説明

プラズマCVDによる炭化物コーティング方法

【課題】 金属酸化物の粉体表面に炭化物をコーティングし、粉体を改質する。
【解決手段】 金属酸化物の粉体を収容した容器7を真空引きし、容器7を回転させながらメタンと水素との混合ガスを供給すると共に、粉体に周波数1MHz〜10GHzの電磁波を照射してプラズマを発生させ、プラズマによりメタンを分解し、メタンから分解した活性基のCを金属酸化物の格子状酸素と置換することにより、触媒活性の高い炭化物コーティング層を粉体粒子の表面に形成させる。粉体を収容した容器7は、毎分20〜100回転の速度で回転させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、チタニア,ジルコニア等の金属酸化物粉末粒子の表面を炭化物でコーティングする方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ダイヤモンド膜やダイヤモンド状炭素膜は、高硬度,耐摩耗性,低摩擦抵抗等の優れた特性を呈することから、切削材料,半導体保護膜等として広範な分野で使用されている。ダイヤモンド膜,ダイヤモンド状炭素膜等の合成には、プラズマCVD法が多用されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】プラズマCVDでは、ダイヤモンド膜やダイヤモンド状炭素膜を基板上で合成しているが、金属酸化物粉体をコーティング対象とした例はない。しかし、金属酸化物の粉末にダイヤモンド膜やダイヤモンド状炭素膜をコーティングするとき、酸化物粉体に新たに表面特性を付与できることが考えられる。本発明は、このような要求に応えるべく案出されたものであり、電子密度や電離度が高く、長時間の安定性に優れた低温プラズマCVD法を使用することにより、酸化物粉体の表面を炭化物でコーティングし、高機能粉末粒子を得ることを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明のコーティング方法は、その目的を達成するため、金属酸化物の粉体を収容した容器を真空引きし、前記容器を回転させながらメタンと水素との混合ガスを供給すると共に、前記粉体に電磁波を照射してプラズマを発生させ、該プラズマによりメタンを分解して得られる炭素と前記粉体中の格子状酸素とを置換し、前記粉体の粒子表面に炭化物を付着させることを特徴とする。金属酸化物の粉体を収容した容器を毎分20〜100回転の速度で回転させるとき、個々の粉末粒子にプラズマが均等に照射され、均一な炭化物のコーティングが施される。また、メタンを効率よく分解させて繊維状の炭素系物質を得る上では、照射する電磁波の周波数を1MHz〜10GHzの範囲に維持することが好ましい。
【0005】本発明では、たとえば図1に示す設備構成の電磁波プラズマ加熱装置が使用される。電磁波発振器1から発振された電磁波は、アイソレータ2を経て送り出され、パワーモニター3で出力が測定される。次いで、スリースタブチューナ4を経て反応室5に送り込まれる。反応室5の下部には、プランジャー6が設けられている。プランジャー6の上方に、処理される粉体を収容した石英製反応管7が配置されている。石英製反応管7は、スターラ8によって回転可能になっている。石英製反応管7の内部は、トラップ9を介して接続された真空ポンプによって真空引きされ、真空ゲージ11によって内圧が測定される。処理される粉体には、チタニア,ジルコニア等の外にSc,Y,ランタノイド元素,Hf,V,Nb,Ta等の酸化物や複合酸化物等が使用される。粉体粒子の粒径は、使用目的にもよるが、1〜2000μmの範囲にあることが好ましい。
【0006】適宜の混合ガス給気管が石英製反応管7に接続されており、この給気管を介しメタンと水素の混合ガスが石英製反応管7の内部に送り込まれる。混合ガスとしては、水素に対して0.1〜10体積%のメタンを混合したものが好ましい。メタンは、分解によって炭素系物質となるものであり、1体積%に達しないと有効な炭素系物質のコーティングが得られない。しかし、10体積%を超える配合比率では、その分だけ水素分圧が不足し、雰囲気に含まれている酸素や水分の悪影響が現れ易い。電磁波発振器1では、周波数1MHz〜10GHzの電磁波を発生させる。この電磁波を石英製反応管7に収容されている粉体に照射すると、粉体粒子が内部から加熱され、粒子の表面が活性化される。また、石英製反応管7の内部雰囲気に含まれているメタンが分解し、活性度の高い炭素が生成する。この炭素が粉体粒子の格子状酸素と置換し、電気伝導性に優れた炭化物コーティング層を形成する。
【0007】このようにして粉体粒子の表面に形成された炭化物コーティング層を観察すると、コーティング層は、緻密で均一な層構造をもっており、母材に対する密着性に優れ、硬質で熱伝導性にも優れている。コーティング層を備えた粒子は、表面に導電性が発現して半導体特性が向上するため、光触媒,ガスセンサー等として使用される。
【0008】
