説明

プラズマ溶接装置及びこれを用いたプラズマ溶接方法

【課題】板厚差が大きいワークについても高品質の溶接を安定して実施可能なプラズマ溶接装置及びプラズマ溶接方法を提供する。
【解決手段】プラズマ溶接装置に備えられる溶接トーチ5Aを、電極棒6と、先端に縮径部を有する円筒状に形成され、先端に円形の動作ガス噴射孔8aが開設された第1ノズル8と、先端に縮径部を有する円筒状に形成され、先端に長円形のシールドガス噴射孔11aが開設された第2ノズル11とから構成する。シールドガス噴出孔11aを第2ノズル11の軸心から偏倚した位置に開設し、第1ノズル8と第2ノズル11とを同心に配置して、シールドガス噴射孔11aにシールドガスの大流量部と小流量部を設ける。大流量部を板厚が大きいワーク3側に向けて、プラズマ溶接を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ溶接装置及びこれを用いたプラズマ溶接方法に係り、特に、板厚差が大きい中厚板の溶接部に対しても高品質なプラズマアーク溶接を可能にする溶接トーチの構造と、ワークに対する溶接トーチからのシールドガスの噴射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマアーク溶接は、タングステン電極等の非消耗電極とワークとの間に発生させたプラズマアークの熱を利用してワークを融接する溶接法であり、アークの安定性が高い、溶接速度が大きい、溶接幅及び熱影響範囲が狭い、板厚が大きい材料についても溶接できる、非消耗電極の消耗が少ない等の特徴を有している。溶接トーチには、動作ガス噴射用のノズルと、シールドガス噴射用のノズルとが備えられる。
【0003】
図20〜図23に、従来知られているプラズマ溶接装置1Dと、これに備えられる溶接トーチ5Dを示す。図20は従来例に係るプラズマ溶接装置の構成図、図21は図20のG−G端面図、図22は図20のH−H断面図、図23は従来例に係る溶接トーチの先端部から噴射されるシールドガスの分布を示す図である。
【0004】
図20に示すように、従来例に係るプラズマ溶接装置1Dは、ワーク2の溶接部分と対向に配置される溶接トーチ5Dと、溶接トーチ5Dを構成する電極棒6とプラズマアーク拘束用の第1ノズル8との間、及び、電極棒6とワーク2との間に溶接電源を供給する電源供給手段12と、第1ノズル8に形成された冷却水循環通路8bに冷却水9を循環させる冷却水循環制御装置13と、電極棒6の外面と第1ノズル8の内面とをもって構成される動作ガス流路8cに動作ガス(プラズマガスとも呼ばれる)7を供給する動作ガス供給手段14と、第1ノズル8の外面とその外周に配置された第2ノズル11の内面とをもって構成されるシールドガス流路11bにシールドガス10を供給するシールドガス供給手段15とを備えている。
【0005】
第1ノズル8は、先端に縮径部を有する円筒状に形成されており、縮径部の先端には、円形の動作ガス噴出孔8aが開設されている。また、第2ノズル11は、先端に縮径部を有する円筒状に形成されており、縮径部の先端には、円形のシールドガス噴出孔11aが開設されている。図21及び図22に示すように、これら第1及び第2のノズル8,11は同心に組み立てられ、動作ガス噴出孔8aとシールドガス噴出孔11aとが同心に配置されている(例えば、特許文献1参照。)。したがって、シールドガス供給手段15から溶接トーチ5のシールドガス流路11bにシールドガス10を供給したとき、図23に示すように、シールドガス噴出孔11aからは、シールドガス噴出孔11aの周方向に関して、均等な分布xでシールドガス10が噴射される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−58147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、油圧ショベル等の建設機械の製造には、十数mm以上の中厚板の溶接が必要であり、更に、例えば油圧ショベルにおけるフロント構造物の製造に際しては、数mm以上の板厚差がある中厚板どうしの溶接が必要となる。