説明

ブーツ、光コネクタ、及び光コネクタの製造方法

【課題】光ファイバテープ心線の厚さが変わっても、フェルール内での光ファイバの位置や姿勢の変化が抑制されるようにする。
【解決手段】光ファイバテープ心線を挿入するための貫通穴を有するブーツであって、前記光ファイバテープ心線の厚さ方向から前記光ファイバテープ心線を挟持するための第1挟持部及び第2挟持部であって、前記貫通穴の入口側開口の前記厚さ方向の間隔よりも狭い間隔で互いに対向する第1挟持部及び第2挟持部と、前記第1挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第1変形部と、前記第2挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第2変形部とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブーツ、光コネクタ、及び光コネクタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ同士をPC接続(PCは、Physical Contactの略)するための光コネクタが知られている。このような光コネクタでは、外部に延び出た光ファイバに曲げ応力がかかることによって光ファイバが破損することを防止するために、ゴム製の筒状のブーツが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−193181号公報
【特許文献2】特開2001−133660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多数の光ファイバを一括して接続できる多心光コネクタでは、光ファイバテープ心線の複数の光ファイバがフェルールの光ファイバ穴に挿入される。但し、光ファイバテープ心線の厚さは、被覆の状況や、被覆の公差などによって、ばらつくことがある。そして、光ファイバテープ心線の厚さが変わると、フェルール内での光ファイバの位置や姿勢が大きく変わる可能性がある。
【0005】
この結果、フェルール内で光ファイバに急激な曲げ応力が加わり、光ファイバが破損するおそれがある。一方、光ファイバテープ心線の厚さに関わらず光ファイバが破損しないようにフェルールを設計しようとすると、設計時の大きな制約条件になってしまう。
【0006】
本発明は、光ファイバテープ心線の厚さが変わっても、フェルール内での光ファイバの位置や姿勢の変化が抑制されるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための主たる発明は、光ファイバテープ心線を挿入するための貫通穴を有するブーツであって、前記光ファイバテープ心線の厚さ方向から前記光ファイバテープ心線を挟持するための第1挟持部及び第2挟持部であって、前記貫通穴の入口側開口の前記厚さ方向の間隔よりも狭い間隔で互いに対向する第1挟持部及び第2挟持部と、前記第1挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第1変形部と、前記第2挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第2変形部とを備えることを特徴とするブーツである。
【0008】
本発明の他の特徴については、後述する明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、光ファイバテープ心線の厚さが変わっても、フェルール内での光ファイバの位置や姿勢の変化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1Aは、光コネクタの接続状況を説明するための分解斜視図である。図1Bは、光コネクタの接続状況を説明するための斜視図である。
【図2】光コネクタ1の分解斜視図である。
【図3】フェルール10の斜視図である。
【図4】フェルール10の断面図である。
【図5】比較例のブーツの斜視図である。
【図6】図6A及び図6Bは、比較例のブーツを用いたときの光ファイバの様子の説明図である。
【図7】本実施形態のブーツ5の正投影図である。
【図8】図8A及び図8Bは、ブーツ5を斜め後から見た斜視図である。
【図9】図9A及び図9Bは、ブーツ5を斜め前から見た斜視図である。
【図10】図10A及び図10Bは、本実施形態のブーツ5を用いたときの光ファイバの様子の説明図である。
【図11】光コネクタの製造方法の処理フロー図である。
【図12】フェルールの前側端面の変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
