説明

プラチナ製剤を用いた化学療法治療に対する臨床応答を予測する方法

患者からの生物学的試料において14‐3‐3シグマをコードする核酸のメチル化状態を決定する工程を含んでなり、メチル化の存在が化学療法治療への応答として患者のより長い生存を示す、シスプラチンまたはカルボプラチンを用いた化学療法治療に対するNSCLCに罹患した患者の生存を予測するための方法。14‐3‐3シグマ遺伝子のメチル化状態は血清試料において容易に決定される。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、診断の分野、特に遺伝子14‐3‐3シグマのメチル化パターンに基づき、非小細胞肺癌腫(NSCLC)患者の生存を予測するための方法に関する。また、本発明はNSCLC患者の治療向け化学療法剤の使用にも関する。
【0002】
背景技術
非小細胞肺癌(NSCLC)は全肺癌の約80%を占め、世界中において毎年新たに120万人の症例が報告されている。NSCLCは2001年に世界中において百万人以上の死を招き、男性および女性双方における癌に関連した死亡の主な原因である(各々31%および25%)。進行性のNSCLCの予後は惨憺たるものである。患者1155例に対する最近の米国東海岸癌臨床試験グループ(Eastern Cooperative Oncology Group)の試験は、用いた化学療法、すなわちシスプラチン/パクリタキセル、シスプラチン/ゲムシタビン、シスプラチン/ドセタキセル、カルボプラチン/パクリタキセルの間に差異を示さなかった。無増悪期間(time to progression)全体の中央値は3.6月間、中間生存(median survival)は7.9月間、33%の1年生存率、および11%の2年生存率であった。患者1218例における更に最近のランダム研究においては、ステージIIIB‐IV患者において11月間の中間生存が報告されている。しかしながら、臨床パラメーターにおいては進行疾患の患者間において、生存に決定的な差異を完全に表わすことができず、ある者は何年も生存するが、他の者はわずか数月間である。
【0003】
NSCLC患者の全体5年生存は、過去20年間にわたり15%未満のままであった。TNMサブセットのステージ分類(T=一次腫瘍、N=局所リンパ節、M=遠隔転移)による、類似した予後および治療オプションを有する患者群に区別できる。5年生存は病理ステージIIB(T1‐2N1M0、T3N0M0)において約25%、ステージIIIA(T3N1M0、T1‐2‐3N2M0)において13%、およびステージIIIB(T4N0‐1‐2M0)においては最低値の7%である。
【0004】
現在、シスプラチン(DDP)およびカルボプラチンが最も広く用いられている細胞傷害性抗癌剤の一つである。しかしながら、デノボまたは誘導されたメカニズムによるこれら薬物への耐性が、それらの治癒の可能性を減衰させている。これらの薬物は鎖内付加物の形成によりDNA構造を破壊する。DDPのようなプラチナ製剤(platinum agents)に対する耐性は、プラチナ付加物(platinum adducts)に対する寛容性の増加、薬物蓄積の減少、またはDNA修復の増加に起因していた。
【0005】
14‐3‐3σは、ヒト細胞においてDNA損傷に応答してG細胞周期のチェックポイント制御に関与する14‐3‐3スーパーファミリーの一員である。その機能はヒト結腸直腸癌細胞系HCT116(14‐3‐3σおよび野生型p53を発現する)において分析された。イオン化照射(ionizing irradiation)後、14‐3‐3σ隔離Cdc2/サイクリンB1は、細胞質において複合化し、こうしてGにおいて細胞を停止させ、損傷DNAの修復前にそれらが有糸分裂を始めないようにさせる。アドリアマイシンにより治療された14‐3‐3σを欠く結腸癌腫細胞はG停止を維持しないが、なおそれを始めさせることができ、有糸分裂破壊と細胞死とを招いてしまう。14‐3‐3σの発現は、p53遺伝子不活化と、CpGアイランドのメチル化による14‐3‐3σ遺伝子の抑制(silencing)とにより減少する。
【0006】
プロテオーム解析(proteomic analysis)によると、14‐3‐3σは乳癌試料において検出できず、14‐3‐3σのプロモーター領域における正常非メチル化CpGアイランドの高メチル化が乳癌における転写レベルにおいて遺伝子抑制に関与していた(Ferguson AT,Evron E,Umbricht CB,et al.,High frequency of hypermethylation at the 14-3-3 sigma locus leads to gene silencing in breast cancer,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2000,97:6049-54)。14‐3‐3σ高メチル化の類似効果が、肺、胃、卵巣、前立腺、および肝細胞癌腫を含めた多くの腫瘍において報告された。
【0007】
二本鎖DNA断片は癌患者の血清中においてかなりの量が頻繁に現れ、転移患者の血清においてはそれよりも有意に高いレベルでみられることが知られている。頭および首、小細胞肺および非小細胞肺癌においては、腫瘍において検出される同様のマイクロサテライト変化が血漿または血清DNAにおいてもみられた(Sanchez-Cespedes M,Monzo M,Rosell R,et al.,Detection of chromosome 3p alterations in serum DNA of non-small-cell lung cancer patients,Ann.Oncol.,1998,9:113-6、Sozzi G,Musso K,Ratcliffe C,Goldstraw P,Pierotti MA,Pastorino U.,Detection of microsatellite alterations in plasma DNA of non-small cell lung cancer patients:a prospect for early diagnosis.Clin.Cancer Res.,1999,5:2689-92)。更に、腫瘍サプレッサー遺伝子のプロモーター領域における高メチル化の検出が、非小細胞肺癌患者の血清において初めて報告された。高メチル化は感受性メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応アッセイにより分析でき、それによると1000の非メチル化対立遺伝子において一つのメチル化対立遺伝子を特定することができる(Herman JG,Graff JR,Myohanen S,Nelkin BD,Baylin SB.,Methylation-specific PCR:a novel PCR assay for methylation status of CpG islands,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1996,93:9821-6)。