このように、数mm以上の板厚差がある中厚板どうしを上述した従来のプラズマ溶接装置を用いて溶接しようとすると、板厚が小さいワーク4側では、シールドガス噴出孔23aから噴射されたシールドガスが円滑に当該ワークの面方向に広がるのに対して、板厚が大きいワーク3側では、板厚が大きいワーク3と板厚が小さいワーク4との突き合わせ部分に形成される段差がシールドガス10の流を妨げる抵抗となるため、シールドガス噴出孔11aから噴射されたシールドガス10が、図24に符号S4で示すように、溶接方向と直交する方向に広がりにくく、板厚が大きいワーク3側におけるシールドガス10の層が薄くなって、シールドガス10によるプラズマアークのシールド効果が弱くなる。
【0008】
このような不都合を解消するため、図20に示すように、板厚が大きいワーク3の開先3aに続く部分に傾斜面3cを形成し、板厚差によるシールドガス流の乱れを緩和するという手段をとることも考えられるが、シールドガス流の乱れを十分に緩和するためには、傾斜面3cの勾配を小さくして、傾斜面3cの形成範囲を広くしなければならず、コスト高の原因となるため、実際上は傾斜面3cの勾配を十分に小さくすることは困難である。したがって、仮に板厚が大きいワーク3にコスト上許容される範囲で傾斜面3cを形成した場合には、シールドガス流の乱れを十分に緩和することはできず、図25に示すように、シールドガス噴出孔11aから板厚が大きいワーク3側に噴射されたシールドガス10に、ワーク3の傾斜面3c及び開先面3aに沿って溶接部(ワーク3,4の突き合わせ部)側に向かう流れS2が生じ、この流れS2に空気が巻きこまれるため、プラズマアーク16が不安定になって、高品質の溶接を実施することが困難になりやすい。
【0009】
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、板厚差が大きいワークについても高品質の溶接を安定して実施可能なプラズマ溶接装置及びプラズマ溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、前記の課題を解決するため、プラズマ溶接装置に関しては、溶接トーチと、電源供給手段と、動作ガス供給手段と、シールドガス供給手段とを備えたプラズマ溶接装置において、前記溶接トーチは、先端部に動作ガス噴出孔を有する筒状に形成され、中心部に配置された電極棒との間に動作ガス流路が形成されたプラズマアーク拘束用の第1ノズルと、先端部にシールドガス噴出孔を有する筒状に形成され、前記第1ノズルの外周に配置されて前記第1ノズルとの間にシールドガス流路を形成する第2ノズルとを備え、前記シールドガス流路の出口に、シールドガスの噴射量が大きい大流量部と、シールドガスの噴射量が少ない小流量部を設けたことを特徴とする。
【0011】
上述のように、シールドガス流路の出口からシールドガス噴出孔23aの周方向に関してシールドガス10を均等に噴射すると、板厚差が大きいワークを溶接する場合、板厚が大きいワークの面方向に広がろうとするシールドガスの流れが、板厚が大きいワークと板厚が小さいワークとの段差によって阻害されるため、板厚が大きいワーク側におけるシールドガス層が薄くなって、十分なプラズマアークのシールド効果が得られなくなる。これに対して、シールドガス流路の出口にシールドガスの噴射量が大きい大流量部とシールドガスの噴射量が少ない小流量部を設けると、大流量部を板厚が大きいワーク側に向け、小流量部を板厚が小さいワーク側に向けることにより、板厚が大きいワーク側におけるシールドガスの流量不足が解消され、高品質な溶接を安定して行うことが可能になる。
【0012】
また本発明は、前記構成のプラズマ溶接装置において、前記シールドガス流路の出口の半周を前記大流量部とし、残りの半周を前記小流量部としたことを特徴とする。
【0013】
かかる構成によると、電極棒を中心とする対象位置に大流量部と小流量部とを形成することができるので、溶接部を介して対象に配置される板厚が大きいワーク及び板厚が小さいワークに対する大流量部と小流量部との位置付けを容易なものにすることができ、溶接作業の複雑化を防止することができる。
【0014】
