説明

プラスチックフィルムの表面改質方法及びその装置

【課題】改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎を噴射する表面改質技術を利用して、極めて薄肉なプラスチックフィルムであっても熱的損傷を与えることなく、確実且つ連続的にフィルム表面を改質できるようにする。
【解決手段】フィルム(F)が巻かれた繰出しロール(1a)を支持するフィルム繰出し手段(1)と、これを巻取りロール(2a)に巻き取る巻取り手段(2)と、フィルム走行路上に配置されていて表面改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎をフィルムの一面に向けて噴射する火炎噴射手段(3)と、フィルム走行路を挟んで火炎噴射手段(3)と対向する位置に設置されていて走行するフィルム(F)の他面を冷却水に接触させるフィルム冷却液接触手段(4)と、フィルム(F)の走行方向と直交する外側方向へ張力を付加する張力付加手段(5)とで、フィルム表面改質機能を備えた装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺で厚さが1μm〜200μm程度のプラスチックフィルムを、原反ロールから繰出しつつ、その表面に改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎を吹き付けて、フィルム表面を連続的に改質する方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
固体物質の表面における、塗装や接着強度の向上、仕上がり品質の向上のためには、塗装や接着される部分の表面処理が不可欠である。かかる固体物質の表面処理方法として、沸点が約10〜110℃である改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎を固体物質の表面全体に又は部分的に吹き付けて表面を改質する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
前記表面改質技術は、厚みのある固体物質に対して有効であるものの、これを肉厚が極めて薄いシート状やフィルム状の素材に直接適用することはできない。シート状やフィルム状の素材に火炎が直接当たることによって熱衝撃が加わり、素材に皺ができたり収縮したりするなどの物理的劣化を引き起こしてしまうからである。
このような薄肉な素材の表面を改質する場合の問題点を踏まえ、前記素材を繰出す繰出しロールとこれを巻き取る巻取りロールとの間の素材走行路上に、表面温度を冷却可能に構成された冷却ロールなどの熱拡散手段を配置し、素材を熱拡散手段で冷却しつつその表層に燃料ガスの火炎を吹き付けることにより、素材に加わる熱衝撃を抑えて熱的損傷を回避するようにした表面改質方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−238710公報
【特許文献2】特開2006−16685公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薄肉な素材を熱拡散手段で冷却しつつ火炎を吹き付ける前記表面改質方法は、比較的厚いシート状の素材、具体的には肉厚が200μmを越す素材に対しては、ある程度の熱的損傷を回避でき、素材の表面を改質処理できることが確認されている。しかし、それよりも薄い、肉厚が1μm〜200μm程度のフィルム状の素材では、前記熱拡散手段を用いたとしても、素材の表層に吹き付けられる火炎によって素材の膨張・伸縮が生じ、素材が劣化することは避けられず、従来の表面改質方法によっても、極めて薄肉な素材に対する熱的損傷を根本的に回避することができなかった。
【0006】
本発明は従来技術の有するこのような問題点に鑑み、改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎を噴射する表面改質技術を利用して、極めて薄肉なプラスチックフィルムであっても、皺や収縮の発生といった熱的損傷を与えることなく、確実且つ連続的にフィルム表面を改質できるようにすることを課題とする。
【0007】
前述の通り、プラスチックフィルムなどの薄肉な素材では、素材が薄いがために、表面に火炎を噴射した場合に加わる熱衝撃エネルギーにより熱的損傷が生じてしまう。従来の如く熱拡散手段として冷却ロールを用い、この冷却ロールを介してフィルムを間接的に冷却するだけでは熱的損傷を回避する手段としては不十分であり、薄肉なフィルムを加工するにあたっては、熱衝撃エネルギーを吸収し拡散させる効果がより大きな手段を講じる必要がある。また、フィルムに熱衝撃エネルギーが加わることにより、フィルムに皺や収縮が生じるなど、フィルムの物理的性状が変化することから、火炎の噴射による熱衝撃エネルギーが加わった際に、フィルムの物理的性状が変化しないよう、フィルムの定型性が保たれるような手段を講じる必要がある。
