プラスチック眼鏡レンズ及びその製造方法並びにマーキング方法及びマーキング装置
【課題】 視界を妨げにくい位置で、かつ、カットされたときに取り除かれない位置に反射防止膜などの薄膜を損傷させずに視認性の良好なマークを形成する。
【解決手段】 レンズ基材3表面にハードコート膜4及び反射防止膜5を有するプラスチック眼鏡レンズであって、視界の妨げにならない位置に外部から良好に視認可能なマークを設ける。この可視マークは、このマークを構成する部分について、ハードコート膜4が除去され、かつ、レンズ基材3の一部が表面から内部に向けて微小量だけ除去されて凹状部6に形成されているとともに、ハードコート膜4の凹状部6に望む断面並びにレンズ基材3の凹状部6の表面に反射防止膜5が形成されている。
【解決手段】 レンズ基材3表面にハードコート膜4及び反射防止膜5を有するプラスチック眼鏡レンズであって、視界の妨げにならない位置に外部から良好に視認可能なマークを設ける。この可視マークは、このマークを構成する部分について、ハードコート膜4が除去され、かつ、レンズ基材3の一部が表面から内部に向けて微小量だけ除去されて凹状部6に形成されているとともに、ハードコート膜4の凹状部6に望む断面並びにレンズ基材3の凹状部6の表面に反射防止膜5が形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から良好に視認可能なマークが付されたプラスチック眼鏡レンズ及びその製造方法並びにマーキング方法及びマーキング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡用プラスチックレンズには、自社商品と他社商品との識別のために、あるいは、型番、規格、特定位置の指示等のそのレンズに係る情報を表示するために、所望のマークを付与することが行われている。眼鏡用レンズにマークを付与する場合には、その商品の性質上、マークができるだけ目立たないことが要求される。そのため、通常は肉眼で認識することが難しく、必要に応じて、例えば特定の角度から観察することによって、認識することが可能な、いわゆる隠しマークの付与がなされることが多い。
【0003】
このようなマークをレンズに施す方法としては、ダイヤモンド等の硬質材料からなる針により彫刻する方法や、レーザによりマーキングする方法、レンズ成形時に成形型に形成された凹凸を転写する方法などがある。レーザマーキング方法は、プラスチックレンズにレーザ光を照射してマークを付すものである。この方法は、操作が容易で、自動化も容易であることから近年用いられるようになった。
【0004】
ところで、通常、眼鏡用プラスチックレンズの表面には反射防止膜等の薄膜がコーティングされる。したがって、反射防止膜形成後に上記針やレーザでマーキングすると、反射防止膜が損傷され、このマーク部分から薄膜が剥離してしまう虞がある。また、マーキングにより薄膜が損傷した部分は水分などが浸透しやすくなりレンズを劣化させるおそれもある。
【0005】
一方、前記成形型によってマークを転写する場合のようにレンズ成形時にレンズ基材自体に凹凸部を施す場合は、レンズカット形状が決まる前にマーキングすることになるので、レンズカット形状内の所定の位置にマークを設けることができない。
【0006】
このため、レンズ表面の反射防止膜などの薄膜を損傷させずにレーザマーキングする方法がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、眼鏡レンズの内部にレーザ光を集束させて、眼鏡レンズの内部にマークを付与するレーザマーキング方法が示されている。また、特許文献2には、眼鏡レンズのレンズ基材の表面近傍にレーザ光を集束させて、眼鏡レンズの内部にマークを付与するマーキング方法が示されている。
【0007】
また、上記隠しマークのように目立たないようにマークを形成するのではなく、装飾、ブランド表示、イニシャルなどの各種情報表示などの目的で、外部の人から視認できるマークや装飾をレンズに施したものも提案されている(特許文献3〜5参照)。すなわち、特許文献3には、レンズの縁側に寄った部位の表面に溝を切り込んで模様を形成したものが示されている。また、特許文献4には、成形加工によりホログラムを形成し、眼鏡装用者からは半透明で、外部からは視認できる模様を形成したものが示されている。さらに、特許文献5には、レンズ面上に印刷により絵柄を設け、その表面に透明な樹脂層を形成したレンズが示されている。
【特許文献1】特許第2810151号公報
【特許文献2】特許第3081395号公報
【特許文献3】実開昭55−47016号公報
【特許文献4】実開昭61−190523号公報
【特許文献5】特公昭59−17801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
眼鏡用プラスチックレンズに外部からの視認性が良好なマーク(以下可視マークとも記す)を形成する場合、従来の隠しマークを形成する方法では反射防止膜などの薄膜に損傷を与えずに十分な視認性を得ることが困難であった。すなわち、従来の針やレーザで刻印する方法で視認性をあげるには、溝をより深く形成する必要があるため、反射防止膜などの各種薄膜の損傷の度合いがより大きくなり膜剥がれがより生じやすくなる。
【0009】
また、上述のように、レンズ内部又はレンズ基材の表面近傍にレーザを集束させて照射する場合は、レーザ光の出射エネルギー量や収束点の調整を厳密に行わなければならない上、視認性を良好にするにはレーザの出力や照射時間をより大きくしなければならないため、反射防止膜や基材への影響が出ないように可視マークを形成することは困難である。また、視認性が良好なマークを眼鏡用プラスチックレンズに形成する場合、マークが眼鏡装用者の視界に入ると眼鏡機能上支障が生じる場合がある。また、従来の隠しマークのように受注前にレンズにマークを施す場合、受注後レンズをカットしたときにマーク部分が削り取られてしまう虞がある。また、レンズ基材に凹部を設けた後にハードコート膜を形成し、その上に反射防止膜を蒸着する方法も考えられるが、ハードコート膜の原料液が凹部に入り込んで硬化するため、マークが不鮮明になってしまう場合がある。また反射防止膜を蒸着する際にはレンズを加熱する必要があるため、この熱の影響によりハードコート膜の表面が平滑化してしまいマークが不鮮明になる場合もある。
【0010】
本発明は上述の背景のもとでなされたものであり、その目的は、反射防止膜などの薄膜を損傷させずに視認性の良好なマークを形成されたプラスチック眼鏡レンズを得ることにある。また、本発明の他の目的は、視界を妨げにくい位置で、かつ、カットされたときに取り除かれない位置に視認性の良好なマークが形成されたプラスチック眼鏡レンズを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するための手段として、第1の手段は、
レンズ基材表面にハードコート膜及び反射防止膜を有するプラスチック眼鏡レンズであって、視界の妨げにならない位置に外部から良好に視認可能なマークが設けられたプラスチック眼鏡レンズにおいて、
前記マークは、このマークを構成する部分について、前記ハードコート膜が除去され、かつ、前記レンズ基材の一部が表面から内部に向けて微小量だけ除去されて凹状部に形成されているとともに、前記ハードコート膜の前記凹状部に望む断面並びに前記レンズ基材の凹状部の表面に反射防止膜が形成されていることにより、外部から良好に視認可能になっていることを特徴とするプラスチック眼鏡レンズである。
第2の手段は、
前記凹状部の深さが5μm以上で、幅が90μm以上であることを特徴とする第1の手段にかかるプラスチック眼鏡レンズである。
第3の手段は、
前記反射防止膜の上に撥水膜を形成したことを特徴とする第1又は第2の手段にかかる眼鏡レンズである。
第4の手段は、
プラスチック眼鏡レンズにマークを施すマーキング方法において、
前記プラスチック眼鏡レンズ基材上にハードコート膜を設け、
次に、前記マークの形に前記ハードコート膜を除去するとともに、さらに前記基材自体にも所定深さの凹部が形成されるように、ハードコート膜及び基材の一部を除去し、
次いで、前記ハードコート膜の表面及び前記基材の凹部の表面に反射防止膜を設けることによって、外部から良好に視認可能なマークを形成することを特徴とするマーキング方法である。
第5の手段は、
前記凹状部の深さが5μm以上で、幅が90μm以上であることを特徴とする第4の手段にかかるマーキング方法である。
第6の手段は、
前記凹部の形成はレーザ照射により行うことを特徴とする第4又は第5の手段にかかるマーキング方法である。
第7の手段は、
前記マークは、アイポイントもしくはプリズム測定基準点を基準にした所定の領域の外に形成されることを特徴とする第4〜第6のいずれかの手段にかかるマーキング方法。
第8の手段は、
レーザ照射前にマーク付与位置の高さを測定し、その測定された高さを基にマーク付与位置とレーザ照射の焦点距離とを合わせてからレーザ照射することを特徴とする第6又は第7の手段にかかるマーキング方法である。
第9の手段は、
プラスチックレンズ素材に所定の加工処理を施してプラスチック眼鏡レンズを製造するプラスチック眼鏡レンズ製造方法において、
第4〜第8のいずれかの手段にかかるマーキング方法によりマーキングを施す工程を含むことを特徴とするプラスチック眼鏡レンズ製造方法である。
第10の手段は、
プラスチック眼鏡レンズにマークを施すマーキング装置であって、
レンズカット形状情報と、アイポイントもしくはプリズム測定基準点位置情報と、アイポイントもしくはプリズム基準点を基準にマークを付与しない領域を定めたマーク非付与領域情報と、マークを付与する位置についての条件が定められているマーク指定情報とを基にマーク付与位置を算出する手段を備え、
前記マーク付与位置の算出は、前記マーク指定情報に基づく所定の位置で、かつ、前記マーク非付与領域情報で定められているマーク非付与領域に属さない位置をマーク付与位置として決定することを特徴とするマーキング装置である。
第11の手段は、
前記マーク指定情報には、マークを付与できない場合のマーク位置検索優先順位が定められており、マークが付与できない場合に、前記マーク位置検索優先順位にしたがってマーク付与位置の条件を変更して付与位置を算出することを特徴とする第10の手段にかかるマーキング装置である。
第12の手段は、
前記マーク指定情報に含まれるマーク付与位置の条件は、フレームセンターからの角度とレンズカット形状の外周からの距離とによって定められていることを特徴とする第10又は第11の手段にかかるマーキング装置である。
第13の手段は、
前記マーク付与位置が決定できない場合には、前記角度を前記マーク位置検索優先順位に従って順次ずらしてマーク付与位置を算出することを特徴とする第12の手段にかかるマーキング装置である。
第14の手段は、
前記マーク付与位置が決定できない場合には、前記外周からの距離を前記マーク位置検索優先順位に従って順次ずらしてマーク付与位置を算出することを特徴とする第12の手段にかかるマーキング装置である。
第15の手段は、
前記マーク付与位置はレンズ保持部材が位置する領域と重ならない位置に配置することを特徴とする第10〜第12のいずれかの手段にかかるマーキング装置である。
【発明の効果】
【0012】
上述の手段によれば、反射防止膜などの薄膜を損傷させずに視認性の良好なマークを形成することが可能になる。また、視界を妨げにくい位置で、かつ、カットされたときに取り除かれない位置に視認性の良好なマークを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズ及びその製造方法並びにマーキング方法及びマーキング装置を説明する。なお、以下の説明では、まず、本発明の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズを説明し、次に、上記プラスチック眼鏡レンズの製造システムを説明し、それに併せてプラスチック眼鏡レンズの製造方法、マーキング方法及びマーキング装置を説明する。
【0014】
<プラスチック眼鏡レンズ>
図1は本発明の一実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズである単焦点眼鏡レンズの平面図、図2は他の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズである累進屈折力眼鏡レンズの平面図、図3は図1又は図2における可視マーク部分の断面図である。以下、これらの図面を参照にしながら、本発明の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズを説明する。
【0015】
(単焦点眼鏡レンズ)
まず、単焦点眼鏡レンズを説明する。図1において、符号110は、単焦点眼鏡レンズ(単焦点レンズともいう)であって、両面がそれぞれ所定の曲面形状に加工されてはいるが、いまだ、フレーム(枠)に嵌め込める形状(レンズカット形状あるいは玉型形状などともいう)には加工されていない形状のもの(丸レンズあるいはアンカットレンズともいう)である。この単焦点レンズ110は、顧客が選択した眼鏡フレームに嵌めることができる形状であるレンズカット形状112の形状になるように加工(縁摺り加工あるいは玉型加工ともいう)されてフレームに嵌め込まれる。
【0016】
この単焦点眼鏡レンズ110には、レンズカット形状112の内側の左上側(右眼用レンズの耳側上)の位置に、「H」を図形化した模様である可視マーク114が形成されている。この可視マーク114は、可視マーク非付与領域113の外側の位置に形成される。この可視マーク非付与領域113は、眼鏡装用者の視界を妨げる位置に視認マークが位置しないように設けられるものである。この可視マーク非付与領域の基準位置としては、単焦点レンズの場合、レンズのアイポイント位置を基準に設定するとよい。アイポイントは、単焦点レンズの場合は光学中心と等しいので、この実施の形態では、光学中心111を基準に設定される。この実施の形態では、光学中心111(アイポイント)を中心として直径30mm以内をマーク非付与領域としている。なお、図1で表示されているレンズカット形状112や可視マーク非付与領域113、光学中心111は、マーキング位置を決定するために用いる情報であり、実際にレンズに表示されているわけではない。
【0017】
(累進屈折力眼鏡レンズ)
次に、累進屈折力眼鏡レンズについて説明する。図2において、符号120は、累進屈折力眼鏡レンズ(累進屈折力レンズあるいは累進レンズともいう)であって、両面がそれぞれ所定の曲面形状に加工されてはいるが、いまだ、フレーム(枠)に嵌め込める形状(レンズカット形状あるいは玉型形状などともいう)には加工されていない形状のもの(丸レンズあるいはアンカットレンズともいう)である。この累進屈折力レンズ120は、顧客が選択した眼鏡フレームに嵌めることができる形状であるレンズカット形状122の形状になるように加工(縁摺り加工あるいは玉型加工ともいう)されてフレームに嵌め込まれる。
【0018】
この累進屈折力眼鏡レンズ120には、レンズカット形状122の内側の左上側の位置(右眼用レンズの耳側上)に、「H」を図形化した模様である可視マーク124が形成されている。この可視マーク124は、可視マーク非付与領域123の外側の位置に形成される。この可視マーク非付与領域123は、眼鏡装用者の視界を妨げる位置に視認マークが位置しないように設けられるものである。この可視マーク非付与領域の基準位置としては、累進屈折力レンズの場合、プリズム測定基準点位置を基準に設定するのが好ましい。この実施の形態では、プリズム測定基準点位置131を中心として直径30mm以内をマーク非付与領域としている。なお、図2で表示されているレンズカット形状122や可視マーク非付与領域123、プリズム測定基準点位置131は、マーキング位置を決定するために用いる情報であり、実際にレンズに表示されているわけではない。
【0019】
なお、この累進屈折力レンズにおける可視マーク非付与領域としては、プリズム測定基準点位置131位置を基準に定められた領域に加え、遠用アイポイント(フィッティングポイント121)を基準として定められた領域を加えてもよい。この場合は遠用の視界を妨げないようにマーキングできる。また、近用アイポイント132を基準にした非付与領域を加えても良い。この場合は、レンズの下側にマークを設ける場合であっても近用の視界を妨げないようにマーキングできるため好ましい。また、累進屈折力レンズの場合は、JISに決められているとおりに、製造業者識別マーク、アライメント基準マーク、加入屈折力表示、累進帯長表示などがいわゆる隠しマークで設けられている。図2における製造業者識別マーク126、アライメント基準マーク125a、125b、加入屈折力表示127、累進帯長表示128は、この隠しマークを示している。なお、本実施の形態のプラスチック眼鏡レンズとして、単焦点レンズと累進屈折力レンズについて述べたが、本発明はこれら以外のレンズにも適用可能であり、例えば、多焦点レンズの場合は、遠用部光学中心(遠用アイポイント)を基準に可視マーク非付与領域を設定する。なお、この多焦点レンズの場合は、遠用部光学中心位置を基準に定められた可視マーク非付与領域に加え、中間部光学中心や近用部光学中心を基準として定められた領域を加えてもよいし、また、小玉の領域を加えてもよい。この場合は遠用以外の視界も妨げないようにマーキングできるため好ましい。本発明においては上記した各種レンズにおける可視マーク非付与領域の基準点を単にマーク非付与基準点と称する。また、本発明においては、プラスチック眼鏡レンズという場合は、特に限定していない限りアンカットレンズ、レンズカット形状加工された後のレンズ、あるいは、それが眼鏡フレームはめ込まれた状態のレンズも含む概念である。また、以下の実施の形態の説明は単焦点レンズや累進屈折力レンズの場合で説明する。
