説明

プラズモン励起センサチップおよびこれを用いたプラズモン励起センサ、並びにアナライトの検出方法

【課題】本発明は、蛍光消光、検体中のアナライト等の非特異吸着、および非特異吸着等に起因するセンサ表面での散乱ノイズ等の問題点を克服することにより、アナライト検出を高感度かつ安定的に行うことができるプラズモン励起センサを提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、透明誘電体基板の表面に金属薄膜が形成され、該金属薄膜の表面に透明誘電体層が形成された構造を有し、且つ、該透明誘電体層の表面における空気中での水との接触角が0°以上50°以下であるプラズモン励起センサチップ、及び、これを用いたプラズモン励起センサを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中のアナライトを高感度に検出するプラズモン励起センサチップおよびこれを用いたプラズモン励起センサに関する。さらに本発明は、当該プラズモン励起センサ上で検体を基板に接触させ、これにより固定化された検体中のアナライトを、プラズモン蛍光測定を用いて高感度に検出するアナライトの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検体中に含まれるアナライトを検出する方法として、プラズモン共鳴を利用した方法が知られている。しかし、よりアナライトの微量検出への要求が根強いことから、現在でも高感度検出に向けた研究開発が種々行われている。
【0003】
プラズモン共鳴を利用したアナライトの検出方法として、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)を用いた方法が広く用いられている。ここで、SPFSとは、照射したレーザ光が金属薄膜表面で全反射減衰(ATR)する条件において、金属薄膜表面に粗密波(表面プラズモン)を発生させることによって、照射したレーザ光が有するフォトン量を数十倍〜数百倍に増やし(表面プラズモンの電場増強効果)、これにより金属薄膜表面近傍の蛍光分子を効率良く励起させることによって、極微量および/または極低濃度のアナライトを検出することができる方法である。
【0004】
ところが、SPFSでは、蛍光分子が金属薄膜と近接した位置にあると、励起された蛍光分子のエネルギーが金属薄膜に移動するために蛍光発光が起こらなくなる現象である金属消光が生じることがある。このような金属消光は高感度測定の障害となることから、通常、金属薄膜表面に誘電体からなる層が形成される。また、SPFSを用いた検出方法においては、タンパク等が非特異吸着するために散乱ノイズが増大する問題点があり、高感度且つ安定的な測定の障害となることがある。
【0005】
このような問題点を克服する試みとして、例えば、特開2008−102117号公報(特許文献1)は、蛍光分子が金属薄膜に近接することを防ぐために、ポリマーからなる10〜100nmの厚さの不撓性膜を金属薄膜表面に形成させた表面プラズモン増強蛍光センサを開示している。この特許文献1には、タンパク等が不撓性膜に非特異吸着することを抑制するために、不撓性膜の上に親水性リンカーを形成することが記載されている。ただ、上記特許文献1においては、表面プラズモン増強蛍光センサ表面における親水性の程度についての具体的な検討がなされていない。
【0006】
また、これに関連して、特開2008−209378号公報(特許文献2)は、正荷電を有するタンパク等による非特異吸着を抑制するために、pKaが8以下の解離性基を含む親水性高分子化合物を、金属薄膜に結合させたバイオセンサ基板を開示している。さらに、特開2008−209379号公報(特許文献3)は、基板上に無機酸化物から形成される膜と生理活性物質固定化基を有する親水性高分子とを有するバイオセンサ用基板を開示している。ただし、特許文献2および3に記載のバイオセンサ用基板は、いずれも表面プラズモン共鳴(SPR)に用いられるものであり、SPFSに用いられるとの記載はない。また、これらの特許文献2および3のいずれも、プラズモンセンサ基板の表面における親水性の程度について具体的な検討がなされていない。
【0007】
一方、親水性を有する無機化合物としてシリカなどが知られている。これに関連して、金属薄膜表面に形成する誘電体として無機化合物を用いたセンサとして、特表2003−533691号公報(特許文献4)には、SPR基板の表面に誘電体層としてSiO2をコートしたセンサ構造が開示されている。しかし、特殊な処理をしない限り、形成しただけのSiO2では親水性は発現されず、また特許文献4には、センサ構造におけるSiO2表面の親水性については何ら記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−102117号公報
【特許文献2】特開2008−209378号公報
【特許文献3】特開2008−209379号公報
【特許文献4】特表2003−533691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
親水性表面を形成したプラズモンセンサを用いてアナライト検出を行う試みは種々行われているものの、実際の使用において、測定までの各種工程において汚れが付着等することにより、測定時におけるセンサ表面の親水性が低下する場合がある。このような場合、センサ表面への非特異吸着が多くなり、高感度且つ安定的な測定を充分に行うことができないことがある。また、従来公知のプラズモンセンサには、金属薄膜がセンサ基板から剥離する場合があるなど耐久性についての問題点もある。
【0010】
そこで、本発明は、蛍光消光、検体中のアナライト等の非特異吸着、および非特異吸着等に起因するセンサ表面での散乱ノイズ等の問題点を克服することにより、アナライト検出を高感度かつ安定的に行うことができるプラズモン励起センサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、プラズモン励起センサに関し、鋭意検討を行っていたところ、金属薄膜の表面に、一定の親水性を有する親水性誘電体層を形成することによって、蛍光分子の消光を抑制することができるとともに、検体中のアナライトの非特異吸着も抑制することができ、これによってアナライトの測定を高感度かつ安定的に行うことができることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の第1の態様に係るプラズモン励起センサチップは、
透明誘電体基板の表面に金属薄膜が形成され、
該金属薄膜の表面に透明誘電体層が形成された
構造を有し、且つ、
該透明誘電体層の表面における空気中での水との接触角が0°以上50°以下である
ことを特徴とする。
【0013】
本発明のプラズモン励起センサチップは、前記接触角が0°以上30°以下であることが好ましい。
本発明のプラズモン励起センサチップにおいて、透明誘電体層が、無機酸化膜および親水性有機分子膜のうちの少なくともいずれか1つからなることが好ましい。
【0014】
透明誘電体層に用いられる無機酸化膜として、シリカまたはチタニアを含む無機酸化膜が挙げられる。シリカを含む無機酸化膜は、好適にはシリカ前駆モノマーによる表面処理により形成され、チタニアを含む無機酸化膜は、好適にはチタニア前駆モノマーによる表面処理により形成される。
【0015】
透明誘電体層に用いられる親水性有機分子膜として、ポリアルキレンオキサイド構造、ポリオール構造、ポリアミン構造、3級アミン構造、4級アンモニウム構造およびホスホリルコリン構造のうち少なくともいずれか1つを有する親水性有機分子膜が挙げられる。
【0016】
本発明のプラズモン励起センサチップにおいて、上記透明誘電体層の厚さが、5nm〜80nm、あるいは、200nm〜1000nmであることが好ましい。
本発明のプラズモン励起センサチップの一実施態様として、透明誘電体基板が、金属薄膜形成用平面、プリズム部およびサンプル保持部を含む一体化構造体ブロックであるプラズモン励起センサチップが挙げられる。その一態様において、一体化構造体ブロックは、樹脂製のブロックである。
【0017】
本発明の第2の態様に係るプラズモン励起センサは、上記第1の態様に係るプラズモン励起センサチップの、前記透明誘電体層が存在する表面にリガンドが結合していることを特徴とする。
【0018】
本発明のプラズモン励起センサで用いられるリガンドの例として、抗体が挙げられる。
本発明の第3の態様に係るアナライトの検出方法は、
工程(p):上記第2の態様に係るプラズモン励起センサに検体を接触させる工程、および
工程(q):該プラズモン励起センサに形成したアナライト−リガンド複合体の生成を、表面プラズモン共鳴を通じて増強された蛍光発光に基づいて検出する工程
を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の検出方法において、工程(q)は、典型的には前記アナライト−リガンド複合体に結合した蛍光分子からの蛍光発光を検出することにより行われる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るプラズモン励起センサチップをプラズモン励起センサに用いることにより、蛍光消光、検体中のアナライト等の非特異吸着およびそれに伴う基板表面での散乱ノイズ、ならびに金属薄膜の剥離を抑制することができ、また、耐久性も向上することから、アナライト検出を高感度かつ安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るプラズモン励起センサの基本構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について、図1を参照しながら具体的に説明する。
〔プラズモン励起センサチップ〕
本発明に係るプラズモン励起センサチップ11は、
透明誘電体基板111の表面に金属薄膜112が形成され、
該金属薄膜112の表面に透明誘電体層113が形成された
構造を有し、且つ、
該透明誘電体層113の表面における空気中での水との接触角が0〜50°であることを特徴とする。
すなわち、本発明に係るプラズモン励起センサチップ11は、透明誘電体基板111、金属薄膜112、および一定の親水性を有する透明誘電体層113を含んでいる。
【0023】
《透明誘電体基板》
