説明

プラスチック光学材料の製造方法

【課題】 細径であり、かつ環境負荷が軽減された難燃性に優れるプラスチック光ファイバコードを製造する。
【解決手段】鉛化合物などの所定の化合物以外の難燃剤が添加され、粘度が10〜200Pa・Sの保護層形成樹脂55aが充填された樹脂ポット55の中にPOF12を送り込み、POF12の外周に保護層形成樹脂55aを被覆する。POF12を形成するポリマーのガラス転移温度Tgに対して、Tg℃以下になるように調整した温水61に被覆済みPOF60を浸漬させて、保護層形成樹脂55aを硬化させる。POF12が途中で切断したり、変形や劣化が生じたりすることなく、優れた難燃性を有する保護層が形成された細径のコード10を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック光学材料の製造方法に関するものであり、特に、光ファイバや光インターコネクション用導波路などの光導波路に利用することができるプラスチック光学材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光を伝播させる光学材料には、化学的に安定であり、優れた透明性や成形性および硬度などの特性からガラス材料が使用されており、その用途や形状の違いにより、光ファイバや光インターコネクション用導波路などの光導波路、あるいはレンズ、電子部品などが製造されている。ところが、最近では、透明性や加工性、および軽量化などに優れる点から、光学ガラスに代替してプラスチック材料が使用されている。例えば、光を伝播するコアと光を閉じ込めるクラッドとからなる芯線を有する光ファイバでは、従来品である石英系光ファイバ素線の代替として、プラスチック光ファイバ素線(Plastic Optical Fiber;POF)が注目されている。このPOFは、石英系光ファイバ素線に比べると、光の伝送損失は大きくなるものの、大口径化による接続容易性、端末加工容易性、高精度調芯機構が不要であるなどの利点のほかにも、コネクタ部分の低コスト化、あるいは人体への突き刺し災害による危険性の低さ、高い柔軟性により加工性や敷設性に優れており、耐振動性や低価格などの利点から、家庭や車載用途で注目されるだけでなく、高速データ処理装置の内部配線や、DVI(Digital Visual Interface)リンクなど極短距離、大容量ケーブルとしても利用が検討されている。また、HDMI(High Definition Multimedia Inter Face)規格に準拠した光HDMIリンク用ケーブルとしても利用が検討されている。
【0003】
このようなPOFは、一般的に、その外周に、樹脂により形成される保護層を1層以上設けてプラスチック光ファイバコード(以下、コードと称する)として使用される。このようにPOFの外周に保護層を設けると、POFの曲げ強度や引張り強度などの機械的特性および耐候性の向上、耐湿性向上により性能低下の抑制、難燃性の付与、薬品による損傷からの保護、外部光線によるノイズ防止、着色などによる商品価値の向上などを実現させることができる。
【0004】
一般的に、POFの外周に保護層を形成させる方法は、金属で形成された電線(以下、金属電線と称する)を被覆する方法に習い、熱可塑性樹脂などの保護層形成樹脂を、搬送されるPOFの外周に溶融押出した後、固化させる方法が使用されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、金属電線とは異なり、POFは熱に弱いため、被覆に使用する樹脂の溶融温度が高いと、変形したり、POFを構成する材料が劣化したりするなどの問題が生じる。したがって、POFの外周に樹脂などを被覆する場合には、保護層形成樹脂の選択や被覆時の温度などに留意する必要がある。
【0005】
例えば、保護層形成樹脂としてポリ塩化ビニル樹脂(PVC)を使用する場合、PVCは、180〜230℃程度の溶融押出温度が必要となる。しかし、この温度では、POFの一部が溶けて形状が乱れ、結果として、伝送損失の上昇を引き起こす。また、このように溶融温度が高温の樹脂は、高粘度である場合が多い。しかし、このように高粘度の樹脂を保護層形成樹脂として使用すると、被覆時に高圧を要する場合が多く、その圧力によりPOFが切断したり、延伸するなどの変形が生じたりするために、伝送損失が上昇してしまうという問題が生じる。また、生産性の向上を目的として被覆速度を上げようとすると、樹脂の押出速度とPOFの搬送速度とに差が生じる。この差を低減させるためには、樹脂粘度の低下による押出速度の向上または、搬送速度の向上が考えられる。しかし、低粘度化を目的として、より樹脂の溶融温度を高温にすると、POFの変形や劣化を招いてしまう。一方で、POFの搬送速度を向上させると、被覆した樹脂は冷却不足となるために、保護層の固化が不十分のまま巻き取られてしまう。この場合、得られるコードの伝送損失が上昇するなどの問題が連鎖的に起こってしまうため、悪循環を引き起こす。したがって、現在、例えば、PMMA系のPOFに保護層を設ける場合には、POFの変形や劣化を抑制するために、保護層形成樹脂として、120℃程度で溶融し、この温度で優れた流動性を示す高流動性の低密度ポリエチレン(LDPE)やリニア低密度ポリエチレン(LLDPE)などが使用されている。しかし、これでは、保護層形成樹脂が限定されてしまうなどの新たな問題が生じている。
【0006】
また、上記のようにPOFの外周に保護層を設けて、その諸特性を向上させたコードは、屋外や集合住宅の電気系配線などに敷設されるが、コードには、優れた機械的特性や難燃性などが要求される。しかしながら、上記したような保護層形成時における様々な問題を回避するために、現時点においては、一度、LDPEやLLPDEなどにより第1保護層を設けることにより、POFの耐熱性を向上させることで、被覆時の加熱による変形や劣化を抑制した後、PVCなどにより第2保護層を設けて、所望の特性を確保する作業が行われている。そして、一般的には、第2保護層を形成させる樹脂に難燃剤を添加もしくは難燃性を示す樹脂により第2保護層を形成させる。なお、ポリエチレンの難燃化技術としては、ポリエチレンに水和金属化合物、リン酸エステルおよび赤燐を所定量ずつ配合するポリエチレン樹脂組成物(例えば、特許文献2参照)や、臭素化合物やアンチモン化合物を添加した保護層を設けた樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。また、その他にも、所定の難燃剤を使用した難燃性樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献4参照)
【特許文献1】特開2001−174677号公報
【特許文献2】特開平5−093097号公報
【特許文献3】特開平6−329847号公報
【特許文献4】WO2003/046083「難燃性樹脂組成物」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非常に狭い空間の電子基板上や敷設管内にコードを敷設しなければならない場合、上記のように第1保護層の上に第2保護層を形成させる方法では、細径のコードを得ることが困難である。したがって、保護層を1層のみをPOFの外周に形成させて優れた難燃性などの特性を有するコードを作製することができる製造方法の確立が望まれている。また、特許文献3は、優れた難燃性効果を得ることができるが、使用している臭素化合物やアンチモン化合物は環境汚染などを招く危険性があり、使用するには問題がある。さらに、特許文献4では、優れた難燃性効果を得ることができるが、難燃性を付与する樹脂中にガラスの短繊維やガラスフレークが含まれている。このような樹脂をPOFの外周に被覆すると、ガラスの短繊維やフレークが不均一にPOFに接触して局部的な歪が生じてしまい、結果として、伝送損失が上昇してしまう恐れがあるため好ましくない。
【0008】
本発明は、POFなどの光導波路の外周に所望の特性を付与するために保護層を設ける際、POFの切断や変形または劣化が生じることなく、かつ生産速度を向上させることにより、優れた生産性を実現しながら保護層を設けることができるプラスチック光学材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のプラスチック光学材料の製造方法は、ポリマーよりなる光導波路の外周に保護層を設けたプラスチック光学材料の製造方法において、粘度が10〜200(Pa・S)の1液タイプの反応硬化性の保護層形成樹脂の中に光導波路を通過させて、光導波路の外周に保護層形成樹脂を被覆する被覆工程と、被覆工程で被覆された保護層形成樹脂を、ポリマーのガラス転移温度Tg(℃)以下の温度で硬化させる硬化工程とを有することを特徴とする。
【0010】
また、保護層形成樹脂は、ポリイソシアネート化合物、不活性化した固形ポリアミンの潜在性硬化剤および難燃剤が含まれていることが好ましい。この難燃剤は、リン酸エステルおよび窒素化合物の塩が含まれていることが好ましい。さらに、難燃剤は、保護層形成樹脂中に20〜70重量%の割合で配合されていることが好ましい。なお、難燃剤中のリン酸エステルの配合量Xと窒素化合物の塩の配合量Yとの配合割合X/Yが、5/5〜7/3であることが好ましい。
【0011】
また、保護層は、塩素化合物、臭素化合物、アンチモン化合物、カドミウム化合物、鉛化合物、クロム化合物、亜鉛化合物のいずれかを含まないことが好ましい。そして、光導波路が、複数のポリマーにより形成され、各々のポリマーに対応するガラス転移温度を有する場合には、この複数のガラス転移温度のうち、もっとも低いガラス転移温度を、Tgとすることが好ましい。さらに、保護層形成材料の硬化に要する時間T1が、10分以下であることが好ましい。なお、ポリマーよりなる光導波路はプラスチック光ファイバであり、このプラスチック光ファイバの保護層を含む外径が、1.5mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、所定の粘度範囲を満たす1液タイプの反応硬化性の保護層形成樹脂を用いて光導波路の外周に保護層を設けるようにしたので、室温でも流動性を確保しながら作業を行うことができる。そのため、被覆時に付加する押出圧や保護層形成樹脂の移送に要するエネルギーの低減化を実現しながら保護層を有するプラスチック光学材料を得ることができる。なお、本方法と従来使用されている熱溶融性樹脂を被覆して保護層を形成する方法とを比べると、本方法は、大量の熱や大型冷却装置が不要であるなどの点からも、優れているといえる。また、この保護層形成樹脂の硬化温度が、光導波路を形成するポリマーのTg以下となるようにしたので、硬化の際に高温化にする必要がない。これにより、光導波路に対する熱ダメージを抑制することができるので、熱により光導波路が変形したり劣化したりするのを防止して優れた生産性により、プラスチック光学材料を製造することができる。さらには、この保護層形成樹脂に所定の難燃剤を添加して光導波路の外周に保護層を形成させるので、優れた難燃性を示すプラスチック光学材料を製造することができる。なお、本発明をPOFの製造に適用させた場合、得られるPOFは、環境への悪影響が懸念される材料を使用していないので、環境負荷の恐れがなく、その他にも、細径化が可能であるため、狭い敷設スペースの電子基板上や既設管内への敷設性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を適用させた実施形態について図を引用しながら説明する。なお、本実施形態では、光学材料としてプラスチック光ファイバコード(以下、コードと称する)を製造する形態を示す。ただし、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、例えば、光インターコネクション用導波路を製造する際にも適用することができる。図1は、本発明のコードの製造工程図である。ここでは工程の流れについてのみ説明する。