【0020】
(可視マークの断面構造)
次に、図1又は図2における可視マーク部分の断面構造を説明する。図3において、単焦点レンズ110及び累進屈折力レンズ120は、レンズ基材3の表面にハードコート膜4が形成され、このハードコート膜4の上に反射防止膜5が形成されたものである。ここで、可視マーク114、124は、これらマークを構成する部分について、ハードコート膜4が除去され、かつ、レンズ基材3の一部が表面から内部に向けて微小量だけ除去されて凹状部6が形成されている。そして、上記ハードコート膜4の上記凹状部6に望む断面並びに上記レンズ基材3の凹状部6の表面には、反射防止膜5が形成されている。
【0021】
なお、この例では凹状部6の周囲部61は、レンズ表面より盛り上がっている。いま、周囲部61表面から凹状部6の底部までの深さをD1とし、レンズ表面から凹状部6の底部までの深さをD2とすると、D1は、6.2μm以上、D2は、5μm以上である。また、凹状部6の幅Wは、90μm以上である。さらに、本発明の眼鏡用プラスチックレンズに用いるレンズ基材は合成樹脂からなることが好ましく、例えば、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン含有共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタンなどが挙げられる。また、このレンズ基材表面に形成されるハードコート層は、有機ケイ素重合体を含むハードコート層であり、ディッピング法、スピンコート法等の塗布法により成膜したものである。また、このハードコート層上に反射防止膜が設けられる。
【0022】
<プラスチック眼鏡レンズの製造システム、製造方法、マーキング方法及びマーキング装置>
図4は本発明の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズを製造するプラスチック眼鏡レンズ製造システムの説明図、図5はレーザマーキング装置の説明図、図6は製造工程のフローチャート図、図7は発注画面の説明図、図8はレーザマーキング方法の説明図、図9マーキング可否判定のフローチャート図、図10〜図11はマーキング具体例の評価結果を示す図、図12〜図13は凹状部の測定結果を示す図、図14はマーク位置決定の具体例の説明図、図15はレーザマーキング装置のレンズ保持装置の他の例を示す説明図、図16はマーキング工程のフローチャート図、図17はマーク位置高さ測定方法の説明図、図18はマーキング可否判定の他の例を示すフローチャート図、図19はマーキング可否判定の他の例におけるマーク位置決定の具体例の説明図である。以下、これらの図面を参照にしながら、プラスチック眼鏡レンズの製造システムを説明し、それに併せてプラスチック眼鏡レンズの製造方法、マーキング方法及びマーキング装置を説明する。
【0023】
(プラスチック眼鏡レンズ製造システム)
図4に示されるプラスチック眼鏡レンズ製造システムは、眼鏡販売店と工場とがオンラインで結ばれて、受発注がなされ、それに基づいてレンズが製造・納入されるシステムの例である。図4において、発注側の例としての眼鏡販売店60とレンズ加工側の例としてのレンズメーカの工場80とは、通信媒体10によって接続されている。通信媒体10は特に限定されないが、例えば、公衆通信回線、専用回線、インターネットなどを利用できる。また、通信媒体10には途中に中継局を設けるようにしても良い。なお、以下、発注側は、眼鏡販売店60の場合で説明するが、これに限定するものではなく、例えば、眼科医、個人あるいはレンズメーカの営業所等であってもよい。また、図4では発注側は一つしか示していないが、実際には通信媒体を介して多数接続することが可能である。
【0024】
眼鏡販売店60には、オンライン注文用端末としてのコンピュータ61(以下単に注文用端末とも記す)と、眼鏡フレームのレンズ枠形状を測定するフレーム形状測定装置(フレームトレーサ)62とが設置されている。注文用端末61は、レンズや眼鏡を注文するために必要な情報を送受信するための端末で、専用の端末でも良いし、汎用のパソコンにレンズ注文用のソフトウェアがインストールされたものでも良い。また、工場側のネットワークや中継局にWWW(World Wide Web)サーバを設け、そこに注文用のドキュメントやプログラムを登録し、注文用端末のWWWブラウザーで注文画面を表示させるようにしても良い。
【0025】
工場80には、主制御コンピュータ30と、データサーバ40と、レーザマーキング装置20と、各種加工装置81、82、83、84がネットワークを介して接続されている。主制御コンピュータ30は、前記注文用端末コンピュータ61との接続を行なう図示しない接続手段と、注文用端末コンピュータ61から眼鏡あるいは眼鏡レンズの注文を受け付け処理するための受注処理手段31と、受注した内容に基づいて製造する眼鏡レンズの設計データを作成する設計データ作成手段32と、この設計データに基づいて各種製造装置の制御に必要な加工データを作成する加工データ作成手段33と、前記設計データに基づいてレンズ基材におけるレンズカット形状(玉型形状)の領域を算出するレンズカット形状算出手段35と、可視マークのマーキングの可否判定及びマーキング位置決定を行なうマーキング可否判定・位置決定手段36と、決定されたマーク位置にマーキングを行なうためにレーザマーキング装置の制御に必要な加工データを作成するマーキング加工データ作成手段34と、レーザマーキング装置を含め各種加工装置の制御・管理等を行なうための図示しない手段などを備えている。
【0026】
データサーバ40は、注文用端末コンピュータ61から入力された注文内容である受注データ410と、マーキングに必要な各種データであるマーキングデータ420と、各種レンズに関する情報が登録されているレンズ情報データ430と、フレーム情報に関するデータが登録されているフレーム情報データ440等が、記憶手段に記憶されている。
【0027】
レーザマーキング装置20は、レンズにマーキングするためのレーザ光を出力するレーザ照射装置210と、レンズを所定の位置に保持するレンズ保持装置220と、前記レーザ照射装置を制御するためのレーザ照射装置制御手段231と、前記レンズ保持装置を制御するためのレンズ保持装置制御手段232とを備えた制御コンピュータとを有する。
【0028】
図5に示したようにレーザ照射装置210は、レーザ発振器211から出射された発散レーザ光または平行レーザ光212が、ビームエキスパンダ213によってそのスポットが拡径され、一対の反射板214、215にて方向を変えられ、集光レンズ(例:fθレンズ)216で眼鏡レンズ1における凸面1Aの所定のマーキング位置に集束するように集光されて照射される。なお、レーザ発振器211としては、例えば、焦点距離が145mm、発振レーザがCO2レーザクラス4、レーザ発信出力が最大30W、平均12W、発光ピーク波長10.6μm、のCO2レーザを発振するものを用いる。また、レーザ光の制御は、例えば、印字方式をガルバノスキャニング方式とし、印字範囲を90mm×90mm、文字サイズを0.2mm〜90mm、走査速度を3000mm/sとして行なう。
【0029】
上記一対の反射板214、215のうちの、一方はX方向用であり、他方はY方向用である。これらの反射板214、215の姿勢を制御することによって所定の範囲(例えば、90×90mmの範囲)において任意に走査させることができる。これにより眼鏡レンズ1の凸面上で任意の位置にレーザ光が照射でき、文字や図形など各種マークをレンズ上に刻印することができる。なお、レーザの直下に刻印位置が来るようにレンズを移動させて刻印する方が、刻印位置にかかわらずレンズへのレーザの照射方向が変化しないという点で好ましい。
【0030】
レンズ保持装置220は、レンズ支持筒221を有し、このレンズ支持筒221の上にレンズを載せ、図示しない真空ポンプによりレンズ支持筒内を負圧にすることにより、眼鏡レンズ1における凹面1Bの中央部が吸着保持されて、眼鏡レンズ1がレーザマーキング装置に設置される。なお、レンズの取り付け取り外しを容易にするために、レーザ照射位置とレンズ取り付け取り外し位置の間を図示しない移動手段により移動可能に構成されている。また、レンズ保持装置は、レンズ照射位置において、可視マークを施す位置の高さをレーザ照射装置の焦点距離に合わせることができるように、図示しない高さ調節手段により高さが変更可能に構成されている。図15はレンズ保持装置の他の例である。この場合は、レンズをあらかじめレンズ保持具640に取り付け、このレンズ保持具をレンズ保持装置600に取り付けることによりは、レンズを保持している。前記レンズ保持具640は、レンズを保持するレンズ保持台641と、このレンズ保持台641のレンズが保持される側と反対側に設けられたレンズ保持装置への取付部642とを備えている。レンズの前記レンズ保持台への固定は、このレンズの保持台にレンズ保持機構を設けることによって行ってもよいし、両面テープなどの接着手段により接着してもよい。
【0031】
レーザ照射装置制御手段231は、レーザ照射装置210を制御する手段であり、レーザの出力値、走査速度、レーザ照射位置、走査方向、重ね刻印回数などを制御する。レンズ保持装置制御手段232は、レンズ支持筒による吸引、解除の制御、レンズ保持装置のレンズ取付け取外し位置とレーザ照射位置間の移動、レンズ保持装置の高さ調節のための移動を制御する。なお、レーザ照射位置でのレンズ保持位置のX−Y制御、回転制御機能を持たせてもよい。このような機能を持たせることにより位置決めの自動化が可能になる。また、レーザの直下にマーキング位置を移動させてのマーキングも容易になる。なお、前記レンズ保持装置の高さ制御は、あらかじめ算出あるいは実測されたマーク位置の高さに応じて、マーク位置がレーザ照射装置の焦点距離位置に来るように移動させることにより行なう。
【0032】
各種加工装置としては、受注内容に応じて、レンズブランクの仕上げられていない光学面を切削、研削する研削装置81、切削や研削された光学面を研磨する研磨装置82、レンズの縁摺り加工やヤゲン加工をする周縁加工装置83、検査装置84、その他図示しないブロック装置などがある。なお、上記各種コンピュータやネットワーク機器が有する機能は適宜統合、分散させても良い。
【0033】
(プラスチック眼鏡レンズの製造方法)
次に、プラスチック眼鏡レンズの製造方法を説明する。図6において、眼鏡販売店60では、装用者(購入者)の処方値やレイアウト情報、注文する眼鏡レンズや眼鏡フレームの情報、眼鏡レンズの表面に刻印する可視マークに関する情報を注文用端末に入力し、通信媒体を介して工場側へ送信する。このときの可視マークに関する情報を入力するための注文画面の例は図7に示したとおりである。
【0034】
工場80側では、主制御コンピュータ30に登録されているプログラムにより、注文用端末61から送られてきた注文データを受信する(S1)。そして、送られてきた注文データを基に受注処理を開始する(S2)。受注処理としては、まず注文データをデータサーバの記憶手段に受注データとして記憶する。受注データとしては、指定された眼鏡レンズに関するレンズ指定データ、指定された眼鏡フレームに関するフレーム指定データ、処方値に関する処方データ、レイアウト情報に関するレイアウトデータ、指定された可視マークに関するマーク指定データ等がある。レンズ指定データとしては、レンズ種に関する情報(レンズ材質、屈折率、レンズ表裏面の光学設計、レンズ外径、レンズカラー、コーティング、これらを識別できる製品識別コードなど)や、レンズ加工指示に関する情報(レンズ厚さ、コバ厚さ、偏心、縁面の仕上げ方法、レンズ保持部材取付部の加工種類や方法など)がある。
【0035】
フレーム指定データとしては、フレームサイズ、フレーム素材、色、レンズカット形状(フレーム形状測定装置によって測定されたレンズ枠形状あるいはあらかじめ設定されている玉型形状)、これらを識別できる製品識別コードなどがある。処方データとしては、S度数、C度数、プリズム、加入度、軸などがある。レイアウトデータとしては、瞳孔間距離(遠用瞳孔距離)、近用瞳孔間距離、SEGMENT小玉位置、アイポイント位置(光学中心位置、フィッティングポイント位置、遠用部光学中心位置など)、プリズム測定基準点位置などがある。マーク指定データとしては、マークの種類、マークの大きさ、左右一対のレンズのうちのマークを刻印するレンズ、マークの刻印位置、マークの刻印条件などがある。
【0036】
次に、これら受注データに基づいて、主制御コンピュータ30に登録されている眼鏡レンズ加工設計プログラムにより、注文した内容のレンズの設計データが作成されデータサーバに記憶される(S3)。このとき、注文内容のレンズが製造可能かどうかも判定し、製造できない場合は、端末側に注文データの修正をうながす。製造可能と判定された場合は、次に、マーキング可否判定や位置決定に必要なアンカットレンズ上におけるレンズカット形状の算出を行いその結果をデータサーバに記憶する(S4)。続いて受注データと前記レンズカット形状データに基づいてマークが刻印可能かどうかの可否判定が行われ刻印可能の場合はマーク位置が決定される(S5)。この可否判定、位置決定については後述する。なお、マーク刻印が不可能と判定された場合は、その結果を端末側に伝えデータの修正をうながす。また位置が決まった場合にはその位置を端末側に伝え確認をうながす。端末側が注文内容、マーキング内容について承認したらそこで受注を確定する(S6)。受注が確定したら前記眼鏡レンズ加工設計プログラムは各製造工程におけるレンズ加工データ(加工設計値、各種機器設定値、使用治具、その他加工条件)も作成し、データサーバに記憶される(S7)。またレーザマーキング装置を制御するためのマーキング加工データが作成されデータサーバに記憶される(S8)。このマーキング加工データ作成時に、前記S5で決定されてマーク位置での前記レンズ保持装置における高さをレンズの形状データを基に算出してもよいし、後述するようにマーキング前に実測してその測定値をマーキング加工データに追加してもよい。
【0037】
工場には、光学的に仕上げられていない面を有するレンズブランクが予め製造されストックされている(S9、S10)。このレンズブランクは、受注後の切削・研削工程や研磨工程のための切削・研削しろや研磨しろを有する肉厚のレンズである。前記S3、S7で作成された、設計データ、加工データに基づいて使用するレンズブランクが選択され、仕上げられていない面を切削、研削、研磨することによりレンズの両面が光学的に仕上げられた状態になる(S11)。そして受注内容に応じて必要により染色工程を行い(S12)、その後ハードコート工程(S13)によりレンズの表面にハードコート膜が形成される。
【0038】
前記ハードコート膜が形成されたレンズは次のマーキング工程に進み、S8で作成されたこのレンズのマーキング加工データに基づいてレンズがマーキングされる(S14)。このマーキング工程の詳細については後述する。マークが施されたレンズは、次の反射防止工程でレンズの両面に反射防止膜が形成される(S15)。この反射防止膜の上に受注データに基づいて必要により撥水コート、水やけ防止コート、防汚コート、ミラーコートなどが施される(S16)。その後レンズは検査工程に移り光学特性や各種薄膜の状態が検査(S17)された後、次の玉摺り加工工程により所定の玉型形状にカット(玉摺り)され(S18)、フレームが注文されていない場合はそのレンズが、フレームも合わせて注文されている場合はそのフレームにレンズが取り付けられて(枠入れ(S19)出荷される(S20)。
【0039】
なお、単焦点レンズの場合はレンズの方向が特定できないためハードコート後、マーキング前にレンズ上に回転方向位置を特定でいる目印をつけ、この目印を基準にマーキングを行なうと良い。また、マークの視認性をさらに高めるために凹状部分を染色しても良い。この場合、ハードコート後にマーキングを行う部分に染料を塗布した状態で、レーザを照射し、染料を定着させ、レーザ照射後に余分な染料をふき取ると良い。
【0040】
(マーキング方法)
次に、上述のプラスチック眼鏡レンズ製造方法におけるステップS14の上記可視マークを形成するマーキング方法を説明する。図8は、レーザマーキングにより視認可能なマークをマーキングする方法の説明図である。図8において、この実施の形態におけるマーキング対象物であるプラスチックレンズ1には、レーザ照射装置の一部を構成する焦点位置合わせ用レンズ2が対向している。プラスチックレンズ1は、レンズ基材3の表面にハードコート膜4が積層されて構成されているものである。
