説明

プライミング・返血用液充填容器、この容器を用いた血液回路、プライミング方法及び返血方法

【課題】
本発明は、より安全な血液透析等の血液回路におけるプライミング及び返血処理を行うことができるプライミング・返血用液充填容器、この容器を用いた血液回路、プライミング方法及び返血方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明は、少なくともプライミング用液が充填されてなる室及び返血用液が充填されてなる室を含む複数の室と、前記複数の室を区画してなる弱溶着部と、前記プライミング用液が充填されてなる室に具備して前記プライミング用液及び返血用液を排出可能とするポートを備えてなるプライミング・返血用液充填容器、当該容器を用いた血液回路、並びに、当該容器を用いたプライミング及び返血方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プライミング・返血用液充填容器、この容器を用いた血液回路、プライミング方法及び返血方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腎不全の患者や、術後の薬液注入によって水分過多症になった患者などの重篤な状態を改善するために、血液浄化装置を使用する血液透析や血液濾過が行われている。また、心臓手術を行う際には、人工心肺が用いられる。
【0003】
一般に、これら血液透析等の処置を行う際には、予め血液回路内にプライミング用液(一般に、生理食塩液)を流して回路内の異物および空気を除去する処理(プライミングという)を行っている。また、血液透析等の処置が終了した後には、血液回路内に返血用液(これも一般に、生理食塩液)を流して回路内の血液を患者に戻す処理(返血処理という)を行っている。これらプライミング及び返血処理は、血液浄化器又は装置等を提供するメーカーにおいても鋭意検討がなされている(特許文献1〜3参照)。
【0004】
ところで、このプライミング処理及び返血処理を手動で行う場合は、血液回路にプライミング用液又は返血用液を充填した容器を接続して行う。特に、プライミング用液及び返血用液を共に生理食塩液で行う場合は、大容量の生理食塩液を充填した容器を用いて行うことになる。つまり、プライミング後の血液透析等の処置をしている間は、当該容器内には返血用液としての生理食塩液を残したまま行われるのである。この際、クランプにより返血用液としての生理食塩液は血液透析等の処置中の血液回路には流れないようにしてはいるものの、容器に残った生理食塩液の無菌状態は解除されるため、菌が繁殖してしまうリスクがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−087610号公報
【特許文献2】国際公開公報2006/073166号パンフレット
【特許文献3】特開2008−012210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、より安全な血液透析等の血液回路におけるプライミング及び返血処理を行うことができるプライミング・返血用液充填容器、この容器を用いた血液回路、プライミング方法及び返血方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するために、本発明は、(1) 少なくともプライミング用液が充填されてなる室及び返血用液が充填されてなる室を含む複数の室と、前記複数の室を区画してなる弱溶着部と、前記プライミング用液が充填されてなる室に具備して前記プライミング用液及び返血用液を排出可能とするポートを備えてなるプライミング・返血用液充填容器を提供する。
【0008】
まず、本発明では血液透析を中心に説明するが、本発明は、血液透析に限定されるものではなく、いわゆる人工心肺を用いた処置の分野にも利用できる。本発明では、これらの処置法を総称して「血液透析等」と記載している。尚、本発明においては、「血液透析」又は「人工心肺を用いた処置」には、これに類似した方法で行われる血液濃縮、血液濾過、血液濾過透析、血液吸着等の各種血液浄化療法も含まれるものとする。
【0009】
