説明

プラズマ切断装置

【課題】 ステンレス鋼を良好な品質でプラズマ切断する。
【解決手段】 プラズマトーチ(6)にプラズマガスとして不活性ガス(窒素)を、アシストガスとして、空気よりも比重が重く且つ還元性を有する可燃性ガス(プロパン)あるいは前記可燃性ガス(プロパン)と不活性ガス(窒素)との混合ガスを供給する。アシストガス中の可燃性ガス(プロパン)は、プリフロー区間とアフターフロー区間では供給せず、プラズマアーク発生区間でのみ供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステンレス鋼を切断するプラズマ切断方法と、その方法を実施してステンレス鋼を切断するプラズマ切断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼のプラズマ切断では、ステンレス鋼に含まれるクロムが切断中に酸化し、このクロム酸化物が、その流動性の悪さ故に切断面に付着して、切断面の品質を低下させる。この問題への対処として、プラズマガス及びアシストガスの組成に関して次のような従来技術が知られている。第1の従来技術は、プラズマガスとして窒素又は空気を使用し、アシストガスとしては、メタン又はメタンと空気との混合ガスを使用する(特許文献1)。また、第2の従来技術は、プラズマガスとして、空気又は空気と窒素との混合ガスを使用し、アシストガスとしては、水素、又は水素を含む混合ガス、又は炭化性水素ガスを使用する(特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,414,236号公報
【特許文献2】特開平9−295156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記第1の従来技術では、アシストガスとして使用されるメタン又はメタンと空気との混合ガスは、メタンのもつ還元性により、切断面の酸化を防ぐ効果が期待できる。しかし、メタンは空気よりも比重が軽いので、メタンをプラズマアークの周囲にシールドガスとして供給した場合、外部の気流や風の影響を受けやすい可能性があり、また、メタンガスは拡散し易く、切断したステンレス上のシールド効果に影響する恐れがある。
【0005】
第2の従来技術では、アシストガスとして、水素、又は水素を含む混合ガス、又は炭化性水素ガスを使用することにより、それらの還元性により切断面の酸化を抑える効果が期待できる。しかし、水素は空気よりも比重が軽いので、水素又は水素を含む混合ガスをプラズマアークの周囲にシールドガスとして供給した場合、外部の気流や風の影響を受けやすい可能性があり、また、水素は拡散し易く、切断したステンレス上のシールド効果に影響する恐れがある。実際、発明者の実施したテストによると、切断面に部分的にクロム酸化物が付着する場合があり、非常に良好な無酸化切断面を得ることは難しい。市場においては、製品の切断面に僅かでもクロム酸化物が付着しているだけで、その製品の商品価値が大幅に低下する。そのため、このように従来技術より優れた良好な無酸化切断面を得る技術が強く望まれている。
【0006】
さらに、多くのプラズマ切断工場では、ステンレス鋼だけでなく軟鋼の切断も行われる。軟鋼のプラズマ切断では、ステンレス鋼と異なり、これを積極的に酸化(燃焼)させてその酸化熱を切断に活用することが好ましく、それゆえに、酸素ガスが使用されることが多い。しかし、このような酸素ガスを使用する工場では、水素ガスの使用は極力避けたいというユーザ側の強い要求がある。そのため、アシストガスに水素ガス又はその混合ガスを使用するという従来技術の実用は困難である。
【0007】
また、第2の従来技術で提案されている炭化性水素ガスをシールドガスとして使用した場合には、切断時に生じる溶融金属の流動性が悪くなり、その溶融金属が製品の裏面に付着してしまうという重大な問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、ステンレス鋼を良好な品質で切断するプラズマ切断装置、及びプラズマ切断装置を用いた切断方法を提供することである。なお、本発明のさらなる目的は、後述する実施形態の記載から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に従うプラズマ切断装置は、ガス供給動作の制御を行う制御装置と、この制御装置からの指示により、プラズマトーチのノズルよりプラズマアークとして噴出されるプラズマガスとして不活性ガスを、プラズマアークを外気からシールドするためのアシストガスとして、空気よりも比重が重く且つ還元性を有する可燃性ガスあるいはその可燃性ガスと不活性ガスとの混合ガスを、プラズマトーチへ供給するガス供給手段とを備える。本発明のプラズマ切断装置によれば、プラズマガスは不活性ガスであるため、それ自体が切断面の酸化の原因にはならないのに加え、空気よりも比重が重く且つ還元性を有する可燃性ガス又はそれと不活性ガスとの混合ガスであるアシストガスの還元作用とシールド作用により、切断面の酸化防止と還元が有効に行なわれる。このようなプラズマガスとアシストガスの作用が相まって、高い切断品質が得られる。
