説明

プラズマディスプレイパネルおよびその製造方法

【課題】製造方法の制約が少なく耐衝撃強度に優れるプラズマディスプレイパネルを提供する。
【解決手段】内面に電極と電極を被覆する誘電体層とが固着した前面ガラス基板を有するプラズマディスプレイパネルにおいて、誘電体層を電極および前面ガラス基板と接する第1のガラスからなる下層部と、下層部に積層されかつ圧縮残留応力をもつ第2のガラスからなる上層部とで構成し、それによって前面ガラス基板に引張応力を残留させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマディスプレイパネルおよびその製造方法に関し、詳しくは前面基板の構造とその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネルは、ガス放電空間を挟んで対向する一対のガラス基板を備える。一般に、前面側のガラス基板11の内面上にサステイン放電を生じさせるための表示電極X,Yが配列され、背面側のガラス基板21の内面上にアドレス放電を生じさせるためのアドレス電極Aが表示電極X,Yと交差するように配列される。
【0003】
表示電極X,Yは面放電ギャップを形成する透明導体と導電性を高める金属帯との積層からなり、AC駆動のための誘電体層および耐スパッタ性に優れる保護膜で被覆される。一般に誘電体層は低融点ガラスからなり、保護膜はマグネシアからなる。
【0004】
このようなプラズマディスプレイパネルの耐衝撃強度の向上に関して、前面側のガラス基板と誘電体層とにそれぞれ引張応力と圧縮応力とを意図的に残留させる技術がある(特許文献1)。これら残留応力は、プラズマディスプレイパネルの前面(前面側のガラス基板の外面)を背面側へ押す衝撃力に対抗し、ガラス基板に固着する誘電体層でのクラックの発生を抑制する。誘電体層でのクラックはガラス基板に進行してガラス基板を破損に導く。誘電体層でのクラックを生じにくくすればプラズマディスプレイパネルの耐衝撃強度が高まる。
【0005】
一方、複層構造の誘電体層が知られている。例えば、表示電極のエレクトロマイグレーションの防止と表面の平坦化とのために2層にしたもの(特許文献2)、銀電極との反応で生じる気泡による絶縁破壊を防ぐために2層にしたもの(特許文献3)がある。また、特許文献4には、圧縮残留応力をもつように成膜された二酸化珪素からなる下層を下層からのガス析出を防ぐために窒素化合物で被覆した誘電体層が記載されている。
【特許文献1】特開2007−212801号公報
【特許文献2】特開平9−50769号公報
【特許文献3】特開平5−41167号公報
【特許文献4】特開2001−155647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の複層の誘電体層を有したプラズマディスプレイパネルの製造においては、基板上に応力が残留するように第1の層を形成した時点で基板に反りが生じる。そのため、第1の層の上に第2層以降の層を積層するための方法が、シートラミネート法または気相堆積法に限られ、さらに材質がガラスの場合にはシートラミネート法に限られていた。スクリーン印刷法やコータ塗布法といった比較的にコスト面で有利な方法では厚さの一様な層の形成が困難であった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされ、製造方法の制約が少なく耐衝撃強度に優れるプラズマディスプレイパネルの提供を目的としている。他の目的は複層の誘電体層をもち耐衝撃強度に優れるプラズマディスプレイパネルを安価に製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するプラズマディスプレイパネルは、内面に電極と前記電極を被覆する誘電体層とが固着した前面ガラス基板を有するプラズマディスプレイパネルであって、前記誘電体層が、前記電極および前記前面ガラス基板と接する第1のガラスからなる下層部と、前記下層部に積層されかつ圧縮残留応力をもつ第2のガラスからなる上層部とで構成され、前記前面ガラス基板が引張残留応力をもつものである。
【0009】
