説明

プライマー・サーフェイサー・コーティング組成物用水媒性バインダー

本発明は、硬化剤Cと、ヒドロキシル基含有ポリエステルA及び酸性基含有ポリウレタンBを少なくとも部分エステル化することによって作られる反応生成物ABとの混合物を含み、A及びBの各々が芳香族構造を含む分子のそれらの遊離体A1、A2、B1、及びB2を20%以下の物質量で含むことを特徴とする、水媒性コーティング・バインダーABCに関し、それらの調製方法、及びプライマー・サーフェイサー・コーティング組成物を処方するためのそれらの使用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライマー・サーフェイサー・コーティング組成物用水媒性バインダーに関する。より詳細には、これらの組成物で使用するための焼付型バインダー、及びこれらを作る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プライマー・サーフェイサー・コーティング組成物用の焼付型バインダー、特に自動車OEM用途のものが、特許文献により知られている。そのようなバインダーは、とりわけ特許DE4142816C1及びEP1199342B1に記載されている。
【0003】
DE4142816C1において、カルボキシル基含有ポリウレタン及びヒドロキシル基含有ポリエステルの縮合生成物がおおまかに記載されているが、トルエンジイソシアネートに由来する酸性ポリウレタン、並びに芳香族二官能性及び三官能性カルボン酸(すなわちイソフタル酸及びトリメリット酸)に由来するヒドロキシル基含有ポリエステルのみが例として挙げられている。同様に、EP1199342B1において、カルボキシル基含有ポリウレタン及びヒドロキシル基含有ポリエステルの縮合生成物がおおまかに記載されているが、トルエンジイソシアネートに由来する酸性ポリウレタン、並びに芳香族二官能性及び三官能性カルボン酸(すなわちイソフタル酸及びトリメリット酸)に由来するヒドロキシル基含有ポリエステルのみが例として挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】DE4142816C1
【特許文献2】EP1199342B1
【特許文献3】EP0594685B1
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】DIN EN ISO 3682(DIN 53 402)
【非特許文献2】DIN EN ISO 4629(DIN 53 240)
【発明の概要】
【0006】
芳香族遊離体(出発物質)に由来する部分を含むそのような縮合生成物は、レベリング、硬度、耐ストーン・チップ性、及び塗料中の固体の質量分率に関して優れた特性をもたらすが、焼付の間、特に高い焼付温度において、又は長時間高温にさらされる間に、脆化する傾向があることがわかっている。そのような縮合生成物に基づくプライマー・サーフェイサーでコーティングした車体の通常の加工条件では、局所的温度、又は高温での滞留時間が適切な値を超える値に上昇する場合があることを必ずしも除外できず、なぜなら速い硬化、ひいては硬化を促進する高い温度が望まれるからである。しかし、より高い硬化温度又は長時間の高温への曝露の適用には脆化の危険があるため、硬化プロセスは制御するのが困難となる。
【0007】
したがって本発明の目的は、高温での硬化又は長時間の高温への曝露によって脆化を示さず、硬度及び耐ストーン・チップ性が向上した塗膜へと硬化させることができる、カルボキシル基含有ポリウレタン及びヒドロキシル基含有ポリエステルの縮合生成物に基づくバインダー系を提供することである。高温での硬化及び長時間の高温への曝露は、技術界では総称して「過焼付」と呼ばれる。過焼付に対する耐性は、OEM車体塗装における主要な要求の1つとなっている。
【0008】
