説明

プラスチックレンズの染色方法および染色装置

【課題】プラスチックレンズの曲率や厚みの違いにより発生する温度勾配を極力減らすことにより、染料をレンズに均一に浸透させ温度ムラによる染料の濃淡ムラの発生を防止する。
【解決手段】染色装置3は、被染色面1aに染料2が塗布されたプラスチックレンズ1を加熱し、染料2を被染色面1aに浸透させる加熱装置10と、プラスチックレンズ1の温度上昇を調整し、均一な温度にするレンズ温度調整手段12を備えている。レンズ温度調整手段12は、リング状の熱輻射部材からなり、プラスチックレンズ1の被染色面1aとは反対側の面1bでかつ肉厚の厚い外周部に対応して配置されており、加熱装置10によって加熱されると、熱輻射によってプラスチックレンズ1の外周部を補助的に加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズに塗布した染料を加熱し、レンズ内に浸透させるプラスチックレンズの染色方法および染色装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックレンズはガラスレンズの代わりに多方面で使用されているが、中でも視力矯正用に使用するコンタクトレンズや眼鏡用プラスチックレンズはコスメティック効果等の目的から、全体を所望の色に均一に染色するかまたは濃度勾配(グラデーション)をつけて染色することが盛んに行われている。
【0003】
プラスチックレンズの染色に関する技術は、これまで様々な方法が実施されている。その中でも特に眼鏡用プラスチックレンズを全面にわたって均一に染色する方法として、浸漬法、染色層を設けて層を染色する方法、昇華染色法などが挙げられる。
【0004】
さらに、高濃度染色を行う場合は、浸漬法または昇華染色法が用いられることが多く、いずれの染色方法もプラスチックレンズ自体に染料を塗布する工程と、塗布した染料をレンズ内に浸透(拡散)させる工程を有している。染料をレンズ内に浸透させる場合は、温度依存性を有するため、レンズを所定の温度に加熱して浸透させる。
【0005】
例えば、引用文献1に開示されているプラスチックレンズの染色方法および染色装置は、昇華性染料を気相にて塗布し、加熱、浸透させるもので、昇華性染料を加熱、昇華させる加熱部材(ヒーター)と、プラスチックレンズを加熱するレンズ温調器とを備えている。レンズ温調器は、レンズを保持する筒状のレンズホルダと、ヒーターとを備え、レンズをヒーターで加熱することにより、レンズを構成する分子鎖同士の目を緩めてレンズ内に染料を浸透しやすくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−25129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、プラスチックレンズ自体は曲率および厚みが様々であるため、上記した引用文献1に記載の染色装置によってレンズを加熱して染料を浸透させても、ヒーターからプラスチックレンズの各部分への距離が異なり、さらにプラスチックレンズ自体の厚みも均一でないものが殆どであることから、レンズ全体を均一に加熱することが難しいという問題があった。すなわち、眼鏡用プラスチックレンズには、中心からコバ面(外周面)に向けて厚みが徐々に増加するマイナスレンズと、中心からコバ面に向けて厚みが徐々に減少するプラスレンズの2種類があり、曲率が高く、屈折率が低いプラスチックレンズについては特にその傾向が顕著に現れる。このようなプラスチックレンズの染色時、特に浸漬法や昇華染色法では、染料の加熱浸透工程において、プラスチックレンズの厚みの違いにより、熱の伝わり方に違いが生じ、薄い部分、熱源に近い部分から厚い部分、熱源から遠い部分に向かって温度が徐々に上昇し、その結果としてレンズに温度差(温度勾配)が生じる。レンズ基材の種類にもよるが、早いものでは70℃〜80℃に達するとレンズ内への染料の浸透が始まる。染料の浸透は、浸透温度に達した部分から始まるが、当然肉厚の薄い部分は早く昇温して、厚い部分は薄い部分より昇温が遅いため、染料の浸透に時間差が生じ、結果として染色の濃淡ムラが発生する。
【0008】