次に、この容器は、いわゆる注射液の製剤化に利用される複室容器の技術を、血液透析等の血液回路におけるプライミング及び返血処理に応用したものと言える。したがって、容器の材料及び形態等は、この複室容器に用いられる技術を利用することができる。容器の構造等に関する詳細は、発明を実施するための形態において説明するが、本発明の容器は、要は、プライミング用液と返血用液を弱用着部で仕切られた室にそれぞれ収容した容器であって、プライミング用液が充填された室にポートが具備されてなる容器である。
【0010】
尚、上述したように、本発明は注射液の製剤化に利用される複室容器の技術を応用することができるものの、当業者が容易になし得る発明ではない。何故ならば、本発明の容器においては、弱溶着部が複数の室にそれぞれ収容された液を混合するために利用されないため、注射液の製剤化という技術思想とは大きく異なるからである。もう少し詳細に述べるならば、そもそもプライミング用液と返血用液の2液を混合することに意味がないことを考慮すれば明らかである。
【0011】
次に、本発明は、安価である上に人体に対しても無害である観点から、(2) プライミング用液及び返血用液は共に生理食塩液であることが望ましいことを開示する。但し、プライミング用液及び返血用液としては、生理食塩液以外にも、高価なものではあるが、人工血液等を使用することも可能ではある。
【0012】
また、容器を構成する室の数は、必ずしも制限はないものの、本発明は、(3) プライミング用液が充填されてなる室と、返血用液が充填されてなる室の2室で構成されてなることが、構造が単純となり、望ましいことを開示する。
【0013】
この際、本発明は、(4) プライミング用液が充填されてなる室の容量は、一般に血液透析等の血液回路のプライミングに用いる容量に設定しておくと便利であることも開示する。その容量は、例えば、500〜3,500mL、好ましくは1000〜2,500mLである。従来のプライミングは、血液回路に流れるプライミング用液の流量を測定していたが、この煩雑な作業を行わなくて済むので便利である。また、容量の少ない生理食塩液の容器を使用してプライミングをしている機関もあるが、この場合、容器を付け替える作業を行う必要がある。そうすると、容器の付け替えの際に菌が混入するおそれもあったため、本発明におけるこの容量の設定は非常に有用である。
【0014】
また、本発明は、(5) 前記返血用液が充填されてなる室の容量も、一般に血液透析等の血液回路の返血処理に用いる容量に設定しておくと便利であることも開示する。その容量は、例えば、100〜1,500mL、好ましくは300〜1,000mLである。
【0015】
さらに、本発明は、(6) 上記の容器と、いわゆる血液透析等の処置に用いる血液回路とセットで提供することも可能であることも開示する。
【0016】
加えて、本発明は、(7) 上記の容器を用いた血液透析等の処置に用いる血液回路のプライミング方法を提供する。当該方法は、非常に簡便な方法である。要は、当該血液回路に上記の容器のポートを接続した後、返血用液が充填されてなる室に隣接する前記弱溶着部を開通せずに、ポートからプライミング用液を前記血液回路に流すだけでよいのである。上記したように、プライミング用液が充填されてなる室の容量を予め設定しておけば、流量を測定する手間が省け、作業はより簡便となる。さらに、プライミング後における容器に残った返血用液は、弱溶着部により閉鎖しているために、無菌状態が維持されているためより安全である。もちろん、クランプ作業も必要としない点においても有用である。
【0017】
そして、本発明は、(8) 上記の容器を用いた血液透析等の処置に用いる血液回路の返血方法も提供する。当該方法も、非常に簡便な方法である。上記(7)のプライミング方法を行い、血液透析等の処置をした後、返血用液が充填されてなる室に隣接する弱溶着部を開通することにより、返血用液をポートから血液回路に流すだけでよいのである。この返血用液は、弱シールと、容器の壁面及び/又は強シール部により無菌状態が維持されたものであり、安全である。上記したように、返血用液が充填されてなる室の容量を予め設定しておけば、本発明の上記の容器に充填されたプライミング用液及び返血用液を使いきることができて、その後の容器の廃棄が楽になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、血液透析等の血液回路におけるプライミング及び返血処理をより安全に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のプライミング・返血用液充填容器を示す図である。