第1のガラスの熱膨張率を前面ガラス基板の熱膨張率に近い値に選定することにより、下層部の形成段階において前面ガラス基板の反りを抑制することができる。第2のガラスの熱膨張率を前面ガラス基板の熱膨張率よりも小さい値に選定することにより、上層部に圧縮応力を、下層部および前面ガラス基板に引張応力を残留させることができる。そして、残留応力の大きさを下層部および上層部の厚さの選定により制御することができる。
【0010】
下層部は単層である必要はなく、組成の異なる2以上のガラス層で構成されてもよい。ただし、これらガラス層の形成段階での前面ガラス基板の反りを抑制するため、下層部の各ガラス層の熱膨張率と前面ガラス基板の熱膨張率との差の絶対値が、上層部の熱膨張率と前面ガラス基板の熱膨張率との差の絶対値よりも小さいという条件を満たす必要はある。
【0011】
上記目的を達成するプラズマディスプレイパネルの製造方法は、電極が配列されたガラス基板の表面を誘電体層で被覆する際に、前記ガラス基板との熱膨張率の差が比較的に小さい第1のガラスからなるガラス層を形成する工程と、前記ガラス層の上に、熱膨張率が前記ガラス基板の熱膨張率よりも小さくかつ前記ガラス基板との熱膨張率の差が比較的に大きい第2のガラスを主成分とするガラスペーストを塗布する工程と、塗布されたガラスペーストを焼成し、それによって第2のガラスからなるガラス層を形成するとともに前記ガラス基板に圧縮応力を残留させる工程と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、応力が残留する複層構造の誘電体層を有するプラズマディスプレイパネルの生産性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1はプラズマディスプレイパネルのセル構造の一例を示す分解斜視図である。同図では内部構造を解り易くするために前面板10と背面板20とを分離させて描いてある。
【0014】
前面板10は、前面ガラス基板11、第1の表示電極X、第2の表示電極Y、複層構造の誘電体層17、および保護膜18を備える。背面板20は、背面ガラス基板21、アドレス電極A、誘電体層24、複数の隔壁29、赤(R)の蛍光体24、緑(G)の蛍光体25、および青(B)の蛍光体26を備える。
【0015】
表示電極X,Yのそれぞれは、透明導体13およびパターニングされたCr−Cu−Crの3層薄膜である金属帯14からなる。誘電体層17および保護膜18は、画面の全体にわたって拡がり、表示電極X,Yを被覆する。これら透明導体13、金属帯14、誘電体層17、および保護膜18が順に形成されて前面ガラス基板11に固着する積層体を構成する。
【0016】
なお、表示電極X,Yの配列は広く知られる2つの形態のどちらでもよい。1つは、図1のように表示電極を等間隔に配列して全ての表示電極間隙を面放電ギャップとするものである。他の1つは、表示ラインに一対ずつ表示電極を配列して隣接する表示ライン間の電極間隙を各表示ラインにおける電極間隙(面放電ギャップ)よりも広くするものである。また、隔壁パターンは図示のストライプパターンに限らず、セルごとにガス放電空間を区画する格子パターンでもよい。
【0017】
プラズマディスプレイパネルにおいて、前面板10は以下の特徴を備える。
【0018】
図2は前面板10の特徴を表す模式図である。前面板10は、前面ガラス基板11とその背面に固着した誘電体層17とから構成される。実際には、上述のとおり、前面ガラス基板11の背面には表示電極X,Y、誘電体層17および保護膜18からなる積層体が固着するが、耐衝撃強度の向上に実質的に影響するのは積層体の体積の大半を占める誘電体層17である。したがって、ここでは誘電体層17に着目する。誘電体層17は、表示電極X,Yおよび前面ガラス基板11と接する第1のガラスからなる下層部171と、下層部171に積層された第2のガラスからなる上層部172とで構成される。
【0019】
前面板10の特徴は、前面ガラス基板11が引張残留応力61をもち、かつ誘電体層17の上層部172が圧縮残留応力63をもつことである。すなわち、前面板10の前面側には当該前面板10を平面視中央から周囲へ引き伸ばそうとする残留応力61が与えられ、逆に背面側では前面板10を平面視における周囲から中央へ押し縮めようとする残留応力63が与えられている。
【0020】