【0041】
この実施の形態のレーザマーキング方法は、発散レーザ光又は平行レーザ光Lを焦点位置合わせ用レンズ2によってプラスチックレンズ1の表面又は表面近傍の点Pに集束させ、集束されたレーザ光Lのエネルギーによってレンズ基材表面のハードコート膜4とレンズ基材3を熱により溶融蒸発させ、レンズ基材3の表面に、ハードコート膜4が除去された凹状部6を形成する。その後、レンズ基材表面に反射防止膜5を形成する。この結果、上記図1〜3に示されるような眼鏡レンズが得られる。
【0042】
上記レーザマーキング方法によれば、図3に示したように、レンズ基材3の表面のレーザが照射された位置は、瞬時に溶融蒸発して凹状部6が形成される。このため外部からの光やレンズ透過光がこの凹状部6に照射されると光は散乱し、外部から視認可能となってマークとして作用する。また、凹状部6の表面付近のプラスチックが熱により変質し屈折率や透過率等が他の部分と異なるものとなっており、屈折率や透過率などの光学的特性が変化していることもマークの視認性に影響していると考えられる。
【0043】
なお、上記図3においては、凹状部6の周囲はレンズ表面より盛り上がっているが、これはレーザの熱によりレンズ基材が変質して膨張した状態を表している。このように凹状部を形成後に、反射防止膜が施されるため、凹状部6の表面はレンズ基材の表面に反射防止膜が形成されている。このため、反射防止膜コーティング後にレーザマーキングする場合のように反射防止膜が損傷する虞がない。また、従来のようにレンズ内部にレーザを照射する場合のように、レーザの焦点をレンズの内部に位置合わせする必要が無いのでマーキングが容易で有り、しかも視認性の高いマークを容易に形成できる。次にマーキング工程(S14)の作業手順について図16、図17を参照にして説明する。なお、以下の説明では、マーク位置の高さは実測により求める場合であり、また、レーザマーキング装置のレンズ保持装置は図15に記載されたレンズ保持具を介して取り付ける場合である。
【0044】
はじめに、前記設計データ作成手段32、加工データ作成手段33、マーキング加工データ作成手段33、レンズカット形状算出手段35によって作成された設計データ、加工データ、マーキング加工データ、並びに受注データに基づきレンズレイアウトチャート図をコンピュータにより作成し出力する(S301)。このレイアウトチャート図には、アンカットレンズ上におけるマーク位置を特定するための情報(レンズカット形状、アイポイント位置、位置決め基準点、フレームセンター、マーク位置、水平中心線及び垂直中心線など)が実寸で表示されている。なお、垂直中心線とはレンズカット形状に外接する2つの垂直接線から等距離にある線であり、水平中心線とはレンズカット形状に外接する2つの水平接線から等距離にある線であり、フレームセンターとは垂直中心線と水平中心線との交点である。また、位置決め基準点とは例えば、単焦点レンズにおいては、アイポイント(光学中心)であり、累進屈折力レンズにおいては、アイポイント(フィッティングポイント)もしくはプリズム測定基準点であり、多焦点レンズにおいては、小玉形状上の基点である。アンカットレンズには、あらかじめ位置決め基準点やレンズの水平方向が特定できる印が施されており、レイアウトチャート図とアンカットレンズの位置決め基準点を合わせると共に、水平方向を合わせるようにしてレイアウトチャート図上にアンカットレンズを載せる。そして、レイアウトチャート図上のマーク位置に対応するレンズ上の位置に印を付けるなどして特定する(S302)。このマーク位置が特定されたレンズを前記レンズ保持具に取付ける(S303)。レンズ保持具を取付けたレンズのマーク位置の高さをマーク位置高さ測定装置により測定する(S304)。このマーク位置高さ測定装置と測定方法を図17を参照して説明する。
【0045】
マーク位置高さ測定装置は、測定台601と、この測定台601に設置される保持具載置台630と、高さ測定手段であるダイヤルゲージ620と、このダイヤルゲージ620を保持し前記測定台601に設置するスタンド610とを有する。前記保持具載置台630は、レンズ1が取り付けられたレンズ保持具640を載置するものであり、前記スタンド610は、前記測定台601に固定されるマグネットベース611と、このマグネットベースに立設されたロッド612と、このロッド612に、角度や高さが調節可能なようにジョイント614によって取り付けられたアーム613とを有する。そして、このアーム613の先端部にはダイヤルゲージ620が取り付けられている。ダイヤルゲージ620は、伸縮自在な測定子622を備え、測定子の先端部をマーク位置660等の測定箇所に接触させ、その測定子622の伸縮の程度により高さ変位量を測定し、その測定値を表示部621に表示するものである。これにより、マーク位置高さ650を求める。なお、この測定子には、測定するときに伸縮を手動で操作できるように取手623が設けられている。また、この高さ測定手段はこれに限定されず、ノギスや非接触のセンサなどを用いてもよい。
【0046】
前記レンズ保持具640は、レンズ1をレンズの凹面側を下向きにした状態で載せて固定するレンズ保持台641と、この保持台641のレンズを取付る側と反対側に設けられた取付部642とを備えている。なお、この取付部642は、レンズ保持具640を、レーザマーキング装置のレンズ保持装置600(図15参照)に取り付けるためにも用いられる。この取付部642の周囲の面は、レンズ保持装置600と接触する面を備え、この面が高さ測定の基準位置643となる。保持具載置台630は前記測定台601の上面と接する面と、前記高さ基準面643と接する面を有しこれら面は所定の間隔で平行に形成されているので、前記高さ基準面643と接する面を0位置(原点)として測定することによりレンズ凸面の任意の点の高さを測定することができる。この測定装置によりマーク位置660を測定するには、レンズ保持具640付きのレンズ1を前記保持具載置台630に高さ基準面を接触させて載せ、前記レンズ1のマーク位置660と前記測定子622の先端とが接触する位置に保持具載置台630を測定台601上に配置する。そして前記測定子622の先端を前記レンズ1のマーク位置660に接触させて高さ基準面643からの高さ650を測定する。このように、レーザ照射装置への取付けに使用するレンズ保持具640にレンズを取り付け、レンズ保持具640を基準としてマーク位置660の高さを測定する場合は、レンズの保持のされ方(向き、高さ)にかかわらず、レーザ照射装置に取り付けた時の高さを正確に測定できるため好ましい。特にレンズ後面の外周が同一平面上になくレンズ設置方向が安定しないようなレンズであっても、測定時とレーザ照射時のレンズの設置状態を同じにできる。
【0047】
以上のようにマーク位置660の高さを測定したらその測定値をマーキング加工データに登録する(S305)。保持具付きレンズを設置台から取り外す。そしてレンズ保持装置600をレンズ取り付け位置に移動させた状態でレンズ保持具をレンズ保持装置に取付ける(S307)。そしてレンズ保持装置をレーザ照射位置に移動させる(S308)。前記登録したマーク位置660の高さ測定値に基づき、マーク位置660がレーザ照射装置の焦点距離の高さにくるように前記レンズ保持装置600の高さを調節する(S309)。そしてマーキング加工データに基づきマーキングする(S310)。マーキングが終了したらレンズ保持装置600を取付け取り外し位置に移動させ保持具付きレンズを取り外しレンズを保持具から取り外す(S312)。形成された可視マークの位置やその視認性を検査し(S313)、問題がなければ次の製造工程に移す。なお、レーザ照射前にマーク位置に染料を塗布し(S306)、レーザを照射しても良い。この場合は刻印部分に染料が定着して視認性を向上させることができる。この場合は、マーキング後レンズ上に残った余分な染料はふき取ると良い。
【0048】
(マーキング可否判定、マーキング位置決定)
(具体例1)
次に、上述のプラスチック眼鏡レンズ製造方法におけるステップS5のマーキング可否判定、マーキング位置決定工程について、図9、図14を参照にしながら詳しく説明する。まず、データサーバ40より、マーキング可否判定、マーキング位置決定に必要なデータが主制御コンピュータ30に取り出され、マーキング可否判定・位置決定手段に渡される(S101)。
【0049】
これら可否判定、位置決定に必要なデータ項目としては、フレーム指定データ413、レイアウトデータ412、マーク指定データ415、レンズ指定データ414などがある。フレーム指定データ413としては、レンズカット形状データ(例えば、フレームセンターを原点とした1度ピッチ半径値で表現したフレームシェープ)、スリーピースなどのリムレス眼鏡においてレンズ光学面側に突出するレンズ保持部材が存在する場合のレンズ保持部材の位置、及び、正面からみたときのその光学面に突出する領域(例えば、スリーピースの場合は止めネジの中心をその位置としてこの位置を中心に突出領域をXY座標で表示)、フルリムやリムレスなどのフレーム種別などがある。なお、レンズ保持部材の他の例としては、特開平7−230062に記載された眼鏡のようにレンズ縁面に不貫通の孔を形成し、そこにレンズ保持部材のピン状の突起部を挿入するものや、特開2002−14303に記載された眼鏡のようにレンズ縁面から内側へ切欠部(溝)を設け、そこにレンズ保持部材を嵌め込んだもの等がある。このようなレンズ保持部材の場合もレンズ正面から見た時のその光学面に突出する領域はXY座標で表示する。レイアウトデータとしては、マーク非付与領域基準位置(例えばフレームセンターを原点としたXY座標)、このマーク非付与領域基準位置を基準に定められたマーク非付与領域(例えば非付与領域基準位置を中心に直径30mm以内)。なお、非付与領域基準位置としては、単焦点レンズにおいては、アイポイント位置(光学中心)、累進屈折力レンズにおいては、プリズム測定基準点、多焦点レンズにおいては、遠用アイポイント(遠用部光学中心)を用いることが好ましい。
【0050】
また、マーク指定データ415としては、マークの角度(例えばフレームセンターを中心とした外側水平線を基準とした角度)522、マーク内方向位置(マーク角度方向におけるレンズカット形状の縁からマーク中心までの距離)521、マーキング可否を判定した点がマーキングできないと判定された場合の検索範囲(例えば、マーク角度の前後の角度で指定した範囲、マーク位置を基準とした領域で指定した範囲など)がある。レンズ指定データ414としてはレンズの光学面の設計データがあり、レーザ刻印位置の高さ方向の位置を算出し、それに合わせてレンズの保持位置とレーザ光の焦点距離を合わせる場合に用いる。
【0051】
次に、マーク非付与領域を算出する(S102)。この算出はレンズのマーク非付与領域基準位置(単焦点レンズの場合は光学中心。多焦点レンズの場合は遠用部光学中心。累進屈折力レンズの場合はプリズム測定基準点位置を基準に予め決められた条件の領域を求める。条件としては、例えば、マーク非付与領域基準位置から直径30mm以内とする。
【0052】
次に、マーク位置検索の優先順位を決定する(S103)。これはマーキング可否判定の結果が不可となった場合の次のチェック位置をどのように探すかを指定するものであり、予め決めておいても良い。例えば、最初に指定したマーク角度から上方向に1度ずつずらして検索し、上方向で見つからなかった場合には最初に指定したマーク角度から下方向に1度ずつずらして検索するなどである。
【0053】
マーキングに必要なデータがそろったらマーク位置検索をスタートする(S104)。まず始めに、予め算出してあるアンカットレンズ中のカット形状とこのカット形状により特定されるフレームセンターと、マーク指定データとに基づいてマーキング位置を算出する(例えばマーク角度とマーク内方位置によりレンズカット形状におけるマーク位置が算出される)。そして、その位置がマーク非付与領域基準位置を基準としたマーク非付与領域内にあるかどうかを判定する(S105)。
【0054】
マーク位置がマーク非付与領域にある場合は、マーキング不可となり次のマーク位置候補検索のステップS110に移る。マーキング非付与領域内にないと判定されたら、フレーム種別データからレンズ保持部が光学面に突出するものかどうかを判断し(S106)、レンズ光学面に突出するレンズ保持部がある場合は正面から見てマークと重ならないかどうかを判定する(S107)。重なる場合はマーキング不可となり次のマーク位置候補検索のステップS110に移動する。
【0055】
重ならない場合はその位置がマーク位置として決定される。S106において光学面に突出するレンズ保持部が無いと判断された場合はレンズ保持部位置チェックを行わずにマーク位置が決定される。マーク位置が決定したら、マーク位置の座標が主制御コンピュータに送られマーキング加工データが作成される。
【0056】
上記、マーク非付与領域チェック、レンズ保持部位置チェックで不可となった場合は、次のマーク位置候補検索の処理(S110)で、S103で決定されているマーク位置検索優先順位設定に従って次のマーク位置候補が検索され、その位置がマーク指定データのマーク検索範囲内にあればマーク位置候補として決定される。前記マーク位置検索優先順位設定に従って検索してもマーク検索範囲内にマーク位置候補が見つからない場合には、マーク候補なしとなる。マーク位置候補の有無を判定し(S111)、マーク候補がない場合には、マーク不可と判定され(S112)エラーコードが出力される。候補がある場合はマーク非付与領域チェック(S105)に進む。以下、上記処理をマーク位置が決定されるか、マーク不可が判定されるまで繰り返す。
【0057】
マーク位置決定は、具体的には、例えば、以下のようにして行なわれる。すなわち、図14に示した例は、リムレス眼鏡500にマークを付す場合である。このリムレス眼鏡500は、左右のレンズ501、502とそれらをつなぐブリッジ504と、レンズの両外側に取り付けられた智503と、この智に丁番を介して接続された図示しないテンプルとからなる。この例では、マークを左側のレンズに刻印する例であり、位置はマーク角度522がフレームセンター530を中心に耳側の上30度で、マーク内方位置521はレンズのコバ面から3mmである。レンズは単焦点レンズである。マーク非付与領域基準点511はレンズの光学中心で、これを中心に直径30mm以内がマーク非付与領域510である。この眼鏡はリムレス眼鏡であるためレンズ保持部505がレンズ光学面上に位置している。このため、マーク位置決定に当たっては可視マークの領域が、マーク非付与領域510と、レンズ保持部領域506に重ならない位置に設定される。
【0058】
(具体例2)
マーキング可否判定、マーキング位置決定工程の他の例について、図18と図19を参照にしながら具体的に説明する。前述具体例1との主な相違点は、 マーク指定データ415としてマーク垂直内方向位置B(垂直方向におけるレンズカット形状の縁からマーク中心までの距離)を設定した点と、マーキング可否判定にあたってこのマーク垂直内方向位置のチェックを行なう点である。なお、マーク位置検索条件として、フレームセンター方向への検索を追加した点である。なお、レンズ光学面側に突出するレンズ保持部材としては、レンズ縁面から内側に切欠(溝)740を形成しその切欠にレンズ保持部材を嵌合させる場合で説明する。
【0059】
まず、データサーバ40より、マーキング可否判定、マーキング位置決定に必要なデータが主制御コンピュータ30に取り出され、マーキング可否判定・位置決定手段に渡される(S201)。この例における可否判定、位置決定に必要な項目の主なデータとしては次の通りである。
(フレーム指定データ)
レンズ保持部領域706:切欠の中心線741を中心に幅C、切欠の中心線741とレンズカット形状との交点からの深さDの矩形領域
(レイアウトデータ)
マーク非付与領域710:マーク非付与領域基準位置711を中心に直径30mm以内
(マーク指定データ)
マーク角度θ:フレームセンター730を中心とした外側水平線から上側に30度
マーク内方向位置A:3mm(レンズ縁面にヤゲンを形成する場合はヤゲンの先端から4mm)
マーク垂直内方向位置B:3mm以上(レンズ縁面にヤゲンを形成する場合はヤゲンの先端から4mm)
マーク領域723:マーク中心720から直径3mm
検索範囲:マーク角度±30度
優先順位I:フレームセンター方向へ検索(0.5mmずらして検索)
優先順位II:マーク角度プラス方向(上方向)へ検索(1度ずらして検索)
優先順位III:マーク角度マイナス方向(下方向)へ検索(1度ずらして検索)
【0060】
