説明

プラズマトーチ

【課題】 簡易な構造を用いて、たとえば電極棒の尖端が花咲状態になるような、電極棒尖端の損耗、を抑制する。
【解決手段】 電極棒40の、円錐状の尖端41がある先端部を、インサートチップ10の内空間に置き、該インサートチップに挿入したセンタリングストーン30によって該電極棒を該インサートチップのノズル11に対して同軸に位置決めし、該センタリングストーンの外周面の縦溝31又は縦穴31aを通してプラズマガスを該ノズルに供給する。センタリングストーン30の下端を、電極棒40の円錐状の尖端41の高さ以下とし、センタリングストーンの下端から出るプラズマガスを尖端41の最先端の下方に向けて案内するプラズマガス通路17,18/19/19aを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インサートチップに挿入したセンタリングストーンでプラズマガスを案内して該インサートチップの先端にあるノズルに供給するプラズマトーチに関する。該センタリングストーンは、その中心を貫通する電極棒を、ノズルと同軸に位置決めし、これにより電極棒の尖端がノズルの中心軸上に位置する。
【背景技術】
【0002】
この種のプラズマトーチの従来の一例を、図17に示す。略円筒状のチップ台20の下端開口部の内側には雌ねじ穴21があり、チップ台20の下端開口に挿入されたインサートチップ110の上端部の雄ねじ112が該雌ねじ穴21にねじ込まれて、インサートチップ110の外側面をなす円錐テーパ面がチップ台20の下端開口部の内面をなす円錐テーパ面に密着している。インサートチップ110のこのねじ込みにおいてインサートチップ110をスパナ等の工具で確実に保持するために、チップ110の円柱状外側面の相対向部に、仮想線部(2点鎖線部)の切削により平面113が形成されている。インサートチップ110は略壷状あるいはカップ状であり、底にはノズル111が開いている。
【0003】
インサートチップ110には上方からセンタリングストーン130が挿入され、このセンタリングストーン130の中心をタングステン棒体である電極棒40が貫通している。電極棒40はチャック50によって電極台51に固定されている。すなわちトーチ本体に固定されている。電極棒40の先端(下端)は、円錐状の尖端である。センタリングストーン130によって電極棒40はノズル111に対して同軸に位置決めされて、電極棒40の尖端の最先端が、ノズル111の上方の円筒空間であるチップ内空間114にあって、ノズル111の中心軸上に位置する。
【0004】
プラズマガスはトーチ外部から、トーチ本体の図示を省略した経路を経てプラズマガス空間60に吹き込まれる。このプラズマガスは、センタリングストーン130の外周にあってその上端から下端に縦に延びる多数の縦溝131を通って、インサートチップ110の、電極棒40の先端部がある内空間114に出て、そしてノズル111から外部に噴出する。シールドガスはトーチ外部から、トーチ本体の図示を省略した経路を経てシールドキャップ70の内空間71に吹き込まれて、シールドキャップ70の下開口から下方に噴出する。
【0005】
インサートチップ110直下の図示しない溶接対象材と電極台51に溶接電圧が印加されると、電極台51とチャック50が導電体であるので、該溶接電圧は溶接対象材と電極棒40の間に加わる。電極台51とチップ台20の間に起動用の高周波高電圧を印加すると、チップ台20は導電体であるので該高周波高電圧は、電極棒40とインサートチップ110の間に加わり、電極棒40の尖端とインサートチップ110の間に放電を生ずる。この放電により電極棒40の尖端と溶接対象材との間に、溶接電圧の放電によるプラズマアークが発生する。このプラズマアークによってプラズマガスが高温プラズマになってノズル111から溶接対象材に流れる。これにより溶接対象材が溶融し溶接が行われる。
【0006】
