説明

ブーム及びクレーン

【課題】縦長断面のブームにおいて曲げ強度を維持しつつ座屈強度を向上できるブームを提供する。
【解決手段】上板部31と、上板部31より長い両側の側板部32,32と、下板部33と、によって縦長断面を構成しており、下板部33の両端が下板部33の中央に対して所定の下板折曲角度βをなすように内側に折り曲げられて下板傾斜部33aが形成されるブームである。
そして、両側の側板部32の下部は、側板部32の上部に対して下板折曲角度βよりも浅い側板折曲角度αをなすように内側に折り曲げられて側板傾斜部32aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブーム及びクレーンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、移動式クレーンなどの作業車のブームとして、強度を向上させるために様々な断面形状を有するものが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ブームの座屈強度を向上させるために、上下それぞれ3回曲げの六角形断面のブームが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、上下それぞれ4回曲げの八角形断面のブームが開示されている。この構成によれば、側板の長さを短くして座屈強度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−63007号公報
【特許文献2】実開平5−72887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1の構成は、性能向上のために軽量化を図ろうとして板厚を薄くすると、側板の断面積が減少することで座屈強度が低下するという問題があった。
【0007】
また、前記特許文献2の構成は、側板の長さを短くすることで曲げ強度が低下することになるため、縦長断面のブームには適さないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、縦長断面の曲げ強度と座屈強度の強度バランスのとれたブームによりブームの軽量化を図ることと、このブームを備えたクレーンと、を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明のブームは、上板部と、前記上板部より長い両側の側板部と、下板部と、によって縦長断面を構成しており、前記下板部の両端が前記上板部と平行な面に対して所定の下板折曲角度をなすように内側に折り曲げられて下板傾斜部が形成されるブームであって、両側の前記側板部の下部は、前記側板部の上部に対して前記下板折曲角度よりも浅い側板折曲角度をなすように内側に折り曲げられて側板傾斜部が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
こうした構成であるから、側板部の下部を下側傾斜部よりも浅く折り曲げて側板傾斜部を形成することで、所定の材料強度の下で曲げ強度を維持しつつ座屈強度を向上させることができ、縦長断面ブームとして、強度バランスのとれたブームとすることができる。これにより、ブームの軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のブームの断面構成を説明する断面図である。
【図2】本発明の積載型トラッククレーンの全体構成を説明する側面図である。
【図3】ブームの座屈強度の解析結果を示すグラフである。
【図4】ブームの曲げ強度の解析結果を示すグラフである。
【図5】従来のブームの構成を説明する断面図である。(a)は下半部を細かく折り曲げた例であり、(b)はラウンド状にした例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例】
【0013】
まず、図2を用いて本発明のブーム2を備える積載型トラッククレーン1の全体構成を説明する。なお、本発明のクレーンは、トラック架装の積載型トラッククレーン1に限定されるものではなく、トラッククレーン、ラフテレーンクレーンなどのブームを備える移動式クレーンなどに適用可能である。
【0014】
本発明の積載型トラッククレーン1は、図2に示すように、走行機能を有する車両の本体部分となる車体10と、車体10の前側左右に設けられたアウトリガ11,11と、車体10に水平旋回可能に取り付けられた旋回台12と、旋回台12に立設されたコラム13と、コラム13に起伏自在に取り付けられたブーム2と、を備えている。
【0015】
このブーム2は、先端ブーム3と中間ブーム4,5と基端ブーム6とによって4段の入れ子式に構成されており、内部に設置された伸縮シリンダ(不図示)によって伸縮できるようになっている。
【0016】