マーキングに必要なデータがそろったらマーク位置検索をスタートする(S204)。まず始めに、予め算出してあるアンカットレンズ中のレンズカット形状とこのレンズカット形状により特定されるフレームセンターと、マーク指定データとに基づいてマーキング位置を算出する(マーク角度とマーク内方位置によりマーク位置を算出)。そして、その位置がマーク非付与領域基準位置を基準としたマーク非付与領域内にあるかどうかを判定する(S205)。 マーク位置がマーク非付与領域にある場合は、マーキング不可となり次のマーク位置候補検索のステップに移る。マーキング非付与領域内にないと判定されたら、マーク垂直内方向位置Bが前記値以上あるかどうかを判定する(S206)。マーク垂直内方向位置Bが前記値以上ない場合はマーキング不可となり次のマーク位置候補検索のステップに移る。前記値以上ある場合はレンズ光学面に突出するレンズ保持部の有無を判断し(S207)、レンズ保持部材がある場合は、前記マーク領域と前記レンズ保持部領域が重ならないかどうかを判定する(S208)。重なる場合はマーキング不可となり次のマーク位置候補検索のステップに移動する。重ならない場合はその位置がマーク位置として決定される。S207においてレンズ光学面に突出するレンズ保持部が無いと判断された場合はレンズ保持部位置チェックを行わずにマーク位置が決定される。マーク位置が決定したら、マーク位置の座標が主制御コンピュータに送られマーキング加工データが作成される。
【0061】
上記、マーク非付与領域チェック、マーク垂直内方向位置チェック、レンズ保持部位置チェックで不可となった場合は、次のマーク位置候補検索の処理(S211)で、あらかじめ設定されているマーク位置検索優先順位設定に従って次のマーク位置候補が検索され、その位置がマーク指定データのマーク検索範囲内であれば、マーク位置候補として決定される。この例では、はじめにフレームセンター方向Iへ検索を行ない、非付与領域外で次のマーク候補が見つからない場合には、最初のマーク位置からマーク角度のプラス方向IIへ検索し、それでも次のマーク候補が見つからない場合は、最初の位置から角度のマイナス方向IIIへ検索する。マーク位置候補の有無を判定し(S212)、候補がない場合はマーク不可と判定され(S213)エラーコードが出力される。候補がある場合はマーク非付与領域チェック(S205)に進む。以下、上記処理をマーク位置が決定されるか、マーク不可が判定されるまで繰り返す。この例では、マーク垂直内方向位置を設定しているため、レンズ形状によってマーク内方向位置の条件を満たしていてもマークがレンズの縁近くに位置してしまう場合がなくなる。
【0062】
(マーキング具体例)
次に、上述の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズ製造法によって、実際にマーキングした例を説明する。
【0063】
・ マーキング具体例1
(A)レンズ基材及びハードコート膜の形成
ジエチレングリコールビスアリルカーボネート99.7重量%を主成分とし、紫外線吸収剤として2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン0.03重量%を含有する、屈折率が1.499のプラスチックレンズ(CR−39)を用いた。このプラスチックレンズを、80mol%のコロイダルシリカと20mol%のγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含有するコーティング液に浸漬硬化してハードコート層(屈折率1.50)を設けた。
(B)レーザマーキング
前記ハードコート層を形成したレンズに、図10に示したレーザマーキング条件A1〜A9でレーザを照射した。刻印するマークは図1、2に示したとのと同じマーク「H」で、大きさは2mm角である。
(C)反射防止膜の形成
前記ハードコート層を有するプラスチックレンズを80℃に加熱し、前記ハードコート層の上に真空蒸着法(真空度2×10−5Torr)によりSiO2からなる下地層〔屈折率1.46、膜厚0.5λ(λは500nmである)〕を形成した。
【0064】
次に、Ta2 O5 粉末、ZrO2 粉末、Y2 O3粉末およびAl2 O3 粉末を混合し、300kg/cm2 でプレス加圧し、焼結温度1300℃で焼結して得られた。蒸着組成物(モル比:Ta2O5 -ZrO2 −Y2 O3 −Al2 O3=1.3:1:0.5:0.1、Al2 O3 含有率1.26重量%)を電子銃出力電流170mAにて加熱して形成される混合層(屈折率2.08、膜厚0.063λ)と、SiO2層(屈折率1.46、膜厚0.086λ)よりなる第1の低屈折率層を形成した。この第1の低屈折率層の上に前記蒸着組成物と同じ蒸着組成物にて4成分光屈折率層(屈折率2.08、膜厚0.5λ)を形成し、さらに、その層の上にSiO2からなる第2の低屈折率層(屈折率1.46、膜厚0.25λ)を形成して反射防止膜を有するプラスチックレンズを得た。なお、前記低屈折率層および高屈折率層は前記下地層を形成した同様の真空蒸着法により形成した。
【0065】
・マーキング具体例2
(1)レンズ基材及びハードコート膜の形成
ガラス製容器に、有機ケイ素化合物のγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン142重量部を加え、攪拌しながら、0.01N塩酸1.4重量部、水32重量部を滴下した。滴下終了後、24時間攪拌を行いγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解溶液を得た。この溶液に、酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体ゾル(メタノール分散、全金属酸化物31.5重量%、平均粒子径10〜15ミリミクロン)460重量部、エチルセロソルブ300重量部、滑剤としてシリコーン系界面活性剤0.7重量部、硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネート8重量部を加え、充分に攪拌した後、濾過を行なってコーティング液を得た。アルカリ水溶液で前処理したプラスチックレンズ基材[HOYA(株)製、眼鏡用プラスチックレンズ(商品名:EYAS)、屈折率1.60]を、前記コーティング液の中に浸漬させ、浸漬終了後、引き上げ速度20cm/分で引き上げたプラスチックレンズを120℃で2時間加熱してハードコート層を形成した。
【0066】
(2)レーザマーキング
前記ハードコート層を形成したレンズに、図11に示したレーザマーキング条件B1〜B9でレーザを照射した。刻印するマークは図1、2に示したとの同じマーク「H」で、大きさは2mm角である。
(3)反射防止膜の形成
前記ハードコート層を有するプラスチックレンズを80℃に加熱し、前記ハードコート層の上に真空蒸着法(真空度2×10−5Torr)によりSiO2からなる下地層〔屈折率1.46、膜厚0.5λ(λは500nmである)〕を形成した。
【0067】
次に、Ta2 O5 粉末、ZrO2 粉末、Y2 O3粉末およびAl2 O3 粉末を混合し、300kg/cm2 でプレス加圧し、焼結温度1300℃で焼結して得られた蒸着組成物(モル比:Ta2O5 -ZrO2 −Y2 O3 −Al2 O3=1.3:1:0.5:0.1、Al2 O3 含有率1.26重量%)を電子銃出力電流170mAにて加熱して形成される混合層(屈折率2.08、膜厚0.118λ)と、SiO2層(屈折率1.46、膜厚0.056λ)よりなる第1の低屈折率層を形成した。この第1の低屈折率層の上に前記蒸着組成物と同じ蒸着組成物にて4成分光屈折率層(屈折率2.08、膜厚0.25λ)を形成し、さらにその層の上にSiO2からなる第2の低屈折率層(屈折率1.46、膜厚0.25λ)を形成して反射防止膜を有するプラスチックレンズを得た。なお、前記低屈折率層および高屈折率層は前記下地層を形成した同様の真空蒸着法により形成した。
【0068】
次に、上記形成したマークの良否について説明する。
・マーキングの良否の判定基準
(a)視認性
レーザマーキングを行った具体例1及び2を、通常の蛍光灯の照明下で、視認性を評価するマークが人の顔の肌の上にくるようにレンズを配置し、このレンズから60cm離れた位置からマークが確認できるかどうかを検査者の目視により判定した。判定基準は次の通り。
A:満足できるレベル
B:やや満足できるレベル
C:満足できないレベル
この評価結果を図10、図11に示す。
【0069】
(b)鮮明度
レーザマーキングを行った実験対象レンズ1と2を、通常の蛍光灯の照明下で、視認性を評価するマークが人の顔の肌の上にくるようにレンズを配置し、このレンズから20cm離れた位置からマークの内容が読み取れるかどうかを検査者の目視により判定した。判定基準は次の通り。
A:満足できるレベル
B:やや満足できるレベル
C:満足できないレベル
この評価結果を図10、図11に示す。なお、図10、図11において、レーザマーキング条件のうちの出力(%)とあるのは、最大出力30Wに対する%表示である。
【0070】
評価の結果は図10、図11に示したとおりであった。この場合、評価がCとされた、A1、B1、B2の条件では、60cm離れた位置からマークの存在を十分に確認することができず、20cm離れた位置からもそのマークの内容は読み取ることはできなかった。また、B2の条件では、60cm離れた位置からはマークの存在が何とか確認できるものの、20cm離れた位置からもそのマークの内容は読み取ることができなかった。上記以外の条件では、いずれの場合も視認性、鮮明度ともに良好だった。
【0071】
・マーキング状態
条件A3、A5、A7、B3、B5、B7でレーザ光が照射されてマーキングがなされた後のプラスチックレンズ1の表面の凹凸状態を図12及び図13に示す。なお、図12のA0、B0はマーク部分以外の凹凸状態を示している。
【0072】
図12、図13はランクホブソンテーラー社のタリサーフにより、プラスチックレンズの表面を測定子で走査し、マークの線幅及び深さを測定したものである。図において、凹部分がレーザ光によって蒸発されて、表面に凹状部が形成された部分であり、この凹状部がマークとしての視認作用を生じさせるものと考えられる。なお、各グラフの傾きは、測定時にレンズが僅かに傾いていたためである。また、(A0)、(B0)に示すようにマーク部分以外では当然に凹部は生じない。
【0073】
この測定結果を基に凹状部の幅と深さを算出した結果を図10及び図11に示す。なお、図3に示したとおり、幅Wは、レンズ表面から凹み始めた位置あるいは凹状部の両脇の最も高い位置の間隔で測定している。また、深さは、膨張していない表面からの深さD2、凹状部の両側の隆起している部分の最も高い位置からの深さをD1としている。この結果からもわかるとおり、(A3)、(B3)のように凹状部の深さが浅い場合には視認性、鮮明がやや劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、視界を妨げにくい位置で、かつ、カットされたときに取り除かれない位置に視認性の良好なマークが形成されたプラスチック眼鏡レンズを得る場合等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズである単焦点眼鏡レンズの平面図である。
【図2】他の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズである累進屈折力眼鏡レンズの平面図である。
【図3】図1又は図2における可視マーク部分の断面図である。
【図4】本発明の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズを製造するプラスチック眼鏡レンズ製造システムの説明図である。
【図5】レーザマーキング装置の説明図である。
【図6】製造工程のフローチャート図である。
【図7】発注画面の説明図である。
【図8】レーザマーキング方法の説明図である。
【図9】マーキング可否判定のフローチャート図である。
【図10】マーキング具体例の評価結果を示す図である。
【図11】マーキング具体例の評価結果を示す図である。
【図12】凹状部の測定結果を示す図である。
【図13】凹状部の測定結果を示す図である。
【図14】マーク位置決定の具体例の説明図である。
【図15】レーザマーキング装置のレンズ保持装置の他の例を示す説明図である。
【図16】マーキング工程のフローチャート図である。
【図17】マーク位置高さ測定方法の説明図である。
【図18】マーキング可否判定の他の例を示すフローチャート図である。
【図19】マーキング可否判定の他の例におけるマーク位置決定の具体例の説明図である。
【符号の説明】
【0076】
3 レンズ素材
4 ハードコート膜
5 反射防止膜
6 凹状部
110 単焦点眼鏡レンズ
111 光学中心
112 レンズカット形状
113 可視マーク非付与領域
120 累進屈折力レンズ
121 遠用アイポイント
123 可視マーク
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部から良好に視認可能なマークが付されたプラスチック眼鏡レンズ及びその製造方法並びにマーキング方法及びマーキング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡用プラスチックレンズには、自社商品と他社商品との識別のために、あるいは、型番、規格、特定位置の指示等のそのレンズに係る情報を表示するために、所望のマークを付与することが行われている。眼鏡用レンズにマークを付与する場合には、その商品の性質上、マークができるだけ目立たないことが要求される。そのため、通常は肉眼で認識することが難しく、必要に応じて、例えば特定の角度から観察することによって、認識することが可能な、いわゆる隠しマークの付与がなされることが多い。
【0003】
このようなマークをレンズに施す方法としては、ダイヤモンド等の硬質材料からなる針により彫刻する方法や、レーザによりマーキングする方法、レンズ成形時に成形型に形成された凹凸を転写する方法などがある。レーザマーキング方法は、プラスチックレンズにレーザ光を照射してマークを付すものである。この方法は、操作が容易で、自動化も容易であることから近年用いられるようになった。
【0004】
ところで、通常、眼鏡用プラスチックレンズの表面には反射防止膜等の薄膜がコーティングされる。したがって、反射防止膜形成後に上記針やレーザでマーキングすると、反射防止膜が損傷され、このマーク部分から薄膜が剥離してしまう虞がある。また、マーキングにより薄膜が損傷した部分は水分などが浸透しやすくなりレンズを劣化させるおそれもある。
【0005】
一方、前記成形型によってマークを転写する場合のようにレンズ成形時にレンズ基材自体に凹凸部を施す場合は、レンズカット形状が決まる前にマーキングすることになるので、レンズカット形状内の所定の位置にマークを設けることができない。
【0006】
このため、レンズ表面の反射防止膜などの薄膜を損傷させずにレーザマーキングする方法がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、眼鏡レンズの内部にレーザ光を集束させて、眼鏡レンズの内部にマークを付与するレーザマーキング方法が示されている。また、特許文献2には、眼鏡レンズのレンズ基材の表面近傍にレーザ光を集束させて、眼鏡レンズの内部にマークを付与するマーキング方法が示されている。
【0007】
また、上記隠しマークのように目立たないようにマークを形成するのではなく、装飾、ブランド表示、イニシャルなどの各種情報表示などの目的で、外部の人から視認できるマークや装飾をレンズに施したものも提案されている(特許文献3〜5参照)。すなわち、特許文献3には、レンズの縁側に寄った部位の表面に溝を切り込んで模様を形成したものが示されている。また、特許文献4には、成形加工によりホログラムを形成し、眼鏡装用者からは半透明で、外部からは視認できる模様を形成したものが示されている。さらに、特許文献5には、レンズ面上に印刷により絵柄を設け、その表面に透明な樹脂層を形成したレンズが示されている。
【特許文献1】特許第2810151号公報
【特許文献2】特許第3081395号公報
【特許文献3】実開昭55−47016号公報
【特許文献4】実開昭61−190523号公報
【特許文献5】特公昭59−17801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
眼鏡用プラスチックレンズに外部からの視認性が良好なマーク(以下可視マークとも記す)を形成する場合、従来の隠しマークを形成する方法では反射防止膜などの薄膜に損傷を与えずに十分な視認性を得ることが困難であった。すなわち、従来の針やレーザで刻印する方法で視認性をあげるには、溝をより深く形成する必要があるため、反射防止膜などの各種薄膜の損傷の度合いがより大きくなり膜剥がれがより生じやすくなる。
【0009】