【0008】
14‐3‐3σは、胃癌60例中43%においてメチル化されていることがわかり、14‐3‐3σメチル化陽性ヒト胃細胞系MKN74(野生型p53)およびMKN28(変異p53)は双方ともアドリアマイシンに高度に感受性であったが、14‐3‐3σメチル化陰性細胞系(野生型または変異p53)は耐性であった。
【0009】
前記のように、NSCLCにおいては伝統的化学療法によって大きな全体的効果は達成できないが、化学的感受性とひいては生存性が個別に事前判定されることは明らかである。それでも、DNA修復経路に関与しているとして特定された遺伝子異常のリスト増大と、NSCLC患者の化学的感受性変化にもかかわらず、翻訳アッセイが個別化された化学療法向けになお開発されていなかった。
【0010】
このように低い生存率と予測不能な化学的感受性とを有する、特にNSCLCに罹患した患者において、最善の治療様式の選択に際して有益な臨床手段となりうる、化学療法に対する応答の予測法を提供することが、本発明の目的である。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、差異的な(differential)生存性および化学的感受性を予測して、NSCLCに対する化学療法を個別選択する際において、有用な手段を提供する。
【0012】
薬物耐性は、多様な生化学経路の活性化/抑制を伴う複雑で多因子性の事象である。我々はシスプラチン耐性および薬物応答を研究するためにプロテオームの手法を用いた。細胞周期のチェックポイントにおける欠陥が化学的感受性に寄与するという仮定から出発して、14‐3‐3σメチル化陽性腫瘍の患者がシスプラチンまたはカルボプラチンを用いた(cisplatin-or carboplatin-based)化学療法から、より大きな利益を得れるか否かについて我々は研究した。
【0013】
意外にも、14‐3‐3σが非小細胞肺癌患者の1/3の血清においてメチル化され、メチル化が全体的にこれら患者において有意に良好な中間生存(median survival)と関連していることを、我々は見出した。更に、14‐3‐3σメチル化は応答者において生存に一層大きな影響を有していた。14‐3‐3σメチル化陰性応答者における死亡リスクは、メチル化陽性応答者の場合よりほぼ5倍であった。
【0014】
一つの態様において、本発明は、非小細胞肺癌(NSCLC)に罹患した患者のシスプラチンまたはカルボプラチンを用いた化学療法後の生存を予測するためのインビトロにおける方法であって、
a)患者の体液、血清、または組織試料から核酸を単離し、
b)試料において、14‐3‐3シグマをコードする核酸のメチル化状態を確認し、
c)その結果に従い、メチル化陽性またはメチル化陰性として規定される2群に前記患者を分類し、各群について生存に関する予後が明確にされること
を含んでなることを特徴とする方法に関する。
【0015】
他の態様において、本発明はシスプラチンまたはカルボプラチンを用いた化学療法治療に対するNSCLCに罹患した患者の生存を予測するための方法であって、前記患者からの生物学的試料において14‐3‐3シグマをコードする核酸のメチル化状態を決定する工程を含んでなり、メチル化の存在が化学療法治療への応答として患者のより長い生存を示すものであることを特徴とする方法に関する。
【0016】
別の態様において、本発明は、NSCLCに罹患した対象のためにシスプラチンまたはカルボプラチンを用いた個別的な化学療法治療を計画するための方法であって、
i)患者からの生物学的試料により14‐3‐3シグマをコードする核酸のメチル化状態を決定し、
ii)個別的化学療法治療を計画する際に予備工程により得られたデータを考察すること
を含んでなることを特徴とする方法に関する。
【0017】
本発明は、キットが、非メチル化シトシンを修飾する試薬を含有した第一容器と、14‐3‐3遺伝子のCpG含有核酸の増幅用のプライマーを含有した第二容器とを含んでなり、前記プライマーが修飾されたメチル化と非メチル化核酸とを識別するものである、NSCLC患者の化学療法治療に対する生存を予測するためのキットおよびその使用にも関する。
【0018】
特に重要なこととして、本発明の一つの態様によれば、14‐3‐3σのメチル化が非小細胞肺癌患者の治療前体液において検出され、腫瘍組織においてはその必要性がなく、シスプラチンを用いた化学療法に適した患者を選択して、プラチナ製剤を用いた(platinum-based)ダブレットでの治療後における生存を予測する新規で正確な方法が提供される。好ましくは、体液は血清である。
【0019】
従って、他の態様において、本発明は、試料が血清試料であることにより特徴づけられる、哺乳動物からの試料における14‐3‐3シグマ遺伝子のメチル化状態の判定に関する。
【発明の具体的説明】
【0020】
シスプラチンは、非小細胞肺癌(NSCLC)において、なおも組合せ化学療法の骨格を形成している。パートナー薬物がパクリタキセル、ドセタキセル、またはゲムシタビンであった場合でも、結果は類似したものとなる傾向がある。類似した結果は通常カルボプラチンにおいて得られるが、ランダム研究においては、中間生存がパクリタキセル/カルボプラチンにおいて8.2月間およびパクリタキセル/シスプラチンアームにおいて9.8月間であった。
【0021】
