説明

ブロー成形容器およびブロー成形容器の製造方法

【課題】白化、加熱しわ等の不具合がなく、品質が良好なブロー成形容器を製造することが可能なブロー成形容器の製造方法およびこのような方法により製造されたブロー成形容器を提供する。
【解決手段】射出成形機33を用いてPLA製のプリフォーム10を作製し、このPLA製のプリフォーム10を加熱装置34で加熱する。次に加熱されたPLA製のプリフォーム10をブロー成形機36によってブロー成形し、ブロー成形容器20を作製する。ブロー成形時のプリフォーム10の加熱温度を79℃乃至84℃の範囲とし、ブロー成形されるプリフォーム10の高さh1と、ブロー成形により作製されるブロー成形容器20の高さh2との関係を、h2<3×h1とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸(PLA)製のブロー成形容器およびポリ乳酸(PLA)製のブロー成形容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護への関心の高まりに応じて、カーボンニュートラルという観点から、環境に優しい資源としてバイオマス(植物由来)プラスチック製品が注目されている。このようなバイオマスプラスチック製品の一つとして、PLA樹脂からなるプラスチックボトルやカップ等が製造されている。
【0003】
また従来、PET等のプラスチックボトルやカップの製造方法として、射出成形によりPET等からなるプリフォーム(予備成型体)を作製し、このプリフォームをブロー成形することによりブロー成形容器を作製することが行なわれている。
【0004】
しかしながら、射出成形されたプリフォームをブロー成形する製造方法を用いてPLA樹脂製のブロー成形容器を製造することは難しい。すなわち、従来の製造条件に基づいてPLA樹脂のブロー成形容器を作製する場合、成形後のブロー成形容器に白化、加熱しわ等の不具合が生じやすく、高品質のブロー成形容器を作製することは困難である。また、PLA樹脂は特有の黄味を帯びているため、完成したブロー成形容器も黄みを帯びてしまうという課題もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、白化、加熱しわ等の不具合がなく品質が良好なブロー成形容器を製造することが可能なブロー成形容器の製造方法およびこのような方法により製造されたブロー成形容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、PLA製のブロー成形容器の製造方法において、PLA製のプリフォームを作製する工程と、PLA製のプリフォームを加熱する工程と、加熱されたPLA製のプリフォームをブロー成形してブロー成形容器を作製する工程とを備え、ブロー成形時のプリフォームの加熱温度を79℃乃至84℃の範囲とし、ブロー成形されるプリフォームの高さh1と、ブロー成形により作製されるブロー成形容器の高さh2との関係を、h2<3×h1としたことを特徴とするブロー成形容器の製造方法である。
【0007】
本発明は、プリフォームのうちブロー成形により延伸される部分は、同一の肉厚を有することを特徴とするブロー成形容器の製造方法である。
【0008】
本発明は、プリフォームは、PLA材料と、PLA材料中に混入された青色系マスターバッチとを含む射出材料から作製されることを特徴とするブロー成形容器の製造方法である。
【0009】
本発明は、プリフォームは、射出材料を210℃乃至240℃に加熱した状態で射出成形することにより作製されることを特徴とするブロー成形容器の製造方法である。
【0010】
本発明は、ブロー成形容器の製造方法により製造されたブロー成形容器である。
【発明の効果】
【0011】
以上のように本発明によれば、ブロー成形時のプリフォームの加熱温度を79℃乃至84℃の範囲とし、ブロー成形されるプリフォームの高さh1と、ブロー成形により作製されるブロー成形容器の高さh2との関係を、h2<3×h1としたので、ブロー成形容器に白化や加熱しわ等の不具合が生じず、高品質のブロー成形容器を作製することができる。
【0012】
また本発明によれば、プリフォームのうちブロー成形により延伸される部分は、同一の肉厚を有するので、ブロー成形時におけるプリフォームの加熱温度を容易に制御することができる。
【0013】
さらに本発明によれば、プリフォームは、PLA材料と、PLA材料中に混入された青色系マスターバッチとを含む射出材料から作製されるので、ブロー成形容器が黄味を帯びることを抑制することができる。また、ブロー成形容器に湯じわ模様が生じる不具合を防止することができる。
