンと1,3-ブタジエンからなる共重合体ブロック、(ii)イソプレンとビニル芳香族炭化水素からなる共重合体ブロックおよび(iii)イソプレンと1,3-ブタジエンとビニル芳香族炭化水素からなる共重合体ブロックの(i)〜(iii)の群から選ばれる少なくとも1つの重合体ブロックが組み込まれていても良い。この場合、特に、ブタジエンとイソプレンの重量比が3/97〜90/10、好ましくは5/95〜85/15、更に好ましくは10/90〜80/20であるブロック共重合体水添物であって、水添率が60〜90%にあるときには、熱成形・加工等におけるゲル生成が少ない。水添率については、後述する。
【0043】
また、炭化水素溶媒としては、例えば、n-ブタン、イソブタン、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン等の脂肪族炭化水素類、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタン等の脂環式炭化水素類、また、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素等が使用できる。これらは1種のみならず2種以上混合使用してもよい。
【0044】
また、重合開始剤としては、一般的に共役ジエン及びビニル芳香族化合物に対しアニオン重合活性があることが知られている脂肪族炭化水素アルカリ金属化合物、芳香族炭化水素アルカリ金属化合物、有機アミノアルカリ金属化合物等を用いることができる。アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、好適な有機アルカリ金属化合物としては、炭素数1から20の脂肪族及び芳香族炭化水素リチウム化合物であって、1分子中に1個のリチウムを含む化合物や1分子中に複数のリチウムを含むジリチウム化合物、トリリチウム化合物、テトラリチウム化合物が挙げられる。具体的には、n-プロピルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ヘキサメチレンジリチウム、ブタジエニルジリチウム、イソプレニルジリチウム、ジイソプロペニルベンゼンとsec-ブチルリチウムの反応生成物、さらにジビニルベンゼンとsec-ブチルリチウムと少量の1,3-ブタジエンとの反応生成物等が挙げられる。更に、米国特許第5,708,092号明細書、英国特許第2,241,239号明細書、米国特許第5,527,753号明細書等に開示されている有機アルカリ金属化合物も使用することができる。これらは1種のみならず2種以上混合使用してもよい。
【0045】
本発明において、水添前のブロック共重合体を製造する際の重合温度は一般的に-10℃〜150℃、好ましくは40℃〜120℃である。重合に要する時間は条件によって異なるが、通常は10時間以内であり、特に好適には0.5〜5時間である。また、重合系の雰囲気は窒素ガスなどの不活性ガスなどをもって置換するのが望ましい。重合圧力は、上記重合温度範囲でモノマー及び溶媒を液層に維持するに充分な圧力の範囲で行えばよく、特に制限されるものではない。更に重合系内には触媒及びリビングポリマーを不活性化させるような不純物、例えば水、酸素、炭酸ガス等が混入しないよう留意する必要がある。
【0046】
本発明のブロック共重合体水添物は、上記のようにして得られる水添前のブロック共重合体を水素添加することにより得られる。水添触媒としては、特に制限されず、従来から公知である(1)Ni、Pt、Pd、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等に担持させた担持型不均一系水添触媒、(2)Ni、Co、Fe、Cr等の有機酸塩又はアセチルアセトン塩などの遷移金属塩と有機アルミニウム等の還元剤とを用いる、いわゆるチーグラー型水添触媒、(3)Ti、Ru、Rh、Zr等の有機金属化合物等のいわゆる有機金属錯体等の均一系水添触媒が用いられる。具体的な水添触媒としては、特公昭42-8704号公報、特公昭43-6636号公報、特公昭63-4841号公報、特公平1-37970号公報、特公平1-53851号公報、特公平2-9041号公報に記載された水添触媒を使用することができる。好ましい水添触媒としてはチタノセン化合物および/または還元性有機金属化合物との混合物があげられる。
【0047】
チタノセン化合物としては、特開平8-109219号公報に記載された化合物が使用できるが、具体例としては、ビスシクロペンタジエニルチタンジクロライド、モノペンタメチルシクロペンタジエニルチタントリクロライド等の(置換)シクロペンタジエニル骨格、インデニル骨格あるいはフルオレニル骨格を有する配位子を少なくとも1つ以上もつ化合物があげられる。また、還元性有機金属化合物としては、有機リチウム等の有機アルカリ金属化合物、有機マグネシウム化合物、有機アルミニウム化合物、有機ホウ素化合物あるいは有機亜鉛化合物等があげられる。
【0048】
水添反応は、一般的に0〜200℃、より好ましくは30〜150℃の温度範囲で実施される。水添反応に使用される水素の圧力は0.1〜15MPa、好ましくは0.2〜10MPa、更に好ましくは0.3〜7MPaが推奨される。また、水添反応時間は通常3分〜10時間、好ましくは10分〜5時間である。水添反応は、バッチプロセス、連続プロセス、或いはそれらの組み合わせのいずれでも用いることができる。
【0049】
本発明のブロック共重合体水添物において、水添前のブロック共重合体中の共役ジエンに基づく不飽和二重結合の水素添加率(水添率)は、該共重合体中の共役ジエン化合物に基づく不飽和二重結合の60%以上が水添されている必要があり、好ましくは75%以上、更に好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。水添率が60%以上にあっては耐溶剤性に優れる。なお、共重合体中のビニル芳香族炭化水素に基づく芳香族二重結合の水添率については特に制限はないが、水添率を50%以下、好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下にすることが好ましい。水添率は、核磁気共鳴装置(NMR)により知ることができる。
【0050】
本発明のブロック共重合体水添物は、その共役ジエン部分のミクロ構造(シス、トランス、ビニルの比率)は、極性化合物等の使用により任意に変えることができ、特に制限はない。極性化合物としては、テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のエーテル類、トリエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン等のアミン類、チオエーテル類、ホスフィン類、ホスホルアミド類、アルキルベンゼンスルホン酸塩、カリウムやナトリウムのアルコキシド等が挙げられる。
