説明

プラスチックの可塑化装置

【課題】各種機械を小型で安価に製造するため、簡単な構造で、軸方向の寸法をより短くできるプラスチックの可塑化装置を提供すること。
【解決手段】プラスチック材料Mを加熱すると共に後方から前方へ送る通路となる加熱筒10と、加熱筒10の内部で回転することでプラスチック材料Mを後方から前方へ送るスクリュ20と、スクリュ20の前方端面21が近接して対面する内面31を備えると共に溶融プラスチックの出口通路32が軸心部に設けられている加熱筒ヘッド30とを具備し、直径を大径化して軸方向の長さを短尺化するように設けられるプラスチックの可塑化装置であって、スクリュ20は、外径部に複数条の螺旋溝22が設けられていると共に前方端面21は平坦に設けられ、加熱筒ヘッド30の内面31には出口通路32を中心として該出口通路32へ通じる渦巻溝33が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形機、射出成形機、ブロー成形機、造粒機などにおいて、プラスチック材料(以下、「材料」ともいう)の可塑化・混練・押出機能を具備するプラスチックの可塑化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のプラスチックの可塑化装置では、図4に示されるように、加熱筒110と、その加熱筒110の内部で回転するスクリュ120と、そのスクリュ120の前方端面121が近接して対面する内面131を備えて溶融プラスチックの出口通路132が軸心部に設けられた加熱筒ヘッド130とを具備する。また、スクリュ120は、外径部に螺旋溝122が設けられている。この従来の装置では、スクリュ120の直径に対する螺旋溝122の有効長さの比率は20以上であり、この形態を、押出成形機、射出成形機、ブロー成形機、造粒機などの構成要素として採用するときは、その長尺さが、上記各種機械を大型化させ、高価格なものにしていた。
【0003】
従来、これらの問題点を解決するためには、スクリュを比較的大径かつ短尺に設計して小型化を図ることが考えられる。これについては、例えば、内面が太径の加熱面を有する加熱筒と、この加熱面に合致する太径の可塑化面を有するスクリュとを備え、太径の加熱面と太径の可塑化面との間の回転によって可塑化される射出成形機(プラスチックの可塑化装置)が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
このようなプラスチックの可塑化装置は、図3に示すように、スクリュ20Aを大径とすることによって、一定の可塑化面積を持ちながら、軸方向の寸法を短尺にしようとするものである。しかしながら、この可塑化装置は、スクリュ20Aを大径とすることにより生じるスクリュの前方端面21Aを、単に溶融材料の通路として利用するのみで、可塑化混練する面積として利用していないため、充分な短尺化が得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−312443号公報(請求項1、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
プラスチックの可塑化装置に関して解決しようとする問題点は、前述したような押出成形機などの各種機械を小型で安価に製造するため、簡単な構造で、軸方向の寸法をより短くできるプラスチックの可塑化装置が、提案されていないことにある。
そこで、本発明の目的は、各種機械を小型で安価に製造するため、簡単な構造で、軸方向の寸法をより短くできるプラスチックの可塑化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために次の構成を備える。
本発明にかかるプラスチックの可塑化装置の一形態によれば、プラスチック材料を加熱すると共に後方から前方へ送る通路となる加熱筒と、該加熱筒の内部で回転することで前記プラスチック材料を後方から前方へ送るスクリュと、該スクリュの前方端面が近接して対面する内面を備えると共に溶融プラスチックの出口通路が軸心部に設けられている加熱筒ヘッドとを具備し、直径を大径化して軸方向の長さを短尺化するように設けられるプラスチックの可塑化装置であって、前記スクリュは、外径部に複数条の螺旋溝が設けられていると共に前記前方端面は平坦に設けられ、前記加熱筒ヘッドの内面には前記出口通路を中心として該出口通路へ通じる渦巻溝が設けられている。
【0008】