多くの細胞毒性薬物が、発癌物質に起因するものと類似したDNA損傷を誘導する。発癌物質または細胞毒性薬物の共有結合が、“付加物(adduct)”と称される、DNAにおいて化学的に変化した塩基の形成をもたらす。シスプラチンは、シス立体配置において二つの不安定なクロロと二つの安定なアミンリガンドをもつ、硬質構造を有している。一部のアルキル化剤のように、中性薬物分子は反応形態へ変換させる必要がある。これは溶液中において非酵素的に生じ、置換反応が水分子との不安定クロロリガンドの段階的交換を行わせる。荷電アクア化種(aquated species)は高度に反応性であるが、クロロ‐モノアクオ(chloro-monoaquo)種が生理的pHにおいてDNAとの相互作用の観点から最も重要である。より安定な二座シクロブタンジカルボン酸リガンドであるカルボプラチンの場合は、アクア化反応がかなり遅い。これは薬物効力を減少させ、そのため同等の抗腫瘍効果のために多くの用量を要する。シスプラチンのモノアクア化種が形成されると、それはDNA塩基(優先的に、グアニンのN7)と直ちに反応して一官能性付加物を形成する。次いで一付加物においてプラチナと結合された残留塩素リガンドが加水分解され、得られたアクア化種が第二求核部位と相互作用してDNA架橋を形成する。1,2‐および1,3‐双方の鎖内DNA架橋が形成される。反対グアニン塩基間の1,2‐鎖間架橋は両鎖の5′G‐C3′配列において優先的に形成される。しかしながら、鎖内付加物がシスプラチンの細胞毒性作用において最も大きな要因となっていることを、膨大な証拠により示されている。
【0022】
シスプラチンは注射用の無菌溶液として通常処方され、静脈内に約50〜100mg/mの用量により定期的に投与される。この周期は約4〜8週間毎に繰り返してもよい。
【0023】
シスプラチンおよびカルボプラチンはNSCLC患者において広く用いられているが、デノボまたは誘導されたメカニズムによるこれら薬物への耐性がそれらの治癒の可能性を減衰させている。一般的に、癌化学療法耐性の遺伝子メカニズムを理解することは難しい。過去30年間にわたり、腫瘍内科医は癌患者の転帰を最良にすることに専念してきたが、現在では利用しうる新たな技術により、異なる群の癌患者において所定療法の効果を予測して化学療法を個別選択するために、多型性、遺伝子発現レベル、および遺伝子変異を研究できるようになっている。
【0024】
非小細胞肺癌腫(NSCLC)の患者において生存率を更に改善するのに際して、分子変化に基づくそれらの予後分類はきわめて重要である。このような分類は、より正確で有用な診断手段と、最終的にはより有用な治療法の選択肢をもたらすことになる。
【0025】
発癌に関与する最も重要な変化の一つは、異常なプロモーターのメチル化である。この分野における関心は、メチル化特異的PCR(MSP)アッセイの実施により増してきた。シトシンが5位においてメチル化された場合に、DNAのメチル化が生じるが、これはCpGジヌクレオチドにおいて直後に塩基グアニンがある場合のみ現れる。この修飾は、主にそれがCpGに富む領域(CpGアイランド)を伴う場合に、遺伝子発現において重要な調節効果を有する。遺伝子のプロモーター領域においてメチル化されたシトシンは、その不活化につながる。
【0026】
一つの態様において、本発明は、14‐3‐3シグマ遺伝子の核酸のメチル化状態、特にプロモーター配列のメチル化状態に基づいて、シスプラチンまたはカルボプラチンを用いた化学療法後におけるNSCLC患者の生存を予測するための新規で正確な方法を提供する。一つの態様において、14‐3‐3シグマDNA配列のエキソン1においてCpGアイランドのメチル化パターンを調べることにより、メチル化状態が決定される。
【0027】
14‐3‐3タンパク質は、細胞タンパク質の広域配列の機能を制御する高度に保存されたホスホセリン/ホスホトレオニン結合分子のファミリーである。シグナル伝達、アポトーシス、細胞周期進行、およびDNA複製を含めた様々な生体調節工程において、それらは重要な役割を果たしている。哺乳動物細胞においては、七つの14‐3‐3イソ型(ベータ、ガンマ、イプシロン、エータ、シグマ、シータ、およびゼータ)が確認されており、これらの各々が別々の組織局在性とイソ型特異的機能とを有しているようである。14‐3‐3σ発現は上皮細胞に限定されている。以前の研究においては、14‐3‐3タンパク質レベルが正常組織と比較してヒト肺癌においてより高いことを示していた。
【0028】
全14‐3‐3遺伝子中において、14‐3‐3σが癌と最も直接的に関連していた(Hermeking H.,The 14-3-3 cancer connection,Nature Rev.Cancer,2003,3:931-43)。それは、細胞周期の進行を阻止し、幹細胞分画を残して細胞を分化させることにより、腫瘍サプレッサーとして機能すると考えられている。14‐3‐3σの不活化は多くのレベルにおいて生じ、高頻度の14‐3‐3σ不活化はそれが腫瘍形成において極めて重要な役割を有することを示している。
【0029】
意外にも、14‐3‐3シグマ遺伝子の高メチル化(ひいては抑制)を呈するNSCLC患者の方がシスプラチンまたはカルボプラチン化学療法に感受性であり、有意に良好な生存を示すことを、我々は見出した。生存におけるこの差異は、化学療法に応答する患者においてより多く顕示される。
【0030】
本発明の方法は、その異なる態様において、ここで詳細に記載される。最初に、NSCLCに罹患した患者の試料組織または体液が採取される。本方法は患者からの組織または体液のいかなる種類にも適用しうる。
【0031】
一つの態様では、腫瘍組織を検査することが好ましい。好ましくは、これは化学療法前に行われる。腫瘍またはその一部は患者から外科的に切除されるか、または定期的なバイオプシーにより得られる。試料の保存および取り扱いを簡素化するために、これらはホルマリン固定およびパラフィン包埋させてもよい。
【0032】
しかしながら、臨床的な観点からは、ステージIV NSCLC患者において気管支鏡検査により得られる腫瘍組織の不足により、組織試料の獲得が制限されている。初期段階において、ときどき我々はRNA抽出用の腫瘍組織を供する切除腫瘍試料から恩恵を受けていた。しかし、更に良い代替法は、試料として体液、特に血清を用いることである。
