説明

プリンタの排紙ローラ

【課題】 安定した記録紙の送り精度を確保し、高画質画像記録の場合など記録画像の品質を高めることができ、且つ製作費を低減可能な排紙ローラを提供する。
【解決手段】 プリンタの記録ヘッドよりも記録紙搬送方向下流側において複数の拍車ローラと協働して記録紙を送る排紙ローラは、鋼製の円管状管材からなるローラ本体10と、このローラ本体10の表面に30〜100μmの層厚で形成されたアルミニウム溶射層11であって、その表面が大きな摩擦係数を有する粗面に形成されたアルミニウム溶射層11とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタの排紙ローラに関し、特に摩擦係数の大きい金属溶射層を形成したものに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタにおいて、インクジェットヘッドが記録紙の搬送方向と直交方向へ往復移動しながら記録する記録領域よりも、上流側と下流側には記録紙を送る送紙ローラと排紙ローラとが夫々設けられている。前記排紙ローラは、インクジェットヘッドにより記録した記録紙の表面に接触する複数の拍車ローラと協働して記録紙を搬送するものである。
【0003】
前記拍車ローラは、複数の尖鋭部を有する金属製のディスク状のローラであり、複数の尖鋭部の摩耗を防止する為に、従来、排紙ローラとして、金属製の小径軸部材と、この小径軸部材のうちの複数の拍車ローラに対応する部位に夫々外嵌固定された複数のゴム製筒体とから構成されている。例えば、特許文献1には、この種の排紙ローラにおいて、ゴム製筒体や合成樹脂製ローラを小径軸部材に固定する構造を改善したものが提案されている。
【特許文献1】特開2002−316741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェットプリンタにより、写真等の高画質画像の記録(印刷)を行う場合、記録紙の後端が送紙ローラから外れた後は、排紙ローラのみで記録紙を搬送することになる。このとき、送紙ローラと排紙ローラとで記録紙を搬送する搬送状態から、排紙ローラのみで記録紙を搬送する搬送状態に切換わる時、細い筋が記録されてしまう。これは、送紙ローラの搬送特性と排紙ローラの搬送特性が微妙に異なるため、搬送速度の微妙な急変が発生するためである。
【0005】
しかし、特許文献1に記載の排紙ローラのように複数のゴム製筒体や樹脂製ローラを組み込んだ排紙ローラでは、ゴムの劣化や汚れや温度変化により摩擦特性が変化し、記録紙の送り精度が低下するため、前記のように高画質画像記録の場合など記録画像の品質を高めにくいこと、ゴム製筒体を小径軸部材に組み込むのに手間がかかるうえ製作費を低減するのが難しいことなどの問題がある。
【0006】
本発明の目的は、プリンタの排紙ローラにおいて、安定した記録紙の送り精度を確保し、高画質画像記録の場合など記録画像の品質を高めることができ、且つ製作費を低減可能な排紙ローラを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のプリンタの排紙ローラは、プリンタの記録ヘッドよりも記録紙搬送方向下流側において複数の拍車ローラと協働して記録紙を送る排紙ローラにおいて、前記排紙ローラは、円管状又は中実丸棒状の鋼製のローラ本体と、このローラ本体の表面に形成された金属溶射層を備え、前記金属溶射層は、30〜75HRBの硬度を有する金属材料の溶射層で構成されたことを特徴とする。
【0008】
印刷対象の記録紙を搬送する際、排紙ローラの表面に形成された金属溶射層の表面と記録紙との間に作用する摩擦力でもって記録紙が搬送される。拍車ローラは記録紙を介在させた状態で排紙ローラに係合するが、拍車ローラの尖鋭部がローラ本体に接触することはなく、金属溶射層と接触しながら記録紙の搬送を行う。
【0009】
請求項2のプリンタの排紙ローラは、請求項1の発明において、前記排紙ローラの金属溶射層は、30〜100μmの層厚に形成されたことを特徴とする。