本発明において、プラズモン励起センサチップ11の構造を支持する誘電体基板として透明誘電体基板111が用いられる。本発明において、誘電体基板として透明誘電体基板111を用いるのは、後述する金属薄膜112への光照射をこの誘電体基板を通じて行うからである。
【0024】
後述するように、この金属薄膜112は透明誘電体基板111の表面に形成されることから、本発明で用いられる透明誘電体基板111は、少なくとも金属薄膜形成用平面を有している。このような透明誘電体基板111の一例として、透明平面基板が挙げられる。また、本発明で用いられる透明誘電体基板111は、金属薄膜形成用平面に加えて、プリズム部、サンプル保持部などの他の構成要素をさらに含んでいてもよい。例えば、金属薄膜形成用平面、プリズム部およびサンプル保持部を含む一体化構造体ブロックであってもよい。
【0025】
本発明で用いられる透明誘電体基板111について、本発明の目的が達せられる限り、材質に特に制限はない。例えば、この透明誘電体基板111が、ガラス製であってもよく、また、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)などの光学樹脂製であってもよい。
また、透明誘電体基板111は、d線(588nm)における屈折率〔nd〕が好ましくは1.40〜2.20である。
【0026】
(1)透明平面基板
本発明で透明誘電体基板111として用いられる透明平面基板は、通常、ガラス製または、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)などの光学樹脂製の透明平面基板である。
【0027】
透明誘電体基板111としてガラス製の透明平面基板を用いる場合、市販品として、SCHOTT AG社製のBK7(屈折率〔nd〕1.52)およびLaSFN9(屈折率〔nd〕1.85)、(株)住田光学ガラス製のK−PSFn3(屈折率〔nd〕1.84)、K−LaSFn17(屈折率〔nd〕1.88)およびK−LaSFn22(屈折率〔nd〕1.90)、並びに(株)オハラ製のS−LAL10(屈折率〔nd〕1.72)などが、光学的特性と洗浄性との観点から好ましい。
【0028】
プリズム部透明誘電体基板111として用いられる透明平面基板について、厚さが好ましくは0.01〜10mm、より好ましくは0.5〜5mmであれば、大きさ(縦×横)は特に限定されない。
【0029】
透明誘電体基板111として用いられる透明平面基板は、その表面に金属薄膜112を形成する前に、その表面を酸および/またはプラズマにより洗浄することが好ましい。
酸による洗浄処理としては、0.001〜1Nの塩酸中に、1〜3時間浸漬することが好ましい。
プラズマによる洗浄処理としては、例えば、プラズマドライクリーナー(ヤマト科学(株)製のPDC200)中に、0.1〜30分間浸漬させる方法が挙げられる。
【0030】
(2)一体化構造体ブロック
本発明で透明誘電体基板111として用いられる一体化構造体ブロックは、金属薄膜形成用平面、プリズム部およびサンプル保持部を含む。この一体化構造体ブロックは、金属薄膜形成用平面とプリズム部とが一体化された構造を有しており、この金属薄膜形成用平面は、プリズム部における光反射面に位置する。また、一体化構造体ブロックは、この金属薄膜形成用平面を囲うように連続的に形成された側面構造を有しており、この側面構造と金属薄膜形成用平面とからなる凹部がサンプル保持部を構成している。すなわち、金属薄膜形成用平面はサンプル保持部の底面を構成し、側面構造はサンプル保持部の側面を構成する。本発明で透明誘電体基板111として一体化構造体ブロックを用いる利点としては、プラズモン励起センサチップの交換が容易となることから、アナライト検出のハイスループット化が可能となる点、および、金属薄膜形成用平面とプリズム部とが一体化された構造により金属薄膜形成用平面とプリズム部との界面における入射光の反射を抑制できる点にある。
【0031】
この一体化構造体ブロックは、通常、ガラス製または樹脂製のブロックである。特に、価格、成形性、成形による光学特性低下の少なさなどの理由から、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)などの光学樹脂製のブロックが、一体化構造体ブロックの用途に好適に用いられる。透明誘電体基板111として用いられる一体化構造体ブロックは、例えば、原料樹脂を射出成形することにより形成することができるし、(日本ゼオン株式会社製 ZEONEX(登録商標) 330R(屈折率1.50)など)の市販品を使用することもできる。なお、本発明で用いられる一体化構造体ブロックでは、金属薄膜形成用平面とプリズム部とが一体化されていることから大きさは特に限定されない。
【0032】
なお、透明誘電体基板111として一体化構造体ブロックを用いる場合においても、その表面に金属薄膜112を形成する前に、その表面を酸および/またはプラズマにより洗浄することが好ましい。酸による洗浄処理およびプラズマによる洗浄処理の条件は、透明誘電体基板111として透明平面基板を用いる場合と同様である。
【0033】
《金属薄膜》
本発明に係るプラズモン励起センサチップ11では、透明誘電体基板111の一方の表面に金属薄膜112を形成する。金属薄膜112は、光源からの照射光により表面プラズモン励起を引き起こすことで電場を発生させる。ここで、アナライトの検出を蛍光分子からの発光量に基づいて行う場合、金属薄膜112による電場の発生により蛍光分子が発光し、さらに、その発光が増強される。
【0034】
上記透明誘電体基板111の一方の表面に形成された金属薄膜112としては、金、銀、アルミニウム、銅、および白金からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属からなることが好ましく、金からなることがより好ましい。これらの金属については、その合金の形態であってもよく、金属を積層したものであってもよい。このような金属種は、酸化に対して安定であり、かつ表面プラズモンによる電場増強が大きくなることから好適である。
【0035】
なお、透明誘電体基板111としてガラス製平面基板を用いる場合には、ガラスと上記金属薄膜112とをより強固に接着するため、あらかじめクロム、ニッケルクロム合金またはチタンの薄膜を形成することが好ましい。
【0036】
透明誘電体基板111上に金属薄膜112を形成する方法としては、例えば、スパッタリング法、蒸着法(抵抗加熱蒸着法、電子線蒸着法等)、電解メッキ、無電解メッキ法などが挙げられる。薄膜形成条件の調整が容易なことから、スパッタリング法または蒸着法によりクロムの薄膜および/または金属薄膜112を形成することが好ましい。
【0037】
金属薄膜112の厚さとしては、金:5〜500nm、銀:5〜500nm、アルミニウム:5〜500nm、銅:5〜500nm、白金:5〜500nm、およびそれらの合金:5〜500nmが好ましく、クロムの薄膜の厚さとしては、1〜20nmが好ましい。
【0038】
電場増強効果の観点から、金:20〜70nm、銀:20〜70nm、アルミニウム:10〜50nm、銅:20〜70nm、白金:20〜70nm、およびそれらの合金:10〜70nmがより好ましく、クロムの薄膜の厚さとしては、1〜3nmがより好ましい。
【0039】
金属薄膜112の厚さが上記範囲内であると、表面プラズモンが発生し易いので好適である。また、このような厚さを有する金属薄膜112であれば、大きさ(縦×横)は特に限定されない。
【0040】
《透明誘電体層》
本発明に係るプラズモン励起センサチップ11では、金属薄膜112の表面に透明誘電体層113が形成されている。金属薄膜112から生じる電場の効果を最大限に得る観点から、本発明においては、金属薄膜112の表面に透明誘電体層113が直接形成されていることが好ましい。プラズモン励起センサとして使用する際にアナライトなどの生体分子による非特異吸着を抑制し、それによりアナライト検出の際のアッセイ効率を向上させる観点から、透明誘電体層113は親水性表面を有しており、具体的には、透明誘電体層113の表面における空気中での水との接触角は0°以上50°以下、好ましくは0°以上30°以下である。
【0041】
ここで、本発明における「接触角」は、静的接触角であり、より具体的には、基板に溶液を滴下したときにこの液滴と基板とのなす角度、言い換えれば、液滴の気−液界面が基板と接する点においてこの気−液界面と基板表面とがなす角度である。一般に、基板表面における空気中での水との接触角が0°に近いほどその基板の親水性が高い。この接触角は、本発明で用いられる透明誘電体層における、空気中での水との接触角として、θ/2法など種々の従来公知の方法により測定することによって評価することができる。
【0042】
本発明で用いられる透明誘電体層113について、本発明の目的が達せられる限り、材質に特に制限はないものの、好適な透明誘電体層113として、無機酸化膜および親水性有機分子膜のうちの少なくともいずれか1つからなる透明誘電体層が挙げられる。
【0043】
ただ、透明誘電体層113は、その表面の材質及び構造によっては、使用前においては充分な親水性を有していても、使用するにつれて検体溶液などに含まれる諸成分が表面に付着し、親水性が経時劣化することがある。このような汚れの付着による接触角の増大は、溶媒として用いるバッファー溶液に浸漬しただけでも生じる場合がある。このような現象が生じると、アナライトなどの生体分子および蛍光分子などが非特異吸着しやすくなり、アッセイ効率が低下するおそれがある。この点を考慮すると、本発明で用いられる透明誘電体層113では、複数回の繰り返し使用においても接触角に変化がないこと、乾燥状態での保存中に1年程度接触角が変化しないこと、水中に浸したまま1週間程度放置した時の接触角変化が有意に小さいこと等が求められる。使用後における空気中での水との接触角もまた上記の角度であることが望ましい。具体的には、本発明で用いられる透明誘電体層113は、使用前における空気中での水との接触角のみならず、使用後における空気中での水との接触角もまた0°以上50°以下、好ましくは0°以上30°以下であるような透明誘電体層であることが望ましい。
【0044】
本発明で用いられる透明誘電体層113は、厚さが5nm〜80nmであると、金属薄膜112による蛍光消光を抑制しつつ充分な電場が得られることから好ましい。また、これより厚さが大きい場合でも、厚さが200nm〜1000nmであると、上記範囲の膜厚で導波モードにおける電場増強が最適化されるために充分な電場が得られるので好ましい。
