説明

プッシュスイッチおよびその製造方法

【課題】成形寸法の誤差に起因するスライダの位置ずれやガタを効果的に抑制できて金型コストも削減できるプッシュスイッチと、その製造方法を提供すること。
【解決手段】筒状ケース2に往復動可能に支持されたスライダ3が押圧操作されるプッシュスイッチであって、スライダ3の当接凸部33〜36の当接傾斜面33a〜36aがそれぞれ、筒状ケース2の規制凹部22〜25の規制傾斜面22a〜25aに対して当接可能なため、復動時のスライダ3は所定の非操作位置へ復帰する。また、筒状ケース2の樹脂材料よりも熱収縮率が大きく溶融温度が低い樹脂材料を、筒状ケース2を金型の一部となすキャビティ内に射出することによってスライダ3が成形されているため、各当接凸部は各規制凹部と相補形状をなす凸部の僅かに小なる相似形として形成されている。規制傾斜面22a,23aどうしの間隔は復動方向で増大していると共に、復動方向に略直交する規制凹部22,23の奥方向で増大している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押圧操作後の復動時にスライダの一部をケース側の傾斜面に当接させることによって、このスライダが所定の非操作位置へ自動復帰できるようにしたプッシュスイッチと、その製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のプッシュスイッチの従来例として、筒状ケースにスライダを昇降可能に支持し、このスライダの大径部の上面四隅に四角錐形状の当接凸部を設けると共に、筒状ケースの天井面の4箇所に当接凸部と相補形状をなす規制凹部を設け、各当接凸部を各規制凹部と略嵌合させた状態でスライダが非操作位置に保持されるように構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。かかる従来例において、筒状ケースはプリント基板上に設置されており、このプリント基板に配設されたタクトスイッチ上にスライダの大径部が搭載されている。また、スライダには大径部から上方へ延びて筒状ケースの挿通口(上部開口)を貫通する小径部が設けられており、この小径部に操作ノブが冠着されている。
【0003】
このように概略構成された従来のプッシュスイッチは、操作ノブを介してスライダが押圧操作されると、筒状ケース内でスライダの大径部が下降するため、各当接凸部が対応する規制凹部内から離脱すると共に、スライダの大径部がタクトスイッチを押し込んでこれをオン動作させる。この後、押圧操作力が取り除かれると、タクトスイッチに内蔵されている弾性部材の付勢力でスライダの大径部が押し上げられるため、タクトスイッチがオフ状態に戻ると共に、各当接凸部が対応する規制凹部内へ押し戻されてスライダは元の高さ位置まで上昇する。かかる復帰動作時にスライダは筒状ケースに対し若干傾いて上昇するが、規制凹部内に対応する当接凸部が入り込むと、当接凸部が規制凹部の傾斜面に沿って摺動するため、スライダが筒状ケースに衝突して発生する衝撃音は極めて小さい。また、当接凸部が対応する規制凹部の傾斜面に案内されて元の略嵌合状態へ移行するため、前記弾性部材に付勢されるスライダを筒状ケースに対してガタのない所定の非操作位置へ自動復帰させることが可能となる。
【特許文献1】特開2005−353409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述した従来のプッシュスイッチでは、筒状ケースの規制凹部内にスライダの当接凸部が略嵌合できるように、規制凹部と当接凸部が互いに相補形状に形成されているが、筒状ケースとスライダにはそれぞれ成形寸法の誤差が発生するため、非操作時における規制凹部と当接凸部の係合箇所には若干のばらつきが見込まれる。つまり、前述した従来例はスライダの非操作位置が成形寸法の誤差の影響でばらつきやすく、誤差が大きい場合、非操作状態のスライダに少なからぬガタが生じてしまう虞があった。また、こうした成形寸法の誤差を極力抑制するために筒状ケースやスライダの金型を高精度に作製する必要があるため、金型コストが嵩んで安価にプッシュスイッチを製造できないという問題もあった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、成形寸法の誤差に起因するスライダの位置ずれやガタを効果的に抑制できて金型コストも削減できるプッシュスイッチを提供することにある。