説明

プラスミドベクター

【課題】産業上有益な、有用タンパク質の大量生産を目的とした高生産プラスミドベクター、及び該プラスミドベクターを用いた形質転換体を提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列において、(a)48位、(b)262位、(c)149位及び(d)198位から選ばれる1以上のアミノ酸残基が下記アミノ酸残基に置換してなるプラスミド複製タンパク質をコードするDNAを有するプラスミドベクター。(a)位置;Ala、Gly、Thr、Arg、Glu、Asn又はGln:(b)位置;Gly、Ser、Thr、Cys又はVal:(c)位置:Asn:(d)位置;Glu。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種タンパク質生産に有用な複製タンパク質遺伝子を有するプラスミドベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子工学の研究が盛んに行われてきており、遺伝子組換え体微生物を用いて、有用タンパクを大量に生産させる技術が多数報告されている。タンパク質の高生産に関する技術の一つに、高生産プラスミドベクターの開発が挙げられ、例えばアミラーゼ、プロテアーゼやレバンシュクラーゼ等の菌体外酵素の生産に関与する遺伝子の各種プロモーター領域及びこれらのタンパク質の菌体外への分泌に関するシグナルペプチドをコードする領域を組み込んだ発現・分泌ベクター(特許文献1、特許文献2)、プラスミドの複製数を増加させるように、複製領域を変異させたベクター(特許文献3、特許文献4)等が報告されている。
【0003】
しかしながら、一般的に用いられている宿主ベクター系によるタンパク質生産に於いては、その生産量が未だ十分とはいえず、また高生産されうるタンパク質の種類も限られたものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−273591号公報
【特許文献2】特開2000−287687号公報
【特許文献3】特開平6−327480号公報
【特許文献4】特開2003−9863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、産業上有益な、有用タンパク質の大量生産を目的とした高生産プラスミドベクター、及び該プラスミドベクターを用いた形質転換体を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、プラスミドの改変によるタンパク質の大量生産について検討したところ、プラスミドの複製開始領域(Rep)として一般的にも広く用いられている、pAMα1由来の複製タンパク質に特定の変異を導入することにより、同プラスミド上に組み込んだ目的タンパク質の構造遺伝子部分より産生される当該タンパク質の菌体外への分泌量が増大され、当該プラスミドがタンパク質の大量生産に有用であることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の1)〜11)に係るものである。
1)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、(a)48位、(b)262位、(c)149位及び(d)198位から選ばれる1以上のアミノ酸残基が下記アミノ酸残基;
(a)位置:Ala、Gly、Thr、Arg、Glu、Asn又はGln
(b)位置:Gly、Ser、Thr、Cys又はVal
(c)位置:Asn
(d)位置:Glu
に置換してなるプラスミド複製タンパク質をコードするDNAを有するプラスミドベクター。
2)配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の(a)48位、(b)262位、(c)149位及び(d)198位の各位置に相当する位置から選ばれる1以上のアミノ酸残基が下記アミノ酸残基;
(a)位置:Ala、Gly、Thr、Arg、Glu、Asn又はGln
(b)位置:Gly、Ser、Thr、Cys又はVal
(c)位置:Asn
(d)位置:Glu
に置換してなるプラスミド複製タンパク質をコードするDNAを有するプラスミドベクター。
3)さらにバチルス属細菌由来アルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナル領域に由来する塩基配列を含む上記1)又は2)のプラスミドベクター。