【0045】
(1)無機酸化膜
本発明で透明誘電体層113として用いられる無機酸化膜は、主として親水性無機酸化物からなる膜である。ここで、親水性無機酸化物として、シリカおよびチタニアが挙げられるが、これらに限定されるものではない。透明誘電体層113をこのような無機酸化膜で構成すると、アナライト等の生体分子による非特異吸着を抑制することができるのでアッセイ効率が向上するほか、アナライトの検出の際に金属薄膜112による蛍光分子の消光を抑制することができ、さらに、金属薄膜112によりもたらされる電場増強の効果を向上できる利点がある。また、高い親水性により金属薄膜112の汚れを抑制することもできる。さらに、無機酸化膜を透明誘電体層113として用いると、上記透明誘電体基板111からの金属薄膜112の剥離を抑制することもできる。
【0046】
金属薄膜112に無機酸化膜を形成する方法は、特に限定されない。ただ、前記透明誘電体基板111の素材として光学樹脂など耐熱性が比較的低い素材が用いられた場合、高温条件を要する工程により無機酸化膜を形成すると、透明誘電体基板111が変形し、あるいは透明誘電体基板111の光学特性が損なわれるおそれがある。そのため、高温条件を要さない工程により無機酸化膜を形成する方法を用いることが望ましい。そのような方法として、金属薄膜112に対して、親水性無機酸化物からなる膜を形成可能な薬剤(以下、「親水性無機酸化膜形成剤」ともいう。)による表面処理を行う方法が挙げられる。本発明で用いられる「親水性無機酸化膜形成剤」は、所要の厚さの無機酸化膜を均一に形成できるよう、表面処理に用いる際には均一な液体または溶液の形で存在し、表面処理の過程で化学変化を起こして所要の無機酸化膜を形成できるような薬剤であることが望ましい。このような親水性無機酸化膜形成剤として、水の存在下で重合してポリマー状の無機酸化物を生じさせる無機酸化物前駆モノマーを好適に用いることができ、その代表例として、シリカ前駆モノマーおよびチタニア前駆モノマーが挙げられる。
【0047】
例えば、透明誘電体層113としてシリカ膜を形成する場合、テトラアルコキシシラン、ハロゲン化珪素、ポリシラザンなどのシリカ前駆モノマーによる表面処理を行うことにより透明誘電体層113を形成することができる。ここで、テトラアルコキシシランの例としては、テトラエトキシシラン等の低級アルコキシシランが挙げられる。
【0048】
また、透明誘電体層113としてチタニア膜を形成する場合、テトラアルコキシチタン、ハロゲン化チタンなどのチタニア前駆モノマーによる表面処理を行うことにより透明誘電体層113を形成することができる。
【0049】
これらの無機酸化物前駆モノマーによる表面処理は、金属薄膜112を構成する金属種に応じて、金属薄膜112表面にこれらの無機酸化物前駆モノマーを直接塗布することによって行ってもよいし、あるいは、金属薄膜112表面に適当なバインダー層(例えば、貴金属の酸化被膜や中間層、導波層等)を形成してから、このバインダー層に無機酸化物前駆モノマーを塗布することによって行ってもよい。例えば、貴金属の酸化被膜(例えば酸化銀、酸化アルミニウム)が用いられている場合、金属薄膜112に直接上記無機酸化物前駆モノマーによる表面処理をさらに行うことで、金属薄膜112表面に透明誘電体層113を形成することができる。
【0050】
この無機酸化物前駆モノマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、透明誘電体層113として用いられる無機酸化膜の表面には、後述する親水性有機分子膜に用いられる有機分子が直接または官能性シランカップリング剤を介してさらに結合していてもよい。例えば、無機酸化膜の表面に、フッ素系のポリマー被膜、PEG(ポリエチレングリコール)、MPC(ホスファチジルコリン)ポリマー等の有機分子からなる親水性構造がさらに形成されていてもよい。このとき、この有機分子からなる親水性構造には、後述するリガンド121をプラズモン励起センサチップ11に固定するためのリガンド固定用結合基として、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、ヒドロキシ基などの官能基が含まれていてもよい。
なお、形成する無機酸化膜の厚さは、使用する親水性無機酸化膜形成剤の濃度および反応時間などの反応条件を適宜調整することにより制御することができる。
【0051】
(2)親水性有機分子膜
本発明では、透明誘電体層113が親水性有機分子膜からなるものであってもよい。ここで、親水性有機分子膜は、表面に親水性基、例えば、ポリアルキレンオキサイド構造、ポリオール構造、ポリアミン構造、3級アミン構造、4級アンモニウム構造およびホスホリルコリン構造のうち少なくともいずれか1つを有する親水性有機分子膜が挙げられるが、これらに限定されるものではない。透明誘電体層113をこのような親水性有機分子膜で構成すると、アナライト等の生体分子による非特異吸着を抑制することができるのでアッセイ効率が向上するほか、アナライトの検出の際に金属薄膜112による蛍光分子の消光を抑制することができる。
【0052】
金属薄膜112に親水性有機分子膜を形成する方法は、特に限定されないが、その典型的な方法として、親水性有機分子膜からなる膜を形成可能な有機分子(以下、「親水性有機分子」ともいう。)による表面処理を行う方法が挙げられる。このような親水性有機分子として、金属薄膜112への結合性を有する親金属性官能基と親水性基とを有する有機分子が挙げられる。このような親金属性官能基の例として、チオール基などが挙げられる。また、親水性基の例として、ポリアルキレンオキサイド構造、ポリオール構造、ポリアミン構造、3級アミン構造、4級アンモニウム構造、ホスホリルコリン構造が挙げられる。
【0053】
本発明における好適な実施態様では、このような親水性有機分子として、ポリアルキレンオキサイド構造、ポリオール構造、ポリアミン構造、3級アミン構造、4級アンモニウム構造およびホスホリルコリン構造のうち少なくともいずれか1つを親水性基として有する親水性有機分子が用いられる。このような親水性有機分子の例として、PEG構造を有する親水性有機分子;グルコンアミドなどの糖類縁体構造を有する親水性有機分子;ジエタノールアミノ基などの低級ヒドロキシアルキルアミン構造を有する親水性有機分子;ポリエチレンイミン構造を有する親水性有機分子;エチレンジアミン三酢酸構造を有する親水性有機分子;トリメチルアンモニオ基などの低級アルキルアンモニウム構造を有する親水性有機分子;MPCポリマーなどのホスホリルコリン基含有ポリマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。このような親水性有機分子は、親金属性官能基及び該親金属性官能基とは異なる反応性基を有する第1の有機分子と、該反応性基と結合性を有する官能基及び上記親水性基を有する第2の有機分子とを結合させることによって形成させてもよい。ここで、第1の有機分子と第2の有機分子との結合は、その共重合体を形成することによって行われるものであってもよい。
【0054】
本発明においては、親水性有機分子膜を構成する親水性有機分子は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
親水性有機分子膜には、後述するリガンド121をプラズモン励起センサチップ11に固定するためのリガンド固定用結合基として、アミノ基、チオール基、カルボキシル基などの官能基を有していてもよい。このリガンド固定用結合基は、上記親水性基と同じでもよいし、異なっていてもよい。
【0055】
親水性有機分子膜は、上記親水性有機分子が、金属薄膜112への結合性を有する親金属性官能基とリガンド固定用結合基とを有する有機分子としても機能する態様のものであってもよいし、あるいは、金属薄膜112への結合性を有する親金属性官能基とリガンド固定用結合基とを有する有機分子と、上記親水性有機分子の両方が、それぞれ金属薄膜112表面に結合した状態で共存する態様のものであってもよい。
なお、形成する親水性有機分子膜の厚さは、使用する親水性有機分子の濃度および反応時間などの反応条件を適宜調整することにより制御することができる。
【0056】
〔プラズモン励起センサ〕
本発明の第2の態様は、
上述したプラズモン励起センサチップ11の、前記透明誘電体層113が存在する表面にリガンド121が結合しているプラズモン励起センサ10である。
【0057】
《リガンド》
本発明に係るプラズモン励起センサ10では、上述したプラズモン励起センサチップ11のうち、透明誘電体層113を形成した側の表面にリガンド121を結合させる。このリガンド121は、プラズモン励起センサ10に、検体中のアナライトを固定させる目的で用いられるものである。
【0058】
本発明において、「リガンド」とは、検体中に含有されるアナライトを特異的に認識し(または、認識され)結合し得る分子または分子断片をいう。このような「分子」または「分子断片」としては、例えば、核酸(一本鎖であっても二本鎖であってもよいDNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)等、またはヌクレオシド、ヌクレオチドおよびそれらの修飾分子)、タンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等)、アミノ酸(修飾アミノ酸も含む。)、糖質(オリゴ糖、多糖類、糖鎖等)、脂質、またはこれらの修飾分子、複合体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
「タンパク質」としては、例えば、抗体などが挙げられ、具体的には、抗αフェトプロテイン(AFP)モノクローナル抗体((株)日本医学臨床検査研究所などから入手可能)、抗ガン胎児性抗原(CEA)モノクローナル抗体、抗CA19−9モノクローナル抗体、抗PSAモノクローナル抗体などが挙げられる。
【0060】
なお、本発明において、「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体、遺伝子組換えにより得られる抗体、および抗体断片を包含する。
