説明

プラズマ発生装置、成膜装置及び成膜方法

【課題】プラズマガンの投入電力を増加させず、成膜中の圧力を低くせず、プラズマガン内に導入するArガスの流量を少なくせずとも、成膜速度を高めることを可能とするプラズマ発生装置、成膜装置及び成膜方法を提供する。
【解決手段】プラズマガンから収束コイルにより引き出したプラズマビームを、プラズマビームの照射方向に対して直交する方向に延び、対向して互いに平行に配置されて対になっている第一のマグネットによって形成される磁場の中に通過させることにより、プラズマビームをシート状に変形させるプラズマ発生装置において、プラズマガンと該第一のマグネットの間に、プラズマビームの照射方向にその孔部の中心が位置しかつ照射方向の磁場を収束させる磁場を形成する、前記孔部を有する第二のマグネットを少なくとも1つ配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ発生装置およびこのプラズマ発生装置を用いた成膜装置並びにこの成膜装置を用いた成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(Liquid Crystal Display
以降“LCD”と略記することがある。)やプラズマディスプレイ装置(Plasma Display Panel 以降“PDP”と略記することがある。)等、ディスプレイ用の大型基板を用いたディスプレイ装置の量産が近年強く求められている。
【0003】
LCDやPDPなどのディスプレイ用の大面積基板への透明導電膜ITOや、前面板電極保護層であるMgO等の薄膜形成にあたっては、生産量の増加、高精細パネル化に伴い、EB(Electron Beam)蒸着法やスパッタリング法に代わる成膜法としてイオンプレーティング法が注目されている。
【0004】
イオンプレーティング法は、高成膜レート、高密度な膜質の形成、大きいプロセスマージンといった様々な長所を有し、また、プラズマビームを磁場で制御することにより大面積基板への成膜が可能になるからである。この中で、特に、ホローカソード式イオンプレーティング法がディスプレイ用の大面積基板への成膜用として期待されている。
【0005】
このホローカソード式イオンプレーティング法では、プラズマ源に浦本上進氏が開発したUR式プラズマガンを用いているものがある(特許文献1)。
【0006】
このUR式プラズマガンは、ホローカソードと複数の電極で構成されており、Arガスを導入して高密度のプラズマを生成し、異なる複数の磁場でプラズマビームの形状、軌道を変化させて成膜室に導いている。すなわち、プラズマガンで生成されたプラズマビームを、当該プラズマビームの進行方向に対して直交する方向に延び、対向して互いに平行に配置されて対になっている永久磁石によって形成されている磁場の中に通過させる。これにより、当該プラズマビームを例えば扁平に広がったプラズマビームとするものである。
【0007】
この扁平に広がったプラズマビームを、蒸発材料受け皿上の蒸発材料に広範囲にわたって照射する技術も開発されている(特許文献2)。
【0008】
これによれば、プラズマビームにより、プラズマが蒸発材料受け皿上の蒸発材料、例えば、MgOに広範囲にわたって照射されるため、蒸発源を幅広くでき、幅広な基板上に成膜することが可能になるとされている。
【0009】
このようなイオンビーム発生装置を使用した成膜装置100による成膜方法の一例を図5、図6を用いて説明する。図5は、成膜装置の一例を説明する概略側面図、図6は、この概略平面図である。図5中、矢印X方向から見たものが図6図示の状態で、図6中、矢印Y方向から見たものが図5図示の状態である。
【0010】
成膜装置100の真空排気可能な成膜室30内の下部に、蒸発材料(例えばMgO)31を収容した蒸発材料受け皿32が配備されている。成膜処理される基板33(例えば、ディスプレイ用大型ガラス基板)は、成膜室30内の上部に、蒸発材料受け皿32と対向するように配置される。そして、基板33に、連続的にMgO膜等の絶縁膜を成膜する際に、基板33は不図示の基板ホルダーによって、所定の距離をあけて矢印43のように連続的に搬送される。
【0011】
図5、図6図示の実施形態では成膜室30の外側に配置されているプラズマガン20は、ホローカソード21と、電極マグネット22および電極コイル23を有し、略水平の軸に沿って同軸で配置されている。
【0012】
プラズマビーム25を成膜室30内へ引き出すための収束コイル26が電極コイル23より下流側(プラズマビームが進行する方向)に設置されている。
【0013】
収束コイル26の更に下流側には、プラズマビーム25の進行方向に対して直交する方向に延び、対向して互いに平行に配置されて対になっている永久磁石からなる第一のマグネット27、29が配置されている。前記のように成膜室30に向けて進行するプラズマビーム25は、この第一のマグネット27、29によって形成される磁場の中を通過し、ここを通過する間に、扁平なプラズマビーム28になる。第一のマグネットは1組、または複数組配置される。
