説明

プラズマ装置、重合膜生成および表面改質の方法、ノズルプレート、インクジェットヘッド、インクジェットプリンター

【課題】簡便な電位制御により、ノズルプレート等の被処理物に対しそれぞれに適した重合膜の生成および重合膜の表面改質が容易に行なえる、プラズマ装置を提供する。
【解決手段】プラズマ装置30は、内部の圧力およびガス雰囲気を調整可能なチャンバー31と、電力を供給する高周波電源34と、チャンバー31内に設けられ、高周波電源34に接続された高周波電極33およびアース38に接続されノズルプレート20を載置するための接地電極36を有する放電電極と、を備え、アース38と接地電極36との間に、可変コイル40aおよび可変コンデンサー40bを有する電位制御部40をさらに備えていること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ装置と、該プラズマ装置を用いて重合膜形成および重合膜の表面改質をする方法と、該重合膜形成および該表面改質がなされたノズルプレートと、該ノズルプレートを有するインクジェットヘッドおよびインクジェットプリンターと、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インクジェットプリンター(液体吐出装置)において、インクの液滴を吐出するためのノズルが設けられているノズルプレートは、撥水性および撥油性を有している。このようなノズルプレートは、例えば、ノズルプレートの表面に、シリコーンをアルゴンプラズマにより重合反応させて成膜し、さらに膜表面をプラズマまたは紫外線等に曝して改質した重合膜と、この重合膜の改質された表面に生成され、撥水性および撥油性を有する金属アルコキシドの分子膜と、を有している。この場合、重合膜の表面は改質されているため、分子膜との親和性の向上が図られている。これにより、ノズルを含むノズルプレートには、インクの付着を防止する機能が備わっており、インクジェットプリンターは、常に、液滴の吐出を良好に維持することが可能である。そして、この場合、ノズルプレートへの重合膜の生成と重合膜の表面改質とは、プラズマ装置を用いて行なうことが可能である(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−351923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、プラズマ装置を用いた、重合膜の生成と重合膜の表面改質とでは、プラズマ装置で印加する電位等の処理条件が異なっている。そのため、従来の技術では、一例として、ノズルプレートを載置するチャンバーの他にプラズマを発生させるチャンバーを設けたプラズマ装置による、いわゆるリモートプラズマ方式が用いられている。この方式では、プラズマ発生源からノズルプレートまで距離があるため、均一な成膜および改質の処理をすることが困難であることに加え、成膜用および改質用の電源がそれぞれ必要である。また、直流電源によって、成膜用および改質用の電位をそれぞれ調整する方式も用いられているが、直流電源とプラズマ用電源が必要である。このように、従来の技術においては、複雑な電源構成を要する、という課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例または形態として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]本適用例に係るプラズマ装置は、内部の圧力およびガス雰囲気を調整可能なチャンバーと、電力を供給する高周波電源と、前記チャンバー内に設けられ、前記高周波電源に接続された第1電極およびアースに接続された第2電極を有し、前記第1電極または前記第2電極のいずれかに被処理物を載置可能な放電電極と、を備え、前記アースと前記第2電極との間に電位制御部をさらに備えていること、を特徴とする。
【0007】
このプラズマ装置によれば、アースと第2電極との間に電位制御部を備えていて、この電位制御部の作用により、プラズマ装置における第2電極の電位は、マイナスまたはプラスのいずれの側へも自在に制御することが可能である。プラズマ装置が電位制御部を備えていなければ、そのプラズマ装置における第2電極の電位は、ゼロである。つまり、電位制御部を備えたプラズマ装置は、被処理物へ、例えば種々の機能膜等を生成したり、表面の改質等の処理をする場合、第1電極または第2電極へ載置された被処理物に対し、それぞれの処理に最適なプラズマ状態を発生させることが可能である。また、電位制御部は、プラズマ発生のための電位の制御を、容易に行うことが可能である。そのため、プラズマ装置は、高品質の成膜や改質等を効率的に行なうことができ、これら処理を、チャンバー内で、連続して行なうことも可能である。このように、電位制御部を備えたプラズマ装置は、複雑な電源構成を要することなく、被処理物への各種処理に対応することが可能である。
