説明

プラスチックレンズの有機反射防止膜の適否判定方法およびプラスチックレンズの製造方法

【課題】外観検査により不良品と判定されたプラスチックレンズの膜の再生工程を含む製造工程において、焼成前の有機反射防止膜の適否を判定するプラスチックレンズの有機反射防止膜の適否判定方法およびプラスチックレンズの製造方法を提供すること。
【解決手段】メガネレンズ1は、レンズ基材10の表面に、プライマー層11、ハードコート層12、有機反射防止膜13、防汚層14が、順に積層される。
有機反射防止膜13の成膜後、焼成する前に外観検査で膜厚の適否判定を行う。膜厚が小さいほど干渉色は赤紫色となり、膜厚が大きいほど干渉色が青白いという特性があるので、焼成前の有機反射防止膜13の干渉色のサンプルを予め準備し、このサンプルとの比較により判定する。外観検査で不良品と判定されたものは、有機反射防止膜13のみを拭き取り、有機反射防止膜13を再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズに形成された有機反射防止膜の適否判定方法および有機反射防止膜の再生工程を含むプラスチックレンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、メガネレンズなどのプラスチック製光学物品の表面には、傷防止のためのハードコート層や、ゴースト及びちらつきを防止するための反射防止層、そして撥水効果を付与するための防汚層などが形成されている。また、レンズ基材とハードコート層との間には、耐衝撃性および密着性を向上させるためのプライマー層が設けられることもある。
これらは、レンズ基材の表面にプライマー層、ハードコート層、反射防止層、防汚層の順で積層され、各層の膜組成物の塗布後にアニール処理が行われるものが多い。この製造工程において、各層のアニール処理後にレンズ表面の外観の検査を行うのが一般的であり、外観検査により不良品とされたものは、積層した膜を全て剥がし、再度プライマー層から積層している。
なお、反射防止膜には、特許文献1に記載されているような無機物質が用いられるのが主流であるが、近年では、特許文献2に記載の有機物による反射防止膜の技術も開発されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−294906号公報
【特許文献2】特開2004−170500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、製造工程において、反射防止膜の積層後の外観検査で不良品と判定された場合、反射防止膜だけではなく、その下層のハードコート層およびプライマー層までも剥がして、再度プライマー層から積層しなくてはならない。特に、特許文献1のような無機反射防止膜を使用すると、無機反射防止膜を溶かすのに長時間を要するために、下層のハードコート層およびプライマー層も溶けてしまい、不良品の膜の再生作業は必ずプライマー層の積層からやり直す必要があった。
このような再生工程では、プライマー層およびハードコート層の成膜、硬化、冷却には数時間を要するので、膜再生に要する時間が長くなり、特注品製造においては、納期遅延の原因にもなっていた。また、プライマー層およびハードコート層に使用する膜組成物も無駄に消費することになり、コストが高くなっていた。
さらに、プラスチックレンズは、熱を長時間かけると黄変する傾向や、染色レンズにおいては、長時間熱がかかると脱色が起こることもあり、再生工程を経た製品の品質維持が難しいという問題もあった。
【0005】
一方、特許文献2には有機物による反射防止膜について記載されているが、その製造工程における膜の再生方法については何ら記載されていない。
有機物は、アルカリで溶解することができるため、プラスチックレンズの有機反射防止膜を短時間で剥がすことが可能である。しかしながら、焼成後の有機反射防止膜を除去するためには所定時間アルカリ浸漬を行わなければならず、無機反射防止膜と同様に、ハードコート層もプライマー層も有機反射防止膜と一緒に溶解されてしまう。