一般に、ビニル結合量は5〜90%、好ましくは10〜80%、より好ましくは15〜75%の範囲で設定できる。なお、本発明においてビニル結合量とは、1,2-ビニル結合と3,4-ビニル結合の合計量(但し、共役ジエンとして1,3-ブタジエンを使用した場合には、1,2-ビニル結合量)である。ビニル結合量は、核磁気共鳴装置(NMR)により把握することができる。
【0051】
本発明において、剛性が特に優れたブロック共重合体水添物を得る場合、該ブロック共重合体水添物の示差走査熱量測定(DSC)チャートにおいて、0℃以上、好ましくは5℃以上、更に好ましくは10〜60℃の温度範囲に結晶化ピークを有するブロック共重合体水添物が好ましい。この結晶化ピーク熱量は3J/g以上、好ましくは6J/g以上、更に好ましくは10J/g以上であることが好ましい。結晶化ピークを有するブロック共重合体水添物は、水添前のブロック共重合体中のビニル結合量を30%未満、好ましくは8〜25%、更に好ましくは10〜25%、とりわけ好ましくは12〜20%に設定することにより得ることができる。特に水添前のブロック共重合体中に、ビニル結合量が8〜25%、好ましくは10〜20%、更に好ましくは10〜18%である共役ジエン重合体セグメントを少なくとも1つ含有させることが推奨される。
【0052】
本発明のブロック共重合体水添物は、他の重合体、その他の添加物等と共に用いることで、例えば後述の組成物として使用することができる。
【0053】
〔ブロック共重合体水添物組成物〕
本発明のブロック共重合体水添物組成物は、前述したブロック共重合体水添物を少なくとも含むものである。本発明のブロック共重合体水添物組成物は、かかる構成からなるため、耐溶剤性、自然収縮性、低温収縮性、剛性、透明性及び伸び等の物性バランスに優れたものである。
【0054】
本発明のブロック共重合体水添物組成物の一態様として、下記の成分(I)及び(II)を含むブロック共重合体水添物組成物を提供できる。
(I):前述したブロック共重合体水添物
(II):(i)前記成分(I)のブロック共重合体水添物とは異なるビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとからなるブロック共重合体及び/またはその水添物、(ii)ビニル芳香族炭化水素重合体、(iii)ビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体とからなる共重合体及び(iv)ゴム変性スチレン系重合体からなる群より選ばれた少なくとも一種の重合体
【0055】
本発明のブロック共重合体水添物組成物において、前記成分(I)のブロック共重合体水添物(以下、ブロック共重合体水添物(I)ともいう)と、前記成分(II)の重合体(ビニル芳香族炭化水素系重合体)(以下、重合体(II)ともいう)との重量比(前者/後者)は、好ましくは30/70〜99.9/0.1、更に好ましくは35/65〜99.5/0.5、更に一層好ましくは40/60〜99/1である。かかる重量比で成分(I)と成分(II)とを組み合わせることで、剛性、耐ブロッキング性、自然収縮性が向上したブロック共重合体組成物を得ることができる。
【0056】
本発明に使用される重合体(II)のうちの(i)ブロック共重合体水添物(I)とは異なるビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとからなるブロック共重合体及びその水添物(以後、成分(i)と記載する場合もある)のポリマー構造(水添物については、水添前のポリマー構造)は一般式、
(Ab−Bb)n、Ab−(Bb−Ab)n 、Bb−(Ab−Bb)n+1
(上式において、nは1以上の整数、一般的には1〜5である。)で表される線状ブロック共重合体、或いは一般式、
[(Ab−Bb)k]m+2−X、[(Ab−Bb)k−Ab]m+2−X
[(Bb−Ab)k]m+2−X、[(Bb−Ab)k−Bb]m+2−X
(上式において、Abはビニル芳香族炭化水素を主体とする重合体ブロックであり、Bbは共役ジエンを主体とする重合体である。AbブロックとBbブロックとの境界は必ずしも明瞭に区別される必要はない。Xは例えば四塩化ケイ素、四塩化スズ、1,3ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、エポキシ化大豆油等のカップリング剤の残基または多官能有機リチウム化合物等の開始剤の残基を示す。k及びmは1〜5の整数である。)で表されるラジアルブロック共重合体、或いはこれらのブロック共重合体の任意のポリマー構造の混合物が使用できる。
【0057】
成分(i)の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量(ポリスチレン換算分子量)が好ましくは3万〜50万、更に好ましくは5万〜50万、更に一層好ましくは7万〜30万の範囲であり、分子量が異なる複数のブロック共重合体の混合物であっても良い。ブロック共重合体の好ましいメルトフローインデックス(JISK-6870により測定。条件はG条件で温度200℃、荷重5Kg)は成形加工性の点から、0.1〜100g/10min、更には0.5〜50g/10min、更に好ましくは1〜30g/10minであることが推奨される。分子量とメルトフローインデックスは重合に使用する触媒量により任意に調整できる。成分(i)を構成するビニル芳香族炭化水素全量に対するビニル芳香族炭化水素単位数が1〜3の範囲の短連鎖ビニル芳香族炭化水素重合部分の含有量は1〜30重量%、好ましくは3〜25重量%、更に好ましくは5〜20重量%であることが推奨される。成分(i)に組み込まれているビニル芳香族炭化水素のブロック率は好ましくは50〜95重量%、更に好ましくは55〜90重量%、更に一層好ましくは55〜85重量%である。短連鎖ビニル芳香族炭化水素の含有量は、水添前のブロック共重合体をジクロロメタンに溶解し、オゾン(O3)にて酸化分解した後、得られたオゾニドをジエチルエーテル中で水素化アルミニウムリチウムにて還元、純水にて加水分解を行うことにより得られたビニル芳香族炭化水素成分のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行い、得られたピークの面積比を算出することにより定量できる(田中貴之、佐藤寿弥、仲二見泰伸「高分子学会予稿集」29、2051頁、1980年、を参照)。