【0033】
遺伝子分析においては、癌患者の血漿または血清中における無細胞循環DNAが対応腫瘍において記載されたものと類似した遺伝子変化を有していることを示した。ある研究においては、膠芽腫(glioblastoma)患者試料の腫瘍および血清中において一部遺伝子のメチル化間における高い相関とNSCLC患者試料における良い相関とがみられた(Ramirez,JL,Taron,M,et al.,Serum DNA as a tool for cancer patient management,Rocz.Akad.Med.Bialymst.,2003,48:34-41)。
【0034】
したがって、本発明の他の態様において、試料は血液、血漿、または血清から選択されるNSCLC患者の体液であることが好ましい。更に好ましくは、それは血清である。血清は患者から容易かつ直ちに得られ、血液試料を採取して細胞を遠心により分離すれば十分である。
【0035】
核酸、好ましくはDNAは、当業者に知られている手順により試料から抽出され、QIAGENのQIAmp Blood Miniキットのようなものが市販されている。
【0036】
核酸が単離されると、本発明の方法においては、対象から単離され、そして遺伝子14‐3‐3シグマをコードする核酸のうち1以上のメチル化の状態を決定する。
【0037】
ここで用いられている語句である“核酸”または“核酸配列”とは、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、またはこれらの断片、一本鎖または二本鎖においてセンスまたはアンチセンス鎖を表わすゲノムまたは合成源のDNAまたはRNA、ペプチド核酸(PNA)、あるいは起源が天然または合成のDNA様またはRNA様物質に関する。当業者であれば理解されるように、核酸がRNAである場合、デオキシヌクレオチドA、G、C、およびTはリボヌクレオチドA、G、C、およびUにより各々置き換えられる。
【0038】
WO02/27019号、米国特許第6,017,704号、米国特許第6,331,393号、および米国特許第5,786,146号において記載されている、核酸のメチル化状態を決定するいかなる方法も用いられ、それら各々は引用することにより本明細書の開示の一部とされる。核酸のメチル化状態を決定することには、メチル化と非メチル化核酸とを識別するオリゴヌクレオチドプライマーにより核酸を増幅させることを含んでいる。このような方法の一つが実施例において詳細に記載されている。
【0039】
好ましくは、メチル化CpG含有核酸を検出するための方法においては、非メチル化シトシンを修飾する試薬と核酸含有試料とを接触させ、CpG特異的オリゴヌクレオチドプライマーにより試料中のCpG含有核酸を増幅させ(前記オリゴヌクレオチドプライマーは修飾されたメチル化と非メチル化核酸とを識別する)、メチル化核酸を検出する。増幅工程は任意であり、望ましいが、必須ではない。本方法において、修飾された(例えば、化学的に修飾された)メチル化と非メチル化DNAとを識別しうるか否かは、PCR反応自体に依存する。
【0040】
ここで用いられている“修飾する”という用語は、非メチル化とメチル化シトシンとを識別する方法を容易にさせる他のヌクレオチドへの非メチル化シトシンの変換を意味する。好ましくは、前記試薬は非メチル化シトシンをウラシルに修飾する。好ましくは、非メチル化シトシンを修飾するために用いられる試薬は重亜硫酸ナトリウムであるが、しかしながら、メチル化シトシンではなく非メチル化シトシンを同様に修飾する他の試薬も本方法により用いうる。重亜硫酸ナトリウム(NaHSO)はシトシンの5,6‐二重結合と容易に反応するが、メチル化シトシンとはほとんどしない。シトシンは重亜硫酸イオンと反応し、脱アミノ化を受けやすいスルホン酸シトシン反応中間体を形成して、スルホン酸ウラシルを生じる。スルホン酸基はアルカリ条件下において除去でき、ウラシルの形成をもたらす。ウラシルは、Taqポリメラーゼ、ひいてはPCRにおいてチミンとして認識され(C→U→T)、得られた生成物は5‐メチルシトシンが出発鋳型DNAにおいて生じる位置のみでシトシンを含有している(mC→mC→C)。
【0041】
14‐3‐3シグマ遺伝子のメチル化状態を決定するために用いられるプライマーは、好ましくはプロモーター領域、更に好ましくはエキソン1からのものである。14‐3‐3σ遺伝子内におけるCpGジヌクレオチド3から9の間の領域は、得られる結果の正確さにより特に好ましい。
【0042】
メチル化状態は定性的または定量的に決定される。蛍光を用いた定量的PCR(Taqmanプローブのような蛍光プライマーを用いる)のような周知の方法が用いられる。更なる詳細は米国特許第6,331,393号においてみられる。
【0043】
好ましい態様においては定性的測定が用いられ、それは研究室において実施することが迅速かつ簡単であり、結果が正確である。この態様においては、前記のようにメチル化と非メチル化DNAとを識別しうるプライマーがPCRに用いられ、次いで、得られたDNAが精製され、例えばアガロースゲル電気泳動による分離によりそのメチル化状態が決定される。UV光下において簡単な目視検査(事前の染色を要する)により、バンドがメチル化レーンに存在していればメチル化、またはバンドが非メチル化レーンのみに存在していれば非メチル化として試料を分類できる。合成によるメチル化および非メチル化DNAがコントロールとして用いられる。
【0044】
試料からメチル化状態が得られると、例において示された結果のとおりに生存が予測しうる。メチル化状態の患者は、シスプラチンまたはカルボプラチン化学療法により治療されると、無増悪期間および生存に改善を有するようになる。生存期間範囲は、メチル化患者の場合に平均で少なくとも30%長いと予測できる。
【0045】
化学療法後、患者が“応答者”群に属するか否かが明らかとなると、予測は更に改善されうる。そうであれば、4月後における生存の機会は、メチル化陰性応答者よりメチル化陽性応答者において少なくとも5倍高いと予測でき、生存期間範囲は一般的に14‐3‐3シグマメチル化患者の場合に平均で少なくとも50%長いと予測できる。
【0046】