焼成前であれば有機反射防止膜のみを除去することは可能であるが、焼成前は有機反射防止膜が乾燥していないため膜厚計測が困難であった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、外観検査により不良品と判定されたプラスチックレンズの膜の再生工程を含む製造工程において、焼成前の有機反射防止膜の適否を判定するプラスチックレンズの有機反射防止膜の適否判定方法およびプラスチックレンズの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプラスチックレンズの有機反射防止膜の適否判定方法は、プラスチックレンズ基材の少なくとも一方の面に塗布された有機反射防止膜組成物を焼成して形成される有機反射防止膜の適否を判定する方法であって、焼成後の膜の適否と干渉色の関係と、焼成後の膜の干渉色と焼成前の膜の干渉色との関係とを、それぞれ予め定めておき、プラスチックレンズ基材に塗布し焼成前の膜の干渉色から焼成後の膜の適否を判定することを特徴とする。
【0008】
有機反射防止膜の適否は、キズ等の外観による検査のほか、膜厚により判定される。膜厚の適否は干渉色で代用でき、膜厚が大きいほど干渉色は青白く、膜厚が小さいほど干渉色は赤紫色になる。
この発明によれば、焼成後の有機反射防止膜の膜厚の規格が、干渉色のサンプルにより決められている。ただし、焼成前の有機反射防止膜の膜厚は、溶剤分が残っているために焼成後よりも厚くなっているので、焼成後干渉色も変化する。そこで、焼成前と後の膜厚の変化量を把握し、焼成後の有機反射防止膜の干渉色と対応付けられた焼成前の有機反射防止膜の干渉色のサンプルを作製しておく。
焼成前の干渉色のサンプルと、製造した焼成前の有機反射防止膜の干渉色とを比較することによって、有機反射防止膜の適否を判定することができる。
【0009】
本発明のプラスチックレンズの製造方法は、プラスチックレンズ基材に有機反射防止膜組成物を塗布する工程と、この塗布工程の後に有機反射防止膜組成物が塗布されたプラスチックレンズ基材を焼成する工程と、塗布工程と焼成工程との間に設けられた検査工程とを備えたプラスチックレンズの製造方法であって、前記検査工程は、請求項1に記載の適否判定方法を備えたことが好ましい。
【0010】
ここで、プラスチックレンズ基材はプライマー層およびハードコート層が積層されているものであるが、プライマー層は積層されていなくても構わない。
この発明によれば、有機反射防止膜組成物を塗布した後、外観検査を行い、この外観検査において、前述の干渉色による有機反射防止膜の適否の判定を行い、良品と判定されたもののみが焼成される。有機反射防止膜は、焼成されると簡単に拭き取ることができなくなってしまうので、不良品と判定されたものを再生する場合に再生工程に時間がかかってしまうという問題が生じる。
したがって、焼成される前に外観検査を行い、膜厚の適否判定により不良品と判定されたものは、焼成される前に膜の再生工程へと回される。有機反射防止膜は焼成されていないので、有機反射防止膜のみを溶剤で簡単に拭き取ることができる。プライマー層およびハードコート層はプラスチックレンズに残るので、有機反射防止膜のみの再生から始めればよく、無駄な工程や膜組成物の消費を低減することができ(製造時間の短縮およびコスト低減)、効率よくプラスチックレンズを製造することができる。
【0011】
本発明のプラスチックレンズの製造方法は、前記検査工程で不良品と判定されたプラスチックレンズ基材は、有機反射防止膜組成物を除去し、再度、有機反射防止膜組成物を塗布することが好ましい。
この発明によれば、検査工程における適否判定で不良品と判定されたプラスチックレンズ基材は、有機反射防止膜のみを除去し、再度有機反射防止膜組成物を塗布するという有機反射防止膜再生の工程をたどる。このような工程では、プライマー層およびハードコート層の再生を行う必要がないので、無駄な工程や膜組成物の消費を低減することができる。
【0012】
本発明のプラスチックレンズの製造方法は、有機反射防止膜組成物の除去は、プラスチックレンズ基材から反射防止膜組成物を拭き取ることが好ましい。
この発明によれば、プラスチックレンズ基材に塗布された有機反射防止膜組成物は、焼成されていないので、簡単に拭き取ることができる。この工程において、有機反射防止膜の下層にあるプライマー層およびハードコート層は簡単には拭き取られない。したがって、有機反射防止膜のみを拭き取ることができ、有機反射防止膜のみを再生すればよいので、効率よくプラスチックレンズを製造することができる。
【0013】