4)前記バチルス属細菌由来アルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナル領域に由来する塩基配列が、配列番号13で示される塩基配列からなるセルラーゼ遺伝子の塩基番号1〜659の塩基配列、配列番号14で示される塩基配列からなるセルラーゼ遺伝子の塩基番号1〜696の塩基配列、あるいは当該塩基配列のいずれかと70%以上の同一性を有するか又は当該塩基配列の一部が欠失した塩基配列である、3)記載のプラスミドベクター。
5)上記4)のプラスミドベクターを含有する形質転換体。
6)宿主が微生物である上記5)の形質転換体。
7)以下の工程を含むポリペプチドの製造方法:
目的ポリペプチドをコードするDNAと、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、(a)48位、(b)262位、(c)149位及び(d)198位から選ばれる1以上のアミノ酸残基が下記アミノ酸残基;
(a)位置:Ala、Gly、Thr、Arg、Glu、Asn又はGln
(b)位置:Gly、Ser、Thr、Cys又はVal
(c)位置:Asn
(d)位置:Glu
に置換してなるプラスミド複製タンパク質をコードするDNAを有するプラスミドベクターを構築する工程;
前記プラスミドベクターで宿主微生物を形質転換する工程;および
前記宿主微生物を培養し、生産された目的ポリペプチドを採取する工程。
8)以下の工程を含むポリペプチドの製造方法:
目的ポリペプチドをコードするDNAと、配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の(a)48位、(b)262位、(c)149位及び(d)198位の各位置に相当する位置から選ばれる1以上のアミノ酸残基が下記アミノ酸残基;
(a)位置:Ala、Gly、Thr、Arg、Glu、Asn又はGln
(b)位置:Gly、Ser、Thr、Cys又はVal
(c)位置:Asn
(d)位置:Glu
に置換してなるプラスミド複製タンパク質をコードするDNAを有するプラスミドベクターを構築する工程;
前記プラスミドベクターで宿主微生物を形質転換する工程;および
前記宿主微生物を培養し、生産された目的ポリペプチドを採取する工程。
9)前記プラスミドベクターが、バチルス属細菌由来アルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナル領域に由来する塩基配列をさらに含む、7)又は8)記載の方法。
10)前記バチルス属細菌由来アルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナル領域に由来する塩基配列が、配列番号13で示される塩基配列からなるセルラーゼ遺伝子の塩基番号1〜659の塩基配列、配列番号14で示される塩基配列からなるセルラーゼ遺伝子の塩基番号1〜696の塩基配列、あるいは当該塩基配列のいずれかと70%以上の同一性を有するか又は当該塩基配列の一部が欠失した塩基配列である、9)記載の方法。
11)7)又は8)記載の方法により製造されるポリペプチド。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプラスミドベクターにおいては、同プラスミド上に組み込んだ目的タンパク質の構造遺伝子部分より産生される当該タンパク質の菌体外への分泌量が増大する。従って、本発明のプラスミドベクターを用いることにより、目的タンパク質を効率よく生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のプラスミドベクターの構築例
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のプラスミドベクターに含まれる、プラスミド複製タンパク質をコードするDNAは、以下の(i)又は(ii)のタンパク質をコードするものである。
(i)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、(a)48位、(b)262位、(c)149位及び(d)198位から選ばれる1以上のアミノ酸残基が下記の(a)〜(d)のアミノ酸残基に置換してなるタンパク質。
(a)位置:Ala、Gly、Thr、Arg、Glu、Asn又はGln
(b)位置:Gly、Ser、Thr、Cys又はVal