【0008】
本発明は、かかるプラスチックフィルムに加わる熱衝撃エネルギーの効果的な吸収と、熱衝撃エネルギーが加わった際のフィルムの収縮を防止する観点に基づいて、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、フィルムを冷却液に直接接触させた状態で火炎を噴射すれば、火炎が当たるフィルム表面を確実に改質できる一方、フィルムに加わる熱衝撃エネルギーを吸収し拡散させる効果が大きいこと、この際にフィルムに周囲外側方向への張力が付加されていれば、フィルムの収縮といった熱的損傷が生じることがないことを見出してなし得たものである。
【0009】
すなわち、本発明のプラスチックフィルムの表面改質方法は、繰出しロールから送り出されたプラスチックフィルムを巻取りロールで巻き取る間のフィルム走行路上に、表面改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎を噴射する火炎噴射手段を配置し、走行するフィルムの表面に前記火炎を噴射させてフィルム表面を改質する方法であって、前記走行するフィルムの裏面を冷却液に接触させ、且つフィルムの走行方向と直交する方向であってフィルム両側をそれぞれ外方向へ引っ張る張力をフィルムに付加した状態で前記火炎をフィルムの表面に噴射させることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のプラスチックフィルムの表面改質装置は、プラスチックフィルムが巻かれた繰出しロールを支持してフィルムを送り出す繰出し手段と、送り出されたフィルムを前記繰出し手段と同調して巻取りロールに巻き取る巻取り手段と、前記繰出し手段と巻取り手段の間のフィルム走行路上に配置されていて表面改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎をフィルムの一面に向けて噴射する火炎噴射手段と、フィルム走行路を挟んで前記火炎噴射手段と対向する位置に設置されていて走行するフィルムの他面を冷却液に接触させるフィルム冷却液接触手段と、フィルムの走行方向と直交する方向であってフィルムの両側をそれぞれ外方向へ引っ張る張力を走行するフィルムに付加する張力付加手段とを具備した構成を有することを特徴とするものである。
【0011】
これによれば、被改質素材であるプラスチックフィルムは、その表面(上面)に火炎噴射手段による火炎が噴射される際、その裏面(下面)は冷却液に直接接触されているため、火炎が当たる表面が改質される一方、フィルムに加わる熱衝撃エネルギーを直に接する冷却液の蒸発潜熱エネルギーに変換して効果的に拡散させることができる。
また、フィルムの走行方向と直交するフィルム両側をそれぞれ外方向へ引っ張る張力がフィルムに付加されており、走行方向の張力と相俟って、火炎が噴出される際にはフィルムに周囲外側方向へ引っ張る張力が付加されているので、熱衝撃エネルギーによりフィルムに皺ができたり収縮したりすることはなく、熱的損傷を与えずに薄いフィルムの表面を確実に改質することが可能となる。
【0012】
前記構成の表面改質装置において、フィルム冷却液接触手段は、フィルムの上面を被改質面とした場合に、フィルムの下面が冷却液に直に接した状態を維持する手段であり、フィルムの上面に火炎を噴射することによる改質処理は、その下面を冷却液に接触させた状態において行われる。
例えば、フィルム走行路上に冷却液が貯留された水槽を設置し、貯留された冷却液の液面にフィルムの下面が接しながら冷却液面上をフィルムが走行するようにフィルム冷却液接触手段を構成し、前記冷却液面上を走行しているフィルムの上面に火炎が噴射されるように火炎噴射手段を構成することができる。
また、フィルム走行路上に保水層を表面に有するロールを設置し、保水層に冷却液が貯留されたロールにフィルムを巻き付け、フィルムの下面が冷却液に接しながらフィルムが走行するようにフィルム冷却液接触手段を構成し、前記ロールに巻き付けられたフィルムの上面に火炎が噴射されるように火炎噴射手段を構成することができる。
或いは、フィルムの下面に冷却液を連続的に噴出させて、フィルム下面が冷却液に接触された状態にするようにフィルム冷却液接触手段を構成してもよい。
火炎噴射による改質処理は、走行するフィルムの上面全体に対して行う場合、走行するフィルムの下面全体、つまりフィルムの短手幅方向全体を冷却液に接触しておく必要がある。