ここで用いられている“臨床応答”とは、化学療法剤においての治療に対する腫瘍の応答である。治療に対する応答を決定する基準は広く受け入れられており、効力別治療の比較を行える。完全応答(または完全緩解)は全ての検出可能な悪性疾患の消失である。部分応答は、病巣1以上の最大垂直径の積で約50%縮小、新病巣なし、および病巣の進行なしである。応答者とは、シスプラチンまたはカルボプラチン化学療法に完全または部分応答を示す患者である。
【0047】
本発明の他の態様によると、対象においてNSCLCの化学療法治療に対して生存を予測するためのキットが提供される。本発明キットは、非メチル化シトシンを修飾する試薬を含有した第一容器と、14‐3‐3遺伝子のCpG含有核酸の増幅用のプライマーを含有した第二容器とを含み、前記プライマーは修飾されたメチル化と非メチル化核酸とを識別するものである。好ましくは、非メチル化シトシンを修飾する試薬は重亜硫酸塩である。
【0048】
本発明がこのように記載されてきたが、本発明の実施は以下に示された実験例において説明される。これらの例が特許請求の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0049】
進行非小細胞肺癌患者の血清において14‐3‐3σメチル化を調べて、メチル化状態を生存と相関させる、多施設の前向き(multicenter prospective)研究が実施された。本研究は全部で6ヶ所の参加センターの独立倫理委員会において承認され、全患者が署名済みのインフォームド・コンセントを提出した。
【0050】
患者
患者がステージIVまたはステージIIIB(悪性胸膜滲出がある)の組織学的に確認された非小細胞肺癌を有していれば、彼らは本研究に対して適格とみなされた。適格性に関する他の基準には、0(無症候性で十分に活動的)または1(症候性、十分に歩行可能、身体的に激しい活動の制限)の米国東海岸癌臨床試験グループ(ECOG)一般状態、少なくとも18歳の年齢、適度な血液学的機能(少なくとも9g/dL〔5.6mmol/L〕のヘモグロビン、少なくとも1500/mmの好中球数、および少なくとも100,000/mmの血小板数)、適度な腎臓機能(正常上限値の1.5倍未満の血清クレアチニン)、および適度な肝臓機能(正常上限値の1.5倍以下のビリルビン、正常上限値の5倍以下のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼおよびアラニンアミノトランスフェラーゼ)を含めた。臨床的に明らかな脳転移のある患者および以前に化学療法を受けた者は排除した。2(症候性、歩行可能、セルフケア可能、歩行時間の50%以上はベッド外において過ごす)のECOG一般状態の患者も排除されたが、これらの患者は高率で重篤な有害事象と短い生存性を有していた以前の研究の結果に基づいたためである。
【0051】
患者は、1日目に75mg/m体表面積の用量によりシスプラチン+1および8日目に1250mg/mの用量によりゲムシタビンを摂取した。サイクルは最大6サイクルで3週毎に繰り返した。
【0052】
研究前に、全患者が臨床検査、二次元胸部X線と胸郭および腹部のコンピューター断層撮影を含む段階的手順を受けた。骨走査または脳のコンピューター断層撮影走査は骨または脳転移が疑われる患者のみにおいて必要とされた。化学療法剤の各投与前に、患者は定期的な生化学精密検査および血球計数からなる臨床検査を受けた。
【0053】
段階的手順を繰り返すことにより、3回目および6回目治療サイクル後、臨床調査員により客観的応答が評価された。完全応答は全既知病変部位の消失として定義された、部分応答は測定可能病巣の最大垂直径の積の合計で約50%以上の縮小、新病巣なし、および病巣の進行無しとして定義された、安定性疾患は測定可能病巣の最大垂直径の積の合計で50%未満の縮小または25%未満の増大および新病巣なしとして定義された、進行性疾患は測定可能病巣1以上の大きさにより25%以上の増大または新病巣として定義された。応答の評価のために、完全または部分応答を得た患者は“応答者”とみなし、他の全患者は“非応答者”とみなした。無増悪期間は登録日から進行日までとして計算した。生存は登録日から死亡または最終臨床追跡日までとして計算した。
【0054】
14‐3‐3σのメチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応分析
末梢血10mLを凝血アクチベーター管(clot activator tubes)に採取し、血清を遠心により細胞から分離させた。試料を14‐3‐3σメチル化分析のために我々の研究所(Catalan Institute of Oncology,Barcelona,Spain)へ送った。QIAmp DNA Mini血液キット(Qiagen,Valencia,CA,USA)を用いて血清800μLからDNAを抽出し、50μLの最終容量により再懸濁した。外科切除非小細胞肺癌患者28例の独立群からの腫瘍および血清DNA対をコントロールとして用いた。レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(Palm,Oberlensheim,Germany)により得られたパラフィン包埋切除腫瘍組織から腫瘍ゲノムDNAも得た。単離された腫瘍DNAをプロテイナーゼKとインキュベートし、DNAをフェノール‐クロロホルムにより抽出し、エタノール沈降させた。精製された血清または腫瘍DNAを水酸化ナトリウムにより変性させ、メチル化ではなく非メチル化シトシンをウラシルに変換する重亜硫酸ナトリウムにより修飾した。
【0055】
