説明

プラスチッククラッド光ファイバコード

【課題】 室熱環境下に置かれても伝送損失の低下の少ないプラスチッククラッド光ファイバコードを提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明のプラスチッククラッド光ファイバコードは、ガラス素線に樹脂からなるクラッド剤を塗布して硬化させた光ファイバ素線の上に被覆層を形成したプラスチッククラッド光ファイバ心線と、前記光ファイバ心線を取り巻くように配置されている抗張力繊維層と、前記抗張力繊維層の周囲に配置されている外被とを備える。前記外被に可塑剤が添加されている。前記外被の内側に防湿層がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラスチッククラッド光ファイバコードに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチッククラッド光ファイバの例が特許文献1に開示されている。同文献ではクラッドの上に被覆する熱可塑性樹脂に難燃剤を添加することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−209562号公報(特に0017段落)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プラスチッククラッド光ファイバ(PCS)コードの外被にはポリ塩化ビニル(PVC)など可塑剤が添加された樹脂が用いられることがある。湿熱環境下においてその可塑剤が分解し、炭素数が数個ないし十数個のアルコールなどが発生することがある。この分解成分がクラッドまで移行すると、クラッド材の分子運動が活発になってフッ素セグメントが凝集することある。この場合、凝集したフッ素セグメントが光の散乱源となり信号光の伝送損失が高くなるという現象が見受けられる。
【0005】
本発明は、防湿性の高いシートを光ファイバ心線の周囲に配置することにより、外被材料中の可塑剤の分解成分がクラッドに移行することを防止する。そして、湿熱環境下に置かれても伝送損失の増加の少ないプラスチッククラッド光ファイバコードを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のプラスチッククラッド光ファイバコードは、プラスチッククラッド光ファイバ心線と、前記光ファイバ心線を取り巻くように配置されている抗張力繊維層と、前記抗張力繊維層の周囲に配置されている外被とを備える。前記外被に可塑剤が添加されている。前記外被の内側に防湿層がある。
前記防湿層は、水蒸気透過度が40℃・90%RHのとき0.08g/m・24時間以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、湿熱環境下に置かれても伝送損失の低下の少ないプラスチッククラッド光ファイバコードが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明のプラスチッククラッド光ファイバコードを示す断面図である。
【図2】本発明のプラスチッククラッド光ファイバコードの別の態様を示す断面図である。
【図3】本発明のプラスチッククラッド光ファイバコードに使用される光ファイバ素線の製造方法の概念図である。
【図4】本発明のプラスチッククラッド光ファイバコードに使用される光ファイバ心線の製造方法の概念図である。
【図5】本発明のプラスチッククラッド光ファイバコードの製造方法の概念図である。
【図6】本発明のプラスチッククラッド光ファイバコードの防湿シートを螺旋巻きする方法の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のプラスチッククラッド光ファイバコード10は、図1に例示するように、プラスチッククラッド光ファイバ心線4、その外周の防湿層5、その外周の抗張力層6およびその外周の外被7からなる。
【0010】
光ファイバ心線4は、コア1、その外周のクラッド2およびその外周の被覆3からなる。
コアは石英ガラスからなり、その径は0.15−0.40mmである。
クラッドはフッ素系樹脂からなり、その外径は0.20−0.45mmである。クラッドの厚さは15−50μmである。クラッドに使用されるフッ素樹脂にはフッ化ウレタン(メタ)アクリレートがある。
【0011】
被覆はフッ素樹脂からなり、その外径は0.5−0.7mmである。被覆に使用されるフッ素樹脂にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)などがある。
【0012】
防湿層は、防湿性のシートからなり、その厚さは0.04mmないし0.30mmである。防湿性のシートには、フィルムメーカ各社(東レ、クレハ、グンゼなど)から防湿シート、防湿フィルムとして販売されているものを使用することができる。シートの材質は、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂などがある。
【0013】
抗張力層は、アラミド繊維などの抗張力体からなり、その厚さは0.2mmないし0.5mmである。
【0014】
