説明

プラスチック成形金型用鋼およびプラスチック成形金型

【課題】耐食性、熱伝導性を有しつつ、磨き仕上げ時のうねりを抑制可能なプラスチック成型金型用鋼を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.09%〜0.13%、Si:0.10%〜0.40%、Mn:0.30%〜0.80%、P:0.030%以下、Cu:0.80%〜1.20%、Ni:2.50%〜3.50%、Cr:2.0%〜3.0%未満、Mo:0.10%〜0.40%、V:0.01%〜0.10%、N:0.0200%以下、O:0.0100%以下、および、Al:0.50%〜1.50%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、かつ、3.4≦10×C+Mn+Cr≦4.8を満たす鋼とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形金型用鋼およびプラスチック成形金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において、プラスチック成形品が使用されている。一般に、プラスチック成形品は、例えば、射出成形金型、プレス成形金型等のプラスチック成形金型を用いて、所望形状に成形される。
【0003】
従来、プラスチック成形金型用の鋼種としては、析出硬化系、SUS系等の鋼種が知られている。
【0004】
また、特許文献1には、重量%で、C:0.05〜0.3%、Si:0.1〜2%、Mn:0.2〜3%、Cu:0.5〜3%、Ni:2.5〜5%、Cr:0.05〜3%、Mo:0.01〜3%、Al:0.5〜2%、N:0.015%以下、O:0.01%以下を含有し、残部Feおよび不可避不純物からなり、かつ、JIS G 0551にて規定される結晶粒度番号が7以上で、硬さが37〜45HRCであるプラスチック成形金型用鋼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−82813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、プラスチック成形金型は、その製造過程で行われる磨き仕上げ時に、うねりと呼ばれる不良が発生する場合がある。プラスチック成形金型に上記うねりが発生すると、そのうねりが成形体に転写される。転写されたうねりは、光のコントラストを変化させるため、プラスチック成形の表面品質を損なうといった問題に繋がる。
【0007】
特に近年では、プラスチック成形品の低コスト化の観点から、成形品表面への塗装を行うことなく、表面品質を確保したいといったニーズが多くなっている。それ故、これからのプラスチック成形金型用鋼には、磨き仕上げに対する高いうねり抑制効果が要求されることになる。
【0008】
また、プラスチック成形金型の製造時には、切削加工等で使用される潤滑油や作業者の手脂等が付着しやすい。そのため、プラスチック成形金型用鋼には、金型製造に支障のない程度で錆を防止しうる耐食性が要求される。
【0009】
さらに、成形樹脂の冷却時間を短くし、生産性を向上させる等の目的で、金型が冷却される機会も多くなっている。そのため、プラスチック成形金型用鋼には、良好な熱伝導性が要求される。
【0010】
このように、今後、プラスチック成型金型用鋼には、耐食性、熱伝導性を有しつつ、磨き仕上げ時のうねりを抑制できることが要求されるが、全ての要求を十分に満たす鋼種が存在しないのが現状であった。
【0011】
そこで本発明が解決しようとする課題は、耐食性、熱伝導性を有しつつ、磨き仕上げ時のうねりを抑制可能なプラスチック成型金型用鋼を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明に係るプラスチック成形金型用鋼は、質量%で、C:0.09%〜0.13%、Si:0.10%〜0.40%、Mn:0.30%〜0.80%、P:0.030%以下、Cu:0.80%〜1.20%、Ni:2.50%〜3.50%、Cr:2.0%〜3.0%未満、Mo:0.10%〜0.40%、V:0.01%〜0.10%、N:0.0200%以下、O:0.0100%以下、および、Al:0.50%〜1.50%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、かつ、3.4≦10×C+Mn+Cr≦4.8を満たすことを要旨とする。
【0013】
ここで、上記プラスチック成形金型用鋼は、質量%で、S:0.001%〜0.20%、Se:0.001%〜0.3%、Te:0.001%〜0.3%、Ca:0.0002%〜0.10%、Pb:0.001%〜0.20%、および、Bi:0.001%〜0.30%から選択される1種または2種以上をさらに含有していても良い。
