プラズマ閉じ込め容器およびこれを備えたイオン源
【課題】
プラズマの閉じ込め効率が改善されたプラズマ閉じ込め容器を提供する。
【解決手段】
プラズマ閉じ込め容器4は、容器外壁の表面から離間する方向に沿って一対の極性を有するカスプ磁場生成用の複数の永久磁石12が互いに隙間を空けて容器外壁に沿って配置されたプラズマ閉じ込め容器4である。また、複数の永久磁石12の少なくとも一部は隣り合う永久磁石同士のプラズマ閉じ込め容器4側の極性が同極性となる永久磁石組であって、プラズマ閉じ込め容器4内には、永久磁石組を構成する各永久磁石の一部と永久磁石組間に形成された隙間に亘って、プラズマ閉じ込め容器4の壁面を介して対向配置された磁性体15が設けられている。
プラズマの閉じ込め効率が改善されたプラズマ閉じ込め容器を提供する。
【解決手段】
プラズマ閉じ込め容器4は、容器外壁の表面から離間する方向に沿って一対の極性を有するカスプ磁場生成用の複数の永久磁石12が互いに隙間を空けて容器外壁に沿って配置されたプラズマ閉じ込め容器4である。また、複数の永久磁石12の少なくとも一部は隣り合う永久磁石同士のプラズマ閉じ込め容器4側の極性が同極性となる永久磁石組であって、プラズマ閉じ込め容器4内には、永久磁石組を構成する各永久磁石の一部と永久磁石組間に形成された隙間に亘って、プラズマ閉じ込め容器4の壁面を介して対向配置された磁性体15が設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置で用いられ、外周にカスプ磁場生成用の複数の永久磁石を備えたプラズマ閉じ込め容器およびこれを備えたイオン源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置では、外周にカスプ磁場生成用の複数の永久磁石を備えたプラズマ閉じ込め容器が使用されている。
【0003】
具体例を挙げると、特許文献1の図2に開示されるように、プラズマ生成容器内にカスプ磁場を生成し、プラズマ生成容器の所定領域内に電子の閉じ込めを行って、プラズマ生成容器内に導入されたガスに電子を衝突させることで、プラズマを発生させ、そこからイオンビームを引き出す方式のイオン源がある。ここで用いられているプラズマ生成容器は、プラズマが内部で生成されるという観点からプラズマ生成容器と呼ばれているが、生成したプラズマを電子とともに所定領域内に閉じ込めておくという観点からはプラズマ閉じ込め容器と呼ばれている。
【0004】
この種のイオン源は、一般にバケット型イオン源と呼ばれており、プラズマ閉じ込め容器の周囲には、プラズマ閉じ込め容器内にカスプ磁場を発生させる為の複数の永久磁石が配置されている。具体的には、図13(a)、図13(b)に描かれるように、プラズマ閉じ込め容器の外壁表面から離間する方向に沿って一対の極性を有する複数の永久磁石がプラズマ閉じ込め容器の周囲に配置されている。
【0005】
これらの図において、プラズマ閉じ込め容器4から引出されるイオンビーム3の引出し方向をZ方向とし、Z方向に対して互いに直交する方向をX方向、Y方向としている。図13(a)と図13(b)に記載のプラズマ閉じ込め容器4と複数の永久磁石12は同一のものであるが、両図では描かれる視点が異なっている。図示されるように、プラズマ閉じ込め容器4の開口部17よりイオンビーム3が引き出される。実際には、イオンビーム3をプラズマ閉じ込め容器4から引出す際、引出し電極系と呼ばれる1枚以上の電極が必要となるが、ここでは図示の簡略化の為、その記載を省略している。また、プラズマ閉じ込め容器4のY方向と反対側に位置する面にも複数の永久磁石12が配置されているが、プラズマ閉じ込め容器4のY方向側に位置する面に配置される構成と同一である為、ここではその記載を省略している。
【0006】
プラズマ閉じ込め容器4の側面外周に配置された複数の永久磁石12は、プラズマ閉じ込め容器4より引き出されるイオンビーム3の引出し方向であるZ方向に垂直となる複数の平面(図中、破線で描かれる3つの平面。XY1平面、XY2平面、XY3平面)に配置されている。そして、各平面においてプラズマ閉じ込め容器4側の極性が全て同一極性であり、かつ、プラズマ閉じ込め容器4側の極性がイオンビーム3の引出し方向に沿って各平面で交互に異なるように配置されている。
【0007】
具体的には、XY1平面に配置された各永久磁石12のプラズマ閉じ込め容器4側の極性は、全てN極である。同様に、XY2平面ではS極、XY3平面ではN極である。そして、各永久磁石12のプラズマ閉じ込め容器4側の極性は、イオンビーム3の引出し方向に沿って、各平面(XY1平面、XY2平面、XY3平面)で交互に異なるように配置されている。
【0008】
図13(a)に図示されるように、イオンビーム3の引出し方向と直交するプラズマ閉じ込め容器4の後面には、環状の永久磁石12とその内側領域に棒状の永久磁石12とが配置されている。なお、ここではイオンビーム3が引き出される開口部17を備えたプラズマ閉じ込め容器4の面を前面と呼び、これと対向する面を後面と呼んでいる。また、前面と後面以外のプラズマ閉じ込め容器4の面を側面と呼んでいる。
【0009】
図13(a)、図13(b)に描かれる永久磁石配置にするには、理由がある。図14(a)には、図13(a)、図13(b)に記載のプラズマ閉じ込め容器4をXY1平面やXY3平面で切断したときの断面の様子が描かれている。一方、図14(b)には、各永久磁石12のプラズマ閉じ込め容器4側の極性を、プラズマ閉じ込め容器4の周囲に沿って、交互に異なるように配置したときのXY平面での断面の様子が描かれている。
【0010】
これらの図に記載の矢印はカスプ磁場を形成する磁力線を表し、図14(a)と図14(b)を比較するとわかるように、プラズマ閉じ込め容器4の内側領域に生成されるカスプ磁場の領域が、図14(a)に示す永久磁石配置に比べて、図14(b)に示す永久磁石配置の方が広くなる。電子の閉じ込め領域は、カスプ磁場の生成される領域よりも内側に形成される。そして、電子の閉じ込め領域内にプラズマが生成される。その為、カスプ磁場の生成領域が広いと、その分、プラズマの生成される領域が狭くなる。プラズマの生成される領域が狭くなると、十分な量のプラズマを生成することが難しくなるので、イオン源より引き出されるイオンビーム3のビーム量が少なくなる。また、図14(b)の構成では磁力線が局在化して、永久磁石間で均一なカスプ磁場が形成されない。図示されるプラズマ閉じ込め容器4の角部分から中央部に向かうにつれて磁場が急激に弱くなり、磁場分布が不均一となる。このような磁場の中で生成されるプラズマは一様なものになり難く、プラズマ閉じ込め容器4より引き出されるイオンビーム3のビーム電流分布にムラが生じる恐れがある。このような理由から、プラズマ閉じ込め容器4の側面における永久磁石配置としては、図14(a)に示されるような構成が採用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−115511号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、プラズマ閉じ込め容器4の側面における永久磁石配置を図14(a)のようにすると、各永久磁石12のプラズマ閉じ込め容器4側の極性が同じである為、隣り合う永久磁石12間で発生する磁力線同士が反発してしまい、図14(a)中に矢印で図示されるR部分(矩形状のプラズマ閉じ込め容器4の角部分)で磁力線が永久磁石12以外の場所に入る領域が形成されてしまう。
【0013】
図14(a)に記載の永久磁石配置の場合、R部分に電子やプラズマが向かうと、磁力線に沿ってプラズマ閉じ込め容器4の壁面に逃げてしまう。その場合、電子やプラズマはプラズマ閉じ込め容器4の壁面に衝突して、消滅してしまうので、プラズマの閉じ込め効率が悪くなってしまう。
【0014】
そこで、本発明では、プラズマの閉じ込め効率が改善されたプラズマ閉じ込め容器を提供することを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るプラズマ閉じ込め容器は、容器外壁の表面から離間する方向に沿って一対の極性を有するカスプ磁場生成用の複数の永久磁石が互いに隙間を空けて容器外壁に沿って配置されたプラズマ閉じ込め容器であって、前記永久磁石の少なくとも一部は隣り合う永久磁石同士の前記プラズマ閉じ込め容器側の極性が同極性となる永久磁石組であり、前記プラズマ閉じ込め容器内には、前記永久磁石組を構成する各永久磁石の一部と前記永久磁石組間に形成された隙間に亘って、前記プラズマ閉じ込め容器の壁面を介して対向配置された磁性体が設けられていることを特徴としている。
【0016】
このような構成を用いることで、プラズマ閉じ込め容器内部に設けられた磁性体があたかも磁石のような役割をする。その結果、電子やプラズマの逃げを抑制することができ、プラズマの閉じ込め効率を改善することができる。
【0017】
また、前記磁性体の少なくとも一部は、前記プラズマ閉じ込め容器の内壁に当接していることが望ましい。
【0018】