外被は、ポリエチレン(PE)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)などのポリオレフィン系樹脂やポリ塩化ビニル(PVC)樹脂からなり、その外径は約2.2mmである。外被の厚さはその外径が所定の値となるように適宜調整される。外被には可塑剤が添加される。可塑剤にはフタル酸エステル系、リン酸エステル系、トリメリット酸エステル系、クエン酸エステル系、エポキシ系、ポリエステル系の可塑剤がある。
【0015】
プラスチッククラッド光ファイバ心線の周囲に抗張力体および外被を設けたものがプラスチッククラッド光ファイバコードと称される。本発明は、防湿層があることが特徴である。
【0016】
湿熱環境下に従来のプラスチッククラッド光ファイバコードを置いた後に、その光ファイバコードを調べると、クラッドからアルコール(炭素数が数個ないし十数個)など揮発分が検出された。クラッドに元々含まれていない成分であり、湿熱環境下にある間にクラッドの外部から移行してきたものと推定される。その由来をこの光コードに求めると、外被に含まれる可塑剤が分解したものであると推定される。
本発明の光コードでは、外被の内側かつクラッドの外側に防湿層を配置して、可塑剤の分解成分がクラッドに移行することを防止する。これにより、クラッドでフッ素セグメントが凝集することがなく、信号光の散乱源がクラッドに生じない。つまり、湿熱環境下に置いた場合でも、信号光の伝送損失悪化を防ぐことができる。
防湿層を設けることにより、防湿層がない従来の光ファイバコードに比べて、湿熱環境下に置いた場合の伝送損失悪化が改善される。防湿層の防湿性が高いほど可塑剤が移行する量を少なくでき、伝送損失の悪化防止の効果が高い。防湿層の水蒸気透過度が40℃、90%RHで0.08g/m・24時間以下であれば、伝送損失の悪化が5dB/km以下となる。これであれば、実用上、伝送損失の問題がないと言える。
【0017】
光コードには、抗張力体が設けられてコードが引っ張られるなどした場合も光ファイバ心線に大きな力がかからないようにされている。防湿層は図1のように抗張力体の内側(光ファイバ心線のすぐ外側)に設けることができ、図2に示すように抗張力体の外側で外被の内側に設けることができる。いずれの場合も防湿層が、外被中の可塑剤の分解成分がクラッドに移行することを防ぐ。
【0018】
光ファイバコードには難燃性が要求されることがある。その場合、外被に難燃剤が添加される。難燃剤によってはリン酸エステルなどのように可塑剤としても作用するものがある。その難燃剤は、湿熱環境下で可塑剤と同様に分解して揮発成分を生じる。この分解成分(主としてアルコール)がクラッドに移行すると、上述したのと同様に伝送損失悪化の問題が生じる。本発明の光ファイバコードでは防湿層があるので、そのような難燃剤が外被に添加されても、湿熱環境下に置いて伝送損失が悪化することを防ぐことができる。
【0019】
本発明の光ファイバコードを製造するには、まず光ファイバ心線を製造し、それに抗張力体を添わせ、さらに防湿層を設け、そして外被を被覆する。抗張力層と防湿層の順序は逆でもよい。
【0020】
光ファイバ心線を製造するには、まず光ファイバ母材を加熱して線引してガラス素線とする。ガラス素線にクラッド材を塗布して硬化させる。続いて被覆材を塗布して硬化させる。
図3にガラス素線にクラッド材を塗布して硬化させる方法の概念図を示す。光ファイバ母材21を加熱装置31で加熱して線引きしてガラス素線22とする。クラッド材は、光重合開始剤を添加して紫外線硬化型樹脂としたものを使用する。コータ32に入れたクラッド材23にガラス素線22を通過させてクラッド材23を塗布する。その後、硬化装置33で紫外線をガラス素線22に塗布されたクラッド材23に照射してクラッド材23を硬化させる。クラッド材23にはフッ化(メタ)アクリレート樹脂を使用することができる。図3ではクラッド材23を硬化させた段階で引取装置34で引き取って巻取装置35で巻き取っている。図3ではガイドローラ36で光ファイバのパスラインの方向を変えている。
クラッドの上に設ける被覆はフッ素樹脂(PTFE、ETFE、PFAなど)を押出被覆する。図4に示すように、コアとクラッドからなる光ファイバ素線24を繰出装置36から繰り出して、クロスヘッド37で被覆となるフッ素樹脂を押し出して、冷却装置38で水冷するなどして被覆層を形成して光ファイバ心線4を製造し、巻取り装置39で巻き取る。パスラインには適宜ガイドローラ48が配置される。こうして光ファイバ心線ができる。
【0021】
光ファイバ心線に防湿シートを巻き付けてさらに下流へ送る。その下流で光ファイバ心線にアラミド繊維などの抗張力体を縦添えさせて光ファイバ心線と抗張力体とを一体的に引き取る。その下流でクロスヘッドを使用して外被を押出被覆する。水冷等して外被を冷却して光ファイバコードを巻き取る。
防湿シートの巻き付けは縦添え(煙草巻)でも螺旋巻のいずれでもよい。縦添えする場合はテーパ状の筒などを使用する。筒の出口の径が入口の径よりも小さく、出口の径を防湿層の外径とほぼ等しくして、この筒のほぼ中心に光ファイバ心線を通し、防湿シートを筒の内面に接するように通すことで、防湿シートを煙草巻きにすることができる。この場合、防湿シートは重なり合う部分が生じる。防湿シートが重なり合う幅は、その内側の層である光ファイバ心線の外周の10%程度以下とする。螺旋に巻く場合は、光ファイバ心線のパスラインを中心にしてその周囲を回転する弓を使用し、弓上の固定点を防湿シートが通るようにして防湿シートを抗張力体が添えられた光ファイバ心線の周囲から供給されるようにして巻き付けることができる。螺旋に巻く場合も防湿シートは重なり合う部分が生じる。重なり合う幅は防湿シートの幅の6分の1ないし3分の2とする。