(c)位置:Asn
(d)位置:Glu
(ii)配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の(a)48位、(b)262位、(c)149位及び(d)198位の各位置に相当する位置から選ばれる1以上のアミノ酸残基が下記の(a)〜(d)のアミノ酸残基に置換してなるタンパク質。
(a)位置:Ala、Gly、Thr、Arg、Glu、Asn又はGln
(b)位置:Gly、Ser、Thr、Cys又はVal
(c)位置:Asn
(d)位置:Glu
【0011】
配列番号2で示されるアミノ酸配列からタンパク質としては、エンテロコッカスフェーカリス(Enterococcus faecalis)由来のプラスミドpAMα1の複製タンパク質が挙げられる。
配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるプラスミド複製タンパク質としては、配列番号2で示されるアミノ酸配列とは異なるが、配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上、好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、更により好ましくは98%以上の同一性を有するものが挙げられる。
斯かるプラスミド複製タンパク質としては、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたものが包含される。
具体的には、例えば、Staphylococcus saprophyticus由来の複製タンパク質などが挙げられる。
このうち、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるプラスミド複製タンパク質が有する、プラスミドの自立増殖に関する機能を有するのが好ましい。
【0012】
本発明のプラスミド複製タンパク質は、配列番号2で示されるアミノ酸配列又はこれと80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の(a)48位若しくはこれに相当する位置、(b)262位若しくはこれに相当する位置、(c)149位若しくはこれに相当する位置及び(d)198位若しくはこれに相当する位置のアミノ酸残基から選択される1以上が他のアミノ酸残基に置換されたタンパク質を意味するが、これらは野生型、野生型の変異体或いは人為的に変異を施した変異体であってもよい。
なお、アミノ酸配列の同一性は、リップマン−パーソン法(Lipman-Pearson法;Science, 227, 1435, (1985))によって計算される。具体的には、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx-Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行なうことにより算出される。
【0013】
従って、本発明のプラスミド複製タンパク質には、配列番号2で示されるアミノ酸配列の48位のアミノ酸残基(Lys残基)が、Ala、Gly、Thr、Arg、Glu、Asn又はGln残基に置換されたもの、262位のアミノ酸残基(Asp残基)がGly、Ser、Thr、Cys又はVal残基に置換されたもの、149位のアミノ酸残基(Lys残基)がAsn残基に置換されたもの、及び198位位のアミノ酸残基(Lys残基)がGlu残基に置換されたもの、ならびに配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるプラスミド複製タンパク質において、配列番号2で示されるアミノ酸配列の48位に相当する位置のアミノ酸残基が、Ala、Gly、Thr、Arg、Glu、Asn又はGln残基に置換されたもの、262位に相当する位置のアミノ酸残基がGly、Ser、Thr、Cys又はVal残基に置換されたもの、149位に相当する位置のアミノ酸残基がAsn残基に置換されたもの、及び198位に相当する位置のアミノ酸残基がGlu残基に置換されたものが包含される。
尚、(a)48位、(b)262位、(c)149位及び(d)198位等のアミノ酸置換は、何れか一でも、複数を同時に行っても良い。
【0014】