この溶接の進行に伴い、電極棒40の尖端の円錐テーパ面の下半分程度に、電極棒40の尖端の溶融により多数の微小突起が放射状にあらわれ、それが増殖していわゆる花咲状態となる。そうなるとインサートチップ内にシリーズアークが発生してノズル111が損傷して変形してしまう。このような電極棒およびインサートチップの損耗を抑制するために、特許文献1に記載のプラズマアーク装置は、第1ノズル部材(内側)と第2ノズル部材(外側)で電極棒を包囲した2重ノズル構造を採用して、溶接中は、電極棒の先端部を包囲する第1ノズル部材へのプラズマガス供給は停止し、第2ノズル部材にプラズマガスを供給することにより、電極棒の先端部がプラズマガスに触れるのを抑制し、これにより電極棒の尖端が花咲状態になるのを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平 5− 174994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の、電極棒40の尖端の溶融による多数の微小突起の発生は、電極棒の先端部にプラズマガスが触れることにより加速するので、上記2重ノズル構造の採用は、電極棒の尖端が花咲状態になるのを抑制する効果がある。しかし、2重ノズル構造ならびに第1,第2ノズルのプラズマガスの流量調整構造あるいは切替え構造の採用によって、プラズマアーク装置が高コストになる。
【0009】
本発明は、簡易な構造を用いて、たとえば電極棒の尖端が花咲状態になるような、電極棒尖端の損耗、を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)電極棒(40)の、円錐状の尖端(41)がある先端部を、インサートチップ(10)の内空間に置き、該インサートチップに挿入したセンタリングストーン(30)によって該電極棒を該インサートチップのノズル(11)に対して同軸に位置決めし、プラズマガスを該センタリングストーンで縦方向に該センタリングストーンの下端に案内して該ノズルに供給するプラズマトーチにおいて、
前記センタリングストーン(30)の下端に案内された前記プラズマガスを前記尖端(41)の最先端以下の下方に向けて案内するプラズマガス通路(17,18/19/19a)を設けたことを特徴とするプラズマトーチ(図1,図12,図13,図14)。
【0011】
なお、理解を容易にするために括弧内には、図面に示し後述する実施例の対応又は相当要素の記号を、例示として参考までに付記した。以下も同様である。
【発明の効果】
【0012】
これによれば、インサートチップ(10)内においてプラズマガスが電極棒(40)の尖端(41)の最先端以下の下方に流れるので、電極棒(40)の先端部に対するプラズマガスの接触が少なく、その分、電極棒40の尖端の溶融による微小突起の発生と増殖が低減し、花咲状態になるのが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施例のプラズマトーチの縦断面図である。
【図2】(a)は図1に示すインサートチップ10の縦断面図、(b)はインサートチップ10の下端面を見上げて示す底面図である。
【図3】(a)は図1に示すインサートチップ10の基体部14の縦断面図、(b)は基体部を上から見下ろして示す平面図である。
【図4】(a)は図1に示すインサートチップ10のノズル部15の縦断面図、(b)はノズル部15を上から見下ろして示す平面図である。
【図5】(a)は図1に示すセンタリングストーン30の縦断面図、(b)はセンタリングストーン30を上から見下ろして示す平面図である。
【図6】本発明の第2実施例のプラズマトーチの縦断面図である。
【図7】(a)は図6に示すセンタリングストーン30の縦断面図、(b)はセンタリングストーン30の上端面を上から見下ろして示す底面図である。
【図8】本発明の第3実施例のプラズマトーチの縦断面図である。
【図9】(a)は図8に示すセンタリングストーン30の縦断面図、(b)はセンタリングストーン30の上端面を上から見降ろして示す平面図である。
【図10】本発明の第4実施例のプラズマトーチの縦断面図である。
【図11】(a)は図10に示すセンタリングストーン30の縦断面図、(b)はセンタリングストーン30の上端面を上から見下ろして示す平面図、(c)は図10に示すインサートチップ10の縦断面図である。
【図12】本発明の第5実施例のプラズマトーチの縦断面図である。
【図13】本発明の第6実施例のプラズマトーチの縦断面図である。
【図14】本発明の第7実施例のプラズマトーチの縦断面図である。