本発明においてリガンド121として抗体が用いられる場合、蛍光分子をアナライトと結合させる目的で、後述する工程(p−1)においてもリガンドが用いられることがある。そのため、本発明においては、プラズモン励起センサに予め固定されるリガンドを「第1のリガンド」と称し、後述する工程(p−1)で用いられるリガンドを「第2のリガンド」と称することがある。
【0061】
《リガンド固定態様》
本発明のプラズモン励起センサ10において、プラズモン励起センサチップ11への、リガンド121の結合態様は特に限定されるものではない。
【0062】
第1の結合態様として、リガンド121自体を透明誘電体層113表面に結合させる態様が挙げられる。例えば、上記透明誘電体層113が上記リガンド固定用結合基をすでに有している場合、常法により、リガンド121を透明誘電体層113表面に直接結合させることができる。一方、透明誘電体層113が上記無機酸化膜のみから形成されている場合など、透明誘電体層113が上記リガンド固定用結合基を有していない場合には、適当なリガンド固定用結合基を有するシランカップリング剤を作用させることにより、透明誘電体層113にリガンド固定用結合基を導入し、その後、このリガンド固定用結合基を介して常法によりリガンド121を透明誘電体層113表面に固定させてもよい。ここで導入されるリガンド固定用結合基は、上記透明誘電体層の項で上述したリガンド固定用結合基と同様のものである。ただ、リガンド固定用結合基を有するシランカップリング剤を作用させる場合、プラズモン励起センサ10が透明誘電体層113に基づく親水性を維持するよう、シランカップリング剤の反応位置や濃度を調整することが好ましい。
【0063】
また、第2の結合態様として、リガンド121を含む高分子構造体を透明誘電体層113表面に結合させることにより、リガンド121を透明誘電体層113表面に固定する態様が挙げられる。このような結合態様を採用することにより、多数のリガンド121をプラズモン励起センサチップ11に固定化することができ、高感度化の点から有利である。
【0064】
この第2の結合態様において用いられる高分子構造体として、デキストラン、置換、未置換のアクリルアミド、置換、未置換のアクリル酸、またはメタクリル酸等を少なくとも1種含有する共重合体など、三次元構造を有し且つ基板に対して実質的に隆起性の高分子からなる高分子骨格を含み、且つリガンド121が該高分子骨格に固定された構造を有するものが挙げられる。ここで、高分子骨格を構成する高分子の分子量は、隆起の程度の点から、50000〜1000000であることが好ましい。また、アッセイ感度の点から、リガンド121を含む高分子構造体からなる層は、10nm〜100nmの平均厚を有していることが好ましい。
【0065】
この高分子構造体は、典型的には、第1の結合態様の場合と同様、透明誘電体層113表面に直接、あるいはシランカップリング剤などの適当なカップリング剤を用いて導入されたリガンド固定用結合基を通じて結合している。ここで導入されるリガンド固定用結合基は、上記透明誘電体層の項で上述したリガンド固定用結合基と同様のものである。ただ、リガンド固定用結合基を有するシランカップリング剤を作用させる場合、プラズモン励起センサ10が透明誘電体層113に基づく親水性を維持するよう、シランカップリング剤の反応位置や濃度を調整することが好ましい。
【0066】
高分子構造体を透明誘電体層113表面に形成する方法として、一つには、あらかじめ前記高分子骨格にリガンド121を結合させて高分子構造体を形成してから、この高分子構造体を透明誘電体層113に結合させる方法が挙げられる。代わりに、最初に前記高分子骨格を透明誘電体層113に結合させて該高分子骨格をプラズモン励起センサチップ11に固定してから、この高分子骨格にリガンド121を結合させてもよい。このとき、透明誘電体層113への高分子構造体または高分子骨格の固定は、常法により行うことができる。
【0067】
ここで、高分子骨格にリガンド121を導入する方法として、アミノ基、カルボキシル基、イソチオシアネート基、マレイミド基、アルデヒド基、メルカプト基、ヒドラジノ基などの反応性官能基を導入してある高分子骨格に常法によりリガンド121を反応させ、共有結合、水素結合、配位結合、イオン結合などの結合を形成させる方法を用いてもよいし、あるいは、バイオアッセイの分野で多用されているビオチン−ストレプトアビジン結合(あるいは、ビオチン−アビジン結合)を形成させる方法を用いてもよい。
【0068】
ただ、本発明のプラズモン励起センサ10において、透明誘電体層113の表面はあくまで上記空気中での水との接触角に規定される親水性を有している必要がある。この点から、上記リガンド121およびリガンド121を含む高分子構造体のいずれを透明誘電体層113表面に結合させる場合においても、透明誘電体層113表面に直接結合させることが好ましい。
【0069】
〔アナライトの検出方法〕
本発明の第3の態様は、
工程(p):上述したプラズモン励起センサ10に検体を接触させる工程、および
工程(q):該プラズモン励起センサに形成したアナライト−リガンド複合体の生成を、表面プラズモン共鳴を通じて増強された蛍光発光に基づいて検出する工程
を含むアナライトの検出方法である。
【0070】
<工程(p)>
本発明の検出方法において、工程(p)は上述したプラズモン励起センサに検体を接触させる工程である。
【0071】
検体
本発明において、「検体」とは、本発明のアッセイ法による測定対象となる種々の試料をいう。
【0072】
「検体」としては、例えば、血液(血清・血漿)、尿、鼻孔液、唾液、便、体腔液(髄液、腹水、胸水等)などが挙げられ、所望の溶媒、緩衝液等に適宜希釈して用いてもよい。これら検体のうち、血液、血清、血漿、尿、鼻孔液および唾液が好ましい。これらは1種単独で用いてもよく、また、2種以上を併用してもよい。
なお、本発明の検出方法における検出対象となるアナライトが核酸等の場合には、後述する蛍光分子を予め導入した検体を上記「検体」として用いてもよい。
【0073】
アナライト
本発明において「アナライト」は、上記透明誘電体層113表面に固定化された第1のリガンド121を特異的に認識され(または、認識し)結合し得る分子または分子断片を意味する。このような「分子」または「分子断片」として、例えば、核酸(一本鎖であっても二本鎖であってもよいDNA、RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、PNA(ペプチド核酸)等、またはヌクレオシド、ヌクレオチドおよびそれらの修飾分子)、タンパク質(ポリペプチド、オリゴペプチド等)、アミノ酸(修飾アミノ酸も含む。)、糖質(オリゴ糖、多糖類、糖鎖等)、脂質、またはこれらの修飾分子、複合体などが挙げられ、具体的には、AFP(αフェトプロテイン)等のがん胎児性抗原や腫瘍マーカー、シグナル伝達物質、ホルモンなどであってもよく、特に限定されない。
【0074】
接触
本発明において、「接触」とは、プラズモン励起センサのリガンド121等が固定化されている面が送液中に浸漬されている状態で、この送液中に含まれる対象物をこのプラズモン励起センサと接触させることをいう。この「接触」によって、リガンド121と上記アナライトとが結合したアナライト−リガンド複合体が形成される。工程(p)では、上記検体とプラズモン励起センサとの「接触」は、流路中に循環する送液に検体が含まれ、プラズモン励起センサのリガンドが固定化されている片面のみが該送液中に浸漬されている状態において、プラズモン励起センサと検体とを接触させる態様が好ましい。
【0075】
上記「流路」とは、微量な薬液の送達を効率的に行うことができ、反応促進を行うために送液速度を変化させたり、循環させたりすることができる直方体または管状のものである。ここで、この流路の形状として、プラズモン励起センサを設置する個所近傍は直方体構造を有することが好ましく、薬液を送達する個所近傍は管状を有することが好ましい。
【0076】
その材料としては、プラズモン励起センサ部ではメチルメタクリレート、スチレン等を原料として含有するホモポリマーまたは共重合体;ポリエチレン等のポリオレフィンなどの光透過性の材質からなり、薬液送達部ではシリコーンゴム、テフロン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリマーを用いる。
【0077】
ただし、プラズモン励起センサ部については、蛍光測定時に流路が一定の形状に保たれ、且つプラズモン励起により発生した蛍光の検出が妨げられない限り、必ずしもその流路構造の全てを光透過性の材質のみから構成する必要はない。すなわち、プラズモン励起センサ部の流路のうち、プラズモン励起により発生した蛍光を透過させて検出部に導くために必要な部分、具体的には蛍光の集光に必要な透光窓を含む部分については、光透過性の材質で構成する必要があるが、その他の部分については、その一部または全部を光透過性の材質以外の化学的に安定な材質で構成してもよい。プラズモン励起センサ部の流路が直方体構造を有する場合、金属薄膜112および透明誘電体層113が表面に存在するプラズモン励起センサ10の面を底面としたときに、例えば、この底面と対向する位置にある天井面を光透過性の材質で構成し、側面を光透過性の材質以外の化学的に安定な材質で構成してもよい。
【0078】
ここで、前記その他の部分、例えば側面は、蛍光測定時に一定の形状が保たれる限り、必ずしも剛体である必要はなく、シール性を確保するために適度な弾性を有していてもよい。例えば、プラズモン励起センサ部の流路について、天井面をポリメチルメタクリレート(PMMA)で構成し、側面をシリコーンゴムで構成してもよい。
【0079】
プラズモン励起センサ部においては、検体との接触効率を高め、拡散距離を短くする観点から、プラズモン励起センサ部の流路の断面として、縦×横がそれぞれ独立に100nm〜1mm程度が好ましい。
【0080】
流路において、薬物送達部からプラズモン励起センサ部に送液を導入する送液導入口、及びその送液をプラズモン励起センサ部から排出する送液排出口の位置は、いずれも、蛍光測定の妨げとならない限り特に限定されない。例えば、プラズモン励起センサ部の流路が直方体構造を有する場合、前記送液導入口及び送液排出口とも天井面に設けるのが流路の作成上簡便であるが、この送液導入口と送液排出口とのうちいずれか一方、あるいはその両方を側面に設けてもよい。
【0081】