【図2】本発明のプライミング・返血用液充填容器を血液透析の血液回路に接続した状態であって、プライミングを行う前の状態を示す図である。斜線は弱用着部が未連通の状態を示している。
【図3】本発明のプライミング・返血用液充填容器を血液透析の血液回路に接続した状態であって、プライミングを行った後の状態を示す図である。太線は生理食塩液で血液回路が満たされている状態を示し、斜線は弱用着部が未連通の状態であることを示している。
【図4】本発明のプライミング・返血用液充填容器を血液透析の血液回路に接続した状態であって、返血処理を行う際の状態を示す図である。太線は生理食塩液で血液回路が満たされている状態を示し、点線は弱用着部が連通の状態であることを示している。
【符号の説明】
【0020】
1 第1室
2 第2室
3 弱溶着部
4 ポート
5 血液回路
6 血液透析器
7 ポンプ
A プライミング液
B 返血用液
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について説明する。図1は、本発明のプライミング・返血用液充填容器(以下、単に本発明の容器と省略する)の外観図である。本発明の容器における室の数は、特に限定されるものではないが、図1においては望ましいとされる2室の態様を示す。図1におけるプライミング・返血用液充填容器は、プライミング液Aを収容した第1室1と、返血用液Bを収容した第2室2を備えてなり、この2室は弱溶着部3により仕切られている。さらに、第1室1には、後述する血液透析等の血液回路に結合するポート4を具備してなる。
【0022】
尚、図1における容器は、いわゆるバッグの態様であるが、本発明は必ずしもこの態様に限定されるものではない。勿論、本発明は、容器の製造等に関しても限定されるものではないが、以下に詳細に説明しておく。バッグの製造は、例えば、インフレーション成形などにより成形したチューブ状の合成樹脂シートにおいて、両端の開口2辺を強溶着することによる製造が挙げられる。そして、各室は、後述する弱溶着部3により仕切られる。尚、バッグは、上述の製造以外にも、例えば、1枚の合成樹脂シートを折り合わせ、3辺を熱溶着する態様、又は、2枚の合成樹脂シートを重ね合わせ、4辺を強溶着する態様であってもよい。ここで、強溶着とは、人的な外力により2枚の合成樹脂シートが剥離しない程度の溶着強度を有する溶着をいう。当該溶着強度は、例えば、3年保証する製品の場合、60℃、7週間保存後のT字剥離強度が20N/15mm以上の強度を維持することが好ましい。なお、60℃、7週間保存という条件は、放射線滅菌を施した製品を3年間品質保証する必要がある場合、規格(IAEA:TEC DOC−539(1990))を参考に、60℃×7日間=180日間相当として設定されたものである。
【0023】
合成樹脂シートの材料は、容器様の形状に成形可能な合成樹脂であれば、特に限定されるものではない。そのような合成樹脂としては、主にポリオレフィン系重合体が挙げられる。ポリオレフィン系重合体は、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(エチレン・ビニルアセテート)コポリマー、ポリ(エチレン・エチルアクリレート)コポリマー、ポリ(エチレン・メタアクリレート)コポリマー、ポリプロピレン、ポリ(プロピレン・α−オレフィン)コポリマー、ポリプロピレンとポリ(プロピレン・α−オレフィン)コポリマーを含有する組成物及び環状ポリオレフィン系重合体が挙げられる。
【0024】
本発明の容器において、上記の列挙した材料の中で好ましいとされる材料は、後述する弱溶着部3を形成するにあたって、別途フィルムを用意する必要がないという利点があることから、ポリプロピレンとポリ(プロピレン・α−オレフィン)コポリマーを含有する組成物である。ポリプロピレンとポリ(プロピレン・α−オレフィン)コポリマーを含有する組成物は、本発明の再生医療用器具の包装体としての物理的強度が十分であり、かつ当該組成物自体が後述する弱溶着部3を形成することができる材料である。ポリプロピレンとポリ(プロピレン・α−オレフィン)コポリマーを含有する組成物におけるより好ましい態様は、特許第3573091号に記載の組成物である。本発明では、これらの組成物を、便宜上、「弱溶着用組成物」と称する。