本発明のプラスチックレンズの製造方法において、前記拭き取りは、溶剤を含浸させた拭き取り部材で行うことが好ましい。
この発明によれば、溶剤を含浸させた拭き取り部材で、有機反射防止膜のみを拭き取ることができるので、簡単に有機反射防止膜の再生を行うことができる。
【0014】
本発明のプラスチックレンズの製造方法において、前記溶剤は、アセトンまたはプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を備えたことが好ましい。
この発明によれば、溶剤にアセトンまたはPGMEを使用しているので、有機反射防止膜を簡単に拭き取ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のメガネレンズの断面図、図2は、本実施形態の有機反射防止膜の成膜に使用されるスピンコート装置の模式図、図3は、本実施形態のメガネレンズの製造工程フロー図、図4は、本実施形態における有機反射防止膜の適否判定で使用される干渉色のサンプルを示した図である。
【0016】
図1に示すように、メガネレンズ1は、レンズ基材10の表面に、耐衝撃性向上のためのプライマー層11、耐擦傷性向上のためのハードコート層12、光の表面反射を低減する有機反射防止膜13、撥水機能を備えた防汚層14が、内側から外側に向かって順に積層される。各構成について詳述する。
【0017】
(1.レンズ基材10)
レンズ基材10は、屈折力、機械的強度、透過率など、メガネまたは光学物品における基本特性を維持するための機能を有する。
レンズ基材10は特に限定されないが、(メタ)アクリル樹脂をはじめとしてスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する重合性組成物を硬化して得られる透明なプラスチック樹脂等を例示することができる。
【0018】
(2.プライマー層11)
プライマー層11は、ウレタン樹脂などで形成され、レンズ基材10とハードコート層12との密着性を高める必要がある場合や、耐衝撃性を向上させる必要がある場合に形成されるもので、プライマー層11を形成せずにレンズ基材10に直接ハードコート層12を形成する場合もある。
【0019】
(3.ハードコート層12)
ハードコート層12としては、本来の機能である耐擦傷性を向上するものであればよい。例えば、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂等を用いたハードコート膜が挙げられるが、シリコーン系樹脂を用いたハードコート膜が最も好ましい。例えば、金属酸化物微粒子、シラン化合物からなるコーティング組成物を塗布し硬化させてハードコート膜を形成することができる。このコーティング組成物にはコロイダルシリカ、および多官能性エポキシ化合物等の成分を含んでいてもよい。
【0020】
さらにハードコート層12は、従来公知の各種添加剤を含むことができる。例えば、塗布性の向上を目的とした各種レベリング剤、耐候性の向上を目的とした紫外線吸収剤や酸化防止剤、さらに染料や顔料等の添加剤などが挙げられる。
このようなハードコート層12を形成する方法としては、ディッピング法、スピンナー法、スプレー法、フロー法により、ハードコート層12を構成する組成物を塗布し、その後、40〜200℃の温度で数時間加熱乾燥する方法が例示できる。
【0021】
(4.有機反射防止膜13)
次に、有機反射防止膜13について説明する。
有機反射防止膜13は、反射防止、フィルタリング等の光学機能のほか、耐擦傷性機能も有する。
(4−1.有機反射防止膜13の組成物)
有機反射防止膜13に塗布される有機反射防止膜組成物としては、フッ素系化合物や、シラン化合物等を使用できる。本実施形態では、シラン化合物を有機溶剤で希釈し、必要に応じて水または薄い塩酸、酢酸等を添加して加水分解を行い、さらに、シリカ系微粒子が有機溶剤中にコロイド状に分散したゾルを添加した後、必要に応じて界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを添加し、十分に撹拌したものをコーティング液として使用する。
【0022】
(4−2.スピンコート装置2)
有機反射防止膜13は、スピンコーティングによって成膜される。以下、スピンコート装置2の構成を図2に基づいて説明する。