磁性体の一部がプラズマ閉じ込め容器の内壁に当接していると、永久磁石の磁力により磁性体をプラズマ閉じ込め容器の壁面に固定させることが容易になる。また、永久磁石の磁力が弱く、磁性体のプラズマ閉じ込め容器への固定が不十分であっても、磁性体の一部がプラズマ閉じ込め容器に当接しているので、ボルト等を用いて磁性体をプラズマ閉じ込め容器に簡単に取り付けることができる。さらに、プラズマ閉じ込め容器が冷却機構を備えている場合、磁性体の一部がプラズマ閉じ込め容器に当接していると、当接部を介して磁性体を冷却させることができる。その結果、磁性体の熱変形を抑制することができるとともに、磁性体が強磁性体である場合には強磁性の性質を保持させることができる。
【0019】
さらに、本発明に係るイオン源の構成としては、上記したプラズマ閉じ込め容器を備えたイオン源であって、前記プラズマ閉じ込め容器に形成されたイオンビーム引き出し用開口部と、前記プラズマ閉じ込め容器内に配置された少なくとも1つのフィラメントと、前記イオンビーム引き出し用開口部に対向配置され、前記プラズマ閉じ込め容器よりイオンビームを引き出す少なくとも1つの電極を有しているとともに、前記プラズマ閉じ込め容器の外壁に沿って配置された前記永久磁石は、前記プラズマ閉じ込め容器より引き出される前記イオンビームの引出し方向に略垂直となる複数の平面に配置され、各平面において前記プラズマ閉じ込め容器側の極性が全て同一極性であり、かつ、前記プラズマ閉じ込め容器側の極性が前記イオンビームの引出し方向に沿って各平面で交互に異なるように前記プラズマ閉じ込め容器の側面に配置されていて、前記磁性体は各平面において隣り合う前記永久磁石の端部と当該永久磁石間に形成された隙間に亘って、前記プラズマ閉じ込め容器の壁面を介して前記プラズマ閉じ込め容器の内側領域で対向配置されていることを特徴としている。
【0020】
プラズマ閉じ込め容器内でのプラズマの閉じ込め効率が改善され、密度の濃いプラズマを容易に生成することができる。その結果、従来のイオン源に比べて、プラズマ閉じ込め容器からのイオンビームの引出し効率を格段に向上させることができる。
【0021】
また、前記イオンビームの引出し方向に沿って各平面に配置された前記磁性体の間には、当該磁性体と連結される非磁性体が配置されていることが望ましい。
【0022】
複数の平面に配置された個々の磁性体を非磁性体で連結させることで、プラズマ閉じ込め容器への磁性体の取り付けや位置調整を簡単に行うことができる。
【0023】
また、前記非磁性体の少なくとも一部は、前記プラズマ閉じ込め容器の内壁に当接していることが望ましい。
【0024】
非磁性体の構成をこのようなものにすることで、ボルト等を用いて非磁性体をプラズマ閉じ込め容器に簡単に取り付けることができる。また、プラズマ閉じ込め容器が冷却機構を備えている場合には、当接部を介して非磁性体を冷却して、非磁性体の熱変形を抑制することができる。
【0025】
そのうえ、前記イオン源は前記磁性体と前記非磁性体からなる防着板支持部材を備えているとともに、前記防着板支持部材の端部は前記プラズマ閉じ込め容器の内壁から離間して、前記イオンビームの引出し方向において前記プラズマ閉じ込め容器の内壁との間に防着板支持用の空間が形成されていることが望ましい。
【0026】
このような構成を用いると、防着板支持用の隙間に防着板をスライドさせることで、防着板をプラズマ閉じ込め容器に取り付けができるので、防着板の取り付け作業が容易になる。また、防着板の端部が防着板支持部材とプラズマ閉じ込め容器との間に形成された隙間に支持されているので、防着板を固定する為のボルトの本数を少なくすることができる。
【0027】
防着板支持部材のより具体的な構成としては、前記イオンビームの引出し方向に略垂直な平面において、前記防着板支持部材は、少なくともその一部が前記プラズマ閉じ込め容器の内壁に当接する肉厚の本体部と前記本体部から延設された肉薄の端部とから構成されていることが望ましい。
【0028】
このような構成であれば、肉厚の本体部を有している分、防着板支持部材の強度を十分に強いものにすることができる。
【発明の効果】
【0029】
プラズマ閉じ込め容器外周に沿って隙間を空けて配置され、プラズマ閉じ込め容器側の極性が同極性である永久磁石組に対して、プラズマ閉じ込め容器の壁面を介して対向配置するように磁性体が設けられているので、プラズマ閉じ込め容器内部に設けられた磁性体があたかも磁石のような役割をする。その結果、電子やプラズマの逃げを抑制することができ、プラズマの閉じ込め効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るプラズマ閉じ込め容器を備えたイオン源の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1に記載のプラズマ閉じ込め容器の断面図で、(a)はXY1平面での断面図を表し、(b)はXY2平面での断面図を表し、(c)はXY3平面での断面図を表す。
【図3】図1に記載のプラズマ閉じ込め容器内に配置された磁性体の様子を表す斜視図であり、(a)はZ方向において永久磁石よりも幅の広い磁性体が配置された例で、(b)はZ方向において永久磁石よりも幅の広い磁性体が配置された例を表す。
【図4】本発明に係るプラズマ閉じ込め容器での永久磁石配置の変形例を示す断面図であり、(a)はY方向に沿って、プラズマ閉じ込め容器の側面に複数の永久磁石が配置された例で、(b)はX方向とY方向に沿って、プラズマ閉じ込め容器の側面に複数の永久磁石が配置された例である。
【図5】本発明に係るイオン源のプラズマ閉じ込め容器内に磁性体と非磁性体が配置される例を表す斜視図であり、(a)は図3(a)の構成に非磁性体を追加した構成を表し、(b)は図3(b)の構成に非磁性体を追加した構成を表し、(c)は非磁性体の内側領域に磁性体が配置される例を表す。
【図6】図5(a)、図5(b)に記載の磁性体と非磁性体からなる構造物であり、(a)は構造物全体を表す斜視図で、(b)は構造物を構成する磁性体と非磁性体とを分解した時の様子を表す。
【図7】図4(a)、図4(b)のプラズマ閉じ込め容器の平坦な部分に設けられた磁性体と非磁性体からなる構造物であり、(a)は構造物全体を表す斜視図で、(b)は構造物を構成する磁性体と非磁性体とを分解した時の様子を表す斜視図である。
【図8】プラズマ閉じ込め容器に防着板が取り付けられた様子を表す断面図である。
【図9】プラズマ閉じ込め容器の角部分に設けられた防着板支持部材であり、(a)は防着板支持部材の全体を表す斜視図であり、(b)は防着板支持部材を構成する磁性体と非磁性体を分解した時の様子を表す。
【図10】図4(a)に示す構成に防着板が取り付けられた時の様子を表す断面図である。
【図11】プラズマ閉じ込め容器の平坦な側面に取り付けられた図10に記載の防着板支持部材であり、(a)は防着板支持部材の全体を表す斜視図であり、(b)は防着板支持部材を構成する磁性体と非磁性体を分解した時の様子を表す。
【図12】防着板支持部材のその他の変形例を表す斜視図である。
【図13】プラズマ閉じ込め容器に取り付けられた永久磁石の配置を表す斜視図である。(a)は紙面斜め奥方向にZ方向を向けた時の様子を表し、(b)は紙面斜め手前方向にZ方向を向けた時の様子を表す。
【図14】プラズマ閉じ込め容器の内側領域に生成されるカスプ磁場の様子を表し、(a)は図13(a)、図13(b)に記載のXY1平面あるいはXY3平面でプラズマ閉じ込め容器を切断した際の断面図を表し、(b)各永久磁石のプラズマ閉じ込め容器側の極性を、プラズマ閉じ込め容器の周囲に沿って、交互に異なるように配置したときのXY平面での断面の様子を表す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1には本発明に係るプラズマ閉じ込め容器4を備えたイオン源1の一実施形態を示す断面図が記載されている。このイオン源1はいわゆるバケット型イオン源と呼ばれるタイプのイオン源の一種であり、プラズマ閉じ込め容器4の外周に設けられた永久磁石配置は、図13(a)、図13(b)に示される構成と同一である。なお、ここでは図示されるX方向におけるプラズマ閉じ込め容器4の中央部でZ方向に沿ってイオン源1を切断したときの断面の様子が描かれており、図示されるX、Y、Z軸の方向は、図13(a)、図13(b)に示される方向と同一である。また、以降の説明で述べられるプラズマ閉じ込め容器4の側面、前面、後面の定義も図13(a)、図13(b)を用いて説明したものと同一である。
【0032】
このイオン源1は長方形状のプラズマ閉じ込め容器4を備えており、プラズマ閉じ込め容器4より略リボン状のイオンビーム3が引き出される。
【0033】
プラズマ閉じ込め容器4には図示されないバルブを介してガス源2が取り付けられており、このガス源2よりイオンビーム3の原料となるガスの供給がなされる。なお、このガス源2には図示されないガス流量調節器(マスフローコントローラー)が接続されており、これによってガス源2からプラズマ閉じ込め容器4内部へのガスの供給量が調整されている。
【0034】
プラズマ閉じ込め容器4の後面には、Y方向に沿って複数のU字型のフィラメント10が取り付けられている。これらのフィラメント10は、フィラメント10の端子間に接続される電源VFを用いて、各フィラメント10に流す電流量の調整が行えるように構成されている。このような構成にしておくことで、イオン源1より引き出されるイオンビーム3の電流密度分布調整が可能となる。