ここで、「相当する位置のアミノ酸残基」を特定する方法としては、例えばリップマン−パーソン法等の公知のアルゴリズムを用いてアミノ酸配列を比較し、各プラスミド複製タンパク質のアミノ酸配列中に存在する保存アミノ酸残基に最大の相同性を与えることにより行なうことができる。プラスミド複製タンパク質のアミノ酸配列をこのような方法で整列させることにより、アミノ酸配列中にある挿入、欠失にかかわらず、相同アミノ酸残基の各プラスミド複製タンパク質における配列中の位置を決めることが可能である。相同位置は、三次元構造中で同位置に存在すると考えられ、対象のプラスミド複製タンパク質の特異的機能に関して類似した効果を有することが推定できる。
【0015】
本発明のプラスミドベクターは、プラスミド複製タンパク質をコードするDNAを一般的に行われている部異特異的変異の方法により変異を導入することにより構築することができる。より具体的には、例えばSite-Directed Mutagenesis System Mutan-Super Express Kmキット(タカラ)等を用いて行なうことができる。また、リコンビナントPCR(polymerase chain reaction)法(PCR protocols, Academic Press, New York, 1990)を用いることによって、遺伝子の任意の配列を、他の遺伝子の該任意の配列に相当する配列と置換することが可能である。
【0016】
本発明のプラスミド複製タンパク質をコードするDNAに、DNAの複製開始領域を含むDNA断片、薬剤耐性遺伝子、複製起点を含むDNA領域、転写を開始させるプロモーター領域及び分泌シグナル領域と、目的とする異種遺伝子産物をコードする遺伝子を連結することにより、タンパク質又はポリペプチド等の目的遺伝子産物を大量に生産させ得る組換えプラスミドが構築できる。
【0017】
異種遺伝子としては、アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ペクチナーゼ、プルラナーゼ、ペルオキシダーゼ、オキシゲナーゼ、カタラーゼ等の酵素、インシュリン、ヒト成長ホルモン、インターフェロン、カルシトニン、インターロイキン等の生理活性ペプチドをコードする遺伝子が挙げられるが、遺伝子の種類は特に限定されるものではない。
【0018】
前記転写を開始させるプロモーター領域及び分泌シグナル領域とは、当該異種遺伝子の転写、翻訳及び分泌に関わる制御領域の塩基配列をいう。転写を開始させるプロモーター領域の例としては、プロモーター及び転写開始点を含む転写開始制御領域、リボソーム結合部位、開始コドンを含む翻訳開始領域、又はこれらの組み合わせが挙げられる。分泌シグナル領域の例としては、分泌シグナルペプチド領域が挙げられる。
本発明のプラスミドベクターには、目的の異種遺伝子と、転写、翻訳及び分泌に関わる制御領域とが、作動可能に連結されている(例えば、異種遺伝子の上流に制御領域が連結されている)。当該制御領域は、好ましくは、転写開始制御領域、翻訳開始制御領域及び分泌シグナル領域からなる3領域であり、より好ましくは、分泌シグナル領域は、バチルス(Bacillus)属細菌のセルラーゼ遺伝子由来のものであり、転写開始領域及び翻訳開始領域は、当該セルラーゼ遺伝子の上流0.6〜1 kbの領域である。さらに好ましくは、当該制御領域は、バチルス(Bacillus)属細菌KSM-S237株(FERM BP-7875)又はKSM-64株(FERM BP-2886)由来のセルラーゼ遺伝子の転写開始制御領域、翻訳開始領域及び分泌シグナルペプチド領域である。さらにより好ましくは、当該制御領域は、配列番号13で示される塩基配列の塩基番号1〜659の塩基配列、配列番号14で示される塩基配列からなるセルラーゼ遺伝子の塩基番号1〜696の塩基配列、また当該塩基配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらにより好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列、或いは上記いずれかの塩基配列の一部が欠失した塩基配列である。上記塩基配列の一部が欠失した塩基配列とは、上記塩基配列の一部を欠失しているが、遺伝子の転写、翻訳、分泌に関わる機能を保持している配列を意味する。
【0019】
以下に、バチルス エスピーKSM−KP43株由来のKP43プロテアーゼを生産するための本発明のプラスミドベクターの構築例を示す(図1参照)。