このうち基端ブーム6は、その付け根においてコラム13に水平に設置された支持軸に回動自在に取り付けられており、上下に起伏できるようになっている。
【0017】
つまり、コラム13と基端ブーム6の基端近傍との間には、起伏シリンダ14が架け渡されており、この起伏シリンダ14を伸縮することでブーム2全体を起伏することができる。
【0018】
さらに、先端ブーム3の先端には回転自在のシーブ(不図示)が取付けられており、このシーブには先端にフック17が取付けられたワイヤ16が掛けられている。
【0019】
一方、ワイヤ16の末端はウインチ(不図示)に巻き回されており、ウインチを回転させることでワイヤ16及びフック17を巻上げ又は巻下げることができる。
【0020】
以下、略同様の構成を有する先端ブーム3、中間ブーム4,5、基端ブーム6を代表して、先端ブーム3の構成について詳述する。
【0021】
この先端ブーム3は、高張力鋼板などによって箱状に形成されるもので、図1に示すように、上板部31と、上板部31より長い両側の側板部32,32と、下板部33と、によって縦長断面を構成している。
【0022】
この縦長断面を採用するのは小型のクレーンに多いが、これは小型のクレーンのブーム断面では大型のクレーンのブーム断面に比べて、断面積に対する板厚の占める割合が大きくなり、座屈強度に余裕ができるため、結果として曲げ強度によって断面形状が決定されることになるからである。
【0023】
なお、縦長断面における先端ブーム3の全高Hと全幅Wの比は、H/W=1.0以上であれば本発明を適用できるが、H/W=1.5以上の縦長断面のほうが本発明の特徴を発揮しやすい。さらに、このH/Wの上限値は特に制限されないが、実用的な値としてはH/W=3.0以下とされることが多い。
【0024】
加えて、この上板部31と側板部32,32と下板部33とは、一枚の高張力鋼板を八角形の筒状に折り曲げ、上板部31の中央付近で端部どうしを溶接によって繋ぎ合わせて一体に形成されている。
【0025】
また、側板部32に繋がっている下板部33の両端部分は、下板部33の中央部分に対して所定の下板折曲角度βをなすように内側(上側)に折り曲げられており、この折り曲げられた直線部分として下板傾斜部33aが形成されている。
【0026】
すなわち、下板傾斜部33aは、上板部31と平行な下板部33の中央部分に対して、折曲箇所の内角が(180−β)度となるように、内側に折り曲げられて形成される。
【0027】
そして、本実施例のブームとしての先端ブーム3では、両側の側板部32の下部は、側板部32の上部に対して下板折曲角度βよりも浅い側板折曲角度αをなすように内側に折り曲げられて側板傾斜部32aが形成されている。
【0028】
すなわち、側板傾斜部32aは、上板部31に直交する側板部32の上部に対して、側板部32の下部を折曲箇所の内角が(180−α)度となるように、内側に折り曲げて形成される。
【0029】
なお上板部32と平行な下板部33の中央部分は、その長さがゼロ、すなわち下板部33の両端部分が下板部33の中央部分から内側に折り曲げられるものであってもよい。
【0030】
また、後述する解析結果によると、この下板傾斜部33aの下板折曲角度βが10度以上の場合、側板傾斜部32aの側板折曲角度αは、座屈強度と曲げ強度のバランスを保持するために、5度以上10度未満にされることがよく、より好ましくは7度程度がよい。
【0031】
そして、側板部32の下部に形成される側板傾斜部32aの下板部33の下面からの折曲位置までの高さLは、座屈強度と曲げ強度のバランスを保持するために、下板部33の下面から断面の全高Hの1/3以下で、1/4程度の位置とすることが好ましい。
【0032】
次に、図3,4を用いて、前記実施例のブーム2の断面形状を最適化するために行った解析結果について説明する。なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0033】
この図3は、ブーム2のブーム断面形状、板厚、材料強度の相違による側板部32の座屈強度の変化を表すグラフである。
【0034】
また、図4は、ブーム2のブーム断面形状、板厚、材料強度に基づく縦方向の曲げ強度の変化を表すグラフである。
【0035】
図3の縦軸は座屈強度の大きさを表し、図4の縦軸は曲げ強度の大きさを表し、横軸は上記した3条件の推移を表している。
【0036】
そして、この図3,4では、左側の第一領域において形状の違いによる強度の変化を比較し、中央の第二領域において第一領域に対して材料強度を向上させた場合による強度の変化を比較し、右側の第三領域において第二領域に対して板厚を薄くした場合の強度の変化を比較している。
【0037】
以下、図3,4について、第一領域、第二領域、第三領域の3つに分けて解析結果について説明する。
【0038】