残留応力61はガラス基板11の前面側を押し縮めようとする衝撃力66に対抗し、積層体に加わる衝撃を弱める。残留応力63は誘電体層17を背面側へ押す衝撃力66に対抗し、誘電体層17でのクラックの発生を抑制する。これら残留応力の作用により、前面板10の耐衝撃性能が向上する。
【0021】
このような応力の残留状態は、前面ガラス基板11と誘電体層17の各部との間の熱膨張率の関係を考慮した材質の選定、および誘電体層17の下層部171および上層部172を形成する際の熱プロファイルの制御によって得られる。所望の残留応力状態を得るには、誘電体層17の下層部171の熱膨張率が前面ガラス基板11の熱膨張率とほぼ等しく、かつ誘電体層17の上層部172の熱膨張率が前面ガラス基板11の熱膨張率よりも小さいのが望ましい。
【実施例1】
【0022】
前面ガラス基板11として、厚さ1.8mm、熱膨張率が83×10-7/℃(30〜300℃の平均)の高歪点ガラスを用いた。誘電体層17の下層部171の材料として表1の組成のガラスフリットを用い、上層部172の材料として熱膨張率を75×10-7/℃程度に調整した表2の組成のガラスフリットを用いた。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
まず、表1の組成のガラスフリットを主成分とするガラスペーストをダイコータによって表面の平坦なガラス基板上に約40〜100μmの厚さに塗布した。乾燥させた後に最高温度を600℃とする温度プロファイルによる焼成を行った。これにより、厚さ8〜20μmの下層部171を得た。この段階では、ガラス基板に反りはほとんど無かった〔図3(A)〕。
【0026】
次に、表2の組成のガラスフリットを主成分とするガラスペーストをダイコータによって下層部171の上に約40〜100μmの厚さに塗布した〔図3(B)〕。乾燥させた後に下層部の形成時と同様に温度プロファイルによる焼成を行った。これにより、厚さ8〜20μmの下層部171が得られ、同時に厚さ16〜40μmの誘電体層17が形成された〔図3(C)〕。
【0027】
その後、電子ビーム蒸着によって誘電体層17の上にマグネシアからなる保護膜18を被着させ、前面板10を完成させた。
【0028】
以上の手順で複数の前面板10を作製するとともに、そのうちの一つを別途に作製した背面板20と貼り合せてプラズマディスプレイパネルを試作し、特許文献1の開示と同様の方法によって残留応力および耐衝撃強度を測定した。
【0029】
残留応力の測定には神港精機製SP−125型ポーラリメーターを用いた。その際、試料として前面板10から切り出した2cm幅の短冊状の部分を用いた。切り出す領域は衝撃強度試験において衝撃を加える平面視中央の領域である。
【0030】
耐衝撃強度の測定方法は硬球落下試験法である。前面板10を上に向けて水平に配置したプラズマディスプレイパネル1に、上方から質量509gの鋼球を自由落下させ、目視観察によってクラックの有無を調べた。5mmまたは1cm刻みで徐々に落下の高さを増していき、クラックの生じた高さを記録した。この高さと鋼球の質量とから位置エネルギーを耐衝撃強度として算出した。
【0031】
図4は前面板の残留応力および耐衝撃強度の測定結果を示す。同図における比較例は、表1の組成のガラスからなる単層の誘電体層(厚さは実施例と同じ)をもつ前面板における測定値である。
【0032】
実施例と比較例とに共通の構造条件は次のとおりである。
【0033】
画面サイズ:対角42インチ
ガラス基板11,21:厚さ1.8mmの高歪み点ガラス
透明導体13:厚さ約5000ÅのITO(酸化インジウム・スズ)
金属帯14:合計厚さ約4μmのクロム−銅−クロムの積層体
保護膜18:厚さ約1μmのマグネシア(MgO)
隔壁29:高さ100〜150μmの低融点ガラス
放電ガス圧:67kPa(約500Torr)
図4のとおり、比較例では前面ガラス基板に残留応力はほとんどなく、画面中央での耐衝撃強度は約0.2Jである。これに対して、実施例ではガラス基板11が約12kgfの引張残留応力をもち、画面中央での耐衝撃強度はほぼ0.5Jである。この強度は比較例の強度の2倍の0.4Jよりも大きい。
【0034】