【0025】
弱溶着用組成物における、ポリプロピレンとはポリ(プロピレン・α−オレフィン)コポリマーの混合方法は、当業者により適宜実施可能であるため、特に限定されるものではない。例えば、その混合方法の一例として、樹脂ペレットをドライブレンドする方法や、2軸押出機を用いて溶融ブレンドする方法が挙げられる。また、弱溶着用組成物における、ポリプロピレンとポリ(プロピレン・α−オレフィン)コポリマーの重量混合比率は、合成樹脂シート同士が溶着した後述の弱溶着部3の溶着強度が、後述する弱溶着の条件を達成できる観点から、85:15〜15:85である。
【0026】
本発明において、上記ポリ(プロピレン・α−オレフィン)コポリマーとは、ポリプロピレンと、炭素数2または4〜8のα−オレフィンとの共重合体をいう。α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン及び1−オクテンが挙げられる。ポリプロピレンの市販品としては、例えば、日本ポリエチレン製「ノバテックPP(商品名)」、「ウィンテック(商品名)」、住友化学製「エクセレン(商品名)」、サンアロマー製及びプライムポリマー製ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0027】
本発明の容器は、複数の室を仕切る弱溶着部を備える。本発明において、弱溶着とは、人的な外力により溶着した2枚の合成樹脂シート同士が剥離可能な程度の溶着強度を有する溶着をいう。当該溶着強度は、例えば、3年保証する製品の場合、60℃、7週間保存後のT字開通強度が約0.5〜3N/15mmの強度を維持することが好ましい。なお、60℃、7週間保存という条件は、上記強溶着の定義と同様に、放射線滅菌を施した製品を3年間品質保証する必要がある場合、規格(IAEA:TEC DOC−539(1990))を参考に、60℃×7日間=180日間相当として設定されたものである。
【0028】
また、本発明の容器において、弱溶着部3の形成にあたっては、合成樹脂シートが弱溶着部3形成可能か否かにより、別途弱溶着部形成用フィルムを用意するか否かを判断することができる。例えば、合成樹脂シートの材料として、上記弱溶着用組成物を選択する場合は、当該材料自体が弱溶着部3を形成することができるため、弱溶着部形成用フィルムは不要である。この場合は、直接対向する合成樹脂シート同士を弱溶着することにより、本発明の容器に弱溶着部3を形成することができる。
【0029】
一方、バッグを構成する合成樹脂シートの材料として、上記弱溶着用組成物以外のポリオレフィン系重合体を選択する場合は、当該材料自体が弱溶着部3を形成することが容易でないため、別途弱溶着部形成用フィルムを必要とする。この場合は、本発明の容器の製造を容易とする観点から、バッグは、1枚の合成樹脂シートを折り合わせ、3辺を熱溶着する態様、又は、2枚の合成樹脂シートを重ね合わせ、4辺を熱溶着する態様とするべきである。弱溶着部形成用フィルムの材料は、上記弱溶着用組成物以外のポリオレフィン系重合体と溶着性が高く、かつ上記弱溶着部3を形成できる材料であれば特に限定されるものではない。この場合、弱溶着部形成用フィルムの材料として、上記弱溶着用組成物を用いる限りにおいては、いずれの上記弱溶着用組成物以外のポリオレフィン系重合体であってもよい。
【0030】
本発明の容器において、バッグ形状を構成する合成樹脂シートの材料として、上記弱溶着用組成物以外のポリオレフィン系重合体を選択する場合、弱溶着部3を形成する具体的な方法としては、例えば、以下の(a)〜(c)の方法がある。これら(a)〜(c)の方法は、概していえば、弱溶着部形成用フィルムを対向した上記弱溶着用組成物以外のポリオレフィン系重合体のシートの一方と強溶着し、他方とは弱溶着する方法である。したがって、尚、下記(a)〜(c)の説明においては、上記弱溶着用組成物以外のポリオレフィン系重合体を、単にポリオレフィン系重合体と称することにする。
【0031】
(a) 対向したポリオレフィン系重合体のシートの内、一方のシートの上に、弱溶着部形成用フィルムを強溶着した後、当該弱溶着部形成用フィルムを他方のポリオレフィン系重合体のシートに弱溶着する。この時の弱溶着は、ポリオレフィン系重合体のシートの外側から行う。