【図15】(a)は図14に示すセンタリングストーン30の縦断面図、(b)はセンタリングストーン30の上端面を上から見下ろして示す平面図、(c)は下端面を下から見上げて示す底面図である。
【図16】(a)は本発明の第8実施例のセンタリングストーン30の縦断面図、(b)はセンタリングストーン30の上端面を上から見下ろして示す平面図、(c)は下端面を下から見上げて示す底面図である。
【図17】従来のプラズマトーチの一例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(2)前記センタリングストーン(30)は外周面に、前記プラズマガスを下端に案内する縦溝(31)を有し、前記プラズマガス通路(17,18/19/19a)は、前記縦溝(31)の下端から出る前記プラズマガスを前記尖端(41)の最先端以下の下方に向けて案内する、上記(1)に記載のプラズマトーチ(図1)。
【0015】
(3)前記センタリングストーン(30)は、縦に貫通して前記プラズマガスを下端に案内する縦穴(31a)を有し、前記プラズマガス通路(17,18/19/19a)は、前記縦穴(31a)の下端から出る前記プラズマガスを前記尖端(41)の最先端以下の下方に向けて案内する、上記(1)に記載のプラズマトーチ(図6)。
【0016】
(4)前記プラズマガス通孔は、前記インサートチップ(10)の内底にあって前記センタリングストーン(30)の下端に対向するリング状の溝(17)および該溝から前記ノズル(11)に至って該ノズルに開いた複数の通孔(18)を含む、上記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載のプラズマトーチ(図1,図6)。
【0017】
(5)前記リング状の溝(17)によって囲まれ中央に前記ノズル(11)が開いたランド(16)によって前記センタリングストーン(30)を下支持した、上記(4)に記載のプラズマトーチ(図1,図6)。
【0018】
(6)前記センタリングストーン(30)は、前記インサートチップ(10)の内部に進入する下部分よりも、該インサートチップの上方に露出する上部分が太径であって、該太径の部分が該インサートチップの上端縁に係合し、この係合によりセンタリングストーン(30)がインサートチップ(10)で下支持された、上記(1)乃至(4)のいずれか1つに記載のプラズマトーチ(図8)。
【0019】
(7)前記インサートチップ(10)は、前記センタリングストーン(30)を受け入れる基体部(14)とそれに固定されて該基体部の下端を塞ぐノズル部(15)でなり、該ノズル部に、前記リング状の溝(17)および該リング状の溝から前記ノズル(11)に至って該ノズルに開いた複数の通孔(18)がある、上記(4)に記載のプラズマトーチ(図1,図6,図8)。
【0020】
(8)前記複数の通孔(18)は、前記ノズル(11)に噴出したプラズマガスをノズルの内周面に沿う旋回流とするために、ノズル内周面の接線方向に向けられている、上記(4)乃至(6)のいずれか1つに記載のプラズマトーチ(図1,図6,図8)。
【0021】
(9)前記センタリングストーン(30)の下端面と前記インサートチップ(10)の該下端面に対向する内底面との間に前記プラズマガス通路(19/19a)がある、上記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載のプラズマトーチ(図10,図12,図13,図14)。
【0022】
(10)前記センタリングストーン(30)の下端部は底穴(34)が開いた底壁(33)があるカップ状であって、該底壁(33)の下面と前記インサートチップ(19)の前記内底面との間に、前記プラズマガス通路(19/19a)がある、上記(9)に記載のプラズマトーチ(図10,図12,図13,図14)。
【0023】
(11)前記センタリングストーン(30)は、前記インサートチップ(10)の内部に進入する下部分よりも、該インサートチップの上方に露出する上部分が太径であって該太径の部分が該インサートチップの上端縁に係合し、この係合により前記プラズマガス通路となる隙間(19)が形成された、上記(9)又は(10)に記載のプラズマトーチ(図10,図12,図13)。
【0024】