以上の実施形態によれば、誘電体層17の下層部171の焼成が終わった時点では前面ガラス基板11にほとんど反りがないので、上層部172の形成方法としてシートラミネート法だけでなくシートラミネート法よりもコスト面で有利なコータ塗布法やスクリーン印刷法を用いることができる。仮に基板に反りがある場合には、例えばコータ塗布法では反りに合わせて吐出ヘッドを上下移動させなければならない。反りがなければ、吐出ヘッドを所定高さ位置で並進移動させるだけでよい。
【0035】
誘電体層17を複層構造とすることで、所望の絶縁耐圧を得ることができる。金属帯14の例えば銅とペースト成分との反応で気泡が生じても、気泡を含む下層部171が所定厚さの上層部172で被覆されるので、少なくとも上層部172の厚さで決まる絶縁耐圧が確保される。
【0036】
上記実施形態において、誘電体層の下層部および上層部の材質および厚さは、下層部の形成段階では残留応力を生じさせず上層部の形成段階で残留応力を生じさせることができる範囲で適宜変更することができる。また、プラズマディスプレイパネルの他の各部の材質、形状および寸法は例示に限定されない。例えば、金属帯14の材質は銅に限らず、銀、アルミニウム、ニッケルまたはこれらの合金であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】プラズマディスプレイパネルのセル構造の一例を示す分解斜視図である。
【図2】前面板の特徴を表す模式図である。
【図3】誘電体層の形成手順を示す図である。
【図4】前面板の残留応力および耐衝撃強度の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 プラズマディスプレイパネル
X,Y 表示電極
11 前面ガラス基板
17 誘電体層
171 下層部
172 上層部
61 引張残留応力
63 圧縮残留応力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に電極と前記電極を被覆する誘電体層とが固着した前面ガラス基板を有するプラズマディスプレイパネルであって、
前記誘電体層が、前記電極および前記前面ガラス基板と接する第1のガラスからなる下層部と、前記下層部に積層されかつ圧縮残留応力をもつ第2のガラスからなる上層部とで構成され、
前記前面ガラス基板が引張残留応力をもつ
ことを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記前面ガラス基板における中央位置での硬球落下試験による耐衝撃強度が0.4J以上である
請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項3】
前記上層部の熱膨張率が前記前面ガラス基板の熱膨張率よりも小さい
請求項2に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項4】
前記下層部の熱膨張率と前記前面ガラス基板の熱膨張率との差の絶対値が、前記上層部の熱膨張率と前記前面ガラス基板の熱膨張率との差の絶対値よりも小さい
請求項3に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項5】
内面に電極と前記電極を被覆する誘電体層とが固着した前面ガラス基板を有するプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記電極が配列されたガラス基板の表面を前記誘電体層で被覆する際に、前記ガラス基板との熱膨張率の差が比較的に小さい第1のガラスからなるガラス層を形成する工程と、
前記ガラス層の上に、熱膨張率が前記ガラス基板の熱膨張率よりも小さくかつ前記ガラス基板との熱膨張率の差が比較的に大きい第2のガラスを主成分とするガラスペーストを塗布する工程と、
塗布されたガラスペーストを焼成し、それによって第2のガラスからなるガラス層を形成するとともに前記ガラス基板に圧縮応力を残留させる工程と、を有する
ことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−61953(P2010−61953A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225756(P2008−225756)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】