説明

プラネタリーミキサー及びそれを用いた処理方法

【課題】 高いせん断力での処理により増粘現象や凝集物等を生じやすい処理材料を、そのような変化を生じることなく均一に攪拌、混練できるようにしたプラネタリーミキサーを提供する。
【解決手段】 タンク(2)内で公転、自転するよう遊星運動するブレード(3)を有する。このタンク側壁とブレード間の最少間隙(C1)は、1〜15mm、好ましくは3〜5mmとし、ブレードとブレード間の最少接近間隙(C2)を15〜40mm、好ましくは20〜30mmとする。上記ブレードは、せん断速度が5〜50sec-1、好ましくは10〜30sec-1となるように回転される。上記ブレードは、公転と自転の回転方向が逆方向であり、3本設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学、医薬、電子、セラミックス、食品、飼料、鉄鋼、非鉄金属その他の分野で材料を分散、攪拌、混練、捏和等するために用いられているプラネタリーミキサーに関する。
【背景技術】
【0002】
タンク内で複数のブレードを公転、自転させ、材料に強力なせん断力を与えて分散等の処理を行うプラネタリーミキサーが広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。しかし、処理材料の種類によっては、従来のプラネタリーミキサーでは満足すべき状態に処理できないものがあった。例えば、化学工業における固体/液体高粘度流体の分散、攪拌、混練、捏和作業のうち、特に繊維状粒子の均一混練、アスペクト比(物体の縦、横比)の高い材料や針状粒子を含む材料、せん断、圧縮、引き伸ばし作用により箔になりやすい金属粉ペースト等の混練、超微粒子(ナノ粒子)の均一混練等においては、従来のプラネタリーミキサーでは、せん断速度(ズリ速度)を2本ブレードの場合、約100〜700sec-1、3本ブレードの場合、約50〜250sec-1程度と比較的高くして大きなせん断応力で処理し、タンク側壁とブレードとの接触時間(せん断発生領域)も長いため、後記するような不都合を生じることがあった。
【0003】
通常、上述の如き材料を処理するには、従来は水平型の双腕式捏和機を使用することが多かったが、そのような装置は大きな据付面積を必要とするので、設置場所を考慮しなければならず、特に回転軸シール部分のメンテナンスが不可欠であり、シール部を介して不純物の混入を著しく嫌う材料の場合には、回転軸を垂直にした混練機を用いていた。垂直の回転軸を有する混練機としてはプラネタリーミキサーがあるが、従来のプラネタリーミキサーは、タンク側壁とブレード間やブレードとブレード間のクリアランスを狭くしてせん断応力を大きくし、かつ公転、自転の回転方向を同一として処理するよう構成されているので、上述のような材料を処理すると上下流動の不十分さや不均一さが目立つようになる。その場合には、ブレードの回転数を上げることで調整していた。
【0004】
従来のプラネタリーミキサーの構造は、一般的にせん断応力を大きくするため、ブレードとタンク側壁間の最少間隙を約1〜3mm、ブレードとブレード間の最少接近間隙を約1〜3mm、若しくは約2.5〜6mmとしてあり、せん断速度も上述したように約100〜700sec-1であるから、ブレードの回転数を上げれば上げる程、せん断速度が早くなり、強力なせん断応力が処理材料に付与されることになる。その結果、繊維状粒子やアスペクト比の高い材料、金属粉ペースト、針状粒子を含む材料では、増粘現象や凝集物の発生、箔化及び針状粒子の折れを招来し、特性不足となることが度々であった。なお、超微粒子(ナノ粒子)では、せん断速度を高くすると、毛細管現象が少なくなり、超微粒子の濡れが促進されず、均一混練が不十分となり、凝集物(固まり)を生じやすいので、湿式媒体分散機を用いて低粘度攪拌しているが、分散処理時間が長くなり、効率的でなかった。
【特許文献1】実公平5−9066号公報(実用新案登録請求の範囲、図面)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の解決課題は、上述したように高いせん断力(強力なせん断応力)で変化(増粘現象や凝集物、箔化等の発生)しやすい材料を、そのような変化を生じることなく攪拌、混練等して均一に処理することが可能なプラネタリーミキサーを提供することであり、また、該プラネタリーミキサーを用いて効率よく処理することができる処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者によれば、従来のプラネタリーミキサーは、処理材料に強力なせん断応力を付与して分散等の処理を行うようタンク側壁とブレード間の最少間隙やブレードとブレード間の最少接近間隙を狭く形成していたことが原因で上述の如き材料の処理が満足にできなかった点に着目し、これらの間隙を広くすると共にせん断速度を低速にすれば、プラネタリーミキサーで短時間に処理できることを発見した。
【0007】
すなわち、本発明によれば、タンク内で複数のブレードを公転、自転させて材料を分散、攪拌、混練等するプラネタリーミキサーにおいて、上記ブレードとタンク側壁間の最少間隙を1〜15mmとし、ブレードとブレード間の最少接近間隙を15〜40mmとしたことを特徴とするプラネタリーミキサーが提供され、また、このプラネタリーミキサーを用いてブレード間のせん断速度が5〜50sec-1となるような回転数でブレードを回転させて処理することを特徴とするプラネタリーミキサーによる処理方法が提供される。
【0008】
実験の結果、タンク側壁とブレードの最少間隙を約1mm以下にすると、エンジニアリングプラスチック繊維状粒子を混練するとき、固まりの発生がみられ、また金属粉ペーストの混練では、箔状の凝集物ができて、好ましい結果が得られなかった。また、約16mm以上に広げると圧縮力が不足して、処理材料にそば粉を練るような理想的な圧縮作用を与えることができなくなり、超微粒子材料の混練では毛細管現象が少なくなって粒子の濡れが促進されず、混練時間が長くしかも均一混練が不十分となり、二次凝集物(固まり)がほぐれなかった。本発明のように、タンク側壁とブレード間の最少間隙を1〜15mmとすると、そのような現象はみられなかった。