バチルス エスピー KSM−64株(FERM BP-2886)のセルラーゼ遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナル領域の下流にバチルス エスピーKSM−KP43株由来のKP43プロテアーゼ遺伝子を連結させ、さらに複製領域としてpAMα1、薬剤耐性遺伝子としてテトラサイクリン耐性遺伝子を連結して構築した組換えプラスミドベクターにおいて、KP43遺伝子の下流に存在する制限酵素サイト(XbaI)を挟むように双方向のプライマー(図1中aとd)を作成する。また、Ori−pAMα1遺伝子の下流に新たに制限酵素サイト(NheI)を作成するように双方向のプライマー(図1中bとc)を作成し、PCRにより得られる2断片(TcとKP43を含む領域とpAMα1を含む領域)は、双方XbaI、NheIにて消化後、連結可能となるようにする。図中プライマーbとdにより増幅されるpAMα1を含む領域において、増幅過程でのエラー導入を促進させることにより、複製蛋白質にランダムに変異が入ったプラスミドベクターを構築することができる。
【0020】
斯くして得られるプラスミドベクターで、宿主微生物を形質転換すれば、本発明組換え微生物を得られ、この組換え微生物を培養し、該培養物から目的タンパク又はポリペプチドを採取すれば目的タンパク質又はポリペプチドが大量に生産できる。形質転換に用いられる宿主微生物としては、Staphylococcus属、Enterococcus属、Listeria属、Bacillus属等が挙げられるが、このうち、Bacillus属が好ましい。
【0021】
ここで用いられる培地の種類は、当該組換え微生物が生育し、当該酵素を生産することのできるものであれば特に限定されるものではない。また培地には、窒素源と炭素源を適当な濃度で組み合わせ、この他に適当な濃度の無機塩類、金属塩等を添加したものが用いられ、培地のpH及び温度は、用いる組換え微生物が生育し得る範囲内のpH及び温度であれば特に限定されない。
【0022】
さらに生産された目的のタンパク質又はポリペプチドの単離は常法により行われ、必要により精製、結晶化、造粒化できる。
【実施例】
【0023】
実施例1 Rep48位の変異効果
特開2002−218989号公報、特開2002−306176号公報又は特開2004−122号公報に記載のバチルス エスピーKSM−KP43株由来のアルカリプロテアーゼで分泌能力や比活性の向上している変異プロテアーゼ(配列番号3及び4において、46位のPheをLeu、65位のThrをPro、195位のTyrをHis、273位のValをIle、359位のThrをSer、369位のAspをAsn、387位のSerをAlaに置換したアルカリプロテアーゼ)(以下、KP43H2と称する)の生産量を指標にRep48位変異の効果を検証した。
【0024】
プラスミドpAMα1またはpUB110の複製起点および複製タンパク質(Rep)と薬剤耐性領域を含むプラスミドベクター(特開平3−259086号公報)でバチルス エスピーKSM−64株由来のアルカリセルラーゼK−64のプロモーター領域及び分泌シグナル領域を有する発現ベクターpHA64(特開2000−287687号公報)のBamHI、XbaIサイトに、KP43H2構造遺伝子およびターミネーターを連結させたpHA64−KP43H2を鋳型にTakaraサーマルサイクラー480型を用いたPCRによりRepに変異を導入した。すなわち、鋳型となる環状プラスミド0.1〜0.5ngに対して変異導入プライマー対(配列番号5と配列番号9または配列番号7と配列番号10)を各々20pmol、各dNTPを20nmol、Takara ピロベストDNAポリメラーゼ添付バッファーを5μLおよびピロベストDNAポリメラーゼを2U添加し反応液(50μL)を調製した。PCR条件は94℃で1分間変性させた後、94℃ 1分間、55℃で1分間、72℃で4分間を1サイクルとし、30サイクル行い、最後に72℃で10分間恒温した。
【0025】
得られたPCR産物をHigh Pure PCR Product Purification キット(ロッシュ)にて精製し、100μLの滅菌水で溶出した後、2断片を両端を挟むプライマー(配列番号5と配列番号7)にて1断片として増幅させた。つまり1回目のPCRで得られた2断片を各々100分の1に希釈、混合し、上記同様の条件でPCRを行った。増幅したDNA断片を電気泳動にて確認した後、NheI、XbaIで消化し、配列番号6および配列番号8のプライマーを用いてpHA64−KP43H2を鋳型に常法により増幅させたテトラサイクリン耐性遺伝子およびKP43H2遺伝子部分を含む断片をNheI、XbaIで消化したものとDNA Ligation kit ver.2(Takara)を用いて連結させた。