この目的は、水希釈性(すなわち水希釈性又は水分散性)の、カルボキシル基を分子中に有するポリウレタンB及びヒドロキシル基含有ポリエステルAに由来する縮合生成物ABを提供することによって実現され、A及びBは両方ともそれぞれ、芳香族構造を含むそれらの分子の遊離体を20%以下の量で含む。分子が、ベンゼン若しくはナフタレン又は他の芳香族若しくは複素環式芳香族分子に由来する基を含むならば、本発明の内容において芳香族構造を含むと言え、この基は任意の前記芳香族又は複素環式芳香族分子から少なくとも1つの水素原子を除去することによって得られる。本発明による縮合生成物は、耐ストーン・チップ性などの、技術水準におけるプライマー・サーフェイサー用バインダー樹脂の有利な特性を維持しながら、脆化又は他の劣化を生じることなく200℃までの温度に耐えることができ、トップコートと同じ色で配合されるフィラーを使用する流行によって現在自動車製造業者の注目を集めているさらなる要求である、黄変傾向の低減も示す。これは薄い車体色において特に重要となってきている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明によれば、封鎖された脂肪族又は脂環式の多官能性イソシアネートC1からなる群及びアミノプラスト樹脂C2から、特にアルキロール化(特にメチロール化)又はアルコキシアルキル化の度合いが高いものから選択される、硬化剤Cを使用することも好ましく、その度合いは、N−アルキロール基又はN−アルコキシアルキル基の量n(−N−CHR−OR’)(式中、R及びRは’独立にH、又は1〜8個の炭素原子を有する直鎖状若しくは分岐アルキルであってもよく、Rはまた1〜8個の炭素原子を有するオキソ化合物の残基であってもよい)対イミノ基の量n(−NH−)の比として表され、少なくとも5mol/1molである。特に好ましくはこの比は少なくとも5.2、最も好ましくは少なくとも5.3である。本発明の内容において残基とは、1個の水素原子を有機化合物から除去することによって得られる有機の一価の基を意味する。ヘキサメチオキシアルキル又はヘキサメトキシメチルメラミンの使用が特に好ましい。
【0010】
場合により架橋剤C2と組み合わせて、トリスブトキシカルボニルアミノトリアジンなどのアルコキシカルボニルアミノトリアジンC3を架橋剤として使用することも可能である。純粋に脂肪族又は脂環式の多官能性イソシアネートC1において、又は芳香族構造を含む多官能性イソシアネートを10%以下の質量分率で含む2つ又はそれを超える多官能性イソシアネートの混合物において、特に良好な結果が得られている。
【0011】
本発明の内容において、単独で、又は使用される架橋剤の少なくとも80%、特に好ましくは90%以上の質量分率に相当する程度において、純粋に脂肪族又は脂環式の多官能性イソシアネートを使用するのが好ましい。
【0012】
縮合生成物ABの合成において、成分A及びBを90:10〜30:70の質量比m(A):m(B)で反応させるのが好ましい。そのような縮合生成物ABの合成は好ましくは、90℃〜160℃の温度で、好ましくは縮合反応中に生成する水を除去しながら、縮合生成物ABのシュタウディンガー指数の値が好ましくは10cm/g〜20cm/gに達し、酸価が好ましくは30mg/g〜50mg/gに達するまで、ヒドロキシル基含有ポリエステルA及びカルボン酸基含有ポリウレタンBをエステル化させることによって行われる。残留するカルボキシル基を少なくとも部分的に中和(これらの酸性基のおよそ50%〜100%が酸性アニオン基へ転化されることによって)した後では、縮合生成物ABは水分散性である。
【0013】
物質の分散液中の質量分率が40%までである前記物質の水分散液が、その分散液を室温(21℃)で6週間保存した後に相分離を示さない場合、物質は本発明の内容において「水分散性」であると言う。
【0014】
縮合生成物ABは好ましくは最大で10%の質量分率の芳香族部分を含み、この質量分率は縮合生成物AB中の芳香族(モノ、ジ、又はポリ)基(テレフタル酸の場合、C残基など)の質量の和を縮合生成物ABの全質量で割ることによって計算され、最大で7%の質量分率が特に好ましく、最大で5%の質量分率がとりわけ好ましい。芳香族部分の質量分率が2%を超えない場合に最良の結果が実現されている。
【0015】
有用なポリエステル樹脂Aは、多官能性アルコールA1及び多官能性酸A2の重縮合によって既知の方法で作られ、これらの少なくとも一部はヒドロキシ酸A21によって置き換えられていてもよい。遊離体A1、A2、及びA21の種類及び量は、反応生成物、すなわちポリエステルAが十分な数のヒドロキシル基を有するように選択しなければならない(その後の硬化剤との反応のため)。
