説明

プラズマディスプレイパネルの駆動方法

【課題】コントラストの向上を図ることができるプラズマディスプレイパネルの駆動方法を提供することを目的とする。
【解決手段】放電空間に接する面上に電界電子放出材が露出する保護層を備えたPDPを以下の如く駆動する。すなわち、PDPの行電極対各々の内でアドレス対象となる行電極対の第1行電極に選択電位を印加する一方、非アドレス対象となる行電極対の第1行電極に非選択電位を印加するアドレス行程を実行する。かかるアドレス行程において、第1行電極に選択電位を印加した際の第1行電極及び第2行電極間の電位差は、上記電界放出材からの電子放出を促す閾値以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネルを駆動する駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、薄型表示装置として、AC型(交流放電型)のプラズマディスプレイパネル(以下、PDPと称する)が製品化されている。PDP内には、2枚の基板、すなわち前面ガラス基板及び背面ガラス基板が所定間隙を介して対向配置されている。表示面としての上記前面ガラス基板の内面(背面ガラス基板と対向する面)には、互いに対をなして平行に伸長する行電極対の複数がサスティン電極対として形成されている。これら行電極対の各々は、誘電体層によって被覆されており、この誘電体層の表面には2次電子放出材料としての酸化マグネシウム層(以下、MgO層と称する)が形成されている。背面ガラス基板には、行電極対と交差するように複数の列電極がアドレス電極として伸長形成され、さらに蛍光体が塗布されている。上記表示面側から見た場合、行電極対と列電極との交叉部に、画素に対応した放電セルが形成されている。
【0003】
このようなプラズマディスプレイパネルに対して、入力映像信号に対応した中間調の表示輝度を得るべく、サブフィールド法を用いた階調駆動を実施する。
【0004】
サブフィールド法に基づく階調駆動では、発光を実施すべき回数(又は期間)が夫々に割り当てられている複数のサブフィールド各々にて、1フィールド分の映像信号に対する表示駆動を実施する。各サブフィールドでは、アドレス行程と、サスティン行程とを順次実行する。アドレス行程では、入力映像信号に応じて、選択的に各放電セル内の行電極及び列電極間で選択放電を生起させて所定量の壁電荷を形成(又は消去)させる。サスティン行程では、所定量の壁電荷が形成されている放電セルのみを繰り返し放電させてその放電に伴う発光状態を維持する。更に、少なくとも先頭のサブフィールドにおいて上記アドレス行程に先立ち、初期化行程を実行する。かかる初期化行程では、全ての放電セル内において、対を為す行電極間にリセット放電を生起させることにより全放電セル内に残留する壁電荷の量を初期化する。
【0005】
又、上述した如き各種放電の効率を高めるべく、上述した如きPDPにおけるMgO層の表面に、カーボンナノチューブからなるカーボンナノチューブ層を積層させてなる2次電子増幅構造体が提案された(例えば特許文献1参照)。かかる2次電子増幅構造体を採用することにより、放電時において多量の2次電子が放出されるようになるので、表示輝度の向上、或いは放電開始電圧の低下を図ることが可能となる。
【0006】
ところが、上記リセット放電は比較的強い放電であり、且つ表示すべき画像の内容には何ら関与しないものである為、このリセット放電に伴う発光が画像のコントラストを低下させてしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2001−222944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる問題を解決すべく為されたものであり、コントラストの向上を図ることができるプラズマディスプレイパネルの駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載によるプラズマディスプレイパネルの駆動方法は、前面基板と、放電空間を挟んで前記前面基板と対向配置された背面基板と、前記前面基板上において行方向に伸張して配置されている第1行電極及び第2行電極からなる行電極対の複数と、前記行電極対各々を覆う誘電体層と、前記誘電体層を覆うと共に前記放電空間に接する面上に電界電子放出材が露出する保護層と、前記背面基板上において夫々列方向に伸張して配置されている列電極の複数と、を有するプラズマディスプレイパネルの駆動方法であって、