後述する明細書及び図面の記載から、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0012】
光ファイバテープ心線を挿入するための貫通穴を有するブーツであって、前記光ファイバテープ心線の厚さ方向から前記光ファイバテープ心線を挟持するための第1挟持部及び第2挟持部であって、前記貫通穴の入口側開口の前記厚さ方向の間隔よりも狭い間隔で互いに対向する第1挟持部及び第2挟持部と、前記第1挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第1変形部と、前記第2挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第2変形部とを備えることを特徴とするブーツが明らかとなる。
このようなブーツによれば、光ファイバテープ心線の厚さが変わっても、フェルール内での光ファイバの位置や姿勢の変化が抑制される。
【0013】
前記第1挟持部及び前記第2挟持部は、前記貫通穴の出口側開口に設けられており、前記第1挟持部の前記出口側開口の側は、前記第1変形部によって拘束されていなく、前記第2挟持部の前記出口側開口の側は、前記第2変形部によって拘束されていないことが望ましい。これにより、挟持部が変位しやすくなる。
【0014】
フェルールに挿入される範囲内に、前記第1挟持部、前記第2挟持部、前記第1変形部及び前記第2変形部が設けられていることが望ましい。これにより、フェルールに挿入したときに、ブーツの外周とフェルールとの間に隙間が生じにくくなる。
【0015】
前記第1挟持部及び前記第1変形部と、前記第2挟持部及び前記第2変形部は、対称的な形状であることが望ましい。これにより、光ファイバテープ心線を挿入したときに、光ファイバテープ心線をブーツの中央に位置させて挟持できる。
【0016】
複数の光ファイバテープ心線が挿入されることが望ましい。複数の光ファイバテープ心線を挿入する場合、積層された複数の光ファイバテープ心線の全体の厚さのばらつきが大きくなるので、ブーツを用いたときの効果が大きい
複数の光ファイバ穴と、ブーツ挿入口とを有するフェルールと、複数の光ファイバを有し、それぞれの光ファイバ穴が前記光ファイバ穴に挿入された光ファイバテープ心線と、前記ブーツ挿入口に挿入されたブーツであって、前記光ファイバテープ心線の厚さ方向から前記光ファイバテープ心線を挟持する第1挟持部及び第2挟持部と、前記第1挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第1変形部と、前記第2挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第2変形部とを有するブーツとを備えることを特徴とする光コネクタが明らかとなる。
このような光コネクタによれば、光ファイバテープ心線の厚さが変わっても、フェルール内での光ファイバの位置や姿勢の変化が抑制される。
【0017】
光ファイバテープ心線を挿入するための貫通穴を有するブーツであって、前記光ファイバテープ心線の厚さ方向から前記光ファイバテープ心線を挟持する第1挟持部及び第2挟持部と、前記第1挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第1変形部と、前記第2挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第2変形部とを有するブーツを、フェルールのブーツ挿入口に挿入するステップと、前記ブーツの前記貫通穴に前記光ファイバテープ心線を挿入し、前記光ファイバテープ心線の厚さ方向から前記光ファイバテープ心線を挟持させて、前記光ファイバテープ心線の光ファイバを前記フェルールの光ファイバ穴に挿入するステップとを有することを特徴とする光コネクタの製造方法が明らかとなる。
このような光コネクタの製造方法によれば、光ファイバテープ心線の厚さが変わっても、フェルール内での光ファイバの位置や姿勢の変化が抑制される。
【0018】
===光コネクタの基本構成===
<全体構成>
以下の説明では、フェルールに光ファイバやブーツ等の部材を取り付けたユニット全体を「光コネクタ」と呼び、光ファイバやブーツ等の他の部材を取り付ける前のフェルール単体や光コネクタのフェルールの部分のことを単に「フェルール」と呼ぶことがある。
【0019】
図1Aは、光コネクタの接続状況を説明するための分解斜視図である。図1Bは、光コネクタの接続状況を説明するための斜視図である。
【0020】
本実施形態の光コネクタは、JIS C 5981のF12形多心光ファイバに相当するMTコネクタである。但し、これに限られるものではなく、JIS C 5984のF15形光ファイバコネクタでも良い。