【0035】
フィラメント10に電流を流して、フィラメント10を加熱させることによって、そこから電子が放出される。この電子が、プラズマ閉じ込め容器4の内部に供給されたガス(PH3やBF3等)に衝突してガスの電離を引き起こし、プラズマ閉じ込め容器4内にプラズマ9が生成される。
【0036】
このイオン源1には、プラズマ閉じ込め容器4の周囲に複数の永久磁石12が取り付けられている。この永久磁石12によって、プラズマ閉じ込め容器4の内部領域にカスプ磁場が形成され、フィラメント10より放出された電子や容器内で発生されたプラズマ9が所定領域内に閉じ込められる。なお、複数の永久磁石12は、図示されないホルダーに数個ずつ収納された状態で、プラズマ閉じ込め容器4に取り付けられている。
【0037】
イオン源1は引出し電極系として4枚の電極を有しており、プラズマ閉じ込め容器4からイオンビーム3の引出し方向(図示されるZ方向)に沿って加速電極5、引出電極6、抑制電極7、接地電極8の順に配置されている。各電極とプラズマ閉じ込め容器4の電位は、複数の電源(V1〜V4)によって、それぞれ異なる値に設定されていて、各電極は絶縁フランジ11に電気的に独立して取り付けられている。
【0038】
引出し電極系として用いられる各電極には、例えばX方向に長い複数のスリット状開口部22が設けられており、これらのスリット状開口部22を通して、イオンビーム3の引出しが行われる。ただし、電極はここで述べたスリット状の開口部を有するものに限らず、円形状の複数の開口部を有する円孔電極であっても良い。また、引出し電極系として4枚の電極を有する構成のイオン源1が記載されているが、これに限らず、電極の枚数は少なくとも1枚以上あれば良い。また、フィラメント10の本数も複数本ではなく、1本であっても構わない。
【0039】
この図1に示されるように、イオン源1には、プラズマ閉じ込め容器4の内側に磁性体13が配置されている。この磁性体13は、例えば、フェライト系ステンレスを用いる。この構成について、以下に説明する。
【0040】
図2には、図1に記載のXY1平面、XY2平面、XY3平面において、プラズマ閉じ込め容器4を切断したときの断面の様子が記載されている。より詳細には、図2(a)がXY1平面における断面に対応し、図2(b)がXY2平面における断面に対応している。そして、図2(c)がXY3平面における断面に対応している。
【0041】
各断面の様子を参照すると理解できるように、各平面に配置された磁性体13は、各平面内において隣り合う永久磁石12の端部とそれらの間に形成された隙間16に亘って、プラズマ閉じ込め容器4の壁面を介してプラズマ閉じ込め容器4の内側領域に対向配置されている。このようにして、磁性体13を配置しておくと、永久磁石12によって磁性体13が磁化されて、隣り合う永久磁石12の間で発生していた磁力線の反発をなくすことができる。なお、この磁性体13は永久磁石12によってプラズマ閉じ込め容器4の内壁に吸着支持されているが、この吸着力が弱い場合には、図示されないボルトを用いてプラズマ閉じ込め容器4の内壁に固定しても良い。また、本発明で言う隣り合う永久磁石12とは、プラズマ閉じ込め容器4の外壁に沿って隣り合って配置された永久磁石を意味する。
【0042】
図3(a)、図3(b)には、各平面において、磁性体13が隣り合う永久磁石12の間に配置されている様子を表す斜視図が描かれている。この図において、両者の位置関係をより分かり易くする為に、プラズマ閉じ込め容器4の記載は省略されている。また、各平面において、図示されていない場所にも複数の永久磁石12が配置されているが、図13(a)、図13(b)に示された構成と同様である為、これらの構成についての図示は省略されている。
【0043】
図3(a)と図3(b)では、イオンビーム3の引出し方向であるZ方向における磁性体13の幅が異なっている。図3(a)に示されるように、Z方向において、永久磁石12の幅よりも磁性体13の幅を大きくしておくと、隣り合う永久磁石12からの磁力線をより確実に磁性体13に向かわせることができる。また、磁性体13の厚さは、一例を挙げると2mm以上のものが使用される。
【0044】
一方、図3(b)に示すように、Z方向において、永久磁石12の幅よりも磁性体13の幅を小さくしておくと、磁性体13の大きさが小さくなる分、材料費を安くすることができる。
【0045】
図2に示す構成では、永久磁石12が矩形状のプラズマ閉じ込め容器4の角部分(図中、隙間16の部分)を除く場所に配置されていたが、このような永久磁石配置以外に、図4(a)や図4(b)に示される配置であっても良い。図4(a)の場合、プラズマ閉じ込め容器4のX方向に位置する側面にも隣り合う永久磁石12間に形成される隙間16が存在している。また、図4(b)では、図4(a)の構成に加えて、Y方向に位置するプラズマ閉じ込め容器4の側面にもこの隙間16が存在している。
【0046】
図4(a)や図4(b)に示される構成においても、図2の構成と同様に、各平面において、隣り合う永久磁石12の端部とこれらの永久磁石12間に形成された隙間16に亘って、プラズマ閉じ込め容器4の壁面を介して、プラズマ閉じ込め容器4の内部領域で対向配置されるように磁性体13が設けられている。なお、図4(a)と図4(b)には図1のXY1平面もしくはXY3平面での永久磁石配置の例が示されているが、XY2平面でも永久磁石12のプラズマ閉じ込め容器4側に配置される極性がS極となることを除いては、同じ構成が用いられる。
【0047】
これまでの実施形態では、磁性体13をプラズマ閉じ込め容器4に1つずつ取り付ける構成について説明してきたが、複数の磁性体13を個々に取り付けると、取り付け作業の効率が悪い。その為、これらをまとめて取り付ける構成について以下に説明する。
【0048】
図5には、図3と同様に、各平面において、磁性体13が隣り合う永久磁石12と磁石間に形成された隙間に亘って対向配置されている様子を表す斜視図が描かれている。ここでは、磁性体13の他に非磁性体14(例えば、オーステナイト系ステンレスやモリブデン等)が設けられていて、複数の磁性体13と非磁性体14とが1つの部材として、プラズマ閉じ込め容器4の内側領域に取り付けられている。
【0049】
具体的に、図5(a)には、図3(a)で述べたイオンビーム3の引出し方向に幅の広い複数の磁性体13の間に非磁性体14が配置された例が描かれており、図5(b)には、図3(b)で述べたイオンビーム3の引出し方向に幅の狭い複数の磁性体13の間に非磁性体14が配置された例が描かれている。これらの図には、イオンビーム3の引出し方向に沿って、非磁性体14と磁性体13とが交互に配置されている例が図示されているが、磁性体13と非磁性体14からなる構造物の構成は、これに限られない。例えば、図5(c)に描かれているように、大きな非磁性体14の内側領域に複数の磁性体13が配置されるような構成であっても良い。
【0050】
磁性体13と非磁性体14からなる構造物は、例えば、次のようにして組み立てられる。図6(a)には、図5(a)および図5(b)で挙げた磁性体13と非磁性体14からなる構造物の斜視図が記載されており、図6(b)には磁性体13と非磁性体14を分解した時の様子が描かれている。
【0051】
図6(b)に描かれているように、非磁性体14に形成された穴18に磁性体13の側面に立設されたピン19が挿入されることで、両部材の組み立てが行われる。図6(b)に描かれる非磁性体14の両側面には、それぞれ穴18が形成されているが、構造物の端部に設けられた非磁性体14において、磁性体13が配置されない側の側面には穴18は形成されていない。なお、図5(c)の構成の場合、例えば、非磁性体14に磁性体13を嵌合させる為の穴を設けておき、嵌め込みにより、各部材の組み立てを行うようにしておくことが考えられる。
【0052】
また、非磁性体14は各磁性体13の間に配置されていれば良く、図6(a)に示される磁性体13と非磁性体14からなる構造物で、両端に位置する非磁性体14は必ずしも配置しておく必要はない。このような非磁性体14がなくとも、構造物として1つの部材にまとめることができる。このような磁性体13と非磁性体14からなる一体の構造物を用いることで、プラズマ閉じ込め容器4への複数の磁性体13の取り付け作業が簡単になる。なお、この磁性体13と非磁性体14からなる構造物は磁性体13の部分が永久磁石12によって吸着されることによってプラズマ閉じ込め容器4の内壁に支持されるが、この吸着力が弱い場合には、図示されないボルトを用いてプラズマ閉じ込め容器4の内壁に固定するようにしても良い。
【0053】
図4(a)、図4(b)に示した永久磁石配置の場合、X方向やY方向に沿って延びたプラズマ閉じ込め容器4の側面に複数の永久磁石12が配置されている。この場合、磁性体13はプラズマ閉じ込め容器4の角部分だけでなく、平坦な部分にも配置されている。この平坦な部分に配置される磁性体13も角部分に配置される磁性体13と同様に、図7(a)に描かれているような非磁性体14と組み合わされた1つの構造物としてプラズマ閉じ込め容器4に取り付けられるように構成しておくことが考えられる。また、磁性体13と非磁性体14との組み立ては、先の例と同じく、図7(b)に描かれているように、磁性体13にピン19を設けておき、これを非磁性体14の穴18に挿入することで行われる。