14‐3‐3σ遺伝子内におけるCpGジヌクレオチド3から9の間の領域にまたがるメチル化または修飾非メチル化DNAに特異的なプライマーによりメチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応を行った(図1)。次いで、DNA試料をWizard DNA精製樹脂(Promega,Madison,WI,USA)により精製し、再び水酸化ナトリウムにより処理し、エタノールによって沈降させ、水に再懸濁した。メチル化DNAに特異的なプライマー〔5′‐GATATGGTAGTTTTTATGAAAGGCGTCG‐3′(センス)および5′‐CCTCTAACCGCCCACCACG‐3′(アンチセンス)〕および非メチル化DNAに特異的なプライマー〔5′‐GATATGGTAGTTTTTATGAAAGGTGTTGTG‐3′(センス)および5′‐CCCTCTAACCACCCACCACA‐3′(アンチセンス)〕により109bpポリメラーゼ連鎖反応産物を得た。ポリメラーゼ連鎖反応条件は次の通りであった:95℃において12分間の1サイクル、95℃において30秒間、58℃(非メチル化反応)または64℃(メチル化反応)において30秒間、72℃において30秒間の45サイクル、および72℃において7分間の1サイクル。
【0056】
SssIメチルトランスフェラーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA,USA)によりインビトロ処理された胎盤DNAを14‐3‐3σのメチル化対立遺伝子に関する陽性コントロールとして用い、正常リンパ球からのDNAを陰性コントロールとして用いた。各50μLメチル化特異的増幅産物のうち10μLを非変性2%アガロースゲルに直接担持させ、臭化エチジウムにより染色し、紫外線照射下において検査した。試料は、メチル化対立遺伝子が存在し、メチル化DNAレーンでバンドとして目視された場合(図2)にはメチル化陽性として、一方バンドが非メチル化DNAレーンのみにおいてみられた場合(図2)にはメチル化陰性と判断した。
【0057】
統計的分析
登録日からの生存が主なエンドポイントであった。0.05を両側の有意水準と仮定して、90%の検出力の下でメチル化陽性群において1年目の生存において15%増を検出するように、患者121例の初期サンプルサイズを計算した(Parmar MKB,Machin D.,Sample sizes for survival studies,In Parmar MKB,Machin D,eds.,Survival analysis,A practical approach,Chichester,UK:John Wiley & Sons,1996:196-207)。分析は全115例の患者において行われた。14‐3‐3σメチル化状態の生存期間をKaplan-Meier法により見積り、両側ログランク検定と比較した。14‐3‐3σメチル化状態の基準特徴と応答とは、カテゴリー変数に関して両側Fisher正確確率検定またはカイ二乗検定により、および年齢に関してはスチューデントt検定により比較した。年齢の正規性はKolmogorov-Smirnov検定により証明した。応答と他の変数との間の相関は両側Fisher正確確率検定により判断した。メチル化状態に関する粗および調整したオッズ比を得るために、単変量および多変量ロジスティック回帰モデルを当てはめた。適合の良さを判断するために、Hosmer-Lemeshow尤度検定を用いた。各ポテンシャル予後因子と生存と無増悪期間との関係を判断するために、単変量Cox回帰分析を用いた。単変量解析において比較的有意(P<0.1)であるとわかった因子は、生存により異なる変数の独立した有意性を評価するために、段階的手順(フォワードおよびバックワード双方)において多変量Cox比例ハザード回帰モデルに含めた。適合の良さを判断するために尤度比検定を用い、係数有意性を判断するためにWald検定を用いた。相対リスクと95%信頼区間とは、事象に至る期間の全有意予測因子に関するCoxモデルから計算した。事象に至る期間の見積りは、関連95%信頼区間において、累積罹患法に従い行った。応答と生存との関連を評価するために、ランドマーク分析を4月間のランドマーク期間で用いた。14‐3‐3σメチル化状態を一般状態で調整して、応答で層別化されたCox回帰モデルを用いて多変量解析を行った。全回帰分析について、Coxモデルの前提条件を試し、満たした。統計的な有意差は0.05に設定した。計算にSPSS11.0およびプロットにS‐PLUS6.1を用いて分析を行った。
【0058】
結果
全部で115例の患者が2001年8月1日〜2002年6月30日にこの研究に登録した。分析の時点でなお生存している患者の観察期間の中央値(median follow-up)は17月間であった(範囲、1〜30.7)。年齢の中央値は62歳(範囲、31〜81)、男性,108例(93.9%)、ECOG一般状態0,32例(27.8%)、1,83例(72.2%)、喫煙者,99例(86.1%)、腺癌,51例(44.7%)、扁平上皮細胞癌腫,42例(36.8%)、大細胞癌腫,21例(18.4%)であった。患者25例(21.7%)は悪性胸膜滲出を有し、8例(7%)は一次肺腫瘍の事前手術を受けた。どの患者も胸部放射線療法を受けなかった。全115例患者の特徴が表1において示される。
【0059】
メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応分析の代表的結果が表1において示されている。患者39例は14‐3‐3σメチル化陽性、76例は14‐3‐3σメチル化陰性であった。人口学的および臨床的特徴はこれら二群間において均衡がとれていた(表1)。コントロールとして用いられた外科切除患者28例中、7例は腫瘍および血清双方でメチル化陽性であり、残り21例は腫瘍および血清双方でメチル化陰性であった。
【0060】
【表1】

【0061】
腫瘍応答
患者115例が応答について判断可能であった。患者2例(1.7%)は完全応答に達し、49例(42.6%)は部分応答を有し、27例(23.5%)は安定性疾患を有し、および37例(32.2%)は進行性疾患を有した。単変量回帰モデルでは、ECOG一般状態のみが応答と有意に相関することを示した(粗オッズ比:一般状態0,2.33(95%信頼区間,1.01‐5.36)、P=0.05)。14‐3‐3σメチル化陽性状態の粗オッズ比は2.10(95%信頼区間、0.96‐4.59)(P=0.06)であった。
【0062】
無増悪期間(Time to progression)
全115例患者において無増悪期間の全体は6.9月間(95%信頼区間,5.3‐8.5)であった。無増悪期間はメチル化陰性群において6.3月間(95%信頼区間,4.5‐8.2)、およびメチル化陽性群において8.0月間(95%信頼区間,5.3‐10.7)であった(両側ログランク検定においてP=0.027)。
