説明

プラズマディスプレイパネルおよびその製造方法

【課題】本発明はガラス基板強度を十分に有し、かつパネル割れの発生が少ないプラズマディスプレイパネルを提供することを目的としている。
【解決手段】上記の目的を達成するために、本発明のプラズマディスプレイパネルは、基板上に複数対の電極と誘電体層を設けたPDPであって、基板の誘電体層を設けていない側の面の残留応力が0.8MPa〜2.4MPaの範囲であることを特徴とする。また、基板の厚さが2.8mm±0.5mmであって、基板の誘電体層を設けていない側の面の残留応力が1.3MPa〜2.4MPaの範囲であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示デバイスなどに用いるプラズマディスプレイパネルおよびその製造方法によるものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと呼ぶ)は、高精細化、大画面化の実現が可能であることから、100インチクラスのテレビなどが製品化されている。近年、PDPは従来のNTSC方式に比べて走査線数が2倍以上のハイディフィニションテレビへの適用が進んでいる。
【0003】
PDPは、基本的には、前面板と背面板とで構成されている。前面板は、フロート法による硼硅酸ナトリウム系ガラスのガラス基板と、その一方の主面上に形成されたストライプ状の透明電極とバス電極とで構成される表示電極と、この表示電極を覆ってコンデンサとしての働きをする誘電体層と、この誘電体層上に形成された酸化マグネシウム(MgO)からなる保護層とで構成されている。一方、背面板は、ガラス基板と、その一方の主面上に形成されたストライプ状のアドレス電極と、アドレス電極を覆う下地誘電体層と、下地誘電体層上に形成された隔壁と、各隔壁間に形成された赤色、緑色および青色それぞれに発光する蛍光体層とで構成されている。
【0004】
前面板と背面板とはその電極形成面側を対向させて気密封着され、隔壁によって仕切られた放電空間にNe−Xeの放電ガスが55kPa〜80kPaの圧力で封入されている。PDPは、表示電極に映像信号電圧を選択的に印加することによって放電させ、その放電によって発生した紫外線が各色蛍光体層を励起して赤色、緑色、青色の発光をさせてカラー画像表示を実現している。
【0005】
このようなプラズマディスプレイ装置においては、ガラスが主材料のパネルをアルミニウムなどの金属製のシャーシ部材の前面側に保持させ、そのシャーシ部材の背面側にパネルを発光させるための駆動回路を構成する回路基板を配置することによりモジュールを構成している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−131580号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、PDP等のフラットパネルディスプレイでは大画面でありながら、薄型・軽量化が求められるため、従来技術では基板として用いられるガラス基板の強度が不足し、製品化後の強度試験等においてパネル割れが発生する課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のPDPは、基板上に複数対の電極と誘電体層を設けたPDPであって、基板の誘電体層を設けていない側の面の残留応力が0.8MPa〜2.4MPaの範囲であることを特徴とする。さらに基板の厚さが2.8mm±0.5mmであって、基板の誘電体層を設けていない側の面の残留応力が1.3MPa〜2.4MPaの範囲であってもよく、さらに基板の厚さが1.8mm±0.5mmであって、基板の誘電体層を設けていない側の面の残留応力が0.8MPa〜1.7MPaの範囲であってもよい。
【0008】
そして本発明のPDPの製造方法は、少なくとも表示電極と誘電体層とが形成された一方の基板と、他方の基板とを対向配置して形成されるPDPの製造方法であって、前記表示電極の形成工程、前記誘電体層の形成工程および前記基板を対向配置し形成する工程いずれにおいても、前記一方の基板の温度が当該基板の歪点より100℃低い温度以下であることを特徴とする。さらに一方の基板の温度が470℃以下の温度であってもよく、また一方の基板の温度が410℃以下であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガラス基板の強度を確保し、パネル割れ等を生じにくいPDPを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態におけるPDPについて図面を用いて説明する。