【0008】
[適用例2]上記適用例に係るプラズマ装置において、前記電位制御部は、可変コイルおよび可変コンデンサーを有することが好ましい。
【0009】
この構成によれば、電位制御部は、可変コイルおよび可変コンデンサーを有する簡便な構成であるが、被処理物への各種処理に対応して、第2電極の電位を適切に制御することが可能である。即ち、可変コイルおよび可変コンデンサーの値を選定することにより、第2電極の電位を任意に設定することが可能である。これにより、プラズマ装置は、各種処理に適したプラズマを発生させるための電位の制御を、より一層容易に行うことが可能である。
【0010】
[適用例3]上記適用例に係るプラズマ装置において、前記電位制御部は、前記第2電極の電位を制御して、前記チャンバー内に載置された前記被処理物の表面に重合膜を生成する成膜処理と、前記第2電極の電位を前記成膜処理の場合とは異なる制御をして、前記重合膜の表面を改質する表面改質処理と、をするための制御を少なくとも行なうことが好ましい。
【0011】
この構成によれば、プラズマ装置は、被処理物に対して、例えば撥液性や潤滑性や接着性等の機能性を付与するために、機能性を有する重合膜を生成する成膜処理と重合膜の表面改質処理とを、最適なプラズマによる処理によって容易に行なえる。ここで、プラズマ装置における成膜処理と表面改質処理とでは、最適な処理をするためのプラズマを発生させるために、第2電極に印加する電位がそれぞれ異なる。電位制御部は、第2電極にこれら異なる電位を印加するように、それぞれに適した制御をするためのものである。電位制御部により第2電極の電位を容易に制御可能であることにより、被処理物を載置する放電電極側の電位をマイナスにして、プラズマのプラスイオンを該電極側に引き寄せるようにすれば、効率的な成膜処理および表面改質処理が可能である。この場合、該電極側へ強く引き寄せられたプラスイオンの衝突で、重合膜や活性化した表面に、ダメージが発生することも考えられるが、電位制御部による制御により、効率的な成膜処理および表面改質処理とダメージ回避とが両立する電位を、適切に選択することが可能である。さらに、被処理物を載置する放電電極側の電位をプラスにすれば、電気的に中性な、いわゆるラジカルだけが被処理物等に作用するようにして、ダメージを回避することも可能である。このように、電位制御部を備えたプラズマ装置は、成膜処理および表面改質処理に適したプラズマを発生させるために、第2電極の電位を最適に制御することが可能である。
【0012】
[適用例4]本適用例に係る重合膜生成および表面改質の方法は、内部の圧力およびガス雰囲気を調整可能なチャンバーと、電力を供給する高周波電源と、前記チャンバー内に設けられ、前記高周波電源に接続された第1電極およびアースに接続された第2電極を有する放電電極と、前記アースと前記第2電極との間に設けられた電位制御部と、を備えたプラズマ装置を用い、前記プラズマ装置の前記第1電極または前記第2電極へ被処理物を載置する載置ステップと、前記電位制御部により、前記第2電極の電位を制御して、前記チャンバー内に載置された前記被処理物の表面へ重合膜を生成する成膜処理ステップと、前記電位制御部により、前記第2電極の電位を前記成膜処理ステップとは異なる制御をして、前記重合膜の表面を改質する表面改質処理ステップと、を有していること、を特徴とする。
【0013】
この重合膜生成および表面改質の方法によれば、アースと第2電極との間に電位制御部を備えたプラズマ装置を用いることにより、電位制御部は、プラズマ装置における第2電極の電位をマイナスまたはプラスのいずれの側へも自在に制御することが可能である。プラズマ装置が電位制御部を備えていなければ、そのプラズマ装置における第2電極の電位は、ゼロである。つまり、成膜処理ステップおよび表面改質処理ステップにおいて、電位制御部を備えたプラズマ装置を用いれば、第1電極または第2電極へ載置された被処理物に対し、それぞれの処理に最適なプラズマを発生させることが可能である。また、電位制御部は、プラズマ発生のための電位の制御を、容易に行うことが可能である。そのため、プラズマ装置は、高品質の重合膜の生成や重合膜の表面改質を効率的に行なうことができ、これら処理を、チャンバー内で、連続して行なうことも可能である。このように、電位制御部を備えたプラズマ装置は、複雑な電源構成を必要としない。従って、プラズマ装置を用いた重合膜生成および表面改質の方法では、被処理物への成膜処理および表面改質処理を容易に行なうことが可能である。