(12)前記センタリングストーン(30)の下端部には、前記センタリングストーンの下端から出る前記プラズマガスを前記尖端(41)の最先端以下の下方に向けて案内する流路(19a)があり、前記センタリングストーンはその下端面が前記インサートチップ(10)の内底面に当接することによって前記インサートチップで下支持された、上記(9)又は(10)に記載のプラズマトーチ(図14)。
【0025】
(13)前記流路(19a)は、前記センタリングストーン下端面(30)の下面に形成された複数の横溝(19a)である、上記(12)に記載のプラズマトーチ(図14)。
【0026】
(14)前記複数の横溝(19a)は、前記ノズル(11)に噴出したプラズマガスをノズルの内周面に沿う旋回流とするために、ノズル内周面の接線方向に向けられている、上記(13)に記載のプラズマトーチ
本発明の他の目的および特徴は、図面を参照した以下の実施例の説明より明らかになろう。
【実施例】
【0027】
−第1実施例−
図1に、本発明の一実施例のプラズマトーチを示す。略円筒状のチップ台20の下端開口部の内側には雌ねじ穴21があり、チップ台20の下端開口に挿入されたインサートチップ10の上端部の雄ねじ12が該雌ねじ穴21にねじ込まれて、インサートチップ10の外側面をなす円錐テーパ面がチップ台20の下端開口部の内面をなす円錐テーパ面に密着している。インサートチップ10は略壷状あるいはカップ状であり、底にはノズル11が開いている。
【0028】
インサートチップ10には上方からセンタリングストーン30が挿入され、このセンタリングストーン30の中心をタングステン棒体である電極棒40が貫通している。電極棒40はチャック50によって電極台51に固定されている。すなわちトーチ本体に固定されている。電極棒40の先端(下端)は、円錐状の尖端である。センタリングストーン30によって電極棒40はノズル11に対して同軸に位置決めされて、電極棒40の尖端の最先端が、円筒空間であるノズル11の上方のチップ内空間にあって、ノズル11の中心軸上に位置する。
【0029】
プラズマガスはトーチ外部から、トーチ本体の図示を省略した経路を経てプラズマガス空間60に吹き込まれる。このプラズマガスをセンタリングストーンで縦方向に下端まで案内する流路として、センタリングストーン30の外周にあってその上端から下端に縦に延びる多数の縦溝31が設けられている。この縦溝31を通ってプラズマガスは、インサートチップ10内のリング状のプラズマガス溝17に出て、そして多数のプラズマガス通孔18を通ってノズル11内に出て、ノズル11から外部に噴出する。
【0030】
シールドガスはトーチ外部から、トーチ本体の図示を省略した経路を経てシールドキャップ70の内空間71に吹き込まれて、シールドキャップ70の下開口から下方に噴出する。
【0031】
インサートチップ10直下の図示しない溶接対象材と電極台51に溶接電圧が印加されると、電極台51とチャック50が導電体であるので該溶接電圧は、溶接対象材と電極棒40に加わる。電極台51とチップ台20の間に起動用の高周波高電圧を印加すると、チップ台20は導電体であるので該高周波高電圧は、電極棒40とインサートチップ10の間に加わり、電極棒40の尖端とインサートチップ10の間に放電を生ずる。この放電により電極棒40の尖端と溶接対象材との間に、溶接電圧の放電によるプラズマアークが発生する。このプラズマアークによってプラズマガスが高温プラズマになってノズル11から溶接対象材に流れる。これにより溶接対象材が溶融し溶接が行われる。
【0032】
図2の(a)に、図1に示すインサートチップ10のみを示し、図2の(b)には、インサートチップ10の下端面を示す。この図2の(b)は、インサートチップ10を下方から見上げた底面図である。インサートチップ10をチップ台20にねじ込んで固定するとき、また、インサートチップ10をチップ台20から取り外すためにインサートチップ10をねじ緩め廻しするときに、インサートチップ10をスパナ等の工具で確実に保持できるように、インサートチップ10の円柱状外側面の相対向部に、仮想線部(2点鎖線部)の切削により平面13が形成されている。
【0033】
インサートチップ10は、この第1実施例では、センタリングストーン30を受け入れる基体部14とそれにロー付けで固定されて該基体部の下端を塞ぐノズル部15でなり、該ノズル部15に、リング状の溝17,ランド16、および、リング状の溝17からノズル11に至って該ノズルに開いた複数の通孔18、がある。