流路にプラズモン励起センサを固定する方法は、流路が一定の形状に保たれ、且つ蛍光測定が妨げられない限り特に限定されない。
このような固定方法の例としては、小規模ロット(実験室レベル)では、まず、プラズモン励起センサの金属薄膜112および透明誘電体層113が形成されている表面上に、一定の厚さを有するシリコーンゴム製シートまたはOリングを載せることによって流路の側面構造を形成し、次いで、その上に送液導入口及び送液排出口を設けてある光透過性の天板(例えば、PMMA基板)を配置することによって流路の天井面を形成し、その後、これらを圧着して適当な留め具により固定する方法などが挙げられる。このとき、側面構造を構成する材料として、その中央部に任意の形状および大きさを有する穴を開けてある、適当な厚さを有するシリコーンゴム製シートを用いると、この穴の内周がプラズモン励起センサ部の流路の側面構造となることから、所要の形状および大きさを有する流路を容易に形成することができるので好ましい。例えば、まず、該プラズモン励起センサの金属薄膜112が形成されている表面に、流路高さ0.5mmを有する穴あきポリジメチルシロキサン(PDMS)製シートを該プラズモン励起センサの金属薄膜112および透明誘電体層113が形成されている部位を囲むようにして配置し、次いで、このポリジメチルシロキサン(PDMS)製シートの上に、予め送液導入口及び送液排出口を設けてあるPMMA基板を配置し、その後、該PMMA基板と該ポリジメチルシロキサン(PDMS)製シートと該プラズモン励起センサとを圧着し、ビス等の留め具により固定する方法が好ましい。また、プラズモン励起センサに、シリコーンゴム製シートまたはOリングと光透過性の天板とを圧着し、固定するにあたっては、必要に応じて、シリコーンゴムまたはステンレスなどの材質でできた適当なスペーサーを併用してもよい。
【0082】
また、工業的に製造される大ロット(工場レベル)では、流路にプラズモン励起センサを固定する方法としては、プラスチックの一体成形品に直接金基板を形成するか或いは別途作製した金基板を固定し、金表面に誘電体層、SAM層およびリガンド固定化を行った後、流路の天板に相当するプラスチックの一体成形品により蓋をすることで製造できる。必要に応じてプリズムを流路に一体化することもできる。
【0083】
なお、透明誘電体基板111として一体化構造体ブロックを用いる場合、サンプル保持部として側面構造がすでに形成されていることから、一体化構造体ブロックの上に送液導入口及び送液排出口を設けてある光透過性の天板(例えば、PMMA基板)を配置することによって流路の天井面を形成し、その後、これらを圧着して適当な留め具により固定することにより流路にプラズモン励起センサを固定することができる。
【0084】
「送液」としては、検体を希釈した溶媒または緩衝液と同じものが好ましく、例えば、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝生理食塩水(TBS)などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0085】
送液を循環させる温度および時間としては、検体の種類などにより異なり、特に限定されるものではないが、通常20〜40℃×1〜60分間、好ましくは37℃×5〜15分間である。
【0086】
送液中の検体中に含有されるアナライトの初期濃度は、100μg/mL〜0.0001pg/mLであってもよい。
送液の総量、すなわち流路の容積としては、通常0.0001〜20mL、好ましくは0.01〜1mLである。
送液の流速は、通常1〜2,000μL/min、好ましくは5〜500μL/minである。
【0087】
洗浄工程
洗浄工程とは、工程(p)を経て得られたプラズモン励起センサの表面、および後述する工程(p−1)を経て得られるプラズモン励起センサの表面のうち少なくともいずれか一方を洗浄する工程である。
【0088】
洗浄工程に使用される洗浄液としては、例えば、Tween20、TritonX100などの界面活性剤を、工程(p)および(p−1)の反応で用いたものと同じ溶媒または緩衝液に溶解させ、好ましくは0.00001〜1重量%含有するものが望ましい。
【0089】
洗浄液を循環させる温度および流速は、工程(p)の「送液を循環させる温度および流速」と同じであることが好ましい。
洗浄液を循環させる時間は、通常0.5〜180分間、好ましくは5〜60分間である。
【0090】
<工程(p−1)>
前記リガンドとして抗体を用いる場合、本発明の検出方法には工程(p−1)として、前記工程(p)により検体を接触させたプラズモン励起センサに、第2のリガンドと蛍光分子とからなるコンジュゲートを接触させ、これらを反応させる工程がさらに含まれる。この工程(p−1)において、前記工程(p)でプラズモン励起センサに形成したアナライト−リガンド複合体の蛍光修飾を行うことにより、後述する工程(q)においてアナライト−リガンド複合体の生成量を蛍光発光量の形で定量することが可能となる。
【0091】
蛍光分子
本発明において、「蛍光分子」とは、本発明において、所定の励起光を照射する、または電界効果を利用して励起することによって蛍光を発光する分子を意味し、該「蛍光」は、燐光など各種の発光も含む。
【0092】
本発明で蛍光分子として用いられる蛍光色素は、その種類に特に制限はなく、公知の蛍光色素のいずれであってもよい。一般に、単色比色計(monochromometer)よりむしろフィルタを備えた蛍光計の使用をも可能にし、かつ検出の効率を高める大きなストークス・シフトを有する蛍光色素が好ましい。
【0093】
このような蛍光色素としては、例えば、フルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(Integrated DNA Technologies社製)、ポリハロフルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(アプライドバイオシステムズジャパン(株)製)、ヘキサクロロフルオレセイン・ファミリーの蛍光色素(アプライドバイオシステムズジャパン(株)製)、クマリン・ファミリーの蛍光色素(インビトロジェン(株)製)、ローダミン・ファミリーの蛍光色素(GEヘルスケア バイオサイエンス(株)製)、シアニン・ファミリーの蛍光色素、インドカルボシアニン・ファミリーの蛍光色素、オキサジン・ファミリーの蛍光色素、チアジン・ファミリーの蛍光色素、スクアライン・ファミリーの蛍光色素、キレート化ランタニド・ファミリーの蛍光色素、BODIPY(登録商標)・ファミリーの蛍光色素(インビトロジェン(株)製)、ナフタレンスルホン酸・ファミリーの蛍光色素、ピレン・ファミリーの蛍光色素、トリフェニルメタン・ファミリーの蛍光色素、Alexa Fluor(登録商標)色素シリーズ(インビトロジェン(株)製)などが挙げられ、さらに米国特許番号第6,406,297号、同第6,221,604号、同第5,994,063号、同第5,808,044号、同第5,880,287号、同第5,556,959号および同第5,135,717号に記載の蛍光色素も本発明で用いることができる。
【0094】
これらのファミリーに含まれる代表的な蛍光色素の吸収波長(nm)および発光波長(nm)を表1に示す。
【0095】
【表1】

また、蛍光分子として用いられる蛍光色素は、上記有機蛍光色素に限られない。例えば、例えばEu、Tb等の希土類錯体系の蛍光色素も、本願発明に用いられる蛍光分子となりうる。希土類錯体は、一般的に励起波長(310〜340nm程度)と発光波長(Eu錯体で615nm付近、Tb錯体で545nm付近)との波長差が大きく、蛍光寿命が数百マイクロ秒以上と長い特徴がある。市販されている希土類錯体系の蛍光色素の一例としては、ATBTA−Eu3+が挙げられる。
【0096】
本発明においては、後述する蛍光測定を行う際に、蛍光分子が金属薄膜112と近接しているときには金属薄膜112による蛍光の消光が生じていることが好ましいが、蛍光分子が金属薄膜112から離れているときには金属薄膜112による蛍光の消光の影響を少なくすることが好ましい。そのため、金属薄膜112に含まれる金属による吸光が適度に生じる波長領域に最大蛍光波長を有する蛍光色素を用いることが望ましい。例えば、金属薄膜112として金を用いる場合には、最大蛍光波長が600〜700nmの範囲にある蛍光色素を使用することが望ましい。このような蛍光色素として、例えば、Cy5、Alexa 647などが挙げられ、特にAlexa 647を使用することが望ましい。一方、金属薄膜112として銀を用いる場合には、最大蛍光波長が400〜700nmの範囲にある蛍光色素を使用することが望ましい。
これらの蛍光色素は1種単独で用いてもよく、また2種以上併用してもよい。
【0097】
第2のリガンドと蛍光分子とからなるコンジュゲート
「第2のリガンドと蛍光分子からなるコンジュゲート」は、リガンドとして2次抗体を用いる場合、検体中に含有されるアナライト(標的抗原)を認識し結合し得る抗体であることが好ましい。
【0098】
本発明のアッセイ法において、第2のリガンドは、アナライトに蛍光分子による標識化を行う目的で用いられるリガンドであり、前記第1のリガンド121と同じでもよいし、異なっていてもよい。ただし、第1のリガンド121として用いる1次抗体がポリクローナル抗体である場合、第2のリガンドとして用いる2次抗体は、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよいが、該1次抗体がモノクローナル抗体である場合、2次抗体は、該1次抗体が認識しないエピトープを認識するモノクローナル抗体であるか、またはポリクローナル抗体であることが望ましい。
【0099】
さらに、検体中に含有されるアナライト(標的抗原)と競合する第2のアナライト(競合抗原;ただし、標的抗原とは異なるものである。)と2次抗体とがあらかじめ結合した複合体を用いる態様も好ましい。このような態様は、蛍光信号(蛍光シグナル)量と標的抗原量とを比例させることができるため好適である。
【0100】