【0014】
[適用例5]上記適用例に係る重合膜生成および表面改質の方法において、前記成膜処理ステップおよび前記表面改質処理ステップでは、前記電位制御部が可変コイルおよび可変コンデンサーを有することが好ましい。
【0015】
この方法によれば、電位制御部は、可変コイルおよび可変コンデンサーを有する簡便な構成であるが、成膜処理ステップおよび表面改質処理ステップにおいて、第2電極の電位を適切に制御することが可能である。即ち、可変コイルおよび可変コンデンサーの値を選定することにより、第2電極の電位を任意に設定することが可能であり、プラズマ発生のための電位の制御を、より一層容易に行うことが可能である。
【0016】
[適用例6]本適用例に係るノズルプレートは、上記適用例に記載の重合膜生成および表面改質の方法によって、重合膜の生成および前記重合膜の表面の改質がなされ、前記改質がなされた前記表面に撥液膜をさらに有していること、を特徴とする。
【0017】
このノズルプレートによれば、重合膜表面に形成されている撥液膜により、ノズルから噴射する液体がノズル部およびノズル部周辺に付着することを防止可能である。また、撥液膜は、ノズルプレートに強固に結合した重合膜の、活性化した表面に形成されているため、重合膜と密着性が良好な状態である。これにより、重合膜および撥液膜を有したノズルプレートには、液体や汚れ等の付着がし難いため、常に、清浄な状態を維持することが可能である。
【0018】
[適用例7]本適用例に係るインクジェットヘッドは、上記適用例に記載のノズルプレートを備えていること、を特徴とする。
【0019】
このインクジェットヘッドによれば、インク(液体)の付着を防止したノズルプレートを備えていることにより、インクの吐出を妨げるような、インクや汚れ等の付着を防止でき、常に、良好なインク吐出が可能である。
【0020】
[適用例8]本適用例に係るインクジェットプリンターは、上記適用例に記載のノズルプレートを備えていること、を特徴とする。
【0021】
このインクジェットプリンターによれば、常に、良好なインク吐出が可能であるため、吐出に関わるトラブルのない状態を維持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】インクジェットヘッドの構成を示す断面図。
【図2】プラズマ装置の構成を示す模式図。
【図3】ノズルプレートに対する成膜等の処理方法を示すフローチャート。
【図4】ノズルプレートに生成された膜の結合状態を示す模式図。
【図5】電位制御部と接地電極電位との関係を示すグラフ図。
【図6】インクジェットプリンターの構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のプラズマ装置、重合膜生成および表面改質の方法、ノズルプレート、インクジェットヘッド、インクジェットプリンターにおける、好適な一例について、添付図面を参照して説明する。
(実施形態)
【0024】
図1は、インクジェットヘッドの構成を示す断面図である。インクジェットヘッド10は、インクカートリッジ25が内蔵するインクをインクジェットヘッド10の内部へ導入するためのインク導入口12と、インク導入口12から導入したインクを溜めておくインク溜り14と、インク溜り14と連通しインクに圧力を付与してインク溜り14と異なる方向側へ送出する圧力室16と、インクジェットヘッド10を構成するノズルプレート(被処理物)20と、ノズルプレート20に設けられ圧力室16からのインクを吐出するためのノズル19と、を有している。
【0025】
また、圧力室16には、その壁面の一部に圧力を加えることが可能な振動板17と、振動板17の圧力室16と反対側に位置する励振電極18と、が設けられている。つまり、この場合圧電素子である、励振電極18に電圧を印加することにより、振動板17が振動して、圧力室16の内部圧が変化する。この内部圧の変化により、インクがノズル19から吐出することになる。
【0026】
ここで、ノズルプレート20は、ステンレス鋼で構成されており、インクジェットヘッド10では、SUS316を用いている。さらに、このノズルプレート20の表面およびノズル19の内部表面には、この場合シリコーン材料をプラズマ重合することにより、プラズマ重合膜(重合膜)2が成膜されている。また、プラズマ重合膜2の表面には撥液性を有する金属アルコキシドの分子膜(撥液膜)4が成膜されている。