【0011】
(PDPの構造)
図1は本発明の実施の形態におけるPDPの構造を示す斜視図である。PDPの基本構造は、一般的な交流面放電型PDPと同様である。図1に示すように、PDP1は前面ガラス基板3などよりなる前面板2と、背面ガラス基板11などよりなる背面板10とが対向して配置され、その外周部をガラスフリットなどからなる封着材によって気密封着されている。封着されたPDP1内部の放電空間16には、NeおよびXeなどの放電ガスが55kPa〜80kPaの圧力で封入されている。
【0012】
前面板2の前面ガラス基板3上には、走査電極4および維持電極5よりなる一対の帯状の表示電極6とブラックストライプ(遮光層)7が互いに平行にそれぞれ複数列配置されている。前面ガラス基板3上には表示電極6と遮光層7とを覆うようにコンデンサとしての働きをする誘電体層8が形成され、さらにその表面に酸化マグネシウム(MgO)などからなる保護層9が形成されている。
【0013】
また、背面板10の背面ガラス基板11上には、前面板2の走査電極4および維持電極5と直交する方向に、複数の帯状のアドレス電極12が互いに平行に配置され、これを下地誘電体層13が被覆している。さらに、アドレス電極12間の下地誘電体層13上には放電空間16を区切る所定の高さの隔壁14が形成されている。隔壁14間の溝にアドレス電極12毎に、紫外線によって赤色、青色および緑色にそれぞれ発光する蛍光体層15が順次塗布して形成されている。走査電極4および維持電極5とアドレス電極12とが交差する位置に放電セルが形成され、表示電極6方向に並んだ赤色、青色、緑色の蛍光体層15を有する放電セルがカラー表示のための画素になる。
【0014】
図2は、本発明の実施の形態におけるPDPの前面板2の断面図である。図2は図1と上下反転させて示している。図2に示すように、フロート法などにより製造された前面ガラス基板3に、走査電極4と維持電極5よりなる表示電極6とブラックストライプ7がパターン形成されている。走査電極4と維持電極5はそれぞれインジウムスズ酸化物(ITO)や酸化スズ(SnO2)などからなる透明電極4a、5aと、透明電極4a、5a上に形成された金属バス電極4b、5bとにより構成されている。金属バス電極4b、5bは透明電極4a、5aの長手方向に導電性を付与する目的として用いられ、銀(Ag)材料を主成分とする導電性材料によって形成されている。
【0015】
誘電体層8は、前面ガラス基板3上に形成されたこれらの透明電極4a、5aと金属バス電極4b、5bとブラックストライプ7を覆って設けられている。そして誘電体層8上に保護層9が形成されている。
【0016】
(基板強度)
先に述べたように、PDPは大画面・高精細化が進むと同時に軽量化・薄型化が求められている。このため、製品としてのPDPの強度を現状程度に維持するためには、より前面ガラス基板3、背面ガラス基板11の強度が求められる。
【0017】
また、PDPの製品出荷時の梱包において、一般的に緩衝材はPDP周辺部のみに設け、画像表示部となる位置には設けられない。このため輸送時の表示面からの落下等による衝撃では、前面ガラス基板3に製品全体の自重を含めた力が加わり、前面ガラス基板3が凸状にたわみ、パネル割れが生じる。
【0018】
一方、製品梱包後の輸送時の表示面と反対側からの落下に対しては、前面ガラス基板3の画像表示面側が凹状になる力が加わるためパネル割れとなる確率はきわめて低い。また背面ガラス基板11には一般的に駆動回路基盤等が搭載される放熱を兼ねた補強板が貼り付けられており、パネル割れとなる影響は小さい。このように前面ガラス基板3の画像表示面側の状態がパネル割れに大きく影響する。
【0019】
ところで、PDPのガラス基板は一般的にフロート法によって形成されている。フロート法は、調合したガラス原材料を溶解槽においてバーナー等によって1600℃程度で溶融し、脱泡をさせた後、錫を溶融させたフロートバス上に浮かべ延伸することで所望の幅、厚さを有する平坦な板状に成型する。その後ガラスは約600℃程度から約200℃程度まで急冷却される。このためガラス基板の最表面には歪および応力が残留することになる。
【0020】