【0014】
本発明のコード10は、プリフォーム11を線引して得られるPOF12の外周に保護層を設けることにより得られる。したがって、コード10の製造工程は、プリフォーム形成工程15と線引工程16と保護層形成工程17とを有する。
【0015】
プリフォーム形成工程15において、プリフォーム11を作製する。本発明のプリフォーム11は、コア部とクラッド部とを有する。なお、プリフォーム11の製造方法は、特に限定はされず、プリフォーム11の製造方法として公知であるいずれの方法も適用することができる。例えば、特許3332922号公報に記載されている方法が挙げられ、本実施形態はこれを使用している。まず、一般的な溶融押出成形により、外殻部をなす円筒状のクラッド部を所望の樹脂組成物(本実施形態では、PVDFを使用)により形成させる。そして、このクラッド部の内側にインナークラッド部およびコア部を形成させる樹脂組成物(本実施形態では、主成分としてPMMA−d8を使用)を注入した後、界面ゲル重合法により、この樹脂組成物を重合させてコア部を形成させる。プリフォーム11の製造方法は、上記の他に、クラッド部の内側に重合後の屈折率が異なる重合性化合物を逐次注入し、重合させる工程を繰り返し行うことによりコア部を形成させるものも挙げられ、これも本発明に適用することができる。
【0016】
次に、線引工程16においてプリフォーム11を線引してPOF12を製造する。線引工程16とは、プリフォーム11を加熱溶融した状態で、その長手方向に延伸させることにより細径とする工程である。この線引工程16でのプリフォーム11の延伸率を制御することにより、所望の径のPOF12を製造することができる。
【0017】
なお、線引工程16での、プリフォーム11の加熱温度は、プリフォーム11の材質などに応じて適宜決定される。この加熱温度を、180〜280℃とすると、プリフォーム11の変形や劣化を抑制しながら、容易に延伸させることができるので好ましい。加熱温度や延伸率、線引張力などの延伸条件は、プリフォーム11の直径や、材質ならびに目的とするPOF12の径などを考慮して適宜決定すればよく、特に限定はされない。例えば、線引張力については、特開平7−234322号公報に記載されているように、溶融したプラスチックを配向させるために0.1N以上としたり、特開平7−234324号公報に記載されているように、溶融延伸後に歪を残さないようにするため1N以下としたりすることが好ましい。また、特開平8−106015号公報に記載されているように、延伸時において、あらかじめプリフォーム11を予備加熱する方法なども適用することができる。以上のようにして得られるPOF12は、特開平7−244220号公報に規定されているような破断伸びや硬度を有し、機械特性に優れている。
【0018】
そして、保護層形成工程17において、POF12の外周に保護層を設けてコード10を製造する。保護層形成工程17は、保護層形成樹脂を被覆する第1被覆工程18と、この樹脂を硬化させて保護層を形成させる硬化工程19とからなる。
【0019】
第1被覆工程18では、POF12の外周に保護層形成樹脂を被覆する。次に、硬化工程19では、この樹脂を加熱し硬化させることにより保護層20を形成させてコード10を製造する。なお、本実施形態では、POF12の外周に1層の保護層20を設けたが、POF12の外径が所定の範囲内であれば、2層以上の保護層を設けることもできる。この場合には、所望の層数の保護層が得られるまで保護層形成工程17を繰り返し行えばよい。保護層形成工程17の詳細は、後で説明する。
【0020】
製造したコード10を、組合せ工程21において1本あるいは複数本束ねた後、第2被覆工程22において、その外周に被覆材を被覆する。これにより、プラスチック光ファイバケーブル(以下、ケーブルと称する)23を得ることができる。なお、組合せ工程21においてコード10と抗張力線とを一緒に束ねると、強靭性を有するケーブル23を得ることができる。ケーブル23の詳細は、後で説明する。
【0021】
図2に、本発明により得られるコード10の径方向での断面図を示す。コード10は、コア部30とクラッド部31とを含むPOF12と、その外周に設けられた保護層20とを有する。また、クラッド部31は、インナークラッド31aとアウタークラッド31bとを含む。
【0022】
POF12は、コード10の芯線となる部分であり、コア部30の内部に入射させた光を、屈折率の異なるクラッド部31との界面で反射させることにより光を伝播させる。保護層20の厚みをt1(mm)とすると、t1は0.2〜3mmであることが好ましい。より好ましくは、t1が1〜2mmである。なお、保護層20が2層以上設けられている場合には、複数の保護層20のうち、最外層となる保護層の外径をD1とする。これにより、保護層20を構成する保護層形成樹脂の特性(例えば、強靭性や難燃性など)を、POF12に対して十分に反映させることができるので、所望の特性が付与されたコード10を得ることができる。ただし、保護層20の厚みt1が0.2mm未満であると、保護層20を形成させる効果が得られない場合があるので好ましくない。一方で、t1が3mmよりも厚い場合には、保護層形成樹脂の硬化に長時間を要するほか、未反応部分が発生してしまうなどの問題が生じるおそれがある。
【0023】
POF12の外径をd1(mm)とするとき、d1が0.2〜1.0mmを満たすようにすると、微細配線を行うことができるコード10を得ることができるので好ましい。ただし、d1は、特に限定されるものではなく、用途などに応じて適宜決定されればよい。なお、コア部30の直径をd2(mm)とするとき、d2は0.1〜1mmであることが好ましい。
【0024】
なお、本発明では、コード10の外径をD3(mm)とするとき、D3は1.5mm以下となるように各部材の厚みや大きさを調整する。これにより、所望の層数または厚みの保護層20を形成させたコード10であっても、非常に狭い空間の電子基板上や敷設管内に敷設することができる。
【0025】
また、本実施形態のコア部30は、クラッド部31よりも屈折率が高く、かつ境界から中心に向けて屈折率が連続的に高くなっており、GI型POFとされる。このような複層構造のPOF12は、溶融押出方法により一度に各部材を形成させる材料を溶融後、共押出しして作製してもよいし、あらかじめ溶融押出方法により円筒状のクラッド部31を形成後、この内側にコア部30を形成させる材料を注入してから重合させることにより形成させてもよい。ただし、前者のように溶融押出方法により、各部材を形成させる材料を一度に押し出す場合には、各材料に屈折率の違いを発現させる屈折率調整剤(ドーパント)の濃度が異なる複数の溶融樹脂を同心円状に配して押し出す。
【0026】
また、断面円形の径方向において、各層の屈折率の最大値と最小値との差が0.001以上0.3以下であることが好ましい。後者のようにコア部30を形成させる材料を重合させる際には、回転重合法を用いると、優れた材料の重合度を実現させながら作業を行うことができるので好ましい。なお、POF12は、径の中心方向に向かって屈折率が高くなる分布を有していればよく、その形態は特に限定されるものではない。このようなPOF12は、GI型POFとしての機能を発現する。
【0027】
なお、コア部30およびクラッド部31の形態は、図2に限定されるものではない。例えば、コア部30は、図2で示す構造以外に、3層以上の複層構造からなるマルチステップインデックス型とする形態や、コア部30に境界が存在せずに、クラッド部31の内周からコア部30の中央に向かって屈折率が連続的もしくは段階的に高くなる構造を挙げることができる。一方で、クラッド部31は、例えば、必要に応じて1層の単層構造としてもよい。上記のように、本発明のPOF12は、SI型、GI型のいずれのタイプであっても適用することができるが、本実施形態のようなGI型POFとすることで、SI型よりも光伝送特性に優れたコード10を得ることができる。
【0028】
図3に、本実施形態において使用する保護層形成設備の概略図を示す。本実施形態では、あらかじめ作製したPOF12の外周に1層の保護層を設けてコード10を作製する。したがって、保護層形成設備40は、POF送出し装置41と、保護層形成樹脂の被覆装置42と、硬化用の温浴槽43と、一対の引取りローラ44と、POFの巻取り装置45とを有する。なお、本発明は、ここに示す実施形態に限定されるものではない。
【0029】
POF送出し装置41には、POF送出しリール50と先端にプーリ51が備えられたダンサーアーム51aとが備えられている。POF送出しリール50にはPOFロールが設置されており、これを回転させるとともに、プーリ51によりPOF12のアライメントを調整しながら、POF12をPOF送出し装置41から被覆装置42に連続的に送り出す。
【0030】
被覆装置42は、樹脂ポット55とダイス56とを有している。樹脂ポット55は、所定の粘度範囲を満たす保護層形成樹脂55aが充填されている容器であり、この保護層形成樹脂55aは樹脂ポット55に接続された樹脂供給装置(図示しない)から適宜所望量が供給される。なお、樹脂ポット55にガス供給装置(図示しない)を接続させて、樹脂ポット55の上部に清浄かつ乾燥した不活性ガスを供給すると、樹脂ポット55の内部に貯蔵される樹脂55aの液面が硬化または固化したり、液面から液中へゴミが混入するのを抑制したりすることができるので好ましい。また、ダイス56は、口金(図示しない)が備えられており、この口金に保護層形成樹脂55aが被覆されたPOF12を通過させることにより、不要量の保護層形成樹脂55aを除去するなどして、POF12の外径を調整する。
【0031】
POF12は、この樹脂ポット55の内部を搬送される間に、保護層形成樹脂55aに浸漬されることにより、その外周に保護層形成樹脂55aが被覆される。被覆後、ダイス56において、余分に被覆された保護層形成樹脂55aが除去される。そして、ダイス出口56aから搬出されたPOF12は、所望量の保護層形成樹脂55aが被覆された被覆済みPOF60となり、硬化工程19へと搬送される。
【0032】
なお、POF12の外周を被覆する前、すなわち樹脂ポット55の上流側に、張力測定装置と除塵装置(ともに図示しない)とを設けることが好ましい。そして、張力測定装置を用いてPOF12に対して付与する張力を制御することで、変形や断裂なしにPOF12を搬送しながら被覆作業を行うことができる。さらに、被覆前に、除塵装置を用いてPOF12の外周を浄化することにより、その外周に保護層形成樹脂を効率よく被覆させることができ、かつ異物の混入なしに保護層を形成させることができる。
【0033】
なお、被覆装置42の内部では、POF12に付与される搬送張力を、変形や断裂が生じないようにするために、700N/cm2 以下とすることが好ましい。なお、搬送張力は、所定の範囲内においてできる限り小さくすることがより好ましいが、特に限定されるものではない。また、POF12の搬送速度V(cm/分)は、10〜10000cm/分であることが好ましい。より好ましくは、Vが50〜6000cm/分であり、特に好ましくは、Vが100〜5000cm/分である。これにより、POF12の外周に保護層形成樹脂55aを略均一に被覆することができ、かつコード10の製造速度としては満足のいく値であるため、製造時間などを招くことなく優れた生産性によりコード10を製造することができる。
【0034】