また本発明は、前記構成のプラズマ溶接装置において、前記シールドガス噴出孔を長円形又は楕円形に形成すると共に、前記第1ノズルを前記シールドガス噴出孔の中心よりも一方側に偏倚した位置に配置し、前記シールドガス流路の出口に、開口面積が大きい部位と開口面積が小さい部位とを形成したことを特徴とする。
【0015】
かかる構成によっても、電極棒を中心とする対象位置に大流量部と小流量部を形成することができる。
【0016】
また本発明は、前記構成のプラズマ溶接装置において、前記動作ガス噴出孔及び前記シールドガス噴出孔をそれぞれ円形に形成し、これら動作ガス噴出孔及びシールドガス噴出孔を同心に配置すると共に、前記第2ノズルの先端部に、前記シールドガス流路の出口の開口面積を調整する開口面積調整部材を取り付け、前記シールドガス流路の出口に、開口面積が大きい部分と小さい部分とを形成することを特徴とする。
【0017】
かかる構成によっても、電極棒を中心とする対象位置に大流量部と小流量部を形成することができる。また、かかる構成によると、動作ガス噴出孔とシールドガス噴出孔とがそれぞれ円形に形成され、かつこれらの各ガス噴出孔が同心に配置された汎用的な溶接トーチを利用することができるので、プラズマ溶接装置の低コスト化を図ることができる。
【0018】
また本発明は、前記構成のプラズマ溶接装置において、前記開口面積調整部材は、長円形又は楕円形の開口面積調整孔を有し、該開口面積調整孔と前記シールドガス流路の出口との重ね合わせを調整することにより、開口面積が大きい部分及び前記開口面積が小さい部分を形成することを特徴とする。
【0019】
かかる構成によると、開口面積調整部材に開設された長円形又は楕円形の開口面積調整孔とシールドガス流路の出口との重ね合わせを調整することにより、開口面積が大きい部分及び開口面積が小さい部分を自在に形成することができるので、溶接条件に応じた最適なシールドガス流量の分布を有する溶接トーチを作製することができる。
【0020】
また本発明は、前記構成のプラズマ溶接装置において、前記動作ガス噴出孔及び前記シールドガス噴出孔をそれぞれ円形に形成し、これら動作ガス噴出孔及びシールドガス噴出孔を同心に配置すると共に、前記第1ノズルの外面と前記第2ノズルの内面との間に2枚の仕切り板を対向に形成して、2つの独立したシールドガス流路を形成し、これら2つのシールドガス流路の一方には前記シールドガス供給手段から高圧のシールドガスを供給し、他方には前記シールドガス供給手段から低圧のシールドガスを供給することを特徴とする。
【0021】
かかる構成によっても、電極棒を中心とする対象位置に大流量部と小流量部を形成することができる。また、かかる構成によると、各シールドガス流路へのシールドガスの供給圧力を調整することにより、各シールドガス流路の出口から噴射されるシールドガス流量を厳密に制御することができるので、プラズマアークのシールドを確実に行うことができる。
【0022】
さらに本発明は、前記の課題を解決するため、プラズマ溶接方法に関しては、溶接トーチ、電源供給手段、動作ガス供給手段及びシールドガス供給手段を備えたプラズマ溶接装置を用いて、板厚差が大きいワークの突き合わせ部をプラズマ溶接するプラズマ溶接方法において、前記溶接トーチとして、先端部に動作ガス噴出孔を有する筒状に形成され、中心部に配置された電極棒との間に動作ガス流路が形成されたプラズマアーク拘束用の第1ノズルと、先端部にシールドガス噴出孔を有する筒状に形成され、前記第1ノズルの外周に配置されて前記第1ノズルとの間にシールドガス流路を形成する第2ノズルとを備え、前記シールドガス流路の出口に、シールドガスの噴射量が大きい大流量部と、シールドガスの噴射量が少ない小流量部を設けたものを用い、前記大流量部を板厚が大きい第1のワーク側に向け、かつ前記小流量部を板厚が小さい第2のワーク側に向けて、前記溶接トーチを前記突き合わせ部の上方に配置し、前記電極棒と前記ワークとの間に前記動作ガス噴出孔より噴出された動作ガスにより拘束されたプラズマアークを発生させ、前記シールドガス流路より前記ワークの表面にシールドガスを噴出しながら、前記溶接トーチを前記突き合わせ部に沿って移動することを特徴とする。
