説明

プラスマローゲン含有脂質の製造方法

【課題】プラスマローゲン含有量が高く、且つ食品に使用した際の安全性の問題が解決されたプラスマローゲン含有脂質を提供すること、さらには、そのようなプラスマローゲン含有脂質を効率的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】以下の(1)、(2)及び(3)の工程からなることを特徴とするプラスマローゲン含有脂質の製造方法。
(1)動物組織を脱水処理する工程
(2)上記(1)の工程で脱水処理された動物組織から、疎水性溶媒と親水性溶媒との混合溶媒を用いてプラスマローゲンを抽出し、抽出液を得る工程
(3)上記(2)の工程で得た抽出液から溶媒を除去する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理学的に種々の機能性を有するプラスマローゲンを高濃度で含有する脂質を、より効率的に、かつ安全に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスマローゲンは、リン脂質の一種であり、哺乳類、鳥類、魚介類等の動物組織に主に存在し、なかでも内臓組織や筋肉組織に多く含まれている。
その構造は、グリセロール骨格のsn−1位にアルケニル鎖(ビニルエーテル結合)、sn−2位にアシル鎖、sn−3位に塩基の結合したリン酸をもつものである。このリン酸に結合する主たる塩基は、コリン又はエタノールアミンであり、それぞれの場合、プラズマローゲンは、ホスファチジルコリンプラスマローゲン、エタノールアミンプラスマローゲンと呼ばれることもある。例えば、哺乳類の心臓や骨格筋ではホスファチジルコリンプラスマローゲンの比が高く、その脳や腎臓ではエタノールアミンプラスマローゲンの比が高いことが知られている。
【0003】
これらのプラスマローゲンの生理機能はいまだ未解明であるが、近年、その内因性の抗酸化物質としての作用と、コレステロール等の物質の輸送、あるいはアルツハイマー症等の疾病との関連性が明らかになりつつあり、機能性食品素材としての利用が期待されている。
【0004】
これらのプラスマローゲンを得る方法としては、プラスマローゲンを多く含有する動物組織から有機溶媒を使用して脂質画分を抽出し、溶媒を除去することでプラスマローゲン含有脂質を製造し、さらに必要に応じ精製する方法が行われている。
ここで、動物組織から脂質画分を抽出する一般的な方法としては、Folch法(非特許文献1参照)、Bligh & Dyer法(非特許文献2参照)が行なわれており、これらの方法を使用して動物組織からプラスマローゲン含有脂質を製造することについては、例えば特許文献1、2にすでに開示されている。
【0005】
しかし、これらの方法においては、クロロホルム、メタノール等、食品に使用した際に残存による安全性が問題となる溶媒を用いることが必要であり、安全性の面で問題があることに加え、脂質の抽出効率は高いものの、得られる脂質画分中のプラスマローゲンの含有率が低い、あるいは、リン脂質中のプラスマローゲンの含有率が低い、という問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開2003−12520号公報
【特許文献2】特表平10−505614号公報
【非特許文献1】Folch et al.:J. Biol. Chem., 226, 497-505, 1957
【非特許文献2】Bligh et al.:Can. J. Biochem. Physiol., 37, 911-917, 1959
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、プラスマローゲン含有量が高く、且つ食品に使用した際の安全性の問題が解決されたプラスマローゲン含有脂質を提供すること、さらには、そのようなプラスマローゲン含有脂質を効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、抽出する溶媒について前述の問題点を解決すべく鋭意比較検討を重ねた結果、特定の溶媒を組み合わせた混合溶媒を使用することで、上記目的を達成し得ることを知見した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、以下の(1)、(2)及び(3)の工程からなることを特徴とするプラスマローゲン含有脂質の製造方法、及び該製造方法で得られたことを特徴とするプラスマローゲン含有脂質を提供するものである。
(1)動物組織を脱水処理する工程
(2)上記(1)の工程で脱水処理された動物組織から、疎水性溶媒と親水性溶媒との混合溶媒を用いてプラスマローゲンを抽出し、抽出液を得る工程
(3)上記(2)の工程で得た抽出液から溶媒を除去する工程