また、本発明の第2の目的は、そのようなプッシュスイッチの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の第1の目的を達成するため、本発明は、筒状ケースと、この筒状ケースに往復動可能に支持されて押圧操作時に往動するスライダと、このスライダを付勢して復動させる付勢手段とを備え、前記スライダの当接部に設けた当接傾斜面を前記筒状ケースの規制部に設けた規制傾斜面に対して当接させることにより、復動時の該スライダが非操作位置へ自動復帰するようにしたプッシュスイッチにおいて、前記スライダが、前記筒状ケースの樹脂材料よりも熱収縮率が大きく溶融温度が低い別の樹脂材料からなる成形品であると共に、前記当接部の形状が前記規制部の相補形状の僅かに小なる相似形として形成されており、かつ、前記筒状ケースに互いの間隔を復動方向に沿って増大させて対をなす前記規制傾斜面を設ける構成とした。
【0007】
このように構成されたプッシュスイッチは、筒状ケースの樹脂材料に比べてスライダの樹脂材料の方が熱収縮率が大きくて溶融温度が低いため、筒状ケースを金型の一部となすキャビティ内に後者の樹脂を射出して冷却固化させるという2色成形技術によってスライダを成形できる。これにより、スライダの当接部の形状を、筒状ケースの規制部の相補形状の僅かに小なる相似形として高精度に形成することができるため、非操作時における規制傾斜面と当接傾斜面の係合箇所がばらつかなくなり、成形寸法の誤差に起因するスライダの位置ずれやガタを効果的に抑制できる。また、スライダを成形するための金型の一部に筒状ケースを用いることによって金型コストを削減できるため、プッシュスイッチを安価に製造できるようになる。
【0008】
ここで、押圧操作後の復動時にスライダが非操作位置へ確実に押し戻される理由について説明する。筒状ケースとスライダとの間にはスライダが円滑に往復動できるように所要のクリアランスが確保されている関係上、復動時にスライダは筒状ケースに対して僅かに傾く。そのため、スライダに設けられている複数の当接傾斜面が筒状ケースの各規制傾斜面に同時に当接することはほとんどなく、いずれかの当接傾斜面が対応する規制傾斜面に先に当接して該規制傾斜面を摺動しながらスライダの傾きを是正していく。つまり、スライダは規制傾斜面に案内されながら非操作位置へ押し戻されるため、スライダが筒状ケースに衝突して発生する衝撃音は極めて小さく、かつ所定の非操作位置へスライダを確実に自動復帰させることができる。また、対をなす規制傾斜面どうしの間隔が復動方向に沿って増大しているため、これら規制傾斜面の位置規制によってスライダのガタを効果的に抑制できる。
【0009】
上記の構成のプッシュスイッチにおいて、筒状ケースにスライダの小径部を貫通させる挿通口が開設されており、この挿通口の内周壁に規制部を臨出させると共に、対をなす規制傾斜面どうしの間隔を復動方向に略直交する前記規制部の奥方向で増大させておけば、非操作時のスライダを一対の規制傾斜面によって、その規制部どうしが並ぶ方向に位置規制できるのみならず、これら規制部の奥方向にも位置規制できるようになるため好ましい。また、規制部が挿入口に臨出させてあれば、筒状ケースの金型形状を単純化できると共に、2色成形技術によってスライダの当接部を成形することが容易となる。
【0010】
上記の第2の目的を達成するため、本発明は、当接傾斜面を有するスライダが規制傾斜面を有する筒状ケースに往復動可能に支持されて押圧操作時に往動すると共に、前記スライダの復動時に前記当接傾斜面が前記規制傾斜面に対して当接することにより、該スライダが非操作位置へ自動復帰するようにしたプッシュスイッチの製造方法において、第1のキャビティ内に第1の樹脂を射出して冷却固化させることによって、互いの間隔を復動方向に沿って増大させて対をなす前記規制傾斜面を含む規制部が形成された前記筒状ケースを成形した後、前記筒状ケースを金型の一部となす第2のキャビティ内に、前記第1の樹脂よりも熱収縮率が大きく溶融温度が低い第2の樹脂を射出して冷却固化させることによって、前記規制部の相補形状の僅かに小なる相似形として前記当接部が形成された前記スライダを成形するようにした。
【0011】