【0021】
予めガイドピン2がガイドピン穴に挿入された光コネクタがオス側光コネクタ1Mとなり、オス側光コネクタ1Mのガイドピン2がメス側光コネクタ1Fのガイドピン穴に挿入される。これにより、オス側光コネクタ1Mとメス側光コネクタ1Fが位置決めされ、光ファイバ同士が軸合わせされる。この状態でクランプスプリング3によってオス側光コネクタ1Mとメス側光コネクタ1Fが所定の圧力で締結される。この結果、光ファイバ同士が突き当たり、光ファイバのPC接続(PCは、Physical Contactの略)が安定した接続状態になる。
【0022】
図2は、光コネクタの分解斜視図である。光コネクタ1は、主にフェルール10と、ブーツ5と、光ファイバテープ心線4とから構成される。
【0023】
フェルール10にはブーツ挿入口(図2では不図示)が形成されている。このブーツ挿入口にブーツ5が挿入される。
【0024】
ブーツ5は、光ファイバに曲げ応力がかかって光ファイバが破損することを防止するための部材である。ブーツ5のことをストレインレリーフと呼ぶこともある。ブーツ5の形状は、後で詳細に説明するが、およそ筒状である。ブーツ5の貫通穴に光ファイバテープ心線4が挿入される。図2では光ファイバテープ心線が1枚だけ描かれているが、本実施形態では4枚の光ファイバテープ心線4がブーツ5に挿入される。
【0025】
光ファイバテープ心線4には、複数の光ファイバ4Aが一括して被覆されている。本実施形態では、12本の光ファイバ4Aが一括被覆されることによって、12心光ファイバテープ心線が構成されている。光ファイバテープ心線4の先端部は被覆が除去されており、光ファイバ4Aが露出している。各光ファイバ4Aは、フェルール10の光ファイバ穴に挿入され、接着剤によって固定される。本実施形態の光コネクタでは、4枚の12心光ファイバテープ心線がフェルール10に挿入されており、計48本の光ファイバがフェルール10に固定されている。
【0026】
<フェルール10>
図3は、フェルール10の斜視図である。図4は、フェルール10の断面図である。
図3に示すように、相手側のコネクタと接続する側のことを「前」、逆側を「後」と表現することがある。なお、「前方向」のことを光ファイバ又は光ファイバテープ心線の「挿入方向」と表現することもある。また、光ファイバ穴12の並ぶ方向を「左右方向」と表現することがある。また、接着剤充填窓15が設けられた面の側を「上」、逆側を「下」と表現することがある。なお、「上下方向」のことを光ファイバテープ心線の「厚さ方向」と表現することもある。
【0027】
フェルール10の前側端面11Aには、ガイドピンを挿入するための2個のガイドピン穴13が開口している。2個のガイドピン穴13は、前後方向に平行であり、左右に並んで形成されている。
【0028】
また、前側端面11Aの2個のガイドピン穴13の間には、48個の光ファイバ穴12が開口している。ここでは、左右方向に並ぶ12個の光ファイバ穴12の列(以下、「光ファイバ穴列」という)が、上下方向に4列(4段)に配置されている。つまり、前側端面11Aにおいて、48個の光ファイバ穴12の開口が2次元配置されている。
【0029】
光ファイバ穴列を構成する12個の光ファイバ穴12は、12心光ファイバテープ心線に含まれる12本の光ファイバにそれぞれ対応する。ここでは光ファイバ穴列が4列あるため、計48個の光ファイバ穴12は、4枚の12心光ファイバテープ心線の計48本の光ファイバにそれぞれ対応する。各光ファイバ穴12は、前後方向に平行に形成されている。
【0030】
上下方向に並ぶ光ファイバ穴列の間隔Dは、250μmである。なお、光ファイバテープ心線の厚さは250μm〜340μm程度の範囲でばらつくため、間隔Dは、光ファイバテープ心線の厚さと必ずしも一致しない。
【0031】
フェルール10の後側端面11Bには、ブーツ5を挿入するためのブーツ挿入口14(図4参照)が開口している。ブーツ挿入口14に挿入されるブーツ5については、後で詳述する。
【0032】
フェルール10の上面11Cには、接着剤を充填するための接着剤充填窓15が開口している。フェルール10の下面11Dには開口が無い。なお、フェルール10の内部では、光ファイバ穴12と、接着剤充填窓15と、ブーツ挿入口14が連通している。
【0033】
フェルール10の内部には、ブーツ5の挿入量を規制するための突当部16が形成されている。この突当部16に突き当たるまで、ブーツ5がブーツ挿入口14に挿入される。突当部16は、フェルール10の後側端面11Bから長さL1だけ離れた位置に形成されている。これにより、決まった長さL1だけブーツ5がフェルール10に挿入される。
【0034】
===比較例のブーツ===
