説明

プリプレグ材およびプリプレグ材の製造方法

【課題】プリプレグの離型紙からの浮き、剥がれのない形態保存安定性に優れるプリプレグ材を提供する。
【解決手段】強化繊維とマトリックス樹脂を含むプリプレグが、少なくとも一表面において離型紙に担持されてなるプリプレグ材であって、前記離型紙は、その縦方向初期弾性変形荷重が90N/15mm以上であることを特徴とするプリプレグ材。およびそれを得るためのプリプレグ材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料の成形に使用される中間基材であるプリプレグを離型紙に担持してなるプリプレグ材およびその製造方法に関するものであり、更に詳しくはプリプレグの離型紙からの浮き、剥がれのない形態保存安定性に優れるプリプレグ材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維強化複合材料は、軽量かつ強度及び弾性率にも優れていることから、スポーツ用途から航空機用途まで広く用いられている。この繊維強化複合材料の成形に使用される中間基材であるプリプレグは、強化繊維に樹脂組成物を含浸したものである。このプリプレグは所望の形態に整えた後、加熱成形により所定の形状に成形され繊維強化複合材料となる。プリプレグは形態保持、貯蔵あるいは輸送のため、その片面に離型紙が、他の一方の面にポリエチレンフィルムなどの保護フィルムが配され、ロール状または所望寸法のシートを多層に積層した製品形態とするのが通常である。このように片面が離型紙により担持されてなるプリプレグ材は、その製造工程中において張力が付与された状態にあり離型紙が引き伸ばされているが、この張力から解放されると伸びが元に戻ろうとするため、貼り付けられたプリプレグがその変化に追従できず、プリプレグと離型紙が部分的に剥がれ、直径3mmを超えるような、プリプレグの離型紙からの浮き上がり(これをボコツキと称する)が発生する。このようなボコツキが発生したプリプレグを使用すると、成形品にシワやボイドが発生し、成形品の外観品位不良、さらには強度低下などの問題が発生する。
【0003】
このようなボコツキの原因となる離型紙の寸法の変化は、プリプレグの製造工程中において離型紙に大きな歪み、ストレス、張力が掛かることによるものであり、この離型紙の伸びを低減するため、長手方向の弾性伸び率を4kg/15mm荷重時(39.2N/15mm)、0.60%以下とした離型紙を使用することによりボコツキ低減する提案がある(特許文献1参照)。しかしながら特許文献1で提案される技術を用いても、プリプレグ製造工程中に離型紙へ付与される張力による伸縮を十分に低減することはできず、ボコツキの抑制に十分な効果を得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開2000−61940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたもので、ボコツキの少ないプリプレグ材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を達成するため、次のいずれかの構成を有する。
(1)強化繊維とマトリックス樹脂を含むプリプレグが、少なくとも一表面において離型紙に担持されてなるプリプレグ材であって、前記離型紙は、その縦方向初期弾性変形荷重が90N/15mm以上であることを特徴とするプリプレグ材。
(2)プリプレグと離型紙との剥離抵抗が0.1〜2.5N/25mmである、上記(1)に記載のプリプレグ材。
(3)前記離型紙は、その横方向初期弾性変形荷重が55N/15mm以上である、上記(1)または(2)に記載のプリプレグ材。
(4)前記強化繊維が炭素繊維である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のプリプレグ材。
(5)前記マトリックス樹脂が、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載のプリプレグ材。
(6)前記強化繊維が、一方向に引き揃えられた強化繊維束である上記(1)〜(5)のいずれかに記載のプリプレグ材。
(7)前記強化繊維は、その引張弾性率が300GPa以上であり、かつプリプレグは、その強化繊維目付が100g/m未満である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載のプリプレグ材。
(8)前記プリプレグは、強化繊維の重量含有率が65重量%以上である、上記(1)〜(7)のいずれかに記載のプリプレグ材。