また、上述のように、レンズ内部又はレンズ基材の表面近傍にレーザを集束させて照射する場合は、レーザ光の出射エネルギー量や収束点の調整を厳密に行わなければならない上、視認性を良好にするにはレーザの出力や照射時間をより大きくしなければならないため、反射防止膜や基材への影響が出ないように可視マークを形成することは困難である。また、視認性が良好なマークを眼鏡用プラスチックレンズに形成する場合、マークが眼鏡装用者の視界に入ると眼鏡機能上支障が生じる場合がある。また、従来の隠しマークのように受注前にレンズにマークを施す場合、受注後レンズをカットしたときにマーク部分が削り取られてしまう虞がある。また、レンズ基材に凹部を設けた後にハードコート膜を形成し、その上に反射防止膜を蒸着する方法も考えられるが、ハードコート膜の原料液が凹部に入り込んで硬化するため、マークが不鮮明になってしまう場合がある。また反射防止膜を蒸着する際にはレンズを加熱する必要があるため、この熱の影響によりハードコート膜の表面が平滑化してしまいマークが不鮮明になる場合もある。
【0010】
本発明は上述の背景のもとでなされたものであり、その目的は、反射防止膜などの薄膜を損傷させずに視認性の良好なマークを形成されたプラスチック眼鏡レンズを得ることにある。また、本発明の他の目的は、視界を妨げにくい位置で、かつ、カットされたときに取り除かれない位置に視認性の良好なマークが形成されたプラスチック眼鏡レンズを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するための手段として、第1の手段は、
レンズ基材表面にハードコート膜及び反射防止膜を有するプラスチック眼鏡レンズであって、視界の妨げにならない位置に外部から良好に視認可能なマークが設けられたプラスチック眼鏡レンズにおいて、
前記マークは、このマークを構成する部分について、前記ハードコート膜が除去され、かつ、前記レンズ基材の一部が表面から内部に向けて微小量だけ除去されて凹状部に形成されているとともに、前記ハードコート膜の前記凹状部に望む断面並びに前記レンズ基材の凹状部の表面に反射防止膜が形成されていることにより、外部から良好に視認可能になっていることを特徴とするプラスチック眼鏡レンズである。
第2の手段は、
前記凹状部の深さが5μm以上で、幅が90μm以上であることを特徴とする第1の手段にかかるプラスチック眼鏡レンズである。
第3の手段は、
前記反射防止膜の上に撥水膜を形成したことを特徴とする第1又は第2の手段にかかる眼鏡レンズである。
第4の手段は、
プラスチック眼鏡レンズにマークを施すマーキング方法において、
前記プラスチック眼鏡レンズ基材上にハードコート膜を設け、
次に、前記マークの形に前記ハードコート膜を除去するとともに、さらに前記基材自体にも所定深さの凹部が形成されるように、ハードコート膜及び基材の一部を除去し、
次いで、前記ハードコート膜の表面及び前記基材の凹部の表面に反射防止膜を設けることによって、外部から良好に視認可能なマークを形成することを特徴とするマーキング方法である。
第5の手段は、
前記凹状部の深さが5μm以上で、幅が90μm以上であることを特徴とする第4の手段にかかるマーキング方法である。
第6の手段は、
前記凹部の形成はレーザ照射により行うことを特徴とする第4又は第5の手段にかかるマーキング方法である。
第7の手段は、
前記マークは、アイポイントもしくはプリズム測定基準点を基準にした所定の領域の外に形成されることを特徴とする第4〜第6のいずれかの手段にかかるマーキング方法。
第8の手段は、
レーザ照射前にマーク付与位置の高さを測定し、その測定された高さを基にマーク付与位置とレーザ照射の焦点距離とを合わせてからレーザ照射することを特徴とする第6又は第7の手段にかかるマーキング方法である。
第9の手段は、
プラスチックレンズ素材に所定の加工処理を施してプラスチック眼鏡レンズを製造するプラスチック眼鏡レンズ製造方法において、
第4〜第8のいずれかの手段にかかるマーキング方法によりマーキングを施す工程を含むことを特徴とするプラスチック眼鏡レンズ製造方法である。
第10の手段は、
プラスチック眼鏡レンズにマークを施すマーキング装置であって、
レンズカット形状情報と、アイポイントもしくはプリズム測定基準点位置情報と、アイポイントもしくはプリズム基準点を基準にマークを付与しない領域を定めたマーク非付与領域情報と、マークを付与する位置についての条件が定められているマーク指定情報とを基にマーク付与位置を算出する手段を備え、
前記マーク付与位置の算出は、前記マーク指定情報に基づく所定の位置で、かつ、前記マーク非付与領域情報で定められているマーク非付与領域に属さない位置をマーク付与位置として決定することを特徴とするマーキング装置である。
第11の手段は、
前記マーク指定情報には、マークを付与できない場合のマーク位置検索優先順位が定められており、マークが付与できない場合に、前記マーク位置検索優先順位にしたがってマーク付与位置の条件を変更して付与位置を算出することを特徴とする第10の手段にかかるマーキング装置である。
第12の手段は、
前記マーク指定情報に含まれるマーク付与位置の条件は、フレームセンターからの角度とレンズカット形状の外周からの距離とによって定められていることを特徴とする第10又は第11の手段にかかるマーキング装置である。
第13の手段は、
前記マーク付与位置が決定できない場合には、前記角度を前記マーク位置検索優先順位に従って順次ずらしてマーク付与位置を算出することを特徴とする第12の手段にかかるマーキング装置である。
第14の手段は、
前記マーク付与位置が決定できない場合には、前記外周からの距離を前記マーク位置検索優先順位に従って順次ずらしてマーク付与位置を算出することを特徴とする第12の手段にかかるマーキング装置である。
第15の手段は、
前記マーク付与位置はレンズ保持部材が位置する領域と重ならない位置に配置することを特徴とする第10〜第12のいずれかの手段にかかるマーキング装置である。
【発明の効果】
【0012】
上述の手段によれば、反射防止膜などの薄膜を損傷させずに視認性の良好なマークを形成することが可能になる。また、視界を妨げにくい位置で、かつ、カットされたときに取り除かれない位置に視認性の良好なマークを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズ及びその製造方法並びにマーキング方法及びマーキング装置を説明する。なお、以下の説明では、まず、本発明の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズを説明し、次に、上記プラスチック眼鏡レンズの製造システムを説明し、それに併せてプラスチック眼鏡レンズの製造方法、マーキング方法及びマーキング装置を説明する。
【0014】
<プラスチック眼鏡レンズ>
図1は本発明の一実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズである単焦点眼鏡レンズの平面図、図2は他の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズである累進屈折力眼鏡レンズの平面図、図3は図1又は図2における可視マーク部分の断面図である。以下、これらの図面を参照にしながら、本発明の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズを説明する。
【0015】
(単焦点眼鏡レンズ)
まず、単焦点眼鏡レンズを説明する。図1において、符号110は、単焦点眼鏡レンズ(単焦点レンズともいう)であって、両面がそれぞれ所定の曲面形状に加工されてはいるが、いまだ、フレーム(枠)に嵌め込める形状(レンズカット形状あるいは玉型形状などともいう)には加工されていない形状のもの(丸レンズあるいはアンカットレンズともいう)である。この単焦点レンズ110は、顧客が選択した眼鏡フレームに嵌めることができる形状であるレンズカット形状112の形状になるように加工(縁摺り加工あるいは玉型加工ともいう)されてフレームに嵌め込まれる。
【0016】
この単焦点眼鏡レンズ110には、レンズカット形状112の内側の左上側(右眼用レンズの耳側上)の位置に、「H」を図形化した模様である可視マーク114が形成されている。この可視マーク114は、可視マーク非付与領域113の外側の位置に形成される。この可視マーク非付与領域113は、眼鏡装用者の視界を妨げる位置に視認マークが位置しないように設けられるものである。この可視マーク非付与領域の基準位置としては、単焦点レンズの場合、レンズのアイポイント位置を基準に設定するとよい。アイポイントは、単焦点レンズの場合は光学中心と等しいので、この実施の形態では、光学中心111を基準に設定される。この実施の形態では、光学中心111(アイポイント)を中心として直径30mm以内をマーク非付与領域としている。なお、図1で表示されているレンズカット形状112や可視マーク非付与領域113、光学中心111は、マーキング位置を決定するために用いる情報であり、実際にレンズに表示されているわけではない。
【0017】
(累進屈折力眼鏡レンズ)
次に、累進屈折力眼鏡レンズについて説明する。図2において、符号120は、累進屈折力眼鏡レンズ(累進屈折力レンズあるいは累進レンズともいう)であって、両面がそれぞれ所定の曲面形状に加工されてはいるが、いまだ、フレーム(枠)に嵌め込める形状(レンズカット形状あるいは玉型形状などともいう)には加工されていない形状のもの(丸レンズあるいはアンカットレンズともいう)である。この累進屈折力レンズ120は、顧客が選択した眼鏡フレームに嵌めることができる形状であるレンズカット形状122の形状になるように加工(縁摺り加工あるいは玉型加工ともいう)されてフレームに嵌め込まれる。
【0018】
この累進屈折力眼鏡レンズ120には、レンズカット形状122の内側の左上側の位置(右眼用レンズの耳側上)に、「H」を図形化した模様である可視マーク124が形成されている。この可視マーク124は、可視マーク非付与領域123の外側の位置に形成される。この可視マーク非付与領域123は、眼鏡装用者の視界を妨げる位置に視認マークが位置しないように設けられるものである。この可視マーク非付与領域の基準位置としては、累進屈折力レンズの場合、プリズム測定基準点位置を基準に設定するのが好ましい。この実施の形態では、プリズム測定基準点位置131を中心として直径30mm以内をマーク非付与領域としている。なお、図2で表示されているレンズカット形状122や可視マーク非付与領域123、プリズム測定基準点位置131は、マーキング位置を決定するために用いる情報であり、実際にレンズに表示されているわけではない。
【0019】
なお、この累進屈折力レンズにおける可視マーク非付与領域としては、プリズム測定基準点位置131位置を基準に定められた領域に加え、遠用アイポイント(フィッティングポイント121)を基準として定められた領域を加えてもよい。この場合は遠用の視界を妨げないようにマーキングできる。また、近用アイポイント132を基準にした非付与領域を加えても良い。この場合は、レンズの下側にマークを設ける場合であっても近用の視界を妨げないようにマーキングできるため好ましい。また、累進屈折力レンズの場合は、JISに決められているとおりに、製造業者識別マーク、アライメント基準マーク、加入屈折力表示、累進帯長表示などがいわゆる隠しマークで設けられている。図2における製造業者識別マーク126、アライメント基準マーク125a、125b、加入屈折力表示127、累進帯長表示128は、この隠しマークを示している。なお、本実施の形態のプラスチック眼鏡レンズとして、単焦点レンズと累進屈折力レンズについて述べたが、本発明はこれら以外のレンズにも適用可能であり、例えば、多焦点レンズの場合は、遠用部光学中心(遠用アイポイント)を基準に可視マーク非付与領域を設定する。なお、この多焦点レンズの場合は、遠用部光学中心位置を基準に定められた可視マーク非付与領域に加え、中間部光学中心や近用部光学中心を基準として定められた領域を加えてもよいし、また、小玉の領域を加えてもよい。この場合は遠用以外の視界も妨げないようにマーキングできるため好ましい。本発明においては上記した各種レンズにおける可視マーク非付与領域の基準点を単にマーク非付与基準点と称する。また、本発明においては、プラスチック眼鏡レンズという場合は、特に限定していない限りアンカットレンズ、レンズカット形状加工された後のレンズ、あるいは、それが眼鏡フレームはめ込まれた状態のレンズも含む概念である。また、以下の実施の形態の説明は単焦点レンズや累進屈折力レンズの場合で説明する。
【0020】
(可視マークの断面構造)
次に、図1又は図2における可視マーク部分の断面構造を説明する。図3において、単焦点レンズ110及び累進屈折力レンズ120は、レンズ基材3の表面にハードコート膜4が形成され、このハードコート膜4の上に反射防止膜5が形成されたものである。ここで、可視マーク114、124は、これらマークを構成する部分について、ハードコート膜4が除去され、かつ、レンズ基材3の一部が表面から内部に向けて微小量だけ除去されて凹状部6が形成されている。そして、上記ハードコート膜4の上記凹状部6に望む断面並びに上記レンズ基材3の凹状部6の表面には、反射防止膜5が形成されている。
【0021】
なお、この例では凹状部6の周囲部61は、レンズ表面より盛り上がっている。いま、周囲部61表面から凹状部6の底部までの深さをD1とし、レンズ表面から凹状部6の底部までの深さをD2とすると、D1は、6.2μm以上、D2は、5μm以上である。また、凹状部6の幅Wは、90μm以上である。さらに、本発明の眼鏡用プラスチックレンズに用いるレンズ基材は合成樹脂からなることが好ましく、例えば、メチルメタクリレート単独重合体、メチルメタクリレートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート単独重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと1種以上の他のモノマーとの共重合体、イオウ含有共重合体、ハロゲン含有共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、不飽和ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタンなどが挙げられる。また、このレンズ基材表面に形成されるハードコート層は、有機ケイ素重合体を含むハードコート層であり、ディッピング法、スピンコート法等の塗布法により成膜したものである。また、このハードコート層上に反射防止膜が設けられる。
【0022】
<プラスチック眼鏡レンズの製造システム、製造方法、マーキング方法及びマーキング装置>
図4は本発明の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズを製造するプラスチック眼鏡レンズ製造システムの説明図、図5はレーザマーキング装置の説明図、図6は製造工程のフローチャート図、図7は発注画面の説明図、図8はレーザマーキング方法の説明図、図9マーキング可否判定のフローチャート図、図10〜図11はマーキング具体例の評価結果を示す図、図12〜図13は凹状部の測定結果を示す図、図14はマーク位置決定の具体例の説明図、図15はレーザマーキング装置のレンズ保持装置の他の例を示す説明図、図16はマーキング工程のフローチャート図、図17はマーク位置高さ測定方法の説明図、図18はマーキング可否判定の他の例を示すフローチャート図、図19はマーキング可否判定の他の例におけるマーク位置決定の具体例の説明図である。以下、これらの図面を参照にしながら、プラスチック眼鏡レンズの製造システムを説明し、それに併せてプラスチック眼鏡レンズの製造方法、マーキング方法及びマーキング装置を説明する。
【0023】
(プラスチック眼鏡レンズ製造システム)
図4に示されるプラスチック眼鏡レンズ製造システムは、眼鏡販売店と工場とがオンラインで結ばれて、受発注がなされ、それに基づいてレンズが製造・納入されるシステムの例である。図4において、発注側の例としての眼鏡販売店60とレンズ加工側の例としてのレンズメーカの工場80とは、通信媒体10によって接続されている。通信媒体10は特に限定されないが、例えば、公衆通信回線、専用回線、インターネットなどを利用できる。また、通信媒体10には途中に中継局を設けるようにしても良い。なお、以下、発注側は、眼鏡販売店60の場合で説明するが、これに限定するものではなく、例えば、眼科医、個人あるいはレンズメーカの営業所等であってもよい。また、図4では発注側は一つしか示していないが、実際には通信媒体を介して多数接続することが可能である。
【0024】
眼鏡販売店60には、オンライン注文用端末としてのコンピュータ61(以下単に注文用端末とも記す)と、眼鏡フレームのレンズ枠形状を測定するフレーム形状測定装置(フレームトレーサ)62とが設置されている。注文用端末61は、レンズや眼鏡を注文するために必要な情報を送受信するための端末で、専用の端末でも良いし、汎用のパソコンにレンズ注文用のソフトウェアがインストールされたものでも良い。また、工場側のネットワークや中継局にWWW(World Wide Web)サーバを設け、そこに注文用のドキュメントやプログラムを登録し、注文用端末のWWWブラウザーで注文画面を表示させるようにしても良い。
【0025】