【0014】
また、上記プラスチック成形金型用鋼は、質量%で、Nb:0.001%〜0.30%、Ta:0.001%〜0.30%、Ti:0.20%以下、および、Zr:0.001%〜0.30%から選択される1種または2種以上をさらに含有していても良い。
【0015】
本発明に係るプラスチック成形金型は、上記プラスチック成形金型用鋼を材料として用いていることを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るプラスチック成形金型用鋼は、上記化学組成および3.4≦10×C+Mn+Cr≦4.8の条件を採用したことにより、耐食性、熱伝導性を有しつつ、磨き仕上げ時のうねりを抑制することが可能になる。
【0017】
ここで、上記特定量のS、Se、Te、Ca、Pb、および、Biから選択される1種または2種以上をさらに含有する場合には、靱性の低下を抑制しつつ、被削性を向上させることができる。そのため、金型製造時の加工性に優れる。
【0018】
また、上記特定量のNb、Ta、Ti、および、Zrから選択される1種または2種以上をさらに含有する場合には、CやNと結合して炭窒化物を形成しやすくなり、結晶粒の粗大化が抑制される。また、被削性の劣化も生じ難い。そのため、金型製造時の鏡面性、加工性に優れる。
【0019】
本発明に係るプラスチック成形金型は、上述したプラスチック成形金型用鋼を材料として用いている。そのため、うねりがほとんど転写されず、表面品質に優れたプラスチック成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】開発鋼1のうねり評価結果(うねりなし)を示した写真である。
【図2】比較鋼7のうねり評価結果(軽微なうねりあり)を示した写真である。
【図3】比較鋼11のうねり評価結果(重大なうねりあり)を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態に係るプラスチック成形金型用鋼(以下、「本金型用鋼」ということがある。)、プラスチック成形金型(以下、「本金型」ということがある。)について詳細に説明する。
【0022】
1.本金型用鋼
本金型用鋼は、以下のような元素を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる。その添加元素の種類、成分割合および限定理由などは、以下の通りである。なお、成分割合の単位は、質量%である。
【0023】
・C:0.09%〜0.13%
Cは、強度、耐摩耗性を確保するのに必要な元素である。Cは、Cr、Mo、W、V、Nb等の炭化物形成元素と結合して炭化物を形成する。Cは、焼入れ時に母相中に固溶し、マルテンサイト組織化することによって硬度を確保するためにも必要である。その効果を得るため、C含有量の下限を0.09%以上とする。
【0024】
C含有量が過剰になると、上記炭化物形成元素とCとが結合してCrやMoを含む炭化物を形成し、母相中のCr、Moの固溶量を低下させ、耐食性が低下する。そのため、C含有量の上限を0.13%以下とする。
【0025】
・Si:0.10%〜0.40%
Siは、主に脱酸剤、または、金型製造時の被削性を向上させる元素として添加される。その効果を得るため、Si含有量の下限を0.10%以上とする。
【0026】
Si含有量が過剰になると、熱伝導性が低下する。これを防止する観点から、Si含有量の上限を0.40%以下とする。Si含有量の上限は、さらに熱伝導率を向上させる等の観点から、好ましくは、0.30%以下、より好ましくは、0.20%以下であると良い。
【0027】
・Mn:0.30%〜0.80%
Mnは、焼入れ性の向上、オーステナイトの安定化のために添加される。とりわけ、焼入れ性が低下すると、ミクロレベルでの硬度バラツキが大きくなり、うねりが発生しやすくなる。うねり抑制効果を得るため、Mn含有量の下限を0.30%以上とする。
【0028】
Mn含有量が過剰になると、偏析による硬度バラツキが大きくなり、うねりが発生しやすくなる。うねり抑制効果を得るため、Mn含有量の上限を0.80%以下とする。Mn含有量の上限は、真空溶解での歩留まりを向上させる等の観点から、好ましくは、0.60%以下であると良い。
【0029】
・P:0.030%以下
Pは、鋼中に不可避的に含まれる。Pは、結晶粒界に偏析し、靱性を低下させる原因となる。そのため、P含有量の上限は、0.030%以下とする。
【0030】
・Cu:0.80%〜1.20%
Cuは、析出硬化により硬度を上昇させる元素である。その効果を得るため、Cu含有量の下限を0.80%以上とする。
【0031】
Cu含有量が過剰になると、熱間加工性が低下する。これを防止する観点から、Cu含有量の上限を1.20%以下とする。
【0032】