「第2のリガンドと蛍光分子とからなるコンジュゲート」の作製方法としては、第2のリガンドとして2次抗体を用いる場合、例えば、まず蛍光色素にカルボキシル基を付与し、該カルボキシル基を、水溶性カルボジイミド(WSC)(例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)など)とN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)とにより活性エステル化し、次いで活性エステル化したカルボキシル基と2次抗体が有するアミノ基とを水溶性カルボジイミドを用いて脱水反応させ固定化させる方法;イソチオシアネートおよびアミノ基をそれぞれ有する2次抗体および蛍光色素を反応させ固定化する方法;スルホニルハライドおよびアミノ基をそれぞれ有する2次抗体および蛍光色素を反応させ固定化する方法;ヨードアセトアミドおよびチオール基をそれぞれ有する2次抗体および蛍光色素を反応させ固定化する方法;ビオチン化された蛍光色素とストレプトアビジン化された2次抗体(あるいは、ストレプトアビジン化された蛍光色素とビオチン化された2次抗体)とを反応させ固定化する方法などが挙げられる。
【0101】
このように作製された「第2のリガンドと蛍光分子とからなるコンジュゲート」の送液中の濃度は、0.001〜10,000μg/mLが好ましく、1〜1,000μg/mLがより好ましい。
送液を循環させる温度、時間および流速は、それぞれ上記工程(p)の場合と同様である。
【0102】
<工程(q)>
本発明の検出方法において、工程(q)は、前記工程(p)を経て得られたプラズモン励起センサに形成したアナライト−リガンド複合体の生成を、表面プラズモン共鳴を通じて増強された蛍光発光に基づいて検出する工程である。工程(q)は、通常、アナライト−リガンド複合体に結合した蛍光分子からの蛍光発光を検出することにより行われ、具体的には、工程(p)および必要に応じて行われる工程(p−1)を経て得られたプラズモン励起センサについて、透明誘電体基板111の、金属薄膜112とは反対側の表面から、プリズムを経由してレーザ光を照射し、表面プラズモン共鳴を通じて励起された蛍光分子から発光された蛍光量を測定することにより行われる。
【0103】
光学系
本発明で用いる光源は、前記金属薄膜112にプラズモン励起を生じさせることができるものであれば、特に制限がないものの、波長分布の単一性および光エネルギーの強さの点で、レーザ光を光源として用いることが好ましい。レーザ光は、光学フィルタを通して、プリズムに入射する直前のエネルギーおよびフォトン量を調節することが望ましい。
【0104】
レーザ光の照射により、全反射減衰条件(ATR)において、金属薄膜112の表面に表面プラズモンが発生する。表面プラズモンの電場増強効果により、照射したフォトン量の数十〜数百倍に増えたフォトンにより蛍光分子を励起する。なお、該電場増強効果によるフォトン増加量は、透明誘電体基板111の屈折率、金属薄膜112の金属種および膜厚に依存するが、通常、金では約10〜20倍の増加量となる。
【0105】
蛍光分子は、光吸収により分子内の電子が励起され、短時間のうちに第一電子励起状態に移動し、この状態(準位)から基底状態に戻る際、そのエネルギー差に相当する波長の蛍光を発する。
【0106】
「レーザ光」としては、例えば、波長200〜900nm、0.001〜1,000mWのLD(laser diode)レーザ、波長230〜800nm(金属薄膜112に用いる金属種によって共鳴波長が決まる。)、0.01〜100mWの半導体レーザなどが挙げられる。
【0107】
「プリズム」は、各種フィルタを介したレーザ光が、プラズモン励起センサに効率よく入射することを目的としており、屈折率が透明誘電体基板111と同じであることが好ましい。本発明は、全反射条件を設定できる各種プリズムを適宜選択することができることから、角度、形状に特に制限はなく、例えば、60度分散プリズムなどであってもよい。このようなプリズムの市販品としては、上述した「ガラス製の透明平面基板」の市販品と同様のものが挙げられる。なお、プリズムは、一体化構造体ブロックのプリズム部として上記透明誘電体基板111に組み込まれていてもよい。
【0108】
「光学フィルタ」としては、例えば、減光(ND)フィルタ、ダイアフラムレンズなどが挙げられる。「減光(ND)フィルタ」(または、中性濃度フィルタ)は、入射レーザ光量を調節することを目的とするものである。特に、ダイナミックレンジの狭い検出器を使用するときには精度の高い測定を実施する上で用いることが好ましい。
【0109】
「偏光フィルタ」は、レーザ光を、表面プラズモンを効率よく発生させるP偏光とするために用いられるものである。
「カットフィルタ」は、外光(装置外の照明光)、励起光(励起光の透過成分)、迷光(各所での励起光の散乱成分)、プラズモンの散乱光(励起光を起源とし、プラズモン励起センサ表面上の構造体または付着物などの影響で発生する散乱光)、酵素蛍光基質の自家蛍光、などの各種ノイズ光を除去するフィルタであって、例えば、干渉フィルタ、色フィルタなどが挙げられる。
【0110】
「集光レンズ」は、検出器に蛍光シグナルを効率よく集光することを目的とするものであり、任意の集光系でよい。簡易な集光系として、顕微鏡などで使用されている、市販の対物レンズ(例えば、(株)ニコン製またはオリンパス(株)製等)を転用してもよい。対物レンズの倍率としては、10〜100倍が好ましい。
【0111】
「SPFS検出部」としては、超高感度の観点からは光電子増倍管(浜松ホトニクス(株)製のフォトマルチプライヤー)が好ましい。また、これらに比べると感度は下がるが、画像として見ることができ、かつノイズ光の除去が容易なことから、多点計測が可能なCCDイメージセンサも好適である。
【0112】
駆動装置
本発明において、上記光学系は「駆動装置」の形で統合されていてもよい。本発明の駆動装置は、上記プラズモン励起センサを用いて、本発明を実施するためのものである。
【0113】
「駆動装置」としては、少なくとも光源、各種光学フィルタ、プリズム、カットフィルタ、集光レンズおよびSPFS検出部を含むものとする。なお、検体液、洗浄液などを取り扱う際に、プラズモン励起センサと組み合った送液系を有することが好ましい。送液系としては、本発明の目的が達せられる限り、その種類を問わない。例えば、液ポンプと連結したマイクロ流路デバイスなどでもよい。
【0114】
また、表面プラズモン共鳴(SPR)検出部、すなわちSPR専用の受光センサとしてのフォトダイオード、SPRおよびSPFSの最適角度を調製するための角度可変部(サーボモータで全反射減衰(ATR)条件を求めるためにフォトダイオードと光源とを同期して、30〜85°の角度変更を可能とする。分解能は0.01°以上が好ましい。)、SPFS検出部に入力された情報を処理するためのコンピュータなども含んでもよい。
【0115】
光源、光学フィルタ、カットフィルタ、集光レンズおよびSPFS検出部の好ましい態様は上述したものと同様である。
「送液ポンプ」としては、例えば、送液が微量な場合に好適なマイクロポンプ、送り精度が高く脈動が少なく好ましいが循環することができないシリンジポンプ、簡易で取り扱い性に優れるが微量送液が困難な場合があるチューブポンプなどが挙げられる。
【0116】
<工程(r)>
本発明のアッセイ法において、工程(r)は、前記工程(q)で得られた測定結果から、前記検体中に含まれるアナライトの量を算出する工程である。
【0117】
より具体的には、既知濃度の標的抗原もしくは標的抗体での測定を実施することで検量線を作成し、作成された検量線に基づいて被測定検体中の標的抗原量もしくは標的抗体量を測定シグナルから算出する工程である。
【0118】
アッセイS/N比
さらに、工程(r)においては、上記工程(p)の前に測定した“ブランク蛍光シグナル”、上記工程(q)で得られた“測定蛍光シグナル”、および何も修飾していない金属基板を流路に固定し、超純水を流しながらSPFSを測定して得られたシグナルを“初期ノイズ”としたとき、下記式(1a)で表されるアッセイS/N比を算出することができる:
アッセイS/N比=|Ia/Io|/In (1a)
(上記式(1a)において、Iaはアッセイ蛍光シグナル、Ioはブランク蛍光シグナル、Inは初期ノイズである)。
【0119】
ただし、アッセイS/N比を算出するにあたっては、実用上、上記式(1a)に代えて、検体中に含まれるアナライトの濃度が0の場合における"アッセイノイズシグナル"を基準として、下記式(1b)にしたがって算出してもよい:
アッセイS/N比=|Ia|/|Ian| (1b)
(上記式(1b)において、Ianはアッセイノイズシグナル、Iaは上記式(1a)の場合と同様にアッセイ蛍光シグナルである)。
【実施例】
【0120】
<標識二次抗体1:「Alexa Fluor 647」標識抗AFPモノクローナル抗体の調製>
抗αフェトプロテイン(AFP)モノクローナル抗体(6D2、2.5mg/mL、ミクリ免疫研究所(株)製)を、市販のAlexa Fluor647ラベリングキット(Molecular Probes社製)により調製し、Alexa Fluor 647標識抗AFPモノクローナル抗体溶液を得た。
【0121】
得られた抗体溶液はタンパク質、蛍光色素濃度を吸光度測定器により定量後、4℃で保存した。
以下の実施例および比較例で用いた標識抗体は、すべて同様の方法により調製されたものである。
【0122】
[比較例1]
(工程1:金属薄膜の形成)
厚さ1mmのガラス製の透明平面基板「S-LAL 10」((株)オハラ製。屈折率〔nd〕=1.72)を、プラズマドライクリーナーでプラズマ洗浄した。プラズマ洗浄された基板表面に金薄膜をスパッタリング法により形成した。金薄膜の厚さは52nmであった。
【0123】
(工程2:カルボキシメチルデキストランの結合)
前記工程1により得られた基板を、10−アミノ−1−デカンチオールを1mM含むエタノール溶液に12時間以上浸漬し、金薄膜の片面にSAM(Self Assembled Monolayer;自己組織化単分子膜)を形成した。この基板を、前記エタノール溶液から取り出し、エタノールおよびイソプロパノールでそれぞれ洗浄した後、エアガンを用いて乾燥させた。得られたSAMが固定化された金属基板をカルボキシメチルデキストラン(名糖産業(株)製、分子量500万、置換度1.08)1mg/mL水溶液に浸漬した。更に、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC:(株)同人化学研究所製)、N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS:Thermo Scientific社製)をそれぞれ0.5mMになるように加え1.5時間室温で反応させ、アミノ基末端のSAMとカルボキシメチルデキストランのカルボキシル基とのアミドカップリングを行うことによりカルボキシメチルデキストランを固定化させた。反応終了後、1 Nの水酸化ナトリウムを基板表面に滴下し、室温で30分反応させることにより、活性エステル化されていたカルボキシル基をカルボン酸に変換した。このようにして、カルボキシメチルデキストランが表面に固定化されたプラズモン励起センサチップが得られた。