本発明は、上記した従来の問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、プラスチックレンズの曲率や厚みの違いにより生じる温度分布を均一化させることにより、染色品質の向上を可能にしたプラスチックレンズの染色方法および染色装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明に係るプラスチックレンズの染色方法は、被染色面に染料が塗布されたプラスチックレンズを加熱装置によって加熱し、前記染料を前記被染色面に浸透させる工程を備え、前記染料を浸透させる工程は、レンズ温度調整手段をさらに備え、このレンズ温度調整手段によって前記プラスチックレンズの昇温を肉厚の厚い部分と薄い部分とで温度差が生じないように調整し、温度分布を均一化させるものである。
【0010】
また、本発明に係るプラスチックレンズの染色装置は、被染色面に染料が塗布されたプラスチックレンズを加熱し、前記染料を前記被染色面に浸透させる加熱装置と、前記プラスチックレンズの昇温を肉厚の厚い部分と薄い部分とで温度差が生じないように調整し、温度分布を均一化させるレンズ温度調整手段を備えているものである。
【0011】
本発明において、レンズ温度調整手段としては、熱伝導部材、熱輻射部材、補助加熱ヒーターのうちのいずれか一つが用いられ、プラスチックレンズの肉厚の厚い部分を補助的に加熱するものである。
【0012】
本発明において、レンズ温度調整手段としては、冷媒が用いられ、プラスチックレンズの肉厚の薄い部分の昇温を抑制するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、レンズ温度調整手段によってプラスチックレンズの肉厚が厚い部分を補助的に加熱、または薄い部分の昇温を抑制することにより、レンズ全体の温度分布を調整し、均一化させるようにしているので、染料を良好に浸透させることができ、温度勾配による染色ムラの発生を防止することができる。
【0014】
レンズ温度調整手段として、熱輻射部材、熱伝導部材または補助加熱ヒーターを用いた場合は、レンズの肉厚の厚い部分を熱輻射または熱伝導によって補助的に加熱して昇温させることにより薄い部分との温度差をなくすようにする。冷媒としては、保冷剤、冷風、水(冷水)等を用いることができ、肉厚の薄い部分の急激な昇温を抑制し、厚い部分との温度差をなくするようにする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る染色装置の第1の実施の形態を示す概略断面図である。
【図2】レンズが装着された状態の治具の平面図である。
【図3】本発明に係る染色装置の第2の実施の形態を示す概略断面図である。
【図4】本発明に係る染色装置の第3の実施の形態を示す概略断面図である。
【図5】本発明に係る染色装置の第4の実施の形態を示す概略断面図である。
【図6】本発明に係る染色装置の第5の実施の形態を示す概略断面図である。
【図7】本発明に係る染色装置の第6の実施の形態を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1〜図2において、本発明の第1の実施の形態は、プラスチックレンズ1に塗布された昇華性染料2をレンズ内に加熱、浸透させる染色装置3に適用した例を示す。
【0017】
プラスチックレンズ1は、外径が65〜80mmφ程度で、肉厚が中心部において最も薄く、外周部に向かうにしたがって徐々に増大する円形のマイナスレンズで、凹面状の光学面1a、凸面状の光学面1bおよびコバ面1cを有し、凹面状の光学面1aが所定の曲率に仕上げ加工され、昇華性染料2が塗布されることにより被染色面(以下、被染色面1aともいう)を形成している。
【0018】