【0016】
好ましくは、これらのポリエステルAのヒドロキシル価は50mg/g〜500mg/gである。これらのポリエステルAの望ましい酸価は好ましくは15mg/g〜80mg/g、特に好ましくは20mg/g〜50mg/gである。それらのシュタウディンガー指数は好ましくは5cm/g〜15cm/g、特に好ましくは7cm/g〜13cm/gである。
【0017】
1分子当たり少なくとも2つのヒドロキシル基及び2〜20個の炭素原子を有する、選択された脂肪族又は脂環式アルコールだけが、アルコールA1として好ましく使用することができ、特に好ましくは1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−又は1,4−ジメチロールシクロヘキサン、トリメチロールプロパン、及びペンタエリトリトールを使用できる。2つのヒドロキシル基を有する脂肪族又は脂環式アルコールを使用するのが好ましいが、アルコールの質量分率の10%までは、3つ又はそれを超えるヒドロキシル基を有していてもよい。
【0018】
1分子当たり少なくとも2つの酸性基及び2〜20個の炭素原子を有する、選択された脂肪族又は脂環式酸だけが、多官能性酸A2として好ましく使用することができ、以下のカルボン酸が多官能性酸A2として特に適していることが分かっている:アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、1,2−、1,3−、及び1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロフタル酸無水物、並びに乳酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ及びジヒドロキシコハク酸などの脂肪族ヒドロキシ酸。
【0019】
ポリウレタンBのシュタウディンガー指数は好ましくは5cm/g〜15cm/g、特に好ましくは7cm/g〜12cm/gである。それらのヒドロキシル価は好ましくは0mg/g〜110mg/g、特に好ましくは90mg/gまでである。それらの酸価は好ましくは50mg/g〜180mg/g、特に好ましくは60mg/g〜150mg/gである。
【0020】
カルボキシ官能性ポリウレタン樹脂Bは、選択された脂肪族モノアルコール(連鎖停止剤)B1と、選択された脂肪族及び脂環式ジオール(鎖延長剤)B2、4−ヒドロキシ酪酸などの1つのカルボン酸基及び1つのヒドロキシル基を有するヒドロキシアルカン酸B31(連鎖停止剤)、又は2つ若しくはそれを超えるヒドロキシル基を有するもの(ジヒドロキシアルカン酸B32、例えばジメチロールプロピオン酸など、鎖延長剤)とを反応させることによって調製できる。後者のうちで、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロパン酸及び酪酸などの、ジヒドロキシモノカルボン酸を使用するのが好ましい。さらなる反応物としては好ましくは、イソホロンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトメチル)−シクロヘキサン、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)−メタン(例えば、(登録商標)Desmodur W、Bayer Material Science AG)などの、好ましくはもっぱら脂環式である多官能性イソシアネートB4が挙げられる。
【0021】
アルコールは好ましくは、1〜14個の炭素原子を有する脂肪族及び脂環式モノアルコールB1、例えばメトキシエタノール、4−メトキシブタノール、及び2−エチルヘキサノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ヘキサノール、及びそれらの同族体など、並びに2〜1000個の炭素原子を有するジオールB2、例えば1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−及び1,4−ジメチロールシクロヘキサン、1,6−ヘキサンジオール、脂肪族ポリカーボネートジオール、当技術分野で既知の脂肪族ポリエステルジオール、脂肪族ポリアミドジオール、及びポリカプロラクトンジオール((登録商標)Placcel 500シリーズ、IMCD Group B.V.)などからなる群から選択される。