【0027】
プラズマ重合膜2の原料としては、シリコーン油、アルコキシシラン、具体的には、ジメチルポリシロキサン等のシリコーン材料が挙げられる。
【0028】
金属アルコキシドの分子膜4は、撥液性としての撥水性および撥油性を有していればいかなるものでもよいが、フッ素を含む長鎖高分子基を有する金属アルコキシド、または撥液基を有する金属酸塩の単分子膜が好ましい。金属アルコキシドとしては、例えばTi、Li、Si、Na、K、Mg、Ca、St、Ba、Al、In、Ge、Bi、Fe、Cu、Y、Zr、Ta等を使用する様々なものがあるが、ケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム等が一般的に用いられている。長鎖高分子基は、分子量が1000以上であり、例えば、パーフルオロアルキル鎖、パーフルオポリエーテル鎖等が挙げられ、この長鎖高分子基を有し撥液膜として適するものに、ヘプタトリアコンタフルオロイコシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0029】
次に、ノズルプレート(被処理物)20の表面にプラズマ重合膜2を成膜する装置について説明する。図2は、プラズマ装置の構成を示す模式図である。プラズマ装置30は、内部を密閉空間にすることが可能なチャンバー31と、チャンバー31に接続されチャンバー31の内部の圧力を調整するためのポンプ32と、チャンバー31の内部に設けられた高周波電極(第1電極(放電電極))33と、高周波電極33へ電力を供給する高周波電源34と、高周波電極33と高周波電源34との間に設けられ回路のインピーダンスを調整する整合器(マッチングボックス)35と、チャンバー31の内部に設けられ高周波電極33と対向して位置する接地電極(第2電極(放電電極))36と、チャンバー31に接続しているアース37と、接地電極36に接続しているアース38と、を有している。プラズマ装置30の場合、接地電極36は、被処理物であるノズルプレート20を載置するためのステージであり、温度調整が可能に構成されている。
【0030】
さらに、プラズマ装置30は、接地電極36とアース38との間に、接地電極36の電位を調整するための電位制御部40と、チャンバー31へガス(この場合アルゴンガスおよび酸素ガス)を供給するためのガス供給管42およびガス供給部43と、チャンバー31へ成膜原料(この場合シリコーン材料)を供給するための原料供給管44および原料供給部45と、を有している。そして、ガス供給管42には、流量制御弁(不図示)が設けられ、ガス供給部43からのガス量を調整するようになっている。また、原料供給部45には、プラズマ重合膜2の原料であるシリコーン材料を気化させてチャンバー31へ供給するための、ヒーター(不図示)が設けられている。
【0031】
また、電位制御部40は、可変コイル40aと、可変コンデンサー40bと、を有する構成である。接地電極36とアース38との間に電位制御部40がなければ、接地電極36の電位はゼロであるが、プラズマ装置30のように電位制御部40が設けられていることにより、接地電極36の電位は、マイナス電位からプラス電位まで自在に調整可能となっている。電位制御部40については、図3を参照する各ステップの説明の最後に後述する。
【0032】
次に、このプラズマ装置30を用いて、ノズルプレート20の表面へ、シリコーン材料をプラズマ重合させたプラズマ重合膜2を生成する方法、およびプラズマ重合膜2の表面を改質する方法、について説明する。加えて、表面が改質されたプラズマ重合膜2へ、撥液性を有する分子膜4を生成する方法についても説明する。本実施形態では、プラズマ重合膜2の原料としてジメチルポリシロキサンを用い、分子膜4としてヘプタトリアコンタフルオロイコシルトリメトキシシランを用いた、一例について説明する。図3は、ノズルプレートに対する成膜等の処理方法を示すフローチャートである。また、図4は、ノズルプレートに生成された膜の結合状態を示す模式図である。
【0033】
図3に示すように、まず、ステップS1において、チャンバー31へノズルプレート20を載置する。このノズルプレート20は、その表面に生成されるプラズマ重合膜2との密着性等の向上を図るため、70℃の温度に保持され、プラズマ重合膜2が生成される面の表面粗さ(Ra)が65nm以下(望ましくは35nm以下)となっている。なお、ノズルプレート20は、電位制御部40と接続している接地電極36へ載置されるが、例えば導電性のパレットに載置された状態で、接地電極36へ載置されても良い。この場合、パレットは、接地電極36の一部を構成することになる。このステップS1は、載置ステップに該当する。ノズルプレート20の載置後、ステップS2へ進む。