【0058】
本発明に使用される重合体(II)のうちの(ii)ビニル芳香族炭化水素重合体(以後、成分(ii)と記載する場合もある)は、ビニル芳香族炭化水素もしくはこれと共重合可能なモノマーを重合して得られるもの(但し、(iii)を除く)である。ビニル芳香族系炭化水素とは主としてスチレン系の単量体のことをいい、具体的にはスチレン、α-アルキル置換スチレン、例えばα-メチルスチレン類、核アルキル置換スチレン類、核ハロゲン置換スチレン類等から選ばれたもので、目的により適当なものを少なくとも1種選べば良い。ビニル芳香族炭化水素と共重合可能なモノマーとしては、アクリロニトリル、無水マレイン酸等があげられる。
【0059】
ビニル芳香族炭化水素重合体としては、ポリスチレン、スチレン-α-メチルスチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体等が挙げられるが、特に好ましいビニル芳香族炭化水素重合体としてはポリスチレンをあげることができる。これらのビニル芳香族炭化水素重合体の重量平均分子量は、一般に50000〜500000の重合体を使用できる。また、これらのビニル芳香族炭化水素重合体は単独又は二種以上の混合物として使用でき、剛性改良剤として利用できる。
【0060】
本発明に使用される重合体(II)のうちの(iii)ビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体とからなる共重合体(以後、成分(iii)と記載する場合もある)のビニル芳香族系炭化水素とは成分(ii)の項で前記したスチレン系の単量体のことをいい、脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、等の炭素数C1〜C12好ましくはC2〜C12のアルコールとアクリル酸とのエステル誘導体、またはメタアクリル酸、または同様に炭素数C1〜C12好ましくはC2〜C12、より好ましくはC3〜C12のアルコールとメタアクリル酸とのエステル誘導体、またα、β不飽和ジカルボン酸、例えばフマル酸、イタコン酸、マレイン酸、その他等、またはこれらジカルボン酸とC2〜C12のアルコールとのモノ又はジエステル誘導体等から少なくとも1種選ばれるもの等が挙げられる。これらは一般に該エステル類主体のものでその量が好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上のものである。又その種類は好ましくはアクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル等のエステル類を主体にするものが良い。成分(iii)の製造方法は、スチレン系樹脂を製造する公知の方法、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等を用いることができる。成分(iii)の重量平均分子量は、一般に50000〜500000の重合体を使用できる。
【0061】
特に好ましいビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体からなる共重合体はスチレンとアクリル酸n-ブチルを主体とする共重合体であり、アクリル酸n-ブチルとスチレンの合計量が50重量%以上、更に好ましくはアクリル酸n-ブチルとスチレンの合計量が60重量%以上からなる脂肪族不飽和カルボン酸エステル-スチレン共重合体である。アクリル酸n-ブチルとスチレンを主体とする脂肪族不飽和カルボン酸エステル-スチレン共重合体を用いた熱収縮フィルムは収縮性、自然収縮性が良好である。
【0062】
本発明に使用される重合体(II)のうちの(iv)ゴム変性スチレン系重合体(以後、成分(iv)と記載する場合もある)としては、例えば、ビニル芳香族炭化水素と共重合可能なモノマーとエラストマーとの混合物を重合することによって得られるもの等が挙げられ、その重合方法としては懸濁重合、乳化重合、塊状重合、塊状-懸濁重合等が一般的に行われている。ビニル芳香族炭化水素と共重合可能なモノマーとしてはα-メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、無水マレイン酸等があげられる。又、共重合可能なエラストマーとしては天然ゴム、合成イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、ハイスチレンゴム等が使用される。
【0063】
これらのエラストマーはビニル芳香族炭化水素もしくはこれと共重合可能なモノマー100重量部に対して一般に3〜50重量部該モノマーに溶解して或いはラテックス状で乳化重合、塊状重合、塊状-懸濁重合等に共される。特に好ましいゴム変性スチレン系重合体としては、耐衝撃性ゴム変性スチレン系重合体(HIPS)があげられる。ゴム変性スチレン系重合体は剛性、耐衝撃性、滑り性の改良剤として利用できる。これらのゴム変性スチレン系重合体の重量平均分子量は、一般に50000〜500000の重合体を使用できる。ゴム変性スチレン系重合体の含有量は透明性維持を考慮すると、前記成分(I)と成分(II)の合計100重量部に対して、20重量部以下、特に0.1〜10重量部が好ましい。
【0064】
本発明に使用される重合体(II)としての成分(i)〜(iv)としては、特に、MFR(G条件で温度200℃、荷重5Kg)が成形加工の点から0.1〜100g/10min、好ましくは0.5〜50g/10min、1〜30g/10minであることが推奨される。
【0065】
本発明のブロック共重合体水添物組成物には、滑剤として脂肪酸アミド、パラフィン、炭化水素系樹脂および脂肪酸から選ばれる少なくとも1種をブロック共重合体水添物100重量部に対して0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜4重量部、更に好ましくは0.1〜3重量部添加することができ、これによって、耐ブロッキング性が良好となる。
【0066】