また、本発明にかかるプラスチックの可塑化装置の一形態によれば、前記スクリュの螺旋溝の後方部をプラスチック材料の供給ゾーンとし、該螺旋溝の前方部をプラスチック材料の圧縮ゾーンとすると共に、前記スクリュの前方端面をプラスチック材料の計量ゾーンとすることを特徴とすることができる。
また、本発明にかかるプラスチックの可塑化装置の一形態によれば、前記スクリュの前方端面は円形の平坦な平面であり、前記加熱筒ヘッドの内面は前記渦巻溝が設けられた円形の平面であることを特徴とすることができる。
【0009】
また、本発明にかかるプラスチックの可塑化装置の一形態によれば、前記スクリュの前方端面は円錐形の外面であり、前記加熱筒ヘッドの内面は前記渦巻溝が設けられた円錐形の内面であることを特徴とすることができる。
また、本発明にかかるプラスチックの可塑化装置の一形態によれば、前記スクリュの後方から該スクリュの内部にヒートパイプの一方が挿入されて配され、該ヒートパイプの他方が、前記スクリュの後方外側に該スクリュと共に回転するように設けられたヒートシンク内に挿入されて配されていることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプラスチックの可塑化装置によれば、各種機械を小型で安価に製造するため、簡単な構造・構成にもかかわらず、軸方向の寸法をより短くできるという特別有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るプラスチックの可塑化装置の形態例を示す縦断面図である。
【図2】図1の形態例のA−A線断面図である。
【図3】従来技術を示す縦断面である。
【図4】他の従来技術を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るプラスチックの可塑化装置の形態例を、添付図面(図1、2)に基づいて詳細に説明する。
このプラスチックの可塑化装置は、プラスチック材料Mを加熱すると共に後方から前方へ送る通路となる加熱筒10と、その加熱筒10の内部で回転することでプラスチック材料Mを後方から前方へ送るスクリュ20と、そのスクリュ20の前方端面21が近接して対面する内面31を備えると共に溶融プラスチックの出口通路32が軸心部に設けられている加熱筒ヘッド30とを具備し、直径を大径化して軸方向の長さを短尺化するように設けられるものである。
【0013】
スクリュ20は、外径部に複数条の螺旋溝22が設けられていると共に前方端面21は平坦に設けられ、加熱筒ヘッド30の内面31には出口通路32を中心としてその出口通路32へ通じる渦巻溝33が設けられている。
本形態例の渦巻溝33の形状は、図2に示すように、二条の渦巻状の溝によって構成されているが、この形態に限定されるものではない。三条以上の溝によって構成してもよいし、場合によっては一条の溝によって構成することもでき、溶融プラスチックを押し出す方向に作用する溝状などの渦巻状の凹凸が適宜に形成されていればよい。
【0014】
このように加熱筒ヘッド30の内面31に渦巻溝33を設けることによって、後述するように可塑化能力を向上できる。このため、プラスチックの可塑化装置について、簡単な構造・構成にもかかわらず、軸方向の寸法をより短縮化することができ、装置全体のコンパクト化が可能になって製造コストを低減できる。
【0015】
11は加熱筒のヒータであり、加熱筒10の前方側の部分を加熱できるように、その加熱筒10の前方側に巻き付けられた形状に設けられている。
35は加熱筒ヘッドのヒータであり、加熱筒ヘッド30に穿設された深い穴に挿入されて配されている。なお、この加熱筒ヘッドのヒータ35の形態は、加熱筒ヘッド30の内面31を均一に加温できるように、適宜設定すればよい。例えば、4本の棒状のヒータを口の字状に配置する形態、渦巻状のヒータ又は同心円状に複数のヒータを配置する形態などを採用することができる。
【0016】
また、本形態例では、図1に示すように、スクリュの螺旋溝22の後方部をプラスチック材料Mの供給ゾーンZ1とし、その螺旋溝22の前方部をプラスチック材料Mの圧縮ゾーンZ2とすると共に、スクリュ20の前方端面21をプラスチック材料Mの計量ゾーンZ3とすることができる。このように、スクリュ20の前方端面21をプラスチック材料Mの計量ゾーンZ3として機能させることができるため、装置の軸方向の長さをより短くすることができ、装置全体のコンパクト化が可能になって製造コストを低減できる。
【0017】