昇華性染料2としては、大気中または真空中で加熱した場合に昇華する染料であればよく、市販品、例えばカヤセットブルー906(日本化薬株式会社製)、カヤセットブラウン939(日本化薬株式会社製)、 カヤセットレッド130(日本化薬株式会社製)Kayalon Microester Red C-LS conc(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Red AQ-LE(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Red DX-LS(日本化薬株式会社製)、Dianix Blue AC-E(ダイスタージャパン株式会社製)、 Dianix Red AC-E 01、(ダイスタージャパン株式会社製)、Dianix Yellow AC-E new(ダイスタージャパン株式会社製)、Kayalon Microester Yellow C-LS(日本化薬株式会社製)、 Kayalon Microester Yellow AQ-LE(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Blue C-LS conc(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Blue AQ-LE(日本化薬株式会社製)、Kayalon Microester Blue DX-LS conc(日本化薬株式会社製)等を使用することができる。
【0019】
昇華性染料2のプラスチックレンズ1への塗布は、プラスチックレンズ1と昇華性染料2を真空容器内に収納し、昇華性染料2を加熱手段によって所定温度に加熱して塗布する。すなわち、昇華性染料2は、加熱されることにより昇華し、微粒子となってプラスチックレンズ1の被染色面1aに付着、堆積し、被膜を形成する。このときの昇華性染料2の加熱温度は、真空容器の真空条件、プラスチックレンズ1の材質、昇華性染料2の材質等によって異なるが、80℃〜280℃程度である。そして、昇華性染料2を塗布した後、染色装置3によって昇華性染料2を加熱しプラスチックレンズ1の内部に浸透させる。
【0020】
染色装置3は、プラスチックレンズ1を加熱し、昇華性染料2を被染色面1aに浸透させる加熱装置10と、プラスチックレンズ1を保持する治具11と、プラスチックレンズ1の温度を肉厚の厚い部分と薄い部分とで温度差が生じないように調整し、均一化させるレンズ温度調整手段としての熱輻射部材12とを備えている。
【0021】
加熱装置10としては、電流抵抗ヒーターや遠赤外線ヒーター等の平板状のヒーターが用いられ、治具11の上方に水平に配置されている。
【0022】
治具11は、プラスチックレンズ1の外径より十分に大きい内径を有するリング13と、プラスチックレンズ1を挟持する3つのレンズ保持手段14とを有している。レンズ保持手段14は、例えば固定ピンと、この固定ピンの先端部に出没自在に設けられた挟持ピンと、固定ピン内に組み込まれ挟持ピンを突出する方向に付勢するばねとで構成され、リング13の内壁に周方向に120°の間隔をおいて突設されている。プラスチックレンズ1は、レンズ保持手段14によって被染色面1aを上に向けてコバ面1cが挟持され、リング13内に配置される。なお、レンズ保持手段14としては、ピン構造のものに限らず板ばね、線ばね、シート等によって弾性的に挟持または保持するものであってもよい。
【0023】
熱輻射部材12は、プラスチックレンズ1の外径より小さい中心孔15を有するリング状に形成されて外周縁が保持リング16の内周面に固定され、プラスチックレンズ1の被染色面1aとは反対側の面である非染色面1bで、肉厚の厚い外周縁部に近接して対向するように治具11の下方に配設されている。熱輻射部材12の材質としては、プラスチックレンズ1よりも熱伝導率、熱輻射率が大きい材料であれば特に限定されるものではなく、例えば銅、鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属、あるいはこれらの合金等であってもよい。
【0024】
このような染色装置3において、プラスチックレンズ1の被染色面1aに塗布されている昇華性染料2をレンズ内に浸透させるには、先ずプラスチックレンズ1を昇華性染料2が塗布された被染色面1aを上にして治具11に装着する。
【0025】
治具11へのレンズの装着が終了すると、加熱装置10の電源をONにしてプラスチックレンズ1を所定温度に加熱し、レンズ内に昇華性染料を浸透させる。プラスチックレンズ1の温度は、図示を省略した温度センサによって検知され、その検知信号が制御部に送られる。制御部は、プラスチックレンズ1の温度が所定の温度を保つように加熱装置10を制御する。