スピンコート装置2は、その内部に、レンズのコーティング作業が行われるスピンコート槽21を備えている。このスピンコート槽21の底部には、メガネレンズ1の保持具22が配設されるとともに、スピンコート槽21の底部側面側には、コーティング廃液の排出口211が形成されている。
【0023】
スピンコート槽21の上方には、図示しない加圧タンクとチューブでそれぞれ連通された2種類の吐出装置23A,23Bが配置されており、これらの吐出装置23A,23Bは、それぞれ下端部にノズル231が具備されているとともに、待機位置と保持具22の上方との間を略水平に移動する構造になっている。
さらに、スピンコート装置2の上部には、HEPAフィルタ24が設けられ、スピンコート装置2の内部は局所クリーン構造となっている。
有機反射防止膜13は、吐出装置23Bによりメガネレンズ1のハードコート層12に塗布され、単層膜としてだけでなく、多層膜として形成することも可能である。
【0024】
保持具22は、モータ221と、このモータ221を動力源として回転する筒状の回転軸222と、回転軸222の一端側に設けられたホルダー223と、このホルダー223に取り付けられた吸着パッド224とを備え、この吸着パッド224にメガネレンズ1が保持されるものである。
【0025】
なお、ホルダー223は、テフロン(登録商標)製の円板状部材であり、吸着パッド224は、ニトリルゴム、フッ素ゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム等により形成された平面視環状の部材である。吸着パッド224の材質には、このようなゴム素材のほか、メガネレンズ1の形状に追従、密着可能な各種の弾性部材を使用でき、油分がメガネレンズ1の表面に転写しないものであればよい。
回転軸222の他端側には真空ポンプ225が接続され、この真空ポンプ225の吸引により、回転軸222の内部を通じて、吸着パッド224に配置されたメガネレンズ1が吸着される。
【0026】
図2において、吐出装置23Aは、メガネレンズ1を洗浄する際に用いられる洗浄水を、ノズル231を通じてメガネレンズ1に供給するものである。
吐出装置23Bはメガネレンズ1に有機反射防止膜13を形成する際に用いられる有機反射防止膜組成物を、ノズル231を通じてメガネレンズ1に供給するものである。
【0027】
(5.防汚層14)
有機反射防止膜13の表面には、防汚層14が形成される。
防汚層14は、メガネレンズ1を使用するに際し、レンズ面に手垢、汗、化粧料等による汚れが付着し難く、しかも汚れを拭き取りやすくするために、防汚性能(撥水撥油性能)を付与する。
防汚層14は、フッ素系のフルオロアルキシシラン等を用いて形成することができる。また、塗布方法としては、ディッピング法、スピンナー法、スプレー法、フロー法などの公知の方法が使用可能である。
【0028】
(6.製造工程)
(6−1.プライマー層11およびハードコート層12の成膜)
メガネレンズ1の製造工程を、図3の製造工程フロー図に基づいて説明する。
まず、レンズ基材10の表面の埃、異物を洗浄槽で除去し(S1)、プライマー層用組成物の入ったプライマー槽にディッピングした(S2)後、仮焼成させる(S3)。
その後、メガネレンズ1をハードコート層用組成物が入ったハードコート槽にディッピングし(S4)、仮焼成させた(S5)後、外観検査を行う(S6)。
【0029】
(6−2.プライマー層11およびハードコート層12の外観検査)
外観検査で不良品と判定されたものは、アルカリに浸漬し、プライマー層11およびハードコート層12を除去し(S22)、再度S1の工程から行うことでプライマー層11およびハードコート層12を再生する。
外観検査で良品と判定されたものは、アニール処理により本硬化させた(S7)後、冷却される(S8)。
【0030】
(6−3.有機反射防止膜13の成膜)
次に、メガネレンズ1の表面の塗れ性を向上させるために、プラズマ処理が行われ(S9)、必要に応じてアセトンでなる溶剤でメガネレンズ1の表面を拭き取った(S10)後、有機反射防止膜13がスピンコート装置2を用いて成膜される。
具体的な方法としては、まず、メガネレンズ1の片面を吸着パッド224で吸着保持する。次に、フィルタリングした純水を吐出装置23Aから、低速回転させたメガネレンズ1の表面に塗布し、ハードコート層12のアニール処理(S7)時に付着した埃を洗い流した後、高速回転させることでメガネレンズ1の表面を乾燥させる(S11)。