まず、左側の第一領域について説明すると、五角形断面から六角形断面に変化させると、曲げ強度は向上するものの座屈強度は低下する。
【0039】
これは、形状を変化させる際に、側板部32の下部の折り曲げ位置が下方に移動したため、縦方向の断面二次モーメントが増加して曲げ強度は向上するが、側板部32の範囲も増加するため座屈強度は低下するためである。
【0040】
また、六角形断面から八角形断面に変化させると、曲げ強度はやや低下するものの座屈強度は向上する。
【0041】
これは、形状を変化させる際に、側板部32の下部の折り曲げ位置が上方に移動したため、縦方向の断面二次モーメントが減少して曲げ強度は低下するが、側板部32の範囲が減少して座屈強度は向上するためである。
【0042】
次に、中央の第二領域について説明すると、材料強度比を初期値1.00から1.16に向上させると、曲げ強度は3つの形状すべてで向上するものの、座屈強度は変化しない。
【0043】
これは、曲げ強度の変化には材料強度が直接的に影響する一方、座屈強度の変化は形状によって影響を受けるが材料強度は影響を受けないことによる。
【0044】
最後に、右側の第三領域について説明すると、材料強度を向上させたまま、板厚比を初期値1.00から0.88へと薄くすると、曲げ強度と座屈強度の両方ともに3つの形状すべてで低下する。
【0045】
これは、板厚を薄くすることで、断面二次モーメントが減少するため、曲げ強度とともに座屈強度が低下することによる。
【0046】
そして、曲げ強度と座屈強度の両方の目標レベルを同時に満足するのは八角形断面(5度)のみとなった。この場合、さらに側板折曲角度αを5度から7度に変化させると、曲げ強度はやや低下するものの、座屈強度を高めることができる。
【0047】
このように、側板折曲角度αは大きくなるほど座屈強度は向上するが、曲げ強度は低下することがわかる。このため、必要な曲げ強度を維持しつつ座屈強度を向上させる側板折曲角度αとして、α=5度〜10度が最適な範囲であり、特に7度が曲げ強度と座屈強度のバランスがよい値といえる。
【0048】
上記したように、作業車の性能を向上させるためには、ブーム2の板厚を薄くして軽量化を図ることが必要となるが、材料強度を高くしただけでは座屈強度は向上しない。
【0049】
そこで、従来の下半部を4回曲げて下板傾斜部33aを設けた形状ではなく、さらに側板32の下部を曲げて側板傾斜部32aを設けた形状にすることで、座屈強度を高めることができる。
【0050】
次に、本実施例のブーム2の作用について説明する。
【0051】
(1)本実施例のブームとしての先端ブーム3は、上板部31とこの上板部31より長い側板部32,32と下板部33とによって縦長断面を構成しており、下板部33の両端が所定の下板折曲角度βをなすように内側に折り曲げられて下板傾斜部33aが形成されるブームであって、両側の側板部32,32の下部は、側板部32,32の上部に対して下板折曲角度βよりも浅い側板折曲角度αをなすように内側に折り曲げられて側板傾斜部32a,32aが形成されている。
【0052】
このように、側板部32,32の下部を浅く折り曲げて側板傾斜部32a,32aを形成することで、曲げ強度と座屈強度の強度バランスをとりつつ、軽量化を図ることができる。
【0053】
(2)また、下板傾斜部33aの下板折曲角度βが10度以上の場合、側板傾斜部32aの側板折曲角度αは5度以上10度以下にされることで、下板傾斜部33aと側板傾斜部32aの折曲点が断面内で比較的上方に位置することになるため、座屈強度を維持するために側板傾斜部32aを設けても、下板傾斜部33aとして必要な長さを保持して曲げ強度を確保することができる。
【0054】
加えて、側板傾斜部32aの側板折曲角度αを浅く制限することで、下板傾斜部33aと側板傾斜部32aの折曲点が外側に位置することになるため、座屈強度を維持させつつ曲げ強度を向上することができる。
【0055】
(3)さらに、側板部32の下部に形成される側板傾斜部32aの折り曲げの開始位置の下板部33の下面からの高さLは、下板部33の下面から断面の全高Hの1/3以下の位置とされることで、下板傾斜部33aとして必要な長さを保持して曲げ強度を確保することができる。
【0056】
加えて、側板傾斜部32aの折り曲げの開始位置の高さLを低く制限することで、下板傾斜部33aと側板傾斜部32aの折曲点がいっそう外側に位置することになるため、座屈強度を維持させつつ曲げ強度を向上することができる。
【0057】
(4)また、上板部31と側板部32,32と下板部33とは、一枚の鋼板を筒状に折り曲げて一体に形成されることで、プレス加工、溶接、ひずみ取りなどの加工費用を抑制できる。
【0058】
つまり、上板部31と側板部32,32と下板部33とは折り曲げられて形成されるが、ラウンド化されたブームのように特に大きな曲げ半径で折り曲げられるものではないため、一枚の鋼板で製作する際の製造工程が低減できる。