【0034】
ステップS2において、チャンバー31の内部を減圧する。減圧は、ポンプ32によって行なわれる。
【0035】
そして、減圧後、ステップS3において、チャンバー31の内部へ洗浄ガスを導入する。洗浄ガスとしては、酸素(O2)を用い、酸素(O2)は、ガス供給部43からガス供給管42を介して、この場合100mL/minの流量で導入される。洗浄ガスの導入後、ステップS4へ進む。
【0036】
ステップS4において、高周波を印加してノズルプレート20の表面を洗浄する。まず、高周波電源34からこの場合500Wのパワーの電力を印加して、気体放電を発生させる。ここで、洗浄ガスとして酸素(O2)を用いることにより、気体放電によって酸素(O2)の励起活性種であるオゾンおよび活性酸素が生成され、いわゆる酸素プラズマ処理が可能となる。オゾンおよび活性酸素は、活性な状態であって、ノズルプレート20の表面に存する不純物である有機物等と反応しやすくなっている。つまり、ノズルプレート20の表面は、オゾンおよび活性酸素により、不純物が例えばH2OやCO2等に分解されて除去される。その結果、ノズルプレート20の表面は、プラズマ重合膜2に対して密着性の良好な状態になる。なお、チャンバー31の内部において、より安定した気体放電を維持するために、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、窒素(N)等の不活性ガスを混合して用いても良い。洗浄後、ステップS5へ進む。
【0037】
ステップS5において、高周波の印加および洗浄ガスの導入を停止する。即ち、ノズルプレート20の表面の洗浄が終了した時点で、高周波電源34およびガス供給部43を遮断して、酸素プラズマ処理を停止する。酸素プラズマ処理の停止後、ステップS6へ進む。
【0038】
ステップS6において、チャンバー31の内部を成膜ガスに置換する。置換は、チャンバー31の内部を減圧して洗浄ガスを排出した後に、ガス供給部43からガス供給管42を介して、成膜ガスをチャンバー31の内部へ導入する。成膜ガスとしては、アルゴン(Ar)ガスを用い、チャンバー31の内部を一定の圧力、この場合7Pa、に保持する。置換後、ステップS7へ進む。
【0039】
ステップS7において、高周波を印加してノズルプレート20の表面に重合膜を生成する。この時、接地電極36の温度を調整し、ノズルプレート20を、プラズマ重合膜2の生成が促進される温度である、40℃に保持する。そして、高周波電源34からこの場合100Wの電力を印加し、チャンバー31の内部にアルゴンプラズマを発生させる。この時、接地電極36の電位は、電位制御部40によりプラス電位になるように調整されている。また、原料供給部45からは、ヒーター等により加熱されて気化したシリコーン(ジメチルポリシロキサン)が、原料供給管44を通って、チャンバー31の内部へ供給される。これにより、気化状態のシリコーンは、アルゴンプラズマによって、結合の一部分が切断されて重合反応し、ノズルプレート20の表面にプラズマ重合膜2として生成される。プラズマ重合膜2の表面は、シリコーンを構成するメチル基(CH3−)で終端され、このメチル基は、シリコーン原子と結合している。
【0040】
そして、ノズルプレート20には、ノズル19(図1)が設けられているが、シリコーンをアルゴンプラズマによって重合することにより、ノズル19の内部にもプラズマ重合膜2が生成されることになる。プラズマ重合膜2の生成後、ステップS8へ進む。
【0041】
ステップS8において、高周波の印加および成膜ガスの導入を停止する。即ち、プラズマ重合膜2の生成が終了した時点で、高周波電源34、ガス供給部43および原料供給部45を遮断して、プラズマ重合膜2の生成を停止する。これらステップS6〜S8は、成膜処理ステップに該当する。なお、このようにして生成された重合膜にアニールを施すことにより、重合膜にて架橋反応が進んで硬度が増し、被処理物と重合膜との密着性をより強固にすることも可能である。アニールは、窒素雰囲気中において150℃以上450℃以下で行い、本実施形態のようなプラズマ重合膜2では、200℃が好ましい。成膜処理の停止後、ステップS9へ進む。
【0042】
ステップS9において、チャンバー31の内部を改質ガスに置換する。置換は、チャンバー31の内部を減圧して成膜ガスを排出した後に、ガス供給部43からガス供給管42を介して、改質ガスをチャンバー31の内部へ導入する。改質ガスとしては、アルゴン(Ar)、窒素(N)、酸素(O2)等を用いることができ、ここでは、アルゴン(Ar)を用いた。置換後、ステップS10へ進む。