【0023】
かかる構成によると、溶接トーチに形成されたシールドガスの大流量部を板厚が大きいワーク側に向け、シールドガスの小流量部を板厚が小さいワーク側に向けて、板厚差が大きいワークのプラズマ溶接を実行するので、板厚が大きいワーク側におけるシールドガスの流量不足が解消され、プラズマアークをシールドガスにて十分にシールドすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のプラズマ溶接装置は、溶接トーチにおけるシールドガス流路の出口にシールドガスの噴射量が大きい大流量部とシールドガスの噴射量が少ない小流量部を設けるので、大流量部を板厚が大きいワーク側に向け、小流量部を板厚が小さいワーク側に向けることにより、板厚が大きいワーク側におけるシールドガスの流量不足を解消することができ、シールドガスによりプラズマアークを十分にシールドすることができて、高品質な溶接を安定して行うことが可能になる。
【0025】
本発明のプラズマ溶接方法は、板厚差が大きいワークのプラズマ溶接に際し、溶接トーチに形成されたシールドガスの大流量部を板厚が大きいワーク側に向け、シールドガスの小流量部を板厚が小さいワーク側に向けるので、板厚が大きいワーク側におけるシールドガスの流量不足が解消され、高品質な溶接を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るプラズマ溶接装置及びプラズマ溶接方法を用いて作製される油圧ショベルフロント構造物の側面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】実施例1に係るプラズマ溶接装置の構成図である。
【図4】図3のB−B端面図である。
【図5】実施例1に係る溶接トーチから噴射されるシールドガスの分布を示す要部断面図である。
【図6】実施例1に係る溶接トーチを板厚差が大きいワークの溶接に適用した場合におけるワーク表面のシールドガス分布を示す図である。
【図7】実施例1に係るプラズマ溶接装置の効果を示す要部断面図である。
【図8】実施例1に係るプラズマ溶接装置の効果を示す一部破断した斜視図である。
【図9】実施例1に係るプラズマ溶接装置及びプラズマ溶接方法を用いて溶接されたワークの溶接部の状態を示す要部断面図である。
【図10】実施例2に係るプラズマ溶接装置の構成図である。
【図11】図10のC−C端面図である。
【図12】図10のD−D断面図である。
【図13】図12のE−E端面図である。
【図14】実施例2に係る溶接トーチから噴射されるシールドガスの分布を示す要部断面図である。
【図15】実施例2に係る溶接トーチを板厚差が大きいワークの溶接に適用した場合におけるワーク表面のシールドガス分布を示す図である。
【図16】実施例3に係るプラズマ溶接装置の構成図である。
【図17】図10のF−F端面図である。
【図18】実施例3に係る溶接トーチから噴射されるシールドガスの分布を示す要部断面図である。
【図19】実施例3に係る溶接トーチから噴射されるシールドガスの分布を示す要部平面図である。
【図20】従来例に係るプラズマ溶接装置の構成図である。
【図21】図20のG−G端面図である。
【図22】図20のH−H断面図である。
【図23】従来例に係る溶接トーチから噴射されるシールドガスの分布を示す要部断面図である。
【図24】従来例に係る溶接トーチを板厚差が大きいワークの溶接に適用した場合におけるワーク表面のシールドガス分布を示す図である。
【図25】従来例に係る溶接トーチを板厚差が大きいワークの溶接に適用した場合に生じる不都合を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明に係るプラズマ溶接装置及びこれを用いたプラズマ溶接方法は、数mm以上の板厚差を有し、かつ板厚がそれぞれ十数mm以上の中厚板からなるワークの接合に適用される。建設機械の分野においては、例えば図1に示す油圧ショベルのフロント構造物(ブーム及びアーム等)1における基部1aと本体部1bとの接合に、この種のプラズマ溶接が利用されている。基部1aには板厚が大きい中厚板が用いられ、本体部1bにはこれよりも板厚が小さい中厚板が用いられる。