【0022】
光ファイバ心線の上に防湿層と抗張力層と外被とを設ける方法の概念図を図5に示す。
繰出装置40から光ファイバ心線4を繰り出して、防湿シート供給装置41から防湿シート25を供給して、フォーマ42で光ファイバ心線4の上に防湿シート25を煙草巻して縦添えする。防湿シートは必要に応じて押さえローラ43で押さえて光ファイバ心線4に巻き付け易い形状とする。続いて、抗張力体供給装置44から抗張力体26を供給してダイス45で防湿シートが巻かれた光ファイバ心線の周りに抗張力体26を集合させて縦添えする。続いてクロスヘッド46で外被となる樹脂を押し出して、冷却装置47で水冷するなどして外被を形成して光ファイバコード10が製造される。光ファイバコードは巻取装置49に巻き取られる。このパスラインには引取装置50を配して光ファイバ心線、抗張力体、防湿シートを引き取ってパスラインを上流(図5の左側)から下流(図5の右側)へ進行させる。引取装置の数と位置は図5に示した例に限定されず、適宜の数が適宜の位置に配置される。パスラインには適宜ガイドローラ48が配置される。
【0023】
防湿シートを螺旋巻きする場合は、図6に示すように弓51の通過点52に防湿シートを通して、光ファイバ心線4を軸として弓51を回転させる。防湿シートが光ファイバ心線4に巻かれる箇所はダイス53としてここは固定点とする。防湿シートの供給点となる通過点52が光ファイバ心線4の周囲を回転して、防湿シートが光ファイバ心線4に螺旋に巻かれる。防湿シート供給装置41はなるべく回転軸すなわち光ファイバ心線4に近い位置に配置し、かつ防湿シート供給装置41と通過点52との間でできるだけ光ファイバ心線4に近い位置に押さえ部材54を配置して防湿シートのパスライン長ができるだけ一定となるようする。こうして防湿シートの張力を安定させる。
【0024】
図5では、光ファイバ心線の被覆の押出後一旦巻き取り、それから光ファイバコードを製造する例を示したが、一旦巻き取る工程は、その他の工程の切れ目でもできる。例えば、防湿層を巻き付けた後や抗張力体を添わせた後に巻き取ってもよい。ただし、抗張力体と防湿層はその外に押さえがない状態では繰り出されたときに解けることがあるので、図5に示すように防湿層の巻き付け、抗張力体の縦添え、外被の被覆は途中で巻き取らずに一連の流れで行うことが好ましい。
光ファイバ心線4を製造した後に一旦巻き取らずに光ファイバコードを製造してもよい。
【0025】
光ファイバ心線の上に抗張力体を添わせてから防湿層を巻く場合は、図5のコーンロウ
例に準じると、防湿シート供給装置41、フォーマ42および押さえローラ43と抗張力体供給装置44およびダイス45とを入れ替えて、先に抗張力体を添わせてその後に防湿シートを巻けばよい。
【実施例】
【0026】
コアが石英ガラスからなりその外径が0.20mm、クラッドがフッ化ウレタンアクリレート系樹脂からなりその外径が0.23mm、被覆がETFEからなりその外径が0.50mmであるプラスチッククラッド光ファイバ心線を使用して下記の表1に示す各光ファイバコードを製造する。各例とも光ファイバコードの外径は2.2mmである。
外被のベース樹脂はPVCとし、可塑剤を5重量%、臭素系難燃剤を5重量%添加する。この難燃剤は可塑剤としても作用する。
これらの光ファイバコードを70℃、85%相対湿度(RH)の湿熱環境下に1000時間置いた後に850nmの波長の信号光の伝送損失を測定する。
各例の試料で異なる点は、防湿層の有無または防湿層の水蒸気透過度もしくは厚さである。比較例は防湿層がない例である。
【0027】
【表1】

【0028】
防湿層を設けることで湿熱環境下に置いた後の伝送損失に改善が見られる。特に、防湿層の水蒸気透過度を40℃、90%RHの時0.08g/m2・24時間以下とした場合は、伝送損失が十分に低く、実用上伝送損失の問題がない。
【符号の説明】
【0029】
1 コア
2 クラッド
3 被覆
4 プラスチッククラッド光ファイバ心線
5 防湿層
6 抗張力層
7 外被
10 プラスチッククラッド光ファイバコード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチッククラッド光ファイバ心線と、前記光ファイバ心線を取り巻くように配置されている抗張力繊維層と、前記抗張力繊維層の周囲に配置されている外被とを備え、前記外被に可塑剤が添加されていて、前記外被の内側に防湿層を有するプラスチッククラッド光ファイバコード
【請求項2】
前記防湿層の水蒸気透過度が40℃・90%RHの時0.08g/m・24時間以下であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチッククラッド光ファイバコード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−123393(P2011−123393A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282535(P2009−282535)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】