説明

プラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板、及び該ガラス基板を備えたプラズマディスプレイ装置

【課題】 ディスプレイから発せられる可視光線の光量及び色調を大きく損なうことなく、近赤外線の吸収能に優れたプラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板と、該ガラス基板を備えたプラズマディスプレイ装置を提供する。
【解決手段】 波長850nmにおける透過率が40%以下であり、波長460nmと550nmと620nmにおける透過率の最大値と最小値の差が15%以下であることを特徴とするプラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板。該ガラス基板の主成分が少なくともSiO2、CaO、Na2Oを含むソーダライム成分からなり、1.0〜1.7%のFe23換算全酸化鉄、0.0005〜0.01%のCoO、及び0.001〜0.05%のNiOの着色成分を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色成分を含むプラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板と、該ガラス基板を備えたプラズマディスプレイ装置とに関するものである。詳しくは近赤外線の吸収能に優れたプラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板、及びそれを用いたプラズマディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のブラウン管型ディスプレイではなし得ない、薄型大画面表示装置の一つとしてプラズマディスプレイ装置が提案され、既に業務用や家庭用として普及し始めている。
【0003】
プラズマディスプレイは平面に多数配置された微細なセルに封入されたガスのプラズマ放電を利用して発光させているが、この際に放電領域からディスプレイ前方に向かって、不用な近赤外線も放出される。この近赤外線は家庭電化製品のリモコン波長に近く、誤動作を起こすことが古くから問題視されている。
【0004】
そこで、家庭電化製品用リモコンの誤動作を誘発する近赤外線を遮断する目的で、プラズマディスプレイの前面に近赤外線カットフィルターが一般に用いられている。
【0005】
プラズマディスプレイ用近赤外線カットフィルターとしては、近赤外線吸収成分を含有した樹脂フィルムを基板に貼り付けて使用する方法、近赤外線吸収成分を含有した樹脂を基板にコーティングする方法、近赤外吸収成分を含有したガラスを使用する方法などが知られており、特に樹脂フィルムをプラズマディスプレイの前面に設置されたガラス基板上に貼り付けて使用する方法(これを総称して前面フィルターと呼ぶ;通常の前面フィルターは近赤外線カット機能の他にプラズマディスプレイの破損保護機能や無反射機能、電磁波カット機能などが付加されているがここでは詳細な説明は割愛する)が現在主流となっている。
【0006】
近赤外吸収樹脂フィルムを使用する方法は例えば特許文献1に記載されている。特許文献1には、例えばアントラキノン系、フタロシアニン系などの有機化合物の染料を含む樹脂、又は金属錯体の有機化合物などの染料を含む樹脂などを使用する方法が開示されている。
【0007】
近赤外吸収成分を含有した樹脂を基板にコーティングして使用する方法は例えば特許文献2に記載されている。特許文献2には、赤外線を吸収する色素、及び染顔料を分散したポリマーを透明基板上にコーティングする方法が開示されている。
【0008】
近赤外吸収ガラスを使用する方法は例えば特許文献3に記載されている。特許文献3には、前面フィルターを用いずにプラズマディスプレイを構成する前方のガラスに、酸化コバルトと酸化鉄を含有し、NiOを実質的に含有しない構成の近赤外吸収ガラスを使用する方法が開示されている。
【0009】
特許文献1に開示された方法は一般的ではあるが、大画面に異物や気泡混入無く貼り合わせる工程が必要であり、材料コストの他に加工コストが掛かるという問題があった。
【0010】
特許文献2に開示された方法は、大画面に均一にコーティングする技術課題があり、生産性と品質上に問題があった。
【0011】
特許文献3に開示された方法は、プラズマディスプレイを構成する前方のガラスに使用するため、高温下に晒される工程を経ることとなり、基板が変形しないように高歪点ガラスを用いなければならないという制約があった。
【0012】
また、特許文献3のガラス基板を、プラズマディスプレイの前面ガラスとして使用する場合であっても、ディスプレイから発せられる可視光線の透過率にバラツキがあり、所望の色調バランスが得られないといった問題があった。
【特許文献1】特許平10−3861号公報
【特許文献2】特開平11−326629号公報
【特許文献3】特開2001−139342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、ディスプレイから発せられる可視光線の光量及び色調を大きく損なうことなく、近赤外線の吸収能に優れたプラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板と、該ガラス基板を備えたプラズマディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、波長850nmにおける透過率が40%以下であり、波長460nmと550nmと620nmにおける透過率の最大値と最小値の差が15%以下であることを特徴とするプラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板を要旨とした。このように構成すると、ディスプレイから発せられる可視光線の光量及び色調を大きく損なうことなく、近赤外線の吸収能に優れたプラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板を提供することができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、該ガラス基板の主成分が少なくともSiO2、CaO、Na2Oを含むソーダライム成分からなり、1.0〜1.7%のFe23換算全酸化鉄、0.0005〜0.01%のCoO、及び0.001〜0.05%のNiOの着色成分を含むことを特徴とするプラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板を要旨とした。