(9)強化繊維をシートとなし、そのシートの少なくとも片面側、もしくは両面からマトリックス樹脂を塗布してなる離型紙を押し当てることにより前記シートに樹脂を含浸せしめるプリプレグ材の製造方法であって、前記離型紙は、縦方向初期弾性変形荷重が90N/15mm以上であることを特徴とするプリプレグ材の製造方法。
(10)前記シートに樹脂を含浸せしめるに際し、少なくとも一対のロール間に、ロール間圧力を線圧9.8〜19.6kN/1000mm幅として通して加圧する、上記(9)に記載のプリプレグ材の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、プリプレグの離型紙からの浮き、剥がれの問題を解決し、形態保存安定性に優れるプリプレグ材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のプリプレグ材は、強化繊維とマトリックス樹脂を含むプリプレグが、少なくとも一表面において離型紙に担持されてなる。そして、その離型紙は、縦方向初期弾性変形荷重が90N/15mm以上である。ここで離型紙の縦方向とは、連続したプリプレグ材を製造する際の工程方向である。一般に離型紙に担持されてなるプリプレグ材は、その製造工程中で工程方向にかかる張力により、離型紙が縦方向に引き伸ばされているが、この張力から解放されると伸びが元に戻ろうとするため、貼り付けられたプリプレグがその変化に追従できず、ボコツキが発生する。このボコツキを抑制するためには、工程張力による離型紙の縦方向伸び縮みが小さいこと、すなわち、離型紙縦方向の初期弾性変形荷重が従来の離型紙に比べて高いものを用いるのが好ましい。離型紙の縦方向初期弾性変形荷重としては、好ましくは100N/15mm〜200N/15mm、より好ましくは、100N/15mm〜150N/15mm、さらに好ましくは、110N/15mm〜130N/15mmの範囲内の離型紙を用いるのが良い。縦方向初期弾性変形荷重が小さすぎる離型紙を用いると、工程中にかかる張力による離型紙の伸びが大きくなりすぎるため、その変化にプリプレグが追従しきれずボコツキが発生してしまう。一方で縦方向初期弾性変形荷重が大きすぎる場合、ボコツキ抑制の効果は発現するが、あまりに大きすぎると、離型紙がほとんど伸縮しないため、プリプレグと離型紙をロール状に巻き取った際の巻き姿不良の発生や取り扱い性の悪化が生じることがあるので、縦方向初期弾性変形荷重は200N/15mm以下であることが好ましい。
【0008】
ここで本発明における離型紙の縦方向初期弾性変形荷重は次のようにして測定することができる。JIS P8111に従い前処置された離型紙を縦方向が長さ方向になるように幅15mm、長さ200mmの短冊状にカットし、試験片とする。試験片の片端を引張強さ測定器の上部つかみ中央にしっかり締付け、次に下部つかみ中央に試験片が緩まないように固定し締付ける。これを引張速度100mm/minで引っ張ったとき、離型紙が初期長に対して1%伸長時の荷重として求める。通常、離型紙は巻状で供給され、その巻状の離型紙を用いて縦方向初期弾性変形荷重を測定するのが好ましい。なお、後述する実施例では、引張強さ測定器として、テンシロン万能試験機を用いた。
【0009】
また、本発明で用いる離型紙は、縦方向初期弾性変形荷重が前記特定の範囲にあるだけでなく、横方向初期弾性変形荷重が55N/15mm以上であることが好ましい。好ましくは60N/15mm〜100N/15mm、より好ましくは60N/15mm〜80N/15mmの範囲内の横方向初期弾性変形荷重を有する離型紙を用いるのが良い。ここで離型紙の横方向とは連続するプリプレグ製品の幅方向を示す。横方向初期弾性変形荷重が小さすぎる離型紙を用いると、強化繊維シートと、そのシートの少なくとも片面側、もしくは両面からマトリックス樹脂を塗布してなる離型紙を少なくとも一対のロール間に通して加圧し樹脂を含浸させてプリプレグ材を製造する際、離型紙が横方向に圧延され、ロールを通過後に元に戻ろうとするため、その伸び縮みの変化に強化繊維が追従できずにボコツキが発生してしまうことがある。また、横方向初期弾性変形荷重が大きすぎてもボコツキの程度にはさほど影響を与えないが、あまりに大きすぎると、離型紙の弾性が高すぎるため、プリプレグと一緒に離型紙を巻き取りロール体とするのが困難となることがある。
【0010】
ここで横方向初期弾性変形荷重は、離型紙を横方向が長さ方向になるように幅15mm、長さ200mmの短冊状にカットし試験片としたものを縦方向初期弾性変形荷重と同様の方法で測定すればよい。
