説明

プリセット制御方法

【課題】プリセット値を簡易且つ迅速に補正できるプリセット制御方法を提供する。
【解決手段】
制御モデルを用いて算出した制御対象Aのプリセット値と実測された値との差分を算出し、他の制御対象Bを制御する場合に、前記差分の値を用いて、前記制御対象Bのプリセット値の補正を行う。
また、制御対象を2以上の制御グループに分類した後、前記分類した各制御グループに属する最初の制御対象Aを制御する際に、制御モデルを用いて算出した前記制御対象Aのプリセット値と実測された値との差分を算出して保存しておき、次に前記制御対象Aと同じ制御グループに属する制御対象Bを制御する場合に、前記保存していた差分の値を用いて、前記制御対象Bのプリセット値の補正を行うようにしてもよい。ここで、前記制御対象が鋼帯の製造条件である場合に、前記鋼帯の鋼種及び板寸法を用いて、2以上の制御グループに分類することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御モデルを用いて制御対象をプリセット制御する方法、特に、制御対象のプリセット値の補正を簡易且つ迅速に実施できるプリセット制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、制御モデルを用いて制御対象をプリセット制御する方法に関しては種々の方法が用いられてきている。
【0003】
例えば、特開2004−13393号公報(特許文献1)には、制御目標仕様や制御対象の条件が変動する制御対象に対して、制御モデルを用いたプリセット制御を行う場合の制御精度を向上させる方法について記載されている。
【0004】
この特許文献1に記載の方法は、制御量目標値に対応した操作量指令値を、制御モデルを用いて算出しプリセット値とする第1のプリセット手段と、制御仕様の変化量に対して変更すべき操作量の値を計算し、現在の操作量指令値に対して加減算することでプリセット値を求める第2のプリセット手段を設け、制御誤差とモデル誤差に着目して、製造情報やプラントから得た制御情報から良好な制御が行えるプリセット手段を選択し、操作値の指令値を変更するものである。
【特許文献1】特開2004−13393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の方法は、制御対象の制御要求精度が厳しく、また、制御対象の種類が多品種の場合においても、制御区分を細分化することで適切なプリセット値の補正が可能となり、制御精度の向上が図られるというものである。
【0006】
しかし、この特許文献1に記載の方法は、多品種の全てについて適切なプリセット値の補正が可能となるまでには、長期間のチューニング期間が必要となり、鋼帯の製造条件の制御では、数ヶ月に及ぶ場合がある。また、制御区分のとり方を間違えたり、区分数を多くとりすぎるとチューニングが困難になるという問題を有する。
【0007】
また、制御対象の制御要求精度があまり厳しくないものに関しては、もっと簡易且つ迅速な方法によるプリセットの補正方法が望まれる。
【0008】
そこで、本発明は、プリセット値を簡易且つ迅速に補正できるプリセット制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題は次の発明により解決される。
[1]制御モデルを用いて算出した制御対象Aのプリセット値と実測された値との差分を算出し、他の制御対象Bを制御する場合に、前記差分の値を用いて、前記制御対象Bのプリセット値の補正を行うことを特徴とするプリセット制御方法。
[2]制御対象を2以上の制御グループに分類した後、
前記分類した各制御グループに属する最初の制御対象Aを制御する際に、制御モデルを用いて算出した前記制御対象Aのプリセット値と実測された値との差分を算出して保存しておき、
次に前記制御対象Aと同じ制御グループに属する制御対象Bを制御する場合に、前記保存していた差分の値を用いて、前記制御対象Bのプリセット値の補正を行うことを特徴とするプリセット制御方法。
[3]制御対象が鋼帯の製造条件である場合に、前記鋼帯の鋼種及び板寸法を用いて、2以上の制御グループに分類することを特徴とする上記[2]に記載のプリセット制御方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、プリセット値を簡易且つ迅速に補正できるプリセット制御方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例を説明する。
【0012】
本発明に係るプリセット制御方法は、制御対象を2以上の制御グループに分類した後、前記分類した各制御グループに属する最初の制御対象Aを制御する際に、制御モデルを用いて算出した前記制御対象Aのプリセット値と実測された値との差分を算出して保存しておき、次に前記制御対象Aと同じ制御グループに属する制御対象Bを制御する場合に、前記保存していた差分の値を用いて、前記制御対象Bのプリセット値の補正を行うものである。2以上に分類することにより、チューニング期間がさらに短くなる。なお、前記制御対象を2以上の制御グループに分類することなく、最初の制御対象について算出された差分の値を用いて、全ての制御対象についてプリセット値の補正を行うようにしてもよい。
【0013】
ここで、本発明は、前記制御対象として何らかの物理量の制御が必要なもの、例えば、温度、流量、回転数等の制御を行う必要のある設備、製品、機器等に対して適用できる。
【0014】
以下、図1を用いて本発明に係るプリセット制御方法について、鋼帯の製造条件の制御を例に詳しく説明する。図1は、連続式溶融亜鉛めっきライン(CGL:Continuous Galvanizing Line)における合金化炉ミスト冷却部1での水量制御により冷却部1出口における鋼帯温度の制御を行う場合において、本発明に係るプリセット制御方法を適用する場合の一例についての説明図である。