工場80には、主制御コンピュータ30と、データサーバ40と、レーザマーキング装置20と、各種加工装置81、82、83、84がネットワークを介して接続されている。主制御コンピュータ30は、前記注文用端末コンピュータ61との接続を行なう図示しない接続手段と、注文用端末コンピュータ61から眼鏡あるいは眼鏡レンズの注文を受け付け処理するための受注処理手段31と、受注した内容に基づいて製造する眼鏡レンズの設計データを作成する設計データ作成手段32と、この設計データに基づいて各種製造装置の制御に必要な加工データを作成する加工データ作成手段33と、前記設計データに基づいてレンズ基材におけるレンズカット形状(玉型形状)の領域を算出するレンズカット形状算出手段35と、可視マークのマーキングの可否判定及びマーキング位置決定を行なうマーキング可否判定・位置決定手段36と、決定されたマーク位置にマーキングを行なうためにレーザマーキング装置の制御に必要な加工データを作成するマーキング加工データ作成手段34と、レーザマーキング装置を含め各種加工装置の制御・管理等を行なうための図示しない手段などを備えている。
【0026】
データサーバ40は、注文用端末コンピュータ61から入力された注文内容である受注データ410と、マーキングに必要な各種データであるマーキングデータ420と、各種レンズに関する情報が登録されているレンズ情報データ430と、フレーム情報に関するデータが登録されているフレーム情報データ440等が、記憶手段に記憶されている。
【0027】
レーザマーキング装置20は、レンズにマーキングするためのレーザ光を出力するレーザ照射装置210と、レンズを所定の位置に保持するレンズ保持装置220と、前記レーザ照射装置を制御するためのレーザ照射装置制御手段231と、前記レンズ保持装置を制御するためのレンズ保持装置制御手段232とを備えた制御コンピュータとを有する。
【0028】
図5に示したようにレーザ照射装置210は、レーザ発振器211から出射された発散レーザ光または平行レーザ光212が、ビームエキスパンダ213によってそのスポットが拡径され、一対の反射板214、215にて方向を変えられ、集光レンズ(例:fθレンズ)216で眼鏡レンズ1における凸面1Aの所定のマーキング位置に集束するように集光されて照射される。なお、レーザ発振器211としては、例えば、焦点距離が145mm、発振レーザがCO2レーザクラス4、レーザ発信出力が最大30W、平均12W、発光ピーク波長10.6μm、のCO2レーザを発振するものを用いる。また、レーザ光の制御は、例えば、印字方式をガルバノスキャニング方式とし、印字範囲を90mm×90mm、文字サイズを0.2mm〜90mm、走査速度を3000mm/sとして行なう。
【0029】
上記一対の反射板214、215のうちの、一方はX方向用であり、他方はY方向用である。これらの反射板214、215の姿勢を制御することによって所定の範囲(例えば、90×90mmの範囲)において任意に走査させることができる。これにより眼鏡レンズ1の凸面上で任意の位置にレーザ光が照射でき、文字や図形など各種マークをレンズ上に刻印することができる。なお、レーザの直下に刻印位置が来るようにレンズを移動させて刻印する方が、刻印位置にかかわらずレンズへのレーザの照射方向が変化しないという点で好ましい。
【0030】
レンズ保持装置220は、レンズ支持筒221を有し、このレンズ支持筒221の上にレンズを載せ、図示しない真空ポンプによりレンズ支持筒内を負圧にすることにより、眼鏡レンズ1における凹面1Bの中央部が吸着保持されて、眼鏡レンズ1がレーザマーキング装置に設置される。なお、レンズの取り付け取り外しを容易にするために、レーザ照射位置とレンズ取り付け取り外し位置の間を図示しない移動手段により移動可能に構成されている。また、レンズ保持装置は、レンズ照射位置において、可視マークを施す位置の高さをレーザ照射装置の焦点距離に合わせることができるように、図示しない高さ調節手段により高さが変更可能に構成されている。図15はレンズ保持装置の他の例である。この場合は、レンズをあらかじめレンズ保持具640に取り付け、このレンズ保持具をレンズ保持装置600に取り付けることによりは、レンズを保持している。前記レンズ保持具640は、レンズを保持するレンズ保持台641と、このレンズ保持台641のレンズが保持される側と反対側に設けられたレンズ保持装置への取付部642とを備えている。レンズの前記レンズ保持台への固定は、このレンズの保持台にレンズ保持機構を設けることによって行ってもよいし、両面テープなどの接着手段により接着してもよい。
【0031】
レーザ照射装置制御手段231は、レーザ照射装置210を制御する手段であり、レーザの出力値、走査速度、レーザ照射位置、走査方向、重ね刻印回数などを制御する。レンズ保持装置制御手段232は、レンズ支持筒による吸引、解除の制御、レンズ保持装置のレンズ取付け取外し位置とレーザ照射位置間の移動、レンズ保持装置の高さ調節のための移動を制御する。なお、レーザ照射位置でのレンズ保持位置のX−Y制御、回転制御機能を持たせてもよい。このような機能を持たせることにより位置決めの自動化が可能になる。また、レーザの直下にマーキング位置を移動させてのマーキングも容易になる。なお、前記レンズ保持装置の高さ制御は、あらかじめ算出あるいは実測されたマーク位置の高さに応じて、マーク位置がレーザ照射装置の焦点距離位置に来るように移動させることにより行なう。
【0032】
各種加工装置としては、受注内容に応じて、レンズブランクの仕上げられていない光学面を切削、研削する研削装置81、切削や研削された光学面を研磨する研磨装置82、レンズの縁摺り加工やヤゲン加工をする周縁加工装置83、検査装置84、その他図示しないブロック装置などがある。なお、上記各種コンピュータやネットワーク機器が有する機能は適宜統合、分散させても良い。
【0033】
(プラスチック眼鏡レンズの製造方法)
次に、プラスチック眼鏡レンズの製造方法を説明する。図6において、眼鏡販売店60では、装用者(購入者)の処方値やレイアウト情報、注文する眼鏡レンズや眼鏡フレームの情報、眼鏡レンズの表面に刻印する可視マークに関する情報を注文用端末に入力し、通信媒体を介して工場側へ送信する。このときの可視マークに関する情報を入力するための注文画面の例は図7に示したとおりである。
【0034】
工場80側では、主制御コンピュータ30に登録されているプログラムにより、注文用端末61から送られてきた注文データを受信する(S1)。そして、送られてきた注文データを基に受注処理を開始する(S2)。受注処理としては、まず注文データをデータサーバの記憶手段に受注データとして記憶する。受注データとしては、指定された眼鏡レンズに関するレンズ指定データ、指定された眼鏡フレームに関するフレーム指定データ、処方値に関する処方データ、レイアウト情報に関するレイアウトデータ、指定された可視マークに関するマーク指定データ等がある。レンズ指定データとしては、レンズ種に関する情報(レンズ材質、屈折率、レンズ表裏面の光学設計、レンズ外径、レンズカラー、コーティング、これらを識別できる製品識別コードなど)や、レンズ加工指示に関する情報(レンズ厚さ、コバ厚さ、偏心、縁面の仕上げ方法、レンズ保持部材取付部の加工種類や方法など)がある。
【0035】
フレーム指定データとしては、フレームサイズ、フレーム素材、色、レンズカット形状(フレーム形状測定装置によって測定されたレンズ枠形状あるいはあらかじめ設定されている玉型形状)、これらを識別できる製品識別コードなどがある。処方データとしては、S度数、C度数、プリズム、加入度、軸などがある。レイアウトデータとしては、瞳孔間距離(遠用瞳孔距離)、近用瞳孔間距離、SEGMENT小玉位置、アイポイント位置(光学中心位置、フィッティングポイント位置、遠用部光学中心位置など)、プリズム測定基準点位置などがある。マーク指定データとしては、マークの種類、マークの大きさ、左右一対のレンズのうちのマークを刻印するレンズ、マークの刻印位置、マークの刻印条件などがある。
【0036】
次に、これら受注データに基づいて、主制御コンピュータ30に登録されている眼鏡レンズ加工設計プログラムにより、注文した内容のレンズの設計データが作成されデータサーバに記憶される(S3)。このとき、注文内容のレンズが製造可能かどうかも判定し、製造できない場合は、端末側に注文データの修正をうながす。製造可能と判定された場合は、次に、マーキング可否判定や位置決定に必要なアンカットレンズ上におけるレンズカット形状の算出を行いその結果をデータサーバに記憶する(S4)。続いて受注データと前記レンズカット形状データに基づいてマークが刻印可能かどうかの可否判定が行われ刻印可能の場合はマーク位置が決定される(S5)。この可否判定、位置決定については後述する。なお、マーク刻印が不可能と判定された場合は、その結果を端末側に伝えデータの修正をうながす。また位置が決まった場合にはその位置を端末側に伝え確認をうながす。端末側が注文内容、マーキング内容について承認したらそこで受注を確定する(S6)。受注が確定したら前記眼鏡レンズ加工設計プログラムは各製造工程におけるレンズ加工データ(加工設計値、各種機器設定値、使用治具、その他加工条件)も作成し、データサーバに記憶される(S7)。またレーザマーキング装置を制御するためのマーキング加工データが作成されデータサーバに記憶される(S8)。このマーキング加工データ作成時に、前記S5で決定されてマーク位置での前記レンズ保持装置における高さをレンズの形状データを基に算出してもよいし、後述するようにマーキング前に実測してその測定値をマーキング加工データに追加してもよい。
【0037】
工場には、光学的に仕上げられていない面を有するレンズブランクが予め製造されストックされている(S9、S10)。このレンズブランクは、受注後の切削・研削工程や研磨工程のための切削・研削しろや研磨しろを有する肉厚のレンズである。前記S3、S7で作成された、設計データ、加工データに基づいて使用するレンズブランクが選択され、仕上げられていない面を切削、研削、研磨することによりレンズの両面が光学的に仕上げられた状態になる(S11)。そして受注内容に応じて必要により染色工程を行い(S12)、その後ハードコート工程(S13)によりレンズの表面にハードコート膜が形成される。
【0038】
前記ハードコート膜が形成されたレンズは次のマーキング工程に進み、S8で作成されたこのレンズのマーキング加工データに基づいてレンズがマーキングされる(S14)。このマーキング工程の詳細については後述する。マークが施されたレンズは、次の反射防止工程でレンズの両面に反射防止膜が形成される(S15)。この反射防止膜の上に受注データに基づいて必要により撥水コート、水やけ防止コート、防汚コート、ミラーコートなどが施される(S16)。その後レンズは検査工程に移り光学特性や各種薄膜の状態が検査(S17)された後、次の玉摺り加工工程により所定の玉型形状にカット(玉摺り)され(S18)、フレームが注文されていない場合はそのレンズが、フレームも合わせて注文されている場合はそのフレームにレンズが取り付けられて(枠入れ(S19)出荷される(S20)。
【0039】
なお、単焦点レンズの場合はレンズの方向が特定できないためハードコート後、マーキング前にレンズ上に回転方向位置を特定でいる目印をつけ、この目印を基準にマーキングを行なうと良い。また、マークの視認性をさらに高めるために凹状部分を染色しても良い。この場合、ハードコート後にマーキングを行う部分に染料を塗布した状態で、レーザを照射し、染料を定着させ、レーザ照射後に余分な染料をふき取ると良い。
【0040】
(マーキング方法)
次に、上述のプラスチック眼鏡レンズ製造方法におけるステップS14の上記可視マークを形成するマーキング方法を説明する。図8は、レーザマーキングにより視認可能なマークをマーキングする方法の説明図である。図8において、この実施の形態におけるマーキング対象物であるプラスチックレンズ1には、レーザ照射装置の一部を構成する焦点位置合わせ用レンズ2が対向している。プラスチックレンズ1は、レンズ基材3の表面にハードコート膜4が積層されて構成されているものである。
【0041】
この実施の形態のレーザマーキング方法は、発散レーザ光又は平行レーザ光Lを焦点位置合わせ用レンズ2によってプラスチックレンズ1の表面又は表面近傍の点Pに集束させ、集束されたレーザ光Lのエネルギーによってレンズ基材表面のハードコート膜4とレンズ基材3を熱により溶融蒸発させ、レンズ基材3の表面に、ハードコート膜4が除去された凹状部6を形成する。その後、レンズ基材表面に反射防止膜5を形成する。この結果、上記図1〜3に示されるような眼鏡レンズが得られる。
【0042】
上記レーザマーキング方法によれば、図3に示したように、レンズ基材3の表面のレーザが照射された位置は、瞬時に溶融蒸発して凹状部6が形成される。このため外部からの光やレンズ透過光がこの凹状部6に照射されると光は散乱し、外部から視認可能となってマークとして作用する。また、凹状部6の表面付近のプラスチックが熱により変質し屈折率や透過率等が他の部分と異なるものとなっており、屈折率や透過率などの光学的特性が変化していることもマークの視認性に影響していると考えられる。
【0043】
なお、上記図3においては、凹状部6の周囲はレンズ表面より盛り上がっているが、これはレーザの熱によりレンズ基材が変質して膨張した状態を表している。このように凹状部を形成後に、反射防止膜が施されるため、凹状部6の表面はレンズ基材の表面に反射防止膜が形成されている。このため、反射防止膜コーティング後にレーザマーキングする場合のように反射防止膜が損傷する虞がない。また、従来のようにレンズ内部にレーザを照射する場合のように、レーザの焦点をレンズの内部に位置合わせする必要が無いのでマーキングが容易で有り、しかも視認性の高いマークを容易に形成できる。次にマーキング工程(S14)の作業手順について図16、図17を参照にして説明する。なお、以下の説明では、マーク位置の高さは実測により求める場合であり、また、レーザマーキング装置のレンズ保持装置は図15に記載されたレンズ保持具を介して取り付ける場合である。
【0044】
はじめに、前記設計データ作成手段32、加工データ作成手段33、マーキング加工データ作成手段33、レンズカット形状算出手段35によって作成された設計データ、加工データ、マーキング加工データ、並びに受注データに基づきレンズレイアウトチャート図をコンピュータにより作成し出力する(S301)。このレイアウトチャート図には、アンカットレンズ上におけるマーク位置を特定するための情報(レンズカット形状、アイポイント位置、位置決め基準点、フレームセンター、マーク位置、水平中心線及び垂直中心線など)が実寸で表示されている。なお、垂直中心線とはレンズカット形状に外接する2つの垂直接線から等距離にある線であり、水平中心線とはレンズカット形状に外接する2つの水平接線から等距離にある線であり、フレームセンターとは垂直中心線と水平中心線との交点である。また、位置決め基準点とは例えば、単焦点レンズにおいては、アイポイント(光学中心)であり、累進屈折力レンズにおいては、アイポイント(フィッティングポイント)もしくはプリズム測定基準点であり、多焦点レンズにおいては、小玉形状上の基点である。アンカットレンズには、あらかじめ位置決め基準点やレンズの水平方向が特定できる印が施されており、レイアウトチャート図とアンカットレンズの位置決め基準点を合わせると共に、水平方向を合わせるようにしてレイアウトチャート図上にアンカットレンズを載せる。そして、レイアウトチャート図上のマーク位置に対応するレンズ上の位置に印を付けるなどして特定する(S302)。このマーク位置が特定されたレンズを前記レンズ保持具に取付ける(S303)。レンズ保持具を取付けたレンズのマーク位置の高さをマーク位置高さ測定装置により測定する(S304)。このマーク位置高さ測定装置と測定方法を図17を参照して説明する。
【0045】
マーク位置高さ測定装置は、測定台601と、この測定台601に設置される保持具載置台630と、高さ測定手段であるダイヤルゲージ620と、このダイヤルゲージ620を保持し前記測定台601に設置するスタンド610とを有する。前記保持具載置台630は、レンズ1が取り付けられたレンズ保持具640を載置するものであり、前記スタンド610は、前記測定台601に固定されるマグネットベース611と、このマグネットベースに立設されたロッド612と、このロッド612に、角度や高さが調節可能なようにジョイント614によって取り付けられたアーム613とを有する。そして、このアーム613の先端部にはダイヤルゲージ620が取り付けられている。ダイヤルゲージ620は、伸縮自在な測定子622を備え、測定子の先端部をマーク位置660等の測定箇所に接触させ、その測定子622の伸縮の程度により高さ変位量を測定し、その測定値を表示部621に表示するものである。これにより、マーク位置高さ650を求める。なお、この測定子には、測定するときに伸縮を手動で操作できるように取手623が設けられている。また、この高さ測定手段はこれに限定されず、ノギスや非接触のセンサなどを用いてもよい。
【0046】