【0034】
図3の(a)に、図2に示す基体部14のみを示し、図3の(b)には、基体部14の上端面を示す。この図3の(b)は、基体部14を上方から見下ろした平面図である。図4の(a)に、図2に示すノズル部15のみを示し、図4の(b)には、ノズル部15の上端面を示す。この図4の(b)は、ノズル部15を上方から見下ろした平面図である。ノズル部15の複数の通孔18は、図1に示すように、電極棒40の尖端41の最先端よりも下方においてノズル11に開いているので、インサートチップ10の内部においてノズル11に向かって流れるプラズマガスが尖端41に触れる確率は低く、これにより花咲状態となるような尖端41の損耗が少なくなる。また、図4の(b)に示すように、複数の通孔18は、ノズル11に噴出したプラズマガスをノズルの内周面に沿う旋回流とするために、ノズルの中心軸よりもノズル内周面の接線方向に向けられている。これによりノズル11に吹き込まれてノズル11からトーチ外部に噴出するプラズマガス流が旋回流(整流)となって安定した流れになるとともに、プラズマガスが電極棒40の尖端41に触れる可能性が低減する。
【0035】
図5の(a)には、図1に示すセンタリングストーン30のみを示し、図5の(b)には、センタリングストーン30の上端面を示す。この図5の(b)は、センタリングストーン30を上方から見下ろした平面図である。プラズマガスは、センタリングストーン30の上端から下端に、複数の縦溝31を通して通流する。すなわち複数の縦溝31を通して、プラズマガス空間60(図1)からリング溝17(図1)へプラズマガスが流れる。
【0036】
電極棒40の尖端41の最先端よりも下方で複数の通孔18がノズル11に開いており、リング溝17に入ったプラズマガスは複数の通孔18を通してノズル11に出るので、ノズル11に供給されるプラズマガスが電極棒40の尖端41に触れる確率が低く、これにより電極棒40の尖端41の溶融による微小突起の発生と増大が低減し、花咲状態になるのが抑制される。単一ノズル構造であって、2重ノズル構造を採用する場合の第1,第2ノズルのプラズマガスの流量調整構造あるいは切替え構造は不要であるので、構造が簡易である。すなわち、簡易な構造を用いて、たとえば電極棒の尖端が花咲状態になるような、電極棒尖端の損耗、を抑制することができる。
【0037】
−第2実施例−
図6に示す第2実施例のセンタリングストーン30には、トーチ外部からトーチ本体の図示を省略した経路を経てプラズマガス空間60に吹き込まれたプラズマガスをセンタリングストーンで縦方向に下端まで案内する流路として、センタリングストーン30に、その上端から下端に縦に延びる多数の縦穴31aが設けられている。この縦穴31aを通ってプラズマガスは、インサートチップ10内のリング状のプラズマガス溝17に出て、そして多数のプラズマガス通孔18を通ってノズル11内に出て、ノズル11から外部に噴出する。
【0038】
図7の(a)には、図6に示すセンタリングストーン30のみを示し、図7の(b)には、センタリングストーン30の上端面を示す。この図7の(b)は、センタリングストーン30を上方から見下ろした平面図である。プラズマガスは、センタリングストーン30の上端から下端に、複数の縦穴31aを通して通流する。すなわち複数の縦穴31aを通して、プラズマガス空間60(図6)からリング溝17(図6)へプラズマガスが流れる。第2実施例のその他の構造および機能は、上述の第1実施例と同様である。
【0039】
−第3実施例−
図8に示す第3実施例のセンタリングストーン30は、インサートチップ10の内部に進入する下部分よりも、インサートチップ10の上方に露出する上部分が太径であって該太径の部分が該インサートチップの上端縁に係合し、この係合によりインサートチップ10がセンタリングストーン30を下支持している。
【0040】
図9の(a)には、図8に示すセンタリングストーン30のみを示し、図9の(b)には、センタリングストーン30の上端面を示す。この図9の(b)は、センタリングストーン30を上方から見下ろした平面図である。プラズマガスは、センタリングストーン30の上端から下端に、複数の縦溝31を通して通流する。すなわち太径の上部分から小径の下部分に及ぶ複数の縦溝31を通して、プラズマガス空間60(図8)からリング溝17(図8)へプラズマガスが流れる。第3実施例のその他の構造および機能も、上述の第1実施例と同様である。