【0010】
好適な実施形態では、プラズマガスとして使用される不活性ガスとして、窒素が採用される。また、空気よりも比重が重く且つ還元性を有する可燃性ガスとして、プロパンガスが採用される。アシストガスとして、窒素とプロパンとの混合ガスが採用される。
【0011】
好適な実施形態では、制御手段は、一連のプリフロー区間、プラズマアーク発生区間及びアフターフロー区間のうち、プラズマアーク発生区間に、可燃性ガスをプラズマトーチへ供給し、プリフロー区間又はアフターフロー区間では、可燃性ガスをプラズマトーチへ供給しないようガス供給手段を制御する。従って、アシストガスとして使用される可燃性ガスが未燃焼の状態で大量に外部へ放出されてしまうおそれがない。
【0012】
好適な実施形態では、ガス供給手段は、プラズマガスをプラズマトーチへ供給するプラズマガスラインと、アシストガスをプラズマトーチへ供給するアシストガスラインとを備え、アシストガスラインは、プラズマトーチ近傍にて、可燃性ガスを供給する可燃性ガスラインと、不活性ガスを供給する不活性ガスラインとが合流する合流点に接続される。そして、可燃性ガスラインには、合流点の近傍にて、前記制御手段からの指示により可燃性ガスの流れを制御するためのガス流制御手段が配置される。この構成により、上述したような、可燃性ガスをプラズマアーク発生区間では供給するがプリフロー区間又はアフターフロー区間では供給しないというガスフロー制御が、大きな遅れ時間なしにタイムリーに行ない得る。
【0013】
本発明の別の側面に従うプラズマ切断方法は、プラズマトーチへ不活性ガスをプラズマガスとして供給するステップと、プラズマトーチへ空気よりも比重が重く且つ還元性を有する可燃性ガスあるいはその可燃性ガスと不活性ガスの混合ガスをアシストガスとして供給するステップとを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明のプラズマ切断装置及び方法によれば、ステンレス鋼のプラズマ切断において、良好な切断品質を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。本実施形態は、以下に述べるように、プラズマガスとして不活性ガス、例えば窒素を使用し、アシストガスとして空気より比重が重く且つ還元性を有する可燃性ガス又はこの可燃性ガスと不活性ガスとの混合ガス、例えば窒素とプロパンの混合ガスを使用することにより、良好な品質でステンレス鋼を切断することができるようになっている。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態にかかるプラズマ切断装置の概略構成を示す図である。
【0017】
プラズマトーチ2は、図1に示すように、全体として多重円筒形であり、その中心位置に電極4を有し、その電極4の外側にノズル6が被さり、そのノズル6の外側にはノズルキャップ8が被さっている。プラズマトーチ2にはガス供給系統17が接続されている。
【0018】
ガス供給系統17は、プラズマトーチ2にプラズマガスを供給するためのプラズマガスライン17と、プラズマトーチ2にアシストガスを供給するためのアシストガスライン20を有する。プラズマガスライン17は窒素源(例えば窒素ボンベ)60に接続される。アシストガスライン20は、プラズマトーチ2の近傍の箇所にて、窒素ガスを供給する窒素ガスライン22とプロパンガスを供給するプロパンガスライン24とが合流する合流点90に接続されている。窒素ガスライン22は窒素源(例えば窒素ボンベ)70(上述したプラズマガス用の窒素源60と同じ物でも別物でもよい)に接続される。プラズマガスライン17には、プラズマガスの供給を開始及び停止するための電磁弁30が、窒素ガスライン22にはアシストガスを構成する窒素ガスの供給を開始及び停止するための電磁弁32が、プロパンガスライン24にはアシストガスを構成するプロパンガスの供給を開始及び停止するための電磁弁342が、それぞれ設けられている。プロパンガスライン24の電磁弁34と合流点90との間には、窒素がプロパンのラインに流入しないようにするために逆止弁26が設けられる。プロパンライン24上の電磁弁34と逆止弁26というプロパンガスの流れを制御するための機構は、合流点90の近傍に配置されている。