硬化用の温浴槽43は、温度調整装置63を有し、60〜100℃に調整された温水61を満たしている。このような温浴槽43の内部に被覆済みPOF60を通過させることによって、保護層形成樹脂55aを10分以下の時間で加熱硬化させることができる。POF12に被覆された保護層形成樹脂55aは、下記に詳細に説明するが、ポリイソシアネート化合物、不活性化した固形ポリアミンの潜在性硬化剤および難燃剤を成分とするものである。また、この潜在性硬化剤は、固形ポリアミンが加熱により融解する温度以上になったとき、不活性化されたポリアミンが再生され活性化するので、ポリイソシアネートと急速に反応する。なお、本発明に用いる固形ポリアミンは、室温で固形であり、その融点が概ね150℃以下、望ましくは120℃以下、更に望ましくは100℃以下にしている。これにより、60〜100℃の温水中を通過させると、その加熱により固形ポリアミンが軟化、溶融、融解して活性化する。ただし、温水61は熱容量が大きいので、搬送速度に応じて温浴槽の大きさを変えるなどして、温浴槽43での滞在浸漬時間を適宜調整し、被覆済みPOF60の保護層形成樹脂55aの硬化状況を調整する。浸漬時間を長時間化する方法としては、例えば、温浴槽中でのPOF12の搬送速度を遅くしたり、プーリ62を複数個組合せる方法が挙げられる。これにより、保護層形成樹脂55aの硬化が十分になされる。また、所定の温度範囲を満たすような温水を有する温浴槽を、複数個用いてもよい。
【0035】
本発明で使用する保護層形成樹脂55aは、室温の粘度P(Pa・S)が、10〜200Pa・Sを満たすものとする。より好ましくは、粘度Pが50〜200Pa・Sであり、特に好ましくは100〜200Pa・Sである。このような粘度範囲を満たす保護層形成樹脂55aを使用すると、周囲の環境温度で均一に被覆作業を行うことができるので、一度に所望の特性を有する保護層20を形成させることができることから、結果として細径のコード10を得ることができる。ところが、保護層形成樹脂55aの粘度が10Pa・S未満であると、流動性が高すぎるために、被覆した箇所では液ダレなどが生じてしまう。そのため、所望の厚みの被覆層を形成させることが困難であるなどの問題が生じ好ましくない。一方で、粘度が200Pa・Sを超えると、流動性が低すぎるために、被覆ムラが生じる恐れがあり好ましくない。なお、本実施形態では、保護層形成樹脂55aとして、室温の粘度が160Pa・Sである1液タイプのウレタン系反応硬化性の加熱硬化性組成物を使用している。
【0036】
なお、保護層形成樹脂55aの粘度Pが上記の範囲を満たすようにすると、空気圧力調整器などによる圧縮空気により、保護層形成樹脂55aの移送を行うことが可能となる。また、室温領域でも液体であり、樹脂を熱溶融させたり、移送流路に保温機構を設けたりする必要がないため、エネルギーコストの低減かつ設備の簡素化などを図ることができるので好ましい。
【0037】
なお、樹脂ポット55の外側に乾燥気体を供給する機能を有するドライチャンバ(図示しない)を設けて、樹脂ポット55の内部に窒素ガスなどの乾燥気体を送り込むようにすると、POF12に保護層形成樹脂55aを被覆する際に、粉塵などの混入を防止することができるので好ましい。また、樹脂ポット55に樹脂ポットレベル計(図示しない)を設けると、内部の保護層形成樹脂55aの量の変動を制御して一定量になるように調整することができるので好ましい。
【0038】
被覆済みPOF60は、温水61が満たされている温浴槽43に送り込まれる。温浴槽43には温度調整装置63が接続されており、この温度調整装置63により温水61は循環されて、所望の温度となるように温度制御される。なお、本実施形態では、80℃に温度制御される。このように温浴槽43内の温水61を循環させると、温水61の温度を略均一に保持することができるので好ましい。そして、温浴槽43の内部に配されるプーリ62により被覆済みPOF60が支持されながら温浴槽43の内部を搬送される。これにより、保護層形成樹脂55aは流動性が消失する程度まで硬化され保護層が形成されるため、POF12の外周に保護層20が形成されたコード10が得られる。なお、温浴槽43の内部で被覆済みPOF60を搬送する際には、プーリ62を複数個にしたり、プーリ62に替えて、ローラなどの搬送手段を使用することもできる。さらに、保護層の硬化と同時にプーリやローラの溝形状を変えることにより、保護層を矩形形状を含めた所望の形状にすることができる。
【0039】
なお、本実施形態では、温水61に浸漬させることにより保護層形成樹脂55aを硬化させている。このように、温水61を使用した温浴槽43を硬化装置として使用すると、保護層形成樹脂55aを均一に加温して硬化させることができるので、硬化ムラが生じにくく、さらには、温水61の昇温・保温・調整の管理が容易であるため好ましい。
【0040】
また、本実施形態では、保護層形成樹脂55aを加熱して硬化させる際に使用する硬化装置として温浴槽43を使用した形態を示したが、所定の範囲内の温度に調整することができる装置であれば特に限定はされない。例えば、温度制御装置を有する加熱チャンバ(図示しない)を被覆済みPOF60の搬送路沿いに設けて、所定の加熱温度範囲を満たすように制御しながら被覆済みPOF60を加熱させることもできる。この加熱チャンバとしては、送風機が備えられている装置を使用し、被覆済みPOF60に対して所望の温度の風を送出せばよい。ただし、この風の送出し方向は特に限定されるものではなく、被覆済みPOF60の搬送方向に沿ったものでもよいし、逆方向でもよいし、下方から渦巻状に導入して上方から抜き出すような形態でもよい。
【0041】
なお、温浴槽43をはじめとする加熱装置の入口側と出口側に温度計を設けて、測定温度に基づいて微調整を行いながら作業を行うようにすると、不均一な加熱による保護層20に生成する凹凸を低減することができるので好ましい。これにより、均一な厚みの保護層20を形成させることができる。
【0042】
ただし、加熱装置の形態に関わらず、保護層形成樹脂55aを硬化させる際には、POF12を構成するポリマーのガラス転移温度Tg(℃)以下の温度で被覆済みPOF60の保護層形成樹脂55aを硬化させる。なお、保護層形成樹脂55aの反応硬化温度は(Tg−50)〜Tg℃の範囲を満たすようにすると、本実施形態のようにPOFの径方向に特定の屈折率分布を発現させる場合、その屈折率分布の乱れを抑制することができ、かつ未硬化分の低減や硬化時間の短縮などを行うことができるので好ましい。このようにして得られるコード10は、優れた光学特性を有する。反応硬化温度として、Tg−50〜Tgとし、より好ましくは、(Tg−40)〜Tg℃であり、特に好ましくは(Tg−30)〜Tg℃である。したがって、本実施形態では、温浴槽43内の温水61の温度が上記範囲を満たすように調整される。なお、POF12を構成させるポリマーとして、本実施形態では、コア部30の中心部分のTgが約90℃であるPOF12を使用しているため、温水61の温度を80℃となるように調整している。
【0043】
ただし、反応硬化温度である(Tg−50)℃が60℃以下になると、本発明に用いる保護層形成樹脂55aの潜在性硬化剤の活性化温度に達しないので、保護層形成樹脂55aの硬化が困難となるために保護層を形成することができない。従って、反応硬化温度は、60〜110℃であることが好ましい。なお、本実施形態では、硬化装置として温浴槽43を1つ設置した形態を示したが、本形態に限定されるものではなく、2つ以上配置させてもよい。このように複数個の硬化装置を用いる場合には、それぞれ異なる温度となるように調整してもよいし、同一温度となるように調整してもよい。
【0044】
なお、POF12が複数のポリマーからなり、ガラス転移温度が複数個存在する場合には、この複数のガラス転移温度のうち、もっとも低いガラス転移温度をTgとし、硬化工程19において温度設定する際に用いるものとする。ただし、POF12を構成するポリマーがガラス転移温度を持たない場合には、相転移温度(例えば、融点など)の最も低いものをTg(℃)とする。
【0045】
また、保護層形成樹脂55aが硬化に要する時間、すなわち、被覆済みPOF60が温浴槽43の入口43aから温水61に浸漬された後、出口43bから搬出されるまでの間に要する時間T1は、10分以下とする。より好ましくは、T1が1秒以上3分以下である。このT1は、温浴槽43の温水61の温度を60〜100℃の範囲内で調整したり、温水槽の容量を変えることによって調整することができる。なお、保護層形成樹脂55aの種類や保護層20の厚みを考慮し、所定の範囲内において適宜選択すればよい。保護層形成樹脂55aの硬化時間が上記の範囲を満たすようにすると、保護層20の厚みを制御しやすい。ただし、硬化時間が1秒未満だと、保護層20を厚くする場合には硬化ムラが生じる恐れがある。一方で、硬化時間が10分を超えるような材料を使用すると、POF12を加温条件下に長時間曝すことになるために、材料が熱的なダメージを受けて、材料の劣化などが生じてしまい、結果として、コードの生産性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0046】
保護層20が形成されたコード10は、支持ローラ65により支持されながら一対の引取りローラ44により温浴槽43から引き取られる。また、支持ローラ65と引取りローラ44の間には、第1水分除去装置70と第2水分除去装置71とを設けられている。この第1水分除去装置70の内部には、送風機能が備えられており、温浴槽43から搬出されたコード10に風を吹きつけられてコード10の表面に存在する水分が払拭される。また、第2水分除去装置71には、吸引機能が備えられており、送風により水分が払拭されたコード10の外周を吸引することにより、コード10の水分除去をより効果的に促進させる。
【0047】
なお、第2水分除去装置の下流側に、外観検査装置および外径測定機(ともに図示しない)を配して、コード10の表面での保護層形成樹脂55aの凝集による瘤などの有無および、コード10の外径測定により所望の値が得られているか否かを判断すると、規格外製品であるか否かの判定を、コード10の製造中に効率的に行うことができるので好ましい。
【0048】
一対の引取りローラ44には、その一方にモータ44aが取り付けられている。そして、このモータ44aを調整することにより、コード10を引き取る際の張力が制御される。また、もう一方の引取りローラ44には、押圧部材44bが備えられている。これにより、コード10の搬送安定性を向上させて作業を行うことができる。なお、本実施形態では押圧部材44bとしてバネを使用している形態を示しているが、引取りローラ44を押圧することができる部材であればよく、特に限定されるものではない。
【0049】
巻取装置45の内部には、支持ローラ75と巻取ロール76とが備えられている。そして、支持ローラ75により支持して搬送安定性を向上させたコード10を、逐次巻取ロール76により巻き取ってコード製品とする。なお、本実施形態では、巻取ロール76に巻き取る形態を示したが、巻き取らずに、そのまま所望の形状および寸法に切断して製品として使用することもできる。
【0050】
なお、保護層20が形成されたコード10を束ねることによりプラスチック光ファイバケーブル(Plastic Optical Cable)23を得ることができる。本発明においては、1本のコード10を使用し、必要に応じて、さらにその外周に被覆層が設けられたものを、シングルファイバケーブルと称する。また、コード10がテンションメンバなどとともに複数本組合された後、さらに、その外周に被覆層が設けられたものをマルチファイバケーブルと称する。なお、プラスチック光ファイバケーブル23は、これらのシングルファイバケーブルとマルチファイバケーブルとの両方を含む。
【0051】
POF12を形成させる材料について説明する。本発明に好ましく用いることができるPOF12形成材料のうち、コア部30を形成させるポリマー材料は、光透過性が高い有機材料であることが好ましい。光伝送の機能を損なわない限り、材料は特に限定されるものではないが、このポリマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルよりなる重合体を主成分として用いることが好ましい。これらのポリマー材料の詳細については、後ほど説明する。また、アウタークラッド31aは、コア部30よりも屈折率が低いポリマー材料を用いる限り問題はないが、アウタークラッド31aにフッ素系樹脂を用いると、低屈折率で光学的に問題のないものを容易に製造することができる。