【0014】
さらにまた本発明によれば、プリフォームは、射出材料を210℃乃至240℃に加熱した状態で射出成形することにより作製されるので、ブロー成形容器に白化等の不具合が生じることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
図1は、PLA製のプリフォームを示す断面図であり、図2は、本実施の形態によるブロー成形容器を示す側面図である。図3は、本実施の形態によるブロー成形容器の製造工程を示す概略図であり、図4は、ブロー成形容器に生じる不具合を示す説明図であり、図5は、比較例としてのプリフォームを示す断面図である。
【0016】
プリフォームの構成
まず、図1によりPLA製のプリフォーム(予備成型体)の概要について説明する。
【0017】
図1に示すPLA製のプリフォーム10は、後述するようにPLA(Poly Lactic Acid:ポリ乳酸)材料31と、PLA材料31中に混入された青色系マスターバッチ32とを含む射出材料37から作製されるものである。このプリフォーム10は、円環状の天面部11と、天面部11から延びるストレート部12と、ストレート部12に連設する側部13と、側部13に連設する底部14とを有している。
【0018】
このうち側部13および底部14は、後述するようにブロー成形容器20をブロー成形する際に延伸される部分であり、同一の肉厚を有している。すなわち図1において、側部13のうち底部14側の部分の断面厚さt1と、側部13のうちストレート部12側の部分の断面厚さt2とは互いに同一の厚さからなっている(t1=t2)。
【0019】
ブロー成形容器の構成
次に、図2によりブロー成形容器の構成について説明する。
【0020】
図2に示すPLA製のブロー成形容器20は、図1に示すPLA製のプリフォーム10をブロー成形することにより作製されるものである。このブロー成形容器20は、円環状の天面部21と、天面部21から延びるストレート部22と、このストレート部22に連設しストレート部22よりやや縮径された側部23と、側部23に連設するとともに、内方に窪んだ凹部24aを有する底部24とを有している。
【0021】
なおブロー成形容器20の天面部21、ストレート部22、側部23、および底部24は、それぞれプリフォーム10の天面部11、ストレート部12、側部13、および底部14に対応している。
【0022】
ブロー成形容器の製造方法
次に、図2に示すブロー成形容器20の製造方法について、図3乃至図5を用いて説明する。
【0023】
まず図3に示すように、射出成形機33により、PLA樹脂のペレットからなるPLA材料31と青色系マスターバッチ32(着色剤)とを含む射出材料37を射出成形することにより、図1に示すPLA製のプリフォーム10を作製する。なおPLA材料31は、トウモロコシ、イモ類、ビート、サトウキビなどの植物から取り出したでんぷんを発酵することによって得られたL−乳酸をモノマーとして重合させることにより合成されたポリマー材料からなっている。また、青色系マスターバッチ32は、PLA材料および顔料からなっている。
【0024】
この際、PLA材料31と青色系マスターバッチ32とを含む射出材料37を、210℃乃至240℃に加熱した状態で射出成形する。射出成形時における射出材料37の温度が210℃を下回ると、ブロー成形後にブロー成形容器20の側部23全域に白化現象が生じてしまう。他方、射出成形時における射出材料37の温度が240℃を上回ると、射出成形時に発泡を起こす可能性がある。
【0025】
次に、このPLA製のプリフォーム10を、ヒーターを有する加熱装置34内で加熱する。加熱装置34内で加熱されたPLA製のプリフォーム10は、搬送装置35により自動的にブロー成形機36へ搬送される。次に、プリフォーム10は、ブロー成形機36内で金型を用いて2軸延伸ブロー成形され、図2に示すブロー成形容器20が作製される。
【0026】
ところで、ブロー成形機36におけるブロー成形時のプリフォーム10の加熱温度は、79℃乃至84℃の範囲となっている。この加熱温度が79℃未満であると、ブロー成形容器20のストレート部22にクラックとよばれる不具合が発生しやすい(図4の符号F1)。さらに加熱温度が69℃未満となると、ブロー成形容器20の底部24周囲に白化とよばれる不具合も発生する(図4の符号F2)。他方、加熱温度が84℃を超えると、底部24の凹部24aに加熱しわとよばれる不具合が発生する(図4の符号F3)。
【0027】