【0011】
本発明のプリプレグにおいて好適に用いられる離型紙は、例えば、木材繊維、サイズ剤、硫酸バンドから製造される、坪量50g/m〜150g/mの基材の少なくとも一方の表面上に目止め層を設け、次に、この目止め層の表層に剥離剤を塗工することにより得られる。特に、特定坪量の基材を用いることで、前記した特定範囲の初期弾性変形荷重を有する離型紙とすることができる。ここで、基材としては、上質紙、クラフト紙、グラシン紙、パーチメント紙、スーパーカレンダードクラフト紙などが挙げられ、特に、グラシン紙、パーチメント紙またはスーパーカレンダードクラフト紙を用いるのが良い。目止め層とは、耐熱性、耐水性の良いクレーをバインダーとともに塗布したり、ポリビニルアルコール、カルボキシルメチルセルロース、デンプン等を塗工したり、あるいは、これらを合わせて塗工して形成される。この目止め層を設けるための塗工装置としては、例えば、エアドクターコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ナイフコーター、リバースコーターなどが挙げられる。この目止め層の塗工量は通常片面当たり15〜30g/mである。目止め層の塗工量が少なすぎると、剥離材を塗工するための十分なバリヤー性を得ることが困難となる。また、目止め層は基材の両面に塗工することが好ましい。剥離剤としては剥離効果を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、分子末端または側鎖に官能基を有するシリコーン樹脂または長鎖アルキル樹脂など、公知のものを用いればよい。好ましくは、耐溶剤性、耐熱性に優れ、剥離性能のきめ細かいコントロールが可能なため、シリコーン樹脂を用いることがよい。この剥離剤の塗工装置としては、例えば、グラビアコーター、ロッドコーター、エアドクターコーターなどを用いることができる。剥離剤の塗工量は、後述するプリプレグとの剥離抵抗に合わせて適宜調整すればよく、好ましくは片面当たり0.1〜20g/mである。剥離剤の塗工量が少なすぎると剥離不良となることがあり、多すぎると不経済になるだけではなく、剥離剤の硬化不良が発生することがある。
【0012】
また、本発明のプリプレグ材は、プリプレグと離型紙との剥離抵抗が、0.1〜2.5N/25mmであることが好ましく、0.3〜2.5N/25mmがより好ましくは、0.5〜2.5N/25mmがさらに好ましくは、0.7〜2.5N/25mmが特に好ましい。またこれらの剥離抵抗となるよう、離型紙の剥離材塗工量を調整すればよい。かかるプリプレグと離型紙との剥離抵抗が小さすぎると、プリプレグと離型紙との接着が弱いため、離型紙が寸法変化した場合にプリプレグ材にボコツキが生じやすくなるし、プリプレグ材の製造時には、離型紙の寸法が変化した場合にプリプレグに浮きや波打ちが生じやすい傾向にある。一方、剥離抵抗が大きすぎると、プリプレグと離型紙との接着が強すぎるために、成形する際にプリプレグと離型紙を剥がすのが困難となり、成形作業の効率が低下することがある。
【0013】
ここで、プリプレグと離型紙との剥離強度は次のように測定する。すなわちプリプレグ材を離型紙ごと、強化繊維の方向を長さ方向として幅25mm、長さ300mmの短冊状に裁断し、試験片とする。次に図1に示すように、上記試験片1を、試験片の全体を覆える大きさの両面接着テープ(例えばソニーケミカル製両面テープT4000、幅50mm)を用いて、折れ角θが165°のステンレス製の支持具2に、離型紙を外側にして張り付ける。次に図2に示すように、支持具2を引張試験機の下側チャック4(固定)に装着するとともに、プリプレグ1aから10mmほどあらかじめ引き剥がした離型紙1bの引き剥がし端をクリップ5、金属線6を介して上側チャック7(可動)に装着し、23℃、50%RHの雰囲気にて引張速度100mm/分で離型紙1bを引っ張ってプリプレグ1aから引き剥がし、そのときの荷重をチャート上に記録する。そして、引き剥がし終えるまでの間のチャートから、はがし始めの1分間と剥がし終わりの1分間を除いて、荷重の山の頂点を高い方から5点、荷重の谷底点を低いほうから5点読み取り、それら10点の荷重の単純平均値を求めて剥離強度とする。なお、引張試験機としては、荷重測定誤差が±1%を超えない、クロスヘッド移動速度を一定に保てる形式の適当な材料試験機を用いる。例えば、東洋精機社製テンシロンUTM−4Lなどの万能型引張試験機を用いることができる。
【0014】