このように第1の樹脂からなる筒状ケースを成形した後、この筒状ケースを金型の一部となすキャビティ内に第1の樹脂よりも熱収縮率が大きく溶融温度が低い第2の樹脂を射出して冷却固化させるという2色成形技術によってスライダを成形すれば、スライダの当接部の形状を筒状ケースの規制部の相補形状の僅かに小なる相似形として高精度に形成することができる。そのため、これら筒状ケースとスライダを組み合わせてなるプッシュスイッチは、非操作時における規制傾斜面と当接傾斜面の係合箇所がばらつかなくなり、成形寸法の誤差に起因するスライダの位置ずれやガタを効果的に抑制できる。また、スライダを成形するための金型の一部に筒状ケースを用いることによって金型コストを削減できるため、プッシュスイッチを安価に製造できるようになる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプッシュスイッチは、筒状ケースを金型の一部となすキャビティ内に樹脂を射出して冷却固化させるという2色成形技術によってスライダが成形できるため、スライダの当接部の形状を筒状ケースの規制部の相補形状の僅かに小なる相似形として高精度に形成することができる。これにより、非操作時における規制傾斜面と当接傾斜面の係合箇所のばらつきが解消されるため、成形寸法の誤差に起因するスライダの位置ずれやガタを効果的に抑制できる。また、スライダを成形するための金型の一部に筒状ケースを用いることによって金型コストを削減できるため、プッシュスイッチを安価に製造することができる。
【0013】
本発明のプッシュスイッチの製造方法は、第1の樹脂からなる筒状ケースを成形した後、この筒状ケースを金型の一部となすキャビティ内に第1の樹脂よりも熱収縮率が大きく溶融温度が低い第2の樹脂を射出して冷却固化させるという2色成形技術によってスライダを成形するというものなので、スライダの当接部の形状を筒状ケースの規制部の相補形状の僅かに小なる相似形として高精度に形成することができる。そのため、これら筒状ケースとスライダを組み合わせてなるプッシュスイッチは、非操作時における規制傾斜面と当接傾斜面の係合箇所がばらつかなくなり、成形寸法の誤差に起因するスライダの位置ずれやガタを効果的に抑制できる。また、スライダを成形するための金型の一部に筒状ケースを用いることによって金型コストを削減できるため、プッシュスイッチを安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
発明の実施の形態を図面を参照して説明すると、図1は本発明の第1実施形態例に係るプッシュスイッチの外観図、図2は該プッシュスイッチの筒状ケースとスライダを示す分解斜視図、図3は該プッシュスイッチを操作ノブを外して示す上面図、図4は図3のA−A線に沿う断面図、図5は図3のB−B線に沿う断面図、図6は該プッシュスイッチの押圧操作後の復帰動作を説明するための断面図、図7は該プッシュスイッチの筒状ケースの製造工程を示す説明図、図8は該プッシュスイッチのスライダの製造工程を示す説明図である。
【0015】
図1〜図5に示すプッシュスイッチは、複数のタクトスイッチ5が配設されている基台1と、基台1上に設置された筒状ケース2と、筒状ケース2に昇降可能(往復動可能)に支持されたスライダ3と、スライダ3に取り付けられた操作ノブ4とによって主に構成されている。このプッシュスイッチは、操作ノブ4を押圧操作してスライダ3を下降(往動)させると、タクトスイッチ5がスライダ3に駆動されてオン動作するようになっている。また、かかる押圧操作力を取り除くと、タクトスイッチ5に内蔵されている図示せぬ弾性部材の付勢力でスライダ3が押し上げられるため、タクトスイッチ5がオフ状態に戻ると共に、スライダ3が元の高さ位置まで上昇(復動)するようになっている。
【0016】
基台1には図示せぬ配線パターンや端子部が形成されており、タクトスイッチ5は前記配線パターンと電気的に接続されている。このタクトスイッチ5は昇降可能な可動部51を有し、前記弾性部材の付勢力に抗して可動部51が押下されると、タクトスイッチ5の内部で可動接点が固定接点に接触してオン信号が出力されるようになっている。なお、基台1としてプリント基板の一部を代用することも可能である。
【0017】