上述したように、プリフォーム10のうちブロー成形により延伸される部分(側部13および底部14)は同一の肉厚を有するので、ブロー成形時におけるプリフォーム10の加熱温度を容易に制御することができる。これに対して、比較例として図5に示すプリフォーム10Aにおいて、側部13は、ストレート部12側から底部14側へ向けて徐々に肉厚となっている。すなわち、側部13のうち底部14側の部分の断面の厚さt3は、側部13のうちストレート部12側の部分の断面の厚さt4より厚い(t3>t4)。この場合、加熱装置34のヒーターからの熱が側部13に均一に伝わらないので、プリフォーム10の加熱温度を制御することが難しい。
【0028】
また、ブロー成形機36におけるプリフォーム10の延伸倍率は3倍未満とする。すなわち、ブロー成形されるプリフォーム10の高さh1(図1参照)と、ブロー成形により作製されるブロー成形容器20の高さh2(図2参照)との関係は、h2<3×h1としている。これに対して、ブロー成形機36におけるプリフォーム10の延伸倍率が3倍以上であると、ブロー成形容器20の側部23に白化とよばれる不具合が生じやすい。
【0029】
このように本実施の形態によれば、ブロー成形時のプリフォーム10の加熱温度を79℃乃至84℃の範囲とし、ブロー成形されるプリフォーム10の高さh1とブロー成形により作製されるブロー成形容器20の高さh2との関係を、h2<3×h1としたので、ブロー成形容器20に白化や加熱しわ等の不具合が生じず、高品質のブロー成形容器20を作製することができる。
【0030】
また本実施の形態によれば、プリフォーム10は、PLA材料31と、PLA材料31中に混入された青色系マスターバッチ32とを含む射出材料37から作製される。このことにより、ブロー成形容器20が黄味を帯びることを抑制することができる。さらに、ブロー成形容器20の側部23に湯じわ模様と呼ばれる不具合が発生することを防止することができる。これに対して、プリフォーム10中に青色系マスターバッチ32が混入されていないと、図4に示すようにブロー成形容器20の側部23に湯じわ模様F4が発生しやすい。この理由は以下の通りであると考えられる。すなわち、上述したようにPLA材料31は特有の黄味を帯びているが、青色系マスターバッチ32によってプリフォーム10の黄味を抑えることができる。これによりプリフォーム10を加熱する工程で、加熱装置34のヒーターからの熱をプリフォーム10が吸収しやすくなり、迅速にプリフォーム10を加熱することができるためである。
【0031】
(実施例)
次に、本発明の具体的実施例を説明する。
【0032】
まず図1に示すPLA製のプリフォーム10を以下の条件に基づいて射出成形により作製した。青色系マスターバッチ32については、以下の3種類のものを使用してそれぞれプリフォーム10を作製した。
【0033】
PLA材料31:レイシアH−400(メーカ:三井化学)
青色系マスターバッチ32:(メーカ:大日精化工業)
(a)PT−RM AZ MG1745(P.B.29)
(b)PT−RM AZ MG1746(SO.V.13)
(c)PT−RM AZ MG1747(SO.B.104)
射出成形機33:FE160(メーカ:日精樹脂工業)
射出成形時における射出材料37の設定温度:240℃
【0034】
なお、射出材料37の構成割合(重量)は、それぞれPLA材料31:青色系マスターバッチ32=10:1とした。
【0035】
得られたプリフォーム10は、以下の通りであった。
プリフォーム10の高さh1=54mm、側部13の高さh3=42mm、天面部11の内径d1=62.5mm、天面部11の外径d1=71mm、側部13の肉厚t1=t2=1.8mm、プリフォーム10の重量17g。
【0036】
次に、各プリフォーム10を加熱し、加熱されたプリフォーム10をブロー成形してブロー成形容器20を作製した。ブロー成形の条件は以下のとおりである。
【0037】
プリフォーム10の加熱温度:66.1℃乃至88.1℃の11種類
ブロー成形時の延伸倍率:約2倍
ブロー成形機36:FDB−1D(メーカ:フロンティア)
【0038】
このようにして、高さh2=110mmのブロー成形容器20が得られた。この結果、ブロー成形容器20に生じた不具合を加熱温度によって分類すると以下のとおりとなった(発生無し・・・○、発生有り・・・×)。
【表1】

【0039】
このように、ブロー成形時におけるプリフォーム10の加熱温度を79℃乃至84℃の範囲とした場合、ブロー成形容器20にクラック、白化、加熱しわの不具合が生じなかった。
【0040】
また、用いた青色系マスターバッチ32とブロー成形容器20に生じた不具合との関係は以下のとおりであった(発生無し・・・○、発生有り・・・×)。
【表2】