本発明において、マトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂のいずれを含むものでも良いが、熱硬化性樹脂が好ましく、特に熱硬化性エポキシ樹脂を用いるのが好ましい。熱硬化性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物である。かかる樹脂組成物には、通常、硬化剤と、必要において硬化助剤が含まれている。エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA型エポキシ樹脂などを使用することができる。これらのエポキシ樹脂は単独または2種類以上を併用して使用することができ、さらには液状のものから固体状のものまでタック性などプリプレグに要求する特性に応じて便宜選択して使用することができる。また、樹脂の種類や要求特性に応じて適当な硬化剤、硬化助剤を添付することが好ましい。さらに離型紙とプリプレグ材の剥離抵抗をコントロールし、取り扱い性を高める上で適当な熱可塑性樹脂や無機粒子を添加してもよい。
【0015】
本発明において使用される強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等を挙げることができるが、成形体とした場合に特に優れた機械特性を示す炭素繊維を用いることが望ましい。かかる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル系やピッチ系等の炭素繊維を用いることができる。
【0016】
また、本発明に使用される強化繊維は、通常、シート状に形成されてなる。シート状であれば、特に制限されることはなく、複数本の強化繊維束が一方向に引き揃えられたシートであっても良く、織物、編物、不織布、その他の布帛、あるいはこれらを組み合わせたものなど、適宜選んで用いることもできる。
【0017】
また、本発明は、300GPa以上、好ましくは300〜600GPa、より好ましくは350〜600GPa、さらに好ましくは450〜600GPa、最も好ましくは550〜600GPaという高い引張弾性率を有する強化繊維を用いた場合に、特に効果的である。ここで炭素繊維束の引張弾性率は、JIS R−7601に規定される方法に準拠して求める。一般に強化繊維の弾性率が高いほど、離型紙の伸び縮みの変化に対して追従しにくく、ボコツキが発生しやすくなるが、本発明の離型紙のように伸び縮み量の少ない離型紙を用いれば、高弾性率の強化繊維に対してもボコツキを発生しにくくなる。
【0018】
さらに本発明は、プリプレグ中の強化繊維目付が100g/m未満の低目付プリプレグを製造する際にも有効となる。一般にプリプレグ中の強化繊維目付が100g/m未満の低目付プリプレグの製造は、強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させる工程において線圧9.8kN/1000mm以上の高いロール圧で強化繊維を押し拡げてシート状とするため、離型紙が幅方向に圧延されボコツキを発生しやすくなるが、本発明の離型紙のように伸び縮み量の少ない離型紙を用いれば、高弾性率の強化繊維に対してもボコツキを発生しにくい。
【0019】
さらに、本発明において、プリプレグ中に強化繊維がプリプレグの重量あたり65〜90重量%、より好ましくは70〜85重量%、さらに好ましくは75〜85重量%含まれるのがよい。強化繊維の含有量が多すぎると、プリプレグと離型紙との剥離抵抗が前記した下限を下回りやすく、プリプレグ材に浮きが生じやすい傾向にある。
【0020】
次に本発明のプリプレグ材を製造する方法の一例を説明する。すなわち、本発明のプリプレグ材の製造方法は、強化繊維を前記したようなシートとなし、そのシートの少なくとも片面側、もしくは両面から、前記したようなマトリックス樹脂を塗布してなる離型紙を押し当てることにより前記シートに樹脂を含浸せしめる。ここで、その離型紙としては、前記した特定の離型紙を用いるのである。
【0021】
図3は、本発明方法を好適に実施することができるプリプレグ材製造装置の一例を示す概略図である。
【0022】