請求項3のプリンタの排紙ローラは、請求項1又は2の発明において、前記排紙ローラの金属溶射層の表面は大きな摩擦係数を有する粗面に形成され、その表面粗さはRa=6.0〜10μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、排紙ローラは、円管状又は中実丸棒状の鋼製のローラ本体と、このローラ本体の表面に形成された金属溶射層を備え、金属溶射層は、30〜75HRBの硬度を有する金属材料の溶射層で構成されたので、印刷対象の記録紙を搬送する際、拍車ローラが硬度の低い金属溶射層と接触し、拍車ローラが硬質のローラ本体と接触することがないから、拍車ローラの摩耗を防止することができ、拍車ローラの耐久性を確保できる。しかも、金属溶射層は、アーク溶射などの方法でローラ本体の表面に溶融状態の金属粒子を吹き付けて形成されるので、製作費の低減を図ることができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、排紙ローラの金属溶射層は、30〜100μmの層厚に形成されたので、ローラ本体の表面に形成される金属溶射層の層厚を薄くすることによって層厚のばらつきが小さくなる。それ故、排紙ローラにおいて記録紙と接触する部位の外径のばらつきを抑えて、安定した記録紙の送り精度を確保し、高画質画像記録の場合など記録画像の品質を高めることができる。
【0012】
請求項3の発明によれば、排紙ローラの金属溶射層の表面は大きな摩擦係数を有する粗面に形成され、その表面粗さはRa=6.0〜10μmであるので、大きな摩擦係数を有する排紙ローラの金属溶射層でもって、記録紙を確実に搬送することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のプリンタの排紙ローラは、円管状又は中実丸棒状の鋼製のローラ本体と、このローラ本体の表面に形成された金属溶射層を備え、この金属溶射層は、30〜75HRBの硬度を有する金属材料の溶射層で構成されたものである。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の実施例について説明する。
図1に示すように、インクジェットプリンタにおいて、記録ヘッド1の記録領域2に対して、記録紙Pを搬送する記録紙搬送方向の上流側には、送紙ローラ3とそのピンチローラ4とが設けられ、記録紙搬送方向の下流側には、排紙ローラ5と、例えば4つの金属製のディスク状の拍車ローラ6が設けられ、これらのローラ3〜6により記録紙Pが搬送される。
【0015】
先ず、排紙ローラ5の構造について説明する。
図2、図3に示すように、排紙ローラ5は、鋼製の円管状の管材からなるローラ本体10と、このローラ本体10の表面に形成されたアルミニウム溶射層11(金属溶射層)とを有する。
【0016】
前記ローラ本体10としての円管状管材は、肉厚が例えば約0.4〜0.8mmで、外径が例えば約10〜12mmのものである。アルミニウム溶射層11は、アーク溶射などの方法でローラ本体10の表面に溶融状態のアルミニウム粒子を吹き付けて形成され、その層厚は例えば30〜100μmである。
【0017】
次に、ローラ本体10の表面に形成されるアルミニウム溶射層11の表面粗さについて説明する。
図4は、アーク溶射によりローラ本体10の表面に形成されたアルミニウム溶射層11の一部分における表面粗さの測定結果を示す線図である。図4に示すように、アルミニウム溶射層11の表面は大きな摩擦係数を有する粗面に形成されており、具体的には、アルミニウム溶射層11の表面粗さはRa=6.0〜10μm、Ry=約41.4μm、Rz=約28.3μmであり、アルミニウム溶射層11の表面の摩擦係数は約1.2である。
【0018】
ここで、前記の排紙ローラ5と拍車ローラ6の耐久性を確認するため、拍車ローラ6を排紙ローラ5に当接させ、排紙ローラ5のシャフト回転数を300rpmとし10万回の記録紙送りに対応する耐久試験を実行した。この耐久試験後の拍車ローラ6の要部拡大図を図5に示す。拍車ローラ6の尖鋭部6aの寸法は、耐久試験前の0.161mmから耐久試験後には0.132mmとなり、拍車ローラ6の尖鋭部6aの摩耗は無視し得る程度であったし、アルミニウム溶射層11において拍車ローラ6の尖鋭部6aと接触した部位には、拍車ローラ6により多数の微小凹凸が発生したが、それらの微小凹凸は、ローラ本体10に達することなくアルミニウム溶射層11における凹凸の範囲内のものであったため、記録紙Pの搬送に何ら影響はない。
【0019】
次に、プリンタの排紙ローラ5の作用、効果について説明する。
印刷対象の記録紙Pを搬送する際、排紙ローラ5の表面に形成されたアルミニウム溶射層11の表面と記録紙Pとの間に作用する摩擦力でもって記録紙Pが搬送される。拍車ローラ6は記録紙Pを介在させた状態で排紙ローラ5に係合するが、拍車ローラ6の尖鋭部6aがローラ本体10に接触することはなく、アルミニウム溶射層11と接触しながら記録紙Pの搬送を行う。