【0054】
イオン源には、プラズマ閉じ込め容器4の内壁の腐食防止やプラズマ閉じ込め容器4内の洗浄を効率的に行う為に、プラズマ閉じ込め容器4の内壁に沿って着脱可能な防着板20が設けられている場合がある。この防着板20を取り付ける際、磁性体13と非磁性体14からなる構造物を利用することが考えられる。
【0055】
具体的には、図8に示されているように、プラズマ閉じ込め容器4の内側領域には、磁性体13と非磁性体14からなる防着板支持部材15が複数配置されている。各防着板支持部材15は、プラズマ閉じ込め容器4の内壁に沿って、互いの端部同士が対向しており、これらの端部とプラズマ閉じ込め容器4の内壁との間には、防着板支持用の空間21が形成されている。この空間21に対して、例えばZ方向反対側に向けて、防着板20が挿入される。このようにして防着板20を取り付けると、防着板20の取り付け作業が簡単に済む。また、防着板20のプラズマ閉じ込め容器4への取り付けに際しては、図示されないボルトが使用されるが、防着板支持部材15により防着板20の端部が支持されていることから、防着板20を固定するボルトの本数を、通常よりも少なくすることができる。
【0056】
図8に記載の防着板支持部材15は、図9(a)に描かれているように、肉厚の本体部23と、本体部23より延設された肉薄の端部24から構成されている。また、磁性体13と非磁性体14との組み立てについては、これまでの例と同じく、図9(b)に描かれているように磁性体13に設けられたピン19が非磁性体14に形成された穴18に挿入されることで行われる。
【0057】
図4(a)や図4(b)に描かれた構成に、磁性体13と非磁性体14からなる構造物が取り付けられる場合も、図8で示した例のように、この構造物を防着板支持部材15として利用することができる。図10にはその例が示されている。各部の構成は、図8をもとに説明した内容と同じである為、その詳細な説明については省略するが、図10に示す例ではY方向に沿ったプラズマ閉じ込め容器4の平坦な側面にも防着板支持部材15が設けられている。この防着板支持部材15の具体的な構成は、図11(a)に描かれている。 図9(a)に記載の例と形状がやや異なるが、肉厚の本体部23と本体部23より延設された薄肉の端部24とで構成されている。そして、磁性体13と非磁性体14との組み立ては、図10(b)に描かれているように、磁性体13に設けられたピン19が非磁性体14に形成された穴18に挿入されることで行われる。
【0058】
<その他変形例>
防着板支持部材15は、図9や図11に挙げた構成以外に、図12(a)〜(d)に描かれる構成であっても良い。図12(b)と図12(c)に示される構成は、形状が異なるものの、これまでの例と同じく、肉厚の本体部と当該本体部より延設された肉薄の端部を有している。図12(a)と図12(d)に示される構成は、これまでの構成に比べるとやや部材強度が劣るが、プラズマ閉じ込め容器4の形状に応じて、このような防着板支持部材15を用いても構わない。
【0059】
また、プラズマ閉じ込め容器4の形状は立方体に限らずに、円柱や多角形であっても良い。その場合でも図13(a)、図13(b)に示された永久磁石配置と同様に、イオンビーム3の引出し方向に垂直な複数の平面で、プラズマ閉じ込め容器4を切断したときに、各平面に配置される永久磁石12の極性がプラズマ閉じ込め容器4側で同じであるとともに、イオンビーム3の引出し方向に沿って、各平面に配置された永久磁石12のプラズマ閉じ込め容器4側の極性が交互に異なるように配置しておく。その上で、各平面において、隣り合う永久磁石12の端部とこれらの磁石間に形成される隙間16に亘って、プラズマ閉じ込め容器4を介してプラズマ閉じ込め容器4の内部領域に対向配置されるように磁性体13を配置しておけば、本発明と同じ効果を奏することが可能となる。
【0060】
さらに、先の実施形態で説明した磁性体13、磁性体13と非磁性体14からなる構造物や防着板支持部材15は、その一部がプラズマ閉じ込め容器4の内壁に当接させておくことが望ましい。そのようにしておくと、各部材をプラズマ閉じ込め容器4にボルトで固定することが容易になる。また、プラズマ閉じ込め容器4が冷媒により冷却されている場合、プラズマ閉じ込め容器4の壁面を介して、磁性体13等を冷却させることができるので、部材の熱変形を抑制することや磁性体13が強磁性体である場合には高温になることで強磁性の性質が失われることを防止することが期待できる。
【0061】
また、これまでに説明した実施形態では、イオンビーム3の引出し方向に垂直となる複数の平面に永久磁石12が配置される例を示したが、本発明はこれに限られない。例えば、イオンビーム3の引出し方向は、引出し電極系を構成する電極に印加される電圧によっては、若干のズレが生じる場合がある。その場合、イオンビーム3の引出し方向に対して、垂直な平面ではなく、若干、ズレた平面に配置されることになる。このようなものであっても、本発明と同等の構成を用いれば、当然ながら同様の効果を奏することが出来る。その為、本発明にはイオンビーム3の引出し方向と略垂直となる複数の平面に複数の永久磁石が配置される構成(両者の位置関係がほぼ垂直な位置関係となるもので、具体的には、イオンビームの引出し方向とプラズマ閉じ込め容器側面に配置される永久磁石を含む平面との位置関係が、数度、垂直からズレたもの)であっても適用される。
【0062】
これまでの実施形態では、イオン源1で使用されるプラズマ閉じ込め容器4の例について述べたが、本発明のプラズマ閉じ込め容器4はこれに限られない。例えば、その他の例としては、プラズマCVDで用いられるプラズマ処理室やイオン注入装置で用いられるプラズマフラッドガンのプラズマ生成室として利用することができる。このようなものであってもカスプ磁場生成用の永久磁石を備えたものであって、容器の所定領域内にプラズマを閉じ込めるプラズマ閉じ込め容器であれば、本発明の構成を適用することでプラズマの閉じ込めを効果的に行うことが可能となる。
【0063】
前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行っても良いのはもちろんである。
【符号の説明】
【0064】
1・・・イオン源
4・・・プラズマ閉じ込め容器
10・・・フィラメント
12・・・永久磁石
13・・・磁性体
14・・・非磁性体
15・・・防着板支持部材
16・・・隙間
17・・・開口部
20・・・防着板
21・・・空間
23・・・本体部
24・・・端部
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置で用いられ、外周にカスプ磁場生成用の複数の永久磁石を備えたプラズマ閉じ込め容器およびこれを備えたイオン源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置では、外周にカスプ磁場生成用の複数の永久磁石を備えたプラズマ閉じ込め容器が使用されている。
【0003】
具体例を挙げると、特許文献1の図2に開示されるように、プラズマ生成容器内にカスプ磁場を生成し、プラズマ生成容器の所定領域内に電子の閉じ込めを行って、プラズマ生成容器内に導入されたガスに電子を衝突させることで、プラズマを発生させ、そこからイオンビームを引き出す方式のイオン源がある。ここで用いられているプラズマ生成容器は、プラズマが内部で生成されるという観点からプラズマ生成容器と呼ばれているが、生成したプラズマを電子とともに所定領域内に閉じ込めておくという観点からはプラズマ閉じ込め容器と呼ばれている。
【0004】
この種のイオン源は、一般にバケット型イオン源と呼ばれており、プラズマ閉じ込め容器の周囲には、プラズマ閉じ込め容器内にカスプ磁場を発生させる為の複数の永久磁石が配置されている。具体的には、図13(a)、図13(b)に描かれるように、プラズマ閉じ込め容器の外壁表面から離間する方向に沿って一対の極性を有する複数の永久磁石がプラズマ閉じ込め容器の周囲に配置されている。
【0005】
これらの図において、プラズマ閉じ込め容器4から引出されるイオンビーム3の引出し方向をZ方向とし、Z方向に対して互いに直交する方向をX方向、Y方向としている。図13(a)と図13(b)に記載のプラズマ閉じ込め容器4と複数の永久磁石12は同一のものであるが、両図では描かれる視点が異なっている。図示されるように、プラズマ閉じ込め容器4の開口部17よりイオンビーム3が引き出される。実際には、イオンビーム3をプラズマ閉じ込め容器4から引出す際、引出し電極系と呼ばれる1枚以上の電極が必要となるが、ここでは図示の簡略化の為、その記載を省略している。また、プラズマ閉じ込め容器4のY方向と反対側に位置する面にも複数の永久磁石12が配置されているが、プラズマ閉じ込め容器4のY方向側に位置する面に配置される構成と同一である為、ここではその記載を省略している。
【0006】