例えば、複数の強化繊維束が一方向に引き揃えられたシートを用いて製造する場合は、図3において、多数のパッケージ8から引き出した強化繊維束9を、自由回転する引き揃えロール10、11を経てコーム12に導き、互いに並行かつシート状に引き揃えて強化繊維シート20とする。次いで強化繊維シート20に、導入ロール13を介して供給される、離型紙14と、同様に導入ロール15を介して供給される、Bステージの熱硬化性樹脂などのマトリックス樹脂を塗布した下側の離型紙16とを樹脂塗布面が強化繊維シート20側を向くように重ね合わせ、重ね合わせ体をヒーター17で加熱してマトリックス樹脂の粘度を一旦下げた後、含浸ロール18、19で110℃以上に加熱、加圧して強化繊維束20の押し拡げと離型紙16上のマトリックス樹脂の強化繊維シート20への転移、含浸を行う。すなわち強化繊維シートが一方向プリプレグとなる。マトリックス樹脂の転移、含浸後は、上側離型紙14を剥離し、一方向プリプレグ材21を下側の離型紙16ごとロール状に巻き取り、ロール体22とする。かくして、強化繊維が帯状の離型紙の長さ方向に延在している一方向プリプレグ材が得られる。
【0023】
ここで、プリプレグ材においてプリプレグを担持する離型紙、すなわち図3における下側の離型紙16としては、前記した特定の離型紙を用いる。特に、縦方向初期弾性変形荷重が小さすぎる離型紙を用いると、プリプレグ材の製造工程中において付与された張力により引き伸ばされた離型紙が、張力から解放された際に元に戻ろうとするため、貼り付けられたプリプレグがその変化に追従できず、プリプレグと離型紙が部分的に剥がれ、プリプレグの浮きやボコツキが発生するのである。
【0024】
また、上側の離型紙14と下側の離型紙16の両方に樹脂が塗布されてなる離型紙を用いても良いし、上側の離型紙14に樹脂組成物が塗布されてなる離型紙を用いて、下側の離型紙16には樹脂組成物が塗布されていない離型紙を用いることも可能である。もちろん、上側の離型紙をプリプレグと共にロール状に巻き取り、下側の離型紙を剥離回収する機構としても良い。また、いずれも巻き取る前にプリプレグ側を覆うようにポリエチレンフィルム等の保護フィルムを貼り付け、吸湿や外力による損傷からプリプレグを保護することもできる。
【0025】
ここで、含浸ロール18、19によりシートに樹脂を含浸させるための圧力を線圧9.8〜19.6kN/1000mm幅とするのが良い。線圧をこの範囲とすることで、強化繊維の押し拡げ、強化繊維シートへのマトリックス樹脂の含浸を良好に行うことができ、品位良好なプリプレグ製品を得ることができる。線圧が高すぎると樹脂がプリプレグ製品幅以上にはみ出すようになるので、19.6kN/1000mm幅以下で十分である。
【0026】
なお、シートに樹脂を含浸させる際の温度、いわゆる含浸温度としては特に限定されず、樹脂の種類に応じて選択されるが、例えばマトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を含む樹脂組成物を用いた場合などには、70℃以上が好ましく、80℃〜140℃がより好ましく、90〜130℃がさらに好ましい。かかる含浸温度が低すぎると樹脂が十分に強化繊維束の各単繊維間に十分しみ渡らず、プリプレグを成形して得られる繊維強化複合材料においてボイドなどが発生して機械強度低下の原因となる場合がある一方で、含浸温度が高すぎると、プリプレグの使用可能期間が短くなるなどの問題が生じる場合がある。
【実施例】
【0027】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例1]
図3に示すプリプレグ材製造装置を用いて、パッケージ8から136本の炭素繊維束9を引き出し、コーム12で互いに平行かつシート状に引き揃えて強化繊維シート20とした後、その強化繊維シート20に離型紙14と、エポキシ樹脂組成物を目付が11g/mとなるように塗布した離型紙16をそのエポキシ樹脂塗布面が強化繊維シート20側を向くように重ね合わせ、この重ね合わせ体をヒーター17で110℃に加熱しながら含浸ロール18、19で線圧14.7kN/1000mm幅で加圧して強化繊維束20の押し拡げと離型紙16上のエポキシ樹脂組成物の強化繊維シート20への転写、含浸とを行い、離型紙16上にプリプレグが担持された、一方向プリプレグ材21を得た。この一方向プリプレグ材は、幅1000mm、炭素繊維目付が25g/m、プリプレグ中の炭素繊維含有率が70重量%であった。
【0028】
なお、強化繊維としては、引張弾性率:378GPa、繊度:0.186g/m、単繊維数:4500本の炭素繊維束を用い、マトリックス樹脂としては、液状、固状のエポキシ樹脂をそれぞれ4:5の割合で混合し硬化剤を加えたエポキシ樹脂組成物を用い、離型紙16としては、以下のものを用いた。
【0029】
基材 :上質紙(坪量90g/m
目止め層:クレーバインダー(両面塗布、片面あたり15g/m
剥離材 :シリコーン樹脂(両面塗布、片面あたり1.0g/m