・Ni:2.50%〜3.50%
Niは、Alと結合し、析出硬化によって硬度を上昇させる元素である。その効果を得るため、Ni含有量の下限を2.50%以上とする。Ni含有量の下限は、Cuの再融反応の防止等の観点から、好ましくは、2.70%以上であると良い。
【0033】
Ni含有量が過剰になると、オーステナイト相が安定化し、残留γ量が増加して、硬度の低下、経年での寸法変化等を引き起こす。これを防止する観点から、Ni含有量の上限を3.50%以下とする。
【0034】
・Cr:2.0%〜3.0%未満
Crは、耐食性を向上させる元素である。その効果を得るため、Cr含有量の下限を2.0%以上とする。
【0035】
Cr含有量が過剰になると、熱伝導性が低下する。これを防止する観点から、Cr含有量の上限を3.0%未満とする。
【0036】
・Mo:0.10%〜0.40%
Moは、耐食性を向上させる元素である。また、Cと結合することで材料の2次硬化に寄与する。その効果を得るため、Mo含有量の下限を0.10%以上とする。
【0037】
Mo含有量が過剰になると、軟化抵抗性が高くなり、硬度の調節が困難となる。また、鋼材コストの上昇を招く。これを防止する観点から、Mo含有量の上限を0.40%以下とする。
【0038】
・V:0.01%〜0.10%
Vは、Cと結合して炭化物を形成する。この炭化物は、結晶粒径の粗大化抑制に寄与する。その効果を得るため、V含有量の下限を0.01%とする。
【0039】
V含有量が過剰になると、V炭化物が晶出し、成長するため、炭化物粒径が大きくなって鏡面性が低下する。これを防止する観点から、V含有量の上限を0.10%以下とする。
【0040】
・N:0.0200%以下
Nは、Alと結合してAlNを形成し、鏡面性を低下させる。これを防止する観点から、N含有量の上限を0.0200%以下とする。
【0041】
・O:0.0100%以下
Oは、溶鋼中に不可避的に含まれる元素である。但し、Oが過剰になると、Si、Alと結合して粗大な酸化物を生じ、これが介在物となって、靱性、鏡面性を低下させる。これを防止する観点から、O含有量の上限を0.0100%以下とする。
【0042】
・Al:0.50%〜1.50%
Alは、Niと結合し、析出硬化によって硬度を上昇させる元素である。その効果を得るため、Al含有量の下限を0.50%とする。
【0043】
Al含有量が過剰になると、耐衝撃性が低下し、金型の割れが発生しやすくなる。これを防止する観点から、Al含有量の上限を1.50%以下とする。
【0044】
本金型用鋼は、上述した必須元素に加えて、さらに、以下の元素から選択される1種または2種以上の元素を任意に含有していても良い。各元素の成分割合、限定理由などは、次の通りである。
【0045】
・S:0.001%〜0.20%、Se:0.001%〜0.3%、Te:0.001%〜0.3%、Ca:0.0002%〜0.10%、Pb:0.001%〜0.20%、Bi:0.001%〜0.30%
S、Se、Te、Ca、Pb、Biは、いずれも被削性を向上させるために添加することができる。その効果を得るため、S含有量の下限を、0.001%以上とする。同様に、Se含有量の下限を、0.001%以上とする。Te含有量の下限を、0.001%以上とする。Ca含有量の下限を、0.0002%以上とする。Pb含有量の下限を、0.001%以上とする。Bi含有量の下限を、0.001%以上とする。
【0046】
S、Se、Te、Ca、Pb、Biの各含有量が過剰になると、靱性の低下を招く。これを防止する観点から、S含有量の上限を、0.20%以下とする。同様に、Se含有量の上限を、0.3%以下とする。Te含有量の上限を、0.3%以下とする。Ca含有量の上限を、0.10%以下とする。Pb含有量の上限を、0.20%以下とする。Bi含有量の上限を、0.30%以下とする。
【0047】
・Nb:0.001%〜0.30%、Ta:0.001%〜0.30%、Ti:0.20%以下、Zr:0.001%〜0.30%
Nb、Ta、Ti、Zrは、C、Nと結合して炭窒化物を形成し、結晶粒の粗大化を抑制して鏡面性を向上させるのに有効な元素である。その効果を得るため、Nb含有量の下限を、0.001%以上とする。同様に、Ta含有量の下限を、0.001%以上とする。Zr含有量の下限を、0.001%以上とする。なお、Ti含有量の下限は特に限定されない。
【0048】
Nb、Ta、Ti、Zrの各含有量が過剰になると、被削性の劣化を招く。これを防止する観点から、Nb含有量の上限を、0.30%以下とする。同様に、Ta含有量の上限を、0.30%以下とする。Ti含有量の上限を、0.20%以下とする。Zr含有量の上限を、0.30%以下とする。
【0049】