プラズマ閉じ込め容器4の側面外周に配置された複数の永久磁石12は、プラズマ閉じ込め容器4より引き出されるイオンビーム3の引出し方向であるZ方向に垂直となる複数の平面(図中、破線で描かれる3つの平面。XY1平面、XY2平面、XY3平面)に配置されている。そして、各平面においてプラズマ閉じ込め容器4側の極性が全て同一極性であり、かつ、プラズマ閉じ込め容器4側の極性がイオンビーム3の引出し方向に沿って各平面で交互に異なるように配置されている。
【0007】
具体的には、XY1平面に配置された各永久磁石12のプラズマ閉じ込め容器4側の極性は、全てN極である。同様に、XY2平面ではS極、XY3平面ではN極である。そして、各永久磁石12のプラズマ閉じ込め容器4側の極性は、イオンビーム3の引出し方向に沿って、各平面(XY1平面、XY2平面、XY3平面)で交互に異なるように配置されている。
【0008】
図13(a)に図示されるように、イオンビーム3の引出し方向と直交するプラズマ閉じ込め容器4の後面には、環状の永久磁石12とその内側領域に棒状の永久磁石12とが配置されている。なお、ここではイオンビーム3が引き出される開口部17を備えたプラズマ閉じ込め容器4の面を前面と呼び、これと対向する面を後面と呼んでいる。また、前面と後面以外のプラズマ閉じ込め容器4の面を側面と呼んでいる。
【0009】
図13(a)、図13(b)に描かれる永久磁石配置にするには、理由がある。図14(a)には、図13(a)、図13(b)に記載のプラズマ閉じ込め容器4をXY1平面やXY3平面で切断したときの断面の様子が描かれている。一方、図14(b)には、各永久磁石12のプラズマ閉じ込め容器4側の極性を、プラズマ閉じ込め容器4の周囲に沿って、交互に異なるように配置したときのXY平面での断面の様子が描かれている。
【0010】
これらの図に記載の矢印はカスプ磁場を形成する磁力線を表し、図14(a)と図14(b)を比較するとわかるように、プラズマ閉じ込め容器4の内側領域に生成されるカスプ磁場の領域が、図14(a)に示す永久磁石配置に比べて、図14(b)に示す永久磁石配置の方が広くなる。電子の閉じ込め領域は、カスプ磁場の生成される領域よりも内側に形成される。そして、電子の閉じ込め領域内にプラズマが生成される。その為、カスプ磁場の生成領域が広いと、その分、プラズマの生成される領域が狭くなる。プラズマの生成される領域が狭くなると、十分な量のプラズマを生成することが難しくなるので、イオン源より引き出されるイオンビーム3のビーム量が少なくなる。また、図14(b)の構成では磁力線が局在化して、永久磁石間で均一なカスプ磁場が形成されない。図示されるプラズマ閉じ込め容器4の角部分から中央部に向かうにつれて磁場が急激に弱くなり、磁場分布が不均一となる。このような磁場の中で生成されるプラズマは一様なものになり難く、プラズマ閉じ込め容器4より引き出されるイオンビーム3のビーム電流分布にムラが生じる恐れがある。このような理由から、プラズマ閉じ込め容器4の側面における永久磁石配置としては、図14(a)に示されるような構成が採用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−115511号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、プラズマ閉じ込め容器4の側面における永久磁石配置を図14(a)のようにすると、各永久磁石12のプラズマ閉じ込め容器4側の極性が同じである為、隣り合う永久磁石12間で発生する磁力線同士が反発してしまい、図14(a)中に矢印で図示されるR部分(矩形状のプラズマ閉じ込め容器4の角部分)で磁力線が永久磁石12以外の場所に入る領域が形成されてしまう。
【0013】
図14(a)に記載の永久磁石配置の場合、R部分に電子やプラズマが向かうと、磁力線に沿ってプラズマ閉じ込め容器4の壁面に逃げてしまう。その場合、電子やプラズマはプラズマ閉じ込め容器4の壁面に衝突して、消滅してしまうので、プラズマの閉じ込め効率が悪くなってしまう。
【0014】
そこで、本発明では、プラズマの閉じ込め効率が改善されたプラズマ閉じ込め容器を提供することを所期の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るプラズマ閉じ込め容器は、容器外壁の表面から離間する方向に沿って一対の極性を有するカスプ磁場生成用の複数の永久磁石が互いに隙間を空けて容器外壁に沿って配置されたプラズマ閉じ込め容器であって、前記永久磁石の少なくとも一部は隣り合う永久磁石同士の前記プラズマ閉じ込め容器側の極性が同極性となる永久磁石組であり、前記プラズマ閉じ込め容器内には、前記永久磁石組を構成する各永久磁石の一部と前記永久磁石組間に形成された隙間に亘って、前記プラズマ閉じ込め容器の壁面を介して対向配置された磁性体が設けられていることを特徴としている。
【0016】
このような構成を用いることで、プラズマ閉じ込め容器内部に設けられた磁性体があたかも磁石のような役割をする。その結果、電子やプラズマの逃げを抑制することができ、プラズマの閉じ込め効率を改善することができる。
【0017】
また、前記磁性体の少なくとも一部は、前記プラズマ閉じ込め容器の内壁に当接していることが望ましい。
【0018】
磁性体の一部がプラズマ閉じ込め容器の内壁に当接していると、永久磁石の磁力により磁性体をプラズマ閉じ込め容器の壁面に固定させることが容易になる。また、永久磁石の磁力が弱く、磁性体のプラズマ閉じ込め容器への固定が不十分であっても、磁性体の一部がプラズマ閉じ込め容器に当接しているので、ボルト等を用いて磁性体をプラズマ閉じ込め容器に簡単に取り付けることができる。さらに、プラズマ閉じ込め容器が冷却機構を備えている場合、磁性体の一部がプラズマ閉じ込め容器に当接していると、当接部を介して磁性体を冷却させることができる。その結果、磁性体の熱変形を抑制することができるとともに、磁性体が強磁性体である場合には強磁性の性質を保持させることができる。
【0019】
さらに、本発明に係るイオン源の構成としては、上記したプラズマ閉じ込め容器を備えたイオン源であって、前記プラズマ閉じ込め容器に形成されたイオンビーム引き出し用開口部と、前記プラズマ閉じ込め容器内に配置された少なくとも1つのフィラメントと、前記イオンビーム引き出し用開口部に対向配置され、前記プラズマ閉じ込め容器よりイオンビームを引き出す少なくとも1つの電極を有しているとともに、前記プラズマ閉じ込め容器の外壁に沿って配置された前記永久磁石は、前記プラズマ閉じ込め容器より引き出される前記イオンビームの引出し方向に略垂直となる複数の平面に配置され、各平面において前記プラズマ閉じ込め容器側の極性が全て同一極性であり、かつ、前記プラズマ閉じ込め容器側の極性が前記イオンビームの引出し方向に沿って各平面で交互に異なるように前記プラズマ閉じ込め容器の側面に配置されていて、前記磁性体は各平面において隣り合う前記永久磁石の端部と当該永久磁石間に形成された隙間に亘って、前記プラズマ閉じ込め容器の壁面を介して前記プラズマ閉じ込め容器の内側領域で対向配置されていることを特徴としている。
【0020】
プラズマ閉じ込め容器内でのプラズマの閉じ込め効率が改善され、密度の濃いプラズマを容易に生成することができる。その結果、従来のイオン源に比べて、プラズマ閉じ込め容器からのイオンビームの引出し効率を格段に向上させることができる。
【0021】
また、前記イオンビームの引出し方向に沿って各平面に配置された前記磁性体の間には、当該磁性体と連結される非磁性体が配置されていることが望ましい。
【0022】
複数の平面に配置された個々の磁性体を非磁性体で連結させることで、プラズマ閉じ込め容器への磁性体の取り付けや位置調整を簡単に行うことができる。
【0023】
また、前記非磁性体の少なくとも一部は、前記プラズマ閉じ込め容器の内壁に当接していることが望ましい。
【0024】
非磁性体の構成をこのようなものにすることで、ボルト等を用いて非磁性体をプラズマ閉じ込め容器に簡単に取り付けることができる。また、プラズマ閉じ込め容器が冷却機構を備えている場合には、当接部を介して非磁性体を冷却して、非磁性体の熱変形を抑制することができる。
【0025】
そのうえ、前記イオン源は前記磁性体と前記非磁性体からなる防着板支持部材を備えているとともに、前記防着板支持部材の端部は前記プラズマ閉じ込め容器の内壁から離間して、前記イオンビームの引出し方向において前記プラズマ閉じ込め容器の内壁との間に防着板支持用の空間が形成されていることが望ましい。
【0026】
このような構成を用いると、防着板支持用の隙間に防着板をスライドさせることで、防着板をプラズマ閉じ込め容器に取り付けができるので、防着板の取り付け作業が容易になる。また、防着板の端部が防着板支持部材とプラズマ閉じ込め容器との間に形成された隙間に支持されているので、防着板を固定する為のボルトの本数を少なくすることができる。
【0027】
防着板支持部材のより具体的な構成としては、前記イオンビームの引出し方向に略垂直な平面において、前記防着板支持部材は、少なくともその一部が前記プラズマ閉じ込め容器の内壁に当接する肉厚の本体部と前記本体部から延設された肉薄の端部とから構成されていることが望ましい。
【0028】
このような構成であれば、肉厚の本体部を有している分、防着板支持部材の強度を十分に強いものにすることができる。
【発明の効果】
【0029】