図3はフロート法によって形成されたガラス基板に生じている応力の方向をガラス基板の断面に模式的に示した図である。このようにガラス基板に残留している応力は、基板の表面では圧縮応力が生じ、それに対し基板の内部では引張応力が生じている。但し、圧縮応力層と引張応力層とが均衡した状態で存在しており、形状としては平板を維持している。
【0021】
これに対して、先に述べたように前面ガラス基板3にかかる輸送時の衝撃等は、画像表示面を凸状にたわませる外力である。したがってフロート法によって形成されたガラス基板は、基板最表面に圧縮応力が残留している状態であるため、このような衝撃の外力に対して比較的強い。
【0022】
ところが発明者らは、従来技術においてガラス基板の強度がPDPの製造工程を経ることによって、変化することを見出した。具体的には表示電極形成後、誘電体層形成後、保護層形成後、封着排気後の各工程後に前面ガラス基板3の残留応力を測定したところ、それぞれの工程を経ることによって応力は著しく低下することとなった。
【0023】
これは電極層・誘電体層の焼成工程や封着・排気工程等の熱プロセスが影響している。つまり、これら熱プロセスにおいて、ガラス基板の温度が400℃〜550℃程度に昇温され、その後室温程度まで降温される。その降温時にガラス基板全体がゆっくりと徐冷されるため、ガラス基板に生じていた残留圧縮応力が緩和すると考えられる。そしてガラス基板の温度が昇温・降温を繰り返すことによって、残留していた圧縮応力がさらに低下すると考えられる。また、この圧縮応力の低下に伴い、PDP1生産時にガラス基板表面に、焼成工程で使用するセッターとの接触や、各工程間の搬送ローラーとの接触等によって、傷(マイクロクラック)が入り易くなる。この傷が入ることによって、さらにガラス基板の強度は低下することになる。
【0024】
そして従来技術においてPDP1が製造された後の前面ガラス基板3は、上述の応力層の変化によって、輸送時の衝撃等に対して画像表示面側を凸にするたわみが生じやすく、パネル割れが発生し易くなる。これらは製品梱包落下試験による強度試験等の結果からも同様の傾向が確認されている。
【0025】
これに対して本発明の実施の形態では、前面ガラス基板3の表面に応力をある一定範囲で存在させ、衝撃に対してパネル割れが生じにくいPDP1を実現している。
【0026】
また、発明者等はこの衝撃に対する必要な残留応力値が、基板の厚み、組成によって大きく異なることを見出した。特に、実質的に鉛を含まない成分によって構成したガラス基板を用いた場合、従来技術と同様の残留応力であっても、落下試験強度は著しく低下し、従来通りの基板強度の維持や、工場生産性の確保が困難になる。このような結果から、本発明の実施の形態では、PDP1の前面ガラス基板3の種類に応じて、基板の残留応力を次の範囲としている。
【0027】
(1)基板の誘電体層を設けていない側の面の応力が0.8MPa〜2.4MPaの範囲であり、(2)特に基板の厚さが2.8mm±0.5mmであっては、基板の誘電体層を設けていない側の面の応力が1.3MPa〜2.4MPaの範囲であり、(3)特に基板の厚さが1.8mm±0.5mmであっては、基板の誘電体層を設けていない側の面の応力が0.8MPa〜1.7MPaの範囲である。
【0028】
基板表面の残留応力をこの範囲とすることで、後述する製品梱包落下試験においても良好な結果が得られた。つまり、輸送時の衝撃に対してもガラス割れが生じにくいPDPを製造することができ、基板強度の維持、生産性の確保が可能となる。
【0029】
なお、本発明の実施の形態においてガラス基板の残留応力の測定は、偏向透過光の位相角によって行った。測定装置としては神港精機株式会社製ポーラリメーターSP−II型を使用した。この応力測定装置では原理上、圧縮応力と引張応力とで偏向透過光の見える色が異なる特性を有するため、圧縮応力および引張応力いずれかを判断することは可能である。
【0030】
そして残留応力の測定箇所は、前面ガラス基板3の画像表示面つまり誘電体層等を形成していない側の面について行っている。これは先に述べた製品梱包での落下時の衝撃等によるパネル割れが、画像表示面側を起点としていることを考慮したためである。また、この箇所での測定値は、後述する製品梱包落下試験の結果とより明確な関係が得られている。
【0031】
(本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法)