また、本金型用鋼は、3.4≦10×C+Mn+Cr≦4.8の条件を満足している必要がある。上記条件式は、各元素の添加量に対するCCTにおけるBs温度(ベイナイト変態開始温度)の変化量から算出することができ、これを満足することは、溶体化の冷却速度によるBs温度の変化が少なくなり、ベイナイトラスサイズが安定化・均一化(組織が均一化)することから、うねりの抑制効果が得られる等の技術的意義がある。
【0050】
また、本金型用鋼は、熱処理状態にもよるが、最終的に金型として使用する際に、その硬さが、好ましくは、37〜42HRCの範囲内となることが好ましい。
【0051】
上述した本金型用鋼は、例えば、以下のようにして好適に製造することができる。すなわち、先ず、上述した化学組成を有する鋼を真空誘導炉等にて溶製後、インゴットを鋳造する。
【0052】
次いで、得られたインゴットを、熱間鍛造および/または熱間圧延して必要な寸法の鋼材に調整する。
【0053】
次いで、上記熱間加工後、必要に応じて、1種または2種以上の熱処理を行う。熱処理の種類としては、溶体化処理、時効硬化処理などを例示することができる。
【0054】
具体的には、例えば、850〜950℃で1〜10時間加熱後、急冷して溶体化し、その後、必要に応じて、例えば、500〜600℃で5〜10時間加熱後、空冷して時効硬化をする方法などを例示することができる。
【0055】
2.本金型
本金型は、上述した本金型用鋼を材料として用いている。
【0056】
本金型は、成形品の表面品質を一層向上させる等の観点から、加工硬化等の影響を受けていない型母材を露出させ、当該部位をダイヤモンド砥粒により#8000まで研磨した後、微分干渉顕微鏡を用いて、当該研磨面を50倍の倍率で100視野撮影し、うねりの発生している視野数が100視野中5視野以下であることが好ましい。
【0057】
また、本金型は、鏡面磨き性と加工性の両立等の観点から、その硬さが、好ましくは、37〜42HRCの範囲内にあることが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。
表1に示す化学組成(質量%)の鋼を真空誘導炉で溶製した後、50kgのインゴットを鋳造した。
【0059】
鋳造後のインゴットを熱間鍛造し、60mm角の棒材を製造した。その後、40HRC程度の硬さとなるように当該棒材を熱処理した。具体的には、850℃〜950℃で1〜10時間加熱後、急冷して溶体化し、その後、500℃〜600℃で5〜10時間加熱後、空冷して時効硬化し、上記の硬さを得た。
【0060】
次いで、上記熱処理後の棒材から各種試験片を切り出し、以下の耐食性、熱伝導性、うねり、硬度、鏡面性の試験を行った。なお、硬度、鏡面性の結果は参考データである。
【0061】
<耐食性>
上記熱処理後の棒材から直径10mm、長さ50mmの丸棒試験片を作製し、当該試験片について、屋根があって雨は当たらないが外気(約10〜15℃)に触れる環境下に3日間置く暴露試験を行い、試験片表面に占める錆の面積率を測定した。
【0062】
<熱伝導性>
以下のレーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定した。なお、後述する表2の各熱伝導率の値は、比較鋼3の熱伝導率の実測値を100としたときの値である。
【0063】
レーザーフラッシュ法により、熱伝導率λは、試料の比熱Cp・熱拡散率αを測定し、別に求めた密度ρを用いて以下の通り算出できる。すなわち、試料(試料重量:M、試料の厚さ:L)の表面にレーザー光を照射して熱エネルギーQを与え、その時の試料の裏面の温度変化ΔTを熱電対により測定する。試料の比熱Cpは、Cp=Q/(M×ΔT)[J/(kg・K)]より算出する。また、試料表面側に設置した赤外線検出器により、試料の温度変化の最大値の半分に達する時間(t1/2)を測定する。試料の熱拡散率αは、α=0.1388×L/(t1/2)[m/s]より算出する。これにより、試料の熱伝導率λは、λ=Cp×α×ρ[W/(m・K)]より算出することができる。
【0064】
<うねり>
上記熱処理後の棒材から50mm×45mm×12mmの板状試験片を作製し、当該試験片をダイヤモンド砥粒により#8000まで研磨した。そして、微分干渉の機能がついた顕微鏡((株)ニコン製、「LV150」)を用いて、上記研磨面を50倍の倍率で100視野撮影し、うねりの発生している視野数を求めた。
【0065】
<硬さ>
上記熱処理後の棒材から1辺10mmの立方体試験片を切り出し、当該試験片について、測定面と接地面を#400まで研磨した後、ロックウェルCスケールにより硬さを測定した。
【0066】
<鏡面性>
上記熱処理後の棒材から50mm×45mm×12mmの板状試験片を作製し、当該試験片を機械研磨により#8000まで研磨した。そして、当該試験片の研磨面について、JIS B0633に準拠して表面粗さRyを測定した。