【0009】
ブレードとブレード間の最少接近間隙を約14mm以下にすると、ブレードを自転回転数が毎分30〜100回転程度の通常の回転数で回転した場合に、せん断速度(ズリ速度)が約50sec-1以上となって繊維状粒子では固まり(凝集物)ができやすく、アスペクト比の高い(5以上)材料や針状粒子では、粒子の折れを招来し、特性に支障をきたすことがあった。また、約41mm以上にすると、せん断速度が小さくなりすぎ、それを回転数の増加で補っても、いわゆる「ママコ」と称される未混練物が発生し、均一に混練することができなかった。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上記のように構成され、タンク側壁とブレードの最少間隙を1〜15mmとし、ブレードとブレード間の最少接近間隙を15〜40mmとしたので、コシの良いそば粉を練るような圧縮、せん断、引き伸ばし作用を処理材料に与えることができ、また、せん断速度を5〜50sec-1の低速で処理することにより、エンジニアリングプラスチック繊維状粒子や針状粒子等を含むアスペクト比の高い材料でも固まりを生じることがなく、せん断、圧縮、引き伸ばし作用等で箔になりやすい金属粉ペースト等の混練でも箔化を生じにくい。超微粒子(ナノ粒子)の均一混練時であっても、硬練り操作で毛細管現象の増長により濡れが促進し、従来の湿式媒体分散機を用いる場合よりも短時間で処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図面は、本発明のプラネタリーミキサーの一実施例を示し、本体(1)には、タンク(2)内に挿入される3つのブレード(3)が設けられ、各ブレードは遊星歯車機構(4)に接続され、モーター(5)等の駆動源によりタンク内で公転、自転するよう構成されている。この遊星歯車機構としては、タンク壁との接触時間が短くなる構造の機構が好ましく、ブレード軸の軸端に設けた遊星歯車(図示略)を内歯車で構成された太陽歯車(図示略)に係合して公転、自転の方向が逆方向となるようにするとよい。
【0012】
上記ブレードは、種々の形状のものを用いることができるが、好ましくは、30〜90度に捻れた枠型ブレードがよく、図に示す実施例では3本用いているが、2本にしたり、他の適宜構造のブレードと組み合せてもよい。3本ブレードの場合、図2に示すように、各ブレード軸(6)は、正三角形の各頂点に位置するように配置され、タンク側壁とブレード間には、最少間隙(C1)が設けられ、ブレードとブレード間には、ブレードがぶつからないよう最少接近間隙(C2)が設けられている。
【0013】
本発明において、上記最少間隙(C1)は、約1〜15mm、好ましくは約3〜5mmがよく、上記最少接近間隙(C2)は約15〜40mm、好ましくは約20〜30mmがよい。また、ブレードとブレード間でのせん断速度が約5〜50sec-1、好ましくは約10〜30sec-1となるような回転数で上記ブレードを回転するとよい。
【実施例1】
【0014】
従来、エンジニアリングプラスチック繊維状粒子を混練処理するとき、公転、自転が同一方向の従来構造のプラネタリーミキサーで処理したところ、固まりが発生したり、タンク内の上下で材料が不均一に混練され、色相や濃度が均一にならなかった。
本発明のように、上記間隙(C1)、(C2)を広くした図2に示すプラネタリーミキサーを用い、ブレード間のせん断速度が約20sec-1となるようにブレードを回転させて処理したところ、好適なせん断、圧縮、引き伸ばし作用がなされ、固まりの発生や増粘現象もなく、タンク内上下材料の色相、濃度等が均一な製品が得られた。
【実施例2】
【0015】
図2に示すプラネタリーミキサーを用い、金属粉ペーストを約11.5sec-1の低せん断速度で混練したところ、箔化の発生はなく、混練性の良い均一ペーストが得られ、後工程の処理時間を短縮でき、経済的効果が大きかった。
【実施例3】
【0016】
図2に示すプラネタリーミキサーを用い、超微粒子(ナノ粒子)を約5〜30sec-1の低せん断速度で硬練り操作したところ、強い圧縮と適度なせん断応力で毛細管現象を増長し、濡れの促進により、凝集物の少ない高光沢(高グロス)の良好な物ができ、50sec-1でペースト化した。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例を示し、一部を断面した正面図。
【図2】ブレードとタンクの関係を示す説明図。
【符号の説明】
【0018】
1 本体
2 タンク
3 ブレード
4 遊星歯車機構
5 モーター
6 ブレード軸
C1 タンク側壁とブレード間の最少間隙
C2 ブレードとブレード間の最少接近間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク内で複数のブレードを公転、自転させて材料を分散、攪拌、混練等するプラネタリーミキサーにおいて、上記ブレードとタンク側壁間の最少間隙を1〜15mmとし、ブレードとブレード間の最少接近間隙を15〜40mmとしたことを特徴とするプラネタリーミキサー。
【請求項2】
上記ブレードは、公転、自転の回転方向が逆方向である請求項1に記載のプラネタリーミキサー。
【請求項3】
上記ブレードは、3本である請求項1または2に記載のプラネタリーミキサー。
【請求項4】
請求項1に記載のプラネタリーミキサーを用い、ブレード間のせん断速度を5〜50sec-1として材料を処理することを特徴とするプラネタリーミキサーによる処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−192385(P2006−192385A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7656(P2005−7656)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000139883)株式会社井上製作所 (24)
【Fターム(参考)】