筒状ケース2はほぼ角筒状に形成された樹脂成形品であり、その上面側には矩形状の挿通口(上部開口)21が開設されている。挿通口21の内周壁には一面の2箇所に規制凹部22,23が臨出しており、該一面と対向する他面の2箇所に規制凹部24,25が臨出している。これら4つの規制凹部22〜25は全て同じ大きさの三角錐を画成している。筒状ケース2の前記一面に並んで設けられた規制凹部22,23の隣接する側の内壁面は対をなす規制傾斜面22a,23aとして形成されており、これら規制傾斜面22a,23aどうしの間隔は、復動方向(上方)で増大していると共に、復動方向に略直交する規制凹部22,23の奥方向で増大している(図3参照)。同様に、筒状ケース2の前記他面に並んで設けられた規制凹部24,25の隣接する側の内壁面は対をなす規制傾斜面24a,25aとして形成されており、これら規制傾斜面24a,25aどうしの間隔は、復動方向(上方)で増大していると共に、復動方向に略直交する規制凹部24,25の奥方向で増大している(図3参照)。
【0018】
スライダ3は角筒状の大径部31上にひと回り小さな角筒状の小径部32を立設してなる樹脂成形品であり、大径部31上には小径部32の周囲4箇所に当接凸部33〜36が突設されている。大径部31は筒状ケース2の内部に収納されて複数のタクトスイッチ5上に搭載されている。小径部32は挿通口21を貫通して筒状ケース2の上方へ突出しており、この小径部32に操作ノブ4が冠着されている。大径部31上の4つの当接凸部33〜36は全て同じ大きさの三角錐であり、各三角錐の底面が大径部31の上面内に位置し、各三角錐の内側面が小径部32の外周面内に位置している。これら4つの当接凸部33〜36はそれぞれ、非操作時に筒状ケース2の4つの規制凹部22〜25内に入り込んで係合する。ただし、当接凸部33〜36は規制凹部22〜25の完全な相補形状にはなっておらず、規制凹部22〜25と相補形状をなす凸部(三角錐)の僅かに小なる相似形として形成されている。
【0019】
すなわち、4つの当接凸部33〜36のうち、隣接する2つの当接凸部33,34は、相対向する外壁面である当接傾斜面33a,34aがそれぞれ筒状ケース2の規制傾斜面22a,23aと当接可能であり、図4に示すように、非操作時には、当接傾斜面33a(当接凸部33の図示右側の外壁面)が規制傾斜面22aと略接触し、かつ当接傾斜面34a(当接凸部34の図示左側の外壁面)が規制傾斜面23aと略接触している。したがって、非操作時のスライダ3は、規制傾斜面22a,23aによって規制凹部22,23の並ぶ方向(図3の左右方向)に位置規制されていると共に、規制凹部22,23の奥方向(図3の下方向)に位置規制されている。同様に、隣接する2つの当接凸部35,36は、相対向する外壁面である当接傾斜面35a,36aがそれぞれ筒状ケース2の規制傾斜面24a,25aと当接可能であり、非操作時には一方の外壁面である当接傾斜面35aが規制傾斜面24aと略接触して、他方の外壁面である当接傾斜面36aが規制傾斜面25aと略接触している。したがって、非操作時のスライダ3は、規制傾斜面24a,25aによって規制凹部24,25の並ぶ方向(図3の左右方向)に位置規制されていると共に、規制凹部24,25の奥方向(図3の上方向)に位置規制されている。
【0020】
このように構成されたプッシュスイッチは、操作ノブ4を介してスライダ3が押圧操作されると、筒状ケース2内でスライダ3の大径部31が下降(往動)するため、各当接凸部33〜36が対応する規制凹部22〜25内から離脱すると共に、大径部31が可動部51を押し込んでタクトスイッチ5をオン動作させる。また、この後、押圧操作力が取り除かれると、タクトスイッチ5に内蔵されている弾性部材の付勢力で可動部51が押し上げられるため、タクトスイッチ5がオフ状態に戻ると共に、可動部51を介してスライダ3が上昇(復動)するため、当接凸部33〜36が対応する規制凹部22〜25内へ押し戻されてスライダ3は元の高さ位置まで上昇する。
【0021】
筒状ケース2とスライダ3との間にはスライダ3が円滑に往復動できるように所要のクリアランスが確保されている関係上、かかる復帰動作時(復動時)にスライダ3は筒状ケース2に対して僅かに傾く。そのため、スライダ3に設けられている4つの当接凸部33〜36が筒状ケース2の対応する規制傾斜面22a〜25aに同時に当接することはほとんどなく、図6に示すように、いずれかの当接凸部(例えば当接凸部34)が対応する規制傾斜面23aに先に当接して該規制傾斜面23aを摺動しながらスライダ3の傾きを是正していく。つまり、スライダ3は筒状ケース2の規制傾斜面に案内されながら押し戻されるため、スライダ3が筒状ケース2に衝突して発生する衝撃音は極めて小さく、かつ所定の非操作位置へスライダ3を確実に自動復帰させることができる。また、規制傾斜面22a〜25aの位置規制によってスライダ3のガタを効果的に抑制できる。