【0014】
図5、図6図示の従来例では、第一のマグネット27、29が配置されている。第一のマグネットは、プラズマビームの照射方向に対して直行する方向に延び、対向して互いに平行に配置されて対になっている永久磁石からなる。
【0015】
なお、図5、図6図示の例では、第一のマグネット27、29が成膜室30の内部に配置されているが、第一のマグネット27、29が成膜室30の外部に配置されることもある。
【0016】
基板33への成膜を行う場合には、蒸発材料受け皿32に蒸発材料31を配置する。また、成膜処理される基板33を不図示の基板ホルダーに保持する。真空室30内部を矢印42のように排気して所定の真空度にするとともに、矢印41のように反応ガスを真空室30内に供給する。
【0017】
この状態で、アルゴン(Ar)等のプラズマ用ガスを矢印40のように、プラズマガン20に導入する。プラズマガン20で生成されたプラズマビーム25は、収束コイル26により形成される磁界によって収束され、特定の範囲で広がりを持ちながら、特定の径を有する円柱状に広がりながら真空室30内に引き出される。そして、2組の第一のマグネット27、29によってそれぞれ形成されている磁場の中をそれぞれ通過する。各組の第一のマグネット27、29を通過するときに、それぞれ、変形されて、扁平なプラズマビーム28となる。
【0018】
このシート状となったプラズマビーム28は、蒸発材料受け皿32の下方のアノードマグネット34が作る磁界によって偏向されて蒸発材料31上に引き込まれ、蒸発材料31を加熱する。その結果、加熱された部分の蒸発材料31は蒸発し、不図示の基板ホルダーに保持されて矢印43方向に移動している基板33に到達して基板33の表面に膜を形成する。
【特許文献1】特許第1755055号公報
【特許文献2】特開平9−78230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
前記のようなUR式プラズマガンを用いた場合、プラズマビームの中の電子は、蒸発材料受け皿のMgO材料上に広範囲にわたって照射され、そのプラズマビームのエネルギーにより加熱され、MgOは蒸発して基板上に薄膜が形成する。
【0020】
この場合、より速い成膜速度が必要なときは、プラズマビームを発生させるプラズマガンの投入電力を増大させて、蒸発材料受け皿上のMgOの表面に入射するプラズマビームのエネルギー密度を高めることで可能となる。
【0021】
しかしながら、プラズマガンの投入電力を増大させすぎると、プラズマガン内部の消耗部品の消耗速度が高まり、プラズマガンの保守期間が短くなり生産性に影響を与えていた。そのため、プラズマガンの保守期間を短縮してまでの投入電力の増大は制限され、したがって成膜速度を上昇させることは困難であった。
【0022】
また、発生するプラズマビームの放電インピーダンスを高めることでプラズマビーム中の電子のエネルギーを高めることができ、その結果、成膜速度を高めることは可能であるが、放電インピーダンスを高めるためには、成膜中の圧力を低くするか、もしくは、プラズマガン内に導入するArガスの流量を少なくする等の手段に依らなければならない。
【0023】
しかし、プラズマの状態に大きく影響する成膜中のガス流量は、常に安定な状態で導入されなければならないため、プロセス上の不安定な条件を排除するためにもArガスの流量を通常より少なくするという手段は、生産上、採用できるものではありえなかった。
【0024】
そこで本発明は、プラズマガンの投入電力を増加させず、成膜中の圧力を低くせず、プラズマガン内に導入するArガスの流量を少なくせずとも、成膜速度を高めることを可能とするプラズマ発生装置、成膜装置及び成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明によれば、プラズマガンから収束コイルにより引き出したプラズマビームを、該プラズマビームの照射方向に対して直交する方向に延び、対向して互いに平行に配置されて対になっている第一のマグネットによって形成される磁場の中を通過させて変形させるプラズマ発生装置において、前記プラズマガンと前記第一のマグネットの間に、前記プラズマビームの照射方向にその孔部の中心が位置し、かつ、該孔部内で照射方向の磁場を収束させる磁場を形成する、前記孔部を有する第二のマグネットが少なくとも1つ配置したことを特徴とするプラズマ発生装置が提供される。
【0026】
また、上記のプラズマ発生装置において、前記の第二のマグネットは、前記プラズマビームが通過する孔部を有する、同じ磁極を該孔部の中心に向けた環状の永久磁石または電磁石であるようにしてもよい。
【0027】
更に、上記のプラズマ発生装置において、前記第二のマグネットは、例えば水などの冷媒が流動する導電性部材で支持されるようにしてもよい。
【0028】
更に、本発明によれば、前記プラズマ発生装置を有する成膜装置が提供される。
【0029】