本実施形態のブーツ5について説明する前に、比較例のブーツについて説明する。
【0035】
図5は、比較例のブーツの斜視図である。
比較例のブーツ5’は、断面形状が一定になっている。既に説明したように、光ファイバテープ心線の厚さは、被覆の状況や、被覆の公差などによって、ばらつきがある。この場合、ブーツ5’の心線挿入穴は、最も厚い光ファイバテープ心線に合わせて形成する必要がある。例えば、厚さが250μm〜340μmの範囲でばらつく場合、厚さが340μmの4枚の光ファイバテープ心線を挿入できるように、高さ1360μm(=340μm×4)の貫通穴をブーツに形成する必要がある。そして、比較例のブーツ5’では断面形状が一定であるため、貫通穴の高さ(上下方向の間隔)も1360μmで一定になる。
【0036】
図6A及び図6Bは、比較例のブーツを用いたときの光ファイバの様子の説明図である。
【0037】
図6Aに示すように、光ファイバテープ心線4の厚さが340μmの場合(比較的厚い場合)、ブーツ5’は、4枚の光ファイバテープ心線4を上下方向に支持することができる。このため、4枚の光ファイバテープ心線4の上下方向の位置は、所定の位置に定まる。
【0038】
一方、図6Bに示すように、光ファイバテープ心線4の厚さが250μmの場合(比較的薄い場合)、ブーツ5’と光ファイバテープ心線4の間に隙間が生じる。このため、4枚の光ファイバテープ心線4の上下方向の位置は、不定になる(図6Bでは4枚の光ファイバテープ心線4が下から積層されて描かれているが、4枚の光ファイバテープ心線4の位置は必ずしもこのような位置にならない)。この結果、フェルール10内での光ファイバ4Aの位置や姿勢が変動し、フェルール10内で光ファイバ4Aに急激な曲げ応力が加わるおそれがある。例えば、図6Bに示す状態では、図6Aに示す状態よりも、光ファイバ6Aの曲がり方が急になっている。
【0039】
なお、図6Bでは、光ファイバ穴の上下方向の間隔D(=250μm、図3参照)と光ファイバテープ心線4の厚さが一致している。このため、図6Bの上下に並ぶ4本の光ファイバ4Aの曲がり方は同じになっている。ここで、仮に光ファイバテープ心線4の厚さが間隔Dよりも小さい場合を想定すると、図6Bのように4枚の光ファイバテープ心線4が下から積層されたときに、一番上の光ファイバ4Aの曲がり方が特に急激になる。このように、光ファイバ穴12が2次元配置されたフェルールの場合、比較例のブーツ5’を用いて複数の光ファイバテープ心線4をフェルール10に挿入すると、光ファイバ4Aの曲がり方が特に急激になることがある。
【0040】
一方、光ファイバテープ心線4の厚さに関わらず光ファイバ4Aが破損しないようにフェルールを設計しようとすると、ブーツ5’と光ファイバテープ心線4の間に隙間が生じたときに光ファイバテープ心線4がどのような位置になっても、光ファイバ4Aに急激な曲げ応力が加わらないようにする必要がある。しかし、これでは、フェルール10の設計時に大きな制約条件になる。
【0041】
そこで、本実施形態では、光ファイバテープ心線4の厚さが薄くなっても、ブーツと光ファイバテープ心線4との間に隙間を生じにくいようにし、光ファイバテープ心線4の上下方向の位置が定まるようにしている。
【0042】
===本実施形態のブーツ===
<ブーツの形状>
図7は、本実施形態のブーツ5の正投影図である。ブーツ5を右側から見た図を正面図としている。正面図と上面図では、中心線でブーツ5が半断面されて示されている。また、図8A及び図8Bは、ブーツ5を斜め後から見た斜視図である。図9A及び図9Bは、ブーツ5を斜め前から見た斜視図である。
【0043】
ブーツ5は、貫通穴を有する筒状体である。ブーツ5の後側端面51Bにおける開口(入口側開口)を心線挿入口52Bと呼び、前側端面51Aにおける開口(出口側開口)を心線取出口52Aと呼ぶ。また、筒状の形状を構成する上側の部材を上壁部53Aと呼び、下側の部材を下壁部53Bと呼び、ブーツの左右の部材を側壁部53Cと呼ぶ。上壁部53A、下壁部53B及び左右の側壁部53Cは、ゴムやプラスチックなどの弾性体(エラストマー)によって一体的に成形されている。
【0044】
心線挿入口52Bの左右の幅は、光ファイバテープ心線4の幅に相当する。また、心線挿入口52Bの上下の高さ(上壁部53Aの内面(下面)と下壁部53Bの内面(上面)との間隔)は、およそ1360μmである。これは、厚さが340μmの光ファイバテープ心線4(ばらつきの範囲で最も厚い光ファイバテープ心線)を4枚束ねたときの厚さに相当する。
【0045】
本実施形態のブーツ5では、上壁部53A及び下壁部53Bの心線取出口52A側(前側)に、台形状の凹部54が形成されている。そして、台形状に凹部54が形成されることによって、上壁部53A及び下壁部53Bに、それぞれ挟持部55(第1挟持部及び第2挟持部)と変形部56(第1変形部及び第2変形部)とが形成される。