【0026】
プラスチックレンズ1の加熱温度は、昇華性染料2の種類、レンズ1の材質、染色濃度等によって異なるが、通常50〜180℃程度、好ましく100〜150℃程度とされる。この場合、プラスチックレンズ1は、マイナスレンズであるため、肉厚が薄くて熱容量の小さい中央部が肉厚が厚くて熱容量の大きい外周縁部に比べて速く昇温して半径方向に温度勾配が生じる。
【0027】
加熱装置10によってプラスチックレンズ1を加熱すると、熱輻射部材12も加熱装置10からの熱輻射により同時に加熱されて昇温する。そして、熱輻射部材12は、熱輻射によってプラスチックレンズ1の外周縁部を補助的に加熱し、外周縁部の昇温を速め、レンズの温度勾配を極力小さくする。この結果、プラスチックレンズ1は、マイナスレンズであるにも拘わらず全体が略同時に所定の温度に加熱されて均一な温度分布となり、昇華性染料2を良好に浸透させることができる。染色後、プラスチックレンズ1の被染色面1aを目視によって検査したところ、昇華性染料2がプラスチックレンズ1の被染色面1a全体に濃淡のムラなく均一に染色されていた。
【0028】
図3は、本発明の第2の実施の形態を示すもので、レンズ温度調整手段として、熱輻射部材12の代わりに熱伝導部材17を用いたものである。熱伝導部材17の材質としては、プラスチックレンズ1よりも熱伝導率が大きい材料であればよく、熱輻射部材12と同様な金属材料を用いることができる。
【0029】
熱伝導部材17を用いる場合は、球面状に湾曲しプラスチックレンズ1の非染色面bの外周縁部に接触する接触部17Aを設け、この接触部17Aからの熱伝導によってプラスチックレンズ1の外周縁部を補助的に加熱し昇温させるようにすればよい。その他の構成は、上記した第1の実施の形態と同一であるため、同一部材については同一符号をもって示し、その説明を省略する。
【0030】
図4は、本発明の第3の実施の形態を示すもので、レンズ温度調整手段として、上記した熱輻射部材12または熱伝導部材17の代わりに、補助加熱ヒーター20をプラスチックレンズ1の非染色面1bで、肉厚の厚い外周縁部に近接して対向するように配置した例を示す。補助加熱ヒーター20は、熱輻射部材12と同様に中心孔20aを有する円板状に形成されている。その他の構成は、上記した第1、第2の実施の形態と同一であるため、同一部材については同一符号をもって示し、その説明を省略する。
【0031】
染色時において、プラスチックレンズ1は、加熱装置10と補助加熱ヒーター20によって同時に加熱される。加熱装置10は熱輻射によってプラスチックレンズ1を全体を加熱するため、プラスチックレンズ1の中心部が速く昇温し、外周縁部が遅れて昇温する。一方、補助加熱ヒーター20は、プラスチックレンズ1の外周縁部を補助的に加熱し、外周縁部の昇温を速くし、中心部の昇温と一致させる。したがって、このような構成においても、上記した第1、第2の実施の形態と同様に、プラスチックレンズ1がマイナスレンズであるにも拘わらずレンズの温度分布を均一化させることができ、昇華性染料2を良好に浸透させることができる。
【0032】
図5は、本発明の第4の実施の形態を示すもので、レンズ温度調整手段として流体(冷媒)30を用い、これによってプラスチックレンズ1の肉厚が薄い中央部の昇温を抑制し、外周縁部の昇温と一致させることにより、レンズの温度分布を均一化させるようにしたものである。流体30としては、冷風または水(冷水)が用いられ、配管31によってプラスチックレンズ1に導かれる。配管31は、途中に環状部31aを有し、この環状部31aをプラスチックレンズ1の非染色面1bで肉厚が薄い中央部に接触または近接して対向させている。その他の構成は、上記した第1〜第3の実施の形態と同一であるため、同一部材については同一符号をもって示し、その説明を省略する。
【0033】