【0020】
このように、排紙ローラ5は、円管状の鋼製のローラ本体10と、このローラ本体10の表面に形成されたアルミニウム溶射層11とを備えたので、印刷対象の記録紙Pを搬送する際、拍車ローラ6が拍車ローラ6を構成する金属部材よりも硬度の低いアルミニウム溶射層11と接触し、拍車ローラ6が硬質のローラ本体10と接触することがないから、拍車ローラ6の摩耗を防止することができ、拍車ローラ6の耐久性を確保できる。しかも、アルミニウム溶射層11は、アーク溶射などの方法でローラ本体10の表面に溶融状態のアルミニウム粒子を吹き付けて形成されるので、製作費の低減を図ることができるうえ、アルミニウム溶射層11の表面は酸化アルミニウムの被膜が形成されているため優れた防錆効果が得られる。
【0021】
排紙ローラ5のアルミニウム溶射層11は、30〜100μmの層厚に形成されたので、ローラ本体10の表面に形成されるアルミニウム溶射層11の層厚を薄くすることによって層厚のばらつきが小さくなる。それ故、排紙ローラ5において記録紙Pと接触する部位の外径のばらつきを抑えて、安定した記録紙Pの送り精度を確保し、高画質画像記録の場合など記録画像の品質を高めることができる
【0022】
排紙ローラ5のアルミニウム溶射層11の表面は大きな摩擦係数を有する粗面に形成され、その表面粗さはRa=6.0〜10μmであるので、大きな摩擦係数を有する排紙ローラ5のアルミニウム溶射層11でもって、記録紙Pを確実に搬送することができる。
【0023】
次に、前記実施例を部分的に変更した変更例について説明する。
1]ローラ本体10を構成する鋼製の円管状の管材の代わりに、鋼製の中実丸棒状の部材を採用してもよい。
2]ローラ本体10の表面に形成する溶射層は、アルミニウム以外にも30〜75HRBの硬度を有する金属材料で形成することが可能であり、例えば、亜鉛で金属溶射層を形成してもよいし、アルミニウムが約88%〜95%、シリコンが約12%〜5%の割合で配合されたアルミニウム・シリコン合金や、銅が約90%、アルミニウムが約10%の割合で配合されたアルミニウム・銅合金などで金属溶射層を形成してもよい。
これらの場合にも、前記と同様の作用・効果を奏する。
3]その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例に種々の変更を付加した形態で実施可能で、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例に係るインクジェットプリンタの記録ヘッドと送紙ローラと排紙ローラとの位置関係を示す概略断面図である。
【図2】実施例の排紙ローラの斜視図である。
【図3】排紙ローラの要部拡大断面図である。
【図4】排紙ローラの表面に形成されたアルミニウム溶射層の一部分における表面粗さの測定結果を示す線図である。
【図5】拍車ローラの要部拡大図である。
【符号の説明】
【0025】
1 記録ヘッド
5, 排紙ローラ
6 拍車ローラ
10 ローラ本体
11 アルミニウム溶射層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリンタの記録ヘッドよりも記録紙搬送方向下流側において複数の拍車ローラと協働して記録紙を送る排紙ローラにおいて、
前記排紙ローラは、円管状又は中実丸棒状の鋼製のローラ本体と、このローラ本体の表面に形成された金属溶射層を備え、
前記金属溶射層は、30〜75HRBの硬度を有する金属材料の溶射層で構成された、
ことを特徴とするプリンタの排紙ローラ。
【請求項2】
前記排紙ローラの金属溶射層は、30〜100μmの層厚に形成されたことを特徴とする請求項1に記載のプリンタの排紙ローラ。
【請求項3】
前記排紙ローラの金属溶射層の表面は大きな摩擦係数を有する粗面に形成され、その表面粗さはRa=6.0〜10μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のプリンタの排紙ローラ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−273698(P2008−273698A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119370(P2007−119370)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(000175722)サンコール株式会社 (96)
【Fターム(参考)】