【0043】
ステップS10において、高周波を印加して重合膜の表面を改質する。ここでいう改質とは、プラズマ重合膜2の表面を終端するメチル基とシリコーン原子との結合を切断して、このシリコーン原子に未結合手、いわゆるダングリングボンド、をもたせるために行われる。プラズマ重合膜2の表面を改質する処理では、例えばアルゴンプラズマを用いる場合、プラズマ重合膜2の表面を1分程度、このアルゴンプラズマに曝す。アルゴンプラズマに曝した後、ステップS11へ進む。
【0044】
ステップS11において、高周波の印加および改質ガスの導入を停止する。停止後、ステップS12へ進む。
【0045】
ステップS12において、チャンバー31を大気に開放する。つまり、表面を改質されたプラズマ重合膜2を大気に曝すことにより、プラズマ重合膜2が大気中のH2Oと反応し、シリコーン原子の未結合手の部位がシラノール基(Si−OH)となる。このとき、プラズマ重合膜2表面の水酸基(−OH)の数は、ノズルプレート20のみからなる表面の水酸基(−OH)の数よりも遥かに多くなっている。このようなプラズマ重合膜2は、図4に示す改質面部2aを有することになる。これらステップS9〜S12は、表面改質処理ステップに該当する。大気解放後、ステップS13へ進む。
【0046】
ステップS13において、分子膜4を生成する。まず、プラズマ重合膜2が成膜されたノズルプレート20を、200〜400℃の範囲に加熱した溶液に浸漬する。この溶液は、金属アルコキシド(ヘプタトリアコンタフルオロイコシルトリメトキシシラン)をシンナー等の溶媒と混合し、0.1wt%の濃度にした溶液である。これにより、ノズルプレート20の表面に、金属アルコキシドの重合した分子膜4を生成することができる。
【0047】
この分子膜4は、厚く且つ高密度であるため、耐擦性にすぐれた膜であり、図4に示すように、分子膜4のシリコーン原子4aは、酸素原子を介してプラズマ重合膜2と結合し、このシリコーン原子4aと結合しフッ素を含む長鎖高分子基の高分子4bが、プラズマ重合膜2と反対側に位置している。この分子膜4の状態は、シリコーン原子4aが三次元的に結合し、長鎖高分子基の高分子4b同士が複雑に絡み合った状態となっている。また、分子膜4は、プラズマ重合膜2の表面を終端する水酸基(−OH)と反応して結合するので、水酸基(−OH)の少ないノズルプレート20に直接分子膜4を生成する場合に比べて、より密度の高い分子膜4を得ることができる。従って、分子膜4は高密度な状態であり、インク等が浸透しにくい特性を有している。
【0048】
最後に、電位制御部40の作用について説明する。図5は、電位制御部40と接地電極36の電位との関係を示すグラフ図である。図5は、電位制御部40において、可変コイル40aのインダクタンスを1.6μHに固定し、可変コンデンサー40bの容量(μF)を変えた場合における、接地電極36の電位(V)を表している。プラズマ重合膜2を生成するステップS7およびプラズマ重合膜2の表面改質をするステップS10では、接地電極36の電位がプラスとなるように、可変コンデンサー40bの容量を調整し、プラス20Vとした。その根拠は、接地電極36の電位をマイナス、0Vおよびプラスにして、それぞれプラズマ重合膜2を生成した場合、接地電極36の電位をプラスにして生成したプラズマ重合膜2が、ノズルプレート20との密着性、インクの吐出性、インクに対する撥液性等、を維持して耐久性の高いことが確認できたことによる。より具体的には、ノズルプレート20に対しては、接地電極36の電位としてプラス20Vが適切と判断した。
【0049】
一般に、プラズマ装置30において、高効率な成膜を可能にするためには、接地電極36の側をマイナス電位にしてアルゴンプラズマにおいて、重合を促進させる作用の強いプラスイオンを接地電極36に載置されたノズルプレート20へ引きつけることが望ましい。しかし、プラスイオンは、引きつけられた際の衝突により、生成する重合膜へ与えるダメージが大きくなる場合があり、重合膜の品質が不安定になりやすい。同様に、表面改質においても、過度に改質が進んでしまったり、脆弱層の発生により、改質された表面の品質低下を生じやすくなる。
【0050】