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、一般的な脂質抽出法であるFolch法やBligh & Dyer法で使用するようなメタノールやクロロホルムのように安全性に問題のある溶媒を使用することなく、これらの方法に比べ、プラスマローゲン含有量の高いプラスマローゲン含有脂質、あるいは総リン脂質に対するプラスマローゲン組成比の高いプラスマローゲン含有脂質を、高い抽出効率で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明のプラスマローゲン含有脂質の製造方法(以下、単に本発明の製造方法ともいう)について詳細に説明する。
【0012】
本発明の製造方法においては、原料として動物組織を使用する。該動物組織の起源となる動物としては、ウシ、ブタ等の哺乳類、カツオ、マグロ、イワシ等の魚類、ホタテ、カキ、ハマグリ等の貝類、タコ、イカ等の頭足類、カニ、エビ等の甲殻類等が挙げられる。本発明で使用する動物組織としては、その個体そのものでもよく、その筋肉組織や、脂肪組織、あるいは脳等の神経組織、心臓等の内臓組織、さらにはその皮組織や卵でもよいが、プラスマローゲン含有量が特に高いことから、神経組織か内臓組織を使用することが好ましく、より好ましくは脳又は心臓を用いる。そして、特に好ましくはウシ又はブタの、脳又は心臓を用いる。また、該動物組織は、脱水効率や抽出効率を向上させる観点から、適宜破砕してから用いてもよい。
【0013】
本発明の製造方法においては、まず上記(1)の工程において、上記動物組織を脱水処理する。
上記(1)の工程を行なわずに、脱水処理されてない動物組織を上記(2)の工程に用いると、上記(2)の工程で用いる混合溶媒が動物組織に浸透しにくく、結果としてプラスマローゲン含有脂質の抽出効率が悪くなってしまう。
【0014】
上記脱水処理の方法としては、特に制限されず、送風乾燥法、除湿乾燥法、真空減圧乾燥法、凍結乾燥法等の公知の脱水処理方法を適宜使用することができるが、脱水処理する際のプラスマローゲンの分解が抑制されることから、凍結乾燥法が好ましい。該凍結乾燥法は、常法に従って行なうことができるが、その条件は、後述の好ましい水分含有量を達成できるように適宜選択するのが好ましく、例えば、−60〜−90℃、30〜1000mtorrで、20〜30時間行なうのが好ましい。
【0015】
上記(1)の工程においては、脱水処理された動物組織の水分含有量が、好ましくは15質量%以下、より好ましくは7質量%以下となるまで脱水処理を行なうことが好ましい。なお、下限については特に制限はないが、好ましくは1質量%である。
【0016】
次に、上記(2)の工程において、上記(1)の工程で脱水処理された動物組織から、疎水性溶媒と親水性溶媒との混合溶媒を用いて、プラスマローゲンを、プラスマローゲン含有脂質として抽出し、抽出液を得る。
ここで、疎水性溶媒のみで抽出を行なうと、上記動物組織への浸透性が低く、主に生体膜タンパク質と結合して存在するリン脂質の抽出率が低下するため、結果としてプラスマローゲンの抽出効率が低下してしまうという問題がある。一方、親水性溶媒のみで抽出を行なうと、タンパク質等の親水性成分が共に抽出されてしまうため、得られるプラスマローゲン含有脂質中のプラスマローゲン含有量が低くなってしまうことに加え、水溶性の不純物が多いため、精製や、各種加工、分析が困難になる等の問題もある。
【0017】
ここで使用する疎水性溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、石油エーテル等が挙げられ、本発明では、ヘキサンを使用することが好ましい。
また、ここで使用する親水性溶媒としては、エタノール、プロパノール、ブタノール等の第一級アルコールが代表例として挙げられ、本発明では、エタノールを使用することが好ましい。
【0018】
そして、本発明で使用する混合溶媒としては、上記疎水性溶媒と上記親水性溶媒とを80:20〜20:80の混合比(前者:後者、体積基準、以下同じ)で用いることが好ましい。より好ましくは、哺乳類の心臓や骨格筋等のホスファチジルコリンプラスマローゲンの比の高い動物組織の場合、上記疎水性溶媒と上記親水性溶媒とは80:20〜60:40の混合比で、また、哺乳類の脳や腎臓等のエタノールアミンプラスマローゲンの比が高い動物組織の場合、上記疎水性溶媒と上記親水性溶媒とは60:40〜20:80の混合比で使用する。
【0019】
上記混合溶媒の使用量は、上記(1)の工程で脱水処理した動物組織1kgに対して、好ましくは10〜30リットル、より好ましくは12〜20リットルの割合で使用することが好ましい。また、抽出温度は、好ましくは0〜40℃、より好ましくは10〜20℃とする。抽出時間は好ましくは3〜20分、より好ましくは7〜15分とする。