【0028】
図2に示すように、板厚が大きいワーク3と板厚が小さいワーク4には、それぞれ開先3a,4aが形成されており、板厚が大きいワーク3には、開先3aに続いて、シールドガスの面方向への流れを円滑にするための傾斜面3cが形成されている。これら板厚が大きいワーク3と板厚が小さいワーク4とは、開先3a,4aに続くルート面3b,4bで突き合され、この突き合わされたルート面3b,4bがプラズマ溶接される。なお、以下に説明するプラズマ溶接装置及びこれを用いたプラズマ溶接方法は、傾斜面3cが形成されていないワーク2、及びルート面3b,3bを有しないワーク2についても適用することができる。
【0029】
以下、本発明に係るプラズマ溶接装置及びこれを用いたプラズマ溶接方法を、実施例ごとに説明する。
【実施例1】
【0030】
図3〜図9に、実施例1に係るプラズマ溶接装置及びこれを用いたプラズマ溶接方法を示す。図3に示すように、本例のプラズマ溶接装置1Aも基本的な構成に関しては図20に示した従来例に係るプラズマ溶接装置と同じであり、溶接トーチ5Aと、溶接トーチ5Aを構成する電極棒6とプラズマアーク拘束用の第1ノズル8との間、及び、電極棒6とワーク2との間に溶接電源を供給する電源供給手段12と、第1ノズル8に開設された冷却水循環通路8bに冷却水9を循環させる冷却水循環制御装置13と、電極棒6の外面と第1ノズル8の内面とをもって構成される動作ガス流路8cに動作ガス7を供給する動作ガス供給手段14と、第1ノズル8の外面とその外周に配置された第2ノズル11の内面とをもって構成されるシールドガス流路11bにシールドガス10を供給するシールドガス供給手段15とを備えている。
【0031】
実施例1に係るプラズマ溶接装置1Aは、溶接トーチ5Aを構成する第2ノズル11の構成、より正確には、第2ノズル11に形成されるシールドガス噴出孔11aの形状が、図20に示した従来例に係るプラズマ溶接装置1Dと異なっている。即ち、実施例1に係る溶接トーチ5Aの第2ノズル11は、先端に縮径部を有する円筒状に形成されているが、縮径部の先端には、長円形のシールドガス噴出孔11aが、第2ノズル11の軸心から偏倚した位置に開設されている。その他については、図20に示した従来例に係るプラズマ溶接装置と同じであるので、対応する部分に同一の符号を付して、説明を省略する。
【0032】
第1ノズル8と第2ノズル11とは同心に配置される。したがって、図4から明らかなように、実施例1に係る溶接トーチ5Aにおいては、シールドガス噴出孔11aの開口面積が、第1ノズル8と第2ノズル11の軸心を通りかつ長円形のシールドガス噴出孔11aの短径方向に伸びる直線Y−Yを介して、第1ノズル8に対するシールドガス噴出孔11aの偏倚方向については広くなり、それと反対方向については狭くなる。このため、実施例1に係る溶接トーチ5Aにおいては、シールドガス流路11bの出口から噴射されるシールドガス10の分布xが、シールドガス噴出孔11aの周方向に関して均等にならず、図5及び図6に示すように、開口面積が大きい側で多く、開口面積が小さい側で少なくなる。なお、図6の符号S1は、ワーク2の面方向に広がるシールドガス10の流量分布を示している。
【0033】
このように、実施例1に係る溶接ノズル5Aは、シールドガス噴出孔11aからのシールドガス10の噴射量が、シールドガス噴出孔11aの周方向に関し、開口面積が大きい側で多く、開口面積が小さい側で少なくなるようにしたので、図7及び図8に示すように、板厚差が大きい中厚板のワークの溶接に適用する場合において、シールドガス噴出孔11aの開口面積が大きい側を板厚が大きいワーク3側に向け、シールドガス噴出孔11aの開口面積が小さい側を板厚が小さいワーク4側に向けることにより、板厚が大きいワーク3に形成された傾斜面3cに多くのシールドガス10を吹き付けることができる。したがって、板厚が大きいワーク3と板厚が小さいワーク4との間に形成される段差により、板厚が大きいワーク3の面方向に広がろうとするシールドガス10の流れがある程度阻害されたとしても、プラズマアーク16の周囲に十分なシールドガス10の層を形成することができるので、プラズマアーク16への空気22の巻き込みを防止できて、プラズマアーク16を安定化することができ、その結果、図8及び図9に示すように、表裏面にそれぞれ溶接ビード25及び裏波ビード17が均一に形成された良好な溶接品を得ることができる。