先に述べたように従来技術においては、PDP1の各部位を形成する際の焼成工程や乾燥工程等の熱プロセスによって、ガラス基板に生じている応力が変化する。そこで本発明の実施の形態では、ガラス基板の残留する応力を一定範囲にするため、各部位の形成を低温での熱プロセスによって行う。
【0032】
発明者らが検討した結果、残留している応力を先に述べた範囲とするためには、当該ガラス基板の歪点から100℃低い温度以下の温度範囲で、PDP1を製造する必要があることが判明した。つまりこの温度を超えた熱プロセスを前面ガラス基板3が受けた場合、残留している圧縮応力は緩和され、先に述べた応力値の範囲から外れることになり、輸送時の衝撃等によってガラス割れが生じやすくなってしまう。
【0033】
本発明の実施の形態にて前面ガラス基板3として、旭硝子株式会社製PD200およびソーダライムガラスASを使用した。PD200では歪点は約570℃であるため、前面ガラス基板3の表面の温度が470℃以下の温度範囲にてPDP1を製造した。一方、ソーダライムガラスASでは歪点は約510℃であるため、前面ガラス基板3の表面の温度が410℃以下の温度範囲にてPDP1を製造した。これによって、前面ガラス基板3の表面においては、形成時の残留応力を維持したままPDP1が製造される。
【0034】
以下、本発明の実施の形態におけるPDPの製造方法を説明する。ここでは前面ガラス基板3として上記ソーダライムガラスASを使用し、前面ガラス基板3の温度が410℃以下の温度範囲によってPDP1を製造する方法について記載するが、前面ガラス基板3としてPD200を使用し、前面ガラス基板3の温度が470℃以下の温度範囲とする製造方法によっても、本発明の効果は得られる。
【0035】
また本発明の実施の形態において、前面ガラス基板温度の測定に際しては、高温での測定を考慮してKタイプの熱電対を用いて基板表面にて接触式で測定しており、測定誤差として±5℃程度生じうる。
【0036】
まず前面ガラス基板3上に、走査電極4および維持電極5と遮光層7とを形成する。透明電極4a、5aはスパッタ法等の薄膜プロセスを用いて形成し、フォトリソグラフィ法等によって所望の形状にパターニングする。
【0037】
ここで、金属バス電極4a、5aの形成方法について詳しく説明する。従来技術においては、感光性成分、ガラス成分および導電性成分等を含むペーストをスクリーン印刷法等によって塗布し、フォトリソグラフィ法等によってパターニングした後、形状維持を目的として含有しているガラス成分のガラス化のため、560℃〜600℃で焼成する手法が一般的である。しかしこの技術ではガラス基板に残留する圧縮応力が減少するため、本発明の目的を達成し得ない。
【0038】
そこで、本発明の実施の形態においては、金属バス電極4a、5aの材料として微細配線用金属ペーストを用いている。このペーストは数ナノメートルサイズのAg粒子を室温で分散剤によって分散させたものである。そして、この分散剤が加熱されることによって除去され金属ナノ粒子が粒子効果によって焼結し、導電性を有した膜を形成することができる。
【0039】
本発明の実施の形態では、ペーストとしてハリマ化成株式会社製のペーストNPSもしくはNPS−HTBを用いた。これらのペーストをあらかじめパターニングされたスクリーンを使用し、スクリーン印刷法によって基板上にパターン塗布を行う。そしてNPSを用いた場合、乾燥焼成工程として210℃〜230℃の熱処理を60分行う。一方、NPS−HTBを用いた場合、200℃〜240℃で10分の乾燥工程の後、300℃〜350℃で30〜60分の焼成工程を行い形成する。
【0040】
また上記のペーストを用いる以外にも、スパッタ法等の真空薄膜形成プロセスによって、金属単層膜またはクロム−銅−クロム、クロム−アルミニウム−クロム等の金属多層膜を形成しても良い。ただしこの場合、基板の温度を室温から410℃以下とする必要がある。そして薄膜形成後レジスト層を形成してフォトリソグラフィ法によってパターン形成を行う。このように金属バス電極4a、5aを形成することで、前面ガラス基板3に残留する圧縮応力を維持することができる。
【0041】
また、遮光層7も同様に、黒色顔料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や黒色顔料をガラス基板の全面に形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングし、焼成することにより形成する。この場合も前面ガラス基板3の温度が410℃以下となるようにする必要がある。