(b) 対向したポリオレフィン系重合体のシートの間に、弱溶着部形成用フィルムを挿入し、ポリオレフィン系重合体のシートの外側から溶着する。この時、2つの金型に温度差を設けて、一方の側では強溶着し、他方の側では弱溶着する。
(c) 対向したポリオレフィン系重合体のシートの内、一方のシートの上に、弱溶着部形成用フィルムを弱溶着した後、当該弱溶着部形成用フィルムを他方のポリオレフィン系重合体のシートに強溶着する。この時の強溶着は、ポリオレフィン系重合体のシートの外側から行う。
【0032】
また、各室へのプライミング液A及び返血用液Bの充填は、本発明の容器の製造を簡便にするために、原則的には弱溶着部3を形成した後に実施する。具体的には、図1における本発明の容器においては、第1室1及び第2室2の3辺を強溶着及び弱溶着した後、強溶着していない残りの1辺の開口部から、第1室1にはプライミング液Aを、第2室2は返血用液Bをそれぞれ収容する。そして、この残りの1辺も強溶着を行うことにより、図1に示す本発明の容器を製造することができるのである。上述したようにプライミング液A及び返血用液Bは、一般的には共に生理食塩液が利用される。
【0033】
尚、第1室1の容量は、一般に血液透析等の血液回路のプライミングに用いる容量に設定しておくと便利であり、その容量は、例えば、500〜3,500mL、好ましくは1,000〜2,500mLであることは上述の通りである。但し、本発明は、この容量に必ずしも限定されるものではない。従来のプライミングは、血液回路に流れるプライミング用液の流量を測定していたが、この煩雑な作業を行わなくて済むので便利である。また、容量の少ない生理食塩液の容器を使用してプライミングをしている機関もあるが、この場合、容器を付け替える作業を行う必要がある。そうすると、容器の付け替えの際に菌が混入するおそれもあったため、本発明におけるこの容量の設定は非常に有用である。
【0034】
また、第2室2の容量も、一般に血液透析等の血液回路の返血処理に用いる容量に設定しておくと便利であり、その容量は、例えば、100〜1,500mL、好ましくは300〜1,000mLであることは上述の通りである。但し、本発明は、この容量に必ずしも限定されるものではない。
【0035】
図2は、本発明の容器を、血液透析器6を備えた血液回路5に接続した図である。容器の血液回路5への接続は、単にポート4に血液回路5のポート4用の接続部材(図示しない)を接続すればよい。血液回路5は何ら特別な回路ではなく、当業者が一般的に血液透析等に使用するごく普通の血液回路である。尚、図2において血液回路5は、血液透析の血液回路であるが、本発明は、血液透析に限定されるものではなく、いわゆる人工心肺の血液回路にも使用可能なことを繰り返し述べておく。
【0036】
本発明のプライミング方法は、図2の状態から開始する。プライミングの際には、返血用液Bが使用されないようにして実施する必要がある。つまり、弱用着部3は開通しないで、第1室1に充填されてなるプライミング液Aを血液回路5に流す。この点以外は、従来のプライミングと何ら差異はなく、当業者であれば容易に作業することができる。主にポンプ6を用いて実施することができる。むしろ、第1室1における容量が、一般に血液透析等の血液回路のプライミングに用いる容量に設定されていれば、作業者はプライミング液Aの流量を測定する必要がない分、プライミングの作業は従来と比してより簡便となる。
【0037】
プライミング後は、図3の状態になる。図3は、本発明の容器を、血液透析の血液回路5に接続した図であるが、第1室1におけるプライミング液Aは使用されている状態にある図である。この状態で、いわゆる血液透析等の処置が行われる。処置中、本発明の容器は、血液回路5に接続したままでよい。むしろ、取り外しをすると菌の混入のおそれがあるために、避けた方がよいと考えられる。
【0038】