前記行電極対各々の内でアドレス対象となる行電極対の前記第1行電極に選択電位を印加する一方、非アドレス対象となる行電極対の前記第1行電極には非選択電位を印加するアドレス行程を備え、
前記アドレス行程において、前記第1行電極に選択電位を印加した際の前記第1行電極及び第2行電極間の電位差は、前記電界放出材からの電子放出を促す閾値以上である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
放電空間に接する面上に電界電子放出材が露出する保護層を備えたPDPを以下の如く駆動する。すなわち、PDPの行電極対各々の内でアドレス対象となる行電極対の第1行電極に選択電位を印加する一方、非アドレス対象となる行電極対の第1行電極には非選択電位を印加するアドレス行程を実行する。この際、かかるアドレス行程において、第1行電極に選択電位を印加した際の第1行電極及び第2行電極間の電位差は、電界放出材からの電子放出を促す閾値以上である。かかる電子放出によって放電空間内には、アドレス放電を確実に生起させるのに十分な量の電荷が蓄積される。これにより、全放電セル内に残留する壁電荷の量を一斉に初期化するリセット放電を生起させることなく、各アドレス行程において確実にアドレス放電を生起させることが可能となる。つまり、比較的大きな発光を伴うリセット放電を省略して画面の高コントラスト化を実現しつつも、アドレス放電の安定化を図ることが可能となる。
【実施例】
【0010】
図1は、本発明による駆動方法に従ってプラズマディスプレイパネルを駆動するプラズマディスプレイ装置の概略構成を示す図である。
【0011】
図1に示す如く、かかるプラズマディスプレイ装置は、プラズマディスプレイパネルとしてのPDP50と、パネルドライバとしてのX電極ドライバ51、Y電極ドライバ53及びアドレスドライバ55と、パネルドライバの駆動制御を行う駆動制御回路56とから構成される。
【0012】
PDP50には、2次元表示画面の縦方向(垂直方向)に夫々伸張して配列された列電極D1〜Dm、横方向(水平方向)に夫々伸張して配列された行電極X1〜Xn及び行電極Y1〜Ynが形成されている。この際、互いに隣接するもの同士で対を為すn組の行電極対(Y1,X1)、(Y2,X2)、(Y3,X3)、・・・、(Yn,Xn)が夫々、PDP50における第1表示ライン〜第n表示ラインを担う。各表示ラインと列電極D1〜Dm各々との交叉部(図1中の一点鎖線にて囲まれた領域)には、画素を担う放電セル(表示セル)PCが形成されている。
【0013】
図2は、PDP50を表示面側から眺めてその内部構造を示す正面透視図である。尚、図2においては、夫々隣接する3つの列電極Dと、互いに隣接する2つの表示ラインとの各交叉部を抜粋して示すものである。又、図3は、図2のV−V線におけるPDP50の断面を示す図である。
【0014】
図2及び図3に示されるように、PDP50は、表示画面を担う前面透明基板10及び背面基板14を備える。前面透明基板10の背面には、夫々が表示画面の水平方向(行方向)に伸張するバス電極Xb及び透明電極Xaから構成される行電極Xと、夫々が表示画面の水平方向に伸張するバス電極Yb及び透明電極Yaから構成される行電極Yと、が形成されている。透明電極Xa及びYaは例えばITO等の透明導電膜からなり、バス電極Xb及びYbは例えば金属膜からなる。バス電極Xb及び透明電極Xaは互いに電気的に接続されており、両者の内のバス電極XbがX電極ドライバ51に接続されている。バス電極Yb及び透明電極Yaは互いに電気的に接続されており、両者の内のバス電極YbがY電極ドライバ53に接続されている。尚、図2及び図3に示すように、透明電極Xa(又はYa)における表示画面垂直方向での幅は、バス電極Xb(又はYb)における表示画面垂直方向での幅よりも広い。ここで、各行電極対(X、Y)を為す透明電極Xa及びYaは、前面透明基板10の背面上において、互いに所定幅の放電ギャップgだけ離間した位置関係を保って配置されている。
【0015】
又、前面透明基板10の背面には、図3に示すように、行電極対(X,Y)の各々を被覆するように誘電体層12が形成されている。この誘電体層12の一面(前面透明基板10が形成されている面とは反対側の面)には、図3に示す如く、薄膜酸化マグネシウム層13(以下、薄膜MgO層13と称する)及び電界電子放出層18が積層した状態で形成されている。
【0016】