脂肪酸アミドとしては、ステアロアミド、オレイル・アミド、エルシル・アミド、ベヘン・アミド、高級脂肪酸のモノ又はビスアミド、エチレンビス・ステアロアミド、ステアリル・オレイルアミド、N-ステアリル・エルクアミド等が挙げられ、これらは単独或いは2種以上混合して使用できる。また、パラフィン及び炭化水素系樹脂としてはパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、流動パラフィン、パラフィン系合成ワックス、ポリエチレン・ワックス、複合ワックス、モンタン・ワックス、炭化水素系ワックス、シリコーンオイル等が挙げられ、これらは単独或いは2種以上混合して使用できる。また、脂肪酸としては飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸等が挙げられる。すなわち、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ヒドロキシステアリン酸等の飽和脂肪酸、オレイン酸、エルカ酸、リシノール酸等の不飽和脂肪酸等が挙げられ、これらは単独或いは2種以上混合して使用できる。
【0067】
本発明のブロック共重合体水添物組成物には、紫外線吸収剤及び光安定剤としてベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ヒンダード・アミン系光安定剤から選ばれる少なくとも1種の紫外線吸収剤及び光安定剤をブロック共重合体水添物100重量部に対して0.05〜3重量部、好ましくは0.05〜2.5重量部、更に好ましくは0.1〜2重量部添加することができ、これによって、耐光性が向上する。
【0068】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、2,4-ジヒドロキシ・ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ・ベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシ・ベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシ・ベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシ・ベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシ・ベンゾフェノン、4-ドデシロキシ-2-ヒドロキシ・ベンゾフェノン、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾイル酸,n-ヘクサデシルエステル、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、1,4-ビス(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)ブタン、1,6-ビス(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)ヘキサン等が挙げられる。
【0069】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチル-フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル-フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチル-フェニル)-5-クロロ・ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル-フェニル)-5-クロロ・ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’-(3’,4’,5’,6’-テトラヒドロ・フタルイミドメチル)-5’-メチルフェニル]ベンゾトリアゾール、2-2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-4-オクチルオキシフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール等が挙げられる。
【0070】
ヒンダード・アミン系光安定剤としては、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セパケート、ビス(1,2,6,6,6,-ペンメチル-4-ピペリジル)セパケート、1-[2-{3-(3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキジフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]-4-{3-(3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキジフェニル)プロピオニルオキシ}-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、8-アセチル-3-ドデシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアサスピロ[4,5]デカン-2,4-ジオン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、こはく酸ジメチル-1-(2-ヒドロキシエチ)レ)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン重縮合物が挙げられる。
【0071】
また、ポリ[[6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[[2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル]イミノ]]、ポリ[6-モルホリノ-s-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ]-ヘキサメチレン[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ビペリジル)イミノ]]、2-(3,5-ジ・第三ブチル-4-ヒドロキジベンジル)-2-n-ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンダメチル-4-ピペリジル)、テトラキシ(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキシ(1,2,2,6,6,-ペンタメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4,-ブタンテトラカルボキシレート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボシ酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとトリデシルアルコールとの縮合物が挙げられる。