【0026】
反応液をHigh Pure PCR Product Purification キット(ロッシュ)にて精製し、100μL滅菌水にて溶出したDNA溶液を用いてジーンパルサーキュベット(バイオラッド)を用いたエレクトロポレーション法によりバチルス エスピー KSM−KP43株を形質転換した。スキムミルク含有アルカリ寒天培地[スキムミルク(ディフコ)1%(w/v)、バクトトリプトン(ディフコ)1%、酵母エキス(ディフコ)0.5%、塩化ナトリウム0.5%、寒天1.5%、無水炭酸ナトリウム0.05%、テトラサイクリン15ppm]上に生育してきた形質転換株のスキムミルク溶解斑の形成状況により、プロテアーゼ遺伝子導入の有無を判定した。プロテアーゼ遺伝子がpHA64に挿入されたプラスミドを保持している形質転換株を選抜し、以後の培養に供した。
【0027】
各形質転換株について単集落分離、ハロー形成の確認を行い、試験管中の5mL種母培地[ポリペプトンS(日本製薬)6.0%(w/v)、酵母エキス0.1%、マルトース1.0%、硫酸マグネシウム7水和物0.02%、リン酸2水素カリウム0.1%、無水炭酸ナトリウム0.3%、テトラサイクリン30ppm]に植菌し、30℃、 320rpmで一晩前培養した。この種母培養液を500mL容坂口フラスコ中の20mL主培地[ポリペプトンS8%(w/v)、酵母エキス0.3%、マルトース10%、硫酸マグネシウム7水和物0.04%、リン酸2水素カリウム0.2%、無水炭酸ナトリウム1.5%、テトラサイクリン30ppm]に1%植菌(v/v)し、30℃、 121rpmで3日間培養した。得られた培養液を遠心分離し、培養上清中のプロテアーゼ活性を測定した。プロテアーゼ活性はカゼイン法により、タンパク質量はプロテインアッセイキット(和光純薬)を用いて測定した。その結果、変異Repを有すプラスミドで生産させたアルカリプロテアーゼKP43H2の培養活性はコントロール(pHA64−KP43H2の形質転換株を同条件で培養したもの)のそれに比べ8〜12%向上した(表1)。尚、培養上清中のタンパク質量はプロテアーゼ活性とほぼ比例して増加していることから、得られた変異体はタンパク質の分泌量が向上するのに必要な変異が導入されたといえる。また、選抜された形質転換株からプラスミドを回収し、塩基配列を決定し、目的の変異体であることを確認した。
【0028】
【表1】

【0029】
上記変異部位により得られるアルカリプロテアーゼは、形質転換株での酵素の分泌を向上させる以外は親アルカリプロテアーゼの特性、すなわち、酸化剤耐性を有し、高濃度の脂肪酸によるカゼイン分解活性の阻害を受けず、SDS−PAGEにより認められる分子量が43,000±2,000であり、アルカリ性域で活性を有する性質を保持していることを確認した。
【0030】
実施例2 Rep262位の変異効果
実施例1同様、バチルス エスピーKSM−KP43株由来の変異アルカリプロテアーゼの生産量を指標にRep262位変異の効果を検証した。
pHA64−KP43H2を鋳型とし、0.1〜0.5ngに対して変異導入プライマー対(配列番号5と配列番号11または配列番号7と配列番号12)を用いて実施例1と同様な手法により増幅した2断片を得、両端を挟むプライマー(配列番号5と配列番号7)にて1断片として増幅させた。得られたDNA断片を電気泳動にて確認した後、NheI、XbaIで消化し、配列番号6および配列番号8のプライマーを用いてpHA64−KP43H2を鋳型に常法により増幅させたテトラサイクリン耐性遺伝子およびKP43H2遺伝子部分を含む断片をNheI、XbaIで消化したものとDNA Ligation kit ver.2(Takara)を用いて連結させ、形質転換を行った。
スキムミルク含有アルカリ寒天培地(実施例1)上に生育してきた形質転換株のスキムミルク溶解斑の形成状況により、プロテアーゼ遺伝子導入の有無を判定した。プロテアーゼ遺伝子がpHA64に挿入されたプラスミドを保持している形質転換株を選抜し、実施例1と同様の培養に供した。
【0031】