電界電子放出層18は、2V/um程度(それ以下)の電界において電子放出が起こる材料から構築されている。例えば、電界電子放出層18は、カーボンナノチューブ(直径2-30nm)、水素終端ダイヤモンド、12CaO・7Al23エレクトライド(電子化化合物)、カーボンナノファイバー、グラファイトナノファイバー、ZnOナノワイヤ、スピントSiティップ(円錐形状シリコン)、BNティップ等の電子放出材料から構築される。
【0017】
また、電界電子放出層18は、電子線の照射によって励起されて波長200〜300nm内、特に、230〜250nm内にピークを有するCL(カソードルミネッセンス)発光を行う二次電子放出材としての酸化マグネシウム結晶体(以下、CL発光MgO結晶体と称する)を含むものである。このCL発光MgO結晶体は、マグネシウムを加熱して発生するマグネシウム蒸気を気相酸化して得られるものであり、例えば立方体の結晶体が互いに嵌り込んだ多重結晶構造、あるいは立方体の単結晶構造を有する。CL発光MgO結晶体の平均粒径は、2000オングストローム以上(BET法による測定結果)である。
【0018】
一方、前面透明基板10と平行に配置された背面基板14上には、図2に示すように、夫々が表示画面の垂直方向(列方向)に伸張する列電極Dの各々(破線にて示す)が形成されている。更に、背面基板14上には、列電極Dの各々を被覆するように、保護誘電体層15が形成されている。
【0019】
保護誘電体層15上には、各放電セルPCを区画するように隔壁16が形成されている。隔壁16は、表示画面の水平方向に伸張している横壁16Aと、垂直方向に伸張している縦壁16Bとからなり、各放電セルPC毎に独立した放電空間Sを形成させるように、保護誘電体層15上においてマトリクス状に形成されている。すなわち、マトリクス状に形成された隔壁16により、夫々独立した放電空間S、行電極対(X、Y)及び列電極Dを含む放電セルPCが区画される。放電空間S内には、キセノンガスを含む放電ガスが封入されている。各放電セルPC内における横壁16Aの側面、縦壁16Bの側面、及び保護誘電体層15の表面には、これらの面を全て覆うように蛍光体層17が形成されている。この蛍光体層17は、実際には、赤色発光を為す蛍光体、緑色発光を為す蛍光体、及び青色発光を為す蛍光体の3種類からなる。
【0020】
尚、蛍光体層17内には、二次電子放出材としてのMgO結晶体(CL発光MgO結晶体を含む)が含まれている。特に、蛍光体層17の表面上における放電空間Sを覆う面上、つまり放電空間Sと接する面上には、放電ガスと接触するようにMgO結晶体が蛍光体層17から露出している。
【0021】
図1に示される駆動制御回路56は、上記の如き構造を有するPDP50を、図4に示す如き発光駆動シーケンスに従って駆動させるべき各種駆動制御信号をパネルドライバ(X電極ドライバ51、Y電極ドライバ53及びアドレスドライバ55)に供給する。
【0022】
この際、駆動制御回路56は、先ず、入力映像信号を各画素毎にその輝度レベルを256階調にて表現する8ビットの画素データに変換し、この画素データに対して誤差拡散処理及びディザ処理からなる多階調化処理を施す。誤差拡散処理では、駆動制御回路56は、上記画素データの上位6ビット分を表示データ、残りの下位2ビット分を誤差データとし、周辺画素各々に対応した画素データにおける誤差データを重み付け加算したものを、上記表示データに反映させることにより6ビットの誤差拡散処理画素データを得る。かかる誤差拡散処理によれば、原画素における下位2ビット分の輝度が周辺画素によって擬似的に表現され、それ故に8ビットよりも少ない6ビット分の表示データにて、上記8ビット分の画素データと同等の輝度階調表現が可能になる。次に、駆動制御回路56は、この誤差拡散処理によって得られた6ビットの誤差拡散処理画素データに対してディザ処理を施す。ディザ処理では、互いに隣接する複数の画素を1画素単位とし、この1画素単位内の各画素に対応した上記誤差拡散処理画素データに夫々、互いに異なる係数値からなるディザ係数を夫々割り当てて加算することによりディザ加算画素データを得る。かかるディザ係数の加算によれば、上記の如き画素単位で眺めた場合には、ディザ加算画素データの上位4ビット分だけでも8ビットに相当する輝度を表現することが可能となる。そこで、駆動制御回路56は、上記ディザ加算画素データの上位4ビット分を、全輝度レベルを15階調にて表す多階調化画素データPDSとする。そして、駆動制御回路56は、多階調化画素データPDSを、図4に示す如き1フィールド又は1フレームの単位表示期間毎に設けられたN個のサブフィールドSF1〜SF(N)各々で放電セルPCを点灯及び消灯モード(後述する)の内のいずれの状態に設定するのかを示す画素駆動データGDに変換する。駆動制御回路56は、かかる画素駆動データGDにおける第1〜第Nビットを夫々サブフィールドSF1〜SF(N)に対応させ、そのサブフィールドSFに対応したビット桁を画素駆動データビットとして1表示ライン分(m個)ずつアドレスドライバ55に供給する。