さらに、本形態例では、スクリュ20の前方端面21は円形の平坦な平面であり、加熱筒ヘッド30の内面31は渦巻溝33が設けられた円形の平面である。これによれば、スクリュ20の前方端面21をプラスチック材料の計量ゾーンZ3として好適に機能させることができ、装置の軸方向の長さをより短くすることができ、装置全体のコンパクト化が可能になって製造コストを低減できる。
【0018】
このスクリュ20の前方端面21と加熱筒ヘッド30の内面31の形状は、図示した形態に限定されず、少なくとも加熱筒ヘッド30の内面31に、渦巻溝33が形成されているとよい。例えば、スクリュ20の前方端面21を円錐形の外面となる形状に設け、加熱筒ヘッド30の内面31を渦巻溝33が設けられた円錐形の内面となる形状に設けることもできる。これによっても、大径化に限界があるような場合に、その制約の中で装置の軸方向の長さをより短くできる。
【0019】
12は材料の供給口であり、13は材料の供給用ホッパー部である。これらを介して材料Mが、加熱筒10の後方の内部に供給される。
15は軸受部であり、スクリュ20の後端に固定して設けられた回転軸部25を、軸心を中心に回転自在に受けている。この回転軸部25を介して回転駆動手段(図示せず)によって矢印方向へスクリュ20が回転される。
【0020】
次に、プラスチックの可塑化装置にかかる作動原理と、本発明の構成による作用の特徴について説明する。
プラスチックの可塑化装置の可塑化能力を決定する要因はいくつかあるが、可塑化面積すなわちスクリュ20の表面積の大きさと螺旋溝22の周速度の高さの寄与度が大きいと考えられる。ここで、周速度は材料の種類にもよるが一定の制限があり、一定以上に上げることができない。その理由はスクリュ20の回転による剪断発熱が材料を熱分解させてしまうからである。従って、可塑化装置の可塑化能力を決定する主な要因は可塑化面積すなわちスクリュの表面積に比例するといえる。
【0021】
表面積は円周の長さと軸方向の長さの積であるから、例えば図4のような従来の可塑化装置のスクリュ径に対して、5倍のスクリュ径を想定すれば螺旋溝22の有効長さは、従来の5分の1で済むことになる。かつ、本発明のポイントである加熱筒ヘッド30の内面31の渦巻溝33を可塑化面積として加えることによって、螺旋溝22の有効長さは従来の7分の1で済むことになる。
従って、本願発明の構成によれば、さらなる小型化、コンパクト化が可能になる。
【0022】
また、スクリュ20の回転によって、材料Mが輸送される原理はボルトとナットの関係に例えられる。ナットを押さえない状態でボルトを回転すると、ナットはボルトと共回りして、ナットは同じ位置で回転する。ナットを押さえた状態でボルトを回転すると、ナットはボルトの軸方向に移動する。ここで、ボルトをスクリュ20に、ナットを材料Mに置き換えると、ナットを押さえる力は加熱筒10の内壁面と材料Mの間の摩擦力に相当する。供給ゾーンZ1の中間から圧縮ゾーンZ2にかけての材料Mの輸送については、周知のプラスチックの可塑化装置と同様に加熱筒10の内壁からの熱により溶け始めた材料は、その内壁に付着しようとし、スクリュ20との接触面となる材料Mは溶けようとせず、摩擦力に違いを生じ、前方へ運ばれる。
【0023】
一方、スクリュ20の前方端面21に設けられた計量・混練ゾーンにおいては、材料Mは既に一旦溶融してから輸送されて来るから、もし、加熱筒ヘッド30とスクリュ20の温度が同じであれば、スクリュ20の前方端面21や加熱筒ヘッド30の内面31に渦巻溝33を設けても、輸送力は発生しないことになる。しかし、前記のように、本発明のプラスチックの可塑化装置のスクリュ20の前方端面21の温度は後部の温度に近く、かつそれらの温度はその材料Mの溶融温度より低いので、一旦溶融してから輸送されて来た材料Mはスクリュ20側で再び固化しようとして付着し、加熱筒ヘッド30側の摩擦力より大きくなる。
【0024】
ここで、渦巻溝33をスクリュ20側でなく、加熱筒ヘッド30側に刻設などによって設け、輸送力を発生させようとしたことが本発明の着眼点である。もし、スクリュ20側に渦巻溝を設ければ、輸送力が小さい問題だけでなく、最初に輸送されて来た材料Mが溝の内側表面に付着し、部分的に材料Mが入れ替わらなくなり、いわゆる滞留による熱分解を引き起こすことになる。
【0025】
また、本形態例では、スクリュ20の後方からそのスクリュ20の内部にヒートパイプ40の一方40aが挿入されて配され、そのヒートパイプ40の他方40bが、スクリュ20の後方外側にそのスクリュ20と共に回転するように設けられたヒートシンク50内に挿入されて配されている。これによれば、スクリュ20を適切に冷却することができ、材料Mの供給を安定的に行うことができる。