【0124】
(工程3:1次抗体固定化)
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC:(株)同人化学研究所製)およびN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS:Thermo Scientific社製)をそれぞれ100mM含むMES(2−モルホリノエタンスルホン酸)系バッファー(25mM MES バッファー、 10mM NaCl(pH6.0)混合液)を、前記工程2により得られたプラズモン励起センサチップに滴下し、20分室温で反応させ、当該センサチップに組み込まれているカルボキシメチルデキストランを活性エステル化した。
【0125】
続いて、抗αフェトプロテイン(AFP)モノクローナル抗体(1D5、1.8mg/mL、ミクリ免疫研究所(株)製)を、当該抗体が50μg/mLとなるようMES(2−モルホリノエタンスルホン酸)系バッファー(25mM MES バッファー、 10mM NaCl(pH6.0))にて希釈し、得られた溶液を、このセンサチップに滴下し、室温で30分反応させることにより、当該抗体を前記カルボキシメチルデキストランに連結した。
【0126】
最後に、1%BSA−TBSバッファー(pH7.4)溶液を基板に滴下し、40分間室温で反応させることによってブロッキング処理をし、プラズモン励起センサを完成させた。
【0127】
(工程4:流路の構築)
工程3で得られたプラズモン励起センサのうちの抗体が結合された側の面に、測定領域を形成するための、流路長7mm、幅2mmの厚さ2mmのポリメチルメタクリレート(PMMA)製流路を載せた。このPMMA製流路には、送液導入用の穴(送液導入口)および送液排出用の穴(送液排出口)が形成されている。これらセンサ、およびPMMA製流路の積層物を外周部で圧着してビスで固定し、プラズモン励起センサ部を構築した。
【0128】
このプラズモン励起センサ部の送液導入口および送液排出口に、シリコーンゴム製のチューブおよびペリスタポンプを連結して流路を構築した(以下、特に記載しない限り、各種流体の送液および循環をすべてこのようなチューブおよびペリスタポンプを用いて行った)。
【0129】
(工程5:シグナルの測定)
前記工程1〜4により作製された表面プラズモン励起センサに、まず、AFP(2.0mg/mL溶液、Acris Antibodies GmbH社)が0.1ng/mLとなるようPBSバッファー(pH7.4)で希釈した溶液を、5000μL/minにて25分間フローさせた。洗浄工程として、0.05%Tween20を含んだTBS溶液(pH7.4)を5000μL/minにて2分間フローさせた。
【0130】
つづいて、前述のようにして調製した標識二次抗体:「Alexa Fluor 647」標識抗AFPモノクローナル抗体が2.5μg/mLとなるよう1%BSA−PBSバッファー(pH7.4)で希釈した溶液(以下、「標識抗体溶液」)を、5000μL/minにて30分間フローさせた。洗浄工程として、0.05%Tween20を含んだTBS溶液(pH7.4)を5000μL/minにて2分間フローさせた。
【0131】
その後、第1の蛍光測定として、表面プラズモン励起センサの裏側からプリズムを経由してレーザ光(640nm、40μW)を照射し、センサ表面から発せられる蛍光量をCCDで測定した。この測定値を「30分標識抗体反応後洗浄」後の「アッセイシグナル」とした。
【0132】
この第1の蛍光測定を行った後、この表面プラズモン励起センサに対し、前記標識抗体溶液を5000μL/minにてさらに90分間フローさせ、その後、洗浄工程として、0.05%Tween20を含んだTBS溶液(pH7.4)を5000μL/minにて2分間フローさせた。
【0133】
その後、第2の蛍光測定として、表面プラズモン励起センサの裏側からプリズムを経由してレーザ光(640nm、40μW)を照射し、センサ表面から発せられる蛍光量をCCDで測定した。この測定値を「2時間標識抗体反応後洗浄」後の「アッセイシグナル」とした。
【0134】
一方、前記工程1〜4により作製された別の表面プラズモン励起センサについて、上記最初のステップでAFPを全く含まない(0ng/mL)1%BSA−PBSバッファー(pH7.4)をフローさせた以外は上記と同じ手順で上記第1および第2の蛍光測定を行い、それらの測定値をそれぞれ「30分標識抗体反応後洗浄」後の「ブランクシグナル」および「2時間標識抗体反応後洗浄」後の「ブランクシグナル」とした。
【0135】
プラズモン励起センサにおいて、2次抗体の反応時間を長時間行うと非特異吸着、反応効率等の影響が増幅されるためS/Nが劣化しやすい傾向にある。このことから、「アッセイシグナル」および「ブランクシグナル」について、「30分標識抗体反応後洗浄」後の蛍光測定の結果と、「2時間標識抗体反応後洗浄」後の蛍光測定の結果とを対比させることで、各実施例および比較例についての2次抗体の反応効率および非特異吸着を評価することができる。
【0136】
[比較例2]
前記比較例1の工程1〜3を下記工程1〜2で置き換えた以外は、比較例1と全く同様の操作を行い比較例2の測定を行った。すなわち、比較例2では、比較例1のようなSAMの形成およびデキストランによる表面処理を行う代わりに、センサ表面をSiO2で被覆しており、このSiO2上に抗体を物理吸着により固定している。ここで、このSiO2は特別な親水化処理を行っていないものである。
【0137】
(工程1:金属薄膜およびSiO2皮膜の形成)
厚さ1mmのガラス製の透明平面基板「S-LAL 10」((株)オハラ製。屈折率〔nd〕=1.72)を、プラズマドライクリーナーでプラズマ洗浄した。プラズマ洗浄された基板表面に金薄膜をスパッタリング法により形成し、更にSiスパッタをO2存在下に行いSiO2皮膜を形成したところ、SiO2皮膜を有するプラズモン励起センサチップが得られた。このプラズモン励起センサチップにおいて、金薄膜の厚さは48nm、SiO2皮膜の厚さは800nmであった。
【0138】
(工程2:1次抗体の固定)
前記工程1で得られたプラズモン励起センサチップについて、SiO2を被覆した金薄膜の上に裏回り防止用の外枠を付した後、抗αフェトプロテイン(AFP)モノクローナル抗体(1D5、1.8mg/mL、ミクリ免疫研究所(株)製)を、当該抗体が50μg/mLとなるよう、MES(2−モルホリノエタンスルホン酸)系バッファー(25mM MES バッファー、 10mM NaCl(pH6.0))にて希釈して得られた溶液を加えた。室温で3時間浸漬後、PBSバッファーで洗浄し最後に、1%BSA−TBSバッファー(pH7.4)溶液を、このセンサチップに滴下し、40分間室温で反応させることによってブロッキング処理をし、プラズモン励起センサを完成させた。
【0139】
[実施例1]
前記比較例1の工程1〜3を下記工程1〜3で置き換えた以外は、比較例1と同様の方法でプラズモン励起センサチップおよびプラズモン励起センサを作製し、測定を行った。すなわち、この実施例1は、下記のように、工程2において親水性シランカップリング剤による表面処理をSiO2皮膜に施したことを除き比較例2と同様の工程でセンサを作製した実施例である。
【0140】
(工程1:金属薄膜およびSiO2皮膜の形成)
厚さ1mmのガラス製の透明平面基板「S-LAL 10」((株)オハラ製。屈折率〔nd〕=1.72)を、プラズマドライクリーナーでプラズマ洗浄した。プラズマ洗浄された基板表面に金薄膜をスパッタリング法により形成し、更にSiスパッタをO2存在下に行いSiO2皮膜を形成した。金薄膜の厚さは49nm、SiO2皮膜の厚さは800nmであった。
【0141】
(工程2:親水性皮膜形成)
このようにして得られたSiO2を被覆した金薄膜の上に裏回り防止用の外枠を付した後、SIT8189.0(Gelest社製親水性シランカップリング剤(N−(3−トリエトキシシリルプロピル)グルコンアミド,50%エタノール溶液))を2g、および3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製抗体固定化用シランカップリング剤)を1g取りEtOH40gで調整した液で満たし50℃で2時間反応後、水洗し100℃で1時間加熱乾燥を行って親水性表面を形成した。このようにして、親水性表面を有するプラズモン励起センサチップが得られた。
ここで用いられたSIT8189.0は、4級アンモニウム基を有するシランカップリング剤である。
【0142】
(工程3:1次抗体固定化)
抗αフェトプロテイン(AFP)モノクローナル抗体(1D5、1.8mg/mL、ミクリ免疫研究所(株)製)を、当該抗体が50μg/mL含まれるようMES(2−モルホリノエタンスルホン酸)系バッファー(25mM MES バッファー、 10mM NaCl(pH6.0))にて希釈し、更に1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC:(株)同人化学研究所製)およびN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS:Thermo Scientific社製)それぞれ100mM含有するMES(2−モルホリノエタンスルホン酸)系バッファー(25mM MES バッファー、 10mM NaCl(pH6.0))混合液を加えて、3分室温で反応させて活性エステル型抗体溶液を調製した。そして、この活性エステル型抗体溶液に、前記工程2で得られたプラズモン励起センサチップの親水性表面を2時間浸漬させて抗体を固定化した。
【0143】
PBSバッファーで洗浄した後、1%BSA−TBSバッファー(pH7.4)溶液を基板に滴下し、40分間室温で反応させることによってブロッキング処理をし、表面プラズモン励起センサを完成させた。