【0023】
ここで、駆動制御回路56は、図4に示す如きサブフィールドSF1〜SF(N)の各々において、アドレス準備行程CG、アドレス行程W及びサスティン行程I各々に従った駆動を順次実施させるべき各種制御信号をパネルドライバに供給する。尚、先頭のサブフィールドSF1では、アドレス準備行程CGに先立ち、行程PRを実行する。
【0024】
パネルドライバ、すなわち、X電極ドライバ51、Y電極ドライバ53及びアドレスドライバ55は、駆動制御回路56から供給された各種制御信号に応じて、上述した如き各行程(PR、CG、W、I)において、各種駆動パルスをPDP50の列電極D、行電極X及びYに印加する。
【0025】
図5は、図4に示されるサブフィールドSF1〜SF(N)の内から先頭のサブフィールドSF1及びSF2の一部を抜粋して、パネルドライバがPDP50に印加する各種駆動パルスの一例を示す図である。
【0026】
先ず、アドレス行程Wでは、Y電極ドライバ53が、図5に示す如く、正極性の非選択電位Vb1を全ての行電極Y1〜Ynに印加しつつ、負極性の選択電位(−Va)を有する走査パルスSPを行電極Y1〜Yn各々に順次択一的に印加して行く。
【0027】
すなわち、アドレス行程Wにおいては、アドレス対象となる表示ライン(行電極対)に属する行電極Yには選択電位(−Va)、アドレス対象とはならない他の表示ライン各々に属する行電極Yには非選択電位Vb1を印加する。又、アドレス行程Wの実行期間中に亘り、X電極ドライバ51は、上述した如き正極性の非選択電位Vb1よりも低い電位Vb2を行電極X1〜Xn各々に印加する。更に、かかるアドレス行程Wにおいて、アドレスドライバ55は、先ず、そのサブフィールドSFに対応した画素駆動データビットを、その論理レベルに応じた画素データパルスDPに変換する。例えば、アドレスドライバ55は、論理レベル1の画素駆動データビットが供給された場合にはこれを正極性のピーク電位を有する画素データパルスDPに変換する。一方、論理レベル0の画素駆動データビットが供給された場合にはこれを低電圧(0ボルト)の画素データパルスDPに変換する。そして、アドレスドライバ55は、かかる画素データパルスDPを1表示ライン分(m個)ずつ、各走査パルスSPの印加タイミングに同期して列電極D1〜Dmに印加して行く。この際、上記走査パルスSPと同時に、正極性のピーク電位を有する画素データパルスDPが印加された放電セルPC内では、列電極D及び行電極Xを正極側、行電極Yを負極側とした電圧が各電極間に印加される。これにより、この放電セルPC内の列電極D及び行電極Y間においてアドレス放電が生起される。かかるアドレス放電により、この放電セルPCは、その行電極Yの近傍に正極性の壁電荷、行電極X及び列電極D近傍に負極性の壁電荷が夫々形成された状態、すなわち、点灯モードに設定される。一方、走査パルスSPと同時に、低電圧(0ボルト)の画素データパルスDPが印加された放電セルPC内の列電極D及び行電極Y間には上述した如きアドレス放電は生起されない。よって、この放電セルPCは、その直前までの状態(消灯モード)を維持する。
【0028】
このように、アドレス行程Wでは、第1〜第n表示ライン各々に対応した行電極対(X、Y)各々の内で非アドレス対象となる行電極対の行電極Yに対しては非選択電位Vb1を印加することにより、この行電極Y及び行電極X間に電圧(Vb1−Vb2)が印加される。一方、アドレス対象となる行電極対の行電極Yに対しては負極性の走査パルスSPを印加すると共に、入力映像信号に応じた正極性の画素データパルスDPを列電極Dに印加することにより、これら行電極Y及び列電極D間にアドレス電圧を印加してアドレス放電を生起させる。この際、かかるアドレス放電を生起させるか否かにより、各放電セルPCが点灯モード及び消灯モード状態の内の一方の状態に設定される。
【0029】