初期弾性変形荷重:縦方向 103N/15mm、横方向60N/15mm
得られたプリプレグ材について、プリプレグと離型紙との剥離抵抗を測定したところ、0.75N/25mmであった。また、得られたプリプレグ材を、長さ1000mm×1000mmのシート状に裁断し、24℃、50%RHの環境下で1時間放置後、シート表面を観察し、長径3mm以上のプリプレグ材の離型紙からの浮き上がりであるボコツキの個数を測定したところ、プリプレグ材表面にボコツキは認められず、取り扱い性にも問題はなかった。
[実施例2]
用いる炭素繊維束の本数を103本に変更し、離型紙16を以下のものに変更し、これに塗布するエポキシ樹脂組成物の目付を15g/mに変更した以外は、実施例1と同様にして一方向プリプレグ材21を得た。
【0030】
基材 :上質紙(坪量85g/m
目止め層:クレーバインダー(両面塗布、片面あたり5g/m
剥離材 :シリコーン樹脂(両面塗布、片面あたり1.2g/m
初期弾性変形荷重:縦方向 106N/15mm、横方向51N/15mm
この一方向プリプレグ材は、幅1000mm、炭素繊維目付が25g/m、プリプレグ中の炭素繊維含有率が63重量%であった。得られたプリプレグ材について、プリプレグと離型紙との剥離抵抗を測定したところ、0.08N/25mmであった。また、得られたプリプレグ材を、長さ1000mm×1000mmのシート状に裁断し観察したところ、プリプレグ材のボコツキは3個/1000mmと少なく、取り扱い性にも問題なかった。
[実施例3]
用いる炭素繊維束の本数を103本に変更し、離型紙16を以下のものに変更し、これに塗布するエポキシ樹脂組成物の目付を15g/mに変更し、含浸ロール18、19における線圧を20.6kN/1000mm幅に変更した以外は、実施例1と同様にして一方向プリプレグ材21を得た。
【0031】
基材 :上質紙(坪量85g/m
目止め層:クレーバインダー(両面塗布、片面あたり10g/m
剥離材 :シリコーン樹脂(両面塗布、片面あたり1.5g/m
初期弾性変形荷重:縦方向 103N/15mm、横方向60N/15mm
この一方向プリプレグ材は、幅1000mm、炭素繊維目付が25g/m、プリプレグ中の炭素繊維含有率が63重量%であった。得られたプリプレグ材について、プリプレグと離型紙との剥離抵抗を測定したところ、0.08N/25mmであった。また、得られたプリプレグ材を、長さ1000mm×1000mmのシート状に裁断し観察したところ、プリプレグ材のボコツキは4個/1000mmと少なく、取り扱い性にも問題なかった。
[比較例1]
用いる炭素繊維束の本数を103本に変更し、離型紙16を以下のものに変更し、これに塗布するエポキシ樹脂組成物の目付を15g/mに変更した以外は、実施例1と同様にして一方向プリプレグ材21を得た。
【0032】
基材 :上質紙(坪量48g/m
目止め層:クレーバインダー(両面塗布、片面あたり16g/m
剥離材 :シリコーン樹脂(両面塗布、片面あたり1.0g/m
初期弾性変形荷重:縦方向80N/15mm、横方向52N/15mm
この一方向プリプレグ材は、幅1000mm、炭素繊維目付が25g/m、プリプレグ中の炭素繊維含有率が63重量%であった。得られたプリプレグ材について、プリプレグと離型紙との剥離抵抗を測定したところ、0.08N/25mmであった。また、得られたプリプレグ材を、長さ1000mm×1000mmのシート状に裁断し観察したところ、プリプレグ裁断時にはボコツキが見られ、プリプレグのボコツキは100個/1000mに及び、外観は非常に見苦しいものであった。
[比較例2]
用いる炭素繊維束の本数を103本に変更し、離型紙16を以下のものに変更し、これに塗布するエポキシ樹脂組成物の目付を15g/mに変更した以外は、実施例1と同様にして一方向プリプレグ材21を得た。
【0033】
基材 :上質紙(坪量86g/m
目止め層:クレーバインダー(両面塗布、片面あたり5g/m
剥離材 :シリコーン樹脂(両面塗布、片面あたり1.2g/m
初期弾性変形荷重:縦方向88N/15mm、横方向53N/15mm
この一方向プリプレグ材は、幅1000mm、炭素繊維目付が25g/m、プリプレグ中の炭素繊維含有率が63重量%であった。プリプレグと離型紙16との剥離抵抗は0.75N/25mmであった。また、得られたプリプレグ材を、長さ1000mm×1000mmのシート状に裁断し観察したところ、プリプレグ裁断時にはボコツキが見られ、30分後にはボコツキは70個/1000mに及び、外観は非常に見苦しいものであった。
[比較例3]