再び低速回転に戻し、フィルタリングした有機反射防止膜組成物を吐出装置23Bから、メガネレンズ1の表面に塗布した後、高速回転で振り切り、成膜が完了する(S12)。
有機反射防止膜13の膜厚は、メガネレンズ1の回転数および回転時間をコントロールすることで、所定の膜厚になるように管理している。
【0031】
(6−4.有機反射防止膜13の外観検査)
有機反射防止膜13の成膜後、焼成する前に外観検査を行う。外観検査は、有機反射防止膜13の表面のキズ、異物のチェックのほか、膜厚に関する適否を判定する。
膜厚の適否判定は、有機反射防止膜13の干渉色により行うことができる。膜厚が小さいほど干渉色は赤紫色となり、膜厚が大きいほど干渉色が青白いという特性があるので、焼成前の有機反射防止膜13の干渉色のサンプルを予め準備し、このサンプルとの比較により判定する。
【0032】
図4に、焼成前と焼成後の有機反射防止膜13の干渉色が示されている。上段のA〜Eが焼成前、下段のA´〜E´が焼成後のサンプルである。図4では、AおよびA´の膜厚が最小で、EおよびE´の膜厚が最大となっている。また、図4中の矢印は、A〜Eが焼成されるとそれぞれA´〜E´に変化することを示している。
【0033】
このサンプルを作製するには、まず、焼成後の有機反射防止膜13の干渉色の規格を決定する。本実施形態では、図4のB´〜D´が規格内である。次に、焼成後のサンプルA´〜E´になり得る焼成前のサンプルA〜Eを把握し、対応付けを行う。したがって、焼成後の規格であるB´〜D´と対応付けられた、焼成前のサンプルB〜Dが規格となる。
【0034】
適否判定においては、製造したプラスチックレンズの有機反射防止膜13の干渉色と、図4の焼成前のサンプルA〜Eとの比較を行い、製造したプラスチックレンズの有機反射防止膜13の干渉色がB〜Dの規格内であれば良品であり、B〜Dの規格内でなければ不良品となる。
各サンプルは、比較できればどのような形態で準備してもよいが、例えば、写真を準備しておく方法でもよいし、DICカラーガイド(大日本インキ化学工業(株)製、登録商標)の色番号を指定しておく方法などもある。
【0035】
外観検査で良品と判定されたものは、仮焼成が行われた(S14)後、常温まで冷却される(S15)。冷却が不十分で、メガネレンズ1の表面に温度ムラがある場合や、メガネレンズ1と有機反射防止膜組成物の液温に温度差がある場合は、同一レンズ内で干渉色ムラ(膜厚ムラ)が発生してしまうので、注意が必要である。
【0036】
(6−5.有機反射防止膜13の再生)
外観検査で不良品と判定されたものは、即座に有機反射防止膜13をアセトンなどの溶剤で拭き取る(S10)。拭き取り部材としては、レンズペーパーなどの布帛を使用することができる。塗布直後の有機反射防止膜13は硬化していないので、溶剤で簡単に拭き取ることができる。
有機反射防止膜13が除去されたメガネレンズ1は、再度スピンコート装置2に設置され、S11の工程から行うことで有機反射防止膜13を再生する。
【0037】
冷却(S15)後、メガネレンズ1を反転させて、S10〜S13の工程と同様に有機反射防止膜13を成膜し、外観検査を行う(S16〜19)。
外観検査により不良品と判定されたものは、S16の工程に戻り、有機反射防止膜13を溶剤で拭き取り、有機反射防止膜13を再生する。
(6−6.仕上げ)
外観検査により良品とされたものは、アニール処理により本硬化され(S20)、冷却された(S21)後、防汚層14が積層される。
【0038】
以上説明した実施形態によれば、次のような作用効果を得ることができる。
(1)有機反射防止膜13を焼成する前に膜厚の適否判定を行った後、不良品とされたメガネレンズ1は再生工程に回される。焼成前であれば有機反射防止膜13のみを簡単に拭き取ることができる。
したがって、有機反射防止膜13のみを再生すればよいので、プライマー層11およびハードコート層12の再生に使っていた無駄な工程および膜組成物を低減することができ、製造時間の短縮およびコストを低減することができる。
【0039】