【0052】
また、アウタークラッド31aの形成材料としては、コア部30を伝送する光が、インナークラッド31bを透過した後、インナークラッド31bよりも十分に屈折率の低いポリマーとすることが好ましい。コア部30およびクラッド部31を形成させる材料は、光散乱を生じないように、非晶性のポリマーとすることが好ましく、さらには、互いに密着性に優れるポリマーであるとともに、タフネスなどに示される機械的特性に優れ、耐湿熱性にも優れていることがより好ましい。
【0053】
さらに、水分がコア部30に侵入することをできるだけ防ぐことを目的として、アウタークラッド31aを形成させる材料は、低吸水率の材料を用いることが好ましい。例えば、アウタークラッド31aには、飽和吸水率が1.8%未満のポリマーを主たる成分とすることが好ましい。より好ましくは、1.5%未満の飽和吸水率、特に好ましくは、1.0%未満の飽和吸水率であるポリマーにより形成されることである。なお、ここでの飽和吸水率は、ASTMによるD570により基づく値であり、具体的には、23℃の水中にサンプルを1週間浸漬したときの吸水率を測定した値である。
【0054】
コア部30およびインナークラッド31bを形成させるポリマー材料としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類(フッ素不含(メタ)アクリル酸エステル(a),含フッ素(メタ)アクリル酸エステル(b)),スチレン系化合物(c),ビニルエステル類(d)、主鎖環状含フッ素ポリマー形成モノマー類(e)、ポリカーボネート類の原料であるビスフェノールAなどを重合性化合物として用いて重合させたものとすることができる。
【0055】
アウタークラッド31aを形成させるポリマー材料としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましい。コア部30とインナークラッド31bとを形成させる材料としては、各々を重合させたホモポリマー、あるいはこれらのうち2種以上を組み合わせて重合させた共重合体、および上記のホモポリマーや共重合体の各種組み合わせによる混合物も例として挙げることができる。また、混合物を原料として得られた共重合体およびブレンドポリマーの場合には、各共重合体またはブレンドポリマーのガラス転移点を上記Tgとして定義する。そして、これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル類または含フッ素ポリマーを成分として含むものが光伝送体を構成する上でより好ましい。次に、上記の例について、より詳細に示す。
【0056】
上記の(a)フッ素不含メタクリル酸エステルおよびフッ素不含アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−tert−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジフェニルメチル、トリシクロ[5・2・1・02,6]デカニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ノルボニルメタクリレートなどが挙げられ、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸フェニルなどの重合性化合物が挙げられ、単独ないし共重合しポリマーにする。
【0057】
(b)含フッ素アクリル酸エステルおよび含フッ素メタクリル酸エステルとしては、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレートなどの重合性化合物が挙げられ、単独ないし共重合しポリマーにする。
【0058】
(c)スチレン系化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなど、(d)ビニルエステル類としては、ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテートなどの重合性化合物が挙げられ、単独ないし共重合してポリマーにする。また、(e)主鎖環状含フッ素ポリマー形成モノマー類としては、モノマーとして環状構造を有するもの、または環化重合することによって、非晶質の主鎖に環状構造を有する含フッ素重合体を形成するポリマーを形成するものであり、ポリパーフルオロブタニルビニルエーテルや特開平8−334634号などに例示される主鎖に脂肪環もしくは複素環を有するようなポリマーを形成するモノマー、および特願2004−186199号に例示されるものなどが挙げられる。ただし、コア部30に用いることができるポリマー材料は、これらに限定されるものではない。重合性化合物の単独あるいは共重合体からなるポリマーの屈折率が、光伝送体に成形されたときに所定の屈折率分布を複層樹脂の中で有するように、種類や組成比を決定することが好ましい。
【0059】
なお、これらのポリマーが水素原子(H)を含んでいる場合には、その水素原子が重水素原子(D)に置換されていることが好ましく、これにより伝送損失の低減、特に近赤外領域の波長における伝送損失の低減を図ることができる。
【0060】
さらに、POF12を近赤外光用途に用いるためには、ポリマーを構成するC−H結合に起因した吸収損失が起こるために、特許3332922号公報や特開2003−192708号公報などに記載されているような、C−H結合の水素原子を重水素原子やフッ素などで置換したポリマーを用いることで、この伝送損失を生じる波長域を長波長化することができ、伝送信号光の損失を軽減することができる。このようなポリマーとしては、例えば、重水素化ポリメチルメタクリレート(PMMA−d8)、ポリトリフルオロエチルメタクリレート(P3FMA)、ポリヘキサフルオロイソプロピル2−フルオロアクリレート(HFIP 2−FA)などを例示することができる。なお、原料となる化合物は、重合後の透明性を損なわないためにも、不純物や散乱源となる異物は重合前に充分に除去されることが望ましい。
【0061】
コア部30とクラッド部31とを形成するポリマーは、後述のように、糸状に押出成形後に好適に延伸できるという観点から、重量平均分子量が1〜100万であることが好ましく、より好ましくは3〜50万である。また、延伸に対する適性は、分子量分布(MWD:重量平均分子量/数平均分子量)にも関係しており、MWDが大きすぎる場合には、極端に分子量の大きい成分が混在しているときに延伸性が悪くなり、延伸が不可能となることもある。したがって、好ましいMWDの範囲は4以下であり、より好ましい範囲は、3以下である。
【0062】
重合性化合物を重合させてポリマーとする場合においては、重合開始剤を使用する。重合開始剤としては、例えば、ラジカルを生成するものが各種ある。例えばラジカルを生成するものとして、過酸化ベンゾイル(BPO)、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−tert−ブチルパーオキシド(PBD)、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バラレート(PHV)などのパーオキサイド系化合物が挙げられる。また、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2’−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2’−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3’−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3’−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−tert−ブチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物が挙げられる。なお、重合開始剤は、これらに限定されるものではなく、また、2種類以上を併用してもよい。
【0063】
ポリマーとしたときの機械特性やTgなどの熱物性などの各種物性値を全体にわたって均一に保つために、重合度の調整を行うことが好ましい。重合度の調整のためには、連鎖移動剤を使うことができる。連鎖移動剤については、併用する重合性化合物のモノマーの種類に応じて、種類および添加量を適宜選択できる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)を参照することができる。また、該連鎖移動定数は大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊を参考にして、実験によっても求めることができる。
【0064】
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類(例えば、n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンなど)、チオフェノール類(チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオールなど)などを用いることが好ましい。特に、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンのアルキルメルカプタンを用いるのが好ましい。また、C−H結合の水素原子が重水素原子やフッ素原子で置換された連鎖移動剤を用いることもできる。なお、連鎖移動剤は勿論これらに限定されるものではなく、これら連鎖移動剤は2種類以上を併用してもよい。
【0065】
その他、コア部30やクラッド部31、もしくはそれらの一部には、光伝送性能を低下させない範囲で、その他の添加剤を添加することができる。例えば、コア部30、インナークラッド31b、もしくはその一部に耐候性や耐久性などを向上させる目的で、安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。該化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することができ、伝送距離が向上するので、例えば、光伝送リンクの一部にファイバ増幅器として使用することができる。これらの添加剤も、前記原料となる各種重合性化合物を重合時または重合後に添加することによって、コア部30やクラッド部31、もしくはそれらの一部に含有させることができる。
【0066】
上記のように、POF12を、コア部30に径の中心から外側に向かって屈折率の高低分布が次第に変化するGI型POFとすると、伝送損失の増加を抑制することができるとともに、より広帯域での光通信を行うことができ、高性能通信用途のPOF12を得ることができるので好ましい。このような所望の屈折率の高低分布を発現させるには、屈折率の異なる複数の重合体または共重合体を組合せることによりコア部30を形成させてもよいし、コア部30を形成させるポリマー材料にドーパントを添加する方法が挙げられる。
【0067】
ドーパントは、上記のようなコア部30を形成させる重合性化合物の重合性モノマーとは非重合性であり、屈折率が異なる化合物である。また、特許3332922号公報や特開平5−173026号公報などに記載されているような、モノマーの合成によって生成される重合体との比較において、溶解性パラメータとの差が、7(cal/cm3 1/2 以内であるとともに、屈折率の差が0.001以上であり、これを含有する重合体が無添加の重合体と比較して屈折率が変化する性質を有し、重合体と安定して共存可能であり、かつ上記の各部材を形成させる重合性モノマーの重合条件(加熱および加圧など)下において安定であるものであれば、特に限定することなく使用することができる。
【0068】