尚、非アドレス対象となる行電極対の行電極Y及び行電極X間に印加される電圧(Vb1−Vb2)は、電界電子放出材による電子放出を生じさせる閾値未満である。一方、アドレス対象となる行電極対の行電極Y及び行電極X間に印加される電圧(Vb2+Va)は、電界電子放出材による電子放出を生じさせる閾値以上となるように設定されている。従って、アドレス放電時、行電極Y及び行電極X間に印加される電圧(Vb2+Va)に伴う電界により、電界電子放出層18から放電空間S内に十分な量の電子(プライミング粒子)が放出される。これにより、アドレス放電における放電遅れを短縮させることができる。
【0030】
次に、サスティン行程Iでは、X電極ドライバ51及びY電極ドライバ53が、図5に示す如く、行電極X及びY交互に、そのサブフィールドの輝度重みに対応した回数分だけ繰り返し、正極性のピーク電位Vsを有するサスティンパルスIPを行電極X1〜Xn及びY1〜Yn各々に印加する。かかるサスティンパルスIPが印加される度に、点灯モードに設定されている放電セルPC内の行電極X及びY間においてサスティン放電が生起される。かかるサスティン放電に伴って蛍光体層17から照射される光が前面透明基板10を介して外部に照射されることにより、そのサブフィールドSFの輝度重みに対応した回数分の表示発光が為される。すなわち、単位表示期間内のサブフィールドSF1〜SF(N)各々のサスティン行程Iにおいて生起されたサスティン放電の総数に対応した中間輝度が視覚されるのである。
【0031】
行程PRでは、Y電極ドライバ53が、図5に示す如き正極性のピーク電位Vrを有するパルスDRPを全ての行電極Y1〜Ynに印加する。尚、かかるパルスDRPにおけるパルス前縁部は、上記サスティンパルスIPに比して緩やかに電位が上昇してピーク電位Vrに到る波形を有する。又、そのパルス中央部では、かかるピーク電位Vrの状態が所定期間に亘り維持される。そして、そのパルス後縁部では、上記ピーク電位Vrの状態から急峻に電位VQ(Vr>VQ>0)まで降下し、この電位VQの状態を所定期間に亘り維持した後、緩やかにその電位が低下して0ボルトに到る波形を有する。ここで、行程PRでは、上記パルス前縁部及びパルス中央部の区間に亘り、X電極ドライバ51が、全ての行電極X1〜Xnに接地電位(0ボルト)を印加する。又、上記パルス後縁部の区間では、X電極ドライバ51は、所定の正極性の電位Vrbを全ての行電極X1〜Xn各々に印加する。つまり、パルスDRPにおけるパルス前縁部及びパルス中央部各々では、全ての放電セルPC内の行電極X及びY間において、行電極Yを正極側、行電極Xを陰極側とした電圧が印加されることになる。この際、パルスDRPの正極性ピーク電位Vrによって行電極Y及びX間に印加される電圧は、各放電セルPCの放電開始電圧よりも低く且つ電界電子放出材による電子放出を生じさせる閾値よりも高い。更に、かかるパルスDRPの正極性ピーク電位Vrによって行電極Y及列電極D間に印加される電圧は、各放電セルPCの放電開始電圧よりも低い。従って、パルスDRPの印加によれば、放電を生起させることなく、各放電セルPC内の行電極Y近傍には負極性の電荷、行電極X近傍には正極性の電荷が電界電子放出材による電子放出により引き寄せられることになる。
【0032】
次に、各アドレス行程Wの直前に実施されるアドレス準備行程CGでは、Y電極ドライバ53が、図5に示す如くそのパルス前縁部において電位が緩やかに低下して負極性のピーク電位(−Ve)に到る波形を有する電荷調整パルスCPを全ての行電極Y1〜Ynに印加する。尚、電荷調整パルスCPにおける負極性のピーク電位(−Ve)は、アドレス行程Wにおいて行電極Yに印加される走査パルスSPの負極性のピーク電位(−Va)よりも高い電位である。この間、X電極ドライバ51は、正極性の電位Vrbを全ての行電極X1〜Xn各々に印加する。かかる電荷調整パルスCPの印加に応じて、全放電セルPCの内で、直前のサスティン行程Iにおいてサスティン放電が生起された放電セルPCのみに微弱な消去放電が生起され、その内部に形成されていた壁電荷の一部が消去される。これにより、直前にサスティン放電が生起された放電セルPCと、サスティン放電が生起されなかった放電セルPCとで、その放電セル内に残留する壁電荷の量が略等しくなるような調整が施される。
【0033】
この際、直前のサスティン放電が生起された放電セル及び生起されなかった放電セルのいずれにおいても、電荷調整パルスCPの負極性のピーク電位(−Ve)が所定値以上になる、すなわち、行電極Y及び行電極X間の電位差(Vrb+Ve)が、電界電子放出材による電子放出を生じさせる閾値を越えると、行電極Y側から行電極X側に向かって電界電子放出が生じ、電荷が移動する。しかしながら、この状態で、アドレス工程Wにおいて、行電極Yに走査パルスSP、すなわち、選択電位(−Va)を印加する一方、行電極Xに電圧Vb2を印加しても、直前のアドレス準備行程CGにおいて行電極Y及び行電極X間にかかる電界と同じ方向になるため、十分な電界電子放出が生じない。これを解消するために、後述するパルスCHPを行電極Yに印加する。