【0063】
単変量Cox回帰モデルでは、14‐3‐3σメチル化状態のみが無増悪期間と有意に相関することを示した(ハザード比:14‐3‐3σメチル化陰性状態,1.59〔95%信頼区間,1.05‐2.40〕、P=0.029)。段階的多変量Cox比例ハザード回帰モデルにおいては、無増悪期間に関する独立予後因子として、14‐3‐3σメチル化状態のみを確認した。患者64例(55.7%)は二次化学療法を受けなかった。二次化学療法を受けた残り51例患者(44.3%)のうち、32例(62.7%)はメチル化陰性、19例(37.3%)はメチル化陽性であった。
【0064】
生存
全115例患者の中間生存は10.9月間(95%信頼区間,8.6‐13.2)であった。中間生存は、メチル化陽性群の15.1月間(95%信頼区間,9.7‐20.6)と比較して、メチル化陰性群において9.8月間(95%信頼区間,7.3‐12.5)であった(両側ログランク検定においてP=0.004)。単変量Cox回帰モデルにおいては、14‐3‐3σメチル化状態およびECOG一般状態のみが生存と有意に相関することを示した(ハザード比:14‐3‐3σメチル化陰性状態,2.07〔95%信頼区間,1.24‐3.45、P=0.006〕、一般状態1,2.45〔95%信頼区間,1.39‐4.32、P=0.002〕)(表2)。段階的多変量Cox回帰モデルにおいても、生存に関する独立予後マーカーとして、14‐3‐3σメチル化状態およびECOG一般状態のみを確認した。
【0065】
腫瘍応答および14‐3‐3σメチル化状態による生存
全115例患者を含めた単変量Cox回帰モデルにおいては、14‐3‐3σメチル化状態およびECOG一般状態に加えて、応答も生存と有意に相関することを示した(非応答者のハザード比,2.84〔95%信頼区間,1.75‐4.60、P<0.001〕)(表2)。
【0066】
【表2】

【0067】
腫瘍応答およびメチル化状態の生存に及ぼしうる影響を調べるために、更に予備解析を行った。4月間のランドマーク期間前に死亡した患者16例を除くランドマーク分析から、残り99例の患者において、応答が生存の改善に関して有意なままであることがわかった(非応答者のハザード比,2.16〔95%信頼区間,1.29‐3.61〕、P=0.03)。単変量Cox回帰モデルにおいては、14‐3‐3σメチル化状態、ECOG一般状態および応答のみがこれら99例患者において生存と有意に相関することを示した(ハザード比:14‐3‐3σメチル化陰性状態,1.99〔95%信頼区間,1.13‐3.51、P=0.017〕、一般状態1,2.17〔95%信頼区間,1.19‐3.95、P=0.012〕、非応答者,2.68〔95%信頼区間,1.65‐4.37、P<0.001〕)。更に、応答、メチル化状態、および一般状態を含み、二次相互作用も考慮した、多変量Cox比例ハザード回帰モデルにおいては、生存に関する独立予後因子として、4月間の選択ランドマークにおいて14‐3‐3σメチル化状態、ECOG一般状態、および応答を確認した(表3)。
【0068】
【表3】

【0069】
患者を応答により層別化し、二つの別々なCox回帰モデルを当てはめ、一般状態により14‐3‐3σメチル化状態を調整した。死亡リスクの有意差は応答者群のみで観察され、14‐3‐3σメチル化陰性応答者の死亡リスクはメチル化陽性応答者のほぼ5倍であった(ハザード比:4.87〔95%信頼区間,1.88‐12.61〕、CoxモデルにおいてP=0.001)(表4)。
【0070】
【表4】

【0071】
14‐3‐3σメチル化状態による応答者の生存に関するKaplan-Meier曲線においては、14‐3‐3σメチル化陽性応答者22例において中間生存に達しなかったことを示したが、14‐3‐3σメチル化陰性応答者29例においては、それが11.3月間であった(95%信頼区間,9.0‐13.5)(両側ログランク検定においてP=0.001)(図3B)。18月目の見積り生存率は、メチル化陽性応答者において64%(95%信頼区間,44〜94%)およびメチル化陰性応答者において21%(95%信頼区間,9〜47%)(両側ログランク検定においてP=0.017)である。メチル化陰性応答者はメチル化陽性応答者より4倍高い死亡リスクを有していた(ハザード比:3.95〔95%信頼区間,1.57‐9.94〕、CoxモデルにおいてP=0.004)。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】14‐3‐3σ遺伝子構造およびエキソン1からのDNA配列。含まれるCpG部位が強調されており、メチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応においてメチル化について試験されるCpGジヌクレオチドがボックスにおいて示されている(フォワードプライマーにおいてCpGジヌクレオチド3および4とリバースプライマーにおいてCpGジヌクレオチド8および9)。
【図2】14‐3‐3σに関するメチル化特異的ポリメラーゼ連鎖反応。製造業者のプロトコールに従い、QIAmp Blood Miniキット(QIAGEN,Valencia,CA,USA)を用いて、血清から抽出されたDNAによりメチル化が検出された。重亜硫酸ナトリウム修飾が行われ、得られたDNA5μLが非メチル化(U)またはメチル化(M)14‐3‐3σに特異的なプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応増幅に付された。重亜硫酸修飾ヒト結腸直腸癌細胞系(HT29〔American Type Culture Collection,Manassas,VA,USA〕)(U)が正常非メチル化コントロールとして用いられ、インビトロSssI重亜硫酸修飾胎盤DNA(M)が陽性メチル化コントロールとして用いられた。無鋳型コントロール(C−)も汚染コントロールとしてポリメラーゼ連鎖反応に付された。試料は、メチル化対立遺伝子が存在し、メチル化DNAレーンでバンドとして目視された場合(患者2、4、7、10)にはメチル化陽性として、一方バンドが非メチル化DNAレーンのみでみられた場合(患者1、3、5、6、8、9)にはメチル化陰性として判断された。