なお、コア部30のみにドーパントを添加する場合には、コア部30の主成分となるポリマーに対して、その添加率を0.01〜25重量%とすることが好ましく、1〜20重量%とすることがより好ましい。これにより、断面円形の径方向における屈折率分布係数を上記のような好ましい範囲により制御しやすくなる。また、このドーパント濃度は、径方向の中心へ向かうにしたがい次第に高くなるようにする。
【0069】
また、ドーパントは、高屈折率で分子体積が大きく、かつ重合に関与せずに溶融樹脂中で所定の拡散速度を有する低分子化合物を用いることが好ましい。本実施形態では、このようなドーパントを、コア部30を形成させる材料に添加した後、界面ゲル重合方法により重合の進行方向を制御するとともに、ドーパントの濃度に傾斜を持たせることにより、ドーパントの濃度分布に基づいてコア部30の径方向での屈折率を変化させている。ドーパントは重合性化合物であってもよいが、重合性化合物を用いた場合には、これを共重合成分として含む共重合体が、これを含まない重合体と比較して屈折率が上昇する性質を有するものを用いることが好ましい。なお、ドーパントは、モノマーに限定されず、オリゴマー(ダイマー、トリマーなどを含む)であってもよい。
【0070】
ドーパントとしては、例えば、安息香酸ベンジル(BEN)、硫化ジフェニル(DPS)、リン酸トリフェニル(TPP)、フタル酸ベンジル−n−ブチル(BBP)、フタル酸ジフェニル(DPP)、ジフェニル(DP)、ジフェニルメタン(DPM)、リン酸トリクレジル(TCP)、ジフェニルスルホキシド(DPSO)などが挙げられ、中でも、BEN、DPS、TPP、DPSOが好ましい。なお、ドーパントは、例えば、トリブロモフェニルメタクリレートのように重合性化合物でもよい。この場合、ドーパントを分散させる母材を形成させる際に、重合性モノマーと重合性のドーパントとを共重合させるので、光学特性などの制御が困難となるが、耐熱性を向上させることができるなどの効果が得られる。
【0071】
なお、コア部30に屈折率の高低分布を付与する方法としては、本実施形態に限定されるものではなく、例えば、POF12の前駆体であるプリフォーム11を形成した後に、ドーパントを拡散させる方法も挙げられ、本発明に適用することができる。
【0072】
また、コア部30およびクラッド部31には、光伝送性能を低下させない範囲で、その他の添加剤を添加することができる。例えば、コア部30もしくはその一部に耐候性や耐久性などを向上させる目的で、安定剤を添加することができる。また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。このような化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することができ、伝送距離が向上するので、例えば、光伝送リンクの一部にファイバ増幅器として使用することができる。
【0073】
前述した重合開始剤や連鎖移動剤、ドーパントの各添加量については、使用するコア用形成材料の種類などに応じて、好ましい範囲を適宜決定することができる。本実施形態においては、重合開始剤は、コア用の重合性化合物に対して、0.005〜0.050重量%となるように添加しているが、0.010〜0.020重量%とすることがより好ましい。また、前記連鎖移動剤は、コア用の重合性化合物に対して、0.10〜0.40重量%となるように添加しているが、0.15〜0.30重量%とすることがより好ましい。
【0074】
以下に、保護層形成樹脂55aとして用いることができる材料を具体的に例示する。本発明では、保護層形成樹脂55aとして、1液タイプの反応硬化性の樹脂を使用する。この反応硬化性の樹脂には、1液タイプのものと2液タイプのものとが存在するが、2液タイプもしくはそれ以上を混合して反応硬化させる樹脂の場合には、混合後の粘度ムラが生じるために、POFに対する被覆時において、その被覆厚みなどを制御することが困難である。くわえて、ポットライフの短さにより、事実上樹脂の継ぎ足しを行うことができないので、第2被覆工程を含めてコードを連続的に製造することが困難であるなどの問題が生じる。一方で、本発明のように1液タイプのものを使用すると、上記の問題を回避することができる。すなわち、被覆厚みの制御を適切に行いながら、連続的に被覆作業を行うことができる。また、1液タイプの反応硬化性の樹脂は、POFなどの光導波路を構成するポリマーのTg(℃)以下で流動性を有し、そのTg以下の温度で反応硬化するため、比較的低温化で硬化する保護層形成材料55aとして使用できる。これにより、光導波路に熱的なダメージを与えずに、その外周に保護層20を設けることができる。
【0075】
本発明の保護層形成樹脂55aとして使用することができる1液タイプの反応硬化性の樹脂としては、例えば、熱硬化性1液タイプのポリウレタン組成物(a)が挙げられる。このポリウレタン組成物(a)は、ポリイソシアネート化合物と潜在性硬化剤と難燃剤とを含み、必要に応じて充填材、粘度調整剤、触媒、各種防止剤などの添加剤を配合することができる。なお、このポリイソシアネート化合物と不活性化した固形ポリアミンの潜在性硬化剤、難燃剤、充填材、粘度調整剤、触媒と各種防止剤以外に、可塑剤、溶剤、着色剤などを適宜配合させると、所望の特性を有する保護層を形成させることができるので好ましい。
【0076】
このポリイソシアネート化合物としては、例えば、ポリオール成分とポリイソシアネート化合物との付加反応により生成される末端イソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーもしくはポリイソシネート化合物のいずれか一方、またはこれらを併用したものが挙げられる。このポリイソシアネート化合物としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジフェニルエーテルジイソシアネート、シクロヘキシルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの芳香族、脂肪族、脂環族ポリイソシアネート化合物、ポリメリックMDI、ヘキサメチレンジイソシアネートなどのヌレート縮合物などの多量化イソシアネート化合物などが挙げられる。なお、これらは1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組合せて併用してもよい。中でも、TDI、MDIおよびその変性物、脂肪族ポリイソシアネート化合物などを使用することが、反応硬化の温度や硬化物の物性などの点から好ましい。
【0077】
なお、上記ポリウレタンプレポリマーの原料となり、ポリイソシアネート化合物と付加反応させるポリオール成分としては、ポリプロピレングリコール(PPG)系、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)系、ポリエチレングリコール(PEG)系などのポリエーテルポリオール、アジピン酸やエチレングリコールなどの2官能以上の多塩基酸と多価アルコールの重縮合により誘導されるポリエステルポリオールなどが挙げられる。これらは1種類のみの単独重合ポリオールないし共重合ポリオールで用いてもよいし、1種類または2種類以上のポリオールを組合せて用いてもよい。
【0078】
上記の固形ポリアミンを不活性化した潜在性硬化剤とは、融点50℃以上であり、中心粒径20μm以下の固形アミンの表面に中心粒径2μm以下の微粉体を固着させて、表面の活性アミノ基を不活性化した微粉体コーティングポリアミンを用いる。本発明で用いる固形ポリアミンとしては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノビフェニル、ジアミノフェノール、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、ドデカンジアミン、オクタンジアミン、テトラデカンジアミン、ヘキサデカンジアミン等の芳香族や脂肪族の室温固形ポリアミンが挙げられる。この微粉体としては、無機系または有機系の中から任意に使用することができる。例えば、無機系の微粉体としては、酸化チタンや炭酸カルシウム、クレー、シリカ、ジルコニア、カーボン、アルミナ、タルクなどが挙げられ、有機系としては、ポリアクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエチレンなどが挙げられる。このとき、無機系および有機系ともに、これらの微粉体は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合させた混合物を用いることもできる。また、使用量は、固形ポリアミンと微粉体との重量比が、1:0.001〜0.5とする。より好ましくは、重量比が約1:0.002〜0.4となるように選定されることである。微粉体の比率が0.001未満である場合には、貯蔵安定性の効果が認められない。0.5を超えても、貯蔵安定性はそれ以上改善されることはない。そして、固着した微粉体の中心粒径は、2μmを超えると固形ポリアミンの表面に固着しないようになるために、その値は2μm以下であることが好ましく、より好ましくは、約1μm以下である。このようにして得た微粉体コーティングポリアミンは、60℃以上の温度で軟化溶融し、かつ活性化して、ポリイソシアネート化合物と急速に反応する。なお、微粉体コーティングポリアミンのアミノ基(NH2 )とポリイソシアネートのイソシアネート基(NCO)との当量比が、1/0.5〜1/2.0となるように用いる。
【0079】
この微粉体をコーティングしたポリアミン(微粉体コーティングポリアミン)の製造方法は、上記の固形ポリアミンを所定の中心粒径に粉砕しつつ、同時に上記の微粉体を加えて、この微粉体が所定の中心粒径範囲となるように混合粉砕し、固形ポリアミンの表面に微粉体とともに、攪拌機(例えば、高速衝撃式混合攪拌機や圧縮せん断式混合攪拌機など)または、噴霧乾燥装置にかけることにより、微粉体コーティングポリアミンを製造することができる。このとき、攪拌機として高速衝撃混合攪拌機を用いると、粒径をより微調整しながら効率よく微粉体をポリアミンに固着させることができるので好ましい。
【0080】
本発明のように保護層形成樹脂55aに難燃剤を添加すると、難燃性を示す保護層を設けることができるので、結果として、優れた難燃性を有する光学材料を製造することができる。本発明に使用することができる難燃剤としては、リン酸エステルおよび窒素化合物の塩を併用する。リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェートなどが上げられる。また、水酸基を含有するリン酸エステルをウレタンプレポリマーとしてポリマーの骨格中に導入してもよい。特に、リン酸エステルの中に、芳香族リン酸エステルや縮合リン酸エステルが含まれることが好ましい。さらには、これらの中でも、燃焼加熱時の揮発性が遅くなるように、沸点の高い材料を選択して用いることが好ましい。なお、リン酸エステル類は液状であるため、配合することで、保護層形成樹脂の粘度を下げることができ、粘度調整剤としての副次的な効果も併せ持っている。
【0081】
また、上記の窒素化合物の塩としては、例えば、酸素酸、有機リン酸、有機スルホン酸などの塩であり、リン酸グアニジン、リン酸グアニル尿素、硫酸メラミン、オルトリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸アンモニウム、シアヌル酸メラミン、スルファミン酸グアニジンなどが挙げられる。ただし、ウレタン系樹脂と組合せる場合、分解温度の低いグアニジン化合物では、燃焼抑制の効果は高いが、耐水性が低下してしまう。一方で、ポリリン酸化合物のうちアンモニウム塩は、耐水性は悪いが、ポリリン酸メラミンは耐水性がよいため、本用途には最適である。
【0082】