【0041】
−第4実施例−
図10に、第4実施例のプラズマトーチを示す。略円筒状のチップ台20の下端開口部の内側には雌ねじ穴21があり、チップ台20の下端開口に挿入されたインサートチップ10の上端部の雄ねじ12が該雌ねじ穴21にねじ込まれて、インサートチップ10の外側面をなす円錐テーパ面がチップ台20の下端開口部の内面をなす円錐テーパ面に密着している。インサートチップ10は略壷状あるいはカップ状であり、底にはノズル11が開いている。
【0042】
インサートチップ10には上方からセンタリングストーン30が挿入され、このセンタリングストーン30の中心をタングステン棒体である電極棒40が貫通している。電極棒40はチャック50によって電極台51に固定されている。すなわちトーチ本体に固定されている。電極棒40の先端(下端)は、円錐状の尖端41である。センタリングストーン30によって電極棒40はノズル11に対して同軸に位置決めされて、電極棒40の尖端41の最先端が、ノズル11の中心軸上に位置する。
【0043】
センタリングストーン30は、その下端部に、底穴34が開いた底壁(内フランジ)33があるカップ状であって、該底壁33のテーパ状の下面は電極棒40の尖端41の最先端近くの高さであり、底壁33の下面とインサートチップ19のテーパ状の内底面との間に、プラズマガス通路となる隙間19がある。
【0044】
図11の(a)に、図10に示すセンタリングストーン30のみを示し、図11の(b)にはセンタリングストーン30の上端面を示す。この図11の(b)は、センタリングストーン30を上方から見下ろした平面図である。また、図11の(c)には、図10に示すインサートチップ10のみを示す。センタリングストーン30は、図11の(a)に現れているように、インサートチップ10の内部に進入する下部分よりも、インサートチップ10の上方に露出する上部分が太径であって、この太径部がインサートチップ10の上端縁に係合し(図10)、この係合により前記隙間19が生じている。
【0045】
図10を再度参照する。プラズマガスはトーチ外部から、トーチ本体の図示を省略した経路を経てプラズマガス空間60に吹き込まれる。このプラズマガスは、センタリングストーン30の外周にあってその上端から下端に縦に延びる多数の縦溝31を通って、上述の隙間19に出て、そしてノズル11内に出て、ノズル11から下方に噴出する。
【0046】
シールドガスはトーチ外部から、トーチ本体の図示を省略した経路を経てシールドキャップ70の内空間71に吹き込まれて、シールドキャップ70の下開口から下方に噴出する。
【0047】
インサートチップ10直下の図示しない溶接対象材と電極台に溶接電圧が印加されると、電極台およびチャックを介して該溶接電圧が、電極棒40と溶接対象材との間に加わる。電極台とチップ台20の間に起動用の高周波高電圧を印加すると、該高周波高電圧は、電極棒40とインサートチップ10の間に加わり、電極棒40の尖端とインサートチップ10の間に放電を生ずる。この放電により電極棒40の尖端と溶接対象材との間に、溶接電圧の放電によるプラズマアークが発生する。このプラズマアークによってプラズマガスが高温プラズマになってノズル11から溶接対象材に流れる。これにより溶接対象材が溶融し溶接が行われる。
【0048】
電極棒40の尖端41の近くあるいは先端41の最先端近くで隙間19がノズル11に開いており、プラズマガスがセンタリングストーン30の縦溝31を通って隙間19に出てから隙間19を通ってノズル11に出るので、ノズル11に供給されるプラズマガスが電極棒40の尖端41に触れる確率が低く、これにより電極棒40の尖端41の溶融による微小突起の発生と増大が低減し、花咲状態になるのが抑制される。単一ノズル構造であって、2重ノズル構造を採用する場合の第1,第2ノズルのプラズマガスの流量調整構造あるいは切替え構造は不要であるので、構造が簡易である。すなわち、簡易な構造を用いて、たとえば電極棒の尖端が花咲状態になるような、電極棒尖端の損耗、を抑制することができる。