【0022】
縮合生成物ABはエステル化反応で作られ、エステル化反応においては、水を生成し成分A及びBの2分子間でエステル結合を形成しながら、ポリウレタン成分Bのカルボキシル基がポリエステル成分Aのヒドロキシル基と反応する。縮合生成物の酸価は好ましくは15mg/g〜60mg/g、特に好ましくは20mg/g〜40mg/gであり、ヒドロキシル価は100mg/g〜250mg/g、特に好ましくは150mg/g〜200mg/gである。エステル化反応中に生成する水がエントレインメント剤によって反応混合物から除去される場合、縮合反応を促進することができる。他の可能性は、ヒドロキシル基含有ポリエステルA及びカルボキシル基含有ポリウレタンの反応生成物を形成することであるが、それは後者が多官能性イソシアネート及び部分的に半封鎖したイソシアネートの混合物から作られ、それによってヒドロキシアルカン酸に由来するカルボキシル基、及び部分封鎖多官能性イソシアネートに由来する封鎖イソシアネート基を有するポリウレタンBが生成される場合である。ウレタン結合の形成及び封鎖剤の除去のもと、ウレタン結合した反応生成物ABを生成させながら、成分A及びBを反応させることができる。
【0023】
本発明を以下の実施例によってさらに説明する。この実施例は限定的なものとして解釈されるべきではない。
【0024】
実施例において、並びに本明細書の導入部分において、以下の基準を使用する:
【0025】
酸価は、DIN EN ISO 3682(DIN 53 402)に従って、試験中の試料を中和するのに必要な水酸化カリウムの質量mKOHと、この試料の質量mとの比、又は溶液若しくは分散液の場合、試料中の固体の質量との比として定義される。その慣習的な単位は「mg/g」である。
【0026】
ヒドロキシル価は、DIN EN ISO 4629(DIN 53 240)に従って、試料と同数のヒドロキシル基を有する水酸化カリウムの質量mKOHと、その試料の質量m(溶液又は分散液に関しては試料中の固体の質量)との比として定義される。慣習的な単位は「mg/g」である。
【0027】
物質のモル質量は通常の記号Mによって表され、そのSI単位は 「kg/mol」、又はその慣習的な倍数である。
【0028】
以前は「極限粘度数」と呼ばれた物理量は、正しくはDIN 1342、2.4部に従って「シュタウディンガー指数」Jと名付けられ、減少する濃度及びせん断勾配におけるシュタウディンガー関数Jvの極限値であり、Jvは粘度の相対的変化を溶質B(溶液の体積V中で質量mを有する)の質量濃度β=m/Vで割ったもの、すなわちJ=(η−1)/βを表す。粘度の相対的変化η−1はη−1=(η−η)/ηとして計算される。相対粘度ηは、対象としている溶液の粘度ηと純粋な溶媒の粘度ηsとの比である。シュタウディンガー指数の物理的意味は、無限希釈における静止状態での溶媒和ポリマーコイルの固有の流体力学的比体積の物理的意味である。一般に受け入れられているJの単位は「cm/g」、以前は多くの場合「dl/g」である。これらの例で使用される溶媒はジメチルホルムアミドである。
【実施例1】
【0029】
ヒドロキシ官能性ポリエステルAaの調製
34.2g(0.45mol)の1,2−プロパンジオール、11.8g(0.10mol)の1,6−ヘキサンジオール、13.4g(0.10mol)のトリメチロールプロパン、21.9g(0.15mol)のアジピン酸、25.9g(0.17mol)のテトラヒドロフタル酸無水物、及び9.6g(0.05mol)のトリメリット酸無水物を、撹拌機及び環流冷却器を備えた三つ口ガラス容器に装入した。この混合物を窒素ブランケット下で10K/hの速度にて210℃まで加熱した。生成する水を分離しながら、酸価が25mg/g未満に到達するまでエステル化を続けた。N,N−ジメチルホルムアミドの溶液中で23℃にて測定されたシュタウディンガー指数は11.5cm/gであった。取り出した試料について、ヒドロキシル価は341mg/gと測定された。