上記のリン酸エステルと窒素化合物の塩を難燃剤として併用する訳であるが、上記のようにリン酸エステルは液状であり、窒素化合物は粉体であるので、いずれか一方では粘度が本発明の範囲からはずれ、また難燃性も劣る傾向になる。したがって、これらの不具合を解消するために、リン酸エステルと窒素化合物の塩を難燃剤として併用する。ただし、難燃剤は、通常、保護層形成樹脂の20〜70重量%で用いる。好ましくは40〜60重量%にする。その内、リン酸エステルと窒素化合物の併用割合は5/5〜7/3で用いることが好ましい。
【0083】
なお、保護層形成樹脂55aに、性能の改善などを目的として上記で示した難燃剤のほかにも、触媒、揺変剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、染顔料、接着付与剤、脱水剤などの添加剤や、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、カーボン、アルミナ、タルク、ポリアクリル酸、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの無機化合物や有機化合物などを含むフィラーを適宜添加することができる。また、必要に応じて、可塑剤や溶剤などを適宜用いることができる。
【0084】
ただし、保護層形成樹脂55aは、塩素化合物、臭素化合物、アンチモン化合物、カドミウム化合物、鉛化合物、クロム化合物、亜鉛化化合物のいずれかを含まないことを特徴とする。これらの化合物は環境や人体への悪影響が懸念される物質となりうるため、使用することは好ましくない。
【0085】
なお、難燃剤として使用されているハロゲン化化合物は、少量の添加で非常に優れた難燃性を得ることができる物質として知られているが、燃焼するとハロゲン化水素やダイオキシンなどが発生し、上記と同様に、環境や人体への悪影響が懸念されるため、使用を控えることが好ましい。また、水酸化アルミなどの難燃剤は、水和水を有するので、活性なイソシアネート基を含有する加熱硬化性樹脂などに添加させると、水和水が徐々に遊離してイソシアネートと反応してしまい、粘度上昇やゲル化を引き起こす恐れがあるので使用することが困難である。
【0086】
なお、本発明の保護層形成材料55aとしては、特許第3131224号に記載のポリイソシアネート化合物と不活性化した融点50℃以下の固形のポリアミンを組合せた加熱反応硬化性の樹脂は、上記の硬化特性を満たすものであるため好ましく使用することができる。この加熱反応硬化性は、ポリアミン化合物の融点付近でポリアミンが軟化、溶解、融解し、イソシアネートとの反応が始まるとともに、イソシアネート基とアミノ基との反応が非常に早く進行するため、樹脂の硬化が短時間のうちに完了する。また、この樹脂は1液タイプであるため、混合の手間やポットライフに関する問題を回避することができるなどの効果を得ることができる。
【0087】
なお、1液タイプの反応硬化性の樹脂として一般的に知られている樹脂としては、固形の硬化剤を分散させたエポキシ樹脂、湿気硬化性ウレタン樹脂、ブロックドウレタン樹脂、UV硬化性樹脂などが挙げられるが、これらの樹脂は保護層形成材料55aとして使用するには不向きである。
【0088】
例えば、エポキシ樹脂は、潜在性硬化剤を用いた硬化温度が120℃以上と高温であるために樹脂の変形や劣化を招くなどの恐れがあることに加えて、その硬化物は非常に硬いために伸びが小さいなどの特性により、POFの外周に被覆して保護層を設ける本用途には不向きである。また、湿気硬化性ウレタン樹脂は、空気中の水分と樹脂中のイソシアネート基が反応することにより高分子化して硬化するものであるが、本用途のような硬化速度を得るためには保護層への水の拡散が遅いために速く硬化させることが困難である。加えて、水とイソシアネート基との反応による副生成物の二酸化炭素は、樹脂層を発砲させ、寸法の安定性などを損なうことが懸念される。さらに、UV硬化性樹脂は、温度には左右されず硬化することができ、粘度の調整も適宜行うことができるが、難燃剤を添加する場合、難燃剤は紫外線を遮断するために、特に保護層の深部での硬化が未硬化となるため好ましくない。他にも、ブロックドイソシアネートを用いたウレタン樹脂は、本用途にとっては反応温度が高く、さらにはイソシアネートのブロック剤(ε−カプロラクタム、フェノール等)が解離し硬化反応が完結するが、ブロック剤の解離温度が120℃以上であるために、硬化時間が長くなることから、適応させることが困難である。
【0089】
本発明では、POF12の製造方法に関しては、特に限定されるものではなく、POF製造方法として公知の方法を適用することができる。本実施形態では、あらかじめ溶融押出成形により形成させた円筒状のアウタークラッド31aの内部に、インナークラッド31bおよびコア部30を形成させる材料を順次注入し、回転ゲル重合させて3層構造のプリフォーム11を作製後、これを加熱溶融させながら延伸させて所望の径のPOF12を形成させた。なお、本実施形態のように、いったんPOF12の前駆体であるプリフォーム11を形成後、POF12とする方法としては、例えば、コア部30とクラッド部31とを別々に形成後、これらの部材を組合せることによりプリフォーム11を形成させる方法や、各部材を形成させる材料を同心円状に一度に溶融押し出ししてプリフォーム11を形成後、これを延伸させてPOF12とする方法なども挙げられる。この他にも、プリフォーム11を形成させずに、各材料を溶融押し出しにより押し出してから、加熱するなどのエネルギーを加えることにより各材料を重合させてPOF12とする方法も挙げられる。本発明のコア部30とクラッド部31の光導波路を作成するポリマーは、そのガラス転移温度Tg(℃)が、60℃以上、好ましくは80℃以上になるようにし、かつ、屈折率を調整して前記重合性化合物を重合ないし共重合させるものである。
【0090】
また、本発明によりPOFの外周に保護層を設けて、連続的かつ安定してコードを製造するために、保護層形成設備において、被覆装置の前後、あるいは温浴槽など保護層形成樹脂の硬化に使用する装置の前後などに、POFやコードの張力を測定するための張力測定装置を設けることが好ましい。そして、この張力測定装置により得られる測定値(張力)を参考に、POFやコードの搬送張力または搬送速度を制御すると、POFやコードが途中で切断したり変形したりすることなく、優れた搬送安定性により作業を行うことができる。なお、POFの外周に保護層を形成させる前の段階で、POFに風を吹き付けるなどして、その外周に付着している粉塵などの異物を払拭すると、異物混入のない保護層を形成させることができるので好ましい。
【0091】
また、本発明は、上記のようにして得られるコード10の外周に保護層形成樹脂55aを被覆することによりプラスチック光ファイバケーブル23(以下、ケーブルと称する)を製造する。この被覆形態としては、1本のコード10と被覆層との界面あるいは複数本束ねた状態のコード10の外周と被覆層との界面が、すべて接するように被覆される密着型保護層被覆と、保護層とコード10との界面に空隙を形成させるルース型保護層被覆とがあり、これらを適宜選択して用いることができる。ただし、ルース型保護層被覆は、例えば、コネクタとの接続部において被覆層が剥離した場合、その端面の空隙から水分が浸入して長手方向に拡散するおそれがあるため、通常は、密着型保護層被覆を行うことが好ましい。しかし、ルース型の場合は、コード10とが密着していないので、ケーブル23にかかる応力や熱などのダメージの多くを被覆層により緩和させることができるという利点を有するため、使用目的によっては好ましく用いることができる。
【0092】
ただし、ルース型保護層被覆でのコネクタ接続部からの水分の伝播は、流動性を有するゲル状の半固体や粉粒体を、コード10と保護層被覆との界面の空隙部に充填することにより防止することができる。さらに、これらの半固体や粉粒体に対して、耐熱や機械的強度の向上など他の異なる機能を付与させると、多機能な被覆層を有するケーブル23を製造することができる。また、ルース型保護層被覆を行う場合、クロスヘッドダイの押出し口ニップルの位置を調整し減圧装置による減圧度を加減することにより、空隙を有する層を形成させることができる。この空隙層の厚みは、前述のニップル厚みと空隙層とを加圧/減圧することにより調整すればよい。なお、密着型およびルース型に関わらずコード10の外周に保護層を被覆する場合には、この保護層の中に、難燃剤や紫外線吸収剤,酸化防止剤,染顔料、触媒などを光伝送特性に影響を及ぼさない条件範囲で添加してもよい。
【0093】
また、ケーブル23に複数の機能を付与させるために、さらに、適宜機能性層となる機能性保護層を積層させてもよい。難燃化層以外の機能層としては、例えば、POF12の吸湿を抑制するためのバリア層や、POF12に含有された水分を除去するための吸湿材料層などが挙げられる。なお、この吸湿材料層の付与方法としては、例えば、吸湿テープや吸湿ジェルを所定の被覆層内や被覆層間に設ける方法がある。
【0094】
さらに、その他の機能性層としては、可撓時の応力緩和のための柔軟性素材層や外部からの応力を緩衝するための緩衝材として機能する発泡材料層、剛性を向上させるための強化層などが挙げられる。また、蛍光発光層を設けることも挙げられる。ケーブル23の構造材(保護層)としては、樹脂以外にも、例えば、高い弾性率を有する繊維(いわゆる抗張力繊維)および/または剛性の高い金属線などの線材を樹脂に含有させたものが挙げられる。このような材料を用いると、ケーブル23の機械的強度を補強することができるために好ましい。
【0095】
抗張力繊維としては、例えば、アラミド繊維,ポリエステル繊維,ポリアミド繊維が挙げられる。また、金属線としては、ステンレス線,亜鉛合金線,銅線などが挙げられる。ただし、本発明に適用することができる抗張力繊維および金属線は、これらに限定されるものではない。その他にも、ケーブル23を保護するための金属管の外装や架空用の支持線、配線時の作業性を向上させるための機構などをケーブル23の外周部に組み込むこともできる。そして、ケーブル23の形状は使用形態によって、コード10を同心円上にまとめた集合型のものや一列に並べたテープ型のもの、さらに、それらを押え巻やラップシースなどでまとめたものなどが挙げられる。なお、これらの使用形態は、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0096】
なお、本発明において、難燃剤を付与した保護層を設けたコード10は優れた難燃性を発現する。この難燃性の評価は、UL(Underwriters Laboratory)で決められている難燃性の規格のうち、燃焼試験を行うことにより評価される。この燃焼試験としては、サンプルの形状により異なる場合もあるが、概ね燃焼性能の低い順に、CMX(燃焼試験、通常VW−1試験と称される)、CM(垂直トレイ燃焼試験)、CMR(ライザー試験)、CMP(プレナム試験)などのグレードが設定されている。POFの場合、芯材の多くが可燃性材料で形成されているため、火災時の延焼を防ぐために、VW−1以上の規格を有したコード10またはケーブル23であることが好ましい。
【0097】
本発明のコード10から得られたケーブル23は、従来品と比べて軸ずれに対する許容度が高いために、簡便な冶具による突き合せにより接合しても用いることができる。ただし、より好ましくは、光ケーブルの端部に接続用光コネクタを備えて、互いの接続部を確実に固定することである。また、コネクタは、一般に知られているPN型,SMA型,SMI型などの市販の各種コネクタを利用することが可能である。そのため、本発明のケーブル23は、種々の発光素子や受光素子や光スイッチ,光アイソレータ,光集積回路,光送受信モジュールなどの光部品を含む光信号処理装置などが組み合わされて好適に用いられる。この際、必要に応じて他の光ファイバなどと組合せてもよい。それらに関連する技術としてはいかなる公知の技術も適用することができる。例えば、「プラスティックオプティカルファイバの基礎と実際」(エヌ・ティー・エス社発行)、日経エレクトロニクス2001.12.3号110頁〜127頁「プリント配線基板に光部品が載る,今度こそ」などを参考にすることができる。