【0046】
上下の挟持部55は、光ファイバテープ心線4を挟持するためのものである。このため、挟持部55の内面は、光ファイバテープ心線4と接触する接触面55Aとなる。この接触面55Aは上下方向を法線とする平面になっており、上下の挟持部55の接触面55Aは、互いに対向している。上側の挟持部55の接触面55Aは、心線挿入口52B側の上壁部53Aの下面よりも下に位置する。また、下側の挟持部55の接触面55Aは、心線挿入口52B側の下壁部53Bの上面よりも上に位置する。このため、上下の挟持部55の接触面55A同士の間隔は、心線挿入口52Bの上下の高さ(上壁部53Aの内面(下面)と下壁部53Bの内面(上面)との間隔)よりも狭い。
【0047】
また、上下の挟持部55の外面は、上壁部53Aや下壁部53Bの外面よりも凹んでいる。言い換えると、上側の挟持部55の上面は、上壁部53Aの上面よりも下に位置し、下側の挟持部55の下面は、下壁部53Bの下面よりも上に位置する。これは、挟持部55を外側に向かって変位できるようにするためである。
【0048】
変形部56は、挟持部55が外側に変位できるように弾性変形する部分である。上壁部53A側の変形部56は、挟持部55が上側に変位できるように上壁部53Aと挟持部55との間に形成されている。下壁部53B側の変形部56は、挟持部55が下側に変位できるように下壁部53Bと挟持部55との間に形成されている。
【0049】
変形部56は、挟持部55を三方(右側、左側及び後側)から囲むように設けられている。変形部56が挟持部55を四方から囲む場合と比べて、挟持部55の前側の一方が変形部56に拘束されていないため、挟持部55が上下に変位しやすくなっている。
【0050】
心線取出口52A側に台形状の凹部54が形成されているため、心線取出口52Aの中央部での上下の高さ(上下の挟持部55の接触面55A同士の間隔)は、およそ1000μmである。これは、厚さが250μmの光ファイバテープ心線4(ばらつきの範囲で最も薄い光ファイバテープ心線)を4枚束ねたときの厚さに相当する。但し、心線取出口52Aの中央部での上下の高さは、変形部56の作用により1360μmまで拡張可能である。
【0051】
心線取出口52A側の凹部54以外での上下の高さ(上壁部53Aの内面(下面)と下壁部53Bの内面(上面)との間隔)は、心線挿入口52Bの上下の高さと同様に、およそ1360μmである。これは、厚さが340μmの光ファイバテープ心線4(ばらつきの範囲で最も厚い光ファイバテープ心線)を4枚束ねたときの厚さに相当する。なお、心線取出口52Aの左右の幅は、光ファイバテープ心線4の幅に相当する。
【0052】
図8Aに示すように、凹部54は、ブーツ5の前側端面51Aから長さL2の範囲に形成されている。この長さL2は、フェルール10の後側端面11Bから突当部16までの長さL1(図4参照)よりも短い。このため、ブーツ5の前側端面51Aがフェルール10の突当部16に突き当たるまでブーツ5をフェルール10に挿入すると、ブーツ5の凹部54は、フェルール10の内側に隠れ、外部に露出しない。この結果、ブーツ5をフェルール10に挿入したとき、フェルール10の後側端面11Bにおいて、ブーツ挿入口14とブーツ5の外周との間に隙間は生じない。これにより、フェルール10の接着剤充填窓15から接着剤を充填したとき、凹部54からの接着剤の漏洩を防止できる。
【0053】
また、ブーツ5の前後方向の長さが長さL1よりも長いので、ブーツ5をフェルール10に挿入したときに、ブーツ5の後側がフェルール10の後側端面から突出することになる。フェルールから突出する部分は、ブーツ挿入口に拘束されずに弾性変形できるので、光コネクタの外部に延び出る光ファイバテープ心線に大きな曲げ応力がかかることを防止できる。つまり、この部分は、ブーツ本来の機能を果たすことになる。
【0054】
本実施形態のブーツ5は、上下に対称的な形状をしている。言い換えると、上下の凹部54は、上下対称に形成されている。つまり、上下の挟持部55及び変形部56は、上下対称に形成されている。これにより、厚さが1000μm以上のもの(例えば4枚の光ファイバテープ心線の束)をブーツ5に挿入したとき、上下の変形部56が均等に変形するため、挿入されたものをブーツ5の中央に位置させて挟持できる。
【0055】
<光ファイバテープ心線の挿入後の状況>
図10A及び図10Bは、本実施形態のブーツ5を用いたときの光ファイバの様子の説明図である。
【0056】