【0030】
この手順に従って作られるさらなるポリエステルの組成を表1に挙げる。ポリエステルAgは特許請求される生成物よりも酸価が低い比較生成物である(14mg/g)。以下の略称を使用する:
BG:エチレングリコールブチルエーテル
DMBS:ジメチロール酪酸
EG:エチレングリコールエチルエーテル
HBS:4−ヒドロキシ酪酸
BD:1,4−ブタンジオール
APS:アジピン酸
CHD:1,4−ジメチロールシクロヘキサン
THPSA:テトラヒドロフタル酸無水物
HEX:1−ヘキサノール
TMSA:トリメリット酸無水物
CLD:ポリカプロラクトンジオール550(M=550g/mol)
BSS:コハク酸
PD:1,2−プロパンジオール
HHPSA:ヘキサヒドロフタル酸無水物
HD:1,6−ヘキサンジオール
CHDS:1,4−シクロヘキサンジカルボン酸
TMP:トリメチロールプロパン
IPDI:イソホロンジイソシアネート
NPG:ネオペンチルグリコール
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
PY:ペンタエリトリトール
BICM:ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン
DMPS:ジメチロールプロピオン酸
BIMC:ビス(4−イソシアナトメチル)シクロヘキサン
【0031】
【表1】

【実施例2】
【0032】
カルボキシ官能性ポリウレタンBaの調製
670g(5.0mol)のジメチロールプロピオン酸及び1300gのN−メチルピロリドンの混合物を撹拌しながら110℃まで加熱した。イソシアネート基の質量分率がm(NCO)/m=23.3%である(mは反応生成物の質量であり、m(NCO)はイソシアネート基の質量である)、1572g(6.0mol)のビス(4−イソ−シアナトシクロヘキシル)メタン及び236g(2.0mol)のエチレングリコールモノブチルエーテルの反応生成物を、生成した溶液に2時間以内に加えた。イソシアネート基がそれ以上検出できなくなるまでイソシアネート基の反応を完了させるために、反応物を110℃でさらに2時間維持し、次いでN−メチルピロリドンで希釈して固体の質量分率を60%とした。N,N−ジメチルホルムアミド中で23℃にて測定した場合、得られた生成物の酸価は113mg/g、シュタウディンガー指数は10.9cm/gであった。この手順に従って作られるさらなるポリウレタンの組成を表2に挙げる。
【0033】
【表2】

【実施例3】
【0034】
縮合生成物ABの調製
実施例1によるポリエステルA及び実施例2によるポリウレタンBを表3に挙げた質量比に従って混合し、所望のシュタウディンガー指数10cm/g〜20cm/g、及び酸価30mg/g〜50mg/gの両方に到達するように、160℃で十分な時間維持した。取り出したサンプルをジエタノールアミンで部分的に中和(酸性基の約80%の消費)し、水との混和性(水混和性とは、約10%の固体の質量分率まで希釈した溶液又は分散液を30日保存した後に相分離が見られないことを意味する)をチェックすることによって、反応物を時々チェックした。
【0035】
単独のポリエステルAの酸価がすでに20mg/gを超えている場合、ポリウレタンとの縮合反応は必ずしも必要ではなく、単にポリエステルAをポリウレタンBと混合すれば水分散性においては十分である。しかし、3ヶ月を超えるような長い保存期間、及び良好な耐ストーン・チップ性が望まれる場合、バインダー樹脂のモル質量を縮合ステップによって増加させることが得策である。
【0036】
バインダー分散液を処方する一般的手順は、得られるバインダー分散液の質量を基準として80%〜60%の質量分率の縮合生成物ABを装入することと、この装入物を100℃〜120℃まで加熱することと、これを市販のブタノンオキシム封鎖多官能性イソシアネート((登録商標)Desmodur N 3300、Bayer Material Science AG)などの20%〜40%の質量分率の架橋剤と緊密に混合することとを含み、次いでジメチルエタノールアミンを添加することによって残留する酸性基の少なくとも50%が中和される。こうして得られる混合物を、脱塩水を加えることによって23℃で測定される粘度が約2000mPa・s以下になるまで希釈する。これは通常水性分散液中35%〜45%の固体の質量分率に相当する。