【0034】
すなわち、かかる電荷調整パルスCPの印加後、引き続き、Y電極ドライバ53は、図5に示す如く、アドレス行程Wにおいて行電極Yに印加する非選択電位Vb1よりも高電位の正極性ピーク電位Vtを有するパルスCHPを、全ての行電極Y1〜Ynに印加する。この間、X電極ドライバ51は接地電位(0ボルト)を全ての行電極X1〜Xnに印加し、アドレスドライバ55は接地電位(0ボルト)を全ての列電極D1〜Dmに印加する。これにより、全ての放電セルPC各々内の行電極Y及び行電極X間において行電極Yを正極側、行電極Xを陰極側とした電圧Vt(以下、予備電圧Vtと称する)が印加されることになる。この際、かかる予備電圧Vtは、アドレス行程Wにおいて非アドレス対象となる行電極Y及び行電極X間に印加されるべき非選択電圧(Vb1)よりも高い。すなわち、予備電圧Vtは、その電圧印加に伴う電界に応じて電界電子放出層に含まれる電子放出材料が電子の放出を開始する電圧よりも高電圧である。例えば、100ボルト以上の電界で電子放出を開始するというカーボンナノチューブを電子放出材料として採用した場合、Y電極ドライバ53は、行電極Y及び行電極X間に、100ボルトより高い電圧、好ましくは150ボルト以上の電圧を掛けるべきパルスCHPを行電極Yに印加するのである。更に、かかるパルスCHPによって放電セルPC内の行電極X及びY間、並びに、行電極Y及び列電極D間に印加される電圧は、放電セルPCの放電開始電圧よりも低い電圧に設定する。
【0035】
かかるアドレス準備行程CGでのパルスCHPの印加によれば、発光を伴う放電を生起させることなく、上記アドレス放電時における極性とは逆極性の電圧が各放電セルPC内の行電極Y及び行電極X間に印加され、この電圧印加に伴う電界により、電界電子放出層18が電子放出を開始する。かかる電子放出によって各放電セルPCの放電空間S内には、上記の如きアドレス放電時に電界放出を確実に生起させるのに十分な量の電荷が蓄積される。従って、後続するアドレス行程Wでのアドレス放電時において行電極X及びY間に印加する電圧、つまり上記パルスCHPに応じて行電極Y及び行電極X間に印加される電圧とは逆極性の電圧(Vb2+Va)を、電界放出閾値よりも高い値とすることにより、十分な電子放出が生じ、これがプライミング粒子として作用し、放電遅れを短縮させることができる。
【0036】
図6は、電界電子放出材を設けたパネルにおけるアドレス時の放電確率を示す図である。 図6において、特性A(実線にて示す)は、前述した如き駆動によりアドレス行程Wにおいて、電界電子放出を生じさせた場合での放電確率を示すものである。又、図6の特性B及びCは、アドレス行程Wの直前において、アドレス放電時とは逆極性で且つ電界放出閾値以上の電圧値を有する予備電圧を行電極X及びY間に印加した場合の放電確率を示すものである。ここで、アドレス行程Wの直前でのプライミング放電を省略するとアドレス放電が著しく不安定となるが、かかるプライミング放電を生起させずとも、上記の如き電界電子放出材を設け、アドレス時において電界電子放出を促すとアドレス放電が安定化する。更に、アドレス行程の直前にアドレス時とは逆極性でかつ電界放出閾値以上の予備電圧を行電極X、Y間に印加すると、より一層放電確率が改善される。
【0037】
このように、アドレス対象となる行電極対の行電極Y及び行電極X間に印加される電圧を、電界電子放出材による電子放出を生じさせる閾値以上とすることにより、電界電子放出層18から放電空間S内に十分な量の電荷(プライミング粒子)が形成され、アドレス放電における放電遅れを短縮させることができる。すなわち、アドレス行程Wでは、アドレス放電における放電遅れを短縮させる為の電子供給を、放電を伴わない電界放出によって行うようにしたのである。また、上記パルスCHPの印加を、図4に示す如く、各サブフィールドSF内のアドレス行程Wの直前に実行することにより、全放電セル内に残留する壁電荷の量を一斉に初期化するリセット放電を生起させることなく、各アドレス行程Wにおいて確実にアドレス放電を生起させることが可能となる。つまり、比較的大きな発光を伴うリセット放電を省略して画面の高コントラスト化を実現しつつも、アドレス放電の安定化を図ることが可能となるのである。
【0038】