【0098】
また、これらの文献に記載の種々の技術と組み合わせることによって、コンピュータや各種デジタル機器内の装置内配線,車両や船舶などの内部配線,光端末とデジタル機器,デジタル機器同士の光リンクや一般家庭や集合住宅・工場・オフィス・病院・学校などの屋内や域内の光LANなどをはじめとする高速大容量のデータ通信や電磁波の影響を受けない制御用途などの短距離に適した光伝送システムに好適に用いることができる。
【0099】
さらに、IEICE TRANS. ELECTRON.,VOL.E84−C,No.3,MARCH 2001,p.339−344 「High−Uniformity Star Coupler Using Diffused Light Transmission」,エレクトロニクス実装学会誌 Vol.3,No.6,2000 476頁〜480頁「光シートバス技術によるインタコネクション」の記載されているものや、特開2003−152284号公報に記載の導波路面に対する発光素子の配置;特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号などの各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−329962号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号などの各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号などの公報に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号などの各公報に記載の光信号伝達装置や光データバスシステム;特開2002−23011号などに記載の光信号処理装置;特開2001−86537号などに記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号などに記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号などの各公報に記載のマルチファンクションシステム;や各種の光導波路、光分岐器、光結合器、光合波器、光分波器などと組み合わせることで、多重化した送受信などを使用したより高度な光伝送システムを構築することができる。
【0100】
以上の光伝送用途以外にも、照明(導光)やエネルギー伝送,イルミネーション、レンズ、センサ分野にも用いることができる。レンズとしては、例えば、径の中心から外側に向かって次第に屈折率が低くなる凸レンズや、逆に、径の中心から外側に向かって次第に屈折率が高くなる凹レンズにも本発明を適用させることができる。
【0101】
以下、実施例を示し、本発明の効果を具体的に説明する。ただし、本発明に関する実施例は、ここに示す形態に限定されるものではない。また、プリフォームやPOFの製造条件および製造方法などに関しては、実施例1において詳細に説明し、実施例2において、実施例1と同じ場合には説明を省略する。なお、実施例2は、実施例1に対する比較例である。
【実施例1】
【0102】
実施例1では、あらかじめ作製したPOF12の外周に、図3に示す保護層形成設備40により保護層20を設けてコード10を作製した。なお、POF12は、図2に示す構造とした。ただし、樹脂ポット55の部分は、図4に示す被覆装置を使用した。図4に、実施例1で使用した被覆装置の概略図を示す。被覆装置80は、樹脂ポットとして機能するダイヘッド81と定量供給装置82と加圧容器83とを備えている。
【0103】
加圧容器83には、あらかじめ保護層形成樹脂85が充填されたカートリッジ86が所定の位置に設置されている。また、加圧容器83には、空気圧力調整器87が接続されている。そして、保護層形成樹脂85をダイヘッド81に送出す要求に応じて、空気圧力調整器87から圧縮空気が加圧容器54に送られる。これにより、加圧容器83が加圧されて、カートリッジ86内の保護層形成樹脂85が定量供給装置82に送り込まれる。なお、空気圧力調整器87による加圧の程度は、使用する保護層形成樹脂85の粘度または所望の押出量が得られる値となるように適宜調整されればよく、特に限定はされない。
【0104】
定量供給装置82の内部には、モータ88により動きが制御されるスクリュー82aが備えられている。そして、このスクリュー82aを回転させることにより、保護層形成樹脂85は、適宜ダイヘッド81に送り込まれる。このように、ダイヘッド81に送り込む前の保護層形成樹脂85を定量供給装置82で押し出すと、保護層形成樹脂85が安定的に供給でき、保護層の厚みの制御が容易になるので好ましい。
【0105】
ダイヘッド81の内部において、定量供給装置82から供給される保護層形成樹脂85が、搬送されるPOF12の外周に押し出される。以上より、POF12の外周に保護層形成樹脂85が被覆されて被覆済みPOF60となる。なお、ダイヘッド81の形状は、POF12などの被覆対象物の外周に保護層形成樹脂85を略均一に被覆することができるものであればよく、特に限定されない。
【0106】
POF12の作製方法について説明する。アウタークラッド31aは、PVDFを用いて、市販の溶融押出成形により内径18.7mm、長さ90cmの円筒管を作製した。そして、この円筒管の中に、インナークラッド31b用の原料として、蒸留によって水分を100ppm以下に除去したラジカル重合性化合物である重水素化メタクリル酸メチル(MMA−d8)を204.1gと、重合開始剤としてジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(商品名;V−601、和光純薬(株)製)と、連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンとの混合物を、所定温度に調整してから注入した。なお、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)とn−ラウリルメルカプタンとのMMAに対する添加率は、それぞれ0.012モル%と0.2モル%である。
【0107】
インナークラッド用原料が注入された円筒管を、その長手方向が水平となるように回転重合装置(図示しない)内部の重合容器にセットし、これを3000rpmで回転させながら70℃の雰囲気下で22時間加熱させて回転重合を行った。このとき、回転する重合容器の近傍、具体的には1〜2cm離れたところに非接地型熱電対を設け、この熱電対による測定温度を重合反応による反応温度とみなして測定した。そして、この方法により反応温度を測定し、重合反応の発熱による温度ピークを求めたところ、実施例1では、重合開始から約15時間経過後に、60.8℃の発熱ピークが認められた。このようにして、アウタークラッド31aの内側にPMMA−d8からなる円筒状の層を形成させて、この層をインナークラッド31bとした。
【0108】
常温常圧下において、インナークラッド31bの中空部に、コア部30を形成させる材料を注入した。コア部形成材料は、水分を100ppm以下に除去したMMA−d8を81.7gと、重合開始剤としてジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)と、連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンと、ドーパントとして非重合性化合物であるジフェニルスルフィド(DPS)との混合物である。なお、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)と、n−ラウリルメルカプタンと、DPSとのMMAに対する添加率は、それぞれ0.04モル%、0.2モル%、7モル%とした。
【0109】
次に、コア部形成材料が注入されたクラッド部31を、先ほど使用した回転重合装置内の重合容器に、その長手方向が水平となるようにセットした後、回転速度を3000rpmとして回転させながら、70℃の雰囲気下で5時間加熱重合させた。その後、90℃に雰囲気温度を上げて5時間加熱重合させてから、さらに、回転速度を500rpmとして回転を継続し、120℃で24時間、熱処理を行うことによりコア部30を形成させた。なお、コア部30形成後、回転させながら自然冷却を行い、径の外側から中心に向かうにしたがい次第に屈折率が高くなるGI型のプリフォーム11を得た。このプリフォーム11のTgは90℃であった。
【0110】
プリフォーム11を、内部の温度と湿度とを調整することができる乾燥装置内に保管した。実施例1では、内部環境を23℃/5%以下の雰囲気としたデシケータ(図示しない)の内部にプリフォーム11を入れて、1週間静置させた。そして、加熱延伸装置(図示しない)により、このプリフォーム11を加熱しながら延伸させて、外径が320μmのPOF12を製造した。このとき、POF12は、巻取ロールに巻き取ってロール状とした。なお、得られたPOF12の伝送損失は、測定波長650nmにおいて85dB/kmであり、伝送帯域は2.2Gb/s・100mであった。
【0111】
このプリフォーム11を加熱延伸させて形成したPOF12の外周に保護層を形成させてコード10を製造した。保護層形成樹脂85としては、下記の材料を混合させて形成した混合物Aを使用した。このとき、混合物Aの粘度は170Pa・Sであった。
混合物A
・ウレタンポリマー(三洋化成製 サンプレンSEL No.3 NCO(%)=3.6) 38質量部
・ヘキサメチレンジイソシアネート3量体(旭化成ケミカル社製 デュラネート TPA100) 4重量部
・潜在性硬化剤B 6重量部
・縮合リン酸エステル(旭電化社製 アデカスタブ PFR) 30重量部
・ポリリン酸メラミン(三和ケミカル社製 MPP−A) 22重量部
なお、上記潜在性硬化剤Bは、中心粒径0.3μmの二酸化チタン粉体30重量部と中心粒径20μmの1,12ドデカンジアミン(融点71℃)100重両部を混合した後、ジェットミルで粉砕させて、中心粒径約10μmの微粉体コーティングポリアミン130重量部を得たものを使用した。
【0112】
まず、POF送出しリール50にセットしたPOFロールから、連続的にPOF12を送出して、支持ローラ52で支持しながらダイヘッド81に送り込んだ。そして、ダイヘッド81の内部に、保護層形成樹脂85として、上記の混合物Aを送り込んで、被覆外径が1.2mmとなるように被覆した。この被覆時には、あらかじめ、混合物Aを充填させたカートリッジ86を加圧容器83にセットし、空気圧力調整器87により2気圧に加圧し、常時一定となるように圧力を調整しながら、送出し温度を25℃として保護層形成樹脂85をダイヘッド81に送り込んだ。なお、攪拌機82の内部のスクリュー82aの回転数は、保護層形成樹脂85が硬化した後のコード10の外径をレーザー式外径測定機(図示しない)により測定した値が一定となるように制御した。
【0113】
保護層形成樹脂85が被覆された被覆済みPOF60を温浴槽43に送り込み、プーリ62により巻き掛けながら搬送する間に、樹脂を硬化させて保護層20を形成させた。このとき、被覆済みPOF60を温水60に5秒間浸漬するように搬送速度を調整するとともに、温度調整装置63により温水60を循環させながら、その温度が80℃となるように調整した。そして、支持ローラ65で支持されながら、第1水分除去装置70および第2水分除去装置71に送り込まれて十分にコード10の外周に付着している水分が除去された後、コード10を巻取りロール76で巻き取った。温浴槽43から下流へコード10を搬送する際の張力は、コード10の断裂や変形が生じないように引取りローラ44により調整し、引取りローラ44によるコード10の引取り速度は15m/分とした。このコード10の伝送損失は85dB/kmであり、伝送帯域は2.2Gb/s・100mであった。また、製造したコード10の難燃性を、ULにより規格されている試験のうち、UL−1581準拠での燃焼性試験を行ったところ、優れた難燃性を示すVW−1を達成した。なお、保護層形成設備40の消費電力を測定したところ、1.8kWhであった。