【0037】
縮合生成物を中和し中和した縮合生成物を水で所望の粘度にまで希釈することによって、架橋剤を早期に混合せずにバインダー分散液を作ることも可能である。この場合、後で塗料を作る際に(通常の方法では、顔料、フィラー、添加剤、及び保存料などを加えることにより)、架橋剤、好ましくは水還元性アミノ樹脂(例えばメラミンホルムアルデヒド樹脂)又は水溶性封鎖多官能性イソシアネートを加える。
【0038】
ポリエステルAの酸価が20mg/g未満である場合、縮合生成物ABにおける所望の最小限の酸価である30mg/gに再現性良く到達及び超過することは難しいことが経験によって示されている。このことは、特に水不溶性封鎖イソシアネート架橋剤との組み合わせにおける、そのような縮合生成物に基づくバインダー樹脂分散液及びさらには塗料の保存安定性において問題をもたらしてきた。したがって、縮合生成物ABの酸価が所望の範囲である30mg/g〜50mg/gに必ず到達することを確実にするように、ポリエステルAが20mg/g〜40mg/gの酸価を有するためのあらゆる努力がなされている。
【0039】
【表3】

【0040】
比較例
PE1:EP0594685B1のポリエステル成分B2であり、芳香族遊離体の物質量分率は34.8%である。
PE2:EP0594685B1のポリエステル成分B4であり、芳香族遊離体の物質量分率は32.5%である。
【0041】
PU1:EP0594685B1のポリウレタン成分A2であり、芳香族遊離体の物質量分率は53.3%である。
PU2:EP0594685B1のポリウレタン成分A1であり、芳香族遊離体の物質量分率は53.8%である。
【0042】
VB1:EP0594685B1の表2の実施例2に対応する。
VB2:EP0594685B1の表2の実施例4に対応する。
【0043】
H1:ブタノンオキシム封鎖イソシアヌラート構造を有する市販の多官能性三量体ヘキサメチレンジイソシアネート((登録商標)Desmodur N 3390、Bayer Materials Science)
H2:ビウレット構造を有する市販の多官能性三量体のヘキサメチレンジイソシアネート((登録商標)Desmodur N 100、Bayer Materials Science)
【実施例4】
【0044】
自動車用途のフィラー−サーフェイサー塗料中のバインダーの試験
水性フィラー-サーフェイサー塗料を、表4の処方に従って表3のバインダーから作る。
【0045】
【表4】

【0046】
表4の処方を使用して、バインダー、湿潤剤、脱イオン水(1)、顔料、及びフィラーを装入し、こうして得られる混合物をビーズミル中でホモジナイズ処理し、次いでさらにバインダー、硬化剤、及び脱イオン水の(2)の部分を加えることによって塗料を完成させ、最初に通常の方法で着色ペーストを製造した。この後者の水の分量は、およそ120mPa・sの最終塗料の粘度を得るように選ばれた。150μmのドクターブレードを用いて塗料1〜10を清浄なガラスプレート上に塗布し、15分間の最初のフラッシュオフの後に以下のように乾燥させた:
− 165℃で20分間(焼付手順1、表5の(1)として示す)
− 190℃で30分間(焼付手順2、表5の(2)として示す)。
【0047】
こうして得られるコーティングを振り子硬度及び光沢について試験し、塗膜を目視検査によっても評価した。
【0048】
塗料試験の結果を表5にまとめる:
【0049】
【表5】

【0050】
全てのフィラーコーティング組成物は、欠陥のない表面を有する硬化コーティング膜をもたらし、乾燥膜厚は35μm±0.5μmであった。塗料1、2、及び4において、塗膜がより高温に又はより長時間さらされた場合に光沢がわずかに失われた。これは芳香族含量が最も高い塗料1で最も顕著であった。本発明による塗料1〜8から作られたコーティング膜は、低いほうの焼付温度(条件(1))で既に良好な硬度を示した。本発明によるバインダーを用いて作られたコーティング膜の光沢値は、異なる焼付条件1及び2に関して、芳香族含量なし(塗料3、及び5〜8)の場合では変わらなかったが、比較のフィラーバインダー9及び10を用いた系において高いほうの温度で(2)焼付を行った場合に、光沢が著しく低下した。