図10Aに示すように、光ファイバテープ心線4の厚さが340μmの場合(比較的厚い場合)、2つの挟持部55の間隔が押し広げられ、ブーツ5の挟持部55は、4枚の光ファイバテープ心線4を上下方向に支持する。このため、4枚の光ファイバテープ心線4の上下方向の位置は、所定の位置に定まる。
【0057】
一方、図10Bに示すように、光ファイバテープ心線4の厚さが250μmの場合(比較的薄い場合)においても、ブーツ5の2つの挟持部55は、4枚の光ファイバテープ心線4を上下方向に支持することができる。このため、4枚の光ファイバテープ心線4の上下方向の位置は、所定の位置に定まる。
【0058】
比較例の図6Bと対比すると、図10Bのように本実施形態のブーツ5を用いた場合には、ブーツ5と光ファイバテープ心線4の間に隙間が生じていない。このため、本実施形態では、フェルール10内での光ファイバ4Aの位置や姿勢が安定している。
【0059】
特に、本実施形態のブーツ5は上下対称の形状であるため、光ファイバテープ心線4の厚さに関わらず、4枚の光ファイバテープ心線の束を心線挿入口52Bの中央に位置させることができる。この結果、フェルール10内で光ファイバ4Aに加わる曲げ応力を抑制できる。
【0060】
また、本実施形態のブーツ5を用いれば、光ファイバテープ心線4の位置が安定するため、光ファイバ4Aに急激な曲げ応力が加わらないようにフェルール10を設計することも容易になる。
【0061】
===光コネクタの製造方法===
図11は、光コネクタの製造方法の処理フロー図である。
【0062】
まず、光ファイバテープ心線の前処理が行われる(S101)。具体的には、作業者が、光ファイバテープ心線4の被覆を定められた寸法で除去し、被覆の除去された光ファイバ4Aを清掃し、光ファイバ4Aを所定の長さで切断する。
【0063】
次に、作業者は、ブーツ5をフェルール10のブーツ挿入口14に挿入する(S102)。この処理は、S101の処理と平行して行われても良いし、S101の処理と前後しても良い。このとき、作業者は、凹部54が形成された側から、ブーツ5の前側端面51Aがフェルール10の突当部16に突き当たるまで、ブーツ5をブーツ挿入口14に挿入する。凹部54が上壁部53A及び下壁部53Bの外面よりも凹んでいるため、ブーツ5がフェルール10のブーツ挿入口14に挿入されたときに、ブーツ挿入口14の内部において、ブーツ5の挟持部55の外側に隙間ができる(光ファイバテープ心線4の挿入後であるが、図10Bにも隙間が示されている)。この隙間があるため、ブーツ5がフェルール10に挿入された後であっても、挟持部55が外側に変位できる。
【0064】
次に、作業者は、光ファイバテープ心線4をブーツ5の心線挿入口52Bから挿入し、各光ファイバ4Aをそれぞれの対応する光ファイバ穴12に挿入する(S103)。このとき、作業者は、光ファイバテープ心線4を1枚ずつ順に挿入し、フェルール10の下段の光ファイバ穴12から順に光ファイバ4Aを挿入する。なお、光ファイバ4Aを光ファイバ穴12に挿入する前に光ファイバ穴12には接着剤が予め充填されており、接着剤の充填された光ファイバ穴12に光ファイバ4Aが挿入される。
【0065】
4枚の光ファイバテープ心線4の挿入が終われば、作業者は、接着剤の漏洩を防止するための目止め処理を行う(S104)。目止め処理を行う箇所は、主に2カ所ある。
第1の目止め箇所は、挟持部55によって挟持されている光ファイバテープ心線と上壁部53A又は下壁部53Bとの間の隙間である。言い換えると、挟持部55の左右にできる隙間である。接着剤充填時に接着剤がこの隙間から外部に漏れるのを防止するためである。このため、作業者は、接着剤充填前に、この隙間を詰め物で埋めてパッキングする。
第2の目止め箇所は、光ファイバテープ心線同士の間である。接着剤充填後に加熱すると接着剤の粘度が低くなり、毛細管現象によって光ファイバテープ心線の間から接着剤が漏れやすくなるためである。このため、作業者は、遅くとも加熱前に、光ファイバテープ心線の間に目止め用の塗料を塗る。
【0066】
次に、接着剤充填窓15から接着剤が充填される(S105)。接着剤が充填された後、フェルール10を加熱して接着剤を硬化させることによって、光ファイバ4Aが光ファイバ穴12に固定される。
【0067】
最後に、光コネクタの仕上げ加工が施される(S106)。例えば、フェルール10の前側端面11Aが研磨により鏡面加工される。石英系ガラスである光ファイバ4Aは樹脂製のフェルール10よりも硬度が高いので、光ファイバ4Aが挿入されたフェルール10の前側端面11Aの研磨後には、光ファイバ4Aがフェルール10の前側端面11Aから突出した状態になる。これにより、光コネクタを接続する際にフェルール10の前側端面11Aから突出した光ファイバ4A同士が突き当たり、光ファイバ4AのPC接続(PCは、Physical Contactの略)が安定した接続状態になる。