プラズマ閉じ込め容器外周に沿って隙間を空けて配置され、プラズマ閉じ込め容器側の極性が同極性である永久磁石組に対して、プラズマ閉じ込め容器の壁面を介して対向配置するように磁性体が設けられているので、プラズマ閉じ込め容器内部に設けられた磁性体があたかも磁石のような役割をする。その結果、電子やプラズマの逃げを抑制することができ、プラズマの閉じ込め効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るプラズマ閉じ込め容器を備えたイオン源の一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1に記載のプラズマ閉じ込め容器の断面図で、(a)はXY1平面での断面図を表し、(b)はXY2平面での断面図を表し、(c)はXY3平面での断面図を表す。
【図3】図1に記載のプラズマ閉じ込め容器内に配置された磁性体の様子を表す斜視図であり、(a)はZ方向において永久磁石よりも幅の広い磁性体が配置された例で、(b)はZ方向において永久磁石よりも幅の広い磁性体が配置された例を表す。
【図4】本発明に係るプラズマ閉じ込め容器での永久磁石配置の変形例を示す断面図であり、(a)はY方向に沿って、プラズマ閉じ込め容器の側面に複数の永久磁石が配置された例で、(b)はX方向とY方向に沿って、プラズマ閉じ込め容器の側面に複数の永久磁石が配置された例である。
【図5】本発明に係るイオン源のプラズマ閉じ込め容器内に磁性体と非磁性体が配置される例を表す斜視図であり、(a)は図3(a)の構成に非磁性体を追加した構成を表し、(b)は図3(b)の構成に非磁性体を追加した構成を表し、(c)は非磁性体の内側領域に磁性体が配置される例を表す。
【図6】図5(a)、図5(b)に記載の磁性体と非磁性体からなる構造物であり、(a)は構造物全体を表す斜視図で、(b)は構造物を構成する磁性体と非磁性体とを分解した時の様子を表す。
【図7】図4(a)、図4(b)のプラズマ閉じ込め容器の平坦な部分に設けられた磁性体と非磁性体からなる構造物であり、(a)は構造物全体を表す斜視図で、(b)は構造物を構成する磁性体と非磁性体とを分解した時の様子を表す斜視図である。
【図8】プラズマ閉じ込め容器に防着板が取り付けられた様子を表す断面図である。
【図9】プラズマ閉じ込め容器の角部分に設けられた防着板支持部材であり、(a)は防着板支持部材の全体を表す斜視図であり、(b)は防着板支持部材を構成する磁性体と非磁性体を分解した時の様子を表す。
【図10】図4(a)に示す構成に防着板が取り付けられた時の様子を表す断面図である。
【図11】プラズマ閉じ込め容器の平坦な側面に取り付けられた図10に記載の防着板支持部材であり、(a)は防着板支持部材の全体を表す斜視図であり、(b)は防着板支持部材を構成する磁性体と非磁性体を分解した時の様子を表す。
【図12】防着板支持部材のその他の変形例を表す斜視図である。
【図13】プラズマ閉じ込め容器に取り付けられた永久磁石の配置を表す斜視図である。(a)は紙面斜め奥方向にZ方向を向けた時の様子を表し、(b)は紙面斜め手前方向にZ方向を向けた時の様子を表す。
【図14】プラズマ閉じ込め容器の内側領域に生成されるカスプ磁場の様子を表し、(a)は図13(a)、図13(b)に記載のXY1平面あるいはXY3平面でプラズマ閉じ込め容器を切断した際の断面図を表し、(b)各永久磁石のプラズマ閉じ込め容器側の極性を、プラズマ閉じ込め容器の周囲に沿って、交互に異なるように配置したときのXY平面での断面の様子を表す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1には本発明に係るプラズマ閉じ込め容器4を備えたイオン源1の一実施形態を示す断面図が記載されている。このイオン源1はいわゆるバケット型イオン源と呼ばれるタイプのイオン源の一種であり、プラズマ閉じ込め容器4の外周に設けられた永久磁石配置は、図13(a)、図13(b)に示される構成と同一である。なお、ここでは図示されるX方向におけるプラズマ閉じ込め容器4の中央部でZ方向に沿ってイオン源1を切断したときの断面の様子が描かれており、図示されるX、Y、Z軸の方向は、図13(a)、図13(b)に示される方向と同一である。また、以降の説明で述べられるプラズマ閉じ込め容器4の側面、前面、後面の定義も図13(a)、図13(b)を用いて説明したものと同一である。
【0032】
このイオン源1は長方形状のプラズマ閉じ込め容器4を備えており、プラズマ閉じ込め容器4より略リボン状のイオンビーム3が引き出される。
【0033】
プラズマ閉じ込め容器4には図示されないバルブを介してガス源2が取り付けられており、このガス源2よりイオンビーム3の原料となるガスの供給がなされる。なお、このガス源2には図示されないガス流量調節器(マスフローコントローラー)が接続されており、これによってガス源2からプラズマ閉じ込め容器4内部へのガスの供給量が調整されている。
【0034】
プラズマ閉じ込め容器4の後面には、Y方向に沿って複数のU字型のフィラメント10が取り付けられている。これらのフィラメント10は、フィラメント10の端子間に接続される電源VFを用いて、各フィラメント10に流す電流量の調整が行えるように構成されている。このような構成にしておくことで、イオン源1より引き出されるイオンビーム3の電流密度分布調整が可能となる。
【0035】
フィラメント10に電流を流して、フィラメント10を加熱させることによって、そこから電子が放出される。この電子が、プラズマ閉じ込め容器4の内部に供給されたガス(PH3やBF3等)に衝突してガスの電離を引き起こし、プラズマ閉じ込め容器4内にプラズマ9が生成される。
【0036】
このイオン源1には、プラズマ閉じ込め容器4の周囲に複数の永久磁石12が取り付けられている。この永久磁石12によって、プラズマ閉じ込め容器4の内部領域にカスプ磁場が形成され、フィラメント10より放出された電子や容器内で発生されたプラズマ9が所定領域内に閉じ込められる。なお、複数の永久磁石12は、図示されないホルダーに数個ずつ収納された状態で、プラズマ閉じ込め容器4に取り付けられている。
【0037】
イオン源1は引出し電極系として4枚の電極を有しており、プラズマ閉じ込め容器4からイオンビーム3の引出し方向(図示されるZ方向)に沿って加速電極5、引出電極6、抑制電極7、接地電極8の順に配置されている。各電極とプラズマ閉じ込め容器4の電位は、複数の電源(V1〜V4)によって、それぞれ異なる値に設定されていて、各電極は絶縁フランジ11に電気的に独立して取り付けられている。
【0038】
引出し電極系として用いられる各電極には、例えばX方向に長い複数のスリット状開口部22が設けられており、これらのスリット状開口部22を通して、イオンビーム3の引出しが行われる。ただし、電極はここで述べたスリット状の開口部を有するものに限らず、円形状の複数の開口部を有する円孔電極であっても良い。また、引出し電極系として4枚の電極を有する構成のイオン源1が記載されているが、これに限らず、電極の枚数は少なくとも1枚以上あれば良い。また、フィラメント10の本数も複数本ではなく、1本であっても構わない。
【0039】
この図1に示されるように、イオン源1には、プラズマ閉じ込め容器4の内側に磁性体13が配置されている。この磁性体13は、例えば、フェライト系ステンレスを用いる。この構成について、以下に説明する。
【0040】
図2には、図1に記載のXY1平面、XY2平面、XY3平面において、プラズマ閉じ込め容器4を切断したときの断面の様子が記載されている。より詳細には、図2(a)がXY1平面における断面に対応し、図2(b)がXY2平面における断面に対応している。そして、図2(c)がXY3平面における断面に対応している。
【0041】
各断面の様子を参照すると理解できるように、各平面に配置された磁性体13は、各平面内において隣り合う永久磁石12の端部とそれらの間に形成された隙間16に亘って、プラズマ閉じ込め容器4の壁面を介してプラズマ閉じ込め容器4の内側領域に対向配置されている。このようにして、磁性体13を配置しておくと、永久磁石12によって磁性体13が磁化されて、隣り合う永久磁石12の間で発生していた磁力線の反発をなくすことができる。なお、この磁性体13は永久磁石12によってプラズマ閉じ込め容器4の内壁に吸着支持されているが、この吸着力が弱い場合には、図示されないボルトを用いてプラズマ閉じ込め容器4の内壁に固定しても良い。また、本発明で言う隣り合う永久磁石12とは、プラズマ閉じ込め容器4の外壁に沿って隣り合って配置された永久磁石を意味する。
【0042】
図3(a)、図3(b)には、各平面において、磁性体13が隣り合う永久磁石12の間に配置されている様子を表す斜視図が描かれている。この図において、両者の位置関係をより分かり易くする為に、プラズマ閉じ込め容器4の記載は省略されている。また、各平面において、図示されていない場所にも複数の永久磁石12が配置されているが、図13(a)、図13(b)に示された構成と同様である為、これらの構成についての図示は省略されている。
【0043】
図3(a)と図3(b)では、イオンビーム3の引出し方向であるZ方向における磁性体13の幅が異なっている。図3(a)に示されるように、Z方向において、永久磁石12の幅よりも磁性体13の幅を大きくしておくと、隣り合う永久磁石12からの磁力線をより確実に磁性体13に向かわせることができる。また、磁性体13の厚さは、一例を挙げると2mm以上のものが使用される。