前記レンズ保持具640は、レンズ1をレンズの凹面側を下向きにした状態で載せて固定するレンズ保持台641と、この保持台641のレンズを取付る側と反対側に設けられた取付部642とを備えている。なお、この取付部642は、レンズ保持具640を、レーザマーキング装置のレンズ保持装置600(図15参照)に取り付けるためにも用いられる。この取付部642の周囲の面は、レンズ保持装置600と接触する面を備え、この面が高さ測定の基準位置643となる。保持具載置台630は前記測定台601の上面と接する面と、前記高さ基準面643と接する面を有しこれら面は所定の間隔で平行に形成されているので、前記高さ基準面643と接する面を0位置(原点)として測定することによりレンズ凸面の任意の点の高さを測定することができる。この測定装置によりマーク位置660を測定するには、レンズ保持具640付きのレンズ1を前記保持具載置台630に高さ基準面を接触させて載せ、前記レンズ1のマーク位置660と前記測定子622の先端とが接触する位置に保持具載置台630を測定台601上に配置する。そして前記測定子622の先端を前記レンズ1のマーク位置660に接触させて高さ基準面643からの高さ650を測定する。このように、レーザ照射装置への取付けに使用するレンズ保持具640にレンズを取り付け、レンズ保持具640を基準としてマーク位置660の高さを測定する場合は、レンズの保持のされ方(向き、高さ)にかかわらず、レーザ照射装置に取り付けた時の高さを正確に測定できるため好ましい。特にレンズ後面の外周が同一平面上になくレンズ設置方向が安定しないようなレンズであっても、測定時とレーザ照射時のレンズの設置状態を同じにできる。
【0047】
以上のようにマーク位置660の高さを測定したらその測定値をマーキング加工データに登録する(S305)。保持具付きレンズを設置台から取り外す。そしてレンズ保持装置600をレンズ取り付け位置に移動させた状態でレンズ保持具をレンズ保持装置に取付ける(S307)。そしてレンズ保持装置をレーザ照射位置に移動させる(S308)。前記登録したマーク位置660の高さ測定値に基づき、マーク位置660がレーザ照射装置の焦点距離の高さにくるように前記レンズ保持装置600の高さを調節する(S309)。そしてマーキング加工データに基づきマーキングする(S310)。マーキングが終了したらレンズ保持装置600を取付け取り外し位置に移動させ保持具付きレンズを取り外しレンズを保持具から取り外す(S312)。形成された可視マークの位置やその視認性を検査し(S313)、問題がなければ次の製造工程に移す。なお、レーザ照射前にマーク位置に染料を塗布し(S306)、レーザを照射しても良い。この場合は刻印部分に染料が定着して視認性を向上させることができる。この場合は、マーキング後レンズ上に残った余分な染料はふき取ると良い。
【0048】
(マーキング可否判定、マーキング位置決定)
(具体例1)
次に、上述のプラスチック眼鏡レンズ製造方法におけるステップS5のマーキング可否判定、マーキング位置決定工程について、図9、図14を参照にしながら詳しく説明する。まず、データサーバ40より、マーキング可否判定、マーキング位置決定に必要なデータが主制御コンピュータ30に取り出され、マーキング可否判定・位置決定手段に渡される(S101)。
【0049】
これら可否判定、位置決定に必要なデータ項目としては、フレーム指定データ413、レイアウトデータ412、マーク指定データ415、レンズ指定データ414などがある。フレーム指定データ413としては、レンズカット形状データ(例えば、フレームセンターを原点とした1度ピッチ半径値で表現したフレームシェープ)、スリーピースなどのリムレス眼鏡においてレンズ光学面側に突出するレンズ保持部材が存在する場合のレンズ保持部材の位置、及び、正面からみたときのその光学面に突出する領域(例えば、スリーピースの場合は止めネジの中心をその位置としてこの位置を中心に突出領域をXY座標で表示)、フルリムやリムレスなどのフレーム種別などがある。なお、レンズ保持部材の他の例としては、特開平7−230062に記載された眼鏡のようにレンズ縁面に不貫通の孔を形成し、そこにレンズ保持部材のピン状の突起部を挿入するものや、特開2002−14303に記載された眼鏡のようにレンズ縁面から内側へ切欠部(溝)を設け、そこにレンズ保持部材を嵌め込んだもの等がある。このようなレンズ保持部材の場合もレンズ正面から見た時のその光学面に突出する領域はXY座標で表示する。レイアウトデータとしては、マーク非付与領域基準位置(例えばフレームセンターを原点としたXY座標)、このマーク非付与領域基準位置を基準に定められたマーク非付与領域(例えば非付与領域基準位置を中心に直径30mm以内)。なお、非付与領域基準位置としては、単焦点レンズにおいては、アイポイント位置(光学中心)、累進屈折力レンズにおいては、プリズム測定基準点、多焦点レンズにおいては、遠用アイポイント(遠用部光学中心)を用いることが好ましい。
【0050】
また、マーク指定データ415としては、マークの角度(例えばフレームセンターを中心とした外側水平線を基準とした角度)522、マーク内方向位置(マーク角度方向におけるレンズカット形状の縁からマーク中心までの距離)521、マーキング可否を判定した点がマーキングできないと判定された場合の検索範囲(例えば、マーク角度の前後の角度で指定した範囲、マーク位置を基準とした領域で指定した範囲など)がある。レンズ指定データ414としてはレンズの光学面の設計データがあり、レーザ刻印位置の高さ方向の位置を算出し、それに合わせてレンズの保持位置とレーザ光の焦点距離を合わせる場合に用いる。
【0051】
次に、マーク非付与領域を算出する(S102)。この算出はレンズのマーク非付与領域基準位置(単焦点レンズの場合は光学中心。多焦点レンズの場合は遠用部光学中心。累進屈折力レンズの場合はプリズム測定基準点位置を基準に予め決められた条件の領域を求める。条件としては、例えば、マーク非付与領域基準位置から直径30mm以内とする。
【0052】
次に、マーク位置検索の優先順位を決定する(S103)。これはマーキング可否判定の結果が不可となった場合の次のチェック位置をどのように探すかを指定するものであり、予め決めておいても良い。例えば、最初に指定したマーク角度から上方向に1度ずつずらして検索し、上方向で見つからなかった場合には最初に指定したマーク角度から下方向に1度ずつずらして検索するなどである。
【0053】
マーキングに必要なデータがそろったらマーク位置検索をスタートする(S104)。まず始めに、予め算出してあるアンカットレンズ中のカット形状とこのカット形状により特定されるフレームセンターと、マーク指定データとに基づいてマーキング位置を算出する(例えばマーク角度とマーク内方位置によりレンズカット形状におけるマーク位置が算出される)。そして、その位置がマーク非付与領域基準位置を基準としたマーク非付与領域内にあるかどうかを判定する(S105)。
【0054】
マーク位置がマーク非付与領域にある場合は、マーキング不可となり次のマーク位置候補検索のステップS110に移る。マーキング非付与領域内にないと判定されたら、フレーム種別データからレンズ保持部が光学面に突出するものかどうかを判断し(S106)、レンズ光学面に突出するレンズ保持部がある場合は正面から見てマークと重ならないかどうかを判定する(S107)。重なる場合はマーキング不可となり次のマーク位置候補検索のステップS110に移動する。
【0055】
重ならない場合はその位置がマーク位置として決定される。S106において光学面に突出するレンズ保持部が無いと判断された場合はレンズ保持部位置チェックを行わずにマーク位置が決定される。マーク位置が決定したら、マーク位置の座標が主制御コンピュータに送られマーキング加工データが作成される。
【0056】
上記、マーク非付与領域チェック、レンズ保持部位置チェックで不可となった場合は、次のマーク位置候補検索の処理(S110)で、S103で決定されているマーク位置検索優先順位設定に従って次のマーク位置候補が検索され、その位置がマーク指定データのマーク検索範囲内にあればマーク位置候補として決定される。前記マーク位置検索優先順位設定に従って検索してもマーク検索範囲内にマーク位置候補が見つからない場合には、マーク候補なしとなる。マーク位置候補の有無を判定し(S111)、マーク候補がない場合には、マーク不可と判定され(S112)エラーコードが出力される。候補がある場合はマーク非付与領域チェック(S105)に進む。以下、上記処理をマーク位置が決定されるか、マーク不可が判定されるまで繰り返す。
【0057】
マーク位置決定は、具体的には、例えば、以下のようにして行なわれる。すなわち、図14に示した例は、リムレス眼鏡500にマークを付す場合である。このリムレス眼鏡500は、左右のレンズ501、502とそれらをつなぐブリッジ504と、レンズの両外側に取り付けられた智503と、この智に丁番を介して接続された図示しないテンプルとからなる。この例では、マークを左側のレンズに刻印する例であり、位置はマーク角度522がフレームセンター530を中心に耳側の上30度で、マーク内方位置521はレンズのコバ面から3mmである。レンズは単焦点レンズである。マーク非付与領域基準点511はレンズの光学中心で、これを中心に直径30mm以内がマーク非付与領域510である。この眼鏡はリムレス眼鏡であるためレンズ保持部505がレンズ光学面上に位置している。このため、マーク位置決定に当たっては可視マークの領域が、マーク非付与領域510と、レンズ保持部領域506に重ならない位置に設定される。
【0058】
(具体例2)
マーキング可否判定、マーキング位置決定工程の他の例について、図18と図19を参照にしながら具体的に説明する。前述具体例1との主な相違点は、 マーク指定データ415としてマーク垂直内方向位置B(垂直方向におけるレンズカット形状の縁からマーク中心までの距離)を設定した点と、マーキング可否判定にあたってこのマーク垂直内方向位置のチェックを行なう点である。なお、マーク位置検索条件として、フレームセンター方向への検索を追加した点である。なお、レンズ光学面側に突出するレンズ保持部材としては、レンズ縁面から内側に切欠(溝)740を形成しその切欠にレンズ保持部材を嵌合させる場合で説明する。
【0059】
まず、データサーバ40より、マーキング可否判定、マーキング位置決定に必要なデータが主制御コンピュータ30に取り出され、マーキング可否判定・位置決定手段に渡される(S201)。この例における可否判定、位置決定に必要な項目の主なデータとしては次の通りである。
(フレーム指定データ)
レンズ保持部領域706:切欠の中心線741を中心に幅C、切欠の中心線741とレンズカット形状との交点からの深さDの矩形領域
(レイアウトデータ)
マーク非付与領域710:マーク非付与領域基準位置711を中心に直径30mm以内
(マーク指定データ)
マーク角度θ:フレームセンター730を中心とした外側水平線から上側に30度
マーク内方向位置A:3mm(レンズ縁面にヤゲンを形成する場合はヤゲンの先端から4mm)
マーク垂直内方向位置B:3mm以上(レンズ縁面にヤゲンを形成する場合はヤゲンの先端から4mm)
マーク領域723:マーク中心720から直径3mm
検索範囲:マーク角度±30度
優先順位I:フレームセンター方向へ検索(0.5mmずらして検索)
優先順位II:マーク角度プラス方向(上方向)へ検索(1度ずらして検索)
優先順位III:マーク角度マイナス方向(下方向)へ検索(1度ずらして検索)
【0060】
マーキングに必要なデータがそろったらマーク位置検索をスタートする(S204)。まず始めに、予め算出してあるアンカットレンズ中のレンズカット形状とこのレンズカット形状により特定されるフレームセンターと、マーク指定データとに基づいてマーキング位置を算出する(マーク角度とマーク内方位置によりマーク位置を算出)。そして、その位置がマーク非付与領域基準位置を基準としたマーク非付与領域内にあるかどうかを判定する(S205)。 マーク位置がマーク非付与領域にある場合は、マーキング不可となり次のマーク位置候補検索のステップに移る。マーキング非付与領域内にないと判定されたら、マーク垂直内方向位置Bが前記値以上あるかどうかを判定する(S206)。マーク垂直内方向位置Bが前記値以上ない場合はマーキング不可となり次のマーク位置候補検索のステップに移る。前記値以上ある場合はレンズ光学面に突出するレンズ保持部の有無を判断し(S207)、レンズ保持部材がある場合は、前記マーク領域と前記レンズ保持部領域が重ならないかどうかを判定する(S208)。重なる場合はマーキング不可となり次のマーク位置候補検索のステップに移動する。重ならない場合はその位置がマーク位置として決定される。S207においてレンズ光学面に突出するレンズ保持部が無いと判断された場合はレンズ保持部位置チェックを行わずにマーク位置が決定される。マーク位置が決定したら、マーク位置の座標が主制御コンピュータに送られマーキング加工データが作成される。
【0061】
上記、マーク非付与領域チェック、マーク垂直内方向位置チェック、レンズ保持部位置チェックで不可となった場合は、次のマーク位置候補検索の処理(S211)で、あらかじめ設定されているマーク位置検索優先順位設定に従って次のマーク位置候補が検索され、その位置がマーク指定データのマーク検索範囲内であれば、マーク位置候補として決定される。この例では、はじめにフレームセンター方向Iへ検索を行ない、非付与領域外で次のマーク候補が見つからない場合には、最初のマーク位置からマーク角度のプラス方向IIへ検索し、それでも次のマーク候補が見つからない場合は、最初の位置から角度のマイナス方向IIIへ検索する。マーク位置候補の有無を判定し(S212)、候補がない場合はマーク不可と判定され(S213)エラーコードが出力される。候補がある場合はマーク非付与領域チェック(S205)に進む。以下、上記処理をマーク位置が決定されるか、マーク不可が判定されるまで繰り返す。この例では、マーク垂直内方向位置を設定しているため、レンズ形状によってマーク内方向位置の条件を満たしていてもマークがレンズの縁近くに位置してしまう場合がなくなる。
【0062】
(マーキング具体例)
次に、上述の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズ製造法によって、実際にマーキングした例を説明する。
【0063】
・ マーキング具体例1
(A)レンズ基材及びハードコート膜の形成
ジエチレングリコールビスアリルカーボネート99.7重量%を主成分とし、紫外線吸収剤として2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン0.03重量%を含有する、屈折率が1.499のプラスチックレンズ(CR−39)を用いた。このプラスチックレンズを、80mol%のコロイダルシリカと20mol%のγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを含有するコーティング液に浸漬硬化してハードコート層(屈折率1.50)を設けた。
(B)レーザマーキング
前記ハードコート層を形成したレンズに、図10に示したレーザマーキング条件A1〜A9でレーザを照射した。刻印するマークは図1、2に示したとのと同じマーク「H」で、大きさは2mm角である。
(C)反射防止膜の形成
前記ハードコート層を有するプラスチックレンズを80℃に加熱し、前記ハードコート層の上に真空蒸着法(真空度2×10−5Torr)によりSiO2からなる下地層〔屈折率1.46、膜厚0.5λ(λは500nmである)〕を形成した。
【0064】
次に、Ta2 O5 粉末、ZrO2 粉末、Y2 O3粉末およびAl2 O3 粉末を混合し、300kg/cm2 でプレス加圧し、焼結温度1300℃で焼結して得られた。蒸着組成物(モル比:Ta2O5 -ZrO2 −Y2 O3 −Al2 O3=1.3:1:0.5:0.1、Al2 O3 含有率1.26重量%)を電子銃出力電流170mAにて加熱して形成される混合層(屈折率2.08、膜厚0.063λ)と、SiO2層(屈折率1.46、膜厚0.086λ)よりなる第1の低屈折率層を形成した。この第1の低屈折率層の上に前記蒸着組成物と同じ蒸着組成物にて4成分光屈折率層(屈折率2.08、膜厚0.5λ)を形成し、さらに、その層の上にSiO2からなる第2の低屈折率層(屈折率1.46、膜厚0.25λ)を形成して反射防止膜を有するプラスチックレンズを得た。なお、前記低屈折率層および高屈折率層は前記下地層を形成した同様の真空蒸着法により形成した。
【0065】
・マーキング具体例2
(1)レンズ基材及びハードコート膜の形成