尚、図3に示される実施例では、電界電子放出層18が、薄膜MgO層13の表面上においてPDP50の画面領域の全面に亘って形成されているが、かかる電界電子放出層18を、各放電セルPC内の行電極X及びY夫々の近傍領域のみに、分散させて形成するようにしても良い。
【0039】
図7及び図8は、かかる点に鑑みて為された電界電子放出層18の他の形態を示す図である。尚、図7は、PDP50を表示面側から眺めた正面透視図であり、図8は、図7のV−V線でのPDP50の断面を示す図である。
【0040】
このように、図7及び図8に示される一例では、薄膜MgO層13の表面上において、各放電セルPC内の透明電極Xa及びYaに夫々対応した領域に、電界電子放出層18を分散して形成するようにしている。
【0041】
又、かかる電界電子放出層18を薄膜MgO層13の表面上において、行電極X及びYの内の一方のバス電極に沿った領域のみに形成させるようにしても良い。
【0042】
図9及び図10は、かかる点に鑑みて為された電界電子放出層18の他の形態を示す図である。尚、図9は、PDP50を表示面側から眺めた際の正面透視図であり、図10は、図9のV−V線でのPDP50の断面を示す図である。
【0043】
このように、図9及び図10に示される一例では、薄膜MgO層13の表面上において、各バス電極Xbに沿った領域のみに電界電子放出層18を形成するようにしている。この際、かかる電界電子放出層18をバス電極Xbに沿った領域のみに形成させるにあたり、図11に示す如く各放電セルPC毎に分散させて形成するようにしても良い。
【0044】
又、かかる電界電子放出層18を薄膜MgO層13の表面上において、図12及び図13に示されるように各放電セルPCの放電ギャップgが存在する位置に沿って形成させるようにしても良い。尚、図12は、PDP50を表示面側から眺めた際の正面透視図であり、図13は、図12のV−V線でのPDP50の断面を示す図である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明による駆動方法に従ってプラズマディスプレイパネルを駆動するプラズマディスプレイ装置の概略構成を示す図である。
【図2】表示面側から眺めたPDP50の内部構造を模式的に示す正面図である。
【図3】図2に示されるV−V線上での断面を示す図である。
【図4】図1に示されるプラズマディスプレイ装置において採用される発光駆動シーケンスの一例を示す図である。
【図5】図4に示される発光駆動シーケンスに従ってPDP50に印加される各種駆動パルスを示す図である。
【図6】電界電子放出材を設けたパネルにおけるアドレス時の放電確率を示す図である。
【図7】電界電子放出層18の他の形成例を示すPDP50の正面透視図である。
【図8】図7に示されるV−V線上での断面を示す図である。
【図9】電界電子放出層18の他の形成例を示すPDP50の正面透視図である。
【図10】図9に示されるV−V線上での断面を示す図である。
【図11】電界電子放出層18の他の形成例を示すPDP50の正面透視図である。
【図12】電界電子放出層18の他の形成例を示すPDP50の正面透視図である。
【図13】図12に示されるV−V線上での断面を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
18 電界電子放出層
50 PDP
51 X電極ドライバ
53 Y電極ドライバ
55 アドレスドライバ
56 駆動制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面基板と、放電空間を挟んで前記前面基板と対向配置された背面基板と、前記前面基板上において行方向に伸張して配置されている第1行電極及び第2行電極からなる行電極対の複数と、前記行電極対各々を覆う誘電体層と、前記誘電体層を覆うと共に前記放電空間に接する面上に電界電子放出材が露出する保護層と、前記背面基板上において夫々列方向に伸張して配置されている列電極の複数と、を有するプラズマディスプレイパネルの駆動方法であって、
前記行電極対各々の内でアドレス対象となる行電極対の前記第1行電極に選択電位を印加する一方、非アドレス対象となる行電極対の前記第1行電極には非選択電位を印加するアドレス行程を備え、
前記アドレス行程において、前記第1行電極に選択電位を印加した際の前記第1行電極及び第2行電極間の電位差は、前記電界放出材からの電子放出を促す閾値以上であることを特徴とするプラズマディスプレイパネルの駆動方法。
【請求項2】