図1に示す形態例のヒートシンク50では、ヒートパイプ40に直接的に固定されており、そのヒートパイプ40を介してスクリュ20と共に回転して、風を切ることで冷却効率を高めている。
【0026】
一般的に、加熱筒10および加熱筒ヘッド30の温度は、ヒータ11、35によりその材料の溶融温度よりやや高く設定されて制御される。これに対し、スクリュ20の温度は、制御していないのが一般的で、スクリュ20の回転による材料Mとの摩擦熱と溶融プラスチック(材料M)からの熱伝導で、スタート時から徐々に高まるものの、回転力伝達部材などを介しての放熱などもあり、その材料Mの溶融温度より低い温度で飽和状態となる。従来の一般的なプラスチックの可塑化装置のスクリュ120は、図4に示されるように比較的小径で長いため、一定の温度勾配のもとにスクリュ後部120bの温度は低く保ち易い。
【0027】
これに対して、本発明のプラスチックの可塑化装置のスクリュ20は、図1に示されるように比較的大径で短いため、一定の温度勾配のもとにスクリュ後部20bの温度は、スクリュ前部20aの温度に近くなりがちである。スクリュ後部20bは材料の供給口12の近くでもあり、材料Mがスクリュ20と接触して溶融が始まると、材料Mの輸送が困難になる。そこで、前述したヒートパイプ40とヒートシンク50は、スクリュ20の温度を積極的に室温に近づけようとするものである。
【0028】
以上、本発明につき好適な形態例を挙げて種々説明してきたが、本発明はこの形態例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのは勿論のことである。
【符号の説明】
【0029】
10 加熱筒
20 スクリュ
21 前方端面
22 螺旋溝
30 加熱筒ヘッド
31 内面
32 出口通路
33 渦巻溝
35 加熱筒ヘッドのヒータ
40 ヒートパイプ
40a 一方
40b 他方
50 ヒートシンク
M 材料
Z1 供給ゾーン
Z2 圧縮ゾーン
Z3 計量ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック材料を加熱すると共に後方から前方へ送る通路となる加熱筒と、該加熱筒の内部で回転することで前記プラスチック材料を後方から前方へ送るスクリュと、該スクリュの前方端面が近接して対面する内面を備えると共に溶融プラスチックの出口通路が軸心部に設けられている加熱筒ヘッドとを具備し、直径を大径化して軸方向の長さを短尺化するように設けられるプラスチックの可塑化装置であって、
前記スクリュは、外径部に複数条の螺旋溝が設けられていると共に前記前方端面は平坦に設けられ、前記加熱筒ヘッドの内面には前記出口通路を中心として該出口通路へ通じる渦巻溝が設けられていることを特徴とするプラスチックの可塑化装置。
【請求項2】
前記スクリュの螺旋溝の後方部をプラスチック材料の供給ゾーンとし、該螺旋溝の前方部をプラスチック材料の圧縮ゾーンとすると共に、前記スクリュの前方端面をプラスチック材料の計量ゾーンとすることを特徴とする請求項1記載のプラスチックの可塑化装置。
【請求項3】
前記スクリュの前方端面は円形の平坦な平面であり、前記加熱筒ヘッドの内面は前記渦巻溝が設けられた円形の平面であることを特徴とする請求項1又は2記載のプラスチックの可塑化装置。
【請求項4】
前記スクリュの前方端面は円錐形の外面であり、前記加熱筒ヘッドの内面は前記渦巻溝が設けられた円錐形の内面であることを特徴とする請求項1又は2記載のプラスチックの可塑化装置。
【請求項5】
前記スクリュの後方から該スクリュの内部にヒートパイプの一方が挿入されて配され、該ヒートパイプの他方が、前記スクリュの後方外側に該スクリュと共に回転するように設けられたヒートシンク内に挿入されて配されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプラスチックの可塑化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−22755(P2013−22755A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156719(P2011−156719)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(393020797)ホロン精工株式会社 (3)
【Fターム(参考)】