【0049】
−第5実施例−
図12に示す第5実施例のセンタリングストーン30の内空間は、上端から下端まで、電極棒40が通る通し穴となっており、第5実施例(図10)にあるような電極棒40の尖端41周りの大径空間は省略したものである。第5実施例では尖端41回りの高熱でセンタリングストーン30の下端部が劣化し易いが、センタリングストーン30の形状が簡素であるので、廉価に製造できる。第5実施例のその他の構造および機能は、第4実施例と同様である。
【0050】
−第6実施例−
図13に示す第6実施例のセンタリングストーン30は、電極棒40の尖端41周りの大径空間をセンタリングストーンのテーパ状の下端面に開く円筒状としたものである。すなわち、第4実施例の底壁(内フランジ)33を切除した形状であるので、センタリングストーン30の下端部は劣化しにくく、しかもセンタリングストーン30の形状がやや簡素であるので、やや廉価に製造できる。第6実施例のその他の構造および機能は、第4実施例と同様である。
【0051】
−第7実施例−
図14に示す第7実施例のセンタリングストーン30は、図10に示す第4実施例のセンタリングストーン30を、図15の(a)に示すように、上端から下端まで同一径として、該周面の縦溝31の下端に連続する横溝19aを、センタリングストーン30のテーパ状の下端面に形成したものである。図15の(a)にセンタリングストーン30のみの縦断面を示し、図15の(b)にはセンタリングストーン30の上端面を、図15の(c)には下端面を示す。このセンタリングストーン30のテーパ状の下端面はインサートチップ10のテーパ状の内底面に当接し、これによりセンタリングストーン30がインサートチップ10で下支持されている(図14)。しかしノズル11には、横溝19aを通してプラズマガスが供給される。第7実施例のその他の構造および機能は、第4実施例と同様である。
【0052】
なお、第7実施例の一変形例は、第1実施例のプラズマガス通孔18(図4)と同様に、横溝19aの方向を、ノズル11の真上に位置する下端開口(円形)の中心よりも接線方向にずらして、横溝19aからノズル11に噴出するプラズマガスを旋回流とする。
【0053】
−第8実施例−
図16に示す第8実施例のセンタリングストーン30は、図13に示す第6実施例のセンタリングストーン30を、図16の(a)に示すように、上端から下端まで同一径として、該周面の縦溝31の下端に連続する横溝19aを、テーパ状の下端面に形成したものである。図16の(b)にはセンタリングストーン30の上端面を、図16の(c)には下端面を示す。このセンタリングストーン30のテーパ状の下端面はインサートチップ10のテーパ状の内底面に当接し、これによりセンタリングストーン30がインサートチップ10で下支持されている(図14と同様)。しかしノズルには、横溝19aを通してプラズマガスが供給される。第8実施例のその他の構造および機能は、第6実施例と同様である。
【0054】
なお、第8実施例の一変形例も、第1実施例のプラズマガス通孔18(図4)と同様に、横溝19aの方向を、ノズル11の真上に位置する下端開口(円形)の中心よりも接線方向にずらして、横溝19aからノズル11に噴出するプラズマガスを旋回流とする。
【符号の説明】
【0055】
10:インサートチップ
11:ノズル
12:雄ねじ
13:平面
14:基体部
15:ノズル部
16:中央ランド
17:プラズマガス溝
18:プラズマガス通孔
19:隙間
19a:横溝
20:チップ台
21:雌ねじ穴
30:センタリングストーン
31:縦溝
31a:縦穴
32:先端
33:底壁
34:底穴
40:電極棒
41:尖端
50:チャック
51:電極台
60:プラズマガス空間
70:シールドキャップ
71:シールドガス空間
110:従来のインサートチップ
111:ノズル
112:雄ねじ
113:平面
130:センタリングストーン
131:縦溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極棒の、円錐状の尖端がある先端部を、インサートチップの内空間に置き、該インサートチップに挿入したセンタリングストーンによって該電極棒を該インサートチップのノズルに対して同軸に位置決めし、プラズマガスを該センタリングストーンで縦方向に該センタリングストーンの下端に案内して該ノズルに供給するプラズマトーチにおいて、