【0013】
前記構成の表面改質装置において、張力付加手段は、フィルムの走行方向と直交する方向、つまり短手幅方向に沿って、フィルムの両側を当該フィルムの中心線より外方向へそれぞれ引っ張る張力を付加する手段である。張力付加手段は、前記フィルム冷却液接触手段によってフィルムが冷却液に接触されている間のフィルム走行路上に設置されるが、繰出しロールから巻取りロールに至るフィルム走行路全体に設置してもよい。
張力付加手段としては、例えばフィルムの両側部に所定間隔で通孔をそれぞれ設けておくとともに、フィルムの走行に伴って移動する又は回転するピンをフィルムの短手幅間隔に沿ってフィルム走行路上に平行に設け、両ピンにフィルム両側部の通孔を係合させることにより、走行するフィルムに短手幅外方向への張力がかかるように構成することができる。
また、前記ピンに代え、同じくフィルムの走行に伴って移動するローラチェーン式テンタークリップをフィルム走行路上に平行に設け、両テンタークリップでフィルムの両側を把持することにより、或いは同じくフィルムの走行に伴って移動する上下挟持式のゴムベルトをフィルム走行路上に平行に設け、両ゴムベルトでフィルムの両側を挟持することにより、走行するフィルムに短手幅外方向への張力がかかるように構成してもよい。前記ピン、テンタークリップ、挟持式ゴムベルトを適宜に選択し、組み合わせて張力付加手段を構成してもよい。
また、張力付加手段のさらに別な態様として、フィルム走行路上にエキスパンダーロールを配置し、当該ロールにフィルムを巻き付けて走行させることにより、走行方向と直交する方向であってフィルムの両側をそれぞれ外方向へ引っ張る張力が付加されるように構成してもよい。前記ピン、テンタークリップ、挟持式ゴムベルトとエキスパンダーロールとを適宜に組み合わせ、これらをフィルム走行路上に適宜に配置して張力付加手段を構成してもよい。
要は、少なくともフィルムの下面が冷却液に直に接している間だけ、フィルムの走行方向と直交した短手幅方向に沿って、フィルムの両側を外方向へ引っ張る張力が付加されるように張力付加手段が設置されていればその構成は問わない。張力付加手段によってフィルムに付加する張力は、フィルムが走行している状態でフィルムにかかる張力がその周辺外方向で均等となるように、フィルムの走行方向にかかる張力と略同じとなるように設定することが好ましい。
なお、フィルムの一面に接触させる冷却液としては、水、好ましくは工業用純水の利用がフィルムの変質防止のために望ましいが、冷却効果のある他の溶液を用いてもよい。
【0014】
プラスチックフィルムの被改質面に向けて表面改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎を噴射する火炎噴射手段としては、公知の表面改質技術に利用されている手段を用いることができる。
すなわち、改質剤化合物として、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、アルコキシアルミニウム化合物からなる群から選択される沸点が約10〜110℃であるケイ素含有化合物が用いられ、これら改質剤化合物を加熱して気体状態とした後、空気流に混合して得られる燃料ガスの火炎を、被改質面に向けて噴射するバーナー型火炎噴射処理手段を用いることができる。火炎をフィルム表面に吹き付けるバーナー部分は、処理するフィルムの短手幅全体に火炎が同時に吹き付けられるように、フィルムの短手幅寸法に応じて、火炎噴出口を横方向に適宜な個数列設して構成される。
【0015】
なお、本発明は、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂フイルム、シリコーン樹脂フイルム、その他の樹脂からなる、厚さが1μm〜200μm程度のプラスチックフィルムの表面改質処理に好適であるが、厚さが200μmを超えるプラスチックシートの表面改質処理にも適用できることは勿論である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の好適な実施の形態につき図面を参照して説明する。
図1は本発明の表面改質方法を実施するための装置の一実施形態の概略構成を示す装置の側面と上面の模式図、図2は図1中の火炎噴射手段の概略構成を示した図、図3は図1中のIII−III線に沿った断面でフィルム走行路上に配置した火炎噴射手段とフィルム冷却液接触手段の概略構成を示した図であり、図中、符号Fは表面改質処理を施すプラスチックフィルム、1はフィルム繰出し手段、2はフィルム巻取り手段、3は火炎噴射手段、4はフィルム冷却液接触手段、5は張力付加手段、6はフィルムFの走行路上に配されたテンションローラー、Wは冷却水をそれぞれ示している。