【0019】
ガス供給系統17には、そのガス供給動作を制御するための制御装置50が接続されている。制御装置50は、一連のプロフロー区間、プラズマアーク発生区間及びアフターフロー区間からなるトーチ駆動のためのガス供給プロセスにおいて、上述した電磁弁30,32,34を後に図2を参照して説明するような手順で開閉制御する。
【0020】
プラズマトーチ2において、電極4とノズル6との間にはプラズマガス通路10が形成されている。プラズマガス(窒素ガス)は、制御装置50の指示により電磁弁30が開くことで、窒素源60よりプラズマガスライン18を通って流れてプラズマトーチ2のプラズマガス通路10へ供給される。また、プラズマトーチ2のノズル6とノズルキャップ8との間にはアシストガス通路12が形成されている。アシストガス(窒素ガスとプロパンガスの混合ガス)は、制御装置50の指示により電磁弁32と電磁弁34が開くことで、窒素源70より窒素ライン22を流れてきた窒素ガスと、プロパン源80よりプロパンライン24を流れてきたプロパンガスとが合流点90にて合流して生成され、そして、アシストガスライン20を通ってプラズマトーチ2のアシストガス通路12へ供給される(後述するように、プロフロー区間とアフターフロー区間では、アシストガスは窒素ガスだけで、プロパンガスを含まない)。
【0021】
ノズル6は、プラズマアーク14を拘束し、ノズル6の上流側から供給されてくるプラズマガスを絞るための最も細いガス噴出口を有した部品である。そして、このガス噴出口から噴出されるプラズマガスは、電極4と先方の被切断材16との間のアーク放電によってプラズマ化され、十分に細く絞られた高速ジェット流のプラズマアーク14となって先方の被切断材(ステンレス鋼)16に向かって噴出される。プラズマアーク14によりステンレス鋼が切断される。
【0022】
一方、ノズルキャップ8は、上記ノズル6より下流側に存在し、ノズル6のガス噴出口より半径が大きいガス噴出口を有し、ノズルキャップ8とノズル6との間のアシストガス通路12から流れてくるアシストガスをプラズマアーク14の周囲に噴出する部品である。そして、このアシストガス通路12から噴出されるアシストガスは、プラズマ化されることなく、プラズマアーク14を包囲する。アシストガスは、プラズマアーク14がステンレス鋼を切断する際に、外部の風や気流からの影響をプラズマアーク14に与えないように、プラズマアーク14を外気からシールドする働きをする。また、アシストガスには、それに含まれる還元力が強力なプロパンガスの還元作用により、プラズマアーク14によって切断されたステンレス鋼の酸化を防止しまた還元する働きもある。
【0023】
ところで、ステンレス鋼の切断品質で重視される特性のひとつに、切断面が無酸化であるかどうかという点がある。これは、目視で観察した切断面の色と金属光沢から判断することができる。切断面が色やクスミが無い銀白色で十分な金属光沢があれば(つまり、ステンレス鋼の地金が完全に露出していれば)、それは良好な無酸化切断面であると判断することができる。ステンレス鋼の切断製品の商品価値は、切断面の一部が僅かにくすんでいたり淡い色が付いている(つまり、僅かのクロム酸化物が付着している)だけで大幅に低下する。この切断品質を大きく左右する要因のひとつに、プラズマガスとアシストガスとで使用されるガスの種類がある。
【0024】
この切断品質という観点から、本実施形態のプラズマ切断装置で使用されるガスの組成について以下詳細に説明する。
【0025】
プラズマガスには、酸素を含まない不活性ガス、例えば、実質的な体積濃度(モル濃度)が100%の窒素が使用される。もし、酸素を含むガス(例えば空気や酸素と他のガスとの混合ガス)として使用したならば、アシストガスの還元性を相殺することになり、無酸化切断面を得ることが困難である。これに対し、実質的に体積濃度が100%の純粋な不活性ガス、例えば窒素ガスを使用すれば、アシストガスの還元性を相殺することはないので、無酸化切断面を得ることが容易である。この原理から、窒素以外の不活性ガス、例えばアルゴンなどもプラズマガスとして使用することができる。窒素とアルゴンとを比較した場合、プラズマアークの熱量を大きくして切断力を高められる窒素の方が優れている。これは、2原子分子である窒素の方が、単原子分子であるアルゴンより、プラズマ化した時の熱容量が大きいことによる。
【0026】