これに対し、接地電極36の側に電位制御部40を設けて、接地電極36の電位を自在に調整できれば、マイナス電位を調整して重合膜へのダメージを抑制することが可能である。さらに、接地電極36をプラス電位にし、この接地電極36にノズルプレート20を載置すれば、電気的に中性なラジカルを、ノズルプレート20へ、主に作用させて成膜および表面改質を行うことが可能である。これにより、ノズルプレート20のプラズマ重合膜2に対する、プラスイオンの影響を回避することができる。このように、電位制御部40を備えるプラズマ装置30によって、ノズルプレート20に生成されたプラズマ重合膜2は、インクに対して良好な撥液性、耐久性等を有する高品質な膜である。同様に、プラズマ重合膜2の表面改質処理においても、高品質な改質面部2a(図4)を生成することができる。即ち、電位制御部40を備えたプラズマ装置30は、成膜処理および表面改質処理において、イオンダメージの抑制された高品質なプラズマ重合膜2の生成およびプラズマ重合膜2の表面改質を行うことができる。
【0051】
次に、ノズルプレート20を有するインクジェットヘッド10を備えた装置として、インクジェットプリンターの一例について説明する。図6は、インクジェットプリンターの構成を示す斜視図である。インクジェットプリンター50は、図6に示すように、インクカートリッジ25が着脱可能であり、インクジェットヘッド10を有するキャリッジ53を備えている。このインクジェットヘッド10は、プラズマ装置30(図2)により成膜処理および表面改質処理がなされ、撥液性を有するノズルプレート20を有している。この場合、インクカートリッジ25は、黒インクを収容したものと、複数色のインクを収容したものと、が設けられ、それぞれに対応してインクジェットヘッド10が設けられている。キャリッジ53は、装置本体54に取り付けられたキャリッジ軸55に、軸方向の移動が自在となるように設けられている。そして、キャリッジ53は、駆動モーター56の駆動力が複数の歯車(不図示)およびタイミングベルト57を介して伝達されることにより、キャリッジ軸55に沿って移動する。一方、装置本体54にはキャリッジ軸55に沿ってプラテン58が設けられており、給紙ローラー(不図示)などにより給紙された紙等の記録媒体である記録シート60がプラテン58上に搬送されるようになっている。インクジェットヘッド10は、プラテン58とインクジェットヘッド10との間に位置する記録シート60へ、インクを吐出する。プラズマ装置30で処理されたノズルプレート20を備えたインクジェットプリンター50は、ノズルプレート20のノズル19(図1)周辺等にインクの付着がなく、常に、安定したインク吐出を維持することができる。
【0052】
以上説明した実施形態におけるプラズマ装置30および重合膜生成および表面改質の方法の主要な効果としては、被処理物であるノズルプレート20が、高品質の撥液性および耐久性等を有するようになる、ことである。そのために、電位制御部40を備えたプラズマ装置30は、ノズルプレート20へプラズマ重合膜2の成膜処理や表面改質処理をするために、最適なプラズマを発生させることができる構成を備えている。つまり、プラズマ装置30は、可変コイル40aおよび可変コンデンサー40bを有する簡便な構成の電位制御部40を、アース38と接地電極36との間に備えていて、この電位制御部40の作用により、接地電極36の電位をマイナスまたはプラスのいずれの側へも自在に制御して、処理に最適なプラズマを発生することができる構成になっている。このノズルプレート20は、インクジェットヘッド10の構成部材としてインクジェットプリンター50に備えられ、安定したインク吐出を維持することができる。このように、プラズマ装置30を用いる重合膜生成および表面改質の方法は、ノズルプレート20へ最適な成膜処理および表面改質処理を行うことができる。
【0053】
また、プラズマ装置30および重合膜生成および表面改質の方法は、上記の実施形態に限定されるものではなく、次に挙げる変形例のような形態であっても、実施形態と同様な効果が得られる。
【0054】
(変形例1)プラズマ装置30の電位制御部40は、可変コイル40aおよび可変コンデンサー40bを有する構成であるが、この構成に限定されることなく、接地電極36の電位を制御できる構成であれば良い。
【0055】
(変形例2)被処理物であるノズルプレート20は、SUS316のステンレス鋼であるが、これに限定されることではない。ノズルプレート20の材質としては、金属材料をはじめ複合材料や樹脂系材料等であっても良い。即ち、プラズマ装置30は、被処理物として、広範な材料に適用できる。
【0056】
(変形例3)プラズマ装置30において、ノズルプレート20は、接地電極36へ載置されている構成であるが、被処理物は、重合膜の種類および特性に対応して、高周波電極33の側へ載置されても良い。
【0057】