【0020】
抽出後は、常法により、例えば吸引濾過により固液分離して、抽出液を得る。
また、抽出効率を高めるために、ろ過残渣を同一組成の新たな混合溶媒で再度抽出することを2回以上繰り返し、得られた複数の抽出液を併せて、次の(3)の工程に供することが好ましい。
【0021】
続いて、上記(3)の工程において、上記(2)の工程で得た抽出液から混合溶媒を除去して、プラスマローゲン含有脂質を得る。
混合溶媒を除去する方法としては、例えば、混合溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。混合溶媒を蒸発させる際には、上記抽出液を常法により適宜減圧及び/又は加熱してもよく、特に制限されるものではないが、例えばエバポレーターを使用すれば容易に混合溶媒を蒸発させることができる。
【0022】
本発明の製造方法で得られた上記プラスマローゲン含有脂質からは、アセトン沈殿法(山川民夫監修:生化学実験講座3,脂質の化学(日本生化学会編),p.19−20,1963,東京化学同人)、カラムクロマトグラフィー法(James et al.:Lipids, 23, 1146-1149, 1988)等により、トリグリセリドや部分グリセリドを除去し、プラスマローゲンを含むリン脂質画分のみを分離精製することができる。
【0023】
さらに、本発明の製造方法で得られた上記プラスマローゲン含有脂質は、弱アルカリ処理(Frosolono et al:Chem. Phys. Lipids. 10, 203-14, 1973)、あるいは哺乳動物膵臓由来リパーゼ又は微生物由来のホスホリパーゼA1処理によるジアシル型リン脂質の分解(Woelk et al.:Z Physiol. Chem. 354, 1265-70, 1973)の方法を用いて精製することもできる。
【0024】
本発明の製造方法で得られたプラスマローゲン含有脂質は、プラスマローゲンを高濃度で含有しており、特に、総リン脂質に対するプラスマローゲンの組成比が高いという特徴を有する。本発明の製造方法によれば、例えば10質量%以上という高いプラスマローゲン含有量を持つプラスマローゲン含有脂質を得ることが可能である。また、本発明の製造方法によれば、例えば、総リン脂質に対して25質量%以上という高いプラスマローゲン組成比を持つプラスマローゲン含有脂質を得ることが可能である。
【0025】
本発明の製造方法で得られたプラスマローゲン含有脂質は、製造に際してクロロホルムやメタノールを使用していないため、飲食品や経口医薬品、健康食品に広く、好適に使用することができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0027】
以下の実施例1〜3及び比較例1〜4においては、ホスファチジルコリンプラスマローゲンの比が高い動物組織として、ウシの心臓を利用し、プラスマローゲン含有脂質を製造した。
【0028】
〔実施例1〕
ウシ心臓から筋肉部分50g(水分含有量80質量%)を切り出し、ホモジナイザーを用いて破砕した。これを−75℃、80〜250mtorrで、24時間凍結乾燥し、水分含有量3質量%である、脱水処理された動物組織10.6gを得た。
上記脱水処理された動物組織10.6gに、ヘキサン:エタノール=80:20で混合した混合溶媒180mlを加え、23℃で10分間攪拌して脂質画分を抽出した後、吸引濾過により抽出液1を回収した。続いて、濾過残渣に再度新たな同一組成の混合溶媒180mlを加え、23℃で10分間攪拌して脂質画分を抽出した後、吸引濾過により抽出液2を回収した。さらに、濾過残渣に同一の操作をもう1回繰り返し、抽出液3を回収した。
回収した合計3回分の抽出液1〜3を併せ、エバポレーターを使用して混合溶媒を除去して、残渣としてプラスマローゲン含有脂質を得た。
【0029】
〔実施例2〕
ヘキサン:エタノール=80:20で混合した混合溶媒に代えて、ヘキサン:エタノール=60:40で混合した混合溶媒を使用した以外は、実施例1と同様にしてプラスマローゲン含有脂質を得た。
【0030】
〔実施例3〕
ヘキサン:エタノール=80:20で混合した混合溶媒に代えて、ヘキサン:エタノール=40:60で混合した混合溶媒を使用した以外は、実施例1と同様にしてプラスマローゲン含有脂質を得た。
【0031】
〔比較例1〕
ヘキサン:エタノール=80:20で混合した混合溶媒に代えて、ヘキサン100%の溶媒を使用した以外は、実施例1と同様にしてプラスマローゲン含有脂質を得た。
【0032】
〔比較例2〕
ヘキサン:エタノール=80:20で混合した混合溶媒に代えて、エタノール100%の溶媒を使用した以外は、実施例1と同様にしてプラスマローゲン含有脂質を得た。