【0042】
次に誘電体層8について説明する。誘電体層8は、まず走査電極4、維持電極5および遮光層7を覆うように前面ガラス基板3上に誘電体層ペーストをスクリーン印刷法、ダイコート法等により塗布して誘電体ペースト層を形成する。その後、所定の時間放置することによって塗布した誘電体ペースト表面がレベリングされて平坦な表面になる。
【0043】
従来技術においては、誘電体層ペーストはガラス粉末などの誘電体層材料、バインダおよび溶剤を含む塗料である。そして上記工程の後、このガラス粉末をガラス化するため、誘電体材料の軟化点付近の高い温度である550℃〜600℃によって焼成する。しかしこの技術ではガラス基板に残留する圧縮応力が減少するため、本発明の目的を達成し得ない。
【0044】
これに対して本実施の形態においては、シロキサン結合をもつオリゴマーからなる樹脂バインダとメチルエチルケトンあるいはイソプロピルアルコール等の溶剤との混合液に平均粒経シリカ粒子を50重量%〜60重量%程度分散してペーストを調整した。ここで樹脂バインダとしてはJSR株式会社のグラスカを使用し、シリカ粒子としては日産化学工業株式会社のIPA−STを使用した。
【0045】
このペーストをダイコート法によって塗布し、100℃にて60分乾燥させた後、250℃〜350℃にて10〜30分焼成させる。焼成後の誘電体層厚を12μm〜15μm程度とした。
【0046】
また本発明の実施の形態では、ゾルゲル法を用いて誘電体層8の形成を行うことも可能である。ここでゾルゲル法とは、金属アルコキシド等の粒子がコロイド状に分散したゾルを、加水分解・重縮合反応により流動性を失ったゲルとし、これを加熱して誘電体層を形成する方法である。ここでは、実質的に鉛成分を含まない誘電体層とするため、原材料としてはテトラエトキシシラン(TEOS)によってSiO2膜を形成する。
【0047】
その他にプラズマCVD法等によっても、テトラエトキシシラン(TEOS)を原材料として、SiO2膜を形成することができる。この場合、前面ガラス基板3の温度を室温から410℃以下の温度範囲で形成する必要がある。
【0048】
次に保護層9の形成方法について説明する。保護層9を形成する方法としては、スクリーン印刷法、スパッタ法、電子ビーム蒸着法、イオンプレーティング法、有機金属原料を用いた熱CVD(化学的気相成長法)等がある。現在では蒸着源のMgを主成分とする金属酸化物ペレットに電子銃を用いて発生させた大電流の電子ビームを照射して蒸着源を加熱蒸発させ、酸素雰囲気中でMgを主成分とする金属酸化物であるMgO薄膜を形成させる電子ビーム蒸着法が最も広く用いられている。本実施の形態では電子ビーム蒸着法により保護層9を形成したが、基板温度を270℃〜350℃とした。なお基板温度は酸化マグネシウムの膜成長、酸素雰囲気等によって適宜調整する必要があるが、前面ガラス基板3の温度が410℃以下の温度範囲によって形成する必要がある。これによって基板に残留する応力を維持することができる。
【0049】
なお、保護層9の主成分である酸化マグネシウムは、水分、炭酸水素系、炭酸系等の不純物ガスの吸着性が高い。このため保護層9を形成した後に、これら不純物ガスを保護層9から脱離させるために、焼成工程を行う技術がある。しかしながらこの焼成工程によって基板に残留応力が生じないように、本実施の形態においては焼成工程を設ける場合であっても、前面ガラス基板3の温度が410℃以下の温度範囲によって形成する必要がある。
【0050】
以上のような工程によって前面ガラス基板3上に、所定の構成物である走査電極4、維持電極5、遮光層7、誘電体層8および保護層9が形成され、前面板2が完成する。
【0051】
一方、背面板10は次のようにして形成する。まず、背面ガラス基板11上に、銀(Ag)材料を含むペーストをスクリーン印刷する方法や、金属膜を全面に形成した後、フォトリソグラフィ法を用いてパターニングする方法などによりアドレス電極12用の構成物となる材料層を形成し、それを所望の温度で焼成することによりアドレス電極12を形成する。次に、アドレス電極12が形成された背面ガラス基板11上にダイコート法などによりアドレス電極12を覆うように誘電体層ペーストを塗布して誘電体層ペースト層を形成する。その後、誘電体層ペースト層を焼成することにより下地誘電体層13を形成する。なお、誘電体層ペーストはガラス粉末などの誘電体層材料とバインダおよび溶剤を含んだ塗料である。
【0052】