血液透析等の処置後は、血液回路5に残った血液を患者に返血する。本発明の返血方法は、図4のように本発明の容器の弱用着部3を開通し、第2室2に充填された返血用液Bを用いて実施する。この点以外は、従来の片血処理と何ら差異はなく、当業者であれば容易に作業することができる。主にポンプ6を用いて実施することができる。弱用着部3の開通は、第2室2を押圧することにより容易に実施することができる。この返血用液Bは、血液透析等の処置中は、バッグの強用着部及び弱用着部3により閉鎖された状態にあったため、無菌性が保たれた安全性の高いものである。返血処理の作業自体は、従来の返血と何ら差異はなく、当業者であれば容易に作業することができる。この際、第2室2の容量を一般に血液透析等の血液回路の返血処理に用いる容量に設定しておくと便利である。
【0039】
最後に、わが国においては、本発明の容器も血液回路5も使い捨てであるため、これらをセットとして取り扱うことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明のプライミング・返血用液充填容器等は、血液透析等の血液回路におけるプライミング及び返血処理をより安全に行うことができるので、需要は高いであろう。また、注射剤の製剤化に用いる複室容器の技術が応用できるため、即実施が可能となる。この際、工場における稼働率が上昇する点においてもメリットがある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液透析又は人工心肺の血液回路に接続されてなるプライミング・返血用液充填容器であって、
少なくともプライミング用液が充填されてなる室及び返血用液が充填されてなる室を含む複数の室と、
前記複数の室を区画してなる弱溶着部と、
前記プライミング用液が充填されてなる室に具備して前記プライミング用液及び返血用液を排出可能とするポート
を備えてなるプライミング・返血用液充填容器。
【請求項2】
プライミング用液及び返血用液が共に生理食塩液である請求項1に記載のプライミング・返血用液充填容器。
【請求項3】
複数の室が、プライミング用液が充填されてなる室と、返血用液が充填されてなる室の2室で構成されてなる請求項1又は2に記載のプライミング・返血用液充填容器。
【請求項4】
前記プライミング用液が充填されてなる室の容量が、500〜3,500mLである請求項3に記載のプライミング・返血用液充填容器。
【請求項5】
前記返血用液が充填されてなる室の容量が、100〜1,500mLである請求項3に記載のプライミング・返血用液充填容器。
【請求項6】
請求項1〜5に記載のプライミング・返血用液充填容器を接続してなる血液透析又は人工心肺の血液回路。
【請求項7】
プライミング・返血用液充填容器を用いた血液透析又は人工心肺の血液回路のプライミング方法であって、
前記プライミング・返血用液充填容器は、
少なくともプライミング用液が充填されてなる室及び返血用液が充填されてなる室を含む複数の室と、
前記複数の室を区画してなる弱溶着部と、
前記プライミング用液が充填されてなる室に具備して前記プライミング用液及び返血用液を排出可能とするポート
を備えてなり、
血液透析又は人工心肺の血液回路に前記ポートを接続するステップと、
前記返血用液が充填されてなる室に隣接する前記弱溶着部を開通せずに、前記ポートから前記プライミング用液を前記血液回路に流すステップ
を含むプライミング方法。
【請求項8】
プライミング・返血用液充填容器を用いた血液透析又は人工心肺の血液回路の返血方法であって、
前記プライミング・返血用液充填容器は、
少なくともプライミング用液が充填されてなる室及び返血用液が充填されてなる室を含む複数の室と、
前記複数の室を区画してなる弱溶着部と、
前記プライミング用液が充填されてなる室に具備して前記プライミング用液及び返血用液を排出可能とするポート
を備えてなり、
さらに、前記返血用液が充填されてなる室に隣接する前記弱溶着部を開通せずに、前記ポートから前記プライミング用液を前記血液回路へ排出した状態にあって、
前記返血用液が充填されてなる室に隣接する前記弱溶着部を開通することにより、前記返血用液を前記ポートから前記血液回路に流すステップ
を含む返血方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−15877(P2011−15877A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163457(P2009−163457)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】