このように構成すると、ディスプレイから発せられる可視光線の光量及び色調を大きく損なうことなく、近赤外線の吸収能に優れたプラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板を提供することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1ないし2のいずれか1項に記載のガラス基板を備えたプラズマディスプレイ装置を要旨とした。このように構成すると、ディスプレイから発せられる可視光線の光量及び色調を大きく損なうことなく、近赤外線の吸収能に優れたプラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板を利用したプラズマディスプレイ装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ディスプレイから発せられる可視光線の光量及び色調を大きく損なうことなく、近赤外線の吸収能に優れたプラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板と、該ガラス基板を備えたプラズマディスプレイ装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
酸化鉄は、ガラス中ではFe23とFeOの状態で存在する。FeOは、熱線吸収性能を高める成分である。Fe23に換算した全酸化鉄が1%未満では赤外線の吸収が少なく、1.7%を超えるとガラス溶融の生産性が悪くなる為好ましくない。尚、Fe23に換算した全酸化鉄のより好ましい範囲は1.2%を超え1.6%以下である。
【0019】
CoOはNiO及びFe23と共存させることにより緑色系の色調を得るための成分であり、また、可視光線透過率をコントロールする成分でもある。CoOが0.0005%未満では色調が殆ど変化せず、0.01%を超えると色調は青味が強くなり過ぎ、可視光透過率も低下する。従ってCoOは0.0005〜0.01%含まれることが好ましい。
【0020】
NiOは、CoOと共に可視光線透過率及び色調を調整するための成分である。NiOが0.001%未満では充分な効果が得られず、0.02%を超えると可視光線透過率が低下し、色調も緑味が強くなり過ぎ好ましくない。従ってNiOは、0.001〜0.02%含まれることが好ましい。
【0021】
尚、上記以外の着色成分として例えば紫外線吸収効果のあるTiO2を可視光領域に影響しない範囲で添加しても良い。
【0022】
本発明のガラス基板は、破損防止の目的で必要に応じ風冷強化処理を施しても良い。その場合、表面圧縮応力を20MPa以上、且つ60MPa以下の倍強度程度にすることがより好ましい。倍強度にすることで、熱処理の過程における基板の反りや基板表面の変形を抑制することができ、良好な反射映像品質を造り出すことができる。
【0023】
また本発明のガラス基板の周囲の一部又は全周に可視光線遮断用のマスキング層を設けることもできる。これは、例えば情報表示に無関係なパネルの周辺部裏面側に配置された配線回路などを覆い隠し、ディスプレイパネルの美観を向上させる目的で設置される。
【0024】
また本発明のプラズマディスプレイ装置は、前面フィルターとして本発明のガラス基板を用いる点に特徴を有し、その他の構成は従来技術の構成を採用できる。
【0025】
以下、実施例について説明する。
【0026】
重量%で、略71%のSiO2、8.3%のCaO、14.0%のNa2O、0.6%のK2O、3.2%のMgO、1.6%のAl23、からなる基礎ガラス組成に、着色成分として、1.27%のFe23換算全酸化鉄、0.004%のCoO、0.013%のNiO、及び0.03%のTiO2を調合し、近赤外線吸収ガラスをフロート法にて作製した。
【0027】
フロート法にて板厚2.5mに作製したガラスを、585mm×985mmに切断し面取りを行った。
【0028】
このガラスを分光光度計にて波長300〜1200nmまで測定した結果、図1のような透過スペクトルを得た。
【0029】
測定の結果、460nm、550nm、620nm、850nmの透過率はそれぞれ、61.8%、66.2%、57.2%、27.0%であった。従って、波長460nmと550nmと620nmにおける透過率の最大値と最小値の差は9.0%であり、可視光線の光量及び色調を大きく損なうことなく、近赤外線の吸収能に優れたプラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】前面ガラス基板の分光透過率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長850nmにおける透過率が40%以下であり、波長460nmと550nmと620nmにおける透過率の最大値と最小値の差が15%以下であることを特徴とするプラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板。
【請求項2】
請求項1において、該ガラス基板の主成分が少なくともSiO2、CaO、Na2Oを含むソーダライム成分からなり、1.0〜1.7%のFe23換算全酸化鉄、0.0005〜0.01%のCoO、及び0.001〜0.05%のNiOの着色成分を含むことを特徴とするプラズマディスプレイ前面フィルター用ガラス基板。
【請求項3】
請求項1ないし2のいずれか1項に記載のガラス基板を備えたプラズマディスプレイ装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−265024(P2006−265024A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−84237(P2005−84237)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】