【0041】
サンプル(b)のブロー成形容器20には湯じわ模様が生じたが、サンプル(a)(c)のブロー成形容器20は湯じわ模様が生じず品質が良好であった。
【0042】
(青色系マスターバッチの比較)
次に、PLA材料31と上述した3種の青色系マスターバッチ32とを混合した板状サンプルおよびPLA材料31のみからなる板状サンプルを作製し、この板状サンプルの色を比較した。
【0043】
板状サンプルとしては以下の4種類のものを作製した。
(a)PT−RM AZ MG1745(P.B.29)
(b)PT−RM AZ MG1746(SO.V.13)
(c)PT−RM AZ MG1747(SO.B.104)
(d)青色系マスターバッチなし(PLA樹脂のみ)
サンプル形状:厚さ2mmの板材(射出温度200℃)
混合割合:PLA材料31(レイシアH−400):青色系マスターバッチ32=10:1
【0044】
次に、カラーコンピュータ(SM−C:スガ試験機)を用いて各板状サンプルの色を測定した。
【表3】

【0045】
カラーコンピュータによる測定値は、日本工業規格(JIS規格)のJISZ8729で規定される「L*a*b*表色系」に基づく。「L*a*b*表色系」とは、明度を「L*」(0≦L*≦100)で表し、色度を「a*」(−60≦a*≦60)および「b*」(−60≦b*≦60)で表したものである。ここで「+L*」が白方向、「−L*」が黒方向、「+a*」が赤方向、「−a*」が緑方向、「+b*」が黄方向、「−b*」が青方向を示している。
【0046】
以上の結果から、ブロー成形容器20に湯じわ模様が生じないようにするためには、PLA材料31と青色系マスターバッチ32とを有するプリフォーム10の色が、「L*a*b*表色系」に基づく色度が「0≦a*≦1」かつ「0≦b*≦1」となれば良いと考えられる。但し、好ましくは色度が「0≦a*≦0.5」かつ「0≦b*≦0.5」となることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】PLA製のプリフォームを示す断面図。
【図2】本発明の一実施の形態によるブロー成形容器を示す側面図。
【図3】本発明の一実施の形態によるブロー成形容器の製造工程を示す概略図。
【図4】ブロー成形容器に生じる不具合を示す説明図。
【図5】比較例としてのプリフォームを示す断面図。
【符号の説明】
【0048】
10 プリフォーム
11 天面部
12 ストレート部
13 側部
14 底部
20 ブロー成形容器
21 天面部
22 ストレート部
23 側部
24 底部
31 PLA材料
32 青色系マスターバッチ
33 射出成形機
34 加熱装置
35 搬送装置
36 ブロー成形機
37 射出材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PLA製のブロー成形容器の製造方法において、
PLA製のプリフォームを作製する工程と、
PLA製のプリフォームを加熱する工程と、
加熱されたPLA製のプリフォームをブロー成形してブロー成形容器を作製する工程とを備え、
ブロー成形時のプリフォームの加熱温度を79℃乃至84℃の範囲とし、ブロー成形されるプリフォームの高さh1と、ブロー成形により作製されるブロー成形容器の高さh2との関係を、h2<3×h1としたことを特徴とするブロー成形容器の製造方法。
【請求項2】
プリフォームのうちブロー成形により延伸される部分は、同一の肉厚を有することを特徴とする請求項1に記載のブロー成形容器の製造方法。
【請求項3】
プリフォームは、PLA材料と、PLA材料中に混入された青色系マスターバッチとを含む射出材料から作製されることを特徴とする請求項1または2に記載のブロー成形容器の製造方法。
【請求項4】
プリフォームは、射出材料を210℃乃至240℃に加熱した状態で射出成形することにより作製されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のブロー成形容器の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のブロー成形容器の製造方法により製造されたブロー成形容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−226681(P2009−226681A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73225(P2008−73225)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】