【0015】
ここでは、前記制御対象としては鋼帯が該当するが、前記鋼帯の種類としては、亜鉛めっきを行う全鋼種に適用できる。
【0016】
亜鉛浴2中でめっきを施された鋼帯10は、引き続き合金化炉3において合金化処理が行われ、さらに合金化炉ミスト冷却部1において冷却され、次工程に送られる。
【0017】
ここで、本発明に係るプリセット制御方法は、前記合金化炉ミスト冷却部1出口における鋼帯温度が、予め決められた所定の温度となるように制御を行うものである。
【0018】
本発明においては、まず、温度制御の対象を鋼帯の種類を用いて2以上の制御グループに分類する。ここで、前記鋼帯の種類としては、例えば、鋼種、板寸法(板厚、板幅)を考慮して、プリセット値の補正を行う際に同一の補正値を用いることができるグループに分類する。
【0019】
次に、前記分類した各制御グループに属する最初の鋼帯Aの温度制御を行う際に、冷却部1出口における鋼帯温度を目標温度に合わせるための制御モデルを用いて算出した前記鋼帯Aのプリセット値と、前記冷却部1出口で実測された前記鋼帯Aの温度との差分により表される補正値ΔTを下式(1)により算出して、データベースに保存する。
【0020】
ΔT (1)
このとき、前記データベースには、当該鋼帯Aを特定するためのデータと、この鋼帯Aの属するグループを特定するデータと、前記補正値ΔTとがそれぞれ関連付けられて保存される。
【0021】
この作業は、前記鋼帯Aを製造する場合に行われる。
【0022】
なお、前記算出した補正値ΔTが、予め定められたある閾値Tを超えている場合には、実測データに何らかの異常がある場合が考えられる。この場合は、その補正値ΔTには別の値、例えば、0(零)あるいは直前に保存した同一制御グループの制御時に算出した補正値を割り当てるとよい。
【0023】
次に前記鋼帯Aの温度制御と同じ制御グループに属する鋼帯Bの温度を制御する場合に、前記鋼帯Aを処理した際に保存していた補正値ΔTを用いて、前記制御対象Bのプリセット値の補正を行う。
【0024】
前記補正方法としては、冷却部1出口における鋼帯温度を目標温度に合わせ込むための制御モデルを用いて算出した前記鋼帯Bのプリセット値から、前記鋼帯Aを処理した際に保存していた補正値ΔTを下式(2)により補正することで、新たなプリセット値新目を設定する。
【0025】
新目+ΔT (2)
なお、上記の処理は、前記分類された各制御グループ毎に行われる。
【0026】
ここで、前記新たなプリセット値新目の値と、前記鋼帯Bの冷却部1出口で実測された温度との差分ΔTを下式(3)により算出して、前記データベースに保存しているΔTに下式(4)により加算して、それを新たな補正値ΔTとすることが好ましい。
【0027】
これにより、補正値の見直しが常に行われることとなり、プリセット値の補正がより精度良く行われるようになる。
【0028】
ΔT新目 (3)
ΔT=ΔT+ΔT (4)
以上、本発明に係るプリセット制御方法について説明したが、本発明は、制御要求精度を満たす範囲で、さらに、簡易且つ迅速にプリセット値の補正を行うことが可能となる。
【0029】
例えば、要求精度が、温度条件:設定値±20℃以内、板厚、板幅変動の許容条件:設定値±20%以内、というような精度のものが該当する。
【実施例1】
【0030】
図1に示すCGLにおける合金化炉ミスト冷却部1での水量制御により冷却部1出口における鋼帯温度の制御を行う場合において、本発明に係るプリセット制御方法を用いてモデルのチューニングを行った場合と、特許文献1に記載の方法によりモデルのチューニングを行った場合とのチューニング完了までの時間の比較を行った。なお、制御グループは2つとした。
【0031】
本発明に係るプリセット制御方法を用いてチューニングを行った場合は、従来方法によりチューニングを行った場合の約1/3の時間でチューニングが完了した。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】連続式溶融亜鉛めっきライン(CGL)における合金化炉ミスト冷却部での水量制御により前記冷却部出口における鋼帯温度の制御を行う場合において、本発明に係るプリセット制御方法を適用する場合の一例についての説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 合金化炉ミスト冷却部
2 亜鉛浴
3 合金化炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御モデルを用いて算出した制御対象Aのプリセット値と実測された値との差分を算出し、他の制御対象Bを制御する場合に、前記差分の値を用いて、前記制御対象Bのプリセット値の補正を行うことを特徴とするプリセット制御方法。
【請求項2】
制御対象を2以上の制御グループに分類した後、
前記分類した各制御グループに属する最初の制御対象Aを制御する際に、制御モデルを用いて算出した前記制御対象Aのプリセット値と実測された値との差分を算出して保存しておき、
次に前記制御対象Aと同じ制御グループに属する制御対象Bを制御する場合に、前記保存していた差分の値を用いて、前記制御対象Bのプリセット値の補正を行うことを特徴とするプリセット制御方法。
【請求項3】
制御対象が鋼帯の製造条件である場合に、前記鋼帯の鋼種及び板寸法を用いて、2以上の制御グループに分類することを特徴とする請求項2に記載のプリセット制御方法。

【図1】
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