【0051】
さらなる比較試験において、試験金属シートを耐ストーン・チップ性試験に供した。市販のボンダー鋼鉄シート(Bonder 26 60 OC)を、25μmの市販のCEDコーティング(全ての例で同じ)、塗料1〜10の水性フィラーの35μm層、及び市販のアクリル、メラミン樹脂架橋トップコートの40μm層(全ての例で同じ)でコーティングした(すべての例で乾燥厚さ)。これらの層の焼付条件は:
CED 30分、175℃
フィラー、条件1 20分、165℃
フィラー、条件2 30分、190℃
トップコート 30分、140℃
最後の焼付ステップの後、コーティングしたボンダーシートを標準的気候(DIN EN 23270、温度(23±2)℃、相対湿度(50±5)%)で24時間保存し、次いでDIN 55 996−1(ISO 20577−2:2005)に従って、2bar(0.2MPa)の空気圧で同じ気候条件にて、0.5kgのとがった石グリットを2回使用しストーン・チップ試験を行った。結果を表6に記載する:
【0052】
【表6】

【0053】
バインダーVB1(EP0594685B1の表2の実施例2に対応)を用いて試験シート17及び18を作り、バインダーVB2(EP0594685B1の表2の実施例4に対応)を用いてシート19及び20を作った。これらの比較試験シートは耐ストーン・チップ性が硬化温度に顕著に依存することを示した。すなわち、低いほうの温度では観察される耐ストーン・チップ性は本発明のバインダーについて測定されたものと同等であったが、高いほうの温度にさらすと不満足な結果が得られた。これは明らかに本発明によって利点がもたらされたことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族イソシアネートに基づく封鎖イソシアネートC1、及びアミノプラスト硬化剤C2からなる群から選択される硬化剤Cと、ヒドロキシル基含有ポリエステルA及び酸性基含有ポリウレタンBを少なくとも部分エステル化することによって作られる反応生成物ABとの混合物を含み、ポリエステルAが、少なくとも二官能性である直鎖状、分岐、若しくは環状の脂肪族アルコールA1及び少なくとも二官能性である直鎖状、分岐、若しくは環状の脂肪族カルボン酸A2のポリエステル化によって作られ、A1中のアルコール性ヒドロキシル基の量の和n(OH)と酸A2中の酸性水素基の量の和n(H)との比n(OH):n(H)が1.08〜1.01であるように、ポリエステル化されるA1及びA2の量が選択され、ポリウレタンBが、平均のイソシアネート官能性が1を超えるイソシアネート官能性化合物B1及び平均のヒドロキシ官能性が1を超えるヒドロキシ官能性化合物B2の重付加によって作られ、化合物B2の質量分率の少なくとも20%が少なくとも1つの酸性基を有するような化合物B21であり、前記酸性基のイソシアネート基に対する反応性が前記化合物B21のヒドロキシル基よりも低く、A及びBの各々が芳香族構造を含む分子の遊離体A1、A2、B1、及びB2を20%以下の量で含むことを特徴とする、水媒性コーティング・バインダーABC。
【請求項2】
ポリエステルAのヒドロキシル価が100mg/g〜500mg/g、酸価が15mg/g〜50mg/gである、請求項1に記載の水媒性コーティング・バインダー。
【請求項3】
ポリウレタンBの酸価が50mg/g〜180mg/gである、請求項1に記載の水媒性コーティング・バインダー。
【請求項4】
アルコールA1が、2つのヒドロキシル基及び2〜10個の炭素原子を有する直鎖状、分岐、若しくは環状の脂肪族アルコールからなる群から選択される、請求項1に記載の水媒性コーティング・バインダー。
【請求項5】
カルボン酸A2が、3〜10個の炭素原子を有する直鎖状、分岐、若しくは環状の脂肪族ジカルボン酸からなる群から選択される、請求項1に記載の水媒性コーティング・バインダー。
【請求項6】