【0072】
更にまた、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとトリデシルアルコールとの縮合物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンダメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β,β-テトラメチル-3,9-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β,β-テトラメチル-3,9-(2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)ジエタノールとの縮合物、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン・2,4-ビス[N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンダメチル-4-ピペリジル)アミノ]-6-クロロ-1,3,5-トリアジン縮合物、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリシル-1,6-ヘキサメチレンジアミン・N-2,2,6,6-テトラメチ-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、1,2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリシル-メタクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリシル-メタクリレート等が挙げられる。
【0073】
本発明のブロック共重合体水添物組成物には、安定剤として2-〔1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)エチル〕-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレートをブロック共重合体水添物100重量部に対して0.05〜3重量部、更に好ましくは0.1〜2重量部添加することができ、これによって、ゲル抑制効果を得ることができる。
【0074】
また、本発明のブロック共重合体水添物組成物には、n-オクタデシル3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,4-ビス〔(オクチルチオ)メチル〕-o-クレゾール、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン等のフェノール系安定剤の少なくとも1種を該ブロック共重合体水添物100重量部に対して0.05〜3重量部、トリス-(ノニルフェニル)フォスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2-〔〔2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)ジベンゾ[d、f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン-6-イル〕オキシ〕-N,N-ビス〔2-〔〔2,4,8,10-テトラキス(1,1-ジメチルエチル)ジベンゾ[d、f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン-6-イル〕オキシ〕-エチル〕-エタンアミン、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト等の有機ホスフェート系、有機ホスファイト系安定剤の少なくとも1種をブロック共重合体水添物100重量部に対して0.05〜3重量部添加することができる。
【0075】
本発明において、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのブロック共重合体エラストマー又はその水添物は、ビニル芳香族炭化水素含有量が60重量%未満、好ましくは10〜50重量%で、本発明のブロック共重合体水添物と同様の構造を有するものが使用でき、本発明のブロック共重合体水添物100重量部に対して0.5〜30重量部、好ましくは1〜20重量部配合することにより、耐衝撃性や伸び等を改善することができる。
【0076】
ブロック共重合体エラストマーの水添物において、共役ジエンに基づく不飽和二重結合の水素添加率は目的に合わせて任意に選択でき、特に限定されない。ブロック共重合体エラストマー中の共役ジエンに基づく不飽和二重結合の70%以上、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上が水添されていても良いし、一部のみが水添されていても良い。一部のみを水添する場合には、水添率が10%以上、70%未満、或いは15%以上、65%未満、所望によっては20%以上、60%未満にすることが好ましい。
【0077】
その他の好適な添加剤としては、クマロン-インデン樹脂、テルペン樹脂、オイル等の軟化剤、可塑剤が挙げられる。
【0078】
また、本発明のブロック共重合体水添物組成物には、各種の安定剤、顔料、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、滑剤等も添加できる。尚、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、滑剤としては、例えば脂肪酸アマイド、エチレンビス・ステアロアミド、ソルビタンモノステアレート、脂肪酸アルコールの飽和脂肪酸エステル、ペンタエリストール脂肪酸エステル等、又紫外線吸収剤としては、p-t-ブチルフェニルサリシレート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2,5-ビス-[5’-t-ブチルベンゾオキサゾリル-(2)]チオフェン等、「プラスチックおよびゴム用添加剤実用便覧」(化学工業社)に記載された化合物が使用できる。これらは、本発明の組成物中、一般的に0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜3重量%の範囲で用いられる。
【0079】
〔熱収縮性フィルム〕