また、アシストガスには、不活性ガスと空気より比重の重い還元性をもつ可燃性ガス又はこの可燃性がスと不活性ガスとの混合ガス、例えば窒素とプロパンとの混合ガスが使用される。アシストガス中のプロパンの体積濃度(モル濃度)は50%以下であることが望ましく、例えば20%や30%あたりを採用することができる。プロパンの体積濃度が高くなるほど、溶融金属の流動性が悪化してそれが製品の裏側に付着するという問題が生じ易くなる。この問題を排除するためには、上記のような濃度が好ましい。発明者らの研究によれば、プロパンガスは、各種の還元性ガスの中でも、ステンレス鋼のプラズマ切断のアシストガスに含ませるものとして最適なものであると認められる。その理由は、発明者らの実験によると、上述した組成のプラズマガスとアシストガスの組合せを用いて実際にステンレス鋼のプラズマ切断を実施してみたところ、切断面の目視観察の結果、非常に良好な無酸化切断面が得られたと判断することができたからである。一方、発明者らの実験では、プロパンガスに代えて他の還元性ガス、例えば水素ガスを用いてみたところ、切断面の目視観察の結果、切断面に若干のくすみや淡い色が付いている場合があり、プロパンガスを用いた場合ほどに良好な無酸化切断面を得られたと判断することはできなかった。このようにプロパンガスを用いることで良好な無酸化切断面が得られる理由は、以下のとおりであると推測される。
【0027】
第一に、プロパンは、前述した従来技術で提案されている水素や炭化水素のメタンやエタンと比較して、水素原子をより多く含んでいるので、切断後の切断面の酸化を防ぎ更に還元するという還元作用がより強力であると推測される。
【0028】
第二に、プロパンは、空気よりも比重が重たい(空気の1.5倍)ため、空気よりも軽い水素やメタンあるいは空気とほぼ同じ比重のエタンよりも、プラズマアーク14を外部の気流や風の影響等から防ぎ、切断箇所に外気の酸素が入り込まないようにするシールド能力がより高いと推測される。空気よりも比重が軽いガスの場合は、ガスが拡散し易く、風や気流の影響を受けて還元性によるプラズマアーク14及び切断面のシールド効果が低下しやすい。一方、空気より比重の重いプロパンは、より拡散しにくいから、良好なシールド効果を維持し易い。
【0029】
第三に、プロパンはアシストガスの供給圧力下で液化しないガスという点がある。すなわち、炭化水素で水素原子を多く含み且つ空気に対して比重が重いガスという観点のみからいくと、プロパンよりも更に水素原子を多く含み比重が重たいブタンや、より分子量の大きい他の炭化水素ガスが優れていることになる。しかし、プラズマトーチ2にアシストガスを供給するためには、通常、最低でもゲージ圧力で1〜2kg/cm2(絶対圧力で2〜3kg/cm2)のガス供給圧力が必要となる。しかし、ブタンの場合、25℃での蒸気圧が1.8kg/cm2であるから、アシストガスの供給圧力下では液化してしまいガスとして供給できないおそれがある。より分子量の大きい他の炭化水素ガスは、蒸気圧が一層低く液化し易いから、アシストガスには使用できない。これに対し、プロパンは、25℃での蒸気圧が8.5kg/cm2であるから、上述したアシストガスの供給圧力下でガスとして十分供給可能である。
【0030】
更に、プロパンには、他の還元性ガスと比較して、次の利点がある。すなわち、プロパンは、水素に比べると、LPガス(液化石油化)として、例えば、ガスコンロ等で使用されており、安全性や入手性、そして経済性で優れている。また、上述したブタンも、入手性においてプロパンよりも劣る。さらに、良好な無酸素切断面を得るために必要なプロパンの濃度は、上述したように高くはないので(これも、おそらくプロパンの強力な還元性に起因するのであろうと推測される)、その点でも経済的であるといえる。
【0031】
以上の理由から、アシストガスとして窒素とプロパンの混合ガスを用い、そして、これを不活性ガスを用いたプラズマガスと組み合わせることにより、金属光沢を有する銀白色の良好な無酸化切断面が容易に得られる。なお、LPガスとして流通しているプロパンは、厳密には純粋なプロパンではなく、ブタンなどが少量含まれているが、このことは実際上問題にはならないので、LPガスは本発明でいうプロパンとして使用可能である。
【0032】
また、アシストガスとして窒素を使用する理由は、プラズマガスと同様に、酸素を含まない不活性ガスであることから、それ自体は切断面の酸化に寄与しないためである。この観点からは、窒素以外の不活性ガス、例えばアルゴンなども採用できる可能性がある。
【0033】