【0017】
プラスチックフィルムFは、原反ロールである繰出しロール1aに巻かれた状態で、フィルム繰出し手段1から繰出し自在に配置してある。
フィルム繰出し手段1は、フィルムFが巻かれた繰出しロール1aを支持し、フィルムFを所定の速度で連続的に送り出すことができるように設けてある。また、フィルム巻取り手段2は、フィルムFを巻き取る巻取りロール2aを支持し、フィルム繰出し手段1と同調して、当該繰出し手段から連続的に送り出されるフィルムFを巻取りロール2aに巻き取ることができるように設けてある。
【0018】
火炎噴射手段3は、フィルム繰出し手段1とフィルム巻取り手段2の間のフィルムFの走行路上に配置されており、表面改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎を走行するフィルムFの上面に向けて噴射し、フィルムFの表面に火炎を接触させることにより、フィルムFの表面を改質せしめるように構成してある。
より詳しくは、火炎噴射手段3は、図2に示されるように、ケイ素含有の改質剤化合物であってそれぞれ沸点が10〜110℃である改質剤化合物31を貯蔵する貯蔵タンク32と、燃料ガスを移送する管構造の移送部33と、燃料ガスの火炎34を吹き付けるためのバーナー部35とを有するフレーム装置36により構成されており、前記貯蔵タンク32の下部に設けたヒータや電熱線などからなる加熱部32aで改質剤化合物31を所定温度に加熱して気化させ、これを所定の蒸気圧で移送部33の混合室33aへと移送し、当該混合室内で図示されない他の貯蔵タンクから移送された引火性ガス(空気)と均一に混合して燃料ガスを生成し、この燃料ガスをバーナー部35で燃して得られる火炎34をフィルムFの上面に吹き付けるように設けてある。同図中、符号32bは貯蔵タンク32内の蒸気圧をモニタする圧力計、33bはバーナー部35への燃料ガスの送出圧を制御するための圧力計である。なお、バーナー部35は、処理するフィルムFの短手幅寸法に応じて、火炎34の噴出口35aを複数横方向(フィルムFの短手幅方向)に列設して構成されており、また、フィルムF表面への火炎の噴射角度や噴出口35bからフィルムF表面までの距離を適宜に調節自在に設けてある。
【0019】
フィルム冷却液接触手段4は、フィルムFの走行路を挟んで前記火炎噴射手段3と対向する位置、つまり、フィルムFの走行路の下側に設置されており、走行するフィルムFの下面に冷却水を直に接触するように設けてある。このフィルム冷却液接触手段4は、フィルムFに冷却水が接触している状態でその表面に前記火炎噴射手段3の火炎を接触させることにより、その際にフィルムFに加わる熱衝撃エネルギーを冷却水の蒸発潜熱エネルギーに変換し、フィルムFに熱的損傷が加わることを回避するためのものである。
走行するフィルムFに冷却水が直に接するようにするには、例えば図3に示されるように、フィルムFの短手幅寸法と略同じ幅だけ上面を開口した水槽41内に冷却水Wを満水になるまで満たし、この水槽41の最上面で冷却水WにフィルムFの下面が接触し、冷却水に接触した状態で、フィルムFが冷却水面上を走行するように前記水槽41を配置してフィルム冷却液接触手段4を構成することができる。
【0020】
張力付加手段5は、図1中で、フィルムFの走行方向(矢符A方向)と直交する方向、つまり短手幅方向に沿って、フィルムの両側を当該フィルムの中心線(O)より外方向(矢符B方向)へそれぞれ引っ張る張力を付加する手段であり、フィルム冷却液接触手段4によってフィルムFに冷却水が接触している間のフィルム走行路上に設置してある。
張力付加手段5は、例えばフィルムFの走行路に沿って、フィルムFの両側部が係合するピンや両側部を把持するテンタークリップ、或いは両側部を上下に挟持するゴムベルトを、フィルムFの走行に伴って移動自在に配置し、これらの部材でフィルムFの両側を支持することにより、フィルムFに短手幅外方向への張力がかかるように構成することができる。図1に示された張力付加手段5は、ローラチェーン式テンタークリップでフィルムFの両側部を把持して短手幅外方への張力が付加されるようにしたものである。
【0021】