本発明の熱収縮性フィルムは、前述したブロック共重合体水添物、又は前述したブロック共重合体水添物組成物からなるものである。本発明の熱収縮性フィルムは、かかる構成からなることにより、耐溶剤性、自然収縮性、低温収縮性、剛性、透明性及び伸び等の物性バランスに優れたものである。本発明の熱収縮性フィルムは、該共重合体水添物又は該共重合体水添物組成物からなる層の単層フィルムであってもよく、また、当該層を少なくとも含む多層フィルムであってもよい。
【0080】
本発明の熱収縮性フィルムは、前記ブロック共重合体水添物又はその組成物を用いた熱収縮性1軸又は2軸延伸フィルム等であり、例えば、該ブロック共重合体水添物又はその組成物を通常のTダイ又は環状ダイからフラット状又はチューブ状に150〜250℃、好ましくは170〜220℃で押出成形し、得られた未延伸物を実質的に1軸延伸又は2軸延伸して得られるものである。
【0081】
本発明の熱収縮性フィルムが例えば1軸延伸フィルムの場合には、次のようにして得られる。即ち、フィルム、シート状の場合はカレンダーロール等で押出方向に、或いはテンター等で押出方向と直交する方向に延伸し、チューブ状の場合はチューブの押出方向又は円周方向に延伸する。本発明の熱収縮性フィルムが2軸延伸フィルムの場合には、次のようにして得られる。即ち、フィルム、シート状の場合には押出フィルム又はシートを金属ロール等で縦方向に延伸した後、テンター等で横方向に延伸し、チューブ状の場合にはチューブの押出方向及びチューブの円周方向、即ちチューブ軸と直角をなす方向にそれぞれ同時に、或いは別々に延伸する。
【0082】
本発明の熱収縮性フィルムとしては、延伸温度60〜160℃、好ましくは80〜155℃、更に好ましくは85〜150℃で、縦方向及び/又は横方向に延伸倍率1.5〜8倍、好ましくは2〜6倍に延伸することにより得られたものが望ましい。延伸温度は、延伸時の破断の観点からが60℃以上であり、収縮特性の観点から110℃以下である。延伸倍率は、熱収縮率の観点から1.5倍以上であり、安定生産の観点から8倍以下である。2軸延伸の場合、縦方向及び横方向における延伸倍率は同一であっても、異なっていてもよい。1軸延伸又は2軸延伸の熱収縮性フィルムは、次いで必要に応じて60〜160℃、好ましくは80〜155℃で短時間、例えば3〜60秒間、好ましくは10〜40秒間熱処理して室温下における自然収縮を防止する手段を実施することも可能である。
【0083】
上記のようにして得られる本発明の熱収縮性のフィルムを熱収縮性包装用素材や熱収縮性ラベル用素材として使用する場合には、延伸方向における80℃の熱収縮率が好ましくは5〜60%、更に好ましくは10〜55%、更に一層好ましくは15〜50%である。熱収縮率がかかる範囲の場合、熱収縮率と自然収縮率のバランスに優れた熱収縮性フィルムが得られる。尚、本発明において80℃の熱収縮率は低温収縮性の尺度であり、1軸延伸又は2軸延伸フィルムを80℃の熱水、シリコーンオイル、グリセリン等の成形品の特性を阻害しない熱媒体中に5分間浸漬したときの成形品の各延伸方向における熱収縮率である。本発明においては、上記熱収縮率の範囲において、熱収縮フィルム自体の自然収縮率が2.5%以下、好ましくは2.0%以下であることが推奨される。ここで熱収縮フィルム自体の自然収縮率とは、上記熱収縮率の範囲の熱収縮フィルムを35℃で5日間放置し、後述する式により算出した値である。
【0084】
更に、本発明の熱収縮性フィルムを1軸延伸または2軸延伸フィルムとして使用する場合には、延伸方向における引張弾性率が好ましくは7000〜30000Kg/cm2、更に好ましくは10000〜25000Kg/cm2であることが熱収縮包装材として必要である。延伸方向における引張弾性率は、収縮包装工程においてヘタリの問題から7000Kg/cm2以上であり、フィルムの耐衝撃性の問題から30000Kg/cm2以下である。
【0085】
本発明の熱収縮性フィルムを1軸延伸又は2軸延伸フィルムの熱収縮性包装材として使用する場合、目的の熱収縮率を達成するために130〜300℃、好ましくは150〜250℃の温度で数秒から数分、好ましくは1〜60秒加熱して熱収縮させることができる。
【0086】
本発明の熱収縮性フィルムは、少なくとも2層、好ましくは少なくとも3層構造を有する多層積層体であっても良い。多層積層体としての使用形態は、例えば特公平3-5306号公報に開示されている形態が具体例として挙げられる。本発明の熱収縮性フィルムにおいては、前述したブロック共重合体水添物又はその組成物を中間層及び両外層に用いても良い。本発明の熱収縮性フィルムが多層フィルムである場合、前述したブロック共重合体水添物又はその組成物を使用したフィルム層以外の層は特に制限はなく、構成成分や組成等が異なる本発明に係る前記ブロック共重合体水添物又は組成物、或いは本発明に係る水添物以外のブロック共重合体及び/又はその水添物或いはそのブロック共重合体及び/又はその水添物と前記のビニル芳香族炭化水素系重合体との組成物を組み合わせた多層積層体であっても良い。またその他、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン系重合体(エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチル・アクリレート共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体等)アイオノマー樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ABS樹脂、前記のビニル芳香族炭化水素系重合体等より少なくとも1種選ばれた成分が挙げられるが、好ましくは本発明以外のブロック共重合体及び/又はその水添物或いは本発明以外のブロック共重合体及び/又はその水添物と前記のビニル芳香族炭化水素系重合体との組成物、前記のビニル芳香族炭化水素系重合体である。
【0087】
本発明において好ましい多層の熱収縮性フィルムは、前述したブロック共重合体水添物又はその組成物からなる層を多層フィルムの少なくとも1つの層とし、延伸方向における80℃の熱収縮率が好ましくは5〜60%、更に好ましくは10〜55%、更に一層好ましくは15〜50%であるものである。
【0088】
本発明の熱収縮性フィルムの厚さは、10〜300μm、好ましくは20〜200μm、更に好ましくは30〜100μmで、内層と両表層との厚みの割合は5/95〜45/55、好ましくは10/90〜35/65であることが推奨される。
【0089】