【0044】
一方、図3(b)に示すように、Z方向において、永久磁石12の幅よりも磁性体13の幅を小さくしておくと、磁性体13の大きさが小さくなる分、材料費を安くすることができる。
【0045】
図2に示す構成では、永久磁石12が矩形状のプラズマ閉じ込め容器4の角部分(図中、隙間16の部分)を除く場所に配置されていたが、このような永久磁石配置以外に、図4(a)や図4(b)に示される配置であっても良い。図4(a)の場合、プラズマ閉じ込め容器4のX方向に位置する側面にも隣り合う永久磁石12間に形成される隙間16が存在している。また、図4(b)では、図4(a)の構成に加えて、Y方向に位置するプラズマ閉じ込め容器4の側面にもこの隙間16が存在している。
【0046】
図4(a)や図4(b)に示される構成においても、図2の構成と同様に、各平面において、隣り合う永久磁石12の端部とこれらの永久磁石12間に形成された隙間16に亘って、プラズマ閉じ込め容器4の壁面を介して、プラズマ閉じ込め容器4の内部領域で対向配置されるように磁性体13が設けられている。なお、図4(a)と図4(b)には図1のXY1平面もしくはXY3平面での永久磁石配置の例が示されているが、XY2平面でも永久磁石12のプラズマ閉じ込め容器4側に配置される極性がS極となることを除いては、同じ構成が用いられる。
【0047】
これまでの実施形態では、磁性体13をプラズマ閉じ込め容器4に1つずつ取り付ける構成について説明してきたが、複数の磁性体13を個々に取り付けると、取り付け作業の効率が悪い。その為、これらをまとめて取り付ける構成について以下に説明する。
【0048】
図5には、図3と同様に、各平面において、磁性体13が隣り合う永久磁石12と磁石間に形成された隙間に亘って対向配置されている様子を表す斜視図が描かれている。ここでは、磁性体13の他に非磁性体14(例えば、オーステナイト系ステンレスやモリブデン等)が設けられていて、複数の磁性体13と非磁性体14とが1つの部材として、プラズマ閉じ込め容器4の内側領域に取り付けられている。
【0049】
具体的に、図5(a)には、図3(a)で述べたイオンビーム3の引出し方向に幅の広い複数の磁性体13の間に非磁性体14が配置された例が描かれており、図5(b)には、図3(b)で述べたイオンビーム3の引出し方向に幅の狭い複数の磁性体13の間に非磁性体14が配置された例が描かれている。これらの図には、イオンビーム3の引出し方向に沿って、非磁性体14と磁性体13とが交互に配置されている例が図示されているが、磁性体13と非磁性体14からなる構造物の構成は、これに限られない。例えば、図5(c)に描かれているように、大きな非磁性体14の内側領域に複数の磁性体13が配置されるような構成であっても良い。
【0050】
磁性体13と非磁性体14からなる構造物は、例えば、次のようにして組み立てられる。図6(a)には、図5(a)および図5(b)で挙げた磁性体13と非磁性体14からなる構造物の斜視図が記載されており、図6(b)には磁性体13と非磁性体14を分解した時の様子が描かれている。
【0051】
図6(b)に描かれているように、非磁性体14に形成された穴18に磁性体13の側面に立設されたピン19が挿入されることで、両部材の組み立てが行われる。図6(b)に描かれる非磁性体14の両側面には、それぞれ穴18が形成されているが、構造物の端部に設けられた非磁性体14において、磁性体13が配置されない側の側面には穴18は形成されていない。なお、図5(c)の構成の場合、例えば、非磁性体14に磁性体13を嵌合させる為の穴を設けておき、嵌め込みにより、各部材の組み立てを行うようにしておくことが考えられる。
【0052】
また、非磁性体14は各磁性体13の間に配置されていれば良く、図6(a)に示される磁性体13と非磁性体14からなる構造物で、両端に位置する非磁性体14は必ずしも配置しておく必要はない。このような非磁性体14がなくとも、構造物として1つの部材にまとめることができる。このような磁性体13と非磁性体14からなる一体の構造物を用いることで、プラズマ閉じ込め容器4への複数の磁性体13の取り付け作業が簡単になる。なお、この磁性体13と非磁性体14からなる構造物は磁性体13の部分が永久磁石12によって吸着されることによってプラズマ閉じ込め容器4の内壁に支持されるが、この吸着力が弱い場合には、図示されないボルトを用いてプラズマ閉じ込め容器4の内壁に固定するようにしても良い。
【0053】
図4(a)、図4(b)に示した永久磁石配置の場合、X方向やY方向に沿って延びたプラズマ閉じ込め容器4の側面に複数の永久磁石12が配置されている。この場合、磁性体13はプラズマ閉じ込め容器4の角部分だけでなく、平坦な部分にも配置されている。この平坦な部分に配置される磁性体13も角部分に配置される磁性体13と同様に、図7(a)に描かれているような非磁性体14と組み合わされた1つの構造物としてプラズマ閉じ込め容器4に取り付けられるように構成しておくことが考えられる。また、磁性体13と非磁性体14との組み立ては、先の例と同じく、図7(b)に描かれているように、磁性体13にピン19を設けておき、これを非磁性体14の穴18に挿入することで行われる。
【0054】
イオン源には、プラズマ閉じ込め容器4の内壁の腐食防止やプラズマ閉じ込め容器4内の洗浄を効率的に行う為に、プラズマ閉じ込め容器4の内壁に沿って着脱可能な防着板20が設けられている場合がある。この防着板20を取り付ける際、磁性体13と非磁性体14からなる構造物を利用することが考えられる。
【0055】
具体的には、図8に示されているように、プラズマ閉じ込め容器4の内側領域には、磁性体13と非磁性体14からなる防着板支持部材15が複数配置されている。各防着板支持部材15は、プラズマ閉じ込め容器4の内壁に沿って、互いの端部同士が対向しており、これらの端部とプラズマ閉じ込め容器4の内壁との間には、防着板支持用の空間21が形成されている。この空間21に対して、例えばZ方向反対側に向けて、防着板20が挿入される。このようにして防着板20を取り付けると、防着板20の取り付け作業が簡単に済む。また、防着板20のプラズマ閉じ込め容器4への取り付けに際しては、図示されないボルトが使用されるが、防着板支持部材15により防着板20の端部が支持されていることから、防着板20を固定するボルトの本数を、通常よりも少なくすることができる。
【0056】
図8に記載の防着板支持部材15は、図9(a)に描かれているように、肉厚の本体部23と、本体部23より延設された肉薄の端部24から構成されている。また、磁性体13と非磁性体14との組み立てについては、これまでの例と同じく、図9(b)に描かれているように磁性体13に設けられたピン19が非磁性体14に形成された穴18に挿入されることで行われる。
【0057】
図4(a)や図4(b)に描かれた構成に、磁性体13と非磁性体14からなる構造物が取り付けられる場合も、図8で示した例のように、この構造物を防着板支持部材15として利用することができる。図10にはその例が示されている。各部の構成は、図8をもとに説明した内容と同じである為、その詳細な説明については省略するが、図10に示す例ではY方向に沿ったプラズマ閉じ込め容器4の平坦な側面にも防着板支持部材15が設けられている。この防着板支持部材15の具体的な構成は、図11(a)に描かれている。 図9(a)に記載の例と形状がやや異なるが、肉厚の本体部23と本体部23より延設された薄肉の端部24とで構成されている。そして、磁性体13と非磁性体14との組み立ては、図10(b)に描かれているように、磁性体13に設けられたピン19が非磁性体14に形成された穴18に挿入されることで行われる。
【0058】
<その他変形例>
防着板支持部材15は、図9や図11に挙げた構成以外に、図12(a)〜(d)に描かれる構成であっても良い。図12(b)と図12(c)に示される構成は、形状が異なるものの、これまでの例と同じく、肉厚の本体部と当該本体部より延設された肉薄の端部を有している。図12(a)と図12(d)に示される構成は、これまでの構成に比べるとやや部材強度が劣るが、プラズマ閉じ込め容器4の形状に応じて、このような防着板支持部材15を用いても構わない。
【0059】
また、プラズマ閉じ込め容器4の形状は立方体に限らずに、円柱や多角形であっても良い。その場合でも図13(a)、図13(b)に示された永久磁石配置と同様に、イオンビーム3の引出し方向に垂直な複数の平面で、プラズマ閉じ込め容器4を切断したときに、各平面に配置される永久磁石12の極性がプラズマ閉じ込め容器4側で同じであるとともに、イオンビーム3の引出し方向に沿って、各平面に配置された永久磁石12のプラズマ閉じ込め容器4側の極性が交互に異なるように配置しておく。その上で、各平面において、隣り合う永久磁石12の端部とこれらの磁石間に形成される隙間16に亘って、プラズマ閉じ込め容器4を介してプラズマ閉じ込め容器4の内部領域に対向配置されるように磁性体13を配置しておけば、本発明と同じ効果を奏することが可能となる。
【0060】