その結果、変異Repを有すプラスミドで生産させたアルカリプロテアーゼKP43H2の培養活性はコントロール(pHA64−KP43H2の形質転換株を同条件で培養したもの)のそれに比べ3〜13%向上した(表2)。尚、培養上清中のタンパク質量はプロテアーゼ活性とほぼ比例して増加していることから、得られた変異体はタンパク質の分泌量が向上するのに必要な変異が導入されたといえる。また、選抜された形質転換株からプラスミドを回収し、塩基配列を決定し、目的の変異体であることを確認した。
【0032】
【表2】

【0033】
実施例3 Repのランダム変異効果
特開2002−218989号公報、特開2002−306176号公報、特開2004−122号公報又は特開2004−305176号公報に記載のバチルス エスピーKSM−KP43株由来のアルカリプロテアーゼで分泌能力や比活性の向上している変異プロテアーゼ(配列番号3及び4において、15位のSerをHis、16位のSerをGln、46位のPheをLeu、65位のThrをPro、166位のAsnをGly、167位のGlyをVal、187位のAsnをSer、195位のTyrをGln、273位のValをIle、346位のLysをArg、359位のThrをSer、369位のAspをAsn、387位のSerをAla、405位のAsnをAspに置換したアルカリプロテアーゼ)(以下、KP43H3と称する)の生産量を指標にRep48位変異の効果を検証した。
【0034】
pHA64のBamHI、XbaIサイトにKP43H3を挿入したpHA64−KP43H3を鋳型にTakaraサーマルサイクラー480型を用いたPCRによりRepにランダム変異を導入した。すなわち、鋳型となる環状プラスミド0.1〜0.5ngに対してプライマー対(配列番号5と配列番号7)を各々20pmol、各dNTPを20nmol、Takara ピロベストDNAポリメラーゼ添付バッファーを5μLおよびピロベストDNAポリメラーゼを2U添加し、さらに7.5%のDMSO、0.05〜0.1mMの硫酸マンガンを添加し反応液(50μL)を調製した。PCR条件は94℃で1分間変性させた後、94℃ 1分間、55℃で1分間、72℃で4分間を1サイクルとし、30サイクル行い、最後に72℃で10分間恒温した。
【0035】
得られたPCR産物をHigh Pure PCR Product Purification キット(ロッシュ)にて精製し、100μLの滅菌水で溶出し、増幅したDNA断片を電気泳動にて確認した後、NheI、XbaIで消化し、配列番号6および配列番号8のプライマーを用いてpHA64−KP43H3を鋳型に常法により増幅させたテトラサイクリン耐性遺伝子およびKP43H2遺伝子部分を含む断片をNheI、XbaIで消化したものとDNA Ligation kit ver.2(Takara)を用いて連結させた。
【0036】
実施例1と同様に形質転換を行い、スキムミルク含有アルカリ寒天培地上に生育してきた形質転換株のスキムミルク溶解斑の形成状況により、プロテアーゼ遺伝子導入の有無を判定した。プロテアーゼ遺伝子がpHA64に挿入されたプラスミドを保持している形質転換株を選抜し培養に供した。
【0037】
その結果、変異Repを有すプラスミドで生産させたアルカリプロテアーゼKP43H3のうちコントロール(pHA64−KP43H3の形質転換株を同条件で培養したもの)のそれに比べ7%向上するLys149Asn、Lys198Gluを得た(表3)。尚、培養上清中のタンパク質量はプロテアーゼ活性とほぼ比例して増加していることから、得られた変異体はタンパク質の分泌量が向上するのに必要な変異が導入されたといえる。また、選抜された形質転換株からプラスミドを回収し、塩基配列を決定し、目的の変異体であることを確認した。
【0038】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2で示されるアミノ酸配列において、(a)48位、(b)262位、(c)149位及び(d)198位から選ばれる1以上のアミノ酸残基が下記アミノ酸残基;
(a)位置:Ala、Gly、Thr、Arg、Glu、Asn又はGln
(b)位置:Gly、Ser、Thr、Cys又はVal
(c)位置:Asn
(d)位置:Glu
に置換してなるプラスミド複製タンパク質をコードするDNAを有するプラスミドベクター。
【請求項2】
配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の(a)48位、(b)262位、(c)149位及び(d)198位の各位置に相当する位置から選ばれる1以上のアミノ酸残基が下記アミノ酸残基;