染色時において、加熱装置10によってプラスチックレンズ1を加熱すると、プラスチックレンズ1の肉厚が薄い中央部が肉厚の厚い外周縁部に比べて早く昇温するため半径方向に温度勾配が生じる。一方、流体30は配管31の環状部31aを介してプラスチックレンズ1の中央部を冷却して急激な昇温を抑制することにより、中央部と外周縁部の昇温速度を略一致させる。したがって、このような構成においても、上記した第1〜第3の実施の形態と同様に、プラスチックレンズ1全体の温度分布を均一化させることができ、昇華性染料2を良好に浸透させることができる。
【0034】
図6は、本発明の第5の実施の形態を示すもので、レンズ温度調整手段として保冷剤(冷媒)40を用い、プラスチックレンズ1の各部の昇温を肉厚に応じて抑制することにより、レンズ全体の温度分布を均一化させるようにしたものである。
【0035】
保冷剤40は、可撓性を有する袋41に収納された形態で用いられ、プラスチックレンズ1の非染色面1b全体を覆っている。保冷剤40の種類は、急激な昇温を抑制できるものであれば特に限定されない。例えば、ポリジメチルシロキサン(100〜10000CSが好ましい)、デンプンやセルロースなどの天然高分子に、アクリル酸やスチレンスルホン酸などのグラフト共重合体や合成高分子のポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアミド、ポリアミン、ポリアクリル酸塩を架橋処理したポリマー、ポリエチレングリコール系ポリマー等を使用することができる。
【0036】
袋41は、レンズの加熱温度に十分耐えられる材質、例えば、ポリイミド、ポリエステル、ポリプロピレン、アラミド等からなる袋が用いられる。また、袋41としては、プラスチックレンズ1と略等しい外径で、プラスチックレンズ1の肉厚が厚い部分に対しては薄く、薄い部分に対しては厚くなるように形成、望ましくはプラスチックレンズ1の非染色面1bに重ね合わされた状態において、レンズと袋の厚さの和が各部において略等しくなるような厚さのプラスレンズ形状に形成されている。そして、袋41は、レンズ保持手段としてのレンズ保持用シート42を介してプラスチックレンズ1の非染色面1bに配設される。なお、プラスチックレンズ1がプラスレンズの場合は、袋41を反対にマイナスレンズ形状に形成すればよい。
【0037】
レンズ保持用シート42は、プラスチックレンズ1の外径より十分に大きい円形のシートからなり、裏面中央部にプラスチックレンズ1の非染色面1bが粘着剤によって貼着されることにより、プラスチックレンズ1を保持し、外周縁部の裏面が治具43の上面に固着されている。
【0038】
治具43は、円筒体からなり、下面開口部に加熱装置10が配設され、プラスチックレンズ1の被染色面1aと対向している。
【0039】
染色時において、加熱装置10によってプラスチックレンズ1を下から加熱すると、プラスチックレンズ1の肉厚が薄い中央部が肉厚の厚い外周縁部に比べて早く昇温するため半径方向の温度勾配が生じる。一方、レンズ保持用シート42は、プラスチックレンズ1の非染色面1b全体を覆っているため、プラスチックレンズ1に対する温度のかかり具合は半径方向にわたって均一である。
【0040】
保冷剤40は、プラスチックレンズ1を低温に保ち急激な昇温を抑制する。保冷剤40による昇温の抑制効果は、保冷剤40がプラスレンズ形状の袋41に収納されていることにより、保冷剤40の中央部の厚みが最も厚く、外周に向かうにしたがって薄くなっているため、プラスチックレンズ1の肉厚が薄い中央部において昇温抑制効果が最も大きく、外周部に至るほど昇温抑制効果が減少する。したがって、上記した第1〜第4の実施の形態と同様に、レンズ全体の温度分布を均一化させることができ、昇華性染料2を良好に浸透させることができる。
【0041】
図7は、本発明の第6の実施の形態を示すもので、浸漬染色法によってプラスチックレンズ1に塗布された染料2Aをレンズ内に浸透させるようにしたものである。
【0042】
浸漬染色法による塗布は、染料液中にプラスチックレンズ1を浸漬して塗布する。このため、染料2Aは、プラスチックレンズ1の全面、すなわち凹面状光学面1a、凸面状光学面1bおよびコバ面1cに塗布される。しかる後、プラスチックレンズ1を染料液から取り出して染色装置3に装着し、レンズ内に浸透させる。染色装置3は、図1に示した実施の形態と同様に、加熱装置10、治具11およびレンズ温度調整手段としての熱輻射部材12を備えている。