用いる炭素繊維束の本数を103本に変更し、離型紙16を以下のものに変更した以外は、実施例1と同様にして一方向プリプレグ材21を得た。
【0034】
基材 :上質紙(坪量85g/m
目止め層:クレーバインダー(片面のみ塗工16g/m
剥離材 :シリコーン樹脂(両面塗布、片面あたり1.0g/m
初期弾性変形荷重:縦方向87N/15mm、横方向58N/15mm
この一方向プリプレグ材は、幅1000mm、炭素繊維目付が25g/m、プリプレグ中の炭素繊維含有率が70重量%であった。得られたプリプレグ材について、プリプレグと離型紙との剥離抵抗を測定したところ、0.56N/25mmであった。また、得られたプリプレグ材を、長さ1000mm×1000mmのシート状に裁断し観察したところ、プリプレグ裁断時にはボコツキが見られ、30分後にはボコツキは50個/1000mに及び、外観は非常に見苦しいものであった。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、釣竿、ゴルフシャフトなど各種スポーツ用途を構成する繊維強化複合繊維材料、航空・宇宙用途機材を構成する繊維強化複合材料、その他各種繊維強化複合材料を製造するための中間基材として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】プリプレグの剥離強度の測定に用いる支持具の概略斜視図である。
【図2】プリプレグの剥離強度を測定している様子を示す概略図である。
【図3】本発明で好適に用いられるプリプレグ材製造装置の一例を示す概略側面図である。
【符号の説明】
【0038】
1:試験片(プリプレグ材)
1a:一方向プリプレグ
1b:離型紙
2:試験片の支持具
3:両面テープ
4:下側チャック
5:クリップ
6:金属線
7:上側チャック
8:強化繊維束のパッケージ
9:強化繊維束
10:引き揃えロール
11:引き揃えロール
12: コーム
13:導入ロール
14:上紙離型紙
15:導入ロール
16:下紙離型紙
17:ヒーター
18:含浸ロール
19:含浸ロール
20:強化繊維シート
21:一方向プリプレグ材
22:一方向プリプレグ材のロール体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維とマトリックス樹脂を含むプリプレグが、少なくとも一表面において離型紙に担持されてなるプリプレグ材であって、前記離型紙は、その縦方向初期弾性変形荷重が90N/15mm以上であることを特徴とするプリプレグ材。
【請求項2】
プリプレグと離型紙との剥離抵抗が0.1〜2.5N/25mmである、請求項1記載のプリプレグ材。
【請求項3】
前記離型紙は、その横方向初期弾性変形荷重が55N/15mm以上である、請求項1または2に記載のプリプレグ材。
【請求項4】
前記強化繊維が炭素繊維である、請求項1〜3のいずれかに記載のプリプレグ材。
【請求項5】
前記マトリックス樹脂が、エポキシ樹脂を含む樹脂組成物である、請求項1〜4のいずれかに記載のプリプレグ材。
【請求項6】
前記強化繊維は、複数の強化繊維束が一方向に引き揃えられてなるシートである請求項1〜5のいずれかに記載のプリプレグ材。
【請求項7】
前記強化繊維は、その引張弾性率が300GPa以上であり、かつプリプレグは、その強化繊維目付が100g/m未満である、請求項1〜6のいずれかに記載のプリプレグ材。
【請求項8】
前記プリプレグは、強化繊維の重量含有率が65重量%以上である、請求項1〜7のいずれかに記載のプリプレグ材。
【請求項9】
強化繊維をシートとなし、そのシートの少なくとも片面側、もしくは両面からマトリックス樹脂を塗布してなる離型紙を押し当てることにより前記シートに樹脂を含浸せしめるプリプレグ材の製造方法であって、前記離型紙は、縦方向初期弾性変形荷重が90N/15mm以上であることを特徴とするプリプレグ材の製造方法。
【請求項10】
前記シートに樹脂を含浸せしめるに際し、少なくとも一対のロール間に、ロール間圧力を線圧9.8〜19.6kN/1000mm幅として通して加圧する、請求項9に記載のプリプレグ材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−238885(P2007−238885A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−67041(P2006−67041)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】