更に、本発明によれば、前記成膜装置を用いた成膜方法が提供される。この成膜方法はMgO膜の製造方法であってもよい。
【0030】
すなわち、本発明は、第二のマグネットをプラズマガンと第一のマグネットの間に配置して、それらの孔部にプラズマビームを通すことで、結果としてプラズマビームの放電インピーダンスを高めることを可能にするものである。
【発明の効果】
【0031】
成膜プロセスの重要条件であるプラズマを維持するために必要なArガス流量を安定供給しながら、かつ、プラズマの放電インピーダンスを高めることを可能にしたため、プラズマガンの保守期間を早めることになる投入電力の増加をさせることなく、成膜速度を30%増加させることを可能にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、この発明の実施の形態を添付の図を参照して説明する。
【0033】
図1は、この発明の成膜方法に使用される成膜装置10の一例の概略構成を示す側面図である。図2は、図1図示の成膜装置10の概略構成を示す平面図である。図1中、矢印X方向から見たものが図2図示の状態で、図2中、矢印Y方向から見たものが図1図示の状態である。
【0034】
成膜装置10の構成は、図1および図2を用いて背景技術の欄で説明した図5および図6の成膜装置と基本的に同じであるのでその説明は省略する。
【0035】
ただし、本発明にかかる成膜装置は以下の点で異なる。
【0036】
すなわち、プラズマガン20から成膜室30に向けて照射され電極コイル23を通過したプラズマビームを、プラズマビームを扁平にする第一のマグネット27、29を通過させる前に、それらの前方(プラズマガン20寄り)に少なくとも1個以上配置された第二のマグネット11の孔部を通過させる。第二のマグネット11は、プラズマビームと直交するように配置されている。
【0037】
また、第二のマグネットは、環状の永久磁石を使用することが可能であるが、第二のマグネットの孔部を貫通するプラズマビームに対してその進行を妨げることなく、その孔部内でプラズマビームの照射方向の磁場を収束させる磁場が形成されればよい。従って、1つの環状磁石で構成される場合でも、複数の磁石から構成される場合でも、どちらの場合も選択することができる。
【0038】
従って、例えば、図1、図2、図3、図4(a)に示すように、磁石11を例えばプラズマビームが通過する孔部を有する環状の導電性部材12に、その孔部を中心にして環状の第二のマグネットを配置させることで、均一な所定の磁束密度を有する第二のマグネットを使用することができる。このときの第二のマグネットの磁極は、環状の内側がN極、外側がS極、またはその逆で、内側がS極、外側がN極であり、電極マグネット22および電極コイル23の極性との関係で選択することができる。
【0039】
このような形態をとることで、孔部を通過するプラズマビームの照射方向の磁場を収束させる磁場を印加することが可能となる。
【0040】
第二のマグネットは、プラズマビーム等の熱により温度が上昇し、磁気的な特性に影響を及ぼされるおそれがあるため、その支持体に水などの冷媒を流動させている。
【0041】
以上のような第二のマグネットを、プラズマガンと第一のマグネットの間に配置することで、その磁場の作用により結果としてプラズマビームの放電インピーダンスを高めることができると考えられる。
【0042】
また、図4(a)に示すように1つの環状の磁石を配置するかわりに、図4(b)に示すように、複数個の永久磁石をプラズマビームの集光径を中心にして点対称の位置に配置してもよい。この場合、環状に配置した複数個の永久磁石を銅などの導電性部材に固定して、新たにその導電性部材に孔部を設けてもよい。
【0043】
また、図4(c)に示すように複数個の電磁石をプラズマビームの集光径を中心にして点対称の位置に配置してもよい。この場合、環状に配置した複数個の電磁石を銅などの導電性部材に固定して、新たにその導電性部材に孔部を設けてもよい。
【0044】
なお、複数のマグネットを支持する導電性部材は、水などの冷媒を流動させられる流路が形成されていてもよい。
【実施例1】
【0045】
図1、図2図示の形態の本発明の成膜装置10を用いて酸化マグネシウムを(MgO)成膜する場合について、その成膜方法の一例を説明する。
【0046】
プラズマ用ガスとしてアルゴンガスを矢印40のようにプラズマガン20に導入し、酸素を矢印41のように成膜室30に導入した以外は、図5、図6を用いて背景技術の欄で説明した成膜装置100と同じようにし、以下の条件で、被成膜物である基板33への成膜を行った。
【0047】
材質 :酸化マグネシウム(MgO)
膜厚 :12000Å
放電圧力:0.1Pa
Ar流量:11sccm(0.18ml/sec)
2 流量 :400sccm(6.7ml/sec)
成膜速度:175Å/sec