さらに、先の実施形態で説明した磁性体13、磁性体13と非磁性体14からなる構造物や防着板支持部材15は、その一部がプラズマ閉じ込め容器4の内壁に当接させておくことが望ましい。そのようにしておくと、各部材をプラズマ閉じ込め容器4にボルトで固定することが容易になる。また、プラズマ閉じ込め容器4が冷媒により冷却されている場合、プラズマ閉じ込め容器4の壁面を介して、磁性体13等を冷却させることができるので、部材の熱変形を抑制することや磁性体13が強磁性体である場合には高温になることで強磁性の性質が失われることを防止することが期待できる。
【0061】
また、これまでに説明した実施形態では、イオンビーム3の引出し方向に垂直となる複数の平面に永久磁石12が配置される例を示したが、本発明はこれに限られない。例えば、イオンビーム3の引出し方向は、引出し電極系を構成する電極に印加される電圧によっては、若干のズレが生じる場合がある。その場合、イオンビーム3の引出し方向に対して、垂直な平面ではなく、若干、ズレた平面に配置されることになる。このようなものであっても、本発明と同等の構成を用いれば、当然ながら同様の効果を奏することが出来る。その為、本発明にはイオンビーム3の引出し方向と略垂直となる複数の平面に複数の永久磁石が配置される構成(両者の位置関係がほぼ垂直な位置関係となるもので、具体的には、イオンビームの引出し方向とプラズマ閉じ込め容器側面に配置される永久磁石を含む平面との位置関係が、数度、垂直からズレたもの)であっても適用される。
【0062】
これまでの実施形態では、イオン源1で使用されるプラズマ閉じ込め容器4の例について述べたが、本発明のプラズマ閉じ込め容器4はこれに限られない。例えば、その他の例としては、プラズマCVDで用いられるプラズマ処理室やイオン注入装置で用いられるプラズマフラッドガンのプラズマ生成室として利用することができる。このようなものであってもカスプ磁場生成用の永久磁石を備えたものであって、容器の所定領域内にプラズマを閉じ込めるプラズマ閉じ込め容器であれば、本発明の構成を適用することでプラズマの閉じ込めを効果的に行うことが可能となる。
【0063】
前述した以外に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良および変更を行っても良いのはもちろんである。
【符号の説明】
【0064】
1・・・イオン源
4・・・プラズマ閉じ込め容器
10・・・フィラメント
12・・・永久磁石
13・・・磁性体
14・・・非磁性体
15・・・防着板支持部材
16・・・隙間
17・・・開口部
20・・・防着板
21・・・空間
23・・・本体部
24・・・端部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器外壁の表面から離間する方向に沿って一対の極性を有するカスプ磁場生成用の複数の永久磁石が互いに隙間を空けて容器外壁に沿って配置されたプラズマ閉じ込め容器であって、
前記永久磁石の少なくとも一部は隣り合う永久磁石同士の前記プラズマ閉じ込め容器側の極性が同極性となる永久磁石組であり、
前記プラズマ閉じ込め容器内には、前記永久磁石組を構成する各永久磁石の一部と前記永久磁石組間に形成された隙間に亘って、前記プラズマ閉じ込め容器の壁面を介して対向配置された磁性体が設けられていることを特徴とするプラズマ閉じ込め容器。
【請求項2】
前記磁性体の少なくとも一部は、前記プラズマ閉じ込め容器の内壁に当接していることを特徴とする請求項1記載のプラズマ閉じ込め容器。
【請求項3】
請求項1または2記載のプラズマ閉じ込め容器を備えたイオン源であって、
前記プラズマ閉じ込め容器に形成されたイオンビーム引き出し用開口部と、
前記プラズマ閉じ込め容器内に配置された少なくとも1つのフィラメントと、
前記イオンビーム引き出し用開口部に対向配置され、前記プラズマ閉じ込め容器よりイオンビームを引き出す少なくとも1つの電極を有しているとともに、
前記プラズマ閉じ込め容器の外壁に沿って配置された前記永久磁石は、前記プラズマ閉じ込め容器より引き出される前記イオンビームの引出し方向に略垂直となる複数の平面に配置され、各平面において前記プラズマ閉じ込め容器側の極性が全て同一極性であり、かつ、前記プラズマ閉じ込め容器側の極性が前記イオンビームの引出し方向に沿って各平面で交互に異なるように前記プラズマ閉じ込め容器の側面に配置されていて、前記磁性体は各平面において隣り合う前記永久磁石の端部と当該永久磁石間に形成された隙間に亘って、前記プラズマ閉じ込め容器の壁面を介して前記プラズマ閉じ込め容器の内側領域で対向配置されていることを特徴としていることを特徴とするイオン源。
【請求項4】
前記イオンビームの引出し方向に沿って各平面に配置された前記磁性体の間には、当該磁性体と連結される非磁性体が配置されていることを特徴とする請求項3記載のイオン源。
【請求項5】
前記非磁性体の少なくとも一部は、前記プラズマ閉じ込め容器の内壁に当接していることを特徴とする請求項4記載のイオン源。
【請求項6】
前記イオン源は前記磁性体と前記非磁性体からなる防着板支持部材を備えているとともに、前記防着板支持部材の端部は前記プラズマ閉じ込め容器の内壁から離間して、前記イオンビームの引出し方向において、前記プラズマ閉じ込め容器の内壁との間に防着板支持用の空間が形成されていることを特徴とする請求項4または5記載のイオン源。
【請求項7】
前記イオンビームの引出し方向に略垂直な平面において、前記防着板支持部材は、少なくともその一部が前記プラズマ閉じ込め容器の内壁に当接する肉厚の本体部と前記本体部から延設された肉薄の端部とから構成されていることを特徴とする請求項6記載のイオン源。
【請求項1】
容器外壁の表面から離間する方向に沿って一対の極性を有するカスプ磁場生成用の複数の永久磁石が互いに隙間を空けて容器外壁に沿って配置されたプラズマ閉じ込め容器であって、
前記永久磁石の少なくとも一部は隣り合う永久磁石同士の前記プラズマ閉じ込め容器側の極性が同極性となる永久磁石組であり、
前記プラズマ閉じ込め容器内には、前記永久磁石組を構成する各永久磁石の一部と前記永久磁石組間に形成された隙間に亘って、前記プラズマ閉じ込め容器の壁面を介して対向配置された磁性体が設けられていることを特徴とするプラズマ閉じ込め容器。
【請求項2】
前記磁性体の少なくとも一部は、前記プラズマ閉じ込め容器の内壁に当接していることを特徴とする請求項1記載のプラズマ閉じ込め容器。
【請求項3】
請求項1または2記載のプラズマ閉じ込め容器を備えたイオン源であって、
前記プラズマ閉じ込め容器に形成されたイオンビーム引き出し用開口部と、
前記プラズマ閉じ込め容器内に配置された少なくとも1つのフィラメントと、
前記イオンビーム引き出し用開口部に対向配置され、前記プラズマ閉じ込め容器よりイオンビームを引き出す少なくとも1つの電極を有しているとともに、
前記プラズマ閉じ込め容器の外壁に沿って配置された前記永久磁石は、前記プラズマ閉じ込め容器より引き出される前記イオンビームの引出し方向に略垂直となる複数の平面に配置され、各平面において前記プラズマ閉じ込め容器側の極性が全て同一極性であり、かつ、前記プラズマ閉じ込め容器側の極性が前記イオンビームの引出し方向に沿って各平面で交互に異なるように前記プラズマ閉じ込め容器の側面に配置されていて、前記磁性体は各平面において隣り合う前記永久磁石の端部と当該永久磁石間に形成された隙間に亘って、前記プラズマ閉じ込め容器の壁面を介して前記プラズマ閉じ込め容器の内側領域で対向配置されていることを特徴としていることを特徴とするイオン源。
【請求項4】
前記イオンビームの引出し方向に沿って各平面に配置された前記磁性体の間には、当該磁性体と連結される非磁性体が配置されていることを特徴とする請求項3記載のイオン源。
【請求項5】
前記非磁性体の少なくとも一部は、前記プラズマ閉じ込め容器の内壁に当接していることを特徴とする請求項4記載のイオン源。
【請求項6】
前記イオン源は前記磁性体と前記非磁性体からなる防着板支持部材を備えているとともに、前記防着板支持部材の端部は前記プラズマ閉じ込め容器の内壁から離間して、前記イオンビームの引出し方向において、前記プラズマ閉じ込め容器の内壁との間に防着板支持用の空間が形成されていることを特徴とする請求項4または5記載のイオン源。
【請求項7】
前記イオンビームの引出し方向に略垂直な平面において、前記防着板支持部材は、少なくともその一部が前記プラズマ閉じ込め容器の内壁に当接する肉厚の本体部と前記本体部から延設された肉薄の端部とから構成されていることを特徴とする請求項6記載のイオン源。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2013−69577(P2013−69577A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208043(P2011−208043)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(302054866)日新イオン機器株式会社 (161)
【Fターム(参考)】
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