【0034】
電極棒6とワーク2との間におけるプラズマアーク16の発生は、電源供給手段12に備えられた切替スイッチ12aを閉成し、電極棒6と第1ノズル8との間でアークを発生させた後、切替スイッチ12aを開成し、アークを電極棒6とワーク2との間に移行させることにより行われる。この方式は、電極棒6と第1ノズル8との間にのみアークを発生させるプラズマジェット方式と、電極棒6とワーク2との間にのみアークを発生させるプラズマアーク方式の中間形と呼ばれるが、本発明に係るプラズマ溶接装置は、この中間形のものに限定されるものではなく、プラズマアーク方式を採用するものについても適用することができる。
【0035】
なお、本実施例においては、シールドガス噴出孔11aの形状を長円形としたが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、楕円形その他の非円形形状とすることもできる。
【実施例2】
【0036】
図10〜図15に、実施例2に係るプラズマ溶接装置及びこれを用いたプラズマ溶接方法を示す。図10〜図13に示すように、本例のプラズマ溶接装置1Bは、2つのシールドガス流路11b1,11b2を有する溶接トーチ5Bを備えたこと、及び、これら2つのシールドガス流路11b1,11b2にそれぞれ適量のシールドガス10を供給する2つのシールドガス供給手段15a,15bを備えたことを特徴とする。その他については、実施例1に係るプラズマ溶接装置と同じであるので、対応する部分に同一の符号を付して、説明を省略する。
【0037】
即ち、実施例2に係るプラズマ溶接装置の溶接トーチ5Bは、図10に示すように、先端に縮径部を有する円筒状に形成され、縮径部の先端に円形の動作ガス噴出孔8aが開設された第1ノズル8と、先端に縮径部を有する円筒状に形成され、縮径部の先端に円形のシールドガス噴出孔11aが開設された第2ノズル11とを有しており、これら第1及び第2のノズル8,11は同心に組み立てられて、動作ガス噴出孔8aとシールドガス噴出孔11aとが同心に配置されている。また、第1ノズル8の外面と第2ノズル11の内面との間には、図11〜図13に示すように、電極棒6の中心を通る直線上に2枚の仕切り板18が設けられ、これにより仕切られた2つのシールドガス流路11b1,11b2が形成されている。したがって、図14及び図15に示すように、2つのシールドガス供給手段15a,15bからこれら2つのシールドガス流路11b1,11b2のそれぞれに、流量Q1,Q2(Q1>Q2)のシールドガス10を供給することにより、シールドガス噴出孔11aから噴射されるシールドガス10の流量を、シールドガス噴出孔11aの周方向に関して不均等化することができる。なお、図15の符号S2は、ワーク2の面方向に広がるシールドガス10の流量分布を示している。
【0038】
このような構成において、図10に示すように、シールドガス10の噴出流量が大きい一方のシールドガス流路(図10の例では、シールドガス流路11b1)の出口を板厚が大きいワーク3側に向け、シールドガス10の噴出流量が小さい他方のシールドガス流路(図10の例では、シールドガス流路11b2)の出口を板厚が小さいワーク4側に向けることにより、板厚が大きいワーク3に形成された傾斜面3cに多くのシールドガス10を吹き付けることができて、プラズマアーク16の周囲に十分なシールドガス10の層を形成することができる。よって、プラズマアーク16への空気22の巻き込みを防止でき、プラズマアークを安定化することができて、良好な溶接品を得ることができる。
【実施例3】
【0039】