【0043】
加熱装置10は、プラスチックレンズ1の上方に配置されるものに限らず、下方に配置されるものであってもよく、また上方の加熱装置10とは別個に下方に別の加熱装置10Aを追加配置してもよい。
【0044】
このような染色装置3においても、上記した第1の実施の形態と同様に、熱輻射部材12によってプラスチックレンズ1の外周縁部を補助的に加熱することにより、外周縁部の昇温を速めているので、レンズ全体の温度分布を均一化させることができ、染料2Aをレンズに良好に浸透させることができる。
【0045】
なお、上記した実施の形態は、いずれもマイナスレンズからなるプラスチックレンズ1に染色する例について説明したが、本発明はこれに何ら特定されるものではなく、プラスレンズからなるプラスチックレンズにも適用することができ、その場合も同様に熱輻射部材、熱伝導部材、補助加熱ヒーター、あるいは冷媒としての保冷剤または流体をレンズ温度調整手段として用い、温度勾配が極力小さくなるようにレンズの温度を調整すればよい。
【0046】
また、上記した実施の形態においては、プラスチックレンズに染料を塗布する工程と、塗布した染料をレンズ内に浸透させる工程をそれぞれ別装置によって行なう例について説明したが、染料が昇華性染料の場合は、プラスチックレンズに昇華性染料を塗布する工程と、塗布した昇華性染料をレンズ内に浸透させる工程を1つの染色装置によって行なうようにしてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…プラスチックレンズ、1a…被染色面、2…昇華性染料、2A…染料、3…染色装置、10、10A…加熱装置、11…治具、12…熱輻射部材、17…熱伝導部材、20…補助加熱ヒーター、30…流体、40…保冷剤、41…袋。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被染色面に染料が塗布されたプラスチックレンズを加熱装置によって加熱し、前記染料を前記被染色面に浸透させる工程を備え、
前記染料を浸透させる工程は、レンズ温度調整手段をさらに備え、このレンズ温度調整手段によって前記プラスチックレンズの昇温を肉厚の厚い部分と薄い部分とで温度差が生じないように調整し、温度分布を均一化させるプラスチックレンズの染色方法。
【請求項2】
請求項1記載のプラスチックレンズの染色方法において、
前記レンズ温度調整手段が、熱伝導部材、熱輻射部材、補助加熱ヒーターのうちのいずれか一つからなり、プラスチックレンズの肉厚の厚い部分を補助的に加熱するプラスチックレンズの染色方法。
【請求項3】
請求項1記載のプラスチックレンズの染色方法において、
前記レンズ温度調整手段が、冷媒からなり、プラスチックレンズの肉厚が薄い部分の昇温を抑制するプラスチックレンズの染色方法。
【請求項4】
被染色面に染料が塗布されたプラスチックレンズを加熱し、前記染料を前記被染色面に浸透させる加熱装置と、前記プラスチックレンズの昇温を肉厚の厚い部分と薄い部分とで温度差が生じないように調整し、温度分布を均一化させるレンズ温度調整手段を備えたプラスチックレンズの染色装置。
【請求項5】
請求項4記載のプラスチックレンズの染色装置において、
前記レンズ温度調整手段が、熱伝導部材、熱輻射部材、補助加熱ヒーターのうちのいずれか一つからなり、プラスチックレンズの肉厚の厚い部分を補助的に加熱するプラスチックレンズの染色装置。
【請求項6】
請求項4記載のプラスチックレンズの染色装置において、
前記レンズ温度調整手段が、冷媒からなり、プラスチックレンズの肉厚が薄い部分の昇温を抑制するプラスチックレンズの染色装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−75690(P2011−75690A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225222(P2009−225222)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】