【0144】
[実施例2]
工程2で親水性膜を形成した以外は、比較例1と同様にプラズモン励起センサチップおよびプラズモン励起センサを作製しアッセイを行った。すなわち、実施例2では、プラズモン励起センサチップの作製にあたり、比較例1の工程1〜2を下記工程1〜2に変更した。
【0145】
(工程1:金属薄膜の形成)
厚さ1mmのガラス製の透明平面基板「S-LAL 10」((株)オハラ製。屈折率〔nd〕=1.72)を、プラズマドライクリーナーでプラズマ洗浄した。プラズマ洗浄された基板表面に金薄膜をスパッタリング法により形成した。金薄膜の厚さは50nmであった。
【0146】
(工程2:親水性皮膜形成)
前記工程1により得られた基板を、10−アミノ−1−デカンチオールを1mM含むエタノール溶液に12時間以上浸漬し、金薄膜の片面にSAM(Self Assembled Monolayer;自己組織化単分子膜)を形成した。この基板を、前記エタノール溶液から取り出し、エタノールおよびイソプロパノールでそれぞれ洗浄した後、エアガンを用いて乾燥させた。得られたSAMがパターニングされた金属基板をカルボキシメチルデキストラン(名糖産業(株)製、分子量500万、置換度1.08)1mg/mL水溶液に浸漬した。更に、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC:(株)同人化学研究所製)、N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS:Thermo Scientific社製)をそれぞれ0.5mMになるように加え1.5時間室温で反応させ、アミノ基末端のSAMとカルボキシメチルデキストランのカルボキシル基とのアミドカップリングを行うことによりカルボキシメチルデキストランを固定化させた。反応終了後、1 Nの水酸化ナトリウムを基板表面に滴下し、室温で30分反応させることにより、活性エステル化されていたカルボキシル基をカルボン酸に変換した。更にスピンコーターを用いてフレッセラ(登録商標)R(松下電工社製超親水性膜形成剤)を乾燥膜厚が10nmとなるように塗布し、30分放置した後水洗して超親水性皮膜を形成したプラズモン励起センサチップを得た。
このプラズモン励起センサチップに形成された超親水性皮膜は、表面に多量のシラノール基を有するものである。
【0147】
[実施例3]
実施例1の工程1〜3を下記の工程1〜3に変更したことを除き、実施例1と同様の工程でプラズモン励起センサチップおよびプラズモン励起センサを作製し測定を行った。
【0148】
(工程1:金属薄膜の形成)
厚さ1mmのガラス製の透明平面基板「S-LAL 10」((株)オハラ製。屈折率〔nd〕=1.72)を、プラズマドライクリーナーでプラズマ洗浄した。プラズマ洗浄された基板表面に金薄膜をスパッタリング法により形成した。金薄膜の厚さは50nmであった。
【0149】
(工程2:親水性皮膜形成)
金薄膜をスピンコーターにセットし、NL110A(アクアミカ社製親水性ポリシラザン)を乾燥膜厚が10nmとなる条件で塗布を行った。100℃で30分加熱乾燥を行い、親水性皮膜を形成した。更に3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製抗体固定化用シランカップリング剤)を2g取りEtOH40gと水10gを加えて調整した液を滴下して自然乾燥後、水洗し、100℃で1時間加熱乾燥を行って親水性表面を形成した。このようにして、親水性表面を有するプラズモン励起センサチップが得られた。
【0150】
(工程3:1次抗体固定化)
抗αフェトプロテイン(AFP)モノクローナル抗体(1D5、1.8mg/mL、ミクリ免疫研究所(株)製)を、当該抗体が50μg/mL含まれるようMES(2−モルホリノエタンスルホン酸)系バッファー(25mM MES(2−モルホリノエタンスルホン酸) バッファー、 10mM NaCl(pH6.0))にて希釈し、更に1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC:(株)同人化学研究所製)およびN−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS:Thermo Scientific社製)それぞれ100mM含有するMES(2−モルホリノエタンスルホン酸)系バッファー(25mM MES バッファー、 10mM NaCl(pH6.0))混合液を加えて、3分室温で反応させて活性エステル型抗体溶液を調製した。そして、この活性エステル型抗体溶液に前記工程2で得られたプラズモン励起センサチップの親水性表面を2時間浸漬させて抗体を固定化した。
【0151】
このプラズモン励起センサチップをPBSバッファーで洗浄した後、1%BSA−TBSバッファー(pH7.4)溶液を滴下し、40分間室温で反応させることによってブロッキング処理をし、表面プラズモン励起センサを完成させた。
【0152】
[実施例4]
実施例1のシランカップリング剤の代わりにSIT8415.0 (Gelest社製親水性シランカップリング剤(塩化N−トリメトキシシリルプロピル−N,N,N−トリメチルアンモニウム,50%メタノール溶液))を用いたことを除き、上記実施例1と同様の工程でプラズモン励起センサチップおよびプラズモン励起センサを作製し測定を行った。
【0153】
ここで用いられたSIT8415.0は、4級アンモニウム基を有するシランカップリング剤である。
以上の実施例および比較例それぞれについて、空気中での水との接触角を測定し、また、上記のように測定したブランクシグナルおよびアッセイシグナルから下記式によりS/N比を算出した。
S/N比=|(アッセイシグナル)|/|(ブランクシグナル)|
【0154】
ここで、各実施例および比較例における水との接触角は、1次抗体を固定化する前の各プラズモン励起センサチップに4μlの純水を滴下したときの接触角として、接触角測定装置(FTA社製接触角計、型番:FTA125)を用いて測定した。
【0155】
比較例1はカルボキシメチルデキストラン使用系のリファレンスであり実施例2と比較される。比較例2はカルボキシメチルデキストラン不使用系であり実施例1、3、4と比較される。
【0156】
【表2】

[結果]
表2の結果から明らかなように、通常のサンドイッチイムノアッセイを行った通常基板の比較例1、2および親水化処理を行った本発明の実施例1〜4とでは接触角が明確に異なることが分かる。アッセイを行った結果で比較すると、カルボキシメチルデキストラン使用系においては比較例1に対して実施例2のシグナルが大きく、カルボキシメチルデキストラン不使用系においては比較例2に対して実施例1,3,4のシグナルが大きいことから、消光現象が起きにくいことが推察される。またもS/Nが良いことから非特異吸着が低減されていることが推察される。また長時間、あるいは再利用した時の安定性では更に違いが大きくなる。
【符号の説明】
【0157】
10・・・プラズモン励起センサ
11・・・プラズモン励起センサチップ
111・・・透明誘電体基板
112・・・金属薄膜
113・・・透明誘電体層
121・・・リガンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明誘電体基板の表面に金属薄膜が形成され、
該金属薄膜の表面に透明誘電体層が形成された
構造を有し、且つ、
該透明誘電体層の表面における空気中での水との接触角が0°以上50°以下であるプラズモン励起センサチップ。
【請求項2】
前記接触角が0°以上30°以下である請求項1に記載のプラズモン励起センサチップ。
【請求項3】
前記透明誘電体層が、無機酸化膜および親水性有機分子膜のうちの少なくともいずれか1つからなる請求項1または2に記載のプラズモン励起センサチップ。
【請求項4】
前記無機酸化膜が、シリカまたはチタニアを含む請求項3に記載のプラズモン励起センサチップ。
【請求項5】
前記無機酸化膜が、シリカ前駆モノマーによる表面処理により形成される請求項4に記載のプラズモン励起センサチップ。
【請求項6】
前記無機酸化膜が、チタニア前駆モノマーによる表面処理により形成される請求項4に記載のプラズモン励起センサチップ。
【請求項7】
前記親水性有機分子膜が、ポリアルキレンオキサイド構造、ポリオール構造、ポリアミン構造、3級アミン構造、4級アンモニウム構造およびホスホリルコリン構造のうち少なくともいずれか1つを有する請求項3に記載のプラズモン励起センサチップ。
【請求項8】
前記透明誘電体層の厚さが5nm〜80nmである請求項1〜7のいずれかに記載のプラズモン励起センサチップ。
【請求項9】
前記透明誘電体層の厚さが200nm〜1000nmである請求項1〜7のいずれかに記載のプラズモン励起センサチップ。
【請求項10】
前記透明誘電体基板が、金属薄膜形成用平面、プリズム部およびサンプル保持部を含む一体化構造体ブロックである請求項1〜9のいずれかに記載のプラズモン励起センサチップ。
【請求項11】
前記一体化構造体ブロックが、樹脂製のブロックである請求項10に記載のプラズモン励起センサチップ。
【請求項12】
前記請求項1〜11のいずれかに記載のプラズモン励起センサチップの、前記透明誘電体層が存在する表面にリガンドが結合しているプラズモン励起センサ。
【請求項13】
前記リガンドが抗体である請求項12に記載のプラズモン励起センサ。
【請求項14】
下記工程(p)〜(q)を含むアナライトの検出方法:
工程(p):前記請求項12または13に記載のプラズモン励起センサに検体を接触させる工程、および
工程(q):該プラズモン励起センサに形成したアナライト−リガンド複合体の生成を、表面プラズモン共鳴を通じて増強された蛍光発光に基づいて検出する工程。
【請求項15】
前記工程(q)が、前記アナライト−リガンド複合体に結合した蛍光分子からの蛍光発光を検出することにより行われる請求項14に記載の検出方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−32282(P2012−32282A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172152(P2010−172152)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】