この結果、成膜プロセスの重要条件であるプラズマを維持するために必要なArガス流量を安定供給しながら、かつ、プラズマの放電インピーダンスを高めることを可能にしたため、プラズマガンの投入電力を増加させることなく、第二のマグネットがない場合に比べて、成膜速度を30%増加させることができた。
【実施例2】
【0048】
本発明の真空成膜装置で使用される第二のマグネットの合成磁場について、磁場に関するシミュレーションをおこなった。比較例として、第二のマグネットを使用していない場合とした。
【0049】
その結果、第二のマグネット内を通過するプラズマビームの位置における磁力線は、第二のマグネットがない場合に比べ、約60%に収束されていることが確認された。
【0050】
従って、第二のマグネットを通過するプラズマビームは、さらに収束された磁場に沿って進むことになる。
【0051】
シミュレーションに用いられた第二のマグネットの形状(環状永久磁石)及び磁気特性は以下のとおりである。
【0052】
寸法 内径 :60(mm)
外経 :80(mm)
厚さ :10(mm)
保持力(H) :11750(Oe)
残留磁束密度(Br):13900(Gauss)
以上、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態、実施例を説明したが、本発明はかかる実施形態、実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々の形態に変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明による成膜方法は、例えば、プラズマディスプレイパネルの製造等、大面積の基板に成膜することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施形態による発明のプラズマ発生装置及びこれを利用した成膜装置の一例を説明する概略側面図である。
【図2】本発明の実施形態による発明のプラズマ発生装置及びこれを利用した成膜装置の一例を説明する概略平面図である。
【図3】本発明の実施形態による発明のプラズマ発生装置及びこれを利用した成膜装置の一例を説明する斜視図である。
【図4】本発明の実施形態による第二のマグネットの例を示す図である。
【図5】従来例による発明のプラズマ発生装置及びこれを利用した成膜装置の一例を説明する概略側面図である。
【図6】従来例による発明のプラズマ発生装置及びこれを利用した成膜装置の一例を説明する概略平面図である。
【符号の説明】
【0055】
10 本発明の実施形態による成膜装置
11 第二のマグネット
20 プラズマガン
21 ホローカソード
22 電極マグネット
23 電極コイル
25 プラズマビーム
26 収束コイル
27 第一のマグネット
28 プラズマビーム
29 第一のマグネット
30 成膜室
31 蒸発材料
32 蒸発材料受け皿
33 基板
34 アノードマグネット
100 従来例による成膜装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマガンから収束コイルにより引き出したプラズマビームを、該プラズマビームの照射方向に対して直交する方向に延び、対向して互いに平行に配置されて対になっている第一のマグネットによって形成される磁場の中を通過させることにより、前記プラズマビームを変形させるプラズマ発生装置において、
前記プラズマガンと前記第一のマグネットの間に、前記プラズマビームの該照射方向に、その孔部の中心が位置し、かつ、該孔部内で該照射方向の磁場を収束させる磁場を形成する、前記孔部を有する第二のマグネットが少なくとも1つ配置したことを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項2】
前記孔部を有する第二のマグネットは、同じ磁極を該孔部の中心に向けた環状の永久磁石または電磁石であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ発生装置。
【請求項3】
前記第二のマグネットは、冷媒が流動する導電性部材で支持されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラズマ発生装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載のプラズマ発生装置を有する成膜装置。
【請求項5】
請求項4に記載の成膜装置を用いて被成膜物に膜を形成する成膜方法。
【請求項6】
請求項5に記載の成膜方法において、前記膜はMgO膜であることを特徴とする成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−256711(P2009−256711A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−105692(P2008−105692)
【出願日】平成20年4月15日(2008.4.15)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】