【実施例】平均粒径20〜60メッシュのアナターゼ型チタニア粉末を原料として使用し、チタニア粉末10gを容量200ccの石英製反応管7に収容した。真空ポンプで系内を排気した後、500Wで電磁波を照射しながらテスラーコイルによってプラズマを発生させた。そして、所定の混合比になるようにマスフロメータで流量を30cc/分に調整したCH4 1%−H2 混合ガスを所定の圧力で導入し、石英反応管7を70rpmで回転させながら処理を開始した。所定時間(2時間)反応させた後、電磁波照射を止め、処理を終了した。なお、ガス圧は、1,10,20,30,40トールに設定した。雰囲気圧1トールで発生したプラズマは、図2(a)に示す発光スペクトルをもっており、活性度の高い分解生成物−CHが生成していた。このときのプラズマガスの温度は、約1000℃であった。プラズマの発光スペクトルは、図2で(b),(c)として示すように雰囲気圧に応じて変化した。
【0009】プラズマ処理した試料を、粉末X線回折法(XRD)及びラマン分光法で物性評価した。また、プラズマ中に発生した活性種を発光分光分析法(OES)で測定した。アナターゼ型のチタニアをメタン水素プラズマ処理したところ、表面のみが灰色になった。また、ラマン分光法による分光結果を示す図3にみられるように、チタニア表面に炭化チタンが形成されていることが確認された。この結果は、TiO2 の酸素格子にCH4 の炭素が置換することにより生じたものと推察される。そこで、炭化チタン合成の最適条件を調査するため、反応条件のうちでガス圧力を変化させて反応を行わせた。
【0010】その結果、1トールで処理した試料では表面全体が灰色になったのに対し、40トールで処理した試料では表面の一部のみが灰色になっていることを目視観察によっても確認できた。チタニア表面に形成された炭化チタンをラマン分光法で定量したところ、図4に示すようにガス圧の上昇に応じて炭化チタンのラマンピークが減少していた。本来、電磁波電力を一定にしてもガス圧力が高くなるに従ってプラズマ域が狭くなり、電力が集中し、試料温度が上昇する。そのため、ガス圧力を高くした方が膜の生成速度が早くなると予想されるが、本実施例では全く逆の結果が得られた。そこで、プラズマ中の気相反応で重要な役割を果していると考えられているラジカルやイオン等の活性種がガス圧の変化によってどのような影響を受けるかを発光分光分析で調査した。調査結果は、前掲した図2に示されているように、1トールのガス圧力ではCH(420nm),Hα(660nm),Hβ(486nm),H2 (600nm付近)に基づく発光ピークが明確に確認された。しかし、ガス圧力が20トール,40トールと高くなるに従って、全ての発光強度が激減した。このことは、圧力の増加によってガスの電離が抑制され、プラズマ中の活性種の濃度が減少したことを示す。すなわち、ガス圧力の増加は、炭化チタンの生成を減少させる一番の原因といえる。
【0011】次いで、表面を炭化したチタニアをアセトアルデヒドの光分解に使用し、光触媒としての性能を調査した。試験には、チタンテトライソプロポキシドを加水分解し、水洗・濾過後、空気中で500℃に2時間焼成したアナターゼ型のチタニアを試料Aとして使用した。また、試料Aを1トールの減圧雰囲気中でCH4 1%−H2 混合ガスを流量30ml/分で供給しながら500Wで2時間プラズマ処理した試料Bを使用した。試験は、アセトアルデヒド濃度1000ppm,反応器容積2リットル,試料表面における紫外線強度2.0mW/cm2 の条件下で行った。試験結果を示す図5にみられるように、プラズマ処理で表面をTiCコーティングした試料Bは、試料Aに比較して2倍のアルデヒド光分解性能を示した。
【0012】
【発明の効果】以上に説明したように、本発明においては、電磁波で誘導されたプラズマで金属酸化物の粉体粒子を処理することにより、粒子表面を炭化物コーティングしている。形成されたコーティング層は、硬質で電気伝導性,熱伝導性等に優れているため、粉体粒子に高機能が付与され、しかも耐摩耗性が改善されていることから、寿命の長い触媒等の機能材料として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明で使用する電磁波プラズマ加熱装置
【図2】 メタン−水素混合ガスに電磁波を照射して発生させたプラズマの発光スペクトルに及ぼすガス圧の影響
【図3】 チタニアと炭化チタンのラマンスペクトル
【図4】 雰囲気圧に応じたラマンスペクトルの変化
【図5】 プラズマ処理の有無がチタニアの光触媒機能に及ぼす影響
【符号の説明】
1:電磁波発振器 2:アイソレータ 3:パワーモニター
4:スリースタブチューナ 5:反応室 6:プランジャー
7:石英製反応管 8:スターラ 9:トラップ 10:真空ポンプ
11:真空ゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属酸化物の粉体を収容した容器を真空引きし、前記容器を回転させながらメタンと水素との混合ガスを供給すると共に、前記粉体に電磁波を照射してプラズマを発生させ、該プラズマによりメタンを分解して得られる炭素と前記粉体中の格子状酸素とを置換し、前記粉体の粒子表面に炭化物を付着させることを特徴とするプラズマCVDによる炭化物コーティング方法。
【請求項2】 請求項1記載の容器を毎分20〜100回転の速度で回転させる炭化物コーティング方法。
【請求項3】 周波数1MHz〜10GHzの電磁波を照射する請求項1記載の炭化物コーティング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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