そして、下地誘電体層13上に隔壁材料を含む隔壁形成用ペーストを塗布して所定の形状にパターニングすることにより、隔壁材料層を形成した後、焼成することにより隔壁14を形成する。ここで、下地誘電体層13上に塗布した隔壁用ペーストをパターニングする方法としては、フォトリソグラフィ法やサンドブラスト法を用いることができる。その後、隣接する隔壁14間の下地誘電体層13上および隔壁14の側面に蛍光体材料を含む蛍光体ペーストを塗布し、焼成することにより蛍光体層15が形成される。以上の工程により、背面ガラス基板11上に所定の構成部材を有する背面板10が完成する。
【0053】
このようにして所定の構成部材を備えた前面板2と背面板10とを走査電極4とアドレス電極12とが直交するように対向配置して、その周囲を封着し、放電空間16内から大気を排気し、Ne、Xe等を含む放電ガスを封入することによりPDP1が完成する。
【0054】
この封着・排気工程は以下のように行われる。封着前に前面板2もしくは背面板10の周囲の所定の位置に封着材を塗布し、封着材を一定時間乾燥させた後、前面板2の表示電極6と背面板10のアドレス電極12とが交差するように前面板2と背面板10とを対向配置させ固定治具などによって固定する。
【0055】
従来技術においては、封着材としては、低融点の結晶化フリットガラスと所定のフィラーを混合して有機溶剤で混練したペースト状の封着材等が用いられる。そして460℃〜550℃程度で焼成して封着材を固化する。しかしながら、この技術ではガラス基板に残留する圧縮応力が減少するため、本発明の目的を達成し得ない。
【0056】
これに対して、本発明の実施の形態では、封着材として、UV硬化型の材料を用いる。これによって従来技術では行えない低温での封着・排気工程を実現することができ、ガラス基板に残留する応力は維持される。具体的には、JSR株式会社製のUV硬化型シール剤TU7113を使用した。これらをペースト状にし、ディスペンサーを備えた塗布装置等を用いて封着材を塗布する。
【0057】
その後、前面板2と背面板10のシール部を圧着して仮固定し、その部位にUV照射をし、150℃にて30分昇温することによって、そのシール部を硬化する。これによって封着工程が完了する。
【0058】
次にPDP1内のガスを排気する。PDP1内に物理的な吸着をしているガスの脱離を促すため、200℃程度で60分程度に昇温維持する。その後ネオンやキセノン等を含む放電ガスを所定の圧力(例えば、Ne−Xe混合ガスの場合、約530hPa〜800hPaの圧力)で放電空間16へ封入する。最後に排気管等の部分を気密封止して排気工程は完了する。
【0059】
以上のように本発明の実施の形態においては、PDP1の製造に際し、前記表示電極の形成工程、前記誘電体層の形成工程および前記基板を対向配置し形成する工程いずれにおいても、前記一方の基板の温度が当該基板の歪点より100℃低い温度以下で行われる。このとき、一方の基板の温度が470℃以下の温度であってもよく、また一方の基板の温度が410℃以下であってもよい。
【0060】
この結果、基板の誘電体層を設けていない側の面の残留応力が0.8MPa〜2.4MPaの範囲となる。さらに基板の厚さが2.8mm±0.5mmであっては、基板の誘電体層を設けていない側の面の残留応力が1.3MPa〜2.4MPaの範囲であってもよく、さらに基板の厚さが1.8mm±0.5mmであっては、基板の誘電体層を設けていない側の面の残留応力が0.8MPa〜1.7MPaの範囲であってもよい。
【0061】
これによってガラス基板に残留する圧縮応力を維持することができ、輸送時の衝撃等の外力に対して強いPDP1を得ることができる。
【0062】
(実施例)
次に、本発明の実施の形態におけるPDPの作用効果について説明する。発明者らは本発明の実施の形態の効果を確認するため、落下強度試験を行った。具体的には、PDP1を製品出荷時と同様の梱包をし、画像表示面を下面となるようにして、高さ50cmより落下させ、梱包内のPDP1の割れの有無を確認した。試験試料数は従来技術、本発明の実施の形態、それぞれ100台ずつ行った。なおこの実施例における試料はすべて1.8mm±0.5mm厚となる前面ガラス基板3を用いている。
【0063】
その結果、従来技術によるPDP1では100台中6台において、前面ガラス基板3に割れが生じていた。一方、本発明の実施の形態によるPDP1では、前面ガラス基板3に割れは生じなかった。
【0064】