図16〜図19に、実施例3に係るプラズマ溶接装置及びこれを用いたプラズマ溶接方法を示す。図16及び図17に示すように、本例のプラズマ溶接装置1Cは、先端部に開口面積調整部材21が取り付けられた溶接トーチ5Cを備えたことを特徴とする。その他については、実施例1に係るプラズマ溶接装置と同じであるので、対応する部分に同一の符号を付して、説明を省略する。
【0040】
即ち、実施例3に係るプラズマ溶接装置の溶接トーチ5Cは、先端に縮径部を有する円筒状に形成され、縮径部の先端に円形の動作ガス噴出孔8aが開設された第1ノズル8と、先端に縮径部を有する円筒状に形成され、縮径部の先端に円形のシールドガス噴出孔11aが開設された第2ノズル11とを有しており、これら第1及び第2のノズル8,11は同心に組み立てられて、動作ガス噴出孔8aとシールドガス噴出孔11aとが同心に配置されている。また、第2ノズル11の先端部には、図17に示すように、長円形の開口面積調整孔21aが開設された円板状の開口面積調整部材21が取り付けられている。開口面積調整孔21aは、円板状に形成された開口面積調整部材21の中心から一方向に偏倚した位置に開設されており、第2ノズル11と開口面積調整部材21とは、同心に配置される。
【0041】
したがって、図17に示すように、実施例3に係る溶接トーチ5Cにおいては、第1ノズル8と第2ノズル11の軸心を通りかつ長円形の開口面積調整孔21aの短径方向に伸びる直線Y−Yを介して、開口面積調整部材21の軸心に対する開口面積調整孔21aの偏倚方向については、シールドガス噴出孔11aと開口面積調整孔21aとの重なり面積が広くなり、それと反対方向については狭くなる。このため、実施例3に係る溶接トーチ5Cにおいても、シールドガス噴出孔11aからのシールドガス10の噴射量が、シールドガス噴出孔11aの周方向に関して均等にならず、図18及び図19に示すように、シールドガス噴出孔11aと開口面積調整孔21aとの重なり面積が広い側で多く、それらの重なり面積が小さい側で少なくなる。なお、図19の符号S3は、ワーク2の面方向に広がるシールドガス10の流量分布を示している。
【0042】
このような構成において、図16に示すように、シールドガス10の噴出流量が大きい溶接トーチ5Cの片側を板厚が大きいワーク3側に向け、シールドガス10の噴出流量が小さい溶接トーチ5Cの他の片側を板厚が小さいワーク4側に向けることにより、板厚が大きいワーク3に形成された傾斜面3cに多くのシールドガス10を吹き付けることができるので、プラズマアーク16(図7参照)の周囲に十分なシールドガス10の層を形成することができる。よって、プラズマアーク16への空気22の巻き込みを防止でき、プラズマアーク16を安定化することができて、良好な溶接品を得ることができる。
【0043】
なお、本実施例においては、開口面積調整孔21aの形状を長円形としたが、本発明の要旨はこれに限定されるものではなく、楕円形その他の非円形形状とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、建設機械の製造などで実施される板厚差が大きい中厚板のプラズマ溶接に利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 油圧ショベルのフロント構造物
1a 基部
1b 本体部
2 ワーク
3 板厚が大きいワーク
4 板厚が小さいワーク
3a,4a 開先
3b,4b ルート面
3c 傾斜面
5A〜5D 溶接トーチ
6 電極棒
7 動作ガス
8 第1ノズル
8a 動作ガス噴出孔
8b 冷却水循環通路
8c 動作ガス流路
9 冷却水
10 シールドガス
11 第2ノズル
11a シールドガス噴出孔
11b,11b1,11b2 シールドガス流路
12 電源供給手段
13 冷却水循環制御装置
14 動作ガス供給手段
15,15a,15b シールドガス供給手段
16 プラズマアーク
18 仕切り板
21 開口面積調整部材
21a 開口面積調整孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチと、電源供給手段と、動作ガス供給手段と、シールドガス供給手段とを備えたプラズマ溶接装置において、