【0022】
次に、このプッシュスイッチの筒状ケース2とスライダ3の製造方法を、図7および図8に基づいて説明する。
【0023】
筒状ケース2を製造する際には、図7に示すように、第1金型61と第2金型62との間に画成された第1のキャビティ71内に溶融状態のPC(ポリカーボネイト)を射出して冷却固化させる。これにより、第1のキャビティ71とほぼ同形の筒状ケース2が成形される。なお、PCは熱収縮率が約1%で溶融温度が260℃程度である。
【0024】
こうしてPCからなる筒状ケース2を成形した後、筒状ケース2を金型の一部として利用する2色成形技術によって、ポリアセタールからなるスライダ3を成形する。すなわち、図8に示すように、第1金型61と筒状ケース2と第3金型63との間に画成された第2のキャビティ72内に溶融状態のポリアセタールを射出して冷却固化させることにより、第2のキャビティ72とほぼ同形のスライダ3が成形される。ポリアセタールは熱収縮率が約2%で溶融温度が200℃程度なので、スライダ3の成形時に筒状ケース2が軟化して変形する虞はなく、かつポリアセタールが冷却固化してスライダ3が成形されると、該スライダ3は筒状ケース2から自然に剥離する。また、かかる熱収縮率の相違によって、スライダ3の当接凸部33〜36は、筒状ケース2の規制凹部22〜25と相補形状をなす凸部(三角錐)の僅かに小なる相似形として形成される。
【0025】
以上説明したように、本実施形態例に係るプッシュスイッチは、筒状ケース2の樹脂材料と比べてスライダ3の樹脂材料の方が熱収縮率が大きく溶融温度が低いため、筒状ケース2を金型の一部となす2色成形技術によってスライダ3を成形できる。これにより、スライダ3の当接凸部33〜36の形状を、筒状ケース2の規制凹部22〜25と相補形状をなす凸部の僅かに小なる相似形として高精度に形成することができるため、非操作時における規制凹部22〜25と当接凸部33〜36の係合箇所がばらつかなくなり、成形寸法の誤差に起因するスライダ3の位置ずれやガタを効果的に抑制できる。また、スライダ3を成形するための金型の一部に筒状ケース2を用いることによって金型コストを削減できるため、プッシュスイッチを安価に製造できるようになる。
【0026】
また、本実施形態例に係るプッシュスイッチでは、筒状ケース2の挿通口21の内周壁に規制凹部22〜25が臨出させてある。そして、対をなす規制傾斜面22a,23aどうしの間隔や規制傾斜面24a,25aどうしの間隔が、復動方向(上方)およびこれと略直交する奥方向で増大するように規制凹部22〜25が形成してある。そのため、非操作時のスライダ3を、規制傾斜面22a〜25aによって図3の左右方向に位置規制できるのみならず、図3の上下方向にも位置規制でき、簡素な構造でスライダ3のガタを効果的に抑制できるようになっている。しかも、規制凹部22〜25を挿入口21に臨出させているため、筒状ケース2の金型形状を単純化することができ、その結果、2色成形技術でスライダ3の当接凸部33〜36を成形することが容易となっている。
【0027】
なお、本実施形態例では、筒状ケース2の樹脂材料がPCでスライダ3の樹脂材料がポリアセタールの場合について説明したが、他の樹脂材料が適宜選択できることは言うまでもない。その場合、スライダ用の樹脂材料として、筒状ケース用の樹脂材料よりも熱収縮率が0.8〜1.2%程度大きい材料を選択すると、成形時の剥離性や寸法精度を確保しやすくなるため好ましい。具体的な一例を挙げると、筒状ケース2の樹脂材料がABSでスライダ3の樹脂材料がPBT等である。
【0028】
図9は本発明の第2実施形態例に係るプッシュスイッチを操作ノブを外して示す断面図であり、図4と対応する部分には同一符号が付してあるため、重複する説明は省略する。
【0029】