そこで、従来技術および本発明の実施例の試験試料の10台ずつについて、前面ガラス基板3の残留応力を測定したところ、従来技術の前面ガラス基板については上述した残留応力の範囲を逸脱しており、ほぼ応力が生じていなかった。これに対して本発明の実施の形態における前面ガラス基板3の残留応力は上記の範囲内であった。
【0065】
これは本発明の実施の形態における製造方法においては、前面ガラス基板3がその基板の歪点から100℃低い温度以下でPDP1が製造されたため、前面ガラス基板3に当初生じていた残留応力がほぼ減少することなく維持され、これによってPDP1が強度を有したと考えられる。
【0066】
そして本発明の付随的な効果として、従来技術と比較して低温での熱プロセスであるため、焼成炉等においてガラス基板面内の温度勾配を起因として生じる基板の熱割れの発生を低減する効果が期待できる。
【0067】
なお、本実施の形態では各熱プロセスの設定温度及びその処理時間の例を記載したが、この設定に限られるものではなく、前面ガラス基板3の歪点から100℃低い温度以下でPDP1が製造されれば、基板の残留応力を維持することができ、本発明の効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上述べてきたように、本発明においてはガラス基板強度を十分に有し、かつパネル割れの発生が少ないPDPを提供することができ、大画面の表示デバイスなどに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態におけるPDPの構造を示す斜視図
【図2】同PDPの前面板の構成を示す断面図
【図3】ガラス基板の断面に生じている応力を示す説明図
【符号の説明】
【0070】
1 PDP
2 前面板
3 前面ガラス基板
4 走査電極
4a、5a 透明電極
4b、5b 金属バス電極
5 維持電極
6 表示電極
7 ブラックストライプ(遮光層)
8 誘電体層
9 保護層
10 背面板
11 背面ガラス基板
12 アドレス電極
13 下地誘電体層
14 隔壁
15 蛍光体層
16 放電空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に複数対の電極と誘電体層を設けたプラズマディスプレイパネルであって、
前記基板の前記誘電体層を設けていない側の面の応力が0.8MPa〜2.4MPaの範囲であることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記基板の厚さが2.8mm±0.5mmであって、前記基板の前記誘電体層を設けていない側の面の応力が1.3MPa〜2.4MPaの範囲であることを特徴とする請求項1記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項3】
前記基板の厚さが1.8mm±0.5mmであって、前記基板の前記誘電体層を設けていない側の面の応力が0.8MPa〜1.7MPaの範囲であることを特徴とする請求項1記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項4】
少なくとも表示電極と誘電体層とが形成された一方の基板と、他方の基板とを対向配置して形成するプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記表示電極の形成工程、前記誘電体層の形成工程および前記基板を対向配置し形成する工程いずれにおいても、前記一方の基板の温度が当該基板の歪点より100℃低い温度以下であることを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項5】
前記一方の基板の温度が470℃以下であることを特徴とする請求項4記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項6】
前記一方の基板の温度が410℃以下であることを特徴とする請求項4記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−224247(P2009−224247A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69027(P2008−69027)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】