【0033】
〔比較例3〕
ウシ心臓から筋肉部分50g(水分含有量80質量%)を切り出し、ホモジナイザーを用いて破砕してペースト状の動物組織50gを得た。このペースト状の動物組織50gに、凍結乾燥による脱水処理を行なうことなく、ヘキサン:エタノール=60:40で混合した混合溶媒180mlを加え、23℃で10分間攪拌した。その後、吸引濾過により得たろ液の上層であるヘキサン層を抽出液1として回収した。続いて、ろ液下層と濾過残渣を合わせ、それに新たに混合溶媒180mlを加え、23℃で10分間攪拌して脂質画分を抽出した後、上記と同様にして抽出液2を回収した。さらに、ろ液下層と濾過残渣に同一の操作をもう1回繰り返し、抽出液3を回収した。
回収した合計3回分の抽出液1〜3を併せ、エバポレーターを使用して混合溶媒を除去して、残渣としてプラスマローゲン含有脂質を得た。
【0034】
〔比較例4〕
Bligh & Dyer法により、以下の手順でプラスマローゲン含有脂質画分を調製した。尚、以下の手順において、抽出は23℃にて行なった。
実施例1で使用した、水分含有量3%である脱水処理された動物組織10.6gに対し、メタノール:クロロホルム=62:38で混合した混合溶媒を130ml加え、10分間攪拌した後、クロロホルム:水=50:50の混合溶媒100mlを加え、さらに10分間攪拌し、プラスマローゲン含有脂質を抽出した。ここで、3000回転で15分の遠心分離操作を行って、下層のクロロホルム層1を回収した。残った上層にクロロホルム60mlを加え、10分間攪拌し、更にプラスマローゲン含有脂質を抽出した。ここで、3000回転で15分の遠心分離操作を行って、クロロホルム層2を回収した。クロロホルム層1及び2を併せ、クロロホルム:メタノール:水=3:48:47の混合溶媒80mlを加え10分間混合した。ここで3000回転で15分の遠心分離操作を行って、クロロホルム層を回収し、エバポレーターを使用して混合溶媒を除去して、残渣としてプラスマローゲン含有脂質を得た。
【0035】
以上の実施例1〜3、比較例1〜4で得られたプラスマローゲン含有脂質について、リン脂質含有量を、高周波誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)によるリンの定量値から算出した。また、プラスマローゲン含有量を、Gottfriedらの方法(Gottfried et al, J. Biol. Chem. 237, 329-33, 1962)により算出した。
得られたプラスマローゲン含有脂質の収量(総脂質の収量)、総脂質中のプラスマローゲン含有量(プラスマローゲン/総脂質の値)、リン脂質中のプラスマローゲン含有量(プラスマローゲン/リン脂質の値)を表1に記載した。
【0036】
【表1】

【0037】
表1の結果からは、本発明のプラスマローゲン含有脂質の製造方法(実施例1〜3)によれば、メタノール及びクロロホルムを用いるBligh & Dyer法(比較例4)に比べ、総脂質の収量は低いものの、安全性に問題があるこれらの溶媒を使用せずに、プラスマローゲン/総脂質の値を同等以上とすることができ、且つ、プラスマローゲン/リン脂質の値を高めることが可能であることがわかる。
また、本発明の製造方法(実施例1〜3)に対し、疎水性溶媒のみ用いた製造方法(比較例1)や、親水性溶媒のみ用いた製造方法(比較例2)では、総脂質の収量が低くなってしまうことがわかる。
さらに、動物組織を脱水処理する工程を省略した製造方法(比較例3)では、プラスマローゲン/リン脂質の値が低くなってしまうことがわかる。
【0038】
以下の実施例4〜6及び比較例5〜6においては、エタノールアミンプラスマローゲンの比が高い動物組織として、ブタの脳を利用し、プラスマローゲン含有脂質を製造した。
【0039】
〔実施例4〕
ブタの脳50g(水分含有量80質量%)を切り出し、ホモジナイザーを用いて破砕した。これを−75℃、80〜250mtorrで、24時間凍結乾燥し、水分含有量5%である、脱水処理された動物組織11.3gを得た。
上記脱水処理された動物組織11.3gに、ヘキサン:エタノール=20:80で混合した混合溶媒180mlを加え、23℃にて10分間攪拌して脂質画分を抽出した後、吸引濾過により抽出液1を回収した。続いて、濾過残渣に再度新たな同一組成の混合溶媒180mlを加え、23℃にて10分間攪拌して脂質画分を抽出した後、吸引濾過により抽出液2を回収した。さらに、濾過残渣に同一の操作をもう1回繰り返し、抽出液3を回収した。
回収した合計3回分の抽出液1〜3を併せ、エバポレーターを使用して混合溶媒を除去し、残渣としてプラスマローゲン含有脂質を得た。
【0040】
〔実施例5〕