前記溶接トーチは、先端部に動作ガス噴出孔を有する筒状に形成され、中心部に配置された電極棒との間に動作ガス流路が形成されたプラズマアーク拘束用の第1ノズルと、先端部にシールドガス噴出孔を有する筒状に形成され、前記第1ノズルの外周に配置されて前記第1ノズルとの間にシールドガス流路を形成する第2ノズルとを備え、前記シールドガス流路の出口に、シールドガスの噴射量が大きい大流量部と、シールドガスの噴射量が少ない小流量部を設けたことを特徴とするプラズマ溶接装置。
【請求項2】
前記シールドガス流路の出口の半周を前記大流量部とし、残りの半周を前記小流量部としたことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ溶接装置。
【請求項3】
前記シールドガス噴出孔を長円形又は楕円形に形成すると共に、前記第1ノズルを前記シールドガス噴出孔の中心よりも一方側に偏倚した位置に配置し、前記シールドガス流路の出口に、開口面積が大きい部位と開口面積が小さい部位とを形成したことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ溶接装置。
【請求項4】
前記動作ガス噴出孔及び前記シールドガス噴出孔をそれぞれ円形に形成し、これら動作ガス噴出孔及びシールドガス噴出孔を同心に配置すると共に、前記第2ノズルの先端部に、前記シールドガス流路の出口の開口面積を調整する開口面積調整部材を取り付け、前記シールドガス流路の出口に、開口面積が大きい部分と小さい部分とを形成することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ溶接装置。
【請求項5】
前記開口面積調整部材は、長円形又は楕円形の開口面積調整孔を有し、該開口面積調整孔と前記シールドガス流路の出口との重ね合わせを調整することにより、開口面積が大きい部分及び前記開口面積が小さい部分を形成することを特徴とする請求項4に記載のプラズマ溶接装置。
【請求項6】
前記動作ガス噴出孔及び前記シールドガス噴出孔をそれぞれ円形に形成し、これら動作ガス噴出孔及びシールドガス噴出孔を同心に配置すると共に、前記第1ノズルの外面と前記第2ノズルの内面との間に2枚の仕切り板を対向に形成して、2つの独立したシールドガス流路を形成し、これら2つのシールドガス流路の一方には前記シールドガス供給手段から高圧のシールドガスを供給し、他方には前記シールドガス供給手段から低圧のシールドガスを供給することを特徴とする請求項1に記載のプラズマ溶接装置。
【請求項7】
溶接トーチ、電源供給手段、動作ガス供給手段及びシールドガス供給手段を備えたプラズマ溶接装置を用いて、板厚差が大きいワークの突き合わせ部をプラズマ溶接するプラズマ溶接方法において、
前記溶接トーチとして、先端部に動作ガス噴出孔を有する筒状に形成され、中心部に配置された電極棒との間に動作ガス流路が形成されたプラズマアーク拘束用の第1ノズルと、先端部にシールドガス噴出孔を有する筒状に形成され、前記第1ノズルの外周に配置されて前記第1ノズルとの間にシールドガス流路を形成する第2ノズルとを備え、前記シールドガス流路の出口に、シールドガスの噴射量が大きい大流量部と、シールドガスの噴射量が少ない小流量部を設けたものを用い、
前記大流量部を板厚が大きい第1のワーク側に向け、かつ前記小流量部を板厚が小さい第2のワーク側に向けて、前記溶接トーチを前記突き合わせ部の上方に配置し、前記電極棒と前記ワークとの間に前記動作ガス噴出孔より噴出された動作ガスにより拘束されたプラズマアークを発生させ、前記シールドガス流路より前記ワークの表面にシールドガスを噴出しながら、前記溶接トーチを前記突き合わせ部に沿って移動することを特徴とするプラズマ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2012−66292(P2012−66292A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214259(P2010−214259)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】