(2)膜厚の適否判定は、焼成後の有機反射防止膜13の干渉色と、焼成前の有機反射防止膜13の干渉色とが対応付けられたサンプルが準備されているため、焼成前の有機反射防止膜13の干渉色とサンプルの干渉色とを比較することにより、有機反射防止膜13の膜厚の適否を判定することができる。
【0040】
(3)有機反射防止膜13の検査工程において、膜厚(干渉色)の適否を判定するために干渉色のサンプルを予め準備しているので、成膜された有機反射防止膜13とサンプルとを比較することにより、目視で簡単に判定することができる。
【0041】
(4)有機反射防止膜13の検査工程は、メガネレンズ1の片面ごとに行われているので、不良品と判定されたものは、片面ずつ再生ができる。したがって、有機反射防止膜組成物が無駄にならないのでコストを低減できる。
【0042】
(5)ハードコート層12を仮焼成させた後に外観検査を行っているので、不良品である場合に、S22の工程で膜を剥がすためにアルカリに浸漬する時間が短縮され、染色レンズの脱色量を極力少なくすることができる。
【0043】
なお、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、メガネレンズなどのプラスチック製光学物品に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態のメガネレンズの断面図。
【図2】本実施形態の有機反射防止膜の成膜に使用されるスピンコート装置の模式図。
【図3】本実施形態のメガネレンズの製造工程フロー図。
【図4】本実施形態における有機反射防止膜の適否判定で使用される干渉色のサンプルの対応を示した図。
【符号の説明】
【0046】
1…メガネレンズ、10…レンズ基材、11…プライマー層、12…ハードコート層、13…有機反射防止膜、14…防汚層、2…スピンコート装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックレンズ基材の少なくとも一方の面に塗布された有機反射防止膜組成物を焼成して形成される有機反射防止膜の適否を判定する方法であって、
焼成後の膜の適否と干渉色の関係と、焼成後の膜の干渉色と焼成前の膜の干渉色との関係とを、それぞれ予め定めておき、
プラスチックレンズ基材に前記有機反射防止膜組成物を塗布し、焼成前の膜の干渉色から焼成後の膜の適否を判定することを特徴とするプラスチックレンズの反射防止膜の適否判定方法。
【請求項2】
プラスチックレンズ基材に有機反射防止膜組成物を塗布する工程と、この塗布工程の後に有機反射防止膜組成物が塗布されたプラスチックレンズ基材を焼成する工程と、塗布工程と焼成工程との間に設けられた検査工程とを備えたプラスチックレンズの製造方法であって、
前記検査工程は、請求項1に記載の適否判定方法を備えたことを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のプラスチックレンズの製造方法において、
前記検査工程で不良品と判定されたプラスチックレンズ基材は、有機反射防止膜組成物を除去し、再度、有機反射防止膜組成物を塗布することを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のプラスチックレンズの製造方法において、
前記有機反射防止膜組成物の除去は、前記プラスチックレンズ基材から反射防止膜組成物を拭き取ることを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のプラスチックレンズの製造方法において、
前記拭き取りは、溶剤を含浸させた拭き取り部材で行うことを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のプラスチックレンズの製造方法において、
前記溶剤は、アセトンまたはプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を含むことを特徴とするプラスチックレンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−116348(P2008−116348A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300317(P2006−300317)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】