【0068】
本実施形態では、ブーツ5をフェルール10に挿入した後で(S102)、光ファイバテープ心線4をブーツ5の心線挿入口52Bから挿入し、各光ファイバ4Aを光ファイバ穴12に挿入している(S103)。もし仮に、光ファイバ4Aを光ファイバ穴12に挿入する前に光ファイバテープ心線4の奥までブーツ5を一旦挿入しておき、4枚の光ファイバテープ心線4の各光ファイバ4Aを光ファイバ穴12に挿入した後で、ブーツ5をフェルール10のブーツ挿入口14に挿入した場合には、ブーツ5の挿入時に光ファイバ4Aが更に前方向に移動してしまう。この場合、光ファイバテープ心線4の被覆部分が光ファイバ穴12に当たるなどして光ファイバ4Aが傷ついたり、前方向に移動してしまった光ファイバ4Aを元の位置に引き戻すときにフェルール10の前側端面11Aから光ファイバ穴12(光ファイバ穴12には予め接着剤が充填されている)に気泡が混入したりするおそれがある。本実施形態の処理手順によれば、これらの問題は生じずに済む。
【0069】
===その他===
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更・改良され得ると共に、本発明には、その等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる形態であっても、本発明に含まれる。
【0070】
<フェルールについて1>
前述の実施形態では、フェルールの前側端面11Aは、ガイドピン穴13や光ファイバ穴12に対して垂直であった。但し、前側端面11Aは、これに限られるものではない。
図12は、フェルールの前側端面の変形例の説明図である。フェルール10’の前側端面は、8度に傾斜した傾斜面になっている。光ファイバの端面も光ファイバ軸の垂直面に対して8度傾くように研磨されることになる。これは、フレネル反射による接続損失の増大を抑制するためである。
このようなフェルールに対して前述のブーツ5を適用しても良い。
【0071】
<フェルールについて2>
前述の実施形態では、フェルールに4段の光ファイバ穴列があり、フェルール及びブーツには4枚の光ファイバテープ心線が挿入されていた。しかし、これに限られるものではない。例えば、フェルール及びブーツに2枚又は他の複数枚の光ファイバテープ心線を挿入できても良い。この場合、フェルールのブーツ挿入口や、ブーツの心線挿入口及び心線取出口の寸法は、挿入される光ファイバテープ心線の枚数に応じて適宜変更すると良い。
【0072】
また、フェルール及びブーツに挿入される光ファイバテープ心線は、複数枚に限られず、1枚でも良い。挿入される光ファイバテープ心線の数が1枚だとしても、前述のブーツを用いれば光ファイバテープ心線を上下から挟持部で挟持するので、光ファイバテープ心線の厚さに関わらず、光ファイバテープ心線の上下方向の位置が所定の位置に定まる。
【0073】
但し、1枚しか光ファイバテープ心線を挿入しない場合には、光ファイバテープ心線の厚さのばらつきの影響も小さいので、前述のブーツを用いたときの効果は小さいかもしれない。一方、複数の光ファイバテープ心線を挿入する場合、積層された複数の光ファイバテープ心線の全体の厚さのばらつきが大きくなるので、前述のブーツを用いたときの効果が大きい。
【0074】
<ブーツについて1>
前述の実施形態では、挟持部55の三方を囲むように変形部56が形成されていた。しかし、変形部56は、これに限られるものではない。
例えば、挟持部55の四方を囲むように変形部56が形成されていても良い。但し、この場合、挟持部55の上下方向の変位量を大きくすることが難しくなるかもしれない。
また、挟持部55の後側の変形部56を省略し、左右の変形部56だけで挟持部55を支持しても良い。若しくは、挟持部55の左右の変形部56を省略し、後側の変形部56だけで挟持部を支持しても良い。
また、変形部56にスリットを形成し、変形しやすくしても良い。
【0075】
<ブーツについて2>
前述の実施形態では、上下の挟持部及び変形部は上下対称に形成されていた。しかし、上下対称でなくても良い。但し、上下の挟持部及び変形部が非対称の場合、挿入された光ファイバテープ心線をブーツの中央に位置させて挟持することができず、上下のいずれかに偏ってしまう。また、通常、フェルールの光ファイバ穴が上下対称の位置に形成されていることを考慮すると、上下の挟持部及び変形部が非対称であるよりは、前述の実施形態のように対称である方が望ましい。
【0076】
<光コネクタの製造方法について>