ガラス製容器に、有機ケイ素化合物のγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン142重量部を加え、攪拌しながら、0.01N塩酸1.4重量部、水32重量部を滴下した。滴下終了後、24時間攪拌を行いγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解溶液を得た。この溶液に、酸化第二スズ−酸化ジルコニウム複合体ゾル(メタノール分散、全金属酸化物31.5重量%、平均粒子径10〜15ミリミクロン)460重量部、エチルセロソルブ300重量部、滑剤としてシリコーン系界面活性剤0.7重量部、硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネート8重量部を加え、充分に攪拌した後、濾過を行なってコーティング液を得た。アルカリ水溶液で前処理したプラスチックレンズ基材[HOYA(株)製、眼鏡用プラスチックレンズ(商品名:EYAS)、屈折率1.60]を、前記コーティング液の中に浸漬させ、浸漬終了後、引き上げ速度20cm/分で引き上げたプラスチックレンズを120℃で2時間加熱してハードコート層を形成した。
【0066】
(2)レーザマーキング
前記ハードコート層を形成したレンズに、図11に示したレーザマーキング条件B1〜B9でレーザを照射した。刻印するマークは図1、2に示したとの同じマーク「H」で、大きさは2mm角である。
(3)反射防止膜の形成
前記ハードコート層を有するプラスチックレンズを80℃に加熱し、前記ハードコート層の上に真空蒸着法(真空度2×10−5Torr)によりSiO2からなる下地層〔屈折率1.46、膜厚0.5λ(λは500nmである)〕を形成した。
【0067】
次に、Ta2 O5 粉末、ZrO2 粉末、Y2 O3粉末およびAl2 O3 粉末を混合し、300kg/cm2 でプレス加圧し、焼結温度1300℃で焼結して得られた蒸着組成物(モル比:Ta2O5 -ZrO2 −Y2 O3 −Al2 O3=1.3:1:0.5:0.1、Al2 O3 含有率1.26重量%)を電子銃出力電流170mAにて加熱して形成される混合層(屈折率2.08、膜厚0.118λ)と、SiO2層(屈折率1.46、膜厚0.056λ)よりなる第1の低屈折率層を形成した。この第1の低屈折率層の上に前記蒸着組成物と同じ蒸着組成物にて4成分光屈折率層(屈折率2.08、膜厚0.25λ)を形成し、さらにその層の上にSiO2からなる第2の低屈折率層(屈折率1.46、膜厚0.25λ)を形成して反射防止膜を有するプラスチックレンズを得た。なお、前記低屈折率層および高屈折率層は前記下地層を形成した同様の真空蒸着法により形成した。
【0068】
次に、上記形成したマークの良否について説明する。
・マーキングの良否の判定基準
(a)視認性
レーザマーキングを行った具体例1及び2を、通常の蛍光灯の照明下で、視認性を評価するマークが人の顔の肌の上にくるようにレンズを配置し、このレンズから60cm離れた位置からマークが確認できるかどうかを検査者の目視により判定した。判定基準は次の通り。
A:満足できるレベル
B:やや満足できるレベル
C:満足できないレベル
この評価結果を図10、図11に示す。
【0069】
(b)鮮明度
レーザマーキングを行った実験対象レンズ1と2を、通常の蛍光灯の照明下で、視認性を評価するマークが人の顔の肌の上にくるようにレンズを配置し、このレンズから20cm離れた位置からマークの内容が読み取れるかどうかを検査者の目視により判定した。判定基準は次の通り。
A:満足できるレベル
B:やや満足できるレベル
C:満足できないレベル
この評価結果を図10、図11に示す。なお、図10、図11において、レーザマーキング条件のうちの出力(%)とあるのは、最大出力30Wに対する%表示である。
【0070】
評価の結果は図10、図11に示したとおりであった。この場合、評価がCとされた、A1、B1、B2の条件では、60cm離れた位置からマークの存在を十分に確認することができず、20cm離れた位置からもそのマークの内容は読み取ることはできなかった。また、B2の条件では、60cm離れた位置からはマークの存在が何とか確認できるものの、20cm離れた位置からもそのマークの内容は読み取ることができなかった。上記以外の条件では、いずれの場合も視認性、鮮明度ともに良好だった。
【0071】
・マーキング状態
条件A3、A5、A7、B3、B5、B7でレーザ光が照射されてマーキングがなされた後のプラスチックレンズ1の表面の凹凸状態を図12及び図13に示す。なお、図12のA0、B0はマーク部分以外の凹凸状態を示している。
【0072】
図12、図13はランクホブソンテーラー社のタリサーフにより、プラスチックレンズの表面を測定子で走査し、マークの線幅及び深さを測定したものである。図において、凹部分がレーザ光によって蒸発されて、表面に凹状部が形成された部分であり、この凹状部がマークとしての視認作用を生じさせるものと考えられる。なお、各グラフの傾きは、測定時にレンズが僅かに傾いていたためである。また、(A0)、(B0)に示すようにマーク部分以外では当然に凹部は生じない。
【0073】
この測定結果を基に凹状部の幅と深さを算出した結果を図10及び図11に示す。なお、図3に示したとおり、幅Wは、レンズ表面から凹み始めた位置あるいは凹状部の両脇の最も高い位置の間隔で測定している。また、深さは、膨張していない表面からの深さD2、凹状部の両側の隆起している部分の最も高い位置からの深さをD1としている。この結果からもわかるとおり、(A3)、(B3)のように凹状部の深さが浅い場合には視認性、鮮明がやや劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、視界を妨げにくい位置で、かつ、カットされたときに取り除かれない位置に視認性の良好なマークが形成されたプラスチック眼鏡レンズを得る場合等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の一実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズである単焦点眼鏡レンズの平面図である。
【図2】他の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズである累進屈折力眼鏡レンズの平面図である。
【図3】図1又は図2における可視マーク部分の断面図である。
【図4】本発明の実施の形態にかかるプラスチック眼鏡レンズを製造するプラスチック眼鏡レンズ製造システムの説明図である。
【図5】レーザマーキング装置の説明図である。
【図6】製造工程のフローチャート図である。
【図7】発注画面の説明図である。
【図8】レーザマーキング方法の説明図である。
【図9】マーキング可否判定のフローチャート図である。
【図10】マーキング具体例の評価結果を示す図である。
【図11】マーキング具体例の評価結果を示す図である。
【図12】凹状部の測定結果を示す図である。
【図13】凹状部の測定結果を示す図である。
【図14】マーク位置決定の具体例の説明図である。
【図15】レーザマーキング装置のレンズ保持装置の他の例を示す説明図である。
【図16】マーキング工程のフローチャート図である。
【図17】マーク位置高さ測定方法の説明図である。
【図18】マーキング可否判定の他の例を示すフローチャート図である。
【図19】マーキング可否判定の他の例におけるマーク位置決定の具体例の説明図である。
【符号の説明】
【0076】
3 レンズ素材
4 ハードコート膜
5 反射防止膜
6 凹状部
110 単焦点眼鏡レンズ
111 光学中心
112 レンズカット形状
113 可視マーク非付与領域
120 累進屈折力レンズ
121 遠用アイポイント
123 可視マーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材表面にハードコート膜及び反射防止膜を有するプラスチック眼鏡レンズであって、視界の妨げにならない位置に外部から良好に視認可能なマークが設けられたプラスチック眼鏡レンズにおいて、
前記マークは、このマークを構成する部分について、前記ハードコート膜が除去され、かつ、前記レンズ基材の一部が表面から内部に向けて微小量だけ除去されて凹状部に形成されているとともに、
前記ハードコート膜の前記凹状部に望む断面並びに前記レンズ基材の凹状部の表面に反射防止膜が形成されていることにより、外部から良好に視認可能になっていることを特徴とするプラスチック眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記凹状部の深さが5μm以上で、幅が90μm以上であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記反射防止膜の上に撥水膜を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
プラスチック眼鏡レンズにマークを施すマーキング方法において、
前記プラスチック眼鏡レンズ基材上にハードコート膜を設け、
次に、前記マークの形に前記ハードコート膜を除去するとともに、さらに前記基材自体にも所定深さの凹部が形成されるように、ハードコート膜及び基材の一部を除去し、
次いで、前記ハードコート膜の表面及び前記基材の凹部の表面に反射防止膜を設けることによって、外部から良好に視認可能なマークを形成することを特徴とするマーキング方法。
【請求項5】
前記凹状部の深さが5μm以上で、幅が90μm以上であることを特徴とする請求項4に記載のマーキング方法。
【請求項6】
前記凹部の形成はレーザ照射により行うことを特徴とする請求項4又は5に記載のマーキング方法。
【請求項7】
前記マークは、アイポイントもしくはプリズム測定基準点を基準にした所定の領域の外に形成されることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のマーキング方法。
【請求項8】
レーザ照射前にマーク付与位置の高さを測定し、その測定された高さを基にマーク付与位置とレーザ照射の焦点距離とを合わせてからレーザ照射することを特徴とする請求項6又は7記載のマーキング方法。
【請求項9】
プラスチックレンズ素材に所定の加工処理を施してプラスチック眼鏡レンズを製造するプラスチック眼鏡レンズ製造方法において、
請求項4〜8のいずれかのマーキング方法によりマーキングを施す工程を含むことを特徴とするプラスチック眼鏡レンズ製造方法。
【請求項10】
プラスチック眼鏡レンズにマークを施すマーキング装置であって、
レンズカット形状情報と、アイポイントもしくはプリズム測定基準点位置情報と、アイポイントもしくはプリズム基準点を基準にマークを付与しない領域を定めたマーク非付与領域情報と、マークを付与する位置についての条件が定められているマーク指定情報とを基にマーク付与位置を算出する手段を備え、
前記マーク付与位置の算出は、前記マーク指定情報に基づく所定の位置で、かつ、前記マーク非付与領域情報で定められているマーク非付与領域に属さない位置をマーク付与位置として決定することを特徴とするマーキング装置。
【請求項11】
前記マーク指定情報には、マークを付与できない場合のマーク位置検索優先順位が定められており、マークが付与できない場合に、前記マーク位置検索優先順位にしたがってマーク付与位置の条件を変更して付与位置を算出することを特徴とする請求項10に記載のマーキング装置。
【請求項12】
前記マーク指定情報に含まれるマーク付与位置の条件は、フレームセンターからの角度とレンズカット形状の外周からの距離とによって定められていることを特徴とする請求項10又は11に記載のマーキング装置。
【請求項13】
前記マーク付与位置が決定できない場合には、前記角度を前記マーク位置検索優先順位に従って順次ずらしてマーク付与位置を算出することを特徴とする請求項12に記載のマーキング装置。
【請求項14】
前記マーク付与位置が決定できない場合には、前記外周からの距離を前記マーク位置検索優先順位に従って順次ずらしてマーク付与位置を算出することを特徴とする請求項12に記載のマーキング装置。
【請求項15】
前記マーク付与位置はレンズ保持部材が位置する領域と重ならない位置に配置することを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載のマーキング装置。
【請求項1】
レンズ基材表面にハードコート膜及び反射防止膜を有するプラスチック眼鏡レンズであって、視界の妨げにならない位置に外部から良好に視認可能なマークが設けられたプラスチック眼鏡レンズにおいて、
前記マークは、このマークを構成する部分について、前記ハードコート膜が除去され、かつ、前記レンズ基材の一部が表面から内部に向けて微小量だけ除去されて凹状部に形成されているとともに、
前記ハードコート膜の前記凹状部に望む断面並びに前記レンズ基材の凹状部の表面に反射防止膜が形成されていることにより、外部から良好に視認可能になっていることを特徴とするプラスチック眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記凹状部の深さが5μm以上で、幅が90μm以上であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチック眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記反射防止膜の上に撥水膜を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の眼鏡レンズ。
【請求項4】
プラスチック眼鏡レンズにマークを施すマーキング方法において、
前記プラスチック眼鏡レンズ基材上にハードコート膜を設け、
次に、前記マークの形に前記ハードコート膜を除去するとともに、さらに前記基材自体にも所定深さの凹部が形成されるように、ハードコート膜及び基材の一部を除去し、
次いで、前記ハードコート膜の表面及び前記基材の凹部の表面に反射防止膜を設けることによって、外部から良好に視認可能なマークを形成することを特徴とするマーキング方法。
【請求項5】
前記凹状部の深さが5μm以上で、幅が90μm以上であることを特徴とする請求項4に記載のマーキング方法。
【請求項6】
前記凹部の形成はレーザ照射により行うことを特徴とする請求項4又は5に記載のマーキング方法。
【請求項7】
前記マークは、アイポイントもしくはプリズム測定基準点を基準にした所定の領域の外に形成されることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のマーキング方法。
【請求項8】
レーザ照射前にマーク付与位置の高さを測定し、その測定された高さを基にマーク付与位置とレーザ照射の焦点距離とを合わせてからレーザ照射することを特徴とする請求項6又は7記載のマーキング方法。
【請求項9】
プラスチックレンズ素材に所定の加工処理を施してプラスチック眼鏡レンズを製造するプラスチック眼鏡レンズ製造方法において、
請求項4〜8のいずれかのマーキング方法によりマーキングを施す工程を含むことを特徴とするプラスチック眼鏡レンズ製造方法。
【請求項10】
プラスチック眼鏡レンズにマークを施すマーキング装置であって、
レンズカット形状情報と、アイポイントもしくはプリズム測定基準点位置情報と、アイポイントもしくはプリズム基準点を基準にマークを付与しない領域を定めたマーク非付与領域情報と、マークを付与する位置についての条件が定められているマーク指定情報とを基にマーク付与位置を算出する手段を備え、
前記マーク付与位置の算出は、前記マーク指定情報に基づく所定の位置で、かつ、前記マーク非付与領域情報で定められているマーク非付与領域に属さない位置をマーク付与位置として決定することを特徴とするマーキング装置。
【請求項11】
前記マーク指定情報には、マークを付与できない場合のマーク位置検索優先順位が定められており、マークが付与できない場合に、前記マーク位置検索優先順位にしたがってマーク付与位置の条件を変更して付与位置を算出することを特徴とする請求項10に記載のマーキング装置。
【請求項12】
前記マーク指定情報に含まれるマーク付与位置の条件は、フレームセンターからの角度とレンズカット形状の外周からの距離とによって定められていることを特徴とする請求項10又は11に記載のマーキング装置。
【請求項13】
前記マーク付与位置が決定できない場合には、前記角度を前記マーク位置検索優先順位に従って順次ずらしてマーク付与位置を算出することを特徴とする請求項12に記載のマーキング装置。
【請求項14】
前記マーク付与位置が決定できない場合には、前記外周からの距離を前記マーク位置検索優先順位に従って順次ずらしてマーク付与位置を算出することを特徴とする請求項12に記載のマーキング装置。
【請求項15】
前記マーク付与位置はレンズ保持部材が位置する領域と重ならない位置に配置することを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載のマーキング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2007−41569(P2007−41569A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178821(P2006−178821)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】
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