本第2実施形態例に係るプッシュスイッチは、筒状ケース2の規制部42,43等の形状が前記第1実施形態例と異なっており、それに伴い、規制部と相補形状の僅かに小なる相似形として形成されている当接部53,54等の形状も前記第1実施形態例と異なっている。すなわち、本第2実施形態例では、筒状ケース2の挿入口(上部開口)側で各規制部42,43等の形状が三角形ではなく台形状になっており、それに伴い各当接部53,54等の内側面の形状も台形状になっている。ただし、規制傾斜面42a,43aおよび当接傾斜面53a,54a等については本第2実施形態例と前記第1実施形態例とに基本的な相違はないため、プッシュスイッチの動作は前記第1実施形態例とほぼ同様である。また、筒状ケース2用の金型形状が若干異なる点を除いて、プッシュスイッチの製造方法も本第2実施形態例は前記第1実施形態例とほぼ同様である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態例に係るプッシュスイッチの外観図である。
【図2】第1実施形態例に係るプッシュスイッチの筒状ケースとスライダを示す分解斜視図である。
【図3】第1実施形態例に係るプッシュスイッチの上面図である。
【図4】図3のA−A線に沿う断面図である。
【図5】図3のB−B線に沿う断面図である。
【図6】第1実施形態例に係るプッシュスイッチの押圧操作後の復帰動作を説明するための断面図である。
【図7】第1実施形態例に係るプッシュスイッチの製造工程図である。
【図8】第1実施形態例に係るプッシュスイッチの製造工程図である。
【図9】本発明の第2実施形態例に係るプッシュスイッチの断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 基台
2 筒状ケース
3 スライダ
4 操作ノブ
5 タクトスイッチ(付勢手段)
21 挿通口
22,23,24,25 規制凹部(規制部)
22a,23a,24a,25a 規制傾斜面
33,34,35,36 当接凸部(当接部)
33a,34a,35a,36a 当接傾斜面
42,43 規制部
42a,43a 規制傾斜面
53,54 当接部
53a,54a 当接傾斜面
61,62,63 金型
71 第1のキャビティ
72 第2のキャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状ケースと、この筒状ケースに往復動可能に支持されて押圧操作時に往動するスライダと、このスライダを付勢して復動させる付勢手段とを備え、前記スライダの当接部に設けた当接傾斜面を前記筒状ケースの規制部に設けた規制傾斜面に対して当接させることにより、復動時の該スライダが非操作位置へ自動復帰するようにしたプッシュスイッチであって、
前記スライダが、前記筒状ケースの樹脂材料よりも熱収縮率が大きく溶融温度が低い別の樹脂材料からなる成形品であると共に、前記当接部の形状が前記規制部の相補形状の僅かに小なる相似形として形成されており、かつ、前記筒状ケースに互いの間隔を復動方向に沿って増大させて対をなす前記規制傾斜面を設けたことを特徴とするプッシュスイッチ。
【請求項2】
請求項1の記載において、前記筒状ケースに前記スライダの小径部を貫通させる挿通口が開設されており、この挿通口の内周壁に前記規制部を臨出させると共に、対をなす前記規制傾斜面どうしの間隔を復動方向に略直交する前記規制部の奥方向で増大させたことを特徴とするプッシュスイッチ。
【請求項3】
当接傾斜面を有するスライダが規制傾斜面を有する筒状ケースに往復動可能に支持されて押圧操作時に往動すると共に、前記スライダの復動時に前記当接傾斜面が前記規制傾斜面に対して当接することにより、該スライダが非操作位置へ自動復帰するようにしたプッシュスイッチの製造方法であって、
第1のキャビティ内に第1の樹脂を射出して冷却固化させることによって、互いの間隔を復動方向に沿って増大させて対をなす前記規制傾斜面を含む規制部が形成された前記筒状ケースを成形した後、
前記筒状ケースを金型の一部となす第2のキャビティ内に、前記第1の樹脂よりも熱収縮率が大きく溶融温度が低い第2の樹脂を射出して冷却固化させることによって、前記規制部の相補形状の僅かに小なる相似形として前記当接部が形成された前記スライダを成形することを特徴とするプッシュスイッチの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−9877(P2010−9877A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166350(P2008−166350)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】