【0059】
(5)そして、本実施例のクレーンとしての積載型トラッククレーン1は、上記したいずれか一項に記載のブーム2を備えることで、ブーム2を薄肉にすることで軽量化しつつ吊上性能の向上したクレーンとなる。
【0060】
特に、積載型トラッククレーン1や12tクラスの小型のラフテレーンクレーンなどでは、板厚との関係から縦長断面が採用されることが多いため、本発明を適用することの効果は大きい。
【0061】
なお、図5(a)に示す断面と比較すると、下半部の従来の曲げ回数が9回曲げに対して本実施例では6回曲げであるから、本実施例の曲げ回数のほうが大幅に少ない。
【0062】
したがって、例えば4段ブームの場合には、従来の下半部4回曲げと比べて4段それぞれのブーム製造工程でプレス箇所が2回ずつ増加するだけであるから、従来の断面のように下半部を9回曲げる場合と比べると製造が大幅に省力化される。
【0063】
また、図5(b)に示すラウンド化された断面と比較すると、本実施例のブーム2では下板傾斜部33aと側板傾斜部32aの折曲点が円弧部分よりも外側に位置するため、曲げ強度が高くなる。
【0064】
つまり、そもそも縦長断面は、座屈強度に余裕のある形状であるため、下半部をラウンド化して座屈強度を大きく高める必要性は高くなく、曲げ強度を確保することがより重要である。
【0065】
以上、図面を参照して、本発明の実施例を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0066】
例えば、前記実施例では、ブームとしての先端ブーム3の上半部の両端において、小さな曲げ半径で折り曲げられる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、大きな曲げ半径で折り曲げられるものであってもよい。
【0067】
また、ブームの上半部の両側において、浅く折り曲げた側板傾斜部を形成したものであってもよい。
【0068】
また、前記実施例では、全体が一枚の鋼板で形成されており下板部33が弾性座屈しない場合について説明したが、これに限定されるものではなく、下板部33が弾性座屈するおそれがある場合には補強板を貼設して弾性座屈を防止するように構成してもよい。
【0069】
また、前記実施例では、全体が1枚の鋼板で形成されている場合について説明したが、これに限定されるものではなく、2枚以上の板で形成されるものであってもよい。この場合、側板及び側板傾斜部の板の厚さに対し、それ以外の部分の板の厚さを厚く形成されるものであってもよい。例えば、材料強度の低い板材を用いた場合や、縦長比の低いブームを用いた場合に、側板を薄く、下板を厚くして側板傾斜部に浅い角度を入れることによっても軽量化と強度のバランスのとれたブームとすることができる。
【符号の説明】
【0070】
α 側板折曲角度
β 下板折曲角度
H 全高
L 折曲高
W 全幅
1 積載型トラッククレーン
2 ブーム
3 先端ブーム(ブーム)
4,5 中間ブーム(ブーム)
6 基端ブーム(ブーム)
31 上板部
32 側板部
32a 側板傾斜部
33 下板部
33a 下板傾斜部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上板部と、前記上板部より長い両側の側板部と、下板部と、によって縦長断面を構成しており、前記下板部の両端が前記上板部と平行な面に対して所定の下板折曲角度をなすように内側に折り曲げられて下板傾斜部が形成されるブームであって、
両側の前記側板部の下部は、前記側板部の上部に対して前記下板折曲角度よりも浅い側板折曲角度をなすように内側に折り曲げられて側板傾斜部が形成されることを特徴とするブーム。
【請求項2】
前記下板傾斜部の前記下板折曲角度が10度以上の場合、前記側板傾斜部の前記側板折曲角度は5度以上10度以下にされることを特徴とする請求項1に記載のブーム。
【請求項3】
前記側板部の下部に形成される前記側板傾斜部の折曲位置は、前記下板部の下面から断面の全高の1/3以下の位置とされることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のブーム。
【請求項4】
前記上板部と前記側板部と前記下板部とは、一枚の鋼板を筒状に折り曲げて一体に形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のブーム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のブームを備えることを特徴とするクレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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