このように構成された本発明の表面改質装置によれば、繰出しロール1aから巻取りロール2aへと走行するフィルムFの上面に火炎噴射手段3による火炎が噴射される際、フィルムFの下面はフィルム冷却液接触手段4により冷却水が接触して、フィルムFに冷却水が直に接触した状態に保持されるので、前記火炎の接触によってフィルムFの上面の改質処理がなされる一方、フィルムFに加わる熱衝撃エネルギーは冷却水の蒸発潜熱エネルギーに直ちに変換されてこれを吸収し、拡散させることができる。また、火炎が噴射される際、フィルムFには、走行方向と直交するフィルム両側をそれぞれ外方向へ引っ張る張力が付加されているので、熱衝撃エネルギーによりフィルムFに皺ができたり収縮したりすることはなく、フィルムFに熱的損傷を与えることなく、フィルムFの表面を確実に改質することが可能である。
【0022】
図4はフィルム冷却液接触手段4の他の構成例を示しており、これは冷却水Wを貯留する水槽42を、その両側部の対向上端部42a、42aを内方下側へ逆L字形にそれぞれ折り返すとともに、折り返された上端部42a、42aにフィルムFが進入し得るだけの間隔を開けて断面L字形に屈曲した防火カバー板42b、42bを重合設置し、防火カバー42b、42bと上端部42a、42aの間にフィルムFを進入させ、水槽42内に貯留された冷却水WにフィルムFの下面を直に接触させながら冷却水面上をフィルムFが走行するように構成したものである。
この場合、火炎噴射手段3のバーナー部35は、水槽42の開口面上であって前記両端部42a、42a間に進入設置され、冷却水Wに接しながら走行するフィルムFにバーナー部35の噴出口35aから火炎34を噴射させ、火炎をフィルムFの上面に接触させて改質処理が行われる。
【0023】
また、図5は、前記水槽42の開口面内であって、貯留された冷却水Wの液面よりも低い位置に多孔式プレート42cを設置し、多孔式プレート42cの上面に溢れ出た冷却水WにフィルムFの下面を接触させて、冷却水面上をフィルムFが走行するように構成したものである。
なお、図4(A)及び図5(A)では張力付加手段5の図示を省略してあるが、フィルムFが水槽42内を走行している間、張力付加手段5によりフィルムFに短手幅外方への張力が付加されることに変わりはない。
【0024】
図6及び図7はフィルム冷却液接触手段4のさらに他の構成例を示しており、これらは表面に保水層を有するロール43、45を冷却液接触手段として用い、冷却水を貯留した保水層にフィルムFを巻き付け、フィルムFの下面に冷却水を接触させながら、ロール43、45の外周面に沿ってフィルムFが走行するように構成したものである。
【0025】
図6のロール43は、周面に多数の細孔が形成されたメッシュロールであり、このロールの保水層は、図示されない冷却水注入手段によってロール43内に冷却水Wが注入されて当該ロールの上半部周面の細孔からロール内に貯留された冷却水Wを流出させることにより、ロール43の外周面に沿って走行するフィルムFの下面に冷却水が接触するように構成してある。図中、符号44はロール43から流出する冷却水Wの受皿である。
【0026】
また、図7のロール45は、ペーパーロールであり、その下部周面を冷却水を満たした貯水パッド槽46内に装填させて当該ロールに冷却水を吸収し貯留させることにより、ロール45の外周面に沿って走行するフィルムFの下面にロール45が吸収した冷却水が直に接触するように構成してある。
この場合、ロール45として、表面に梨地、絹目、斜線などのエンボス加工が施されたペーパーロールを用いれば、フィルムFに接触させることのできる冷却水Wの量が増し、熱衝撃エネルギーの吸収・拡散効果が向上する。
【0027】
なお、図6及び図7では張力付加手段5の図示を省略してあるが、ロール43、45にフィルムFを巻き付けて走行させている間、張力付加手段5によりフィルムFに短手幅外方への張力が付加されることに変わりはない。
また、ロール43、45をエキスパンダーロールとして構成し、当該ロールにフィルムFを巻き付けて走行させることにより、走行方向と直交するフィルムFの短手幅外方向への張力が付加されるようにしてもよい。ロール43、45の前後に配置したテンションローラー6、6をエキスパンダーロールとして構成し、ロール43、45の周面に巻き付いたフィルムFに両側外方向の張力が付加されるようにしてもよい。
【0028】
前記何れの構成のフィルム冷却液接触手段4であっても、フィルムFの下面が冷却水に接触している状態で、その直上の、フィルムFの上面に燃料ガスの火炎を噴射し、火炎を接触させて表面改質処理がなされる。なお、図1(A)に示されるように、フィルム冷却液接触手段4の後段には、フィルムFの下面に付着した冷却水を拭い取るための乾燥手段7を配置しておくことができる。
以上、図示した各手段の構成と形態は一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の表面改質方法を実施するための装置の一実施形態の概略構成を示す装置の側面(A)と上面(B)の模式図である。