【図3】Aは全患者に関する生存のKaplan-Meier確率を示している。メチル化陰性群においては、概算生存率が6月間において50%(95%信頼区間、60〜81%)、12月間において36%(95%信頼区間、26〜49%)、18月間において20%(95%信頼区間、12〜32%)である。メチル化陽性群においては、概算生存率が6月間において87%(95%信頼区間、77〜98%)、12月間において62%(95%信頼区間、48〜80%)、18月間において41%(95%信頼区間、27〜63%)である。Bは応答者に関する生存のKaplan-Meier確率を示している。メチル化陰性群においては、概算生存率が6月間において93%(95%信頼区間、83〜100%)、12月間において44%(95%信頼区間、28〜69%)、18月間において21%(95%信頼区間、9〜47%)である。メチル化陽性群においては、概算生存率が6月間において95%(95%信頼区間、87〜100%)、12月間において85%(95%信頼区間、70〜100%)、18月間において64%(95%信頼区間、44〜94%)である。CI=信頼区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小細胞肺癌(NSCLC)に罹患した患者のシスプラチンまたはカルボプラチンを用いた化学療法後の生存を予測するためのインビトロにおける方法であって、
a)前記患者の体液、血清、または組織試料から核酸を単離し、
b)試料において14‐3‐3シグマをコードする核酸のメチル化状態を確認し、そして
c)その結果に従い、メチル化陽性またはメチル化陰性として規定される2群に前記患者を分類し、各群について生存に関する予後が明確にされること
を含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記メチル化の存在が、前記化学療法治療への応答として前記患者のより長い生存を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸のメチル化状態が核酸の調節領域において決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記調節領域がプロモーター領域、好ましくは14‐3‐3シグマ遺伝子のエキソン1である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記核酸が前記患者の腫瘍試料から単離されたものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記核酸が前記患者の血清試料から単離されたものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記シスプラチンを用いた化学療法が、単剤としてシスプラチンもしくはカルボプラチンから選択されるか、またはシスプラチン/パクリタキセル、シスプラチン/ゲムシタビン、シスプラチン/ドセタキセル、およびカルボプラチン/パクリタキセルから選択される組合せである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
シスプラチンまたはカルボプラチンを用いた化学療法治療に対するNSCLCに罹患した患者の生存を予測するための方法であって、前記患者からの生物学的試料において14‐3‐3シグマをコードする核酸のメチル化状態を決定する工程を含んでなり、メチル化の存在が前記化学療法治療への応答として前記患者のより長い生存を示すものであることを特徴とする、方法。
【請求項9】
NSCLCに罹患した対象のためにシスプラチンまたはカルボプラチンを用いた個別的な化学療法治療を計画するための方法であって、
i)患者からの生物学的試料において14‐3‐3シグマをコードする核酸のメチル化状態を決定し、
ii)メチル化の存在がシスプラチンまたはカルボプラチンを含んでなる化学療法治療においてより長い生存を有する患者の素因を示すことから、個別的な化学療法治療を計画する際に予備工程において得られたデータを考察すること
を含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項10】
前記試料が血液試料である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
非メチル化シトシンを修飾する試薬を含有した第一容器と、14‐3‐3遺伝子のCpG含有核酸の増幅用のプライマーを含有した第二容器とを含んでなり、前記プライマーが修飾されたメチル化と非メチル化核酸とを識別するものである、NSCLC患者の化学療法治療に対する生存を予測するためのキット。
【請求項12】
前記プライマーが、14‐3‐3σのプロモーター領域、好ましくは14‐3‐3σ遺伝子内におけるCpGジヌクレオチド3から9の間の領域に属するものである、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
前記非メチル化シトシンを修飾する試薬が重亜硫酸塩である、請求項11または12に記載のキット。
【請求項14】
NSCLC患者の化学療法治療に対する生存を予測するための、請求項11〜13のいずれか一項に記載のキットの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−532531(P2008−532531A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−501244(P2008−501244)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際出願番号】PCT/EP2006/002610
【国際公開番号】WO2006/097346
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(507311887)パンガエア、ビオテック、ソシエダッド、アノニマ (5)
【氏名又は名称原語表記】PANGAEA BIOTECH, S.A.
【Fターム(参考)】