ヘキサン:エタノール=20:80で混合した混合溶媒に代えて、ヘキサン:エタノール=40:60で混合した混合溶媒を使用した以外は、実施例4と同様にしてプラスマローゲン含有脂質を得た。
【0041】
〔実施例6〕
ヘキサン:エタノール=20:80で混合した混合溶媒に代えて、ヘキサン:エタノール=60:40で混合した混合溶媒を使用した以外は、実施例4と同様にしてプラスマローゲン含有脂質を得た。
【0042】
〔比較例5〕
ヘキサン:エタノール=20:80で混合した混合溶媒に代えて、ヘキサン100%の溶媒を使用した以外は、実施例4と同様にしてプラスマローゲン含有脂質を得た。
【0043】
〔比較例6〕
Bligh & Dyer法により、以下の手順でプラスマローゲン含有脂質画分を調製した。尚、以下の手順において、抽出は23℃にて行なった。
実施例4で使用した、水分含有量5%である脱水処理された動物組織11.3gに対し、メタノール:クロロホルム=62:38で混合した混合溶媒を130ml加え、10分間攪拌した後、クロロホルム:水=50:50の混合溶媒100mlを加え、さらに10分間攪拌し、プラスマローゲン含有脂質を抽出した。ここで、3000回転で15分の遠心分離操作を行って下層のクロロホルム層1を回収した。残った上層にクロロホルム60mlを加え、10分間攪拌し、更にプラスマローゲン含有脂質を抽出した。ここで、3000回転で15分の遠心分離操作を行って、クロロホルム層2を回収した。クロロホルム層1とクロロホルム層2とを併せ、クロロホルム:メタノール:水=3:48:47の混合溶媒80mlを加え10分間混合した。ここで3000回転で15分の遠心分離操作を行って、クロロホルム層を回収し、エバポレーターを使用して混合溶媒を除去し、残渣としてプラスマローゲン含有脂質を得た。
【0044】
以上の実施例4〜6、比較例5〜6で得られたプラスマローゲン含有脂質について、リン脂質含有量を、高周波誘導結合プラズマ質量分析(ICP−MS)によるリンの定量値から算出した。また、プラスマローゲン含有量を、Gottfriedらの方法(Gottfried et al, J. Biol. Chem. 237, 329-33, 1962)により算出した。
得られたプラスマローゲン含有脂質の収量(総脂質の収量)、総脂質中のプラスマローゲン含有量(プラスマローゲン/総脂質の値)、リン脂質中のプラスマローゲン含有量(プラスマローゲン/リン脂質の値)を表2に記載した。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果からは、本発明のプラスマローゲン含有脂質の製造方法(実施例4〜6)によれば、メタノール及びクロロホルムを用いるBligh & Dyer法(比較例6)に比べ、脂質の抽出量は少ないものの、安全性に問題があるこれらの溶媒を使用せずに、プラスマローゲンの収量/総脂質の値を高めることができ、且つ、プラスマローゲンの収量/リン脂質の値を同等以上にすることが可能であることがわかる。
本発明の製造方法(実施例4〜6)に対し、疎水性溶媒のみ用いた製造方法(比較例5)では、総脂質の収量が低くなってしまうことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)、(2)及び(3)の工程からなることを特徴とするプラスマローゲン含有脂質の製造方法。
(1)動物組織を脱水処理する工程
(2)上記(1)の工程で脱水処理された動物組織から、疎水性溶媒と親水性溶媒との混合溶媒を用いてプラスマローゲンを抽出し、抽出液を得る工程
(3)上記(2)の工程で得た抽出液から溶媒を除去する工程
【請求項2】
上記(1)の工程における脱水処理が、凍結乾燥法によるものであることを特徴とする請求項1記載のプラスマローゲン含有脂質の製造方法。
【請求項3】
上記(2)の工程において用いる混合溶媒が、ヘキサンとエタノールとの混合溶媒であることを特徴とする請求項1又は2記載のプラスマローゲン含有脂質の製造方法。
【請求項4】
上記(2)の工程において用いる混合溶媒は、上記疎水性溶媒と上記親水性溶媒との混合比(前者:後者、体積基準)が80:20〜20:80であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラスマローゲン含有脂質の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの製造方法で得られたことを特徴とするプラスマローゲン含有脂質。

【公開番号】特開2009−227765(P2009−227765A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73270(P2008−73270)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】