本発明の熱収縮性フィルムは、その特性を生かして種々の用途、例えば生鮮食品、菓子類の包装、衣類、文具等の包装等に利用できる。特に好ましい用途としては、本発明で規定するブロック共重合体水添物又はその組成物の1軸延伸フィルムに文字や図案を印刷した後、プラスチック成形品や金属製品、ガラス容器、磁器等の被包装体表面に熱収縮により密着させて使用する、いわゆる熱収縮性ラベル用素材としての利用が挙げられる。
【0090】
取り分け、本発明の熱収縮性フィルムは、1軸延伸フィルムとして、耐溶剤性、低温収縮性、剛性及び自然収縮性に優れるため、高温に加熱すると変形を生じる様なプラスチック成形品の熱収縮性ラベル素材の他、熱膨張率や吸水性等が本発明に係る前記ブロック共重合体水添物又はその組成物とは極めて異なる材質、例えば金属、磁器、ガラス、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸エステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂から選ばれる少なくとも1種を構成素材として用いた容器の熱収縮性ラベル素材として好適に利用できる。
【0091】
尚、本発明の熱収縮性フィルムが利用できるプラスチック容器を構成する材質としては、上記の樹脂の他、ポリスチレン、ゴム変性耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、スチレン-ブチルアクリレート共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、メタクリル酸エステル-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができる。これらのプラスチック容器は2種以上の樹脂類の混合物でも、積層体であってもよい。
【0092】
また、本発明の熱収縮性フィルムを熱収縮性ラベル用素材として使用する場合、延伸方向と直交する方向における80℃の熱収縮率は20%未満、好ましくは10%以下である。従って、本発明において熱収縮性ラベル様として1軸延伸するとは、延伸方向における80℃の熱収縮率が5〜60%で延伸方向と直交する方向の熱収縮率が20%未満になる様に延伸処理を施すことをいう。
【0093】
〔実施例〕
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例によって限定を受けるものではない。なお、表1〜3に示した構造上の特徴及び物性の測定は、下記の方法によって行った。
【0094】
(1)数平均分子量:ブロック共重合体水添物の分子量は、GPC装置(米国、ウォーターズ製)を用いて測定した。溶媒にはテトラヒドロフランを用い、35℃で測定した。重量平均分子量と数平均分子量が既知の市販の標準ポリスチレンを用いて作成した検量線を使用し、数平均分子量を求めた。
【0095】
(2)貯蔵弾性率及びtanδピーク温度:(株)レオロジ製粘弾性測定解析装置DVE-V4を用い、振動周波数35Hz、昇温速度3℃/minの条件で、厚さ2mmの試験片を用い、温度−50℃〜150℃の範囲を測定して求めた。
【0096】
(3)ブロック率
水添前のブロック共重合体を、四酸化オスミウムを触媒としてターシャリーブチルハイドロパーオキサイドにより酸化分解する方法(I.M.KOLTHOFF,etal.,J.Polym.Sci.1,429(1946)に記載の方法)でブロックスチレン含有量を測定した。また、ブロック率は同法により得たビニル芳香族炭化水素重合体ブロック成分(但し平均重合度が約30以下のビニル芳香族炭化水素重合体成分は除かれている)を用いて、次の式から求めた。
【0097】
ブロック率(重量%)=(ブロック共重合体中のビニル芳香族炭化水素重合体ブロックの重量/ブロック共重合体中の全ビニル芳香族炭化水素の重量)×100
【0098】
(4)曇り度:ASTM D1003に準拠(試験片厚さ2mm)して測定した。曇り度が低い程、良い透明性を示す。
【0099】
(5)引張弾性率:JIS K6871に準拠して測定した。試験片は1号形を使用し、試験速度Fとした。引張弾性率が高い程、剛性が高いことを示す。
【0100】
(6)Izod(アイゾッド)衝撃強度:JIS K6871に準拠して測定した。試験片は2号Aを使用した。Izod衝撃強度が高い程、耐衝撃性が高いことを示す。
【0101】
(7)伸び:JIS K-6732に準拠し、引張速度5mm/minでフィルムの延伸方向について測定した。試験片は幅を12.7mm、標線間を50mmとした。測定温度は23℃で行った。
【0102】
(8)熱収縮率:延伸フィルムを80℃の温水中に10秒間浸漬し、次式より算出した。
熱収縮率(%)=(L1 -L2 )/L1 ×100、但し、L1 :収縮前の長さ(延伸方向)、L2 :収縮後の長さ(延伸方向)。
【0103】
(9)自然収縮率:延伸フィルムを35℃で5日間放置し、次式より算出した。
自然収縮率(%)=(L3 -L4 )/L3 ×100、但し、L3 :放置前の長さ(延伸方向)、L4 :放置後の長さ(延伸方向)。
【0104】
(10)耐溶剤性:酢酸エチルとイソプロピルアルコールの比率が40/60の23℃の溶剤中に5cm×5cm(タテ×ヨコ)の延伸フィルムを浸漬し、収縮開始までの時間を目視で計測した。判定基準は、○5秒以上、×は5秒未満。
【0105】
(ブロック共重合体水添物(I)A−1〜A−9の調製)
水添前のブロック共重合体は、シクロヘキサン中、n-ブチルリチウムを開始剤、テトラメチルエチレンジアミンをランダム化剤として、スチレンとブタジエンを重合し表1に示すような構造上の特徴をもつブロック共重合体を製造した。スチレン含有量はスチレンとブタジエンの添加量で、数平均分子量は触媒量で、ブロック率はポリスチレン部の組成比で、ブロックスチレンのピーク分子量で、貯蔵弾性率及びtanδピーク温度はスチレンとブタジエンの共重合体部のランダム性及びブタジエンのミクロ構造で調整した。なお、水添ブロック共重合体の調製において、モノマーはシクロヘキサンで濃度25重量%に希釈したものを使用した。
【0106】
また、水添触媒は、窒素置換した反応容器に乾燥、精製したシクロヘキサン1リットルを仕込み、ビス(η5-シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド100ミリモルを添加し、十分に攪拌しながらトリメチルアルミニウム200ミリモルを含むn-ヘキサン溶液を添加して、室温にて約3日間反応させた水添触媒を使用した。
【0107】