【図2】図1中の火炎噴射手段の概略構成を示した図である。
【図3】図1中のIII−III線に沿った断面でフィルム走行路上に配置した火炎噴射手段とフィルム冷却液接触手段の概略構成を示した図である。
【図4】他の形態のフィルム冷却液接触手段の概略斜視図(A)と改質処理時の装置構成断面図(B)である。
【図5】さらに他の形態のフィルム冷却液接触手段の概略斜視図(A)と改質処理時の装置構成断面図(B)である。
【図6】ロールにより構成したフィルム冷却液接触手段の概略斜視図(A)と改質処理時の装置構成断面図(B)である。
【図7】他の形態のロールにより構成したフィルム冷却液接触手段の概略斜視図(A)と改質処理時の装置構成断面図(B)である。
【符号の説明】
【0030】
F プラスチックフィルム、W 冷却水、1 フィルム繰出し手段、1a 繰出しロール、2 フィルム巻取り手段、2a 巻取りロール、3 火炎噴射手段、34 火炎、35 バーナー部、4 フィルム冷却液接触手段、41、42 水槽、43、45 ロール、5 張力付加手段、6 テンションローラ、7 乾燥手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰出しロールから送り出されたプラスチックフィルムを巻取りロールで巻き取る間のフィルム走行路上に、表面改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎を噴射する火炎噴射手段を配置し、走行するフィルムの表面に前記噴射した火炎を接触させてフィルム表面を改質する方法であって、
前記走行するフィルムの裏面を冷却液に接触させ、且つフィルムの走行方向と直交する方向であってフィルム両側をそれぞれ外方向へ引っ張る張力をフィルムに付加した状態で前記火炎をフィルムの表面に噴射させることを特徴とするプラスチックフィルムの表面改質方法。
【請求項2】
プラスチックフィルムが巻かれた繰出しロールを支持してフィルムを送り出す繰出し手段と、送り出されたフィルムを前記繰出し手段と同調して巻取りロールに巻き取る巻取り手段と、前記繰出し手段と巻取り手段の間のフィルム走行路上に配置されていて表面改質剤化合物を含む燃料ガスの火炎をフィルムの上面に向けて噴射する火炎噴射手段と、フィルム走行路を挟んで前記火炎噴射手段と対向する位置に設置されていて走行するフィルムの下面を冷却液に接触させるフィルム冷却液接触手段と、フィルムの走行方向と直交する方向であってフィルムの両側をそれぞれ外方向へ引っ張る張力を走行するフィルムに付加する張力付加手段とを具備した構成を有するプラスチックフィルムの表面改質装置。
【請求項3】
フィルム走行路上に冷却液が貯留された水槽を設置し、貯留された冷却液の液面にフィルムの下面を接しながらフィルムが走行するようにフィルム冷却液接触手段が構成され、前記冷却液面上を走行しているフィルムの上面に火炎が噴射されるように火炎噴射手段が構成された請求項2に記載のプラスチックフィルムの表面改質装置。
【請求項4】
フィルム走行路上に保水層を表面に有するロールを設置し、保水層に冷却液が貯留されたロールにフィルムを巻き付け、フィルムの下面が冷却液に接しながらフィルムが走行するようにフィルム冷却液接触手段が構成され、前記ロールに巻き付けられたフィルムの上面に火炎が噴射されるように火炎噴射手段が構成された請求項2に記載のプラスチックフィルムの表面改質装置。
【請求項5】
フィルムの両側部にピンを係合させて外方向への張力を付加する手段、走行するフィルムの両側部をクリップで把持して外方向への張力を付加する手段、又はフィルムの両側部をベルトで挟持して外方向への張力を付加する手段の何れかの手段を用い、又はこれら手段を組み合わせて張力付加手段が構成された請求項2〜4の何れかに記載のプラスチックフィルムの表面改質装置。
【請求項6】
フィルム走行路上にエキスパンダーロールを配置し、当該ロールにフィルムを巻き付けて走行させることにより、走行方向と直交する方向であってフィルムの両側をそれぞれ外方向へ引っ張る張力が付加されるように張力付加手段が構成された請求項2〜5の何れかに記載のプラスチックフィルムの表面改質装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−275163(P2009−275163A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129425(P2008−129425)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(508147212)EWケミカル・エンジニアリング株式会社 (5)
【Fターム(参考)】