ポリエステルAの縮合において、ヒドロキシ酢酸、2−ヒドロキシプロピオン酸、3−ヒドロキシプロピオン酸、4−ヒドロキシ酪酸、5−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸、それらの分岐鎖メチル化及びエチル化同族体、並びに2−、3−、及び4−ヒドロキシメチルシクロヘキサンカルボン酸からなる群から選択される、直鎖状、分岐、若しくは環状のヒドロキシカルボン酸A12も使用される、請求項1に記載の水媒性コーティング・バインダー。
【請求項7】
ポリウレタンBの合成において、化合物B21が4〜12個の炭素原子及び1つ又は2つのカルボン酸基を有するジヒドロキシカルボン酸である、請求項1に記載の水媒性コーティング・バインダー。
【請求項8】
化合物B21が、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、及びジメチロール酪酸からなる群から選択される、請求項7に記載の水媒性コーティング・バインダー。
【請求項9】
イソシアネート官能性化合物B1が、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、1,4−ジイソシアナトシクロキサン、ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)−メタン、イソホロンジイソシアネート、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン、及びビス(4−イソシアナトメチル)シクロヘキサンからなる群から選択される、請求項1に記載の水媒性コーティング・バインダー。
【請求項10】
別個の反応において、
− ヒドロキシル基含有ポリエステルAが、少なくとも二官能性である直鎖状、分岐、若しくは環状の脂肪族アルコールA1及び少なくとも二官能性である直鎖状、分岐、若しくは環状の脂肪族カルボン酸A2のポリエステル化によって調製され、A1中のアルコール性ヒドロキシル基の量の和n(OH)と酸A2中の酸性水素基の量の和n(H)との比n(OH):n(H)が1.08〜1.01であるように、ポリエステル化されるA1及びA2の量が選択され、
− 酸性基含有ポリウレタンBが、平均のイソシアネート官能性が1を超えるイソシアネート官能性化合物B1及び平均のヒドロキシ官能性が1を超えるヒドロキシ官能性化合物B2の重付加によって作られ、化合物B2の質量分率の少なくとも20%が少なくとも1つの酸性基を有するような化合物B21であり、前記酸性基のイソシアネート基に対する反応性が前記化合物B21のヒドロキシル基よりも低く、
さらなるステップにおいて、ヒドロキシル基含有ポリエステルA及び酸性基含有ポリウレタンBがエステル化条件下で縮合ステップに供される、請求項1に記載の水媒性コーティング・バインダーの作製方法。
【請求項11】
反応生成物ABの酸価が30mg/g〜50mg/gになるまでエステル化反応を行う、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
縮合生成物ABを、封鎖脂肪族イソシアネート及びアミノプラスト硬化剤からなる群から選択される硬化剤Cと混合させるステップと、得られる混合物を中和するステップと、そこにフィラー、湿潤剤、及び顔料のうち少なくとも1つを加えるステップと、この混合物をホモジナイズ処理するステップと、請求項1に記載のさらなるバインダー及び水を添加することによってコーティング組成物を完成させるステップとを含む、プライマー表面コーティング組成物を調製するための、請求項1に記載の水媒性コーティング・バインダーの使用方法。

【公表番号】特表2012−533668(P2012−533668A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−521027(P2012−521027)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【国際出願番号】PCT/EP2010/060554
【国際公開番号】WO2011/009882
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(512015987)サイテク オーストリア ゲーエムベーハー (7)
【Fターム(参考)】