例えば、ブロック共重合体水添物A−1は次の様にして製造した。攪拌機付きオートクレーブを用い、窒素ガス雰囲気下でスチレン20重量部を含むシクロヘキサン溶液にn-ブチルリチウムを0.13重量部、テトラメチルエチレンジアミンを0.05重量部添加し、70℃で20分間重合した。次にスチレン12重量部と1,3-ブタジエン8重量部を含むシクロヘキサン溶液を30分間連続的に添加して70℃で重合した後、5分間保持した。
【0108】
次に、スチレン15重量部と1,3-ブタジエン9重量部を含むを含むシクロヘキサン溶液を添加して70℃で30分間重合し、次にスチレン32重量部と1,3-ブタジエン1重量部を含むシクロヘキサン溶液を50分間連続的に添加して70℃で重合した。次に、上記で得られたブロック共重合体の溶液に、水添触媒をブロック共重合体100重量部当たりチタンとして100ppm添加し、水素圧0.7MPa、温度65℃で水添反応を行った。その後メタノールを添加し、次に安定剤としてオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートをブロック共重合体100質量部に対して0.3質量部添加した後、脱溶媒してブロック共重合体水添物A−1を得た。ブロック共重合体水添物A-1の水添率は、水添率が97%になるように水素量で調整した。
【0109】
また、ブロック共重合体水添物A−2〜A−9についても、上記のA−1の製造例に準じて同様に製造した。
得られたこれらブロック共重合体水添物の数平均分子量及び貯蔵弾性率の比などと構造上の特徴を表1に示した。
【0110】
(脂肪族不飽和カルボン酸エステル-スチレン共重合体の調製)
スチレン-アクリル酸n-ブチル共重合体B-1及びB-2は、撹拌器付き10Lオートクレーブにスチレンとアクリル酸n-ブチル又はメチルメタアクリレートを表2に示す比率で5kg添加し、同時にエチルベンゼン0.3kgと、MFRを調整するため1,1ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンを所定量仕込み、110〜150℃で2〜10時間重合後、ベント押出機で未反応スチレン、アクリル酸n-ブチル、エチルベンゼンを回収して製造した。得られたB-1のMFRは3.0g/10min、B-2のMFR2.6g/10minであった。
【0111】
[実施例1〜6及び比較例1〜3]
ブロック共重合体水添物(I)、及びブロック共重合体水添物(I)と重合体(II)とを含む組成物を表3に示す種類、配合比で用いて、40mm押出機により200℃で厚さ0.25mmのシート状に成形した。その後、このシート状物について、延伸温度を87℃として、テンターを用いて横軸に延伸倍率を5倍に1軸延伸して、厚さ約55μmの熱収縮性フィルムを得た。得られた熱収縮フィルムを前記の(7)伸び〜(10)耐溶剤性の試験項目に対する試験用試料とした。この熱収縮性フィルムの各物性、熱収縮率及び自然収縮率を表3に示した。
表3に示した物性等から明らかなように、本発明のブロック共重合体水添物及び本発明のブロック共重合体水添物組成物から形成された熱収縮性フィルム(実施例1〜6)は、比較例のフィルムに比して、耐溶剤性、自然収縮性、低温収縮性、剛性、透明性及び伸び等の物性バランスに優れることがわかる。
【0112】
【表1】

【0113】
【表2】

【0114】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明のブロック共重合体水添物、及び該ブロック共重合体水添物の組成物を延伸してなる熱収縮性フィルムは、透明であり、耐溶剤性、剛性、自然収縮性、低温収縮性及び伸びに優れることから、フィルムの薄肉化と寸法安定性及び低温収縮性を同時に達成でき、飲料容器包装やキャップシール及び各種ラベル等に適している。その他、本発明のブロック共重合体水添物及びその組成物は、射出成形、射出中空成形により各種成形品を得ることや、押出成形、インフレーション成形等によりフィルム又はシートに成形し、そのまま、もしくは真空圧空成形等の2次加工により種々の用途に使用することも可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとの重量比が60/40〜95/5であり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量が3万〜50万であり、水添物に組み込まれている前記ビニル芳香族炭化水素のブロック率が20〜100重量%であり、温度40℃での貯蔵弾性率(E40)と温度20℃での貯蔵弾性率(E20)との比(E40/E20)が0.75〜1であり、該水添物の動的粘弾性測定の関数tanδのピーク温度が70〜125℃の範囲に少なくとも1つ存在し、水添率が60%以上であるブロック共重合体水添物。
【請求項2】
請求項1記載のブロック共重合体水添物を少なくとも含むブロック共重合体水添物組成物。
【請求項3】
下記の成分(I)及び(II)を含むブロック共重合体水添物組成物。
(I):請求項1記載のブロック共重合体水添物
(II):(i)前記成分(I)のブロック共重合体水添物とは異なるビニル芳香族炭化水素と共役ジエンとからなるブロック共重合体及び/またはその水添物、(ii)ビニル芳香族炭化水素重合体、(iii)ビニル芳香族炭化水素と脂肪族不飽和カルボン酸系誘導体とからなる共重合体及び(iv)ゴム変性スチレン系重合体からなる群より選ばれた少なくとも一種の重合体
【請求項4】
前記成分(I)の含有量が30〜99.9重量部であり、前記成分(II)の含有量が0.1〜70重量部である(ただし、(I)と(II)の含有量の合計を100重量部とする)請求項3記載のブロック共重合体水添物組成物。
【請求項5】
前記成分(II)が前記(iv)のゴム変性スチレン系重合体を少なくとも含み、該(iv)の含有量が20重量部以下である請求項4記載のブロック共重合体水添物組成物。
【請求項6】
請求項1記載のブロック共重合体水添物又は請求項2〜5の何れかに記載のブロック共重合体水添物組成物からなる層の単層フィルムであるか、又は当該層を少なくとも含む多層フィルムである熱収縮性フィルム。
【請求項7】
延伸方向における80℃の熱収縮率が5〜60%である、請求項6記載の熱収縮性フィルム。


【公開番号】特開2007−8984(P2007−8984A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−188534(P2005−188534)
【出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】