【0067】
表1に、開発鋼、比較鋼の化学組成を示す。表2に、各種試験結果を示す。図1に、開発鋼1のうねり評価結果(うねりなし)を示す。図2に、比較鋼7のうねり評価結果(軽微なうねりあり)を示す。図3に、比較鋼11のうねり評価結果(重大なうねりあり)を示す。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
表1、表2、図1〜図3を比較すると、以下のことが分かる。すなわち、比較鋼1、比較例9は、Mnの含有量が本発明の規定範囲の上限を上回っている。比較例1は、加えて、Crの含有量が本発明の規定範囲の下限を下回っている。そのため、これらは特にうねりが発生しやすい。
【0071】
比較鋼2、比較例10は、Mnの含有量が本発明の規定範囲の下限を下回っている。そのため、これらは特にうねりが発生しやすい。
【0072】
比較鋼3は、Crの含有量が本発明の規定範囲の上限を上回っている。そのため、熱伝導性に劣る。また、本発明の式3.4≦10×C+Mn+Cr≦4.8を満足しないため、うねりも発生しやすい。
【0073】
比較鋼4は、Crの含有量が本発明の規定範囲の下限を下回っている。そのため、耐食性に劣る。また、本発明の式3.4≦10×C+Mn+Cr≦4.8を満足しないため、うねりも発生しやすい。
【0074】
比較鋼5は、Cuの含有量が本発明の規定範囲の下限を下回っている。そのため、硬度が低く、金型への適用に不利である。また、本発明の式3.4≦10×C+Mn+Cr≦4.8を満足しないため、うねりも発生しやすい。
【0075】
比較鋼6は、Niの含有量が本発明の規定範囲の下限を下回っている。そのため、硬度が低く、金型への適用に不利である。本発明の式3.4≦10×C+Mn+Cr≦4.8を満足しないため、うねりも発生しやすい。
【0076】
比較例7、8は、本発明の式3.4≦10×C+Mn+Cr≦4.8を満足しないため、うねりが発生しやすい。
【0077】
比較例11、12は、本発明の式3.4≦10×C+Mn+Cr≦4.8を満足しないうえ、さらにMnの含有量が本発明の規定範囲内にない。そのため、極めてうねりが発生しやすい。
【0078】
これら比較鋼に対し、開発鋼は、何れも、耐食性、熱伝導性を有しつつ、うねりを抑制できていることが分かる。
【0079】
上記結果から、これら開発鋼をプラスチック成形用金型の材料として用いれば、うねりがほとんど転写されず、表面品質に優れたプラスチック成形品を得ることができることが確認できた。
【0080】
以上、本発明の実施形態、実施例について説明した。本発明は、これらの実施形態、実施例に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C :0.09%〜0.13%、
Si:0.10%〜0.40%、
Mn:0.30%〜0.80%、
P :0.030%以下、
Cu:0.80%〜1.20%、
Ni:2.50%〜3.50%、
Cr:2.0%〜3.0%未満、
Mo:0.10%〜0.40%、
V :0.01%〜0.10%、
N :0.0200%以下、
O :0.0100%以下、および、
Al:0.50%〜1.50%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなり、かつ、
3.4≦10×C+Mn+Cr≦4.8を満たすことを特徴とするプラスチック成形金型用鋼。
【請求項2】
質量%で、
S :0.001%〜0.20%、
Se:0.001%〜0.3%、
Te:0.001%〜0.3%、
Ca:0.0002%〜0.10%、
Pb:0.001%〜0.20%、および、
Bi:0.001%〜0.30%から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のプラスチック成形金型用鋼。
【請求項3】
質量%で、
Nb:0.001%〜0.30%、
Ta:0.001%〜0.30%、
Ti:0.20%以下、および、
Zr:0.001%〜0.30%から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のプラスチック成形金型用鋼。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のプラスチック成形金型用鋼を材料として用いたプラスチック成形金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−242147(P2010−242147A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90916(P2009−90916)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】