ところで、上述したガス供給系統17において、合流点90よりも上流側の窒素(不活性ガス)ライン22の圧力がプロパン(可燃性ガス)ライン24の圧力よりも高い状況であっても、逆止弁26が、窒素ガス(不活性ガス)がプロパン(可燃性ガス)ライン24に流入することを防止する。
【0034】
図2は、一連のプロフロー区間、プラズマアーク発生区間及びアフターフロー区間からなるプラズマ切断のためのガス供給プロセスにおいて、制御装置50からの指示でガス供給系統17にて実行されるそれぞれのガスの供給手順を表している図である。
【0035】
ガス供給のタイミングは、図2のように、それぞれのガスによって異なっている。
【0036】
制御装置50内でスタート信号が発生すると同時に、制御装置50からの指示で電磁弁30と電磁弁32が開かれ、プラズマガスである窒素ガスとアシストガスのうちの窒素ガスのプラズマトーチ2への供給が開始される。この時点ではプラズマアーク14はまだ点火されていない。このアーク点火前のガス供給動作はプリフローと呼ばれ、電磁弁30、32が開いてからプラズマトーチ2でのガス流量が所定値に安定するまでの間(例えば1〜数秒程度)行われる。このプリフローの区間では、アシストガスのうちのプロパンガスはプラズマトーチ2に供給されない。その理由は、未燃焼のプロパンガスが大量に工場内に放出されないようにするためである。
【0037】
予定されたプリフロー区間の終了時点で、図示しないプラズマ電源が作動を開始してプラズマアーク14を点火する。プラズマアーク14の発生が検出される(プラズマ電源に流れるプラズマ電流の大きさ、又はプラズマ電源が電極4と被切断材16との間に加えるプラズマアーク電圧などから検出され得る)と同時に、制御装置50からの指示により電磁弁34が開かれ、アシストガスのうちのプロパンの供給が開始される。以後、プラズマアーク14の発生が継続している間(プラズマアーク発生区間中)、プラズマガスである窒素と、アシストガスである窒素とプロパンの混合ガスが供給され続け、被切断材16の穿孔や切断などの熱加工が行われる。ところで、既に説明したように、図1に示すように電磁弁34が合流点90の近傍に配置され、合流点90がプラズマトーチ2の近傍に配置されているため(つまり、電磁弁34からプラズマトーチ2までのガスラインが短いため)、プロパンの供給は、プラズマアーク14の発生開始から問題になるほど遅れることなく、タイムリーに開始される。
【0038】
プラズマアーク発生区間中は、プロパンが、高温のプラズマアーク14および被切断材16に形成された高温の切断面に触れることにより燃焼し、その還元作用及びシールド作用により、良好な無酸化切断面の生成に貢献する。このとき、未燃焼のプロパンガスが工場内に放出されることはほとんどない。
【0039】
プラズマアーク発生区間の終了時(熱加工の終了時)には、プラズマ電源からのプラズマ電流が止められてプラズマアーク14が消され、このプラズマアーク14の消滅が検出されると同時に、制御装置50により電磁弁34が閉じられて、アシストガスのうちのプロパンガスの供給が停止される。以後、アフターフローと呼ばれる動作が行なわれ、そこでは、プラズマガスの窒素とアシストガスのうちの窒素のみの供給が行なわれる。アフターフローの区間は、プラズマアークが消えてから最後の切断箇所がある程度冷えて酸化しなくなるまでに要する時間(例えば1〜数秒程度)である。アフターフロー区間でも、プロパンガスの供給は停止するので、未燃焼のプロパンガスが工場内に放出されることはない。予定されたアフターフロー区間の終了時点で、スタート信号が消え、制御装置50からの指示で電磁弁30と電磁弁32が閉じられて、プラズマガスの窒素とアシストガスのうちの窒素の供給が停止される。ところで、既に説明したように、図1に示すように電磁弁34が合流点90の近傍に配置され、合流点90がプラズマトーチ2の近傍に配置されているため(つまり、電磁弁34からプラズマトーチ2までのガスラインが短いため)、プロパンの供給は、プラズマアーク14の消滅から問題になるほど遅れることなく、タイムリーに停止される。
【0040】
ところで、アフターフロー区間の開始時点で、図1に示した合流点90よりプラズマトーチ2側のアシストガスライン20内には、プロパンと窒素との混合ガスが残存する。しかし、上述のように合流点90がプラズマトーチ2の近傍である(よって、アシストガスライン20が短くその中のガス量は小さい)から、アフターフローにより残存プロパンは全てプラズマトーチ2から外気に放出され、電磁弁34より上流側のプロパンライン24以外にはプロパンは残存しない。このとき放出されるプロパンは少量であり問題にならない。
【0041】