(a)位置:Ala、Gly、Thr、Arg、Glu、Asn又はGln
(b)位置:Gly、Ser、Thr、Cys又はVal
(c)位置:Asn
(d)位置:Glu
に置換してなるプラスミド複製タンパク質をコードするDNAを有するプラスミドベクター。
【請求項3】
さらにバチルス属細菌由来アルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナル領域に由来する塩基配列を含む請求項1又は2記載のプラスミドベクター。
【請求項4】
前記バチルス属細菌由来アルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナル領域に由来する塩基配列が、配列番号13で示される塩基配列からなるセルラーゼ遺伝子の塩基番号1〜659の塩基配列、配列番号14で示される塩基配列からなるセルラーゼ遺伝子の塩基番号1〜696の塩基配列、あるいは当該塩基配列のいずれかと70%以上の同一性を有するか又は当該塩基配列の一部が欠失した塩基配列である、請求項3記載のプラスミドベクター。
【請求項5】
請求項3又は4記載のプラスミドベクターを含有する形質転換体。
【請求項6】
宿主が微生物である請求項5記載の形質転換体。
【請求項7】
以下の工程を含むポリペプチドの製造方法:
目的ポリペプチドをコードするDNAと、配列番号2で示されるアミノ酸配列において、(a)48位、(b)262位、(c)149位及び(d)198位から選ばれる1以上のアミノ酸残基が下記アミノ酸残基;
(a)位置:Ala、Gly、Thr、Arg、Glu、Asn又はGln
(b)位置:Gly、Ser、Thr、Cys又はVal
(c)位置:Asn
(d)位置:Glu
に置換してなるプラスミド複製タンパク質をコードするDNAを有するプラスミドベクターを構築する工程;
前記プラスミドベクターで宿主微生物を形質転換する工程;および
前記宿主微生物を培養し、生産された目的ポリペプチドを採取する工程。
【請求項8】
以下の工程を含むポリペプチドの製造方法:
目的ポリペプチドをコードするDNAと、配列番号2で示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列において、配列番号2の(a)48位、(b)262位、(c)149位及び(d)198位の各位置に相当する位置から選ばれる1以上のアミノ酸残基が下記アミノ酸残基;
(a)位置:Ala、Gly、Thr、Arg、Glu、Asn又はGln
(b)位置:Gly、Ser、Thr、Cys又はVal
(c)位置:Asn
(d)位置:Glu
に置換してなるプラスミド複製タンパク質をコードするDNAを有するプラスミドベクターを構築する工程;
前記プラスミドベクターで宿主微生物を形質転換する工程;および
前記宿主微生物を培養し、生産された目的ポリペプチドを採取する工程。
【請求項9】
前記プラスミドベクターが、バチルス属細菌由来アルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナル領域に由来する塩基配列をさらに含む、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
前記バチルス属細菌由来アルカリセルラーゼ産生遺伝子のプロモーター領域及び分泌シグナル領域に由来する塩基配列が、配列番号13で示される塩基配列からなるセルラーゼ遺伝子の塩基番号1〜659の塩基配列、配列番号14で示される塩基配列からなるセルラーゼ遺伝子の塩基番号1〜696の塩基配列、あるいは当該塩基配列のいずれかと70%以上の同一性を有するか又は当該塩基配列の一部が欠失した塩基配列である、請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項7又は8記載の方法により製造されるポリペプチド。

【図1】
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【公開番号】特開2009−254361(P2009−254361A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71513(P2009−71513)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】