前記アドレス行程の直前に、前記アドレス行程において前記選択電位を第1行電極に印加した際の第1行電極及び第2行電極間の電圧とは逆極性であると共に前記電界放出材からの電子放出を促す閾値電圧よりも高く且つ放電開始電圧より低い予備電圧を前記第1行電極及び前記第2行電極間に印加するアドレス準備行程を実行することを特徴とする請求項1記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。
【請求項3】
前記電界電子放出材は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラファイトナノファイバー、ZnOナノワイヤ、水素終端ダイヤモンド、円錐形状のシリコン、又は電子化化合物の内の1つからなることを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。
【請求項4】
前記電界電子放出材はカーボンナノチューブであり、
前記予備電圧は100ボルトより高い電圧であることを特徴とする請求項3記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。
【請求項5】
前記予備電圧は150ボルト以上の電圧であることを特徴とする請求項4記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。
【請求項6】
前記アドレス行程では、前記行電極対各々の前記第2行電極に前記非選択電位よりも低い電位を印加することを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。
【請求項7】
前記アドレス準備行程では、前記予備電圧を前記第1行電極及び前記第2行電極間に印加する直前に、時間経過に伴い徐々に電位が低下して負極性のピーク電位に到る波形を有する電荷調整パルスを前記第1行電極に印加することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。
【請求項8】
時間経過に伴い徐々に電位が上昇してピーク電位に至った後、時間経過に伴い徐々にその電位が低下する波形を有するパルスを前記第1行電極各々に印加する行程を更に実行し、
前記パルスにおける前記ピーク電位の印加に応じて前記第1行電極及び前記列電極間、並びに前記第1行電極及び前記第2行電極間に生じる電圧は、前記放電開始電圧よりも低いことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。
【請求項9】
前記電荷調整パルスの負極性のピーク電位は、前記選択電位よりも高く且つ、前記非選択電位よりも低いことを特徴とする請求項7記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。
【請求項10】
前記保護層は、薄膜酸化マグネシウム層と、前記電界電子放出材料を含む電界電子放出層とが積層されてなるものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1に記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。
【請求項11】
前記電界電子放出層は、前記薄膜酸化マグネシウム層の表面上における複数の所定領域のみに夫々形成されていることを特徴とする請求項8記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。
【請求項12】
前記電界電子放出層は、前記薄膜酸化マグネシウム層の表面上において前記行電極対各々に対応した領域のみに形成されていることを特徴とする請求項11記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。
【請求項13】
前記電界電子放出層は、前記薄膜酸化マグネシウム層の表面上において前記行電極対各々の前記第1行電極及び第2行電極間の放電ギャップが存在する位置に対応した領域のみに形成されていることを特徴とする請求項11記載のプラズマディスプレイパネルの駆動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−122489(P2009−122489A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297713(P2007−297713)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】