さて、上述した構成のプラズマ切断装置を、ステンレス鋼だけでなく軟鋼を切断する用途にも使用できるようにすることができる。その場合、例えば、図1に示したガス供給系統17の窒素ライン32を、アシストガスとしての支燃性ガスである空気や酸素を供給するラインとして用いることができる。上述したように、ステンレス鋼の切断時以外は、アシストガスライン20にはプロパン(可燃性ガス)が残存しないので、支燃性ガスが窒素ライン32に流れても支障がない。
【0042】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、これらの実施形態はあくまで本発明の説明のための例示であり、本発明をこれら実施形態にのみ限定するものではない。従って、本発明は、上記実施形態以外の様々な形態でも実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態にかかるプラズマ切断装置の概略構成を示す図。
【図2】ガス供給プロセスにおけるプラズマガス、並びにアシストガス中の窒素ガスとプロパンガスの供給手順の一例を示すタイムチャート。
【符号の説明】
【0044】
2−プラズマトーチ、 4−電極、 6−ノズル、 8−ノズルキャップ、 10−プラズマガス通路、 12−アシストガス通路、 14―プラズマアーク、 16−被切断材、 18−プラズマガスライン、 20−アシストガスライン、 50―制御装置、 60―窒素源、 70―窒素源、 80−プロパン源、 90―合流点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼を切断するためのプラズマ切断装置において、
ガス供給動作の制御を行う制御手段(50)と、
前記制御手段(50)からの指示により、プラズマトーチ(6)のノズルよりプラズマアークとして噴出されるプラズマガスとして不活性ガスを、前記プラズマアークを外気からシールドするためのアシストガスとして、空気よりも比重が重く且つ還元性を有する可燃性ガスあるいは前記可燃性ガスと不活性ガスとの混合ガスを、前記プラズマトーチ(6)へ供給するガス供給手段(17)と、
を備えることを特徴とするプラズマ切断装置。
【請求項2】
前記空気よりも比重が重く且つ還元性を有する可燃性ガスは、プロパンであることを特徴とする請求項1記載のプラズマ切断装置。
【請求項3】
前記プラズマガスとして使用される前記不活性ガスは、窒素であることを特徴とする請求項1記載のプラズマ切断装置。
【請求項4】
前記アシストガスは、窒素とプロパンとの混合ガスであることを特徴とする請求項1記載のプラズマ切断装置。
【請求項5】
前記制御手段(50)は、一連のプリフロー区間、プラズマアーク発生区間及びアフターフロー区間のうち、前記プラズマアーク発生区間に、前記可燃性ガスを前記プラズマトーチへ供給し、前記プリフロー区間又は前記アフターフロー区間では、前記可燃性ガスをプラズマトーチへ供給しないよう前記ガス供給手段を制御することを特徴とする請求項1記載のプラズマ切断装置。
【請求項6】
前記ガス供給手段(17)は、前記プラズマガスを前記プラズマトーチへ供給するプラズマガスライン(18)と、前記アシストガスを前記プラズマトーチへ供給するアシストガスライン(20)とを備え、前記アシストガスライン(20)は、前記プラズマトーチ近傍にて、前記可燃性ガスを供給する可燃性ガスライン(24)と、前記不活性ガスを供給する不活性ガスライン(22)とが合流する合流点(90)に接続され、
前記可燃性ガスライン(24)には、前記合流点(90)の近傍にて、前記制御手段(50)からの指示により前記可燃性ガスの流れを制御するためのガス流制御手段(34)が配置されていることを特徴とする請求項5記載のプラズマ切断装置。
【請求項7】
ステンレス鋼の切断に適用されるプラズマ切断方法において、
プラズマトーチ(6)へ、不活性ガスをプラズマガスとして供給するステップと、
前記プラズマトーチ(6)へ、空気よりも比重が重く且つ還元性を有する可燃性ガスあるいは前記可燃性ガスと不活性ガスとの混合ガスをアシストガスとして供給するステップと、
を備えていることを特徴とするプラズマ切断方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−15393(P2006−15393A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198205(P2004−198205)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(394019082)コマツ産機株式会社 (103)
【Fターム(参考)】