前述の実施形態では、フェルールにブーツを挿入してから、光ファイバテープ心線を挿入していた。しかし、これに限られるものではない。例えば、光ファイバを光ファイバ穴に挿入する前に光ファイバテープ心線の奥までブーツを一旦挿入しておき、光ファイバテープ心線の各光ファイバを光ファイバ穴に挿入した後で、ブーツをフェルールのブーツ挿入口に挿入しても良い。但し、この場合、光ファイバテープ心線の奥まで一旦挿入したブーツをフェルールに挿入する際に、光ファイバが前方向に移動しないように注意を要する。
【符号の説明】
【0077】
1 光コネクタ、1M オス側光コネクタ、1F メス側光コネクタ、
2 ガイドピン、3 クランプスプリング、
4 光ファイバテープ心線、4A 光ファイバ、5 ブーツ、
10 フェルール、
11A 前側端面、11B 後側端面、11C 上面、11D 下面、
12 光ファイバ穴、
13 ガイドピン穴、
14 ブーツ挿入口、15 接着剤充填窓、16 突当部、
51A 前側端面、51B 後側端面、
52A 心線取出口、52B 心線挿入口、
53A 上壁部、53B 下壁部、53C 側壁部、
54 凹部、55 挟持部、55A 接触面、56 変形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバテープ心線を挿入するための貫通穴を有するブーツであって、
前記光ファイバテープ心線の厚さ方向から前記光ファイバテープ心線を挟持するための第1挟持部及び第2挟持部であって、前記貫通穴の入口側開口の前記厚さ方向の間隔よりも狭い間隔で互いに対向する第1挟持部及び第2挟持部と、
前記第1挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第1変形部と、
前記第2挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第2変形部と
を備えることを特徴とするブーツ。
【請求項2】
請求項1に記載のブーツであって、
前記第1挟持部及び前記第2挟持部は、前記貫通穴の出口側開口に設けられており、
前記第1挟持部の前記出口側開口の側は、前記第1変形部によって拘束されていなく、
前記第2挟持部の前記出口側開口の側は、前記第2変形部によって拘束されていない
ことを特徴とするブーツ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のブーツであって、
フェルールに挿入される範囲内に、前記第1挟持部、前記第2挟持部、前記第1変形部及び前記第2変形部が設けられている
ことを特徴とするブーツ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のブーツであって、
前記第1挟持部及び前記第1変形部と、前記第2挟持部及び前記第2変形部は、対称的な形状である
ことを特徴とするブーツ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のブーツであって、
複数の光ファイバテープ心線が挿入されることを特徴とするブーツ。
【請求項6】
複数の光ファイバ穴と、ブーツ挿入口とを有するフェルールと、
複数の光ファイバを有し、それぞれの光ファイバ穴が前記光ファイバ穴に挿入された光ファイバテープ心線と、
前記ブーツ挿入口に挿入されたブーツであって、前記光ファイバテープ心線の厚さ方向から前記光ファイバテープ心線を挟持する第1挟持部及び第2挟持部と、前記第1挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第1変形部と、前記第2挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第2変形部とを有するブーツと
を備えることを特徴とする光コネクタ。
【請求項7】
光ファイバテープ心線を挿入するための貫通穴を有するブーツであって、前記光ファイバテープ心線の厚さ方向から前記光ファイバテープ心線を挟持する第1挟持部及び第2挟持部と、前記第1挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第1変形部と、前記第2挟持部が前記厚さ方向に変位できるように弾性変形する第2変形部とを有するブーツを、フェルールのブーツ挿入口に挿入するステップと、
前記ブーツの前記貫通穴に前記光ファイバテープ心線を挿入し、前記光ファイバテープ心線の厚さ方向から前記光ファイバテープ心線を挟持させて、前記光ファイバテープ心線の光ファイバを前記フェルールの光ファイバ穴に挿入するステップと
を有することを特徴とする光コネクタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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