(変形例4)プラズマ装置30による重合膜生成および表面改質の方法は、インクジェットプリンター50において、インクジェットヘッド10のノズルプレート20への重合膜生成および表面改質に限定されるものではなく、それ以外のインクジェットプリンター50のシステム構成部材であるヘッドキャップ、ヘッドクリーニング用ワイパ、ワイパの保持レバー、ギア、プラテン58またはキャリッジ53等へ適用しても良い。これにより、インクジェットプリンター50におけるインク付着等のトラブルを、より一層防止する効果が得られる。
【0058】
(変形例5)インクジェットプリンター50は、重合膜生成および表面改質されたノズルプレート20のノズル19からインクを吐出する構成であって、インク吐出は、圧力室16において、振動板17と励振電極18とによってなされる。このインク吐出は、圧力室内に設けた発熱素子によってインクを噴出させる形態であっても、本実施形態のノズルプレート20を適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
2…重合膜としてのプラズマ重合膜、2a…改質面部、4…撥液膜としての分子膜、4a…シリコーン原子、4b…高分子、10…インクジェットヘッド、20…ノズルプレート、25…インクカートリッジ、30…プラズマ装置、33…第1電極(放電電極)としての高周波電極、36…第2電極(放電電極)としての接地電極、40…電位制御部、40a…可変コイル、40b…可変コンデンサー、50…インクジェットプリンター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部の圧力およびガス雰囲気を調整可能なチャンバーと、
電力を供給する高周波電源と、
前記チャンバー内に設けられ、前記高周波電源に接続された第1電極およびアースに接続された第2電極を有し、前記第1電極または前記第2電極のいずれかに被処理物を載置可能な放電電極と、を備え、
前記アースと前記第2電極との間に電位制御部をさらに備えていること、を特徴とするプラズマ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマ装置において、
前記電位制御部は、可変コイルおよび可変コンデンサーを有すること、を特徴とするプラズマ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプラズマ装置において、
前記電位制御部は、
前記第2電極の電位を制御して、前記チャンバー内に載置された前記被処理物の表面に重合膜を生成する成膜処理と、
前記第2電極の電位を前記成膜処理の場合とは異なる制御をして、前記重合膜の表面を改質する表面改質処理と、をするための制御を少なくとも行なうこと、を特徴とするプラズマ装置。
【請求項4】
内部の圧力およびガス雰囲気を調整可能なチャンバーと、電力を供給する高周波電源と、前記チャンバー内に設けられ、前記高周波電源に接続された第1電極およびアースに接続された第2電極を有する放電電極と、前記アースと前記第2電極との間に設けられた電位制御部と、を備えたプラズマ装置を用い、前記プラズマ装置の前記第1電極または前記第2電極へ被処理物を載置する載置ステップと、
前記電位制御部により、前記第2電極の電位を制御して、前記チャンバー内に載置された前記被処理物の表面へ重合膜を生成する成膜処理ステップと、
前記電位制御部により、前記第2電極の電位を前記成膜処理ステップとは異なる制御をして、前記重合膜の表面を改質する表面改質処理ステップと、を有していること、を特徴とする重合膜生成および表面改質の方法。
【請求項5】
請求項4に記載の重合膜生成および表面改質の方法において、
前記成膜処理ステップおよび前記表面改質処理ステップでは、前記電位制御部が可変コイルおよび可変コンデンサーを有すること、を特徴とする重合膜生成および表面改質の方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の重合膜生成および表面改質の方法によって、重合膜の生成および前記重合膜の表面の改質がなされ、前記改質がなされた前記表面に撥液膜をさらに有していること、を特徴とするノズルプレート。
【請求項7】
請求項6に記載のノズルプレートを備えていること、を特徴とするインクジェットヘッド。
【請求項8】
請求項6に記載のノズルプレートを備えていること、を特徴とするインクジェットプリンター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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