前記センタリングストーンの下端に案内された前記プラズマガスを前記尖端の最先端以下の下方に向けて案内するプラズマガス通路を設けたことを特徴とするプラズマトーチ。
【請求項2】
前記センタリングストーンは外周面に、前記プラズマガスを下端に案内する縦溝を有し、前記プラズマガス通路は、前記縦溝の下端から出る前記プラズマガスを前記尖端の最先端以下の下方に向けて案内する、請求項1に記載のプラズマトーチ。
【請求項3】
前記センタリングストーンは、縦に貫通して前記プラズマガスを下端に案内する縦穴を有し、前記プラズマガス通路は、前記縦穴の下端から出る前記プラズマガスを前記尖端の最先端以下の下方に向けて案内する、請求項1に記載のプラズマトーチ。
【請求項4】
前記プラズマガス通孔は、前記インサートチップの内底にあって前記センタリングストーンの下端に対向するリング状の溝および該溝から前記ノズルに至って該ノズルに開いた複数の通孔を含む、請求項1乃至3のいずれか1つに記載のプラズマトーチ。
【請求項5】
前記リング状の溝によって囲まれ中央に前記ノズルが開いたランドによって前記センタリングストーンを下支持した、請求項4に記載のプラズマトーチ。
【請求項6】
前記センタリングストーンは、前記インサートチップの内部に進入する下部分よりも、該インサートチップの上方に露出する上部分が太径であって、該太径の部分が該インサートチップの上端縁に係合し、この係合によりセンタリングストーンがインサートチップで下支持された、請求項1乃至4のいずれか1つに記載のプラズマトーチ。
【請求項7】
前記インサートチップは、前記センタリングストーンを受け入れる基体部とそれに固定されて該基体部の下端を塞ぐノズル部でなり、該ノズル部に、前記リング状の溝および該リング状の溝から前記ノズルに至って該ノズルに開いた複数の通孔がある、請求項4に記載のプラズマトーチ。
【請求項8】
前記複数の通孔は、前記ノズルに噴出したプラズマガスをノズルの内周面に沿う旋回流とするために、ノズル内周面の接線方向に向けられている、請求項4乃至6のいずれか1つに記載のプラズマトーチ。
【請求項9】
前記センタリングストーンの下端面と前記インサートチップの該下端面に対向する内底面との間に前記プラズマガス通路がある、請求項1乃至3のいずれか1つに記載のプラズマトーチ。
【請求項10】
前記センタリングストーンの下端部は底穴が開いた底壁があるカップ状であって、該底壁の下面と前記インサートチップの前記内底面との間に、前記プラズマガス通路がある、請求項9に記載のプラズマトーチ。
【請求項11】
前記センタリングストーンは、前記インサートチップの内部に進入する下部分よりも、該インサートチップの上方に露出する上部分が太径であって該太径の部分が該インサートチップの上端縁に係合し、この係合により前記プラズマガス通路となる隙間が形成された、請求項9又は10に記載のプラズマトーチ。
【請求項12】
前記センタリングストーンの下端部には、前記センタリングストーンの下端から出る前記プラズマガスを前記尖端の最先端以下の下方に向けて案内する流路があり、前記センタリングストーンはその下端面が前記インサートチップの内底面に当接することによって前記インサートチップで下支持された、請求項9又は10に記載のプラズマトーチ。
【請求項13】
前記流路は、前記センタリングストーン下端面の下面に形成された複数の横溝である、請求項12に記載のプラズマトーチ。
【請求項14】
前記複数の横溝は、前記ノズルに噴出したプラズマガスをノズルの内周面に沿う旋回流とするために、ノズル内周面の接線方向に向けられている、請求項13に記載のプラズマトーチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−51064(P2013−51064A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187267(P2011−187267)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(302040135)日鐵住金溶接工業株式会社 (172)
【Fターム(参考)】