【実施例2】
【0114】
実施例1で作製したPOFの外周に、図5に示す保護層形成設備90により保護層形成樹脂を被覆してコード110を作製した。実施例2では、保護層形成樹脂として、熱可塑性樹脂であるポリ塩化ビニル樹脂(PVC)(APCO製 F1688−2BK)を用いる従来技術であり、実施例1の比較例に相当するものである。そして、図5の保護層形成設備90は、一般的に電線や石英系光ファイバ素線などの被覆時に使用されている従来の代表的な設備である。この保護層形成設備90は、送出装置91と粉塵除去装置92と加熱溶融させるための送出装置101とを有する被覆装置93と被覆済みPOF105を冷却する第1冷却装置94と第2冷却装置95と水分除去装置96と引取装置97と巻取装置98とを有する。
【0115】
送出装置91には、張力制御手段が備えられており、所定の位置に取り付けられたPOFロール91aから張力を調整しながらPOF100を粉塵除去装置92へと送り出す。そして、POF100は粉塵除去装置92の内部を搬送される間に、風が吹き付けられることにより外周に付着していた粉塵などが除去される。
【0116】
被覆装置93の内部には、保護層形成樹脂が貯蔵されており、適宜適量を溶融してから送出す送出装置101とダイヘッド102とが配されている。そして、所望の張力が付与されてPOF100が搬送される間に、ダイヘッド102において送出装置101から供給された保護層形成樹脂がその外周に被覆される。このとき、POF100に付与される張力は、断裂や変形を生じさせないようにするために、できる限り小さい値であることが好ましく、700N/cm2 以下であることが好ましいが、この値に限定されるものではない。
【0117】
被覆済みPOF105は、第1冷却水槽94に送られた後、第2冷却水槽95に送られる。第1冷却水槽94および第2冷却水槽95は、ともに、所望の水温に調整された水槽を有しており、これらの水槽の内部に被覆済みPOF105が搬送時に浸漬されることにより、保護層形成樹脂が冷却固化されて保護層が形成される。なお、冷却する装置として水槽を使用した形態を示したが、特に限定されるものではなく、例えば、送風機により被覆済みコード105に直接冷却風を吹き付けてもよい。
【0118】
冷却後、コード110は水分除去装置96の内部を搬送される間に、送風されることによりその外周に付着している水分が払拭される。次に、引取装置97の内部に配されている引取ローラ97aで搬送された後に、巻取装置98内の巻取ロール98aで巻き取られる。また、引取装置97と巻取装置98との間には、外観検査装置120と外径測定装置121と張力計122とが備えられている。そして、外観検査装置120により、コード110の表面に付着している異物(例えば、保護層形成樹脂の凝集による瘤)などの有無を観察するとともに、外径測定装置121により、コード10の径が所望の値となっているかどうかを判断することにより、規格外製品であるか否かの判断を行うことができる。なお、張力計122により逐次張力を観察し、調整しながら作業を行うと、POF100やコード110の切断や変形を抑制しながら保護層形成に関わる作業を行うことができるので好ましい。
【0119】
実施例2では、まず、送出装置91内部の所定の位置にセットしたPOFロール91aからPOF100を粉塵除去装置92へと逐次送出し、POF100の外周に付着している粉塵などの異物を除去した。そして、被覆装置93に送り込み、POF100が所定の位置に搬送された時点で、送出装置101からダイヘッド102に所望の量のPVC(APCO製 F1688−2BK)を送り込み、POF100の外周を被覆した。このとき、PVCを送出す際の温度を約170℃とし、搬送速度を15m/分となるように調整しながら被覆処理を行った。なお、今回使用したPVCは95℃で軟化し始めるものである。
【0120】
次に、被覆済みPOF105を冷却水の温度がともに約10℃となるように調整した第1冷却装置94と第2冷却装置95とを用いて、この内部を搬送する間にPVCを冷却させて固化させた保護層を設けたコード110を作製した。実施例2では、保護層形成樹脂の被覆処理を行うことはできたが、得られたコード110の伝送損失は900dB/km以上であり、コード110を径方向に切断し、その断面を観察したところ、POF100とPVC保護層との間で融着が見られた。また、実施例1と同じ方法により製造したコード110の難燃性試験を行った結果、VW−1を達成した。なお、実施例2での保護層形成設備90の消費電力は、20.7kWhであった。
【実施例3】
【0121】
実施例3は、実施例1の比較例に相当するものであり、実施例2と同様の材料および条件により、POF12の外周に図5の保護層形成設備90を用いて保護層を形成させた。ただし、被覆装置93では、送出装置101から送出すPVCの溶融温度を145℃とした。すると、被覆時において搬送されるPOF12への負荷圧力が10MPaを超えてしまい、ダイヘッド102の内部でPOF12が切断してしまった。
【実施例4】
【0122】
実施例4は、実施例1の比較例に相当するものであり、実施例2と同様の材料および条件により、POF12の外周に図5の保護層形成設備90を用いて保護層を形成させた。ただし、低密度ポリエチレン(LDPE)を含む下記の材料を混合させて調製した混合物Bを保護層形成樹脂として使用した。なお、送出装置101からの樹脂の押出温度は125℃とし、POF12の搬送速度を18m/分とする以外は、実施例2と全て同じ条件とした。
混合物B
・LDPE(JPO社製 JAC06A) 25重量部
・リン酸系難燃剤(アデカ製 FP2000) 25重量部
・リン酸メラミン 40重量部
・HALS(チバガイギー製 NOR116F) 10重量部
その結果、得られたコード110の伝送損失は125dB/km以上であった。また、実施例1と同じ方法により製造したコード110の難燃性試験を行った結果、UL−1581準拠のVW−1試験には不合格であった。なお、実施例4での保護層形成設備90の消費電力は、20.3kWhであった。
【0123】
実施例1〜4の結果から、本発明を適用した実施例1は、比較例である実施例2〜4と比較して、POF12が途中で切断したり、POF12の変形や劣化が生じたりすることなしに、優れた生産性を図りながら、その外周に保護層20を形成させてコード10を製造することができることが分かる。また、比較的低温(60℃以上)で反応を起こす1液タイプの反応硬化性の液状樹脂を保護層形成樹脂として使用し、この樹脂の中に難燃性を有しながらも環境や人体への悪影響を与える危険の小さい添加剤を含有させて、特定粘度範囲の保護層を形成させることにより、室温などの常温で被覆作業を行うことができ、かつ一度の被覆作業でも所望の保護層を設けることができることを確認した。したがって、本発明によると、優れた難燃性を有するにも関わらず、細径のコードを得ることができることが分かった。
【0124】
消費電力は、樹脂を熱溶融する押出装置を備える被覆装置を使用した実施例2〜4に対して、室温に調整した樹脂ポット(または常温で押出すダイヘッド)のものを使用した実施例1の場合では、約1/11にまで低減されることが分かる。この原因として、実施例1では、所定の粘度範囲である保護層形成樹脂55aを使用したので、従来の被覆方式に比べて、樹脂を加熱・溶融および冷却するためのエネルギーコストの低減化が図れる。なお、実施例1では、1液タイプの反応硬化性の液状樹脂を使用するので、優れたポットライフにより、作業時間が経過しても被覆膜厚の制御が行いやすい。また、上記以外の効果として、実施例1では、装置の簡略化による装置コストの低減や、装置の小型化が期待できる。
【0125】
以上より、本発明をPOFの製造方法に適用すると、POFの外周に保護層を形成させる際に、POFが途中で切断したり、POFの変形や劣化が生じたりすることなく作業を行うことができる。これにより、難燃性に優れる保護層の特性が十分に付与されたプラスチック光ファイバコードを、時間の経過に関わらず被覆膜厚を制御しながら、優れた生産性により製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明を利用したプラスチック光ファイバコードの製造工程図である。
【図2】本発明のプラスチック光ファイバコードの径方向での断面図である。
【図3】本発明で使用する保護層形成設備の概略図である。
【図4】被覆装置の別形態の概略図である。
【図5】従来の保護層形成設備の別形態の概略図である。
【符号の説明】
【0127】
10 プラスチック光ファイバコード
11 プリフォーム
12 プラスチック光ファイバ素線(POF)
17 保護層形成工程
18 第1被覆工程
19 硬化工程
20 保護層
30 コア部
31 クラッド部
55a 保護層形成樹脂


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーよりなる光導波路の外周に保護層を設けたプラスチック光学材料の製造方法において、
粘度が10〜200(Pa・S)の1液タイプの反応硬化性の保護層形成樹脂の中に前記光導波路を通過させて、前記光導波路の外周に前記保護層形成樹脂を被覆する被覆工程と、
前記被覆工程で被覆された前記保護層形成樹脂を、前記ポリマーのガラス転移温度Tg(℃)以下の温度で硬化させる硬化工程とを有することを特徴とするプラスチック光学材料の製造方法。
【請求項2】
前記保護層形成樹脂は、ポリイソシアネート化合物、不活性化した固形ポリアミンの潜在性硬化剤および難燃剤が含まれていることを特徴とする請求項1記載のプラスチック光学材料の製造方法。
【請求項3】
前記難燃剤は、リン酸エステルおよび窒素化合物の塩が含まれていることを特徴とする請求項2記載のプラスチック光学材料の製造方法。
【請求項4】
前記難燃剤は、前記保護層形成樹脂中に20〜70重量%の割合で配合されていることを特徴とする請求項1または2記載のプラスチック光学材料の製造方法。
【請求項5】
前記難燃剤中の前記リン酸エステルの配合量Xと前記窒素化合物の塩の配合量Yとの配合割合X/Yが、5/5〜7/3であることを特徴とする請求項3記載のプラスチック光学材料の製造方法。
【請求項6】
前記保護層は、塩素化合物、臭素化合物、アンチモン化合物、カドミウム化合物、鉛化合物、クロム化合物、亜鉛化合物のいずれかを含まないことを特徴とする請求項1または2記載のプラスチック光学材料の製造方法。
【請求項7】
前記光導波路が、複数のポリマーにより形成され、各々のポリマーに対応するガラス転移温度を有する場合には、この複数のガラス転移温度のうち、もっとも低いガラス転移温度を、前記Tgとすることを特徴とする請求項1ないし6いずれかひとつ記載のプラスチック光学材料の製造方法。
【請求項8】
前記保護層形成材料の硬化に要する時間T1が、10分以下であることを特徴とする請求項1ないし7いずれかひとつ記載のプラスチック光学材料の製造方法。
【請求項9】
前記ポリマーよりなる光導波路はプラスチック光ファイバであり、前記プラスチック光ファイバの前記保護層を含む外径が、1.5mm以下であることを特徴とする請求項1ないし8いずれかひとつ記載のプラスチック光学材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−86249(P2007−86249A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−273146(P2005−273146)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(305032254)サンスター技研株式会社 (97)
【Fターム(参考)】